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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】リサイクルジルコニアの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20250117BHJP
   C04B 35/486 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C01G25/02
C04B35/486
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024533964
(86)(22)【出願日】2024-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2024009012
【審査請求日】2024-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2023057081
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】大橋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 浩代
(72)【発明者】
【氏名】久保田 歩
(72)【発明者】
【氏名】土屋 聡
(72)【発明者】
【氏名】小林 渉
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-218662(JP,A)
【文献】特開2009-286657(JP,A)
【文献】特開昭63-218582(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108529673(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/02
C04B 35/48 - 35/493
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素含有アンモニア雰囲気において、800℃以上1200℃以下の温度で、ジルコニア焼結体を熱処理するアンモニア処理工程を有し、
前記アンモニア処理工程が、下記条件(a)と下記条件(b)のいずれか一方の条件を満たす、リサイクルジルコニアの製造方法。
(a)前記酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度が0.3体積%以上10体積%以下である。
(b)前記酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度が0.2体積%以上10体積%以下であり、且つ、前記ジルコニア焼結体の立方晶率が80質量%以上である。
【請求項2】
前記酸素含有アンモニア雰囲気は、前記ジルコニア焼結体の熱処理開始時の雰囲気ガスが、少なくともアンモニア(NH)と酸素(O)を含む雰囲気ガスである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記雰囲気ガスのアンモニア(NH)と酸素(O)の合計濃度は、当該雰囲気ガス100体積%に対して、85体積%以上100体積%以下である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理を、雰囲気ガスが系内を流通している酸素含有アンモニア雰囲気で行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸素含有アンモニア雰囲気は、前記ジルコニア焼結体の熱処理中の雰囲気ガスが、アンモニアの活性種及びアンモニアの少なくともいずれか、並びに、酸素を含む雰囲気ガスである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ジルコニア焼結体の最大厚みが0.5μm以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ジルコニア焼結体の相対密度が98%以上である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ジルコニア焼結体を構成するジルコニアが安定化元素を含有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項9】
前記安定化元素がイットリウムである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ジルコニア焼結体が、アルミナ、シリカ及びゲルマニアの群から選ばれる1以上を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の製造方法で製造されるリサイクルジルコニアをジルコニアの原料として使用する焼結体のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジルコニア焼結体を処理して得られるリサイクルジルコニアの製造方法に関し、更にはジルコニア焼結体のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア焼結体は、機械的特性に加え、導電性や審美性に優れるため、粉砕媒体や、構造材料のみならず、装飾材料、電子機器の外装部材、センサー及び生体材料等、幅広い用途で使用されている。
【0003】
近年の持続可能な開発目標(SDGs)の観点から、リサイクル(再生)技術が注目されており、ジルコニアの焼結体についても、その再生・再利用が求められている。最も簡便なリサイクル方法は、粉砕等により焼結体を微細化し、これを原料粉末として再利用することである。例えば、従来のジルコニアの焼結体のリサイクル方法として、厚さ0.5μm未満のシート状のジルコニアの焼結体を粉砕して粉末化し、これをジルコニアの焼結体の原料として再利用する方法(例えば、特許文献1)が提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-263157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ジルコニア焼結体は、一般的に緻密であり、その機械的強度が高い。それ故、粉砕による粉末化が非常に困難である。特許文献1の方法は厚みが極めて薄いジルコニア焼結体には適用できる。しかしながら、板状以外の形状を有するジルコニアや、厚みが0.5μm以上のジルコニア焼結体に適用することはできなかった。
【0006】
このような課題に鑑み、本開示では、ジルコニア焼結体から、粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する方法、及び、ジルコニア焼結体をリサイクルできるジルコニアの焼結体のリサイクル方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示においては、一定の厚みを有するジルコニア焼結体のリサイクルについて検討した。その結果、ジルコニア焼結体を一度多孔化することで、ジルコニア焼結体のリサイクルを成し得うることに着目した。さらに、ジルコニア焼結体を特定の雰囲気で熱処理することにより、ジルコニア焼結体の多孔化ができること、及び、これによりリサイクルジルコニアが得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は特許請求の範囲に記載の通りであり、また、本開示の要旨は以下の通りである。
[1] 酸素含有アンモニア雰囲気において、800℃以上1200℃以下の温度で、ジルコニア焼結体を熱処理するアンモニア処理工程を有し、前記アンモニア処理工程が、下記条件(a)と下記条件(b)のいずれか一方の条件を満たす、リサイクルジルコニアの製造方法。
(a)前記酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度が0.3体積%以上である。
(b)前記酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度が0.2体積%以上であり、且つ、前記ジルコニア焼結体の立方晶率が3.5質量%以上である。
[2] 前記酸素含有アンモニア雰囲気は、前記ジルコニア焼結体の熱処理開始時の雰囲気ガスが、少なくともアンモニア(NH)と酸素(O)を含む雰囲気ガスである、上記[1]に記載の製造方法。
[3] 前記雰囲気ガスのアンモニア(NH)と酸素(O)の合計濃度は、当該雰囲気ガス100体積%に対して、85体積%以上100体積%以下である、上記[2]に記載の製造方法。
[4] 前記熱処理を、雰囲気ガスが系内を流通している酸素含有アンモニア雰囲気で行う、上記[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の製造方法。
[5] 前記酸素含有アンモニア雰囲気は、前記ジルコニア焼結体の熱処理中の雰囲気ガスが、アンモニアの活性種及びアンモニアの少なくともいずれか、並びに、酸素を含む雰囲気ガスである、上記[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の製造方法。
[6]前記ジルコニア焼結体の最大厚みが0.5μm以上である、上記[1]乃至[5]のいずれか1つに記載の製造方法。
[7] 前記ジルコニア焼結体の相対密度が98%以上である、上記[1]乃至[6]のいずれか1つに記載の製造方法。
[8] 前記ジルコニア焼結体を構成するジルコニアが安定化元素を含有する、上記[1]乃至[7]のいずれか1つに記載の製造方法。
[9] 前記安定化元素がイットリウムである、上記[8]に記載の製造方法。
[10] 前記ジルコニア焼結体が、アルミナ、シリカ及びゲルマニアの群から選ばれる1以上を含む、上記[1]乃至[9]のいずれか1つに記載の製造方法。
[11] 上記[1]乃至[10]のいずれか1つに記載の製造方法で製造されるリサイクルジルコニアをジルコニアの原料として使用する焼結体のリサイクル方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、ジルコニア焼結体から、粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する方法、及び、ジルコニア焼結体をリサイクルできるジルコニア焼結体のリサイクル方法の少なくともいずれかの提供、ができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例2で得られたリサイクルジルコニアの表面のSEM観察図
図2】実施例2で使用したジルコニア焼結体の表面のSEM観察図
図3】実施例3で得られたリサイクルジルコニアの表面のSEM観察図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の製造方法について、実施形態の一例を示して説明する。なお、本開示には、本明細書で開示した各構成及びパラメータの任意の組合せを含むものとし、また、本明細書で開示した値の上限及び下限の任意の組合せを含むものとする。
【0012】
本実施形態のリサイクルジルコニアの製造方法は、酸素含有アンモニア雰囲気において、800℃以上1200℃以下の温度で、ジルコニア焼結体を熱処理する工程(以下、「アンモニア処理工程」ともいう。)を有する。そして、アンモニア処理工程は、下記条件(a)及び下記条件(b)のいずれか一方の条件を満たす。
(a)酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度が0.3体積%以上である。
(b)酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度が0.2体積%以上であり、且つ、ジルコニアの焼結体の立方晶率が3.5質量%以上である。
【0013】
なお、本実施形態において、アンモニア処理工程が条件(a)と条件(b)のいずれか一方の条件を満たすとは、条件(a)と条件(b)のいずれか一方の条件のみを満たすことに加え、条件(a)と条件(b)の両方の条件を満たすことを包含することを意味する。
【0014】
アンモニア処理工程を含む本実施形態によれば、緻密なジルコニア焼結体であっても多孔化させることができ、その強度を低下させることができる。このため、ジルコニア焼結体から、粉砕しやすいリサイクルジルコニア、すなわち、粉末化が容易なジルコニアの組成物、更には、水平リサイクルによる再資源化が容易なジルコニアの組成物を製造することができる。なお、本実施形態において、焼結体のリサイクルは水平リサイクル及びカスケードリサイクルを含む。水平リサイクルは、リサイクルの前後での用途がいずれも焼結体及びその前駆体の少なくともいずれかであるリサイクルであり、リサイクルの後での用途をこれら以外とするカスケードリサイクルとは区別される。焼結体の前駆体、粉末、成形体及び仮焼体の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0015】
まず、条件(a)と条件(b)で共通する構成要件について、以下説明する。
【0016】
アンモニア処理工程では、酸素含有アンモニア雰囲気において、800℃以上1200℃以下の温度で、ジルコニア焼結体を熱処理する。
【0017】
アンモニア処理工程における酸素含有アンモニア雰囲気は、ジルコニア焼結体の熱処理開始時の雰囲気ガス(以下、「初期雰囲気ガス」ともいう)の熱処理により形成される雰囲気であればよい。初期雰囲気ガスは、少なくともアンモニア(NH)と酸素(O)を含む雰囲気ガスである雰囲気であればよい。酸素含有アンモニア雰囲気は、初期雰囲気ガスとして、少なくともアンモニア(NH)及び酸素(O)を含む雰囲気ガスが用いられれば、ジルコニア焼結体を熱処理する過程でその組成が初期雰囲気ガスと異なっていてもよい。例えば、酸素含有アンモニア雰囲気は、ジルコニア焼結体の熱処理中の雰囲気ガスが、アンモニアの活性種及びアンモニアの少なくともいずれか、並びに、酸素を含む雰囲気ガス、更には、アンモニアの活性種及び酸素を含む雰囲気ガスであることが好ましい。アンモニアの活性種として、NH 、NH2-及びN3-の群から選ばれる1以上が挙げられ、少なくともN3-を含むことが好ましい。アンモニアの活性種は、活性状態の窒素として機能する。さらに、酸素含有アンモニア雰囲気は、窒素(N)などの他のガス成分を含んでいてもよく、他のガス成分として一酸化炭素、水素及び窒素の群から選ばれる1以上、更には窒素が挙げられる。
【0018】
酸素含有アンモニア雰囲気における初期雰囲気ガスは、少なくともアンモニア(NH)と酸素(O)を含むガスであればよい。初期雰囲気ガスの具体例は、アンモニア、並びに、空気及び酸素の少なくともいずれかを含むガス、更にはアンモニアと空気を含むガス(以下、「アンモニア-空気混合ガス」ともいう)が挙げられる。
【0019】
初期雰囲気ガスのアンモニア(NH)と酸素(O)の合計濃度は、初期雰囲気ガス100体積%に対して、85体積%以上100体積%以下であることが例示できる。より粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する観点から、初期雰囲気ガスのアンモニア(NH)と酸素(O)の合計濃度は、初期雰囲気ガス100体積%に対して、90体積%以上100体積%以下であること、更には、100体積%であること(すなわち、初期雰囲気ガスがアンモニア(NH)及び酸素(O)のみからなること)が好ましい。
【0020】
ここで、アンモニア処理工程における熱処理が、酸素を含有しないアンモニア雰囲気や、酸素濃度が後述の条件(a)及び(b)を満たさない濃度である酸素含有アンモニア雰囲気で行われた場合、ジルコニア焼結体の多孔化がほとんど進行しない。これは、このような雰囲気で熱処理をした場合、ジルコニアの窒化が促進されてしまい、窒化ジルコニアの生成が優先的に進行してしまうことが主な原因と考えられる。このため、アンモニア処理工程における熱処理が、このような雰囲気で行われた場合には、粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造できない。
【0021】
アンモニア処理工程における熱処理は、雰囲気ガスが系内に滞留している酸素含有アンモニア雰囲気で行ってもよく、雰囲気ガスが系内を流通している酸素含有アンモニア雰囲気(以下、「酸素含有アンモニア流通雰囲気」ともいう)で行ってもよい。焼結体の多孔化をより促進するためには、酸素含有アンモニア流通雰囲気で行うことが好ましい。酸素含有アンモニア流通雰囲気は、熱処理中に酸素及びアンモニアを含む雰囲気ガスが系内を流通する雰囲気であればよく、例えば、雰囲気ガスとして、アンモニア-空気混合ガスが系内を流通する酸素含有アンモニア雰囲気(以下、「アンモニア-空気混合ガス流通雰囲気」ともいう)、が挙げられる。
【0022】
酸素含有アンモニア流通雰囲気においてジルコニア焼結体を熱処理する方法は、従来公知の方法を用いることもできる。例えば、ジルコニア焼結体を内部に配置した反応菅内に、雰囲気ガスを流通させ、雰囲気ガスが流通する反応菅を加熱することでジルコニア焼結体を熱処理する方法を用いることができる。具体的な熱処理方法として、ジルコニア焼結体が配置されたセッターを、反応菅内に配置した後、雰囲気ガスを流通させながら加熱する方法が挙げられる。反応菅及びセッターは、いずれも、熱処理中に副反応が生じにくいものであればよい。セッターとして、例えば、セラミックス製セッター、好ましくはジルコニア製セッター、ムライト製セッター及びアルミナ製セッターの群から選ばれる1以上、より好ましくはジルコニア製セッターが挙げられる。また、反応菅として、好ましくはジルコニア製反応菅、石英製反応菅、ムライト製反応菅及びアルミナ製反応菅の群から選ばれる1以上、より好ましくはジルコニア製反応菅、石英製反応菅及びアルミナ製反応菅の群から選ばれる1以上、更に好ましくは石英製反応菅が挙げられる。
【0023】
酸素含有アンモニア流通雰囲気における雰囲気ガス(例えば、アンモニア-空気混合ガス)の流通速度としては、例えば、400sccm(=ml/min。1気圧、0℃)以上800sccm以下であることが例示できる。より粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する観点からは、雰囲気ガスの流通速度は、好ましくは450sccm以上600sccm以下である。
【0024】
条件(a)及び条件(b)のいずれか一方の条件を満たすアンモニア処理工程が含まれることにより、ジルコニア焼結体が多孔化される理由の一つとして、酸素含有アンモニア雰囲気での熱処理により、ジルコニア焼結体内部への活性状態の窒素の拡散及び会合による窒素分子の形成が生じ、ジルコニア焼結体が多孔化されることが考えられる。すなわち、酸素含有アンモニア雰囲気での熱処理において、アンモニアから生成した活性状態の窒素を含むアンモニアの活性種がジルコニア焼結体内部まで拡散する。次いで、ジルコニア焼結体内部に拡散した活性状態の窒素が気体状の窒素(N)となる。ジルコニア焼結体内部での窒素(N)の発生、及び、発生した窒素(N)のジルコニア焼結体からの脱離によって、気孔が形成され、これによって焼結体が多孔化されることが考えられる。
【0025】
アンモニア処理工程における温度(熱処理温度)は、800℃以上1200℃以下である。熱処理温度が800℃以上1200℃以下の範囲外であると、ジルコニア焼結体の多孔化がほとんど進行しないか、多孔化に非常に長時間を要する。これは、熱処理温度が800℃未満であると、アンモニアから生成する活性状態の窒素が少なくなり、ジルコニア焼結体内部へ窒素が拡散しにくくなることが原因のひとつと考えられる。また、熱処理温度が1200℃を超えると、アンモニアの分解が進行し、活性状態の窒素のジルコニア焼結体内部への拡散がほとんど進行しないことが原因のひとつと考えられる。このため、アンモニア処理工程における熱処理温度が800℃以上1200℃以下の範囲外であると、粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造することができない。
【0026】
アンモニア処理工程における熱処理温度は、800℃以上1200℃以下であればよい。より粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する観点から、熱処理温度は900℃以上1100℃以下が好ましい。
【0027】
アンモニア処理工程における熱処理の時間は、アンモニア処理工程で熱処理するジルコニア焼結体の量や、熱処理炉の性能により適宜設定すればよいが、5時間以上、更には10時間以上が例示できる。アンモニア処理工程における熱処理の時間の上限は、50時間以下、更には20時間以下が例示できる。熱処理時間として5時間以上50時間以下、又は、10時間以上20時間以下が例示できる。
【0028】
アンモニア処理工程で熱処理するジルコニア焼結体(以下、「原料焼結体」ともいう。)は、ジルコニアの結晶粒子から構成される焼結体であるが、主としてジルコニアの結晶粒子から構成される焼結体であればよく、ジルコニアの結晶粒子と、添加成分(後述)の結晶粒子とから構成される焼結体であってもよい。
【0029】
原料焼結体は、ジルコニア粒子(粉末)を焼結することで製造される焼結体であればよい。ジルコニア焼結体は、ジルコニア粒子(粉末)を単に焼結しただけの焼結体であってもよいが、圧縮等により所定の形状に成形したジルコニア粒子(粉末)の成形体(圧粉体)を焼結して製造される焼結体や、ジルコニア粒子(粉末)を成形及び仮焼して得た仮焼体を焼結して製造される焼結体であってもよい。なお、成形条件、焼結条件、及び仮焼条件は、従来公知の条件を用いることができ、特に限定されるものではない。SDGsの観点からは、原料焼結体は、流通後のジルコニア焼結体、すなわち一旦市場で製品として用いられた使用済みのジルコニア焼結体(使用済焼結体)であることが好ましい。
【0030】
原料焼結体の結晶相は、正方晶及び立方晶の少なくともいずれかからなる結晶相であればよいが、少なくとも立方晶を含む結晶相であることが好ましい。好ましい原料焼結体の結晶相として、正方晶及び立方晶の混晶からなる結晶相、又は、立方晶からなる結晶相、が挙げられる。便宜的に、本実施形態において、ジルコニアの結晶相は単斜晶、正方晶及び立方晶が存在するとみなせばよい。
【0031】
原料焼結体は、粉砕等の物理的な処理だけでは微細化することが困難な緻密なジルコニア焼結体であることが好ましい。具体的には、相対密度が98%以上であるジルコニア焼結体であることが好ましく、相対密度が99%以上であるジルコニア焼結体であることがより好ましい。相対密度は100%以下又は99.9%以下であればよく、例えば、98.5%以上100%以下、99.0%以上99.9%以下であることが挙げられる。
【0032】
本実施形態において「相対密度」は、アルキメデス法により測定した体積、及び、質量測定により求まる質量から得られる実測密度ρ[g/cm]と、真密度ρ0[g/cm]と、を用いた以下の(3)式から求まる密度である。原料焼結体が安定化元素としてイットリウムを含む場合、焼結体の実測密度ρと、以下の(1)式及び(2)式から求まる焼結体の真密度ρ0[g/cm]と、を用いて以下の(3)式により焼結体の相対密度を求めることができる。なお、(1)式及び(2)式におけるXは、ジルコニア(安定化ジルコニア)におけるイットリウム含有量[mol%]である。
α = [0.5080+0.06980X/(100+X)]
×[0.5195-0.06180X/(100+X)] (1)
ρ0= [124.25(100-X)+225.81X]
/[150.5(100+X)α] (2)
相対密度[%] = (ρ/ρ0)×100 (3)
【0033】
また、原料焼結体が少なくともイットリウム以外の安定化元素を含む場合(原料焼結体が安定化元素としてイットリウム以外の安定化元素とイットリウムとを含む場合、又は原料焼結体が安定化元素としてイットリウム以外の安定化元素のみを含む場合)、(2)式から求まるρ0に代わり、(2’)式から求まるρ0[g/cm]を用いて、(3)式から相対密度を求めればよい。(2’)式から求まるρ0を用いる場合、(1)式におけるXには、ジルコニア(安定化ジルコニア)における安定化元素の合計含有量X[mol%]を用いればよい。
ρ0= [124.25(100-X)+M+M+・・・+M]/[150.5(100+X)α] (2’)
(2’)式において、M,M,…,Mは、酸化物換算した各安定化元素の物質量[g/mol]である。X,X,…,Xは各安定化元素の含有量[mol%]であり、Xはジルコニア(安定化ジルコニア)における安定化元素の合計含有量[mol%]であり、X=X+…+Xから求められる。なお、M,M,…,MとX,X,…,Xに付記される数字は、安定化元素の種類を示すものであり、nは、1以上の整数であり、且つ、原料焼結体に含まれる安定化元素の種類数を上限とする。
【0034】
なお、原料焼結体が安定化元素を含まない場合には、(1)式及び(2)式におけるXに0を代入して、(2)式から真密度ρ0を求めればよい。
【0035】
また、原料焼結体が添加成分(後述)を含む場合、(2)式又は(2’)式から求まるρ0に代わり、(2”)式から求まる真密度ρz[g/cm]を用いて(すなわち、相対密度[%]=(ρ/ρz)×100を(3)式として)、「相対密度」を求めればよい。
ρz=100/[Y/Madd1+Y/Madd2+…+Y/Maddn+(100-Y)/ρ0] (2”)
(2”)式において、Madd1,Madd2,…,Maddnは、酸化物換算した各添加成分の真密度[g/cm]である。Y,Y,…,Yは焼結体における各添加成分の含有量[質量%]であり、Yはジルコニア(安定化ジルコニア)における添加元素の合計含有量[質量%]であり、Y=Y+…+Yから求められる。なお、Madd1,Madd2,…,MaddnとY,Y,…,Yに付記される数字は、添加成分の種類を示すものであり、nは、1以上の整数であり、且つ、原料焼結体に含まれる添加成分の種類数を上限とする。ρ0は(2)式又は(2’)式から求められる焼結体の真密度[g/cm]である。
【0036】
ここで、(2”)式における、酸化物換算した各添加成分の真密度(Madd)は、例えば、アルミナの真密度(Madd)は3.987g/cm、シリカの真密度は2.334g/cm、及び、ゲルマニアの真密度は4.250g/cmであることが挙げられる。
【0037】
原料焼結体は、より粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する観点からは、結晶粒子の平均結晶粒径が、10μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることが更に好ましく、0.5μm以下であることがよりさらにより好ましい。結晶粒子の平均結晶粒径の下限は、例えば、0.1μm以上であることが挙げられる。原料焼結体の平均結晶粒径として0.1μm以上10μm以下、0.1μm以上5.0μm以下、0.1μm以上0.5μm以下であることが挙げられる。
【0038】
本実施形態における「平均結晶粒径」は、一般的な走査型電子顕微鏡(装置名:JSM-IT500、日本電子社製)を使用して、以下の測定条件により得られる走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)観察図からプラニメトリック法により求めればよい。
加速電圧 : 10kV
観察倍率 : 2000倍~40000倍
【0039】
プラニメトリック法による測定に先立ち、ジルコニア焼結体試料は、表面粗さRa≦0.02μmとなるように鏡面研磨をした後、大気雰囲気、結晶粒子の粒界が確認できる温度(例えば、焼結温度より50℃低い温度)で、30分熱エッチングをし、これを前処理とすればよい。
【0040】
プラニメトリック法では、前処理した焼結体試料のSEM観察図に面積が既知の円を描き、当該円内の結晶粒子数(Nc)及び当該円の円周上の結晶粒子数(Ni)を測定し、測定したNc及びNiを用いて以下の(4)式から、「平均結晶粒径」を求めることができる。
平均結晶粒径=(Nc+(1/2)×Ni)/(A/M)・・・(4)
上記(4)式において、Ncは円内の結晶粒子数、Niは円の円周上の結晶粒子数、Aは円の面積、及び、Mは走査型電子顕微鏡の観察倍率である。後述する実施例では、SEM観察図に面積が既知の円を描くにあたり、Nc及びNiの合計が125±25個となるように当該円を描いた。なお、描いた円が、NcとNiの合計が125±25個に満たない場合、複数(例えば、2以上5以下)のSEM観察図を使用し、SEM観察図毎に求められる値(暫定的な平均結晶粒径)の加算平均値を「平均結晶粒径」とした。
【0041】
ジルコニア焼結体を構成するジルコニアは、安定化元素を含むジルコニア、いわゆる安定化ジルコニアであることが好ましく、少なくともイットリウムを含むジルコニアであることがより好ましい。安定化元素は、ジルコニアの結晶相を安定化する元素であり、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イットリウム(Y)、イッテルビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)の群から選ばれる1種以上の元素を例示することができ、好ましくはカルシウム、マグネシウム、セリウム及びイットリウムの群から選ばれる1以上、より好ましくはイットリウムである。以下、安定化元素がイットリウム等である安定化ジルコニアを、イットリウム安定化ジルコニア等ともいう。
【0042】
ジルニア焼結体を構成するジルコニアがイットリウム安定化ジルコニアである場合、Y換算したイットリウムの含有量(以下、「イットリウム含有量」ともいう。)は、イットリウム安定化ジルコニア100mol%に対し、1.5mol%以上であることが好ましく、2.5mol%以上であることがより好ましい。イットリウム含有量の上限は、10mol%以下であることが好ましく、8mol%以下であることがより好ましい。正方晶を主相とするイットリウム安定化ジルコニアである場合イットリウム含有量は2mol%以上6mol%以下、好ましくは2.5mol%以上4mol%以下であることが挙げられる。また、立方晶を主相とするイットリウム安定化ジルコニアである場合イットリウム含有量は6mol%超10mol%以下、好ましくは7mol%以上9mol%以下であることが挙げられる。
【0043】
原料焼結体は、ジルコニアを主成分とする焼結体(母相がジルコニアである焼結体)であればよく、ジルコニア(若しくは、安定化ジルコニア)に加えて、ジルコニア以外の他の成分を含有していてもよい。このような他の成分としては、アルミニウム酸化物などの添加成分や、ハフニア(HfO)などのジルコニアの不可避不純物を例示することができ、これらは1種又は2種以上が含まれていてもよい。添加成分としてアルミナ、シリカ及びゲルマニアの群から選ばれる1以上、更にはアルミナが例示できる。原料焼結体において、ジルコニア焼結体における組成や密度等組成に基づく値の算出において、ハフニアは、ジルコニア(ZrO)とみなして計算する。
【0044】
原料焼結体が、添加成分としてアルミニウム化合物を含む場合、該アルミニウム化合物はアルミナであることが好ましく、好ましいアルミナの含有量は0質量%以上0.5質量%以下、更には0質量%超0.5質量%以下、また更には0.1質量%以上0.3質量%以下が例示できる。なお、含有量が0質量%であるとは、その物質を含まないことを意味する。
【0045】
本実施形態におけるアルミナの含有量は、ジルコニア焼結体の質量に対するAl換算したアルミニウムの質量(質量%)である。また、ジルコニア焼結体の質量は、ジルコニア焼結体に含まれる金属元素及び半金属元素を酸化物換算した合計質量である。金属元素及び半金属元素を酸化物換算するときには、例えば、ジルコニウム(Zr)がZrO、カルシウム(Ca)がCaO、マグネシウム(Mg)がMgO、セリウム(Ce)がCeO、プラセオジム(Pr)がPr11、ネオジム(Nd)がNd、サマリウム(Sm)がSm、ユウロピウム(Eu)がEu、ガドリニウム(Gd)がGd、テルビウム(Tb)がTb11、ジスプロシウム(Dy)がDy、ホルミウム(Ho)がHo、エルビウム(Er)がEr、ツリウム(Tm)がTm、イットリウム(Y)がY、イッテルビウム(Yb)がYb、ルテチウム(Lu)がLu、アルミウム(Al)がAl、ケイ素(Si)がSiO、及び、ゲルマニウム(Ge)がGeであるものとして換算することが挙げられる。なお、これら換算された酸化物は、(2’)式におけるM,M,…,Mや、(2”)式におけるMadd1,Madd2,…,Maddnの換算に用いればよい。
【0046】
原料焼結体の形状は任意であり、板状、柱状、立方体、多面体状、錐体状、球状、及び略球状の群から選ばれる1以上や、用途に応じた形状が挙げられる。原料焼結体は、不均一な厚みを有する原料焼結体であってもよく、均一な厚みを有する原料焼結体であってもよい。すなわち、原料焼結体は、厚みの異なる部分を含んでいてもよい。また、原料焼結体は、例えば、最大厚みが0.5μm以上であるジルコニア焼結体であってもよく、最大厚みが100μm以上であるジルコニア焼結体であってもよく、最大厚みが1mm以上のジルコニア焼結体、更には最大厚み1.5mm以上5mm以下のジルコニア焼結体であってもよい。しかしながら、原料焼結体は、最大厚みが0.5μm未満のジルコニア焼結体であってもよい。一方、原料焼結体が均一な厚みを有する場合、原料焼結体は、厚みが0.5μm以上であるジルコニア焼結体であってもよく、厚みが100μm以上であるジルコニア焼結体であってもよく、厚みが1mm以上のジルコニア焼結体、更には厚み1.5mm以上5mm以下のジルコニア焼結体であってもよい。しかしながら、原料焼結体は、厚みが0.5μm未満のジルコニア焼結体であってもよい。
【0047】
ここで、原料焼結体における厚みとは、原料焼結体における素材厚み、いわゆる肉厚(対向する表面間の距離)であり、測長機器(例えば、マイクロメーター、ノギス、肉厚測定機)で計測される値である。例えば、板状、柱状、立方体、多面体状、又は錐体状の原料焼結体においては、原料焼結体の表面のうちの最も面積が大きい表面に対して垂直な方向(最も面積が大きい表面が曲面である場合は、最も面積が大きい表面に対する法線が伸びる方向)における原料焼結体の長さを計測して得られる値が挙げられる。なお、板状、柱状、立方体、多面体状、及び錐体状は、表面にR加工が施された形状を含む。また、例えば、球状、又は略球状の原料焼結体においては、原料焼結体の断面のうちの最も面積が大きくなる断面に対して垂直な方向における原料焼結体の長さを計測して得られる値が例示できる。また、最大厚みは、厚みが最も大きい部分の厚みを計測して得られる値であることが挙げられる。例えば、凹凸を有する形状においては凸部の厚みを計測すればよい。
【0048】
次に、条件(a)を満たすアンモニア処理工程と条件(b)を満たすアンモニア処理工程との間で相違する構成要件について、以下説明する。
【0049】
条件(a)を満たすアンモニア処理工程では、酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度(以下、単に「酸素濃度」ともいう。)は、0.3体積%以上である。より粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する観点から、条件(a)を満たすアンモニア処理工程における酸素濃度は、0.4体積%以上であることが好ましい。
【0050】
条件(a)を満たすアンモニア処理工程において、酸素濃度の上限は、例えば、10体積%以下とすることができ、5体積%以下とすることもでき、1体積%以下とすることもできる。
【0051】
条件(a)を満たすアンモニア処理工程における酸素濃度は、前述した上限値及び下限値のいずれの組合せであってもよいが、0.3体積%以上10体積%以下とすることができ、0.3体積%以上5体積%以下とすることもでき、0.3体積%以上1体積%以下とすることもできる。より粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する観点からは、条件(a)を満たすアンモニア処理工程における酸素濃度は、0.4体積%以上10体積%以下であることが好ましく、0.4体積%以上5体積%以下であることがより好ましく、0.4体積%以上1体積%以下であることがよりさらに好ましく。
【0052】
酸素含有アンモニア雰囲気における、酸素濃度は初期雰囲気ガス中の酸素濃度から実質的に変化しない。そのため、初期雰囲気ガス中の酸素濃度を調整することにより、酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度を制御することができる。本実施形態では、酸素含有アンモニア雰囲気における初期雰囲気ガス(少なくともアンモニアと酸素を含む雰囲気ガス)の酸素濃度をもって、酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度とみなせばよい。酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度は、例えば、初期雰囲気ガスを形成するために導入した各成分(以下、「導入成分」ともいう)の体積から求めることができる。導入成分の体積には、例えば、1気圧(1013pa)及び25℃における体積を用いることができる。なお、酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度は、ガスクロマトグラフィーや酸素濃度計により初期雰囲気ガスの酸素濃度を測定することで求めてもよい。酸素濃度の測定は、例えば、1気圧(1013pa)及び25℃における条件で行うことができる。
【0053】
条件(a)を満たすアンモニア処理工程では、原料焼結体の立方晶率は、特に限定されるものでなく、ジルコニア焼結体が立方晶を含んでいなくてもよい(つまり、立方晶率が0質量%であってもよい)。より粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する観点からは、条件(a)を満たすアンモニア処理工程において、原料焼結体の立方晶率は、1質量%以上であることが好ましい。条件(a)を満たすアンモニア処理工程では、原料焼結体の立方晶率の上限は、例えば、100質量%以下であり、90質量%以下であってもよい。条件(a)を満たすアンモニア処理工程における原料焼結体の立方晶率として、1質量%以上100質量%以下、又は、1質量%以上90質量%以下であることが挙げられる。
【0054】
本実施形態における「立方晶率」は、ジルコニア焼結体の結晶相に占める立方晶の割合であり、一般的なX線回折装置(例えば、X‘pert PRO MPD、スペクトリス社製)を使用し、以下の条件で測定されるX線回折パターンをリートベルト解析することで求めればよい。
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
スキャンスピード : 0,17°/分
測定範囲 : 2θ=10°~140°
加速電圧・電流 : 40mA・45kV
発散縦制限スリット: 10mm
検出器 : 高速検出器(X’Celerator)
【0055】
リートベルト解析は、解析プログラム「RIETAN-FP」を使用し、以下の条件で結晶相を同定し、得られた結晶相の合計に占める立方晶の割合[質量%]をもって立方晶率とすればよい。
プロファイル関数 :分割pseudo-Voigt関数
範囲 :2θ=10°~140°
正方晶相 :正方晶系 空間群 P42/nmc
立方晶相 :立方晶系 空間群 Fm-3m
【0056】
アンモニア処理工程において、酸素濃度が0.3体積%以上であると、ジルコニア焼結体の結晶相に関わらず(すなわち、ジルコニアの焼結体の立方晶率に関わらず)、ジルコニア焼結体の多孔化を進行させることができる。このため、本実施形態の製造方法が、条件(a)を満たすアンモニア処理工程を含んでいれば、粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造することができる。
【0057】
一方、条件(b)を満たすアンモニア処理工程では、酸素濃度は、0.2体積%以上である。より粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する観点からは、条件(b)を満たすアンモニア処理工程において、酸素濃度は、0.4体積%以上であることが好ましい。
【0058】
条件(b)を満たすアンモニア処理工程において、アンモニア処理工程における酸素濃度の上限は、例えば、10体積%以下とすることができ、5体積%以下とすることもでき、1体積%以下とすることもできる。
【0059】
条件(b)を満たすアンモニア処理工程における酸素濃度は、前述した上限値及び下限値のいずれの組合せであってもよいが、0.2体積%以上10体積%以下とすることができ、0.2体積%以上5体積%以下とすることもでき、0.2体積%以上1体積%以下とすることもできる。より粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する観点から、条件(b)を満たすアンモニア処理工程における酸素濃度は、0.4体積%以上10体積%以下であることが好ましく、0.4体積%以上5体積%以下であることがより好ましく、0.4体積%以上1体積%以下であることがよりさらに好ましく。
【0060】
条件(b)を満たすアンモニア処理工程では、原料焼結体の立方晶率は、3.5質量%以上である。より粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する観点からは、条件(b)を満たすアンモニア処理工程において、原料焼結体の立方晶率は、4質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが特に好ましく、80質量%以上、更には90質量%以上であることがより好ましい。条件(b)を満たすアンモニア処理工程において、原料焼結体の立方晶率の上限は、例えば、100質量%以下とすることができる。条件(b)を満たすアンモニア処理工程における原料焼結体の立方晶率として、3.5質量%以上100質量%以下、4質量%以上100質量%以下、5質量%以上100質量%以下、10質量%以上100質量%以下、80質量%以上100質量%以下、又は90質量%以上100質量%以下であることが挙げられる。
【0061】
アンモニア処理工程において、酸素濃度が0.2体積%未満である場合には、ジルコニア焼結体の立方晶率に関わらず、ジルコニア焼結体の多孔化を進行させることができない。また、アンモニア処理工程における酸素濃度が0.2体積%以上0.3体積%未満である場合には、立方晶率が3.5質量%未満であるジルコニア焼結体に対して多孔化を進行させることができない。これは、このような条件下においては、ジルコニアの窒化が進行してしまい、窒化ジルコニアの生成が優先的に進行してしまうことが原因と考えられる。
【0062】
一方、酸素濃度が0.2体積%以上0.3体積%未満であっても、原料焼結体の立方晶率が3.5質量%以上であれば、多孔化を進行させることができる。これは、原料焼結体の立方晶率が高くなると、ジルコニア焼結体のイオン伝導性がより高くなり、窒素(活性状態の窒素)がジルコニア焼結体内部を拡散しやすくなることが原因と考えられる。このため、本実施形態の製造方法により、条件(b)を満たすアンモニア処理工程を含んでいれば、粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造することができる。
【0063】
以上説明した本実施形態の製造方法によれば、ジルコニア焼結体の形状にかかわらず、ジルコニア焼結体から粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造することができる。本実施形態における「リサイクルジルコニア」とは、ジルコニア焼結体のリサイクルにより得られるジルコニアの組成物であり、特に、ジルコニア焼結体から得られ、なおかつ、焼結体の原料及び原料の前駆体の少なくともいずれかに使用することができるジルコニアの組成物である。特に、本実施形態の製造方法で製造されるリサイクルジルコニアは、ジルコニア焼結体がジルコニアの原料としてリサイクル(再生利用)できるように処理された状態のジルコニアであり、具体的には、ジルコニア焼結体を多孔化させたもの(以下、「多孔質ジルコニア」ともいう)である。多孔質ジルコニアの具体的な一例としては、後述する実施例に示すように、結晶粒子に細孔が形成されている多孔質ジルコニアを例示することができる。
【0064】
ここで、結晶粒子に細孔が形成されている多孔質ジルコニアは、熱処理によって粒内気孔(結晶粒子中の気孔)が形成されたジルコニアであり、熱処理前後の結晶粒子をSEM観察により対比し、結晶粒子中に熱処理によって形成された粒内気孔を確認することができるジルコニアである。結晶粒子に細孔が形成されている多孔質ジルコニアは、結晶粒子と結晶粒子の間に空隙が確認できるだけのもの(結晶粒子中に細孔を確認できないもの)や、結晶粒子周縁の欠損が確認できるだけのもの(結晶粒子中に細孔を確認できないもの)など、熱処理によって粒界気孔(結晶粒子の界面(粒界)の空隙や欠損)が形成されたものとは異なる。なお、結晶粒子に細孔が形成されている多孔質ジルコニアは、結晶粒子中に細孔を確認することができれば、結晶粒子と結晶粒子の間に空隙が形成されていたり、結晶粒子周縁が欠損していたりしてもよい。
【0065】
なお、リサイクルジルコニアの組織形状は、一般的な走査型電子顕微鏡(装置名:S-4800、日立ハイテク社製)を使用して、以下の条件で観察すればよい。リサイクルジルコニアは、走査型電子顕微鏡での観察に先立ち、大気雰囲気、焼結温度より50℃低い温度で、30分熱処理することにより前処理をし、前処理をしたリサイクルジルコニアを観察対象とすればよい。
加速電圧 :20kV
測定倍率 :10000倍、30000倍又は50000倍
【0066】
本実施形態の製造方法で製造されるリサイクルジルコニアの形態は、任意であり、アンモニア処理工程に供した焼結体と同様な形態を有していてもよい。リサイクルジルコニアの具体的な形態としては、成形体、塊、及び凝集体の群から選ばれる1つ以上の形態が例示できる。
【0067】
本実施形態の製造方法によって製造されるリサイクルジルコニアは、ジルコニアの原料として使用することができる。このため、本開示によれば、本実施形態の製造方法で製造されるリサイクルジルコニアをジルコニアの原料として使用する、ジルコニア焼結体のリサイクル方法を提供することができ、更には、本実施形態の製造方法で製造されるリサイクルジルコニアを、焼結体製造用ジルコニア原料として使用する、焼結体の水平リサイクル方法を提供することもできる。このリサイクル方法において、本実施形態の製造方法で製造されるリサイクルジルコニアは、そのままジルコニアの原料として使用してもよいが、製品を製造する上では、原料とするジルコニアは粒子(粉末)の形態であることが好ましいため、製造されるリサイクルジルコニアを粉砕等により微細化し、微細化したリサイクルジルコニア(以下、「リサイクルジルコニア粉末」ともいう)をジルコニアの原料として使用してもよい。特に、ジルコニア焼結体をはじめとする焼結体はジルコニア粒子(粉末)の焼結により製造される。そのため、焼結体の水平リサイクル方法では、本実施形態の製造方法により製造されるリサイクルジルコニアを微細化し、得られたリサイクルジルコニア粉末を、焼結体製造用ジルコニア原料として用いることが好ましい。リサイクルジルコニアを用いて製造される焼結体は、ジルコニアを含む焼結体であり、例えば、ジルコニア粉末の焼結体であるジルコニア焼結体や、ジルコニア粉末とジルコニア以外の他の粉末(例えば、アルミナ粉末)の焼結体である複合焼結体を挙げることができる。
【実施例
【0068】
以下、実施例を用いて本開示を説明する。しかしながら、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
(SEM観察)
走査型電子顕微鏡(S-4800、日立ハイテク社製)を使用して、以下の条件で、アンモニア処理後のジルコニア焼結体(リサイクルジルコニア)の組織形状を観察した。
加速電圧 :20kV
測定倍率 :10000倍、30000倍又は50000倍
なお、SEMによる観察に先立ち、リサイクルジルコニアは、大気雰囲気、焼結温度より50℃低い温度で、30分熱処理することにより前処理をし、これを観察対象とした。
【0070】
(ラマン分光分析)
コンフォーカルラマンマイクロスコープ(InVIA、レニショー社製)を使用し、以下の条件で、アンモニア処理後のジルコニア焼結体(リサイクルジルコニア)のラマンスペクトルを測定し、そのスペクトル形状から結晶相を同定した。
励起波長 :532nm
【0071】
(平均結晶粒径)
実施例及び比較例で使用したジルコニア焼結体の平均結晶粒径は、走査型電子顕微鏡(装置名:JSM-IT500、日本電子社製)を使用し、以下の測定条件によりSEM観察図を得た。得られたSEM観察図を用いて、上述のプラニメトリック法により、上記(4)式から平均結晶粒径を求めた。
加速電圧 : 10kV
観察倍率 : 2000倍~40000倍
なお、平均結晶粒径の測定に先立ち、ジルコニア焼結体試料は、表面粗さRa≦0.02μmとなるように鏡面研磨をした後、大気雰囲気、結晶粒子の粒界が確認できる温度(例えば、焼結温度より50℃低い温度)で、30分熱エッチングすることにより前処理をし、前処理をしたジルコニア焼結体を測定対象とした。
【0072】
(相対密度)
ジルコニア焼結体試料の相対密度は、アルキメデス法により測定した体積、及び、質量測定により求まる質量から得られる実測密度ρと、上述の(1)式乃至(2”)式から求まる真密度ρ0((2”)式を用いる場合には真密度ρz)と、を用いて上述の(3)式により求めた。
【0073】
(結晶相の同定及び立方晶率)
ジルコニア焼結体試料及びリサイクルジルコニアの結晶相は、X線回折装置(装置名:X‘pert PRO MPD、スペクトリス社製)を使用し、以下の条件でX線回折パターンを測定した。
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
スキャンスピード : 0,17°/分
測定範囲 : 2θ=10°~140°
加速電圧・電流 : 40mA・45kV
発散縦制限スリット: 10mm
検出器 : 高速検出器(X’Celerator)
【0074】
得られた焼結体試料のXRDパターンを、RIETAN-FPを使用し、以下の条件によるリートベルト解析により結晶相を同定し、得られた結晶相の合計に占める立方晶の割合[質量%]をもって立方晶率を求めた。
プロファイル関数 :分割pseudo-Voigt関数
範囲 :2θ=10°~140°
正方晶相 :正方晶系 空間群 P42/nmc
立方晶相 :立方晶系 空間群 Fm-3m
【0075】
実施例1
市販のジルコニア粉末(イットリウム含有量3mol%である、イットリウム安定化ジルコニアの粉末。製品名:TZ―3YS、東ソー社製)5gを直径25mmの金型に充填し、19.6MPaで一軸プレス成形した後、196MPaで冷間静水圧プレス処理をすることで成形体を得た。得られた成形体を大気雰囲気、1500℃で2時間の常圧焼結をすることで、厚みが3mm、相対密度が99.3%及び平均結晶粒径が0.49μmであり、イットリウム含有量が3mol%であるイットリウム安定化ジルコニアからなる円板状のジルコニアの焼結体を得た。得られたジルコニアの焼結体は、正方晶及び立方晶からなる結晶相を有し、その立方晶率は4質量%であった。
【0076】
得られたジルコニアの焼結体をアルミナ板上に配置した後、石英ガラス製反応管を備えた管状炉にこれを配置した。反応管に配置したジルコニア焼結体を以下の条件で熱処理(アンモニア処理)した。
熱処理雰囲気 :アンモニア-空気混合ガス流通雰囲気
(アンモニア濃度:96.2体積%、酸素濃度:0.8体積%)
(アンモニア-空気混合ガス流量:520sccm)
熱処理温度 :1000℃
熱処理時間 :16時間
【0077】
熱処理(アンモニア処理)後、室温まで冷却し、本実施例のリサイクルジルコニアを得た。得られたリサイクルジルコニアは、原料として使用したジルコニア焼結体と同一形状であることが目視により確認できたが、熱処理(アンモニア処理)前後のSEM観察から、結晶粒子に細孔が形成されている多孔質のジルコニアであることが確認された。
【0078】
実施例2
熱処理雰囲気としてアンモニア濃度が98.0体積%及び酸素濃度が0.4体積%であるアンモニア-空気混合ガス流通雰囲気としたこと以外は実施例1と同様な方法で焼結体を熱処理し、本実施例のリサイクルジルコニアを得た。熱処理前のジルコニア焼結体の表面のSEM観察図を図2に、熱処理して得られたリサイクルジルコニアの表面のSEM観察図を図1に示した。熱処理前は細孔(気孔)が確認できなかったのに対し、熱処理後の結晶粒子には多数の細孔(気孔)を確認することができ、得られたリサイクルジルコニアが、結晶粒子に細孔が形成されている多孔化ジルコニアであることが確認できた。なお、リサイクルジルコニアは、原料として使用したジルコニア焼結体と同一形状であることが目視により確認できた。
【0079】
実施例3
市販のジルコニア粉末(アルミナ含有量が0.25質量%及びイットリウム含有量が3mol%である、アルミナ含有イットリウム安定化ジルコニアの粉末。製品名:TZ-PX-172、東ソー社製)を使用したこと、焼結温度を1200℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で厚みが3mm、相対密度が99.5%及び平均結晶粒径が0.18μmであり、アルミナ含有量が0.25質量%及びイットリウム含有量が3mol%である、アルミナを含有するイットリウム安定化ジルコニアからなる円板状のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は立方晶及び正方晶からなる結晶相を有し、その立方晶率は3質量%であった。得られたジルコニア焼結体を実施例1と同様な方法で熱処理し、本実施例のリサイクルジルコニアを得た。得られたリサイクルジルコニアは、原料として使用したジルコニア焼結体と同一形状であることが目視により確認できたが、熱処理(アンモニア処理)前後のSEM観察から、結晶粒子に細孔が形成されている多孔質ジルコニアであることが確認された。図3に本実施例のリサイクルジルコニアのSEM観察図を示す。図3に示すSEM観察図は、図1に示すSEM観察図よりも観察倍率が高いことから、細孔の状態がより明確に確認することができた。
【0080】
実施例4
実施例3と同様な方法で作製したジルコニア焼結体を使用したこと以外は実施例2と同様な方法で焼結体を熱処理し、本実施例のリサイクルジルコニアを得た。得られたリサイクルジルコニアは、原料として使用したジルコニア焼結体と同一形状であることが目視により確認できたが、熱処理(アンモニア処理)前後のSEM観察から、結晶粒子に細孔が形成されている多孔質ジルコニアであることが確認された。なお、本実施例のリサイクルジルコニアは、熱処理直後は焼結体と同様な形状を保持していたが、管状炉から取り出す際に崩壊し、粉末状になった部分が存在した。
【0081】
実施例5
市販のジルコニア粉末(製品名:TZ-8YS、東ソー社製)を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で厚み3mm、相対密度が98.6%及び平均結晶粒径が3.78μmであり、イットリウム含有量が8mol%であるイットリウム安定化ジルコニアからなる円板状のジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は、立方晶からなる結晶を有し、その立方晶率は、100質量%であった。得られたジルコニア焼結体を実施例1と同様な方法で熱処理し、本実施例のリサイクルジルコニアを得た。得られたリサイクルジルコニアは、原料として使用したジルコニア焼結体と同一形状であることが目視により確認できたが、熱処理(アンモニア処理)前後のSEM観察から、結晶粒子に細孔が形成されている多孔質ジルコニアであることが確認された。
【0082】
実施例6
実施例5と同様な方法で得られたジルコニア焼結体を使用したこと、及び、熱処理雰囲気としてアンモニア濃度が99.0体積%及び酸素濃度が0.2体積%であるアンモニア-空気混合ガス流通雰囲気としたこと以外は実施例1と同様な方法でジルコニア焼結体を熱処理し、本実施例のリサイクルジルコニアを得た。得られたリサイクルジルコニアは、原料として使用したジルコニア焼結体と同一形状であることが目視により確認できたが、熱処理(アンモニア処理)前後のSEM観察から、結晶粒子に細孔が形成されている多孔質ジルコニアであることが確認された。
【0083】
実施例7
実施例5と同様な方法で得られたジルコニア焼結体を使用したこと、及び、熱処理雰囲気としてアンモニア濃度が98.0体積%及び酸素濃度が0.4体積%であるアンモニア-空気混合ガス流通雰囲気としたこと以外は実施例1と同様な方法でジルコニア焼結体を熱処理し、本実施例のリサイクルジルコニアを得た。得られたリサイクルジルコニアは、原料として使用したジルコニア焼結体と同一形状であることが目視により確認できたが、熱処理(アンモニア処理)前後のSEM観察から、結晶粒子に細孔が形成されている多孔質ジルコニアであることが確認された。
【0084】
比較例1
実施例3と同様な方法で得られたジルコニア焼結体を使用したこと、及び、熱処理雰囲気としてアンモニア濃度が99.0体積%及び酸素濃度が0.2体積%であるアンモニア-空気混合ガス流通雰囲気としたこと以外は実施例1と同様な方法でジルコニア焼結体を熱処理し、本比較例のリサイクルジルコニアを得た。本比較例のリサイクルジルコニアは熱処理前と同様な形状を有し、なおかつ、その表面の組織も熱処理前から変化していなかった(つまり、多孔質ジルコニアではなかった)。
【0085】
[粉砕性評価]
得られた実施例及び比較例のリサイクルジルコニアの粉砕性評価を行った。すなわち、処理後のリサイクルジルコニアをピンセットで把持した際に形状の崩れが確認できたものを粉砕可能(評価:〇)と判断し、リサイクルジルコニアの形状の崩れが生じなかったものを粉砕困難(評価:×)と判断した。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示すように、実施例のリサイクルジルコニアは、破砕評価の結果が〇であったのに対し、比較例のリサイクルジルコニアは、破砕評価の結果が×であった。この結果から、実施例によれば、ジルコニア焼結体から粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造できることが理解できた。
【要約】
ジルコニア焼結体から粉砕しやすいリサイクルジルコニアを製造する方法、及び、ジルコニア焼結体をリサイクルできるジルコニア焼結体のリサイクル方法の少なくともいずれかを提供する。
酸素含有アンモニア雰囲気において、800℃以上1200℃以下の温度で、ジルコニア焼結体を熱処理するアンモニア処理工程を有し、前記アンモニア処理工程が、下記条件(a)と下記条件(b)のいずれか一方を満たす、リサイクルジルコニアの製造方法。
(a)前記酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度が0.3体積%以上である。
(b)前記酸素含有アンモニア雰囲気の酸素濃度が0.2体積%以上であり、且つ、前記ジルコニア焼結体の立方晶率が3.5%以上である。
図1
図2
図3