(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】ポリシロキサン、接着剤、ポリシロキサンの製造方法、及び接着剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/388 20060101AFI20250114BHJP
C09J 183/08 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
C08G77/388
C09J183/08
(21)【出願番号】P 2023513055
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2022017342
(87)【国際公開番号】W WO2022215746
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2021066515
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】金子 芳郎
(72)【発明者】
【氏名】中川 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】小材 利之
(72)【発明者】
【氏名】明田 隆
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-176953(JP,A)
【文献】特開2021-187966(JP,A)
【文献】特開2021-091820(JP,A)
【文献】特開2015-182978(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0134930(KR,A)
【文献】HEO, J. et al.,Improved Performance of Protected Catecholic Polysiloxanes for Bioinspired Wet Adhesion to Surface O,J. Am. Chem. Soc.,米国,2012年12月26日,Vol.134, No.49,p.20139-20145,https://doi.org/10.1021/ja309044z,p.20140-p.20141, Scheme 1, Figure 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
C08G77/00-77/62
JSTPlus/JST7580 (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテコール基を含む置換基を有するオルガノシロキサン単位よりなる接着性モノマー単位と、
カテコール基を含まないオルガノシロキサン単位よりなる柔軟性モノマー単位と、
のコポリマーである、ポリシロキサンであって、
前記接着性モノマー単位と前記柔軟性モノマー単位とのいずれもがD単位であり、
前記接着性モノマー単位と前記柔軟性モノマー単位とが、直鎖状の主鎖を構成しており、
前記カテコール基を含む置換基が、ウレア基を含み、
前記カテコール基が、前記接着性モノマー単位を構成するケイ素原子に、前記ウレア基を含んで構成されるウレア結合を介して結合して
おり、
前記柔軟性モノマー単位が、ジメチルシロキサン単位である、
ポリシロキサン。
【請求項2】
前記ポリシロキサンの47mol%以上、95mol%以下を、前記柔軟性モノマー単位が占める、
請求項1に記載のポリシロキサン。
【請求項3】
前記カテコール基を含む置換基が、炭化水素基を含む、
請求項1に記載のポリシロキサン。
【請求項4】
ベンゼン環のオルト位に結合した2つのヒドロキシ基の各々の水素原子がアルキルシリル基で置換されたシリル化構造を有する変性カテコール基、を含む置換基を有するオルガノシロキサン単位よりなる接着性モノマー単位と、
カテコール基
も前記変性カテコール基も含まないオルガノシロキサン単位よりなる柔軟性モノマー単位と、
のコポリマーである、ポリシロキサンであって、
前記接着性モノマー単位と前記柔軟性モノマー単位とのいずれもがD単位であり、
前記接着性モノマー単位と前記柔軟性モノマー単位とが、直鎖状の主鎖を構成しており、
前記変性カテコール基を含む置換基が、ウレア基を含み、
前記変性カテコール基が、前記接着性モノマー単位を構成するケイ素原子に、前記ウレア基を含んで構成されるウレア結合を介して結合している、
ポリシロキサン。
【請求項5】
前記ポリシロキサンの47mol%以上、95mol%以下を、前記柔軟性モノマー単位が占める、
請求項4に記載のポリシロキサン。
【請求項6】
前記変性カテコール基を含む置換基が、炭化水素基を含む、
請求項4に記載のポリシロキサン。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のポリシロキサンを含有する、
接着剤。
【請求項8】
それぞれ請求項1から6のいずれか1項に記載のポリシロキサンよりなり、互いに前記柔軟性モノマー単位の含有割合が異なる第1ポリシロキサン及び第2ポリシロキサン、
を含有する、接着剤。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に記載のポリシロキサンよりなる第3ポリシロキサンであって、前記柔軟性モノマー単位の含有割合が、前記第1ポリシロキサン及び前記第2ポリシロキサンとは異なる第3ポリシロキサン、
をさらに含有する、請求項8に記載の接着剤。
【請求項10】
ウレア基を含む置換基を有する第1シロキサン単位と、
ウレア基を含む置換基を有さず、炭化水素基よりなる置換基を有する第2シロキサン単位とのコポリマーである前駆ポリシロキサンを生成する前駆ポリシロキサン生成工程であって、前記第1シロキサン単位と前記第2シロキサン単位とのいずれもがD単位であり、前記第1シロキサン単位と前記第2シロキサン単位とによって直鎖状の主鎖が構成されている前記前駆ポリシロキサンを生成する前駆ポリシロキサン生成工程と、
前記前駆ポリシロキサンをカテコールアミンと反応させることにより、前記第1シロキサン単位に、前記ウレア基を含んで構成されるウレア結合を介して、ベンゼン環のオルト位に2つのヒドロキシ基が結合したカテコール基を導入するカテコール基導入工程と、
を含
み、
前記第2シロキサン単位が、ジメチルシロキサン単位である、
ポリシロキサンの製造方法。
【請求項11】
前記前駆ポリシロキサン生成工程が、
前記第1シロキサン単位の前駆体となる前駆第1シロキサン単位であって、アンモニウム基を含む化合物を置換基に有する前駆第1シロキサン単位と、
アンモニウム基を含む化合物を置換基に有さない前記第2シロキサン単位との直鎖状のコポリマーを形成する共重合工程と、
前記共重合工程で形成した前記コポリマーをカルボニル化合物と反応させることにより、前記前駆第1シロキサン単位における前記アンモニウム基を含む化合物を、前記ウレア基を含む化合物に置き換えるウレア基形成工程と、
を含む、請求項10に記載のポリシロキサンの製造方法。
【請求項12】
ウレア基を含む置換基を有する第1シロキサン単位と、ウレア基を含む置換基を有さず、炭化水素基よりなる置換基を有する第2シロキサン単位とのコポリマーである前駆ポリシロキサンを生成する前駆ポリシロキサン生成工程であって、前記第1シロキサン単位と前記第2シロキサン単位とのいずれもがD単位であり、前記第1シロキサン単位と前記第2シロキサン単位とによって直鎖状の主鎖が構成されている前記前駆ポリシロキサンを生成する前駆ポリシロキサン生成工程と、
前記前駆ポリシロキサンをカテコールアミンと反応させることにより、前記第1シロキサン単位に、前記ウレア基を含んで構成されるウレア結合を介して、ベンゼン環のオルト位に2つのヒドロキシ基が結合したカテコール基を導入するカテコール基導入工程と、
前記カテコール基導入工程で得られたポリマーをシリル化剤と反応させることにより、前記ベンゼン環のオルト位に結合した2つの前記ヒドロキシ基の各々の水素原子をアルキルシリル基に置換するアルキルシリル基導入工程
と、
を含む
、ポリシロキサンの製造方法。
【請求項13】
前記アルキルシリル基導入工程の後に、
再び前記アルキルシリル基を前記水素原子に置換することにより、前記ベンゼン環のオルト位に2つの前記ヒドロキシ基が結合した構造を再形成するアルキルシリル基離脱工程、
をさらに含む、請求項
12に記載のポリシロキサンの製造方法。
【請求項14】
それぞれ請求項10から
13のいずれか1項に記載のポリシロキサンの製造方法により得られ、互いに前記第2シロキサン単位の含有割合が異なる第1ポリシロキサン及び第2ポリシロキサンを準備する準備工程と、
前記第1ポリシロキサン及び前記第2ポリシロキサンを混合する混合工程と、
を含む、接着剤の製造方法。
【請求項15】
前記準備工程では、前記第1ポリシロキサン及び前記第2ポリシロキサンとは別に、少なくとも第3ポリシロキサンをさらに準備し、
前記第3ポリシロキサンは、請求項10から
13のいずれか1項に記載のポリシロキサンの製造方法により得られ、前記第3ポリシロキサンにおける前記第2シロキサン単位の含有割合は、前記第1ポリシロキサン及び前記第2ポリシロキサンとは異なり、
前記混合工程では、前記第1ポリシロキサン及び前記第2ポリシロキサンに加え、少なくとも前記第3ポリシロキサンをさらに混合する、
請求項
14に記載の接着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシロキサン、接着剤、ポリシロキサンの製造方法、及び接着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ムール貝等の海洋生物から分泌される、接着特性を有するタンパク質が注目されている。そのタンパク質に含まれるカテコール基が、接着特性の発現に寄与していることが明らかとなっている。また、カテコール基の接着剤への応用が検討されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、せん断強度及び耐衝撃性に優れた接着を実現することができる接着剤と、その接着剤の含有成分として用いることができるポリシロキサンと、その接着剤及びポリシロキサンの製造方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1観点に係るポリシロキサンは、
カテコール基を含む置換基を有するオルガノシロキサン単位よりなる接着性モノマー単位と、
カテコール基を含まないオルガノシロキサン単位よりなる柔軟性モノマー単位と、
のコポリマーである、ポリシロキサンであって、
前記接着性モノマー単位と前記柔軟性モノマー単位とのいずれもがD単位であり、
前記接着性モノマー単位と前記柔軟性モノマー単位とが、直鎖状の主鎖を構成しており、
前記カテコール基を含む置換基が、ウレア基を含み、
前記カテコール基が、前記接着性モノマー単位を構成するケイ素原子に、前記ウレア基を含んで構成されるウレア結合を介して結合しており、
前記柔軟性モノマー単位が、ジメチルシロキサン単位である。
【0007】
本発明の第1観点に係るポリシロキサンの47mol%以上、95mol%以下を、前記柔軟性モノマー単位が占めていてもよい。
【0008】
前記カテコール基を含む置換基が、炭化水素基を含んでもよい。
【0010】
本発明の第2観点に係るポリシロキサンは、
ベンゼン環のオルト位に結合した2つのヒドロキシ基の各々の水素原子がアルキルシリル基で置換されたシリル化構造を有する変性カテコール基、を含む置換基を有するオルガノシロキサン単位よりなる接着性モノマー単位と、
カテコール基も前記変性カテコール基も含まないオルガノシロキサン単位よりなる柔軟性モノマー単位と、
のコポリマーである、ポリシロキサンであって、
前記接着性モノマー単位と前記柔軟性モノマー単位とのいずれもがD単位であり、
前記接着性モノマー単位と前記柔軟性モノマー単位とが、直鎖状の主鎖を構成しており、
前記変性カテコール基を含む置換基が、ウレア基を含み、
前記変性カテコール基が、前記接着性モノマー単位を構成するケイ素原子に、前記ウレア基を含んで構成されるウレア結合を介して結合している。
本発明の第2観点に係るポリシロキサンの47mol%以上、95mol%以下を、前記柔軟性モノマー単位が占めていてもよい。
前記変性カテコール基を含む置換基が、炭化水素基を含んでもよい。
【0011】
本発明の第3観点に係る接着剤は、上述した本発明の第1観点又は第2観点に係るポリシロキサンを含有する。
【0012】
本発明の第4観点に係る接着剤は、
それぞれ上述した本発明の第1観点又は第2観点に係るポリシロキサンよりなり、互いに前記柔軟性モノマー単位の含有割合が異なる第1ポリシロキサン及び第2ポリシロキサン、
を含有する。
【0013】
本発明の第4観点に係る接着剤は、
上述した本発明の第1観点又は第2観点に係るポリシロキサンよりなる第3ポリシロキサンであって、前記柔軟性モノマー単位の含有割合が、前記第1ポリシロキサン及び前記第2ポリシロキサンとは異なる第3ポリシロキサン、
をさらに含有してもよい。
【0014】
本発明の第5観点に係るポリシロキサンの製造方法は、
ウレア基を含む置換基を有する第1シロキサン単位と、ウレア基を含む置換基を有さず、炭化水素基よりなる置換基を有する第2シロキサン単位とのコポリマーである前駆ポリシロキサンを生成する前駆ポリシロキサン生成工程であって、前記第1シロキサン単位と前記第2シロキサン単位とのいずれもがD単位であり、前記第1シロキサン単位と前記第2シロキサン単位とによって直鎖状の主鎖が構成されている前記前駆ポリシロキサンを生成する前駆ポリシロキサン生成工程と、
前記前駆ポリシロキサンをカテコールアミンと反応させることにより、前記第1シロキサン単位に、前記ウレア基を含んで構成されるウレア結合を介して、ベンゼン環のオルト位に2つのヒドロキシ基が結合したカテコール基を導入するカテコール基導入工程と、
を含み、
前記第2シロキサン単位が、ジメチルシロキサン単位である。
【0015】
前記前駆ポリシロキサン生成工程が、
前記第1シロキサン単位の前駆体となる前駆第1シロキサン単位であって、アンモニウム基を含む化合物を置換基に有する前駆第1シロキサン単位と、アンモニウム基を含む化合物を置換基に有さない前記第2シロキサン単位との直鎖状のコポリマーを形成する共重合工程と、
前記共重合工程で形成した前記コポリマーをカルボニル化合物と反応させることにより、前記前駆第1シロキサン単位における前記アンモニウム基を含む化合物を、前記ウレア基を含む化合物に置き換えるウレア基形成工程と、
を含んでもよい。
【0017】
本発明の第6観点に係るポリシロキサンの製造方法は、
ウレア基を含む置換基を有する第1シロキサン単位と、ウレア基を含む置換基を有さず、炭化水素基よりなる置換基を有する第2シロキサン単位とのコポリマーである前駆ポリシロキサンを生成する前駆ポリシロキサン生成工程であって、前記第1シロキサン単位と前記第2シロキサン単位とのいずれもがD単位であり、前記第1シロキサン単位と前記第2シロキサン単位とによって直鎖状の主鎖が構成されている前記前駆ポリシロキサンを生成する前駆ポリシロキサン生成工程と、
前記前駆ポリシロキサンをカテコールアミンと反応させることにより、前記第1シロキサン単位に、前記ウレア基を含んで構成されるウレア結合を介して、ベンゼン環のオルト位に2つのヒドロキシ基が結合したカテコール基を導入するカテコール基導入工程と、
前記カテコール基導入工程で得られたポリマーをシリル化剤と反応させることにより、前記ベンゼン環のオルト位に結合した2つの前記ヒドロキシ基の各々の水素原子をアルキルシリル基に置換するアルキルシリル基導入工程と、
を含む。
【0018】
本発明の第6観点に係るポリシロキサンの製造方法は、
前記アルキルシリル基導入工程の後に、
再び前記アルキルシリル基を前記水素原子に置換することにより、前記ベンゼン環のオルト位に2つの前記ヒドロキシ基が結合した構造を再形成するアルキルシリル基離脱工程、
をさらに含んでもよい。
【0019】
本発明の第7観点に係る接着剤の製造方法は、
それぞれ上述した本発明の第5観点又は第6観点に係るポリシロキサンの製造方法により得られ、互いに前記第2シロキサン単位の含有割合が異なる第1ポリシロキサン及び第2ポリシロキサンを準備する準備工程と、
前記第1ポリシロキサン及び前記第2ポリシロキサンを混合する混合工程と、
を含む。
【0020】
本発明の第7観点に係る接着剤の製造方法において、
前記準備工程では、前記第1ポリシロキサン及び前記第2ポリシロキサンとは別に、少なくとも第3ポリシロキサンをさらに準備し、
前記第3ポリシロキサンは、上述した本発明の第5観点又は第6観点に係るポリシロキサンの製造方法により得られ、前記第3ポリシロキサンにおける前記第2シロキサン単位の含有割合は、前記第1ポリシロキサン及び前記第2ポリシロキサンとは異なり、
前記混合工程では、前記第1ポリシロキサン及び前記第2ポリシロキサンに加え、少なくとも前記第3ポリシロキサンをさらに混合してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第3観点又は第4観点に係る接着剤は、接着性モノマー単位と柔軟性モノマー単位とのコポリマーを含有するため、せん断強度及び耐衝撃性に優れた接着を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係るポリシロキサン組成物の局所的な化学構造を示す概念図。
【
図2】第1実施形態に係るポリシロキサン組成物の大域的な構造を示す概念図。
【
図3】第1実施形態に係るポリシロキサン組成物の製造方法を示すフローチャート。
【
図4】実施例1-4に係る共重合工程を示す概念図。
【
図5】実施例1-4に係るウレア基形成工程及びカテコール基導入工程を示す概念図。
【
図6】実施例1-4に係るポリシロキサン組成物のフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)スペクトルを示すグラフ。
【
図7】実施例1-4に係るポリシロキサン組成物のプロトン核磁気共鳴(
1H-NMR)スペクトルを示すグラフ。
【
図9A】実施例4及び比較例4に係る評価用サンプルの応力ひずみ線図。
【
図9B】実施例3及び比較例3に係る評価用サンプルの応力ひずみ線図。
【
図9C】実施例2及び比較例2に係る評価用サンプルの応力ひずみ線図。
【
図9D】実施例1及び比較例1に係る評価用サンプルの応力ひずみ線図。
【
図10】実施例1-4及び市販参考例1-10に係る評価用サンプルの、接着面の面積を減少させた場合の応力ひずみ線図。
【
図11A】実施例3に係るガラス繊維強化エポキシ樹脂接着性評価用サンプルの応力ひずみ線図。
【
図11B】実施例3に係るガラス繊維強化エポキシ樹脂接着性評価用サンプルの、接着面の面積を減少させた場合の応力ひずみ線図。
【
図12】実施例3に係る未酸化処理銅接着性評価用サンプル及び酸化処理済銅接着性評価用サンプルの応力ひずみ線図。
【
図13】実施例1-4及び市販参考例1-2に係る接着評価用サンプルの、2日間にわたって水に浸漬した後の応力ひずみ線図。
【
図14A】実施例4に係る評価用サンプルの耐衝撃性試験の結果を示す写真。
【
図14B】実施例1に係る評価用サンプルの耐衝撃性試験の結果を示す写真。
【
図14C】比較例5に係る評価用サンプルの耐衝撃性試験の結果を示す写真。
【
図15】第2実施形態に係るポリシロキサン組成物の製造方法を示すフローチャート。
【
図16】第2実施形態に係るシリル化剤の構成を示す概念図。
【
図17】第2実施形態に係る保護済ポリシロキサン組成物の大域的な構造を示す概念図。
【
図18】実施例5に係るアルキルシリル基導入工程を示す概念図。
【
図19】実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物の
1H-NMRスペクトルを示すグラフ。
【
図20】実施例5に係るアルキルシリル基離脱工程を示す概念図。
【
図21】第3実施形態に係る接着剤の製造方法を示すフローチャート。
【
図22】実施例6に係るポリシロキサン組成物のFT-IRスペクトルを示すグラフ。
【
図23】実施例6に係るポリシロキサン組成物の
1H-NMRスペクトルを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、第1-第3実施形態に係るポリシロキサン組成物について説明する。
【0024】
[第1実施形態]
図1に、本実施形態に係るポリシロキサン組成物の、モノマー単位の化学構造を示す。本実施形態に係るポリシロキサン組成物は、主として接着性に寄与する接着性モノマー単位Aと、主として柔軟性に寄与する柔軟性モノマー単位Bとのコポリマーである。
【0025】
図1中のスラッシュは、ポリシロキサン組成物における、接着性モノマー単位Aと柔軟性モノマー単位Bとの配列が無秩序であることを意味する。即ち、本実施形態に係るポリシロキサン組成物は、接着性モノマー単位Aと柔軟性モノマー単位Bとのランダムコポリマーである。
【0026】
接着性モノマー単位Aは、ケイ素原子に2つの置換基RA1及びRA2が結合したシロキサン単位、即ちD単位よりなる。一方の置換基RA1は、炭化水素基よりなる。他方の置換基RA2は、接着性に寄与する基であるカテコール基を含む。カテコール基:接着性モノマー単位Aのモル比は、1:1である。
【0027】
柔軟性モノマー単位Bは、カテコール基を含まないオルガノシロキサン単位よりなる。具体的には、柔軟性モノマー単位Bは、いずれもカテコール基を含まない炭化水素基よりなる2つの置換基RB1及びRB2を有するD単位である。
【0028】
上述した置換基RA1、RB1、及びRB2を構成する炭化水素基としては、例えば炭素数が10以下のもの、具体的には、炭素数10以下のアルキル基を用いることができる。アルキル基としては、メチル基が好ましい。また、置換基RA1、RB1、及びRB2の3者は互いに同じものであってもよい。即ち、例えば、置換基RA1がメチル基であり、かつ柔軟性モノマー単位Bがジメチルシロキサン単位であってもよい。
【0029】
但し、置換基RA1、RB1、及びRB2のうち1者が残りの2者と異なるものであってもよいし、3者全てが互いに異なるものであってもよい。
【0030】
図2は、本実施形態に係るポリシロキサン組成物の大域的な構造を示す。本実施形態に係るポリシロキサン組成物は、主鎖(main chain)に、側鎖(side chain)としての複数のカテコール基が結合した構造を有する。カテコール基は、主鎖の長さ方向に離散的に繰り返し配置されている。
【0031】
各々のカテコール基は、
図1に示した置換基R
A2に含まれるものである。主鎖は、
図1に示した接着性モノマー単位Aにおけるカテコール基以外の部分と、柔軟性モノマー単位Bとのランダムな配列により構成される。本実施形態では、接着性モノマー単位Aと柔軟性モノマー単位BとのいずれもがD単位であるため、主鎖は直鎖状を成す。
【0032】
図1に示した柔軟性モノマー単位Bは、置換基R
B1及びR
B2にカテコール基を含まないため、
図2に示す主鎖に対するカテコール基の結合密度が過剰になり過ぎることを抑え、主鎖を柔軟化する役割を果たす。
【0033】
主鎖の柔軟化は、本実施形態に係るポリシロキサン組成物を接着剤の含有成分として用いた場合に、接着のせん断強度及び耐衝撃性を向上できることを意味する。即ち、柔軟性モノマー単位Bは、接着性モノマー単位Aのカテコール基が発現する強力な接着性に、せん断強度及び耐衝撃性を付加する役割を果たす。
【0034】
カテコール基がもつ強力な接着性を損なうことなく、主鎖に優れた柔軟性を付与するためには、ポリシロキサン組成物100mol%の47mol%以上、95mol%以下を柔軟性モノマー単位Bが占め、残部を接着性モノマー単位Aが占めることが好ましい。ここで、接着性モノマー単位Aと柔軟性モノマー単位Bとのmol比は、1H-NMRスペクトルに現れるシグナルの積分比によって特定することができる。
【0035】
次に、本実施形態に係るポリシロキサン組成物の製造方法について説明する。
【0036】
まず、接着性モノマー単位Aの前駆体である第1シロキサン単位と、柔軟性モノマー単位Bとなる第2シロキサン単位との直鎖状のコポリマーを形成する。次に、そのコポリマーにおける第1シロキサン単位にカテコール基を導入することで、本実施形態に係るポリシロキサン組成物を得る。
【0037】
本願発明者らの研究によれば、カテコール基の導入は、ウレア結合構造を介して行うと特に効率的である。即ち、カテコール基の導入率を高めるには、ウレア結合構造を利用することが望ましい。そこで以下、ウレア結合構造を利用してカテコール基を導入する、ポリシロキサン組成物の製造方法を具体的に説明する。
【0038】
図3に示すように、まず、アンモニウム基を含む化合物を置換基に有する前駆第1シロキサン単位と、炭化水素基よりなる置換基を有する第2シロキサン単位とのコポリマーを形成する(共重合工程S1)。
【0039】
ここで、前駆第1シロキサン単位は、
図1に示した接着性モノマー単位Aの前駆体である。また、前駆第1シロキサン単位における、アンモニウム基を含む化合物を有する置換基は、
図1に示した置換基R
A2の前駆体である。また、第2シロキサン単位とは、
図1に示した柔軟性モノマー単位Bと同じものである。
【0040】
次に、共重合工程S1で形成したコポリマーをカルボニル化合物と反応させることにより、前駆第1シロキサン単位におけるアンモニウム基を含む化合物を、ウレア基を含む化合物に置き換える(ウレア基形成工程S2)。なお、本明細書において、ウレア基とは、-NH-CO-N=で表される基、又は-NH-CO-N<で表される基を指す。
【0041】
以下では、アンモニウム基を含む化合物がウレア基を含む化合物に置き換えられた前駆第1シロキサン単位を、第1シロキサン単位と呼ぶ。また、本ウレア基形成工程S2を経たポリマーを前駆ポリシロキサン組成物と呼ぶ。
【0042】
次に、上述した前駆ポリシロキサン組成物をカテコールアミンと反応させることにより、第1シロキサン単位に、上述したウレア基を含んで構成されるウレア結合を介して、カテコール基を導入する(カテコール基導入工程S3)。上述したように、ウレア結合を介することで、カテコール基の導入率を高めることができる。
【0043】
以上により、
図1に示した置換基R
A2が、ウレア結合と、そのウレア結合に結合したカテコール基とを有する、本実施形態に係るポリシロキサン組成物が得られる。得られたポリシロキサン組成物は、接着剤の含有成分、具体的には主成分として使用することができる。ここで“主成分”とは、50wt%を超える含有量を意味し、100wt%を含む概念とする。
【0044】
以下、
図3に示した製造方法の実施例を、
図4及び
図5を参照して説明する。
【0045】
図4に示すように、ジメトキシジメチルシラン(DMDMS)(MW=120.22g/mol,純度:98%)と、3-アミノプロピルジメトキシメチルシラン(APDMMS)(MW=163.2g/mol,純度:97%)とを混合したものを出発原料とした。この出発原料に触媒を加えたものを、50wt%のエタノール中、60℃で12時間攪拌した。触媒には、APDMMSと当量の濃塩酸(MW=36.46g/mol,純度:35-37%)と、DMDMS及びAPDMMSの合計のモル数に対して2当量の水とを用いた。次に、得られた混合溶液をポリプロピレン製のディスポトレイに移し、開放系において50℃で約5時間にわたり加熱することで、溶媒を蒸発させた。次に、得られた粘性のある固体生成物を100℃のオーブンで2時間加熱することで、コポリマー(以下、PDMS/PS-NH
3Clと表記する。)を得た。
【0046】
このとき、DMDMS:APDMMSの混合のmol比(以下、仕込み比と記す。)が異なる4種類のPDMS/PS-NH3Clを得た。具体的には、仕込み比が5:5のものを実施例1とし、仕込み比が6:4のものを実施例2とし、仕込み比が7:3のものを実施例3とし、仕込み比が8:2のものを実施例4とする。
【0047】
ここまでの工程は、
図3に示した共重合工程S1の一例である。
図4に示すPDMS/PS-NH
3Clを構成するジメチルシロキサン単位は、上述した第2シロキサン単位の一例である。また、そのジメチルシロキサン単位と共にPDMS/PS-NH
3Clを構成するシロキサン単位は、上述した前駆第1シロキサン単位の一例であり、その置換基を構成するNH
3Clは、アンモニウム基を含む化合物の一例である。
【0048】
図5を参照し、説明を続ける。次に、5mLの脱水DMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解したPDMS/PS-NH
3Cl(5.0mmol unit)と、1.5~3mLの脱水DMSOに溶解したアンモニウム基に対して1.2当量の1,1’-カルボニルジイミダゾール(MW=162.15g/mol,純度:97%)と、1.5~3mLの脱水DMSOに溶解したアンモニウム基に対して1.2当量のトリエチルアミン(MW=101.19g/mol,純度:99%)との混合物を室温で15分間攪拌し、前駆ポリシロキサン組成物を得た。
【0049】
本工程は、
図3に示したウレア基形成工程S2の一例である。本工程で使用した1,1’-カルボニルジイミダゾールは、既述のカルボニル化合物の一例である。また、
図5に示す、アミド結合にイミダゾールがつながれた構造は、全体として、既述のウレア基-NH-CO-N<を含む化合物の一例である。また、その化合物を置換基に有するシロキサン単位は、既述の第1シロキサン単位の一例である。
【0050】
次に、上記の前駆ポリシロキサン組成物を含む混合溶液に、2.5~5mLの脱水DMSOに溶解したアンモニウム基に対して2当量のドーパミン塩酸塩(MW=189.64g/mol,純度:98%)と、2.5~5mLの脱水DMSOに溶解したアンモニウム基に対して2当量のトリエチルアミン(MW=101.19g/mol,純度:99%)との混合溶液を投入し、50℃で2時間攪拌した。その後、反応溶液を酢酸エチル(400~600mL)に投入し、析出した白色固体を吸引ろ過により回収した。次に、その回収した粗生成物を精製水(20~40mL)で洗浄し、不溶部をデカンテーションにより回収することにより、ポリシロキサン組成物(以下、PDMS/PS-U-Ph(OH)2と表記する。)を得た。
【0051】
本工程は、
図3に示したカテコール基導入工程S3の一例である。本工程で使用したドーパミン塩酸塩は、既述のカテコールアミンの一例である。本工程を経た第1シロキサン単位は、
図1に示した接着性モノマー単位Aの一例である。また、本工程を経た第2シロキサン単位は、
図1に示した柔軟性モノマー単位Bの一例である。
【0052】
本工程によれば、接着性モノマー単位Aの、
図1に示す置換基R
A2は、
図5に示すように、ウレア結合につながれた形態でカテコール基を有する。また、本工程によれば、
図1に示す置換基R
A2は、
図5に示すように、ウレア結合構造及びカテコール基とは別に、炭素原子が鎖状につながれた構造の炭化水素基、具体的には、ポリメチレン基(polymethylene group)を有する。より具体的には、本工程によれば、
図1に示す置換基R
A2は、接着性モノマー単位Aのケイ素原子とウレア結合構造とをつなぐトリメチレン基(-CH
2CH
2CH
2-)、及びウレア結合構造とカテコール基とをつなぐエチレン基(-CH
2CH
2-)を有する。
【0053】
なお、以上のようにして得たPDMS/PS-U-Ph(OH)2は、乾燥させて保存すると、一部不溶化してしまうため、溶媒に溶解した溶液の形態、具体的には、エタノール溶液として保存した。このエタノール溶液をロータリーエバポレータで濃縮(40℃)した後、水に投入して析出した固体を接着剤として使用する。
【0054】
図6に、実施例1-4に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)
2のFT-IRスペクトルを示す。なお、既述のとおり、実施例1-4の間で、共重合工程S1におけるDMDMS:APDMMSの仕込み比が異なる。
図6では、仕込み比を括弧<>で示した。
【0055】
図6に示すように、実施例1-4のいずれにおいても、ウレア結合に由来する吸収ピークが1630cm
-1付近及び1580cm
-1付近に観測された。このことは、既述のカテコール基導入工程S3でウレア結合がきちんと形成されたことを示している。
【0056】
また、FT-IRスペクトルには、シロキサン結合に由来する吸収ピーク、及びシロキサン単位におけるケイ素原子と、
図1に示す置換基R
A1、R
B1、及びR
B2としてのメチル基との結合に由来する吸収ピークも確認された。
【0057】
図7は、実施例1-4に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)
2の
1H-NMRスペクトルを示す。
1H-NMRスペクトルには、芳香環由来のシグナルhが観測された。これにより、接着性モノマー単位Aへのカテコール基の導入が確かめられた。
【0058】
また、
1H-NMRスペクトルのケイ素原子に隣接するメチルプロトンのシグナルaと、芳香環に由来すシグナルhとの積分比より、PDMS/PS-U-Ph(OH)
2における、柔軟性モノマー単位B:接着性モノマー単位Aのmol比(以下、構造単位比と記す。)を算出した。
図7では、算出した構造単位比を括弧()で示し、既述の仕込み比を括弧<>で示した。
図7に示すように、実施例1-4のそれぞれにおいて、柔軟性モノマー単位B:接着性モノマー単位Aの構造単位比は、仕込み比とほぼ同じであった。
【0059】
以下、実施例1-4に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2を接着剤として用いた場合の評価結果について説明する。
【0060】
まず、実施例1-4に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2のエタノール溶液を作製し、そのエタノール溶液を水に投入することでペーストを析出させた。そのペーストを接着剤として用い、評価を行った。なお、接着剤はPDMS/PS-U-Ph(OH)2よりなるため、以下では、接着剤についても“PDMS/PS-U-Ph(OH)2”と表記する。
【0061】
図8を参照し、評価用サンプルの作成手順を説明する。一対のアルミニウム板のそれぞれにペースト状のPDMS/PS-U-Ph(OH)
2を塗布した。なお、実施例1及び2は粉末を塗布してアルミニウム板を挟んで加熱することでペースト状になる。
【0062】
次に、一対のアルミニウム板の、PDMS/PS-U-Ph(OH)2を塗布した領域(以下、接着面という。)どうしを張り合わせてクリップで固定し、150℃で12時間加熱乾燥させた。なお、接着面の面積は125mm2とした。以上のようにして、実施例1-4に係る評価用サンプルを得た。また、比較のために、PDMS/PS-U-Ph(OH)2の前駆体である、既述のPDMS/PS-NH3Clを接着剤として用い、同様にして比較例に係る評価用サンプルも得た。
【0063】
そして、室温下で、各評価用サンプルに対し、一対のアルミニウム板を互いの接着面に平行な方向に引き離す引張せん断試験を行い、応力ひずみ線図を計測した。
【0064】
図9A、
図9B、
図9C、
図9Dに、それぞれ実施例4、実施例3、実施例2、実施例1に係る評価用サンプルの応力ひずみ線図を示す。実施例1-4のいずれにおいても、使用した引張せん断試験機で測定可能な最大応力である8.16MPaまで引っ張っても、サンプルの接着面は剥離せず、強力な接着性が確認された。
【0065】
一方、
図9Aに示すように、仕込み比を8:2としたPDMS/PS-NH
3Cl(比較例4)では、3.0MPaで接着面の剥離が確認された。また、
図9Bに示すように、仕込み比を7:3としたPDMS/PS-NH
3Cl(比較例3)では、5.9MPaで接着面の剥離が確認された。また、
図9Cに示すように、仕込み比を6:4としたPDMS/PS-NH
3Cl(比較例2)では、7.4MPaで接着面の剥離が確認された。また、
図9Dに示すように、仕込み比を5:5としたPDMS/PS-NH
3Cl(比較例1)では、6.8MPaで接着面の剥離が確認された。
【0066】
実施例1-4に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)
2と、比較例1-4に係るPDMS/PS-NH
3Clとの化学構造上の主な相違点は、カテコール基が導入されているか否かにある。このため、
図9A-
図9Dに示す結果より、カテコール基が強力な接着性の発現に寄与していることが確かめられた。以上のとおり、実施例1-4に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)
2は、せん断強度にすぐれた接着を実現することができる。
【0067】
次に、実施例1-4に係る評価用サンプルの、剥離する時のせん断応力を確認するために、評価用サンプルにおける接着面の面積を小さくしたうえで、再び応力ひずみ線図を計測した。
【0068】
図10に、その結果を示す。実施例1に係る同種材接着評価用サンプルは、接着面の面積を40mm
2とした場合に、23.0MPaのせん断強度を示した。実施例2に係る同種材接着評価用サンプルは、接着面の面積を50mm
2とした場合に、19.5MPaのせん断強度を示した。実施例3に係る同種材接着評価用サンプルは、接着面の面積を31mm
2とした場合に、27.7MPaのせん断強度を示した。実施例4に係る同種材接着評価用サンプルは、接着面の面積を36mm
2とした場合に、19.6MPaのせん断強度を示した。
【0069】
また、
図10には、市販参考例1-10として、市販の接着剤を用いて同じ要領で作製した評価用サンプルの応力ひずみ線図も示している。
市販参考例1は、市販のアクリル樹脂系接着剤(二液ラジカル重合型)を用いたものであり、接着面の面積を40mm
2としたところ、14.0MPaのせん断強度を示した。
市販参考例2は、市販のミクロ鉄粉入りエポキシ系接着剤(二液付加反応型)を用いたものであり、接着面の面積を48mm
2としたところ、13.4MPaのせん断強度を示した。
市販参考例3は、市販のポリビニルアルコール系接着剤(水溶液乾燥固化型)を用いたものであり、接着面の面積を125mm
2としたところ、1.4MPaのせん断強度を示した。
市販参考例4は、市販のポリ酢酸ビニル系接着剤(水分散乾燥固化型)を用いたものであり、接着面の面積を125mm
2としたところ、0.7MPaのせん断強度を示した。
市販参考例5は、市販のシアノアクリル酸エステル系接着剤(湿気硬化型)を用いたものであり、接着面の面積を125mm
2としたところ、1.6MPaのせん断強度を示した。
市販参考例6は、市販のシアノアクリル酸エステル系接着剤(湿気硬化型)を用いたものであり、接着面の面積を125mm
2としたところ、3.1MPaのせん断強度を示した。
市販参考例7は、市販のエポキシ系接着剤(二液付加反応型)を用いたものであり、接着面の面積を125mm
2としたところ、3.9MPaのせん断強度を示した。
市販参考例8は、市販のシアノアクリル酸エステル系接着剤(湿気硬化型)を用いたものであり、接着面の面積を125mm
2としたところ、4.4MPaのせん断強度を示した。
市販参考例9は、市販のシアノアクリル酸エステル系接着剤(湿気硬化型)を用いたものであり、接着面の面積を125mm
2としたところ、4.3MPaのせん断強度を示した。
市販参考例10は、市販の酢酸ビニル樹脂系接着剤(熱溶融型)を用いたものであり、接着面の面積を125mm
2としたところ、4.6MPaのせん断強度を示した。
【0070】
図10に示すように、実施例1-4係る同種材接着評価用サンプルは、常温下において、市販参考例1及び2に勝り、かつ市販参考例3-10と比べて、はるかに優れたせん断強度を示すことが確認された。
【0071】
次に、代表して実施例3に係る接着剤について、ガラス繊維強化エポキシ樹脂の接着に対する適用可能性を調べた。まず、実施例3に係る接着剤を用いて、上述した評価用サンプルの作成手順と同様の要領で、一対のガラス繊維強化エポキシ樹脂板を張り合わせた評価用サンプル(以下、ガラス繊維強化エポキシ樹脂接着性評価用サンプルという。)を作製した。
【0072】
なお、接着面の面積は125mm
2とした。そして、
図9の場合と同様にして、ガラス繊維強化エポキシ樹脂板を接着面に平行な方向に引き離す引張せん断試験を行い、応力ひずみ線図を計測した。
【0073】
図11Aに、その結果を示す。使用した引張せん断試験機で測定可能な最大応力である8.16MPaまで引っ張っても、サンプルの接着面は剥離せず、実施例3に係る接着剤がガラス繊維強化エポキシ樹脂の接着に適用可能であることを確認した。柔軟性を示すPDMS成分、材料表面との強力な接着性を示すカテコール基、及び加熱乾燥により形成されたカテコール基どうしの架橋構造が存在することにより、強力な接着性が示されたと考えられる。
【0074】
次に、実施例3に係るガラス繊維強化エポキシ樹脂接着性評価用サンプルの、剥離する時のせん断応力を確認するために、接着面の面積を53mm2に減少させたうえで、再び応力ひずみ線図を計測した。
【0075】
図11Bに、その結果を示す。ガラス繊維強化エポキシ樹脂板との接着面が剥離したときの応力は、18.8MPaであり、強力な接着性を示した。ガラス繊維強化エポキシ樹脂表面の水酸基と、カテコール基との間の水素結合が強力な接着性に起因していると考えられる。
【0076】
次に、代表して実施例3に係る接着剤について、銅の接着に対する適用可能性を調べた。まず、実施例3に係る接着剤を用いて、上述した評価用サンプルの作成手順と同様の要領で、表面が殆ど酸化されていない一対の銅板を張り合わせた評価用サンプル(以下、未酸化処理銅接着性評価用サンプルという。)を作製した。
【0077】
また、同様にして、実施例3に係る接着剤を用いて、上述した評価用サンプルの作成手順と同様の要領で、表面に酸化処理を施した一対の銅板を張り合わせた評価用サンプル(以下、酸化処理済銅接着性評価用サンプルという。)を作製した。酸化処理は、銅板を空気中において150℃で12時間加熱することにより行った。
【0078】
なお、未酸化処理銅接着性評価用サンプルと酸化処理済銅接着性評価用サンプルとのいずれも、接着面の面積は125mm
2とした。そして、
図9の場合と同様にして、各サンプルに対して引張せん断試験を行い、応力ひずみ線図を計測した。
【0079】
図12に、その結果を示す。未酸化処理銅接着性評価用サンプルは、6.2MPaという充分なせん断強度を示した。これにより、実施例3に係る接着剤が銅板の接着に適用可能であることが確認された。
【0080】
さらに、酸化処理済銅接着性評価用サンプルは、8.1MPaという大きなせん断強度を示した。これは、銅板を酸化処理することで、表面の酸化銅とカテコール基の水素結合及び配位結合が強力な接着性に寄与したためと推察される。ここでは酸化銅について例示的に述べたが、本実施例1-4に係る接着剤は、酸化アルミニウムその他の、表面が酸化された金属一般の接着に特に適すると考えられる。
【0081】
次に、耐水性の評価結果について述べる。
図9に示した応力ひずみ線図の計測に用いた既述の評価用サンプルと同じものについて、耐水性を調べた。具体的には、実施例1-4及び市販参考例1、2に係る評価用サンプルを2日間にわたって水に浸漬させた後、水を拭き取り、直ちに応力ひずみ線図を計測した。なお、いずれの評価用サンプルにおいても接着面の面積は125mm
2とした。
【0082】
図13に、耐水性の評価結果を示す。実施例1-4のいずれにおいても、使用した引張せん断試験機で測定可能な最大応力である8.16MPaまで引っ張っても接着面の剥離は生じず、充分な耐水性が確認された。
【0083】
一方、市販参考例2では、6.5MPaで接着面の剥離が確認された。剥離面に付着していた市販参考例2に係る接着剤を観察すると、少し湿り気があった。また、市販参考例1では、測定中には剥離は生じなかったものの、測定終了後、応力がかかった状態でしばらく放置すると接着面が剥離した。剥離面に付着していた市販参考例1に係る接着剤は浸漬前の材料と比べて柔らかくなっていた。従って、市販参考例1及び2に係る評価用サンプルは水の影響を受けて剥離してしまったと考えられる。
【0084】
次に、
図9に示した応力ひずみ線図の計測に用いた既述の評価用サンプルと同じものについて、耐衝撃性試験を行った結果を述べる。
【0085】
図14Aは、実施例4に係る評価用サンプルに対する耐衝撃性試験の模様を示す。図示のように、耐衝撃性試験は、評価用サンプルを接着面に垂直な方向からハンマーで叩くことにより行った。実施例4に係る評価用サンプルは、ハンマーで叩いても接着面が剥離せず、アルミニウム板の変形が確認された。また、その変形したアルミ板を再度ハンマーで叩いても接着面の剥離は確認されなかった。
【0086】
また、図示はしないが、実施例2及び3に係る評価用サンプルについても、実施例4の場合と同様の結果が得られた。
【0087】
図14Bは、実施例1に係る評価用サンプルに対する耐衝撃性試験の模様を示す。実施例1に係る評価用サンプルは、ハンマーで1回叩いても接着面が剥離せず、実施例4の場合と同様に優れた耐衝撃性を示した。以上のとおり、実施例1-4に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)
2は、耐衝撃性に優れた接着を実現することができる。
【0088】
但し、実施例1に係る評価用サンプルにおいては、
図14Bに示すように、再度ハンマーで叩いた場合には、接着面が剥離した。即ち、実施例1は優れた耐衝撃性を示すものの、実施例4に比べると、耐衝撃性に劣る。実施例1と実施例4との相違は、PDMS/PS-U-Ph(OH)
2に占める柔軟性モノマー単位Bの割合にある。
【0089】
そこで、PDMS/PS-U-Ph(OH)
2における柔軟性モノマー単位Bの役割を明らかにするために、比較例5として、接着性モノマー単位Aと柔軟性モノマー単位Bとのうち、接着性モノマー単位Aのみの重合体よりなるポリシロキサン組成物を準備した。接着性モノマー単位Aには、
図5に示す、メチルシロキサンにウレア結合を介してカテコール基が結合した構造のシロキサン単位を用いた。
【0090】
そして、この比較例5に係るポリシロキサン組成物(以下、PS-U-Ph(OH)2と表記する。)を接着剤として用い、同様にして比較例5に係る評価用サンプルを得た。
【0091】
図14Cに、比較例5に係る評価用サンプルに対する耐衝撃性試験の模様を示す。比較例5に係る評価用サンプルは、ハンマーで1回軽く叩くと、接着面が簡単に剥離した。即ち、比較例5に係る評価用サンプルは、充分な耐衝撃性を示さなかった。
【0092】
以上説明した
図14A-
図14Cの試験結果により、PDMS/PS-U-Ph(OH)
2に占める柔軟性ポリマー単位Bの存在割合が少ないほど、接着の耐衝撃性が低下することが分かる。逆に言えば、柔軟性ポリマー単位Bが、接着の耐衝撃の向上に寄与していることが明らかとなった。
【0093】
以上の試験結果より、特に優れた耐衝撃性を得るためには、PDMS/PS-U-Ph(OH)2に占める柔軟性ポリマー単位Bの含有割合は、47mol%以上であることが好ましく、58mol%以上であることがより好ましく、66mol%以上であることがより好ましく、75mol%以上であることがより好ましいと言える。
【0094】
一方で、強力なせん断強度に寄与する接着性モノマー単位AをPDMS/PS-U-Ph(OH)2中に充分に確保するために、柔軟性ポリマー単位Bの含有割合は、95mol%以下であることが好ましく、90mol%以下であることがより好ましく、85mol%以下であることがより好ましく、80mol%以下であることがより好ましい。
【0095】
次に、
図9に示した応力ひずみ線図の計測に用いた既述の評価用サンプルと同じものについて、耐熱性試験を行った結果を述べる。
【0096】
実施例1-4に係る接着評価用サンプルの各々に5kgの重りを吊り下げた状態で、各評価用サンプルをオーブンで加熱した。加熱温度は、徐々に上昇させた。加熱中、重りの荷重は、一対のアルミニウム板の接着面に対し、せん断力として作用する。
【0097】
この結果、実施例1-4のいずれも、180℃に達しても一対のアルミニウム板の接着状態が維持された。即ち、実施例1-4に係る接着評価用サンプルは、180℃の耐熱性を示した。これは、加熱乾燥によりカテコール基どうしの架橋反応が進行し、ネットワーク構造を形成したために、比較的高温下でも軟化が適度に抑制されたことによると推察される。
【0098】
次に、異種材料どうしの接着に用いた場合の耐熱性を調べるために、上述した評価用サンプルの作成手順と同様の要領で、一対のアルミニウム板とステンレス板とを張り合わせた評価用サンプル(以下、アルミ-ステンレス接着性評価用サンプルという。)を作製した。
【0099】
そして、実施例1-4に係るアルミ-ステンレス接着性評価用サンプルの各々に5kgの重りを吊り下げた状態で、各評価用サンプルをオーブンで加熱した。加熱温度は、徐々に150℃まで上昇させた。この結果、実施例1-4に係るアルミ-ステンレス接着性評価用サンプルの接着状態が維持されていた。さらにこのサンプルを室温まで冷却しても接着面が剥がれることはなく、室温から150℃の範囲での温度変化において接着性を維持できることを確認した。
【0100】
これは、カテコール成分どうしの架橋構造の形成によって高温下での軟化を抑えつつも、PDMS成分の柔軟性により、異種材料間の熱膨張係数の違いによる熱歪みを緩和できたためであると推察される。
【0101】
次に、実施例1-4に係る接着剤の、アルミニウムとガラスとの接着に対する適用可能性について調べた。実施例1-4に係る接着剤を用いて、上述した評価用サンプルの作成手順と同様の要領で、一対のアルミニウム板とガラス板とを張り合わせた評価用サンプル(以下、アルミニウム-ガラス接着性評価用サンプルという。)を作製した。
【0102】
このとき、いずれのアルミニウム-ガラス接着性評価用サンプルにおいても、アルミニウム板とガラス板とが充分な強度で接着されており、実施例1-4に係る接着剤が、アルミニウムとガラスとの接着に適用可能であることを確認した。
【0103】
さらに、実施例1-4に係るアルミニウム-ガラス接着性評価用サンプルを加熱し乾燥させた後、室温まで冷却し、その時の接着状態を観察した。この結果、接着面の剥離及びガラス板の破壊は生じていないことが確認された。このことから、実施例1-4に係る接着剤は、異種材料間の温度変化により生じる熱膨張係数の違いによる熱歪みを緩和できる柔軟な構造を有することが分かった。
【0104】
[第2実施形態]
図2に示した構造を有する接着剤においては、カテコール基のヒドロキシ基と、別のカテコール基のヒドロキシ基との間に水素結合が生じ得る。このようにして、接着剤を構成するカテコール基どうしが化学的に結合することは、接着剤の粘性の低下、ひいては、接着剤として保存可能な期間の短縮をもたらす原因となる。そこで、長期間にわたって安定して保存することが可能な接着剤が望まれる。以下、この課題をさらに解決する第2実施形態について述べる。
【0105】
図15に、本実施形態に係るポリシロキサン組成物の製造方法の手順を示す。共重合工程S1、ウレア基形成工程S2、及びカテコール基導入工程S3は、第1実施形態の場合と同じであるため、重複する説明は省略する。なお、カテコール基導入工程S3で導入されるカテコール基(以下、未保護カテコール基と記す。)は、
図2及び
図5に示したように、ベンゼン環のオルト位に2つのヒドロキシ基が結合した構造を有する。
【0106】
本実施形態では、カテコール基導入工程S3の後に、カテコール基導入工程S3で得られたポリマー(以下、未保護ポリシロキサン組成物と記す。)をシリル化剤と反応させる(アルキルシリル基導入工程S4)。
【0107】
図16に示すように、シリル化剤としては、ケイ素原子に3つのアルキル基R
C1、R
C2、及びR
C3と、任意の置換基Xとが結合した構造を有するトリアルキルケイ素化合物を用いることができる。アルキル基R
C1、R
C2、R
C3は、互いに同一のものであってもよいし、互いに異なるものであってもよいし、1つが残りの2つとは異なるものであってもよい。
【0108】
トリアルキルケイ素化合物としては、置換基Xがアルコキシ基であるトリアルキルアルコキシシラン、置換基Xがハロゲノ基であるトリアルキルハロゲノシラン、置換基Xが窒素-ケイ素結合を含む他のトリアルキルケイ素化合物であるシラザンが例示される。トリアルキルハロゲノシランとしては、置換基Xがクロロ基であるトリアルキルクロロシランが例示される。
【0109】
図15に示すアルキルシリル基導入工程S4では、未保護ポリシロキサン組成物を上記シリル化剤と反応させることにより、未保護カテコール基におけるベンゼン環のオルト位に結合した2つのヒドロキシ基の各々の水素原子を、アルキルシリル基に置換する。
【0110】
図17に、アルキルシリル基導入工程S4を経て得られるポリシロキサン組成物(以下、保護済ポリシロキサン組成物と記す。)の大域的な構造を示す。保護済ポリシロキサン組成物は、
図2に示した未保護カテコール基におけるヒドロキシ基の各々の水素原子がアルキルシリル基Rで置換されたシリル化構造を有する。
【0111】
以下では、このように未保護カテコール基の水素原子がアルキルシリル基に置換されたカテコール基を、特に“変性カテコール基”と呼ぶことにする。
【0112】
アルキルシリル基Rは、変性カテコール基どうしの化学的な結合を抑制する保護基としての役割を果たす。このため、アルキルシリル基導入工程S4を経て得られる保護済ポリシロキサン組成物は、粘度が次第に高まる経時変化が生じにくく、長期にわたって安定して保存することが可能である。
【0113】
保護済ポリシロキサン組成物は、未保護ポリシロキサン組成物と同様、接着剤の主成分として使用してもよい。但し、接着剤として使用する際に、上述した保護基としてのアルキルシリル基Rを離脱させてもよい。
【0114】
図15に戻り、説明を続ける。本実施形態では、アルキルシリル基導入工程S4の後に、保護基としてのアルキルシリル基Rを離脱させる。即ち、保護基としてのアルキルシリル基Rを、再び水素原子に置換する(アルキルシリル基離脱工程S5)。これにより、ベンゼン環のオルト位に2つのヒドロキシ基が結合した構造が形成される。つまり、変性カテコール基が未保護カテコール基に戻される。
【0115】
なお、保護基の水素原子への置換の手法は任意である。一例として、保護済ポリシロキサン組成物を酸性条件下で加水分解させることにより、保護基を水素原子に置換することができる。また、他の例として、保護済ポリシロキサン組成物を加熱することにより、保護基を水素原子に置換することができる。
【0116】
【0117】
図18に示すように、既述の要領で実施例3に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)
2を準備し、これをヘキサメチルジシラザン(HMDS)と反応させた。具体的には、まず、0.72mmol unit(0.1048g)の実施例3に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)
2に対して、4.64mmol(0.7485g)のHMDSを添加した。HMDSの添加量は、実施例3に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)
2における接着性モノマー単位Aに対して20当量になるように調整した。
【0118】
次に、それらPDMS/PS-U-Ph(OH)2及びHMDSをスパチュラで約20分にわたり撹拌し、さらに室温で1時間にわたりスターラで撹拌した。そして、その撹拌したものをヘキサン約60mLに投入し、析出物をデカンテーションにより取得した。この析出物が、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物である。
【0119】
ここまでの工程は、
図15に示したアルキルシリル基導入工程S4の一例である。実施例3に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)
2は、上述した未保護ポリシロキサン組成物の一例である。HMDSは、
図16に示したシリル化剤の一例である。HMDSは、
図16に示したアルキル基R
C1、R
C2、R
C3としてメチル基を有し、かつ
図16に示した置換基Xとして、窒素-ケイ素結合を含むトリメチルケイ素化合物を有する。
【0120】
図18に示すように、析出物として得られた実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物は、変性カテコール基を有する。変性カテコール基は、未保護カテコール基におけるベンゼン環のオルト位に結合した2つのヒドロキシ基の各々の水素原子が、既述のアルキルシリル基Rの一例としてのトリメチルシリル基に置換されたシリル化構造を有する。なお、
図18では、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物を、PDMS/PS-Ph[OSi(CH
3)
3]
2と表記している。
【0121】
以上のようにして、未保護カテコール基におけるヒドロキシ基の水素原子をアルキルシリル基Rに置換することで、溶媒に対する溶解性が向上することが分かった。具体的には、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物は、ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、クロロホルム、ジエチルエーテル、及びトルエンのいずれにも溶解したが、実施例3に係る未保護済ポリシロキサン組成物は、それら溶媒のうち、ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノールにのみ溶解した。
【0122】
但し、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物は、ジメチルスルホキシドには溶解し難いが、実施例3に係る未保護済ポリシロキサン組成物は、ジメチルスルホキシドに溶解した。
【0123】
図19は、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物の
1H-NMRスペクトルを示す。
図19に示す
1H-NMRスペクトルには、アルキルシリル基Rとしてのトリメチルシリル基のメチルプロトンに由来するシグナルjが観測される。また、
図7に示した
1H-NMRスペクトルには、未保護カテコール基のヒドロキシ基に由来するシグナルiがみられたが、そのシグナルiは、
図19に示す
1H-NMRスペクトルからは確認されない。以上の事実は、未保護カテコール基におけるヒドロキシ基の水素原子が確かにトリメチルシリル基に置換されたことを裏付けている。
【0124】
接着性モノマー単位Aにおいては、ケイ素原子とウレア結合構造とが、複数の炭素原子よりなる骨格でつながれている。その骨格を構成する炭素原子のうちケイ素原子に直接結合したものに由来するシグナルbの積分値と、上述したシグナルjの積分値とを用いて、アルキルシリル基Rとしてのトリメチルシリル基の導入率を算出したところ、99%であった。
【0125】
これは、未保護カテコール基に存在していたヒドロキシ基の99%がトリメチルシリル基に置換されたことを意味する。但し、
図19に示す
1H-NMRスペクトルからヒドロキシ基に由来するシグナルiが確認できないことは、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物中に未保護カテコール基が存在しないことを示すため、実質的には100%の導入率が達成されたと考えられる。
【0126】
図20を参照し、説明を続ける。次に、接着剤としての使用時における接着力の向上を期待して、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物から、保護基としてのトリメチルシリル基を離脱させた。本工程は、
図15に示したアルキルシリル基離脱工程S5の一例である。
【0127】
具体的には、57.0mgの実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物を1mLのアセトンに溶解した溶液に対して、1.7mgの酸無水物、具体的には3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を1mLのアセトンに溶解した溶液を加えて混合することで、酸を生成させた。酸無水物の添加量は、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物100wt%に対する外かけで、3wt%とした。
【0128】
このようにして酸を生成させた酸性条件下では加水分解が生じ、その加水分解によって、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物におけるトリメチルシリル基が水素原子に置換される。即ち、ベンゼン環のオルト位に2つのヒドロキシ基が結合した構造が再形成される。
【0129】
以下では、このようにして保護済ポリシロキサン組成物における変性カテコール基が未保護カテコール基に戻されたものを“脱保護ポリシロキサン組成物”と呼ぶことにする。なお、実施例5に係る脱保護ポリシロキサン組成物は、上述した溶媒としてのアセトンを蒸発させることで得られる。
【0130】
以下、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物及び脱保護ポリシロキサン組成物の、接着特性に関する評価結果について述べる。
【0131】
図8を参照して説明した要領で、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物で張り合わせた一対のアルミウニム板よりなる評価サンプルを作成した。そして、その評価サンプルに対して引張せん断試験を行ったところ、接着面の面積を78mm
2とした場合に10.7MPaと充分なせん断強度を示した。このため、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物は、必ずしも酸無水物を共存させなくても、接着剤として充分に使用可能であることが分かった。
【0132】
一方、同様にして実施例5に係る脱保護ポリシロキサン組成物で張り合わせた一対のアルミウニム板よりなる評価サンプルを作成した。そして、その評価サンプルに対して引張せん断試験を行ったところ、接着面の面積を61mm2に減少させても、10.9MPaと充分なせん断強度を示した。この結果より、接着剤としての使用時に酸無水物を共存させて保護基の離脱を促進させることにより、接着力が向上し得ることが確認された。
【0133】
なお、以上説明した実施例5では、保護済ポリシロキサン組成物を酸無水物と共存させることにより保護基の離脱を促進したが、
図15を参照して説明したように、保護基の離脱の手法は任意である。以下、保護基の離脱の手法の変形例を述べる。
【0134】
酸無水物を用いずに、加熱によっても保護基が離脱されることを確認するために、実施例5に係る保護済ポリシロキサン組成物を、溶媒としてのジメチルホルムアミドに溶解させ、接着時と同じ温度である150℃に加熱した状態で1時間にわたり攪拌した。その後、溶媒を除去することにより、変形例に係る脱保護ポリシロキサン組成物を得た。
【0135】
そして、その変形例に係る脱保護ポリシロキサン組成物の
1H-NMRスペクトルを測定したところ、
図19に示した
1H-NMRスペクトルと比べて、アルキルシリル基Rとしてのトリメチルシリル基のメチルプロトンに由来するシグナルjの面積の減少、及び未保護カテコール基のヒドロキシ基に由来するシグナルiの面積の増加がみられた。即ち、酸無水物を用いずに、150℃での加熱によっても、変性カテコール基を未保護カテコール基に戻し得ることが確認された。
【0136】
[第3実施形態]
次に、接着剤の、対象物への塗布のしやすさの指標である粘性に関して述べる。
【0137】
図9A-
図9Dを参照して述べたように、接着性の発現には、カテコール基が寄与している。このため、接着剤の接着力を高めるうえでは、接着性モノマー単位Aの含有割合が高い方が有利と言える。一方、本願発明者らの研究によれば、接着剤の常温における粘度は、柔軟性モノマー単位Bの含有割合が高いほど小さくなる。このため、対象物への塗布のしやすさを向上させるうえでは、柔軟性モノマー単位Bの含有割合が高い方が有利である。
【0138】
そこで、実用に際しては、充分な接着力を得ることと、塗りやすさを向上させることとの兼ね合いを図ることが望まれる。この兼ね合いを図るために、接着剤の用途に応じて、接着剤に占める柔軟性モノマー単位Bの含有割合を容易に調整できれば便利である。以下、そのための実施形態について説明する。
【0139】
図21に示すように、本実施形態では、まず、既述の構造単位比が互いに異なる複数種のポリシロキサン組成物を準備する(準備工程S11)。そして、それら複数種のポリシロキサン組成物を混合し、それら複数種のポリシロキサン組成物の混合物としての接着剤を得る(混合工程S12)。
【0140】
本手法によれば、準備工程S11で準備する複数種のポリシロキサン組成物のうち、相対的に柔軟性モノマー単位Bの含有割合が高いものが、シンナー(thinner)の役割を果たす。具体的には、混合工程S12で、第1ポリシロキサン組成物と、柔軟性モノマー単位Bの含有割合が第1ポリシロキサン組成物よりも低い第2ポリシロキサン組成物とを混合する場合は、第1ポリシロキサン組成物が第2ポリシロキサン組成物の粘度を低下させるシンナーの役割を果たす。このため、第1ポリシロキサン組成物と第2ポリシロキサン組成物との混合比によって、得られる接着剤の粘度を容易に調整できる。
【0141】
【0142】
まず、上述したシンナーの役割を果たす第1ポリシロキサン組成物として、既述のDMDMS:APDMMSの仕込み比を19:1とした以外は、実施例1-4と同様の要領で、実施例6に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2を作成した。
【0143】
但し、実施例6に係る共重合工程S1では、DMDMS、APDMMS、触媒、及び溶媒を含む混合溶液から溶媒を蒸発させるためにその混合溶液を加熱する際、混合溶液の液面の面積は、実施例1-4の場合よりも小さくした。これは、柔軟性モノマー単位Bの形成に寄与する環状オリゴマーの揮発を抑えるためである。
【0144】
図22に、実施例6に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)
2のFT-IRスペクトルを示す。実施例6においても、ウレア結合に由来する吸収ピークが波数1632cm
-1及び波数1575cm
-1の位置に観測され、既述のカテコール基導入工程S3でウレア結合がきちんと形成されたことが確認された。
【0145】
図23は、実施例6に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)
2の
1H-NMRスペクトルを示す。
1H-NMRスペクトルには、芳香環由来のシグナルhが観測された。これにより、接着性モノマー単位Aへのカテコール基の導入が確かめられた。また、
1H-NMRスペクトルのケイ素原子に隣接するメチルプロトンのシグナルaと、芳香環に由来すシグナルhとの積分比より、PDMS/PS-U-Ph(OH)
2における、柔軟性モノマー単位B:接着性モノマー単位Aのmol比である構造単位比を算出したところ、93:7であった。
図23では、構造単位比を括弧()で示し、既述の仕込み比を括弧<>で示している。
【0146】
一方、上述した第2ポリシロキサン組成物として、既述の実施例3に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2を準備した。そして、第1ポリシロキサン組成物としての実施例6に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2と、第2ポリシロキサン組成物としての実施例3に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2とを、第1ポリシロキサン組成物:第2ポリシロキサン組成物の質量比が1:3となる条件で混合し、実施例に係る接着剤を得た。
【0147】
具体的には、まず、質量比が1:3となるように秤量した実施例6に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2と、実施例3に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2との各々をエタノールに溶解したものを混合し、混合溶液を作成した。次に、その混合溶液をロータリーエバポレータで濃縮した後、撹拌しなから水に投入し、実施例に係る接着剤を析出させた。
【0148】
以下、本実施例に係る接着剤の、接着特性に関する評価結果について述べる。
【0149】
図8を参照して説明した要領で、本実施例に係る接着剤で張り合わせた一対のアルミウニム板よりなる評価サンプルを作成した。そして、その評価サンプルに対して引張せん断試験を行ったところ、実施例1-4の場合と同様、使用した引張せん断試験機で測定可能な最大応力である8.16MPaまで引っ張っても、評価サンプルの接着面は剥離せず、強力な接着性が確認された。接着面が剥離する時のせん断応力を確認するために接着面の面積を61mm
2とした場合には、9.6MPaと、充分なせん断強度を示した。
【0150】
また、同評価サンプルに対し、
図14A及び
図14Bを参照して説明した要領で、耐衝撃性試験を行った。同評価サンプルは、ハンマーで叩いても接着面が剥離せず、優れた耐衝撃性を示すことが確認された。
【0151】
また、同評価サンプルに対して既述の耐熱性試験を行った。5kgの重りの荷重がせん断力として接着面に作用している状態の同評価サンプルは、250℃においても接着状態を維持した。即ち、250℃の耐熱性が確認された。
【0152】
また、本実施例に係る接着剤を用いて、既述のアルミ-ステンレス接着性評価用サンプルを作成した。そのアルミ-ステンレス接着性評価用サンプルは、実施例1-4の場合と同様、接着面に5kgの重りの荷重がせん断力として作用している状態で150℃に加熱しても接着状態を維持し、その後に室温まで冷却しても接着状態を維持した。
【0153】
次に、本実施例に係る接着剤の、塗布のしやすさの評価結果について述べる。
【0154】
上述した第2ポリシロキサン組成物としての実施例3に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2は、硬いペースト状であった。一方、第1ポリシロキサン組成物としての実施例6に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2は、液状であった。そして、両者の混合物である本実施例に係る接着剤は、軟質なペースト状であった。
【0155】
本実施例に係る接着剤の、板状の対象物への塗布のしやすさは、第2ポリシロキサン組成物としての実施例3に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2に比べると、確かに向上していることが確認された。これは、第1ポリシロキサン組成物が第2ポリシロキサン組成物の粘度を低下させるシンナーの役割を果たしたことによる。
【0156】
なお、上述した第1ポリシロキサン組成物:第2ポリシロキサン組成物の質量比1:3をモノマー単位のmol比に換算すると、34:66となる。このため、本実施例に係る接着剤における、柔軟性モノマー単位B:接着性モノマー単位Aのmol比は、(93×34+66×66):(7×34+34×66)≒75:25である。
【0157】
このmol比の値は、実施例4に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2の構造単位比75:25と近似する。しかし、本実施例に係る接着剤の室温における塗布のしやすさの方が、実施例4に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2の室温における塗布のしやすさよりも優れていることが確認された。
【0158】
即ち、柔軟性モノマー単位B:接着性モノマー単位Aのmol比が同じ場合、互いに構造単位比が異なる複数種のポリシロキサン組成物を混合した接着剤の方が、1種類のポリシロキサン組成物よりなる接着剤よりも、塗布のしやすさが向上し得ることが分かった。
【0159】
以上、混合物としての接着剤に占める柔軟性モノマー単位Bの含有割合が75mol%である場合について例示的に述べた。柔軟性モノマー単位Bの含有割合はこの値に限られず、第1ポリシロキサン組成物と第2ポリシロキサン組成物との混合比によって任意に調整可能である。充分な接着力を得ることと、塗りやすさを向上させることとの兼ね合いを図るためには、混合物として接着剤に占める柔軟性モノマー単位Bの含有割合は、47mol%以上、95mol%以下であることが好ましい。
【0160】
なお、上記実施例では、第1ポリシロキサン組成物と第2ポリシロキサン組成物とを混合する製法を例示したが、第1ポリシロキサン組成物及び第2ポリシロキサン組成物に加え、構造単位比が第1ポリシロキサン組成物及び第2ポリシロキサン組成物とは異なる第3ポリシロキサン組成物をさらに混合してもよいし、構造単位比が互いに異なる4種以上のポリシロキサン組成物を混合してもよい。
【0161】
また、このようにして、構造単位比が互いに異なる複数種のポリシロキサン組成物を混合するに際し、それら複数種のポリシロキサン組成物の少なくともいずれかは、既述の脱保護ポリシロキサン組成物であってもよい。また、既述のように、保護済ポリシロキサン組成物も接着剤として使用され得るため、上述した複数種のポリシロキサン組成物の少なくともいずれかは、未保護カテコール基が変性カテコール基に置き換えられた保護済ポリシロキサン組成物であってもよい。
【0162】
以下、比較例に係る接着剤ついて説明する。
【0163】
上述した実施例では、混合物としての接着剤を得るに際し、粘度を低下させるために接着性モノマー単位Aの含有割合を7mol%に抑えた第1ポリシロキサン組成物を、シンナーとして用いた。また、既述のように、接着性モノマー単位Aの含有割合が低いほど、得られるポリシロキサン組成物の粘度が低下する傾向が認められる。
【0164】
そこで、接着性モノマー単位Aの含有割合を0mol%に抑えたポリシロキサンが、上述したシンナーとしての役割を果たし得るか否かを調べるために、カテコール基を含有しないシリコーンオイル(silicone oil)をシンナーとして用いて接着剤の作製を試みた。
【0165】
具体的には、シリコーンオイルと、既述の第2ポリシロキサン組成物としての実施例3に係るPDMS/PS-U-Ph(OH)2とを、シリコーンオイル:第2ポリシロキサン組成物の質量比が1:3となる条件で混合したものを、エタノールに溶解させ、水に投入した。この結果、シリコーンオイルとPDMS/PS-U-Ph(OH)2とは相溶せず、両者が分離した状態で析出した。即ち、カテコール基を含有しないシリコーンオイルは、PDMS/PS-U-Ph(OH)2に対してシンナーの役割を果たし得なかった。
【0166】
この結果より、第1ポリシロキサン組成物が第2ポリシロキサン組成物と相溶することにより第2ポリシロキサン組成物に対してシンナーの役割を果たすためには、第1ポリシロキサン組成物が僅かでも接着性モノマー単位Aを含有している必要があることが分かった。
【0167】
一例として、接着性モノマー単位Aの含有割合が0mol%を超え、10mol%以下であるポリシロキサン組成物を、接着性モノマー単位Aの含有割合が10mol%を超える他のポリシロキサン組成物に対するシンナーとして用いることができる。
【0168】
本発明は、その広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な変形が可能とされる。上記実施形態及び実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲は、実施形態及び実施例ではなく、請求の範囲によって示される。請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0169】
本出願は、2021年4月9日に日本国に出願された特願2021-66515号に基づく。本明細書中に特願2021-66515号の明細書、特許請求の範囲、及び図面の全体を参照として取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本開示に係る接着剤は、例えば、せん断強度及び耐衝撃性が求められる箇所の接着に用いることができる。一具体例として、本開示に係る接着剤は、自動車を構成する部材どうしの接着に用いることができる。本開示に係る接着剤の硬化物はせん断強度及び耐衝撃性を有するので、自動車の走行中の振動あるいは衝突に伴う衝撃荷重が加えられても、丈夫な接着構造を安定して維持することができる。
【0171】
また、本開示に係る接着剤は、異種材料どうしの接着にも用いることができる。これにより、異種材料を適材適所に配置したマルチマテリアル構造の実現が可能となる。特に、アルミニウム、ステンレス、銅、ガラス、及びエポキシ樹脂からなる群より選択される任意の2種類の材料どうしの接着に適している。マルチマテリアル構造は、自動車、航空機等の輸送機の軽量化に資する。