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特許7618020レーザ装置、レーザ光のスペクトルの評価方法、及び電子デバイスの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-09
(45)【発行日】2025-01-20
(54)【発明の名称】レーザ装置、レーザ光のスペクトルの評価方法、及び電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/137 20060101AFI20250110BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20250110BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20250110BHJP
【FI】
H01S3/137
G03F7/20 501
G03F7/20 521
H01S3/00 G
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023514200
(86)(22)【出願日】2021-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2021015233
(87)【国際公開番号】W WO2022219689
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2024-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】300073919
【氏名又は名称】ギガフォトン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105212
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 延寿
(72)【発明者】
【氏名】古巻 貴光
(72)【発明者】
【氏名】大賀 敏浩
【審査官】佐藤 美紗子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/098625(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/111315(WO,A1)
【文献】特表2007-536498(JP,A)
【文献】特開2006-024855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/137
G03F 7/20
H01S 3/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光装置に接続可能なレーザ装置であって、
前記レーザ装置から出力されるレーザ光の干渉パターンから計測波形を生成する分光器と、
プロセッサであって、
前記計測波形を用いて波長と光強度との関係を示す第1のスペクトル波形を算出し、
前記第1のスペクトル波形の波長域に含まれる代表波長を算出し、
前記代表波長からの波長偏差の関数と前記光強度との積を前記波長域に関して積分して得られた第1の積分値を用いて前記第1のスペクトル波形の評価値を算出するように構成された前記プロセッサと、
を備えるレーザ装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記プロセッサは、
前記計測波形をスペクトル空間にマッピングして第2のスペクトル波形を生成し、
前記第2のスペクトル波形を前記分光器の装置関数で逆畳み込み積分することにより前記第1のスペクトル波形を算出する、
レーザ装置。
【請求項3】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記代表波長は前記第1のスペクトル波形の重心波長である、
レーザ装置。
【請求項4】
請求項3記載のレーザ装置であって、
前記プロセッサは、前記波長と前記光強度との積を前記波長域に関して積分して得られた第2の積分値を、前記光強度を前記波長域に関して積分して得られた第3の積分値で除算することにより、前記重心波長を算出する、
レーザ装置。
【請求項5】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記関数は、べき指数を正数とする前記波長偏差の絶対値のべき乗である、
レーザ装置。
【請求項6】
請求項5記載のレーザ装置であって、
前記べき指数は、1.9以上、2.1以下である、
レーザ装置。
【請求項7】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記プロセッサは、前記第1の積分値を、前記光強度を前記波長域に関して積分して得られた第3の積分値で除算することにより、前記評価値を算出する、
レーザ装置。
【請求項8】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記プロセッサは、前記第1の積分値を、前記光強度を前記波長域に関して積分して得られた第3の積分値と前記波長域に含まれる前記波長の関数との積で除算することにより、前記評価値を算出する、
レーザ装置。
【請求項9】
請求項1記載のレーザ装置であって、
前記分光器に入射する前記レーザ光のスペクトル波形を調整するスペクトル波形調整器をさらに備え、
前記プロセッサは、前記評価値と目標評価値との比較結果を用いて前記スペクトル波形調整器を制御する、
レーザ装置。
【請求項10】
請求項9記載のレーザ装置であって、
前記スペクトル波形調整器は、前記レーザ光のスペクトル線幅を調整するように構成され、
前記プロセッサは、前記評価値が前記目標評価値より大きい場合に前記スペクトル線幅を小さくするように前記スペクトル波形調整器を制御し、前記評価値が前記目標評価値より小さい場合に前記スペクトル線幅を大きくするように前記スペクトル波形調整器を制御する、
レーザ装置。
【請求項11】
露光装置に接続可能なレーザ装置から出力されるレーザ光の干渉パターンから計測波形を生成し、
前記計測波形を用いて波長と光強度との関係を示す第1のスペクトル波形を算出し、
前記第1のスペクトル波形の波長域に含まれる代表波長を算出し、
前記代表波長からの波長偏差の関数と前記光強度との積を前記波長域に関して積分して得られた第1の積分値を用いて前記第1のスペクトル波形の評価値を算出する
ことを含む、レーザ光のスペクトルの評価方法。
【請求項12】
請求項11記載の評価方法であって、
前記計測波形をスペクトル空間にマッピングして第2のスペクトル波形を生成し、
前記第2のスペクトル波形を前記計測波形を生成した分光器の装置関数で逆畳み込み積分することにより前記第1のスペクトル波形を算出する、
評価方法。
【請求項13】
請求項11記載の評価方法であって、
前記代表波長は前記第1のスペクトル波形の重心波長である、
評価方法。
【請求項14】
請求項13記載の評価方法であって、
前記波長と前記光強度との積を前記波長域に関して積分して得られた第2の積分値を、前記光強度を前記波長域に関して積分して得られた第3の積分値で除算することにより、前記重心波長を算出する、
評価方法。
【請求項15】
請求項11記載の評価方法であって、
前記関数は、べき指数を正数とする前記波長偏差の絶対値のべき乗である、
評価方法。
【請求項16】
請求項15記載の評価方法であって、
前記べき指数は、1.9以上、2.1以下である、
評価方法。
【請求項17】
請求項11記載の評価方法であって、
前記第1の積分値を、前記光強度を前記波長域に関して積分して得られた第3の積分値で除算することにより、前記評価値を算出する、
評価方法。
【請求項18】
請求項11記載の評価方法であって、
前記第1の積分値を、前記光強度を前記波長域に関して積分して得られた第3の積分値と前記波長域に含まれる前記波長の関数との積で除算することにより、前記評価値を算出する、
評価方法。
【請求項19】
請求項11記載の評価方法であって、
前記評価値と目標評価値との比較結果を用いて前記レーザ光のスペクトル波形を調整する、
評価方法。
【請求項20】
電子デバイスの製造方法であって、
露光装置に接続可能なレーザ装置から出力されるレーザ光の干渉パターンから計測波形を生成する分光器と、
プロセッサであって、
前記計測波形を用いて波長と光強度との関係を示す第1のスペクトル波形を算出し、
前記第1のスペクトル波形の波長域に含まれる代表波長を算出し、
前記代表波長からの波長偏差の関数と前記光強度との積を前記波長域に関して積分して得られた第1の積分値を用いて前記第1のスペクトル波形の評価値を算出するように構成された前記プロセッサと、
を備える前記レーザ装置によって前記レーザ光を生成し、
前記レーザ光を前記露光装置に出力し、
前記電子デバイスを製造するために、前記露光装置内で感光基板上に前記レーザ光を露光する
ことを含む電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ装置、レーザ光のスペクトルの評価方法、及び電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体露光装置においては、半導体集積回路の微細化及び高集積化につれて、解像力の向上が要請されている。このため、露光用光源から放出される光の短波長化が進められている。たとえば、露光用のガスレーザ装置としては、波長約248nmのレーザ光を出力するKrFエキシマレーザ装置、ならびに波長約193nmのレーザ光を出力するArFエキシマレーザ装置が用いられる。
【0003】
KrFエキシマレーザ装置及びArFエキシマレーザ装置の自然発振光のスペクトル線幅は、350~400pmと広い。そのため、KrF及びArFレーザ光のような紫外線を透過させる材料で投影レンズを構成すると、色収差が発生してしまう場合がある。その結果、解像力が低下し得る。そこで、ガスレーザ装置から出力されるレーザ光のスペクトル線幅を、色収差が無視できる程度となるまで狭帯域化する必要がある。そのため、ガスレーザ装置のレーザ共振器内には、スペクトル線幅を狭帯域化するために、狭帯域化素子(エタロンやグレーティング等)を含む狭帯域化モジュール(Line Narrow Module:LNM)が備えられる場合がある。以下では、スペクトル線幅が狭帯域化されるガスレーザ装置を狭帯域化ガスレーザ装置という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2011/200922号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/057144号明細書
【概要】
【0005】
本開示の1つの観点に係るレーザ装置は、露光装置に接続可能なレーザ装置であって、レーザ装置から出力されるレーザ光の干渉パターンから計測波形を生成する分光器と、プロセッサであって、計測波形を用いて波長と光強度との関係を示す第1のスペクトル波形を算出し、第1のスペクトル波形の波長域に含まれる代表波長を算出し、代表波長からの波長偏差の関数と光強度との積を波長域に関して積分して得られた第1の積分値を用いて第1のスペクトル波形の評価値を算出するように構成されたプロセッサと、を備える。
【0006】
本開示の1つの観点に係るレーザ光のスペクトルの評価方法は、露光装置に接続可能なレーザ装置から出力されるレーザ光の干渉パターンから計測波形を生成し、計測波形を用いて波長と光強度との関係を示す第1のスペクトル波形を算出し、第1のスペクトル波形の波長域に含まれる代表波長を算出し、代表波長からの波長偏差の関数と光強度との積を波長域に関して積分して得られた第1の積分値を用いて第1のスペクトル波形の評価値を算出することを含む。
【0007】
本開示の1つの観点に係る電子デバイスの製造方法は、露光装置に接続可能なレーザ装置から出力されるレーザ光の干渉パターンから計測波形を生成する分光器と、プロセッサであって、計測波形を用いて波長と光強度との関係を示す第1のスペクトル波形を算出し、第1のスペクトル波形の波長域に含まれる代表波長を算出し、代表波長からの波長偏差の関数と光強度との積を波長域に関して積分して得られた第1の積分値を用いて第1のスペクトル波形の評価値を算出するように構成されたプロセッサと、を備えるレーザ装置によってレーザ光を生成し、レーザ光を露光装置に出力し、電子デバイスを製造するために、露光装置内で感光基板上にレーザ光を露光することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本開示のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。
図1図1は、比較例における露光システムの構成を概略的に示す。
図2図2は、比較例に係るレーザ装置の構成を模式的に示す。
図3図3は、比較例におけるスペクトル計測制御プロセッサの機能を説明するブロック図である。
図4図4は、比較例におけるスペクトル線幅E95の計測の手順を示すフローチャートである。
図5図5は、レーザ光の推定スペクトル波形I(λ)の例を示すグラフである。
図6図6は、レーザ光のスペクトル波形の他の例を示すグラフである。
図7図7は、図6に示されるスペクトル波形#1で示されるレーザ光の露光装置におけるフォーカス位置の分布を示すグラフである。
図8図8は、図6に示されるスペクトル波形#2で示されるレーザ光の露光装置におけるフォーカス位置の分布を示すグラフである。
図9図9は、図6に示されるスペクトル波形#3で示されるレーザ光の露光装置におけるフォーカス位置の分布を示すグラフである。
図10図10は、レーザ光のスペクトル波形のさらに他の例を示すグラフである。
図11図11は、レーザ光のスペクトル波形のさらに他の例を示すグラフである。
図12図12は、結像性能の評価に用いられた長方形の結像パターンを示す。
図13図13は、露光装置における結像性能のシミュレーション結果を示すグラフである。
図14図14は、露光装置における結像性能のシミュレーション結果を示すグラフである。
図15図15は、本開示の実施形態に係るレーザ装置の構成を模式的に示す。
図16図16は、実施形態におけるスペクトル評価値Vの計測の手順を示すフローチャートである。
図17図17は、スペクトル評価値V及びスペクトル線幅E95の有用性の比較に用いられた結像パターンを示す。
図18図18は、図17の結像パターンにおけるスペクトル線幅E95とΔCDとの関係を示すグラフである。
図19図19は、図17の結像パターンにおけるスペクトル評価値VとΔCDとの関係を示すグラフである。
図20図20は、スペクトル評価値V及びスペクトル線幅E95の有用性の比較に用いられた別の結像パターンを示す。
図21図21は、図20の結像パターンにおけるスペクトル線幅E95とΔCDとの関係を示すグラフである。
図22図22は、図20の結像パターンにおけるスペクトル評価値VとΔCDとの関係を示すグラフである。
図23図23は、図17の結像パターンにおける式4のスペクトル評価値VとΔCDとの関係を示すグラフである。
図24図24は、図20の結像パターンにおける式4のスペクトル評価値VとΔCDとの関係を示すグラフである。
図25図25は、実施形態におけるスペクトル制御の手順を示すフローチャートである。
図26図26は、スペクトル波形調整器の変形例の構成を概略的に示す。
図27図27は、スペクトル波形調整器の変形例の構成を概略的に示す。
【実施形態】
【0009】
<内容>
1.比較例
1.1 露光装置100の構成
1.2 露光装置100の動作
1.3 レーザ装置1の構成
1.3.1 レーザ発振器20
1.3.2 モニタモジュール16
1.3.3 各種処理装置
1.4 動作
1.4.1 レーザ制御プロセッサ30
1.4.2 レーザ発振器20
1.4.3 モニタモジュール16
1.4.4 波長計測制御部50
1.4.5 スペクトル計測制御プロセッサ60
1.5 比較例の課題
2.推定スペクトル波形I(λ)と波長偏差の関数(λ-λc)との積を積分してスペクトル評価値Vを算出するレーザ装置1a
2.1 構成
2.2 スペクトル評価値Vの計測動作
2.3 スペクトル線幅E95との比較
2.4 スペクトル評価値Vの変形例
2.5 スペクトル制御の動作
2.6 スペクトル波形調整器の変形例
2.6.1 構成
2.6.2 動作
2.6.3 他の構成例
2.7 作用
3.その他
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。以下に説明される実施形態は、本開示のいくつかの例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
1.比較例
図1は、比較例における露光システムの構成を概略的に示す。本開示の比較例とは、出願人のみによって知られていると出願人が認識している形態であって、出願人が自認している公知例ではない。
【0012】
露光システムは、レーザ装置1と、露光装置100と、を含む。レーザ装置1は、レーザ制御プロセッサ30を含む。レーザ制御プロセッサ30は、制御プログラムが記憶されたメモリ132と、制御プログラムを実行するCPU(central processing unit)131と、を含む処理装置である。レーザ制御プロセッサ30は本開示に含まれる各種処理を実行するために特別に構成又はプログラムされている。レーザ装置1は、レーザ光を露光装置100に向けて出力するように構成されている。
【0013】
1.1 露光装置100の構成
露光装置100は、照明光学系101と、投影光学系102と、露光制御プロセッサ110と、を含む。
照明光学系101は、レーザ装置1から入射したレーザ光によって、レチクルステージRT上に配置された図示しないレチクルのレチクルパターンを照明する。
投影光学系102は、レチクルを透過したレーザ光を、縮小投影してワークピーステーブルWT上に配置された図示しないワークピースに結像させる。ワークピースはレジスト膜が塗布された半導体ウエハ等の感光基板である。
【0014】
露光制御プロセッサ110は、制御プログラムが記憶されたメモリ112と、制御プログラムを実行するCPU111と、を含む処理装置である。露光制御プロセッサ110は本開示に含まれる各種処理を実行するために特別に構成又はプログラムされている。露光制御プロセッサ110は、露光装置100の制御を統括するとともに、レーザ制御プロセッサ30との間で各種データ及び各種信号を送受信する。
【0015】
1.2 露光装置100の動作
露光制御プロセッサ110は、波長の目標値のデータ、パルスエネルギーの目標値のデータ、及びトリガ信号をレーザ制御プロセッサ30に送信する。レーザ制御プロセッサ30は、これらのデータ及び信号に従ってレーザ装置1を制御する。
露光制御プロセッサ110は、レチクルステージRTとワークピーステーブルWTとを同期して互いに逆方向に平行移動させる。これにより、レチクルパターンを反映したレーザ光でワークピースが露光される。
このような露光工程によって半導体ウエハにレチクルパターンが転写される。その後、複数の工程を経ることで電子デバイスを製造することができる。
【0016】
1.3 レーザ装置1の構成
図2は、比較例に係るレーザ装置1の構成を模式的に示す。レーザ装置1は、レーザ発振器20と、電源12と、モニタモジュール16と、レーザ制御プロセッサ30と、波長計測制御部50と、スペクトル計測制御プロセッサ60と、を含む。レーザ装置1は露光装置100に接続可能とされている。
【0017】
1.3.1 レーザ発振器20
レーザ発振器20は、レーザチャンバ10と、放電電極11aと、狭帯域化モジュール14と、スペクトル波形調整器15aと、を含む。
狭帯域化モジュール14とスペクトル波形調整器15aとが、レーザ共振器を構成する。レーザチャンバ10は、レーザ共振器の光路に配置されている。レーザチャンバ10の両端にはウインドウ10a及び10bが設けられている。レーザチャンバ10の内部に、放電電極11a及びこれと対をなす図示しない放電電極が配置されている。図示しない放電電極は、紙面に垂直なV軸の方向において放電電極11aと重なるように位置している。レーザチャンバ10には、例えばレアガスとしてアルゴンガス又はクリプトンガス、ハロゲンガスとしてフッ素ガス、バッファガスとしてネオンガス等を含むレーザガスが封入される。
【0018】
電源12は、スイッチ13を含むとともに、放電電極11aと図示しない充電器とに接続されている。
【0019】
狭帯域化モジュール14は、複数のプリズム14a及び14bとグレーティング14cとを含む。プリズム14bは、回転ステージ14eに支持されている。回転ステージ14eは、波長ドライバ51から出力される駆動信号に従ってプリズム14bをV軸に平行な軸周りに回転させるように構成されている。プリズム14bを回転させることにより狭帯域化モジュール14の選択波長が変化する。
【0020】
スペクトル波形調整器15aは、シリンドリカル平凸レンズ15bと、シリンドリカル平凹レンズ15cと、リニアステージ15dと、を含む。レーザチャンバ10とシリンドリカル平凸レンズ15bとの間に、シリンドリカル平凹レンズ15cが位置する。
シリンドリカル平凸レンズ15b及びシリンドリカル平凹レンズ15cは、シリンドリカル平凸レンズ15bの凸面とシリンドリカル平凹レンズ15cの凹面とが向かい合うように配置されている。シリンドリカル平凸レンズ15bの凸面とシリンドリカル平凹レンズ15cの凹面はそれぞれV軸の方向に平行な焦点軸を有する。シリンドリカル平凸レンズ15bの凸面の反対側に位置する平らな面は、部分反射膜でコーティングされている。
【0021】
1.3.2 モニタモジュール16
モニタモジュール16は、スペクトル波形調整器15aと露光装置100との間のレーザ光の光路に配置されている。モニタモジュール16は、ビームスプリッタ16a、16b、及び17aと、エネルギーセンサ16cと、高反射ミラー17bと、波長検出器18と、分光器19と、を含む。
【0022】
ビームスプリッタ16aは、スペクトル波形調整器15aから出力されたレーザ光の光路に位置する。ビームスプリッタ16aは、スペクトル波形調整器15aから出力されたレーザ光の一部を露光装置100に向けて高い透過率で透過させるとともに、他の一部を反射するように構成されている。ビームスプリッタ16bは、ビームスプリッタ16aによって反射されたレーザ光の光路に位置する。エネルギーセンサ16cは、ビームスプリッタ16bによって反射されたレーザ光の光路に位置する。
【0023】
ビームスプリッタ17aは、ビームスプリッタ16bを透過したレーザ光の光路に位置する。高反射ミラー17bは、ビームスプリッタ17aによって反射されたレーザ光の光路に位置する。
【0024】
波長検出器18は、ビームスプリッタ17aを透過したレーザ光の光路に配置されている。波長検出器18は、拡散プレート18aと、エタロン18bと、集光レンズ18cと、ラインセンサ18dと、を含む。
【0025】
拡散プレート18aは、ビームスプリッタ17aを透過したレーザ光の光路に位置する。拡散プレート18aは、表面に多数の凹凸を有し、レーザ光を透過させるとともに拡散させるように構成されている。
エタロン18bは、拡散プレート18aを透過したレーザ光の光路に位置する。エタロン18bは、2枚の部分反射ミラーを含む。2枚の部分反射ミラーは、所定距離のエアギャップを有して対向し、スペーサを介して貼り合わせられている。
【0026】
集光レンズ18cは、エタロン18bを透過したレーザ光の光路に位置する。
ラインセンサ18dは、集光レンズ18cを透過したレーザ光の光路であって、集光レンズ18cの焦点面に位置する。ラインセンサ18dは、一次元に配列された多数の受光素子を含む光分布センサである。あるいは、ラインセンサ18dの代わりに、二次元に配列された多数の受光素子を含むイメージセンサが光分布センサとして用いられてもよい。ラインセンサ18dは、図示しないプロセッサを備えてもよい。
【0027】
ラインセンサ18dは、エタロン18b及び集光レンズ18cによって形成される干渉縞を受光する。干渉縞はレーザ光の干渉パターンであって、同心円状の形状を有し、この同心円の中心からの距離の2乗は波長の変化に比例する。図示しないプロセッサは、干渉パターンを反映したデータを統計処理して出力するよう構成されてもよい。
【0028】
分光器19は、高反射ミラー17bによって反射されたレーザ光の光路に配置されている。分光器19は、拡散プレート19aと、エタロン19bと、集光レンズ19cと、ラインセンサ19dと、を含む。ラインセンサ19dは、図示しないプロセッサを備えてもよい。これらの構成は、波長検出器18に含まれる拡散プレート18a、エタロン18b、集光レンズ18c、及びラインセンサ18dとそれぞれ同様である。但し、エタロン19bはエタロン18bよりも小さいフリースペクトラルレンジを有する。また、集光レンズ19cは集光レンズ18cよりも長い焦点距離を有する。
【0029】
1.3.3 各種処理装置
スペクトル計測制御プロセッサ60は、制御プログラムが記憶されたメモリ61と、制御プログラムを実行するCPU62と、カウンタ63と、を含む処理装置である。スペクトル計測制御プロセッサ60は本開示に含まれる各種処理を実行するために特別に構成又はプログラムされている。スペクトル計測制御プロセッサ60は本開示におけるプロセッサに相当する。
【0030】
メモリ61は、スペクトル線幅を算出するための各種データも記憶している。各種データは分光器19の装置関数S(λ)を含む。カウンタ63は、エネルギーセンサ16cから出力されるパルスエネルギーのデータを含む電気信号の受信回数をカウントすることにより、レーザ光のパルス数をカウントする。あるいは、カウンタ63は、レーザ制御プロセッサ30から出力される発振トリガ信号をカウントすることにより、レーザ光のパルス数をカウントしてもよい。
【0031】
波長計測制御部50は、制御プログラムが記憶された図示しないメモリと、制御プログラムを実行する図示しないCPUと、図示しないカウンタと、を含む処理装置である。波長計測制御部50に含まれるカウンタも、カウンタ63と同様に、レーザ光のパルス数をカウントする。
【0032】
本開示では、レーザ制御プロセッサ30と、波長計測制御部50と、スペクトル計測制御プロセッサ60と、を別々の構成要素として説明しているが、レーザ制御プロセッサ30が波長計測制御部50及びスペクトル計測制御プロセッサ60を兼ねていてもよい。
【0033】
1.4 動作
1.4.1 レーザ制御プロセッサ30
レーザ制御プロセッサ30は、レーザ光の目標パルスエネルギー及び目標波長の設定データを露光装置100に含まれる露光制御プロセッサ110から受信する。
レーザ制御プロセッサ30は、露光制御プロセッサ110からトリガ信号を受信する。
【0034】
レーザ制御プロセッサ30は、目標パルスエネルギーに基づいて、放電電極11aに印加される印加電圧の設定データを電源12に送信する。レーザ制御プロセッサ30は、目標波長の設定データを波長計測制御部50に送信する。また、レーザ制御プロセッサ30は、トリガ信号に基づく発振トリガ信号を電源12に含まれるスイッチ13に送信する。
【0035】
1.4.2 レーザ発振器20
スイッチ13は、レーザ制御プロセッサ30から発振トリガ信号を受信するとオン状態となる。電源12は、スイッチ13がオン状態となると、図示しない充電器に充電された電気エネルギーからパルス状の高電圧を生成し、この高電圧を放電電極11aに印加する。
【0036】
放電電極11aに高電圧が印加されると、レーザチャンバ10の内部に放電が起こる。この放電のエネルギーにより、レーザチャンバ10の内部のレーザ媒質が励起されて高エネルギー準位に移行する。励起されたレーザ媒質が、その後低エネルギー準位に移行するとき、そのエネルギー準位差に応じた波長の光を放出する。
【0037】
レーザチャンバ10の内部で発生した光は、ウインドウ10a及び10bを介してレーザチャンバ10の外部に出射する。レーザチャンバ10のウインドウ10aから出射した光は、プリズム14a及び14bによってビーム幅を拡大させられて、グレーティング14cに入射する。
プリズム14a及び14bからグレーティング14cに入射した光は、グレーティング14cの複数の溝によって反射されるとともに、光の波長に応じた方向に回折させられる。
【0038】
プリズム14a及び14bは、グレーティング14cからの回折光のビーム幅を縮小させるとともに、その光を、ウインドウ10aを介してレーザチャンバ10に戻す。
スペクトル波形調整器15aは、レーザチャンバ10のウインドウ10bから出射した光のうちの一部を透過させて出力し、他の一部を反射してウインドウ10bを介してレーザチャンバ10の内部に戻す。
【0039】
このようにして、レーザチャンバ10から出射した光は、狭帯域化モジュール14とスペクトル波形調整器15aとの間で往復し、レーザチャンバ10の内部の放電空間を通過する度に増幅される。この光は、狭帯域化モジュール14で折り返される度に狭帯域化される。こうしてレーザ発振し狭帯域化された光が、スペクトル波形調整器15aからレーザ光として出力される。
【0040】
スペクトル波形調整器15aに含まれるリニアステージ15dは、スペクトルドライバ64から出力される駆動信号に従って、レーザチャンバ10とシリンドリカル平凸レンズ15bとの間の光路に沿ってシリンドリカル平凹レンズ15cを移動させる。これにより、スペクトル波形調整器15aから狭帯域化モジュール14へ向かう光の波面が変化する。波面が変化することにより、レーザ光のスペクトル波形及びスペクトル線幅が変化する。
【0041】
1.4.3 モニタモジュール16
エネルギーセンサ16cは、レーザ光のパルスエネルギーを検出し、パルスエネルギーのデータをレーザ制御プロセッサ30、波長計測制御部50、及びスペクトル計測制御プロセッサ60に出力する。パルスエネルギーのデータは、レーザ制御プロセッサ30が放電電極11aに印加される印加電圧の設定データをフィードバック制御するのに用いられる。また、パルスエネルギーのデータを含む電気信号は、波長計測制御部50及びスペクトル計測制御プロセッサ60がそれぞれパルス数をカウントするのに用いることができる。
【0042】
波長検出器18は、ラインセンサ18dに含まれる受光素子の各々における光量から干渉縞の波形データを生成する。波長検出器18は、受光素子の各々における光量を積算した積算波形を干渉縞の波形データとしてもよい。波長検出器18は、積算波形を複数回生成し、複数個の積算波形を平均した平均波形を干渉縞の波形データとしてもよい。
波長検出器18は、波長計測制御部50から出力されるデータ出力トリガに従って、干渉縞の波形データを波長計測制御部50に送信する。
【0043】
分光器19は、干渉縞を受光したラインセンサ19dに含まれる受光素子の各々における光量を反映した生波形を生成する。あるいは、分光器19は、生波形をNiパルスにわたって積算した積算波形Oiを生成する。分光器19は、積算波形OiをNa回生成し、Na個の積算波形Oiを平均した平均波形Oaを生成する。積算パルス数Niは例えば5パルス以上8パルス以下であり、平均化回数Naは例えば5回以上8回以下である。
【0044】
積算パルス数Niと平均化回数Naのカウントはスペクトル計測制御プロセッサ60が行い、分光器19はスペクトル計測制御プロセッサ60から出力されるトリガ信号に従って積算波形Oi及び平均波形Oaを生成してもよい。スペクトル計測制御プロセッサ60のメモリ61が、積算パルス数Ni及び平均化回数Naの設定データを記憶していてもよい。生波形、積算波形Oi、及び平均波形Oaの少なくとも1つが、本開示における計測波形に相当する。
【0045】
分光器19は、平均波形Oaからフリースペクトラルレンジに相当する一部分の波形を抽出する。抽出された一部分の波形は、干渉縞を構成する同心円の中心からの距離と光強度との関係を示している。分光器19は、この波形を波長と光強度との関係に座標変換することにより、計測スペクトル波形O(λ)を取得する。平均波形Oaの一部を波長と光強度との関係に座標変換することをスペクトル空間へのマッピングともいう。計測スペクトル波形O(λ)は本開示における第2のスペクトル波形に相当する。
【0046】
分光器19は、スペクトル計測制御プロセッサ60から出力されるデータ出力トリガに従って、計測スペクトル波形O(λ)をスペクトル計測制御プロセッサ60に送信する。
積算波形Oiの算出処理、平均波形Oaの算出処理、及びスペクトル空間へのマッピングにより計測スペクトル波形O(λ)を取得する処理のいずれか又はすべてを、分光器19が行うのではなくスペクトル計測制御プロセッサ60が行ってもよい。平均波形Oaを生成する処理と計測スペクトル波形O(λ)を取得する処理との両方を、分光器19が行うのではなくスペクトル計測制御プロセッサ60が行ってもよい。
【0047】
1.4.4 波長計測制御部50
波長計測制御部50は、目標波長の設定データをレーザ制御プロセッサ30から受信する。また、波長計測制御部50は、波長検出器18から出力される干渉縞の波形データを用いてレーザ光の中心波長を算出する。波長計測制御部50は、目標波長と算出された中心波長とに基づいて波長ドライバ51に制御信号を出力することにより、レーザ光の中心波長をフィードバック制御する。
【0048】
1.4.5 スペクトル計測制御プロセッサ60
スペクトル計測制御プロセッサ60は、分光器19から計測スペクトル波形O(λ)を受信する。あるいはスペクトル計測制御プロセッサ60は、分光器19から生波形を受信して、生波形を積算及び平均化し、スペクトル空間へのマッピングを行い、計測スペクトル波形O(λ)を取得してもよい。あるいは、スペクトル計測制御プロセッサ60は、分光器19から積算波形Oiを受信し、積算波形Oiを平均化してスペクトル空間へのマッピングを行い、計測スペクトル波形O(λ)を取得してもよい。あるいは、スペクトル計測制御プロセッサ60は、分光器19から平均波形Oaを受信し、平均波形Oaをスペクトル空間へマッピングして、計測スペクトル波形O(λ)を取得してもよい。
スペクトル計測制御プロセッサ60は、計測スペクトル波形O(λ)から以下のようにして推定スペクトル波形I(λ)を算出する。
【0049】
図3は、比較例におけるスペクトル計測制御プロセッサ60の機能を説明するブロック図である。
分光器19は、装置固有の計測特性を有しており、その計測特性は波長λの関数として装置関数S(λ)で表される。ここで、未知のスペクトル波形T(λ)を有するレーザ光が装置関数S(λ)を有する分光器19に入射して計測された場合の計測スペクトル波形O(λ)は、以下の式1のように未知のスペクトル波形T(λ)と装置関数S(λ)との畳み込み積分で表される。
【数1】
すなわち、畳み込み積分とは、2つの関数の合成積を意味する。
畳み込み積分は記号*を用いて以下のように表すことができる。
O(λ)=T(λ)*S(λ)
【0050】
計測スペクトル波形O(λ)のフーリエ変換F(O(λ))は、以下のように2つの関数T(λ)及びS(λ)それぞれのフーリエ変換F(T(λ))及びF(S(λ))の積に等しい。
F(O(λ))=F(T(λ))×F(S(λ))
これを畳み込みの定理という。
【0051】
スペクトル計測制御プロセッサ60は、分光器19の装置関数S(λ)を予め測定し、メモリ61に保持している。装置関数S(λ)を測定するには、レーザ装置1から出力されるレーザ光の中心波長とほぼ同じ波長を有し、かつ、ほぼδ関数とみなすことのできる狭いスペクトル線幅を有するコヒーレント光を、分光器19に入射させる。分光器19によるコヒーレント光の計測スペクトル波形を装置関数S(λ)とすることができる。
【0052】
スペクトル計測制御プロセッサ60に含まれるCPU62は、レーザ光の計測スペクトル波形O(λ)を分光器19の装置関数S(λ)により逆畳み込み積分する。逆畳み込み積分とは、畳み込み積分の式を満たす未知の関数を推定する演算処理を意味する。逆畳み込み積分によって得られる波形を推定スペクトル波形I(λ)とする。推定スペクトル波形I(λ)は本開示における第1のスペクトル波形に相当し、推定された未知のスペクトル波形T(λ)の波長と光強度との関係を示す。推定スペクトル波形I(λ)は逆畳み込み積分を表す記号*-1を用いて以下のように表される。
I(λ)=O(λ)*-1S(λ)
【0053】
逆畳み込み積分は、理論上は以下のように算出することができる。まず、畳み込みの定理から以下の式が導かれる。
F(I(λ))=F(O(λ))/F(S(λ))
この式の両辺をフーリエ逆変換することにより、逆畳み込み積分の算出結果が得られる。すなわち、フーリエ逆変換の記号をF-1とすると推定スペクトル波形I(λ)は以下のように表される。
I(λ)=F-1(F(O(λ))/F(S(λ)))
【0054】
但し、実際の数値計算においては、フーリエ変換及びフーリエ逆変換を用いた逆畳み込み積分は、計測データに含まれるノイズ成分の影響を受けやすい。このためヤコビ法(Jacobi Method)、ガウス・ザイデル法(Gauss-Seidel Method)等の、ノイズ成分の影響を抑制し得る反復法を用いて逆畳み込み積分を算出することが望ましい。
【0055】
図4は、比較例におけるスペクトル線幅E95の計測の手順を示すフローチャートである。スペクトル計測制御プロセッサ60は、以下のようにしてレーザ光の干渉パターンから積算波形Oi及び平均波形Oaを生成し、推定スペクトル波形I(λ)及びスペクトル線幅E95を算出する。スペクトル線幅E95の定義については図5を参照しながら後述する。
【0056】
S331において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、メモリ61から積算パルス数Ni及び平均化回数Naを読み込む。
S332において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、ラインセンサ19dに含まれる受光素子の各々における光量を反映した生波形を受信し、Niパルスにわたって積算することにより、積算波形Oiを生成する。
S333において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、積算波形OiをNa回生成し、Na個の積算波形Oiを平均した平均波形Oaを生成する。
S334において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、平均波形Oaをスペクトル空間にマッピングすることにより、計測スペクトル波形O(λ)を生成する。
【0057】
S335において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、メモリ61から分光器19の装置関数S(λ)を読み込む。
S336において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、計測スペクトル波形O(λ)を装置関数S(λ)により逆畳み込み積分することにより、推定スペクトル波形I(λ)を算出する。
S337において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、推定スペクトル波形I(λ)からスペクトル線幅E95を算出する。算出されるスペクトル線幅はE95でなくてもよく、半値全幅でもよい。
S337の後、スペクトル計測制御プロセッサ60は、本フローチャートの処理を終了する。
【0058】
スペクトル計測制御プロセッサ60は、スペクトル線幅E95の目標値を、露光制御プロセッサ110からレーザ制御プロセッサ30を介して受信する。スペクトル計測制御プロセッサ60は、スペクトル線幅E95の目標値と算出されたスペクトル線幅E95とに基づいてスペクトルドライバ64に制御信号を送信してスペクトル波形調整器15aを制御することにより、スペクトル線幅E95をフィードバック制御する。
【0059】
図5は、レーザ光の推定スペクトル波形I(λ)の例を示すグラフである。図5の横軸は中心波長からの波長偏差Δλを示す。推定スペクトル波形I(λ)は、推定スペクトル波形I(λ)の波長域に含まれる波長成分ごとの光強度を示す波形である。推定スペクトル波形I(λ)をある波長範囲で積分して得られた値を、その波長範囲におけるスペクトルエネルギーという。推定スペクトル波形I(λ)の波長域全体のスペクトルエネルギーのうちの95%を占める部分の全幅をスペクトル線幅E95という。図5には、スペクトル線幅E95が0.3pmであるレーザ光の推定スペクトル波形I(λ)が示されている。
レーザ光の波長に応じてレンズの表面での屈折角が異なるため、スペクトル波形が異なると露光装置100における露光性能が異なってくる。スペクトル線幅E95を目標値に基づいて制御することで、露光性能を安定化し得る。
【0060】
1.5 比較例の課題
図6は、レーザ光のスペクトル波形の他の例を示すグラフである。図6の横軸は中心波長からの波長偏差Δλを示す。図6に示されるスペクトル波形#1~#3のスペクトル線幅E95はいずれも0.3pmであるが、これらのスペクトル波形#1~#3は互いに形状が異なる。スペクトル波形#1は中心波長とピーク波長とが一致するスペクトル分布である。スペクトル波形#2は中心波長よりも長波長側にピーク波長がずれた非対称なスペクトル分布である。ここでいう中心波長は、例えば、ピーク強度の1/e以上の光強度を有する波長幅の中心である。スペクトル波形#3は対称形であるがピーク波長が2つに分離したスペクトル分布である。
【0061】
図7図9は、図6に示されるスペクトル波形#1~#3で示されるレーザ光の露光装置100におけるフォーカス位置の分布を示すグラフである。図7図9の各々において、縦軸は図1に示されるZ軸に沿ったフォーカス位置を示し、横軸は各フォーカス位置にフォーカスする波長成分の光強度を示す。露光装置100の投影光学系102の縦色収差を250nm/pmとする。すなわち、波長差1pmあたりのフォーカス位置の差を250nmとする。
【0062】
図7図9に示されるフォーカス位置の分布形状は、ほぼそのまま図6に示されるスペクトル波形#1~#3の形状に対応している。図7においてはZ=0の位置にフォーカスする波長成分が最も多い分布形状となる。図8においては、Z=0よりも+方向側の位置にフォーカス重心が位置する非対称の分布形状となる。図9においてはフォーカスする波長成分のピークが2箇所の位置に分離した分布形状となる。
このようにスペクトル線幅E95が同一であっても、露光装置100におけるフォーカス位置の分布形状が異なり、露光性能が異なる場合がある。
【0063】
図10及び図11は、レーザ光のスペクトル波形のさらに他の例を示すグラフである。図10及び図11の各々において、横軸は中心波長からの波長偏差Δλを示す。図10に示されるスペクトル波形#4~#6及び図11に示されるスペクトル波形#7~#9のスペクトル線幅E95はいずれも0.3pmであるが、これらのスペクトル波形#4~#9は互いに形状が異なる。スペクトル波形#4~#6は中心波長よりも長波長側にピーク波長がずれた非対称なスペクトル分布を有し、中心波長とピーク波長との差が互いに異なる。スペクトル波形#7~#9は対称形であるが、スペクトル波形#7はガウス分布状のスペクトル波形#1(図6参照)と比べてピーク付近における曲線が緩やかである。スペクトル波形#8及び#9はピーク波長が2つに分離したスペクトル分布を有し、中心波長とピーク波長との差が互いに異なる。
【0064】
スペクトル波形#4~#9を用いて露光装置100における結像性能を以下のように評価した。
図12は、結像性能の評価に用いられた長方形の結像パターンを示す。ガウス分布状のスペクトル波形#1を用いた場合に、ウエハ面に横寸法38nm、縦寸法76nmの長方形の結像パターンが投影光学系102によって形成されるように設計されたマスクを用いた。投影光学系102の縦色収差を250nm/pmとした。スペクトル波形#4~#9を用いた場合に、ウエハ面における結像パターンの横寸法が38nmとなるように露光量が調整された場合の、縦寸法の76nmからのずれΔCDをシミュレーションによって求めた。
【0065】
図13及び図14は、露光装置100における結像性能のシミュレーション結果を示すグラフである。図13図10に示されるスペクトル波形#4~#6を用いた場合を示し、図14図11に示されるスペクトル波形#7~#9を用いた場合を示す。
図13に示されるように、中心波長とピーク波長との差が大きくなり、非対称性が大きくなるほど、ウエハ面における寸法誤差が大きくなり得る。また図14に示されるように、対称形のスペクトル分布であっても、ガウス分布との違いが大きくなるほど、ウエハ面における寸法誤差が大きくなり得る。
【0066】
このように、スペクトル線幅E95が同じであっても露光装置100における結像性能が異なる場合があり、スペクトル線幅E95を目標値に合わせるだけでは、求められる露光性能を得られないことがあり得る。
【0067】
以下に説明する実施形態においては、スペクトル線幅だけでなく、スペクトル波形の形状を考慮した波形評価をすることで、求められる露光性能を得るためのスペクトル制御を可能としている。
【0068】
2.推定スペクトル波形I(λ)と波長偏差の関数(λ-λc)との積を積分してスペクトル評価値Vを算出するレーザ装置1a
2.1 構成
図15は、本開示の実施形態に係るレーザ装置1aの構成を模式的に示す。レーザ装置1aにおいて、スペクトル計測制御プロセッサ60に含まれるメモリ61は、スペクトル評価値算出プログラム611を記憶している。
【0069】
CPU62がスペクトル評価値算出プログラム611を実行することで、スペクトル計測制御プロセッサ60は以下の計算を行う。
【0070】
スペクトル計測制御プロセッサ60は、推定スペクトル波形I(λ)の重心波長λcを以下の式2により算出する。
【数2】
式2の分子は、推定スペクトル波形I(λ)で示される光強度と波長λとの積を推定スペクトル波形I(λ)の波長域に関して積分して得られた値であり、本開示における第2の積分値に相当する。式2の分母は、推定スペクトル波形I(λ)で示される光強度を推定スペクトル波形I(λ)の波長域に関して積分して得られた値であり、本開示における第3の積分値に相当する。重心波長λcは本開示における代表波長の一例である。
【0071】
スペクトル計測制御プロセッサ60は、推定スペクトル波形I(λ)のスペクトル評価値Vを以下の式3により算出する。
【数3】
【0072】
式3の分子は、推定スペクトル波形I(λ)で示される光強度と重心波長λcからの波長偏差の関数(λ-λc)との積を推定スペクトル波形I(λ)の波長域に関して積分して得られた値であり、本開示における第1の積分値に相当する。スペクトル評価値Vは本開示における評価値に相当する。
【0073】
式3の分母は、定数λsと第3の積分値との積である。定数λsは、以下の(1)~(4)のいずれでもよい。
(1)1
(2)重心波長λc
(3)推定スペクトル波形I(λ)のスペクトル線幅E95
(4)推定スペクトル波形I(λ)と同じスペクトル線幅E95を有するガウス分布形状のスペクトル波形の標準偏差
【0074】
上記(1)のように定数λsを1とした場合には、スペクトル評価値Vが波長λの2乗の次元となるのに対し、上記(2)~(4)のように波長λの関数から得られる定数λsで除算することにより、スペクトル評価値Vを波長λの次元とすることができる。
【0075】
2.2 スペクトル評価値Vの計測動作
図16は、実施形態におけるスペクトル評価値Vの計測の手順を示すフローチャートである。図16のS331~S336の処理は、図4において対応する処理と同様である。S336の後、スペクトル計測制御プロセッサ60はS338に処理を進める。
S338において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、推定スペクトル波形I(λ)の重心波長λcを式2により算出する。
S339において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、推定スペクトル波形I(λ)のスペクトル評価値Vを式3により算出する。
S339の後、スペクトル計測制御プロセッサ60は、本フローチャートの処理を終了する。
【0076】
2.3 スペクトル線幅E95との比較
次に、スペクトル評価値V及びこれを用いた評価方法の有用性について、スペクトル線幅E95と比較しながら説明する。以下に説明するように、スペクトル評価値Vは様々な結像パターンの形状に適用できる。
【0077】
図17は、スペクトル評価値V及びスペクトル線幅E95の有用性の比較に用いられた結像パターンを示す。図17に示される結像パターンは、複数の露光領域が密集したDENCEパターンと、他の露光領域から離れた位置にあるISOパターンとの2種類のパターンを含む。DENCEパターンの寸法が45nmとなるように露光量が調整された場合の、ISOパターンの基準寸法からのずれをΔCDとする。ISOパターンの基準寸法は、スペクトル線幅E95を0.01pmとした場合のISOパターンの寸法である。
【0078】
図18は、図17の結像パターンにおけるスペクトル線幅E95とΔCDとの関係を示すグラフであり、図19は、図17の結像パターンにおけるスペクトル評価値VとΔCDとの関係を示すグラフである。図18及び図19の各々について、図10及び図11に例示されたスペクトル波形を含む多数のバリエーションを用いてシミュレーションを行い、ΔCDをプロットした。
【0079】
図18においては、スペクトル線幅E95の変化に対するΔCDの変化の割合に2通りの傾向が認められる。このため、スペクトル線幅E95を測定しても、ウエハ面における結像性能を正確に知ることができない場合がある。
図19においては、スペクトル評価値VとΔCDとの関係がほぼ1本の直線状となっている。このため、スペクトル評価値Vを測定することで、ウエハ面における結像性能を知ることができる。スペクトル評価値Vを一定の目標評価値に制御することで、求められる結像性能を達成し得る。
【0080】
図20は、スペクトル評価値V及びスペクトル線幅E95の有用性の比較に用いられた別の結像パターンを示す。図20に示される結像パターンは、配線を模したLINEパターンと、隣の配線との間隙を模したSPACEパターンとの2種類のパターンを含む。LINEパターンの寸法が100nmとなるように露光量が調整された場合の、SPACEパターンの基準寸法からのずれをΔCDとする。
【0081】
図21は、図20の結像パターンにおけるスペクトル線幅E95とΔCDとの関係を示すグラフであり、図22は、図20の結像パターンにおけるスペクトル評価値VとΔCDとの関係を示すグラフである。図21及び図22の各々について、図10及び図11に例示されたスペクトル波形を含む多数のバリエーションを用いてシミュレーションを行い、ΔCDをプロットした。
【0082】
図21においては、スペクトル線幅E95の変化に対するΔCDの変化の割合に2通りの傾向が認められる。このため、スペクトル線幅E95を測定しても、ウエハ面における結像性能を正確に知ることができない場合がある。
図22においては、スペクトル評価値VとΔCDとの関係がほぼ1本の直線状となっている。このため、スペクトル評価値Vを測定することで、ウエハ面における結像性能を知ることができる。スペクトル評価値Vを一定の目標評価値に制御することで、求められる結像性能を達成し得る。
【0083】
2.4 スペクトル評価値Vの変形例
式3においては、重心波長λcからの波長偏差λ-λcの2乗(λ-λc)が用いられているが、本開示はこれに限定されない。スペクトル評価値Vは以下の式4により算出されてもよい。
【数4】
【0084】
式4は、式3において波長偏差λ-λcを2乗した代わりに、波長偏差λ-λcの絶対値をN乗した点で式3と異なる。べき指数Nは正数である。べき指数Nの値を2とした場合の式4は、λsを1とした場合の式3と等価である。
【0085】
図23は、図17の結像パターンにおける式4のスペクトル評価値VとΔCDとの関係を示すグラフである。図24は、図20の結像パターンにおける式4のスペクトル評価値VとΔCDとの関係を示すグラフである。図23及び図24においては、式4におけるべき指数Nの値を1、2、及び3とした場合のシミュレーション結果がそれぞれの回帰直線とともに示されている。べき指数Nの値を1、2、及び3とした場合のいずれにおいてもスペクトル評価値VとΔCDとの間に相関が認められる。このようなスペクトル評価値Vを測定することで、ウエハ面における結像性能を知ることができる。
【0086】
回帰直線の当てはまりの良さを示す決定係数は、図23及び図24のいずれにおいてもべき指数Nの値が2である場合に最も高い。べき指数Nの値は1.9以上、2.1以下とすることが好ましい。
【0087】
2.5 スペクトル制御の動作
図25は、実施形態におけるスペクトル制御の手順を示すフローチャートである。スペクトル計測制御プロセッサ60は、以下のようにしてスペクトル評価値Vと目標評価値Vtとを用いてスペクトル波形調整器15aを制御する。
【0088】
S31において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、目標評価値Vtを設定する。例えば、スペクトル計測制御プロセッサ60は、露光装置100の光学的特性のデータを露光装置100から受信し、この光学的特性から算出された目標評価値Vtを設定する。
【0089】
S32において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、レーザ制御プロセッサ30から発振トリガ信号が出力されたか否かを判定する。
発振トリガ信号が出力されていない場合(S32:NO)、スペクトル計測制御プロセッサ60は発振トリガ信号が出力されるまで待機する。
発振トリガ信号が出力された場合(S32:YES)、レーザ発振器20からレーザ光が出力される。スペクトル計測制御プロセッサ60は、S33に処理を進める。
【0090】
S33において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、レーザ発振器20から出力されたレーザ光を用いてスペクトル評価値Vを計測する。S33の処理は、図16を参照しながら説明した手順で行われる。
【0091】
S34において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、スペクトル評価値Vと目標評価値Vtとを比較し、スペクトル評価値Vが許容範囲内か否かを判定する。例えば、スペクトル評価値Vと目標評価値Vtとの差の絶対値が許容誤差Veより小さいか否かを判定する。
【0092】
S34においてスペクトル評価値Vが許容範囲内ではない場合(S34:NO)、スペクトル計測制御プロセッサ60は、S35に処理を進める。
S35において、スペクトル計測制御プロセッサ60は、制御信号を送信してスペクトルドライバ64を駆動することによりスペクトル波形調整器15aを制御する。例えば、スペクトル評価値Vが目標評価値Vtよりも大きい場合にはスペクトル線幅を小さくするようにスペクトル波形調整器15aを制御し、スペクトル評価値Vが目標評価値Vtよりも小さい場合にはスペクトル線幅を大きくするようにスペクトル波形調整器15aを制御する。
S35の後、スペクトル計測制御プロセッサ60は、S32に処理を戻す。
【0093】
S34においてスペクトル評価値Vが許容範囲内である場合(S34:YES)、スペクトル計測制御プロセッサ60は、本フローチャートの処理を終了する。その後、レーザ装置1aはスペクトル波形調整器15aの設定を固定したままレーザ光の出力を続ける。あるいは、スペクトル計測制御プロセッサ60は、S32に処理を戻し、レーザ光の出力を続けながらスペクトル評価値Vの計測と判定を繰り返し行ってもよい。
【0094】
2.6 スペクトル波形調整器の変形例
2.6.1 構成
図26及び図27は、スペクトル波形調整器の変形例の構成を概略的に示す。この変形例においては狭帯域化装置141がスペクトル波形調整器を構成する。図26は、-V方向に見た狭帯域化装置141を示し、図27は、-H方向に見た狭帯域化装置141を示す。
【0095】
狭帯域化装置141は、グレーティング14c(図2参照)の代わりにグレーティングシステム14hを含む。グレーティングシステム14hは、グレーティング14i及び14jを含む。
グレーティング14i及び14jは、V軸の方向において互いに異なる位置に配置されている。グレーティング14i及び14jの各々の溝の方向は、V軸の方向に一致している。
【0096】
グレーティング14i及び14jは、ホルダ14kによって支持されている。但し、グレーティング14iは一定の姿勢を維持するように支持されているのに対し、グレーティング14jは、回転機構14mにより、V軸に平行な軸周りに回転可能となっている。
【0097】
狭帯域化装置141は、プリズム14bとグレーティングシステム14hとの間にビーム分離光学系14nを含む。ビーム分離光学系14nは、平行平面基板14oを含む。
【0098】
平行平面基板14oは、プリズム14bを通過した光ビームの光路の断面の一部と重なるように配置されている。平行平面基板14oは、プリズム14bとグレーティング14jとの間の光ビームの光路に配置される。平行平面基板14oは、ホルダ14pによって支持されている。平行平面基板14oは、リニアステージ14qによって、V軸に平行な方向に移動できるように構成されている。
【0099】
平行平面基板14oは、プリズム14bを通過した光ビームの一部が入射する入射表面14rと、入射表面14rを通って平行平面基板14oに入射した光が平行平面基板14oの内部からグレーティング14jに向けて出射する出射表面14sと、を含む。入射表面14rと出射表面14sとは、いずれもH軸に平行であり、入射表面14rと出射表面14sとは、互いに平行である。入射表面14r及び出射表面14sは、光ビームを屈折させるように光ビームの入射方向に対して傾いている。具体的には、入射表面14rの法線ベクトル14vが、VZ面に平行であり、さらにこの法線ベクトル14vが-V方向及び+Z方向の方向成分を有している。
平行平面基板14oは、光ビームの第1の部分B1に面した端面14tをさらに含む。端面14tは、出射表面14sと鋭角をなす。端面14tは、HZ面と平行でもよい。
【0100】
プリズム14aはホルダ14fに支持されている。プリズム14bはホルダ14gに支持されている。あるいは、プリズム14bは、図2と同様にホルダ14gを介さずに回転ステージ14eに直接支持されてもよい。
【0101】
2.6.2 動作
プリズム14bを通過した光ビームのうちの第1の部分B1は、平行平面基板14oの外側を通過してグレーティング14iに入射する。光ビームの第2の部分B2は、平行平面基板14oの内部を透過してグレーティング14jに入射する。このとき、平行平面基板14oは、光ビームの第2の部分B2の光路軸を第1の部分B1の光路軸に対して+V方向にシフトさせる。光路軸とは光路の中心軸をいう。このように、平行平面基板14oは、光ビームの一部を透過させることにより、光ビームの第1の部分B1から第2の部分B2を分離させる。
【0102】
グレーティング14i及び14jに入射した光は、グレーティング14i及び14jの各々の複数の溝によって反射されるとともに、光の波長に応じた方向に回折させられる。これにより、グレーティング14i及び14jの各々の複数の溝によって反射された光はHZ面に平行な面内で分散させられる。グレーティング14iは、プリズム14bからグレーティング14iに入射する光ビームの入射角と、所望の第1の波長の回折光の回折角と、が一致するようにリトロー配置とされる。グレーティング14jは、プリズム14bからグレーティング14jに入射する光ビームの入射角と、所望の第2の波長の回折光の回折角と、が一致するようにリトロー配置とされる。プリズム14bからグレーティング14i及び14jに入射する光ビームの入射角が互いに異なる場合、グレーティング14iからプリズム14bに戻される回折光の第1の波長と、グレーティング14jからプリズム14bに戻される回折光の第2の波長との間に波長差が生じる。
【0103】
図26及び図27において、光ビームを示す破線矢印はプリズム14aからグレーティング14i及び14jに向かう方向のみを示しているが、狭帯域化装置141による選択波長の光ビームは、これらの破線矢印と逆の経路でグレーティング14i及び14jからプリズム14aへ向かう。
【0104】
プリズム14a及び14bは、グレーティング14i及び14jから戻された光のビーム幅をHZ面に平行な面内で縮小させるとともに、その光を、ウインドウ10a(図2及び図15参照)を介してレーザチャンバ10内に戻す。
【0105】
回転ステージ14eがプリズム14bを僅かに回転させると、プリズム14bからグレーティング14i及び14jに向けて出射する光ビームの進行方向がHZ面に平行な面内で僅かに変化する。これにより、プリズム14bからグレーティング14i及び14jに入射する光ビームの入射角が僅かに変化する。よって、第1の波長と第2の波長との両方が変化する。
回転機構14mがグレーティング14jを僅かに回転させると、プリズム14bからグレーティング14iに入射する光ビームの入射角は変化しないが、プリズム14bからグレーティング14jに入射する光ビームの入射角が僅かに変化する。よって、第1の波長と第2の波長との波長差が変化する。
【0106】
以上の構成及び動作により、レーザチャンバ10のウインドウ10aから出射した光ビームのうちの第1の波長と第2の波長とが選択されて、レーザチャンバ10内に戻される。これにより、レーザ装置1aは、2つのピーク波長を含むレーザ光を出力することができる。回転ステージ14e及び回転機構14mを制御することにより、第1の波長と第2の波長とを別々に設定することもできる。
【0107】
また、リニアステージ14qがV軸の方向における平行平面基板14oの位置を変化させることにより、第1の部分B1と第2の部分B2とのエネルギー比率が変化する。
平行平面基板14oを-V方向に移動させることにより、光ビームのうちの平行平面基板14oに入射する第2の部分B2を多くすると、グレーティング14jに入射する光が多くなる。従って、レーザ光に含まれる第2の波長成分のエネルギーが大きくなる。
平行平面基板14oを+V方向に移動させることにより、光ビームのうちの平行平面基板14oに入射する第2の部分B2を少なくすると、グレーティング14jに入射する光が少なくなる。従って、レーザ光に含まれる第2の波長成分のエネルギーが小さくなる。
【0108】
これによれば、図11に例示された2つのピーク波長を含むレーザ光や、図10に例示された非対称のスペクトル波形を有するレーザ光を出力し、レーザ光のスペクトル波形を制御することができる。
【0109】
2.6.3 他の構成例
図26及び図27を参照しながら説明した構成の代わりに、以下の(1)又は(2)の構成が採用されてもよい。
【0110】
(1)グレーティング14c(図2参照)をV方向に互いに異なる位置に配置されたグレーティング14i及び14jに置き換える代わりに、プリズム14bを、V方向に互いに異なる位置に配置された図示しない第1プリズム及び第2プリズムに置き換えてもよい。第1プリズム及び第2プリズムをV軸に平行な軸周りにそれぞれ回転可能とすることにより、第1の波長及び第2の波長を個別に制御し得る。第1プリズム及び第2プリズムを一体としてV軸に平行な方向に移動可能とすることにより、第1の波長成分と第2の波長成分とのエネルギー比率を制御し得る。
【0111】
(2)グレーティング14c(図2参照)をV方向に互いに異なる位置に配置されたグレーティング14i及び14jに置き換える代わりに、プリズム14bとグレーティング14cとの間に、図示しない第1ミラー及び第2ミラーをV方向に互いに異なる位置に配置してもよい。第1ミラー及び第2ミラーをV軸に平行な軸周りにそれぞれ回転可能とすることにより、第1の波長及び第2の波長を個別に制御し得る。第1ミラー及び第2ミラーを一体としてV軸に平行な方向に移動可能とすることにより、第1の波長成分と第2の波長成分とのエネルギー比率を制御し得る。
【0112】
2.7 作用
(1)本開示の実施形態によれば、露光装置100に接続可能なレーザ装置1aは、レーザ装置1aから出力されるレーザ光の干渉パターンから平均波形Oaを取得する分光器19と、スペクトル計測制御プロセッサ60と、を備える。スペクトル計測制御プロセッサ60は、平均波形Oaを用いて波長λと光強度との関係を示す推定スペクトル波形I(λ)を算出し、推定スペクトル波形I(λ)の波長域に含まれる代表波長を算出し、代表波長からの波長偏差λ-λcの関数と推定スペクトル波形I(λ)で示される光強度との積を波長域に関して積分して得られた第1の積分値を用いてスペクトル評価値Vを算出するように構成されている。
これによれば、ガウス分布状のスペクトル波形と異なるスペクトル波形を有するレーザ光であっても露光装置100における露光性能を適切に評価することができる。また、スペクトル評価値Vは様々な結像パターンの形状に適用できる。このため、求められる露光性能を実現するためのスペクトル制御を適切に行うことができる。
【0113】
(2)実施形態によれば、スペクトル計測制御プロセッサ60は、平均波形Oaをスペクトル空間にマッピングして計測スペクトル波形O(λ)を生成し、計測スペクトル波形O(λ)を分光器19の装置関数S(λ)で逆畳み込み積分することにより推定スペクトル波形I(λ)を算出する。
これによれば、分光器19の装置関数S(λ)の影響を取り除いて、露光装置100における露光性能を適切に評価することができる。
【0114】
(3)実施形態によれば、代表波長は推定スペクトル波形I(λ)の重心波長λcである。
これによれば、中心波長と重心波長λcとが異なる非対称なスペクトル波形であっても、露光装置100における露光性能を適切に評価することができる。
【0115】
(4)実施形態によれば、スペクトル計測制御プロセッサ60は、波長λと推定スペクトル波形I(λ)で示される光強度との積を波長域に関して積分して得られた第2の積分値を、推定スペクトル波形I(λ)で示される光強度を波長域に関して積分して得られた第3の積分値で除算することにより、重心波長λcを算出する。
これによれば、中心波長と重心波長λcとが異なる非対称なスペクトル波形や、複数のピークを有するスペクトル波形であっても、露光装置100における露光性能を適切に評価することができる。
【0116】
(5)実施形態によれば、波長偏差λ-λcの関数は、べき指数Nを正数とする波長偏差λ-λcの絶対値|λ-λc|のべき乗である。
これによれば、スペクトル評価値Vを用いて露光装置100における露光性能を適切に評価し得る。
【0117】
(6)実施形態によれば、べき指数Nは、1.9以上、2.1以下である。
これによれば、スペクトル評価値Vを用いて露光装置100における露光性能をより適切に評価し得る。
【0118】
(7)実施形態によれば、スペクトル計測制御プロセッサ60は、第1の積分値を第3の積分値で除算することにより、スペクトル評価値Vを算出する。
これによれば、第3の積分値で除算することで、光量に関わらずスペクトル波形に応じた露光性能の評価を行うことができる。
【0119】
(8)実施形態によれば、スペクトル計測制御プロセッサ60は、第1の積分値を第3の積分値と波長域に含まれる波長λの関数から得られる定数λsとの積で除算することにより、スペクトル評価値Vを算出する。
これによれば、スペクトル評価値Vに含まれる波長λの次元を下げて、露光性能を適切に評価し得る。
【0120】
(9)実施形態によれば、分光器19に入射するレーザ光のスペクトル波形を調整するスペクトル波形調整器15aをさらに備える。スペクトル計測制御プロセッサ60は、スペクトル評価値Vと目標評価値Vtとの比較結果を用いてスペクトル波形調整器15aを制御する。
これによれば、スペクトル評価値Vと目標評価値Vtとを用いた制御により、求められる露光性能を実現することができる。
【0121】
(10)実施形態によれば、スペクトル波形調整器15aは、レーザ光のスペクトル線幅を調整するように構成される。スペクトル計測制御プロセッサ60は、スペクトル評価値Vが目標評価値Vtより大きい場合にスペクトル線幅を小さくするようにスペクトル波形調整器15aを制御し、スペクトル評価値Vが目標評価値Vtより小さい場合にスペクトル線幅を大きくするようにスペクトル波形調整器15aを制御する。
これによれば、スペクトル線幅を小さくすることによりスペクトル評価値Vを小さくすることができ、スペクトル線幅を大きくすることによりスペクトル評価値Vを大きくすることができる。
【0122】
3.その他
上述の説明は、制限ではなく単なる例示を意図している。従って、特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかである。また、本開示の実施形態を組み合わせて使用することも当業者には明らかである。
【0123】
本明細書及び特許請求の範囲全体で使用される用語は、明記が無い限り「限定的でない」用語と解釈されるべきである。たとえば、「含む」、「有する」、「備える」、「具備する」などの用語は、「記載されたもの以外の構成要素の存在を除外しない」と解釈されるべきである。また、修飾語「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。また、「A、B及びCの少なくとも1つ」という用語は、「A」「B」「C」「A+B」「A+C」「B+C」又は「A+B+C」と解釈されるべきである。さらに、それらと「A」「B」「C」以外のものとの組み合わせも含むと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
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