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特許7619799低カリウム木質バイオマス灰の製造方法、木質バイオマス灰のカリウム低減方法、セメントの製造方法、及び木質バイオマス灰のセメント資源化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-14
(45)【発行日】2025-01-22
(54)【発明の名称】低カリウム木質バイオマス灰の製造方法、木質バイオマス灰のカリウム低減方法、セメントの製造方法、及び木質バイオマス灰のセメント資源化方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20250115BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20250115BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20250115BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20250115BHJP
   F23G 7/00 20060101ALI20250115BHJP
【FI】
B09B3/70
B09B3/00 ZAB
B09B3/40
B09B5/00 N
F23G7/00 G
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020214000
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099923
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】境 徹浩
(72)【発明者】
【氏名】古賀 明宏
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健史
(72)【発明者】
【氏名】宮下 裕之
(72)【発明者】
【氏名】本 浩一郎
【審査官】遠藤 邦喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-146289(JP,A)
【文献】特開2020-157230(JP,A)
【文献】特開2002-284546(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103332994(CN,A)
【文献】特開2002-274900(JP,A)
【文献】国際公開第2013/093210(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
B09B 5/00
F23G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質バイオマス灰からカリウム量が低減された木質バイオマス灰を得る低カリウム木質バイオマス灰の製造方法であって、
塩素含有廃棄物を酸化雰囲気で燃焼させて塩化水素を含むガスを発生させる第1の工程と、
木質バイオマス灰を700℃を超え1100℃以下で加熱し、前記塩化水素を含むガスを導入して、前記木質バイオマス灰と前記塩化水素を含むガスとを接触させる第2の工程と、
接触後の木質バイオマス灰を水によって洗浄し、可溶分を除去する第3の工程と、
を備える、
低カリウム木質バイオマス灰の製造方法。
【請求項2】
前記第2の工程において、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとの接触時間が1~120分である、
請求項1に記載の低カリウム木質バイオマス灰の製造方法。
【請求項3】
前記木質バイオマス灰中の飛灰の割合が60質量%以上である、
請求項1又は2に記載の低カリウム木質バイオマス灰の製造方法。
【請求項4】
前記第の工程において、前記接触後の木質バイオマス灰に対する前記水の質量比が1~20である、
請求項1~のいずれか一項に記載の低カリウム木質バイオマス灰の製造方法。
【請求項5】
前記第3の工程において、前記水が塩化水素を含む塩酸水である、
請求項1~のいずれか一項に記載の低カリウム木質バイオマス灰の製造方法。
【請求項6】
前記塩酸水が、前記第2の工程で排出されるガス中の塩化水素を気液接触させることによって得られる塩酸水を含む、
請求項に記載の低カリウム木質バイオマス灰の製造方法。
【請求項7】
木質バイオマス灰に含まれるカリウム量を低減する木質バイオマス灰のカリウム低減方法であって、
塩素含有廃棄物を酸化雰囲気で燃焼させて塩化水素を発生させる第1の工程と、
木質バイオマス灰を700℃を超え1100℃以下で加熱し、前記塩化水素を含むガスを導入して、前記木質バイオマス灰と前記塩化水素を含むガスとを接触させる第2の工程と、
接触後の木質バイオマス灰を水によって洗浄し、可溶分を除去する第3の工程と、
を備える、
木質バイオマス灰のカリウム低減方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法で製造される低カリウム木質バイオマス灰をセメント原料として使用する工程を備える、
セメントの製造方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法で製造される低カリウム木質バイオマス灰をセメント原料として使用する、
木質バイオマス灰のセメント資源化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低カリウム木質バイオマス灰の製造方法、木質バイオマス灰のカリウム低減方法、セメントの製造方法、及び木質バイオマス灰のセメント資源化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)が開始されて以降、安定した売電事業収益が見込めることから、木質バイオマス発電設備の認定件数は増加傾向にある。これに伴い、木質バイオマスの燃焼灰である木質バイオマス灰は、今後発生量の増加が見込まれており、その有効利用方法の確立が望まれている。
【0003】
木質バイオマス灰を大量に有効利用する方法の一つとして、セメント資源化が挙げられる。しかし、木質バイオマス灰は、植物に含まれるカリウムが濃縮されており、これをそのままセメント原料として用いると、セメント中のアルカリ金属(ナトリウム及びカリウム、特にカリウム)量が増加して品質が低下してしまうことがある。このため、木質バイオマス灰からカリウムの含有量を低減する技術の開発が望まれている。
【0004】
従来、アルカリ金属成分を多く含む廃棄物のアルカリ金属量を低減する技術は広く知られている。そのような技術としては、塩素原子を含む成分とアルカリ金属とを反応させ、揮発又は水洗で除去する方法が挙げられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、木質バイオマス灰と固形状の塩素含有廃棄物とを一緒に混合して加熱し、水洗でアルカリ金属を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-157230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、木質バイオマス発電設備で発生する木質バイオマス灰の多くは、難溶性カリウムを含有している。この難溶性カリウムは、アルミノシリケート(結晶)構造内にカリウムが取り込まれていると考えられ、容易には除去することができない。
【0008】
また、固体の塩素含有物と固体の木質バイオマス灰とを反応させることが特許文献1に開示されているが、固体同士の場合、塩素含有物と木質バイオマス灰とを均一に反応させるために、充分な粉砕又は混合が必要となり、それに伴い処理コストが高くなることが予想される。
【0009】
本発明は、木質バイオマス灰からカリウムが低減された木質バイオマス灰を得る新規な低カリウム木質バイオマス灰の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、塩素含有廃棄物を酸化雰囲気で燃焼させて塩化水素含むガスを生成し、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとを接触させて塩化カリウムを生成させ、当該塩化カリウムを水洗除去することが木質バイオマス灰からカリウムを低減する上で最も実用性が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の一側面は、木質バイオマス灰からカリウム量が低減された木質バイオマス灰を得る低カリウム木質バイオマス灰の製造方法に関する。当該製造方法は、塩素含有廃棄物を酸化雰囲気で燃焼させて塩化水素を含むガスを発生させる第1の工程と、木質バイオマス灰を加熱し、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとを接触させる第2の工程と、接触後の木質バイオマス灰を水によって洗浄し、可溶分を除去する第3の工程とを備える。木質バイオマス灰は、ケイ素及びアルミニウムから構成されるアルミノシリケート構造を有し得る。当該製造方法によれば、塩素含有廃棄物から発生させた塩化水素を含むガスを用いることによって、塩化水素と木質バイオマス灰を充分に接触させることが可能であり、木質バイオマス灰のアルミノシリケート(結晶)構造内に取り込まれているような難溶性カリウム量を低減して、低カリウム木質バイオマス灰を得ることができる。低カリウム木質バイオマス灰は、さらにカリウム量が低減されていることから、セメント原料として安定的に利用することができる。
【0012】
第1の工程において、塩素含有廃棄物は、酸化雰囲気で燃焼される。塩素含有廃棄物を、例えば、還元雰囲気で燃焼させると、発生するタール等の有機成分によって、配管閉塞等のトラブルの発生頻度が増加する傾向にある。加えて、還元雰囲気では、可燃性ガスが発生する場合及び塩化水素ガスが高濃度になる場合があり、設備のガス漏洩防止対策のコストが高くなる傾向がある。
【0013】
第2の工程において、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとを接触させる温度(接触温度)は、700~1100℃であってよい。第2の工程において、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとの接触時間は、1~120分であってよい。
【0014】
木質バイオマス灰中の飛灰の割合は、60質量%以上であってよい。
【0015】
の工程において、接触後の木質バイオマス灰に対する水の質量比(水の質量/接触後の木質バイオマス灰の質量)は、1~20であってよい。第の工程において、水は、塩化水素を含む塩酸水であってよい。塩酸水は、第の工程で排出されるガス中の塩化水素を気液接触させることによって得られる塩酸水を含んでいてもよい。
【0016】
本発明の他の一側面は、木質バイオマス灰に含まれるカリウム量を低減する木質バイオマス灰のカリウム低減方法に関する。当該カリウム低減方法は、塩素含有廃棄物を酸化雰囲気で燃焼させて塩化水素を発生させる第1の工程と、木質バイオマス灰を加熱し、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとを接触させる第2の工程と、接触後の木質バイオマス灰を水によって洗浄し、可溶分を除去する第3の工程とを備える。当該カリウム低減方法によれば、木質バイオマス灰のアルミノシリケート(結晶)構造内に取り込まれているような難溶性カリウム量を低減することができる。
【0017】
本発明の他の一側面は、セメントの製造方法に関する。当該製造方法は、上述の製造方法で製造される低カリウム木質バイオマス灰をセメント原料として使用する工程を備える。
【0018】
本発明の他の一側面は、木質バイオマス灰のセメント資源化方法に関する。当該セメント資源化方法は、上述の製造方法で製造される低カリウム木質バイオマス灰をセメント原料として使用するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、木質バイオマス灰からカリウムが低減された木質バイオマス灰を得る新規な低カリウム木質バイオマス灰の製造方法が提供される。また、本発明によれば、木質バイオマス灰に含まれるカリウム量を低減することが可能な木質バイオマス灰のカリウム低減方法が提供される。さらに、本発明によれば、上述の製造方法で製造される低カリウム木質バイオマス灰を用いたセメントの製造方法及び木質バイオマス灰のセメント資源化方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、低カリウム木質バイオマス灰の製造設備の一実施形態を示す概略図である。
図2図2は、実施例で用いた反応装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
[低カリウム木質バイオマス灰の製造方法]
一実施形態の低カリウム木質バイオマス灰の製造方法は、木質バイオマス灰からカリウム量が低減された木質バイオマス灰を得るものである。本実施形態の製造方法は、少なくとも第1の工程、第2の工程、及び第3の工程を備える。
【0023】
<第1の工程>
本工程は、塩素含有廃棄物を酸化雰囲気で燃焼させて塩化水素を含むガスを発生させる工程である。
【0024】
塩素含有廃棄物としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂等が挙げられる。これらは、単体又は混合物を使用することができ、これを含む廃物品を使用することができる。廃物品は、廃壁紙、廃カーペット、建設混合廃物品等を例示することができる。
【0025】
酸化雰囲気は、酸素が含まれる雰囲気であれば特に制限されないが、好ましくは酸素の体積濃度が0.1~24体積%である。酸化雰囲気は、例えば、空気雰囲気であってよい。
【0026】
塩素含有廃棄物を燃焼させる装置(焼却炉)は、塩素含有廃棄物を酸化雰囲気で燃焼させることができるのであれば特に限定されないが、塩化水素ガスが発生することから、ガスが漏洩しない反応系を提供できる装置であることが好ましい。塩素含有廃棄物を燃焼させる装置(焼却炉)としては、例えば、流動床炉、ストーカ炉、ロータリーキルン炉等が挙げられる。また、塩素含有廃棄物を燃焼させるために、重油、石炭、灯油、木チップ等の燃料を同時に燃焼させてもよい。
【0027】
塩素含有廃棄物を燃焼させる際の温度は、好ましくは300~1100℃、より好ましくは350~1100℃、さらに好ましくは500℃~1100℃、特に好ましくは800℃~1000℃である。
【0028】
本工程は、通常、ガスフローが可能であり、かつ塩化水素を含むガスが漏洩しない反応系で実施される。本工程における反応系は、後述の第2工程における木質バイオマス灰を加熱するための反応系と連結されることによって、発生した塩化水素を含むガスと熱エネルギーとが次の反応系に移行し、木質バイオマス灰の加熱を効率よく行うことができる。
【0029】
<第2の工程>
本工程は、木質バイオマス灰を加熱し、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとを接触させる工程である。
【0030】
木質バイオマス灰とは、林地残材、製材工場の残材、建設廃材、パームヤシ殻等の木質資源を燃焼させた際に発生する灰であり、燃焼装置の底部に蓄積する主灰と、集塵装置で回収される飛灰とを含む概念である。これら木質バイオマス灰に含まれる主な元素は、アルミノシリケート構造を構成するケイ素及びアルミニウム、植物の栄養成分であるリン及びカリウムである。木質バイオマス灰において、カリウムの大部分は、アルミノシリケート(結晶)構造内に取り込まれていると考えられ、難水溶性の状態で存在する。
【0031】
木質バイオマス灰中の飛灰の割合は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0032】
本工程は、塩化水素を含むガスを使用することから、通常、ガスフローが可能であり、かつ塩化水素を含むガスが漏洩しない反応系で実施される。このような反応系を提供することが可能な反応装置(加熱反応炉)としては、処理対象である木質バイオマス灰の量によって適宜選択することができ、連続式又はバッチ式のいずれであってもよい。反応装置(加熱反応炉)としては、例えば、マントルヒーターを含む装置、管状炉を含む装置、ロータリーキルン、流動床炉、移動グレート型反応装置、多段炉反応装置等が挙げられる。また、このような反応装置(加熱反応炉)は、反応装置の温度を維持するために、重油、石炭、灯油、木チップ等の燃料を同時に燃焼させるバーナーを有する構成としてもよい。また、排ガスには揮発した塩化物が含まれ、排ガスとともに一部が排出されて析出する。そのため、反応装置の排ガス中に析出した塩化物を除去するバッグフィルター等の装置を付帯してもよい。
【0033】
本工程では、まず、木質バイオマス灰を所定の温度(接触温度)に加熱する。加熱時における反応系のガス雰囲気は、加熱時における反応系のガス雰囲気は、塩化水素を含むガスの雰囲気であってもよく、これ以外のガス雰囲気であってもよい。加熱する際の昇温速度は、特に制限されず、処理対象である木質バイオマス灰の量、反応装置等によって任意に設定することができる。
【0034】
続いて、所定の温度(接触温度)下で、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとを接触させる。上述の木質バイオマス灰の加熱が、塩化水素を含むガス以外のガス雰囲気で開始された場合、塩化水素を含むガスの導入を開始することによって、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとの接触を開始することができる。
【0035】
木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとを接触させることによって、以下の式(1)で表される反応が進行し、木質バイオマス灰内に含まれるカリウム(KO)が水溶性の塩化カリウム(KCl)に変換される。
O+2HCl→2KCl+HO (1)
【0036】
木質バイオマス灰と所定のガスとの接触温度は、好ましくは700~1100℃である。接触温度が700℃未満である場合、アルミノシリケート構造からカリウム(イオン)が脱離して塩化カリウムを生成する反応が充分に進行せず、後述の第の工程によってもカリウムを充分に除去することができない傾向にある。接触温度が1100℃を超える場合、設備コスト及び運転コストがより一層上昇する傾向にある。接触温度は、より好ましくは800~1000℃、さらに好ましくは900℃~1000℃である。
【0037】
木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとの接触時間は、好ましくは1~120分である。接触時間が1分未満である場合、アルミノシリケート構造からカリウム(イオン)が脱離して塩化カリウムを生成する反応が充分に進行しない傾向にある。接触時間が120分を超えると、カリウム除去率が向上し得ない状態になることがあり、設備コスト及び運転コストが上昇する傾向にある。接触時間は、より好ましくは10~120分、さらに好ましくは15~120分、特に好ましくは40~90分である。
【0038】
なお、接触時間の始点は、加熱時における反応系のガス雰囲気が塩化水素を含むガス以外のガス雰囲気である場合、塩化水素を含むガスが導入された時点(又は塩化水素を含むガスが発生した時点)であり得る。塩化水素を含むガスが導入された時点は、例えば、反応装置内に塩化水素濃度計を設置し、濃度の変化から判断することができる。また、塩化水素を含むガスが導入された時点は、例えば、事前に加熱時間と塩化水素発生量との関係を把握しておき、これを基に判断することも可能である。接触時間の始点は、すでに塩化水素を含むガスの雰囲気である場合、接触温度が700℃に到達した時点であり得る。
【0039】
塩化水素を含むガス中の塩化水素の平均体積濃度は、好ましくは0.01~10体積%である。塩化水素の平均体積濃度は、より好ましくは0.1~5体積%、さらに好ましくは0.5~2体積%である。塩化水素の平均体積濃度をこのような範囲に調整することによって、設備の腐食又は劣化を抑えつつ、より安定したカリウム除去効果を得ることができる傾向にある。塩化水素の平均体積濃度は、例えば、反応装置内に、塩化水素に対応する濃度計を設置し、塩化水素の濃度変化を追跡することによって求めることができる。また、予め準備した所定の濃度の塩化水素を含むガスを用いる場合、塩化水素の平均体積濃度は、準備したガスにおける塩化水素の所定の濃度であり得る。塩化水素の平均体積濃度は、例えば、導入する空気、窒素等の流量等を変動させることによって調整することができる。後述の塩素含有廃棄物を燃焼させることによって発生する塩化水素を使用する場合、塩化水素の平均体積濃度は、塩素含有廃棄物の使用量、塩素含有廃棄物の塩素含有量、導入する空気量等を変動させることによって調整することができる。
【0040】
塩化水素を含むガスは、好ましくは酸素を含む。すなわち、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとを接触させる雰囲気は、酸化雰囲気であってよい。この場合、塩化水素を含むガス中の酸素の平均体積濃度は、好ましくは0.1~24体積%、より好ましくは5~24体積%、さらに好ましくは10~24体積%、特に好ましくは15~24体積%である。なお、酸素の平均体積濃度は、接触時間の始点から終点までの反応装置内の酸素の濃度の平均値を意味する。塩化水素を含むガスは、塩化水素に加えて、酸素、窒素、二酸化炭素等を含んでいてもよい。
【0041】
本工程で排出される塩化水素を含むガスは、例えば、気液接触させることによって回収することができる。排出されるガス中の塩化水素を気液接触させることによって得られる塩酸水は、第3の工程において、木質バイオマス灰を洗浄するために用いることができる。
【0042】
<第3の工程>
本工程は、接触後の木質バイオマス灰を水によって洗浄し、可溶分を除去する工程である。
【0043】
本工程は、接触後の木質バイオマス灰と水とを一定量でスラリーとし、木質バイオマス灰中の塩化カリウム等のアルカリ金属塩を充分に溶出させる時間で撹拌する工程である。本工程は、通常、接触後の木質バイオマス灰を100℃以下の温度(例えば、25℃の室温)に冷却してから実施される。
【0044】
接触後の木質バイオマス灰と水との撹拌は、通常使用される撹拌装置を用いて行うことができる。接触後の木質バイオマス灰と水との撹拌は、必要に応じて、加温しながら行ってもよい。
【0045】
接触後の木質バイオマス灰と水との撹拌において、接触後の木質バイオマス灰に対する水の質量比(水の質量/接触後の木質バイオマス灰の質量)は、好ましくは1~20である。質量比が1未満である場合、水のイオン強度が高くなり過ぎて、塩化カリウムの溶出量が低下する傾向にあり、スラリーの粘性が高くなり過ぎて輸送性が低下する傾向にある。また、質量比が20を超える場合、大量の水を要することから、運転コストが高くなる傾向にある。質量比は、より好ましくは3~15、さらに好ましくは5~12である。
【0046】
木質バイオマス灰を洗浄するための水は、塩化水素を含む塩酸水であってもよい。塩酸水を用いることによって、木質バイオマス灰中の塩化カリウム等のアルカリ金属塩をより一層充分に溶出させることが可能となる。塩酸水の濃度は、特に制限されないが、0.01~2mol/Lであってよい。塩酸水は、市販の塩酸水を希釈したものであってよい。また、塩酸水は、第の工程で排出されるガス中の塩化水素を気液接触させることによって得られる塩酸水を含んでいてもよい。
【0047】
本実施形態の製造方法は、不溶の木質バイオマス灰と可溶分とを分離し、低カリウム木質バイオマス灰を得る工程をさらに備えていてもよい。不溶の木質バイオマス灰と可溶分との分離は、ろ過によって行うことができる。また、ろ過によって得られる残渣固形分を乾燥処理してもよい。乾燥処理を行う場合は、その条件を、例えば、20~300℃で0.1~100時間とすることができる。
【0048】
図1は、低カリウム木質バイオマス灰の製造設備の一実施形態を示す概略図である。低カリウム木質バイオマス灰の製造設備は、第1の工程を実施するための焼却炉と、第2の工程を実施するための加熱反応炉と、第3の工程を実施するための水洗設備とを備える。低カリウム木質バイオマス灰の製造設備は、必要に応じて、排ガスを処理するための吸収塔等をさらに備えていてもよい。
【0049】
本実施形態の製造方法で製造される低カリウム木質バイオマス灰は、カリウム量が充分に低減されていることから、セメント原料として使用することができる。
【0050】
[木質バイオマス灰のカリウム低減方法]
一実施形態の木質バイオマス灰のカリウム低減方法は、塩素含有廃棄物を酸化雰囲気で燃焼させて塩化水素を発生させる第1の工程と、木質バイオマス灰を加熱し、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとを接触させる第2の工程と、接触後の木質バイオマス灰を水によって洗浄し、可溶分を除去する第3の工程とを備える。当該カリウム低減方法によれば、木質バイオマス灰のアルミノシリケート(結晶)構造内に取り込まれているような難溶性カリウム量を低減することができる。なお、木質バイオマス灰のカリウム低減方法で使用される木質バイオマス灰、反応装置等は、低カリウム木質バイオマス灰の製造方法で使用される木質バイオマス灰、反応装置等と同様である。したがって、ここでは、重複する説明を省略する。
【0051】
[セメントの製造方法]
一実施形態のセメントの製造方法は、上述の製造方法で製造される低カリウム木質バイオマス灰をセメント原料として使用する工程を備える。低カリウム木質バイオマス灰をセメント原料として使用する工程としては、例えば、低カリウム木質バイオマス灰と石灰石等のセメント原料とを混合する工程、低カリウム木質バイオマス灰を石灰石等のセメント原料とともにキルンへ送入する工程等が挙げられる。
【0052】
[木質バイオマス灰のセメント資源化方法]
一実施形態の木質バイオマス灰のセメント資源化方法は、上述の製造方法で製造される低カリウム木質バイオマス灰をセメント原料として使用するものである。上述の製造方法で製造される低カリウム木質バイオマス灰は、カリウム量が充分に低減されていることから、セメント原料として使用することができ、セメント資源化が可能となる。
【実施例
【0053】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
[反応装置の準備]
低カリウム木質バイオマス灰の製造は、以下の反応装置を用いて行った。図2は、実施例で用いた反応装置を示す概略図である。図2に示される反応装置100は、加熱部20と、排ガストラップ部30とを備える。加熱部20は、加熱対象である木質バイオマス灰26が充填されたセラミックス管22と、セラミックス管22を加熱するための管状炉24とから主に構成される。セラミックス管22は、塩化水素発生部10と連結する連結管44及び管状炉24内のガスを排出するためのガス排出管46を有している。塩化水素は、連結管44からセラミックス管22内に導入される。塩素含有廃棄物を燃焼させることによって発生する塩化水素を使用する場合、塩化水素発生部10から塩化水素が発生し、連結管44からセラミックス管22内に導入される。排ガストラップ部30は、ガス排出管46から排出される塩化水素を主にトラップするためのものである。
【0055】
[低カリウム木質バイオマス灰の製造]
<塩素含有廃棄物の燃焼による塩化水素ガスの発生の検証>
塩素含有廃棄物として塩素含有プラスチック(塩素含有量:16質量%)を用いた。塩素含有プラスチック100gを1000℃で60分燃焼させ、塩化水素ガスの発生を確認した。発生した塩化水素を水に溶解させて回収し、塩化水素の発生量を定量した。塩素含有プラスチックを、不完全燃焼を防ぐために理論量の1.4倍の空気で連続的に燃焼させたところ、生成するガスの塩化水素濃度は1.1体積%であった。表1に結果を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
以下の実施例1~7では、再現性を重視し、濃硫酸に濃塩酸を滴下することによって発生する塩化水素と空気とを用いて、塩化水素の体積濃度が1体積%である塩化水素を含むガス(酸素の体積濃度:21体積%)を調製し、これを用いて低カリウム木質バイオマス灰の製造を行った。
【0058】
<低カリウム木質バイオマス灰の製造>
(実施例1)
木質バイオマス灰(飛灰の割合:100質量%)40gを、セラミックス管(外径φ50mm、内径φ42mm)内に充填し、木質バイオマス灰が充填されたセラミックス管を加熱部における管状炉内に配置した。管状炉内部は、空気雰囲気とした。次に、管状炉を加熱して1000℃に到達した後、調製したガスを管状炉に流量15L/時間で導入した。木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとの接触時間の始点を、塩化水素を含むガスが導入された時点とし、木質バイオマス灰と塩化水素を含むガスとを120分間接触させた。その後、管状炉を室温(25℃)まで冷却し、接触後の木質バイオマス灰を回収した。回収した接触後の木質バイオマス灰に対して、接触後の木質バイオマス灰に対する水の質量比(水の質量/接触後の木質バイオマス灰の質量)が10となるように水を加え、30分間撹拌し可溶分を除去した。その後、ろ過によって、残渣固形分を回収し、実施例1の低カリウム木質バイオマス灰を得た。接触前の木質バイオマス灰のカリウム量及び低カリウム木質バイオマス灰のカリウム量をそれぞれ測定し、下記式に基づき、カリウム除去率を算出した。結果を表に示す。
【0059】
カリウム除去率(%)=[(木質バイオマス灰のKO絶対量(g)-低カリウム木質バイオマス灰のKO絶対量(g))/木質バイオマス灰のKO絶対量(g)]×100
【0060】
(実施例2~7)
の実施例1の接触処理条件を、表の実施例2~7の接触処理条件に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~7の低カリウム木質バイオマス灰を得た。実施例1と同様にして、実施例2~7のカリウム除去率を算出した。結果を表に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すとおり、実施例1~7の製造方法は、木質バイオマス灰のカリウム量を充分に低減できることが確認された。また、実施例1~7の製造方法において、木質バイオマス灰を同じ温度で接触させた場合、接触時間が長くなるほど、木質バイオマス灰のカリウム除去率が高くなる傾向にあることが判明した。
【0063】
(実施例8、9)
実施例4及び実施例7の接触処理条件で得られた接触後の木質バイオマス灰をそれぞれ、塩化水素を含む塩酸水(管状炉から排出された塩水素ガスの余剰分を気液接触させた排ガストラップ水を用いて濃度0.056mol/Lに調整した塩酸水)を用いて可溶分を除去した。その後、ろ過によって、残渣固形分を回収し、実施例8及び実施例9の低カリウム木質バイオマス灰を得た。また、実施例1と同様にして、実施例8及び実施例9のカリウム除去率を算出した。結果を表3に示す。なお、表3には、対比のために、実施例4及び実施例7のカリウム除去率を併せて示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示すとおり、実施例4と実施例8との対比及び実施例7と実施例9との対比から、接触後の木質バイオマス灰を塩酸水によって洗浄することによって、カリウム除去率が向上することが判明した。
【符号の説明】
【0066】
10…塩化水素発生部、20…加熱部、22…セラミックス管、24…管状炉、26…木質バイオマス灰、30…排ガストラップ部、44…連結管、46…ガス排出管、100…反応装置。
図1
図2