(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】投影装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/42 20060101AFI20250115BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20250115BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20250115BHJP
G03B 21/00 20060101ALI20250115BHJP
G01S 7/481 20060101ALN20250115BHJP
【FI】
G02B27/42
G02B5/18
G03B21/14 D
G03B21/00 D
G01S7/481 A
(21)【出願番号】P 2021150556
(22)【出願日】2021-09-15
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】磯野 晃輔
(72)【発明者】
【氏名】田島 宏一
【審査官】近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-166814(JP,A)
【文献】特開2014-035920(JP,A)
【文献】特開平5-040021(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158419(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/030127(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/42
G02B 27/00
G02B 5/18
G01B 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行光を出射する光源と、
前記光源における前記平行光が出射される側に配置される回折光学素子と、
前記回折光学素子における前記光源とは反対側に配置され、所定の方向に曲率を有するレンズと、を備え、
前記レンズは、前記所定の方向に対して垂直な方向に並ぶ複数の輝点を投影面に生成することにより、前記垂直な方向に沿って延伸する線状パターンを前記投影面に投影し、
前記垂直な方向に沿った前記輝点の長さは、前記複数の輝点における隣り合う前記輝点同士の前記垂直な方向に沿った間隔以上の長さであり、
前記複数の輝点の全ては、前記所定の方向に沿った前記輝点の長さが前記垂直な方向に沿った前記輝点の長さよりも短い投影装置。
【請求項2】
前記複数の輝点は、前記所定の方向に沿った前記輝点の長さが前記垂直な方向に沿った前記輝点の長さの1/50以下である請求項1に記載の投影装置。
【請求項3】
前記所定の方向に沿った前記輝点の長さは、250μm以下である請求項1または2に記載の投影装置。
【請求項4】
前記所定の方向に沿った前記輝点の長さは、100μm以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の投影装置。
【請求項5】
前記レンズは、複数の前記線状パターンを前記投影面に投影し、
複数の前記線状パターンは、互いに平行である請求項1から4の何れか1項に記載の投影装置。
【請求項6】
前記平行光の中心軸に直交する面内における前記平行光の断面形状は、略円形である請求項1から5のいずれか1項に記載の投影装置。
【請求項7】
前記回折光学素子は、複数の基本ユニットを含み、
前記複数の基本ユニットは、それぞれが同一の凹凸パターン層を有し、少なくとも前記垂直な方向に沿って所定のピッチで並んで形成されており、
前記平行光の断面形状における前記略円形の直径は、前記ピッチより大きい請求項6に記載の投影装置。
【請求項8】
前記回折光学素子は、平行光を出射し、
前記レンズは、前記回折光学素子から出射された平行光を入射する請求項1から7のいずれか1項に記載の投影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は投影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光の回折現象を利用し、光を空間的に分岐させる回折光学素子が知られている。回折光学素子は、小型で軽量ながら、レンズやプリズム等の屈折型の光学素子と同様の機能を実現でき、照明や光学計測等の多様な分野で利用されている。
【0003】
また、基本ユニットが二次元方向に周期的に配列されており、入射光を二次元方向に回折させる回折光学素子を用い、投影面に線状パターンを投影する投影装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている投影装置では、回折光学素子に入射される光の直径を小さくするほど、線幅が細い線状パターンが得られる。ここで、線状パターンの線幅とは、線状パターンが延伸する方向とは直交する方向における線状パターンの幅をいう。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されている投影装置では、回折光学素子による回折光によって投影面に生成される複数の輝点同士の間隔や歪曲に伴う輝点の位置ずれは、回折光学素子への入射光の直径が小さいほど大きくなる。そのため、線状パターンの線幅を細くするために回折光学素子への入射光の直径を小さくすると、輝点同士の間隔が大きくなって線状パターンの一部が分裂したり、輝点の位置ずれにより線状パターンの一部が波打ったりして、線状パターンの品質が低下する懸念がある。
【0007】
本開示の一態様は、線幅が細く、かつ品質が良好な線状パターンを投影可能な投影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る投影装置は、平行光を出射する光源と、前記光源における前記平行光が出射される側に配置される回折光学素子と、前記回折光学素子における前記光源とは反対側に配置され、所定の方向に曲率を有するレンズと、を備え、前記レンズは、前記所定の方向に対して垂直な方向に並ぶ複数の輝点を投影面に生成することにより、前記垂直な方向に沿って延伸する線状パターンを前記投影面に投影し、前記垂直な方向に沿った前記輝点の長さは、前記複数の輝点における隣り合う前記輝点同士の前記垂直な方向に沿った間隔以上の長さであり、前記複数の輝点の全ては、前記所定の方向に沿った前記輝点の長さが前記垂直な方向に沿った前記輝点の長さよりも短い。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、線幅が細く、かつ品質が良好な線状パターンを投影可能な投影装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る投影装置の全体構成を例示する図である。
【
図2】
図1の投影装置が備える回折光学素子の構成を例示する平面図である。
【
図3】
図2の回折光学素子における基本ユニットの凹凸パターンの平面図である。
【
図5】実施形態に係る線状パターンを例示する模式図である。
【
図7】投影面における線状パターンの評価領域を説明する図である。
【
図10】例1から例5の諸元および評価結果を示す図である。
【
図11】例1による線状パターンのシミュレーション結果を例示する図である。
【
図12】例2による線状パターンのシミュレーション結果を例示する図である。
【
図13】例3による線状パターンのシミュレーション結果を例示する図である。
【
図14】例4による線状パターンのシミュレーション結果を例示する図である。
【
図15】例5による線状パターンのシミュレーション結果を例示する図である。
【
図16】例6から例8の諸元および評価結果を示す図である。
【
図17】例9から例11の諸元および評価結果を示す図である。
【
図18】例6による線状パターンのシミュレーション結果を例示する図である。
【
図19】例7による線状パターンのシミュレーション結果を例示する図である。
【
図20】例8による線状パターンのシミュレーション結果を例示する図である。
【
図21】例9による線状パターンのシミュレーション結果を例示する図である。
【
図22】例10による線状パターンのシミュレーション結果を例示する図である。
【
図23】例11による線状パターンのシミュレーション結果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、以下に示す形態は、本実施形態の技術思想を具現化するための投影装置を例示するものであって、以下に限定するものではない。なお、各図面が示す部材の大きさ、位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を適宜省略する。
【0012】
以下に示す図においてx軸、y軸およびz軸により方向を示す場合があるが、y軸に沿うy方向は、投影面内における所定の方向を示す。x軸に沿うx方向は、上記投影面内においてy方向に対して垂直な方向を示す。z軸に沿うz方向は上記投影面に直交する方向を示す。実施形態の用語における平面視とは、実施形態に係る投影装置が備える回折光学素子をz方向から視ることをいう。但し、これらことは、投影装置の使用時における向きを制限するものではなく、投影装置の向きは任意である。
【0013】
〈実施形態〉
(投影装置1の全体構成例)
図1は、本実施形態に係る投影装置1の全体構成の一例を示す図である。投影装置1は、光源10と、回折光学素子20と、レンズ30と、を備える。
【0014】
光源10は、回折光学素子20に向けて平行光を出射する。本実施形態では、光源10は半導体レーザであり、略平行な光線束であるレーザビームを出射する。略平行とは、厳密な平行を要求するものではなく、一般に誤差と認められる程度の平行からの差異は許容することを意味する。
【0015】
光源10が出射するレーザビームの中心軸に直交する面内におけるレーザビームの断面形状は、例えば略円形である。略円形とは、厳密な真円を要求するものではなく、一般に誤差と認められる程度の真円からの差異は許容することを意味する。この場合の「一般に誤差と認められる程度の差異」は、例えばレーザビーム直径の1/10以下の差異である。
【0016】
光源10が出射する光の波長は、特に制限されないが、例えば、略380nmから略780nmまでの可視光領域や、略800nmから略1200nmまでの近赤外領域の波長を使用できる。光源10は半導体レーザに限定されるものではなく、LED(Light Emitting Diode)等を用いてもよい。
【0017】
回折光学素子20は、光源10における平行光が出射される側に配置される光学素子である。回折光学素子20は、投影面S上において二次元アレイ状に並ぶ複数の輝点を生成可能に、光源10から入射した平行なレーザビームを二次元方向に回折させ、複数の平行なレーザビームをレンズ30に向けて出射する。
【0018】
レンズ30は、回折光学素子20における光源10とは反対側に配置され、所定の方向に曲率を有するレンズである。本実施形態では、レンズ30は、y方向に曲率を有し、x方向に曲率を有さないシリンドリカルレンズである。レンズ30は、y方向にのみ屈折力(レンズパワー)を有する。y方向は、所定の方向に対応し、x方向は、所定の方向に対して垂直な方向に対応する。
【0019】
レンズ30は、平凸、両凸またはメニスカスの何れのシリンドリカルレンズであってもよい。また複数のレンズやプリズム等の光学素子を組合せて、y方向に曲率を有するレンズ30を構成することもできる。
【0020】
レンズ30は、回折光学素子20から出射された平行なレーザビームを入射して集束光を出射する。レンズ30は、収差を抑制する観点では、曲率が大きい面が光源10側を向くように配置されることが好ましい。
【0021】
レンズ30は、回折光学素子20により回折された複数のレーザビームそれぞれがy方向に集束された複数の輝点を投影面Sに投影する。換言すると、レンズ30は、x方向に並ぶ複数の輝点を投影面Sに生成することにより、x方向に沿って延伸する線状パターンを投影面Sに投影できる。
【0022】
図1では、y方向に沿って並ぶ3本の線状パターンLを例示するが、y方向に並ぶ線状パターンLの本数に特段の制限はなく、1本であってもよいし、2本以上の任意の数であってもよい。
【0023】
投影面Sは、典型的にはスクリーンであるが、これに限定されるものではなく、例えば建物の壁面等であってもよいし、空間内における仮想的な平面であってもよい。
【0024】
(回折光学素子20の構成例)
図2から
図4を参照して、回折光学素子20の構成を説明する。
図2は、回折光学素子20の構成を例示する平面図である。
図3は、回折光学素子20における基本ユニット21の凹凸パターンを例示する平面図である。
図4は、
図2のA-A断面図である。
【0025】
図2に示すように、回折光学素子20は、x方向およびy方向それぞれに沿って二次元状に周期的に並んでいる複数の基本ユニット21を備えている。複数の基本ユニット21は、x方向にピッチPxで並んでおり、y方向にピッチPyで並んでいる。ここで、ピッチとは、隣り合う基本ユニット21の中心同士の間の距離をいう。
図2では隣り合う基本ユニット21は、隙間を空けずに並んでいるため、ピッチPxは、x方向における基本ユニット21の長さに一致し、ピッチPyはy方向における基本ユニット21の長さに一致する。また本実施形態では、光源10が出射するレーザビームの直径はピッチPxより大きい。なお、線幅LWの仕様値をLTとすると、レーザビームの直径Rは線数Lnによらず、次の(1)式および(2)式を満足する。
R≧√(Px
2+Py
2) ・・・ (1)
R≧(4×λ×f) / (π×LT) ・・・ (2)
【0026】
図3に示すように、基本ユニット21は、二値の位相分布として、凹凸パターンの周期構造を備える。複数の基本ユニット21は、それぞれが同じ凹凸パターンの周期構造を備える。
図3において黒く塗りつぶされた領域は凸部を示し、白抜きの領域は凹部を示している。基本ユニット21が備える凹凸パターンは、光源10から入射する平行光を二次元方向に回折させる。
【0027】
図4に示すように、回折光学素子20は、ガラス等からなる透光性部材22と、透光性部材22の表面に形成された凸部23と、を備える。回折光学素子20では、透光性部材22の表面において、凸部23の形成されていない領域が凹部24となる。凸部23および凹部24は、透光性部材22上において凹凸パターン層25を構成する。凸部23は、ガラスまたは樹脂等の材料を含んで構成できる。
【0028】
透光性部材22は、入射光に対し透光性があれば、ガラスの他、樹脂等の種々の材料を適用できる。ガラスや石英等の光学的等方材料を用いると、これらは複屈折性を有さないため、投影装置1により投影される線状パターンLの品質を良好にする観点ではより好ましい。透光性部材22に例えば、空気との界面に多層膜による反射防止膜等を形成すると、透光性部材22による光反射を低減できるため好ましい。
【0029】
図4では、透光性部材22の片面に凹凸パターンが形成された構成を例示したが、回折光学素子20は、透光性部材22の両面に凹凸パターンが形成されてもよい。回折光学素子20の基本ユニット21における位相分布は、入射光に位相差を与えることができれば、凹凸パターンによるものに限定されず、屈折率が二次元的に変化するものであってもよい。
【0030】
回折光学素子20における基本ユニット21の個数は整数である必要はなく、例えば、凹凸パターンを有さない周辺部等の領域と凹凸パターンを有する領域との境界が、基本ユニット21の境界と必ずしも一致していなくてもよい。
【0031】
図2および
図3では、回折光学素子20の平面部と投影面Sとが略平行である構成を例示したが、両者は必ずしも略平行でなくてもよく、傾いていてもよい。
【0032】
(線状パターンLの一例)
図5は、線状パターンLを例示する模式図である。
図6は、
図5における領域Bの拡大図である。
【0033】
図5において、回折広がり角θxおよびθyは、回折光学素子20により回折された複数のレーザビーム全体の広がり角を表す。回折広がり角θxはx方向、回折広がり角θyはy方向それぞれにおける広がり角である。
【0034】
レンズ距離ZLは、回折光学素子20における光源10側の面と、レンズ30の主点(光学的な中心)と、の間の距離を表す。投影距離ZSは、回折光学素子20における光源10側の面と、投影面Sと、の間の距離を表す。
【0035】
図6に示すように、線状パターンLは、x方向に並ぶ複数の輝点Lsから構成される。輝点Lsは、回折光学素子20により回折された複数のレーザビームにおける各レーザビームによって生成される。レーザビームの中心軸に直交する面内における輝点Lsの断面形状は、レンズ30によりy方向に集束されることによって、y方向を短軸とする略楕円形になる。
【0036】
図6において、輝点長さQxは、複数の輝点Lsそれぞれのx方向に沿った長さを表す。輝点長さQyは、複数の輝点Lsそれぞれのy方向に沿った長さを表す。輝点長さQxは輝点Lsを構成する楕円の長軸長さ、輝点長さQyは該楕円の短軸長さにそれぞれ対応する。輝点間隔VxおよびVyは、複数の輝点Lsにおける隣り合う輝点の中心同士の間の距離を表す。輝点間隔Vxはx方向、輝点間隔Vyはy方向それぞれにおける輝点間隔を表す。
【0037】
本実施形態では、輝点長さQxは輝点間隔Vxよりも長く、複数の輝点Lsの全ては、輝点長さQyが輝点長さQxよりも短い。投影装置1は、このような輝点Lsがx方向に沿って並ぶように、複数の輝点Lsを投影面Sに生成することにより、x方向に沿って延伸する線状パターンLを投影面Sに投影する。複数の輝点Lsの全てにおいて、輝点長さQyと輝点長さQxは以下(3)式の関係を満たす。
Qy≦Qx×{π×(LT2)} / (4×λ×f) ・・・ (3)
【0038】
歪みεは、1つの線状パターンLに含まれる複数の輝点Lsのうち、y方向において最も低い(y軸負側)位置にある輝点Lsの中心と、y方向において最も高い(y軸正側)位置にある輝点Lsの中心と、の間の距離をいう。なお、y軸正側とはy軸を示す矢印が向く方向をいい、y軸負側とはy軸を示す矢印が向く方向とは反対側の方向をいう。
【0039】
ここで、回折光学素子20の中心軸と、投影面Sの中心軸と、が略一致した状態において投影面S上に生成される複数の輝点Lsは、投影面Sにおける四隅に近い位置に生成されるものほど位置ずれが大きくなる場合がある。この位置ずれは、回折光学素子20による回折光の歪曲によって生じる。
図6は、複数の輝点Lsのうち、糸巻き型の歪曲により位置ずれした輝点Lsを示している。歪みεは、このような歪曲による位置ずれ量を示す値である。
【0040】
線幅LWは、線状パターンLのy方向に沿った幅を表す。本実施形態では、輝点長さQyと歪みεとの和を線幅LWとした。
【0041】
〈実施例、比較例〉
以下、実施例、比較例について説明するが、本発明は、これらの例に何ら限定されない。なお、例1は実施例、例2から例5は比較例、例6から例11は実施例である。
【0042】
(評価方法)
表1は、実施例、比較例における投影装置の主な仕様値を示す表である。表1において、波長λは光源10が出射する平行光の波長を表し、線数Lnは投影面Sに投影される線状パターンLの本数を表す。
【0043】
【0044】
実施例、比較例において、表1に示した仕様値を満足する回折光学素子20をシミュレーションにより設計し、設計した回折光学素子20を用いて投影される線状パターンLをシミュレーションにより求めて評価した。
【0045】
回折光学素子20の設計および線状パターン評価のシミュレーションでは、フーリエ変換と逆フーリエ変換を繰り返す反復フーリエ変換法(IFTA:Iterative Fourier Transform Algorithm)と、光線追跡法と、を用いた。
【0046】
(投影面S上での線状パターンLの評価領域)
図7は、実施例、比較例における投影面S上での線状パターンLの評価領域を説明する図である。
図8は、
図7における領域Cの拡大図である。
図9は、
図8における四隅の領域を示す図である。
【0047】
線状パターンLの評価では、
図7に示すように、x座標およびy座標により投影面Sを表し、互いに略平行な10本の線状パターンLが投影面Sに投影されるものとした。投影面Sの長さは、x方向において600.0mm、y方向において440.0mmとした。領域Cは、投影面Sにおける第1象限に該当する領域である。
【0048】
図8に示すように、領域Cには、10本の線状パターンのうち、線状パターンL1から線状パターンL5までの5本が含まれるものとした。領域Cの大きさは、x方向において300.0mm、y方向において220.0mmとした。
【0049】
図9に示すように、実施例、比較例においては、領域Cにおける四隅の領域D1、D2、D3およびD4を評価領域とし、評価領域に含まれる線状パターンL1およびL5を評価した。
【0050】
(評価結果)
図10は、例1から例5の諸元と評価結果の一覧を示す図である。
図11から
図15は、線状パターンLのシミュレーション結果を示す図である。
【0051】
図10における各例の構成を示す図には、例ごとの違いを示すため、便宜的に主要な構成部のみを示した。輝点間隔Vx、輝点間隔Vy、歪みεおよび線幅LWは、1つの線状パターンL内において変動するが、
図10ではそれぞれの最大値を示した。この点は、以下に示す
図16および
図17においても同様である。
【0052】
図11から
図15では、領域D1は、x座標が0.0mmから40.0mmの領域を示し、領域D2は、x座標が260.0mmから300.0mmの領域を示す。また、領域D3は、x座標が0.0mmから40.0mmの領域を示し、領域D4は、x座標が260.0mmから300.0mmの領域を示す。
【0053】
<例1>
図10に示すように、例1に係る投影装置1は、
図1に示したものと同様に、回折光学素子20と、y方向のみに曲率を有するレンズ30と、を備える構成とし、入射ビーム径φを7200.0μmとした。
【0054】
例1では、回折光学素子20における凹凸パターン層25の構成や、ピッチPxおよびPy、レンズ距離ZL、焦点距離f等を最適化した結果、歪みεは63.0μm以下となり、線幅LWは98.0μm以下となった。輝点長さQyは、輝点長さQxの1/205となった。なお、回折光学素子20による回折光がレンズ30に全て入射するようなレンズ距離ZLでは、ZL=ZS-fが必ず成り立つ。
【0055】
図11に示すように、領域D1から領域D4の各領域において、分裂や歪みを抑制し、品質が良好な線状パターンLが得られた。ここで、線状パターンLの分裂とは、線状パターンLが複数の独立した部分に分かれることをいう。
【0056】
<例2>
図10に示すように、例2に係る投影装置1X2は、回折光学素子20X2を備え、レンズを備えない構成とし、入射ビーム径φを100.0μmとした。歪みεは4053.0μm以下となり、線幅LWは4153.0μm以下となった。輝点長さQyは、輝点長さQxと等しくなった。
【0057】
図12に示すように、各領域の線状パターンLは、複数の点状の輝点Lsに分裂したものとなった。輝点長さQxおよびQyは100.0μmとなったが、領域D2のように歪みεによる輝点Lsの位置ずれが大きくなった結果、線幅LWは例1と比較して太くなった。
【0058】
<例3>
図10に示すように、例3に係る投影装置1X3は、回折光学素子20X3を備え、レンズを備えない構成とし、入射ビーム径φを800.0μmとした。歪みεは546.0μm以下となり、線幅LWは1346.0μm以下となった。輝点長さQyは、輝点長さQxと等しくなった。
【0059】
図13に示すように、各領域の線状パターンLにおいて、分裂はみられないが、波打つような位置ずれが大きくなった。また入射ビーム径φを大きくしたことに応じて線状パターンLが全体的に、例1と比較して太くなった。
【0060】
<例4>
図10に示すように、例4に係る投影装置1X4は、回折光学素子20X4と、x方向のみに曲率を有するレンズ30X4を備える構成とし、入射ビーム径φを100.0μmとした。歪みεは3762.0μm以下となり、線幅LWは3862.0μm以下となった。輝点長さQyは、輝点長さQxの1/100となった。
【0061】
図14に示すように、領域D2の線状パターンLにおいて、大きな位置ずれと分裂が生じた。個々の線状パターンL自体は細くなったが、位置ずれが大きくなった結果、線幅LWは例1と比較して太くなった。
【0062】
<例5>
図10に示すように、例5に係る投影装置1X5は、x方向のみに曲率を有するレンズ30X5と、レンズ30X5の投影面S側に配置された回折光学素子20X5と、を備える構成とし、入射ビーム径φを100.0μmとした。歪みεは3882.0μm以下となり、線幅LWは3982.0μm以下となった。輝点長さQyは、輝点長さQxの1/102となった。
【0063】
図15に示すように、領域D2の線状パターンLにおいて、大きな位置ずれと分裂が生じた。個々の線状パターンL自体は細くなったが、輝点Lsの位置ずれが大きくなった結果、線幅LWは例1と比較して太くなった。
【0064】
以上の結果から、例1から例5の中では、例1に係る投影装置1の構成が、線幅LWが細く、かつ品質が良好な線状パターンLを投影するためには、より好適であることが分かった。
【0065】
次に、例6から例11について説明する。例6から例11では、例1に係る投影装置1と同様に、回折光学素子20と、y方向のみに曲率を有するレンズ30と、を備える構成とし、各諸元の数値を例1に対して変更した。
【0066】
図16は、例6から例8の諸元および評価結果を示す図である。
図17は、例9から例11の諸元および評価結果を示す図である。
図18から
図23は、線状パターンのシミュレーション結果を例示する図である。
図18は例6、
図19は例7、
図20は例8、
図21は例9、
図22は例10、
図23は例11の結果をそれぞれ示している。
【0067】
図18から
図23では、領域D1は、x座標が0.0mmから40.0mmの領域を示し、領域D3は、x座標が0.0mmから40.0mmの領域を示している。
【0068】
図18、
図19および
図22では、領域D2は、x座標が260.0mmから300.0mmの領域を示し、領域D4は、x座標が260.0mmから300.0mmの領域を示している。
【0069】
図20では、領域D2は、x座標が300.0mmから340.0mmの領域を示し、領域D4は、x座標が300.0mmから340.0mmの領域を示している。
【0070】
図21では、領域D2は、x座標が110.0mmから150.0mmの領域を示し、領域D4は、x座標が110.0mmから150.0mmの領域を示している。
【0071】
図23では、領域D2は、x座標が130.0mmから170.0mmの領域における線状パターンL5を示し、領域D4は、x座標が130.0mmから170.0mmの領域における線状パターンL1を示している。
【0072】
<例6>
図16に示すように、例6では、例1に対して線数Lnを20本に変更した。
図16および
図18に示すように、例6では、歪みεや線幅LWは例1に対して変化しなかった。
【0073】
<例7>
図16に示すように、例7では、回折光学素子20における基本ユニットのピッチPxおよびPyを例1に対して変更した。例7では、線幅LWを例1から約2倍になるよう変更した結果、入射ビーム径が変更になり、ピッチPxおよびPyも変更になった。歪みεは127.0μm、線幅LWは198.0μmとなり、例1に対して太くなった。輝点長さQyは、輝点長さQxの1/51となった。
図19に示すように、各評価領域における線状パターンLには分裂や歪みがみられず、品質が良好な線状パターンLが得られた。
【0074】
<例8>
図16に示すように、例8では、例1に対して、入射ビーム径φを8000.0μmに変更し、かつ回折光学素子20における基本ユニットのピッチPxおよびPyと、回折広がり角θxおよびθyを変更した。例8では、回折拡がり角θxおよびθyを例1から変更した結果、入射ビーム径が変更になり、ピッチPxおよびPyも変更になった。歪みεは68.0μm、線幅LWは100.0μmとなり、例1に対してほぼ同程度になった。輝点長さQyは、輝点長さQxの1/250となった。
図20に示すように、各評価領域において、分裂や歪みがみられず、品質が良好な線状パターンLが得られた。
【0075】
<例9>
図16に示すように、例9では、例1に対して、入射ビーム径φを3600.0μmに変更し、かつ回折光学素子20における基本ユニットのピッチPxおよびPyと、レンズ30の焦点距離fを変更した。例9では、投影距離ZSを例1から変更した結果、焦点距離fが変更になり、入射ビーム径とピッチPxおよびPyも変更になった。歪みεは63.0μm、線幅LWは98.0μmとなり、例1に対してほぼ同程度になった。
図21に示すように、各評価領域において、線状パターンLに多少の強度変動はみられるものの、分裂や歪みがみられず、品質が良好な線状パターンLが得られた。輝点長さQyは、輝点長さQxの1/103となった。
【0076】
<例10>
図16に示すように、例10では、例1に対して、波長λを850.0nmに、入射ビーム径φを15200.0μmにそれぞれ変更し、かつ回折光学素子20における基本ユニットのピッチPxおよびPyを変更した。例10では、波長λを例1から変更した結果、入射ビーム径が変更になり、ピッチPxおよびPyも変更になった。歪みεは64.0μm、線幅LWは99.0μmとなり、例1に対してほぼ同程度になった。輝点長さQyは、輝点長さQxの1/434となった。
図22に示すように、各評価領域において、分裂や歪みがみられず、品質が良好な線状パターンLが得られた。
【0077】
<例11>
図16に示すように、例11では、例1に対して、波長λを850.0nmに、入射ビーム径φを4200.0μmにそれぞれ変更し、かつ回折光学素子20における基本ユニットのピッチPxおよびPyと、回折広がり角θxおよびθyを変更した。例11では、上記の例6から例10において変更した個所全てを例1から変更した結果、焦点距離fが変更になり、入射ビーム径とピッチPxおよびPyも変更になった。歪みεは132.0μm、線幅LWは195.0μmとなり、例1に対して太くなった。輝点長さQyは、輝点長さQxの1/67となった。
図23に示すように、各評価領域において、分裂や歪みがみられず、品質が良好な線状パターンLが得られた。
【0078】
以上、
図16から
図23に示した結果から、例6から例11において、線幅LWが細く、かつ品質が良好な線状パターンLを投影できることがわかった。線幅LWを細くする観点では、線幅LWは、250.0μm以下が好ましく、100.0μm以下がより好ましいことが分かった。
【0079】
なお、線幅LWを細くしようとするほど輝点長さQyを小さくする必要があり、入射ビーム径Rは線幅LWの仕様値をLTとしたとき、次の2つの式を満足する必要がある。
R≧(4×λ×f) / (π×LT) ・・・ (4)
R≧√(Px2 + Py2) ・・・ (5)
その結果、線幅LWが細いほどピッチPxおよびPyを大きくすることができるため、輝点間隔および歪みを小さくすることができる。線幅LWに対する輝点間隔および歪みの比率は線幅が変わってもほぼ一定であるため、線幅LWの品質を良好にする観点では、線幅LWに依らずほぼ一定であると考えられる。
【0080】
ここで、回折光学素子20単体で実現可能な最小の線幅LWについて検討を行ったところ、下記の点が線幅LWに影響することが分かった。
・波長λ: 長いほど線幅LWが大きくなる。
・投影距離ZS: 長いほど線幅LWが大きくなる。
・回折広がり角θx:広角であるほど線幅LWが大きくなる。
・回折広がり角θy: 広角であるほど線幅LWが大きくなる。
・線状パターンLのx方向に沿った長さ:短いほど線幅LWを小さくしやすい。
・1本の線状パターンLを投影する場合に最も線幅LWが小さくなる。
これらを踏まえて、線幅LWを小さくしやすく現実的な諸元により線幅LWを算出した結果、線幅LWは250.0μm以下が好ましいことが分かった。
【0081】
<投影装置1の作用効果>
以上のように、投影装置1は、平行光を出射する光源10と、光源10における平行光が出射される側に配置される回折光学素子20と、回折光学素子20における光源10とは反対側に配置され、y方向(所定の方向)に曲率を有するレンズ30と、を備える。レンズ30は、x方向(所定の方向に対して垂直な方向)に並ぶ複数の輝点Lsを投影面Sに生成することにより、x方向に沿って延伸する線状パターンLを投影面Sに投影する。輝点長さQx(x方向に沿った輝点の長さ)は、輝点間隔Vx(複数の輝点における隣り合う輝点同士のx方向に沿った間隔)以上の長さであり、複数の輝点Lsの全ては、輝点長さQy(y方向に沿った輝点の長さ)が輝点長さQxよりも短い。複数の輝点Lsの全てにおいて、輝点長さQyと輝点長さQxは上記(3)式の関係を満たす。
【0082】
輝点長さQxを輝点間隔Vxの長さよりも長くすることにより、分裂を抑制し、歪みを抑制した品質が良好な線状パターンLを投影できる。また輝点長さQyを輝点長さQxよりも短くすることにより、x方向に沿って延伸する線状パターンLの線幅LWを細くできる。その結果、線幅LWが細く、かつ品質が良好な線状パターンLを投影可能な投影装置1を提供できる。
【0083】
ここで、特許文献1に記載されている投影装置では、回折光学素子による回折光によって投影面に生成される複数の輝点同士の間隔や歪曲に伴う輝点の位置ずれは、回折光学素子への入射光の直径が小さいほど大きくなる。ピッチPxおよびPyが小さいほど輝点間隔および歪みは大きくなる。ピッチPxおよびPyは入射光の直径をRとしたとき以下の式を満足する必要がある。
R≧√(Px2+Py2)
【0084】
また、回折光学素子単体の場合には、入射光の直径は輝点の直径と等しくなる必要がある。そのため回折光学素子単体で線幅を細くするには入射光の直径を小さくする必要がある。結果的に入射光の直径が小さいほど位置ずれは大きくなるが、その原因はピッチが小さいためである。
【0085】
線状パターンLの線幅LWを細くする観点では、複数の輝点Lsは、輝点長さQyが輝点長さQxの1/50以下であることが好ましい。輝点長さQyは、250.0μm以下であるとより好ましく、100.0μm以下であるとさらに好ましい。
【0086】
また本実施形態では、レンズ30は、複数の線状パターンLを投影面Sに投影し、複数の線状パターンLは、互いに平行である。例えば投影装置1をセンシング用途等に適用して投影装置1から線状パターンLをプローブ光として投影する場合に、より広い範囲に高い空間分解能でプローブ光を照射できる。
【0087】
また本実施形態では、レーザビーム(平行光)の中心軸に直交する面内におけるレーザビームの断面形状は、略円形である。これにより、回折光学素子20による回折の異方性を抑制できる。
【0088】
また本実施形態では、回折光学素子20は、複数の基本ユニット21を含む。複数の基本ユニット21は、それぞれが同一の凹凸パターン層25を有し、少なくともx方向に沿って所定のピッチPxで並んで形成されており、入射ビーム径φは、ピッチPxより大きい。なお、線幅LWの仕様値をLTとすると、レーザビームの直径は線数Lnによらず、上記の(1)式および(2)式を満足する。この構成により、x方向において、1つの基本ユニット21全体を使って、回折光学素子20に入射する1本のレーザビームを効率よく回折させることができる。
【0089】
また本実施形態では、回折光学素子20は、略平行なレーザビーム(平行光)を出射し、レンズ30は、回折光学素子20から出射された略平行なレーザビーム光を入射する。換言すると、レンズ30は物体側テレセントリックレンズである。この構成により、回折光学素子20とレンズ30との距離が投影面Sにおける線状パターンLに影響しなくなるため、投影装置1における部品配置等の自由度を向上させることができる。
【0090】
以上、好ましい実施形態について詳説したが、上述した実施形態に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0091】
実施形態に係る投影装置は、LiDAR(Light Detection And Ranging:光による距離検出装置)等の光を用いたセンシングや、プロジェクタ等の画像投射装置等の光学的手法を用いる多様な分野に適用できる。
【符号の説明】
【0092】
1 投影装置
10 光源
20 回折光学素子
21 基本ユニット
22 透光性部材
23 凸部
24 凹部
25 凹凸パターン層
30 レンズ
L 線状パターン
S 投影面
Px、Py ピッチ
θx、θy 回折広がり角
ZL レンズ距離
ZS 投影距離
Ls 輝点
LW 線幅
Vx、Vy 輝点間隔
Qx、Qy 輝点長さ
ε 歪み
D1、D2、D3、D4 領域
f 焦点距離
φ 入射ビーム径