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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】粘膜洗浄用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/365 20060101AFI20250114BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20250114BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20250114BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20250114BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20250114BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20250114BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20250114BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20250114BHJP
   A61P 15/02 20060101ALI20250114BHJP
   A61P 31/02 20060101ALI20250114BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20250114BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20250114BHJP
   C11D 7/26 20060101ALI20250114BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
A61K8/365
A61K8/44
A61K8/36
A61Q19/10
A61Q11/00
A61K31/198
A61K31/19
A61P1/02
A61P15/02
A61P31/02
A61P31/04
A61P11/02
C11D7/26
C11D7/32
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020110576
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007543
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-05-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】五味 満裕
(72)【発明者】
【氏名】浅野 良太
(72)【発明者】
【氏名】源治 紗也佳
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-146892(JP,A)
【文献】特開2013-209336(JP,A)
【文献】国際公開第2015/070072(WO,A1)
【文献】特開2016-008206(JP,A)
【文献】特開2016-026197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00-9/72、31/00-31/327、47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
C11D 7/26、7/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)乳酸及び/又はその塩、(B)グリシン、並びに(C)酢酸及び/又はその塩を含有し、pHが3.8~6である粘膜洗浄用組成物。
【請求項2】
前記(A)成分の含有量が総量で0.5~2重量%である、請求項1に記載の粘膜洗浄用組成物。
【請求項3】
前記(B)成分の含有量が0.5~5重量%である、請求項1又は2に記載の粘膜洗浄用組成物。
【請求項4】
前記(C)分の含有量が総量で0.1~1.5重量%である、請求項1~3のいずれかに記載の粘膜洗浄用組成物。
【請求項5】
膣粘膜に用いられる、請求項1~のいずれかに記載の粘膜洗浄用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺激性が低く防腐性に優れる粘膜洗浄用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パラベンは優れた抗菌防腐能を発揮する物質であり、化粧品や医薬部外品等の組成物に最も広く使用されている(特許文献1)。具体的には、パラベンとして、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等が用いられている。
【0003】
咽頭、鼻腔、口腔、膣等の粘膜においては、汚れの付着による不快感、微生物の付着による炎症や感染症が生じることが知られている。このような粘膜における症状を予防及び改善するためには、粘膜用の洗浄液によって粘膜の付着物を除去することが有効であるとされている。そして、このような粘膜用の洗浄液においても、抗菌防腐性能が高いパラベンが用いられている(特許文献2)。
【0004】
一方で、パラベンには、刺激性やアレルギー性(非特許文献1)などの問題も知られている。このため、パラベンの使用量を軽減したり、使用を控えたりすることが望まれる。しかしながら、パラベンは、それ自体優れた抗菌防腐能を有しているため、組成物自体の抗菌防腐性を担保しながら防腐剤の配合を極力少量とする又は使用を無くす目的においては、未だ代替えが困難といえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-114291号公報
【文献】特開2018-2661号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】第38回日本トキシコロジー学会学術年会抄録、セッションID:P-67、2011年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、パラベンを使用せずとも、刺激性が低く防腐性に優れる粘膜洗浄用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討の結果、粘膜洗浄料用組成物において、乳酸及び/又はその塩と、グリシンと、酢酸及び/又はその塩とを組み合わせて配合することで、刺激性が低いながら優れた防腐性を発揮できることを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
稿1. (A)乳酸及び/又はその塩、(B)グリシン、並びに(C)酢酸及び/又はその塩を含有する粘膜洗浄用組成物。
項2. 前記(A)成分の含有量が総量で0.5~2重量%である、項1に記載の粘膜洗浄用組成物。
項3. 前記(B)成分の含有量が0.5~5重量%である、項1又は2に記載の粘膜洗浄用組成物。
項4. 前記(C)分の含有量が総量で0.1~1.5重量%である、項1~3のいずれかに記載の粘膜洗浄用組成物。
項5. pHが3.8~8である、項1~4のいずれかに記載の粘膜洗浄用組成物。
項6. 膣粘膜に用いられる、項1~5のいずれかに記載の粘膜洗浄用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粘膜洗浄用組成物によれば、刺激性が低いながら優れた防腐性を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の粘膜洗浄用組成物は、(A)乳酸及び/又はその塩(以下において、「(A)成分」とも記載する)、(B)グリシン(以下において、「(B)成分」とも記載する)、並びに(C)酢酸及び/又はその塩(以下において、「(C)成分」とも記載する)を含有することを特徴とする。以下、本発明の粘膜洗浄用組成物について詳述する。
【0012】
(A)乳酸及び/又はその塩
本発明の粘膜洗浄用組成物は、(A)成分として乳酸及び/又はその塩を含有する。
【0013】
乳酸(2-ヒドロキシプロピオン酸)及びその塩は、pH調整剤及び/又は保湿成分として、化粧品、医薬部外品等に配合される成分である。
【0014】
乳酸の塩としては、香粧学的又は薬学的に許容可能である塩であれば特に限定されない。具体的には、乳酸の塩としては、乳酸アルカリ金属塩(乳酸ナトリウム、乳酸カリウム等)、乳酸アルカリ土類金属塩(乳酸カルシウム、乳酸マグネシウム等)、乳酸アルミニウム、乳酸亜鉛、乳酸銀、乳酸銅、乳酸鉄、乳酸マンガン、乳酸アンモニウム等が挙げられる。これらの乳酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明においては、乳酸の塩として、好ましくは乳酸アルカリ金属塩が挙げられ、より好ましくは乳酸ナトリウムが挙げられる。
【0015】
本発明においては、(A)成分として、L(+)体、D(-)体、及びDL体のいずれを用いてもよい。具体的には、(A)成分として、化学合成法により得られたDL-体を用いてもよいし、乳酸菌を用いた発酵法により得られたL(+)体、D(-)体、又はDL体を用いてもよい。本発明においては、これらの(A)成分の中でも、好ましくはL体が用いられる。
【0016】
また、本発明においては、(A)成分として、乳酸及び乳酸の塩のいずれか一方を用いてもよいし、両方を組み合わせて用いてもよい。本発明においては、(A)成分として、少なくとも乳酸を用いること、つまり、乳酸、又は乳酸及び乳酸の塩の組み合わせを用いることが好ましい。
【0017】
本発明の粘膜洗浄用組成物における(A)成分の含有量としては、総量で0.5~2重量%が挙げられる。より低減された刺激性及び/又はより優れた防腐性を得る観点から、(A)成分の含有量としては、総量で、好ましくは0.7~1.5重量%、より好ましくは0.9~1.2重量%が挙げられる。また、(A)成分として乳酸を含む場合の乳酸の含有量としては、0.1~1.8重量%が挙げられる。より低減された刺激性及び/又はより優れた防腐性を得る観点から、(A)成分として乳酸を含む場合の乳酸の含有量としては、好ましくは0.3~1.6重量%、より好ましくは0.4~1.4重量%、さらに好ましくは0.6~1.2重量%、一層好ましくは0.8~1.1重量%が挙げられる。
【0018】
(B)グリシン
本発明の粘膜洗浄用組成物は、(B)成分としてグリシンを含有する。グリシンは、保湿成分として、化粧品、医薬部外品等に配合される成分である。
【0019】
本発明の粘膜洗浄用組成物における(B)成分の含有量としては、0.5~5重量%が挙げられる。より低減された刺激性及び/又はより優れた防腐性を得る観点から、(B)成分の含有量としては、好ましくは0.7~4重量%、より好ましくは0.9~3重量%、さらに好ましくは1.5~2.5重量%、一層好ましくは1.8~2.2重量%が挙げられる。
【0020】
本発明の粘膜洗浄用組成物において、(A)成分と(B)成分との比率は特に限定されず、上記の各含有量により定まるが、より低減された刺激性及び/又はより優れた防腐性を得る観点から、(A)成分の総量1重量部に対する(B)成分の含有量として、例えば0.25~2.5重量部が挙げられる。より低減された刺激性及び/又はより優れた防腐性を得る観点から、(A)成分の総量1重量部に対する(B)成分の含有量として、好ましくは0.35~2重量部、より好ましくは0.45~1.5重量部、さらに好ましくは0.75~1.25重量部、一層好ましくは0.9~1.1重量部が挙げられる。
【0021】
(C)酢酸及び/又はその塩
本発明の粘膜洗浄用組成物は、(C)成分として酢酸及び/又はその塩を含有する。酢酸及び/又はその塩は、pH調整剤として、化粧品、医薬部外品等に配合される成分である。
【0022】
酢酸の塩としては、香粧学的又は薬学的に許容可能である塩であれば特に限定されない。具体的には、酢酸の塩としては、酢酸アルカリ金属塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等)、酢酸アルカリ土類金属塩(酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム等)、酢酸亜鉛、酢酸銀、酢酸銅、酢酸アンモニウム等が挙げられる。これらの酢酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明においては、酢酸の塩として、好ましくは酢酸アルカリ金属塩が挙げられ、より好ましくは酢酸ナトリウムが挙げられる。
【0023】
また、本発明においては、(C)成分として、酢酸及び酢酸の塩のいずれか一方を用いてもよいし、両方を組み合わせて用いてもよい。本発明においては、(C)成分として、好ましくは酢酸の塩を用いることができる。
【0024】
本発明の粘膜洗浄用組成物における(C)成分の含有量としては、総量で0.1~1.5重量%が挙げられる。より低減された刺激性及び/又はより優れた防腐性を得る観点から、(C)成分の含有量としては、総量で、好ましくは0.2~1.3重量%、より好ましくは0.3~1重量%、さらに好ましくは0.5~0.8重量%が挙げられる。
【0025】
本発明の粘膜洗浄用組成物において、(A)成分と(C)成分との比率は特に限定されず、上記の各含有量により定まるが、より低減された刺激性及び/又はより優れた防腐性を得る観点から、(A)成分の総量1重量部に対する(C)成分の含有量の総量として、例えば0.1~1.5重量部が挙げられる。より低減された刺激性及び/又はより優れた防腐性を得る観点から、(A)成分の総量1重量部に対する(C)成分の含有量の総量として、好ましくは0.15~1.3重量部、より好ましくは0.25~1重量部、さらに好ましくは0.5~0.8重量部が挙げられる。
【0026】
本発明の粘膜洗浄用組成物において、(B)成分と(C)成分との比率は特に限定されず、上記の各含有量により定まるが、より低減された刺激性及び/又はより優れた防腐性を得る観点から、(B)成分1重量部に対する(C)成分の含有量の総量として、例えば0.1~0.6重量部重量部が挙げられる。より低減された刺激性及び/又はより優れた防腐性を得る観点から、(B)成分の1重量部に対する(C)成分の含有量の総量として、好ましくは0.15~0.5重量部、より好ましくは0.2~0.4重量部が挙げられる。
【0027】
他の成分
本発明の粘膜洗浄用組成物には、前記成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、製剤化等に必要とされる他の基剤や添加剤が含まれていてもよい。このような基剤や添加剤については、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、水、炭素数1~5の低級アルコール、及び多価アルコール等の水性基剤、界面活性剤、防腐剤、着香剤、着色剤、粘稠剤、pH調整剤、湿潤剤、安定化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、粘着剤、緩衝剤、溶解補助剤、可溶化剤、保存剤等の添加剤が挙げられる。これらの基材や添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの基剤や添加剤の含有量は、製剤形態等に応じて適宜設定することができる。
【0028】
本発明の粘膜洗浄用組成物には、上記の基剤や添加剤の中でも、好ましくは水及び多価アルコールが含まれ、好ましくは水及びプロピレングリコールが挙げられる。本発明の粘膜洗浄用組成物に多価アルコールが含まれる場合多価アルコールの含有量としては、5~20重量%、好ましくは8~16重量%、より好ましくは10~14重量%が挙げられる。
【0029】
本発明の粘膜洗浄用組成物には、上記の基剤や添加剤のうち、防腐剤を実質的に含まないことが好ましい。防腐剤を実質的に含まないとは、防腐剤の濃度が防腐効果を生じる濃度で含まない意であり、具体的には防腐剤として0.01重量%以下、好ましくは0.001重量%以下、さらに好ましくは0.0001重量%が挙げられ、最も好ましくは0重量%が挙げられる。
【0030】
本発明の粘膜洗浄用組成物には、前記成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の薬理成分を含有していてもよい。このような薬理成分としては、例えば、ビタミン類、抗ヒスタミン剤、局所麻酔剤、抗炎症剤、皮膚保護剤、血行促進成分、清涼化剤、ムコ多糖類等が挙げられる。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの薬理成分を含有させる場合、その含有量については、使用する薬理成分の種類、期待する効果等に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
形態
本発明の粘膜洗浄用組成物のpH(25℃)は、粘膜を傷害しない程度であれば特に制限されないが、例えば3.8~8、好ましくは3.9~6、より好ましくは4~5、さらに好ましくは4.1~4.5、一層好ましくは4.2~4.4が挙げられる。本発明の組成物をこのようなpHに調整するためには、従来公知の方法に従って行うことができ、例えば、塩酸、クエン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、マレイン酸、硫酸、リン酸、リンゴ酸、アルギニン、アンモニア水、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、及びこれらの塩等の緩衝剤を適宜添加して行うことができる。また、(A)成分及び/又は(C)成分における酸(乳酸及び/又は酢酸)並びに/若しくはその塩(乳酸の塩及び/又は酢酸の塩)の量を調整することによってpHを調整することもできる。
【0032】
本発明の粘膜洗浄用組成物の剤型は特に限定されないが、例えば、液剤、ペースト剤、軟膏剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、クリーム剤等の形態が挙げられる。これらの中でも、本発明の粘膜洗浄用組成物の剤型の好ましい例として、液剤が挙げられる。
【0033】
また、本発明の粘膜洗浄用組成物は、各成分を前記の濃度で含む製品として提供されてもよいし、また、用時に適宜水等により希釈することで、各成分の濃度が前記の濃度となるように調製される濃縮物として提供されてもよい。
【0034】
用途
本発明の粘膜洗浄用組成物は、粘膜への刺激性が低く防腐性に優れるため、粘膜の洗浄用として使用される。本発明の粘膜洗浄用組成物が適用される粘膜としては、特に限定されないが、例えば、鼻腔、咽頭、口腔、耳、膣、膀胱、直腸等の粘膜に対して適用することができ、好ましくは膣の粘膜に対して適用することができる。特に、本発明の粘膜洗浄用組成物が膣に対して適用される場合、本発明の粘膜洗浄用組成物は、細菌性膣症(BV)関連菌に対して抗菌性を示し、膣内常在菌である乳酸桿菌に対しては抗菌性を示さない、選択抗菌を目的として使用することができる。
【0035】
本発明の粘膜洗浄用組成物の使用方法としては、洗浄効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、粘膜に滴下する方法、スプレー等で粘膜に噴霧する方法、カテーテル等により注入する方法、鼻腔であれば洗浄液を鼻腔に流しこみ口から吐き出す方法や、洗浄液を一方の鼻腔に流しこみ他方の鼻腔から吐き出す方法、口腔であれば口に含んで洗口する方法及びブラシにより磨く方法、膣であれば腟腔に注入して腟口から流出させる方法等が挙げられる。
【0036】
また、洗浄時における本発明の粘膜洗浄用組成物の適用量は特に限定されず、適用部位の大きさ、粘膜への異物の付着の程度等を考慮して適宜設定され得るが、例えば、鼻腔粘膜の洗浄を目的とする場合であれば、10~30mL、好ましくは15~25mL、耳粘膜の洗浄を目的とする場合であれば、0.2~1mL、好ましくは0.2~0.7mL、口腔粘膜の洗浄を目的とする場合であれば、5~30mL、好ましくは10~20mL、膣粘膜の洗浄を目的とする場合であれば、50~200mL、好ましくは100~140mLが挙げられる。
【実施例
【0037】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
試験例
表1に示す組成の粘膜洗浄用組成物を調製した。表1に示す(A)成分の詳細は以下の通りである。なお、表1に示す粘膜洗浄用組成物は液状であった。
・乳酸(乳酸90重量%含有発酵物;商品名ムサシノ乳酸90F;株式会社武蔵野化学研究所製)なお、表中の数値は、当該乳酸材料に含まれる乳酸の量を示している。
・乳酸ナトリウム(乳酸ナトリウム50重量%)含有発酵物;商品名乳酸ソーダF;株式会社武蔵野化学研究所製)なお、表中の数値は、当該乳酸材料に含まれる乳酸ナトリウムの量を示している。
また、全ての粘膜洗浄用組成物において、組成物中の乳酸イオン及び乳酸分子の総量を1.0重量%となるようにそろえた。
【0039】
<防腐効力試験>
以下に示す浅賀法により防腐効力試験を行った。
(1)Aspergillus brasiliensis(KPB1042)をSCD培地に、Candida albicans(KPB1039)をPDA培地に、白金耳で塗布し、35℃で18~24時間前培養した。
(2)前培養した菌を10μLのプラスチック白金耳ですりきり一杯分採取し、生理食塩水10mLに懸濁し、A.brasiliensis胞子液及びC.albicans菌液を調製した。
(3)予め20g分注しておいた粘膜洗浄用組成物に、胞子液又は菌液0.1mLを接種し、撹拌し、初期菌数を測定した。
(4)25℃で保存し、1週間後(1w)、2週間後(2w)及び4週間後(4w)における菌数を測定した。測定した菌数を、初期菌数を100%とする相対値(%)で表した。結果を表1に示す。
【0040】
<殺菌効力試験>
試験菌として、以下の細菌性膣症(BV)関連菌及び乳酸桿菌(膣内常在菌)を用い、粘膜洗浄用組成物を膣粘膜に適用する場合を想定した選択殺菌能を試験した。それぞれの菌の菌種、増殖培地、及び生菌数測定用寒天培地の詳細な以下の通りである。
【0041】
・BV菌-1
試験菌種:Fusobacterium nucleatum subsp. Nucleatum ATCC 25586
増殖培地:F. nucleatum→変法GAM液体培地
生菌数測定用寒天培地:Fetal Bovine Serumを終濃度10重量%となるように添加した変法GAM寒天培地
【0042】
・BV菌-2
試験菌種:Mobiluncus curtisii ATCC 35241
増殖培地:Fetal Bovine Serumを終濃度10重量%となるように添加した変法GAM液体培地
生菌数測定用寒天培地:Fetal Bovine Serumを終濃度10重量%となるように添加した変法GAM寒天培地
【0043】
・乳酸桿菌
試験菌種:Lactobacillus crispatus ATCC 33820
増殖培地:Fetal Bovine Serumを終濃度10重量%となるように添加したMRS液体培地
生菌数測定用寒天培地:MRS寒天培地
【0044】
上記3種の試験菌について、窒素93体積%、二酸化炭素体積5%及び酸素2体積%の環境下で、37℃、24時間の試験に供した。具体的には以下の手順を行った。
【0045】
(1)試験菌液の調製
1.保存菌株をMRS寒天培地に移植し、37℃で24時間、アネロパック・ケンキを用いて嫌気的に前培養した。
2.前培養後の試験菌を3倍濃縮の増殖培地を用いて、約1.0×107CFUml/Lとなるように調製したものを試験菌液とした。
【0046】
(2)作用環境の調整
1.グローブボックス内に液体窒素を所定量入れた容器を設置した。また、試験試料と試験菌液の作用に使用する密閉容器を、蓋を開けた状態で、グローブボックス内に設置した。
2.所定時間放置し、液体窒素を気化させ、グローブボックス内の空気を窒素に置換した。
3.試験室の空気を用いて、グローブボックス内の酸素濃度を2%に調整した。
4.実験用ガス(二酸化炭素)を用いて、グローブボックス内の二酸化炭素濃度を5%に調整した。
【0047】
(3)
1.安全キャビネット内で、試験試料(粘膜洗浄用組成物)と試験菌液とを2:1で混合し、シャーレに分注した。
2.(2)で調整したグローブボックス内に分注したシャーレを入れ、予め設置しておいた密閉容器にシャーレを入れ、グローブボックス内で蓋をして密閉させた。
3.蓋をした密閉容器をグローブボックスから取り出し、37℃で所定時間作用させた。
4.安全キャビネット内で、所定時間放置後の試験菌懸濁液0.5mLをSCDLP4.5mLに添加して混合した。
5.アネロパック・ケンキを用いて、混釈平板培養法による生菌数測定を行った。結果を表2に示す。
【0048】
<刺激性評価試験>
(1)培養角膜モデルLabCyte CORNE-MODEL24の準備
アッセイ培地を温め、24ウェルアッセイプレート第1行に0.5mLずつ添加した。培養角膜モデルLabCyte CORNEA-MODEL24(ロット番号LCC24-191014-A)を、24ウェルアッセイプレート第1行に移した。24ウェルアッセイプレートをCO2インキュベーターに入れ、一晩静置した。
【0049】
(2)被験物質の適用及び洗浄
PBSを温め、24ウェルアッセイプレート第3行に0.5mLずつ添加した。被験物質(粘膜洗浄用組成物)を培養カップの培養表皮に50μLのせ、全体に行き渡らせた。7分間暴露した後、培養角膜モデルを20回洗浄し、滅菌綿棒で水分を拭き取り、24ウェルアッセイプレート第3行に移した。
【0050】
なお、上記(1)及び(2)において、プレート1枚分(6ウェルを使用)ずつ、暴露及び洗浄を行った。後述の(3)の試験は、プレート2枚分(合計12ウェル分)ずつ行った。(1)~(3)において、サンプル及び洗浄用PBSは37℃に温めて使用した。プレートは32℃のホットプレート上において作業した。
【0051】
(3)WST-8試験
EBSSを37℃で温め、CellCounting Kit-8:EBSS=1:10(体積比)となるように希釈し、WST-8希釈液を調製し、24ウェルアッセイプレート第4行に0.3mLずつ添加した。培養角膜モデルの水分を滅菌綿棒で拭き取り、24ウェルアッセイプレート第4行に移した。ブランク用に、空きウェルにWST-8添加培地を入れておいた。CO2インキュベーターにプレートを入れ、3.5時間反応を行った。反応終了後、培養カップを取り出し、WST-8反応液200μLを96ウェルプレートに移した。なお、A1にブランク用培地200μLを入れた。マイクロプレートリーダーで、450nm及び650nmの吸光度を測定した。
【0052】
(4)ヒト角膜細胞生存率の算出
450nmの吸光度から650nmの吸光度を差し引いた値を測定値とし、下記式に基づいて被験物質の性細胞率を計算した。結果を表2に示す。
【0053】
【数1】
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表1及び表2に示す通り、乳酸及び/又は乳酸ナトリウム、グリシン、並びに酢酸ナトリウムを含有する粘膜洗浄用組成物は、刺激性が低く防腐性に優れていた。さらに、表2に示す通り、乳酸及び/又は乳酸ナトリウム、グリシン、並びに酢酸ナトリウムを含有する粘膜洗浄用組成物は、膣粘膜に適用される場合に、細菌性膣症(BV)関連菌に対して抗菌性を示し、膣内常在菌である乳酸桿菌に対しては抗菌性を示さない、選択抗菌も有していた。
【0057】
処方例
表3に示す処方の液状の粘膜洗浄用組成物を調製した。それぞれの粘膜洗浄用組成物に用いられる乳酸材料及び乳酸ナトリウム材料は試験例と同様であり、表中の数値は、当該乳酸材料に含まれる乳酸の量及び当該乳酸材料に含まれる乳酸ナトリウムの量を示している。いずれの粘膜洗浄用組成物についても、刺激性が低く防腐性に優れており、膣粘膜に適用される場合には、細菌性膣症(BV)関連菌に対する選択抗菌も有していた。
【0058】
【表3】