IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧

特許7618650潤滑油組成物、及び潤滑油組成物の使用方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】潤滑油組成物、及び潤滑油組成物の使用方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20250114BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20250114BHJP
   C10M 133/56 20060101ALN20250114BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20250114BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20250114BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20250114BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20250114BHJP
   C10M 143/00 20060101ALN20250114BHJP
   C10M 143/10 20060101ALN20250114BHJP
   C10M 145/14 20060101ALN20250114BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20250114BHJP
   C10N 40/00 20060101ALN20250114BHJP
【FI】
C10M169/04 ZHV
C10M133/16
C10M133/56
C10N20:04
C10N30:00 Z
C10N40:25
C10M101/02
C10M143/00
C10M143/10
C10M145/14
C10N20:02
C10N40:00 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022511776
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021010164
(87)【国際公開番号】W WO2021200045
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2020062532
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】石川 元治
(72)【発明者】
【氏名】原山 貴登
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-233116(JP,A)
【文献】国際公開第2019/221296(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159006(WO,A1)
【文献】特開2021-054878(JP,A)
【文献】国際公開第2020/213644(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油(A)、コハク酸イミド(B)、及びポリマー(C)を含む潤滑油組成物であって、
鉱油(A)が、下記要件(a1)~(a3)
・要件(a1):100℃における動粘度が3.10mm/s未満である
・要件(a2):NOACK値が36.0質量%以下である
・要件(a3):ASTM D3238に準拠して測定された%Cが75.0以上である
を満たし、
コハク酸イミド(B)の窒素原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.008~0.060質量%であり、
ポリマー(C)の樹脂分換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.40~3.00質量%であり、
ポリマー(C)が、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体、分散型オレフィン系共重合体、又はスチレン系共重合体のいずれかであり、
ポリマー(C)が、櫛形ポリマー(C1)を含む、
潤滑油組成物。
【請求項2】
コハク酸イミド(B)の窒素原子換算での含有量(単位:質量%)と、ポリマー(C)の樹脂分換算での含有量(単位:質量%)との比〔(B)/(C)〕が、0.001~5.00である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
櫛形ポリマー(C1)の重量平均分子量(Mw)が20万~100万であり、分子量分布(Mw/Mn)(Mnは櫛形ポリマー(C1)の数平均分子量)が4.0以下である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
鉱油(A)が、さらに下記要件(a4)を満たす、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
・要件(a4):ASTM D3238に準拠して測定された%Cが3.0~25.0である
【請求項5】
鉱油(A)が、さらに下記要件(a5)を満たす、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
・要件(a5):ガスクロマトグラフ法蒸留試験における軽質留分の留出量が10体積%となる温度が345℃以上である
【請求項6】
前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が5.1mm/s未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
前記潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度が1.40mPa・s以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記潤滑油組成物の140℃における動粘度が2.45mm/s以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
前記潤滑油組成物の80℃におけるHTHS粘度が4.40mPa・s以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
ハイブリッドカーに搭載されたエンジン、もしくは電動車両用の発電機に搭載されたエンジンの潤滑に用いられる、請求項1~のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
電動車両用のレンジエクステンダーに搭載されたエンジンの潤滑に用いられる、請求項1~10のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、ハイブリッドカーに搭載されたエンジン、もしくは電動車両用の発電機に搭載されたエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、電動車両用のレンジエクステンダーに搭載されたエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、及び当該潤滑油組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の有効活用、及び二酸化炭素の排出削減を目的とし、自動車等の車両の省燃費化は強く求められている。自動車等の車両のエンジンに用いられる潤滑油組成物に対しても、省燃費化の要望が強くなってきている。そのため、省燃費性が良好な潤滑油組成物とするために、潤滑油組成物の低粘度化が検討されている。
例えば、特許文献1には、低粘度化しても摩擦を低減することができる潤滑油組成物の提供を目的として、潤滑油基油に、マグネシウム清浄剤及びジアルキルチオリン酸亜鉛を所定量含有し、ホウ素の含有量を100質量ppm未満に制限した潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-85491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況下、エンジンの潤滑に好適に適用し得るような新たな潤滑油組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、特定の要件を満たす鉱油と共に、コハク酸イミド及びポリマーを所定の含有量で含む潤滑油組成物を提供する。
具体的な本発明の態様としては、下記[1]~[14]のとおりである。
[1]鉱油(A)、コハク酸イミド(B)、及びポリマー(C)を含む潤滑油組成物であって、
鉱油(A)が、下記要件(a1)~(a3)
・要件(a1):100℃における動粘度が3.10mm/s未満である
・要件(a2):NOACK値が36.0質量%以下である
・要件(a3):ASTM D3238に準拠して測定された%Cが75.0以上である
を満たし、
コハク酸イミド(B)の窒素原子換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.008~0.060質量%であり、
ポリマー(C)の樹脂分換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.40~3.00質量%である、
潤滑油組成物。
[2]コハク酸イミド(B)の窒素原子換算での含有量(単位:質量%)と、ポリマー(C)の樹脂分換算での含有量(単位:質量%)との比〔(B)/(C)〕が、0.001~5.00である、上記[1]に記載の潤滑油組成物。
[3]ポリマー(C)が、櫛形ポリマー(C1)を含む、上記[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4]櫛形ポリマー(C1)の重量平均分子量(Mw)が20万~100万であり、分子量分布(Mw/Mn)(Mnは櫛形ポリマー(C1)の数平均分子量)が4.0以下である、上記[3]に記載の潤滑油組成物。
[5]鉱油(A)が、さらに下記要件(a4)を満たす、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
・要件(a4):ASTM D3238に準拠して測定された%Cが3.0~25.0である
[6]鉱油(A)が、さらに下記要件(a5)を満たす、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
・要件(a5):ガスクロマトグラフ法蒸留試験における軽質留分の留出量が10体積%となる温度が345℃以上である
[7]前記潤滑油組成物の100℃における動粘度が5.1mm/s未満である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[8]前記潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度が1.40mPa・s以上である、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[9]前記潤滑油組成物の140℃における動粘度が2.45mm/s以上である、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[10]前記潤滑油組成物の80℃におけるHTHS粘度が4.40mPa・s以下である、上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[11]ハイブリッドカーに搭載されたエンジン、もしくは電動車両用の発電機に搭載されたエンジンの潤滑に用いられる、上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[12]電動車両用のレンジエクステンダーに搭載されたエンジンの潤滑に用いられる、上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[13]上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、ハイブリッドカーに搭載されたエンジン、もしくは電動車両用の発電機に搭載されたエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。
[14]上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、電動車両用のレンジエクステンダーに搭載されたエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の好適な一態様の潤滑油組成物は、例えば、油圧特性、省燃費性、及びオイル消費抑制性といった特性に優れており、特に、ハイブリッドカーのエンジンや電動車両用の発電機に搭載されたエンジンの潤滑に好適に適用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出された値を意味する。
本明細書において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値であり、具体的には実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
【0008】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上、100以下」という範囲であることを意味する。
さらに、本明細書に記載された上限値及び下限値の規定において、それぞれの選択肢の中から適宜選択して、任意に組み合わせて、下限値~上限値の数値範囲を規定することができる。
【0009】
〔潤滑油組成物の構成〕
本発明の潤滑油組成物は、鉱油(A)、コハク酸イミド(B)、及びポリマー(C)を含有するが、さらに摩擦調整剤(D)を含有することが好ましい。
また、本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、成分(A)~(D)以外の成分をさらに含有してもよい。
【0010】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)、(B)及び(C)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは45質量%以上、より好ましくは55質量%以上、更に好ましくは65質量%以上、より更に好ましくは75質量%以上、特に好ましくは85質量%以上であり、さらに、87質量%以上、又は90質量%以上としてもよい。
【0011】
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0012】
<成分(A):鉱油>
本発明の一態様で用いる鉱油(A)としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる鉱油(GTL);等が挙げられる。
これらの鉱油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
ところで、本発明で用いる鉱油(A)は、下記要件(a1)~(a3)を満たす。
・要件(a1):100℃における動粘度が3.10mm/s未満である。
・要件(a2):NOACK値が36.0質量%以下である。
・要件(a3):ASTM D3238に準拠して測定された%Cが75.0以上である。
また、本発明の一態様で用いる鉱油(A)は、上記要件(a1)~(a3)と共に、下記要件(a4)及び(a5)の少なくとも一方をさらに満たすことが好ましく、下記要件(a4)及び(a5)の双方ともに満たすことがより好ましい。
・要件(a4):ASTM D3238に準拠して測定された%Cが3.0~25.0である。
・要件(a5):ガスクロマトグラフ法蒸留試験における軽質留分の留出量が10体積%以下となる温度が345℃以上である。
【0014】
(要件(a1))
鉱油(A)が上記要件(a1)を満たすことによって、低粘度化した潤滑油組成物とすることができ、潤滑油組成物の省燃費性を向上させることができる。
上記観点から、上記要件(a1)で規定する鉱油(A)の100℃における動粘度は、3.10mm/s未満であるが、好ましくは3.05mm/s未満、より好ましくは3.00mm/s未満、更に好ましくは2.98mm/s未満、より更に好ましくは2.97mm/s未満である。
また、鉱油(A)の100℃における動粘度は、下限の規定については上述の他の要件を満たす範囲で適宜設定されるが、好ましくは2.00mm/s以上、より好ましくは2.10mm/s以上、更に好ましくは2.20mm/s以上、より更に好ましくは2.30mm/s以上、特に好ましくは2.40mm/s以上である。
つまり、本発明の一態様で用いる鉱油(A)の100℃における動粘度は、好ましくは2.00mm/s以上3.10mm/s未満、より好ましくは2.10mm/s以上3.05mm/s未満、更に好ましくは2.20mm/s以上3.00mm/s未満、より更に好ましくは2.30mm/s以上2.98mm/s未満、特に好ましくは2.40mm/s以上2.97mm/s未満である。
【0015】
(要件(a2))
鉱油(A)が上記要件(a2)を満たすことによって、鉱油(A)の蒸発損失が低減され、オイル消費抑制性に優れた潤滑油組成物とすることができる。
上記観点から、上記要件(a2)で規定する鉱油(A)のNOACK値は、36.0質量%以下であるが、好ましくは35.5質量%以下、より好ましくは35.0質量%以下、更に好ましくは34.5質量%以下、より更に好ましくは34.0質量%以下であり、さらに、33.5質量%以下、33.0質量%以下、32.5質量%以下、又は32.0質量%以下としてもよい。
また、鉱油(A)のNOACK値は、下限の規定については上述の他の要件を満たす範囲で適宜設定されるが、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上、更に好ましくは10.0質量%以上、より更に好ましくは15.0質量%以上、特に好ましくは20.0質量%以上である。
つまり、本発明の一態様で用いる鉱油(A)のNOACK値は、好ましくは1.0~36.0質量%、より好ましくは5.0~35.5質量%、更に好ましくは10.0~35.0質量%、より更に好ましくは15.0~34.5質量%、特に好ましくは20.0~34.0質量%である。
なお、本明細書において、NOACK値は、JPI-5S-41-2004に準拠し、250℃にて測定した値を意味する。
【0016】
(要件(a3)、要件(a4))
鉱油(A)が上記要件(a3)を満たすことによって、低粘度であっても蒸発損失が抑制された鉱油(A)となるため、省燃費性及びオイル消費抑制性を共に向上させた潤滑油組成物とすることができる。
上記観点から、上記要件(a3)で規定する鉱油(A)の%Cは、75.0以上であるが、好ましくは77.0以上、より好ましくは78.5以上、更に好ましくは80.0以上、より更に好ましくは82.0以上であり、さらに、83.0以上、85.0以上、87.0以上、又は90.0以上としてもよい。
また、鉱油(A)の%Cは、上限の規定については上述の他の要件を満たす範囲で適宜設定されるが、好ましくは99.0以下、より好ましくは98.0以下、更に好ましくは97.0以下、より更に好ましくは96.0以下、特に好ましくは95.0以下であり、さらに、94.0以下、93.0以下、92.0以下、91.0以下、又は90.0以下としてもよい。
つまり、本発明の一態様で用いる鉱油(A)の%Cは、好ましくは75.0~99.0、より好ましくは77.0~98.0、更に好ましくは78.5~97.0、より更に好ましくは80.0~96.0、特に好ましくは82.0~95.0である。
【0017】
本発明の一態様で用いる鉱油(A)は、上記要件(a4)を満たすことによって、低粘度であっても蒸発損失が抑制された潤滑油組成物とすることができる。
上記観点から、上記要件(a4)で規定する鉱油(A)の%Cは、好ましくは3.0~25.0であるが、より好ましくは4.0~22.0、更に好ましくは5.0~20.0、より更に好ましくは6.0~19.0、特に好ましくは6.5~18.0である。
なお、鉱油(A)の%Cは、さらに、6.8以上、7.0以上、8.0以上、9.0以上、又は10.0以上としてもよく、また、17.5以下、17.0以下、16.0以下、15.0以下、又は14.0以下としてもよい。
【0018】
なお、本明細書において、%C及び%Cは、ASTM D-3238環分析(n-d-M法)に準拠して測定した値を意味する。
【0019】
(要件(a5))
本発明の一態様で用いる鉱油(A)は、上記要件(a5)を満たすことによって、鉱油(A)の蒸発損失が低減され、オイル消費抑制性に優れた潤滑油組成物とすることができる。
上記観点から、軽質留分の留出量が10体積%となる温度は、好ましくは345℃以上、より好ましくは348℃以上、更に好ましくは350℃以上、より更に好ましくは352℃以上であり、さらに、353℃以上、355℃以上、357℃以上、又は360℃以上としてもよい。
また、軽質留分の留出量が10体積%となる温度は、上限の制限は特に無いが、600℃以下、550℃以下、500℃以下、430℃以下、420℃以下、又は400℃以下であってもよい。
なお、本明細書において、「軽質留分の留出量が10体積%となる温度」とは、ASTM D6352に準拠し、ガスクロマトグラフ法蒸留試験によって、室温から昇温していく過程での軽質留分の留出量を測り、その留出量が10体積%に達した際の温度を意味する。
【0020】
(上記要件(a1)~(a5)以外の鉱油(A)の他の要件)
本発明の一態様で用いる鉱油(A)の粘度指数は、温度依存性が小さい潤滑油組成物とする観点から、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上、より更に好ましくは100以上、特に好ましくは110以上である。
【0021】
本発明の一態様で用いる鉱油(A)のアニリン点は、好ましくは100~140℃、より好ましくは108~130℃、更に好ましくは110~125℃である。
なお、本明細書において、アニリン点は、JIS K2256(U字管法)に準拠して測定した値を意味する。
【0022】
本発明の一態様で用いる鉱油(A)の引火点は、好ましくは180℃以上、より好ましくは192℃以上、更に好ましくは194℃以上であり、また、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下、更に好ましくは300℃以下である。
なお、本明細書において、引火点は、JIS K2265-4に準拠し、クリーブランド開放式(COC)法により測定した値を意味する。
【0023】
本発明の一態様で用いる鉱油(A)の流動点は、好ましくは-20℃以下、より好ましくは-30℃以下、更に好ましくは-35℃未満、より更に好ましくは-37.5℃以下である。
なお、本明細書において、流動点は、JIS K2269:1987に準拠して測定した値を意味する。
【0024】
なお、本発明の一態様で用いる鉱油(A)が2種以上の鉱油を混合した混合鉱油である場合、当該混合鉱油が、上記要件(a1)~(a5)を満たせばよく、粘度指数、アニリン点、引火点、及び流動点は上記好適範囲に属していればよい。また、当該混合鉱油を構成する各鉱油が、それぞれ上記要件(a1)~(a5)を満たすものであれば、当該混合鉱油もこれらの要件を満たす、とみなすこともできる。粘度指数、アニリン点、引火点、及び流動点についても同様である。
【0025】
なお、上記要件(a1)~(a5)を満たす鉱油に調整するために、鉱油(A)は、100℃における動粘度が3.0mm/s未満の低粘度鉱油(α)と、100℃における動粘度が3.0mm/s以上の高粘度鉱油(β)との混合鉱油であってもよい。
鉱油(A)として上記の混合鉱油を用いる場合、低粘度鉱油(α)と高粘度鉱油(β)との配合比〔(α)/(β)〕は、混合する鉱油(α)及び(β)の種類及び動粘度に応じて、上記要件(a1)~(a5)を満たすように適宜設定すればよい。
具体的な低粘度鉱油(α)と高粘度鉱油(β)との配合比〔(α)/(β)〕としては、質量比で、好ましくは10/90~99/1、より好ましくは30/70~95/5、更に好ましくは50/50~90/10、より更に好ましくは55/45~85/15、特に好ましくは60/40~80/20である。
【0026】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、鉱油(A)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは40~99.5質量%、より好ましくは50~99.0質量%、更に好ましくは60~98.0質量%、より更に好ましくは70~96.0質量%、特に好ましくは80~95.0質量%である。
【0027】
<合成油>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、鉱油(A)と共に、合成油を含有してもよい。
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;等が挙げられる。
これらの合成油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明の一態様で用い得る合成油の100℃における動粘度としては、鉱油(A)と同程度であればよく、好ましくは2.00mm/s以上3.10mm/s未満、より好ましくは2.10mm/s以上3.05mm/s未満、更に好ましくは2.20mm/s以上3.00mm/s未満、より更に好ましくは2.30mm/s以上2.98mm/s未満、特に好ましくは2.40mm/s以上2.97mm/s未満である。
【0029】
また、本発明の一態様で用い得る合成油の粘度指数としては、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上、より更に好ましくは100以上、特に好ましくは110以上である。
なお、合成油として、2種以上の合成油を組み合わせた混合合成油を用いる場合、当該混合合成油の動粘度及び粘度指数が上記範囲であることが好ましい。
【0030】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、合成油の含有量は、当該潤滑油組成物に含まれる鉱油(A)の全量100質量部に対して、好ましくは0~50質量部、より好ましくは0~30質量部、更に好ましくは0~10質量部、より更に好ましくは0~5質量部、特に好ましくは0~1質量部である。
【0031】
<成分(B):コハク酸イミド>
本発明の潤滑油組成物は、コハク酸イミド(B)を含有する。コハク酸イミド(B)を含有することで、省燃費性及び油圧特性に優れた潤滑油組成物とすることができる。
【0032】
また、本発明の潤滑油組成物において、コハク酸イミド(B)の窒素原子換算での含有量を、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.008~0.060質量%に調整している。このように成分(B)の窒素原子換算での含有量を当該範囲に調整することで、油圧特性を向上させつつも、省燃費性を良好とした潤滑油組成物とすることができる。
【0033】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、コハク酸イミド(B)の窒素原子換算での含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.008質量%以上であるが、油圧特性をより向上させた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは0.015質量%以上、より好ましくは0.020質量%以上、更に好ましくは0.025質量%以上、より更に好ましくは0.030質量%以上、特に好ましくは0.035質量%以上であり、さらに、0.037質量%以上、0.040質量%以上、又は0.042質量%以上としてもよい。
また、コハク酸イミド(B)の窒素原子換算での含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.060質量%以下であるが、省燃費性をより良好とした潤滑油組成物とする観点から、好ましくは0.057質量%以下、より好ましくは0.055質量%以下、更に好ましくは0.052質量%以下、より更に好ましくは0.050質量%以下、特に好ましくは0.048質量%以下であり、さらに、0.047質量%以下、0.046質量%以下、又は0.045質量%以下としてもよい。
つまり、コハク酸イミド(B)の窒素原子換算での含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.015~0.057質量%、より好ましくは0.020~0.055質量%、更に好ましくは0.025~0.052質量%、より更に好ましくは0.030~0.050質量%、特に好ましくは0.035~0.048質量%である。
なお、本明細書において、窒素原子の含有量は、JIS K2609に準拠して測定した値を意味する。
【0034】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、コハク酸イミド(B)の配合量(含有量)は、窒素原子換算での含有量が上記範囲に属するように調整されればよいが、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~15.0質量%、より好ましくは0.1~12.0質量%、更に好ましくは0.5~10.0質量%、より更に好ましくは1.0~7.0質量%である。
【0035】
本発明の一態様で用いるコハク酸イミド(B)としては、コハク酸モノイミドであってもよく、コハク酸ビスイミドであってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
コハク酸モノイミドとしては、下記一般式(b-1)で表されるアルケニルコハク酸モノイミドが好ましく、コハク酸ビスイミドとしては、下記一般式(b-2)で表されるアルケニルコハク酸ビスイミドが好ましい。
なお、コハク酸イミド(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
【化1】
【0037】
上記一般式(b-1)及び(b-2)中、R、RA1及びRA2は、それぞれ独立して、重量平均分子量(Mw)が500~3000(好ましくは1000~3000)のアルケニル基である。当該アルケニル基としては、例えば、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられ、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基が好ましい。
、RB1及びRB2は、それぞれ独立して、炭素数2~5のアルキレン基である。
及びRC1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、又は-(AO)-Hで表される基(ただし、Aは、それぞれ独立して、炭素数2~4のアルキレン基であり、nは1~10の整数である)である。
x1は、1~10の整数であり、好ましくは2~5の整数、より好ましくは3又は4である。
x2は、0~10の整数であり、好ましくは1~5の整数、より好ましくは2~4の整数である。
【0038】
なお、本発明の一態様で用いるコハク酸イミド(B)は、非変性コハク酸イミドであってもよく、変性コハク酸イミドであってもよい。
変性コハク酸イミドとしては、前記一般式(b-1)又は(b-2)で表される非変性アルケニルコハク酸イミドに、ホウ素化合物、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、エポキシ化合物、及び有機酸等から選ばれる1種以上と反応させた、変性アルケニルコハク酸イミドが挙げられる。
【0039】
本発明の一態様で用いるコハク酸イミド(B)は、油圧特性をより向上させつつも、省燃費性をより良好とした潤滑油組成物とする観点から、非変性コハク酸イミドを含むことが好ましく、非変性コハク酸ビスイミド(B1)を含むことがより好ましく、前記一般式(b-2)で表される非変性アルケニルコハク酸ビスイミド(B11)を含むことが更に好ましい。
上記観点から、本発明の一態様で用いるコハク酸イミド(B)中の成分(B1)(もしくは成分(B11))の含有割合としては、前記潤滑油組成物に含まれる成分(B)の全量100質量%に対して、好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは80~100質量%、より更に好ましくは90~100質量%、特に好ましくは95~100質量%である。
【0040】
また、動粘度を低く調整して、省燃費性をより良好とした潤滑油組成物とする観点から、本発明の一態様の潤滑油組成物において、ホウ素変性のコハク酸イミドの含有量は少ないほど好ましい。
具体的なホウ素変性のコハク酸イミドの含有量としては、前記潤滑油組成物に含まれる成分(B)の全量100質量部に対して、好ましくは0~30質量部、より好ましくは0~10質量部、更に好ましくは0~5質量部、より更に好ましくは0~1質量部、特に好ましくは0~0.1質量部である。
【0041】
<他の無灰系分散剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(B)以外の他の無灰系分散剤を含有してもよい。
このような他の無灰系分散剤としては、例えば、ベンジルアミン、コハク酸エステル、及びこれらのホウ素等の変性物等が挙げられる。
【0042】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物において、他の無灰系分散剤の含有量は、当該潤滑油組成物に含まれる成分(B)の全量100質量部に対して、好ましくは0~50質量部、より好ましくは0~30質量部、更に好ましくは0~10質量部、より更に好ましくは0~5質量部、特に好ましくは0~1質量部である。
【0043】
<成分(C):ポリマー>
本発明の潤滑油組成物は、ポリマー(C)を含有する。コハク酸イミド(B)と共に、ポリマー(C)を含有することで、油圧特性及び省燃費性をバランス良く向上させた潤滑油組成物とすることができる。
また、油圧特性及び省燃費性をバランス良くより向上させつつ、デポジットの生成を抑制し得る潤滑油組成物とする観点から、本発明の潤滑油組成物において、ポリマー(C)の樹脂分換算での含有量を、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.40~3.00質量%に調整している。
【0044】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、ポリマー(C)の樹脂分換算での含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0.40質量%以上であるが、油圧特性及び省燃費性をバランス良くより向上させた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは0.45質量%以上、より好ましくは0.48質量%以上、更に好ましくは0.50質量%以上、より更に好ましくは0.52質量%以上、特に好ましくは0.55質量%以上であり、さらに、0.57質量%以上、0.60質量%以上、0.62質量%以上、0.65質量%以上、0.67質量%以上、又は0.70質量%以上としてもよい。
また、ポリマー(C)の樹脂分換算での含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、3.00質量%以下であるが、油圧特性及び省燃費性のバランスを良好にすると共に、デポジットの生成を抑制し得る潤滑油組成物とする観点から、好ましくは2.50質量%以下、より好ましくは2.20質量%以下、更に好ましくは2.00質量%以下、より更に好ましくは1.70質量%以下、特に好ましくは1.55質量%以下であり、さらに、1.40質量%以下、1.30質量%以下、1.20質量%以下、1.10質量%以下、1.00質量%以下、又は0.90質量%以下としてもよい。
つまり、ポリマー(C)の樹脂分換算での含有量は、前記潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.45~2.50質量%、より好ましくは0.48~2.20質量%、更に好ましくは0.50~2.00質量%、より更に好ましくは0.52~1.70質量%、特に好ましくは0.55~1.55質量%である。
【0045】
なお、ハンドリング性や鉱油(A)との溶解性を考慮し、ポリマー(C)は、希釈油に溶解された溶液の形態で市販されていることが多い。
ただし、本明細書において、ポリマー(C)の含有量は、希釈油で希釈された溶液においては、希釈油の質量を除外した、ポリマー(C)を構成する樹脂分に換算した含有量である。
【0046】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物において、油圧特性及び省燃費性を共により向上させた潤滑油組成物とする観点から、コハク酸イミド(B)の窒素原子換算での含有量(単位:質量%)と、ポリマー(C)の樹脂分換算での含有量(単位:質量%)との比〔(B)/(C)〕が、好ましくは0.001~5.00、より好ましくは0.005~3.00、更に好ましくは0.010~1.00、より更に好ましくは0.015~0.15、特に好ましくは0.020~0.10である。
なお、コハク酸イミド(B)の窒素原子換算での含有量(単位:質量%)と、ポリマー(C)の樹脂分換算での含有量(単位:質量%)との比〔(B)/(C)〕は、さらに、0.025以上、0.030以上、0.035以上、0.040以上、0.045以上、0.050以上、又は0.055以上としてもよく、また、0.095以下、0.090以下、0.085以下、0.080以下、0.075以下、0.070以下、又は0.065以下としてもよい。
【0047】
本発明の一態様で用いるポリマー(C)としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等が挙げられる。また、ポリマー(C)としては、直鎖状のポリマーに限らず、分岐鎖のポリマー、及び、櫛形ポリマーや星形ポリマー等であってもよい。
これらのポリマー(C)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明の一態様で用いるポリマー(C)は、いわゆる粘度指数向上剤として用いるポリマーだけでなく、流動点降下剤として用いるポリマーも含まれる。
【0048】
本発明の一態様で用いるポリマー(C)の重量平均分子量(Mw)としては、通常500~1,000,000、好ましくは1,000~1,000,000、より好ましくは3,000~1,000,000であるが、ポリマーの種類に応じて適宜設定される。
【0049】
なお、本発明の一態様で用いるポリマー(C)は、油圧特性をより向上させつつ、さらに温度領域に依らず優れた粘度特性を有し、温度領域に依存しない省燃費性を発現し得る潤滑油組成物とする観点から、櫛形ポリマー(C1)を含むことが好ましい。
櫛形ポリマー(C1)は、いわゆる粘度指数向上剤としての機能を有する。
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(C1)は、高分子量の側鎖が出ている三叉分岐点を主鎖に数多くもつ構造を有する重合体であればよい。
【0050】
上記観点から、本発明の一態様で用いるポリマー(C)中の櫛形ポリマー成分(C1)の含有割合としては、前記潤滑油組成物に含まれる成分(C)の全量100質量%に対して、好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは80~100質量%、より更に好ましくは90~100質量%、特に好ましくは95~100質量%である。
【0051】
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(C1)の重量平均分子量(Mw)としては、好ましくは20万~100万、より好ましくは30万~90万、更に好ましくは40万~80万、より更に好ましくは45万~70万、特に好ましくは50万~65万である。
【0052】
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(C1)の分子量分布(Mw/Mn)(但し、Mnは櫛形ポリマー(C1)の数平均分子量を示す)は、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、更に好ましくは3.0以下、より更に好ましくは2.7以下、特に好ましくは2.5以下であり、また、好ましくは1.01以上、より好ましくは1.05以上、更に好ましくは1.1以上、より更に好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上である。
つまり、櫛形ポリマー(C1)の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.01~4.0、より好ましくは1.05~3.5、更に好ましくは1.1~3.0、より更に好ましくは1.2~2.7、特に好ましくは1.5~2.5である。
【0053】
本発明の一態様で成分(C)として用いる櫛形ポリマー(C1)は、マクロモノマー(x1)に由来する構成単位(X1)を少なくとも有する重合体が好ましい。この構成単位(X1)が、上述の「高分子量の側鎖」に該当する。
なお、本発明において、上記の「マクロモノマー(x1)」とは、重合性官能基を有する高分子量モノマーのことを意味し、末端に重合性官能基を有する高分子量モノマーであることが好ましい。
【0054】
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(C1)において、構成単位(X1)の含有量は、櫛形ポリマー(C1)の構成単位の全量(100モル%)基準で、好ましくは0.5~20モル%、より好ましくは0.7~10モル%、更に好ましくは0.9~5モル%である。
【0055】
マクロモノマー(x1)の数平均分子量(Mn)としては、好ましくは300以上、より好ましくは400以上、更に好ましくは500以上であり、また、好ましくは20,000以下、より好ましくは10,000以下、更に好ましくは5,000以下である。
つまり、マクロモノマー(x1)の数平均分子量(Mn)は、好ましくは300~20,000、より好ましくは400~10,000、更に好ましくは500~5,000である。
【0056】
また、マクロモノマー(x1)の重量平均分子量(Mw)としては、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、更に好ましくは4,000以上であり、また、好ましくは50,000以下、より好ましくは25,000以下、更に好ましくは10,000以下である。
つまり、マクロモノマー(x1)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~50,000、より好ましくは2000~25,000、更に好ましくは4,000~10,000である。
【0057】
マクロモノマー(x1)が有する重合性官能基としては、例えば、アクリロイル基(CH=CH-COO-)、メタクリロイル基(CH=CCH-COO-)、エテニル基(CH=CH-)、ビニルエーテル基(CH=CH-O-)、アリル基(CH=CH-CH-)、アリルエーテル基(CH=CH-CH-O-)、CH=CH-CONH-で表される基、CH=CCH3-CONH-で表される基等が挙げられる。
【0058】
マクロモノマー(x1)は、上記重合性官能基以外に、例えば、以下の一般式(i)~(iii)で表される繰り返し単位を1種以上有していてもよい。
【化2】
【0059】
上記一般式(i)中、Rb1は、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基である。
上記一般式(ii)中、Rb2は、炭素数2~4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基である。
上記一般式(iii)中、Rb3は、水素原子又はメチル基である。Rb4は、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。
なお、上記一般式(i)~(iii)で表される繰り返し単位をそれぞれ複数有する場合には、複数のRb1、Rb2、Rb3、及びRb4は、それぞれ同一であってもよく、互いに異なるものであってもよい。
【0060】
本発明の一態様において、マクロモノマー(x1)は、前記一般式(i)で表される繰り返し単位を有する重合体であることが好ましく、前記一般式(i)中のRb1が1,2-ブチレン基及び1,4-ブチレン基の少なくとも一方である繰り返し単位(X1-1)を有する重合体であることがより好ましい。
【0061】
繰り返し単位(X1-1)の含有量としては、マクロモノマー(x1)の構成単位の全量(100モル%)基準で、好ましくは1~100モル%、より好ましくは20~95モル%、更に好ましくは40~90モル%、より更に好ましくは50~80モル%である。
【0062】
なお、マクロモノマー(x1)が、前記一般式(i)~(iii)から選ばれる2種以上の繰り返し単位を有する共重合体である場合、共重合の形態としては、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。
【0063】
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(C1)は、1種類のマクロモノマー(x1)に由来する構成単位(X1)のみからなる単独重合体でもよく、2種類以上のマクロモノマー(x1)に由来する構成単位(X1)を有する共重合体であってもよい。
また、本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(C1)は、マクロモノマー(x1)に由来する構成単位(X1)と共に、マクロモノマー(x1)以外の他のモノマーに由来する構成単位(X2)を有する共重合体であってもよい。
このような櫛形ポリマーの具体的な構造としては、モノマー(x2)に由来する構成単位(X2)を含む主鎖に対して、マクロモノマー(x1)に由来する構成単位(X1)を含む側鎖を有する共重合体が好ましい。
【0064】
モノマー(x2)としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、窒素原子含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル単量体、リン原子含有単量体、脂肪族炭化水素系ビニル単量体、脂環式炭化水素系ビニル単量体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、ビニルケトン類、エポキシ基含有ビニル単量体、ハロゲン元素含有ビニル単量体、不飽和ポリカルボン酸のエステル、(ジ)アルキルフマレート、(ジ)アルキルマレエート、芳香族炭化水素系ビニル単量体等が挙げられる。
【0065】
なお、モノマー(x2)としては、リン原子含有単量体及び芳香族炭化水素系ビニル単量体以外の単量体が好ましく、下記一般式(a1)で表される単量体、アルキル(メタ)アクリレート、及び水酸基含有ビニル単量体から選ばれる1種以上を含むことがより好ましく、水酸基含有ビニル単量体(x2-d)を少なくとも含むことが更に好ましい。
【化3】
【0066】
上記一般式(a1)中、Rb11は、水素原子又はメチル基である。
b12は、単結合、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、-O-、又は-NH-である。
b13は、炭素数2~4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基である。また、nは1以上の整数(好ましくは1~20の整数、より好ましくは1~5の整数)を示す。なお、nが2以上の整数の場合、複数のRb13は、同一であってもよく、異なっていてもよく、さらに、(Rb13O)部分は、ランダム結合でもブロック結合でもよい。
b14は、炭素数1~60(好ましくは10~50、より好ましくは20~40)の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。
【0067】
本発明の一態様で用いる櫛形ポリマー(C1)のSSI(せん断安定性指数)としては、好ましくは100以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下、より更に好ましくは60以下、特に好ましくは50以下である。
また、櫛形ポリマー(C1)のSSIは、下限値の制限は特に無いが、通常0.1以上である。
【0068】
なお、本明細書において、SSI(せん断安定性指数)とは、重合体成分に由来するせん断による粘度低下をパーセンテージで示すものであり、JPI-5S-29-06に準拠して測定された値であって、より具体的には、下記計算式(1)より算出された値である。
計算式(1):SSI(%)=(Kv-Kv)/(Kv-Kvoil)×100
【0069】
上記式(1)中、Kvは、重合体成分を鉱油に希釈した試料油の100℃における動粘度の値であり、Kvは、重合体成分を鉱油に希釈した試料油を、JPI-5S-29-06の手順にしたがって、出力法に準拠し、超音波を30分間照射した後の100℃における動粘度の値である。また、Kvoilは、重合体成分を希釈する際に用いた鉱油の100℃における動粘度の値である。
【0070】
なお、櫛形ポリマー(C1)のSSIの値は、櫛形ポリマーの構造によって変化するものである。具体的には、以下に示す傾向があり、これらの事項を考慮することで、櫛形ポリマー(C1)のSSIの値は容易に調整できる。なお、以下の事項は、あくまで一例であって、これら以外の事項を考慮することによっても調整可能である。
・櫛形ポリマーの側鎖がマクロモノマー(x1)で構成され、当該マクロモノマー(x1)に由来する構成単位(X1)の含有量が、構成単位の全量(100モル%)基準で、0.5モル%以上である櫛形ポリマーは、SSIの値が低くなる傾向にある。
・櫛形ポリマーの側鎖を構成するマクロモノマー(x1)の分子量が大きくなるほど、SSIの値が低くなる傾向にある。
【0071】
<成分(D):摩擦調整剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、省燃費性の更なる向上の観点から、さらに摩擦調整剤(D)を含有することが好ましい。
本発明の一態様で用いる摩擦調整剤(D)としては、例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、モリブテン酸のアミン塩等のモリブデン系摩擦調整剤;炭素数6~30のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪族アミン、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤;油脂類、アミン、アミド、硫化エステル、リン酸エステル、亜リン酸エステル、リン酸エステルアミン塩等が挙げられる。
これらの摩擦調整剤(D)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、本発明の一態様で用いる摩擦調整剤(D)は、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)及びジチオリン酸モリブデン(MoDTP)から選ばれる1種以上を含むことが好ましく、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)を含むことがより好ましい。
【0072】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、摩擦調整剤(D)のモリブデン原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.010質量%以上、より好ましくは0.050質量%以上、更に好ましくは0.080質量%以上、より更に好ましくは0.090質量%以上であり、また、好ましくは0.200質量%以下、より好ましくは0.180質量%以下、更に好ましくは0.160質量%以下、より更に好ましくは0.140質量%以下ある。
つまり、摩擦調整剤(D)のモリブデン原子換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.010~0.200質量%、より好ましくは0.050~0.180質量%、更に好ましくは0.080~0.160質量%、より更に好ましくは0.090~0.140質量%である。
なお、本明細書において、モリブデン原子の含有量は、JPI-5S-38-2003に準拠して測定した値を意味する。
【0073】
<潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、更に成分(B)~(D)以外の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
このような潤滑油用添加剤としては、例えば、耐摩耗剤、極圧剤、金属系清浄剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、防錆剤、消泡剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
これらの潤滑油用添加剤のそれぞれの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調整することができるが、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、それぞれの添加剤ごとに独立して、通常0.001~15質量%、好ましくは0.005~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。
【0075】
なお、当該潤滑油用添加剤として、API/ILSAC SN/GF-5規格等に適合した、複数の添加剤を含有する市販品の添加剤パッケージを用いてもよい。
また、上記の添加剤としての機能を複数有する化合物(例えば、耐摩耗剤及び極圧剤としての機能を有する化合物)を用いてもよい。
【0076】
(耐摩耗剤)
本発明の一態様で用いる耐摩耗剤としては、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、リン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、硫化エステル類、チオカーボネート類、チオカーバメート類、ポリサルファイド類等の硫黄含有化合物;亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、ホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等のリン含有化合物;チオ亜リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、チオホスホン酸エステル類、及びこれらのアミン塩又は金属塩等の硫黄及びリン含有耐摩耗剤が挙げられる。
これらの中でも、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)が好ましい。
【0077】
(極圧剤)
本発明の一態様で用いる極圧剤としては、例えば、スルフィド類、スルフォキシド類、スルフォン類、チオホスフィネート類等の硫黄系極圧剤、塩素化炭化水素等のハロゲン系極圧剤、有機金属系極圧剤等が挙げられる。また、上述の耐摩耗剤の内、極圧剤としての機能を有する化合物を用いることもできる。
【0078】
(金属系清浄剤)
本発明の一態様で用いる金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子を含有する有機酸金属塩化合物が挙げられ、具体的には、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子を含有する、金属サリシレート、金属フェネート、及び金属スルホネート等が挙げられる。
金属系清浄剤に含まれる金属原子としては、高温での清浄性の向上の観点から、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムが好ましく、カルシウムがより好ましい。
【0079】
また、前記金属スルホネートとしては、下記一般式(1)で表される化合物が好ましく、前記金属サリシレートとしては、下記一般式(2)で表される化合物が好ましく、前記金属フェネートとしては、下記一般式(3)で表される化合物が好ましい。
【0080】
【化4】
【0081】
上記一般式(1)及び(2)中、Mは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子であり、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムが好ましく、カルシウムがより好ましい。
上記一般式(3)中、M’は、アルカリ土類金属であり、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムが好ましく、カルシウムがより好ましい。yは、0以上の整数であり、好ましくは0~3の整数である。
上記一般式(1)~(3)中、pはMの価数であり、1又は2である。Rは、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。
Rとして選択し得る炭化水素基としては、例えば、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルケニル基、環形成炭素数3~18のシクロアルキル基、環形成炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアルキルアリール基、炭素数7~18のアリールアルキル基等が挙げられる。
【0082】
なお、本発明の一態様において、金属系清浄剤は、中性塩、塩基性塩、過塩基性塩及びこれらの混合物のいずれであってもよい。
金属系清浄剤の全塩基価としては、好ましくは0~600mgKOH/gである。
なお、本発明の一態様において、金属系清浄剤が塩基性塩又は過塩基性塩である場合には、当該金属系清浄剤の全塩基価としては、好ましくは10~600mgKOH/g、より好ましくは20~500mgKOH/gである。
なお、本明細書において、「塩基価」とは、JIS K2501「石油製品および潤滑油-中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0083】
(酸化防止剤)
本発明の一態様で用いる酸化防止剤としては、従来潤滑油の酸化防止剤として使用されている公知の酸化防止剤の中から、任意のものを適宜選択して用いることができ、例えば、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、モリブデン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0084】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤;α-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、炭素数3~20のアルキル基を有する置換フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系酸化防止剤;等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、イソオクチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系酸化防止剤;4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)等のジフェノール系酸化防止剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤;等を挙げられる。
モリブデン系酸化防止剤としては、例えば、三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるモリブデンアミン錯体等が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネイト等が挙げられる。
リン系酸化防止剤としては、例えば、ホスファイト等が挙げられる。
【0085】
(金属不活性化剤)
本発明の一態様で用いる金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピリミジン系化合物等が挙げられる。
【0086】
(防錆剤)
本発明の一態様で用いる防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。
【0087】
(消泡剤)
本発明の一態様で用いる消泡剤としては、例えば、シリコーン油、フルオロシリコーン油及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0088】
<潤滑油組成物の製造方法>
本発明の一態様の潤滑油組成物の製造方法としては、特に制限はないが、生産性の観点から、鉱油(A)に、コハク酸イミド(B)及びポリマー(C)、並びに必要に応じて、合成油やコハク酸イミド(B)以外の無灰分散剤、上述の他の潤滑油用添加剤を配合する工程を有する、方法であることが好ましい。
なお、ポリマー(C)等の樹脂成分は、鉱油(A)との相溶性の観点から、希釈油に溶解された溶液の形態とし、当該溶液を鉱油(A)に配合することが好ましい。
【0089】
〔潤滑油組成物の性状〕
本発明の一態様の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは5.1mm/s未満、より好ましくは3.0~5.0mm/s、更に好ましくは3.2~4.8mm/s、より更に好ましくは3.5~4.6mm/s、特に好ましくは3.7~4.5mm/sである。
【0090】
本発明の一態様の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは5.0~60.0mm/s、より好ましくは6.0~50.0mm/s、更に好ましくは7.0~40.0mm/s、より更に好ましくは8.0~30.0mm/s、特に好ましくは10.0~25.0mm/sである。
【0091】
本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは100以上、より好ましくは120以上、更に好ましくは140以上、より更に好ましくは160以上、特に好ましくは180以上である。
【0092】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物は、広範な高温領域下での温度範囲において、優れた油圧特性を発現できるほどに、一定の粘性を維持することができる。
例えば、本発明の一態様の潤滑油組成物の140℃における動粘度は、好ましくは2.45mm/s以上、より好ましくは2.46~4.40m/s、更に好ましくは2.48~4.20m/s、より更に好ましくは2.50~4.00m/s、特に好ましくは2.55~3.80m/sである。
なお、140℃の動粘度は、例えば、エンジンの潤滑に適用した場合、エンジンの使用時における油圧特性の指標となる。つまり、140℃の動粘度が2.45mm/s以上であれば、エンジンの使用時における油圧特性に優れた潤滑油組成物であるといえる。
【0093】
本発明の一態様の潤滑油組成物の110℃における動粘度は、好ましくは2.8~5.0mm/s、より好ましくは3.0~4.8mm/s、更に好ましくは3.2~4.6mm/s、より更に好ましくは3.3~4.5mm/s、特に好ましくは3.5~4.4mm/sである。
【0094】
本発明の一態様の潤滑油組成物の120℃における動粘度は、好ましくは2.7~4.8mm/s、より好ましくは2.9~4.6mm/s、更に好ましくは3.0~4.4mm/s、より更に好ましくは3.1~4.2mm/s、特に好ましくは3.2~4.0mm/sである。
【0095】
本発明の一態様の潤滑油組成物の130℃における動粘度は、好ましくは2.5~4.6mm/s、より好ましくは2.6~4.5mm/s、更に好ましくは2.7~4.3mm/s、より更に好ましくは2.75~4.1mm/s、特に好ましくは2.8~3.9mm/sである。
【0096】
本発明の一態様の潤滑油組成物の150℃における動粘度は、好ましくは2.00~4.00mm/s、より好ましくは2.05~3.80mm/s、更に好ましくは2.10~3.60mm/s、より更に好ましくは2.15~3.40mm/s、特に好ましくは2.20~3.20mm/sである。
【0097】
なお、本発明の一態様の潤滑油組成物は、広範な高温領域下での温度範囲において、優れた省燃費性を発現することができる。例えば、低温領域下での省燃費性は、80℃におけるHTHS粘度によって評価することができる。
具体的に、本発明の一態様の潤滑油組成物の80℃におけるHTHS粘度は、好ましくは4.40mPa・s以下、より好ましくは2.40~4.35mPa・s、更に好ましくは2.50~4.32mPa・s、より更に好ましくは2.60~4.30mPa・sである。
【0098】
本発明の一態様の潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は、好ましくは2.00~4.00mPa・s、より好ましくは2.10~3.90mPa・s、更に好ましくは2.20~3.80mPa・s、より更に好ましくは2.40~3.60mPa・sである。
【0099】
本発明の一態様の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、好ましくは1.40mPa・s以上、より好ましくは1.45~3.80mPa・s、更に好ましくは1.50~3.60mPa・s、より更に好ましくは1.55~3.40mPa・sである。
なお、本明細書において、各温度におけるHTHS粘度は、ASTM D 4741に準拠し、それぞれの測定温度で、せん断速度10/sでせん断した後の粘度を測定した値を意味する。
【0100】
本発明の一態様の潤滑油組成物のSAE粘度グレードは、0W-4又は0W-8であることが好ましく、0W-4であることがより好ましい。これらのSAE粘度グレードにおいて、例えば、ハイブリッドカーや発電機に搭載されたエンジンの潤滑に適用した際に各種性能を十分に発現させることができる。
【0101】
本発明の一態様の潤滑油組成物のNOACK値は、好ましくは32質量%以下、より好ましくは31質量%以下、更に好ましくは30.5質量%以下である。
NOACK値が32質量%以下であれば、蒸発によるオイル消費が抑制され、オイル消費抑制性に優れた潤滑油組成物であるといえる。
【0102】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、モリブデン原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.010質量%以上、より好ましくは0.050質量%以上、更に好ましくは0.080質量%以上、より更に好ましくは0.090質量%以上であり、また、好ましくは0.200質量%以下、より好ましくは0.180質量%以下、更に好ましくは0.160質量%以下、より更に好ましくは0.140質量%以下ある。
つまり、モリブデン原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.010~0.200質量%、より好ましくは0.050~0.180質量%、更に好ましくは0.080~0.160質量%、より更に好ましくは0.090~0.140質量%である。
【0103】
〔潤滑油組成物の用途〕
以上のとおり、本発明の一態様の潤滑油組成物は、油圧特性、省燃費性、及びオイル消費抑制性といった特性に優れている。そのため、本発明の一態様の潤滑油組成物は、エンジンに潤滑に好適に適用することができ、特に、ハイブリッドカーに搭載されたエンジン又は電動車両用の発電機に搭載されたエンジンの潤滑により好適に適用し得、電動車両用のレンジエクステンダーに搭載されたエンジンの潤滑に更に好適に適用し得る。
つまり、本発明の一態様の潤滑油組成物の上述の特性を考慮すると、本発明は、下記[1]及び[2]に記載のエンジン、並びに下記[3]及び[4]に記載の潤滑油組成物の使用方法も提供し得る。
[1]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を適用した、ハイブリッドカーのエンジン又は電動車両用の発電機に搭載された、エンジン。
[2]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を適用した、電動車両用のレンジエクステンダーに搭載された、エンジン。
[3]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を、ハイブリッドカーのエンジン又は電動車両用の発電機に搭載されたエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。
[4]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を、電動車両用のレンジエクステンダーに搭載されたエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。
【0104】
なお、上記[1]~[4]のエンジンの燃料は、特に限定されず、例えば、ガス、ガソリン、バイオメタノール等が挙げられる。
上記[1]及び[3]における、前記ハイブリッドカーのエンジンとしては、内燃機関と電動機の両方を車両の駆動源とするパラレル方式(並列方式)のエンジンや、スプリット方式(動力分割方式)のエンジン等が挙げられる。また、ハイブリッドカーとしては、電動機のみで自走可能な内燃機関を備えた電動化車両等(例えば、プラグインハイブリッド車等のフルハイブリッド車)であってもよく、電動機(オルタネーター等)を内燃機関の駆動補助として用いたマイルドハイブリッド車等であってもよい。
【0105】
また、上記[1]及び[3]における、前記電動車両用の発電機に搭載されたエンジンとしては、電動機のみを車両の駆動源とし電動機の発電に使用されるエンジンが挙げられ、具体的には、電動車両の電動機の発電を補助的に行う、電動車両用のレンジエクステンダーに搭載されたエンジンが挙げられる。
【0106】
上記[2]及び[4]における、前記レンジエクステンダーとは、バッテリの残容量が低下したとき、もしくは、比較的大きい電力が必要となる加速時や暖房運転時等のような、電力の供給が必要な場合にエンジンによる発電を行う一方で、発電の必要がない場合にはエンジンを停止させる機構を指す。本発明の潤滑油組成物は、ハイブリッドカーのエンジンや電動車両用の発電機に搭載されたエンジンの潤滑に好適に適用し得るが、特に電動車両用のレンジエクステンダーに搭載されたエンジンに使用することが好ましい。
レンジエクステンダーに搭載されたエンジンは、従来のガソリンエンジンほどの出力は要求されず、短時間において運転と停止を繰り返す。その一方で、潤滑油組成物の低粘度化による省燃費性向上が求められているが、低粘度化はオイル消費量の増大や油圧不足を引き起こしてしまう。しかしながら、上述のとおり、本発明の一態様の潤滑油組成物は、低粘度であっても、油圧特性、省燃費性、及びオイル消費抑制性といった特性に優れている。そのため、上記[2]及び[4]の態様に好適に適用し得る。
【実施例
【0107】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各種物性の測定法又は評価法は、下記のとおりである。
【0108】
(1)動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)%C、%C
ASTM D-3238環分析(n-d-M法)に準拠して測定した。
(3)NOACK値
JPI-5S-41-2004に準拠し、250℃にて測定した。
(4)アニリン点
JIS K2256(U字管法)に準拠して測定した。
(5)引火点
JIS K2265-4に準拠し、クリーブランド開放式(COC)法により測定した。
(6)流動点
JIS K2269:1987に準拠して測定した。
(7)軽質留分の留出量が10体積%となる温度
ASTM D6352に準拠し、ガスクロマトグラフ法蒸留試験によって、室温から昇温していく過程での軽質留分の留出量を測り、その留出量が10体積%に達した際の温度を測定した。
(8)窒素原子の含有量
JIS K2609に準拠して測定した。
(9)モリブデン原子の含有量
JPI-5S-38-2003に準拠して測定した。
(10)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、
ゲル浸透クロマトグラフ装置(アジレント社製、「1260型HPLC」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「Shodex LF404」を2本、順次連結したもの。
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
また、測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比〔Mw/Mn〕を分子量分布として算出した。
(11)SSI(せん断安定性指数)
測定対象となる重合体に希釈油である鉱油を加えて試料油を調製し、当該試料油及び当該鉱油を用いて、JPI-5S-29-06に準拠して測定した。
具体的には、対象となる重合体について、前記計算式(1)中のKv、Kv、Kvoilの各値を測定して、当該計算式(1)より算出した。
(12)HTHS粘度
ASTM D 4741に準拠し、それぞれの測定温度で、せん断速度10/sでせん断した後の粘度を測定した。
【0109】
実施例1~2、比較例1~4
表2に示す配合量にて、鉱油、コハク酸イミド、ポリマー及び各種添加剤を配合し、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。なお、表2に記載されたポリマーの配合量は、希釈油の質量を除いた有効成分換算(固形分換算)での配合量を記載している。また、鉱油として、2種以上の鉱油を組み合わせてなる混合鉱油を使用した場合は、表2中の「鉱油の性状」は、混合鉱油の性状を示す。
また、それぞれの潤滑油組成物の調製に使用した、鉱油、コハク酸イミド、ポリマー及び各種添加剤の詳細は以下のとおりである。
【0110】
<鉱油>
・鉱油(A-1)~(A-4):下記表1に記載のAPI基油カテゴリーのグループ2又は3に分類されるパラフィン系鉱油である。
【表1】
【0111】
<コハク酸イミド>
・非変性コハク酸ビスイミド:非変性コハク酸ビスイミド、窒素原子(N)含有量=1.2質量%。
<ポリマー>
・櫛形ポリマー:Mw=60万、Mw/Mn=2.4、SSI=49である櫛形ポリマー。
<各種添加剤>
・添加剤混合物:耐摩耗剤(ZnDTP)、摩擦調整剤(MoDTC、モリブデン換算での含有量が前記潤滑油組成物の全量基準で0.10質量%となるように配合)、金属系清浄剤、酸化防止剤、及び消泡剤を含む添加剤の混合物。
【0112】
調製した潤滑油組成物について、上述の方法に準拠して、各温度での動粘度、粘度指数、80℃、100℃、及び150℃でのHTHS粘度、並びに、NOACK値を測定した。これらの結果を表2に示す。
また、省燃費性については、さらに下記のモータリングトルク試験を行い、駆動トルク改善率を算出し、省燃費性の評価の指標の一つとした。
【0113】
[モータリングトルク試験による駆動トルク改善率の算出]
以下に示す仕様のエンジンに、実施例及び比較例の潤滑油組成物を充填して、以下に示す試験条件でモータリングトルク試験を行い、油温80℃で、回転数が1500rpm、2000rpm、又は2500rpmにおけるトルク(dB)を測定した。
(試験条件)
・使用装置:エンジンモータリング装置
・エンジン:四輪車用水冷1,500CC直列4気筒エンジン
・動弁形式:DOHC(ローラー)
・エンジン回転数:1,500rpm、2,000rpm、及び2,500rpm
・オイルパン油温:80℃
そして、比較例1の潤滑油組成物を対象にしてそれぞれの回転数にて測定したトルクの値を基準にして、下記式から、それぞれの回転数における駆動トルク改善率を算出した。
・駆動トルク改善率(%)=([比較例1の潤滑油組成物を用いて測定したトルクの測定値]-[対象の潤滑油組成物を用いて測定したトルクの測定値])/[比較例1の潤滑油組成物を用いて測定したトルクの測定値]×100
なお、比較例1の潤滑油組成物を用いて測定したトルクの測定値に比べて、対象となる潤滑油組成物のトルクの測定値が小さい場合には、上記式から算出される駆動トルク改善率はプラスとなる。逆に、対象となる潤滑油組成物のトルクの測定値が大きい場合には、上記式から算出される駆動トルク改善率はマイナスとなる。
駆動トルク改善率の値が大きいほど駆動トルクが改善されたものといえるため、測定対象の潤滑油組成物は省燃費性が高いといえる。本実施例においては、駆動トルク改善率の値が、「0.50%以上」である場合に省燃費性の高い潤滑油組成物と判断するが、より好ましくは0.55%以上、更に好ましくは0.60%以上、より更に好ましくは0.70%以上である。
【0114】
そして、測定した物性値の値及び上述のとおり算出した駆動トルク改善率から、それぞれの潤滑油組成物の油圧特性、省燃費性、及びオイル消費抑制性について、以下の基準により評価した。それらの評価結果を表2に示す。
【0115】
<油圧特性の評価基準>
・A:潤滑油組成物の140℃動粘度が2.45mm/s以上であり、エンジン使用時の温度環境下での油圧を十分に保持できる程度の粘性を有している。
・F:潤滑油組成物の140℃動粘度が2.45mm/s未満であり、エンジン使用時の温度環境下での粘度が低いため、油圧を十分に保持されない恐れがある。
【0116】
<省燃費性の評価基準>
・A:油温80℃での回転数1500rpm、2000rpm、及び2500rpmにおける駆動トルク改善率が、いずれの回転数においても0.5%以上であり、且つ、80℃におけるHTHS粘度が4.40mPa・s以下である。
・F:油温80℃での回転数1500rpm、2000rpm、及び2500rpmにおける駆動トルク改善率が、少なくとも1つの回転数において0.5%未満、及び/又は、80℃におけるHTHS粘度が4.40mPa・s超である。
【0117】
<オイル消費抑制性の評価基準>
・A:NOACK値が32質量%以下であり、蒸発によるオイル消費が抑制された潤滑油組成物であるといえる。
・F:NOACK値が32質量%超であり、蒸発による損失が大きく、オイル消費が十分に抑制されていない。
【0118】
【表2】
【0119】
表2より、実施例1~2で調製した潤滑油組成物は、油圧特性、省燃費性、及びオイル消費抑制性のいずれの特性も優れており、これらの特性のバランスが良好な結果となった。一方で、比較例1~4で調製した潤滑油組成物は、油圧特性、省燃費性、及びオイル消費抑制性の少なくとも1つが劣り、これらの特性のバランスに改善の余地がある結果となった。