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特許7619108荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20250115BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20250115BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20250115BHJP
   H01J 37/147 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
H01L21/30 541J
H01L21/30 541D
G03F7/20 504
H01J37/305 B
H01J37/147 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021043761
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022143308
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】安田 淳平
(72)【発明者】
【氏名】涌井 直人
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-219577(JP,A)
【文献】特開2014-045151(JP,A)
【文献】特開平08-083740(JP,A)
【文献】国際公開第2008/139569(WO,A1)
【文献】特開平07-142351(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027、21/30
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏向器により荷電粒子ビームを偏向させて、試料内の複数の偏向位置に順にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、
描画データを、荷電粒子ビームの各ショット位置とショット時間を含むショットデータに変換するショットデータ生成部と、
前記偏向器の偏向開始からの経過時間と前記荷電粒子ビームのショット位置の位置ずれ量との関係を示す関連性情報を記憶する記憶部と、
パターンの描画順がn番目(nは2以上の整数)の偏向位置に対応する第1位置ずれ量を、前記偏向器のセトリング時間及び前記ショット時間と、前記関連性情報と、を用いて取得し、n-1番目の偏向位置に対応する第2位置ずれ量を、前記偏向開始からの経過時間と、前記関連性情報と、を用いて取得し、該第1位置ずれ量と該第2位置ずれ量とを加算して位置補正量を求め、該位置補正量に基づいて、該n番目の偏向位置における前記ショットデータで定義されるショット位置を補正するショット位置補正部と、
ショット位置が補正されたショットデータを用いて、前記n番目の偏向位置に荷電粒子ビームを照射し、パターンを描画する描画部と、
を備える荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記ショット位置補正部は、前記パターンの描画順がn-i番目(iは2以上の整数)までさかのぼった偏向位置に対応する第3位置ずれ量を、前記偏向開始からの経過時間と、前記関連性情報と、を用いて取得し、前記第1位置ずれ量と前記第2位置ずれ量と該第3位置ずれ量とを加算して前記位置補正量を求めることを特徴とする請求項に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記偏向器は、偏向量が異なる複数段の偏向器を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
偏向器により荷電粒子ビームを偏向させて、試料内の複数の偏向位置に順にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法であって、
描画データを、荷電粒子ビームの各ショット位置とショット時間を含むショットデータに変換する工程と、
パターンの描画順がn番目(nは2以上の整数)の偏向位置に対応する第1位置ずれ量を、前記偏向器のセトリング時間及び前記ショット時間と、予め求められた前記偏向器の偏向開始からの経過時間と前記荷電粒子ビームの前記ショット位置の位置ずれ量との関係を示す関連性情報と、を用いて取得する工程と、
パターンの描画順がn-1番目の偏向位置に対応する第2位置ずれ量を、前記偏向開始からの経過時間と、前記関連性情報と、を用いて取得する工程と、
前記第1位置ずれ量と前記第2位置ずれ量とを加算して位置補正量を求め、該位置補正量に基づいて、該n番目の偏向位置における前記ショットデータで定義されるショット位置を補正する工程と、
ショット位置が補正されたショットデータを用いて、前記n番目の偏向位置に荷電粒子ビームを照射し、パターンを描画する工程と、
を備える荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項5】
前記パターンの描画順がn-i番目(iは2以上の整数)までさかのぼった偏向位置に対応する第3位置ずれ量を、前記偏向開始からの経過時間と、前記関連性情報と、を用いて取得し、前記第1位置ずれ量と前記第2位置ずれ量と該第3位置ずれ量とを加算して前記位置補正量を求めることを特徴とする請求項4に記載の荷電粒子ビーム描画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。半導体デバイスへ所望の回路パターンを形成するためには、縮小投影型露光装置を用いて、石英上に形成された高精度の原画パターンをウェーハ上に縮小転写する手法が採用されている。高精度の原画パターンの作製には、電子ビーム描画装置によってレジストを露光してパターンを形成する、所謂、電子ビームリソグラフィ技術が用いられている。
【0003】
電子ビーム描画装置は、電子ビームの光路に沿って配置された偏向器に所定の電圧を印加することにより電子ビームを偏向し、ステージ上の基板にパターンを描画する。DAC(デジタルアナログコンバータ)アンプからの出力電圧で偏向器を駆動する際には、その負荷に応じた出力電圧のセトリング時間(整定時間)が必要になる。ここで、セトリング時間が足りないと、電子ビームの偏向移動量に誤差が生じ、描画精度を低下させる。一方、セトリング時間が長すぎると、スループットが低下する。そのため、描画精度が低下しない範囲で、できるだけ短いセトリング時間を設定することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-083740号公報
【文献】国際公開2008/139569号
【文献】特開平7-142351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高いスループット及び高い描画精度を実現する荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画装置は、偏向器により荷電粒子ビームを偏向させて、試料内の複数の偏向位置に順にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画装置であって、描画データを、荷電粒子ビームの各ショット位置とショット時間を含むショットデータに変換するショットデータ生成部と、前記偏向器の偏向開始からの経過時間と前記荷電粒子ビームのショット位置の位置ずれ量との関係を示す関連性情報を記憶する記憶部と、パターンの描画順がn番目(nは2以上の整数)の偏向位置に対応する第1位置ずれ量を、前記偏向器のセトリング時間及び前記ショット時間と、前記関連性情報と、を用いて取得し、n-1番目の偏向位置に対応する第2位置ずれ量を、前記偏向開始からの経過時間と、前記関連性情報と、を用いて取得し、該第1位置ずれ量と該第2位置ずれ量とを加算して位置補正量を求め、該位置補正量に基づいて、該n番目の偏向位置における前記ショットデータで定義されるショット位置を補正するショット位置補正部と、ショット位置が補正されたショットデータを用いて、前記n番目の偏向位置に荷電粒子ビームを照射し、パターンを描画する描画部と、を備えるものである。
【0007】
本発明の一態様による荷電粒子ビーム描画方法は、偏向器により荷電粒子ビームを偏向させて、試料内の複数の偏向位置に順にパターンを描画する荷電粒子ビーム描画方法であって、描画データを、荷電粒子ビームの各ショット位置とショット時間を含むショットデータに変換する工程と、パターンの描画順がn番目(nは2以上の整数)の偏向位置に対応する第1位置ずれ量を、前記偏向器のセトリング時間及び前記ショット時間と、予め求められた前記偏向器の偏向開始からの経過時間と前記荷電粒子ビームの前記ショット位置の位置ずれ量との関係を示す関連性情報と、を用いて取得する工程と、パターンの描画順がn-1番目の偏向位置に対応する第2位置ずれ量を、前記偏向開始からの経過時間と、前記関連性情報と、を用いて取得する工程と、前記第1位置ずれ量と前記第2位置ずれ量とを加算して位置補正量を求め、該位置補正量に基づいて、該n番目の偏向位置における前記ショットデータで定義されるショット位置を補正する工程と、ショット位置が補正されたショットデータを用いて、前記n番目の偏向位置に荷電粒子ビームを照射し、パターンを描画する工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高いスループット及び高い描画精度を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態による描画装置の概略構成図である。
図2】偏向領域を説明する概念図である。
図3】セトリングエラーの経時変化の例を示すグラフである。
図4】(a)は1番目の偏向領域(TF)におけるセトリングエラーの経時変化を示すグラフであり、(b)は2番目の偏向領域(TF)におけるセトリングエラーの経時変化を示すグラフである。
図5】同実施形態による描画方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、荷電粒子ビーム装置の一例として、可変成形型の描画装置について説明する。
【0011】
図1は、実施の形態における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画部150と制御部160を備えている。描画部150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、ブランキング偏向器(ブランカ)212、ブランキングアパーチャ214、第1成形アパーチャ203、投影レンズ204、成形偏向器205、第2成形アパーチャ206、対物レンズ207、主偏向器208、副偏向器209、及び副副偏向器216が配置されている。
【0012】
描画室103内には、少なくともXY方向に移動可能なXYステージ105が配置される。XYステージ105上には、レジストが塗布された描画対象となる試料101(基板)が配置される。試料101には、半導体装置を製造するための露光用のマスクやシリコンウェハ等が含まれる。マスクにはマスクブランクスが含まれる。
【0013】
制御部160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路120、DAC(デジタルアナログコンバータ)アンプ130,132,134,136、138(偏向アンプ)、及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路120、及び記憶装置140,142は、図示しないバスを介して互いに接続されている。
【0014】
偏向制御回路120にはDACアンプ130,132,134,136,138が接続されている。DACアンプ130は、ブランキング偏向器212に接続されている。DACアンプ132は、副偏向器209に接続されている。DACアンプ134は、主偏向器208に接続されている。DACアンプ136は、副副偏向器216に接続されている。DACアンプ138は、成形偏向器205に接続されている。
【0015】
制御計算機110は、ショットデータ生成部50、ショット位置補正部52、及び描画制御部54を備える。ショットデータ生成部50、ショット位置補正部52、及び描画制御部54の各機能は、ソフトウェアで構成されてもよいし、ハードウェアで構成されてもよい。制御計算機110による演算結果は、その都度メモリ112に記憶される。
【0016】
図2は、偏向領域を説明するための概念図である。図2において、試料101の描画領域10は、主偏向器208の偏向可能幅で、例えばy方向に向かって短冊状に複数のストライプ領域20に仮想分割される。そして、主偏向器208の偏向可能幅で、ストライプ領域20をx方向に分割した領域が主偏向器208の偏向領域(主偏向領域)となる。
【0017】
この主偏向領域は、副偏向器209の偏向可能サイズで、メッシュ状に複数のサブフィールド(SF)30に仮想分割される。そして、各SF30は、副副偏向器216の偏向可能サイズで、メッシュ状に複数のアンダーサブフィールド(ここでは第3の偏向を意味するTertiary Deflection Fieldの略語を用いて「TF」とする。以下、同じ)40に仮想分割される。
【0018】
各TF40の各ショット位置42にショット図形が描画される。このように、電子ビーム200を偏向する3段の偏向器によって、各偏向領域は、それぞれ偏向される領域サイズの異なる大きい方から順に主偏向領域、SF30、TF40となる。
【0019】
偏向制御回路120からDACアンプ130に対して、ブランキング制御用のデジタル信号が出力される。DACアンプ130では、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、ブランキング偏向器212に印加する。この偏向電圧によって電子ビーム200が偏向させられ、各ショットのブランキング制御が行われる。
【0020】
偏向制御回路120からDACアンプ138に対して、成形偏向用のデジタル信号が出力される。DACアンプ138では、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、偏向器205に印加する。この偏向電圧によって電子ビーム200が第2成形アパーチャ206の特定の位置に偏向され、所望の寸法及び形状の電子ビームが形成される。
【0021】
偏向制御回路120からDACアンプ134に対して、主偏向制御用のデジタル信号が出力される。DACアンプ134は、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、主偏向器208に印加する。この偏向電圧によって、電子ビーム200が偏向させられ、各ショットのビームがメッシュ状に仮想分割された所定のサブフィールド(SF)の基準位置A(例えば、該当するSFの中心位置或いは左下の角位置等)に偏向される。また、XYステージ105が連続移動しながら描画する場合には、かかる偏向電圧には、ステージ移動に追従するトラッキング用の偏向電圧も含まれる。
【0022】
偏向制御回路120からDACアンプ132に対して、副偏向制御用のデジタル信号が出力される。DACアンプ132は、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、副偏向器209に印加する。この偏向電圧によって、電子ビーム200が偏向させられ、各ショットのビームが最小偏向領域となるTF40の基準位置B(例えば、該当するTFの中心位置或いは左下の角位置等)に偏向される。
【0023】
偏向制御回路120からDACアンプ136に対して、副副偏向制御用のデジタル信号が出力される。DACアンプ136は、デジタル信号をアナログ信号に変換し、増幅させた上で偏向電圧として、副副偏向器216に印加する。この偏向電圧によって、電子ビーム200が偏向させられ、各ショットのビームがTF40内の各ショット位置42に偏向される。
【0024】
描画装置100では、複数段の偏向器を用いて、ストライプ領域20毎に描画処理を進めていく。ここでは、一例として、主偏向器208、副偏向器209、及び副副偏向器216といった3段偏向器が用いられる。XYステージ105が例えば-x方向に向かって連続移動しながら、1番目のストライプ領域20についてx方向に向かって描画を進めていく。そして、1番目のストライプ領域20の描画終了後、同様に、或いは逆方向に向かって2番目のストライプ領域20の描画を進めていく。以降、同様に、3番目以降のストライプ領域20の描画を進めていく。
【0025】
主偏向器208が、XYステージ105の移動に追従するように、SF30の基準位置Aに電子ビーム200を順に偏向する。また、副偏向器209が、各SF30の基準位置Aから、TF40の基準位置Bに電子ビーム200を順に偏向する。そして、副副偏向器216が、各TF40の基準位置Bから、当該TF40内に照射されるビームのショット位置42に電子ビーム200を偏向する。
【0026】
このように、主偏向器208、副偏向器209、及び副副偏向器216は、制御できる偏向量が異なり、サイズの異なる偏向領域をもつ。TF40は、複数段の偏向器のうち最小の偏向量で制御され、これらの偏向器による偏向領域のうち、最小偏向領域となる。
【0027】
上述したように、各偏向器にはDACアンプからの出力電圧が供給される。DACアンプからの出力電圧で偏向器を駆動する際、セトリング時間(整定時間)が設定され、設定したセトリング時間の経過後に偏向位置にビームが照射される。セトリング時間を長くする程、偏向量の誤差は小さくなるが、スループットが劣化する。
【0028】
図3に、副偏向器209に偏向電圧を印加してからの経過時間(偏向開始からの経過時間)と、副偏向器209の偏向量の誤差(セトリングエラー)との関係の例を示す。セトリングエラーの小さい範囲では、セトリングエラーが線形変化すると仮定できる。この例では、30ns経過以降のセトリングエラーの変化が線形であるものとしている。
【0029】
セトリングエラーが0になる時間をA、30ns経過時のセトリングエラーをBとした場合、30ns以降における経過時間tでの副偏向器209のセトリングエラーS(t)は、例えば以下の式(1)で表すことができる。
【0030】
【数1】
【0031】
図4(a)は、時刻T1に偏向開始し、あるTF40(1番目のTF40)の基準位置にビームを偏向した場合の、セトリングエラーの経時変化を示す。セトリング時間をSTL、このTF40内での合計ショット時間をShotとした場合、このTF40内でのセトリングエラーは、偏向開始時刻T1を基準としてSTL+Shot/2が経過した際のセトリングエラーE1とみなすことができる。STL+Shot/2は、ショットしている時間の中間(真ん中)の時刻である。1番目のTF40内でのセトリングエラーXは、例えば以下の式(2)を用いて、式(3)で表される。
【0032】
【数2】
【0033】
上記の式のΔXは副偏向器209の偏向量である。A、Bは、副偏向器209の偏向量ΔXに依存するため、パラメータGAIN、OFFSET、GAIN、OFFSETを用いて1次の式で表される。パラメータGAIN、OFFSET、GAIN、OFFSETは、例えば、評価基板に、セトリング時間及びショット時間の条件を変えながら複数の評価パターンを描画し、全ての条件における描画結果と計算値との差分(差分の3σ)の平方和が最小になるように決定することができる。
【0034】
図4(b)は、時刻T2に次のTF40(2番目のTF40)の基準位置にビームを偏向した場合の、セトリングエラーの経時変化を示す。セトリング時間をSTL、このTF40内での合計ショット時間をShotとした場合、このTF40内でのセトリングエラーは、時刻T2を基準としてSTL+Shot/2が経過した際のセトリングエラーE2と、時刻T1を基準としてSTL+Shot+STL+Shot/2が経過した際のセトリングエラーR1との合計となる。
【0035】
時刻T1を基準としてSTL+Shot+STL+Shot/2が経過した際のセトリングエラーR1は、1番目のTF40でのセトリングエラーの残差である。2番目のTF40内でのセトリングエラーXは以下の式(4)で表される。
【0036】
【数3】
【0037】
このように、ビームをショットするTF40でのセトリングエラーだけでなく、過去にビームをショットしたTF40でのセトリングエラーの残差を加算することで、ビーム偏向位置のずれを正確に見積もることができる。
【0038】
例えば、n番目のTF40にビームをショットするにあたり、過去6個分のTF40、すなわちn-1番目~n-6番目のTF40でのセトリングエラーの残差の影響を考慮する場合、セトリングエラーXは以下の式(5)で表される。
【0039】
【数4】
【0040】
このようなセトリングエラーによる位置ずれ量を算出するための計算式(2)のデータが事前に記憶部142に記憶される。なお、位置ずれ量を求めるための関連性情報は計算式に限定されるものではなく、位置ずれ量を求めるための経過時間と位置ずれ量との関係を示す情報であればよい。
【0041】
図5は、本実施形態による描画方法を説明するフローチャートである。ショットデータ生成工程(ステップS101)では、ショットデータ生成部50が、記憶装置140に格納されている描画データに対して、複数段のデータ変換処理を行い、描画対象となる各図形パターンを1回のショットで照射可能なサイズのショット図形に分割し、描画装置固有のフォーマットとなるショットデータを生成する。ショットデータとして、ショット毎に、例えば、各ショット図形の図形種を示す図形コード、図形サイズ、及び描画位置等が定義される。
【0042】
ショット時間・セトリング時間算出工程(ステップS102)では、描画制御部54が各ショットのショットデータからTF40毎のショット時間Shotを算出する。また、描画制御部54は、TF40毎に、副偏向器209による基準位置への偏向量を求め、偏向量に基づいてDACアンプ132のセトリング時間STLを算出する。副偏向器209の偏向量が大きく、DACアンプ132の出力電圧が大きい程、セトリング時間STLが長くなるようにする。例えば、副偏向器209の偏向量と、好適なセトリング時間との関係式を事前に準備しておき、この式を用いてセトリング時間を算出する。
【0043】
位置ずれ量算出工程(ステップS103)では、ショット位置補正部52が、SF30内の複数のTF40の各々について、セトリングエラーによるショットの位置ずれ量を算出する。ショット位置補正部52は、n番目のTF40に対応する副偏向器209の偏向量、セトリング時間及びショット時間と、n-1番目~n-k番目(kは1以上の整数)のTF40の各々に対応する副偏向器209の偏向量及び副偏向器209に電圧を印加し偏向開始してからの経過時間とを、記憶部142から取り出した計算式に代入し、それらを加算して、n番目のTF40におけるショットの位置ずれ量を算出する。
【0044】
例えば、過去6個分のTF40でのセトリングエラーの残差の影響を考慮する場合、n番目のTF40に対応する副偏向器209の偏向量、セトリング時間及びショット時間を計算式に代入した値と、n-1番目~n-6番目のTF40の各々に対応する副偏向器209の偏向量及び副偏向器209に電圧を印加し偏向開始してからの経過時間とを計算式に代入した値とを加算し、n番目のTF40におけるショット位置ずれ量を算出する。
【0045】
位置補正工程(ステップS104)では、ショット位置補正部52が、各ショットの設計上の描画位置座標から、ステップS103で算出した、このショットが属するTF40でのショット位置ずれ量を減算した位置を、補正後の描画位置として求める。
【0046】
描画工程(ステップS105)では、ショット位置補正部52によりショット位置が補正されたショットデータを用いて描画処理が行われる。描画制御部54が、ショット毎に、補正後の描画位置を偏向制御回路120に出力する。偏向制御回路120は、補正後の位置に描画するための偏向データを演算する。
【0047】
偏向制御回路120は、必要な照射量分の照射時間になる偏向データをブランキング偏向器212用のDACアンプ130に出力する。偏向制御回路120は、ビームがXYステージ105の移動に追従するように、偏向データを主偏向器208用のDACアンプ134に出力する。偏向制御回路120は、SF30内の相対位置へとビームを偏向する副偏向器209用のDACアンプ132に偏向データを出力する。偏向制御回路120は、TF40内の相対位置へとビームを偏向する副副偏向器216用のDACアンプ136に偏向データを出力する。また、偏向制御回路120は、ビームが所望の形状となるよう、偏向データを成形偏向器205用のDACアンプ138に出力する。
【0048】
電子銃201(放出部)から放出された電子ビーム200は、ブランキング偏向器212内を通過する際に、ブランキング偏向器212によって、例えば、ビームONの状態ではブランキングアパーチャ214を通過し、ビームOFFの状態ではビーム全体がブランキングアパーチャ214で遮蔽されるように偏向される。ビームOFFの状態からビームONとなり、その後ビームOFFになるまでにブランキングアパーチャ214を通過した電子ビーム200が1回の電子ビームのショットとなる。
【0049】
ブランキング偏向器212とブランキングアパーチャ214を通過することによって生成された各ショットの電子ビーム200は、照明レンズ202により矩形の穴を持つ第1成形アパーチャ203全体を照明する。ここで、電子ビーム200をまず矩形に成形する。
【0050】
第1成形アパーチャ203を通過した第1アパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2成形アパーチャ206上に投影される。成形偏向器205によって、第2成形アパーチャ206上での第1アパーチャ像は偏向制御され、ビーム形状と寸法を変化させる(可変成形を行う)ことができる。このような可変成形はショット毎に行なわれ、ショット毎に異なるビーム形状と寸法に成形することができる。
【0051】
第2成形アパーチャ206を通過した第2アパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207により焦点を合わせ、主偏向器208、副偏向器209及び副副偏向器216によって偏向され、連続的に移動するXYステージ105に配置された試料101の所望の位置に照射される。以上のように、各偏向器によって、電子ビーム200の複数のショットが順に基板となる試料101上へと偏向される。
【0052】
上述したように、本実施形態によれば、ショットを行うTF40でのセトリングエラーだけでなく、ショット済みのTF40のセトリングエラーの残差を考慮してショット位置のずれ量を求め、このずれ量を設計上の描画位置座標から差し引いて描画位置を補正する。これにより、設定可能なセトリング時間を短くし、スループットを向上させると共に、高い描画精度を実現できる。
【0053】
上記実施形態では、1つのSF30内において、n番目のTF40でのセトリングエラーによるショット位置ずれ量を算出するにあたり、n-1番目~n-k番目のTF40のセトリングエラーの残差を考慮する例について説明したが、“k”の値は固定でもよいし、可変でもよい。例えば、同一のSF30内のショット済の全てのTF40のセトリングエラーの残差を考慮してもよい。
【0054】
例えば、1つのSF30内に225個(=15×15)のTF40が含まれる場合、5番目のTF40でのセトリングエラーによるショット位置ずれ量を算出するにあたり、1番目~4番目のTF40のセトリングエラーの残差を考慮する。20番目のTF40でのセトリングエラーによるショット位置ずれ量を算出するにあたり、1番目~19番目のTF40のセトリングエラーの残差を考慮する。225番目のTF40でのセトリングエラーによるショット位置ずれ量を算出するにあたり、1番目~224番目のTF40のセトリングエラーの残差を考慮する。1つのSF30内での描画処理の進行に伴い、ショット位置ずれ量算出のための計算量が徐々に増加するが、ショット位置ずれ量をさらに精度良く求めることができる。
【0055】
上記実施形態と同様の手法で、1つの主偏向領域内において、n番目のSF30でのセトリングエラーによるショット位置ずれ量を算出するにあたり、n-1番目~n-k番目のSF30のセトリングエラーの残差を考慮してもよい。
【0056】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0057】
50 ショットデータ生成部
52 ショット位置補正部
54 描画制御部
100 描画装置
110 制御計算機
150 描画部
160 制御部
208 主偏向器
209 副偏向器
216 副副偏向器
図1
図2
図3
図4
図5