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特許7619656導電性組成物、ダイアタッチ材、加圧焼結型ダイアタッチ材及び電子部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】導電性組成物、ダイアタッチ材、加圧焼結型ダイアタッチ材及び電子部品
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20250115BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20250115BHJP
   C09J 9/02 20060101ALI20250115BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20250115BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20250115BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
C08L63/00
C08K3/08
C09J9/02
C09J11/04
C09J201/00
H01B1/22 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022541128
(86)(22)【出願日】2021-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2021020998
(87)【国際公開番号】W WO2022030089
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2020132286
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 幸司
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-004016(JP,A)
【文献】特開2016-160413(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063931(WO,A1)
【文献】特開2016-023256(JP,A)
【文献】特開昭60-001221(JP,A)
【文献】特開昭63-017925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00
C08K 3/08
C09J 9/02
C09J 11/04
C09J 201/00
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)平均粒径が0.05~5μmである銀粒子と、(B)溶剤と、(C)熱硬化性樹脂と、を含み、
(C)熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂を含み、
(C)熱硬化性樹脂の易可けん化塩素濃度が3,000~12,000ppmであり、
(A)銀粒子100質量部に対し、(C)熱硬化性樹脂を0.1~1.5質量部含む、導電性組成物。
【請求項2】
(A)銀粒子が、平均粒径が0.05~0.5μmである銀微粒子を含む、請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の導電性組成物を含む、ダイアタッチ材。
【請求項4】
請求項1または2に記載の導電性組成物を含む、加圧焼結型ダイアタッチ材。
【請求項5】
請求項1または2に記載の導電性組成物の焼結体を有する、電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物、ダイアタッチ材、加圧焼結型ダイアタッチ材及び電子部品に関する。更に詳しくは、低温又は短時間の熱処理でも銀粒子同士を焼結させて、優れたダイシェア強度を実現することが可能な導電性組成物、並びにこのような導電性組成物を含む、ダイアタッチ材、加圧焼結型ダイアタッチ材及び電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ダイアタッチ材等の半導体装置及び電気・電子部品の各部材の接着に用いられる材料には、生産性の観点から、加圧・無加圧にかかわらず、低温又は短時間での熱処理でも銀粒子同士を焼結させて、十分な導電性を有する導電性組成物が求められている。
【0003】
半導体装置における各部材の接着に関する技術として、例えば、基体と半導体素子との間にダイアタッチ材を配置し、半導体素子と基体とを加熱して半導体素子と基体とを接合する方法などが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
例えば、特許文献1には、以下に示すような3つの工程により、半導体素子と基体とを接合する方法が開示されている。一番目の工程は、基体の表面に施された銀若しくは酸化銀の上に、半導体素子の表面に施された銀若しくは酸化銀が接触するように配置する工程である。二番目の工程は、半導体素子若しくは基体に、圧力を加え若しくは超音波振動を加え、半導体素子と基体とを仮接合する工程である。そして、三番目の工程は、半導体素子及び基体に150℃~900℃の温度を加え、半導体素子と基体とを本接合する工程である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2010/084742号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のダイアタッチ材等の導電性組成物は、低温又は短時間の熱処理では十分なダイシェア強度を実現させることが困難であるという問題があった。例えば、特許文献1における実施例14では、半導体発光素子が仮接合された基体を、窒素気流中、約320℃で約30分間加熱し、本接合を行っており、このような導電性組成物では接合に時間が掛かり、低温又は短時間の焼結とダイシェア強度の両立が十分とは言えないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明は、加圧・無加圧にかかわらず、低温又は短時間の熱処理でも銀粒子同士を焼結させて、優れたダイシェア強度を実現することが可能な導電性組成物が提供される。また、本発明は、上述した導電性組成物を含み、優れたダイシェア強度が実現されたダイアタッチ材、加圧焼結型ダイアタッチ材及び電子部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示す導電性組成物、ダイアタッチ材、加圧焼結型ダイアタッチ材及び電子部品が提供される。
【0009】
[1] (A)平均粒径が0.05~5μmである銀粒子と、(B)溶剤と、(C)熱硬化性樹脂と、を含み、
(C)熱硬化性樹脂の易可けん化塩素濃度が3,000~12,000ppmであり、
(A)銀粒子100質量部に対し、(C)熱硬化性樹脂を0.1~1.5質量部含む、導電性組成物。
【0010】
[2] (C)熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含む、前記[1]に記載の導電性組成物。
【0011】
[3] (A)銀粒子が、平均粒径が0.05~0.5μmである銀微粒子を含む、前記[1]又は[2]に記載の導電性組成物。
【0012】
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の導電性組成物を含む、ダイアタッチ材。
【0013】
[5] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の導電性組成物を含む、加圧焼結型ダイアタッチ材。
【0014】
[6] 前記[1]~[3]のいずれかに記載の導電性組成物の焼結体を有する、電子部品。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導電性組成物は、加圧・無加圧にかかわらず、低温又は短時間の熱処理でも銀粒子同士を焼結させて、優れたダイシェア強度を実現することができるという効果を奏する。また、本発明のダイアタッチ材、加圧焼結型ダイアタッチ材及び電子部品は、上述した本発明の導電性組成物を含み、優れたダイシェア強度を有するという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0017】
[導電性組成物]
本発明の導電性組成物の実施形態は、(A)平均粒径が0.05~5μmである銀粒子と、(B)溶剤と、(C)熱硬化性樹脂と、を含む導電性組成物である。本実施形態の導電性組成物は、ダイアタッチ材等の半導体装置及び電気・電子部品の各部材の接着に用いられる。以下、「(A)平均粒径が0.05~5μmである銀粒子」を、単に「(A)銀粒子」ということがある。
【0018】
本実施形態の導電性組成物は、(C)熱硬化性樹脂の易可けん化塩素濃度が3,000~12,000ppmであり、(A)銀粒子100質量部に対し、(C)熱硬化性樹脂を0.1~1.5質量部含むものである。このように構成された導電性組成物は、加圧・無加圧にかかわらず、低温又は短時間の熱処理でも銀粒子同士を焼結させて、優れたダイシェア強度を実現することができる。以下、本実施形態の導電性組成物を構成する各成分について、更に詳細に説明する。
【0019】
[(A)銀粒子]
(A)銀粒子は、銀(Ag)又は銀合金を含む粒子である。(A)銀粒子の形状は、特に限定されず、例えば、球状、フレーク状、りん片状、針状等、どのような形状であってもよい。(A)銀粒子として、異なる形状の銀粒子が混合した銀粒子を用いてもよい。なお、多数の銀粒子(Ag粒子)を銀粉末(Ag粉末)という場合がある。他の粒子についても同様である。
【0020】
(A)銀粒子は、平均粒径が0.05~5μmであることが好ましく、焼結性の観点から、1.5μm以下の銀粒子であるとより好ましい。なお、本明細書において、銀粒子及び銀微粒子は、1次粒子の状態で用いてもよいし、2次粒子の状態で用いてもよいし、1次粒子と2次粒子が混在した状態でもよい。1次粒子で用いる場合の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察される1次粒子200個を観察した際の粒子の径の平均値(個数平均値)により測定することができる。2次粒子で用いる場合の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察される2次粒子200個を観察した際の粒子の径の平均値(個数平均値)により測定することができる。1次粒子と2次粒子が混在した場合の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察される1次粒子及び2次粒子の合計200個を観察した際の粒子の径の平均値(個数平均値)により測定することができる。このSEMでの観察を行う場合のSEMの倍率は、銀粒子及び銀微粒子を観察するのに適宜、適切なサイズを選択することができる。通常は、3000~50000倍の倍率を用いる。なお、1次粒子及び2次粒子は、JIS H7008(金属超微粒子)に記載の定義に基づくものである。
【0021】
(A)銀粒子の作製方法は、特に限定されず、例えば、(A)銀粒子は、還元法、粉砕法、電解法、アトマイズ法、熱処理法、あるいはそれらの組合せによって作製することができる。
【0022】
また、(A)銀粒子は、平均粒径が1μm以下の(a)銀微粒子を含んでいてもよい。(a)銀微粒子を含むことによって、ダイシェア強度をより高くすることができる。
【0023】
(a)銀微粒子は、平均粒径が0.05~0.5μmであることがより好ましく、0.05~0.4μmであることが更に好ましく、0.05~0.2μmであることがより更に好ましい。なお、(a)銀微粒子は通常、略球状である。(a)銀微粒子の平均粒径が上記範囲であると、(a)銀微粒子及び当該(a)銀微粒子を含む(A)銀粒子の凝集が抑制され、保存安定性が得られやすい。
【0024】
(a)銀微粒子は、好ましくは結晶子径が20~70nmであり、より好ましくは20~50nmである。結晶子径がこの範囲であると、焼成時の体積収縮が抑制されるとともに、焼成後に形成される接着部の緻密性や表面平滑性が確保される。
【0025】
(a)銀微粒子は、銀微粒子の結晶子径に対する平均粒径の比(平均粒径/結晶子径)が好ましくは1.5~5であり、より好ましくは1.5~4であり、さらに好ましくは1.5~3の範囲である。上記の比がこの範囲であると、例えば200℃以下の焼成温度で、十分な導電性を示す接着部を形成することができる。
【0026】
(a)銀微粒子として、カルボン酸の銀塩に第一級アミンを作用させ、次いで還元反応により析出させた銀微粒子、又は、有機物で被覆若しくは処理された銀微粒子を使用することができる。前者としては、特開2006-183072号公報、特開2011-153362号公報等に開示された銀微粒子が例示され、後者としては、特開2009-289745号公報、特開2010-65277号公報等に開示された銀微粒子が例示される。また、(a)銀微粒子としては、国際公開第2017/169534号等に開示された銀微粒子を使用することもできる。(a)銀微粒子は、ナノオーダーであり、単位重量当りの総表面積が大きく、表面エネルギーも高く、そもそもの焼結性が良好であることに加えて、焼結時に、表面の有機物が揮発・熱分解・溶剤に溶出する等して、銀の表面が露出し、(a)銀微粒子同士が直接接触することとなり、焼結が進行しやすい。
【0027】
具体的には、(a)銀微粒子は、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合し、次いで還元剤を添加して、反応温度20~80℃で析出させることにより作製することができる。
【0028】
カルボン酸の銀塩は、特に限定されない。カルボン酸の銀塩は、脂肪族、芳香族いずれのカルボン酸の銀塩であってもよい。また、モノカルボン酸の銀塩であっても、ジカルボン酸等の多価カルボン酸の銀塩であってもよい。脂肪族カルボン酸の銀塩は、鎖状脂肪族カルボン酸の銀塩であっても、環状脂肪族カルボン酸の銀塩であってもよい。脂肪族モノカルボン酸の銀塩が好ましく、より好ましくは、鎖状脂肪族モノカルボン酸の銀塩であり、さらに好ましくは、酢酸銀、プロピオン酸銀又は酪酸銀であり、特に酢酸銀である。これらは単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0029】
脂肪族第一級アミンは、特に限定されず、鎖状脂肪族第一級アミンであっても、環状脂肪族第一級アミンであってもよい。また、モノアミン化合物であっても、ジアミン化合物等のポリアミン化合物であってもよい。脂肪族第一級アミンには、脂肪族炭化水素基が、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロピル基等のアルコキシ基で置換されたものも含み、より好ましくは、3-メトキシプロピルアミン、3-アミノプロパノール及び1,2-ジアミノシクロヘキサンである。これらは、単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0030】
脂肪族第一級アミンの使用量は、作製する(a)銀微粒子の後処理等プロセス上の要請や装置から決められるが、制御された粒子径の銀微粒子を得る点からは、カルボン酸の銀塩1当量に対して、1当量以上であることが好ましい。過剰な脂肪族第一級アミンの環境等への影響を考慮すると、カルボン酸の銀塩1当量に対して、脂肪族第一級アミンの使用量は1.0~3.0当量であることが好ましく、より好ましくは1.0~1.5当量、特に好ましくは1.0~1.1当量である。例えば、過剰な脂肪族第一級アミンは加熱により気化する可能性があるため、上記の好ましい使用量の範囲を採用することが望ましい。
【0031】
カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとの混合は、有機溶媒の非存在下又は存在下に行うことができ、混合の容易さの点からは、有機溶媒の存在下であることが好ましい。有機溶媒としては、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を併用することができる。有機溶媒の使用量は、混合の利便性、後続の工程での(a)銀微粒子の生産性の点から、任意の量とすることができる。
【0032】
カルボン酸塩の銀塩と脂肪族第一級アミンとの混合は、例えば、第一級脂肪族アミン、又は第一級脂肪族アミンと有機溶媒の混合物を撹拌しながら、カルボン酸の銀塩を添加して行うことができる。添加終了後も、適宜、撹拌を続けることができる。その間、温度を、20~80℃に維持することが好ましく、より好ましくは、20~60℃である。
【0033】
その後、還元剤を添加して、(a)銀微粒子を析出させる。還元剤としては、反応の制御の点から、ギ酸、ホルムアルデヒド、アスコルビン酸又はヒドラジンが好ましく、より好ましくは、ギ酸である。これらは、単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0034】
還元剤の使用量は、通常、カルボン酸の銀塩に対して酸化還元当量以上であり、酸化還元当量が、0.5~5倍であることが好ましく、より好ましくは1~3倍である。カルボン酸の銀塩がモノカルボン酸の銀塩であり、還元剤としてギ酸を使用する場合、ギ酸のモル換算での使用量は、カルボン酸の銀塩1モルに対して、0.5~1.5モルであることが好ましく、より好ましくは0.5~1.0モル、更に好ましくは0.5~0.75モルである。
【0035】
還元剤の添加及びその後の反応においては、温度を好ましくは20~80℃に維持する。還元剤の添加及びその後の反応の温度は、より好ましくは20~70℃であり、さらに好ましくは20~60℃である。温度がこの範囲にあると、(a)銀微粒子の粒成長が十分であり、生産性も高く、また二次凝集も抑制される。還元剤の添加及びその後の反応に要する時間は、反応装置の規模にも依存するが、通常、10分~10時間である。還元剤の添加及びその後の反応に際して、必要に応じて、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、プロピレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トルエン等の芳香族炭化水素等の有機溶媒を追加で添加することができる。
【0036】
還元剤の添加及びその後の反応においては、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合した溶液、還元剤、及び任意の有機溶媒の合計の容積(L)に対する、カルボン酸の銀塩の量(mol)が、1.0~6.0mol/Lの範囲となるようにすることが好ましく、より好ましくは、2.0~5.0mol/L、さらに好ましくは2.0~4.0mol/Lである。濃度がこの範囲にあると、反応液の撹拌を十分行い、反応熱を除去することができるため、析出する(a)銀微粒子の平均粒子径が適切となり、ひいては後続する工程での沈降デカント、溶媒置換等の操作に支障を来すこともない。
【0037】
反応容器にカルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合した溶液と任意の有機溶媒を仕込み、還元剤を連続的に供給するセミバッチ方式で反応を行った場合、カルボン酸の銀塩と脂肪族第一級アミンとを混合した溶液、還元剤及び任意の有機溶媒の合計の容積1Lにつき、還元剤の添加開始から反応終了までの所要時間1時間当たりの(a)銀微粒子の析出量は、0.3~1.0mol/h/Lの範囲とすることができ、生産性は非常に大きい。連続式反応方式(連続式完全混合糟や流通式)で反応を実施した場合はさらに大きな生産性が得られ、工業的実施に対して大きな利得を与える。
【0038】
このようにして得られる(a)銀微粒子は粒度分布が狭く、幾何標準偏差を2.0以下とすることができる。本明細書において、幾何標準偏差は、レーザー回折散乱式粒度分布測定による、個数基準の50%粒子径(D50値)に対する、84.3%粒子径(D84.3値)の比(D84.3値/D50値)をいう。
【0039】
反応により析出した(a)銀微粒子は沈降させて、デカンテーション等により上澄みを除去するか、又はメタノール、エタノール、ターピネオール等のアルコール等の溶媒を添加して分取することができる。銀微粒子を含む層はそのまま、溶媒を含む状態で使用することができる。
【0040】
別法として、(a)銀微粒子は、還元法、粉砕法、電解法、アトマイズ法、熱処理法、又はそれらの組合せによって製造した銀微粒子を、有機物で被覆することによって得ることができる。低温焼結性の点から、還元法で製造した(a)銀微粒子を、有機物で被覆することが好ましい。
【0041】
有機物としては、高・中級脂肪酸及びその誘導体が挙げられる。誘導体としては、高・中級脂肪酸金属塩、高・中級脂肪酸アミド、高・中級脂肪酸エステル及び高・中級アルキルアミンが例示される。中でも、高・中級脂肪酸が好ましい。
【0042】
高級脂肪酸は、炭素原子数15以上の脂肪酸であり、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)、12-ヒドロキシオクタデカン酸(12-ヒドロキシステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸(リグノセリン酸)、ヘキサコサン酸(セロチン酸)、オクタコサン酸(モンタン酸)等の直鎖飽和脂肪酸;2-ペンチルノナン酸、2-ヘキシルデカン酸、2-ヘプチルドデカン酸、イソステアリン酸等の分枝飽和脂肪酸;パルミトレイン酸、オレイン酸、イソオレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、ガドレン酸、エルカ酸、セラコレイン酸等の不飽和脂肪酸が例示される。
【0043】
中級脂肪酸は、炭素原子数が6~14の脂肪酸であり、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ペラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、トリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)等の直鎖飽和脂肪酸;イソヘキサン酸、イソヘプタン酸、2-エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、イソノナン酸、2-プロピルヘプタン酸、イソデカン酸、イソウンデカン酸、2-ブチルオクタン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸等の分枝飽和脂肪酸;10-ウンデセン酸等の不飽和脂肪酸が例示される。
【0044】
高級脂肪酸及びその誘導体で被覆した(a)銀微粒子を、より低級の脂肪酸で置換したものを使用することもできる。(a)銀微粒子の焼結性及び分散安定性の点から、炭素原子数が12~18の脂肪酸で被覆した銀微粒子が好ましい。(a)銀微粒子は、単独でも、二種以上を併用してもよい。
【0045】
(a)銀微粒子は、導電性組成物中の(a)銀微粒子が、180~250℃の温度条件下で20分から2時間保持したときに焼結するものであることが好ましい。導電性組成物中の(a)銀微粒子は、190~220℃の温度条件で20分から2時間保持したときに焼結するものであることがより好ましい。導電性組成物中の(a)銀微粒子は、195~210℃の温度条件で20分から2時間保持したときに焼結するものであることがさらに好ましい。導電性組成物中の(a)銀微粒子が、上記の条件で焼結できるものであると、導電性組成物中に含まれる(a)銀微粒子によって、例えば200℃以下の焼成温度で、十分な導電性を示す接合部を形成することができる。導電性組成物中の(a)銀微粒子が180~250℃の温度条件下で20分から2時間保持したときに単身で焼結するかどうかは、例えば、日本電子社製の電界放出形走査電子顕微鏡(JSM7500F(商品名))により確認することができる。
【0046】
導電性組成物中の(A)銀粒子の含有量は、特に限定されないが、十分な熱伝導率を確保する観点から、導電性樹脂組成物全体(100質量%)に対して、銀換算で、好ましくは75~93質量%、より好ましくは80~93質量%、さらに好ましくは85~93質量%、特に好ましくは90~93質量%である。なお、導電性樹脂組成物の(A)銀粒子の質量は、導電性樹脂組成物を800℃5分間で加熱したときの残存量を100質量%とする。
【0047】
なお、本実施形態の導電性組成物は、ダイアタッチ材として好適に用いることができる。このようなダイアタッチ材は、接合プロセスにおいて、加圧・無加圧にかかわらず、低温又は短時間の熱処理でも銀粒子同士を焼結させて、優れたダイシェア強度を実現することができるものであるが、このダイアタッチ材を無加圧で焼結させる場合は、焼結性を向上させる観点から、加圧焼結型ダイアタッチ材と比べて、(a)銀微粒子をより多く含んだほうが好ましい。即ち、無加圧焼結型ダイアタッチ材における(A)銀粒子中の(a)銀微粒子の含有量は、焼結性向上の観点から(A)銀粒子100質量%に対して、銀換算で、好ましくは30~65質量%、より好ましくは35~60質量%、さらに好ましくは40~60質量%、特に好ましくは45~55質量%である。一方、加圧焼結型ダイアタッチ材における(A)銀粒子中の(a)銀微粒子の含有量は、コスト上の観点や、焼結性を確保しかつ焼結収縮を抑えるという観点から(A)銀粒子100質量%に対して、銀換算で、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~30質量%、さらに好ましくは0~15質量%、特に好ましくは0~10質量%である。
【0048】
[(B)溶剤]
本実施形態の導電性組成物に用いられる(B)溶剤は、当該分野において公知のものを使用することができる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジヒドロターピネオール等のアルコール系溶剤;トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、p-シメン、テトラリン及び石油系芳香族炭化水素混合物等の芳香族炭化水素系溶剤;ターピネオール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール等のテルペンアルコール;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコ-ルモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール系溶剤;メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;並びにエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール2-メチルプロパノアート等のエステル系溶剤、水等が挙げられる。溶剤は、単独でも、又は2種類以上を併用することもできる。
【0049】
(B)溶剤は、例えば、水酸基を有し沸点が180~265℃、好ましくは180~250℃のアルコール系溶剤であることが好ましく、中でも、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール2-メチルプロパノアート、ジヒドロターピネオール、ベンジルアルコールが好ましく、その中でも、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール2-メチルプロパノアート(慣用名:テキサノール)、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテルがより好ましい。
【0050】
導電性組成物中の(B)溶剤の含有量は、特に限定されないが、導電性組成物100質量%に対して、好ましくは1~20質量%、より好ましくは1.5~18質量%、さらに好ましくは2~15質量%である。導電性組成物中の(B)溶剤の含有量が、上記範囲であると、安定性に優れ、導電性組成物を均一に被着対象に塗布することができ、印刷性や転写性に優れる。また、(A)銀粒子の焼結時に溶剤が揮発しても、被着対象と接合部に生じるボイドを抑制し、所望の厚みの接合部を形成することができる。
【0051】
[(C)熱硬化性樹脂]
本実施形態の導電性組成物に用いられる(C)熱硬化性樹脂は、易可けん化塩素濃度が3,000~12,000ppmの熱硬化性樹脂である。そして、本実施形態の導電性組成物は、(A)銀粒子100質量部に対し、(C)熱硬化性樹脂を0.1~1.5質量部含む。易可けん化塩素濃度が3,000~12,000ppmの(C)熱硬化性樹脂を上述したような所定量含むことにより、低温又は短時間の焼結でも、十分なダイシェア強度を維持することができる。なお、易可けん化塩素は、後述するようにエポキシ樹脂の製造工程で不純物として発生するものであり、(メタ)アクリレート、ビスマレイミド類、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂の製造工程では、通常であれば、易化けん化塩素は発生しない。しかしながら、低温又は短時間の焼結とダイシェア強度の両立を目的として、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂に対して、易化けん化塩素を別途添加しても良い。なお、本発明における導電性組成物は主に、焼結型のダイアタッチ材として用いることができるものであり、硬化剤や硬化促進剤は必須成分ではない。ただし、任意成分として、例えば、導電性組成物の弾性率を低減させることを目的として、硬化剤を添加することも可能である。
【0052】
導電性組成物中の(C)熱硬化性樹脂の含有量は、上述したように、(A)銀粒子100質量部に対して0.1~1.5質量部であるが、(C)熱硬化性樹脂の易可けん化塩素濃度の高低により、適宜、その含有量を調節してもよい。即ち、(C)熱硬化性樹脂は、易可けん化塩素濃度が3,000~12,000ppmの範囲のものであればよいが、例えば、(C)熱硬化性樹脂として、上記濃度範囲内において相対的に高濃度のもの用いる場合には、(C)熱硬化性樹脂の含有量を比較的少量としても焼結性に対して有効な効果が得られる。一方、(C)熱硬化性樹脂として、上記濃度範囲内において相対的に低濃度のものを用いる場合には、高濃度のものを用いた場合に比して熱硬化性樹脂の含有量を若干増やすことにより、焼結性に対する効果を向上させることができる。
【0053】
(C)熱硬化性樹脂の種類としては、エポキシ樹脂、(メタ)アクリレート、ビスマレイミド類、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。ただし、本実施形態の導電性組成物に用いられる(C)熱硬化性樹脂は、易可けん化塩素を含む熱硬化性樹脂であり、上述したように、易可けん化塩素濃度が3,000~12,000ppmの範囲を満たすものであることが必要である。
【0054】
「易可けん化塩素」とは、「脱塩化水素化が不完全な場合に発生する1,2-クロルヒドリンとして存在する塩素種」のことをいう。易可けん化塩素としては、例えば、1,2-クロルヒドリン体、1,3-クロルヒドリン体、1-クロロメチル-2-グリシジルエーテル体(クロロメチル体)等が挙げられる。これらは通常、エポキシ樹脂の製造工程で、不純物として発生する。
【0055】
1,2-クロルヒドリン体としては、例えば一般式(1)で示される化合物等が挙げられる。1,3-クロルヒドリン体としては、例えば、一般式(2)で示される化合物等が挙げられる。クロロメチル体としては、例えば、一般式(3)で示される化合物等が挙げられる。下記一般式(1)~(3)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基である。nは0~30の整数であり、0~20が好ましく、0~10がさらに好ましい。
【0056】
【化1】
【0057】
【化2】
【0058】
【化3】
【0059】
(C)熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を含むことが好ましい。エポキシ樹脂の種類については特に制限はなく、公知のエポキシ樹脂を用いることができる。例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビフェニル型、テトラメチルビフェニル型、クレゾールノボラック型、フェノールノボラック型、ビスフェノールAノボラック型、ジシクロペンタジエンフェノール縮合型、フェノールアラルキル縮合型、グリシジルアミン型などのエポキシ樹脂や臭素化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。これらエポキシ樹脂は1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0060】
(C)熱硬化性樹脂として使用されるエポキシ樹脂としては、例えば、プリンテック社製の「EPOX-MK R540(商品名)」、日本化薬株式会社製の「AK-601(商品名)」、ナガセケムテックス社製の「EX-722L(商品名)」及び「EX-521(商品名)」が挙げられる。「EPOX-MK R540」の易可けん化塩素濃度は8000~9000ppm程度である。「AK-601」の易可けん化塩素濃度は6000ppm程度である。「EX-722L」の易可けん化塩素濃度は4000ppm程度である。「EX-521」の易可けん化塩素濃度は5000~6000ppm程度である。なお、上述した易可けん化塩素濃度は実測値であり、測定方法は後述する。これらエポキシ樹脂は1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0061】
(C)熱硬化性樹脂の易可けん化塩素濃度は、3,000~12,000ppmであるが、5,000~12,000ppmが好ましく、6,000~12,000ppmがより好ましく、7,000~12,000ppmが更に好ましい。
【0062】
本実施形態の導電性組成物において、(C)熱硬化性樹脂の(A)銀粒子100質量部に対する質量比率は、0.1~1.5質量部である。(C)熱硬化性樹脂の(A)銀粒子100質量部に対する質量比率は、0.1~1.3質量部が好ましく、0.1~0.7質量部がより好ましく、0.1~0.4が更に好ましい。なお、(C)熱硬化性樹脂の(A)銀粒子100質量部に対する質量比率が1.5質量部を超えると、(A)銀粒子に対して(C)熱硬化性樹脂の量が多量になり、焼結阻害が起きやすくなることがある。一方、(C)熱硬化性樹脂の(A)銀粒子100質量部に対する質量比率が0.1質量部未満であると、低温又は短時間の焼結において、十分なダイシェア強度を維持することが困難となる。
【0063】
(C)熱硬化性樹脂の易可けん化塩素濃度の測定方法については、以下のような方法が挙げられる。まず、測定対象の(C)熱硬化性樹脂1gに対して、2-ブタノンを25mL加えて溶解する。次に、得られた溶液に、2-ブトキシエタノールを25mL更に加える。次に、得られた溶液に、1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を25mL加えて混合する。次に、得られた溶液を、室温25℃で60分間放置する。次に、60分間放置した溶液に、酢酸を25mL更に加え混合して試料溶液を得る。そして、銀電極を得られた試料溶液に浸し、0.01mol/Lの硝酸銀溶液で電位差滴定し、易可けん化塩素濃度を求める。
【0064】
本実施形態の導電性組成物は、基材等の所望の部分に、スクリーン印刷等の従来公知の方法で印刷又は塗布した後、部品として半導体素子等を載置し、所定温度に加熱して焼成することにより、接合部を形成し、電子部品を形成することができる。
【0065】
本実施形態の導電性組成物は、プリント回路基板上の導電回路、コンデンサの電極等の形成に使用することができるが、上記のような特性を活かし、半導体装置等の電子部品の部品同士、基板と部品等の接合に好適に使用することができる。
【0066】
[導電性組成物の製造方法]
本実施形態の導電性組成物の製造方法は、特に限定されず、各成分を、所定の配合で、遊星型撹拌機、ディソルバー、ビーズミル、ライカイ機、ポットミル、三本ロールミル、回転式混合機、二軸ミキサー等の混合機に投入し、混合して、製造することができる。
【0067】
[ダイアタッチ材]
次に、本発明のダイアタッチ材の実施形態について説明する。本発明のダイアタッチ材の実施形態は、これまでに説明した導電性組成物を含むダイアタッチ材である。導電性組成物は、(A)平均粒径が0.05~5μmである銀粒子と、(B)溶剤と、(C)熱硬化性樹脂と、を含み、(C)熱硬化性樹脂の易可けん化塩素濃度が3,000~12,000ppmであり、(A)銀粒子100質量部に対し、(C)熱硬化性樹脂を0.1~1.5質量部含むものである。
【0068】
本実施形態のダイアタッチ材は、電子部品として半導体装置の接合部のダイアタッチ材としての応用に特に好適である。従来、ダイアタッチ材としては、鉛はんだが汎用されているが、鉛の有害性のため、各国での鉛の使用制限がより厳しくなっている。本発明の導電性組成物を含むダイアタッチ材は、鉛の熱伝導率(一般に、35~65W/mK)と同等又はそれ以上の熱伝導率を示し、かつ導電性も良好なため、鉛はんだの代替となる高熱伝導性ダイアタッチ材になり得るものである。本実施形態のダイアタッチ材は、半導体デバイスとして、例えばシリコンダイを接合する接合部を形成するためのダイアタッチ材として好適である。シリコンダイ以外にも、種々のもの、例えばSiCやGaNなどを用いることができる。
【0069】
本実施形態のダイアタッチ材は、接合プロセスにおいて、加圧・無加圧にかかわらず、低温又は短時間の熱処理でも銀粒子同士を焼結させて、優れたダイシェア強度を実現することができる。即ち、本実施形態のダイアタッチ材は、接合プロセスにおいて、加熱のみで、加圧することなく、銀粒子同士を焼結させて接合部を形成する無加圧焼結型ダイアタッチ材であってもよいし、或いは、加圧しながら加熱して、銀粒子同士を焼結させて接合部を形成する加圧焼結型ダイアタッチ材であってもよい。ダイアタッチ材の焼成は、窒素雰囲気のような不活性気体中又は大気中で行うことができる。焼成のための装置としては、公知の電気炉や送風乾燥機、ベルト炉等が挙げられる。
【0070】
ダイアタッチ材を用いた接合プロセスにおける、無加圧での接合条件については特に制限はないが、例えば、無加圧焼結型ダイアタッチ材の加熱温度は、好ましくは175~280℃とすることができ、より好ましくは175~250℃であり、さらに好ましくは200~250℃である。加熱時間は、加熱温度によって、適宜、変更することができるが、例えば、20~120分とすることができ、好ましくは20~60分である。
【0071】
一方、ダイアタッチ材を用いた接合プロセスにおける、加圧を伴う接合条件については特に制限はないが、例えば、加圧焼結型ダイアタッチ材の加熱温度は、好ましくは250~310℃とすることができ、より好ましくは265~310℃であり、さらに好ましくは280~300℃である。加熱時間は、加熱温度によって、適宜、変更することができるが、例えば、2~10分とすることができ、好ましくは2~5分である。加圧力は、例えば、5~20MPaとすることができ、好ましくは8~15MPaである。
【0072】
加圧焼結型ダイアタッチ材は、本焼結の前に予備乾燥(例えば、120℃で15分などの予備乾燥)を行うため、本実施形態のダイアタッチ材のように(C)熱硬化性樹脂を含むことにより、予備乾燥時において熱硬化性樹脂が揮発せずに残存し、本焼結にて熱硬化性樹脂が本発明の効果を発揮するため、ダイアタッチ材の取り扱い性に優れている。
【0073】
[電子部品]
次に、本発明の電子部品の実施形態について説明する。本発明の電子部品の実施形態は、これまでに説明した導電性組成物の焼結体を有する電子部品である。導電性組成物は、(A)平均粒径が0.05~5μmである銀粒子と、(B)溶剤と、(C)熱硬化性樹脂と、を含み、(C)熱硬化性樹脂の易可けん化塩素濃度が3,000~12,000ppmであり、(A)銀粒子100質量部に対し、(C)熱硬化性樹脂を0.1~1.5質量部含むものである。本実施形態の電子部品において、導電性組成物の焼結体は、半導体装置等の電子部品の部品同士、或いは、基板と部品等を接合する接合部を形成している。
【実施例
【0074】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0075】
実施例における分析は、以下のように行なった。
【0076】
[銀粒子及び銀微粒子の平均粒子径]
銀粒子及び銀微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて任意の粒子200個を観察した際の粒子の径の平均値(個数平均値)である。走査型電子顕微鏡(SEM)はS-3400N(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いた。
【0077】
(1)熱硬化性樹脂の易可けん化塩素濃度
測定対象の熱硬化性樹脂1gに対して、2-ブタノンを25mL加えて溶解した。次に、得られた溶液に、2-ブトキシエタノールを25mL更に加えた。次に、得られた溶液に、1mol/LのNaOH溶液を25mL加えて混合した。次に、得られた溶液を、室温25℃で60分間放置し、放置後の溶液に、酢酸を25mL更に加え混合して試料溶液を得た。銀電極を得られた試料溶液に浸し、0.01mol/Lの硝酸銀溶液で電位差滴定し、易可けん化塩素濃度(ppm)を測定した。
【0078】
(2)導電性組成物に関する測定
(2-1)試験片の作成と加圧接合条件
導電性組成物を、厚み1mmの銀メッキされた銅基板上に、幅10mm・長さ10mm・厚み150μmとなるように塗布した後、大気雰囲気下で、120℃、15分間の乾燥を行った。その後、3mmの銀メッキされた銅チップを乾燥させた塗膜上に載せた。次に加圧装置のヘッドとステージの温度を280℃に設定した。その後、試験片を加圧装置のステージに載せ、速やかに加圧を開始した。加圧は、0MPaから8MPaまで一定速度で10秒で加圧し、その後、圧力8MPaの状態を3分間保持した。3分後、加圧接合を終了し、速やかに試験片を取り出した。以上の加圧接合は、全て大気雰囲気下で行った。なお、各実施例及び比較例の試験片において、加圧接合を行ったものについては、表1~表3の「加圧/無加圧」の欄にて「加圧」と記す。
(2-2)試験片の作成と無加圧接合条件
導電性組成物を、厚み1mmの銀メッキされた銅基板上に、幅10mm・長さ10mm・厚み150μmとなるように塗布した後、3mmの銀メッキされた銅チップを塗膜上に載せた。その後、100℃に設定したオーブンに試験片を投入し、30分放置した。30分放置後、オーブンから試験片を取り出し、250℃設定した別のオーブンに速やかに投入した。20分放置した後、試験片を取り出した。以上の無加圧接合は、全て大気雰囲気下で行った。なお、各実施例及び比較例の試験片において、無加圧接合を行ったものについては、表1~表3の「加圧/無加圧」の欄にて「無加圧」と記す。
(2-3)ダイシェア強度(接合強度)
上記した加圧接合条件又は無加圧接合条件にて接合を行った試験片を、ノードソン・アドバンスト・テクノロジー社製のボンドテスター(万能型ボンドテスター シリーズ4000(商品名))で、ダイシェア強度を測定した。
(2-4)評価方法(判定)
各実施例及び比較例の試験片について、以下の評価基準により評価を行った。
評価「優」:ダイシェア強度が65MPa以上である。
評価「良」:ダイシェア強度が50MPa以上、65MPa未満である。
評価「不可」:ダイシェア強度が50MPa未満である。
なお、表1~表3において、評価「優」を「◎」とし、評価「良」を「〇」とし、評価「不可」を「×」とする。
【0079】
実施例で使用した各成分は、以下のとおりである。
【0080】
<(A)銀粒子>
(A-1)平均粒径0.9μmの球状の銀粒子
なお、(A-1)の銀粒子は特開2016-33259号公報の実施例1に記載されている銀粒子の製造方法に従い、銀粒子を作製した。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、この銀粒子の平均粒子径は0.9μmであることが確認された。
(A-2)平均粒径1.2μmの球状の銀粒子(メタローテクノロジー社製、K-0082P(商品名))
(A-3)平均粒径0.15μmの球状の銀微粒子
なお、(A-3)の銀微粒子は特開2006-183072号公報の実施例1に記載されている銀微粒子の製造方法に従い、銀微粒子を作製した。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、この銀微粒子の平均粒径は0.15μmであることが確認された。
(A-4)平均粒径0.4μmの球状の銀微粒子
なお、(A-4)の銀微粒子は国際公開第2017/204238号の段落[0083]に記載されている銀微粒子の製造方法に従い、銀微粒子を作製した。走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果、この銀微粒子の平均粒径は0.4μmであることが確認された。
【0081】
<(B)溶剤>
(B-1)2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(富士フイルム和光純薬社製)
(B-2)テキサノール(富士フイルム和光純薬社製)
【0082】
<(C)熱硬化性樹脂>
(C-1)エポキシ樹脂(ナガセケムテックス社製、EX-722L(商品名)、易可けん化塩素濃度:4000ppm)
(C-2)エポキシ樹脂(ナガセケムテックス社製、EX-521(商品名)、易可けん化塩素濃度:6000ppm)
(C-3)エポキシ樹脂(プリンテック社製、EPOX-MK R540(商品名)、易可けん化塩素濃度:8000ppm)
(C-4)エポキシ樹脂(日本化薬社製、AK-601(商品名)の蒸留品を生成する際の副生物、易可けん化塩素濃度:11000ppm)
(C-5)エポキシ樹脂(ナガセケムテックス社製、EX-722P(商品名)、易可けん化塩素濃度:60ppm)
(C-6)エポキシ樹脂(日本化薬社製、AK-601(商品名)の蒸留品、易可けん化塩素濃度:1000ppm)
(C-7)アクリレート(共栄社化学社製、ライトアクリレート DCP-A(商品名))
なお、(C-4)エポキシ樹脂は、AK-601(商品名)を蒸留した際に、副生物として発生する高濃度の易可けん化塩素成分を含むエポキシ樹脂である。
【0083】
実施例及び比較例の導電性組成物は、表1~表3に示す成分を、表1~表3に示す配合で調製した。具体的には、表1~表3に示す各成分を自転・公転撹拌機を用いて撹拌・脱泡し、均一にして、実施例及び比較例の導電性組成物を調製した。得られた導電性組成物を用いて、上記試験方法にてダイシェア強度を測定し、上記評価方法に基づいて判定を行った。なお、表1~表3に示す配合は、質量部である。各結果を表1~表3に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
表1及び表2に示すように、実施例1~16の導電性組成物を用いて形成した接合部は、ダイシェア強度(接合強度)が50MPa以上であり、ダイシェア強度に優れていた。また、実施例1~16の導電性組成物は、実施例1~14,16のように加圧接合によって接合部を形成した場合であっても、また、実施例15のように無加圧接合によって接合部を形成した場合であっても、共にダイシェア強度に優れていた。特に、実施例4の導電性組成物を用いて形成した接合部は、特にダイシェア強度に優れており、この導電性組成物に対して(C)熱硬化性樹脂の易可けん化塩素濃度が低下又は増加すると、ダイシェア強度(接合強度)が徐々に低下する傾向が確認された。
【0088】
また、実施例1,2の導電性組成物を用い形成した接合部のダイシェア強度を比較すると、(A-3)銀微粒子を含む実施例2の導電性組成物を用いて形成した接合部の方が高い値を示していた。このため、個数平均粒子径がサブミクロンオーダーの銀微粒子を含むことにより、接合部のダイシェア強度が向上することが分かった。
【0089】
また、実施例16の導電性組成物のように2種のエポキシ樹脂を併用した場合であっても、易可けん化塩素濃度が所望の数値範囲を満たすように調節することで、接合部のダイシェア強度が向上することが分かった。実施例13の導電性組成物は、(C)熱硬化性樹脂として、易可けん化塩素濃度が8000ppmの(C-3)エポキシ樹脂と、実質的に易可けん化塩素を含まない(C-7)アクリレートとを併用したものであり、このような導電性組成物についても接合部のダイシェア強度が向上することが分かった。
【0090】
一方、比較例1~4,7,8の導電性組成物は、(C)熱硬化性樹脂の易可けん化塩素濃度が低い、又は実質的に易可けん化塩素を含まず、接合部のダイシェア強度が低いものであった。比較例5の導電性組成物は、(C)熱硬化性樹脂としての(C-3)エポキシ樹脂の配合量が少なく、接合部のダイシェア強度が低いものであった。また、比較例6,9の導電性組成物は、(C)熱硬化性樹脂としての(C-3)エポキシ樹脂の配合量が多く、接合部のダイシェア強度が低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の導電性組成物は、ダイアタッチ材等の半導体装置及び電気・電子部品の各部材の接着に利用することができる。また、本発明のダイアタッチ材及び加圧焼結型ダイアタッチ材は、本発明の導電性組成物を含むダイアタッチ材であり、半導体装置及び電気・電子部品の各部材の接着に利用することができる。本発明の電子部品は、半導体装置及び電気・電子分野において利用することができる。