(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム装置を使用して試料を検査する方法
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20250115BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
H01J37/22 501Z
H01J37/22 502H
H01J37/26
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021139984
(22)【出願日】2021-08-30
【審査請求日】2023-08-23
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】オレクシー カプレンコ
(72)【発明者】
【氏名】オンドレイユ マチェク
(72)【発明者】
【氏名】トマス ヴィスタヴェール
(72)【発明者】
【氏名】ヤン クルサーチェク
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーナ ブクヴィソヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ミコラ カプレンコ
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-310073(JP,A)
【文献】特開2013-019900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビーム装置を使用して試料を検査する方法であって、
-第1の検出器を使用して、前記試料を照明する荷電粒子ビームに応答して、前記試料からの第1の種類の放射を検出するステップと、
-前記試料を照明する前記荷電粒子ビームに応答して、前記試料からの第2の種類の放射に関するスペクトル情報を取得するステップと、を含み、
スペクトル情報を取得する前記ステップが、
-少なくとも1つのニューラルネットワークを含むスペクトル情報予測のアルゴリズムを提供するステップであって、前記ニューラルネットワークは、入力パラメータとして前記第1の種類の放射に関連するデータを含
み、
所望の出力パラメータとして前記第2の種類の放射に関連するデータを含む
試料データを使用して訓練される、ステップと、
-前記アルゴリズムの入力パラメータとして、前記第1の種類の検出された放射に基づいて前記スペクトル情報を予測するために前記アルゴリズムを使用するステップと、を含み、
前記アルゴリズムは、前記第1の種類の前記放射における空間間データ関係を識別するように構成されている、方法。
【請求項2】
前記アルゴリズムが、前記第1の種類の前記放射における空間間データ関係を識別するように構成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルゴリズムが、所与の試料位置で、前記スペクトル情報を予測するために、前記識別された空間間データ関係を使用するように構成されている、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルゴリズムが、前記第1の種類の放射を使用して、同様の特性を有する前記試料の領域を識別するように構成されている、請求項1~3いずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記入力パラメータは後方散乱電子画像を含み、前記出力パラメータはEDSデータを含む、請求項1~4いずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記試料が、半導体試料である、請求項1~5いずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記スペクトル情報が、前記試料の元素情報を含む、請求項1~6いずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記取得されたスペクトル情報に基づいて、前記試料を承認または却下するさらなるステップを含む、請求項1~7いずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記予測されるスペクトル情報に関連するデータを出力するさらなるステップを含み、前記出力が、前記試料の画像、前記試料の元素情報、および/または前記試料に関する評定のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~8いずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9いずれか1項に記載の前記方法を使用して試料を検査するための荷電粒子ビーム装置であって、
-荷電粒子ビームを放出するための荷電粒子ビーム源と、
-試料を保持するための試料ホルダと、
-前記荷電粒子ビーム源から放出された前記荷電粒子ビームを前記試料に方向付けるための照明器と、
-前記荷電粒子ビーム源から放出された荷電粒子による前記試料の照明に応答して、前記試料から生じる第1の種類の放射を検出するための第1の検出器と、
-前記第1の検出器に接続され、前記荷電粒子ビーム装置の動作の少なくとも一部を制御するように構成された制御ユニットと、を備え、
前記荷電粒子ビーム装置が、請求項1~9の一項以上に記載の前記方法を実行するように構成されていることを特徴とする、荷電粒子ビーム装置。
【請求項11】
前記荷電粒子ビーム装置が、前記第1の検出器を含む少なくとも1つの検出器を備え、前記少なくとも1つの検出器はすべて、非スペクトル検出器からなる、請求項10に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項12】
請求項1~9いずれか1項に記載の前記方法において使用するためのアルゴリズム、特にニューラルネットワークを訓練する方法を開発する方法であって、前記方法が、
-試料からの第1の種類の放射に関する試料データを提供するステップと、
-前記試料からの第2の種類の放射に関する対応するスペクトル情報を提供するステップと、
-前記提供されたデータを使用して、特に前記ニューラルネットワークを訓練する前記アルゴリズムを開発するステップであって、第1の種類の放射が入力として使用され、スペクトル情報が所望の出力として使用される、ステップと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
概要
本発明は、荷電粒子ビーム装置を使用して試料を検査する方法であって、荷電粒子ビーム、ならびに試料を提供するステップと、当該試料を当該荷電粒子ビームで照明し、第1の検出器を使用して、試料を照明する荷電粒子ビームに応答して試料からの第1の種類の放射を検出するステップと、を含む、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子顕微鏡法は、特に電子顕微鏡法の形態の、微小物体を撮像するための周知の、かつますます重要な技術である。歴史的に見て、電子顕微鏡の基本的な種類は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)、走査透過型電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)などのいくつかの周知の装置種に、また、例えば、イオンビームミリングまたはイオンビーム誘起蒸着(IBID:Ion-Beam-Induced Deposition)などのサポートを可能にする、さらに「機械加工」集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)を採用する、いわゆる「デュアルビーム」装置(例えば、FIB-SEM)など、様々な亜種に進化してきた。当業者ならば、異種の荷電粒子顕微鏡法に精通しているであろう。
【0003】
走査電子ビームによる試料の照射は、二次電子、後方散乱電子、X線およびカソード発光(赤外線、可視、および/または紫外線光子)の形態で、試料からの「補助」放射線の放出を促進する。この放出放射線の1つ以上の成分が、試料分析のために検出および使用され得る。
【0004】
通常、SEMでは、後方散乱電子が、固体検出器によって検出され、各後方散乱電子が、半導体検出器内に多くの電子-正孔対を作成するように増幅される。後方散乱電子検出器信号は、ビームが走査されるときに画像を形成するために使用され、各画像点の明るさは、一次ビームが試料を横切って移動するときに試料上の対応する点で検出された後方散乱電子の数によって判定される。画像は、検査される試料のトポロジーに関する情報を提供するのみである。
【0005】
(「EDS」または「EDX」とも称される)「エネルギー分散型X線分光分析」と呼ばれるプロセスでは、電子ビームに応答して試料から来るX線のエネルギーを測定し、ヒストグラムにプロットして、材料固有スペクトルを形成する。測定されたスペクトルは、どの元素および鉱物が当該試料中に存在するかを判定するために、様々な元素の既知のスペクトルと比較され得る。
【0006】
EDSの欠点の1つは、試料のX線スペクトルを蓄積するためにかなりの時間を要することである。通常、離散分析点を有するグリッドが使用される。EDS検出器がX線を記録する間、電子ビームは、各分析点に滞留する。一度、十分なX線計数が記録されると、ビームは、次の分析点に移動する。EDS検出器からの信号は、各分析点についてX線スペクトル曲線を構築する信号処理ユニットに供給され、その分析点に最も一致するものを選択するために、既知の鉱物相の広範なライブラリに照会され得る。この既知の方法は、試料中に存在する相、すなわち化学組成を判定するのに比較的時間がかかる。
【0007】
一般に、試料のスペクトル情報の取得は比較的時間がかかる。
【発明の概要】
【0008】
上記を念頭におき、荷電粒子ビーム装置を使用して試料を検査する改良された方法を提供することが目的であり、ここで、スペクトル情報は、当該試料を検査するために使用される。特に、試料に関する情報をより迅速におよび/またはより正確に取得するための方法および装置を提供することが、本発明の目的である。
【0009】
この目的のために、本発明は、請求項1に定義されるように、荷電粒子ビーム装置を使用して試料を検査する方法を提供する。本明細書で定義される方法は、荷電粒子ビームを提供し、試料を照明するために当該ビームを使用するステップを含む。本方法は、第1の検出器を使用して、試料を照明する荷電粒子ビームに応答して試料からの第1の種類の放射を検出するステップをさらに含む。第1の種類の当該放射は、非スペクトル情報に関連している。実施形態では、当該第1の検出器は、荷電粒子、特に後方散乱電子などの電子を検出するように構成される。したがって、第1の検出器は、BSE検出器であり得る。
【0010】
本明細書で定義される方法は、試料を照明する荷電粒子ビームに応答して、試料から第2の種類の放射に関するスペクトル情報を取得するステップをさらに含む。第2の種類のこれらの放射は、第1の種類の放射とは異なる。スペクトル情報は、実施形態では、試料から放出するX線に関連し得る。
【0011】
本発明によれば、当該スペクトル情報を取得するステップは、スペクトル情報予測アルゴリズムを提供するステップと、当該アルゴリズムの入力パラメータとして第1の種類の検出された放射に基づいて当該スペクトル情報を予測するために当該アルゴリズムを使用するステップとを含む。
【0012】
したがって、本明細書で定義されるように、例えば、後方散乱電子などの第1の種類の得られた放射は、第2の種類の放射に関連するスペクトル情報を得るためにスペクトル情報予測アルゴリズムの入力パラメータとして使用される。したがって、事実上、スペクトル情報は、第2の種類の放射を検出するための第2の検出器を必要とせずに得ることができ、原則として、1つだけの検出器が、第1の種類の放射に関する情報およびスペクトル情報を得るために必要とされる。
【0013】
これにより、本発明の目的が達成される。有利な実施形態について以下に説明する。
【0014】
第1の種類の当該放射を得るために、第1の種類の複数の検出器が使用され得ることに留意されたい。その実施形態は、TEMにおける明視野、暗視野、または高角度環状暗視野のSTEM検出器を含み得る。例えば。
【0015】
本方法の実施形態では、荷電粒子ビームが試料上を走査される。第1の検出器によって検出された放射は、したがって、スペクトル情報予測アルゴリズムで判定されたスペクトル情報は、特定の走査ビーム位置に関連し得、つまり、試料上の特定の位置に関連し得る。これは、スペクトル情報が、同様に、試料上の対応する位置についても判定され得ることを意味する。異なる位置について得られたスペクトル情報を互いに比較し得、1つ以上の特定の相をこれらの異なる位置に割り当てることができる。すでに割り当てられた相を使用して、例えば、これらすでに割り当てられた相への近接度に基づいて、他の位置について得られた部分的に得られたスペクトルプロファイルに基づいて、または他のパラメータに基づいて、他の位置について推定相を確立することができる。
【0016】
第1の検出器は、後方散乱電子検出器であり得る。電子の後方散乱は、表面の元素の原子数、および表面と一次ビームと検出器との間の幾何学的関係に依存する。それゆえに、後方散乱電子画像は、輪郭情報、すなわち、異なる組成の領域間の境界、および断層情報を示す。後方散乱電子画像を得ることは、異なる特性を有する点の間に妥当なコントラストを生成するために各点で十分な数の電子のみを収集することを必要とするため、各点で完全なスペクトルを集めるために十分な数のX線を得ることよりも非常に高速である。また、電子が後方散乱される確率は、特定の周波数の特性X線の放射を生じる電子の確率よりも高い。単一の滞留点で十分な後方散乱電子画像データを得ることは、通常、1マイクロ秒未満を要するが、単一の滞留点で分析可能なスペクトルを得るために十分なX線を取得することは、通常、1ミリ秒超を要する。したがって、試料のスペクトル情報を取得するための入力として比較的高速な後方散乱電子画像を使用することにより、スペクトル情報予測アルゴリズムの正確さおよび速度に応じて、試料の正確で高速なスペクトル情報を取得することが可能である。
【0017】
実施形態では、当該アルゴリズムは、当該第1の種類の当該放射における空間間データ関係を識別するように構成される。空間間データ関係は、スペクトル情報予測アルゴリズムを使用して、より迅速かつより正確にスペクトル情報を得るために使用され得る。実施形態では、したがって、当該アルゴリズムは、所与の試料位置で、当該スペクトル情報を予測するために、当該識別された空間間データ関係を使用するように構成される。
【0018】
実施形態では、当該アルゴリズムは、当該第1の種類の放射を使用して、同様の特性を有する当該試料の領域を識別するように構成される。上記のように、後方散乱電子画像は、輪郭情報、すなわち、異なる組成の領域間の境界、および断層情報を示し得る。この情報は、類似した特性を有する領域を識別するためのアルゴリズムによって使用され得る。
【0019】
実施形態では、当該アルゴリズムは、少なくとも1つのニューラルネットワークを含む。ニューラルネットワークは、第1の種類の放射に関する情報および第2の種類の放射に関連するスペクトル情報を含む試料データを使用して訓練することができ、第1の種類および第2の種類のこれらの放射は、データ取得中に物理的に得られる。これにより、入力パラメータとしての第1の種類の放射に基づいて、スペクトル情報を予測するようにニューラルネットワークを訓練することができる。
【0020】
スペクトル情報は、当該試料の元素情報を含み得る。地質学的試料および半導体試料などの材料試料で優れた結果が得られているが、試料は、原則として、任意の試料であり得る。しかしながら、他の試料もまた考えられる。
【0021】
本方法は、取得されたスペクトル情報に基づいて当該試料を承認または却下するさらなるステップを含み得る。これは、試料を製造プロセスから得ることができるプロセス制御設定において特に有利であり、本明細書で定義される方法は、試料に関するスペクトル情報を収集(予測)するために使用することができ、結果は、試料を承認または却下するために使用され得、これにより、製造プロセスまたはその一部を承認または却下し得る。例えば、試料に含まれる特定の材料が多すぎる場合、特定の製造プロセスでは満足のいく結果が得られなかったと結論付けることができ、その後、製品の一部をさらに調査することができる。
【0022】
実施形態では、本方法は、当該予測されるスペクトル情報に関連するデータを出力するさらなるステップを含み、当該出力は、当該試料の画像、当該試料の元素情報、および/または当該試料に関する評定のうちの少なくとも1つを含む。
【0023】
態様によれば、本開示は、上記の方法を使用して試料を検査するための荷電粒子ビーム装置を提供し、
-荷電粒子ビームを放出するための荷電粒子ビーム源と、
-試料を保持するための試料ホルダと、
-荷電粒子ビーム源から放出された荷電粒子ビームを試料に方向付けるための照明器と、
-当該荷電粒子源から放出された荷電粒子による当該試料の照明に応答して、当該試料から生じる第1の種類の放射を検出するための第1の検出器と、
-当該第1の検出器に接続され、当該荷電粒子ビーム装置の動作の少なくとも一部を制御するように構成された制御ユニットと、を備える。
【0024】
本明細書に定義されるように、荷電粒子顕微鏡などの荷電粒子ビーム装置は、前述の主張の1つ以上に記載の方法を実行するように構成されている。これは、制御ユニットが、試料のスペクトル情報を判定するためのスペクトル情報予測アルゴリズムにおいて第1の種類の放射を使用するように構成され得ることを意味する。代替的に(または付加的に)、第1の種類の放射の情報は、スペクトル情報を計算することができる外部の、またはクラウドベースの処理ユニットに転送され得る。次に、結果は、例えば、荷電粒子ビーム装置の近くに位置するスクリーン上などで、関連するユーザに転送して戻すことができる。
【0025】
クラウドベースの処理ユニットを使用する場合、複数の荷電粒子ビーム装置を単一のスペクトル情報予測アルゴリズムに接続することが可能になる。これは、判定されたスペクトル情報が、スペクトル情報予測アルゴリズムの最新の洞察と更新に対して正確で最新の状態を保つことを可能にする。アルゴリズムの更新を行うことができ、その後、クラウドベースの処理ユニットなどの外部処理ユニットに接続された荷電粒子ビーム装置は、この更新されたアルゴリズムの恩恵を受けることができる。スペクトル情報を含み得る荷電粒子ビーム装置によって提供されるデータは、例えば、スペクトル情報予測アルゴリズムがニューラルネットワークである場合など、訓練目的のために使用され得る。例えば、新しい種類の試料が研究または検査されているときはいつでも、較正の目的で、これらの荷電粒子ビーム装置のためのスペクトル情報が記録されることが考えられる。
【0026】
実施形態では、当該荷電粒子ビーム装置は、当該第1の検出器を含む少なくとも1つの検出器を備え、当該少なくとも1つの検出器はすべて、非スペクトル検出器からなる。したがって、荷電粒子ビーム装置は、いかなるスペクトル検出器からも解放され得、荷電粒子ビーム装置は、試料に関するスペクトル情報を取得するためにスペクトル情報予測アルゴリズムのみに依存し得る。
【0027】
態様によれば、アルゴリズムを開発する方法、特にニューラルネットワークを訓練する方法が提供され、当該アルゴリズムは、上記の方法で使用するように構成される。アルゴリズムを開発する方法は、
-試料からの第1の種類の放射に関する試料データを提供するステップと、
-当該試料からの第2の種類の放射に関する対応するスペクトル情報を提供するステップと、
-当該提供されたデータを使用して、特に当該ニューラルネットワークを訓練する当該アルゴリズムを開発するステップであって、第1の種類の放射が入力として使用され、スペクトル情報が所望の出力として使用される、ステップと、を含む。
【0028】
開発方法はまた、複数の荷電粒子ビーム装置がクラウドベースの処理ユニットなどの1つ以上の処理ユニットに接続されている設定において、スペクトル情報予測アルゴリズムを更新するために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
ここで、本発明は、例示的な実施形態および添付の概略図を基にして詳細に明らかにされるだろう。
【
図1】本発明の第1の実施形態による、荷電粒子ビーム装置の縦断面図を示す。
【
図2】本発明の第2の実施形態による、荷電粒子ビーム装置の縦断面図を示す。
【
図3】スペクトル情報予測アルゴリズムとして使用することができる、ニューラルネットワークアーキテクチャの概略的な概要を示す。
【
図4a】それぞれ、a)電子顕微鏡画像、b)EDS検出器で得られたEDS画像、およびc)本明細書で定義されたスペクトル情報予測アルゴリズムを用いて得られたEDS画像を示す。
【
図4b】それぞれ、a)電子顕微鏡画像、b)EDS検出器で得られたEDS画像、およびc)本明細書で定義されたスペクトル情報予測アルゴリズムを用いて得られたEDS画像を示す。
【
図4c】それぞれ、a)電子顕微鏡画像、b)EDS検出器で得られたEDS画像、およびc)本明細書で定義されたスペクトル情報予測アルゴリズムを用いて得られたEDS画像を示す。
【
図5】本明細書で定義されたスペクトル情報予測アルゴリズムにおいて使用することができるニューラルネットワークアーキテクチャの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1(縮尺どおりではない)は、本発明の実施形態による、荷電粒子顕微鏡Mの実施形態の非常に概略的な図である。より具体的には、この図は、この場合、TEM/STEM(本発明の背景では、例えば、SEM(
図2参照)またはイオンベースの顕微鏡であることが同じくらい有効であり得るが)である透過型顕微鏡Mのある実施形態を示す。
図1では、真空筐体2内で、電子源4が、電子光学軸B’に沿って伝播し、電子光学照明器6を渡り、試料S(例えば、(局所的に)薄化/平面化され得る)の選択部分に電子を方向付ける/集束させる働きをする、電子ビームBを生み出す。偏向器8もまた図示されており、これは、(とりわけ)ビームBの走査運動をもたらすために使用することができる。
【0031】
試料Sは、ホルダHが(取り外し可能に)装着されたクレードルを移動させる位置付けデバイス/ステージAによって、複数の自由度で位置付けされ得る試料ホルダHに保持され、例えば、試料ホルダHは、(数ある中でも)XY平面で移動され得るフィンガを備え得る(描写のデカルト座標系を参照、通常、Zに平行な運動およびX/Yを中心とする傾斜も可能である)。このような移動により、試料Sの様々な部分が、軸B’に沿って移動する(Z方向に)電子ビームBによって照明/撮像/検査されることが可能になる(かつ/または電子ビーム走査の代替として、走査運動が行われることが可能になる)。所望される場合、任意選択的な冷却デバイス(描写せず)が、試料ホルダHとの密接な熱接触状態にされ、それによって試料ホルダH(およびその上の試料S)を例えば極低温に維持することができる。
【0032】
電子ビームBは、(例えば)2次電子、後方散乱電子、X線、および光放射(カソードルミネッセンス)を含む様々なタイプの「誘導」放射線を試料Sから放出させるように、試料Sと相互作用する。所望される場合、例えば、シンチレータ/光電子増倍管またはEDXもしくはEDS(エネルギー分散型X線分光)モジュールを組み合わせたものであり得る分析デバイス22の助けを借りて、これらの放射線のタイプのうちの1つ以上を検出することができ、このような場合には、SEMと基本的に同じ原理を使用して画像を構築することができる。しかしながら、本明細書で定義されるように、そのようなEDXまたはEDSモジュールは、原則として、後で説明されるように、このスペクトル情報を得るために実際には必要とされない。また、試料Sを横切って(通過して)、試料から出て/放出されて、軸B’に沿って(実質的には、一般的に、ある程度偏向しながら/散乱しながら)伝播し続ける電子を検討することもできる。このような透過電子束は、通常、様々な静電/磁気レンズ、逸らせ板、コレクタ(スティグメータなど)などを備える撮像システム(投射レンズ)24に入る。標準的な(非散乱)TEMモードでは、この撮像システム24は、所望される場合、それを軸B’の道の外に出させるように、引き込まれ得る/引き出され得る(矢印26’で概略的に示されるように)電子束を蛍光スクリーン26に集束させることができる。スクリーン26上に撮像システム24によって、試料Sの(一部の)画像(またはディフラクトグラム)が形成されるようになり、これは、筐体2の壁の好適な部分に位置するビューイングポート28を通して見ることができる。スクリーン26の引き込み機構は、例えば本質的に機械的および/また電気的な機構であり、ここには図示されていない。
【0033】
スクリーン26上の画像を視認することの代替として、代わりに、撮像システム24から出ていく電子束の集束深度が概して極めて深い(例えば、1メートル程度)という事実を利用することができる。その結果、様々な他のタイプの分析装置(以下のような)をスクリーン26の下流で使用することができる。
-TEMカメラ30。カメラ30の位置で、電子束は、静止画像(または、ディフラクトグラム)を形成することができ、静止画像は、コントローラ/プロセッサ20により処理することができ、例えば、フラットパネル表示のような表示デバイス14に表示することができる。必要ではない場合、カメラ30は、引き込まれて/引き出されて(矢印30´で概略的に示すように)、カメラを軸線B´から外れるようにすることができる。
【0034】
-STEMカメラ32。カメラ32からの出力は、試料S上のビームBの(X、Y)走査位置の関数として記録することができ、X、Yの関数としてのカメラ32からの出力の「マップ」である画像を構築することができる。カメラ32は、電子顕微鏡画素アレイ検出器(EMPAD)とすることもできるが、カメラ30に特徴的に存在する画素行列とは異なり、例えば、直径が20mmの単一の画素を含むことができる。さらに、カメラ32は、概して、カメラ30(例えば、102画像/秒)よりもはるかに高い取得レート(例えば、106ポイント/秒)を有する。繰り返しになるが、必要ではない場合、カメラ32は、軸B’の邪魔にならないように(このような引き込みは、例えば、ドーナツ形アニュラーダークフィールドカメラ32の場合は必要ではないと考えられ、このようなカメラでは、カメラが使用されていない場合、中央穴によって、束通路が可能になり得る)、引き込まれ得る/引き出され得る(矢32’で概略的に示される通りに)。
【0035】
-カメラ30または32を使用して撮像を行うことの代替として、例えば、EELSモジュールとすることができる分光装置34を呼び出すこともできる。
【0036】
項目30、32、および34の順序/位置は厳密ではなく、多くの可能な変形が考えられることに留意されたい。例えば、分光装置34は、画像化システム24と一体化することもできる。
【0037】
図示の実施形態では、顕微鏡Mは、通常参照番号40で示される、引き込み式X線コンピュータ断層撮影(CT:Computed Tomography)モジュールをさらに備える。コンピュータ断層撮影(断層撮像とも称される)では、電子源および(直径方向に対向する)検出器を使用して、様々な視点からの試料の洞察力のある観察を得るように、様々な視線に沿って試料を調べる。
【0038】
コントローラ(コンピュータプロセッサ)20は、図示される様々な構成要素に、制御線(バス)20’を介して接続されることに留意されたい。このコントローラ20は、アクションを同期させる、設定値を提供する、信号を処理する、計算を実行する、およびメッセージ/情報を表示デバイス(図示せず)に表示するなどの様々な機能を提供することができる。言うまでもなく、(概略的に図示される)コントローラ20は、筐体2の(部分的に)内側でも外側でもよく、所望に応じて、単体構造または複合構造を有することができる。コントローラは、この実施形態に示されるように、本明細書で定義される方法を実行するために構成されたデータ処理装置Pを備える。
【0039】
当業者は、筐体2の内部が厳密な真空状態に保持される必要はないことを理解するであろう。例えば、いわゆる「環境TEM/STEM」では、所与のガスの背景雰囲気が、筐体2内に意図的に導入/維持される。当業者であれば、実際に、可能であれば、採用された電子ビームが透過するが、電子源4、試料ホルダH、スクリーン26、カメラ30、カメラ32、分光装置34などの構造体を収容するように外に広がっている、小型チューブ(例えば、1cm程度の寸法の)の形態を採って、軸B´を基本的に抱え込むように、筐体2の体積を制限するのに好都合であり得ることも理解するであろう。
【0040】
ここで
図2を参照すると、本発明による装置の別の実施形態が示されている。
図2(縮尺どおりではない)は、本発明による荷電粒子顕微鏡Mの非常に概略的な描写であり、より具体的には、この場合、SEMである、非透過型顕微鏡Mの実施形態を示す(ただし、本発明の文脈では、例えば、イオンベース顕微鏡も同様に有効であり得る)。図では、
図1の項目に対応する部品は、同一の参照符号を使用して示され、ここでは別個に考察されない。(とりわけ)以下の部品が
図1に加えられる。
-2a:真空ポート、これは、真空室2の内部へ/から項目(構成要素、試料)を導入/除去するように開くことができ、またはそれに加えて、例えば、補助デバイス/モジュールが装着され得る。顕微鏡Mは、所望される場合、複数のこのようなポート2aを備えることができる。
-10a、10b:照明器6における概略的に描写されたレンズ/光学素子
-12:所望される場合、試料ホルダHまたは少なくとも試料Sが、接地に対してある電位にバイアス(浮遊)されることを可能にする電圧源。
-14:FPDまたはCRTなどのディスプレイ。
-22a、22b:(セグメント化電子検出器22a、中央開口22b(ビームBの通過を可能にする)の周りに配設された複数の独立した検出セグメント(例えば、四分円)を備える。このような検出器は、例えば、試料Sから出てくる出力(二次または後方散乱の)電子の束(の角度依存性)を調査するために使用され得る。
【0041】
ここでも、コントローラ20が存在する。コントローラは、ディスプレイ14に接続され、ディスプレイ14は、本明細書で定義される方法を実行するように構成されたデータ処理装置Pに接続可能であり得る。示される実施形態では、データ処理装置Pは、コントローラの一部を形成せず、顕微鏡Pの一部さえも形成しない別個の構造である。データ処理装置Pは、ローカルまたはクラウドベースであり得、原則として、場所に限定されない。本明細書に記載のすべての実施形態において、データ処理ユニットPは、荷電粒子顕微鏡などの荷電粒子ビーム装置の一部であり得るか、または外部に配置され得ることに留意されたい。
【0042】
ここで
図3に目を向けると、本明細書で定義される方法の実施形態が概略的に示されている。方法101は、荷電粒子ビーム装置を使用して試料を検査するために使用され、
-第1の検出器を使用して、試料を照明する荷電粒子ビームに応答して、試料からの第1の種類の放射を検出するステップ110と、
-試料を照明する荷電粒子ビームに応答して、試料からの第2の種類の放射に関するスペクトル情報を取得するステップ120と、を含む。
【0043】
前に示したように、先行技術の方法は、後方散乱電子の形で第1の種類の放射を検出するための後方散乱電子検出器、およびX線の形で第2の種類の放射を検出するためのEDS検出器などの、2つの検出器を使用してきた。しかしながら、本明細書で定義される方法は、そのような検出器がもちろん存在する可能性があるとしても、原則として、スペクトル検出器の使用を必要としない。この目的のために、本明細書で定義される方法は、以下のステップを使用して、スペクトル情報を取得する104。第1のステップは、スペクトル情報予測アルゴリズムを提供すること102であり、第2のステップは、当該スペクトル情報を予測するために当該アルゴリズムを使用すること103である。スペクトル情報予測アルゴリズムは、第1の種類の検出された放射を当該アルゴリズムの入力パラメータとして使用する。このため、スペクトル情報予測アルゴリズムは、例えば、後方散乱電子の形で、第1の種類の検出された放射に基づいてスペクトル情報を予測するように構成されている。実施形態では、したがって、スペクトル情報は、検出された後方散乱電子に基づいて予測されるEDS情報に関連している。
【0044】
ここで
図4a~
図4cに目を向けると、スペクトル情報予測アルゴリズムで達成可能な結果の例が示されている。
図4aは、半導体試料の後方散乱電子画像を示している。ここで、チップの構造およびレイアウトは、当業者には認識可能である。
図4bは、
図4aに示される試料のEDS画像を示しており、ここでEDS検出器の使用が行われている。多くの場所でデータが比較的ノイズが多いことがわかり、それは、一部の領域では材料を正確かつ自信を持って識別することを困難にしている。
図4cは、
図4aに示される試料のEDS画像を示し、ここで、本明細書で定義されるようなスペクトル情報予測アルゴリズムの使用が行われている。ここでは、測定されたEDSデータに関して信号対雑音比が改善されていることがわかる。
【0045】
スペクトルデータの予測に使用されるアルゴリズムは、当該第1の種類の当該放射における空間間データ関係を識別するために構成され得る。
図4cに示される例では、アルゴリズムは、EM画像(
図4a)内の特定の領域を識別することができ、ここで、当該領域は、共通の特徴を有し、それに基づいて、アルゴリズムは、これらの領域を同じまたは類似のスペクトルデータを有するものとしてより迅速におよび/またはより正確に識別することができる。したがって、アルゴリズムは、所与の試料位置で、当該スペクトル情報を予測するために、当該識別された空間間データ関係を使用するように構成され得る。
【0046】
一実施形態では、アルゴリズムは、少なくとも1つのニューラルネットワークを含む。当業者に知られているように、ニューラルネットワーク(NN)(人工ニューラルネットワーク(ANN)またはシミュレートされたニューラルネットワーク(SNN)とも称される)は、計算への接続主義的アプローチに基づいて情報処理のために数学的または計算モデルを使用する人工ニューロンの相互接続されたグループである。本明細書で定義される人工ニューラルネットワークは、ネットワークを流れる外部または内部情報に基づいてその構造を変化させる適応システムである。より実際面では、ニューラルネットワークは、入力と出力との間の複雑な関係をモデル化するため、またはデータ内のパターンを見つけるために使用することができる、非線形統計データモデリングまたは意思決定ツールである。ニューラルネットワークでの学習は、データまたはタスクの複雑さが手作業によるそのような機能の設計を非現実的にするアプリケーションにおいて、特に有用である。したがって、ニューラルネットワークの適用は、任意の荷電粒子ビーム装置におけるアラインメント手順を最適化するために有利である。本開示では、ニューラルネットワークは、入力パラメータとして第1の種類の放射に関連するデータ(例えば、後方散乱電子画像)を含み、所望の出力パラメータとして第2の種類の放射に関連するデータ(スペクトルデータ、例えば、EDSデータ)を含む試料データ上で訓練することができる。このデータは容易に得ることが可能であり、したがって、訓練目的で迅速かつ信頼性の高い様態で使用され得る。こうして、スペクトル情報予測アルゴリズムは、
-特に、第1の種類の当該放射が、非スペクトルデータに関連する場合に、試料からの第1の種類の放射に関する試料データを提供するステップと、
-特に、当該スペクトル情報が、測定されたスペクトル情報に関連する場合に、当該試料からの第2の種類の放射に関する対応するスペクトル情報を提供するステップと、
-当該提供されたデータを使用して、特に当該ニューラルネットワークを訓練する当該アルゴリズムを開発するステップであって、第1の種類の放射が入力として使用され、スペクトル情報が所望の出力として使用される、ステップと、によって開発され得る。
【0047】
図5は、本明細書で定義されたスペクトル情報予測アルゴリズムにおいて使用することができるニューラルネットワークアーキテクチャの例を示す。当該ニューラルネットワークは、畳み込み層、注意ブロックの概念、および自動エンコーダ/デコーダアーキテクチャを利用する。MobileNet V2アーキテクチャが、ニューラルネットワークバックボーンとして使用され、深さ方向に分離可能な畳み込み層が追加されたため、より高速で強力なエンコーダ/デコーダネットワークが実現した。エンコーダ/デコーダアーキテクチャのボトルネック部分に、画像全体のピクセル単位の関係をより適切にキャプチャする注意拡張畳み込みブロックが追加された。自己注意の背後にある重要なアイデアは、非表示のユニットから計算された値の加重平均を生成することである。加重平均演算で使用される重みは、非表示のユニット間の相似関数を介して動的に生成される。特に、これは、自己注意が長距離の相互作用をキャプチャすることを可能にする。
【0048】
手元のタスクは、実施形態では、画像内のすべてのピクセルにセマンティックラベルを割り当てることを目的としたセマンティックセグメンテーション問題として提起された。当該アルゴリズムは、複数のラベルを各ピクセルに割り当てることができ(複数の化学元素が同じピクセル位置に存在することができる)、予測された分析マップのピクセル強度(ニューラルネットワーク出力)が様々な値を有し、定量的な結果(定義された化学元素の原子百分率)を提供するという点で、古典的なセマンティックセグメンテーションとは異なる。
【0049】
本明細書で定義される方法は、多くの変動性を示さない試料を検査する必要がある場合に特に有用である。例えば、検査が試料またはプロセスの承認または却下につながる可能性がある品質管理プロセスにおいて、または単一種類の試料が調査されている場合において。例としては、半導体試料および鉱物学試料が挙げられ得る。しかしながら、多種多様な試料についても、スペクトル情報予測アルゴリズムの訓練が可能であると考えられる。
【0050】
図1および
図2に示されるような荷電粒子ビーム装置は、本明細書で定義される方法を実行するために構成され得る。コントローラは、例えば、スペクトル情報予測アルゴリズムを使用して、第1の種類の検出された放射に基づいてスペクトル情報を予測するように構成され得、第1の種類の当該検出された放射は、後方散乱電子などの非スペクトル情報に関連する。スペクトル検出器を含めることができ、例えば、スペクトル情報予測アルゴリズムへの入力パラメータとして使用することができるが、これは、本開示によって要求されていない。したがって、荷電粒子ビーム装置において利用可能な検出器はすべて、非スペクトル検出器に関連し得る。
【0051】
所望の保護は、添付の特許請求の範囲によって付与される。