(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ガス検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/61 20060101AFI20250117BHJP
G01N 21/03 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G01N21/61
G01N21/03 B
(21)【出願番号】P 2021122620
(22)【出願日】2021-07-27
【審査請求日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2020180845
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】古屋 貴明
(72)【発明者】
【氏名】桑田 圭一郎
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-517055(JP,A)
【文献】特開2007-147613(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008925(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0348121(US,A1)
【文献】特開2017-120239(JP,A)
【文献】特表2009-526217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光部と、受光部と、発光部からの光を受光部に導く導光部を備え、
前記導光部の内面の少なくとも一部の形状は、n個(n:1以上の自然数)の楕円体の全部又は一部の図形で構成され、
前記n個の楕円体を楕円体E
1、E
2、…、E
(n-1)、E
nとし、
楕円体E
i(i:1≦i≦nを満たす自然数)の断面において最大の面積となる楕円を楕円Ec
iとし、楕円Ec
iの二つの焦点F
ai、F
biを通り、回転させずに楕円体E
iと拡大縮小の関係にある最小の体積を持つ楕円体を楕円体E
siとしたときに、
楕円体E
i内部であって楕円体E
siを含まない領域を領域R
iとし、
前記発光部の光源領域を含む楕円体E
iを、楕円体E
sとし、
前記受光部の受光領域を含む楕円体E
iを、楕円体E
dとし、
前記楕円体E
sの領域R
iを、領域R
inとし、
前記楕円体E
dの領域R
iを、領域R
outとしたときに、
前記光源領域の60%以上が領域R
inに存在し、前記受光領域の60%以上が領域R
outに存在する、ガス検出装置。
【請求項2】
前記楕円体E
s及び前記楕円体E
dのそれぞれの長半径aと短半径bの比a/bが、1.2以上である、請求項1に記載のガス検出装置。
【請求項3】
前記光源領域の最大長をLsとし、前記楕円体E
sの最大長をLmsとしたときに、Ls≧Lms/50である、請求項1又は2に記載のガス検出装置。
【請求項4】
前記受光部の最大長をLdとし、前記楕円体E
dの最大長をLmdとしたときに、Ld≧Lmd/50である、請求項1から3のいずれか一項に記載のガス検出装置。
【請求項5】
同一の保持部が前記発光部と、前記受光部を保持する、請求項1から4のいずれか一項に記載のガス検出装置。
【請求項6】
前記同一の保持部が、さらに制御部も保持する、請求項5に記載のガス検出装置。
【請求項7】
前記受光部と、前記発光部の少なくとも一方が光学フィルタを備えている、請求項1から6のいずれか一項に記載のガス検出装置。
【請求項8】
前記n個の楕円体とは異なる図形で構成される補助反射部を更に備えている、請求項1から7のいずれか一項に記載のガス検出装置。
【請求項9】
前記領域R
i内に、前記補助反射部が存在する、請求項8に記載のガス検出装置。
【請求項10】
前記発光部が、面光源である、請求項1から9のいずれか一項に記載のガス検出装置。
【請求項11】
前記n個の楕円体は、回転楕円体である、請求項1から10のいずれか一項に記載のガス検出装置。
【請求項12】
発光部と、受光部と、発光部からの光を受光部に導く導光部を備え、
前記導光部の内面の少なくとも一部の形状は、n個(n:1以上の自然数)の楕円体の全部又は一部の図形で構成され、
前記n個の楕円体を楕円体E
1、E
2、…、E
(n-1)、E
nとし、
楕円体E
i(i:1≦i≦nを満たす自然数)の断面において最大の面積となる楕円を楕円Ec
iとし、楕円Ec
iの二つの焦点F
ai、F
biを通り、回転させずに楕円体E
iと拡大縮小の関係にある最小の体積を持つ楕円体を楕円体E
siとしたときに、
楕円体E
i内部であって楕円体E
siを含まない領域を領域R
iとし、
前記発光部の光源領域を含む楕円体E
iを、楕円体E
sとし、
前記受光部の受光領域を含む楕円体E
iを、楕円体E
dとし、
前記楕円体E
sの領域R
iを、領域R
inとし、
前記楕円体E
dの領域R
iを、領域R
outとしたときに、
前記光源領域の重心又は輝度のピーク点を点G
in、前記受光領域の重心を点G
outとし、
点G
inが領域R
inに存在し、点G
outが領域R
outに存在する、ガス検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスを検出するガス検出装置が様々な分野で利用されている。例えば特許文献1は、赤外線を放射する光源と、特定波長の赤外線を検出する検出器とを楕円体の内面(楕円体ミラー)を有するケース内に備え、当該ケース内に被検出ガスが導入されるように構成された装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2018/0348121号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1及び
図2は、特許文献1のように楕円体ミラーの焦点位置に発光部及び受光部の中心部を配置した光路設計における光線追跡の一例である。
図1のように発光部のサイズに対して楕円体ミラーが十分に大きい場合には、焦点位置に置かれた発光部から出た光線を、もう一方の焦点に置かれた受光部に集めることができる。つまり、発光部を近似的に点光源と見なすことができるため、楕円体の一般的な性質に従い、片方の焦点位置から出た光線はもう一方の焦点位置に集まる。
【0005】
一方で、
図2で示すように発光部のサイズに対して楕円体ミラーが十分に大きくない場合には、発光部から出た光線は楕円体ミラー全体に散らばり、受光素子の受光部に集めることができない。これは、発光部が近似的に点光源として振る舞う物理的描像が破綻し、発光部のサイズによる楕円体ミラーの収差の影響が強く出るためである。
【0006】
近年のガス検出装置の小型化トレンドにともない、発光部のサイズと楕円体ミラーのサイズ比は小さくなってきている。
【0007】
かかる点に鑑みてなされた本開示の目的は、楕円体ミラーを用いた小型で高精度なガス検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係るガス検出装置は、
発光部と、受光部と、発光部からの光を受光部に導く導光部を備え、
前記導光部の内面の少なくとも一部の形状は、n個(n:1以上の自然数)の楕円体の全部又は一部の図形で構成され、
前記n個の楕円体を楕円体E1、E2、…、E(n-1)、Enとし、
楕円体Ei(i:1≦i≦nを満たす自然数)の断面において最大の面積となる楕円を楕円Eciとし、楕円Eciの二つの焦点Fai、Fbiを通り、回転させずに楕円体Eiと拡大縮小の関係にある最小の体積を持つ楕円体を楕円体Esiとしたときに、
楕円体Ei内部であって楕円体Esiを含まない領域を領域Riとし、
前記発光部の光源領域を含む楕円体Eiを、楕円体Esとし、
前記受光部の受光領域を含む楕円体Eiを、楕円体Edとし、
前記楕円体Esの領域Riを、領域Rinとし、
前記楕円体Edの領域Riを、領域Routとしたときに、
前記光源領域の60%以上が領域Rinに存在し、前記受光領域の60%以上が領域Routに存在する。
【0009】
一実施形態に係るガス検出装置は、
発光部と、受光部と、発光部からの光を受光部に導く導光部を備え、
前記導光部の内面の少なくとも一部の形状は、n個(n:1以上の自然数)の楕円体の全部又は一部の図形で構成され、
前記n個の楕円体を楕円体E1、E2、…、E(n-1)、Enとし、
楕円体Ei(i:1≦i≦nを満たす自然数)の断面において最大の面積となる楕円を楕円Eciとし、楕円Eciの二つの焦点Fai、Fbiを通り、回転させずに楕円体Eiと拡大縮小の関係にある最小の体積を持つ楕円体を楕円体Esiとしたときに、
楕円体Ei内部であって楕円体Esiを含まない領域を領域Riとし、
前記発光部の光源領域を含む楕円体Eiを、楕円体Esとし、
前記受光部の受光領域を含む楕円体Eiを、楕円体Edとし、
前記楕円体Esの領域Riを、領域Rinとし、
前記楕円体Edの領域Riを、領域Routとしたときに、
前記光源領域の重心又は輝度のピーク点を点Gin、前記受光領域の重心を点Goutとし、
点Ginが領域Rinに存在し、点Goutが領域Routに存在する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の実施形態によれば、楕円体ミラーを用いた小型で高精度なガス検出装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、楕円体ミラーにおける光線追跡の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、楕円体ミラーにおける光線追跡の別の例を示す図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係るガス検出装置の一部を透過させた斜視図である。
【
図4】
図4は、回転楕円体のミラーにおける光線追跡シミュレーション結果を示す図である。
【
図5】
図5は、領域R
iを説明するための図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係るガス検出装置の一構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係るガス検出装置の変形例を示す図である。
【
図8】
図8は、一般的な楕円体の光線シミュレーション結果を示す図である。
【
図9】
図9は、受動素子を含む発光部と間接素子を含む受光部の構成例を示す図である。
【
図10】
図10は、受動素子を含む発光部と間接素子を含む受光部の他の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本実施形態のガス検出装置>
本実施形態のガス検出装置は、発光部と、受光部と、発光部からの光を受光部に導く導光部を備える。
【0013】
導光部の内面の少なくとも一部の形状は、n個(n:1以上の自然数)の回転楕円体の全部又は一部の図形で構成される。
【0014】
n個の回転楕円体を楕円体E1、E2、…、E(n-1)、Enと定義する。楕円体Ei(i:1≦i≦nを満たす自然数)の二つの焦点Fai、Fbiを通り、楕円体Eiの回転対称軸と同一の回転対称軸をもち、楕円体Eiと相似縮小の関係にある楕円体を楕円体Esiと定義する。楕円体Ei内部であって楕円体Esiを含まない領域を領域Riと定義する。発光部の光源領域を含む楕円体Eiを、楕円体Esと定義する。受光部の受光領域を含む楕円体Eiを、楕円体Edと定義する(楕円体が一個の場合、つまりn=1である場合は、Es=Edである)。楕円体Esの領域Riを、領域Rinと定義する。楕円体Edの領域Riを、領域Routと定義する。
【0015】
本実施形態のガス検出装置は、光源領域の面積の60%以上が領域Rinに存在し、受光領域の面積の60%以上が領域Routに存在する。
【0016】
詳細な原理は後述するが、この構成を備えることにより、楕円体ミラーを用いた小型で高精度なガス検出装置を提供することが可能になる。
【0017】
<本実施形態のガス検出装置の具体的な構成の一例>
図3は、本開示の一実施形態に係るガス検出装置の一部を透過させた斜視図である。ガス検出装置は、一例として縦×横×高さが7mm×5mm×3mmの小型の装置であって、ガスセンサとも称される。
【0018】
本実施形態において、ガス検出装置は、導入した気体を透過した赤外線に基づいて被検出ガスの濃度を測定するNDIR(Non Dispersive InfraRed)方式の装置である。
【0019】
被検出ガスは、例えば二酸化炭素、水蒸気、、一酸化炭素、一酸化窒素、アンモニア、二酸化硫黄又はアルコール、ホルムアルデヒドやメタン、プロパン等の炭化水素系ガス等である。
【0020】
<アーキテクチャー(構成部材の相互関係)>
ガス検出装置は、発光部と、受光部と、導光部と、を備える。ガス検出装置は、さらに保持部を備えてよい。また、ガス検出装置は、付加的に制御部を備えてよい。
図3に示す本開示の一実施形態に係るガス検出装置は、保持部40によって保持された受光部20と発光部10、保持部40に保持された導光部30を備えている。図示はしないが、保持部40内に、発光部10及び受光部20の少なくとも一方を制御する制御部を備えていてよい。
【0021】
発光部10及び受光部20の表面は、導光部30の内壁と保持部40の上面との間の空間(検知空間)に接している。また導光部30は検知空間にガスを導入及び導出が可能なガスポート31を備えている。
【0022】
発光部10から放射された光は、導光部30の内面で少なくとも一度反射し、受光部20に到達する。
【0023】
次に、本実施形態のガス検出装置の構成部材について詳細な説明をする。
【0024】
<発光部>
発光部10は、被検出ガスの検出に用いられる光を発する部品である。発光部10は、被検出ガスによって吸収される波長を含む光を出力するものであれば特に制限されない。本実施形態において、発光部10が発する光は赤外線であるが、これに限定されない。
【0025】
発光部10は発光素子10Aを有する。本実施形態において、発光素子10AはLED(light emitting diode、発光ダイオード)であるが、別の例として、ランプ、レーザー(Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation)、有機発光素子又はMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ヒーター等であり得る。また、発光部10は発光素子10Aだけでなく、発光素子10Aで発した光を受けて受動的に発光する受動素子を含んでもよい。具体的には、受動素子はミラー、光学フィルタ、蛍光体、光学像、光ファイバ、光導波路、レンズ、あるいは回折格子である。
【0026】
なお、本実施形態においては、発光部10は発光素子10Aしか有さないため、発光部10と発光素子10Aは同義である。
【0027】
発光部10は光源領域をもつ。光源領域とは本実施形態のように発光素子10Aから受動素子を介さずに直接導光部30に光を導く場合には、発光素子10Aの光子が生成される領域である。具体的には、量子型の発光素子10Aであれば活性領域であり、熱式光源であれば高温領域である。例えば、ランプの場合はフィラメントである。
【0028】
また、発光部10が受動素子を含み、発光素子10Aで発した光を受動素子を介して導光部30に光を導く場合には、光源領域は受動素子の光線の出射端の集合体である。具体的には、受動素子がミラーの場合、光源領域は光線を反射している領域である。
【0029】
また、受動素子が波長選択機能を有する光学フィルタの場合、光学フィルタの空間と接する面で光線の通過する領域を光源領域ととらえてよい。また、受動素子が光ファイバ、光導波路、レンズの場合、空間と接する面で光線の通過する出射面を光源領域ととらえてよい。
【0030】
また、レンズやミラーなどによって発光部10として光学像が結像されている場合は、結像された像を光源領域ととらえてよい。
【0031】
ここで発光素子10Aは、LED、MEMSヒーター、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)など、平面状である面光源であることが好ましい。
【0032】
<受光部>
受光部20は、導入した気体を透過した光を受け取る部品である。受光部20は、被検出ガスによって吸収される波長を含む光の帯域に感度を有するものであれば特に制限されない。本実施形態において、受光部20が受け取る光は赤外線であるが、これに限定されない。
【0033】
受光部20は受光素子20Aを有する。本実施形態において、受光素子20Aはフォトダイオード(Photodiode)であるが、別の例としてフォトトランジスタ、サーモパイル、焦電センサ、ボロメータ又は光音響式検出器等であり得る。また、受光部20は受光素子20Aだけでなく、受光素子20Aに光を導く間接素子を含んでもよい。具体的には間接素子はミラー、光学フィルタ、蛍光体、レンズ、回折格子、光ファイバ、光導波路である。
【0034】
なお、本実施形態においては、受光部20は受光素子20Aしか有さないため、受光部20と受光素子20Aは同義である。
【0035】
受光部20は受光領域をもつ。受光領域とは、本実施形態のように受光素子20Aが間接素子を介さずに直接受光する場合には、受光素子20Aのうち受け取った光を信号に変換する機能を有する領域である。具体的には受光素子20Aがフォトダイオードの場合、受光領域は活性層のことであり、またサーモパイルの場合は熱電変換部である。
【0036】
また、受光部20が間接素子を介して受光素子20Aが受光する場合には受光領域とは間接素子のうち受け取った光を受光素子20Aに導くにあたり光学機能を有し、光線が通過する領域である。具体的には、間接素子が波長選択機能を有する光学フィルタの場合、光学フィルタの空間と接する面で光線の通過する領域を受光領域ととらえてよい。また、間接素子が光ファイバ、光導波路、レンズの場合、空間と接する面で光線の通過する入射面を受光領域ととらえてよい。また、間接素子がミラーの場合、受光領域は光線を反射している領域である。
【0037】
<導光部>
導光部30は発光部10が発した光を受光部20に導く部材であり、ガス検出装置の光学系である。発光部10から射出された光は、導光部30で反射され受光部20に到達する。換言すると、導光部30は、発光部10と受光部20とを光学的に接続させる。
【0038】
本実施形態において導光部30の内面はミラー(反射面)である。その内面の少なくとも一部の形状は回転楕円体の全部又は一部の図形である。導光部30は、補助的に平面ミラー、凹面ミラー又は凸面ミラー、レンズ、回折格子を更に備えていてよい。
【0039】
ミラーを構成する材料は、例えば、金属、ガラス、セラミックス、ステンレス等であってよいが、この限りではない。
【0040】
検出感度向上の観点から、これらのミラーを構成する材料は、光の吸収係数が小さく反射率が高い材料で構成されることが好ましい。具体的には、アルミニウム、金、銀を含む合金、誘電体又はこれらの積層体のコーティングが施された樹脂筐体が好ましい。樹脂筐体の材料としては、例えば、LCP(液晶ポリマー)、PP(ポリプロピレン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PA(ポリアミド)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PC(ポリカーボネート)又はPPS(ポリフェニレンスルファイド)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)、PAR(ポリアリレート樹脂)等、及び、これらの2つ以上を混合した硬質樹脂等があげられる。また、信頼性及び経時変化の観点から金又は金を含む合金層でコーティングされた樹脂筐体が好ましい。さらに、反射率を高めるために金属層の表面に誘電体積層膜を形成することが好ましい。導光部30の内面が樹脂筐体上に蒸着又はめっきによって形成される場合、金属材料で形成される場合と比較して、高生産性と軽量化の向上を図ることができる。さらに、保持部40との熱膨張係数差が縮まり、熱変形が抑制され、感度が変動しづらくなる。
【0041】
また、導光部30は切削加工で成形されてよく、生産性の観点からより好ましくは射出成型で成形されることが望ましい。
【0042】
<保持部>
保持部40は、受光部20、発光部10、導光部30を保持する部材である。保持とは、外力に対して各部材の相対的位置関係を維持しようとすることを意味する。保持の形態は特に制限されないが、機械的な保持である事が好ましい。保持の形態は、電磁的、化学的な保持であってよい。
【0043】
本実施形態のガス検出装置が制御部を有する場合、制御部は保持部40により保持されてよい。
【0044】
保持部40は、受光部20、発光部10、導光部30を保持することができれば特に制限されない。本実施形態において保持部40は樹脂パッケージであるが、別の例として、プリント基板、セラミックパッケージであってよい。もしくは、半導体基板を保持部40とし、受光部20と発光部10が同一の半導体基板上に形成されていてもよい。保持部40が樹脂パッケージである場合、内部にリードフレームを内蔵していてよく、リードフレームと発光部10、受光部20、制御部がワイヤー等によって電気的に接続されていてよい。また、保持部40がプリント基板である場合、プリント基板と受光部20及び発光部10ははんだによって電気的かつ機械的に接合されていてよい。さらに、保持部40と導光部30は、接着剤、ネジ、ツメ、はめ合い、グロメット、溶着等によって機械的に保持される。また、保持部40は外部と電気的な接続を行うための接続端子を有していてよい。
【0045】
<制御部>
制御部は、発光部10及び受光部20の少なくとも一方を制御する部材である。制御部は、受光部20から出力されたアナログ電気信号をデジタル電気信号に変換する、アナログ-デジタル変換回路を有していてよい。さらに、制御部は変換されたデジタル電気信号に基づきガス濃度演算を実行する演算部を有していてよい。
【0046】
制御部は、読み込むプログラムに応じた機能を実行する汎用のプロセッサ及び特定の処理に特化した専用のプロセッサの少なくとも1つを有してよい。専用のプロセッサは、特定用途向けIC(ASIC;Application Specific Integrated Circuit)を含んでよい。プロセッサは、プログラマブルロジックデバイス(PLD;Programmable Logic Device)を含んでよい。
【0047】
<ガス検出装置のサイズ>
図1(a)及び
図1(b)で、発光部10のサイズに対して楕円体ミラーが十分に大きい場合には、発光部10から出た光線を受光部20に集めることができることを示した。ここで導光部30のサイズとして、導光部30の一部の形状は楕円体として構成されるが、そのうち発光部10を包含する楕円体の最大長をLmsとし、光源領域の最大長をLsと定義する。ここでLs<Lms/50の条件が成り立つとき、発光部10のサイズが楕円体ミラーに対して十分に小さく、近似的に点光源と見なすことができる。そのため、片方の焦点位置から出た光線はもう一方の焦点位置に集まる。一方で、
図2(a)及び
図2(b)で示すように発光部10のサイズに対して楕円体ミラーが十分に大きくない場合(Ls≧Lms/50)では、発光部10から出た光線は楕円体ミラー全体に散らばり、受光部20に集めることができない。
【0048】
特に制限されないが、本実施形態のガス検出装置は、Ls≧Lms/50の場合に、特に顕著な効果を奏する。
【0049】
特に制限されないが、同様に、本実施形態のガス検出装置は、受光部20を包含する楕円体の最大長をLmdとし、受光部20の最大長をLdとしたときに、Ld≧Lmd/50の場合に、特に顕著な効果を奏する。
【0050】
次に、本実施形態のガス検出装置の原理について図面を参酌しながら詳細に説明する。
【0051】
<原理の説明>
図4は、本実施形態における基礎原理を説明するための図であり、回転楕円体のミラーにおいて、その回転軸を通る平面内おける光線追跡シミュレーション結果である。上記のようにガス検出装置は複数の回転楕円体でも構成され得るが、基礎原理の説明において1つの回転楕円体を用いて説明する。ガス検出装置を構成するn個(n:1以上の自然数)の回転楕円体を楕円体E
1、…、E
i、…、E
n(i:1≦i≦nを満たす自然数)とする場合に、
図4(a)、
図4(b)及び
図5の回転楕円体は1つの楕円体E
i(i=n=1)に対応する。
【0052】
図4(a)では回転楕円体の焦点F
ai、F
biよりも外側の領域である領域R
iの点から光線が射出した場合の光線のシミュレーション結果である。このとき、光線はミラー表面で反射を繰り返す。しかし、楕円体中央付近の焦点と焦点をつないだ領域である領域R
INTERに光線が侵入することはない。
【0053】
また
図4(b)は領域R
INTERの点から光線が出射した場合の光線のシミュレーション結果である。回転楕円体の焦点F
ai、F
biよりも外側の両端領域である領域R
EDGEに光線が侵入することはない。
【0054】
この領域Riと領域RINTERにおける光線の侵入領域の分離現象(以降は、領域分離現象と称する)は、光線の軌道と、ミラー面と同一形状の壁に弾性衝突を繰り返す剛体球の軌道とを、同一視することで説明される。楕円体壁で弾性反射する自由空間での剛体球の運動に対して、焦点Faiを中心とする角運動量LFaiと焦点Fbiを中心とする角運動量LFbiを内積した一般角運動量J=LFai・LFbiが保存される。このとき、領域Riの点から出射された剛体球の軌道では、各焦点から見て同じ方向に回転運動しているため、角運動量LFaiとLFbiは同一方向となり一般角運動量Jは正である(J>0)。一方で、領域RINTERを通過する軌道の場合は、各焦点から見た回転方向が逆方向であるため一般角運動量Jは負となる(J<0)。
【0055】
つまり一般角運動量Jの保存則より、最初に領域Riから出射された剛体球の軌道(光線)は一般角運動量Jが正の値であり、ミラー上の壁で何度反射されても、一般角運動量Jが負値で領域RINTERを通過する剛体球の軌道(光線)になることはない。また逆に一般角運動量Jが負値である領域RINTERから出射された剛体球の軌道(光線)は、ミラー上の壁で何度反射されようとも、一般角運動量Jが正の値である領域Riを通過する剛体球の軌道(光線)になることはない。このようにして領域分離現象がおこる。ここで、一般角運動量J=0の場合は、焦点から出射され、もう一方の焦点に至る軌道に相当し、これにより剛体球の運動の位相空間が分離されている。
【0056】
ここで、楕円体Ei(i:1≦i≦nを満たす自然数)の断面において最大の面積となる楕円を楕円Eciとする場合に、回転楕円体であれば、焦点が一義的に決まり、最大の面積は焦点の2つを通る断面である。また、楕円Eciの二つの焦点Fai、Fbiを通り、回転させずに楕円体Eiと拡大縮小の関係にある最小の体積を持つ楕円体を楕円体Esiとした場合に、回転楕円体であれば、焦点は一義的に決まる。そのため、上記の原理は、一般的に「楕円体Ei(i:1≦i≦nを満たす自然数)の断面において最大の面積となる楕円を楕円Eciとし、楕円Eciの二つの焦点Fai、Fbiを通り、回転させずに楕円体Eiと拡大縮小の関係にある最小の体積を持つ楕円体を楕円体Esiとしたときに」成り立つ。
【0057】
次に、上述した光線の侵入領域の分離現象を踏まえた本実施形態のガス検出装置の構成について説明する。
【0058】
図5は、一つの回転楕円体形状を含む導光部30の内面に対し、領域分離現象を応用した本実施形態を説明する図である。領域分離現象により、光源領域の少なくとも一部を領域R
i内に配置することで、この位置の光源から射出される光線はミラーで反射を繰り返しても常に領域R
iに存在する。このとき、同じく領域R
iに受光領域を配置することで、光線は領域R
INTERには散らばることなく領域R
i内に留まるので、受光領域に対して効率的に光を集めることができる。
【0059】
これにより検出装置のガス感度を向上することができる。光源領域と受光領域が部分的に領域Riに存在する場合も、その部分領域において本実施形態の効果が発揮される。よって、光源領域の60%以上が領域Riに存在することでその効果は実現される。また相補的に同一の表現であるが、光源領域と受光領域の40%未満が領域RINTERに存在することでその効果は実現される。ガス感度向上の観点から、光源領域の70%以上が領域Riに存在することが好ましく、光源領域の80%以上が領域Riに存在することがより好ましく、光源領域の全てが領域Riに存在することが好ましい。同様に、ガス感度向上の観点から、受光領域の70%以上が領域Riに存在することが好ましく、受光領域の80%以上が領域Riに存在することがより好ましく、受光領域の全てが領域Riに存在することが好ましい。
【0060】
すなわち、導光部30の内面の少なくとも一部の形状が楕円体Eiの二つの焦点Fai、Fbiを通り、楕円体Eiの回転対称軸と同一の回転対称軸をもち、楕円体Eiと相似縮小の関係にある楕円体を楕円体Esiとしたときに、楕円体Ei内部であって楕円体Esiを含まない領域を領域Riし、発光部10の光源領域と受光部20の受光領域の面積の60%以上が領域Riに存在することで、楕円体ミラーを用いた小型で高精度なガス検出装置が実現される。回転楕円体の2つの焦点が十分に離れており、領域RINTERが形成されている場合に、この効果は顕著に発現する。具体的には回転楕円体の短半径bと長半径aの比「a/b」が1.2以上である場合に、この効果は顕著に発現する。
【0061】
ここで、光源領域の60%以上が領域Rinに存在し、受光領域の60%以上が領域Routに存在するとしたが、重心又は輝度のピーク点に着目すると以下が成り立つ。すなわち、光源領域の重心又は輝度のピーク点を点Gin、受光領域の重心を点Goutとする。このとき、点Ginが領域Rinに存在し、点Goutが領域Routに存在する。
【0062】
<複数の楕円体における配置>
上記においては、回転楕円体ミラーが一つの場合(i=1の場合)の実施形態を説明したが、本実施形態のガス検出装置は複数の回転楕円体ミラーを有する導光部30を備える場合に関しても同様の効果を発現する。
【0063】
図6は回転楕円体形状の内面(反射面)を有する3つの導光部30を用いた場合の本実施形態に係るガス検出装置を説明する図である。
図6(a)は模式図である。
図6(b)は光線追跡シミュレーション結果である。
【0064】
図6(a)において、回転楕円体うち光源領域を包含する楕円体E
1に対する領域R
1を領域R
inとする。隣り合う楕円体E
2は領域R
2を含む。光源領域が領域R
inにある場合に、光線は楕円体E
s1のもう一方の端側の領域R
inに散らばることなく運ばれる。この光が運ばれる領域を改めて楕円体E
2の光源と見なすことにより、光線は領域R
2を散らばらず移動することができる。これを効率的に実現するためには、光線の折り返しのために隣の回転楕円体への導光部30として、
図6(a)及び
図6(b)に示すような補助反射部50を更に有することが好ましい。補助反射部50の形態は特に制限されないが、例えば、平面ミラー、凹面ミラー、凸面ミラー等が挙げられる。補助反射部50は、回転楕円体とは異なる図形で構成されてよい。簡易性と効率性の観点から、補助反射部50は平面ミラーであることが好ましい。また、補助反射部50は波長選択機能を持っていてよい。補助反射部50は回転楕円体の領域R
i内に配置されることが好ましい。
【0065】
これを順次繰り返すことによって、
図6(b)の光線追跡シミュレーション結果に示されるように、光線が散らばらずに移動することができるが、最後に受光領域を楕円体E
3の領域R
3である領域R
outに配置することで、ひとつの回転楕円体ミラーの場合と同じように効率的に光を集めることができる。
【0066】
すなわち、発光部10の光源領域の面積の60%以上が領域Rinに存在し、受光部20の受光領域の面積の60%以上が領域Routに存在することで、楕円体ミラーを用いた小型で高精度なガス検出装置を実現できる。回転楕円体ミラーが1つの場合と比べて、光路長を長く設計することが可能であり、検出精度の観点から好ましい場合がある。
【0067】
図7は回転楕円体が2つの場合の変形例である。導光部30が2つの回転楕円体を組み合わせたミラーと1つの平面ミラーからなり、2つの回転楕円の長軸が直角に交わる形態となっている。このとき、領域R
iに補助反射部50を備えることにより、
図6の場合と同様に、楕円体ミラーを用いた小型で高精度なガス検出装置を実現できる。
【0068】
以上、導光部30を回転楕円体として説明してきたが、一般的な楕円、つまり回転対称性を持たず3つの径の長さが違うものであってよい。これは楕円体壁のなかで弾性反射する剛体球の系(いわゆるビリヤード問題)も可積分系であるため、一般角運動量Jと同様な保存量が存在し、同様な領域分離現象が従う。
図8は一般的な楕円体の焦点F
ai、F
biよりも外側の領域である領域R
iの点から光線が射出した場合の光線のシミュレーション結果である。
図8に示される焦点F
ai、F
biは楕円体を平面で切断した場合に最大の面積となる平面楕円における焦点であり、その外側である領域R
iの中から出射された光線は反射を繰り返しても領域R
iにとどまり続ける。これは楕円の径のうち一番小さいものが、極限的に0となる場合には平面楕円内において光線する場合の焦点による領域分離現象と同じになることからも理解され、一般的な楕円は、これまで説明してきた回転楕円体とこの平面楕円の場合の中間に場合に位置づけされる。
【0069】
以上、実施形態を諸図面及び実施例に基づき説明したが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び修正は本開示の範囲に含まれることに留意すべきである。例えば、各部材、各手段などに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段などを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0070】
図9及び
図10は、別の実施形態における、受動素子を含む発光部10と間接素子を含む受光部20の構成例を示す図である。
図9の例において、発光部10は発光素子10Aと45°ミラーである受動素子を含んで構成される。また、
図9の例において、受光部20は受光素子20Aと45°ミラーである間接素子を含んで構成される。
図10の例において、発光部10は発光素子10Aとレンズである受動素子を含んで構成される。また、
図10の例において、受光部20は受光素子20Aと凹面鏡である間接素子を含んで構成される。
【0071】
(付記)
一実施形態に係るガス検出装置は、
発光部と、受光部と、発光部からの光を受光部に導く導光部を備え、
前記導光部の内面の少なくとも一部の形状は、n個(n:1以上の自然数)の回転楕円体の全部又は一部の図形で構成され、
前記n個の回転楕円体を楕円体E1、E2、…、E(n-1)、Enとし、
楕円体Ei(i:1≦i≦nを満たす自然数)の二つの焦点Fai、Fbiを通り、前記楕円体Eiの回転対称軸と同一の回転対称軸をもち、楕円体Eiと相似縮小の関係にある楕円体を楕円体Esiとしたときに、
楕円体Ei内部であって楕円体Esiを含まない領域を領域Riとし、
前記発光部の発光面を含む楕円体Eiを、楕円体Esとし、
前記受光部の受光面を含む楕円体Eiを、楕円体Edとし、
前記楕円体Esの領域Riを、領域Rinとし、
前記楕円体Edの領域Riを、領域Routとしたときに、
前記発光面の面積の60%以上が領域Rinに存在し、前記受光面の面積の60%以上が領域Routに存在してよい。
【符号の説明】
【0072】
10 発光部
20 受光部
30 導光部
31 ガスポート
40 保持部
50 補助反射部