(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-15
(45)【発行日】2025-01-23
(54)【発明の名称】金属張積層板及びフレキシブル回路基板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/088 20060101AFI20250116BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20250116BHJP
H05K 3/00 20060101ALN20250116BHJP
C08G 73/10 20060101ALN20250116BHJP
【FI】
B32B15/088
H05K1/03 610N
H05K1/03 630B
H05K3/00 V
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2020216877
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【氏名又は名称】田治米 惠子
(72)【発明者】
【氏名】堺 暁東
(72)【発明者】
【氏名】矢熊 建太郎
(72)【発明者】
【氏名】大野 真
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-146419(JP,A)
【文献】特開2019-104233(JP,A)
【文献】特開2018-168358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
C08G 73/00-73/26
H05K 1/00-1/02;1/03
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層又は複数層のポリイミド層を含むポリイミド絶縁層の一方の面に積層された金属層を備えた金属張積層板であって、
前記ポリイミド絶縁層の合計厚みが6~10μmの範囲内であり、
平坦な状態と比べて形状が変化していない第1の非屈曲部及び第2の非屈曲部、並びに該第1の非屈曲部と該第2の非屈曲部の間に位置して湾曲変形した屈曲部を含む形状になるように、第1の非屈曲部に対して第2の非屈曲部が180°反転して折り曲げられる動作が繰り返される電子部品用のフレキシブル回路基板用金属張積層板であり、
該金属張積層板の試験片のループスティフネス値(幅12.7mm、ループ長60mm、押し潰し距離15mm)が1N/m以上
2.1N/m以下であり、
前記ポリイミド絶縁層の主たる層を構成するポリイミドがテトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含み、
前記テトラカルボン酸残基が、ピロメリット酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基又は3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基の少なくとも1種を全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して合計で50モル部以上含むとともに、全ジアミン残基の100モル部に対して、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が
50モル部以上であることを特徴とする金属張積層板。
【化1】
[式(1)において、連結基Zは単結合又は-COO-を示し、Yは独立にハロゲン若しくはフェニル基で置換されてもよい炭素数1~3の1価の炭化水素又は炭素数1~3のアルコキシ基、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、又はアルケニル基を示し、nは1又は2を示し、p及びqは独立に0~4の整数を示す。]
【請求項2】
前記金属層の厚みに対する前記ポリイミド絶縁層の厚みの比が0.3~1.0である請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項3】
前記金属層にL/S=100μm/100μm、長さ110mmの直線部分が並列した蛇行型配線を形成し、該配線の長手方向が2つ折りになるように金属張積層板を屈曲させて第1の非屈曲部、第2の非屈曲部、及び第1の非屈曲部と第2の非屈曲部の間の屈曲部が形成されるように、第1の非屈曲部に対して第2の非屈曲部を180°反転して折り曲げる動作を繰り返す場合において、
第1の非屈曲部及び第2の非屈曲部の厚み方向に平行な軸方向をY軸方向とし、これに直交するとともに非屈曲部の配線の長手方向をX軸方向とし、
該X軸方向及びY軸方向の二次元座標軸において、前記屈曲部のX軸方向の最大長さを1.0mm以上10.0mm以下、前記屈曲部のY軸方向の最大長さを1.0mm以上6.0mm以下としたときに、折り曲げ動作開始前に対して抵抗が10%上昇した時点の折り曲げ回数が8万回以上である請求項
1又は2に記載の金属張積層板。
【請求項4】
ポリイミド絶縁層と金属層の合計厚みが15μm以上36μm以下である請求項1~
3のいずれか1項に記載の金属張積層板。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の金属張積層板における前記ポリイミド絶縁層のもう一方の面に金属層を備える両面金属張積層板。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の金属張積層板の金属層が配線加工されているフレキシブル回路基板。
【請求項7】
前記金属層が内側になるように折り曲げられる状態と、その折り曲げを伸ばした状態の繰り返し折り曲げ動作が行われる回路用の請求項
6に記載のフレキシブル回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
耐屈曲性に優れた金属張積層板及びフレキシブル回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機、スマートフォン、ノート型パーソナルコンピュータ、ハードディスク装置、光ピックアップ装置、プリンタ等の電子機器において、フレキシブル回路基板(FPC;Flexible Printed Circuits)が広く利用されている。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、例えば、HDD、DVD、携帯電話、スマートフォン等の電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大しつつある。
【0003】
中でも、スマートフォン等の小型電子機器で使用されるFPCには、180°曲げ試験の繰り返しに耐える高い耐屈曲性が求められる。
【0004】
この要請に対し、フレキシブル回路基板に用いられるフレキシブル銅張積層板において、絶縁層の厚みを16μm以下とし、金属層の厚みを20μm以下とすることにより、銅張積層板のループスティフネスを0.30N/cm以下とすることが提案され、実施例にはループスティフネス0.20~0.49N/cmの銅張積層板が示されている。ここで、ループスティフネスは、東洋精機製ループスティフネステスタを用い、サンプル幅5~10mm、ループ長50mm、押し潰し距離10mmの条件で測定した数値である。
【0005】
また、ポリイミド層の厚みを10~25μm、銅箔の厚みを8~20μmとし、銅箔の厚み方向の断面における平均結晶粒径を10μm以上として耐屈曲性を改善することが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-313854号公報
【文献】特開2014-80021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属張積層板の絶縁層は金属層の支持体としての機能を有する。したがって、この絶縁層を薄くすることで金属張積層板の耐屈曲性をある程度改善することができる。しかしながら、絶縁層を過度に薄くすると絶縁層に裂けが生じやすくなり、金属層には屈曲疲労による断線が生じやすくなる。
【0008】
したがって、本発明の課題は、絶縁層の裂けや金属層の屈曲疲労による断線を生じさせること無く、耐屈曲性がさらに向上したFPCを提供すること、及びそのようなFPCの作製に用いられる金属張積層板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、絶縁性樹脂を特定のポリイミド樹脂を用いて形成し、金属張積層板のループスティフネス値を特定の範囲に調整することで上述の課題を解決できることを想到し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、単層又は複数層のポリイミド層を含むポリイミド絶縁層の一方の面に積層された金属層を備えた金属張積層板であって、
平坦な状態と比べて形状が変化していない第1の非屈曲部及び第2の非屈曲部、並びに該第1の非屈曲部と該第2の非屈曲部の間に位置して湾曲変形した屈曲部を含む形状になるように、第1の非屈曲部に対して第2の非屈曲部が180度反転して折り曲げられる動作が繰り返される電子部品用のフレキシブル回路基板用金属張積層板であり、
該金属張積層板の試験片のループスティフネス値(幅12.7mm、ループ長60mm、押し潰し距離15mm)が1N/m以上6N/m以下であり、
前記ポリイミド絶縁層の主たる層を構成するポリイミドがテトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含み、全ジアミン残基の100モル部に対して、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が20モル部以上であることを特徴とする金属張積層板を提供する。
【0011】
【化1】
[式(1)において、連結基Zは単結合又は-COO-を示し、Yは独立にハロゲン若しくはフェニル基で置換されてもよい炭素数1~3の1価の炭化水素又は炭素数1~3のアルコキシ基、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、又はアルケニル基を示し、nは1又は2を示し、p及びqは独立に0~4の整数を示す。]
【0012】
また、本発明は、上述の金属張積層板の金属層が配線加工されているフレキシブル回路基板を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属張積層板に用いられるポリイミド絶縁層は、耐屈曲性が向上し、繰り返し曲げ耐性に優れている。
したがって、本発明の金属張積層板を用いると、絶縁層の裂けや金属層の屈曲疲労による断線を生じさせること無く、180°の折り曲げ動作を繰り返すことが可能となる。よって、例えばフォルダブルデバイスのヒンジ部等のように折り曲げ動作が繰り返され、折り曲げ角が180°に至る場合もある電子部品の用途に好適なフレキシブル回路基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ループスティフネス値の測定方法の説明図である。
【
図2】
図2は、金属張積層板に形成した蛇行型配線の平面図である。
【
図3】
図3は、蛇行型配線を形成した金属張積層板の折り曲げ動作の説明図である。
【
図4A】
図4Aは、耐屈曲性試験装置のステージに載置された試験片の側面図である。
【
図4B】
図4Bは、耐屈曲性試験装置のステージに載置された試験片の側面図である。
【
図5A】
図5Aは、耐屈曲性試験装置のステージの回動により屈曲した試験片の側面図である。
【
図5B】
図5Bは、耐屈曲性試験装置のステージの回動により屈曲した試験片の側面図である。
【
図6】
図6は、実施例1~3のループスティフネスと平均屈曲回数の測定値である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。各図中、同一符号は、同一又は同等の構成要素を表している。
<全体構成>
本発明の金属張積層板は、単層又は複数層のポリイミド層を含むポリイミド絶縁層の一方の面に金属層が積層されたフレキシブル回路基板用金属張積層板である。この金属張積層板は、通常、長尺のフィルム形状に形成される。金属張積層板の金属層に配線加工が施されることによりFPCが作製される。
【0016】
<ポリイミド絶縁層>
金属張積層板を構成するポリイミド絶縁層は単層又は複数層のポイリミド絶縁層から形成される。ポイリミド絶縁層の厚み(複数層の場合には合計厚み)は、好ましくは6~18μm、より好ましくは6~10μmである。本発明におけるポリイミド絶縁層は、後述するように特定のポリイミド組成を有しているため、ポリイミド絶縁層の厚みが6μmに満たないと、ポリイミド絶縁層の剛性が低すぎるためにFPCの耐屈曲性が低下し、FPCの加工時の取り扱いが困難となる。一方、ポリイミド絶縁層の厚みが18μmを超えるとFPCの剛性が高くなりすぎ、耐屈曲性が低下しやすくなる。
【0017】
ポリイミド絶縁層は複数層とすることが好ましく、その具体例としては、ポリイミド絶縁層を、低熱膨張性ポリイミド層と、高熱膨張性ポリイミド層と、を含む積層構造とすることが好ましい。ここで、低熱膨張性ポリイミド層は、熱膨張係数が35×10-6/K未満、好ましくは1×10-6~30×10-6/Kの範囲内、特に好ましくは3×10-6~25×10-6/Kの範囲内のポリイミド層をいう。また、高熱膨張性ポリイミド層は、熱膨張係数が35×10-6/K以上、好ましくは35×10-6~80×10-6/Kの範囲内、特に好ましくは35×10-6~70×10-6/Kの範囲内のポリイミド層をいう。ポリイミド層は、使用する原料の組合せ、厚み、乾燥・硬化条件を適宜変更することで所望の熱膨張係数を有するポリイミド層とすることができる。
【0018】
<ポリイミド層の組成>
ポリイミド絶縁層のポリイミド組成は、該ポリイミド絶縁層の主たる層を構成するポリイミドが、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含み、全ジアミン残基の100モル部に対して、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が20モル部以上である。ここで、主たる層とは、ポリイミド絶縁層が複数のポリイミド層から形成されている場合に、ポリイミド層全体の層厚の5割以上を占める層をいう。
【0019】
【化2】
[式(1)において、連結基Zは単結合又は-COO-を示し、Yは独立にハロゲン若しくはフェニル基で置換されてもよい炭素数1~3の1価の炭化水素又は炭素数1~3のアルコキシ基、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、又はアルケニル基を示し、nは1又は2を示し、p及びqは独立に0~4の整数を示す。]
【0020】
式(1)で表される化合物としては、例えば、パラフェニレンジアミン(PDA)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド(MABA)、4,4‘-ジアミノベンズアニリド(DABA)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)等を挙げることができる。
【0021】
一般式(1)で表されるジアミン化合物を上記範囲内の量で使用することによって、モノマー由来の剛直構造によりポリマー全体に秩序構造が形成されるので、ポリイミドフィルムの低熱膨張化や靭性を高めることができる。また、ベンゼン環を2つ以上含むことから、イミド基濃度を下げ、低吸湿化にも寄与することも有利である。このような観点から、全ジアミン残基の100モル部に対して、一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、20モル部以上、好ましくは50モル部以上、より好ましくは60モル部以上含有することがよい。
【0022】
特に、式(1)で表される化合物中の
m―TB:2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル 及び
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
を、ポリイミド絶縁層を構成するジアミン化合物の20モル%以上とすることが好ましい。また、ポリイミド絶縁層が複数層からなる場合、上記m―TB及びTFMBがポリイミド絶縁層全体のポリイミド絶縁層を構成するジアミン化合物の50モル%以上含まれることが好ましい。
【0023】
一方、ポリイミド絶縁層のテトラカルボン酸残基を形成する酸としては、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物等を使用することができる。ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、3,3',4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。特に、ポリイミド絶縁層におけるテトラカルボン酸残基が、ピロメリット酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基又は3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基の少なくとも1種を含み、その合計が、全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して50モル%以上であることが好ましい。
【0024】
ポリイミド絶縁層を形成するにあたり、上記以外の酸無水物を含むこともできる。上記以外の酸無水物としては、例えば、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物等が挙げられる。
【0025】
また、熱膨張係数35×10-6/K以上の高熱膨張性のポリイミド層とするには、例えば、原料の酸無水物成分としてピロメリット酸二無水物、3,3',4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を、ジアミン成分としては、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを用いることがよく、特に好ましくはピロメリット酸二無水物及び2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを原料各成分の主成分とするものがよい。なお、このようにして得られる高熱膨張性のポリイミド層の好ましいガラス転移温度は、300~400℃の範囲内である。
【0026】
また、ポリイミド絶縁層を低熱膨張性のポリイミド層と高熱膨張性のポリイミド層との積層構造とした場合、好ましくは、低熱膨張性のポリイミド層と高熱膨張性のポリイミド層との厚み比(低熱膨張性のポリイミド層/高熱膨張性のポリイミド層)が2~15の範囲内であるのがよい。この比の値が、2に満たないとポリイミド絶縁層全体に対する低熱膨張性のポリイミド層が薄くなるため、ポリイミドフィルムの寸法精度とループスティフネスの制御が困難となり、例えば金属層をエッチングして回路配線層を形成した際の寸法変化率が大きくなり、15を超えると高熱膨張性のポリイミド層が薄くなるため、ポリイミド絶縁層と回路配線層との接着信頼性が低下する。
【0027】
本発明の金属張積層板のポリイミド絶縁層は、上記ジアミン成分と酸無水物成分とを溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、ジアミン成分と酸無水物成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~30重量%の範囲内、好ましくは10~20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン、2-ブタノン、ジメチルスホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶剤の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。合成された前駆体は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、前駆体は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。
【0028】
ポリイミドの合成において、上記酸無水物及びジアミンはそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。ジアミン及び酸無水物の種類や、2種以上のジアミン又は酸無水物を使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、貯蔵弾性率、ガラス転移温度等を制御することができる。なお、上記ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0029】
ポリイミド絶縁層を構成するポリアミド酸の重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、50,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、塗工によりポリイミド絶縁層の強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際に塗工層の厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0030】
本発明の金属張積層板のより具体的な製造方法としては、支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、イミド化してポリイミド絶縁層を製造する方法(キャスト法)、支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、イミド化してポリイミド絶縁層を製造する方法などが挙げられる。また、金属張積層板のポリイミド絶縁層が複数層からなる場合の製造方法として、例えば、支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥することを複数回繰り返した後、イミド化を行う方法(逐次塗工法)、支持基材に、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布・乾燥した後、イミド化を行う方法(多層押出法)などが挙げられる。ポリアミド酸溶液を基材に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。多層のポリイミド層の形成に際しては、ポリイミド溶液又はポリアミド酸溶液を基材に塗布・乾燥する操作を繰り返す方法が好ましい。
【0031】
<金属層>
本発明の金属張積層板を構成する金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。
【0032】
金属層の形成方法に特に制限はなく、例えば、ポリイミド絶縁層に金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、メッキによって金属層を形成してもよく、ポリイミド絶縁層に金属箔を熱圧着などの方法でラミネートすることにより金属層を形成してもよい。また、上述のポリイミド絶縁層の前駆体であるポリアミド酸を含有する塗布液を金属箔の上にキャストし、乾燥して塗布膜とした後、熱処理してイミド化することにより、ポリイミド層と金属層の積層体を形成してもよい。
【0033】
また、本発明の金属張積層板は、ポリイミド絶縁層の一方の面に金属層を有するが、必要に応じて、もう一方の面に金属層を有する両面金属張積層板としても良い。
【0034】
<ポリイミド絶縁層と金属層の厚み比>
本発明の金属張積層板において、金属層の厚みに対するポリイミド絶縁層(式(1)のジアミン化合物から形成されるものに限られない)の厚みの比が0.3~2.0が好ましく、0.3~1.0がより好ましく、0.4~1.0が更に好ましい。この比が0.3未満であるとFPCの回路で送受信される電気容量が不足し、またループスティフネス値を特定の範囲として、優れた耐屈曲性を発現させることが困難となる。一方に、この比が2.0を超える場合にも耐屈曲性が低下する。
【0035】
<金属張積層板の厚み>
ポリイミド絶縁層(式(1)のジアミン化合物から形成されるものに限られない)と金属層の合計厚みは15μm以上~36μm以下が好ましく、16μm以上~24μm以下がより好ましい。金属張積層板の厚みが15μm未満であると、剛性が低すぎるためにFPCの製造時にハンドリングが困難となる。一方、36μmを超えると剛性が高すぎるためにFPCが屈曲した際に配線層に大きな応力が加わる部分が発生し、折り曲げが連続的に行われる場合の屈曲耐性が低下する。
【0036】
そのため、例えば180°曲げ試験を連続して行うと、配線層の抵抗値が所定値を超えるまでの曲げ回数が低下する。即ち、
図2に示すように、金属層に、直線状の配線部分(長さA=110mm)が配線幅L/スペース幅S=100μm/100μmで並列した蛇行型配線201を形成し、蛇行型配線201の長手方向(X軸方向)を
図3に矢印で示すように180°反転させて2つ折りにすることで蛇行型配線201を形成した金属張積層板を屈曲させ、第1の非屈曲部110、第2の非屈曲部120、及び第1の非屈曲部110と第2の非屈曲部120の間の屈曲部130を形成するという折り曲げ動作を繰り返す場合において、第1の非屈曲部110及び第2の非屈曲部120の厚み方向に平行な軸方向をY軸方向とし、これに直交するとともに非屈曲部110、120の配線の長手方向をX軸方向とし、該X軸方向及びY軸方向の二次元座標軸において、前記屈曲部のX軸方向の最大長さLxを1.0mm以上10.0mm以下、前記屈曲部のY軸方向の最大長さLyを1.0mm以上6.0mm以下としたときに、折り曲げ動作開始前に対して蛇行型配線201の抵抗が10%上昇した時点の折り曲げ回数が8万回以上となる。
【0037】
<FPC>
金属層に配線加工が施されることによりFPCが形成される。配線パターンに特に制限はなく、配線加工は常法により行うことができる。
本発明は、かかるFPCも包含する。
【0038】
<カバーレイ>
配線加工された金属層上にはカバーレイを積層してもよい。カバーレイとしてはポリイミドフィルムに接着剤層が積層されている市販品を使用することができる。
カバーレイの厚みは35~40μmの範囲内が好ましく、引張弾性率は2.0~3.5GPaの範囲のものを用いることが好ましい。このようなカバーレイとしては、有沢製作所社製、CEA0525(商品名)などが挙げられる。
【0039】
<ループスティフネス>
本発明の金属張積層板は、その金属層に配線が形成されていない部分から試験片を切り取った場合に、試験片のループスティフネス値が1N/m以上6N/m以下、好ましくは1N/m以上3N/m以下、より好ましくは2.2N/m以下、さらに好ましくは2.1N/m以下である。
【0040】
このループスティフネス値は、金属張積層板から試験片の幅12.7mm、長さ165mmの試験片を切り取り、東洋精機社製のループスティフネステスタを使用し、
図1に示すように、試験片(金属張積層板)100の両端部を合わせてループ長が60mmのループ状とし、互いに対向させた圧子板21、22の間に試験片100を挟み、押し潰し速度3.3mm/秒、押し潰し距離15mmの条件で押し潰したときの圧縮力(反発力)である。なお、本発明においてループスティフネス値は、MD方向(ロールになっている金属張積層板の長手方向)のループスティフネス値を測定した。ループスティフネス値は数値が小さいほど剛性が低いことを表し、本発明の金属張積層板は従前の金属張積層板に比して剛性が低い。
【0041】
ループスティフネス値が、従前の金属張積層板に対して低い数値である1N/m以上6N/m以下という範囲にあることで、金属張積層板から形成したFPCは連続屈曲性に優れ、180°曲げ試験の繰り返しに耐えることができる。したがって、金属張積層板に配線201を形成したFPCの試験片200が
図3に矢印で示すように折り曲げられ、第1の非屈曲部110、第2の非屈曲部120、及び第1の非屈曲部110と第2の非屈曲部120の間の屈曲部130が形成された場合に、第1の非屈曲部110と第2の非屈曲部との距離であるキャップG’が狭い場合にも、屈曲部130の形状が鋭角になることを防ぎ、局所的に大きな応力が加わることを防止できる。さらには、金属張積層板が塑性変形しにくく、折り曲げ形状が円弧状に維持されるように屈曲部130における応力を分散させることが可能となる。よって、金属張積層板から形成したFPCに対して180°曲げ試験を連続的に行っても、FPCの配線層に金属疲労により亀裂又は破断が生じることを防止し、FPCの配線層の抵抗値が所定の値まで上がるまでの曲げ回数を増大させることができる。
【0042】
これに対して、ループスティフネス値が低すぎると金属張積層板が塑性変形し、折り曲げを繰り返す間に特定箇所に応力が集中し、屈曲疲労によりFPCの配線に亀裂や破断の虞が生じる。
【0043】
また、金属張積層板のループスティフネス値が1N/m以上6N/m以下という範囲にあることで、金属張積層板は低反発性を示し、FPC製造時及びFPC加工後の配線層の剥離が抑制され、作業性が良好になる。また、FPCを電子機器の内部に収容するにあたり、FPCが低反発性を有するため、内部空間の形状や大きさに合わせてFPCを屈曲させて収納することが行い易くなる。
【0044】
金属張積層板におけるループスティフネス値の上述の範囲への調整は、ポリイミド絶縁層を形成するポリイミド樹脂を上述の化合物から選択し、ポリイミド樹脂層の厚みと金属層の厚みとそれらの合計厚みを上述のように設定すること等により行うことができる。
【0045】
なお、本発明の金属張積層板から形成したFPCを、180°曲げが繰り返されるフォルダブルデバイスのヒンジ部等で使用する場合には、配線201が内側になって折り曲げられるように、FPCを配置することが好ましい。これにより、配線を外側に配置した場合に比して応力が小さくなり、耐屈曲性が向上する。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
以下に説明するように実施例1~実施例3及び参考例1~参考例4の銅張積層板及びFPCを作製し、ループスティフネス値を測定すると共に連続折り曲げ試験により耐屈曲性を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
(1)ループスティフネス値
配線加工をしていない金属張積層板から試験片(長さ165mm、幅12.7mm)を切り取り、ループスティフネステスタ(東洋精機社製)を用いて、ループ長60mm、押し潰し距離15mm、押し潰し速度3.3mm/秒の条件でMD方向(長手方向)のループスティフネス値を測定た。
【0048】
(2)連続折り曲げ試験
特開2019-113482号公報に記載の耐屈曲性試験装置と同様の耐屈曲性試験装置を用いて次のように試験した。
【0049】
まず、銅張積層板の銅箔をエッチング加工し、
図2に示すように、配線幅L=100μm、スペース幅S=100μm、銅張積層板の長手方向に沿った直線部分の長さA=110mm、直線部分が16列の蛇行型配線201を形成した試験片(試験回路基板片)200を作製した。なお、
図2は、試験片200における配線201のみを表すとともに、16列の配線の直線状部分の一部を表している。試験片200を耐屈曲性試験装置にセットし、その蛇行型配線201の両端201a、201bに抵抗測定器(図示せず)を接続した。
【0050】
次に、抵抗測定器で抵抗値のモニタリングを開始した。耐屈曲性試験装置では
図4Aに示すように、ステージ220、230に試験片200を配線201が上向きとなるように載置した。
【0051】
図5Aに示すように、ステージ220、230を回動させ、配線201が内側になって向き合うように試験片200を折り曲げ、第1の非屈曲部110、第2の非屈曲部120及び屈曲部130を形成した。
【0052】
なお、試験片200を折り曲げた状態で、屈曲部130の変形領域におけるX軸方向及びY軸方向の長さは、それぞれ、折り曲げ前のステージ220、230間の距離Sと、折り曲げ状態のステージ220、230間のギャップGによって任意に設定することができる。本試験におけるX軸方向及びY軸方向の長さを表1に示す。
【0053】
連続折り曲げ試験では、折り曲げ回数30万回を上限として実施し、それまでの間に抵抗値が折り曲げ試験前の値から10%以上上昇した時点を故障と判断し、その時までに繰り返した折り曲げ回数(屈曲回数)を測定値とし、10回の測定値の平均を平均屈曲回数とした。
【0054】
なお、連続折り曲げ試験では、試験片を載置するステージとして
図4Bに示すように、試験片の屈曲部の形状制御用治具を兼ねる凹部220a、230bを有するステージ220、230を使用し、
図5Bに示すように、ステージ220、230の凹部220a、230a同士が対向するようにステージ220、230を回動させることで、試験片200を折り曲げても良い。
【0055】
(3)熱膨張係数(CTE)
実施例及び参考例の銅張積層板を形成するポリイミドフィルムについて、セイコーインスツルメンツ製のサーモメカニカルアナライザーを使用し、250℃まで昇温し、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、240℃から100℃までの平均熱膨張係数(線熱膨張係数)を求めた。
【0056】
(4)実施例及び参考例のFPCの作製
(4-1)ポリアミド酸溶液の合成
(合成例1)
熱電対及び撹拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、N,N-ジメチルアセトアミドを入れ、さらに、この反応容器に2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)を投入して容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、ピロメリット酸二無水物(PMDA)をモノマーの投入総量が12wt%となるように投入した。その後、3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸aの樹脂溶液を得た。ポリアミド酸aから形成された厚み25μmのポリイミドフィルムの熱膨張係数(CTE)は、55×10-6/Kであった。
【0057】
(合成例2)
熱電対及び撹拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、N,N-ジメチルアセトアミドを入れ、さらに、この反応容器に2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)を投入して容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)およびピロメリット酸二無水物(PMDA)をモノマーの投入総量が15wt%、各酸無水物のモル比率(BPDA:PMDA)が20:80となるように投入した。その後、3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸bの樹脂溶液を得た。ポリアミド酸bから形成された厚み25μmのポリイミドフィルムの熱膨張係数(CTE)は、22×10-6/Kであった。
【0058】
(4-3)実施例1
銅箔1(圧延銅箔、長尺状、厚み;12μm)の上に、合成例1で調製したポリアミド酸aの樹脂溶液を硬化後の厚みが1.6μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。次に、この塗布面側に合成例2で調製したポリアミド酸bの樹脂溶液を硬化後の厚みが5.0μmとなるように均一に塗布し、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、この塗布面側にポリアミド酸aの樹脂溶液を硬化後の厚みが1.6μmとなるように均一に塗布し、130℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。この長尺状の積層体1を130℃から360℃まで段階的に熱処理し、片面銅張積層板(ポリイミド層の厚み;約8μm)を得た。
【0059】
片面銅張積層板におけるポリイミド層の面に前述と同様の銅箔1を300~400℃にて熱圧着することで両面銅張積層板を得た。
【0060】
両面銅張積層板の圧着面側の銅箔層をエッチング除去し、片面フレキシブル銅張積層板1(ポリイミド層の厚み;8μm、ループスティフネス値;1.71N/m)を得た。片面フレキシブル銅張積層板1の銅箔層を配線回路加工して銅配線を形成後、フレキシブル回路基板1を得た。フレキシブル回路基板1に連続折り曲げ試験を行ったところ、故障と判断されたときの平均屈曲回数は269,814回であり、複数個の試験片に対して同時に折り曲げ回数30万回の連続折り曲げ試験を行った場合の故障率(以下、故障率という)は6/10であった。
【0061】
(4-4)実施例2
銅箔1(圧延銅箔、長尺状、厚み;12μm)の上に、合成例1で調製したポリアミド酸aの樹脂溶液を硬化後の厚みが2.3μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。次に、この塗布面側に合成例2で調製したポリアミド酸bの樹脂溶液を硬化後の厚みが7.5μmとなるように均一に塗布し、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、この塗布面側にポリアミド酸aの樹脂溶液を硬化後の厚みが2.3μmとなるように均一に塗布し、130℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。この長尺状の積層体1を130℃から360℃まで段階的に熱処理し、片面銅張積層板(ポリイミド層の厚み;約12μm)を得た。
【0062】
片面銅張積層板におけるポリイミド層の面に銅箔1を300~400℃にて熱圧着することで両面銅張積層板を得た。
【0063】
両面銅張積層板の圧着面側の銅箔層をエッチング除去し、片面フレキシブル銅張積層板2(ポリイミド層の厚み;12μm、ループスティフネス値;2.12N/m)を得た。片面フレキシブル銅張積層板2の銅箔層を配線回路加工して銅配線を形成後、フレキシブル回路基板2を得た。フレキシブル回路基板2を評価したところ、平均屈曲回数は121,669回(故障率;10/10)であった。
【0064】
(4-5)実施例3
実施例2における銅箔1の代わりに、銅箔2(電解銅箔、長尺状、厚み;12μm)を使用したこと以外、実施例2と同様にして、片面銅張積層板3(ポリイミド層の厚み;12μm)、両面銅張積層板3、片面フレキシブル銅張積層板3(ポリイミド層の厚み;12μm、ループスティフネス値;2.37N/m)及びフレキシブル回路基板3を得た。フレキシブル回路基板3を評価したところ、平均屈曲回数は86,311回(故障率;10/10)であった。
【0065】
(4-6)参考例1
市販の両面フレキシブル銅張積層板4(圧延銅箔、長尺状、銅箔の厚み;12μm、ポリイミド層の厚み;25μm)の片面の銅箔層をエッチング除去し、片面フレキシブル銅張積層板4(ポリイミド層の厚み;25μm、ループスティフネス値;6.38N/m)とし、銅箔層を配線回路加工して銅配線を形成し、フレキシブル回路基板4を得た。フレキシブル回路基板4を評価したところ、平均屈曲回数は14,547回(故障率;10/10)であった。
【0066】
(4-7)参考例2
市販の両面フレキシブル銅張積層板5(電解銅箔、長尺状、銅箔の厚み;12μm、ポリイミド層の厚み;25μm)の片面の銅箔層をエッチング除去し、片面フレキシブル銅張積層板5(ポリイミド層の厚み;25μm、ループスティフネス値;8.31N/m)とし、銅箔層を配線回路加工して銅配線を形成し、フレキシブル回路基板5を得た。フレキシブル回路基板5を評価したところ、平均屈曲回数は16,015回(故障率;10/10)であった。
【0067】
(4-8)参考例3
参考例1のフレキシブル回路基板4の配線側にカバーレイA(有沢製作所社製、商品名;CEA0525、厚み;37.5μm)を貼り付け、フレキシブル回路基板6を得た。フレキシブル回路基板6を評価したところ、平均屈曲回数は151,400回(故障率;3/5)であった。
【0068】
(4-9)参考例4
参考例2のフレキシブル回路基板5の配線側にカバーレイA(厚み;37.5μm)を貼り付け、フレキシブル回路基板7を得た。フレキシブル回路基板7を評価したところ、平均屈曲回数は166,300回(故障率;3/5)であった。
【0069】
(5)まとめ
以上の結果をまとめて表1及び
図6に示す。なお、表1中のLS値はループスティフネス値を意味し、CLはカバーレイを意味する。
【0070】
【0071】
表1の結果から、ループスティフネス値が1N/m以上6N/m以下の範囲にある実施例1~3のフレキシブル銅張積層板は、参考例1、2に比して連続折り曲げ試験における故障までの平均屈曲回数が顕著に向上していることがわかる。
なお、カバーレイを設けた参考例3、4では平均屈曲回数が実施例2、3を上回っているが、本発明によれば、カバーレイを設けなくてもカバーレイを設けた場合と同等以上の平均屈曲回数を達成できることがわかる。
【符号の説明】
【0072】
21、22 圧子板
100 試験片、金属張積層板
110 第1の非屈曲部
120 第2の非屈曲部
130 屈曲部
200 試験片、FPC
201 蛇行型配線、配線
220、230 ステージ
220a、230b 凹部
G、G’ ギャップ
L 配線幅
S スペース幅