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特許7619355環状オレフィン開環共重合体、絶縁材料用組成物、及び絶縁材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】環状オレフィン開環共重合体、絶縁材料用組成物、及び絶縁材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/06 20060101AFI20250115BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
C08G61/06
H01B3/30 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022503349
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2021006474
(87)【国際公開番号】W WO2021172227
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2020032303
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】岸 直哉
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-233362(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110323(WO,A1)
【文献】仏国特許発明第01594934(FR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0009996(KR,A)
【文献】特開2016-190988(JP,A)
【文献】特開2019-112565(JP,A)
【文献】特開2006-313660(JP,A)
【文献】特開2013-049739(JP,A)
【文献】国際公開第2013/137398(WO,A1)
【文献】特開2009-079088(JP,A)
【文献】特開2005-290048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 61/00-61/12
H01B 3/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位、及びヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位を含む環状オレフィン開環共重合体であって、
前記ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位の含有割合が、前記環状オレフィン開環共重合体が有する全構造単位を100モル%として、0.01モル%以上15.00モル%以下であ
前記ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位が、下式(2)を満たすマレイミド変性ノルボルネン化合物由来の構造単位である、

【化1】
・・・(2)
(前記式(2)においてRは水素又は炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖状アルキル基である。)
環状オレフィン開環共重合体。
【請求項2】
前記ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位の含有割合が、前記環状オレフィン開環共重合体が有する全構造単位を100モル%として、85.00モル%以上99.99モル%以下である、請求項1に記載の環状オレフィン開環共重合体。
【請求項3】
前記ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位が、芳香環を有する、ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位を含む、請求項1又は2に記載の環状オレフィン開環共重合体。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の環状オレフィン開環共重合体を含む、絶縁材料用組成物。
【請求項5】
請求項の絶縁材料用組成物を含む絶縁材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン開環共重合体、及び、当該環状オレフィン開環共重合体を含む絶縁材料用組成物、並びに当該絶縁材料用組成物を含む絶縁材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン骨格を有する単位を含む重合体(以下、「ノルボルネン系重合体」と称することがある。)は、様々な有益な特性を呈し得ることが知られている。かかる特性を活かして、ノルボルネン系重合体は、多様な用途において好適に応用されている。そして近年、各種の用途における適応性を一層向上させる目的の下、ノルボルネン系重合体の改良が試みられている。
【0003】
具体的には、例えば特許文献1には、ジシクロペンタジエン系単量体単位、テトラシクロドデセン系単量体単位及びトリシクロペンタジエン系単量体単位からなる群から選択される1種以上を50質量%以上含有してなり、ガラス転移温度が240℃以上であるノルボルネン系架橋重合体が開示されている。また、例えば特許文献2には、ノルボルネン骨格を有する単位と、マレイミド含有基を有する、ノルボルネン骨格を有する単位とを含む付加重合体が開示されている。さらにまた、例えば特許文献3には、ラジカルを含有する、ノルボルネン骨格を有する単位を少なくとも含む、付加重合体及び開環重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-104934号公報
【文献】国際公開第2008/070774号
【文献】特開2012-197440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ノルボルネン系重合体の特性の一つである、高い耐熱性に起因して、絶縁材料としての用途が注目されている。絶縁材料として応用するためには、ノルボルネン系重合体が、高い絶縁破壊電圧を呈し得ることが必要である。しかし、上記従来のノルボルネン系重合体の組成によっては、絶縁破壊電圧を十分に高めることができなかった。
【0006】
そこで、本発明は、絶縁破壊電圧の十分に高い、環状オレフィン開環共重合体を提供することを目的とする。
また、本発明は、絶縁材料を形成する際に有利に使用し得る絶縁材料用組成物を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、優れた性能を発揮し得る絶縁材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位、及びヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位を含む環状オレフィン開環共重合体において、ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位の含有割合が、0.01モル%以上15.00モル%以下である場合に、絶縁破壊電圧が十分に高めうることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の環状オレフィン開環共重合体は、ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位、及びヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位を含む環状オレフィン開環共重合体であって、前記ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位の含有割合が、前記環状オレフィン開環共重合体が有する全構造単位を100モル%として、0.01モル%以上15.00モル%以下である、ことを特徴とする。このように、所定の構造単位を含む環状オレフィン開環共重合体において、ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位の含有割合が、0.01モル%以上15.00モル%以下であれば、絶縁破壊電圧を十分に高め得る。
ここで、共重合体における「構造単位」とは、その繰り返しにより共重合体を形成し得る単位を意味する。そして、「構造単位の含有割合」は、H-NMRや13C-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0009】
ここで、本発明の環状オレフィン開環共重合体は、前記ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位の含有割合が、前記環状オレフィン開環共重合体が有する全構造単位を100モル%として、85.00モル%以上99.99モル%以下であることが好ましい。所定の構造単位を含む環状オレフィン開環共重合体において、ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位の含有割合が、85.00モル%以上99.99モル%以下であれば、環状オレフィン開環共重合体の絶縁破壊電圧を一層高め得る。
【0010】
また、本発明の環状オレフィン開環共重合体は、前記ヘテロ元素含有炭化水素基が環状構造を有することが好ましい。ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位のヘテロ元素含有炭化水素基が環状構造を有していれば、環状オレフィン開環共重合体の絶縁破壊電圧を一層高め得る。
【0011】
そして、本発明の環状オレフィン開環共重合体は、前記ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位が、芳香環を有する、ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位を含むことが好ましい。ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位が、芳香環を有する、ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位を含んでいれば、環状オレフィン開環共重合体の絶縁破壊電圧を一層高め得る。
【0012】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の絶縁材料用組成物は、上述した環状オレフィン開環共重合体の何れかを含むことを特徴とする。上述した環状オレフィン開環共重合体を含有する絶縁材料用組成物は、絶縁材料を形成する際に有利に使用し得る。
【0013】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の絶縁材料は、上述した絶縁材料用組成物を用いて形成したことを特徴とする。上述した絶縁材料用組成物を用いて形成した絶縁材料は、優れた性能を発揮し得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、絶縁破壊電圧の十分に高い、環状オレフィン開環共重合体を提供することができる。
また、本発明によれば、絶縁材料を形成する際に有利に使用し得る絶縁材料用組成物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、優れた性能を発揮し得る絶縁材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の環状オレフィン開環共重合体は、絶縁破壊電圧が十分に高いため、絶縁材料を形成する際に好適に用いることができる。
【0016】
(環状オレフィン開環共重合体)
環状オレフィン開環共重合体は、例えば、重合触媒の存在下で、ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物と、及びヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物と、含む単量体組成物を開環重合することにより得られる。そして、本発明の環状オレフィン開環共重合体は、ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位を含み、且つ、ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物に由来する構造単位の含有割合が、0.01モル%以上15.00モル%以下である。
【0017】
<ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位>
ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位を形成し得るノルボルネン化合物(以下、「ヘテロ元素含有ノルボルネン化合物」と称することがある。)としては下式(1)で表されるノルボルネン化合物が挙げられる。
【化1】
上記式(1)において、pは、0~4の整数であり、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、単結合、ヘテロ元素非含有炭化水素基、又はヘテロ元素含有炭化水素基であり、R~Rのうちの少なくとも1つは、ヘテロ元素含有炭化水素基であり、さらに、R~Rのうちの2つ以上が互いに結合して単環又は多環を形成していてもよい。
【0018】
より具体的には、R~Rでありうるヘテロ元素含有炭化水素基としては、置換又は非置換のイミド基、置換又は非置換のマレイミド基、置換又は非置換のカルボニル基、置換又は非置換のエポキシ基、が挙げられる。なお、本明細書において、「置換又は非置換の」とは、1つ以上の置換基を有する、或いは、置換基を有さないことを意味する。
【0019】
~Rでありうるヘテロ元素非含有炭化水素基としては、置換又は非置換の、炭素数1~20のアルキル基、置換又は非置換の炭素数1~40のアリール基等が挙げられる。
【0020】
上述した各種基が置換基を有する場合の置換基としては、特に限定されることなく、例えば、炭素数1~20の直鎖又は分岐鎖状アルキル基、炭素数6~40のアリール基が挙げられる。
【0021】
中でも、式(1)において、pが0であり、R~Rのうちの1つが、置換又は非置換のイミド基であり、かかるイミド基と、他の3つのうちの1つとにより環状構造が形成され、かかる環状構造が、ノルボルネン環と共に縮合環構造を形成していることが好ましい。この場合に、R~Rのうちの残り2つが水素原子であって、ヘテロ元素含有ノルボルネン化合物が、下式(2)を満たすマレイミド変性ノルボルネン化合物であることが好ましい。
【化2】
上記式においてRは水素又は炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖状アルキル基である。中でも、Rは、メチル基、エチル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-プロピル基、i-プロピル基等の、炭素数1~6の直鎖又は分岐鎖状アルキル基であることが好ましく、中でも、Rが、n-ブチル基、t-ブチル基、又はi-プロピル基であることがより好ましい。
【0022】
なお、上述したヘテロ元素含有ノルボルネン化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0023】
そして、環状オレフィン開環共重合体が有する全構造単位(100モル%)中で、ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物に由来する構造単位の含有割合が、0.10モル%以上10.00モル%以下であることが好ましく、0.50モル%以上5.00モル%以下であることがより好ましい。共重合体がかかる範囲内でヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物に由来する構造単位を有することで、絶縁破壊電圧が一層高まりうる。
【0024】
<ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位>
ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位を形成し得るノルボルネン化合物(以下、「ヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物」と称することがある。)としては下式(3)で表されるノルボルネン化合物が挙げられる。
【化3】
上記式(3)において、qは0~4の整数であり、R~Rは、水素原子又は置換又は非置換の炭化水素基である。なお、R~Rでありうる炭化水素基が置換基を有する場合には、当該置換基も、ヘテロ元素非含有の基である。
【0025】
中でも、ヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物としては、芳香環を有するヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物を、少なくとも用いることが好ましい。さらに、ヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物としては、芳香環を有するヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物、及び、芳香環を有さないヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物を併用することがより好ましい。換言すると、ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位が、少なくとも、芳香環を有するヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物由来の構造単位を含むことが好ましく、芳香環を有するヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物由来の構造単位及び芳香環を有さないヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物由来の構造単位を含むことがより好ましい。
【0026】
<<芳香環を有するヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物由来の構造単位>>
芳香環を有するヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物由来の構造単位を形成するために用いることができる芳香環を有するヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物としては、分子内に芳香環とノルボルネン環とを有する化合物が挙げられる。
なお、芳香環とノルボルネン環とは、それぞれ単環として別々に存在していてもよいし、縮合環を形成していてもよい。中でも、絶縁破壊電圧を一層高める観点からは、芳香環とノルボルネン環とは縮合環を形成していることが好ましい。
【0027】
ここで、芳香環としては、特に限定されることなく、ベンゼン環、ナフタレン環およびアントラセン環等の芳香族炭化水素環が挙げられる。
【0028】
また、分子内に芳香環とノルボルネン環とを有する化合物(芳香環を有するヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物)としては、特に限定されることなく、例えば、5-フェニル-2-ノルボルネン等のフェニルノルボルネン、5-メチル-5-フェニル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-ベンジル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-トリル-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン〔即ち、5-(4-メチルフェニル)-2-ノルボルネン〕、5-(エチルフェニル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、5-(イソプロピルフェニル)-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、8-フェニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-メチル-8-フェニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-ベンジル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-トリル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-(エチルフェニル)-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-(イソプロピルフェニル)-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8,9-ジフェニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-(ビフェニル)-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-(β-ナフチル)-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-(α-ナフチル)-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、8-(アントラセニル)-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン、11-フェニル-ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]-4-ヘプタデセン、6-(α-ナフチル)-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-(アントラセニル)-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-(ビフェニル)-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5-(β-ナフチル)-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、5,6-ジフェニル-ビシクロ[2.2.1]-ヘプト-2-エン、1,4-メタノ-1,4,4a,4b,5,8,8a,9a-オクタヒドロフルオレン、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-8-メチル-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロジベンゾフラン、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセン、7,10-メタノ-6b,7,10,10a-テトラヒドロフルオランセン、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物にシクロペンタジエンをさらに付加した化合物、11,12-ベンゾ-ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン、11,12-ベンゾ-ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘキサデセン、14,15-ベンゾ-ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5-エイコセンなどが挙げられる。なお、上述した芳香環を有するヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
中でも、絶縁破壊電圧を一層高める観点から、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンがより好ましい。
【0029】
<<芳香環を有さないヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物由来の構造単位>>
芳香環を有さないヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物由来の構造単位を形成し得るノルボルネン化合物(芳香環を有さないヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物)としては、特に限定されることなく、例えば、ノルボルネン;5-メチルノルボルネン、5-エチルノルボルネン、5-ブチルノルボルネン、5-ヘキシルノルボルネン、5-デシルノルボルネン、5-シクロヘキシルノルボルネン、5-シクロペンチルノルボルネン等のアルキル基を有するノルボルネン類;5-エチリデンノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、5-プロペニルノルボルネン、5-シクロヘキセニルノルボルネン、5-シクロペンテニルノルボルネン等のアルケニル基を有するノルボルネン類;ジシクロペンタジエン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン、トリシクロ[4.4.12,5.0]ウンダ-3-エン等のジシクロペンタジエン類;テトラシクロドデセン(テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン);8-メチルテトラシクロドデセン、8-エチルテトラシクロドデセン、8-シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8-シクロペンチルテトラシクロドデセン等のアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;8-メチリデンテトラシクロドデセン、8-エチリデンテトラシクロドデセン、8-ビニルテトラシクロドデセン、8-プロペニルテトラシクロドデセン、8-シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8-シクロペンテニルテトラシクロドデセン等の環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;ヘキサシクロヘプタデセン;12-メチルヘキサシクロヘプタデセン、12-エチルヘキサシクロヘプタデセン、12-シクロヘキシルヘキサシクロヘプタデセン、12-シクロペンチルヘキサシクロヘプタデセン等のアルキル基を有するヘキサシクロヘプタデセン類;12-メチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12-エチリデンヘキサシクロヘプタデセン、12-ビニルヘキサシクロヘプタデセン、12-プロペニルヘキサシクロヘプタデセン、12-シクロヘキセニルヘキサシクロヘプタデセン、12-シクロペンテニルヘキサシクロヘプタデセン等の環外に二重結合を有するヘキサシクロヘプタデセン類;などが挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
中でも、絶縁破壊電圧を一層高める観点から、ジシクロペンタジエン及びテトラシクロドデセン(テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン)が好ましい。
【0030】
そして、環状オレフィン開環共重合体が有する全構造単位(100モル%)中でヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位が占める割合は、99.99モル%以下である必要があり、85.00モル%以上であることが好ましく、99.50モル%以下であることがより好ましい。ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位の割合が上記範囲内であれば、絶縁破壊電圧を一層高めることができる。
【0031】
さらに、ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位を100モル%とした場合には、芳香環を有する単位の占める割合が10モル%以上であることが好ましく、25モル%以上であることがより好ましく、90モル%以下であることが好ましく、75モル%以下であることがより好ましい。ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物由来の構造単位を100モル%とした場合の、芳香環を有する単位の占める割合が上記範囲内であれば、絶縁破壊電圧を一層高めることができる。
【0032】
なお、環状オレフィン開環共重合体は、任意で、ノルボルネン構造を有さない単位として、ノルボルネン構造を有さない環状オレフィンモノマーに由来する開環重合単位を有していてもよいが、環状オレフィン開環共重合体が有する全構造単位(100モル%)中における、ノルボルネン構造を有さない単位の割合は、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、0%であることがさらに好ましい。
【0033】
環状オレフィン開環共重合体に対して、ノルボルネン構造を有さない単位を導入するために用いることができるノルボルネン構造を有さない環状オレフィンモノマーとしては、単環の環状オレフィンモノマーが挙げられる。単環の環状オレフィンとしては、炭素数が通常4~20、好ましくは4~10の環状モノオレフィン又は環状ジオレフィンが挙げられる。環状モノオレフィンの具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、メチルシクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等が挙げられる。環状ジオレフィンの具体例としては、シクロヘキサジエン、メチルシクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチルシクロオクタジエン、フェニルシクロオクタジエン等が挙げられる。これらは、一種類を単独で、或いは複数種を混合して用いることができる。
【0034】
<環状オレフィン開環共重合体の製造方法>
本発明の環状オレフィン開環共重合体は、メタセシス重合触媒を用いた開環重合などの公知の開環重合方法を用いて調製することができる。
【0035】
ここで、メタセシス重合触媒及び任意で併用され得る添加剤としては、特に限定はなく、ルテニウムカルベン錯体等の、公知のものが用いられる(例えば、特開2019-104934号公報、及び特許第6104263号参照)。触媒及び添加剤等の使用量は、重合条件等により適宜選択すればよい。
【0036】
また、重合反応は、塊状重合で行うことができる。この際、重合温度、重合圧力、重合時間などの重合条件は、適宜調整することができる。
【0037】
(絶縁材料用組成物)
本発明の絶縁材料用組成物は、上述した本発明の環状オレフィン開環共重合体を含み、任意に、各種添加剤を更に含有している。
そして、本発明の絶縁材料用組成物は、絶縁破壊電圧が高い共重合体を含むので、絶縁材料を形成する際に特に有利に使用することができる。
【0038】
ここで、絶縁材料用組成物が含有し得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば特開2019-104934号公報に記載の充填剤等が挙げられる。なお、添加剤の添加割合は、絶縁破壊電圧向上効果を損なわない限りにおいて、用途に応じて適宜に調節することができる。
【0039】
(絶縁材料)
本発明の絶縁材料は、本発明の絶縁材料用組成物を用いて形成されたものであり、本発明の環状オレフィン開環共重合体を含んでいるので、優れた性能を発揮し得る。
【0040】
ここで、絶縁材料を得るための成形方法としては、特に限定されることなく、RIM(Reaction Injection Molding)成形法、RTM(Resin Transfer Molding)法、ポッティング法、(固体、液体)トランスファー成形法、圧縮成形法、印刷成形法、真空成型法等を挙げることができる。中でも、本発明の絶縁材料は、ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物、ヘテロ元素非含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物、及びメタセシス重合触媒を含有する配合物を、成形型内で塊状開環重合させるRIM成形法により、好適に製造することができる。
【実施例
【0041】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、各例における測定や評価は、以下の方法により行った。また、以下の説明において、量を表す「部」および「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0042】
(絶縁破壊電圧の測定)
JIS-C2110-1(2010)に準拠し、実施例、比較例で得た試験試料を、絶縁性液体であるフロリナート中で2つの球状電極間に挟んで固定した。10kVまで昇圧した後、10秒間で1kVずつ昇圧させる段階昇圧法により、試験試料に対して電圧印加を行った。試験試料が短絡(ショート)した1段階前の電圧を、当該試験試料の絶縁破壊電圧(Break Down Voltage)として記録した。
さらに、各試験試料について記録した絶縁破壊電圧の値Vを、同じ組成のベースモノマー混合物を用いて得た試験試料について記録した絶縁破壊電圧の値Vと比較して、向上率(%)=V/V×100-100を得た。
【0043】
(実施例1)
<触媒液の調製>
メタセシス重合触媒として、下記式で示すルテニウム触媒(Zhan 1N)0.6部、及び、老化防止剤としての2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)15部を、シクロペンタノン82部に溶解させることで、触媒液を得た。
【化4】
上記式中、Mesはメシチル基を示す。
【0044】
<サンプル板の成形>
芳香環を有さないヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物としての、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン(以下、「TCD」と略すことがある。分子量:160.85g/mol)を6.43g(約0.04mol)と、芳香環を有するヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物としての1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン(以下、「MTF」と略すことがある。分子量:182.95g/mol)を7.32g(約0.04mol)とを、それぞれ量り取って混合して、ベースモノマー混合物を得た。かかるベースモノマー混合物に対して、下記式で示す、ヘテロ元素含有炭化水素基を有するノルボルネン化合物としてのマレイミド変性ノルボルネンモノマーを、0.41g(約0.002mol)を室温で溶解して樹脂液を得た。得られた樹脂液に対して、上記にて調製した触媒液0.41gを加えて撹拌により混合し、重合性組成物を得た。
【化5】
上記式中、Rはイソプロピル基である。
【0045】
金型として縦100mm×横100mm×厚さ0.15mmの空間を有するステンレス製雄型を準備し、上記にて得られた重合性組成物を空間に注ぎ、空隙が入らないように注意しながら上面にもう1枚の平面平滑なステンレス板を被せ、プレス成型機にて温度80℃、圧力10MPaにて10分間加熱し、さらに120℃、圧力10MPaにて10分間加熱することで塊状開環重合反応を行ってサンプル板を得た。
得られたサンプル板から40mm×40mmの切片を切り出し試験試料とし、上記の方法に従って、23℃における絶縁破壊電圧の測定を行った。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例2)
マレイミド変性ノルボルネンモノマーを、ベースモノマー混合物に対して0.69g(約0.003mol)添加して、室温で溶解した以外は実施例1と同様にサンプル板を成形し、絶縁破壊電圧の測定を行った。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例3)
マレイミド変性ノルボルネンモノマーをベースモノマー混合物に対し0.14g(約0.0007mol)添加して、室温で溶解した以外は実施例1と同様にサンプル板を成形し、絶縁破壊電圧の測定を行った。結果を表1に示す。
【0048】
(実施例4)
ベースモノマー混合物の調製にあたり、芳香環を有さないヘテロ元素非含有ノルボルネン化合物としてのジシクロペンタジエン(以下、「DCP」と略すことがある。分子量:132.2g/mol)を2.78g(約0.02mol)、TCDを9.65g(約0.06mol)それぞれ量り取って混合しベースモノマー混合物を得た。得られたベースモノマー混合物に対して、マレイミド変性ノルボルネンモノマー0.12g(約0.0006mol)を添加して、室温で溶解した。得られた樹脂液を用いて実施例1と同様にサンプル板を成形し絶縁破壊電圧の測定を行った。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例5)
実施例4と同じベースモノマー混合物にマレイミド変性ノルボルネンモノマー0.62g(約0.003mol)を添加し、室温で溶解した。得られた樹脂液を用いて実施例1と同様にサンプル板を成形し絶縁破壊電圧の測定を行った。結果を表1に示す。
【0050】
(比較例1)
実施例4と同じベースモノマー混合物を調製し、マレイミド変性ノルボルネンは加えずベースモノマー混合物のみの樹脂液とし、得られた樹脂液を用いて実施例1と同様にサンプル板を成形し絶縁破壊電圧の測定を行った。結果を表1に示す。
【0051】
(比較例2)
ベースモノマー混合物を調製する際に、DCPを8.33g(約0.06mol)、MTFを3.66g(約0.02mol)混合し、マレイミド変性ノルボルネンモノマーは加えずベースモノマー混合物のみの樹脂液とし、得られた樹脂液を用いて実施例1と同様にサンプル板を成形し絶縁破壊電圧の測定を行った。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例3)
実施例1と同じベースモノマー混合物を調製し、マレイミド変性ノルボルネンは加えずベースモノマー混合物のみの樹脂液とし、得られた樹脂液を用いて実施例1と同様にサンプル板を成形し絶縁破壊電圧の測定を行った。結果を表1に示す。
【0053】
(比較例4)
実施例1と同じベースモノマー混合物に対し、マレイミド変性ノルボルネンモノマー3.36g(約0.016mol)を室温で溶解して樹脂液を得た。得られた樹脂液を用いて実施例1と同様にサンプル板を成形し絶縁破壊電圧の測定を行った。結果を表1に示す。
【0054】
なお、表1において、
「NB」は、ノルボルネン化合物を、
「TCD」は、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エンを、
「MTF」は、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンを、
「DCP」は、ジシクロペンタジエンを、
「NBNiPr」は、イソプロピル基置換マレイミド変性ノルボルネン化合物を、
それぞれ示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1より、実施例1~5で得られた、マレイミド変性ノルボルネンモノマーの添加量が所定の範囲内(0.01モル%以上15.00モル%以下)である環状オレフィン開環共重合体は、同じベースモノマーを用いて得た共重合体と比較して、絶縁破壊電圧が向上していたことが分かる。
また、表1の比較例4より、マレイミド変性ノルボルネンモノマーの添加量が15.00モル%超の場合にも、絶縁破壊電圧向上効果を奏することができなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、絶縁破壊電圧の十分に高い、環状オレフィン開環共重合体を提供することができる。
また、本発明によれば、絶縁材料を形成する際に有利に使用し得る絶縁材料用組成物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、優れた性能を発揮し得る絶縁材料を提供することができる。