(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ポリマーフィルム、及び、積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 7/027 20190101AFI20250110BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20250110BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20250110BHJP
C08L 77/12 20060101ALI20250110BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20250110BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
B32B7/027
B32B7/025
C08L101/12
C08L77/12
C08K3/013
H05K1/03 610H
(21)【出願番号】P 2020194653
(22)【出願日】2020-11-24
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々田 泰行
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/163999(WO,A1)
【文献】特開2017-047686(JP,A)
【文献】特開2003-261845(JP,A)
【文献】特開2021-160148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08L 101/12
C08L 77/12
C08K 3/013
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層Aと、前記層Aの少なくとも一方の面に層Bとを有し、
前記層Bが、外部刺激により体積膨張可能な層であり、
誘電正接が0.005以下であ
り、
前記層A及び層Bが、それぞれ液晶ポリマーを含み、
前記外部刺激による層Aと層Bとの160℃又は300℃における膨張率差が、0.1%以上であり、
前記外部刺激が、熱である、
ポリマーフィルム。
【請求項2】
前記層Bが、前記液晶ポリマーに加えて、前記層Aに含まれる液晶ポリマーよりも線膨張係数の大きいポリマー、又は、発泡剤を含む請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項3】
前記層Bの300℃での膨張率が、
3%以上である請求項
1又は請求項2に記載のポリマーフィルム。
【請求項4】
前記層Bの300℃での膨張率が、前記層Aの300℃での膨張率より大きい請求項
1~請求項
3のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項5】
前記層Bの熱膨張係数αsが、前記層Aの熱膨張係数αcより大きい請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項6】
前記ポリマーフィルムが、いずれかの層にフィラーを含む請求項1~請求項
5のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項7】
前記フィラーの数密度が、前記ポリマーフィルムの表面より内部の方が大きい請求項
6に記載のポリマーフィルム。
【請求項8】
前記層Bが、フィラーを含む請求項
6又は請求項
7に記載のポリマーフィルム。
【請求項9】
前記層Bが、針状フィラー又は突起を有するフィラーを含む請求項
8に記載のポリマーフィルム。
【請求項10】
前記ポリマーフィルムの線膨張係数が、-20ppm/K~50ppm/Kである請求項1~請求項
9のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項11】
前記ポリマーフィルムの誘電正接が、0.004以下である請求項1~請求項
10のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項12】
前記液晶ポリマーが、式(1)~式(3)のいずれかで表される構成繰り返し単位を有する液晶ポリマーである請求項
1~請求項11のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
式(1) -O-Ar
1-CO-
式(2) -CO-Ar
2-CO-
式(3) -X-Ar
3-Y-
式(1)~式(3)中、Ar
1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar
2及びAr
3はそれぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表し、X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表し、Ar
1~Ar
3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
式(4) -Ar
4-Z-Ar
5-
式(4)中、Ar
4及びAr
5はそれぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し、Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキレン基を表す。
【請求項13】
層Cを更に有し、
前記層Bと、前記層Aと、前記層Cとをこの順で有する請求項1~請求項
12のいずれか1項に記載のポリマーフィルム。
【請求項14】
請求項1~請求項
13のいずれか1項に記載のポリマーフィルムと、前記ポリマーフィルムの前記層B側の面に配置された銅層を有する積層体。
【請求項15】
前記層Bの平均厚みが、前記銅層の平均厚みよりも大きい請求項
14に記載の積層体。
【請求項16】
前記層Bと前記銅層との剥離強度が、0.5kN/m以上である請求項
14又は請求項
15に記載の積層体。
【請求項17】
請求項
13に記載のポリマーフィルムと、前記ポリマーフィルムの前記層B側の面に配置された銅層と、前記ポリマーフィルムの前記層C側の面に配置された銅層とを有する積層体。
【請求項18】
前記層Cと前記層C側の面に配置された前記銅層との剥離強度が、0.5kN/m以上である請求項
17に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリマーフィルム、及び、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、通信機器に使用される周波数は非常に高くなる傾向にある。高周波帯域における伝送損失を抑えるため、回路基板に用いられる絶縁材料の比誘電率と誘電正接とを低くすることが要求されている。
従来、回路基板に用いられる絶縁材料として、ポリイミドが多く用いられてきたが、高耐熱性及び低吸水性であり、かつ、高周波帯域での損失が小さい液晶ポリマーが注目されている。
【0003】
従来のポリマーフィルムとしては、例えば、特許文献1には、少なくとも液晶ポリエステルを含む液晶ポリエステルフィルムであって、第1の配向度を、上記液晶ポリエステルフィルムの主面に平行な第1の方向に対する配向度とし、第2の配向度を、上記主面に平行であり、かつ上記第1の方向と直交する第2の方向に対する配向度としたとき、上記第1の配向度と上記第2の配向度との比である第1の配向度/第2の配向度が0.95以上1.04以下であり、上記主面に平行な方向において広角X線散乱法により測定される上記液晶ポリエステルの第3の配向度が60.0%以上である、液晶ポリエステルフィルムが記載されている。
【0004】
また、従来の剥離性積層フィルムとしては、特許文献2に記載のものが知られている。
特許文献2には、セルロースエステルを含むA層と上記セルロースエステルとは異なる溶液成膜可能な樹脂を含むB層を含む積層体を有し、A層とB層の密着力が5N/cm以下であることを特徴とする剥離性積層フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-26474号公報
【文献】特開2013-46992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性に優れるポリマーフィルムを提供することである。
また、本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記ポリマーフィルムを用いた層間密着性に優れる積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 層Aと、上記層Aの少なくとも一方の面に層Bとを有し、上記層A及び上記層Bの少なくとも一方が、外部刺激により体積膨張可能な層であり、誘電正接が0.005以下であるポリマーフィルム。
<2> 上記層Bが、上記外部刺激により体積膨張可能な層である<1>に記載のポリマーフィルム。
<3> 上記層Bの160℃での膨張率が、0.1%以上である<2>に記載のポリマーフィルム。
<4> 上記層Bの300℃での膨張率が、0.1%以上である<2>又は<3>に記載のポリマーフィルム。
<5> 上記層Bの300℃での膨張率が、上記層Aの300℃での膨張率より大きい<2>~<4>のいずれか1つに記載のポリマーフィルム。
<6> 上記層Bの熱膨張係数αsが、上記層Aの熱膨張係数αcより大きい<1>~<5>のいずれか1つに記載のポリマーフィルム。
<7> 上記層Bが、発泡剤を含む<1>~<6>のいずれか1つに記載のポリマーフィルム。
<8> 上記ポリマーフィルムが、いずれかの層にフィラーを含む<1>~<7>のいずれか1つに記載のポリマーフィルム。
<9> 上記フィラーの数密度が、上記ポリマーフィルムの表面より内部の方が大きい<8>に記載のポリマーフィルム。
<10> 上記層Bが、フィラーを含む<8>又は<9>に記載のポリマーフィルム。
<11> 上記層Bが、針状フィラー又は突起を有するフィラーを含む<10>に記載のポリマーフィルム。
<12> 上記ポリマーフィルムの線膨張係数が、-20ppm/K~50ppm/Kである<1>~<11>のいずれか1つに記載のポリマーフィルム。
<13> 上記ポリマーフィルムの誘電正接が、0.004以下である<1>~<12>のいずれか1つに記載のポリマーフィルム。
<14> 上記ポリマーフィルムが、いずれかの層に液晶ポリマーを含む<1>~<13>のいずれか1つに記載のポリマーフィルム。
<15> 上記液晶ポリマーが、式(1)~式(3)のいずれかで表される構成繰り返し単位を有する液晶ポリマーである<14>に記載のポリマーフィルム。
式(1) -O-Ar1-CO-
式(2) -CO-Ar2-CO-
式(3) -X-Ar3-Y-
式(1)~式(3)中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar2及びAr3はそれぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表し、X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表し、Ar1~Ar3で表される上記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
式(4) -Ar4-Z-Ar5-
式(4)中、Ar4及びAr5はそれぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し、Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキレン基を表す。
<16> 層Cを更に有し、上記層Bと、上記層Aと、上記層Cとをこの順で有する<1>~<15>のいずれか1つに記載のポリマーフィルム。
<17> <1>~<16>のいずれか1つに記載のポリマーフィルムと、上記ポリマーフィルムの上記層B側の面に配置された銅層を有する積層体。
<18> 上記層Bの平均厚みが、上記銅層の平均厚みよりも大きい<17>に記載の積層体。
<19> 上記層Bと上記銅層との剥離強度が、0.5kN/m以上である<17>又は<18>に記載の積層体。
<20> <16>に記載のポリマーフィルムと、上記ポリマーフィルムの上記層B側の面に配置された銅層と、上記ポリマーフィルムの上記層C側の面に配置された銅層とを有する積層体。
<21> 上記層Cと上記層C側の面に配置された上記銅層との剥離強度が、0.5kN/m以上である<20>に記載の積層体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性に優れるポリマーフィルムを提供することができる。
また、本発明の他の実施形態によれば、上記ポリマーフィルムを用いた層間密着性に優れる積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの両方を包含する概念で用いられる語であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルの両方を包含する概念として用いられる語である。
また、本明細書中の「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。 また、本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義であり、「質量部」と「重量部」とは同義である。
更に、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
また、本開示における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、特に断りのない限り、TSKgel SuperHM-H(東ソー(株)製の商品名)のカラムを使用したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析装置により、溶剤PFP(ペンタフルオロフェノール)/クロロホルム=1/2(質量比)、示差屈折計により検出し、標準物質としてポリスチレンを用いて換算した分子量である。
【0010】
(ポリマーフィルム)
本開示に係るポリマーフィルムは、層Aと、上記層Aの少なくとも一方の面に層Bとを有し、上記層A及び上記層Bの少なくとも一方が、外部刺激により体積膨張可能な層であり、誘電正接が0.005以下である。
【0011】
従来のポリマーフィルムは極性基の含有率が低いため、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性が十分でなく、ポリマーフィルムと金属箔とを積層及びパターニングし、更に積層して作製したフレキシブル配線基板において、層間密着性に劣る部分が生じることを本発明者は見出した。
本発明者が鋭意検討した結果、上記構成をとることにより、金属箔との密着性に優れるポリマーフィルムを提供できることを見出した。
上記効果が得られる詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。
層Aと、上記層Aの少なくとも一方の面に層Bとを有し、上記層A及び上記層Bの少なくとも一方が、外部刺激により体積膨張可能な層であることにより、パターニングされた金属箔積層板(金属箔部分と他のポリマーフィルム部分が表面に存在する。)と貼り合わせた時に生じる局所的な圧力低下(密着不良)部分において、上記外部刺激により体積膨張可能な層を体積膨張させ、体積膨張により密着させる圧力を更に増加させることができ、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性に優れると推定している。
【0012】
<<誘電正接>>
本開示に係るポリマーフィルムは、誘電正接が0.005以下であり、作製された基板の伝送損失低減の観点から、0.004以下であることが好ましく、0.0035以下であることがより好ましく、0を超え0.003以下であることが特に好ましい。
【0013】
本開示に係るポリマーフィルムにおける層Aの誘電正接は、作製された基板の伝送損失低減の観点から、0.005以下であることが好ましく、0.004以下であることがより好ましく、0.0035以下であることが更に好ましく、0を超え0.003以下であることが特に好ましい。
【0014】
本開示に係るポリマーフィルムにおける層Bの誘電正接は、作製された基板の伝送損失低減、及び、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性の観点から、0.01以下であることが好ましく、0.005以下であることがより好ましく、0.004以下であることが更に好ましく、0を超え0.003以下であることが特に好ましい。
【0015】
本開示における誘電正接は、以下の方法により測定するものとする。
誘電率測定は、周波数10GHzで共振摂動法により実施する。ネットワークアナライザ(Agilent Technology社製「E8363B」)に10GHzの空洞共振器((株)関東電子応用開発製CP531)を接続し、空洞共振器にポリマーフィルム又は各層のサンプル(幅:2.0mm×長さ:80mm)を挿入し、温度25℃、湿度60%RH環境下、96時間の挿入前後の共振周波数の変化からポリマーフィルム又は各層の誘電率及び誘電正接を測定する。
【0016】
<<膨張率>>
本開示に係るポリマーフィルムは、上記層A及び上記層Bの少なくとも一方が、外部刺激により体積膨張可能な層であればよいが、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性の観点から、上記層Bが、外部刺激により体積膨張可能な層であることが好ましい。
【0017】
層Bの160℃での膨張率は、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性、及び、低温貼り付け性の観点から、0.1%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、3%以上100%以下であることが更に好ましく、5%以上70%以下であることが特に好ましい。
層Bの300℃での膨張率は、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性の観点から、0.1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、5%以上100%以下であることが更に好ましく、10%以上70%以下であることが特に好ましい。
また、層Bの160℃での膨張率は、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性の観点から、層Aの160℃での膨張率より大きいことが好ましく、層Aと層Bとの膨張率差は、0.1%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、3%以上100%以下であることが更に好ましく、5%以上70%以下であることが特に好ましい。
更に、層Bの300℃での膨張率は、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性の観点から、層Aの300℃での膨張率より大きいことが好ましく、層Aと層Bとの膨張率差は、0.1%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、5%以上100%以下であることが更に好ましく、10%以上70%以下であることが特に好ましい。
【0018】
本開示における膨張率は、以下の方法により測定するものとする。
ポリマーフィルムをミクロトームで切削して切片サンプルを作製し、加熱ステージシステム(HS82、メトラー・トレド社製)を備えた光学顕微鏡を用いて、層A、及び、層Bの厚み変化をそれぞれ求める。25℃での初期厚み(t25)、及び、10℃/分の速度で160℃まで昇温したときの厚み(t160)を評価し、初期厚みで除した値(t160/t25)を算出し、160℃での膨張率(単位:%)とする。300℃の場合も同様に求める。
【0019】
<<熱膨張係数>>
本開示に係るポリマーフィルムは、外部刺激により体積膨張可能な層の熱膨張係数が、外部刺激により体積膨張可能な層でない層の熱膨張係数よりも大きいことが好ましい。
また、層Bが外部刺激により体積膨張可能な層である場合、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性の観点から、層Bの熱膨張係数αsが、層Aの熱膨張係数αcより大きいことが好ましい。
【0020】
外部刺激により体積膨張可能な層の熱膨張係数は、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性の観点から、50ppm/K以上であることが好ましく、60ppm/K~300ppm/Kであることがより好ましく、70ppm/K~250ppm/Kであることが特に好ましい。
また、層Bが外部刺激により体積膨張可能な層である場合、層Bの熱膨張係数αsは、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性の観点から、50ppm/K以上であることが好ましく、60ppm/K~300ppm/Kであることがより好ましく、70ppm/K~250ppm/Kであることが特に好ましい。
層Aが外部刺激により体積膨張可能な層でない場合、層Aの熱膨張係数αcは、特に限定されないが、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性の観点から、-20ppm/K以上であることが好ましく、0ppm/K以上であることがより好ましく、30ppm/K以上であることが更に好ましく、50ppm/K~100ppm/Kであることが特に好ましい。
【0021】
本開示における各層の熱膨張係数は、以下の方法により測定するものとする。
ポリマーフィルムをミクロトームで切削して切片サンプルを作製し、加熱ステージシステム(HS82、メトラー・トレド社製)を備えた光学顕微鏡にセットする。続いて、5℃/分の速度で25℃~200℃まで昇温した後、20℃/分の速度で30℃まで冷却し、再び5℃/分の速度で昇温したときの、30℃での層Bの厚み(ts30)、及び、150℃での層Bの厚み(ts150)を評価し、寸法変化を温度変化で除した値((ts150-ts30)/(150-30))を算出し、層Bの熱膨張係数(αs)とする。層Aの熱膨張係数(αc)についても同様に求める。
【0022】
<<外部刺激により体積膨張可能な層>>
本開示に係るポリマーフィルムは、層A及び層Bの少なくとも一方が、外部刺激により体積膨張可能な層である。
上記外部刺激としては、特に制限はなく、公知の体積膨張方法に応じて、適宜外部刺激を選択することができる。
上記外部刺激として、具体的には例えば、熱、圧力、電場、音波、電磁波(光を含む。)、磁場等が挙げられる。
中でも、積層体作製の簡便性、低誘電正接、及び、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性の観点から、熱、圧力及び電磁波よりなる群から選ばれた少なくとも1種の外部刺激がより好ましく、熱及び圧力よりなる群から選ばれた少なくとも1種の外部刺激がより好ましく、熱が特に好ましい。
【0023】
上記外部刺激により体積膨張可能な層は、ポリマーフィルムの取り扱い性及び保存性の観点から、発泡剤を含むことが好ましい。
例えば、層Bが、外部刺激により体積膨張可能な層である場合は、層Bが、発泡剤を含むことが好ましい。
発泡剤としては、特に制限はなく、公知の発泡剤を用いることができ、物理発泡剤であっても、化学発泡剤であってもよいが、ポリマーフィルムの取り扱い性及び保存性の観点から、化学発泡剤であることが好ましい。
また、発泡剤は、低誘電正接、及び、金属箔との密着性の観点から、熱により分解する発泡剤であることが好ましく、その分解温度は、貼り付け時のラミネート温度等に応じ適宜選択することができるが、100℃~300℃であることが好ましく、100℃~160℃であることがより好ましい。また、保存安定性の観点からは、上記分解温度は、200℃~300℃であることが好ましい。
化学発泡剤としては、無機化合物であっても、有機化合物であってもよく、2種以上を併用してもよい。
有機化学発泡剤としては、例えば、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)などのニトロソアミン化合物、アゾジカルボンアミド(ADCA)などのアゾ化合物、4,4’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)やヒドラゾジカルボンアミド(HDCA)などのヒドラジン化合物等が挙げられる。
無機化学発泡剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム等の炭酸水素塩、炭酸塩、炭酸水素塩とクエン酸ナトリウム等の有機酸塩との組み合わせ等が挙げられる。
中でも、低誘電正接、金属箔との密着性、並びに、ポリマーフィルムの取り扱い性及び保存性の観点から、無機化学発泡剤が好ましく、炭酸水素塩と有機酸塩との組み合わせがより好ましく、炭酸水素ナトリウムとクエン酸ナトリウムとの組み合わせが特に好ましい。
【0024】
発泡剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
上記外部刺激により体積膨張可能な層における発泡剤の含有量は、低誘電正接、金属箔との密着性、並びに、ポリマーフィルムの取り扱い性及び保存性の観点から、上記外部刺激により体積膨張可能な層の全質量に対し、0.01質量%~30質量%であることが好ましく、0.05質量%~20質量%であることがより好ましく、0.5質量%~15質量%であることが特に好ましい。
【0025】
上記外部刺激により体積膨張可能な層は、液晶ポリマーを含むことが好ましい。
また、上記外部刺激により体積膨張可能な層は、他の成分を含んでいてもよい。
上記外部刺激により体積膨張可能な層における液晶ポリマー及び他の成分としては、後述する層A及び層Bに記載の液晶ポリマー及び他の成分を好適に用いることができる。
上記外部刺激により体積膨張可能な層の平均厚みの好ましい態様も、後述する層A又は層Bと同様である。
【0026】
また、上記外部刺激により体積膨張可能な層は、ポリマーフィルムの取り扱い性及び保存性の観点から、層Aに含まれる液晶ポリマーよりも線膨張係数の大きいポリマーを含むことも好ましい。上記線膨張係数の大きいポリマーを含むことにより、熱により体積膨張可能な層とすることができる。
上記線膨張係数の大きいポリマーとしては、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、ポリエチレン、シクロオレフィン系ポリマー、非晶性ポリエステル等が好ましく挙げられる。
【0027】
上記線膨張係数の大きいポリマーは、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
上記外部刺激により体積膨張可能な層における上記線膨張係数の大きいポリマーの含有量は、低誘電正接、金属箔との密着性、並びに、ポリマーフィルムの取り扱い性及び保存性の観点から、上記外部刺激により体積膨張可能な層の全質量に対し、1質量%~90質量%であることが好ましく、5質量%~80質量%であることがより好ましく、10質量%~70質量%であることが更に好ましく、20質量%~60質量%であることが特に好ましい。
【0028】
<層A>
本開示に係るポリマーフィルムは、層Aと、上記層Aの少なくとも一方の面に層Bとを有し、低誘電正接の観点から、いずれかの層に液晶ポリマーを含むことが好ましく、層Aが、液晶ポリマーを含むことがより好ましく、層A及び層Bがそれぞれ、液晶ポリマーを含むことが特に好ましく、層A及び層Bに同一の種類の液晶ポリマーを含むことが最も好ましい。
層Aは、外部刺激により体積膨張可能な層であってもよいが、熱膨張係数、及び、低誘電正接の観点から、外部刺激により体積膨張可能な層でないことが好ましい。
【0029】
-液晶ポリマー-
本開示において、液晶ポリマーの種類は特に限定されず、公知の液晶ポリマーを用いることができる。
また、液晶ポリマーは、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーでもよく、溶液状態で液晶性を示すリオトロピック液晶ポリマーでもよい。また、サーモトロピック液晶の場合は、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。
液晶ポリマーとしては、例えば、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルにアミド結合が導入された液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルにエーテル結合が導入された液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルにカーボネート結合が導入された液晶ポリエ
ステルカーボネートなどを挙げることができる。
また、液晶ポリマーは、液晶性、及び、熱膨張係数の観点から、芳香環を有するポリマーであることが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることがより好ましい。
更に、液晶ポリマーは、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドに、更にイミド結合、カルボジイミド結合やイソシアヌレート結合などのイソシアネート由来の結合等が導入されたポリマーであってもよい。
また、液晶ポリマーは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリマーであることが好ましい。
【0030】
液晶ポリマーの例としては、例えば、以下が挙げられる。
1)(i)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、(ii)芳香族ジカルボン酸と、(iii)芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重縮合させてなるもの。
2)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重縮合させてなるもの。
3)(i)芳香族ジカルボン酸と、(ii)芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、を重縮合させてなるもの。
4)(i)ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと、(ii)芳香族ヒドロキシカルボン酸と、を重縮合させてなるもの。
ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンはそれぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重縮合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0031】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシ基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシ基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシ基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシ基をアシル化してアシルオキシ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0032】
液晶ポリマーは、液晶性、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、下記式(1)~式(3)のいずれかで表される構成繰り返し単位(以下、式(1)で表される構成繰り返し単位等を、繰り返し単位(1)等ということがある。)を有することが好ましく、下記式(1)で表される構成繰り返し単位を有することがより好ましく、下記式(1)で表される構成繰り返し単位と、下記式(2)で表される構成繰り返し単位と、下記式(2)で表される構成繰り返し単位とを有することが特に好ましい。
式(1) -O-Ar1-CO-
式(2) -CO-Ar2-CO-
式(3) -X-Ar3-Y-
式(1)~式(3)中、Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表し、Ar2及びAr3はそれぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表し、X及びYはそれぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表し、Ar1~Ar3で表される上記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。
式(4) -Ar4-Z-Ar5-
式(4)中、Ar4及びAr5はそれぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表し、Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキレン基を表す。
【0033】
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
上記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基及びn-デシル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1~10である。
上記アリール基の例としては、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、1-ナフチル基及び2-ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは6~20である。
上記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される上記基毎にそれぞれ独立に、好ましくは2個以下であり、より好ましくは1個である。
【0034】
上記アルキレン基の例としては、メチレン基、1,1-エタンジイル基、1-メチル-1,1-エタンジイル基、1,1-ブタンジイル基及び2-エチル-1,1-ヘキサンジイル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1~10である。
【0035】
繰り返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成繰り返し単位である。
繰り返し単位(1)としては、Ar1がp-フェニレン基であるもの(p-ヒドロキシ安香酸に由来する構成繰り返し単位)、及びAr1が2,6-ナフチレン基であるもの(6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構成繰り返し単位)、又は、4,4’-ビフェニリレン基であるもの(4’-ヒドロキシ-4-ビフェニルカルボン酸に由来する構成繰り返し単位)が好ましい。
【0036】
繰り返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する構成繰り返し単位である。
繰り返し単位(2)としては、Ar2がp-フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する構成繰り返し単位)、Ar2がm-フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する構成繰り返し単位)、Ar2が2,6-ナフチレン基であるもの(2,6-ナフタレンジカルボン酸に由来する構成繰り返し単位)、又は、Ar2がジフェニルエーテル-4,4’-ジイル基であるもの(ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸に由来する構成繰り返し単位)が好ましい。
【0037】
繰り返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する構成繰り返し単位である。
繰り返し単位(3)としては、Ar3がp-フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p-アミノフェノール又はp-フェニレンジアミンに由来する構成繰り返し単位)、Ar3がm-フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する構成繰り返し単位)、又は、Ar3が4,4’-ビフェニリレン基であるもの(4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル又は4,4’-ジアミノビフェニルに由来する構成繰り返し単位)が好ましい。
【0038】
繰り返し単位(1)の含有量は、全構成繰り返し単位の合計量(液晶ポリマーを構成する各構成繰り返し単位の質量をその各繰り返し単位の式量で割ることにより、各繰り返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30モル%~80モル%、更に好ましくは30モル%~60モル%、特に好ましくは30モル%~40モル%である。
繰り返し単位(2)の含有量は、全構成繰り返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%~35モル%、更に好ましくは20モル%~35モル%、特に好ましくは30モル%~35モル%である。
繰り返し単位(3)の含有量は、全構成繰り返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%~35モル%、更に好ましくは20モル%~35モル%、特に好ましくは30モル%~35モル%である。
繰り返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性、強度及び剛性が向上し易いが、あまり多いと、溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0039】
繰り返し単位(2)の含有量と繰り返し単位(3)の含有量との割合は、[繰り返し単位(2)の含有量]/[繰り返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1~1/0.9、より好ましくは0.95/1~1/0.95、更に好ましくは0.98/1~1/0.98である。
【0040】
なお、液晶ポリマーは、繰り返し単位(1)~(3)をそれぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリマーは、繰り返し単位(1)~(3)以外の構成繰り返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰り返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0041】
液晶ポリマーは、繰り返し単位(3)として、X及びYの少なくとも一方がイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する構成繰り返し単位及び芳香族ジアミンに由来する構成繰り返し単位の少なくとも一方を有することが、溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、繰り返し単位(3)として、X及びYの少なくとも一方がイミノ基であるもののみを有することが、より好ましい。
【0042】
液晶ポリマーは、それを構成する構成繰り返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させることにより製造することが好ましい。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、1-メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物などが挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。なお、溶融重合は、必要に応じて、更に固相重合させてもよい。
【0043】
液晶ポリマーは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃以上350℃以下、更に好ましくは260℃以上330℃以下である。液晶ポリマーの流動開始温度が上記範囲であると、溶解性、耐熱性、強度及び剛性に優れ、また、溶液の粘度が適度である。
【0044】
流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリマーを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4,800Pa・s(48,000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリマーの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー-合成・成形・応用-」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0045】
また、液晶ポリマーは、その重量平均分子量が1,000,000以下であることが好ましく、3,000~300,000であることがより好ましく、5,000~100,000であることが更に好ましく、5,000~30,000であることが特に好ましい。この液晶ポリマーの重量平均分子量が上記範囲であると、熱処理後のフィルムにおいて、厚さ方向の熱伝導性、耐熱性、強度及び剛性に優れる。
【0046】
液晶ポリマーは、特定の有機溶媒に可溶性の液晶ポリマー(以下、「可溶性液晶ポリマー」ともいう。)であることが好ましい。
具体的には、本開示における可溶性液晶ポリマーは、25℃において、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、N,N-ジメチルアセトアミド、γ-ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、エチレングリコールモノブチルエーテル及びエチレングリコールモノエチルエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒100gに、0.1g以上溶解する液晶ポリマーである。
【0047】
層Aは、液晶ポリマーを1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。
層Aにおける液晶ポリマーの含有量は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、層Aの全体積に対し、20体積%~100体積%であることが好ましく、20体積%~100体積%であることがより好ましく、30体積%~100体積%であることが更に好ましく、40体積%~100体積%であることが特に好ましい。
【0048】
-フィラー-
ポリマーフィルムは、熱膨張係数、及び、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性の観点から、少なくともいずれかの層にフィラーを含むことが好ましく、層Aが、フィラーを含むことがより好ましい。
フィラーとしては、粒子状であっても、繊維状であってもよく、また、無機フィラーであっても、有機フィラーであってもよい。
本開示に係るポリマーフィルムにおいて、上記フィラーの数密度は、金属配線と接着した際に、金属配線の歪みを抑制する観点から、表面より内部の方が大きいことが好ましい。
【0049】
無機フィラーとしては、公知の無機フィラーを用いることができる。
無機フィラーの材質としては、例えば、BN、Al2O3、AlN、TiO2、SiO2、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、及び、これらを2種以上含む材質が挙げられる。
中でも、無機フィラーとしては、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、金属酸化物粒子、又は、繊維が好ましく、シリカ粒子、チタニア粒子、又は、ガラス繊維がより好ましく、シリカ粒子、又は、ガラス繊維が特に好ましい。
無機フィラーの平均粒径は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、5nm~20μmであることが好ましく、10nm~10μmであることがより好ましく、20nm~1μmであることが更に好ましく、25nm~500nmであることが特に好ましい。粒子、又は、繊維が扁平状の場合には、短辺方向の長さを示す。
【0050】
有機フィラーとしては、公知の有機フィラーを用いることができる。
有機フィラーの材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、尿素-ホルマリンフィラー、ポリエステル、セルロース、アクリル樹脂、フッ素樹脂、硬化エポキシ樹脂、架橋ベンゾグアナミン樹脂、架橋アクリル樹脂、及び、これらを2種以上含む材質が挙げられる。
また、有機フィラーは、ナノファイバーのような繊維状であってもよく、中空樹脂粒子であってもよい。
中でも、有機フィラーとしては、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、フッ素樹脂粒子、若しくは、ポリエステル系樹脂粒子、又はセルロース系樹脂のナノファイバーであることが好ましく、ポリテトラフルオロエチレン粒子であることがより好ましい。
有機フィラーの平均粒径は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、5nm~20μmであることが好ましく、10nm~1μmであることがより好ましく、20nm~500nmであることが更に好ましく、25nm~90nmであることが特に好ましい。
【0051】
層Aは、フィラーを1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。
層Aにおけるフィラーの含有量は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、層Aの全体積に対し、5体積%~80体積%であることが好ましく、10体積%~70体積%であることがより好ましく、20体積%~70体積%であることが更に好ましく、30体積%~60体積%であることが特に好ましい。
【0052】
-その他の添加剤-
層Aは、液晶ポリマー及びフィラー以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。
その他の添加剤としては、公知の添加剤を用いることができる。具体的には、例えば、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤等が挙げられる。
【0053】
また、層Aは、その他の添加剤として、上述した成分以外の樹脂を含んでいてもよい。
液晶ポリマー以外の樹脂の例としては、ポリオレフィン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等の熱可塑性樹脂;グリシジルメタクリレートとポリエチレンとの共重合体等のエラストマー;フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0054】
層Aにおけるその他の添加剤の総含有量は、液晶ポリマーの含有量100質量部に対して、好ましくは25質量部以下であり、より好ましくは10質量部以下であり、更に好ましくは5質量部以下である。
【0055】
層Aの平均厚みは、特に制限はないが、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、5μm~90μmであることが好ましく、10μm~70μmであることがより好ましく、15μm~50μmであることが特に好ましい。
【0056】
本開示に係るポリマーフィルムにおける各層の平均厚みの測定方法は、以下の通りである。
ポリマーフィルムをミクロトームで切削し、断面を光学顕微鏡で観察して、各層の厚みを評価する。断面サンプルは3ヶ所以上切り出し、各断面において、3点以上厚みを測定し、それらの平均値を平均厚みとする。
ポリマーフィルムを、ポリマーフィルムの面方向に垂直な面で切断し、その断面において、5点以上厚みを測定し、それらの平均値を平均厚みとする。
【0057】
<層B>
本開示に係るポリマーフィルムは、層Aと、上記層Aの少なくとも一方の面に層Bとを有する。
また、層Bは、表面層(最外層)であることが好ましい。
更に、層Bは、金属箔との密着性の観点から、外部刺激により体積膨張可能な層であることが好ましい。
【0058】
層Bは、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、液晶ポリマーを含むことが好ましい。
層Bに用いられる液晶ポリマーの好ましい態様は、後述する以外、層Aに用いられる液晶ポリマーの好ましい態様と同様である。
層Bに含まれる液晶ポリマーは、層Aに含まれる液晶ポリマーと同じものであっても、異なるものであってもよいが、層Aに含まれる液晶ポリマーと同じものであることが好ましい。
【0059】
層Bにおける液晶ポリマーの含有量は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、層Aにおける液晶ポリマーの含有量よりも少ないことが好ましい。
また、層Bにおける液晶ポリマーの含有量は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、層Bの全質量に対し、10質量%~99.99質量%であることが好ましく、20質量%~99.9質量%であることがより好ましく、30質量%~95質量%であることが更に好ましく、30質量%~90質量%であることが特に好ましい。
【0060】
層Bは、金属箔との密着性の観点から、フィラーを含むことが好ましく、針状フィラー又は突起を有するフィラーを含むことがより好ましい。
層Bに用いられるフィラーの好ましい態様は、後述する以外、層Aに用いられるフィラーの好ましい態様と同様である。
針状フィラーとしては、無機針状フィラーが好ましく、無機酸化物の針状フィラーであることがより好ましい。
また、針状フィラーのアスペクト比としては、3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、5以上100以下であることが特に好ましい。
突起を有するフィラーとしては、突起を有する無機フィラーが好ましく、突起を有する無機酸化物フィラーがより好ましい。
また、突起を有するフィラーとしては、金平糖(star-shaped rock candy、Japanese confection having horned protrusions on the surface of a spherical shape)状フィラーがより好ましい。金平糖状フィラーとしては、例えば、特開2008-169102号公報に記載の金平糖状シリカゾルが好適に挙げられる。
針状フィラー及び突起を有するフィラーの平均粒径は、金属箔との密着性の観点から、5nm~20μmであることが好ましく、10nm~1μmであることがより好ましく、20nm~500nmであることが更に好ましく、25nm~90nmであることが特に好ましい。
【0061】
層Aがフィラーを含有する場合、層Bにおけるフィラーの含有量は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、層Aにおけるフィラーの含有量よりも少ないことが好ましい。
層Bがフィラーを含む場合、層Bにおけるフィラーの含有量は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、層Bの全質量に対し、1質量%~70質量%であることが好ましく、5質量%~60質量%であることがより好ましく、10質量%~55質量%であることが特に好ましい。
【0062】
層Bは、液晶ポリマー、発泡剤及びフィラー以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。
層Bに用いられるその他の添加剤の好ましい態様は、後述する以外、層Aに用いられるその他の添加剤の好ましい態様と同様である。
【0063】
層Bの平均厚みは、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、層Aの平均厚みよりも薄いことが好ましい。
層Aの平均厚みTAと層Bの平均厚みTBとの比であるTA/TBの値は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、1より大きいことが好ましく、1.5~100であることがより好ましく、2~10であることが更に好ましく、2~5であることが特に好ましい。
また、層Bの平均厚みは、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、3μm~40μmであることが好ましく、5μm~30μmであることがより好ましく、8μm~20μmであることが更に好ましく、10μm~15μmであることが特に好ましい。
また、層Bが外部刺激により体積膨張可能な層である場合、層Bの平均厚みは、後述する積層体における銅層(銅配線)の平均厚さよりも厚いことが好ましい。
【0064】
<層C>
本開示に係るポリマーフィルムは、層Cを更に有することが好ましく、上記層Bと、上記層Aと、上記層Cとをこの順で有することがより好ましい。
また、層Cは、表面層(最外層)であることが好ましい。
更に、層Cは、外部刺激により体積膨張可能な層であってもよい。
層Cは、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、液晶ポリマーを含むことが好ましい。
層Cに用いられる液晶ポリマーの好ましい態様は、後述する以外、層Aに用いられる液晶ポリマーの好ましい態様と同様である。
層Cに含まれる液晶ポリマーは、層A又は層Bに含まれる液晶ポリマーと同じものであっても、異なるものであってもよいが、層A及び層Bに含まれる液晶ポリマーと同じものであることが好ましい。
【0065】
層Cにおける液晶ポリマーの含有量は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、層Aにおける液晶ポリマーの含有量よりも少ないことが好ましい。
また、層Cにおける液晶ポリマーの含有量は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、層Cの全質量に対し、10質量%~99.99質量%であることが好ましく、20質量%~99.9質量%であることがより好ましく、30質量%~95質量%であることが更に好ましく、30質量%~90質量%であることが特に好ましい。
【0066】
層Cは、フィラーを含んでいてもよい。
層Cに用いられるフィラーの好ましい態様は、後述する以外、層Bに用いられるフィラーの好ましい態様と同様である。
【0067】
層Cは、液晶ポリマー及びフィラー以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。
層Cに用いられるその他の添加剤の好ましい態様は、層Aに用いられるその他の添加剤の好ましい態様と同様である。
【0068】
層Cの平均厚みは、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、層Aの平均厚みよりも薄いことが好ましい。
層Aの平均厚みTAと層Cの平均厚みTCとの比であるTA/TCの値は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、1より大きいことが好ましく、1.5~100であることがより好ましく、2~10であることが更に好ましく、2~5であることが特に好ましい。
また、層Cの平均厚みTCと層Bの平均厚みTBとの比であるTC/TBの値は、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、0.2~5であることが好ましく、0.5~2であることがより好ましく、0.8~1.2であることが特に好ましい。
更に、層Cの平均厚みは、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、3μm~40μmであることが好ましく、5μm~30μmであることがより好ましく、8μm~20μmであることが更に好ましく、10μm~15μmであることが特に好ましい。
また、層Cが外部刺激により体積膨張可能な層である場合、層Cの平均厚みは、後述する積層体においてC層側に配置される銅層(銅配線)の平均厚さよりも厚いことが好ましい。
【0069】
本開示に係るポリマーフィルムの平均厚みは、強度、熱膨張係数、及び、金属箔との密着性の観点から、6μm~200μmであることが好ましく、12μm~100μmであることがより好ましく、20μm~60μmであることが特に好ましい。
【0070】
ポリマーフィルムの平均厚みは、任意の5箇所について、接着式の膜厚計、例えば、電子マイクロメータ(製品名「KG3001A]、アンリツ社製)を用いて測定し、それらの平均値とする。
【0071】
本開示に係るポリマーフィルムの線膨張係数は、熱膨張係数の観点から、-20ppm/K~50ppm/Kであることが好ましく、-10ppm/K~40ppm/Kであることがより好ましく、0ppm/K~35ppm/Kであることが更に好ましく、10ppm/K~30ppm/Kであることが特に好ましい。
【0072】
本開示における線膨張係数の測定方法は、以下の方法により測定するものとする。
熱機械分析装置(TMA)を用いて、幅5mm、長さ20mmのポリマーフィルム又は各層の両端に1gの引張荷重をかけ、5℃/分の速度で25℃~200℃まで昇温した後、20℃/分の速度で30℃まで冷却し、再び5℃/分の速度で昇温したときの、30℃~150℃の間のTMA曲線の傾きから線膨張係数を算出する。
【0073】
<ポリマーフィルムの製造方法>
〔製膜〕
本開示に係るポリマーフィルムの製造方法は、特に制限はなく、公知の方法を参照することができる。
本開示に係るポリマーフィルムの製造方法としては、例えば、共流延法、重層塗布法、共押出法等が好適に挙げられる。中でも、比較的薄手の製膜には共流延法が特に好ましく、厚手の製膜には共押出法が特に好ましい。
共流延法及び重層塗布法により製造する場合、液晶ポリマー等の各層の成分をそれぞれ溶媒に溶解又は分散した層A形成用組成物、層B形成用組成物、層C形成用組成物等として、共流延法又は重層塗布法を行うことが好ましい。
【0074】
溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、1-クロロブタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p-クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド、テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;ヘキサメチルリン酸アミド、トリn-ブチルリン酸等のリン化合物等が挙げられ、それらを2種以上用いてもよい。
【0075】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、特に好ましくは90質量%~100質量%である。また、上記非プロトン性化合物としては、液晶ポリマーを溶解し易いことから、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチルピロリドン等のアミド又はγ-ブチロラクトン等のエステルを用いることが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びN-メチルピロリドンがより好ましい。
【0076】
また、溶媒としては、液晶ポリマーを溶解し易いことから、双極子モーメントが3~5である化合物を主成分とする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める双極子モーメントが3~5である化合物の割合は、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、特に好ましくは90質量%~100質量%である。
上記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3~5である化合物を用いることが好ましい。
【0077】
また、溶媒としては、除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましく、溶媒全体に占める1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは70質量%~100質量%、特に好ましくは90質量%~100質量%である。
上記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
【0078】
また、本開示に係るポリマーフィルムの製造方法は、上記共流延法、重層塗布法及び共押出法等により製造する場合、支持体を使用してもよい。また、後述する積層体に用いる金属層(金属箔)等を支持体として使用する場合、剥離せずそのまま使用してもよい。
支持体としては、例えば、金属ドラム、金属バンド、ガラス板、樹脂フィルム又は金属箔が挙げられる。中でも、金属ドラム、金属バンド、樹脂フィルムが好ましい。
樹脂フィルムとしては、例えばポリイミド(PI)フィルムを挙げることができ、市販品の例としては、宇部興産(株)製U-ピレックスS及びU-ピレックスR、東レデュポン(株)製カプトン、並びに、SKCコーロンPI社製IF30、IF70及びLV300等が挙げられる。
また、支持体は、容易に剥離できるように、表面に表面処理層が形成されていてもよい。表面処理層は、ハードクロムメッキ、フッ素樹脂等を用いることができる。
樹脂フィルム支持体の平均厚みは、特に制限はないが、好ましくは25μm以上75μm以下であり、より好ましくは50μm以上75μmである。
【0079】
また、流延、又は、塗布された膜状の組成物(流延膜又は塗膜)から溶媒の少なくとも一部を除去する方法としては、特に制限はなく、公知の乾燥方法を用いることができる。
【0080】
〔延伸〕
本開示に係る液晶ポリマーフィルムは、分子配向を制御し、線膨張係数や力学物性を調整する観点で、適宜、延伸を組み合わせることができる。延伸の方法は、特に制限はなく、公知の方法を参照することができ、溶媒を含んだ状態で実施してもよく、乾膜の状態で実施してもよい。溶媒を含んだ状態での延伸は、フィルムを把持して伸長してもよく、伸長せずに乾燥によるウェブの自己収縮力を利用して実施してもよく、それらの組み合わせでもよい。延伸は、無機フィラー等の添加によってフィルム脆性が低下した場合に、破断伸度や破断強度を改善する目的で特に有効である。
【0081】
<用途>
本開示に係るポリマーフィルムは、種々の用途に用いることができる、中でも、プリント配線板などの電子部品用フィルムに好適に用いることができ、フレキシブルプリント回路基板により好適に用いることができる。
また、本開示に係るポリマーフィルムは、金属接着用ポリマーフィルムとして好適に用いることができる。
【0082】
(積層体)
本開示に係る積層体は、本開示に係るポリマーフィルムが積層したものであればよいが、本開示に係るポリマーフィルムと、上記ポリマーフィルムにおける上記層B側の面に配置された金属層とを有することが好ましく、上記金属層が、銅層であることがより好ましい。
また、本開示に係る積層体は、層Bと、層Aと、層Cとをこの順で有する本開示に係るポリマーフィルムと、上記ポリマーフィルムの上記層B側の面に配置された金属層と、上記ポリマーフィルムの上記層C側の面に配置された金属層とを有することが好ましく、上記金属層がいずれも、銅層であることがより好ましい。
更に、上記層Bの平均厚みは、金属箔との密着性の観点から、上記金属層(好ましくは銅層)の平均厚みよりも大きいことが好ましい。
また、上記層Cの平均厚みは、金属箔との密着性の観点から、上記層C側の面に配置された上記金属層(好ましくは銅層)の平均厚みよりも大きいことが好ましい。
また、上記層B側の面に配置された金属層と上記層C側の面に配置された金属層とは、同じ材質、厚さ及び形状の金属層であっても、異なる材質、厚さ及び形状の金属層であってもよい。特性インピーダンス調整の観点からは、上記記層B側の面に配置された金属層と上記層C側の面に配置された金属層とは、異なる材質や厚みの金属層であってもよく、層B又は層Cのうち、片側だけに金属層が積層されていてもよい。
更に、特性インピーダンス調整の観点から、層B又は層Cのうち、一方の側に金属層が積層され、他方の側に他のポリマーフィルム(好ましくは他の液晶ポリマーフィルム)が積層される態様も好ましく挙げられる。
【0083】
上記層Bと上記銅層との剥離強度は、0.5kN/m以上であることが好ましく、0.7kN/m以上であることがより好ましく、0.7kN/m~2.0kN/mであることが更に好ましく、0.9kN/m~1.5kN/mであることが特に好ましい。
また、上記層Cと上記銅層との剥離強度は、0.5kN/m以上であることが好ましく、0.7kN/m以上であることがより好ましく、0.7kN/m~2.0kN/mであることが更に好ましく、0.9kN/m~1.5kN/mであることが特に好ましい。
【0084】
本開示において、ポリマーフィルムの層B又は層Cと金属層(例えば、銅層)との剥離強度は、以下の方法により測定するものとする。
ポリマーフィルムと金属層との積層体から1.0cm幅の剥離用試験片を作製し、ポリマーフィルムを両面接着テープで平板に固定し、JIS C 5016(1994)に準じて180°法により、50mm/分の速度でポリマーフィルムから金属層を剥離したときの強度(kN/m)を測定する。
【0085】
金属層は、銅層であることが好ましい。銅層としては、圧延法により形成された圧延銅箔、又は、電解法により形成された電解銅箔が好ましく、耐屈曲性の観点から、圧延銅箔であることがより好ましい。
【0086】
金属層、好ましくは銅層の平均厚みは、特に限定されないが、2μm~20μmであることが好ましく、3μm~18μmであることがより好ましく、5μm~12μmであることが更に好ましい。銅箔は、支持体(キャリア)上に剥離可能に形成されているキャリア付き銅箔であってもよい。キャリアとしては、公知のものを用いることができる。キャリアの平均厚みは、特に限定されないが、10μm~100μmであることが好ましく、18μm~50μmであることがより好ましい。
【0087】
本開示に係る積層体における金属層は、回路パターンを有する金属層であってもよい。
また、本開示に係る積層体における金属層を、例えば、エッチングにより所望の回路パターンに加工し、フレキシブルプリント回路基板とすることも好ましい。エッチング方法としては、特に制限はなく、公知のエッチング方法を用いることができる。
【実施例】
【0088】
以下に実施例を挙げて本開示を更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本開示の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。したがって、本開示の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0089】
<<測定法>>
〔膨張率〕
ポリマーフィルムをミクロトームで切削して切片サンプルを作製し、加熱ステージシステム(HS82、メトラー・トレド社製)を備えた光学顕微鏡を用いて、層A、及び、層Bの厚み変化をそれぞれ求めた。25℃での初期厚み(t25)、及び、10℃/分の速度で160℃まで昇温したときの厚み(t160)を評価し、初期厚みで除した値(t160/t25)を算出し、160℃での膨張率(単位:%)とした。300℃の場合も同様に求めた。
【0090】
〔熱膨張係数〕
フィルムをミクロトームで切削して切片サンプルを作製し、加熱ステージシステム(HS82、メトラー・トレド社製)を備えた光学顕微鏡にセットした。続いて、5℃/分の速度で25℃~200℃まで昇温した後、20℃/分の速度で30℃まで冷却し、再び5℃/分の速度で昇温したときの、30℃での層Bの厚み(ts30)、及び、150℃での層Bの厚み(ts150)を評価し、寸法変化を温度変化で除した値((ts150-ts30)/(150-30))を算出し、層Bの熱膨張係数(αs)とした。層Aについても同様に求めた。
【0091】
〔誘電正接〕
誘電率の測定は、周波数10GHzで共振摂動法により実施した。ネットワークアナライザ(Agilent Technology社製「E8363B」)に10GHzの空洞共振器((株)関東電子応用開発製CP531)を接続し、空洞共振器にポリマーフィルムのサンプル(幅:2.0mm×長さ:80mm)を挿入し、温度25℃、湿度60%RH環境下、96時間の挿入前後の共振周波数の変化からポリマーフィルムのサンプルの誘電率及び誘電正接を測定した。
【0092】
〔剥離強度〕
後述のフレキシブル配線基板から1.0cm幅の剥離用試験片を作製し、両面銅張積層板側を両面接着テープで平板に固定し、JIS C 5016(1994)に準じて180°法により、片面銅張積層板側を50mm/分の速度で剥離したときの強度(kN/m)を測定した。
【0093】
<<製造例>>
<液晶ポリマー>
LC-A:国際公開第2020/166644号の液晶ポリエステル(B)の製造例を参考に、熱処理条件を調整して得られた融点315℃の液晶ポリマー
【0094】
<添加剤>
A-1:下記の混合物からなる発泡剤。A-1は、表1に記載の質量比率になるように添加した。
・炭酸水素ナトリウム:5質量部
・クエン酸ナトリウム:5質量部
・タルク:1質量部
【0095】
A-2:下記の混合物からなる発泡剤。A-2は、表1に記載の質量比率になるように添加した。
・炭酸水素ナトリウム:5質量部
・クエン酸ナトリウム:5質量部
・タルク:1質量部
・下記作製方法に従って作製した金平糖状シリカゾル(平均粒径35.8nm):989質量部
【0096】
B-1:市販の平均粒径5μmのシリコーンゴムパウダー(KMP-597、信越化学工業(株)製)
【0097】
B-2:下記の混合物からなる添加剤。B-2は、表1に記載の質量比率になるように添加した。
・市販の平均粒径5μmのシリコーンゴムパウダー(KMP-597、信越化学工業(株)製):40質量部
・下記作製方法に従って作製した金平糖状シリカゾル(平均粒径35.8nm):10質量部
【0098】
-金平糖状シリカゾルの作製方法-
シリカゾル(触媒化成工業(株)製:カタロイドSI-40、平均粒子径21.2nm、SiO2濃度40.7質量%)102.4gに水を加えて、4,170g(SiO2濃度1質量%)とし、更にシリカゾルのpHが11となるように濃度5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加した。次いで、シリカゾルの温度を80℃に昇温し、30分間80℃に維持して核粒子分散液(A液)とした。
【0099】
水硝子(AGCエスアイテック(株)製:JIS3号水硝子、SiO2濃度24質量%)575gを水2,185gで希釈して、珪酸アルカリ水溶液(B液)2,760gを調製した。また、電解質としての硫酸アンモニウム(三菱化学(株)製)98.0gに水2352gを加えて、電解質水溶液2,450gを調製した。そして、温度を80℃に維持した上記核粒子分散液(A液)全量に対して、上記珪酸アルカリ水溶液(B液)及び上記電解質水溶液を、それぞれ80℃にて1時間かけて全量添加することにより粒子成長を行った。
次いで、80℃で1時間熟成を行った後、粒子成長した核粒子分散液のpHが10.8になるまで限外濾過膜により洗浄を行った。次いで、濃縮してSiO2濃度20質量%の金平糖状シリカゾルを得た。
【0100】
<製膜>
下記の共流延に準じて製膜を行った。
【0101】
〔共流延(溶液製膜)〕
-ポリマー溶液の調製-
表1に記載の液晶ポリマーをN-メチルピロリドンに加え、窒素雰囲気下、140℃4時間撹拌して溶液化した後、最初に、公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルターを通過させ、次いで同じく公称孔径10μmの焼結繊維フィルターを通過させた。続けて、表1に記載の添加剤を加え、25℃30分撹拌して、ポリマー溶液を得た。固形分濃度は、層A用の溶液は23質量%、層B用の溶液は20質量%とした。
【0102】
-ポリマーフィルム、及び、片面銅張積層板の作製-
得られた層A用ポリマー溶液及び層B用ポリマー溶液を、2層構成(層A/層B)の共流延用に調整したフィードブロックを装備した流延ダイに送液し、低粗度銅箔(福田金属箔粉工業(株)製、CF-T4X-SV-12、厚み12μm)の処理面上に層Aが接するようにして流延した。40℃にて4時間乾燥することにより、流延膜から溶媒を除去し、ポリマーフィルム付きの片面銅張積層板を得た。
【0103】
<両面銅張積層板の作製>
-銅張積層板前駆体工程-
比較例1の片面銅張積層板に対し、低粗度銅箔(福田金属箔粉工業(株)製、CF-T4X-SV-12、厚み12μm)の処理面側がポリマーフィルムに接するように載せ、ラミネータ(ニッコー・マテリアルズ社製「真空ラミネータV-130」)を使用して、140℃及びラミネート圧0.4MPaの条件で1分間のラミネート処理を行い、両面銅箔積層板の前駆体を得た。
【0104】
-本熱圧着工程-
熱圧着機((株)東洋精機製作所製「MP-SNL」)を用いて、得られた銅張積層板前駆体を300℃4.5MPaの条件で10分間熱圧着することにより、両面銅張積層板を作製した。
【0105】
<フレキシブル配線基板の作製>
得られた片面銅張積層板、及び、両面銅張積層板を用い、外層プレーン(グランド層)の4層ストリップライン構造を有するフレキシブル配線基板を作製した。
【0106】
-配線基材の形成工程-
公知のフォトファブリケーション手法により、上記両面銅張積層板の片面について、金属箔をパターニングし、ライン・アンド・スペース(L/S)が300μm/300μmの縞状模様である信号線を含む配線基材(金属箔部分とポリマーフィルム部分とを表面に有する。)を作製した。
【0107】
-積層工程-
上記配線基材、及び、上記片面銅張積層板を用い、片面銅張積層板のポリマーフィルム側が配線基材の信号線側に接するように、片面銅張積層板/配線基材の層構成で載せ、真空プレス装置を使用して300℃で積層し、フレキシブル配線基板を作製した。
【0108】
<<評価>>
作製したポリマーフィルムについて、上述の方法で評価を行い、結果を表1に記載した。なお、誘電正接及び熱膨張係数の測定については、片面銅張積層板をそのまま使用して測定した。
また、作製したフレキシブル配線基板の剥離強度は、上記配線基材から、縞模様と直交する方向に1.0cm幅のサンプルを切出し、評価した。剥離強度の下限値は、配線基材のポリマーフィルム部分に起因すると推定している。
【0109】
【0110】
表1に記載の結果から、本開示に係るポリマーフィルムである実施例1~4のポリマーフィルムは、比較例1のポリマーフィルムよりも、他のポリマーフィルム及び金属箔との密着性に優れる。なお、比較例1のポリマーフィルムでは、剥離強度に分布ができ、フィルム同士が接触した部分の剥離強度が低い結果であった。
また、表1に記載の結果から、本開示に係るポリマーフィルムである実施例1~4のポリマーフィルムは、誘電正接も低い。