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特許7618562環状モノチオカーボネート基を有する化合物の調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】環状モノチオカーボネート基を有する化合物の調製方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 327/04 20060101AFI20250114BHJP
   C07D 411/06 20060101ALI20250114BHJP
【FI】
C07D327/04
C07D411/06 CSP
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021541192
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-08
(86)【国際出願番号】 EP2020051115
(87)【国際公開番号】W WO2020148423
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】19152435
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ティール,アンドル
(72)【発明者】
【氏名】イェゲルカ,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ブルッヒマン,ベルント
(72)【発明者】
【氏名】クリスト,エリオット
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】Doklady Akademii Nauk SSSR,1962年,142,838-840
【文献】Bioconjugate Chemistry,2018年,30,101-110
【文献】Analytical Chemistry,2016年,89,688-693
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個の環状モノチオカーボネート基を含む化合物を調製するための方法であって、少なくとも1個の酸性水素原子を有する酸性化合物及び塩基で形成される塩を、式(I):
【化1】
[式中、
基R1~R4のうちの1つは、式(II):
-A-X
(式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基を表し、Xはハロゲン化物を表す)
の基であり、
R1~R4の残りの基は、互いに独立して水素、又は1~50個の炭素原子を有する有機基を表す]
の化合物と反応させ、
ここで、酸性化合物が、硫化水素、又はヒドロキシ基、チオール基、イミド基若しくはカルボン酸基から選択される少なくとも1個の基を有する有機化合物である、方法。
【請求項2】
酸性化合物が、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、又はカルボン酸基から選択される1~10個の基を有する有機化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機化合物が最大1000g/molの分子量を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
有機化合物が、酸素又は硫黄以外のヘテロ原子を含まない、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
有機化合物が、カルボニル基、チオエーテル基又はエーテル基をさらに含む、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
塩基がアルカリ水酸化物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式(I)における基R1~R4のうちの1つが式(II)の基であり、R1~R4の残りの基が水素である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
式(II)におけるAが1~10個の炭素原子を有するアルキレン基である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
式(II)におけるXが塩化物である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
式(I)の化合物が、式(III):
【化2】
[式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基である]
の化合物である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
Aが、1~10個の炭素原子を有するアルキレン基である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
酸性化合物及び塩基の塩が別に形成され、次に得られた塩を式(I)の化合物と反応させる、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
酸性化合物を塩基の存在下で式(I)の化合物と反応させ、塩がその場で形成される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
以下の式:
【化3】
の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、少なくとも1個の環状モノチオカーボネート基を含む化合物を調製するための方法であって、少なくとも1個の酸性水素原子を有する酸性化合物の塩を、式(I):
【0002】
【化1】
[式中、
基R1~R4のうちの1つは、式(II):
-A-X
(式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基を表し、Xはハロゲン化物を表す)
の基であり、R1~R4の残りの基は、互いに独立して水素、又は1~50個の炭素原子を有する有機基を表す]
の化合物と反応させる、方法である。
【背景技術】
【0003】
モノチオカーボネート基は、アミノ化合物との開環反応を介してチオール基を提供する。チオール基は高い反応性を有する。チオール基を有する化学的化合物は、化学合成に有用な出発原料である。チオール基を有するポリマーは、化学反応によって容易に架橋又はさらに改変され得る。モノチオカーボネート基は、潜在的チオール基提供体(latent thiol groups providers)である。厳密に必要なときに開環反応を介してチオール基を提供する。
【0004】
このように、モノチオカーボネート基を有する化合物は、化学合成に及び化学的化合物、例えばポリマーへの技術的適用に非常に有用である。
【0005】
モノチオカーボネート基を有する化合物を合成する異なる方法が、最新技術に記載されている。
【0006】
米国特許第3,349,100号に開示されている方法によると、アルキレンモノチオカーボネートは、エポキシドを硫化カルボニルと反応させることによって得られる。硫化カルボニルの利用可能性は限定されている。得られるアルキレンモノチオカーボネートの収率及び選択率は低い。
【0007】
ホスゲンを出発原料として使用する合成は、米国特許第2,828,318号から公知である。ホスゲンをヒドロキシメルカプタンと反応させる。モノチオカーボネートの収率は依然として低く、重合の副産物が観察される。
【0008】
米国特許第3,072,676号及び米国特許第3,201,416号の目的は、エチレンモノチオカーボネートの2工程調製方法である。第1の工程では、メルカプトエタノール及びクロロカルボキシレートを反応させて、ヒドロキシエチルチオカーボネートを得て、これを第2の工程において金属塩触媒の存在下で加熱して、エチレンモノチオカーボネートにする。
【0009】
米国特許第3,517,029号によると、アルキレンモノチオカーボネートは、メルカプトエタノール及びカーボネートジエステルをトリウムの触媒活性塩の存在下で反応させることによって得られる。
【0010】
Yoichi Taguchi et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 1988, 61, 921-925は、二硫化炭素及び2,2-ジメチルオキシランをトリメチルアミンの存在下で反応させることによるモノチオカーボネートの形成を開示する。
【0011】
Yutaka Nishiyama et al., Tetrahedron, 2006, 62, 5803-5807は、エポキシド、硫黄及び一酸化炭素を水素化ナトリウムの存在下で反応物として使用したモノチオカーボネートの形成を開示する。
【0012】
2015年8月13日に受理された寄稿であるM. Luo, X.-H. Zhang and D.J. Darensbourg, Catalysis Science & Technology, 2015(DOI: 10.1039/c5cy00977d)は、硫化カルボニルとエポキシドとのカップリング反応を介して得たいくつかの特定の環状モノチオカーボネートを開示する。
【0013】
Etlis, V.S. and Razuvaev, G.A., Doklady Akademi Nauk SSSR, 1962, 142, 838-840は、第二級アミノ基で置換されている環状モノチオカーボネートを含む化合物及びその合成を開示する。しかし、L.A. Paquette and L.S. Wittenbrook, 1966, 31, 1997-1999によると、アミノ置換環状モノチオカーボネートは調製されず、3-チエタンカルバメートが調製されている。
【0014】
国際公開第2019/034469A1号は、少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物を、ホスゲンと反応させ、続いて、得られた付加物をアニオン性硫黄化合物と反応させることによる、少なくとも1個のモノチオカーボネート基を有する化合物の合成方法に関する。
【0015】
従来技術の方法は、モノチオカーボネート環系を形成する方法である。そのような方法は、複雑であり、多くの場合に有害な材料、例えばホスゲンの使用を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
モノチオカーボネート官能性を、ポリマーを含む他の化学的化合物に導入する容易な方法を得ることが必要である。そのような方法は、実施することが容易であるべきであり、経済的であるべきであり、任意の有害な材料の使用又は形成を伴うべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、少なくとも1個の5員環状モノチオカーボネート基を含む、化合物を調製するための方法が見出された。
【0018】
第1の態様において、本発明は、少なくとも1個の環状モノチオカーボネート基を含む化合物を調製するための方法であって、少なくとも1個の酸性水素原子を有する酸性化合物の塩を、式(I):
【0019】
【化2】
[式中、
基R1~R4のうちの1つは、式(II):
-A-X
(式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基を表し、Xはハロゲン化物を表す)
の基であり、R1~R4の残りの基は、互いに独立して水素、又は1~50個の炭素原子を有する有機基を表す]
の化合物と反応させる、方法に関する。
【0020】
さらなる態様において、本発明は、硫化水素又は少なくとも1個のチオール基を含む有機化合物から選択される酸性化合物の塩を、式(III):
【0021】
【化3】
[式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基である]
の化合物と反応させて得られる、化合物に関する。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、少なくとも1個のイミド基を含む有機化合物の塩を、式(III):
【0023】
【化4】
[式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基、好ましくは1~10個の炭素原子を有するアルキレン基である]
の化合物と反応させて得られる、化合物に関する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
少なくとも1個の酸性水素原子を有する酸性化合物の塩
酸性水素原子を有する化合物は、塩基と塩を形成する。酸性水素は化合物から解離して塩基に付加し、アニオンとして有機化合物及びカチオンとして塩基を含む塩を生じる。
【0025】
酸性水素は、例えば、硫化水素(H2S)の水素原子、又はヒドロキシ基、チオール基、イミド基、カルボン酸基若しくは酸性炭素-水素基の水素原子である。
【0026】
好ましくは、酸性化合物は、硫化水素、又はヒドロキシ基(-OH)、チオール基(-SH)、イミド基((-C(=O)-)2NH)、カルボン酸基(-COOH)若しくは酸性炭素-水素基から選択される少なくとも1個の基を有する有機化合物である。酸性炭素-水素基は、特に、酸性炭素-水素基の炭素原子に対する他の2個の置換基の少なくとも一方、好ましくは両方が電気陰性基、例えばカルボニル基又はカルボン酸基であるものである。
【0027】
より好ましくは、酸性化合物は、ヒドロキシ基(-OH)、チオール基(-SH)、イミド基((-C(=O)-)2NH)又はカルボン酸基(-COOH)から選択される少なくとも1個の基を有する有機化合物である。
【0028】
最も好ましい実施形態において、酸性化合物は、イミド基から、代替的にはチオール基から選択される少なくとも1個の基を有する有機化合物である。
【0029】
酸性化合物は、低分子量化合物又はポリマー化合物であってもよく、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、カルボン酸基又は酸性炭素-水素基から選択される、例えば1000個まで、とりわけ500個まで、好ましくは100個までの基を含んでもよい。
【0030】
好ましい実施形態において、酸性化合物は、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、カルボン酸基又は酸性炭素-水素基から選択される、1~10個、とりわけ1~6個の基、より好ましくは1~4個、最も好ましくは1又は2個の基を含む有機化合物である。
【0031】
好ましい実施形態において、有機化合物は、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、カルボン酸基又は酸性炭素-水素基のいずれかを含み、これらの任意の組み合わせを含まない。
【0032】
有機化合物は、追加の官能基を含むことができ、酸素及び硫黄以外のヘテロ原子を含むことができる。有機化合物は、例えば、カルボニル基、チオエーテル基又はエーテル基を含むことができる。
【0033】
好ましい実施形態において、有機化合物は、追加の官能基に窒素原子を含まない。
【0034】
特に好ましい実施形態において、有機化合物は、酸素又は硫黄以外のヘテロ原子を含まない。
【0035】
より好ましい実施形態において、有機化合物は、カルボニル基、チオエーテル基又はエーテル基以外の追加の官能基を含まない。
【0036】
有機化合物は、脂肪族若しくは芳香族化合物、又は脂肪族及び芳香族の両方の基を含む化合物であり得る。
【0037】
好ましくは、有機化合物は、基準としてポリスチレンに対するGPCによって決定される、1,000,000g/molまで、とりわけ100,000g/molまで、より好ましくは10,000g/molまでの数平均分子量Mnを有する。
【0038】
特に好ましい有機化合物は、5000g/molまで、とりわけ1000g/molまでの確定分子量を有する非ポリマー化合物である。
【0039】
有機化合物の好ましい例は、芳香族若しくは脂肪族モノヒドロキシ化合物、又は芳香族若しくは脂肪族モノチオール、芳香族若しくは脂肪族ジヒドロキシ化合物、又は芳香族若しくは脂肪族ジチオールである。
【0040】
有機化合物の最も好ましい例は、芳香族環系に直接結合しているヒドロキシ又はチオール基を有する化合物である。
【0041】
塩基は、有機又は無機塩基であり得る。有機塩基は、例えば第三級アミンである。
【0042】
好ましくは、塩基は、アルカリ水酸化物又はアルカリ土類水酸化物である。
【0043】
最も好ましくは、塩基は、アルカリ水酸化物、とりわけ水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。
【0044】
有機化合物及び塩基は塩を形成し、ここで有機化合物はアニオンであり、塩基はカチオンである。
【0045】
式(I)の化合物
酸性化合物及び塩基の塩を、式(I):
【0046】
【化5】
[式中、基R1~R4のうちの1つは、式(II):
-A-X
(式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基を表し、Xはハロゲン化物を表す)の基であり、R1~R4の残りの基は、互いに独立して水素、又は1~50個の炭素原子を有する有機基を表す]
の化合物と反応させる。
【0047】
用語「ハロゲン化物」は、Xについて本明細書で使用されるとき、共有結合されたハロゲン原子、好ましくはCl原子の慣用名である。
【0048】
好ましくは、基R1~R4のうちの1つは式(II)の基であり、R1~R4の残りの基は、互いに独立して水素、又は1~10個の炭素原子を有する有機基を表す。有機基は、好ましくは炭化水素基、とりわけアルキル基である。
【0049】
より好ましくは、基R1~R4のうちの1つは式(II)の基であり、R1~R4の残りの基は水素である。
【0050】
好ましくは、Aは1~10個の炭素原子、とりわけ1~4個の炭素原子を有するアルキレン基であり、最も好ましくは、Aはメチレンである。
【0051】
好ましくは、Xは塩化物である。
【0052】
用語「塩化物」は、Xについて本明細書で使用されるとき、共有結合されたCl原子の慣用名である。
【0053】
好ましくは、R1は式(II)の基である。
【0054】
式(I)の最も好ましい化合物は、式(III):
【0055】
【化6】
[式中、Aは上記の意味を有し、すなわち、少なくとも1個の炭素原子を有する有機基を表し、好ましくは、Aは1~10個の炭素原子、とりわけ1~4個の炭素原子を有するアルキレン基であり、最も好ましくは、Aはメチレンである]
の化合物である。
【0056】
式(III)の最も好ましい化合物は、例えば5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オンである。
【0057】
式(I)の化合物の合成
式(I)の化合物は、5員環状モノチオカーボネート環系を有する化合物である。
【0058】
モノチオカーボネート環系を有する化合物を合成する様々な方法が、最新技術に記載されている。
【0059】
米国特許第3,072,676号及び米国特許第3,201,416号によると、エチレンモノチオカーボネートは2工程方法により調製され得る。第1の工程では、メルカプトエタノール及びクロロカルボキシレートを反応させて、ヒドロキシエチルチオカーボネートを得て、これを第2の工程において金属塩触媒の存在下で加熱して、エチレンモノチオカーボネートにする。
【0060】
米国特許第3,517,029号によると、アルキレンモノチオカーボネートは、メルカプトエタノール及びカーボネートジエステルをトリウムの触媒活性塩の存在下で反応させることによって得られる。
【0061】
米国特許第3,349,100号に開示されている方法によると、アルキレンモノチオカーボネートは、エポキシドを硫化カルボニルと反応させることによって得られる。硫化カルボニルの利用可能性は限定されている。得られるアルキレンモノチオカーボネートの収率及び選択率は低い。
【0062】
ホスゲンを出発原料として使用する合成は、米国特許第2,828,318号から公知である。ホスゲンをヒドロキシメルカプタンと反応させる。モノチオカーボネートの収率は依然として低く、重合の副産物が観察される。
【0063】
5員環状モノチオカーボネート環系を有する化合物の好ましい調製方法は、
a)エポキシ基を有する化合物(エポキシ化合物と簡潔に呼ばれる)を、出発原料として使用し、
b)化合物をホスゲン又はアルキルクロロホルメートと反応させ、それによって付加物を得て、
c)付加物を、アニオン性硫黄を含む化合物と反応させて、5員環状モノチオカーボネート基を有する化合物を得る方法である。
【0064】
この方法は、国際公開第2019/034469A1号に詳細に記載されている。
【0065】
方法
第1の工程では、酸性化合物及び塩基の塩が別に形成され得、次に得られた塩を式(I)の化合物と反応させる。
【0066】
或いは、酸性化合物を塩基の存在下で式(I)の化合物と反応させることができ、塩がその場(in situ)で形成される。この代替案では、塩基は、ヒドロキシ、チオール、イミド及びカルボン酸基から選択される基の1mol当たり、好ましくは0.1~5molの量、より好ましくは0.5~2molの量で使用される。
【0067】
酸性化合物をその場で形成することもでき、例えば、チオール基を有する有機化合物は、硫化水素を、不飽和結合を有する化合物と反応させることによって、マイケル付加反応を介して形成され得る。
【0068】
反応は溶媒の存在下で実施され得る。適切な溶媒は極性溶媒、例えばジメチルホルムアミドである。イオン性液体を溶媒として使用することもできる。
【0069】
酸性化合物、それぞれ(respectively)硫化水素又は有機化合物の塩を、式(I)の化合物と任意のモル関係で反応させることができる。大量の未反応出発原料を回避するため、0.5~2molの塩、それぞれ(respectively)有機化合物を1molの式(I)の化合物と反応させることができる。
【0070】
好ましくは、0.8~1.3molの塩、それぞれ(respectively)硫化水素又は有機化合物を、1molの式(I)の化合物と反応させる。
【0071】
反応は、好ましくは高温、とりわけ50~150℃の温度で実施される。
【0072】
反応混合物は添加物、例えば安定剤又は殺生物剤、例えばフェノチアジンを含むことができる。市場に出回っている出発原料は、既に安定剤又は殺生物剤を含んでいることがある。
【0073】
反応では相間移動触媒を使用することができる。適切な相間移動触媒は、例えば第四級アンモニウム塩、例えばNMe4Clであり得る。
【0074】
反応において、環状モノチオカーボネートの開環は観察されない。代わりに置換反応が、少なくとも1個の環状モノチオカーボネート基を有する所望の化合物及びハロゲン化物の塩の形成下で起こる。後者は、式(II)のXが塩化物であり、水酸化ナトリウムが塩基として使用される場合、例えば塩化ナトリウムである。この塩は、通常の手段により、例えば濾過により生成物混合物(product mixture)から分離され得る。
【0075】
生成物は、例えば蒸留によりさらに精製され得る。
【0076】
さらなる態様において、本発明は、硫化水素又は少なくとも1個のチオール基を含む有機化合物から選択される酸性化合物の塩を、式(III):
【0077】
【化7】
[式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基、好ましくは1~10個の炭素原子を有するアルキレン基である]
の化合物と反応させることによって得られる、化合物に関する。
【0078】
さらに本発明は、硫化水素又は少なくとも1個のチオール基を含む有機化合物から選択される酸性化合物の塩を、5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オンと反応させることによって得られる化合物に関する。
【0079】
さらに本発明は、少なくとも1個のイミド基を含む有機化合物の塩を、式(III):
【0080】
【化8】
[式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基、好ましくは1~10個の炭素原子を有するアルキレン基である]
の化合物と反応させることによって得られる、化合物に関する。
【0081】
さらに本発明は、少なくとも1個のイミド基を含む有機化合物の塩を、5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オンと反応させることによって得られる化合物に関する。
【0082】
硫化水素が出発原料である場合に得られる生成物は、硫化水素の2個の酸性水素原子によって1又は2個の環状モノチオカーボネート基、好ましくは2個の環状モノチオカーボネート基を有することができる。
【0083】
有機化合物が出発原料である場合に得られる生成物は、少なくとも1つの環状モノチオカーボネート官能性により現時点で改変されている有機化合物である。
【0084】
ヒドロキシ基を有する有機化合物の場合、エーテル基及び環状モノチオカーボネート基を有する化合物が生成物として形成される。
【0085】
チオール基を有する有機化合物の場合、チオエーテル基及び環状モノチオカーボネート基を有する化合物が生成物として形成される。
【0086】
イミド基を有する有機化合物の場合、置換イミド基及び環状モノチオカーボネート基を有する化合物が生成物として形成される。
【0087】
カルボン酸基を有する有機化合物の場合、エステル基及び環状モノチオカーボネート基を有する化合物が生成物として形成される。
【0088】
方法により得られる特に好ましい化合物は、少なくとも1個のチオール基、好ましくは1又は2個のチオール基を含む有機化合物の塩を、式(III)
【0089】
【化9】
の化合物と反応させることによって得られる化合物であり、式(III)の化合物は、好ましくは5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オンである。
【0090】
方法により得られる特に好ましい化合物はまた、少なくとも1個のイミド基、好ましくは1又は2個のイミド基を含む有機化合物の塩を、式(III)
【0091】
【化10】
の化合物と反応させることによって得られる化合物であり、式(III)の化合物は、好ましくは5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オンである。
【0092】
1個のチオエーテル基及び1個の環状モノチオカーボネート基を有する化合物の例は、以下の化合物である。
【0093】
【化11】
【0094】
1個のチオエーテル基及び2個の環状モノチオカーボネート基を有する化合物は、式(III)の化合物を硫化水素と反応させて得られる。
【0095】
【化12】
【0096】
2個のチオエーテル基及び2個の環状モノチオカーボネート基を有する化合物の例は、
【0097】
【化13】
である。
【0098】
1個の置換イミド基及び1個の環状モノチオカーボネート基を有する化合物の例は、以下の化合物である。
【0099】
【化14】
【0100】
2個の置換イミド基及び2個の環状モノチオカーボネート基を有する化合物の例は、以下の化合物である。
【0101】
【化15】
【0102】
3個の置換イミド基及び3個の環状モノチオカーボネート基を有する化合物の例は、以下の化合物である。
【0103】
【化16】
【0104】
本発明の方法は、モノチオカーボネート官能性を、ポリマーを含む他の化学的化合物に導入する容易な方法である。本方法は、経済的であり、任意の有害な材料の使用又は形成を伴わない。本方法は選択率が高い。本方法において、式(I)の化合物の開環反応は観察されない。
【0105】
[実施例]
GC分析:Agilent Technologies 7890 A Network GC System
カラム:DB1(Agilent)30m、Φ0.25mm、フィルム厚1μm
担体ガスHe、流速1.0mL/分、分割比50:1
Tプログラム:50℃~300℃、傾斜速度10℃/分、等温線30分
温度(射出システム)250℃
【0106】
合成例
5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オンを式(III)の化合物として使用した。5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オンを国際公開第2019/034469A1号に従って、以下のように調製した。
【0107】
2台の冷却器(-30℃及び-78℃(ドライアイス))、ホスゲンディップパイプ(dip pipe)及び内部温度計を備えた2L撹拌タンクガラス反応器の中に、594g(6.41mol、1.00当量)のエピクロロヒドリンを窒素雰囲気下で導入した。出発原料を添加した後、タンク反応器の冷却を始め、15℃に調整した。反応器がこの温度に達した後、17.8g(0.0640mol、1.00mol%)のテトラブチルアンモニウムクロリド(TBACl)を添加した。TBAClを溶媒和した後、ガス状ホスゲン(全体として821g、8.3mol、1.29当量)を、ディップパイプを介して反応器に添加した。反応混合物の温度を連続的にモニターし、ホスゲン添加の速度を注意深く調整することによって、25℃未満に保持した。全体的なホスゲン添加は、およそ9時間かかった。ホスゲン添加が完了した後、反応器の初期冷却を停止し、反応器を室温(約25℃)にゆっくりと到達させた。その後、反応混合物を室温で2時間撹拌した。最後に反応混合物を、窒素により室温で一晩かけてホスゲンフリー(phosgene-free)にストリップした。得られた無色の僅かに粘性の油状物(1214g、6.34mol、収率99%、位置異性体純度>95%)をさらに精製することなくチオカーボネート形成に直接使用した。
【0108】
上記のβ-クロロアルキルクロロホルメート(50g)及びジクロロメタン(50mL)それぞれを、KPG三日月形撹拌機、滴下漏斗、温度計及び還流冷却器を備えた500mLの四つ口丸底フラスコに入れた。温度を5℃に維持しながらNa2S(1当量、15wt%の水溶液)をゆっくりと添加する前に、溶液を氷浴で0℃に冷却した。添加を完了した後、氷浴を取り外し、反応混合物を室温に温めた。2時間撹拌した後、相を分離し、水相をジクロロメタン(2×50mL)で抽出した。溶媒を、合わせた有機相から減圧下で除去し、残留液体を蒸留により精製して、所望の環状チオカーボネート5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オンを収率77%で生じた。
【0109】
[実施例1]
【0110】
【化17】
【0111】
ナトリウムチオフェノラート(0.61g、5mmol)をジメチルホルムアミド(DMF)(6g)に溶解させ、5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オン(0.76g、5mmol)を添加した。溶液を120℃に加熱し、2時間撹拌した。
GC分析に基づいて、5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オンの75%の変換が達成され、5-(フェニルスルファニルメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オン(C10H10S2O2)を収率67%でもたらした。
GC-MS分析:EI及びCIイオン化用にMS(Agilent 5975 C)を接続したGC(Agilent 7890 A)
GCカラム:DB1701、30m、Φ0.25mm、フィルム厚1μm
担体ガスHe、流速1.2mL/分、分割比30:1
Tプログラム:50℃~280℃、傾斜速度20℃/分、等温線30分
温度(射出システム)250℃
MS/EI質量範囲25~785amu、イオン化エネルギー70eV
MS/CI質量範囲55~815amu
分子量の226がEI及びCIイオン化で決定された。5-(フェニルスルファニルメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オンの構造を1H-NMR(CD2Cl2)で確認した。
【0112】
[実施例2]
【0113】
【化18】
【0114】
メタクリル酸ナトリウム (3.6g、33mmol)、テトラメチルアンモニウムクロリド(0.46g、5mol%)及びフェノチアジン(5.4mg、0.15wt%)をDMF(20g)に溶解させ、5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オン(5g、33mmol)を添加した。溶液を120℃に加熱し、4時間撹拌した。
GC分析に基づいて、(2-オキソ-1,3-オキサチオラン-5-イル)メチル2-メチルプロパ-2-エノエートを収率48%でもたらした。
【0115】
[実施例3]
【0116】
【化19】
【0117】
酢酸ナトリウム(2.7g、33mmol)及びテトラメチルアンモニウムクロリド(0.46g、5mol%)をDMF(20g)に溶解させ、5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オン(5g、33mmol)を添加した。溶液を100℃に加熱し、2時間撹拌した。
GC分析に基づいて、(2-オキソ-1,3-オキサチオラン-5-イル)メチル-アセテートを収率23%でもたらした。
【0118】
[実施例4]
【0119】
【化20】
【0120】
フタルイミドカリウム(0.93g、5mmol)をジメチルホルムアミド(DMF)(6g)に溶解させ、5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オン(0.76g、5mmol)を添加した。溶液を100℃に加熱し、3時間撹拌した。
GC分析に基づいて、生成物を収率22%でもたらした。
本発明の実施形態として例えば以下を挙げることができる。
[実施形態1]
少なくとも1個の環状モノチオカーボネート基を含む化合物を調製するための方法であって、少なくとも1個の酸性水素原子を有する酸性化合物及び塩基で形成される塩を、式(I):
【化21】
[式中、
基R 1 ~R 4 のうちの1つは、式(II):
-A-X
(式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基を表し、Xはハロゲン化物を表す)
の基であり、
R 1 ~R 4 の残りの基は、互いに独立して水素、又は1~50個の炭素原子を有する有機基を表す]
の化合物と反応させる、方法。
[実施形態2]
酸性化合物が、硫化水素、又はヒドロキシ基、チオール基、イミド基、カルボン酸基若しくは酸性炭素-水素基から選択される少なくとも1個の基を有する有機化合物である、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]
酸性化合物が、ヒドロキシ基、チオール基、イミド基、カルボン酸基又は酸性炭素-水素基から選択される1~10個の基を有する有機化合物である、実施形態1又は2に記載の方法。
[実施形態4]
有機化合物が最大1000g/molの分子量を有する、実施形態2又は3に記載の方法。
[実施形態5]
有機化合物が、酸素又は硫黄以外のヘテロ原子を含まない、実施形態2から4のいずれかに記載の方法。
[実施形態6]
有機化合物が、カルボニル基、チオエーテル基又はエーテル基をさらに含む、実施形態2から5のいずれかに記載の方法。
[実施形態7]
塩基がアルカリ水酸化物である、実施形態1から6のいずれかに記載の方法。
[実施形態8]
式(I)における基R 1 ~R 4 のうちの1つが式(II)の基であり、R 1 ~R 4 の残りの基が水素である、実施形態1から7のいずれかに記載の方法。
[実施形態9]
式(II)におけるAが1~10個の炭素原子を有するアルキレン基である、実施形態1から8のいずれかに記載の方法。
[実施形態10]
式(II)におけるXが塩化物である、実施形態1から9のいずれかに記載の方法。
[実施形態11]
式(I)の化合物が、式(III):
【化22】
[式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基、好ましくは1~10個の炭素原子を有するアルキレン基である]
の化合物である、実施形態1から10のいずれかに記載の方法。
[実施形態12]
酸性化合物及び塩基の塩が別に形成され、次に得られた塩を式(I)の化合物と反応させる、実施形態1から11のいずれかに記載の方法。
[実施形態13]
酸性化合物を塩基の存在下で式(I)の化合物と反応させ、塩がその場で形成される、実施形態1から11のいずれかに記載の方法。
[実施形態14]
硫化水素又は少なくとも1個のチオール基を含む有機化合物から選択される酸性化合物の塩を、式(III):
【化23】
[式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基、好ましくは1~10個の炭素原子を有するアルキレン基である]
の化合物と反応させることによって得られる、化合物。
[実施形態15]
式(III)の化合物が5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オンである、実施形態14に記載の化合物。
[実施形態16]
少なくとも1個のイミド基を含む有機化合物の塩を、式(III):
【化24】
[式中、Aは少なくとも1個の炭素原子を有する有機基、好ましくは1~10個の炭素原子を有するアルキレン基である]
の化合物と反応させることによって得られる、化合物。
[実施形態17]
式(III)の化合物が5-(クロロメチル)-1,3-オキサチオラン-2-オンである、実施形態16に記載の化合物。