(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】車両用合わせガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 27/12 20060101AFI20250115BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20250115BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20250115BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
B60J1/00 J
B32B7/025
B32B17/10
(21)【出願番号】P 2021565612
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2020046895
(87)【国際公開番号】W WO2021125209
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2019230102
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】定金 駿介
(72)【発明者】
【氏名】奥田 崚太
(72)【発明者】
【氏名】府川 真
(72)【発明者】
【氏名】萩原 南
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188415(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/168469(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123919(WO,A1)
【文献】特開2016-168996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 17/10
B60J 1/00
C03C 27/00-29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス板と第2のガラス板とが中間膜によって接合された車両用合わせガラスであって、
前記第1のガラス板は、第1主表面と、第2主表面とを有し、
前記第2のガラス板は、第3主表面と、第4主表面とを有し、
前記第2主表面および前記第3主表面は、前記中間膜側の表面であり、
前記第1のガラス板の平面視において、前記第2のガラス板を備える第1の領域と、前記第2のガラス板を備えない第2の領域とを有し、
前記第2の領域の前記第2主表面側から、前記第1の領域のうち前記第1のガラス板と前記第2のガラス板との間に、前記第1の領域と前記第2の領域との境界の全てと交差するように連続的に配置される充填部を有し、
前記充填部は電波透過部材を含み、
前記第2の領域は、前記第1の領域よりも、ミリ波の電波における透過率が高いことを特徴とする車両用合わせガラス。
【請求項2】
前記充填部は、前記第1の領域での厚さが、0.05mm以上である請求項1に記載の車両用合わせガラス。
【請求項3】
前記第1のガラス板の平面視において、前記第1の領域と前記第2の領域の境界と、前記第1の領域における前記充填部の周縁との距離は、0.1mm以上である請求項1または2に記載の車両用合わせガラス。
【請求項4】
前記第1のガラス板の平面視において、前記第1の領域と前記第2の領域の境界と、前記第1の領域における前記充填部の周縁との距離は、1mm以上である請求項3に記載の車両用合わせガラス。
【請求項5】
前記充填部は接着剤層を有し、
前記接着剤層は、前記電波透過部材の前記第2主表面に対向する面の少なくとも一部に隣接する請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項6】
前記接着剤層は、前記第2主表面の少なくとも一部に隣接する請求項5に記載の車両用合わせガラス。
【請求項7】
前記充填部は、強化補助膜を有し、
前記強化補助膜は、前記第1のガラス板の平面視において、前記第2の領域の全域と重なり、かつ前記第1の領域と前記第2の領域との境界の全てと交差するように連続的に配置され、
前記第2の領域において、前記第1のガラス板と、前記強化補助膜と、前記接着剤層と、前記電波透過部材とが、この順に積層される請求項5に記載の車両用合わせガラス。
【請求項8】
前記接着剤層は、光硬化性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物、光および熱硬化性樹脂組成物の少なくとも1つを含む請求項5から
7のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項9】
前記接着剤層は、25℃、周波数1Hzでの貯蔵せん断弾性率が、5×10
2~1×10
7Paの範囲にある請求項5から
8のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項10】
前記電波透過部材は、無アルカリガラス又は樹脂を含む請求項1から
9のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項11】
第1のガラス板と第2のガラス板とが中間膜によって接合された車両用合わせガラスであって、
前記第1のガラス板は、第1主表面と、第2主表面とを有し、
前記第2のガラス板は、第3主表面と、第4主表面とを有し、
前記第2主表面および前記第3主表面は、前記中間膜側の表面であり、
前記第1のガラス板の平面視において、前記第2のガラス板を備える第1の領域と、前記第2のガラス板を備えない第2の領域とを有し、
前記第2の領域の前記第2主表面側のみに、充填部を有し、
前記充填部は、電波透過部材を含み、
前記電波透過部材は、前記第2主表面と、前記中間膜の内側端面と、前記第2のガラス板の内側端面とに隣接するとともに、少なくとも1層のウレタン樹脂層を備え、
前記第2の領域は、ミリ波の電波における透過率が前記第1の領域よりも高いことを特徴とする車両用合わせガラス。
【請求項12】
前記電波透過部材は、前記ウレタン樹脂層の前記第2主表面側とは反対側の面に、前記ウレタン樹脂層とは異なる樹脂層をさらに有する請求項
11に記載の車両用合わせガラス。
【請求項13】
前記第2のガラス板の内側端面の厚さに対する、前記第2のガラス板の内側端面に隣接する前記ウレタン樹脂層の厚さの比は、0.3以上である請求項
11または12に記載の車両用合わせガラス。
【請求項14】
前記ウレタン樹脂層の引張強度は、30MPa以上である請求項
11から13のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項15】
前記充填部は、前記第1の領域と前記第2の領域との境界部分における厚さ(t)の少なくとも一部が、前記第2の領域における幾何学的中心における厚さ(t
c)より厚い、請求項
11から14のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【請求項16】
前記第2の領域において、第1主表面に対して67.5°の入射角で入射する周波数F(GHz)の電波の透過率T(F)が、60GHz≦F≦100GHzの範囲で下記式(1)を満足する請求項1から
15のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
T(F)>-0.0061×F+0.9384 ・・・(1)
【請求項17】
前記第1のガラス板の平面視において、前記第2の領域の面積は400mm
2以上90000mm
2以下である請求項1から
16のいずれか一項に記載の車両用合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ波、ミリ波を用いた波長帯の通信に加え、第4世代移動通信システム(以下「4G」という)LTEから第5世代移動通信システム(以下「5G」という)など、高速・大容量の通信インフラの拡大の動きが出ており、3GHz帯域から5~100GHz帯域までその使用帯域が広がる傾向にある。
【0003】
このような高周波数帯域の通信を行うため、例えば、車内に備えられたミリ波レーダーにより車外のシステムとの間で送受を行う場合、これまでの比較的低周波数帯の通信において顕著ではなかった、窓ガラスによる利得の減衰が見られる。そのため、例えば、車内と車外との間をミリ波レーダーにより窓ガラスを介して送受するシステムで高い利得を得るために、窓ガラスの一部に電波透過材を嵌め込む構成が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
とくに、特許文献1の窓部材は、ミリ波レーダーの透過性を高めるための様々な構成が開示されている。例えば、特許文献1の窓部材は、2枚のガラスとそれらに挟持された中間膜を有する合わせガラスのうち、1枚のガラスと中間膜を取り除いた部分に電波透過材を備える形態も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の窓部材は、電波透過材を備える場合ガラスの平面視において、通常の合わせガラスと電波透過材を備える部分との境界での強度が低下する懸念があり、この強度低下を抑制する具体的な構成の開示に至っていない。
【0007】
上記に鑑みて、本発明は、平面視において異材料によってできる境界における強度低下を抑制するとともに、所定のミリ波レーダー等の電波透過性に優れる、より具体的な構成を有する車両用合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の車両用合わせガラスは、第1のガラス板と第2のガラス板とが中間膜によって接合された車両用合わせガラスであって、第1のガラス板は、第1主表面と、第2主表面とを有し、第2のガラス板は、第3主表面と、第4主表面とを有し、第2主表面および第3主表面は、中間膜側の表面であり、第1のガラス板の平面視において、第2のガラス板を備える第1の領域と、第2のガラス板を備えない第2の領域とを有し、第2の領域の第2主表面側から、第1の領域のうち第1のガラス板と第2のガラス板との間に、第1の領域と第2の領域との境界の全てと交差するように連続的に配置される充填部を有し、充填部は電波透過部材を含み、第2の領域は、第1の領域よりも、ミリ波の電波における透過率が高いことを特徴とする。
【0009】
あるいは、上記課題を解決する本発明の車両用合わせガラスは、第1のガラス板と第2のガラス板とが中間膜によって接合された車両用合わせガラスであって、第1のガラス板は、第1主表面と、第2主表面とを有し、第2のガラス板は、第3主表面と、第4主表面とを有し、第2主表面および第3主表面は、中間膜側の表面であり、第1のガラス板の平面視において、第2のガラス板を備える第1の領域と、第2のガラス板を備えない第2の領域とを有し、中間膜は、第1のガラス板の平面視において、第2の領域の全域と重なり、かつ第1の領域と第2の領域との境界の全てと交差するように連続的に配置され、第2の領域の第2主表面側のみに、充填部を有し、充填部は、電波透過部材と、電波透過部材の第2主表面に対向する面に、接着剤層とを有し、第2の領域において、第1のガラス板と、中間膜と、接着剤層と、電波透過部材とが、この順に積層され、第2の領域は、第1の領域よりも、ミリ波の電波における透過率が高いことを特徴とする。
【0010】
あるいは、上記課題を解決する本発明の車両用合わせガラスは、第1のガラス板と第2のガラス板とが中間膜によって接合された車両用合わせガラスであって、第1のガラス板は、第1主表面と、第2主表面とを有し、第2のガラス板は、第3主表面と、第4主表面とを有し、第2主表面および第3主表面は、中間膜側の表面であり、第1のガラス板の平面視において、第2のガラス板を備える第1の領域と、第2のガラス板を備えない第2の領域とを有し、第2の領域の第2主表面側のみに、充填部を有し、充填部は、電波透過部材を含み、電波透過部材は、第2主表面と、中間膜の内側端面と、第2のガラス板の内側端面とに隣接するとともに、少なくとも1層のウレタン樹脂層を備え、第2の領域は、ミリ波の電波における透過率が第1の領域よりも高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両用合わせガラスは、平面視において異材料によってできる境界における強度低下を抑制するとともに、所定のミリ波レーダー等の電波透過性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(a)は、第1実施形態に係る車両用合わせガラスの構造を示す分解斜視図である。
図1(b)は、第1実施形態に係る車両用合わせガラスの第2のガラスのくり貫き部を示す斜視図である。
図1(c)は、第1実施形態に係る車両用合わせガラスの第2のガラスの切り欠き部を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る車両用合わせガラスの第1のガラス板の平面視図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る車両用合わせガラスの断面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の第1変形例に係る車両用合わせガラスの断面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の第2変形例に係る車両用合わせガラスの断面図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態の第3変形例に係る車両用合わせガラスの断面図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の第4変形例に係る車両用合わせガラスの断面図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の第5変形例に係る車両用合わせガラスの断面図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態に係る車両用合わせガラスの断面図である。
【
図10】
図10は、第3実施形態に係る車両用合わせガラスの断面図である。
【
図11】
図11は、第4実施形態に係る車両用合わせガラスの断面図である。
【
図12】
図12は、本発明に係る車両用合わせガラスが自動車の前方に形成された開口部に装着された状態を表す概念図である。
【
図14】
図14は、実施例および比較例の車両用合わせガラスに対する、入射角67.5°で入射する周波数F(GHz)の電波の透過率T(F)の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明の実施形態は以下に説明するものに限定されない。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付して説明することがあり、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図面に記載の実施形態は、本発明を明瞭に説明するために模式化されており、実際の製品のサイズや縮尺を必ずしも正確に表したものではない。
【0014】
樹脂等の中間膜を複数枚のガラスで挟持または接着した構造の合わせガラスは、外部衝撃による破損時に、ガラス破片の飛散が少なく、安全性に優れているため、従来から自動車や列車等の車両、航空機、及び建築物等の窓ガラス等として広く用いられている。
【0015】
とくに自動車用の合わせガラスにおいては、JIS規格R3211:2015(自動車用安全ガラス)に規定された、所定の耐衝撃性および耐貫通性を満足することが求められている。そして、JIS規格R3212:2015(自動車用安全ガラス試験方法)に、所定の質量の鋼球を用いた耐衝撃性試験、耐貫通性試験の方法が規定されている。本明細書では、耐衝撃性試験と耐貫通性試験をまとめて、「落球試験」ともいう。
【0016】
耐衝撃性試験は、例えば、自動車用の合わせガラスのような安全ガラスが、小さな硬い飛来物の衝撃に対して必要な粘着性または強度の有無を調べる試験である。具体的に、該試験は、合わせガラス(安全ガラス)を、所定の温度に保持した後、車外側に位置するガラスの面を上にして支持枠に置き、所定の高さから鋼球を自然落下させることにより行う。
【0017】
耐貫通性試験は、前面窓に使用する合わせガラスが必要な耐貫通性の有無を調べる試験である。具体的には、該試験は、合わせガラス(安全ガラス)を、所定の温度に保持した後、車内側に位置するガラスの面を上にして支持枠に置き、所定の高さから鋼球を自然落下させることにより行う。
【0018】
以降、本発明に係る車両用合わせガラスは、落球試験による所定の規格を満たすことを前提として、さらに、ミリ波レーダー等の電波透過性に優れる、具体的な合わせガラスの構成について説明する。
【0019】
(第1実施形態)
以下、
図1~
図8を用いて、本発明に係る車両用合わせガラスの第1実施形態について詳述する。このうち、
図4~
図8を用いて、本発明に係る車両用合わせガラスの第1実施形態の変形例について詳述する。
【0020】
図1(a)は、本実施形態に係る車両用合わせガラスの構造を示す分解斜視図であり、
図1(b)及び
図1(c)は、本実施形態に係る車両用合わせガラス10のうち第2のガラス板17の斜視図である。
図2は、本実施形態に係る車両用合わせガラスの第1のガラス板11の平面視図である。合わせガラスとは、2枚以上のガラス板を有し、それらのガラス板同士が中間膜によって接着されている積層体を指す。
【0021】
以降、本実施形態に係る車両用合わせガラスは、とくにことわりが無い場合、2枚のガラス板とそれらの間に備わる1枚の中間膜を基本構造として説明するが、複数枚の中間膜を用いてもよい。なお、第1のガラス板11の平面視とは、車両用合わせガラスの第1のガラス板11を上にして水平面に置き、垂直上方から見ることを指す。
【0022】
本実施形態に係る車両用合わせガラス10は、
図1(a)のように、第1のガラス板11、中間膜12、第2のガラス板17、および後述する充填部13を含む積層体である。なお、車両用合わせガラス10は、車両のボディに沿って湾曲している形状が多いが、用途に応じた形状であればよく、例えば湾曲のない平面形状でもよい。
【0023】
また、車両用合わせガラス10は、第1のガラス板11の平面視において第2のガラス板17を備える第1の領域Aと、第2のガラス板17を備えない第2の領域Bとを有する。なお、車両用合わせガラス10は、以降、とくにことわりがない場合、車両のボディに取り付けた際に、第1のガラス板11が車外側、第2のガラス板17が車内側に位置するものとして説明する。
【0024】
第2の領域Bは、車両用合わせガラス10のうち、60GHz~100GHzの周波数の電波に対して高い電波透過性が要求される部分に形成される。例えば、第2の領域Bは、ミリ波レーダーが送受される部分を含む周辺に形成される。なお、本明細書において電波透過性が高い/低い、等の評価については、特にことわりがない場合、60GHz~100GHzの周波数の電波に対する電波透過性のことを指す。
【0025】
車両用合わせガラス10は、第1のガラス板11の平面視で略長方形の第2の領域Bを1つ備えるが、第2の領域Bの形状(平面視における外縁)や数はこの構成に限定されない。例えば、第2のガラス板17よりも車内側に搭載される、ミリ波レーダーやステレオカメラ等の配置を考慮し、第1のガラス板11の平面視で、三角形、四角形、及び略台形などの多角形、円形など適宜決定される。
【0026】
車両用合わせガラス10は、情報デバイスがミリ波帯の電波を検知できるように、平面視において、第2の領域Bの面積が400mm2以上であると好ましく、1000mm2以上がより好ましい。さらに、一か所の第2の領域Bは、該領域に対して複数の情報デバイスからのミリ波の電波(信号)の送受信を対象とするために、4000mm2以上がさらに好ましく、10000mm2以上が特に好ましい。また、仮に外力が第2の領域Bの中央付近に加わったときでも、過度な変形が生じないよう、第2の領域Bの面積は、90000mm2以下が好ましい。
【0027】
第2の領域Bは、JIS規格R3212:2015(自動車用安全ガラス試験方法)の附属書「安全ガラスの光学的特性及び耐光性についての試験領域」に規定された「試験領域A」の外側に位置すると、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界が運転者の視野外となり、好ましい。大型車にあっては、「試験領域I」の外側に位置すると、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界が運転者の視野外となり、好ましい。
【0028】
第1のガラス板11の厚さは、強度確保のため、特に飛び石耐性を高めるため、1.1mm以上であればよく、1.5mm以上が好ましく、1.8mm以上がより好ましい。また、第1のガラス板11の厚さの上限は特に限定されないが、厚くなれば重量も増えるため、通常は3.0mm以下が好ましい。
【0029】
図1(a)に示すように、本実施形態に係る車両用合わせガラス10において、第1のガラス板11は、第1主表面11aと第2主表面11bを有し、中間膜12は、第2主表面11bに隣接する。同様に、第2のガラス板17は、第3主表面17cと第4主表面17dを有し、中間膜12は、第3主表面17cに隣接する。第2のガラス板17は、ガラス板の一部に、くり貫き部が設けられており、第2の領域Bと重複する。第2のガラス板17は、ガラス板の一部に、切り欠き部が設けられ、第2の領域Bと重複してもよい。
【0030】
第2のガラス板17のくり貫き部について、
図1(b)を用いて説明する。くり貫き部18xは、車両用合わせガラス10における第1のガラス板11の平面視で、第1のガラス板11の外縁が、第2の領域Bと接しないときの、第2の領域Bの部分を指す。
【0031】
次に、第2のガラス板17の切り欠き部について、
図1(c)を用いて説明する。切り欠き部18yは、車両用合わせガラス10における第1のガラス板11の平面視で、第1のガラス板11の外縁の一部が、第2の領域Bと隣接するときの、第2の領域Bの部分を指す。
【0032】
例として、
図1(c)に示す第2のガラス板17は、第1のガラス板11の外縁の一部を破線で示した。つまり、
図1(c)に示す第2のガラス板17を有する車両用合わせガラス10は、切り欠き部(第2の領域B)の外縁が第1のガラス板11の平面視で、略長方形であり、当該略長方形の一辺が第1のガラス板11の外縁の一部と隣接する(共通化する)関係にある。
【0033】
車両用合わせガラス10における第2のガラス板17は、切り欠き部および/またはくり貫き部を合わせると、第1のガラス板11の平面視で、第1のガラス板11と略同一形状であってよい。以降、車両用合わせガラス10における中間膜12や第2のガラス板17の端面のうち、第1のガラス板11の平面視において、第2の領域Bの外縁と共通する端面を「内側端面」ともいう。また、中間膜12や第2のガラス板17の端面のうち、内側端面以外の端面を、「外側端面」ともいう。
【0034】
なお、車両用合わせガラス10は、第2の領域Bが、切り欠き部となっている場合に比べくり貫き部となっている場合の方が、第1の領域Aと第2の領域Bの境界における強度が高い。これは、第2の領域Bがくり貫き部である場合、くり貫き部の外側の領域全てが第1の領域Aであるため、落球試験における衝撃を分散させやすくなるからである。
【0035】
なお、第2の領域Bがくり貫き部の場合は、第1のガラス板11の平面視において、第1のガラス板11の端部からくり貫き部(第2の領域B)までの距離が10mm以上であればよく、30mm以上が好ましく、50mm以上がより好ましい。一方、第1のガラス板11からくり貫き部(第2の領域B)までの距離が長すぎると、視界が狭くなるおそれがあるため、第1のガラス板11の端部からくり貫き部(第2の領域B)までの距離が200mm以下であればよい。
【0036】
第2のガラス板17の厚さは、取り扱いの観点から0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1.0mm以上がさらに好ましい。また、軽量性の観点から2.3mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましい。第1のガラス板11と第2のガラス板17の組成や厚さは、同じでも異なってもよい。
【0037】
第1のガラス板11および第2のガラス板17は、例えばフロート法などにより板状に成形された後、重力成形またはプレス成形などにより高温で曲げ成形される。第1のガラス板11および第2のガラス板17は、未強化ガラス、強化ガラスのいずれでもよい。強化ガラスは、物理強化ガラス、化学強化ガラスのいずれでもよい。
【0038】
本実施形態における第1のガラス板11および第2のガラス板17の組成は特に限定されないが、例えば、各成分の酸化物基準のモル百分率表示で、
50%≦SiO2≦80%
0.1%≦Al2O3≦25%
3%≦R2O≦30%(R2Oは、Li2O、Na2O、K2Oの合計量を表す)
0%≦B2O3≦10%
0%≦MgO≦25%
0%≦CaO≦25%
0%≦SrO≦5%
0%≦BaO≦5%
0%≦ZrO2≦5%
0%≦SnO2≦5%
を満足するものが挙げられる。
【0039】
また、後述する電波透過部材において例示する、電波透過部材として使用できるガラス板を、第1のガラス板11および/または第2のガラス板17として用いてもよい。
【0040】
中間膜12は、第1のガラス板11と第2のガラス板17とを接合する。中間膜12は、第1のガラス板11の第2主表面11bおよび第2のガラス板17の第3主表面17cの少なくとも一部が接していればよく、全面に接していてもよい。
【0041】
本実施形態における中間膜12は、合わせガラスに一般的に採用されているものを使用でき、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または紫外線硬化性樹脂が挙げられ、これらの樹脂を固化させて形成できる。なお、ここでいう「固化」は、硬化を含む。
【0042】
中間膜12は、好ましくは、ビニル系ポリマー、エチレン-ビニル系モノマー共重合体、スチレン系共重合体、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂およびアクリル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する樹脂を使用できる。
【0043】
中間膜12は加熱前において液状の樹脂を用いてもよい。熱可塑性樹脂としては、典型的には、ポリビニルブチラール、エチレンビニールアセテート、及びシクロオレフィンポリマー等を使用できる。熱硬化性樹脂としては、シリコーン系樹脂、及びアクリル系樹脂が典型的である。中間膜12は、これらを単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0044】
また、中間膜12として、後述する接着剤層に用いる接着剤を使用してもよい。中間膜12に接着剤を用いる場合、第1のガラス板11と第2のガラス板17との接合において加熱の必要がないため、上記の割れや反りが生じるおそれが無い。中間膜12の厚さは、0.1mm以上2mm以下であればよい。
【0045】
次に、本実施形態に係る車両用合わせガラスについて、
図3~
図8を用いてさらに説明する。
図3~
図8は、いずれも、
図2の車両用合わせガラス10のY-Yにおける断面図であり、第1の領域Aおよび第2の領域Bを含む断面を示す。
【0046】
まず、車両用合わせガラス10として、
図3に示す断面図の構成について説明する。車両用合わせガラス10は充填部13を有し、本実施形態では、充填部13は後述する電波透過部材14のみで構成している。
【0047】
以下、
図3を用いて、充填部13の構造について説明する。本実施形態において、
図3に示す充填部13は、第2主表面11bに対向する面を有している。そして、充填部13は、第2主表面11b、第3主表面17cのそれぞれ一部に隣接し、中間膜12の内側端面12i、第2のガラス板17の内側端面17i、のそれぞれ全面に隣り合っている。「隣り合う」とは、「隣接」と異なり、間に隙間を含んでもよい。
【0048】
充填部13は、第2のガラス板17の内側端面17iの一部または全面に隣接してもよい。この場合、充填部13が第2のガラス板17の内側端面17iに接していないときに比べて、充填部13と第2のガラス板17との摩擦が生じやすい。そのため、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界での落球試験における耐久性を高められ、車両用合わせガラス10としての強度を向上できる。さらに、充填部13が第2のガラス板17に対して接着性を有する場合、充填部13と第2のガラス板17の内側端面17iの境界での強度をより向上できる。
【0049】
充填部13が、第2のガラス板17の内側端面17iの全面に、隣接あるいは隣り合い、かつ、第4主表面17dと略同一平面を形成する場合、第2のガラス板17と充填部13に段差が生じず、とくに車内側から、異材料の境界が空間的に目立たないため好ましい。
【0050】
また、充填部13は、車両用合わせガラス10の第2の領域Bの第2主表面11b側から、第1の領域Aのうち第1のガラス板11と第2のガラス板17との間に、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界の全てと交差するように連続的に配置されている。このような配置により、例えば車両用合わせガラス10の耐衝撃性試験において、鋼球から第1主表面11aへ加えられた外力に対して、充填部13が衝撃を吸収し、第2のガラス板17の内側端面17iと充填部13との境界でのずれを防止するストッパーの役割を果たす。したがって、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界における強度低下を抑制できる。
【0051】
また、本実施形態に係る車両用合わせガラス10は、例えば耐貫通性試験において、第2のガラス板17の内側端面17iと充填部13との境界でのずれと、第2主表面11bと第3主表面17cとの間の、中間膜12の内側端面12iと充填部13との境界でのずれ、とが連動することを防止できる。結果として、車両用合わせガラス10は、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界における強度低下を抑制できる。
【0052】
次に、第1のガラス板11の平面視において、第1の領域Aと前記第2の領域Bの境界と、第1の領域Aにおける充填部13(電波透過部材14)の周縁との距離を、距離d13(d14)と定義する。距離d13(d14)が短いと、第1主表面11aに外力が加わったとき、車両用合わせガラス10から、充填部13に充填された部材(電波透過部材14)が脱落し、鋼球が貫通するおそれがある。そのため、距離d13は、0.1mm以上であれば、電波透過部材14の脱落を防止し、異材料の境界での強度低下を抑制する上で好ましく、1mm以上がより好ましく、5mm以上がさらに好ましい。
【0053】
一方、距離d13は、30mm以下であれば、後述する遮光部により、中間膜12の内側端面12iと充填部13の境界を隠蔽しやすいため好ましく、15mm以下がより好ましい。
【0054】
なお、第2の領域Bとは離間した2つ目の第2の領域Bが存在するとき、例えば、充填部13とは異なる充填部が、第1のガラス板11の平面視において、第1の領域Aと2つ目の第2の領域Bとの境界の全てを交差するように、第1のガラス板11と第2のガラス板17の間で連続的に配置されてもよい。あるいは、充填部13が、第1の領域Aと2つ目の第2の領域Bとの境界の全てを交差するように、第1のガラス板11と第2のガラス板17の間で連続的に配置されてもよい。このとき、異なる部材間や同一部材間の境界の数を減らすことができる。
【0055】
本実施形態の車両用合わせガラス10において、充填部13は、第1のガラス板11の平面視において、第2の領域Bの一部と重なっていてもよく、第2の領域Bの全域と重なっていてもよい。充填部13が、第1のガラス板11の平面視において、第2の領域Bの全域と重なっていれば、第2の領域B内で異材料によってできる境界が少なくなり、強度低下を抑制できるので好ましい。
【0056】
また、本実施形態の車両用合わせガラス10における第2の領域Bには、例えば、上記のガラス組成の第2のガラス板17の代わりに、第2のガラス板17よりもミリ波の電波に対する透過率が高い電波透過部材14を配置できる。そのため、第2の領域Bは、第1の領域Aよりも、ミリ波の電波における透過率を高くできる。
【0057】
以下、電波透過部材14について説明する。電波透過部材14は、60GHz以上の所定のミリ波の電波透過が高くできる材料であれば特に限定されないが、低誘電率、低tanδ(誘電正接;δは損失角)、特に誘電損失の小さい材料からなる部材が好ましく用いられる。電波透過部材14を構成する材料として、例えばガラスや樹脂が挙げられる。
【0058】
樹脂は特に限定されないが、例えば、ABS(acrylonitrile butadiene styrene;アクリロニトリルブタジエンスチレン)、PVC(polyvinyl chloride;ポリビニルクロライド)、フッ素系樹脂、PC(ポリカーボネート)、COP(シクロオレフィンポリマー)、SPS(シンジオタクチックポリスチレン樹脂)、変性PPE(変性ポリフェニレンエーテル)、ウレタン樹脂、ポリスチレン(PS)、及びポリエチレンテレフタレート(PET)等を使用できる。
【0059】
電波透過部材14を構成するガラス材料として、例えば無アルカリガラスを使用できる。無アルカリガラスは、アルカリ成分の酸化物基準のモル百分率表示の含有量が合計で1.0%以下であるガラスである。また、無アルカリガラスとしては、該含有量が合計で0.1%以下のガラスも好ましく使用できる。また、他の成分の含有量は特に限定されないが、例えば各成分の酸化物基準のモル百分率表示の含有量が、
50%≦SiO2≦80%
0%≦Al2O3≦30%
0%≦B2O3≦25%
0%≦MgO≦25%
0%≦CaO≦25%
0%≦SrO≦25%
0%≦BaO≦25%
0%≦ZrO2≦5%
5%≦RO≦40%(ROは、MgO、CaO、SrO、BaOの合計量を表す)
を満足することが好ましい。
電波透過部材14は、これらのガラスや樹脂を単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0060】
なお、第1のガラス板11と、電波透過部材14との線膨張係数の差が大きいと、第1のガラス板11と第2のガラス板17を接合するための加熱工程を経る場合、車両用合わせガラス10に割れや反りが生じ、外観不良を引き起こすおそれがある。したがって、第1のガラス板11の線膨張係数と、電波透過部材14の線膨張係数との差は、できるだけ小さい方が好ましい。
【0061】
第1のガラス板11と電波透過部材14との線膨張係数の差は、各々、所定の温度範囲における平均線膨張係数どうしの差で示してもよい。また、電波透過部材14が樹脂材料である場合、特に、ガラス材料に比べ樹脂材料の方が、ガラス転移点が低いので、樹脂材料のガラス転移点以下の温度範囲で、所定の平均線膨張係数差を設定してもよい。なお、第1のガラス板11と樹脂材料との線膨張係数の差は、樹脂材料のガラス転移点以下の、所定の温度により、設定してもよい。
【0062】
(第1変形例)
図4は、車両用合わせガラス10の第1変形例(車両用合わせガラス10a)の断面図であり、
図2の車両用合わせガラス10におけるY-Yと同様の位置の断面を示す。なお、本変形例では、第1実施形態に係る車両用合わせガラスと異なる点について説明し、それ以外については第1実施形態に係る車両用合わせガラスにおける説明を援用する。
【0063】
第1変形例に係る車両用合わせガラス10aは、充填部13が電波透過部材14に加えて接着剤層15を有している点で第1実施形態と異なる。
【0064】
図4の車両用合わせガラス10aでは、接着剤層15は、電波透過部材14の第2主表面11bに対向する面の全面と、第1のガラス板11の第2主表面11bの少なくとも一部に隣接している。
【0065】
なお、接着剤層15は、電波透過部材14の第2主表面11bに対向する面の一部に隣接していてもよい。また、電波透過部材14と接着剤層15は、それぞれ、中間膜12の内側端面12iの一部に隣接しているが、中間膜12の内側端面12iの一部に隣り合っていてもよい。第1の領域Aにおいて、電波透過部材14の厚さと接着剤層15の厚さの合計は、中間膜12の厚さと一致している。
【0066】
車両用合わせガラス10aでは、電波透過部材14および接着剤層15は、第2の領域Bの第2主表面11b側から、第1の領域Aのうち第1のガラス板11と第2のガラス板17との間に、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界の全てと交差するように連続的に配置されている。そして、電波透過部材14および接着剤層15は、第1のガラス板11の平面視において、第2の領域Bの全域と重なっている。
【0067】
しかし、電波透過部材14および接着剤層15の一方が、第1のガラス板11の平面視において第2の領域Bの全域と重なるとともに、第2の領域Bの第2主表面11b側から、第1の領域Aのうち第1のガラス板11と第2のガラス板17との間に、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界の全てと交差するように連続的に配置されてもよい。この場合、第1の領域Aにおいて、電波透過部材14の厚さおよび接着剤層15の厚さの一方が、中間膜12の厚さと一致する。
【0068】
以下、接着剤層15について詳しく説明する。接着剤層15は、ガラス板、中間膜、及び電波透過部材等の間で、相互を強固に接合させる効果を有する。本変形例において、接着剤層15は、第1のガラス板11と電波透過部材14とを接合している。したがって、第1主表面11aに外力が加わったときに、電波透過部材14が車両用合わせガラス10aから脱落し、鋼球が貫通するのを防ぐことができる。とくに、接着剤層15は、第1のガラス板11に対して電波透過部材14の粘着性が弱い場合や、電波透過部材14が粘着性を有しない場合に効果が高い。
【0069】
さらに、車両用合わせガラス10aは、接着剤層15を有することで、加熱により中間膜12と接着剤層15以外の部材どうしを接合する前に、該部材の位置を固定できる。例えば、接着剤層15を有することで、電波透過部材14の位置がずれ、中間膜12の内側端面12iと電波透過部材14との間(境界部)、あるいは第2のガラス板17の内側端面17iと電波透過部材14との間(境界部)に意図せぬ隙間ができることを防止できる。したがって、これらの境界部での気泡の発生や、強度低下を防止できる。
【0070】
また、車両用合わせガラス10aにおいて、接着剤層15とは別に、電波透過部材14と第2のガラス板17とを接着させるための(不図示の)接着剤層を含んでもよい。このとき、上述した第1のガラス板11と電波透過部材14とを接合するための接着剤層15と同じ種類の接着剤を用いてもよく、異なる種類の接着剤を用いてもよい。接合する部材に合わせて、種類や特性を適宜決定できる。
【0071】
接着剤層15は、光硬化性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物、光および熱硬化性樹脂組成物等の硬化性組成物が硬化して得られる。「光硬化性樹脂組成物」とは、露光によって硬化し得る樹脂組成物を意味する。「熱硬化性樹脂組成物」とは、加熱によって硬化し得る樹脂組成物を意味する。「光および熱硬化性樹脂組成物」とは、露光および加熱によって硬化し得る樹脂組成物を意味する。「露光」は、紫外線等の光を照射することを意味する。
【0072】
硬化性組成物としては、低温で硬化でき、硬化速度が速い点から、光硬化性樹脂組成物が好ましい。光硬化性樹脂組成物は、硬化前には流動性があるため、複数の部材、例えば第1のガラス板11と電波透過部材14とが密着しやすく、界面でヘイズ率が増大することを防止できる。
【0073】
接着剤層15は、25℃、周波数1Hzでの貯蔵せん断弾性率が、5×102~1×107Paの範囲が好ましく、1×103~1×106Paの範囲がより好ましい。
【0074】
接着剤層15の貯蔵せん断弾性率が5×102Pa以上であれば、接着剤層15の形状を維持しやすい。また、接着剤層15の貯蔵せん断弾性率が5×102Pa以上であれば、電波透過部材14を、接着剤層15を介して貼合する際に、ガラス板、及び中間膜等の部材に充分に固定でき、接着剤層15が貼合時の圧力などで変形しにくいため好ましい。
【0075】
一方、接着剤層15の貯蔵せん断弾性率が1×107Pa以下であれば、接着剤層15を介して貼合する際に、界面で気泡が発生したとしても、その気泡が短時間で消失し、残存しにくいため好ましい。
【0076】
接着剤層15の厚さは、0.01mm以上1.5mm以下が好ましい。接着剤層15の厚さが0.01mm以上であれば、第1主表面11aからの外力による衝撃等を接着剤層15が効果的に緩衝し、境界部分への外力の集中を抑制できる。また、接着剤層15を介して貼合する際に接着剤層15の厚さを超えない異物が混入しても、接着剤層15の厚さが大きく変化することがない。
【0077】
接着剤層15の厚さが0.1mm以上であれば、第1主表面11aからの外力による衝撃等を接着剤層15がさらに効果的に緩衝し、境界部分への外力の集中を抑制できる。接着剤層15の厚さが1.5mm以下であれば、接着剤層15を介して電波透過部材14を貼合しやすく、車両用合わせガラス10aの全体の厚さが不要に厚くならない。0.7mm以下であれば、接着剤層15によるミリ波の電波透過損失を抑制できるため好ましく、0.4mm以下がより好ましく、0.2mm以下がさらに好ましい。
【0078】
光硬化性樹脂組成物は、溶剤を除去するための加熱が不要である点で、無溶剤型が好ましい。「無溶剤型」とは、溶剤を含まない、または溶剤の含有割合が、光硬化性樹脂組成物の総質量(100質量%)のうち、5質量%以下のものを意味する。「溶剤」とは、沸点が150℃以下の液体(揮発性希釈剤)を意味する。光硬化性樹脂組成物は、乾燥工程が省ける点、時間とエネルギーを省くことができる点で、溶剤を含まないことが最も好ましい。
【0079】
硬化性組成物は、典型的には、硬化性基を有する硬化性化合物(A)と、光重合開始剤(B)とを含む。必要に応じて、光重合開始剤(B)以外の他の非硬化性成分が含まれてもよい。
【0080】
非硬化性成分としては、非硬化性ポリマー(C)、連鎖移動剤(D)、及び他の添加剤等が挙げられる。硬化性化合物(A)としては、アクリル系、シリコーン系、ウレタンアクリレート系、及びエポキシ系等の化合物が挙げられる。中でも、貯蔵せん断弾性率G’を5×102~1×107Paに調整しやすい点で、硬化性化合物(A)は、シリコーン系またはウレタンアクリレート系が好ましい。さらに、ゲル分率を1~50%に調整しやすい点で、硬化性化合物(A)は、ウレタンアクリレート系がより好ましい。
【0081】
(第2変形例)
図5は、車両用合わせガラス10の第2変形例(車両用合わせガラス10b)の断面図であり、
図2の車両用合わせガラス10におけるY-Yと同様の位置の断面を示す。なお、本変形例でも、第1実施形態に係る車両用合わせガラス10と異なる点について説明し、それ以外については第1実施形態に係る車両用合わせガラス10における説明を援用する。
【0082】
車両用合わせガラス10bは、中間膜12が、第1のガラス板11の平面視において、第2の領域Bの全域と重なり、かつ第1の領域Aと第2の領域Bとの境界の全てを交差するように連続的に配置されている点が、車両用合わせガラス10と異なる。このような配置により、中間膜12も、境界でのずれを防止する上述のストッパーの役割を果たす。したがって、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界における強度低下を抑制できる。
【0083】
車両用合わせガラス10bでは、充填部13は、第2主表面11bには隣接しておらず、第2主表面11bに対向する面は、全て中間膜12と隣接する。また、
図5に示す充填部13は、第1の領域Aにおいて、第3主表面17cの一部に隣接し、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界において、中間膜12の内側端面12iの全面に隣り合っている。
【0084】
したがって、第1主表面11aに外力が加わったときの、中間膜12の内側端面12iと充填部13との境界でのずれそのものを防止できる。結果として、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界における強度低下をさらに抑制できる。なお、中間膜12の内側端面12iは、合わせガラスの圧着処理により、中間膜12と充填部13とが馴染んで生じることもある。
【0085】
第1のガラス板11の平面視において、第1の領域Aのうち、充填部13と中間膜12とが重複する部分では、充填部13および中間膜12の少なくとも一方の厚さは、0.05mm以上であると、境界における強度低下を効果的に抑制できる。また、0.1mm以上であると、強度低下をさらに効果的に抑制できる。
【0086】
第1の領域Aにおける充填部13および中間膜12の少なくとも一方の厚さは、1.6mm以下であると、充填部13または中間膜12自体の重量が小さくなり、車両用合わせガラス10bを軽量化する上で好ましい。1mm以下がより好ましく、0.8mm以下がさらに好ましく、0.4mm以下がとくに好ましい。
【0087】
(第3変形例)
図6は、車両用合わせガラス10の第3変形例(車両用合わせガラス10c)の断面図であり、
図2の車両用合わせガラス10におけるY-Yと同様の位置の断面を示す。なお、本変形例では、第1実施形態の第2変形例に係る車両用合わせガラス10bと異なる点について説明し、それ以外については第1実施形態の第2変形例に係る車両用合わせガラス10bにおける説明を援用する。
【0088】
車両用合わせガラス10cでは、充填部13は、第2主表面11b、第3主表面17c、第2のガラス板17の内側端面17iのいずれにも隣接しておらず、第3主表面17cに対向する面は全て中間膜12と隣接する点で異なる。また、充填部13は、第1の領域Aにおいて、中間膜12の内側端面12iの一部に隣り合っている。
【0089】
(第4変形例)
図7は、車両用合わせガラス10の第4変形例(車両用合わせガラス10d)の断面図であり、
図2の車両用合わせガラス10におけるY-Yと同様の位置の断面を示す。なお、本変形例では、第1実施形態の第1変形例に係る車両用合わせガラス10aと異なる点について説明し、それ以外については第1実施形態の第1変形例に係る車両用合わせガラス10aにおける説明を援用する。
【0090】
車両用合わせガラス10dは、接着剤層15を含む充填部13に加えて、中間膜12が、第1のガラス板11の平面視において、第2の領域Bの全域と重なり、かつ第1の領域Aと第2の領域Bとの境界の全てと交差するように連続的に配置されている点が、車両用合わせガラス10aと異なる。したがって、充填部13および中間膜12が、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界でのずれを防止する上述のストッパーの役割を果たす。
【0091】
接着剤層15は、電波透過部材14の第2主表面11bに対向する面と隣接し、中間膜12と電波透過部材14とを接合している。とくに、中間膜12に対して電波透過部材14の粘着性が弱い場合や、電波透過部材14が粘着性を有しない場合でも、第1主表面11aに外力が加わったときに、電波透過部材14が車両用合わせガラス10dから脱落し、鋼球が貫通するのを、より効果的に防ぐ。また、中間膜12と電波透過部材14との接着不良を防止し、ヘイズ率が大幅に向上する。
【0092】
第1の領域Aにおいて、電波透過部材14の厚さと接着剤層15の厚さの合計は、中間膜12の、充填部13と重複しない部分の厚さより薄い。第1の領域Aにおける電波透過部材14の厚さは、0.05mm以上であれば、電波透過部材14の形状を保つ上で好ましく、0.1mm以上であれば、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界における強度低下を充分抑制する上で、より好ましい。
【0093】
また、第1の領域Aにおける電波透過部材14の厚さは、1.9mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましく、0.8mm以下がさらに好ましく、0.4mm以下がとくに好ましい。
【0094】
(第5変形例)
図8は、車両用合わせガラス10の第5変形例(車両用合わせガラス10e)の断面図であり、
図2の車両用合わせガラス10におけるY-Yと同様の位置の断面を示す。なお、本変形例でも、第1実施形態の第1変形例に係る車両用合わせガラス10aと異なる点について説明し、それ以外については第1実施形態の第1変形例に係る車両用合わせガラス10aにおける説明を援用する。
【0095】
車両用合わせガラス10eは、充填部13が、さらに強化補助膜16を有している点で、車両用合わせガラス10aと異なる。
図8において、強化補助膜16は、第2主表面11bの一部、中間膜12の内側端面12iの一部、接着剤層15の第2主表面11b側の面に隣接している。そして、強化補助膜16は、第1のガラス板11の平面視において、第2の領域Bの全域と重なり、かつ第1の領域Aと第2の領域Bとの境界の全てと交差するように連続的に配置されている。さらに、第2の領域Bにおいて、第1のガラス板11と、強化補助膜16と、接着剤層15と、電波透過部材14とが、この順に積層されている。
【0096】
強化補助膜16は、中間膜12や電波透過部材14よりも破断強度が高く、第1主表面11aや電波透過部材14から伝達された外力に対して、裂けることなく衝撃を吸収できる。
【0097】
強化補助膜16は、例えばポリエステルが好適に用いられ、ポリエステルしてはポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンナフタレートなど、またはこれらのポリマーのブレンドを含む。
【0098】
強化補助膜16の破断強度は、JIS A5759に準拠して測定したときに200N/25mm以上、250N/25mm以上、または300N/25mm以上である。
【0099】
また、例えば耐貫通性試験において、第2のガラス板17の内側端面17iと電波透過部材14との境界のずれと、第2主表面11bと第3主表面17cとの間の、中間膜12の内側端面12iと強化補助膜16との境界でのずれ、とが連動することを防止できる。結果として、車両用合わせガラス10eは、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界における強度低下を抑制できる。
【0100】
接着剤層15は、強化補助膜16の全面に隣接してもよい。また、強化補助膜16は、中間膜12と同一の厚さであってもよい。これらの場合、第1の領域Aにおいて中間膜12の厚さと(第1の領域Aにおける)充填部13の厚さが略同一となるため、複数の中間膜を積層したり、削り取ったりする必要がない。加えて、ガラス板や中間膜12の積層、充填部13の充填が容易であり、細かな位置合わせが不要であるため好ましい。厚さが略同一とは、厚さの差が15%までは許容できるものとする。
【0101】
強化補助膜16の厚さは、0.05mm以上1mm以下であってよい。0.05mm以上であれば、強化補助膜16の形状を保つことができる。0.1mm以上であると、強度低下を効果的に抑制できる。1mm以下であれば、強化補助膜16による電波透過損失を抑制でき、0.8mm以下が好ましく、0.4mm以下がより好ましい。
【0102】
次に、第1のガラス板11の平面視において、第1の領域Aと前記第2の領域Bとの境界のおける任意の点と、第1の領域Aにおける強化補助膜16の周縁における任意の点とを結んだ距離を、距離d16と定義する。距離d16が短いと、第1主表面11aに外力が加わったとき、車両用合わせガラス10eから電波透過部材14が脱落し、鋼球が貫通するおそれがある。
【0103】
そのため、距離d16は、0.1mm以上であれば、電波透過部材14の脱落を防止し、異材料の境界での強度低下を抑制する上で好ましい。1mm以上がより好ましく、5mm以上がさらに好ましい。30mm以下であれば、後述する遮光部により、中間膜12の内側端面12iと強化補助膜16の境界を隠蔽しやすいため好ましく、15mm以下がより好ましい。
【0104】
(第2実施形態)
以下、
図9を用いて、本発明に係る車両用合わせガラスの第2実施形態(車両用合わせガラス20)について詳述する。車両用合わせガラス20は、とくに、第1実施形態の第4変形例に係る車両用合わせガラス10dと異なる点について説明し、それ以外については第1実施形態の第4変形例に係る車両用合わせガラス10dにおける説明を援用する。
【0105】
車両用合わせガラス20は、充填部23が第2の領域Bのみに存在するという特徴がある。充填部23が第2の領域Bのみに存在することは、充填部23の充填が容易であり、細かな位置合わせが不要であり、好ましい。
【0106】
車両用合わせガラス20は、第2の領域Bにおいて、第1のガラス板21と、中間膜22と、接着剤層25と、電波透過部材24とが、この順に積層されている。電波透過部材24は、第2のガラス板の内側端面27iの少なくとも一部に隣り合っていてよい。また、中間膜12の厚さは、第1の領域Aと第2の領域Bにおいて、略同一であってもよい。この場合、車両用合わせガラス20は、意図的に厚さ方向に段差を設けるために複数の中間膜を積層したり、削り取ったりする必要がない。
【0107】
また、車両用合わせガラス20は、第1の領域Aにおいて、中間膜22と電波透過部材24との境界が存在しないため、該境界でのずれは起こらない。さらに、第1主表面21aに対して外力の加わる位置に関わらず、中間膜22が衝撃を吸収できる。結果として、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界における強度低下を抑制できる。
【0108】
車両用合わせガラス20において、接着剤層25は、中間膜22と電波透過部材24とを強固に接合している。したがって、電波透過部材24は、第1のガラス板21の平面視において、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界を交差しなくても、第1主表面21aに外力が加わったときに、電波透過部材24が脱落し、鋼球が貫通するのを防ぐことができる。とくに、電波透過部材24の粘着性が弱い場合や、電波透過部材24が粘着性を有しない場合に効果が高い。
【0109】
(第3実施形態)
以下、
図10を用いて、本発明に係る車両用合わせガラスの第3実施形態(車両用合わせガラス30)について詳述する。車両用合わせガラス30は、とくに、第1実施形態に係る車両用合わせガラス10と異なる点について説明し、それ以外については、第1実施形態に係る車両用合わせガラス10における説明を援用する。
【0110】
車両用合わせガラス30は、充填部33が第2の領域Bのみに存在する(第1の領域Aには有しない)点が、第1実施形態と異なる。
【0111】
充填部33は、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界部分における厚さ(t)の少なくとも一部が、第2の領域Bにおける幾何学的中心における厚さ(tc)と異なってもよい。第2の領域Bにおける幾何学的中心とは、第1のガラス板31の平面視において、第2の領域Bを平面図形とみなしたときの重心を意味し、体積や質量は考慮しない。
【0112】
例えば、充填部33は、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界部分の少なくとも一部でt>tcを満たすことで、電波透過性の確保と境界での強度低下の抑制を両立しやすくなる。また、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界部分の全てで、t>tcを満たすことで、境界での強度低下がより抑制される。このとき、充填部33の厚さは、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界から、第2の領域Bにおける幾何学的中心にかけて、緩やかに減少することで、ヘイズ率や歪の増加を防止でき、好ましい。
【0113】
車両用合わせガラス30は、とくに、電波透過部材34が、加熱および加圧により第1のガラス板31の第2主表面31bに直接接合できる材料を含み、第2主表面32bと、中間膜32の内側端面32iと、第2のガラス板37の内側端面37iとに隣接する。第2の領域Bにおいて、電波透過部材34が第2主表面11bに隣接することで、第2の領域Bに中間膜12を配置する構成に比べ、界面で生じる電波の透過損失や、ヘイズ率をさらに抑制できる。
【0114】
加熱および加圧により第1のガラス板31に直接接合できる電波透過部材34としては、例えばウレタン樹脂が挙げられる。以下、層状のウレタン樹脂を電波透過部材34として用いる場合について説明する。
【0115】
電波透過部材34が、第2主表面32bと、中間膜32の内側端面32iと、第2のガラス板37の内側端面37iとに隣接していれば、第1のガラス板31の平面視において、充填部33および中間膜32のいずれも、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界の全てを交差するように連続的に配置されなくてもよい。
【0116】
本実施形態の車両用合わせガラス30の製造においては、一度の加熱および加圧のプロセスにより、電波透過部材34の第1のガラス板31への接合と、中間膜32を介した第2のガラス板37の第1のガラス板31への接合とを同時に行うこともできる。また、ウレタン樹脂と中間膜の両方が、互いへの接着性を有することから、電波透過部材34と中間膜32の内側端面32iとは、強固に接合される。したがって、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界における強度低下を抑制できる。
【0117】
ウレタン樹脂は、1層で構成してもよいが、強度を向上させるために、複数層積層して電波透過部材34として使用することが好ましい。ウレタン樹脂を電波透過部材34として用いる場合のウレタン樹脂の層数は、強度および電波透過性の観点から、1~5層の範囲であればよい。とくに複層にすることで第1のガラス板31とウレタン樹脂との密着性や強度が向上することから、ウレタン樹脂の層数は2~5層の範囲が好ましく、2~4層の範囲がより好ましく、2層がさらに好ましい。
【0118】
また、ウレタン樹脂の厚さは、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界部分の全てにおいて、第2のガラス板37の内側端面37iの少なくとも一部に隣接する程度であればよい。具体的には、第2のガラス板37の内側端面37iの厚さに対する、第2のガラス板37の内側端面37iに隣接するウレタン樹脂層の厚さの比は、強度の観点から、0.3以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.6以上がさらに好ましい。また、ミリ波透過性の観点から、1以下が好ましく、0.95以下がより好ましく、0.9以下がさらに好ましい。
【0119】
ウレタン樹脂層は、ASTM規格D624,Die Cに規定された試験方法において、引裂強度は40kN/m以上が強度の観点から好ましく、50kN/m以上がより好ましい。また、ASTM規格D412に規定された試験方法において、引張強度は30MPa以上が強度の観点から好ましく、40MPa以上がより好ましい。
【0120】
また、車両用合わせガラス30の第2の領域Bにおいて、ASTM規格D1003に規定された試験方法により測定したときのヘイズ率は、小さいほど、信号が透過せずに散乱する割合を小さくできる。具体的には、ヘイズ率は、5%以下であれば良好な視界が確保できるため好ましい。またヘイズ率は、1%以下であれば後述する情報デバイスによる信号の送受信が正確に行えるため、より好ましい。また、ヘイズ率は、0.6%以下であれば信号の送受信がより正確になるため、さらに好ましい。
【0121】
(第4実施形態)
以下、
図11を用いて、本発明に係る車両用合わせガラスの第4実施形態(車両用合わせガラス40)について詳述する。第4の実施形態に係る車両用合わせガラス40は、とくに、第3実施形態に係る車両用合わせガラス30と異なる点について説明し、それ以外については、第3実施形態に係る車両用合わせガラス30における説明を援用する。
【0122】
図11の車両用合わせガラス40では、電波透過部材44は、ウレタン樹脂層44aの第2主表面41b側とは反対側の面に、ウレタン樹脂層44aとは異なる樹脂層44bをさらに有している点で異なる。なおウレタン樹脂層44aは、
図10の車両用合わせガラス30における電波透過部材34として使用できる、層状のウレタン樹脂と同様である。
【0123】
樹脂層44bは、ウレタン樹脂層44aとは異なる電波透過部材が用いられる。樹脂層44bとして、ウレタン樹脂よりも硬質の材料を用いることで、ウレタン樹脂層に傷がつきにくくできる。したがって、信号が散乱して透過率が減少することを防止できる。樹脂層44bとしては、例えば、ポリカーボネート樹脂、及びシクロオレフィンポリマー(COP)等が挙げられるが、これに限らない。また、樹脂層44bは1層に限らず、複数層でもよい。
【0124】
以下、
図12と
図13を参照して、本発明の車両用合わせガラスとして、例えば第1実施形態の車両用合わせガラス10が自動車に装着された場合について説明する。
【0125】
図12は、車両用合わせガラス10が自動車100の前方に形成された開口部110に装着された状態を表す概念図である。車両用合わせガラス10には、車両の走行安全を確保するための、情報デバイスが収納されたハウジング(ケース)120が、第4主表面17dに取り付けられている。
【0126】
情報デバイスは、カメラやレーダー等を用いて車両の前方に存在する前方車、歩行者、及び障害物等への追突、衝突防止やドライバーに危険を知らせるためのデバイスである。例えば情報受信デバイスおよび/または情報送信デバイス等であり、ミリ波レーダー、ステレオカメラ、及び赤外線レーザー等が含まれ、信号の送受信を行う。当該「信号」とは、ミリ波、可視光、及び赤外光等を含む電磁波のことである。
【0127】
図13は、
図12におけるS部分の拡大図であり、車両用合わせガラス10にハウジング120が取り付けられている部分を示す斜視図である。ハウジング120には、情報デバイスとして、例えば、ミリ波レーダー201およびステレオカメラ202が格納されている。
図13に示すように、車両用合わせガラス10は、電波透過性に優れる領域である第2の領域Bがミリ波レーダー201およびステレオカメラ202等の情報デバイスの周辺に位置するようにして用いられる。
【0128】
情報デバイスを格納したハウジング120は、通常バックミラー150よりも車外側に取り付けられるが、他の部分に取り付けられてもよい。フロントガラスにおいて、ハウジング120は、試験領域B、試験領域Bを前面ガラスの水平方向に拡大した領域以外の範囲、試験領域I、試験領域Iを前面ガラスの水平方向に拡大した領域以外の範囲、に取り付けられてもよい。リアガラスにおいては、例えばハイマウントストップランプの下部付近に取り付けられてもよい。
【0129】
自動車の車内に備えられたミリ波レーダー等を用いて外部と通信を行う際に電波が窓ガラス面、例えばフロントガラス面に対して入射する角度は、窓ガラスの構造や通信相手の位置、ミリ波レーダー進行方向の仰角等によって異なる。
【0130】
しかし、一般的な自動車について、水平面に対するフロントガラスの傾斜角度を鑑みたとき、ミリ波レーダーがフロントガラス面に入射する入射角として、67.5°程度を一つの目安とした。つまり、67.5°の入射角で窓ガラス面に入射するミリ波の電波透過率T(F)が自動車の窓ガラスのミリ波透過性の指標として重要であり、67.5°近傍の入射角についても、同様にミリ波透過性の評価をする上で有用である。
【0131】
本発明の実施形態に係る車両用合わせガラス10として、第2の領域Bにおける第1主表面11aに対して、67.5°の入射角で入射する周波数F(GHz)の電波の透過率T(F)が、60GHz≦F≦100GHzの範囲で下記式(1)を満足すれば、数十GHz~100GHzの周波数帯域の電波に対しても高い透過性を有し、好ましい。なお、T(F)の値が1であるとき、透過率は100%となる。
T(F)>-0.0061×F+0.9384 ・・・(1)
【0132】
また、電波透過性をさらに良好にするために、本発明の実施形態に係る車両用合わせガラス10として、第2の領域Bにおける第1主表面11aに対して、67.5°の入射角で入射する周波数F(GHz)の電波の透過率T(F)が、60GHz≦F≦100GHzの範囲で下記式(2)を満足することが好ましい。
T(F)>-0.0061×F+1.0384 ・・・(2)
【0133】
本発明に係る車両用合わせガラス10~40は、第1のガラス板、電波透過部材、第2のガラス板、中間膜、接着剤層、あるいは強化補助膜などに、本発明の効果を損なわない範囲で機能層を備えてもよい。例えば、撥水機能、親水機能、及び防曇機能等を付与するコーティング層や、赤外線反射膜等を備えてもよい。また、充填部13~43は、電波透過部材14~44以外に、他の部材を含んで構成してもよい。
【0134】
他の部材としては、例えば、接着剤、塗料、ガラス、導体、発光体、及び紫外線吸収剤等が挙げられる。充填部13~43が他の部材を含む場合、車両用合わせガラス10~40が少なくとも上記の落球試験における所定の耐衝撃性および耐貫通性を満足し、さらに電波透過性を損なわない範囲であればよい。
【0135】
機能層の設けられる位置は特に限定されず、車両用合わせガラス10~40の表面に設けられてもよく、複数の中間膜に挟持されるように設けられてもよい。また、本発明に係る車両用合わせガラス10~40は、異材料の境界部分、及び枠体等への取り付け部分や配線導体等を隠蔽する目的で、周縁部の一部または全部に帯状に配設される遮光部を備えてもよい。
【0136】
遮光部として、例えば第1のガラス板や第2のガラス板に黒色セラミックス層等を設けてもよく、中間膜に着色部を設けてもよい。黒色セラミックス層は、第2主表面および/または第4主表面に設けることができる。第2主表面に設けることで、車外視での隠蔽性に優れる。第4主表面に設けることで、車内視での隠蔽性に優れる。着色部は黒色に限定されず、少なくとも隠蔽が求められる部分において、隠蔽できる程度に可視光を遮ることができれば、様々な色を用いることができる。
【0137】
以上、本発明に係る車両用合わせガラス10~40は、例えば車両のフロントウインドシールドに用いる場合を例に説明をしたが、他にもリアガラス、及びサイドガラスとしても使用できる。
【実施例】
【0138】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
<実施例1>
第1のガラス板および第2のガラス板として、各成分の酸化物基準のモル百分率表示でSiO
2:69.7%、Al
2O
3:0.9%、MgO:7%、CaO:9%、TiO
2:0.05%、Na
2O:12.6%、K
2O:0.6%、Fe
2O
3:0.2%のガラス(300mm×300mm、厚さ2mm)を、中間膜としてポリビニルブチラール(PVB)製フィルム(積水化学工業株式会社製、300mm×300mm、厚さ0.76mm、厚さ0.38mm)を、電波透過部材としてポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(220mm×220mm、厚さ0.15mm)を用いた。第2のガラス板と厚さ0.38mmの中間膜には、第1のガラスの端部から第2の領域Bまでの距離が50mmになるように、200mm×200mmのくり貫き部を設けた。第1のガラス板、厚さ0.76mmの中間膜、電波透過部材、厚さ0.38mmの中間膜、第2のガラス板を、この順に、d13(d14)が10mmになるように積層し、真空包装器を用いて、真空化させた後、加熱(120℃,30分)して仮圧着をさせた。さらに、オートクレーブを用いて圧着処理(1MPa,130℃,90分間)を行うことで、
図6に示した第1実施形態の第3変形例の構成である、実施例1の車両用合わせガラスを得た。
【0139】
<実施例2>
中間膜を1枚(厚さ0.76mm)だけ用いた以外は、第1のガラス板、第2のガラス板、中間膜は、実施例1で用いたものと同一である。電波透過部材として、ポリカーボネート(PC)製の樹脂板(日本ゼオン株式会社製、200mm×200mm、厚さ2mm、100℃における線膨張係数70×10
-6℃
-1)を用いた。電波透過部材の一方の主面に、透明粘着剤(株式会社タイカ製)を厚さが0.5mmとなるようにロールプロセスにより塗布して接着剤層を形成した。次に第1のガラス板、中間膜、第2のガラス板を、この順に積層し、第2のガラス板のくり貫き部に、
図9に示した第2実施形態のように接着剤層付き電波透過部材を積層した。そして、実施例1と同様の条件で、真空包装器を用いて、仮圧着をさせ、さらに、オートクレーブを用いて圧着処理を行うことで、実施例2の車両用合わせガラスを得た。
【0140】
<実施例3>
中間膜を1枚(厚さ0.76mm)だけ用い、第2のガラス板のくり貫き部と重複するように、中央部分がくり貫かれている以外は、第1のガラス板、第2のガラス板、中間膜は、実施例1で用いたものと同一である。電波透過部材は、2層構造のウレタン製の樹脂板(200mm×200mm、厚さ1.27mm、100℃における線膨張係数10×10
-5℃
-1)を用いた。第1のガラス板、中間膜、第2のガラス板、2層構造のウレタン製の樹脂板を、
図10に示した第3実施形態のように積層した後、実施例1と同様の条件で、真空包装器を用いて仮圧着をさせ、さらに、オートクレーブを用いて圧着処理を行うことで、実施例3の車両用合わせガラスを得た。得られた実施例3の車両用合わせガラスでは、第1の領域Aと第2の領域Bとの境界部分の全てで、tは約2.5mmであり、t>t
cを満たしていた。また、第2のガラス板37の内側端面37iの厚さに対する、第2のガラス板37の内側端面37iに隣接するウレタン樹脂の厚さの比は約0.87であった。
【0141】
<実施例4>
第1のガラス板、第2のガラス板、中間膜は、実施例3で用いたものと同一である。電波透過部材については、ウレタン樹脂として、実施例3で用いた2層構造のウレタン製の樹脂板を、樹脂層として、ポリカーボネート(PC)製の樹脂板(日本ゼオン株式会社製、200mm×200mm、厚さ2mm、100℃における線膨張係数70×10
-6℃
-1)をそれぞれ用いた。第1のガラス板、中間膜、第2のガラス板、ウレタン樹脂層および樹脂層(PC)を、
図11に示した第4実施形態のように積層した後、実施例1と同様の条件で、真空包装器を用いて仮圧着をさせ、さらに、オートクレーブを用いて圧着処理を行うことで、実施例4の車両用合わせガラスを得た。
【0142】
<比較例1>
透明粘着剤を用いず、接着剤層を設けないこと以外は、実施例2と同様の部材および手順により比較例1の車両用合わせガラスを得た。
【0143】
<比較例2>
第1のガラス板および第2のガラス板として、従来自動車の合わせガラスに使用されているガラス(300mm×300mm、厚さ2mm)を、中間膜としてポリビニルブチラール(PVB)製フィルム(積水化学工業株式会社製、300mm×300mm、厚さ0.76mm)を用いた。第2のガラス板および中間膜にはくり貫き部や切り欠き部を設けていない。第1のガラス板、中間膜、第2のガラス板を、この順に積層し、実施例1と同様の条件で、真空包装器を用いて仮圧着をさせ、さらに、オートクレーブを用いて圧着処理を行うことで、比較例2の車両用合わせガラスを得た。
【0144】
[ヘイズ率の測定]
ヘイズ率は、測定対象の合わせガラスを板厚方向に透過する透過光のうち、前方散乱によって入射光から2.5°以上逸れた透過光の百分率として求められる。本発明において、ヘイズ率は、市販されているヘイズメーターで、ASTM規格D1003に規定された試験方法により求めた。その結果を表1に示した。
【0145】
[落球試験]
実施例1~4および比較例1~2の車両用合わせガラスについて、JIS規格R3212:2015(自動車用安全ガラス試験方法)に規定された耐衝撃性試験、耐貫通性試験を行い、JIS規格R3211:2015(自動車用安全ガラス)に規定された、所定の耐衝撃性および耐貫通性を満足するか確認した。所定の耐衝撃性および耐貫通性を満足するものを(○)、満足しないものを(×)として表1に示した。実施例1~4および比較例2は耐衝撃性および耐貫通性を満足し、比較例1は耐衝撃性および耐貫通性を満足しなかった。
【0146】
[電波透過率T(F)の測定]
実施例1~4および比較例1~2の車両用合わせガラスについて、入射角が67.5°で入射する周波数F(GHz)の電波の透過率T(F)を、60GHz≦F(GHz)≦100GHzの範囲でシミュレーションにより算出した。シミュレーションでは、実施例1~14および比較例1~2について、使用した各材料の誘電率と誘電正接に基づき導出した挿入損失(S21パラメータ)を、(ミリ波)透過率へ換算した。なお、実施例3および比較例2の合わせガラスについては、自由空間法にて、作製した合わせガラスの電波透過性を測定した。電波透過性は、アンテナを対向させ、それらの中間に、得られた合わせガラスを入射角が67.5°となるように設置し、周波数79GHzの電波に対し、100mmΦの開口部にて電波透過性基板がない場合を0dBとしたときの、電波透過損失を測定した結果より、電波透過率を算出した。その結果、実施例3および比較例2の合わせガラスにおける79GHzの電波透過率は、シミュレーションと同等の結果が得られた。
【0147】
実施例1~4、比較例2のシミュレーション結果を
図14に示す。
図14中の点線は、下記式(1)および式(2)を示す。
T(F)>-0.0061×F+0.9384 ・・・(1)
T(F)>-0.0061×F+1.0384 ・・・(2)
なお、比較例1のシミュレーション結果は図示しないが、比較例1は実施例2とほぼ同様であり、60GHz≦F(GHz)≦100GHzの範囲で上記式(1)を満足した。
【0148】
67.5°の入射角で入射する周波数F(GHz)の電波の透過率T(F)が、60GHz≦F(GHz)≦100GHzの範囲で式(1)を満足しない周波数がある比較例2の合わせガラスは、電波透過性に劣った。表1において、式(1)または式(2)を満足しない周波数があることを(×)と表記した。一方、67.5°で入射する周波数F(GHz)の電波の透過率T(F)が、60GHz≦F(GHz)≦100GHzの範囲で式(1)および式(2)を満足する実施例1~4の合わせガラスは、電波透過性に優れた。60GHz≦F(GHz)≦100GHzの全範囲で式(1)および式(2)を満足することを(○)と表記した。
【0149】
[電波透過性の評価]
上記の電波透過率の測定結果を用いて、周波数79GHzにおける電波透過損失が3dBより大きいものを不良(×)、3dB以下であるものを良好(○)と評価した。評価結果を表1に示す。
【0150】
【0151】
実施例1~4は、それぞれ、本発明の第1~4実施形態の構成を満足するため、電波透過性および強度ともに優れていた。
【0152】
一方、比較例1は接着剤層を設けておらず、本発明の第2実施形態の構成を満足しないため、強度が劣る結果となった。
また、比較例2は、電波透過部材を設けておらず、本発明のいずれの実施形態の構成も満足しないため、電波透過性が劣る結果となった。
【0153】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0154】
なお、本出願は、2020年12月20日出願の日本特許出願(特願2019-230102)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0155】
10、10a、10b、10c、10d、10e、20、30、40 車両用合わせガラス
11、21、31、41 第1のガラス板
11a、21a、31a、41a 第1主表面
11b、21b、31b、41b 第2主表面
12、22、32、42 中間膜
12i、32i、42i 中間膜12、32、42の内側端面
13、23、33、43 充填部
14、24、34、44 電波透過部材
44a ウレタン樹脂層
44b 樹脂層
15、25 接着剤層
16 強化補助膜
17、27、37、47 第2のガラス板
17i、27i、37i、47i 第2のガラス板17、27、37、47の内側端面
17c、27c、37c、47c 第3主表面
17d、27d、37d、47d 第4主表面
18x くり貫き部
18y 切り欠き部
100 自動車
110 開口部
120 ハウジング
150 バックミラー
201 ミリ波レーダー
202 ステレオカメラ
A 第1の領域
B 第2の領域