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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】酸性水中油型乳化調味料
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/60 20160101AFI20250117BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20250117BHJP
   A23L 29/269 20160101ALI20250117BHJP
【FI】
A23L27/60 A
A23L29/238
A23L29/269
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024008990
(22)【出願日】2024-01-24
【審査請求日】2024-01-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】堀井 直人
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-088238(JP,A)
【文献】国際公開第2015/080232(WO,A1)
【文献】特開2000-060481(JP,A)
【文献】特開2014-233273(JP,A)
【文献】特開2021-171019(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/60
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素処理卵黄、2糖以下の糖類、酸味料、増粘剤、及び食用油脂を含有する酸性水中油型乳化調味料であって、
前記酸味料が、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ソルビン酸、安息香酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記2糖以下の糖類の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して10質量%以上であり、
前記2糖以下の糖類の含有量が、前記酸味料1質量部に対して14.0質量部以上であり、
前記増粘剤が、冷水膨潤型タマリンドシードガムを含み、前記冷水膨潤型タマリンドシードガムの含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して0.05質量%以上1.2質量%以下であり、
前記食用油脂の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して40質量%超であり、
焼成用であることを特徴とする、
酸性水中油型乳化調味料(ポリグリセリン脂肪酸エステルを全量に対して0.1~5質量%含むものを除く)。
【請求項2】
酵素処理卵黄、2糖以下の糖類、酸味料、増粘剤、及び食用油脂を含有する酸性水中油型乳化調味料であって、
前記酸味料が、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ソルビン酸、安息香酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記2糖以下の糖類の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して10質量%以上であり、
前記2糖以下の糖類の含有量が、前記酸味料1質量部に対して14.0質量部以上であり、
前記増粘剤が、冷水膨潤型タマリンドシードガムを含み、前記冷水膨潤型タマリンドシードガムの含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して0.05質量%以上1.2質量%以下であり、
前記酸性水中油型乳化調味料中のキサンタンガムの含有量の、前記冷水膨潤型タマリンドシードガム及び前記キサンタンガムの合計含有量に対する比が、0.1以下であり、
前記食用油脂の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して40質量%超であり、
焼成用であることを特徴とする、
酸性水中油型乳化調味料。
【請求項3】
前記酵素処理卵黄の含有量が、生換算で、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して1.0質量%以上10質量%以下であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の酸性水中油型乳化調味料。
【請求項4】
前記2糖以下の糖類の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して30質量%以下であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の酸性水中油型乳化調味料。
【請求項5】
前記2糖以下の糖類の含有量が、前記酸味料1質量部に対して60.0質量部以下であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の酸性水中油型乳化調味料。
【請求項6】
前記酸味料が、酢酸、クエン酸、及びリン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、
請求項1または2に記載の酸性水中油型乳化調味料。
【請求項7】
前記酸味料の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して0.1質量%以上1.0質量%以下であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の酸性水中油型乳化調味料。
【請求項8】
前記食用油脂の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して80質量%以下であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の酸性水中油型乳化調味料。
【請求項9】
前記酸性水中油型乳化調味料の25℃における粘度が、50Pa・s以上500Pa・s以下であることを特徴とする、
請求項1または2に記載の酸性水中油型乳化調味料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性水中油型乳化調味料に関し、詳細には、焼成用の酸性水中油型乳化調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、惣菜パンやピザなどの焼成される食品において、チーズなどのトッピング材がこんがりと焼けている様子は食欲をそそることが知られている。一方、マヨネーズ等の酸性水中油型乳化調味料も焼成食品のトッピング材として使用されるが、焼成によって酸性水中油型乳化調味料の物性が変化し、要求物性を満たせないという課題があった。
【0003】
例えば、加熱後に油分離をせず、加熱前と同様に滑らかな性状と適度な粘度及び固さを保ち、かつ卵黄や油特有のコク味を有する酸性水中油型乳化食品を得るために、リゾ化率70%以上となるようにホスフォリパーゼA2で処理した大豆レシチン0.6重量%以上と、未酵素処理の卵黄とを併用することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-60481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明者は、特許文献1に記載の酸性水中油型乳化食品では、焼成後の保形性を高めようとすると、口どけが悪くなるという技術的な課題を知見した。また、本発明者は、保形性と口どけの両方を兼ね備えた酸性水中油型乳化食品を検討していく中で、焼成によりコク味が弱まるという新しい課題をさらに知見した。そのため、本発明の目的は、焼成後の口どけ及び保形性に優れ、かつ、焼成後のコク味に優れている酸性水中油型乳化調味料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、驚くべきことに、酵素処理卵黄、2糖以下の糖類、酸味料、増粘剤、及び食用油脂を含有する酸性水中油型乳化調味料において、2糖以下の糖類の含有量を調節し、かつ、特定の増粘剤の含有量を調節することで、上記課題を解決できることを知見した。本発明者は、当該知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 酵素処理卵黄、2糖以下の糖類、酸味料、増粘剤、及び食用油脂を含有する酸性水中油型乳化調味料であって、
前記2糖以下の糖類の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して10質量%以上であり、
前記2糖以下の糖類の含有量が、前記酸味料1質量部に対して14.0質量部以上であり、
前記増粘剤が、冷水膨潤型タマリンドシードガムを含み、前記冷水膨潤型タマリンドシードガムの含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して0.05質量%以上1.2質量%以下であり、
前記食用油脂の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して40質量%超であることを特徴とする、
酸性水中油型乳化調味料。
[2] 前記酵素処理卵黄の含有量が、生換算で、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して1.0質量%以上10質量%以下であることを特徴とする、
[1]に記載の酸性水中油型乳化調味料。
[3] 前記2糖以下の糖類の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して30質量%以下であることを特徴とする、
[1]または[2]に記載の酸性水中油型乳化調味料。
[4] 前記2糖以下の糖類の含有量が、前記酸味料1質量部に対して60.0質量部以下であることを特徴とする、
[1]~[3]のいずれかに記載の酸性水中油型乳化調味料。
[5] 前記酸味料が、酢酸、クエン酸、及びリン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする、
[1]~[4]のいずれかに記載の酸性水中油型乳化調味料。
[6] 前記酸味料の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して0.1質量%以上1.0質量%以下であることを特徴とする、
[1]~[5]のいずれかに記載の酸性水中油型乳化調味料。
[7] 前記酸性水中油型乳化調味料中のキサンタンガムの含有量の、前記冷水膨潤型タマリンドシードガム及び前記キサンタンガムの合計含有量に対する比が、0.7以下であることを特徴とする、
[1]~[6]のいずれかに記載の酸性水中油型乳化調味料。
[8] 前記食用油脂の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して80質量%以下であることを特徴とする、
[1]~[7]のいずれかに記載の酸性水中油型乳化調味料。
[9] 前記酸性水中油型乳化調味料の25℃における粘度が、50Pa・s以上500Pa・s以下であることを特徴とする、
[1]~[8]のいずれかに記載の酸性水中油型乳化調味料。
[10] 焼成用であることを特徴とする、
[1]~[9]のいずれかに記載の酸性水中油型乳化調味料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、焼成後の口どけ及び保形性に優れ、かつ、焼成後のコク味に優れている酸性水中油型乳化調味料を提供することができる。このような酸性水中油型乳化調味料は消費者の食欲を惹起することができ、酸性水中油型乳化調味料のさらなる市場拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<酸性水中油型乳化調味料>
本発明の酸性水中油型乳化調味料は、少なくとも、酵素処理卵黄、2糖以下の糖類、酸味料、増粘剤、及び食用油脂を含有するものである。また、酸性水中油型乳化調味料は、水及び調味料等の他の原料等をさらに含んでもよい。本発明の酸性水中油型乳化調味料は、焼成後の口どけ及び保形性に優れ、かつ、コク味に優れているため、焼成用として好適に用いられる。
【0010】
酸性水中油型乳化調味料としては、例えば、マヨネーズ、マヨネーズ様調味料、ドレッシング、ソース、タレ、及びこれらに類する他の食品が挙げられる。本発明におけるマヨネーズ様調味料には、消費者庁の「食品表示基準」で定めるマヨネーズと類似の性状(例えば、味、外観、主原料等)を有しながら成分組成が食品表示基準に合致しない類似商品群も含まれる。
【0011】
(酸性水中油型乳化調味料のpH)
酸性水中油型乳化調味料のpHは、特に限定されないが、好ましくは2.7以上4.6以下であり、下限値がより好ましくは3.2以上であり、さらに好ましくは3.7以上であり、上限値が好ましくは4.4以下であり、より好ましくは4.2以下である。酸性水中油型乳化調味料のpHが上記範囲内であれば、酸性水中油型乳化調味料の微生物発生を制御して保存性を高めながら、酸性水中油型乳化調味料の風味のバランスを良好にすることができる。なお、酸性水中油型乳化調味料のpHの値は、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(株式会社堀場製作所製卓上型pHメータF-72)を用いて測定した値である。
【0012】
(酸性水中油型乳化調味料の粘度)
酸性水中油型乳調味料の粘度は、特に限定されないが、好ましくは50Pa・s以上500Pa・s以下であり、下限値がより好ましくは80Pa・s以上であり、さらに好ましくは100Pa・s以上であり、さらにより好ましくは120Pa・s以上であり、また、上限値がより好ましくは450Pa・s以下であり、さらに好ましくは400Pa・s以下であり、さらにより好ましくは350Pa・s以下である。酸性水中油型乳化調味料に上記範囲内の粘度を付与することで、焼成後の口どけ及び保形性を良好にし、かつ、焼成後のコク味を感じ易くなる。
なお、粘度の測定方法は、BH形粘度計を使用し、品温25℃、回転数2rpmの条件で、ローターNo.6を使用し、測定開始後ローターが2回転した時の示度により算出した値である。
【0013】
(酵素処理卵黄)
酸性水中油型乳化調味料には、通常の卵黄(酵素未処理卵黄)ではなく、酵素処理卵黄を用いる。ここで、酵素未処理卵黄としては、例えば、液卵黄や生卵黄、及び、当該液卵黄や生卵黄に通常の加工処理(殺菌処理、冷凍処理、脱糖処理、スプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理、超臨界二酸化炭素処理等の脱コレステロール処理、食塩又は糖質等の混合処理等)を施したものが挙げられる。酵素処理卵黄とは、上記の酵素未処理卵黄に酵素処理を施すことによりリン脂質を加水分解した卵黄である。酵素処理卵黄は、ホスフォリパーゼA1、ホスフォリパーゼA2、ホスフォリパーゼC、ホスフォリパーゼD又はプロテアーゼ等による酵素処理を施した卵黄であることが好ましい。本発明においては、焼成後の口どけ及び保形性を良好にするために、酸性水中油型乳化調味料に通常の卵黄(酵素未処理卵黄)が酵素処理卵黄よりも少ない、または含まれないことが好ましい。
【0014】
酵素処理卵黄の含有量は、生換算で、酸性水中油型乳化調味料の全量に対して、好ましくは1.0質量%以上10質量%以下であり、下限値が好ましくは2.0質量%以上であり、より好ましくは3.0質量%以上であり、さらに好ましくは4.0質量%以上であり、また、上限値がより好ましくは9.0質量%以下であり、さらに好ましくは8.0質量%以下であり、さらにより好ましくは7.0質量%以下である。酵素処理卵黄の含有量が上記数値範囲内であれば、焼成後の口どけ及び保形性を良好にし、かつ、焼成後のコク味を感じ易くなる。
【0015】
(2糖以下の糖類)
酸性水中油型乳化調味料に用いる2糖以下の糖類は、特に限定されず従来公知の食品用の2糖以下の糖類を用いることができる。2糖以下の糖類としては、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、スクロース、ラクトース、マルトース、及びトレハロース等が挙げられる。これらの中でも、グルコース、フルクトース、及びスクロースからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの2糖以下の糖類は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
2糖以下の糖類の含有量は、酸性水中油型乳化調味料の全量に対して、下限値が10質量%以上であり、好ましくは11質量%以上であり、より好ましくは12質量%以上であり、また、上限値が好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。
2糖以下の糖類の含有量が上記数値範囲内であれば、焼成後の酸性水中油型乳化調味料は、酸味の後味が感じられにくく、コク味を感じ易くなる。
2糖以下の糖類の含有量は、酸性水中油型乳化調味料中の酸味料1質量部に対して、下限値が14.0質量部以上であり、好ましくは15.0質量部以上であり、より好ましくは17.0質量部以上であり、また、上限値が好ましくは60.0質量部以下であり、より好ましくは50.0質量部以下であり、さらに好ましくは45.0質量部以下である。
2糖以下の糖類の含有量が上記数値範囲内であれば、焼成後の酸性水中油型乳化調味料は、酸味の後味が感じられにくく、コク味を感じ易くなる。
【0017】
(酸味料)
酸性水中油型乳化調味料に用いる酸味料は、特に限定されず従来公知の酸性水中油型乳化調味料用の酸味料が挙げられる。酸味料としては、例えば、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ソルビン酸、安息香酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸、及びそれらの塩、並びに、レモン果汁、リンゴ果汁、オレンジ果汁、乳酸発酵乳等を用いることができる。これらの中でも、酢酸、クエン酸、及びリン酸からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、酢酸を用いることがより好ましい。これらの酸味料は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
酸味料の含有量は、酸性水中油型乳化調味料の全量に対して、好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下であり、下限値がより好ましくは0.2質量%以上であり、さらに好ましくは0.3質量%以上であり、さらにより好ましくは0.4質量%以上であり、また、上限値はより好ましくは0.9質量%以下であり、さらに好ましくは0.8質量%以下であり、さらにより好ましくは0.7質量%以下である。酸味料の含有量が上記範囲内であれば、焼成後の酸性水中油型乳化調味料は、酸味の後味が感じられにくく、コク味を感じ易くなる。
【0019】
(増粘剤)
酸性水中油型乳化調味料には、増粘剤として、少なくとも冷水膨潤型タマリンドシードガムを配合する。ここで、冷水膨潤型タマリンドシードガムとは、加熱を必要とせず常温(20℃)の水で膨潤し、粘性を呈するタマリンドシードガムである。本発明においては、冷水膨潤型タマリンドシードガムを配合することで、焼成後にも良好な保形性と口どけの両立を実現する。
【0020】
冷水膨潤型タマリンドシードガムの含有量は、酸性水中油型乳化調味料の全量に対して、0.05質量%以上1.2質量%以下であり、下限値が好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.15質量%以上であり、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、上限値が好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.8質量%以下であり、さらに好ましくは0.6質量%以下である。冷水膨潤型タマリンドシードガムの含有量が上記範囲内であれば、酸性水中油型乳化調味料の乳化状態を維持し易く、また、焼成後にも良好な保形性と口どけの両立を実現する。
【0021】
酸性水中油型乳化調味料には、冷水膨潤型タマリンドシードガム以外のその他のガム類を配合することもできる。その他のガム類としては、例えば、キサンタンガム、コンニャクガム、グアーガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、及びアラビアガム等が挙げられる。但し、本発明においては、酸性水中油型乳化調味料中のキサンタンガムの含有量を低減することで、焼成後の口どけ及び保形性を良好にすることができる。
【0022】
酸性水中油型乳化調味料中のキサンタンガムの含有量の、冷水膨潤型タマリンドシードガム及びキサンタンガムの合計含有量に対する比は、上限値が好ましくは0.7以下であり、より好ましくは0.5以下であり、さらに好ましくは0.3以下であり、さらにより好ましくは0.1以下であり、0であってもよい。酸性水中油型乳化調味料中のキサンタンガムの含有量を低減することで、焼成後の口どけ及び保形性を良好にすることができる。
【0023】
酸性水中油型乳化調味料には、増粘剤として、さらに澱粉を配合してもよい。澱粉としては、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉コーンスターチ(例えば、スイートコーン由来、デントコーン由来、ワキシーコーン由来のコーンスターチ)、タピオカ澱粉、サゴ澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、及び米澱粉等が挙げられる。また、これらの澱粉に、架橋処理、乳化処理、エステル化処理、エーテル化処理、酸化処理、湿熱処理、及び湿熱処理等の処理を施したものも用いることができる。このような処理を施した加工澱粉としては、例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉、リン酸架橋澱粉、及びリン酸化澱粉等が挙げられる。これらの加工澱粉の中でも、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉を用いることが好ましい。これらの加工澱粉は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
加工澱粉の含有量は、酸性水中油型乳化調味料の全量に対して、下限値が好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、上限値が好ましくは3.0質量%以下であり、より好ましくは2.5質量%以下であり、さらに好ましくは2.0質量%以下である。加工澱粉の含有量が上記範囲内であれば、酸性水中油型乳化調味料の乳化状態を維持し易い。
【0025】
(食用油脂)
本発明の酸性水中油型乳化調味料に用いる食用油脂は、特に限定されず従来公知の食用油脂を用いることができる。食用油脂としては、例えば、菜種油、大豆油、パーム油、綿実油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、荏胡麻油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル等の植物油脂、魚油、牛脂、豚脂、鶏脂、又はMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂等を挙げることができる。これらの中でも、菜種油、大豆油、コーン油、パーム油、又はこれらの混合油を用いることが好ましい。これらの食用油脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
食用油脂の含有量は、酸性水中油型乳化調味料の全量に対して、下限値が40質量%超であり、好ましくは42質量%以上であり、より好ましくは44質量%以上であり、また、上限値が好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下であり、さらに好ましくは70質量%以下である。食用油脂の含有量が上記数値範囲内であれば、焼成後の口どけ及び保形性を良好にし、かつ、焼成後のコク味を感じ易くなる。
【0027】
(他の原料)
本発明の酸性水中油型乳化調味料は、上述した原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲で酸性水中油型乳化調味料に通常用いられている各種原料を適宜選択し含有させることができる。例えば、醤油、みりん、食塩、胡麻、グルタミン酸ナトリウム、ブイヨン等の調味料、ごま、からし粉、胡椒等の香辛料、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、静菌剤等が挙げられる。
【0028】
<酸性水中油型乳化調味料の製造方法>
本発明の酸性水中油型乳化調味料の製造方法の一例について説明する。例えば、まず、水、酵素処理卵黄、2糖以下の糖類、酸味料、増粘剤、及び調味料等の他の水相原料を混合して、水相を調整する。続いて、上記で調整した水相に油相原料である食用油脂を注加し、ミキサー等で乳化して、水相中に油相を乳化分散させた酸性水中油型乳化調味料を得ることができる。
【0029】
本発明の酸性水中油型乳化調味料の製造には、通常の酸性水中油型乳化調味料の製造に使われる装置を用いることができる。このような装置としては、例えば、一般的な撹拌機、スティックミキサー、スタンドミキサー、ホモミキサー等が挙げられる。撹拌機の撹拌羽形状としては、例えばプロペラ翼、タービン翼、パドル翼、アンカー翼等が挙げられる。
【実施例
【0030】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0031】
<酸性水中油型乳化調味料(焼成用マヨネーズ)の製造例>
[実施例1]
表1に記載の配合量に従い、酸性水中油型乳化調味料を調整した。具体的には、まず、酵素処理卵黄、グラニュー糖(スクロース99.9%含有)、食塩、グルタミン酸ナトリウム、食酢(酸度4%)、加工澱粉(ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)、冷水膨潤型タマリンドシードガム、及び水を均一になるように20℃で混合して水相を調整した。続いて、水相に食用植物油脂(大豆油)を注加し、20℃で乳化処理を行って、酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0032】
[実施例2]
グラニュー糖の配合量を15質量%に変更し、水の配合量を全体が100質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0033】
[実施例3]
グラニュー糖の配合量を18質量%に変更し、水の配合量を全体が100質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0034】
[実施例4]
食酢の配合量を6質量%に変更し、水の配合量を全体が100質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0035】
[実施例5]
食酢の代わりにクエン酸を0.8質量%添加し、水の配合量を全体が100質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0036】
[実施例6]
食酢の代わりにリン酸を0.3質量%添加し、水の配合量を全体が100質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0037】
[実施例7]
加工澱粉の配合量を1.5質量%に変更し、冷水膨潤型タマリンドシードガムの配合量を0.08質量%に変更し、キサンタンガムを0.04質量%添加し、水の配合量を全体が100質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0038】
[実施例8]
冷水膨潤型タマリンドシードガムの配合量を0.7質量%に変更し、水の配合量を全体が100質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0039】
[実施例9]
冷水膨潤型タマリンドシードガムの配合量を0.2質量%に変更し、キサンタンガムを0.2質量%添加した以外は、実施例1と同様にして酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0040】
[実施例10]
酵素処理卵黄の配合量を8質量%に変更し、大豆油の配合量を65質量%に変更し、水の配合量を全体が100質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0041】
[比較例1]
グラニュー糖の配合量を6質量%に変更し、水の配合量を全体が100質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0042】
[比較例2]
冷水膨潤型タマリンドシードガムの代わりにキサンタンガムを0.4質量%添加した以外は、実施例1と同様にして酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0043】
[比較例3]
酵素処理卵黄の代わりに通常の卵黄(未酵素処理)を5質量%添加した以外は、実施例1と同様にして酸性水中油型乳化調味料を製造した。
【0044】
実施例1~10及び比較例1の酸性水中油型乳化調味料について、各原料の配合量を表1に示した。
【0045】
【表1】
【0046】
<酸性水中油型乳化調味料(焼成用マヨネーズ)の評価>
(pH測定)
上記で得られた実施例1~10及び比較例1~3の酸性水中油型乳化調味料について、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(株式会社堀場製作所製卓上型pHメータF-72)を用いてpHを測定した。測定の結果、実施例1~10及び比較例1~3の酸性水中油型乳化調味料のpHは全て3.7以上4.2以下の範囲内であった。
【0047】
(粘度測定)
上記で得られた実施例1~10及び比較例1~3の酸性水中油型乳化調味料について、BH形粘度計を使用し、品温25℃、回転数2rpmの条件で、ローターNo. 6を使用し、測定開始後ローターが2回転した時の示度により、粘度(Pa・s)を算出した。測定の結果、実施例1~10の酸性水中油型乳化調味料の粘度は全て100Pa・s以上350Pa・s以下の範囲内であった。
【0048】
(官能評価)
上記で得られた実施例1~10及び比較例1~3の酸性水中油型乳化調味料を、横幅14mmのシリコンの型に充填し、食パンにトッピングし、200℃で10分間焼成した。焼成後の酸性水中油型乳化調味料について、複数の訓練されたパネルにより、下記の4段階の評価基準で、「口どけ及び保形性」及び「コク味」の各項目を評価した。評価点を表2に示した。「口どけ及び保形性」及び「コク味」の評価点がともに3点以上であれば、良好な結果であると言える。
<評価基準>
(焼成後の物性)
5点:焼成後の口どけが非常に良く、焼成後の保形性が非常に良かった。
4点:焼成後の口どけが良く、焼成後の保形性が良かった。
3点:焼成後の口どけが多少良く、焼成後の保形性が多少良かった。
2点:焼成後の口どけが悪い、又は、焼成後の保形性が悪かった。
1点:焼成後の口どけが非常に悪い、又は、焼成後の保形性が非常に悪かった。
(コク味)
5点:焼成後のコク味に非常に優れ、酸味の後味が全く感じられなかった。
4点:焼成後のコク味に優れ、酸味の後味がほとんど感じられなかった。
3点:焼成後のコク味に多少優れ、酸味の後味があまり感じられなかった。
2点:焼成後のコク味が劣っており、酸味の後味が感じられた。
1点:焼成後のコク味が非常に劣っており、酸味の後味が強く感じられた。
【0049】
実施例1~10の焼成後の酸性水中油型乳化調味料は、「口どけ及び保形性」及び「コク味」の評価点がいずれも3点以上であり、商品として優れていた。
比較例1の焼成後の酸性水中油型乳化調味料は、2糖以下の糖類の配合量が少なかったため、焼成後のコク味が劣っており、酸味の後味が感じられた。
比較例2の焼成後の酸性水中油型乳化調味料は、冷水膨潤型タマリンドシードガムを配合しなかったため、焼成後の口どけが悪く、焼成後の保形性も悪かった。
比較例3の焼成後の酸性水中油型乳化調味料は、酵素処理卵黄を配合しなかったため、焼成後の保形性が悪かった。
【0050】
【表2】
【要約】
【課題】焼成後の口どけ及び保形性に優れ、かつ、焼成後のコク味に優れている酸性水中油型乳化調味料の提供。
【解決手段】本発明は、酵素処理卵黄、2糖以下の糖類、酸味料、増粘剤、及び食用油脂を含有する酸性水中油型乳化調味料であって、
前記2糖以下の糖類の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して10質量%以上であり、
前記2糖以下の糖類の含有量が、前記酸味料1質量部に対して14.0質量部以上であり、
前記増粘剤が、冷水膨潤型タマリンドシードガムを含み、前記冷水膨潤型タマリンドシードガムの含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して0.05質量%以上1.2質量%以下であり、
前記食用油脂の含有量が、前記酸性水中油型乳化調味料の全量に対して40質量%超であることを特徴とする。
【選択図】なし