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特許7618739光検出素子、イメージセンサおよび半導体膜
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  • 特許-光検出素子、イメージセンサおよび半導体膜 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-10
(45)【発行日】2025-01-21
(54)【発明の名称】光検出素子、イメージセンサおよび半導体膜
(51)【国際特許分類】
   H10F 30/20 20250101AFI20250114BHJP
   H10F 39/18 20250101ALI20250114BHJP
   H10D 62/81 20250101ALI20250114BHJP
   C01G 21/21 20060101ALI20250114BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20250114BHJP
   H10F 30/00 20250101ALI20250114BHJP
   H01L 21/208 20060101ALN20250114BHJP
【FI】
H01L31/10 A
H01L27/146 C
H01L29/06 601D
C01G21/21
B82Y20/00
H01L31/08 N
H01L21/208 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023111270
(22)【出願日】2023-07-06
(62)【分割の表示】P 2021529908の分割
【原出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2023145474
(43)【公開日】2023-10-11
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2019123101
(32)【優先日】2019-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】高田 真宏
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅司
(72)【発明者】
【氏名】北島 峻輔
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-506303(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163327(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0271604(US,A1)
【文献】PRADHAN, Santanu et al.,"Trap-State Suppression and Improved Charge Transport in PbS Quantum Dot Solar Cells with Synergistic Mixed-Ligand Treatments,small,2017年,Vol.13, Article Number 1700598,pp.1-9
【文献】HOSSEIN, B. et al.,Surface chemistry of as-synthesized and air-oxidized PbS quantum dots,Applied Surface Science,2018年06月25日,Vol.457,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02-31/20
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PbS量子ドットの集合体と、前記PbS量子ドットに配位する配位子と、を含む光電変換層を有する光検出素子を含むイメージセンサであって、
前記PbS量子ドットは、S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.95モル以下含み、
前記配位子は、ハロゲン原子を含む配位子と、配位部を2以上含む多座配位子とを含み、
前記配位部を2以上含む多座配位子は、式(A)~(C)のいずれかで表される配位子である、イメージセンサ
【化1】
式(A)中、XA1及びXA2はそれぞれ独立して、チオール基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基又はホスホン酸基を表し、LA1は炭化水素基を表す;
式(B)中、XB1及びXB2はそれぞれ独立して、チオール基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基又はホスホン酸基を表し、XB3は、S、O又はNHを表し、LB1及びLB2は、それぞれ独立して炭化水素基を表す;
式(C)中、XC1~XC3はそれぞれ独立して、チオール基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基又はホスホン酸基を表し、XC4は、Nを表し、LC1~LC3は、それぞれ独立して炭化水素基を表す。
【請求項2】
前記PbS量子ドットは、S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.90モル以下含む、請求項1に記載のイメージセンサ
【請求項3】
前記PbS量子ドットは、S原子1モルに対してPb原子を1.80モル以上1.90モル以下含む、請求項1に記載のイメージセンサ
【請求項4】
前記ハロゲン原子を含む配位子が無機ハロゲン化物である、請求項1~3のいずれか1項に記載のイメージセンサ
【請求項5】
前記無機ハロゲン化物はZn原子を含む、請求項4に記載のイメージセンサ
【請求項6】
前記ハロゲン原子を含む配位子がヨウ素原子を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のイメージセンサ
【請求項7】
前記配位子は、3-メルカプトプロピオン酸と、
ヨウ化亜鉛、臭化亜鉛およびヨウ化インジウムから選ばれる少なくとも1種と、
を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のイメージセンサ
【請求項8】
フォトダイオード型の光検出素子である、請求項1~7のいずれか1項に記載のイメージセンサ
【請求項9】
波長900~1600nmの光をセンシングする、請求項1~8のいずれか1項に記載のイメージセンサ。
【請求項10】
赤外線イメージセンサである、請求項1~8のいずれか1項に記載のイメージセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PbS量子ドットを含む光電変換層を有する光検出素子、光検出素子の製造方法、および、イメージセンサに関する。また、本発明は、PbS量子ドットを含む分散液および半導体膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンや監視カメラ、車載カメラ等の領域において、赤外域の光を検出可能な光検出素子に注目が集まっている。
【0003】
従来より、イメージセンサなどに用いられる光検出素子には、光電変換層の素材としてシリコンウエハを用いたシリコンフォトダイオードが使用されている。しかしながら、シリコンフォトダイオードでは、波長900nm以上の赤外域では感度が低い。
【0004】
また、近赤外光の受光素子として知られるInGaAs系の半導体材料は、高い量子効率を実現するためにはエピタキシャル成長が必要であるなど、非常に高コストなプロセスを必要としていることが課題であり、普及が進んでいない。
【0005】
また、近年では、半導体量子ドットについての研究が進められている。例えば、特許文献1には、PbS量子ドットを光活性層に用いた光検出器に関する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-532301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者の検討によれば、半導体量子ドットを用いて形成した光電変換層を有する光検出素子は、光電変換の外部量子効率(EQE)や、繰り返し駆動に対する耐久性についてさらなる改善の余地があることが分かった。
【0008】
よって、本発明の目的は、外部量子効率が高く、繰り返し駆動に対する耐久性に優れた光検出素子、光検出素子の製造方法およびイメージセンサを提供することにある。また、本発明の目的は、外部量子効率が高く、繰り返し駆動に対する耐久性に優れた光検出素子などに用いられる分散液および半導体膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者の検討によれば、以下の構成とすることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。よって、本発明は以下を提供する。
<1> PbS量子ドットの集合体と、上記PbS量子ドットに配位する配位子と、を含む光電変換層を有する光検出素子であって、
上記PbS量子ドットは、S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.95モル以下含む、光検出素子。
<2> 上記PbS量子ドットは、S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.90モル以下含む、<1>に記載の光検出素子。
<3> 上記配位子は、ハロゲン原子を含む配位子、および、配位部を2以上含む多座配位子から選ばれる少なくとも1種を含む<1>または<2>に記載の光検出素子。
<4> 上記ハロゲン原子を含む配位子が無機ハロゲン化物である、<3>に記載の光検出素子。
<5> 上記無機ハロゲン化物はZn原子を含む、<4>に記載の光検出素子。
<6> 上記ハロゲン原子を含む配位子がヨウ素原子を含む、<3>~<5>のいずれか1つに記載の光検出素子。
<7> 上記配位子が、3-メルカプトプロピオン酸、ヨウ化亜鉛、臭化亜鉛およびヨウ化インジウムから選ばれる少なくとも1種を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の光検出素子。
<8> 上記配位子は、2種以上の配位子を含む、<1>~<7>のいずれか1つに記載の光検出素子。
<9> 上記配位子は、ハロゲン原子を含む配位子と、配位部を2以上含む多座配位子とを含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載の光検出素子。
<10> フォトダイオード型の光検出素子である、<1>~<9>のいずれか1つに記載の光検出素子。
<11> <1>~<10>のいずれか1つに記載の光検出素子の製造方法であって、
S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.95モル以下含むPbS量子ドットと、上記PbS量子ドットに配位する配位子と、溶剤と、を含む分散液を用いて上記PbS量子ドットの集合体の膜を形成する工程を含む、光検出素子の製造方法。
<12> <1>~<10>のいずれか1つに記載の光検出素子を含むイメージセンサ。
<13> 波長900~1600nmの光をセンシングする、<12>に記載のイメージセンサ。
<14> 赤外線イメージセンサである、<12>に記載のイメージセンサ。
<15> S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.95モル以下含むPbS量子ドットと、上記PbS量子ドットに配位する配位子と、溶剤と、を含む分散液。
<16> PbS量子ドットの集合体と、上記PbS量子ドットに配位する配位子と、を含む半導体膜であって、
上記PbS量子ドットは、S原子1モルに対して1.75モル以上1.95モル以下含む、半導体膜。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外部量子効率が高く、繰り返し駆動に対する耐久性に優れた光検出素子、光検出素子の製造方法およびイメージセンサを提供することができる。また、外部量子効率が高く、繰り返し駆動に対する耐久性に優れた光検出素子などに用いられる分散液および半導体膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】光検出素子の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。
本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換および無置換を記していない表記は、置換基を有さない基(原子団)と共に置換基を有する基(原子団)をも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。
【0013】
<光検出素子>
本発明の光検出素子は、
PbS量子ドットの集合体と、PbS量子ドットに配位する配位子と、を含む光電変換層を有する光検出素子であって、
PbS量子ドットは、S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.95モル以下含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の光検出素子は、外部量子効率が高く、繰り返し駆動に対する耐久性に優れている。このような効果が得られる詳細な理由は不明であるが次によるものであると推測される。すなわち、このPbS量子ドットは、S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.95モル以下含むので、PbS量子ドットの表面にPb原子が多く存在していると推測される。このため、PbS量子ドットの表面に配位子が吸着されやすくなり、PbS量子ドット表面の配位子被覆率が高いと推測される。PbS量子ドット表面の配位子被覆率を高めることができることにより、PbS量子ドットの表面にトラップされる電子を減少させることができ、その結果、優れた外部量子効率が得られたと推測される。また、PbS量子ドットの表面に配位子が強固に配位し、PbS量子ドットの表面から配位子が剥離しにくくできたため、繰り返し駆動に対する優れた耐久性が得られたと推測される。
【0015】
PbS量子ドットは、S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.95モル以下含み、1.75モル以上1.90以下含むことが好ましく、1.80以上1.90以下含むことがより好ましい。Pb原子の含有量がS原子1モルに対して1.95モル以下であれば、低暗電流が得られやすい。PbS量子ドットのS原子とPb原子とのモル比は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析にてPbS量子ドット中のPb原子およびS原子をそれぞれ定量して算出することができる。なお、配位子にPb原子またはS原子を含むPbS量子ドットのPb/S比を評価する際には、PbS量子ドットを大過剰のメタノール中に浸漬してPbS量子ドットから配位子を除去した後、ICP発光分光分析にてPbS量子ドット中のPb原子およびS原子をそれぞれ定量して算出する。PbS量子ドットから配位子が除去されたことについては、メタノールへの浸漬時間を変えた際に、PbS量子ドットのPb/S比が変化しないことで確認することができる。
【0016】
なお、本明細書において、PbS量子ドットの集合体とは、多数(例えば、1μm四方当たり100個以上)のPbS量子ドットが互いに近接して配置された形態をいう。
【0017】
本発明で用いられるPbS量子ドットは、PbS粒子で構成されている。
【0018】
PbS量子ドットのバンドギャップは、0.5~2.0eVであることが好ましい。PbS量子ドットのバンドギャップが上記範囲であれば、用途に応じて様々な波長の光を検出可能な光検出素子とすることができる。例えば、赤外域の光を検出可能な光検出素子とすることができる。PbS量子ドットのバンドギャップの上限は1.9eV以下であることが好ましく、1.8eV以下であることがより好ましく、1.5eV以下であることが更に好ましい。PbS量子ドットのバンドギャップの下限は0.6eV以上であることが好ましく、0.7eV以上であることが更に好ましい。
【0019】
PbS量子ドットの平均粒径は、2nm~15nmであることが好ましい。なお、PbS量子ドットの平均粒径は、PbS量子ドット10個の平均粒径をいう。PbS量子ドットの粒径の測定には、透過型電子顕微鏡を用いればよい。
【0020】
一般的にPbS量子ドットは、数nm~数十nmまでの様々な大きさの粒子を含む。PbS量子ドットでは内在する電子のボーア半径以下の大きさまでPbS量子ドットの平均粒径を小さくすると、量子サイズ効果によりPbS量子ドットのバンドギャップが変化する現象が生じる。PbS量子ドットの平均粒径が、15nm以下であれば、量子サイズ効果によるバンドギャップの制御を行いやすい。
【0021】
光検出素子の光電変換層は、PbS量子ドットに配位する配位子を含んでいる。配位子としては、ハロゲン原子を含む配位子、および、配位部を2以上含む多座配位子が挙げられる。光電変換層は、配位子を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。なかでも、光電変換層は、ハロゲン原子を含む配位子と多座配位子とをそれぞれ1種以上ずつ含むことが好ましい。
ハロゲン原子を含む配位子を用いた場合は、PbS量子ドットの配位子による表面被覆率を高めやすく、その結果より高い外部量子効率などが得られる。
多座配位子を用いた場合は、多座配位子がPbS量子ドットにキレート配位しやすく、PbS量子ドットからの配位子の剥がれなどをより効果的に抑制でき、優れた耐久性が得られる。更には、キレート配位することでPbS量子ドット同士の立体障害を抑制でき、高い電気伝導性が得られやすくなり、高い外部量子効率が得られる。
そして、ハロゲン原子を含む配位子と多座配位子とを併用した場合は、より高い外部量子効率が得られやすい。上述したように、多座配位子はPbS量子ドットに対してキレート配位すると推測される。そして、PbS量子ドットに配位する配位子として、更に、ハロゲン原子を含む配位子を含む場合には、多座配位子が配位していない隙間にハロゲン原子を含む配位子が配位すると推測され、PbS量子ドットの表面欠陥をより低減することができると推測される。このため、光検出素子の外部量子効率をより向上させることができると推測される。
【0022】
まず、ハロゲン原子を含む配位子について説明する。ハロゲン原子を含む配位子に含まれるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられ、配位力の観点からヨウ素原子であることが好ましい。
【0023】
ハロゲンを含む配位子は、有機ハロゲン化物であってもよく、無機ハロゲン化物であってもよい。なかでも、PbS量子ドットの陽イオンサイト及び陰イオンサイトの両方に配位しやすいという理由から無機ハロゲン化物であることが好ましい。また、無機ハロゲン化物は、Zn原子、In原子およびCd原子から選ばれる金属原子を含む化合物であることが好ましく、Zn原子を含む化合物であることが好ましい。無機ハロゲン化物としては、容易にイオン化して、PbS量子ドットに配位しやすいという理由から金属原子とハロゲン原子との塩であることが好ましい。
【0024】
ハロゲンを含む配位子の具体例としては、ヨウ化亜鉛、臭化亜鉛、塩化亜鉛、ヨウ化インジウム、臭化インジウム、塩化インジウム、ヨウ化カドミウム、臭化カドミウム、塩化カドミウムなどが挙げられ、ヨウ化亜鉛が特に好ましい。
【0025】
なお、ハロゲンを含む配位子では、ハロゲンを含む配位子からハロゲンイオンが解離してPbS量子ドットの表面にハロゲンイオンが配位していることもある。また、ハロゲンを含む配位子のハロゲン以外の部位についても、PbS量子ドットの表面に配位している場合もある。具体例を挙げて説明すると、ヨウ化亜鉛の場合は、ヨウ化亜鉛がPbS量子ドットの表面に配位していることもあれば、ヨウ素イオンや亜鉛イオンがPbS量子ドットの表面に配位していることもある。
【0026】
次に、多座配位子について説明する。多座配位子に含まれる配位部としては、チオール基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基、ホスホン酸基が挙げられる。PbS量子ドットの表面(好ましくはPbS量子ドットのPb原子)に強固に配位しやすいという理由から、多座配位子はチオール基を含む化合物であることが好ましい。
【0027】
多座配位子としては、式(A)~(C)のいずれかで表される配位子が挙げられる。
【化1】
【0028】
式(A)中、XA1及びXA2はそれぞれ独立して、チオール基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基又はホスホン酸基を表し、
A1は炭化水素基を表す。
【0029】
式(B)中、XB1及びXB2はそれぞれ独立して、チオール基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基又はホスホン酸基を表し、
B3は、S、O又はNHを表し、
B1及びLB2は、それぞれ独立して炭化水素基を表す。
【0030】
式(C)中、XC1~XC3はそれぞれ独立して、チオール基、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基又はホスホン酸基を表し、
C4は、Nを表し、
C1~LC3は、それぞれ独立して炭化水素基を表す。
【0031】
A1、XA2、XB1、XB2、XC1、XC2およびXC3が表すアミノ基には、-NHに限定されず、置換アミノ基および環状アミノ基も含まれる。置換アミノ基としては、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、アルキルアリールアミノ基などが挙げられる。これらの基が表すアミノ基としては、-NH、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基が好ましく、-NHであることがより好ましい。
【0032】
A1、LB1、LB2、LC1、LC2およびLC3が表す炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であってもよく、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。炭化水素基の炭素数は、1~20が好ましい。炭素数の上限は、10以下が好ましく、6以下がより好ましく、3以下が更に好ましい。炭化水素基の具体例としては、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が挙げられる。
【0033】
アルキレン基は、直鎖アルキレン基、分岐アルキレン基および環状アルキレン基が挙げられ、直鎖アルキレン基または分岐アルキレン基であることが好ましく、直鎖アルキレン基であることがより好ましい。アルケニレン基は、直鎖アルケニレン基、分岐アルケニレン基および環状アルケニレン基が挙げられ、直鎖アルケニレン基または分岐アルケニレン基であることが好ましく、直鎖アルケニレン基であることがより好ましい。アルキニレン基は、直鎖アルキニレン基および分岐アルキニレン基が挙げられ、直鎖アルキニレン基であることが好ましい。アルキレン基、アルケニレン基およびアルキニレン基はさらに置換基を有していてもよい。置換基は、原子数1以上10以下の基であることが好ましい。原子数1以上10以下の基の好ましい具体例としては、炭素数1~3のアルキル基〔メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基〕、炭素数2~3のアルケニル基〔エテニル基およびプロペニル基〕、炭素数2~4のアルキニル基〔エチニル基、プロピニル基等〕、シクロプロピル基、炭素数1~2のアルコキシ基〔メトキシ基およびエトキシ基〕、炭素数2~3のアシル基〔アセチル基、及びプロピオニル基〕、炭素数2~3のアルコキシカルボニル基〔メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基〕、炭素数2のアシルオキシ基〔アセチルオキシ基〕、炭素数2のアシルアミノ基〔アセチルアミノ基〕、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基〔ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基〕、アルデヒド基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホ基、ホスホ基、カルバモイル基、シアノ基、イソシアネート基、チオール基、ニトロ基、ニトロキシ基、イソチオシアネート基、シアネート基、チオシアネート基、アセトキシ基、アセトアミド基、ホルミル基、ホルミルオキシ基、ホルムアミド基、スルファミノ基、スルフィノ基、スルファモイル基、ホスホノ基、アセチル基、ハロゲン原子、アルカリ金属原子等が挙げられる。
【0034】
式(A)において、XA1とXA2はLA1によって、1~10原子隔てられていることが好ましく、1~6原子隔てられていることがより好ましく、1~4原子隔てられていることが更に好ましく、1~3原子隔てられていることがより一層好ましく、1または2原子隔てられていることが特に好ましい。
【0035】
式(B)において、XB1とXB3はLB1によって、1~10原子隔てられていることが好ましく、1~6原子隔てられていることがより好ましく、1~4原子隔てられていることが更に好ましく、1~3原子隔てられていることがより一層好ましく、1または2原子隔てられていることが特に好ましい。また、XB2とXB3はLB2によって、1~10原子隔てられていることが好ましく、1~6原子隔てられていることがより好ましく、1~4原子隔てられていることが更に好ましく、1~3原子隔てられていることがより一層好ましく、1または2原子隔てられていることが特に好ましい。
【0036】
式(C)において、XC1とXC4はLC1によって、1~10原子隔てられていることが好ましく、1~6原子隔てられていることがより好ましく、1~4原子隔てられていることが更に好ましく、1~3原子隔てられていることがより一層好ましく、1または2原子隔てられていることが特に好ましい。また、XC2とXC4はLC2によって、1~10原子隔てられていることが好ましく、1~6原子隔てられていることがより好ましく、1~4原子隔てられていることが更に好ましく、1~3原子隔てられていることがより一層好ましく、1または2原子隔てられていることが特に好ましい。また、XC3とXC4はLC3によって、1~10原子隔てられていることが好ましく、1~6原子隔てられていることがより好ましく、1~4原子隔てられていることが更に好ましく、1~3原子隔てられていることがより一層好ましく、1または2原子隔てられていることが特に好ましい。
【0037】
なお、「XA1とXA2はLA1によって、1~10原子隔てられている」とは、XA1とXA2とをつなぐ最短距離の分子鎖を構成する原子の数が1~10個であることを意味する。例えば、下記式(A1)の場合は、XA1とXA2とが2原子隔てられており、下記式(A2)および式(A3)の場合は、XA1とXA2とが3原子隔てられている。以下の構造式に付記した数字は、XA1とXA2とをつなぐ最短距離の分子鎖を構成する原子の配列の順番を表している。
【化2】
【0038】
具体的化合物を挙げて説明すると、3-メルカプトプロピオン酸は、XA1に相当する部位がカルボキシ基で、XA2に相当する部位がチオール基で、LA1に相当する部位がエチレン基である構造の化合物である(下記構造の化合物)。3-メルカプトプロピオン酸においては、XA1(カルボキシ基)とXA2(チオール基)とがLA1(エチレン基)によって2原子隔てられている。
【化3】
【0039】
B1とXB3はLB1によって、1~10原子隔てられていること、XB2とXB3はLB2によって、1~10原子隔てられていること、XC1とXC4はLC1によって、1~10原子隔てられていること、XC2とXC4はLC2によって、1~10原子隔てられていること、XC3とXC4はLC3によって、1~10原子隔てられていることの意味についても上記と同様である。
【0040】
多座配位子の具体例としては、3-メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、2-アミノエタノール、2-アミノエタンジオール、2-メルカプトエタノール、グリコール酸、エチレングリコール、エチレンジアミン、アミノスルホン酸、グリシン、アミノメチルリン酸、グアニジン、ジエチレントリアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、4-メルカプトブタン酸、3-アミノプロパノール、3-メルカプトプロパノール、N-(3-アミノプロピル)-1,3-プロパンジアミン、3-(ビス(3-アミノプロピル)アミノ)プロパン-1-オール、1-チオグリセロール、ジメルカプロール、1-メルカプト-2-ブタノール、1-メルカプト-2-ペンタノール、3-メルカプト-1-プロパノール、2,3-ジメルカプト-1-プロパノール、ジエタノールアミン、2-(2-アミノエチル)アミノエタノール、ジメチレントリアミン、1,1-オキシビスメチルアミン、1,1-チオビスメチルアミン、2-[(2-アミノエチル)アミノ]エタンチオール、ビス(2-メルカプトエチル)アミン、2-アミノエタン-1-チオール、1-アミノ-2-ブタノール、1-アミノ-2-ペンタノール、L-システイン、D-システイン、3-アミノ-1-プロパノール、L-ホモセリン、D-ホモセリン、アミノヒドロキシ酢酸、L-乳酸、D-乳酸、L-リンゴ酸、D-リンゴ酸、グリセリン酸、2-ヒドロキシ酪酸、L-酒石酸、D-酒石酸、タルトロン酸およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0041】
多座配位子としては、多座配位子とPbS量子ドットのPb原子との間の錯安定定数K1が6以上である化合物が好ましく用いられる。多座配位子の上記錯安定定数K1は8以上であることがより好ましく、10以上であることが更に好ましい。多座配位子と、PbS量子ドットのPb原子との間の錯安定定数K1が6以上であれば、PbS量子ドットと多座配位子との結合の強さを高めることが出来る。
【0042】
錯安定定数K1とは、配位子と配位結合の対象となる金属原子との関係で定まる定数であり、下記式(b)により表される。
【0043】
錯安定定数K1=[ML]/([M]・[L]) ・・・(b)
式(b)において、[ML]は、金属原子と配位子が結合した錯体のモル濃度を表し、[M]は配位結合に寄与する金属原子のモル濃度を表し、[L]は配位子のモル濃度を表す。
【0044】
実際には一つの金属原子に複数の配位子が配位する場合もあるが、本発明では、一つの金属原子に一つの配位子分子が配位する場合の式(b)で表される錯安定定数K1を、配位結合の強さの指標として規定する。
【0045】
配位子と金属原子との間の錯安定定数K1の求め方としては、分光法、磁気共鳴分光法、ポテンショメトリー、溶解度測定、クロマトグラフィー、カロリメトリー、凝固点測定、蒸気圧測定、緩和測定、粘度測定、表面張力測定等がある。本発明では様々な手法や研究機関からの結果がまとめられた、Sc-Databese ver.5.85(Academi Software)(2010)を使用することで、錯安定定数K1を定めた。錯安定定数K1がSc-Databese ver.5.85に無い場合には、A.E.MartellとR.M.Smith著、Critical Stability Constantsに記載の値を用いる。Critical Stability Constantsにも錯安定定数K1が記載されていない場合は、既述の測定方法を用いるか、錯安定定数K1を計算するプログラムPKAS法(A.E.Martellら著、The Determination and Use of Stability Constants,VCH(1988))を用いて、錯安定定数K1を算出する。
【0046】
PbS量子ドットの集合体と、PbS量子ドットに配位する配位子とを含む光電変換層は、S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.95モル以下含むPbS量子ドットと、PbS量子ドットに配位する配位子と、溶剤とを含む分散液を基板上に付与して、PbS量子ドットの集合体の膜を形成する工程(PbS量子ドット集合体形成工程)を経て形成することが好ましい。すなわち、本発明の光検出素子の製造方法は、S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.95モル以下含むPbS量子ドットと、PbS量子ドットに配位する配位子と、溶剤と、を含む分散液を用いてPbS量子ドットの集合体の膜を形成する工程を含むことが好ましい。
分散液を基板上に付与する手法は、特に限定はない。スピンコート法、ディップ法、インクジェット法、ディスペンサー法、スクリーン印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、スプレーコート法等の塗布方法が挙げられる。
【0047】
また、PbS量子ドットの集合体の膜を形成した後、更に配位子交換工程を行ってPbS量子ドットに配位している配位子を他の配位子に交換してもよい。配位子交換工程では、PbS量子ドット集合体形成工程によって形成されたPbS量子ドットの集合体の膜に対して、配位子Aおよび溶剤を含む配位子溶液を付与して、PbS量子ドットに配位している配位子を配位子Aに交換する。配位子Aは2種以上の配位子を含んでいてもよく、配位子溶液は2種併用してもよい。配位子Aとしては、上述したハロゲン原子を含む配位子や配位部を2以上含む多座配位子が挙げられる。
【0048】
一方で、分散液において、PbS量子ドットの表面にあらかじめ所望の配位子を付与させておき、この分散液を基板上に塗布して光電変換層を形成してもよい。
【0049】
分散液中のPbS量子ドットの含有量は、1~500mg/mLであることが好ましく、10~200mg/mLであることがより好ましく、20~100mg/mLであることが更に好ましい。
【0050】
分散液や配位子溶液に含まれる溶剤としては、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、アミド系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤などが挙げられる。これらの詳細については、国際公開第2015/166779号の段落番号0223を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。また、環状アルキル基が置換したエステル系溶剤、環状アルキル基が置換したケトン系溶剤を用いることもできる。溶剤の金属不純物は少ないほうが好ましく、金属含有量は、例えば10質量ppb(parts per billion)以下である。必要に応じて質量ppt(parts per trillion)レベルの溶剤を用いてもよく、そのような溶剤は例えば東洋合成社が提供している(化学工業日報、2015年11月13日)。溶剤から金属等の不純物を除去する方法としては、例えば、蒸留(分子蒸留や薄膜蒸留等)やフィルタを用いたろ過を挙げることができる。ろ過に用いるフィルタのフィルタ孔径としては、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下が更に好ましい。フィルタの材質は、ポリテトラフロロエチレン、ポリエチレンまたはナイロンが好ましい。溶剤は、異性体(原子数が同じであるが構造が異なる化合物)が含まれていてもよい。また、異性体は、1種のみが含まれていてもよいし、複数種含まれていてもよい。
【0051】
光検出素子の光電変換層の厚みは、10~600nmであることが好ましく、50~600nmであることがより好ましく、100~600nmであることが更に好ましく、150~600nmであることがより一層好ましい。厚みの上限は、550nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、450nm以下が更に好ましい。
【0052】
光検出素子で検出する目的の波長の光に対する光電変換層の屈折率は2.0~3.0であることが好ましく、2.1~2.8であることがより好ましく、2.2~2.7であることが更に好ましい。この態様によれば、光検出素子をフォトダイオードの構成とした際において、高い光吸収率、すなわち高い外部量子効率を実現しやすくなる。
【0053】
本発明の光検出素子は、赤外域の波長の光に対して優れた感度を有しているので、赤外域の波長の光を検出するものであることが好ましい。すなわち、本発明の光検出素子は、赤外光検出素子であることが好ましい。また、上述した光検出素子で検出する目的の光は、赤外域の波長の光であることが好ましい。また、赤外域の波長の光は、波長700nmを超える波長の光であることが好ましく、波長800nm以上の光であることがより好ましく、波長900nm以上の光であることが更に好ましい。また、赤外域の波長の光は、波長2000nm以下の光であることが好ましく、波長1600nm以下の光であることがより好ましい。
【0054】
また、本発明の光検出素子は、赤外域の波長の光と、可視域の波長の光(好ましくは波長400~700nmの範囲の光)とを同時に検出するものであってもよい。
【0055】
光検出素子の種類としては、フォトコンダクタ型の光検出素子、フォトダイオード型の光検出素子が挙げられる。なかでも、高い信号ノイズ比(SN比)が得られやすいという理由からフォトダイオード型の光検出素子であることが好ましい。
【0056】
図1に、フォトダイオード型の光検出素子の一実施形態を示す。なお、図中の矢印は光検出素子への入射光を表す。図1に示す光検出素子1は、下部電極12と、下部電極12に対向する上部電極11と、下部電極12と上部電極11との間に設けられた光電変換層13とを含んでいる。図1に示す光検出素子1は、上部電極11の上方から光を入射して用いられる。
【0057】
光電変換層13は上述した本発明に係る光電変換層である。光電変換層の好ましい態様については上述した通りである。
【0058】
また、光検出素子で検出する目的の光の波長λと、下部電極12の光電変換層13側の表面12aから、光電変換層13の上部電極層側の表面13aまでの上記波長λの光の光路長Lλとが下記式(1-1)の関係を満していることが好ましく、下記式(1-2)の関係を満していることがより好ましい。波長λと光路長Lλとがこのような関係を満たしている場合には、光電変換層13において、上部電極11側から入射された光(入射光)と、下部電極12の表面で反射された光(反射光)との位相を揃えることができ、その結果、光学干渉効果によって光が強め合い、より高い外部量子効率を得ることができる。
【0059】
0.05+m/2≦Lλ/λ≦0.35+m/2 ・・・(1-1)
0.10+m/2≦Lλ/λ≦0.30+m/2 ・・・(1-2)
【0060】
上記式中、λは、光検出素子で検出する目的の光の波長であり、
λは、下部電極12の光電変換層13側の表面12aから、光電変換層13の上部電極層側の表面13aまでの波長λの光の光路長であり、
mは0以上の整数である。
【0061】
mは0~4の整数であることが好ましく、0~3の整数であることがより好ましく、0~2の整数であることが更に好ましい。この態様によれば、正孔や電子などの電荷の輸送特性が良好であり、光検出素子の外部量子効率をより高めることができる。
【0062】
ここで、光路長とは、光が透過する物質の物理的な厚みと屈折率を乗じたものを意味する。光電変換層13を例に挙げて説明すると、光電変換層の厚さをd、光電変換層の波長λに対する屈折率をNとしたとき、光電変換層13を透過する波長λの光の光路長はN×dである。光電変換層13が2層以上の積層膜で構成されている場合や、光電変換層13と下部電極12との間に後述する中間層が存在する場合には、各層の光路長の積算値が上記光路長Lλである。
【0063】
上部電極11は、光検出素子で検出する目的の光の波長に対して実質的に透明な導電材料で形成された透明電極であることが好ましい。なお、本発明において、「実質的に透明である」とは、透過率が50%以上であることを意味し、60%以上が好ましく、80%以上が特に好ましい。上部電極11の材料としては、導電性金属酸化物などが挙げられる。具体例としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムタングステン、酸化インジウム亜鉛(indium zinc oxide:IZO)、酸化インジウム錫(indium tin oxide:ITO)、フッ素をドープした酸化錫(fluorine-doped tin oxide:FTO)等が挙げられる。
【0064】
上部電極11の膜厚は、特に限定されず、0.01~100μmが好ましく、0.01~10μmがさらに好ましく、0.01~1μmが特に好ましい。なお、本発明において、各層の膜厚は、走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope:SEM)等を用いて光検出素子1の断面を観察することにより、測定できる。
【0065】
下部電極12を形成する材料としては、例えば、白金、金、ニッケル、銅、銀、インジウム、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスニウム、アルミニウム等の金属、上述の導電性金属酸化物、炭素材料および導電性高分子等が挙げられる。炭素材料としては、導電性を有する材料であればよく、例えば、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラファイト、グラフェン等が挙げられる。
【0066】
下部電極12としては、金属もしくは導電性金属酸化物の薄膜(蒸着してなる薄膜を含む)、または、この薄膜を有するガラス基板もしくはプラスチック基板が好ましい。ガラス基板もしくはプラスチック基板としては、金もしくは白金の薄膜を有するガラス、または、白金を蒸着したガラスが好ましい。下部電極12の膜厚は、特に限定されず、0.01~100μmが好ましく、0.01~10μmがさらに好ましく、0.01~1μmが特に好ましい。
【0067】
なお、図示しないが、上部電極11の光入射側の表面(光電変換層13側とは反対の表面)には透明基板が配置されていてもよい。透明基板の種類としては、ガラス基板、樹脂基板、セラミック基板等が挙げられる。
【0068】
また、図示しないが、光電変換層13と下部電極12との間、および/または、光電変換層13と上部電極11との間には中間層が設けられていてもよい。中間層としては、ブロッキング層、電子輸送層、正孔輸送層などが挙げられる。好ましい形態としては、光電変換層13と下部電極12との間、および、光電変換層13と上部電極11との間のいずれか一方に正孔輸送層を有する態様が挙げられる。光電変換層13と下部電極12との間、および、光電変換層13と上部電極11との間のいずれか一方には電子輸送層を有し、他方には正孔輸送層を有することがより好ましい。正孔輸送層および電子輸送層は単層膜であってもよく、2層以上の積層膜であってもよい。
【0069】
ブロッキング層は逆電流を防止する機能を有する層である。ブロッキング層は短絡防止層ともいう。ブロッキング層を形成する材料は、例えば、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸セシウム、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化タングステン等が挙げられる。ブロッキング層は単層膜であってもよく、2層以上の積層膜であってもよい。
【0070】
電子輸送層は、光電変換層13で発生した電子を上部電極11または下部電極12へと輸送する機能を有する層である。電子輸送層は正孔ブロック層ともいわれている。電子輸送層は、この機能を発揮することができる電子輸送材料で形成される。電子輸送材料としては、[6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester(PC61BM)等のフラーレン化合物、ペリレンテトラカルボキシジイミド等のペリレン化合物、テトラシアノキノジメタン、酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムタングステン、酸化インジウム亜鉛、酸化インジウム錫、フッ素をドープした酸化錫等が挙げられる。電子輸送層は単層膜であってもよく、2層以上の積層膜であってもよい。
【0071】
正孔輸送層は、光電変換層13で発生した正孔を上部電極11または下部電極12へと輸送する機能を有する層である。正孔輸送層は電子ブロック層ともいわれている。正孔輸送層は、この機能を発揮することができる正孔輸送材料で形成されている。例えば、PEDOT:PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホン酸))、MoOなどが挙げられる。また、特開2001-291534号公報の段落番号0209~0212に記載の有機正孔輸送材料等を用いることもできる。また、正孔輸送材料には半導体量子ドットを用いることもできる。半導体量子ドットを構成する半導体量子ドット材料としては、例えば一般的な半導体結晶〔a)IV族半導体、b)IV-IV族、III-V族、またはII-VI族の化合物半導体、c)II族、III族、IV族、V族、および、VI族元素の内3つ以上の組み合わせからなる化合物半導体〕のナノ粒子(0.5nm以上100nm未満大の粒子)が挙げられる。具体的には、PbS、PbSe、InN、InAs、Ge、InAs、InGaAs、CuInS、CuInSe、CuInGaSe、InSb、Si、InP等の比較的バンドギャップの狭い半導体材料が挙げられる。半導体量子ドットの表面には配位子が配位していてもよい。配位子としては上述した多座配位子などが挙げられる。
【0072】
<イメージセンサ>
本発明のイメージセンサは、上述した本発明の光検出素子を含む。イメージセンサの構成としては、本発明の光検出素子を備え、イメージセンサとして機能する構成であれば特に限定はない。
【0073】
本発明のイメージセンサは、赤外線透過フィルタ層を含んでいてもよい。赤外線透過フィルタ層としては、可視域の波長帯域の光の透過性が低いものであることが好ましく、波長400~650nmの範囲の光の平均透過率が10%以下であることがより好ましく、7.5%以下であることが更に好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
【0074】
赤外線透過フィルタ層としては、色材を含む樹脂膜で構成されたものなどが挙げられる。色材としては、赤色色材、緑色色材、青色色材、黄色色材、紫色色材、オレンジ色色材などの有彩色色材、黒色色材が挙げられる。赤外線透過フィルタ層に含まれる色材は、2種以上の有彩色色材の組み合わせで黒色を形成しているか、黒色色材を含むものであることが好ましい。2種以上の有彩色色材の組み合わせで黒色を形成する場合の、有彩色色材の組み合わせとしては、例えば以下の(C1)~(C7)の態様が挙げられる。
(C1)赤色色材と青色色材とを含有する態様。
(C2)赤色色材と青色色材と黄色色材とを含有する態様。
(C3)赤色色材と青色色材と黄色色材と紫色色材とを含有する態様。
(C4)赤色色材と青色色材と黄色色材と紫色色材と緑色色材とを含有する態様。
(C5)赤色色材と青色色材と黄色色材と緑色色材とを含有する態様。
(C6)赤色色材と青色色材と緑色色材とを含有する態様。
(C7)黄色色材と紫色色材とを含有する態様。
【0075】
上記有彩色色材は、顔料であってもよく、染料であってもよい。顔料と染料とを含んでいてもよい。黒色色材は、有機黒色色材であることが好ましい。例えば、有機黒色色材としては、ビスベンゾフラノン化合物、アゾメチン化合物、ペリレン化合物、アゾ化合物などが挙げられる。
【0076】
赤外線透過フィルタ層はさらに赤外線吸収剤を含有していてもよい。赤外線透過フィルタ層に赤外線吸収剤を含有させることで透過させる光の波長をより長波長側にシフトさせることができる。赤外線吸収剤としては、ピロロピロール化合物、シアニン化合物、スクアリリウム化合物、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物、クアテリレン化合物、メロシアニン化合物、クロコニウム化合物、オキソノール化合物、イミニウム化合物、ジチオール化合物、トリアリールメタン化合物、ピロメテン化合物、アゾメチン化合物、アントラキノン化合物、ジベンゾフラノン化合物、ジチオレン金属錯体、金属酸化物、金属ホウ化物等が挙げられる。
【0077】
赤外線透過フィルタ層の分光特性については、イメージセンサの用途に応じて適宜選択することができる。例えば、以下の(1)~(5)のいずれかの分光特性を満たしているフィルタ層などが挙げられる。
(1):膜の厚み方向における光の透過率の、波長400~750nmの範囲における最大値が20%以下(好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下)で、膜の厚み方向における光の透過率の、波長900~1500nmの範囲における最小値が70%以上(好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上)であるフィルタ層。
(2):膜の厚み方向における光の透過率の、波長400~830nmの範囲における最大値が20%以下(好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下)で、膜の厚み方向における光の透過率の、波長1000~1500nmの範囲における最小値が70%以上(好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上)であるフィルタ層。
(3):膜の厚み方向における光の透過率の、波長400~950nmの範囲における最大値が20%以下(好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下)で、膜の厚み方向における光の透過率の、波長1100~1500nmの範囲における最小値が70%以上(好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上)であるフィルタ層。
(4):膜の厚み方向における光の透過率の、波長400~1100nmの範囲における最大値が20%以下(好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下)で、波長1400~1500nmの範囲における最小値が70%以上(好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上)であるフィルタ層。
(5):膜の厚み方向における光の透過率の、波長400~1300nmの範囲における最大値が20%以下(好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下)で、波長1600~2000nmの範囲における最小値が70%以上(好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上)であるフィルタ層。
【0078】
また、赤外線透過フィルタとして、特開2013-077009号公報、特開2014-130173号公報、特開2014-130338号公報、国際公開第2015/166779号、国際公開第2016/178346号、国際公開第2016/190162号、国際公開第2018/016232号、特開2016-177079号公報、特開2014-130332号公報、国際公開第2016/027798号に記載の膜を用いることができる。また、赤外線透過フィルタは2つ以上のフィルタを組み合わせて用いてもよく、1つのフィルタで特定の2つ以上の波長領域を透過するデュアルバンドパスフィルタを用いてもよい。
【0079】
本発明のイメージセンサは、ノイズ低減などの各種性能を向上させる目的で赤外線遮蔽フィルタを含んでいてもよい。赤外線遮蔽フィルタの具体例としては、例えば、国際公開第2016/186050号、国際公開第2016/035695号、特許第6248945号公報、国際公開第2019/021767号、特開2017-067963号公報、特許第6506529号公報に記載されたフィルタが挙げられる。
【0080】
本発明のイメージセンサは誘電体多層膜を含んでいてもよい。誘電体多層膜としては、高屈折率の誘電体薄膜(高屈折率材料層)と低屈折率の誘電体薄膜(低屈折率材料層)とを交互に複数層積層したものが挙げられる。誘電体多層膜における誘電体薄膜の積層数は、特に限定はないが、2~100層が好ましく、4~60層がより好ましく、6~40層が更に好ましい。高屈折率材料層の形成に用いられる材料としては、屈折率が1.7~2.5の材料が好ましい。具体例としては、Sb、Sb、Bi、CeO、CeF、HfO、La、Nd、Pr11、Sc、SiO、Ta、TiO、TlCl、Y、ZnSe、ZnS、ZrOなどが挙げられる。低屈折率材料層の形成に用いられる材料としては、屈折率が1.2~1.6の材料が好ましい。具体例としては、Al、BiF、CaF、LaF、PbCl、PbF、LiF、MgF、MgO、NdF、SiO、Si、NaF、ThO、ThF、NaAlFなどが挙げられる。誘電体多層膜の形成方法としては、特に制限はないが、例えば、イオンプレーティング、イオンビーム等の真空蒸着法、スパッタリング等の物理的気相成長法(PVD法)、化学的気相成長法(CVD法)などが挙げられる。高屈折率材料層および低屈折率材料層の各層の厚みは、遮断しようとする光の波長がλ(nm)であるとき、0.1λ~0.5λの厚みであることが好ましい。誘電体多層膜の具体例としては、例えば、特開2014-130344号公報、特開2018-010296号公報に記載の誘電体多層膜が挙げられる。
【0081】
誘電体多層膜は、赤外域(好ましくは波長700nmを超える波長領域、より好ましくは波長800nmを超える波長領域、さらに好ましくは波長900nmを超える波長領域)に透過波長帯域が存在することが好ましい。透過波長帯域における最大透過率は70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。また、遮光波長帯域における最大透過率は20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。また、透過波長帯域における平均透過率は60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。また、透過波長帯域の波長範囲は、最大透過率を示す波長を中心波長λt1とした場合、中心波長λt1±100nmであることが好ましく、中心波長λt1±75nmであることがより好ましく、中心波長λt1±50nmであることが更に好ましい。
【0082】
誘電体多層膜は、透過波長帯域(好ましくは、最大透過率が90%以上の透過波長帯域)を1つのみ有していてもよく、複数有していてもよい。
【0083】
本発明のイメージセンサは、色分離フィルタ層を含んでいてもよい。色分離フィルタ層としては着色画素を含むフィルタ層が挙げられる。着色画素の種類としては、赤色画素、緑色画素、青色画素、黄色画素、シアン色画素およびマゼンタ色画素などが挙げられる。色分離フィルタ層は2色以上の着色画素を含んでいてもよく、1色のみであってもよい。用途や目的に応じて適宜選択することができる。色分離フィルタ層は、例えば、国際公開第2019/039172号に記載のフィルタを用いることができる。
【0084】
また、色分離層が2色以上の着色画素を含む場合、各色の着色画素同士は隣接していてもよく、各着色画素間に隔壁が設けられていてもよい。隔壁の材質としては、特に限定はない。例えば、シロキサン樹脂、フッ素樹脂などの有機材料や、シリカ粒子などの無機粒子が挙げられる。また、隔壁は、タングステン、アルミニウムなどの金属で構成されていてもよい。
【0085】
なお、本発明のイメージセンサが赤外線透過フィルタ層と色分離層とを含む場合は、色分離層は赤外線透過フィルタ層とは別の光路上に設けられていることが好ましい。また、赤外線透過フィルタ層と色分離層は二次元配置されていることも好ましい。なお、赤外線透過フィルタ層と色分離層とが二次元配置されているとは、両者の少なくとも一部が同一平面上に存在していることを意味する。
【0086】
本発明のイメージセンサは、平坦化層、下地層、密着層などの中間層、反射防止膜、レンズを含んでいてもよい。反射防止膜としては、例えば、国際公開第2019/017280号に記載の組成物から作製した膜を用いることができる。レンズとしては、例えば、国際公開第2018/092600号に記載の構造体を用いることができる。
【0087】
本発明の光検出素子は、赤外域の波長の光に対しても優れた感度を有している。このため、本発明のイメージセンサは、赤外線イメージセンサとして好ましく用いることができる。また、本発明のイメージセンサは、波長900~2000nmの光をセンシングするものとして好ましく用いることができ、長900~1600nmの光をセンシングするものとしてより好ましく用いることができる。
【0088】
<分散液>
本発明の分散液は、S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.95モル以下含むPbS量子ドットと、PbS量子ドットに配位する配位子と、溶剤と、を含む。
【0089】
分散液に用いられるPbS量子ドットについては光検出素子の項で説明したPbS量子ドットと同義である。分散液中のPbS量子ドットの含有量は、1~500mg/mLであることが好ましく、10~200mg/mLであることがより好ましく、20~100mg/mLであることが更に好ましい。
【0090】
分散液に用いられる溶剤については、上述した分散液や配位子溶液に含まれる溶剤として説明したものが挙げられる。分散液中の溶剤の含有量は、分散液全質量に対し、50~99質量%であることが好ましく、70~99質量%であることがより好ましく、90~98質量%であることが更に好ましい。
【0091】
分散液に含まれる配位子は、PbS量子ドットに配位する配位子として働くと共に、立体障害となり易い分子構造を有しており、溶剤中にPbS量子ドットを分散させる分散剤としての役割も果たすものが好ましい。上記配位子は、PbS量子ドットの分散性を向上する観点から、主鎖の炭素数が少なくとも6以上の配位子であることが好ましく、主鎖の炭素数が10以上の配位子であることがより好ましい。配位子は、飽和化合物でも、不飽和化合物のいずれでもよい。配位子の具体例としては、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エルカ酸、オレイルアミン、ドデシルアミン、ドデカンチオール、1,2-ヘキサデカンチオール、トリオクチルホスフィンオキシド、臭化セトリモニウム等が挙げられる。配位子は、半導体膜形成後に、膜中に残存し難いものが好ましい。具体的には、分子量が小さいことが好ましい。配位子は、PbS量子ドットに分散安定性を持たせつつ、半導体膜に残存し難いという観点から、オレイン酸およびオレイルアミンが好ましい。また、分散液に含まれる配位子は、光検出素子の項で説明したハロゲン原子を含む配位子、および、配位部を2以上含む多座配位子などであってもよい。分散液中の配位子の含有量は、分散液の全体積に対し、0.1mmol/L~200mmol/Lであることが好ましく、0.5mmol/L~10mmol/Lであることがより好ましい。
【0092】
<半導体膜>
本発明の半導体膜は、PbS量子ドットの集合体と、PbS量子ドットに配位する配位子と、を含む半導体膜であって、PbS量子ドットは、S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.95モル以下含む、半導体膜である。PbS量子ドットは、S原子1モルに対してPb原子を1.75モル以上1.90モル以下含むことが好ましい。PbS量子ドットについては光検出素子の項で説明したPbS量子ドットと同義である。PbS量子ドットに配位する配位子としては、光検出素子の項で説明したハロゲン原子を含む配位子、および、配位部を2以上含む多座配位子などが挙げられ、好ましい範も同様である。本発明の半導体膜は、光検出素子の光電変換層などに好ましく用いられる。
【実施例
【0093】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0094】
[PbS量子ドットのPb/S比(モル比)の評価方法]
PbS量子ドットの分散液を60mg/mLに濃縮した後、50μL採取し、硝酸5mLを添加後、マイクロウェーブで230℃に加熱して試料を分解した。そこに水を加えて全量を40mLとした後、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(パーキンエルマー製Optima7300DV)を用いてPbS量子ドット中のPb原子およびS原子をそれぞれ定量し、PbS量子ドットのPb/S比(モル比)を算出した。
【0095】
(実施例1)
フラスコ中に1.28mLのオレイン酸と、2mmolの酸化鉛と、38mLのオクタデセンを測りとり、真空下110℃で90分加熱することで、前駆体溶液を得た。その後、溶液の温度を95℃に調整し、系を窒素フロー状態にし、次いで、1mmolのヘキサメチルジシラチアンを5mLのオクタデセンと共に注入した。注入後すぐにフラスコを自然冷却し、30℃になった段階でヘキサン12mLを加え、溶液を回収した。溶液に過剰量のエタノールを加え、10000rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿物をオクタンに分散させ、PbS量子ドットの表面にオレイン酸が配位子として配位したPbS量子ドットの分散液(濃度10mg/mL)を得た。得られたPbS量子ドットの分散液について、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、V-670)を用いた可視~赤外領域の光吸収測定から見積もったPbS量子ドットのバンドギャップはおよそ1.32eVであった。また、PbS量子ドットのPb/S比(モル比)を上記手法で算出したところ、PbS量子ドットのPb/S比(モル比)は1.90であった。
【0096】
得られたPbS量子ドットの分散液を用いて以下の手法でフォトダイオード型の光検出素子を作製した。
【0097】
まず、フッ素ドープ酸化錫膜付き石英ガラス基板上に酸化チタン膜を50nmスパッタリングで成膜した。次に、PbS量子ドットの分散液を上記基板に成膜した酸化チタン膜上に滴下し、2500rpmでスピンコートして、PbS量子ドット集合体膜を形成した(工程1)。次いで、このPbS量子ドット集合体膜上に、配位子溶液として、3-メルカプトプロピオン酸のメタノール溶液(濃度0.1mol/L)を滴下した後、1分間静置し、2500rpmでスピンドライを行った。次いで、メタノールをPbS量子ドット集合体膜上に滴下し、2500rpmで20秒間スピンドライを行うことで、PbS量子ドットに配位している配位子を、オレイン酸から3-メルカプトプロピオン酸に配位子交換した(工程2)。工程1と工程2とを1サイクルとする操作を30サイクル繰り返し、配位子がオレイン酸から3-メルカプトプロピオン酸に配位子交換されたPbS量子ドット集合体膜である光電変換層を100nmの厚さで形成した。次に、光電変換層上に、酸化モリブデンを50nm、金を100nmの厚さで連続蒸着により形成し、フォトダイオード型の光検出素子を得た。
【0098】
(実施例2)
ヘキサメチルジシラチアンを2.0mmolにかえた以外は実施例1と同様にしてPbS量子ドットの分散液を得た。PbS量子ドットのバンドギャップはおよそ1.32eVであった。また、PbS量子ドットのPb/S比(モル比)は1.81であった。
【0099】
(実施例3)
フラスコ中に、6.74mLのオレイン酸と、6.3mmolの酸化鉛と、30mLのオクタデセンを測りとり、真空下120℃で100分加熱することで、前駆体溶液を得た。その後、溶液の温度を100℃に調整し、系を窒素フロー状態にし、次いで、2.6mmolのヘキサメチルジシラチアンを5mLのオクタデセンと共に注入した。注入後1分保持した後、フラスコを自然冷却し、30℃になった段階でトルエン40mLを加え、溶液を回収した。溶液に過剰量のエタノールを加え、10000rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿物をオクタンに分散させ、PbS量子ドットの表面にオレイン酸が配位子として配位したPbS量子ドットの分散液(濃度10mg/mL)を得た。得られたPbS量子ドットの分散液の吸収測定から見積もったPbS量子ドットのバンドギャップはおよそ1.32eVであった。また、PbS量子ドットのPb/S比(モル比)を上記手法で算出したところ、PbS量子ドットのPb/S比(モル比)は1.75であった。このPbS量子ドットの分散液を用いて実施例1と同様の手法でフォトダイオード型の光検出素子を作製した。
【0100】
(実施例4)
配位子溶液として、3-メルカプトプロピオン酸のメタノール溶液(濃度0.1mol/L)の代わりに、ヨウ化亜鉛のメタノール溶液(濃度0.025mol/L)を用いた以外は実施例1と同様の手法で光検出素子を作製した。
【0101】
(実施例5)
配位子溶液として、3-メルカプトプロピオン酸のメタノール溶液(濃度0.1mol/L)の代わりに、臭化亜鉛のメタノール溶液(濃度0.025mol/L)を用いた以外は実施例1と同様の手法で光検出素子を作製した。
【0102】
(実施例6)
配位子溶液として、3-メルカプトプロピオン酸のメタノール溶液(濃度0.1mol/L)の代わりに、ヨウ化インジウムのメタノール溶液(濃度0.025mol/L)を用いた以外は実施例1と同様の手法で光検出素子を作製した。
【0103】
(実施例7)
配位子溶液として、3-メルカプトプロピオン酸とヨウ化亜鉛を含むメタノール溶液(3-メルカプトプロピオン酸濃度0.01mol/L、ヨウ化亜鉛濃度0.025mol/L)を用いた以外は実施例1と同様の手法で光検出素子を作製した。
【0104】
(実施例8~11)
Pb/S比(モル比)が1.90であるPbS量子ドットを、実施例3に記載のPb/S比(モル比)が1.75であるPbS量子ドットに変更した以外は実施例4~7と同様の手法で光検出素子を作製した。
【0105】
(比較例1)
PbS量子ドットの分散液として、市販のPbS量子ドットの分散液(Sigma Aldrich社製、製品番号900735)を用いた。PbS量子ドットの分散液の吸収測定から見積もったバンドギャップはおよそ1.32eVであった。また、PbS量子ドットのPb/S比(モル比)を上記手法で算出したところ、PbS量子ドットのPb/S比(モル比)は1.6であった。このPbS量子ドットの分散液を用い、実施例1と同様の手法で光検出素子を作製した。
【0106】
(比較例2)
フラスコ中に1.28mLのオレイン酸と、2mmolの酸化鉛と、38mLのオクタデセンを測りとり、真空下110℃で90分加熱することで、前駆体溶液を得た。その後、溶液の温度を95℃に調整し、系を窒素フロー状態にし、次いで、3.1mmolのヘキサメチルジシラチアンを5mLのオクタデセンと共に注入した。注入後すぐにフラスコを自然冷却し、30℃になった段階でヘキサン12mLを加え、溶液を回収した。溶液に過剰量のエタノールを加え、10000rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿物をオクタンに分散させ、PbS量子ドットの表面にオレイン酸が配位子として配位したPbS量子ドットの分散液(濃度10mg/mL)を得た。得られたPbS量子ドットの分散液について、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、V-670)を用いた可視~赤外領域の光吸収測定から見積もったPbS量子ドットのバンドギャップはおよそ1.32eVであった。また、PbS量子ドットのPb/S比(モル比)を上記手法で算出したところ、PbS量子ドットのPb/S比(モル比)は1.70であった。
【0107】
<評価>
各光検出素子について2Vの逆方向電圧を印加した状態で波長940nmのモノクロ光(100μW/cm)を照射した際の外部量子効率を算出した。外部量子効率は光非照射時の電流値と光照射時の電流値の差分から見積もられる光電子数と、照射フォトン数から「外部量子効率=(光電子数/照射フォトン数)×100」で見積もった。
併せて上記外部量子効率の算出を50回繰り返した後の外部量子効率の変化度(1回目に測定した外部量子効率の値-50回目に測定した外部量子効率の値)を算出して、繰り返し駆動に対する耐久性を評価した。外部量子効率の変化度の値が小さいほど繰り返し駆動に対する耐久性に優れていることを意味する。
【0108】
【表1】
【0109】
上記表に示すように、実施例の光検出素子は比較例よりも外部量子効率が高く、かつ、外部量子効率の変化度の値が小さく、繰り返し駆動に対する耐久性に優れていた。
【0110】
上記実施例で得られた光検出素子を用い、国際公開第2016/186050号および国際公開第2016/190162号に記載の方法に従い作製した光学フィルタと共に公知の方法にてイメージセンサを作製し、固体撮像素子に組み込むことで、良好な可視、赤外撮像性能を有するイメージセンサを得ることができる。
【符号の説明】
【0111】
1:光検出素子
11:上部電極
12:下部電極
13:光電変換層
図1