(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子
(51)【国際特許分類】
H01S 5/22 20060101AFI20250110BHJP
H01S 5/323 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
H01S5/22
H01S5/323 610
(21)【出願番号】P 2023120613
(22)【出願日】2023-07-25
(62)【分割の表示】P 2019141147の分割
【原出願日】2019-07-31
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2019005760
(32)【優先日】2019-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【氏名又は名称】言上 惠一
(72)【発明者】
【氏名】中津 嘉隆
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-131019(JP,A)
【文献】特開2009-239083(JP,A)
【文献】国際公開第2017/017928(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0201262(US,A1)
【文献】特開2008-124110(JP,A)
【文献】国際公開第2005/034301(WO,A1)
【文献】特開2003-273473(JP,A)
【文献】特開2009-141340(JP,A)
【文献】特開2018-200928(JP,A)
【文献】特開2018-050021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが窒化物半導体からなるn側半導体層と、活性層と、p側半導体層と、を上方に向かって順に有し、前記p側半導体層に上方に突出したリッジが設けられた半導体レーザ素子であって、
前記p側半導体層は、
前記活性層の上面に接して配置され、1以上の半導体層を有し、アンドープである第1部分と、
前記第1部分の上面に接して配置され、前記第1部分よりもバンドギャップエネルギーが大きく、p型不純物を含有する電子障壁層と、
前記電子障壁層の上面に接して配置され、p型不純物を含有するp型半導体層を1以上有する第2部分と、を有し、
前記第2部分の厚みは、前記第1部分の厚みよりも薄く、
前記リッジの下端は、前記第1部分に位置している、半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記第1部分の厚みは、400nm以上である、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記第1部分の厚みは、660nm以下である、請求項1または2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記第2部分の厚みは、260nm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記第2部分の厚みは、10nm以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記第2部分は、上側p型半導体層と、下型p型半導体層を有し、
前記上型p型半導体層は、前記リッジの上面を構成し、
前記下型p型半導体層は、前記上型p型半導体層と前記電子障壁層との間に配置されており、前記上型p型半導体層よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記上側p型半導体層はGaNからなり、
前記下側p型半導体層はAlGaNからなる、請求項6に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記下側p型半導体層のAl組成比が前記電子障壁層のAl組成比よりも小さい、請求項6または7に記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記リッジの底面から前記電子障壁層までの最短距離は、前記リッジの上面から前記電子障壁層までの最短距離よりも大きい、請求項1~8のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記リッジの上面に設けられたp電極を有し、
前記p電極は、前記第2部分の屈折率よりも小さい屈折率を有する透明導電膜である、請求項1~9のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記半導体レーザ素子は波長530nm以上のレーザ光を発振可能である請求項1~10のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項12】
前記第1部分は、前記電子障壁層の下面に接する最上層を有し、
前記第2部分は、前記電子障壁層の上面に接する最下層を有し、
前記最下層のバンドギャップエネルギーは、前記最上層のバンドギャップエネルギーよりも小さい、請求項1~11のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項13】
基板の上に、n側半導体層を形成する工程と、
前記n側半導体層の上に、活性層を形成する工程と、
前記活性層の上面に、1以上の半導体層を有する第1部分をアンドープで形成する工程と、
前記第1部分の上面に、前記第1部分のバンドギャップエネルギーよりも大きなバンドギャップエネルギーを有する電子障壁層を、p型不純物をドープして形成する工程と、
前記電子障壁層の上面に、p型不純物をドープして形成するp型半導体層を1以上有する第2部分を形成する工程と、
前記第1部分と前記電子障壁層と前記第2部分とを含むp側半導体層の一部を除去することにより、上方に突出したリッジを形成する工程と、を有し、
前記第2部分を形成する工程において、前記第1部分の厚みよりも薄い厚みを有する前記第2部分を形成し、
前記リッジを形成する工程において、前記リッジの下端が前記第1部分に位置するように前記p側半導体層の一部を除去する、半導体レーザ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、窒化物半導体を有する半導体レーザ素子(以下、「窒化物半導体レーザ素子」ともいう。)は、紫外域から緑色に至るまでの光を発振することが可能となり、光ディスクの光源のみならず多岐にわたり利用されている。このような半導体レーザ素子としては、基板の上に、n側クラッド層、n側光ガイド層、活性層、p側光ガイド層、p側クラッド層をこの順に有する構造が知られている(例えば特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-273473号公報
【文献】特開2014-131019号公報
【文献】国際公開第2017/017928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化物半導体レーザ素子のp側の半導体層にはMg等のp型不純物が添加されるが、p型不純物は深い準位をつくり光吸収を生じさせる。このため、p型不純物含有層における光強度が大きいほど吸収損失が増大し、スロープ効率などの効率が低下する。そこで、本開示では、吸収損失を低減することができ、効率の向上が可能な半導体レーザ素子を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示における半導体レーザ素子の第一の態様は、それぞれが窒化物半導体からなるn側半導体層と、活性層と、p側半導体層と、を上方に向かって順に有し、前記p側半導体層に上方に突出したリッジが設けられた半導体レーザ素子であって、
前記p側半導体層は、
前記活性層の上面に接して配置され、1以上の半導体層を有し、アンドープである第1部分と、
前記第1部分の上面に接して配置され、前記第1部分よりもバンドギャップエネルギーが大きく、p型不純物を含有する電子障壁層と、
前記電子障壁層の上面に接して配置され、p型不純物を含有するp型半導体層を1以上有する第2部分と、を有し、
前記第1部分は、
上方に向かうにつれてバンドギャップエネルギーが大きくなっており、アンドープであるp側組成傾斜層と、
前記p側組成傾斜層の上方に配置され、アンドープである、p側中間層と、を有し、 前記リッジの下端は、前記p側中間層に位置している、半導体レーザ素子である。
【0006】
本開示における半導体レーザ素子の第二の態様は、それぞれが窒化物半導体からなるn側半導体層と、活性層と、p側半導体層と、を上方に向かって順に有し、前記p側半導体層に上方に突出したリッジが設けられた半導体レーザ素子であって、
前記p側半導体層は、
前記活性層の上面に接して配置され、1以上の半導体層を有し、アンドープである第1部分と、
前記第1部分の上面に接して配置され、前記第1部分よりもバンドギャップエネルギーが大きく、p型不純物を含有する電子障壁層と、
前記電子障壁層の上面に接して配置され、p型不純物を含有するp型半導体層を1以上有する第2部分と、を有し、
前記第2部分の厚みは、前記第1部分の厚みよりも薄く、
前記リッジの下端は、前記第1部分に位置している、半導体レーザ素子である。
【0007】
本開示における半導体レーザ素子の製造方法の第一の態様は、
基板の上に、n側半導体層を形成する工程と、
前記n側半導体層の上に、活性層を形成する工程と、
前記活性層の上面に、1以上の半導体層を有する第1部分をアンドープで形成する工程と、
前記第1部分の上面に、前記第1部分のバンドギャップエネルギーよりも大きなバンドギャップエネルギーを有する電子障壁層を、p型不純物をドープして形成する工程と、
前記電子障壁層の上面に、p型不純物をドープして形成するp型半導体層を1以上有する第2部分を形成する工程と、
前記第1部分と前記電子障壁層と前記第2部分とを含むp側半導体層の一部を除去することにより、上方に突出したリッジを形成する工程と、を有し、
前記第1部分をアンドープで形成する工程は、
上方に向かうにつれてバンドギャップエネルギーが大きくなるp側組成傾斜層をアンドープで形成する工程と、
前記p側組成傾斜層の上方に、p側中間層をアンドープで形成する工程と、を含み、 前記リッジを形成する工程において、前記リッジの下端が前記p側中間層に位置するように前記p側半導体層の一部を除去する、半導体レーザ素子の製造方法である。
本開示における半導体レーザ素子の製造方法の第二の態様は、
基板の上に、n側半導体層を形成する工程と、
前記n側半導体層の上に、活性層を形成する工程と、
前記活性層の上面に、1以上の半導体層を有する第1部分をアンドープで形成する工程と、
前記第1部分の上面に、前記第1部分のバンドギャップエネルギーよりも大きなバンドギャップエネルギーを有する電子障壁層を、p型不純物をドープして形成する工程と、
前記電子障壁層の上面に、p型不純物をドープして形成するp型半導体層を1以上有する第2部分を形成する工程と、
前記第1部分と前記電子障壁層と前記第2部分とを含むp側半導体層の一部を除去することにより、上方に突出したリッジを形成する工程と、を有し、
前記第2部分を形成する工程において、前記第1部分の厚みよりも薄い厚みを有する前記第2部分を形成し、
前記リッジを形成する工程において、前記リッジの下端が前記第1部分に位置するように前記p側半導体層の一部を除去する、半導体レーザ素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
このような半導体レーザ素子によれば、吸収損失を低減することができ、効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る半導体レーザ素子の模式的な断面図である。
【
図2A】
図2Aは、
図1の半導体レーザ素子のp側半導体層の層構造の例を模式的に示す図である。
【
図2B】
図2Bは、
図1の半導体レーザ素子のp側半導体層の層構造の別の例を模式的に示す図である。
【
図2C】
図2Cは、
図1の半導体レーザ素子のp側半導体層の層構造の別の例を模式的に示す図である。
【
図2D】
図2Dは、
図1の半導体レーザ素子のp側半導体層の層構造の別の例を模式的に示す図である。
【
図3A】
図3Aは、第1部分の最上層と電子障壁層と第2部分の最下層とのバンドギャップエネルギーの関係の一例を模式的に示す図である。
【
図3B】
図3Bは、第1部分の最上層と電子障壁層と第2部分の最下層とのバンドギャップエネルギーの関係の別の例を模式的に示す図である。
【
図3C】
図3Cは、第1部分の最上層と電子障壁層と第2部分の最下層とのバンドギャップエネルギーの関係の別の例を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、
図1の半導体レーザ素子のn側半導体層の層構造の例を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、
図1の半導体レーザ素子のp側組成傾斜層及びその付近の一部拡大図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の一実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6B】
図6Bは、工程S103の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、計算例1乃至5の第1部分の厚みと第2部分への漏れ光の割合との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、比較例1乃至4の半導体レーザ素子のI-L特性を示すグラフである。
【
図9A】
図9Aは、実施例1乃至3の半導体レーザ素子のI-L特性を示すグラフである。
【
図9B】
図9Bは、実施例1乃至3の半導体レーザ素子のI-V特性を示すグラフである。
【
図10A】
図10Aは、実施例3乃至5の半導体レーザ素子のI-L特性を示すグラフである。
【
図10B】
図10Bは、実施例3乃至5の半導体レーザ素子のI-V特性を示すグラフである。
【
図11A】
図11Aは、実施例3及び6の半導体レーザ素子のI-L特性を示すグラフである。
【
図11B】
図11Bは、実施例3及び6の半導体レーザ素子のI-V特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための方法を例示するものであって、本発明を以下の実施形態に特定するものではない。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る半導体レーザ素子100の模式的な断面図であり、半導体レーザ素子100の共振器方向と垂直な方向における断面を示す。
図2Aと
図2Bと
図2Cと
図2Dは、いずれもp側半導体層4の層構造の例を模式的に示す図であり、それぞれ別の例を示す。また
図2A乃至
図2Dは、半導体レーザ素子100の活性層3の一部及びp側半導体層4の各層のバンドギャップエネルギーの大小関係を模式的に示す図である。
図2A乃至
図2Dにおいて、リッジ4aの底面の位置を一点鎖線で示す。リッジ4aの底面とは、リッジ4aの両側面の最下辺同士を繋ぐ面を指す。
図4は、n側半導体層2の層構造の例を模式的に示す図である。
【0012】
図1に示すように、半導体レーザ素子100は、それぞれが窒化物半導体からなるn側半導体層2と、活性層3と、p側半導体層4と、を上方に向かってこの順に有する。p側半導体層4には、上方に突出したリッジ4aが設けられている。なお、本明細書において、n側半導体層2からp側半導体層4に向かう方向を上または上方といい、その逆方向を下または下方という。
【0013】
p側半導体層4は、第1部分41と、電子障壁層42と、第2部分43を有する。第1部分41は、活性層3の上面に接して配置されており、1以上の半導体層を有する。第1部分41はアンドープである。電子障壁層42は、第1部分41の上面に接して配置される。電子障壁層42は、第1部分41よりもバンドギャップエネルギーが大きく、p型不純物を含有する。第2部分43は、電子障壁層の上面に接して配置される。第2部分43は、p型不純物を含有するp型半導体層を1以上有する。リッジ4aの下端は、第1部分41に位置している。すなわち、リッジ4aは、第1部分41の一部と、電子障壁層42と、第2部分43で構成されている。なお、本明細書において、アンドープとは意図的にドープしないことをいう。二次イオン質量分析法(SIMS)等の分析結果において検出限界を越えない濃度をアンドープといってよい。あるいは、不純物濃度が1×1017/cm3未満である状態をアンドープとしてもよい。例えば、p型不純物及びn型不純物の濃度が検出限界以下であることをもって第1部分41がアンドープであるといってよい。
ただし、第1部分41は、p型不純物濃度の高い電子障壁層42と接しているため、p型不純物を意図的にドープせずに形成しても、分析結果においてp型不純物が検出される場合がある。この場合に検出されるp型不純物の濃度は1×1018/cm3未満であることが好ましい。また、第1部分41等をアンドープで形成した場合に、HやCなどの意図しない不純物が含有される場合があるが、この場合もアンドープと呼ぶことができる。また、本明細書において、ある層または部分の膜厚または厚みとは、その層または部分の最下面から最上面までの最短の距離を指す。最下面及び/又は最上面がVピット等の部分的な凹部及び/又は凸部を有する場合は、最下面及び/又は最上面のうちそのような凹部及び/又は凸部がない平坦な部分同士の最短の距離を、その層または部分の膜厚または厚みとしてよい。
【0014】
半導体レーザ素子100は、以下の(1)~(3)の構造を有する。(1)第1部分41は、上方に向かうにつれてバンドギャップエネルギーが大きくなっておりアンドープであるp側組成傾斜層411と、p側組成傾斜層411の上方に配置されアンドープであるp側中間層412と、を有する。リッジの下端はp側中間層412に位置している。(2)第2部分43の厚みは第1部分41の厚みよりも薄く、リッジ4aの下端は第1部分41に位置している。(3)第1部分41の厚みは400nm以上であり、リッジ4aの下端は第1部分41に位置している。半導体レーザ素子100は、これら(1)~(3)の構造のいずれか1つのみを有していてもよく、2以上を同時に満たしていてもよい。
【0015】
まず、(1)について述べる。
図2Aに示すように、p側組成傾斜層411は、上方に向かうにつれてバンドギャップエネルギーが大きくなっている層である。このような構成を有することにより、活性層3への光閉じ込めを強化することができる。p側中間層412は、p側組成傾斜層411とは異なる層である。p側組成傾斜層411のみでなくp側中間層412も設けることで、第1部分41を比較的厚膜とすることができる。これにより、光強度のピークを電子障壁層42及び第2部分43というp型不純物を含有する部分から遠ざけることができる。これらの構成を有することで、第2部分43における光の強度を低下することができ、光の吸収損失を低減することができる。したがって、半導体レーザ素子100の効率を向上させることができる。半導体レーザ素子100の効率としては、閾値電流以上の電流値における電流及び光出力の特性グラフにおける傾きであるスロープ効率が挙げられる。
【0016】
そして、リッジ4aの下端は、電子障壁層42よりも深く、p側中間層412に位置している。これにより、比較的厚膜の第1部分41を設けても、リッジ4aの下端と活性層3との距離を短くすることができる。したがって、第1部分41よりも上にリッジ4aの下端を配置する場合よりも横方向の光閉じ込めを強めることができる。横方向の光閉じ込めが弱い場合、半導体レーザ素子100の水平横モードが不安定になり、電流と光出力との関係を示すI-L特性においてキンクが発生することがある。リッジ4aをその下端がp側中間層412に位置するように形成することで、横方向の光閉じ込めを強めることでき、水平横モードを安定化することができるため、I-L特性におけるキンクの発生確率を低減することができる。また一方で、リッジ4aの下端にはリッジ4a形成時のエッチングダメージ等による電気的なリークが発生する可能性があるため、リッジ4aの下端は活性層3と接近しすぎないことが好ましい。このことから、リッジ4aの下端はp側組成傾斜層411ではなくp側中間層412に配置することが好ましい。
【0017】
次に、(2)について述べる。第1部分41が比較的厚膜であることにより、(1)と同様に、光強度のピークをp型不純物含有層から遠ざけることができ、p型不純物含有層における自由キャリア吸収による損失を低減することができる。したがって、半導体レーザ素子100のスロープ効率などの効率を向上させることができる。加えて、第2部分43が薄いことにより、半導体レーザ素子100の駆動電圧を低減することができ、効率を向上することができる。p型不純物を含有する部分の膜厚を薄くすることで電圧が低下する理由は、窒化物半導体において、Mgのようなp型不純物はSiのようなn型不純物よりも活性化率が低く、p型不純物含有層は比較的高抵抗であるためである。第1部分41はアンドープであるが電子障壁層42と活性層3の間に位置するため、電子がオーバーフローする等の要因により完全な絶縁性というよりはn型導電性を示す傾向がある。これらのことから、比較的高抵抗であるp型不純物を含有する第2部分43の厚みを薄くすることにより、駆動電圧が下がり、アンドープである第1部分41の厚みを厚くすることによる駆動電圧の上昇を抑えるという効果を得ることができると考えられる。この効果は後述する実施例1乃至3に関する実験結果2において確認された。また、(1)と同様に、第1部分41が比較的厚膜であるためリッジ4aの下端は第1部分41に設けることが好ましく、これにより、横方向の光閉じ込めを強めることができる。
【0018】
次に、(3)について述べる。第1部分41の厚みが400nm以上と比較的厚いことにより、(1)及び(2)と同様に、p型不純物含有層における損失を低減して効率向上が可能である。そして、その第1部分41にリッジ4aの下端を配置することで、(1)及び(2)と同様に、横方向の光閉じ込めの強化が可能である。
【0019】
第1部分41の構成について複数パターンを想定し、等価屈折率シミュレーションを行った。このシミュレーションでは、M.J.Bergmann, et. Al., JOURNAL OF APPLIED PHYSICS vol.84 (1998) pp.1196-1203に記載の数式を用いて、各層の屈折率をその層を構成する窒化物半導体の組成比に基づいて算出した。計算例1には第1部分41として膜厚260nmのp側組成傾斜層411のみを設けた構造を用い、計算例2乃至5には第1部分41としてp側組成傾斜層411とp側中間層412を設けた構造を用いた。計算例2乃至5におけるp側中間層412の膜厚はそれぞれ、50nm、100nm、200nm、400nmとした。すなわち、計算例1乃至5の第1部分41の厚みはそれぞれ、260nm、310nm、360nm、460nm、660nmとした。第1部分41以外の層構造については、後述する実施例1の半導体レーザ素子100と概ね同じであるが、第2n側光ガイド層27がGaNからIn0.05Ga0.95Nに変化する組成傾斜層であるなど細部が多少異なる。第1部分41以外の層構造は、計算例1乃至3は同じ構造とし、計算例4及び5は第1n側光ガイド層26の膜厚を3分の2としたこと以外は計算例1乃至3と同じとした。計算例4及び5の第1n側光ガイド層26の膜厚を薄くした理由は、第1部分41を厚くすることによる電界強度のピークの活性層3からのずれを補正するためである。
【0020】
計算例1乃至5について、第1部分41の厚みと第2部分43への漏れ光の割合との関係を
図7に示す。
図7に示すように、第1部分41の厚みが厚いほど第2部分43への漏れ光が減少しており、その減少の程度は厚み400nm付近から緩やかになっている。このことから、第1部分41の厚みは400nm以上であることが好ましい。これにより、第2部分43への漏れ光を、例えば3%未満のように少なくすることができる。
【0021】
(半導体レーザ素子100)
図2Aに示すように、半導体レーザ素子100は、基板1と、その上方に設けられた、n側半導体層2と、活性層3と、p側半導体層4と、を有する。半導体レーザ素子100は活性層3等の半導体層の主面と交差する光出射端面及び光反射端面を有する端面発光レーザ素子である。p側半導体層4の上側にはリッジ4aが設けられている。リッジ4aはメサ構造である。リッジ4aの上面視形状は、光出射端面と光反射端面とを結ぶ方向に長い形状であり、例えば光反射端面に平行な方向を短辺とし光反射端面に垂直な方向を長辺とする長方形状である。活性層3のうちリッジ4aの直下の部分及びその近傍が光導波路領域である。リッジ4aの側面とリッジ4aの側面から連続するp側半導体層4の表面には絶縁膜5を設けることができる。基板1は例えばn型半導体からなり、その下面にはn電極8が設けられている。また、リッジ4aの上面に接してp電極6が設けられ、さらにその上にp側パッド電極7が設けられている。
【0022】
半導体レーザ素子100は長波長域のレーザ光を発振する構造を有することができる。
半導体レーザ素子100は、緑色波長帯のレーザ光を発振可能であり、例えば、波長530nm以上のレーザ光を発振可能である。すなわち、ピーク波長が530nm以上のレーザ光を発振可能である。青色波長帯から緑色波長帯へ発振波長が長くなるに従って屈折率の波長分散の影響により光ガイド層より外側への漏れ光が増加する。この結果、閾値電流が上昇し、レーザ発振時の電流密度が大きくなる。そして、電流密度が大きいほど、局在準位の遮蔽やバンドフィリングによって実効的な遷移間隔が拡大し、発振波長は短波長にシフトする。p側組成傾斜層411を設けることにより、後述するようにレーザ発振閾値電流密度を低減することができ、短波長シフトを抑制することができる。また、緑色波長帯の半導体レーザ素子は、屈折率の波長分散の影響によりクラッド層と活性層の屈折率差がつきにくいため、未だ青色波長帯の半導体レーザ素子よりも閾値電流密度が高く、スロープ効率も低い。このため、緑色波長帯の半導体レーザ素子において本実施形態の構成を採用すれば、p型半導体層における光吸収損失低減による効率向上効果がより期待できる。なお、p型半導体層における光吸収損失は半導体レーザ素子100が発振するレーザ光の波長に関わらず発生し得るものである。したがって、半導体レーザ素子100が発振するレーザ光の波長は緑色波長帯に限るものではなく、例えば、青色波長帯であってもよい。
【0023】
(基板1)
基板1には、例えばGaN等からなる窒化物半導体基板を用いることができる。基板1の上に成長させるn側半導体層2、活性層3、p側半導体層4としては、実質的にc軸方向に成長させた半導体が挙げられる。例えば+c面((0001)面)を主面とするGaN基板を用いて、その+c面上に各半導体層を成長させることができる。ここで+c面を主面とするとは、±1度以内程度のオフ角を有するものを含んでよい。+c面を主面とする基板を用いることにより、量産性に優れるという利点を得ることができる。
【0024】
(n側半導体層2)
n側半導体層2は、GaN、InGaN、AlGaN等の窒化物半導体からなる多層構造とすることができる。n側半導体層2は1以上のn型半導体層を含む。n型半導体層としては、Si、Ge等のn型不純物が含有された窒化物半導体からなる層を挙げることができる。n側半導体層2は、n側クラッド層とn側光ガイド層とを有することができ、これ以外の層を含んでもよい。n側クラッド層はn側光ガイド層よりもバンドギャップエネルギーが大きい。p型不純物ほどではないもののn型不純物も光吸収の要因となるため、n側光ガイド層は、アンドープか、n側クラッド層よりもn型不純物濃度が小さいことが好ましい。
【0025】
n側半導体層2の層構造の例を
図4に示す。
図4に示すn側半導体層2は、基板1側から順に、下地層21、第1n側クラッド層22、クラック防止層23、中間層24、第2n側クラッド層25、第1n側光ガイド層26、第2n側光ガイド層27、ホールブロック層28を有する。ホールブロック層28は、第1ホールブロック層281と第2ホールブロック層282を有する。
【0026】
下地層21から第1n側光ガイド層26まではn型不純物が添加されている。下地層21は、例えばn型AlGaN層である。第1n側クラッド層22は、例えば、下地層21よりもバンドギャップエネルギーが大きく、n型不純物が添加された層である。クラック防止層23は、例えばInGaNからなり、そのバンドギャップエネルギーは活性層3中の井戸層よりも小さい。クラック防止層23を設けることによりクラックが発生する確率を低減することができる。中間層24は、クラック防止層23と第2n側クラッド層25との間の格子定数を有し、例えばGaNからなる。クラック防止層23がInGaN層である場合、第2n側クラッド層25を成長する前にGaN層の中間層24を形成することが好ましい。クラック防止層23の上面に接して第2n側クラッド層25を成長させると、クラック防止層23の一部が分解され、活性層3の成長にまで影響を及ぼす場合があるが、中間層24を設けることでそのような分解が発生する確率を低減することができる。
中間層24は例えばクラック防止層23よりも薄い膜厚で設ける。第2n側クラッド層25は、例えば下地層21よりもバンドギャップエネルギーの大きい層であり、第1n側クラッド層22と同じであってもよい。第1n側クラッド層22及び第2n側クラッド層25は、例えばAlGaNからなる。第1n側クラッド層22及び第2n側クラッド層25のいずれか一方あるいは両方は、n側半導体層2において最大のバンドギャップエネルギーを有してよい。第1n側クラッド層22及び第2n側クラッド層25の組成及び/又はn型不純物濃度は同じであってよい。n側クラッド層は単一の層であってもよく、この場合にクラック防止層は、設けないか、またはn側クラッド層の上または下に設けてもよい。
【0027】
第1n側光ガイド層26は、第1n側クラッド層22及び第2n側クラッド層25よりもバンドギャップエネルギーが小さく、n型不純物濃度も小さい層である。第1n側光ガイド層26は、例えばGaNからなる。第2n側光ガイド層27のバンドギャップエネルギーは、活性層3中の井戸層のそれよりも大きく、第1n側光ガイド層26のそれよりも小さい。第2n側光ガイド層27は、第1n側光ガイド層26よりも活性層3に近い位置にあるため、第1n側光ガイド層26よりもn型不純物濃度が小さいことが光吸収損失の低減のためには好ましい。第2n側光ガイド層27は、例えば、アンドープのInGaNからなる。
【0028】
第2n側光ガイド層27は、活性層3に近づくほどバンドギャップエネルギーが小さくなる組成傾斜層であってもよい。n側光ガイド層として組成傾斜層を設ける場合は、活性層3に近づくほど屈折率が高くなるように組成を段階的に変化させた層とする。これにより、n側の組成傾斜層に光導波路の障壁が連続して形成されるため、活性層3への光閉じ込めを強化することができる。組成傾斜層のバンドギャップエネルギーや不純物濃度の他の層との大小関係を決定する際の基準については、組成傾斜層の平均値を用いることができる。組成傾斜層の平均値とは、組成傾斜層を構成する各サブ層のバンドギャップエネルギー等と膜厚との乗算の合計値を総膜厚で除算したものを指す。n側半導体層2中に活性層3に近づくほど格子定数が大きくなる組成傾斜層を設ける場合は、その組成傾斜層にn型不純物を添加することが好ましい。組成傾斜層は、言い換えれば、少しずつ組成が異なる複数のサブ層からなるともいえる。このため、組成傾斜層においては、組成変化率を小さくしたとしても固定電荷の発生を避けることは困難である。n型不純物を添加すれば固定電荷を遮蔽することができるため、固定電荷の発生に起因する電圧上昇の度合いを低減することができる。
【0029】
ホールブロック層28は、少なくともその一部にn型不純物が含有されていることが好ましい。これにより、ホールをより効率的にブロックすることができる。例えば、第1ホールブロック層281はGaNからなり、第2ホールブロック層282はInGaNからなる。
【0030】
(活性層3)
活性層3は、GaN、InGaN等の窒化物半導体層からなる多層構造とすることができる。活性層3は、単一量子井戸構造又は多重量子井戸構造を有する。多重量子井戸構造の方が単一量子井戸構造に比べて十分な利得を得やすいと考えらえる。活性層3が多重量子井戸構造である場合は、複数の井戸層と、井戸層に挟まれる中間障壁層と、を有する。
例えば活性層3は、n側半導体層2側から順に、井戸層、中間障壁層、井戸層を含む。n側半導体層2に最も近い井戸層とn側半導体層2の間にn側障壁層31を設けてもよい。
n側障壁層31は、ホールブロック層28の一部としての機能を有していてもよい。n側障壁層31を省略し、ホールブロック層28やn側光ガイド層(第2n側光ガイド層27)をn側の障壁層として機能させてもよい。同様に、p側半導体層4に最も近い井戸層とp側半導体層4の間にp側障壁層を設けてもよく、このp側障壁層を設けないかこのp側障壁層が薄い場合は、p側半導体層4の一部をp側の障壁層として機能させてもよい。活性層3中にp側障壁層を設ける場合、そのp側障壁層の膜厚としては例えば5nm以下が挙げられる。言い換えれば、p側半導体層4と活性層3中の井戸層との最短距離は例えば5nm以下とする。また、上述のとおり、p型不純物を添加すると光吸収損失が増大するため、活性層3はp型不純物を添加せずに形成することが好ましい。活性層3の各層は、例えばアンドープの層とする。
【0031】
発振波長530nm以上の半導体レーザ素子とする場合のInxGa1-xN井戸層のIn組成比xは、活性層3以外の層構造によって多少増減するが、例えば0.25以上である。井戸層のIn組成比xの上限としては、例えば0.50以下が挙げられる。このとき、半導体レーザ素子の発振波長は600nm以下程度であると考えられる。
【0032】
(p側半導体層4)
p側半導体層4は、GaN、InGaN、AlGaN等の窒化物半導体からなる多層構造とすることができる。p側半導体層4は、p側クラッド層とp側光ガイド層とを有することができ、これ以外の層を含んでもよい。p電極6として透明導電膜を設ける場合は、これをクラッド層として機能させることができるため、p側半導体層4中にクラッド層を設けなくてもよい。
【0033】
p側半導体層4は1以上のp型半導体層を含む。p型半導体層としては、Mg等のp型不純物が含有された窒化物半導体からなる層を挙げることができる。p型不純物の活性化率はSi等のn型不純物の活性化率よりも低いために、p型半導体層では、p型不純物による自由キャリア吸収損失が増加する。吸収損失が大きいほど、半導体レーザ素子100のスロープ効率は低下する。一般的に、内部損失αiには自由キャリア吸収損失αfcが含まれるが、自由キャリア吸収損失αfc以外の内部損失をαintとすると、レーザ発振に必要な閾値モード利得は自由キャリア吸収損失に依存する以下のモデル式で表される。ここでのαfc、αiとαmはそれぞれ自由キャリア吸収損失、平均内部損失、反射鏡損失とする。なお、便宜上、モード分布は考慮せず平均で表記している。Γは活性領域における光閉じ込め係数で、gthはレーザ発振する閾値利得を表記している。
Γgth=αfc+αint+αm
【0034】
ここでの自由キャリア吸収損失は活性層3以外での損失も含まれている。例えばp型半導体層において、p型の不純物濃度nと自由キャリア吸収断面積を反映した係数σfcとp型半導体層への平均的な漏れ光Γpの積で近似的な説明ができる。つまりp型半導体層の不純物濃度が同じであってもp型半導体層への漏れ光が増加すると自由キャリア吸収損失αfcは増加する。同様にp型半導体層への漏れ光が同じであってもp型半導体層の不純物濃度が増加すると自由キャリア吸収損失αfcは増加する。p型不純物濃度が低下すると駆動電圧が著しく上昇するという懸念があるため、自由キャリア吸収損失αfcの低減のためには、特に、p型不純物濃度が高い層への漏れ光を低減することが有効である。
αfc=n×σfc×Γp
【0035】
また、上述の式から、p型クラッド層への漏れ光が増加すると自由キャリア吸収損失が増加するため、閾値利得gthが増加することが理解できる。レーザ発振時には、レーザ共振器内部において g=gthの定常状態となる。このような定常状態においてモード利得はキャリア密度に単調に依存するので、レーザ発振閾値電流以上におけるキャリア密度は閾値キャリア密度Nthでクランプされる。注入キャリア密度が高いほど、局在準位が遮蔽されて実質的なバンドギャップが大きくなりやすく、レーザ発振波長が短波長側にシフトしやすい。自由キャリア吸収損失αfcを低減させ、より低い電流で閾値利得gthに達することにより、閾値電流密度jthも閾値キャリア密度Nthも共に低くすることができる。これにより、注入キャリア密度が低減され、局在準位の遮蔽が抑制されてより長波長側でレーザ発振させることができる。したがって、この点からも、例えば530nm以上などの長波長のレーザ光を発振可能な半導体レーザ素子100において、自由キャリア吸収損失を低減することが特に好ましい。またこれよりも短波長側の半導体レーザ素子であっても低閾値電流のレーザ光源が得られるという点で利点があるといえる。
【0036】
なお、ここでは局在準位の遮蔽の抑制について説明したが、バンドフィリング効果の抑制についても同様である。すなわち、電流注入により擬フェルミ準位がバンド端より離れて実効的な遷移間隔が拡がるというバンドフィリング効果によっても短波長シフトが生じるが、自由キャリア吸収損失αfcを低下させて閾値キャリア密度を低減することによってこれも抑制することができる。
【0037】
(第1部分41)
第1部分41は、p側半導体層4における活性層3からp型不純物含有層までの間を繋ぐ部分である。第1部分41はp型半導体層を含有しない部分である。自由キャリア吸収損失に影響を与えない程度のp型不純物濃度及び膜厚であれば、第1部分41の一部にp型不純物含有層を含んでもよいかもしれない。しかし、p型化するために必要なMgをドープする場合、1×1018/cm3以上程度のp型不純物が必要であり、この場合、自由キャリア吸収損失が増大する可能性が高い。したがって、第1部分41はp型半導体層を含有しない部分であることが好ましい。第1部分41は、その全体に亘って、SIMS等の分析によってp型不純物が検出されない程度にp型不純物濃度が低いことが好ましい。例えば、第1部分41はその全体に亘って製造時に意図的にp型不純物を添加せずに形成する。上述のとおり、第1部分41の厚みが厚いほど第2部分43への光の漏れを低減することができるため、第1部分41の厚みは400nm以上であることが好ましい。第1部分41の厚みの上限値は、第2部分43からのホールの供給が妨げられない程度とすることができる。また、後述する実験結果3に示すとおり、第1部分41の厚みが厚いほどオーバーフローする電子が増加するため、この観点からは第1部分41の厚みは薄いことが好ましい。第1部分41の厚みは、例えば660nm以下とすることができる。また、第1部分41は、電子障壁層42との間にバンドギャップ差があることにより、電子のオーバーフローが発生する確率を低減することができる。このため、第1部分41は、電子障壁層42と接する層として、電子障壁層42よりもバンドギャップエネルギーが小さい層を有することが好ましい。
【0038】
なお、第1部分41を、アンドープでなく低濃度ドープの部分とする場合は、その全体に亘って電子障壁層42のp型不純物濃度よりも低いp型不純物濃度とすることが好ましく、さらには、電子障壁層42及び第2部分43のいずれのp型不純物濃度よりも低いp型不純物濃度とすることが好ましい。また、第1部分41のn型不純物濃度については、2×1018/cm3未満が挙げられる。好ましくは、第1部分41は、SIMS分析によってn型不純物が検出されない程度に低い(つまり、バックグラウンドレベルの)n型不純物濃度とする。言い換えると、第1部分41はn型不純物を実質的に含まないことが好ましい。
【0039】
(p側組成傾斜層411、p側中間層412)
第1部分41は、
図2Aに示すように、p側組成傾斜層411とp側中間層412を有することができる。p側中間層412は、p側組成傾斜層411の上方に設けられる。p側中間層412は、p側組成傾斜層411の上面に接して配置してよく、また、電子障壁層42の下面に接して配置してよい。第1部分41の構造は、p側組成傾斜層411及びp側中間層412の両方を有するものに限られないが、上述のとおり、p側組成傾斜層411を有することで活性層3への光閉じ込めを強化することができ、p側中間層412を有することで第1部分41の厚みをさらに厚くすることができる。p側組成傾斜層411によって活性層3への光閉じ込めを強化することで、レーザ発振閾値電流密度を低減することができる。これにより局在準位の遮蔽を抑制することができ、電流注入増加に伴う発振波長の短波長シフトを抑制することができるため、発振波長の長波長化に有利である。
【0040】
p側組成傾斜層411は、上方に向かうにつれてバンドギャップエネルギーが大きくなっている層である。p側組成傾斜層411は、上面と下面とを有し、そのバンドギャップエネルギーは下面から上面に向かって大きくなっている。下面側のバンドギャップエネルギーは上面側よりも小さい。
図2Aでは、p側組成傾斜層411はスロープ状で示しているが、後述するように組成傾斜層とは互いに組成の異なる複数のサブ層の集合体であるといえるため、p側組成傾斜層411において、バンドギャップエネルギーは下面から上面に向かって階段状に増大しているといえる。n側半導体層2中に、p側組成傾斜層411と対になるn側組成傾斜層を設けてもよい。このようなn側組成傾斜層としては、活性層3に近づくにつれてバンドギャップエネルギーが小さくなっている層が挙げられる。例えば、p側組成傾斜層411とn側組成傾斜層が活性層3を挟んで対称となるように形成する。このように活性層3の両側に組成傾斜層を設けることで、活性層3に対して両側からバランス良く光を閉じ込めることができる。p側組成傾斜層411による光閉じ込め効果の向上のため、p側組成傾斜層411は活性層3の近くに配置されることが好ましい。このため、p側組成傾斜層411は活性層3に接して配置されることが好ましい。また、p側組成傾斜層411と活性層3中の井戸層32との最短距離は、5nm以下であることが好ましい。
【0041】
p側組成傾斜層411は、例えばp側光ガイド層として機能する。p側組成傾斜層411の膜厚は、井戸層32の膜厚よりも厚く、また、p側障壁層34がある場合はp側障壁層34の膜厚よりも厚い。光閉じ込め効果の向上のために、p側組成傾斜層411の膜厚は200nm以上であることが好ましい。p側組成傾斜層411の膜厚は、500nm以下とすることができ、350nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがさらに好ましい。p側組成傾斜層411の下端のバンドギャップエネルギーは、p側障壁層34を設ける場合、p側障壁層34のバンドギャップエネルギーよりも小さいことが好ましい。p側組成傾斜層411の上端のバンドギャップエネルギーは、p側障壁層34と同等かそれ以上のバンドギャップエネルギーを有してよい。p側組成傾斜層411は、光を活性層3に寄せつつ電子のオーバーフローを抑制するために、屈折率が活性層3側から電子障壁層42側に向かって単調減少し、且つバンドギャップエネルギーが活性層3側から電子障壁層42側に向かって単調増加する構造であることが好ましい。
【0042】
p側組成傾斜層411は、
図5に示すように、互いに組成の異なる複数のサブ層411a、411b、411c、411y、411zからなるともいえる。
図5は、p側組成傾斜層411及びその付近の一部拡大図であり、サブ層411cとサブ層411yの間には明示した以外の多数のサブ層が存在している。p側組成傾斜層411をInGaNまたはGaNで構成する場合、p側組成傾斜層411の最も下側のサブ層411aは、In
aGa
1-aN(0<a<1)からなり、p側組成傾斜層411の最も上側のサブ層411zは、In
zGa
1-zN(0≦z<a)からなる。In組成比aの上限値は、例えば0.25である。結晶性悪化の抑制を考慮すれば、In組成比aは0.1以下であることが好ましい。また、隣接するサブ層同士の格子定数差は小さいことが好ましい。これにより歪みを小さくすることができる。このために、p側組成傾斜層411は薄い厚みで少しずつ組成を変化させていくことが好ましい。具体的には、p側組成傾斜層411は下面から上面にかけて25nm以下の膜厚ごとにIn組成比が減少していることが好ましい。すなわち、各サブ層411a、411b、411c、411y、411zの膜厚が25nm以下であることが好ましい。さらには、各サブ層411a、411b、411c、411y、411zの膜厚は20nm以下であることが好ましい。各サブ層411a、411b、411c、411y、411zの膜厚の下限値は例えば1原子層(約0.25nm)程度である。また、隣り合うサブ層(例えばサブ層411aとサブ層411b)のIn組成比の差は0.005以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.001以下とする。下限値は例えば0.00007程度である。
【0043】
このような範囲はp側組成傾斜層411の全体に亘って満たされていることが好ましい。すなわち、全てのサブ層がこのような範囲内であることが好ましい。例えば、膜厚260nmのp側組成傾斜層411において、最も下側のサブ層411aをIn0.05Ga0.95Nとし最も上側のサブ層411zをGaNとするときに、組成を120段階で徐々に変化させる製造条件で成長させる。p側組成傾斜層411において組成が変化する回数は、90回以上であることが好ましい。p側組成傾斜層411の組成変化率(すなわち、隣り合うサブ層の組成比の差)はp側組成傾斜層411の全体に亘って一定であってもよく、変動していてもよい。p側組成傾斜層411の組成変化率はp側組成傾斜層411の全体に亘って0.001以下であることが好ましい。n側に組成傾斜層を設ける場合、その組成、組成変化率、膜厚の好ましい範囲は、p側組成傾斜層411と同様のものを採用することができる。
【0044】
リッジ4aの下端はp側組成傾斜層411に位置しないことが好ましい。もしp側組成傾斜層411にリッジ4aの下端を配置すると、リッジ4aの深さのばらつきによってリッジ4aの内外での実効屈折率差が大きくばらつくが、リッジ4aの下端が単一組成の層に位置していれば、リッジ4a内外の実効屈折率差のばらつきをそれよりも小さくすることができるためである。このため、p側組成傾斜層411を設ける場合は、リッジ4aの下端を配置するための単一組成の層を設けることが好ましい。この単一組成の層は、リッジ4aを形成する際の深さのばらつきよりも厚い膜厚であることが好ましい。これにより、リッジ4aの深さがばらついたとしても、リッジ4aの下端を単一組成の層の中に位置させることができるため、リッジ4aの内外の実効屈折率差のばらつきを小さくすることができる。このようなリッジ4aの下端を配置するための単一組成の層の膜厚は、組成傾斜層を構成するサブ層よりも厚いことが好ましく、例えば25nmよりも厚くすることができる。単一組成の層の膜厚は例えば600nm以下とすることができる。なお、単一組成の層とは、意図的に組成を変動させずに形成した層を指す。
【0045】
p側中間層412は、このような単一組成の層として設けることができる。また、p側中間層412は多層構造でもよい。p側中間層412が多層構造である場合は、p側中間層412のうち少なくともリッジ4aの下端を配置する層を単一組成の層とするとよい。
p側中間層412が多層構造である場合、
図2Bに示すように、p側中間層412として、第1層412Aと第2層412Bを有することができる。第1層412Aは、p側組成傾斜層411の平均バンドギャップエネルギーより大きく、且つ、電子障壁層42のバンドギャップエネルギーより小さいバンドギャップエネルギーを有する。第2層412Bは、第1層412Aのバンドギャップエネルギーより大きく、且つ、電子障壁層42のバンドギャップエネルギーより小さいバンドギャップエネルギーを有する。第1層412A及び第2層412Bはアンドープである。また、屈折率の関係としては、p側組成傾斜層411の平均屈折率、第1層412Aの屈折率、第2層412Bの屈折率の順に小さくすることができる。なお、本明細書において、平均バンドギャップエネルギーとは、各層のバンドギャップエネルギーと膜厚との乗算の合計値を総膜厚で除算したものを指す。組成傾斜層においては、それを構成する各サブ層のバンドギャップエネルギーと膜厚とを乗算し、その合計値を総膜厚で除算したものを組成傾斜層の平均バンドギャップエネルギーとする。平均屈折率や平均組成比についても同様である。
【0046】
第2層412Bを設けることにより、第2部分43への漏れ光を減少させることができ、第2部分43で生じる自由キャリア吸収損失を低減させることができる。p側中間層412として第1層412Aより屈折率の低い第2層412Bを設けることで、p側中間層412を第1層412Aのみで構成する場合よりも、同程度の光閉じ込め効果を得るために必要なp側中間層412の膜厚を薄くすることができる。上述のとおり、第2部分43への光の漏れを低減するためには第1部分41の厚みが厚いことが好ましいが、一方で、電圧をさらに低減させるためには第1部分41の厚みを薄くすることが有効である。p側組成傾斜層411や第2層412Bを設けることにより、第2部分43への光の漏れを低減しつつ、電圧上昇の抑制を図ることができる。
【0047】
第1層412A及び第2層412Bはそれぞれ単一組成の層である場合、リッジ4aの下端は第1層412Aまたは第2層412Bに位置していることが好ましい。これにより、上述のとおり、リッジ4aの下端の位置が製造時にばらついたとしてもリッジ4aの内外の実効屈折率差のばらつきを小さくすることができる。リッジ4aの下端は、
図2B及び
図2Cに示すように第1層412Aに位置していてもよく、
図2Dに示すように第2層412Bに位置していてもよい。第1層412Aは例えばGaN層である。第2層412Bは例えばAlGaN層である。この場合、第2層412BのAl組成比は例えば0.01%以上とすることができ、10%以下とすることができる。第2層412Bの膜厚は1nm以上とすることができ、600nm以下とすることができる。第2層412Bの屈折率が第1層412Aの屈折率よりも小さい場合、第2層412Bの膜厚は第1層412Aの膜厚より厚いことが好ましい。これにより、活性層3への光閉じ込めをより強化することができる。例えば、第2層412Bの膜厚を第1層412Aの膜厚より50nm以上厚くする。また、この場合、第1層412Aはp側組成傾斜層411や第2層412Bよりも光閉じ込めへの影響が薄いため、第1層412Aの膜厚を薄くすることで、第2部分43への漏れ光を少なくしつつ、活性層3からオーバーフローする電子を減少させることができる。これによって、半導体レーザ素子のスロープ効率を向上させることが可能である。この観点からは、第1層412Aの膜厚は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。また、第1層412Aの膜厚は、第2層412Bの膜厚の半分以下とすることが好ましく、4分の1以下とすることがより好ましい。第1層412Aの膜厚は1nm以上とすることができる。
【0048】
第2層412Bは、
図2Bに示すように、第2部分43の中の電子障壁層42に接している層(
図2Bでは下側p型半導体層431)のバンドギャップエネルギーよりも大きなバンドギャップエネルギーを有していてもよい。このように、第1部分41にバンドギャップエネルギーの比較的大きな層を設けることにより、第1部分41よりも吸収損失の大きい部分である第2部分43への光漏れを低減可能という利点があると考えられる。また、この場合、p電極6にクラッド層として機能する材料を用いることが好ましい。これにより、第2部分43にp型クラッド層を設けなくてもよいので、バイアス印加時の電圧を低減することができる。これらについて以下に詳述する。
【0049】
まず、p電極6をクラッド層として機能させる場合、p電極6として透光性の材料を用いるが、透光性の材料といっても吸収損失が生じ得る。このため、もしp電極6への光漏れが多く、それを低減したいのであれば、第2部分43中にp型クラッド層として機能する層、例えばp型でAlを含む層を設けることになる。p型クラッド層として機能させるためにはそのAl組成比が比較的大きいことが好ましいが、一方でAl組成比を増加させるほど当該層のp型不純物を活性化するために必要な活性化エネルギーが上昇する。第2部分43のp型化が不十分であると、直列抵抗が増大し、バイアス印加時の電圧が上昇するため、第2部分43にp型クラッド層を設ける場合は例えばp型不純物の添加量の増加等によってアクセプタ濃度を上昇させる。ただし、p型不純物の添加量が増えれば光吸収損失が増大し、光出力が低下することは上述のとおりである。
図2Bのように活性層3と電子障壁層42の間にアンドープのAlGaN層を設ける構造であれば、このAlGaN層はp型化させる必要がないため、Al組成比を大きくしても電圧は上昇しにくい。また、アンドープのAlGaN層であるので光吸収損失も増大しにくい。なお、一般的にアンドープの層は高抵抗の層でありこれを設けると電圧は上昇する傾向があるが、第1部分41にアンドープのAlGaN層を設けることはその一般的な傾向とは異なる。これは、活性層3と電子障壁層42の間に配置されたアンドープAlGaN層は、バイアス印加時に、ドナーが主体となり、活性化エネルギーがドナーよりも大きなアクセプタは少数キャリアとして機能するためと考えられる。したがって、第1部分41に第2層412BのようにAl組成比の比較的大きなAlGaN層を設けることができる。言い換えると、第1部分41にバンドギャップエネルギーの大きな層を設けることができる。このような層を設けることにより、第2部分43への光漏れを低減することができるため、第2部分43にp型クラッド層を設けなくてよい。すなわち、第2部分43のAl組成比を小さくすることができる。これにより、第2部分43の直列抵抗を下げることができ、半導体レーザ素子100の電圧を低減することが可能である。
【0050】
図3A~
図3Cに、第1部分41の最上層と、電子障壁層42と、第2部分43の最下層とのバンドギャップエネルギーの関係の例を模式的に示す。第1部分41の最上層は電子障壁層42の下面に接しており、第2部分43の最下層は電子障壁層42の上面に接している。
図3Aでは、最下層のバンドギャップエネルギーが最上層のバンドギャップエネルギーよりも小さい。
図3Bでは、最下層のバンドギャップエネルギーは最上層のバンドギャップエネルギーと等しい。
図3Cでは、最下層のバンドギャップエネルギーが最上層のバンドギャップエネルギーよりも大きい。上述の理由から、
図3Aに示すように、第2部分43の最下層(例えば下側p型半導体層431)のバンドギャップエネルギーは、第1部分41の最上層(例えば第2層412B)のバンドギャップエネルギーよりも小さいことが好ましい。これにより、第2部分43への光漏れを低減可能であり、また、p電極6にクラッド層として機能する材料を用いる構成に適している。この構成の場合、半導体レーザ素子100のバイアス印加時の電圧を低減可能である。バンドギャップエネルギーの大小関係について、最上層及び/又は最下層が超格子層や組成傾斜層などのバンドギャップエネルギーが一定でない層である場合は、その平均のバンドギャップエネルギーを用いて大小関係を比べてよい。超格子層においては、超格子層を構成する各サブ層のバンドギャップエネルギーと膜厚とを乗算し、その合計値を超格子層の総膜厚で除算したものを超格子層の平均バンドギャップエネルギーとする。これらのバンドギャップエネルギーの大小関係は、最上層および最下層がAlGaN層である場合は、Al組成比の大小関係と言い換えることができる。
【0051】
最下層は、Al組成比が4%以下であるAlGaN層とすることができる。最下層は、Al組成比が実質的にゼロの層、すなわちGaN層であってもよい。最下層は、例えば、Mg等のp型不純物を含むp型半導体層とすることができる。最下層はAlInGaN等の四元層であってもよい。最下層を含む第2部分43は、低電圧化のためには、その平均のAl組成比が4%以下であることが好ましい。第1部分41に設けられる最上層は、好ましくは、一部あるいは全てにAlを0.01%以上含む。より好ましくは、最上層の平均のAl組成比を4%より多くする。また、最上層は第2部分43を構成する各層(単層であってもよい)のバンドギャップエネルギーのいずれよりも大きなバンドギャップエネルギーを有していてもよい。最上層は、AlGaNあるいはAlInGaNを含んだ超格子層や組成傾斜層としてもよい。なお、最上層から活性層3までを繋ぐ1以上の層は、いずれも、最上層のバンドギャップエネルギーよりも小さなバンドギャップエネルギーを有する層とすることができる。このような1以上の層は、例えば
図2Bに示す第1層412A及びp側組成傾斜層411であるが、これらの層でなくてもよい。
【0052】
半導体レーザ素子100は、以下の構成を備えていてもよい。それぞれが窒化物半導体からなるn側半導体層2と、活性層3と、p側半導体層4と、を上方に向かって順に有し、p側半導体層4に上方に突出したリッジ4aが設けられている。p側半導体層4は、活性層3の上面に接して配置され、1以上の半導体層を有し、アンドープである第1部分41と、第1部分41の上面に接して配置され、第1部分41よりもバンドギャップエネルギーが大きく、p型不純物を含有する電子障壁層42と、電子障壁層42の上面に接して配置され、p型不純物を含有するp型半導体層を1以上有する第2部分43と、を有する。第1部分41は、電子障壁層42の下面に接する最上層を有し、第2部分43は、電子障壁層42の上面に接する最下層を有し、最下層のバンドギャップエネルギーは、最上層のバンドギャップエネルギーよりも小さい。リッジ4aの下端は、第1部分41に位置している。
【0053】
(電子障壁層42)
電子障壁層42は、Mg等のp型不純物を含有する。電子障壁層42のバンドギャップエネルギーは、第1部分41のバンドギャップエネルギーよりも大きい。第1部分41が上述のように多層構造である場合は、電子障壁層42を、第1部分41を構成するいずれの層よりもバンドギャップエネルギーが大きな層とする。電子障壁層42がこのような大きなバンドギャップエネルギーを有する層であることにより、電子障壁層42を、活性層3からオーバーフローした電子に対する障壁として機能させることができる。電子障壁層42は、第1部分41の最上層とのバンドギャップエネルギー差が0.1eV以上であることが好ましい。これらのバンドギャップエネルギー差は例えば1eV以下とすることができる。電子障壁層42は、例えば、p側半導体層4中で最も高いバンドギャップエネルギーを有する層とする。電子障壁層42はp側組成傾斜層411よりも膜厚が小さい層であってもよい。電子障壁層42を多層構造としてもよい。この場合、電子障壁層42は、第1部分41を構成するいずれの層よりもバンドギャップエネルギーが大きな層を有する。例えば、
図2A等に示すように、第1電子障壁層42Aと第2電子障壁層42Bとを有していてもよい。なお、第1部分41や電子障壁層42が超格子層を有する場合は、超格子層を構成する各層のバンドギャップエネルギーではなく、超格子層の平均のバンドギャップエネルギーを用いて大小関係を比較する。電子障壁層42は、例えばAlGaNからなる。電子障壁層42がAlGaNである場合、そのAl組成比は8~30%としてよい。電子障壁層42の膜厚は、例えば5nm以上とすることができ、100nm以下とすることができる。
【0054】
図2C及び
図2Dに示すように、リッジ4aの底面から電子障壁層42までの最短距離は、リッジ4aの上面から電子障壁層42までの最短距離よりも大きいことが好ましい。
このような配置により、光強度のピークを電子障壁層42等のp型不純物を含有する部分から遠ざけることができ、また、リッジ4aの下端と活性層3との距離を短くすることができる。リッジ4aの底面から電子障壁層42までの最短距離とは、
図1に示すような断面視において、リッジ4aの下端と下端を結ぶ仮想的な直線から電子障壁層42の下面までの最短距離を指す。言い換えれば、電子障壁層42がリッジ4aの中でも上寄りに位置しているといえる。また、リッジ4aの底面から活性層3までの最短距離を例えば436nm程度とすると、I-L特性カーブにキンクが発生することがある。このため、リッジ4aの底面から活性層3までの最短距離は430nm以下であることが好ましい。これにより、水平横方向の光閉じ込めを強化することができる。
【0055】
(第2部分43)
第2部分43は、p型不純物を含有するp型半導体層を1以上有する。第2部分43が有するp型半導体層のp型不純物の濃度は、例えば、1×1018/cm3以上とすることができ、1×1022/cm3以下とすることができる。上述のとおり、第2部分43の厚みを薄くすることで駆動電圧を低減することができるため、第2部分43の厚みは、260nm以下であることが好ましい。第2部分43の厚みは、10nm以上とすることができる。第2部分43はアンドープ層を含んでいてもよいが、第2部分43の中にアンドープ層があると第2部分43の抵抗より高くなるため、好ましくは第2部分43の全体にp型不純物を含有させることが好ましい。超格子層の場合はその平均的なp型不純物濃度をその超格子層のp型不純物濃度と見做すことができるため、第2部分43が超格子層を有する場合、その超格子層はアンドープの層とp型不純物含有層との積層構造を有していてもよい。
【0056】
第2部分43は、
図2Aに示すように、上側p型半導体層432と、下側p型半導体層431を有することができる。上側p型半導体層432は、リッジ4aの上面を構成する。すなわち、上側p型半導体層432は第2部分43の最上層であり、リッジ4aの最上層である。上側p型半導体層432はp側コンタクト層として機能する。下側p型半導体層431は、上側p型半導体層432と電子障壁層42の間に配置されており、上側p型半導体層432より大きいバンドギャップエネルギーを有する。
【0057】
下側p型半導体層431は、例えばAlGaNからなる。上側p型半導体層432は、例えばGaNからなる。下側p型半導体層431は、電子障壁層42と上側p型半導体層432との間のバンドギャップエネルギーを有することが好ましい。p型不純物を含有するAlGaNはp型不純物を含有するGaNよりも抵抗が高くなりやすいため、上側p型半導体層432はp型不純物が添加されたGaN層であることが好ましい。そして、上側p型半導体層432の下にAlGaNからなる下側p型半導体層を設けることで、第2部分43がGaN層のみで形成された場合と比較して、活性層3への光閉じ込めを強めることができる。また、下側p型半導体層431のAl組成比が電子障壁層42のAl組成比よりも小さいことにより、下側p型半導体層431を電子障壁層42よりも低抵抗化することが可能である。下側p型半導体層431は、p側クラッド層として機能させてもよい。下側p型半導体層431は、p型GaN層としてもよく、これにより、第2部分43の抵抗をより低くすることができる。この場合、p電極をITO等のクラッド層として機能する材料で形成することが好ましい。
【0058】
上側p型半導体層432の膜厚は、例えば、5~30nmとすることができる。下側p型半導体層431の膜厚は、例えば、1~260nmとすることができる。下側p型半導体層431の膜厚は、p側中間層412の膜厚よりも薄くすることができ、さらには、第2層412Bの膜厚よりも薄くすることができる。下側p型半導体層431と第2層412Bは、いずれもAlGaN層としてよく、そのAl組成比を同一としてもよい。下側p型半導体層431は、例えば電子障壁層42よりも膜厚が厚い。したがって、自由キャリア吸収損失を低減するために、下側p型半導体層431のp型不純物濃度は、電子障壁層42のp型不純物濃度よりも低いことが好ましい。
【0059】
(絶縁膜5、n電極8、p電極6、p側パッド電極7)
絶縁膜5は、例えば、Si、Al、Zr、Ti、Nb、Ta等の酸化物又は窒化物等の単層膜又は多層膜によって形成することができる。n電極8は、例えばn型の基板1の下面のほぼ全域に設けられる。p電極6は、リッジ4aの上面に設けられる。p電極6の幅が狭い場合は、p電極6の上にp電極6より幅が広いp側パッド電極7を設け、p側パッド電極7にワイヤ等を接続すればよい。各電極の材料は、例えば、Ni、Rh、Cr、Au、W、Pt、Ti、Al等の金属又は合金、Zn、In、Snから選択される少なくとも1種を含む導電性酸化物等の単層膜又は多層膜が挙げられる。導電性酸化物の例としては、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、GZO(Gallium-doped Zinc Oxide)等が挙げられる。電極の厚みは、通常、半導体素子の電極として機能し得る厚みであればよい。例えば、0.1μm~2μm程度が挙げられる。
【0060】
p電極6は、活性層3の屈折率よりも小さい屈折率を有する透明導電膜であることが好ましい。これにより、クラッド層として機能させることができる。さらには、p電極6は、第2部分43の屈折率よりも小さい屈折率を有する透明導電膜であることが好ましい。
これにより、光閉じ込め効果をより得ることができる。また、第2部分43にp側クラッド層を設ける場合は、例えばAl組成比が比較的高くp型不純物が添加されたAlGaN層をp側クラッド層として設けるが、Al組成比が高いほど抵抗が高くなりやすい。p電極6をクラッド層として機能させれば、第2部分43にp側クラッド層を設けなくてもよいか、あるいはp側クラッド層を設ける場合でもそのAl組成比を低くすることができる。このため、抵抗を低減することができ、半導体レーザ素子100の駆動電圧を低減することができる。クラッド層として機能するp電極6としては、例えばITOからなるp電極6が挙げられる。
【0061】
(製造方法)
実施形態に係る半導体レーザ素子100の製造方法は、
図6Aのフローチャートに示す工程S101~S106を有することができる。工程S101では、基板1の上に、n側半導体層2を形成する。工程S102では、n側半導体層2の上に、活性層3を形成する。工程S103では、活性層3の上面に、1以上の半導体層を有する第1部分41をアンドープで形成する。工程S104では、第1部分41の上面に、第1部分41のバンドギャップエネルギーよりも大きなバンドギャップエネルギーを有する電子障壁層42を、p型不純物をドープして形成する。工程S105では、電子障壁層42の上面に、p型不純物をドープして形成するp型半導体層を1以上有する第2部分43を形成する。工程S106では、第1部分41と電子障壁層42と第2部分43とを含むp側半導体層4の一部を除去することにより、上方に突出したリッジ4aを形成する。これらの工程により、n側半導体層2と、活性層3と、p側半導体層4と、を上方に向かって順に有し、p側半導体層4に上方に突出したリッジ4aが設けられた半導体レーザ素子100を得ることができる。各工程によって得られる層等の作用効果や好ましい構成等は、上に述べた通りである。例えば、
図6Bに示すように、第1部分41を形成する工程S103は、上方に向かうにつれてバンドギャップエネルギーが大きくなるp側組成傾斜層411をアンドープで形成する工程S103Aと、p側組成傾斜層411の上方に、p側中間層412をアンドープで形成する工程S103Bと、を含むことができる。この場合、リッジ4aを形成する工程S106において、リッジ4aの下端がp側中間層412に位置するようにp側半導体層4の一部を除去することができる。また、第2部分43を形成する工程S105において、第1部分41の厚みよりも薄い厚みを有する第2部分43を形成することができる。この場合、リッジ4aを形成する工程S106において、リッジ4aの下端が第1部分41に位置するようにp側半導体層4の一部を除去することができる。また、第2部分43を形成する工程S105において、第2部分43の最下層として、第1部分41の最上層のバンドギャップエネルギーよりも小さいバンドギャップエネルギーを有する層を形成してもよい。
【0062】
(実施例1)
実施例1として、
図2A及び
図4に示すp側半導体層4を有する半導体レーザ素子を作製した。半導体レーザ素子となるエピタキシャルウエハーの作製にはMOCVD装置を用いた。また、原料には、トリメチルガリウム(TMG)、トリエチルガリウム(TEG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、トリメチルインジウム(TMI)、アンモニア(NH
3)、シランガス、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(Cp
2Mg)を適宜用いた。
【0063】
+c面を上面とするn型GaN基板(基板1)上に、n側半導体層2と、活性層3と、p側半導体層4とを成長させた。
まず、n側半導体層2として、Siを添加した膜厚1.0μmのAl0.018Ga0.982N層(下地層21)と、Siを添加した膜厚250nmのAl0.08Ga0.92N層(第1n側クラッド層22)と、Siを添加した膜厚150nmのIn0.04Ga0.96N層(クラック防止層23)と、Siを添加した膜厚10nmのGaN層(中間層24)と、Siを添加した膜厚650nmのAl0.08Ga0.92N層(第2n側クラッド層25)と、Siを添加した膜厚200nmのGaN層(第1n側光ガイド層26)と、アンドープの膜厚260nmのIn0.03Ga0.97N層(第2n側光ガイド層27)と、Siを添加した膜厚1.2nmのGaN層(第1ホールブロック層281)と、Siを添加した膜厚4nmのIn0.05Ga0.95N層(第2ホールブロック層282)と、をこの順に成長させた。
次に、Siを添加したGaN層(n側障壁層31)と、アンドープのIn0.25Ga0.75N層(井戸層32)と、アンドープのGaN層(中間障壁層)と、アンドープのIn0.25Ga0.75N層(井戸層32)と、アンドープのGaN層(p側障壁層34)をこの順に含む活性層3を成長させた。
次に、p側半導体層4として、アンドープの膜厚260nmの組成傾斜層(p側組成傾斜層411)と、アンドープの膜厚200nmのGaN層(p側中間層412)と、Mgを添加した膜厚3.9nmのAl0.10Ga0.90N層(第1電子障壁層42A)と、Mgを添加した膜厚7nmのAl0.16Ga0.84N層(第2電子障壁層42B)と、Mgを添加した膜厚300nmのAl0.04Ga0.96N層(下側p型半導体層431)と、Mgを添加した膜厚15nmのGaN層(上側p型半導体層432)と、をこの順に成長させた。
p側組成傾斜層411は、成長の始端をIn0.05Ga0.95Nとし、成長の終端をGaNとして、組成傾斜がほぼ直線状となるように120段階でIn組成を実質的に単調減少させて成長させた。
【0064】
そして、以上の層が形成されたエピタキシャルウエハーをMOCVD装置より取り出し、リッジ4a、絶縁膜5、p電極6、p側パッド電極7、n電極8を形成し、光出射端面及び光反射端面にそれぞれ反射膜を形成し、個片化して半導体レーザ素子100を得た。
リッジ4aの深さは約340nmとした。すなわち、リッジ4aを、その下端が第1層412Aに位置するように形成した。また、p電極6として、膜厚200nmのITO膜を形成した。実施例1に係る半導体レーザ素子100が出射するレーザ光のピーク波長は約530nmであった。
【0065】
(実施例2)
実施例2として、
図2Bに示すp側半導体層4を有する半導体レーザ素子を作製した。
すなわち、p側中間層412として第1層412Aだけでなくアンドープの膜厚100nmのAl
0.05Ga
0.95N層(第2層412B)も形成し、且つ、下側p型半導体層431の膜厚を200nmとしたこと以外は実施例1と同様の半導体レーザ素子を作製した。
【0066】
(実施例3)
実施例3として、
図2Cに示すp側半導体層4を有する半導体レーザ素子を作製した。
すなわち、第2層412Bの膜厚を200nmとし、下側p型半導体層431の膜厚を100nmとしたこと以外は実施例2と同様の半導体レーザ素子を作製した。
【0067】
(実施例4)
実施例4として、第1層412Aの膜厚を100nmとしたこと以外は実施例3と同様の半導体レーザ素子を作製した。
【0068】
(実施例5)
実施例5として、第1層412Aの膜厚を50nmとしたこと以外は実施例3と同様の半導体レーザ素子を作製した。
【0069】
(実施例6)
実施例6として、
図2Dに示すp側半導体層4を有する半導体レーザ素子を作製した。
実施例6では、リッジ4aの深さを270nmとしたこと以外は実施例3と同様の半導体レーザ素子を作製した。すなわち、実施例1乃至5の半導体レーザ素子はリッジ4aの下端が第1層412Aに位置するように形成したが、実施例6の半導体レーザ素子はリッジ4aの下端が第2層412Bに位置するように形成した。
【0070】
(比較例1~4)
比較例1として、リッジ4aの深さを270nmとしたこと以外は実施例1と同様の半導体レーザ素子を作製した。すなわち、比較例1の半導体レーザ素子は、リッジ4aの下端が下側p型半導体層431に位置するように形成した。また、比較例2及び比較例3として、p側中間層412の膜厚が異なる以外は比較例1と同様の半導体レーザ素子を作製した。比較例2のp側中間層412の膜厚は300nmとし、比較例3のp側中間層412の膜厚は400nmとした。比較例4として、p側中間層412を設けないこと以外は比較例1と同様の半導体レーザ素子を作製した。すなわち、比較例1乃至4の半導体レーザ素子はいずれもリッジ4aの下端が下側p型半導体層431に位置しており、活性層3から電子障壁層42までの最短距離が、比較例4、比較例1、比較例2、比較例3の順に長くなるように形成した。比較例1乃至4の半導体レーザ素子が出射するレーザ光のピーク波長は約525nmであった。
【0071】
(実験結果1)
まず、比較例1乃至4の半導体レーザ素子のI-L特性を
図8に示す。
図8のグラフにおいて、横軸は電流を示し、縦軸は光出力を示す。
図8において、細い実線は比較例1を示し、細い破線は比較例2を示し、太い破線は比較例3を示し、太い実線は比較例4を示す。
図8に示すように、リッジ4aの下端が電子障壁層42より上に位置している比較例1乃至4では、活性層3から電子障壁層42までの最短距離が増加するほどI-L特性が不安定になった。比較例1及び2は、比較例4よりも光出力が向上し、スロープ効率も向上したが、I-L特性グラフにおいて一部が折れ曲がるキンクが発生した。比較例1及び2の半導体レーザ素子では、p側中間層412を設けたことにより活性層3からリッジ4aの下端までの距離も長くなったため、比較例4よりもリッジ4aの内外での実効的な屈折率差が減少した。これにより、比較例1及び2の半導体レーザ素子では水平横モードが不安定になり、キンクが発生したと考えられる。また、p側中間層412をさらに厚くした比較例3の半導体レーザ素子は、キンクが発生したのみならず、比較例4の半導体レーザ素子よりも光出力が低下した。このように、リッジ4aの下端が電子障壁層42より上に位置している場合は、p側中間層412を設けて効率を向上させようとしてもキンクが発生するなどI-L特性が不安定になった。
【0072】
(実験結果2)
実施例1乃至3の半導体レーザ素子のI-L特性を
図9Aに示し、I-V特性を
図9Bに示す。
図9Aのグラフにおいて、横軸は電流を示し、縦軸は光出力を示す。
図9Bのグラフにおいて、横軸は電流を示し、縦軸は電圧を示す。
図9A及び
図9Bにおいて、細い実線が実施例1を示し、太い実線が実施例2を示し、破線が実施例3を示す。まず、
図8及び
図9Aを用いて、実施例1乃至3と比較例1乃至3を比較する。活性層3から電子障壁層42までの最短距離は、実施例1と比較例1が同じであり、実施例2と比較例2が同じであり、実施例3と比較例3が同じである。
図8及び
図9Aからわかるとおり、比較例1乃至3では活性層3から電子障壁層42までの距離を長くするほどI-L特性が不安定になったが、実施例1乃至3では活性層3から電子障壁層42までの距離に関わらずI-L特性はほぼ同じであった。これは、実施例1乃至3の半導体レーザ素子100においてリッジ4aを深く形成したことにより、横方向の光閉じ込めが強くなり、水平横モードが安定したためであると考えられる。なお、実施例1乃至3よりも比較例1乃至3の方が光出力が高いのは、比較例1乃至3の方が発振波長が短いためであり、リッジ4aの深さの相違により光出力に差が生じたとはいえない。
【0073】
また、下側p型半導体層431の膜厚は実施例1、実施例2、実施例3の順に薄いが、
図9Bに示すように、下側p型半導体層431を薄くすることにより、半導体レーザ素子100を駆動する際の電圧を低減することが確認された。これは、下側p型半導体層431がAlGaN層という直列抵抗が比較的高い層であるためと考えられる。第2層412BもAlGaN層であり、p側半導体層4中にこのようなアンドープのAlGaN層を設けると電気抵抗が上昇し活性層3へのホールの注入確率が減少する場合があり得るが、
図9A及び
図9Bに示す結果ではその影響は見られなかった。これは、電圧印加時に第2層412Bのバンドが曲がり、これによってホールの注入が促進されたためであると考えられる。加えて、電圧印加時には、活性層3からオーバーフローした電子が第1部分41を満たしていると考えられる。
【0074】
(実験結果3)
実施例3乃至5の半導体レーザ素子のI-L特性を
図10Aに示し、I-V特性を
図10Bに示す。
図10Aのグラフにおいて、横軸は電流を示し、縦軸は光出力を示す。
図10Bのグラフにおいて、横軸は電流を示し、縦軸は電圧を示す。
図10A及び
図10Bにおいて、破線が実施例3を示し、実線が実施例4を示し、一点鎖線が実施例5を示す。第1層412Aの膜厚は実施例3、実施例4、実施例5の順に薄くなっており、
図10Aに示すとおり、第1層412Aの膜厚を薄くすることでスロープ効率が向上することが確認された。上述のとおり、p型不純物を含有する電子障壁層42及び第2部分43を活性層3から遠ざけることにより、自由キャリア吸収損失の多い第2部分43への光漏れΓpを減少させることができる。しかし一方で、電子障壁層42を活性層3から離すほど活性層3からオーバーフローする電子が増加する。そこで、p側組成傾斜層411や第2層412Bよりも光閉じ込めへの影響が薄い第1層412Aの膜厚を薄くすることで、オーバーフローする電子の増加を抑制しつつ、第2部分43への漏れ光も少なくすることができ、これによって、スロープ効率が向上したと考えられる。また、
図10Bに示すとおり、第1層412Aの膜厚の変化は駆動電圧にほとんど影響を与えないことが確認された。
【0075】
(実験結果4)
実施例3及び6の半導体レーザ素子のI-L特性を
図11Aに示し、I-V特性を
図11Bに示す。
図11Aのグラフにおいて、横軸は電流を示し、縦軸は光出力を示す。
図11Bのグラフにおいて、横軸は電流を示し、縦軸は電圧を示す。
図11A及び
図11Bにおいて、破線が実施例3を示し、実線が実施例6を示す。リッジ4aの深さは実施例3よりも実施例6の方が浅いが、
図11A及び
図11Bに示すとおり、いずれも同程度の特性を示した。
【符号の説明】
【0076】
100 半導体レーザ素子
1 基板
2 n側半導体層
21 下地層
22 第1n側クラッド層
23 クラック防止層
24 中間層
25 第2n側クラッド層
26 第1n側光ガイド層
27 第2n側光ガイド層
28 ホールブロック層
281 第1ホールブロック層
282 第2ホールブロック層
3 活性層
31 n側障壁層
32 井戸層
34 p側障壁層
4 p側半導体層
41 第1部分
411 p側組成傾斜層
412 p側中間層
412A 第1層
412B 第2層
42 電子障壁層
42A 第1電子障壁層
42B 第2電子障壁層
43 第2部分
431 下側p型半導体層
432 上側p型半導体層
4a リッジ
5 絶縁膜
6 p電極
7 p側パッド電極
8 n電極
411a、411b、411c、411y、411z サブ層