(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用電解質組成物および電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20250115BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20250115BHJP
H01M 6/18 20060101ALI20250115BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250115BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01G11/56
H01M6/18 E
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2021512057
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014273
(87)【国際公開番号】W WO2020203871
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2019068328
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】米丸 裕之
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-504932(JP,A)
【文献】特開2006-073513(JP,A)
【文献】国際公開第2015/016190(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/138132(WO,A1)
【文献】特開2013-152940(JP,A)
【文献】特開2012-094491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 6/00- 6/22
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のイオン性物質と、有機組成物と、高分子成分とを含有する電気化学デバイス用電解質組成物であって、
前記高分子成分を架橋させた化学ゲル状であり、
前記有機組成物が、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を80質量%以上の割合で含み、
前記化合物が、スクシノニトリルと、スクシノニトリル以外の有機化合物とを含
み、
前記有機組成物がスクシノニトリルを45質量%以下の割合で含む、電気化学デバイス用電解質組成物。
【請求項2】
前記有機化合物が、エチレンカーボネート、N-メチルオキサゾリドン、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、フルオロエチレンカーボネート、グリコリド、ラクチド、スルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルスルホニル酢酸メチル、シュウ酸ジメチル、コハク酸ジメチル、コハク酸無水物、イタコン酸無水物、グルタル酸無水物、マレイン酸無水物、ジグリコール酸無水物およびN-メチルコハク酸イミドからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の電気化学デバイス用電解質組成物。
【請求項3】
前記有機組成物は、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を3種類以上含む、請求項1または2に記載の電気化学デバイス用電解質組成物。
【請求項4】
前記有機組成物は、難燃剤を更に含有する、請求項1~3の何れかに記載の電気化学デバイス用電解質組成物。
【請求項5】
温度-10℃におけるイオン伝導度が1.0×10
-4S/cm以上である、請求項1~
4の何れかに記載の電気化学デバイス用電解質組成物。
【請求項6】
温度-20℃におけるイオン伝導度が1.0×10
-4S/cm以上である、請求項1~
5の何れかに記載の電気化学デバイス用電解質組成物。
【請求項7】
請求項1~
6の何れかに記載の電気化学デバイス用電解質組成物を含む、電気化学デバイス用部材。
【請求項8】
請求項1~
6の何れかに記載の電気化学デバイス用電解質組成物を含む、電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学デバイス用電解質組成物および電気化学デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム一次電池等の一次電池;リチウムイオン二次電池、リチウム金属二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、アルミニウム二次電池等の非水系二次電池;レドックスフロー電池;色素増感型太陽電池等の太陽電池;電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタ;エレクトロクロミック表示デバイス;電気化学発光素子;電気二重層トランジスタ;電気化学アクチュエータなどの電気化学デバイスでは、有機溶媒に支持電解質を溶解してなる有機溶媒電解質が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、例えば特許文献2には、粘度が低くて比伝導度が大きいリチウムイオン二次電池用電解液として、鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物、鎖式エーテルニトリル化合物およびシアノ酢酸エステルのうち少なくとも一つのニトリル化合物と、環状カーボネート、環状エステルおよび鎖状カーボネートのうち少なくとも一つとを含む有機溶媒にリチウム塩を溶解させてなる電解質組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-192888号公報
【文献】特開2010-165653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、電気化学デバイスに用いられる電解質組成物には、安全性を高める観点から、イオン伝導性を確保しつつ燃焼性を低下させることが求められている。
【0006】
しかし、上記従来の電解質組成物では、低い燃焼性と、良好なイオン伝導性とを両立させることができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、低い燃焼性と、良好なイオン伝導性とを両立させた電気化学デバイス用電解質組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、安全性に優れ、良好な電気化学特性を発揮し得る電気化学デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、スクシノニトリルおよびスクシノニトリル以外の有機化合物を含む温度5℃の大気圧下において固体である化合物を所定の割合で含有させた電解質組成物が、低い燃焼性と、良好なイオン伝導性とを両立し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、少なくとも1種のイオン性物質と、有機組成物とを含有する電気化学デバイス用電解質組成物であって、前記有機組成物が、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を80質量%以上の割合で含み、前記化合物が、スクシノニトリルと、スクシノニトリル以外の有機化合物とを含むことを特徴とする。このように、スクシノニトリルと、スクシノニトリル以外の有機化合物とを含む、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を80質量%以上の割合で含む有機組成物を使用すれば、低い燃焼性と、良好なイオン伝導性とを両立させることができる。
【0010】
ここで、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、前記有機化合物が、エチレンカーボネート、N-メチルオキサゾリドン、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、フルオロエチレンカーボネート、グリコリド、ラクチド、スルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルスルホニル酢酸メチル、シュウ酸ジメチル、コハク酸ジメチル、コハク酸無水物、イタコン酸無水物、グルタル酸無水物、マレイン酸無水物、ジグリコール酸無水物およびN-メチルコハク酸イミドからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。スクシノニトリル以外の有機化合物が上述した化合物であれば、電気化学デバイス用電解質組成物の燃焼性を更に低下させることができる。
【0011】
また、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、前記有機組成物が、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を3種類以上含むことが好ましい。温度5℃の大気圧下において固体である化合物の種類が多いほど、イオン性物質が溶解し易くなると共に、電気化学デバイス用電解質組成物のイオン伝導性が向上するからである。
【0012】
更に、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、前記有機組成物が、難燃剤を更に含有することが好ましい。有機組成物が難燃剤を含有していれば、電気化学デバイス用電解質組成物を更に燃焼し難くすることができる。
【0013】
また、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、前記有機組成物がスクシノニトリルを45質量%以下の割合で含むことが好ましい。有機組成物中のスクシノニトリルの含有割合が45質量%以下であれば、電気化学デバイス用電解質組成物を更に燃焼し難くすることができる。
【0014】
更に、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、温度-10℃におけるイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上であることが好ましい。電気化学デバイス用電解質組成物のイオン伝導度が上記下限値以上であれば、電気化学デバイスにおいて電気化学反応を良好に進行させることができる。
なお、本発明において、「イオン伝導度」は、交流法にて測定したイオン伝導度を指し、測定温度±1℃に制御した恒温槽中で、サンプルを2枚のステンレス製の平行極板に挟んで10~100mVの範囲の交流を印可して得られたナイキストプロットの円弧直径から算出される体積固有抵抗を逆数にすることにより求めることができる。
【0015】
また、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、温度-20℃におけるイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上であることが好ましい。電気化学デバイス用電解質組成物のイオン伝導度が上記下限値以上であれば、電気化学デバイスにおいて電気化学反応を良好に進行させることができる。
【0016】
更に、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、高分子成分を更に含有することが好ましい。高分子成分を含有していれば、電気化学デバイス用電解質組成物を更に燃焼し難くすることができる。
なお、本発明において、「高分子成分」とは、JIS K7252に準拠して測定した重量平均分子量が10000以上の成分を指す。
【0017】
そして、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、前記高分子成分を架橋させた化学ゲル状または析出させた物理ゲル状であることが好ましい。高分子成分を架橋させた化学ゲル状または高分子成分を析出させた物理ゲル状の電気化学デバイス用電解質組成物は、自立膜等の形成に有利に使用し得る。
【0018】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学デバイス用部材は、上述した電気化学デバイス用電解質組成物の何れかを含むことを特徴とする。このように、電気化学デバイス用部材に上述した電気化学デバイス用電解質組成物を含有させれば、安全性に優れ、良好な電気化学特性を発揮し得る電気化学デバイスの提供が可能になる。
【0019】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学デバイスは、上述した電気化学デバイス用電解質組成物の何れかを含むことを特徴とする。このように、上述した電気化学デバイス用電解質組成物を用いれば、電気化学デバイスの安全性を向上させると共に、電気化学デバイスに良好な電気化学特性を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低い燃焼性と、良好なイオン伝導性とを両立させた電気化学デバイス用電解質組成物を提供できる。
また、本発明によれば、安全性に優れ、良好な電気化学特性を発揮し得る電気化学デバイスを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の電気化学デバイス用電解質組成物および電気化学デバイス用部材は、特に限定されることなく、例えば、リチウム一次電池等の一次電池;リチウムイオン二次電池、リチウム金属二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、マグネシウム二次電池、アルミニウム二次電池等の非水系二次電池;レドックスフロー電池;色素増感型太陽電池等の太陽電池;電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタ;エレクトロクロミック表示デバイス;電気化学発光素子;電気二重層トランジスタ;電気化学アクチュエータなどの電気化学デバイスに用いることができる。中でも、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物および電気化学デバイス用部材は、非水系二次電池、特にはリチウムイオン二次電池に好適に用いることができる。
また、本発明の電気化学デバイスは、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物を用いたものである。
そして、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、燃焼性が低く、且つ、良好なイオン伝導性を発揮し得る。従って、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物および/または電気化学デバイス用部材を使用すれば、安全性に優れ、良好な電気化学特性を発揮し得る電気化学デバイスが得られる。また、本発明の電気化学デバイスは、安全性に優れており、且つ、良好な電気化学特性を発揮し得る。
【0022】
(電気化学デバイス用電解質組成物)
本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、少なくとも1種のイオン性物質と、有機組成物とを含有し、任意に、高分子成分および/または添加剤を更に含有し得る。そして、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、温度20℃の大気圧下において液状であることが好ましい。電気化学デバイス用電解質組成物が温度20℃の大気圧下において液状であれば、優れたイオン伝導性を発揮することができる。なお、本発明において、「液状」には、単一の液相状態以外に、主となる液相中に5体積%以下の割合で別の液相が一つ以上する状態や、液相中に5体積%以下の微量な固相を含む状態も含まれる。
【0023】
<イオン性物質>
ここで、イオン性物質としては、電気化学デバイスにおける電気化学反応に利用されるイオンの種類に応じた任意のイオン性物質を用いることができる。
なお、イオン性物質の配合量は、電気化学デバイスの種類に応じて適宜に設定することができる。具体的には、電解質組成物中のイオン性物質の濃度は、電解質組成物を取り扱い易い粘度範囲とする観点からは、0.01mol/L以上2.5mol/L未満とすることが好ましい。一方、電気化学デバイスの安全性、耐熱性および寿命を向上する観点からは、電解質組成物中のイオン性物質の濃度は、2.5mol/L以上とすることが好ましい。
【0024】
具体的には、電気化学デバイス用電解質組成物が用いられる電気化学デバイスがリチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等の場合には、イオン性物質としては、特に限定されることなく、例えば、LiBF4、LiPF6、リチウムビス(オキサレート)ボレート、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドなどのリチウム塩を用いることができる。また、電気化学デバイス用電解質組成物が用いられる電気化学デバイスがマグネシウム二次電池等の場合には、イオン性物質としては、特に限定されることなく、例えば、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等のマグネシウム塩を用いることができる。
これらのイオン性物質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
<有機組成物>
有機組成物は、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を80質量%以上の割合で含むことを必要とし、任意に、温度5℃の大気圧下において液体である化合物、難燃剤および大気圧下における沸点が130℃未満の低沸点有機化合物からなる群より選択される少なくとも1種を更に含有し得る。
温度5℃の大気圧下において固体である化合物の含有割合が上記範囲内でなければ、電気化学デバイス用電解質組成物の燃焼性を十分に低下させることができない。ここで、温度5℃の大気圧下において固体である化合物の含有割合を上記範囲内とすることで電気化学デバイス用電解質組成物の燃焼性を十分に低下させることができる理由は、明らかではないが、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を主成分とする有機組成物を用いることで、電解質組成物が高粘度になると共に、火災などで高温にさらされた際に成分の一部が揮散して電解質組成物が液状を保てる範囲を逸脱する(固体が析出する)ためであると推察される。なお、電解質組成物が液状を保てる範囲を逸脱し易ければ、着火等により電気化学デバイスの外装が破壊された際に電解質組成物が外部に漏えいするのを十分に抑制することができる。
【0026】
[温度5℃の大気圧下において固体である化合物]
本発明の電気化学デバイス用電解質組成物は、温度5℃の大気圧下において固体である化合物として、スクシノニトリルと、スクシノニトリル以外の有機化合物とを含むことを必要とする。スクシノニトリルと、スクシノニトリル以外の有機化合物との双方を含有しなければ、低い燃焼性と、良好なイオン伝導性とを両立させることができない。
【0027】
ここで、有機組成物中におけるスクシノニトリルの含有割合は、45質量%以下であることが好ましい。有機組成物中のスクシノニトリルの含有割合が45質量%以下であれば、電気化学デバイス用電解質組成物を更に燃焼し難くすることができる。なお、電気化学デバイス用電解質組成物のイオン伝導性を高める観点からは、有機組成物中のスクシノニトリルの含有割合は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。
【0028】
また、有機組成物は、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を3種類以上含むことが好ましい。即ち、有機組成物は、温度5℃の大気圧下において固体である、スクシノニトリル以外の有機化合物を2種類以上含むことが好ましい。温度5℃の大気圧下において固体である化合物の種類が多いほど、イオン性物質が溶解し易くなると共に、電気化学デバイス用電解質組成物のイオン伝導性が向上するからである。
【0029】
〔スクシノニトリル以外の有機化合物〕
ここで、温度5℃の大気圧下において固体である、スクシノニトリル以外の有機化合物としては、特に限定されることなく、大気圧下における沸点が130℃以上の高沸点有機化合物が挙げられる。そして、温度5℃の大気圧下において固体である、スクシノニトリル以外の有機化合物は、通常、難燃性を有さない化合物であり、難燃剤とは異なるものである。また、温度5℃の大気圧下において固体である、スクシノニトリル以外の有機化合物は、分子量が10000未満であることが好ましい。
【0030】
そして、温度5℃の大気圧下において固体である、スクシノニトリル以外の有機化合物としては、例えば、グルタル酸無水物、コハク酸無水物、コハク酸ジメチル、N-メチルコハク酸イミド、ジグリコール酸無水物、スルホラン、エチルメチルスルホン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、硫酸エチレン(1,3,2-ジオキサチオラン-2,2-ジオキシド)、イタコン酸無水物、マレイン酸無水物、メチルスルホニル酢酸メチル、エチレンカーボネート、N-メチルオキサゾリドン、フルオロエチレンカーボネート、メチルカーバメート、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、シュウ酸ジメチル、ビニレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
これらの有機化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、上記スクシノニトリル以外の有機化合物は、2種類以上を併用することが好ましい。
【0031】
なお、電気化学デバイス用電解質組成物のイオン伝導性を更に高める観点からは、上記スクシノニトリル以外の有機化合物は、酸素原子および/または窒素原子を有する極性化合物であることが好ましく、エチレンカーボネート、N-メチルオキサゾリドン、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、フルオロエチレンカーボネート、グリコリド、ラクチド、スルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルスルホニル酢酸メチル、シュウ酸ジメチル、コハク酸ジメチル、コハク酸無水物、イタコン酸無水物、グルタル酸無水物、マレイン酸無水物、ジグリコール酸無水物およびN-メチルコハク酸イミドからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、上記群より選択される2種以上であることが更に好ましい。
【0032】
また、上記スクシノニトリル以外の有機化合物が分子内にヘテロ原子を有する場合、燃焼性を低下させる観点から、分子内のヘテロ原子の数に対する炭素数は、2倍以下であることが好ましい。また、同様の理由により、上記スクシノニトリル以外の有機化合物の炭素数は、5以下であることが好ましい。
【0033】
更に、燃焼性を低下させる観点からは、上記スクシノニトリル以外の有機化合物は、分子内に炭素-炭素2重結合や炭素-炭素3重結合を有しない方が好ましい。不飽和結合のある化合物の方が単結合のみの化合物よりも燃焼性が大きくなるからである。
【0034】
そして、温度5℃の大気圧下において固体である化合物の有機組成物中における含有割合は、80質量%以上100質量%以下であり、85質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
なお、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を用いて液状となる組成を知りたい場合は、組成物の配合に使用する化合物全てを等量ずつ混合し、それらの化合物のうちの最も融点の高い化合物の融点以上にまで全体を加熱して融解させ、その後液体として使用したい温度まで冷却して、全体が液状のままならばそのまま使用でき、一部が固体となった場合は上澄みの組成をガスクロマトグラフや液体クロマトグラフにて定量すれば、液状を呈する組成を知ることができる。
【0035】
[温度5℃の大気圧下において液体である化合物]
また、温度5℃の大気圧下において液体である化合物としては、特に限定されることなく、大気圧下における沸点が130℃以上の高沸点有機化合物が挙げられる。また、温度5℃の大気圧下において液体である化合物は、通常、難燃性を有さない化合物であり、難燃剤とは異なるものである。更に、温度5℃の大気圧下において液体である化合物は、分子量が10000未満であることが好ましい。
そして、温度5℃の大気圧下において液体である化合物としては、例えば、リン酸トリスエチルヘキシル、アジポニトリル、1,3-プロパンスルトン、リン酸トリブチル、テトラグライム、リン酸トリスブトキシエチル、ビニルエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、トリグライム、リン酸トリエチル、シトラコン酸無水物、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、リン酸トリメチルなどが挙げられる。
これらの化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
中でも、ハンドリング性および電解質組成物の調製の容易性の観点から、温度5℃の大気圧下において液体である化合物としては、プロピレンカーボネートを用いることが好ましい。
【0036】
なお、温度5℃の大気圧下において液体である化合物の有機組成物中における含有割合は、通常、0質量%以上20質量%以下であり、0質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0037】
[難燃剤]
難燃剤としては、炭素数が24以下のリン酸エステル類、炭素数が24以下の亜リン酸エステル類、ホスファゼン類などを用いることができる。そして、有機組成物に難燃剤を含有させれば、電解質組成物を更に燃焼し難くすることができる。
【0038】
ここで、炭素数が24以下のリン酸エステル類としては、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジルおよびリン酸トリキシレニル等のアルキルリン酸エステル;並びに、リン酸トリス(トリフルオロエチル)、リン酸ビス(トリフルオロエチル)メチルおよびリン酸トリス(ヘキサフルオロイソプロピル)等のフッ素化リン酸エステル;などが挙げられる。
また、炭素数が24以下の亜リン酸エステル類としては、例えば、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリイソプロピルおよび亜リン酸トリブチル等のアルキル亜リン酸エステルなどが挙げられる。
更に、ホスファゼン類としては、例えば、モノエトキシシペンタフルオロシクロトリホスファゼン、ジエトキシシテトラフルオロシクロトリホスファゼン、モノフェノキシペンタフルオロシクロトリホスファゼンなどが挙げられる。
なお、上述した化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
そして、難燃性を有する化合物は、火災等の際には電解液から分離せずに共に移動した方がよいことから、温度5℃の大気圧下において液体であることが好ましい。また、難燃性を有する化合物は、大気圧下における沸点が130℃以上であることが好ましい。
【0040】
なお、有機組成物中における難燃剤の含有割合は、通常、0質量%以上20質量%以下であり、電気化学デバイス用電解質組成物のイオン伝導性の低下を抑制する観点から、0質量%以上10質量%以下であることが好ましく、難燃剤としてリン化合物を用いた場合に人体の健康への影響を少なくする観点からは、0質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
[低沸点有機化合物]
低沸点有機化合物としては、大気圧下における沸点が130℃未満であれば特に限定されることなく、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルなどが挙げられる。これらの化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、低沸点有機化合物は、分子量が10000未満であることが好ましい。
【0042】
そして、着火等により電気化学デバイスの外装が破壊された際に電気化学デバイス用電解質組成物が外部に漏えいするのを抑制する観点から、有機組成物中における低沸点有機化合物の含有割合は、0質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0043】
そして、上述した化合物を含む有機組成物としては、特に限定されることなく、例えば、スクシノニトリルとエチレンカーボネートとの混合物、スクシノニトリルとジメチルスルホンとの混合物、スクシノニトリルとイタコン酸無水物との混合物、スクシノニトリルとグリコリドとの混合物、スクシノニトリルとエチレンカーボネートとジメチルスルホンとの混合物、スクシノニトリルとエチレンカーボネートとフルオロエチレンカーボネートとの混合物、スクシノニトリルとエチレンカーボネートと難燃剤(例えば、リン酸トリメチル)との混合物、スクシノニトリルとエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとの混合物などが挙げられる。
【0044】
なお、有機組成物に含まれる化合物は、沸点が互いに異なることが好ましい。有機組成物が沸点の異なる多くの種類の化合物からなる方が、有機組成物を構成する化合物が火災時等に同じタイミングで揮散しないので、火災が激しくなり難い。
【0045】
<高分子成分>
任意成分である高分子成分としては、特に限定されることなく、例えば、置換基を有していてもよいエチレンオキシド連鎖を有する重合体、および、エピクロロヒドリン系重合体が挙げられる。そして、置換基を有していてもよいエチレンオキシド連鎖を有する重合体としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド共重合体、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体、エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体、オキシエチレン連鎖を有するポリアクリレート系重合体などのエチレンオキサイド系重合体が挙げられる。これらの重合体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。そして、高分子成分を含有させれば、電解質組成物を流動し難くし、電解質組成物を更に燃焼し難くすることができる。
【0046】
ここで、高分子成分は、電気化学デバイスの組み立て後に内部で熱重合などの重合方法を用いて重合したものであってもよい。そして、高分子成分は、温度20℃に於いて電解質組成物に均一に溶解している方が好ましい。
また、高分子成分の重量平均分子量は、10000以上であれば特に限定はされないが、10万以上3000万以下であることが好ましい。
更に、高分子成分は、架橋させて電解質組成物全体を化学ゲルにすることにより、および/または析出させて物理ゲルにすることにより、自立膜等の形成に有利に使用し得る。ここで、架橋は、例えば紫外線照射などの任意の方法を用いて行うことができる。
一方、高分子成分は、電解質組成物中で良好に溶解させる観点からは架橋構造を有さないことが好ましい。また、電解質組成物中で良好に溶解させる観点から、高分子成分は、ゲル分が少ないことが好ましい。ゲル分は高分子成分のうちの20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。高分子成分のゲル分は、プロピレンカーボネートに対して高分子成分を5質量%の比率で添加して、100℃で12時間掛けて攪拌溶解させて、不溶分を100℃においてメンブレンフィルタで濾別し、真空乾燥してプロピレンカーボネートを除去し、残渣重量を測ることにより知ることができる。
【0047】
そして、電解質組成物中における高分子成分の含有量は、電解質組成物のイオン伝導度の低下を抑制する点から、有機組成物100質量部当たり、0質量部以上100質量部以下であることが好ましく、0質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。
【0048】
<添加剤>
任意成分である添加剤としては、特に限定されることなく、例えば濡れ剤などの電気化学デバイスの分野において使用し得る任意の添加剤を用いることができる。
【0049】
[濡れ剤]
ここで、濡れ剤としては、親水部と疎水部を分子内に有するものであれば特に限定されることなく、例えば、炭素数8以上の長鎖アルキルカルボン酸塩、炭素数8以上の長鎖アルキルスルホン酸塩、炭素数8以上の長鎖パーフルオロアルキルカルボン酸塩、炭素数8以上の長鎖パーフルオロアルキルスルホン酸塩、炭素数8以上の長鎖アルキルリン酸エステル、炭素数8以上の長鎖パーフルオロアルキルリン酸エステル、フッ素置換エーテル、炭素数8以上の末端アルキル基を有するエチレンオキシド重合体、エチレンオキサイド(EO)-プロピレンオキサイド(PO)ブロック共重合体などが挙げられる。なお、上記の化合物が有するアルキル基は、一部に不飽和結合を有していてもよいし、分岐鎖を有していてもよい。そして、これらの濡れ剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
なお、濡れ剤の配合量は、特に限定されることなく、例えば、有機組成物100質量部当たり、5質量部以下とすることが好ましく、3質量部以下とすることがより好ましい。
【0051】
<電気化学デバイス用電解質組成物の性状>
電解質組成物は、優れたイオン伝導性を発揮させる観点から、温度20℃の大気圧下において液状であることが好ましい。
【0052】
そして、電解質組成物は、温度-20℃におけるイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上であることが好ましい。また、電解質組成物は、温度-10℃におけるイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上であることが好ましい。更に、電解質組成物は、温度25℃におけるイオン伝導度が1.0×10-3S/cm以上であることが好ましい。電解質組成物のイオン伝導度が上記下限値以上であれば、電解質組成物を用いた電気化学デバイスにおいて電気化学反応を良好に進行させることができる。
【0053】
<電解質組成物の調製>
電解質組成物は、特に限定されることなく、上述した化合物を任意の方法で混合して調製することができる。
ここで、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を用いて液状の電解質組成物を調製する過程は、吸熱過程となることが多いので、電解質組成物の調製は、混合する化合物を加温しながら実施することが好ましい。特に、液状の電解質組成物の調製は、有機組成物に含まれる化合物の融点以上の温度で行うと、スムーズである。なお、加熱する温度は、電解質組成物に含有させる化合物やイオン性物質の分解温度以下とすることが好ましい。
また、電解質組成物を調製は、水分や酸素の不存在下で行うことが好ましい。
【0054】
(電気化学デバイス用部材)
本発明の電気化学デバイス用部材は、上述した本発明の電気化学デバイス用電解質組成物を含むものである。そして、本発明の電気化学デバイス用部材は、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物を含んでいるので、燃焼性が低く、且つ、イオン伝導性に優れている。従って、本発明の電気化学デバイス用部材を用いれば、安全性に優れ、良好な電気化学特性を発揮し得る電気化学デバイスの提供が可能になる。
【0055】
ここで、電気化学デバイス用部材としては、特に限定されることなく、例えば、電極(正極、負極)およびセパレータを挙げることができる。
【0056】
<電極>
そして、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物を含む電極としては、特に限定されることなく、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物を含む電極合材層を有する電極が挙げられる。
ここで、電極合材層を有する電極は、集電体上に電極合材層を形成することにより作製し得る。そして、電極合材層としては、特に限定されることなく、例えば、電極活物質(正極活物質、負極活物質)と、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物とを含み、任意に、導電材、バインダーおよび添加剤からなる群より選択される少なくとも1種を更に含有するものが挙げられる。なお、集電体、電極活物質、導電材、バインダーおよび添加剤としては、電気化学デバイスの分野において用いられているものを使用することができる。
【0057】
<セパレータ>
また、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物を含むセパレータとしては、特に限定されることなく、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物を含浸させてなる多孔性薄膜材料が挙げられる。
ここで、多孔性薄膜材料としては、特に限定されることなく、例えば、ポリオレフィン多孔膜、ポリオレフィン不織布、フッ素樹脂多孔膜、紙、セルロース不織布、アラミド不織布およびガラス繊維フィルターなどの電気化学デバイスの分野において用いられているものを使用することができる。そして、多孔性薄膜材料への電解質組成物の含浸は、特に限定されることなく、電解質組成物中への多孔性薄膜材料の浸漬、多孔性薄膜材料への電解質組成物の注液などの任意の方法を用いて行うことができる。
【0058】
(電気化学デバイス)
本発明の電気化学デバイスは、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物を含んでいる。具体的には、本発明の電気化学デバイスは、通常、正極および負極と、正極と負極とを隔離するセパレータと、電解液とを備えている。そして、本発明の電気化学デバイスは、通常、電解液として本発明の電気化学デバイス用電解質組成物を用いる。このように、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物を用いれば、燃焼し難くて安全性に優れていると共に、良好な電気化学特性を発揮し得る電気化学デバイスが得られる。また、本発明の電気化学デバイス用電解質組成物を用いた電気化学デバイスは、着火等により外装が破壊された場合であっても、電解質組成物が外部に漏えいするのを十分に抑制することができる。
【0059】
ここで、正極、負極およびセパレータとしては、特に限定されることなく、電気化学デバイスの分野において使用し得る任意の正極、負極およびセパレータを用いることができる。
【実施例】
【0060】
まず、下記の参考例1~3を実施し、温度5℃の大気圧下において固体である化合物を用いて温度20℃の大気圧下において液状である組成物の調製を試みた。
【0061】
(参考例1)
エチレンカーボネートとスクシノニトリルとを室温で等質量量り取り、混合したところ、周囲から吸熱しながら融解し均一な液組成物になった。
【0062】
(参考例2)
エチレンカーボネートとジメチルスルホンとを室温で等質量量り取り、混合したが固体のままであった。そこで、ホットプレートで60℃に加熱したところ、融解して均一な液組成物になった。
しかし、得られた液組成物を20℃の雰囲気に放置しておいたところ、全体が固まってしまった。
【0063】
(参考例3)
エチレンカーボネート80gと、ジメチルスルホン20gとを室温で混合したが、固体のままであった。そこで、ホットプレートで60℃に加熱したところ、融解して均一な液組成物になった。
しかし、得られた液組成物を20℃の雰囲気に放置しておいたところ、全体が固まってしまった。
そこで、固化した組成物に対し、LiBF4を7.5g添加して、再度加熱溶解させたところ均一な液組成物になった。この液組成物は、20℃に放置しておいても固体が析出することは無かった。
【0064】
次に、以下の参考例4,5を実施し、様々な化合物について単体での燃焼性を調査した。
【0065】
(参考例4)
直径2cmのステンレス製の皿に評価対象の化合物100mgを入れ、バーナーの炎を1秒間当てて着火の有無を調べた。結果を以下に示す。
この結果より、沸点が130℃を下回る化合物や、表面積の大きい評価対象は着火し易いことが分かる。
<着火した化合物>
ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル共重合体(粉末状)
<着火しなかった化合物>
スクシノニトリル、エチレンカーボネート、N-メチルオキサゾリドン、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、フルオロエチレンカーボネート、グリコリド、ラクチド、スルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、4,4-ジオキソ-1,4-オキサチアン、メチルスルホニル酢酸メチル、シュウ酸ジメチル、コハク酸ジメチル、コハク酸無水物、イタコン酸無水物、グルタル酸無水物、マレイン酸無水物、ジグリコール酸無水物、N-メチルコハク酸イミド、アジポニトリル、テトラグライム、プロピレンカーボネート、N-メチルピロリドンリン酸トリメチル等の難燃剤、ヒドリンゴム(塊状)、アクリルゴム(塊状)
【0066】
(参考例5)
参考例4で着火しなかった化合物のうち、スクシノニトリル、エチレンカーボネート、N-メチルオキサゾリドン、N,N-ジメチルイミダゾリジノン、フルオロエチレンカーボネート、グリコリド、ラクチド、スルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、4,4-ジオキソ-1,4-オキサチアン、メチルスルホニル酢酸メチル、シュウ酸ジメチル、コハク酸ジメチル、コハク酸無水物、イタコン酸無水物、グルタル酸無水物、マレイン酸無水物、ジグリコール酸無水物、N-メチルコハク酸イミド、アジポニトリル、テトラグライム、プロピレンカーボネートおよびN-メチルピロリドンについて、着火するまで炎を当て続ける試験を実施した。
その結果、いずれの化合物も着火した。燃焼時の炎の高さ、並びに、燃焼時の容器外への漏液および容器外での燃焼の有無を表1に示す。
【0067】
【0068】
最後に、以下の参考例6を実施し、様々な化合物について単体での揮発性を調査した。
【0069】
(参考例6)
エチレンカーボネートやジメチルスルホン等の温度5℃の大気圧下において固体である化合物と、プロピレンカーボネート等の温度5℃の大気圧下において液体である化合物とについて、それぞれ、プラスチック製の直径5cmの皿に10g計り取り、125℃のホットプレートに乗せた。そして、上方2cmの位置にガラス板を水平に設置した。
その結果、エチレンカーボネートやジメチルスルホン等の温度5℃の大気圧下において固体である化合物は、蒸気がガラス上に付着したものの、その場に留まっていた。一方、プロピレンカーボネート等の温度5℃の大気圧下において液体である化合物は、蒸気がガラス上に付着した後、付着量が増えると周囲に移動する挙動を示した。
これより、温度5℃の大気圧下において固体である化合物は、火災時等でも流動し難く、燃焼の拡大を招き難いことが分かった。
【0070】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、実施例および比較例において、各種評価は以下の方法で行った。
【0071】
<電解質組成物の燃焼性評価>
調製した電解質組成物100mgを直径2cmのステンレス製の皿に入れ、バーナーの炎を当てた。そして、着火までの時間、燃焼中の流動性の有無、炎の大きさ、燃焼に対する抵抗性(自己消化性)を評価した。
<電解質組成物のイオン伝導度>
インピーダンスアナライザ(ソーラトロン社製)を用いて温度-20℃および-10℃において測定した。
【0072】
(実施例1)
イオン性化合物としてのLiBF4を7.5gと、有機組成物としてのスクシノニトリル60gおよびエチレンカーボネート40gとを秤り取り、混合して均一な溶液の電解質組成物とした。
そして、燃焼性評価およびイオン伝導度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0073】
(実施例2~6)
スクシノニトリルおよびエチレンカーボネートの量を表2に示す量に変更した以外は実施例1と同様にして、電解質組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0074】
(実施例7~11)
イオン性化合物として7.5gのLiBF4に替えて30gのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を使用し、有機組成物として表2に示す化合物を表2に示す量で用いた以外は実施例1と同様にして、電解質組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0075】
(実施例12)
イオン性化合物としてのLiBF4を10gと、有機組成物としてのスクシノニトリル50gおよびエチレンカーボネート50gと、高分子成分としてのエチレンオキサイド(EO)-プロピレンオキサイド(PO)-アリルグリシジルエーテル(AGE)共重合体10gとを秤り取り、混合して均一な溶液の電解質組成物とした。
そして、燃焼性評価およびイオン伝導度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0076】
(実施例13)
イオン性化合物として7.5gのLiBF4に替えて40gのマグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Mg(TFSI)2)を使用し、有機組成物として表2に示す化合物を表2に示す量で用いた以外は実施例1と同様にして、電解質組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0077】
(実施例14)
イオン性化合物としてのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を30gと、有機組成物としてのスクシノニトリル40g、エチレンカーボネート40gおよびリン酸トリメチル(難燃剤)20gとを秤り取り、混合して均一な溶液の電解質組成物とした。
そして、燃焼性評価およびイオン伝導度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0078】
(実施例15~16)
スクシノニトリル、エチレンカーボネートおよびリン酸トリメチルの量を表2に示す量に変更した以外は実施例14と同様にして、電解質組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0079】
(実施例17)
イオン性化合物としてのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を30gと、有機組成物としてのスクシノニトリル40g、エチレンカーボネート40gおよびプロピレンカーボネート(温度5℃の大気圧下において液体である化合物)20gとを秤り取り、混合して均一な溶液の電解質組成物とした。
そして、燃焼性評価およびイオン伝導度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0080】
(比較例1)
イオン性化合物としてのLiBF4を10gと、有機組成物としてのスクシノニトリル100gとを秤り取り、混合して固体状の電解質組成物とした。
そして、燃焼性評価およびイオン伝導度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0081】
(比較例2)
イオン性化合物として10gのLiBF4に替えて30gのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)を使用した以外は比較例1と同様にして、固体状の電解質組成物を調製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0082】
(比較例3)
イオン性化合物としてのLiBF4を10gと、有機組成物としてのスクシノニトリル40gおよびジエチルカーボネート(低沸点有機化合物)60gとを秤り取り、混合して均一な溶液の電解質組成物とした。
そして、燃焼性評価およびイオン伝導度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0083】
(比較例4)
イオン性化合物としてのLiBF4を10gと、有機組成物としてのスクシノニトリル75gおよびプロピレンカーボネート(温度5℃の大気圧下において液体である化合物)25gとを秤り取り、混合して均一な溶液の電解質組成物とした。
そして、燃焼性評価およびイオン伝導度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0084】
(比較例5)
イオン性化合物としてのLiBF4を7.5gと、有機組成物としてのエチレンカーボネート80gおよびジメチルスルホン20gとを秤り取り、混合して均一な溶液の電解質組成物とした。
そして、燃焼性評価およびイオン伝導度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0085】
【0086】
表2より、実施例1~17の電解質組成物は、低い燃焼性と、良好なイオン伝導性とを両立させ得ることが分かる。また、表2より、温度5℃の大気圧下において固体である化合物としてスクシノニトリル以外の有機化合物を含まない比較例1,2の電解質組成物は、イオン伝導性が低く、温度5℃の大気圧下において固体である化合物の含有割合が80質量%未満の比較例3,4の電解質組成物は、着火までの時間が短くて燃焼性が高く、温度5℃の大気圧下において固体である化合物としてスクシノニトリルを含まない比較例5の電解質組成物は、イオン伝導性が低いことが分かる。
【0087】
(実施例18)
ガラス繊維フィルタ(GEヘルスケアライフサイエンス社製、Whatman(登録商標) GF/A)からなるセパレータを介在させて、正極合材層(正極活物質:リン酸鉄リチウム)を有する正極と、リチウム金属製の負極とを貼り合わせ、実施例10で調製した電解質組成物を電解液として充填してリチウムイオン二次電池を製造した。作製後、直ぐに電圧3.8~3.0Vの条件で繰り返し充放電を行ったところ、充放電が可能であることが確認された。
【0088】
(実施例19)
まず、実施例12で調製した電解質組成物10gと、負極活物質としてのグラファイト(日本カーボン社製、604A)40gとを開放型の乳鉢で混練して、均一な粘土状の成形材料を得た。そして、成形材料を銅箔上にシート状に延ばして、厚み50μmの負極を得た。
次に、実施例12で調製した電解質組成物10gと、正極活物質としてのコバルト酸リチウム(日本化学工業社製、セルシードC)25gと、導電材としてのアセチレンブラック5gとを開放型の乳鉢で混練して、均一な粘土状の成形材料を得た。そして、成形材料をアルミ箔上にシート状に延ばして、厚み50μmの正極を得た。
また、実施例12で調製した電解質組成物100部に対し紫外線架橋剤としてIrg651を0.5部添加し、紫外線を照射して厚み50μmの電解質フィルムを製造した。
上記の正極および負極を、電解質フィルムを介して貼り合わせてリチウムイオン電池を製造した。作製後、直ぐに電圧4.2~3.0Vの条件で繰り返し充放電を行ったところ、充放電が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、低い燃焼性と、良好なイオン伝導性とを両立させた電気化学デバイス用電解質組成物を提供できる。
また、本発明によれば、安全性に優れ、良好な電気化学特性を発揮し得る電気化学デバイスを提供できる。