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特許7621620マイクロ波加熱ユニット、及びこれを用いる炭素繊維製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】マイクロ波加熱ユニット、及びこれを用いる炭素繊維製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/78 20060101AFI20250120BHJP
   F27B 9/36 20060101ALI20250120BHJP
   F27B 9/28 20060101ALI20250120BHJP
   F27D 11/12 20060101ALI20250120BHJP
   D01F 9/12 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
H05B6/78 Z
F27B9/36
F27B9/28
F27D11/12
D01F9/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022579550
(86)(22)【出願日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2022003831
(87)【国際公開番号】W WO2022168830
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2021015373
(32)【優先日】2021-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 革新的新構造材料等研究開発・革新炭素繊維基盤技術開発 委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100163120
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 嘉弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慶宜
(72)【発明者】
【氏名】圖子 博昭
(72)【発明者】
【氏名】杉山 順一
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/170299(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/152019(WO,A1)
【文献】特開昭56-000333(JP,A)
【文献】特表昭62-503199(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第10244941(DE,A1)
【文献】特表2020-513486(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110257959(CN,A)
【文献】特表2009-533562(JP,A)
【文献】特開平02-223186(JP,A)
【文献】特表2002-538580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/78
D01F 9/12
F27B 9/36
F27B 9/28
F27D 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波管の管壁に繊維導入口及び繊維導出口が形成されて成る炉体と、
前記導波管内にマイクロ波を導入するマイクロ波発振器と、
を含んで成るマイクロ波加熱ユニットであって、
炭素繊維前駆体である被加熱連続繊維が前記導波管の管軸に対して角度θ°の傾斜を有してその内部を走行するように構成されており、前記角度θ°が0<θ<90であり、
前記繊維導出口が前記導波管の終端部以外の部分に形成されていることを特徴とするマイクロ波加熱ユニット。
【請求項2】
前記角度θ°が10<θ<60である請求項1に記載のマイクロ波加熱ユニット。
【請求項3】
前記導波管が方形導波管であり、前記導波管の短辺管壁にそれぞれ繊維導入口と繊維導出口とが設けられている請求項1に記載のマイクロ波加熱ユニット。
【請求項4】
前記導波管を貫通するとともに、前記繊維導入口と前記繊維導出口とを接続する保温管を更に有して成り、前記保温管の内部を前記被加熱連続繊維が走行するように構成されている請求項1に記載のマイクロ波加熱ユニット。
【請求項5】
前記保温管の材質がアルミナ又はシリカアルミナ又はセラミックである請求項1に記載のマイクロ波加熱ユニット。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のマイクロ波加熱ユニットを用いて被加熱連続繊維を走行させながら加熱する中間炭素繊維乃至炭素繊維の製造方法であって、
炭素含有率が66質量%未満の被加熱連続繊維を加熱して中間炭素繊維乃至炭素繊維を得る工程を含むことを特徴とする中間炭素繊維乃至炭素繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の炭素繊維の製造方法であって、さらに請求項1乃至5の何れか1項に記載のマイクロ波加熱ユニットを用いて導波管内の極大磁界部分により被加熱連続繊維を走行させながら加熱する炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を照射して被加熱連続繊維を加熱するマイクロ波加熱ユニット、及びこれを用いる炭素繊維製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、他の繊維と比較して優れた比強度及び比弾性率を有しており、その軽量性及び優れた機械的特性を利用して、樹脂と複合化する補強繊維等として広く工業的に利用されている。
【0003】
従来、炭素繊維は次のように製造されている。先ず、前駆体繊維を加熱空気中230~260℃で30~100分間加熱することにより耐炎化処理される。この耐炎化処理により、アクリル系繊維の環化反応を生じさせ、酸素結合量を増加させて耐炎化繊維を得る。この耐炎化繊維は、例えば、窒素雰囲気下、300~800℃の焼成炉を用いて温度勾配をかけながら炭素化される(第一炭素化処理)。次いで、窒素雰囲気下で800~2100℃の焼成炉を用いて温度勾配をかけながらさらに炭素化される(第二炭素化処理)。このように、炭素繊維は加熱された焼成炉内で、耐炎化繊維をその外部から加熱することによって製造されている。
【0004】
上記のように製造する場合、被炭素化繊維内部の炭素化が不十分になることを避けるために、時間をかけて徐々に昇温しなければならない。また、外部から加熱を行う焼成炉は、炉体や焼成雰囲気のような被炭素化繊維以外のものも加熱されるため、熱効率が低い。
【0005】
近年、マイクロ波を照射することにより被炭素化繊維を加熱して炭素繊維を製造することが試みられている。マイクロ波による物質の加熱は、その内部から加熱される。そのため、マイクロ波を用いて被炭素化繊維を加熱する場合、繊維表面及び繊維内部における炭素化を均一に行うことが可能であり、炭素繊維の製造時間の短縮が期待される。
【0006】
従来、マイクロ波を用いて炭素繊維を製造する方法としては、特許文献1が知られている。特許文献1にはマイクロ波を用いる炭素繊維の製造方法が記載されている。
また、特許文献2には、被加熱物を加熱炉に対して斜めに搬送することにより、食品等の加熱斑を抑制するマイクロ波加熱装置が記載されている。
【0007】
しかし、炭素繊維の製造工程においては、被加熱繊維が誘電体から半導体、次いで導電体へと連続的に変化する。特に、マイクロ波を用いる炭素繊維の製造工程においては、被加熱繊維の性質が瞬時に変化する。即ち、被加熱繊維の誘電率が変化することにより、適した加熱条件が瞬時に変化する。そのため、従来のマイクロ波加熱ユニットを用いて被加熱繊維を加熱する場合、炉内の電磁気学的エネルギーの性質から不安定反応が起こりやすく、被加熱繊維を著しく損傷させて工程安定性が低下するとともに、得られる繊維の品質が著しく低下する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許6063045号公報
【文献】特許2898646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、マイクロ波を照射することによって被加熱繊維を加熱するマイクロ波加熱ユニットであって、被加熱繊維の誘電率が変化しても安定して加熱することができる小型のマイクロ波加熱ユニットを提供することである。また、本発明の他の課題は、該マイクロ波加熱ユニットを用いて被加熱繊維を炭素化する炭素繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、炉体の軸心に対して被加熱連続繊維を斜めに走行させることにより、上記課題を解決できることを見出した。即ち、炉体内に生じる電磁界分布は、導波管の所定箇所で極大電界強度となるところ、被加熱連続繊維を導波管の管軸に対して斜めに走行させることにより、極大電界強度付近で被加熱連続繊維を加熱するとともに、当該加熱によって誘電率が変化した被加熱連続繊維を速やかに極大電界強度付近から退避させることにより、被加熱連続繊維が半導体や導電体に変化したことによって生じる電界反射を抑制して工程安定性を高めることができることを見出した。
また、誘電体である被加熱連続繊維が半導体や導電体に変化した後に加熱する場合、マイクロ波の電界成分を利用する加熱では、放電による切断を生じやすく、加熱が不安定になるとともに被加熱連続繊維の品質を著しく低下させるところ、磁界成分を利用する加熱により、係る問題を解決できることを見出した。
【0011】
また、本発明者らは、筒状の炉体内に、マイクロ波を透過させる筒状の保温管を配設し、この中に被加熱連続繊維を走行させてマイクロ波を照射することに想到した。この保温管は、高温時にはマイクロ波を吸収して自ら発熱するため、被加熱連続繊維を高温で保温して炭素化速度を飛躍的に向上させることができることを見出した。
これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0012】
上記課題を解決する本発明は以下に記載するとおりである。
【0013】
〔1〕 導波管の管壁に繊維導入口(103、203、303)及び繊維導出口(105、205、305)が形成されて成る炉体(100、101、201、301、401、501)と、
前記導波管内にマイクロ波を導入するマイクロ波発振器(11)と、
を含んで成るマイクロ波加熱ユニット(1000、1000a、1000b、1000c、1001、1002、1003、1004)であって、
前記被加熱連続繊維(150、250、350、450、550、251、351、451、551)が前記導波管の管軸に対して角度θ°の傾斜を有してその内部を走行するように構成されており、前記角度θ°が0<θ<90であり、
前記繊維導出口が前記導波管の終端部以外の部分に形成されていることを特徴とするマイクロ波加熱ユニット。
【0014】
〔2〕 前記角度θ°が10<θ<60である〔1〕に記載のマイクロ波加熱ユニット。
【0015】
上記〔1〕及び〔2〕のマイクロ波加熱ユニットは、導波管を炉体とし、その内部を走行する被加熱連続繊維に常圧下でマイクロ波を照射するマイクロ波加熱ユニットであり、被加熱繊維を導波管の管軸に対して斜めに走行させることを特徴とする。
【0016】
〔3〕 前記導波管が方形導波管であり、前記導波管の短辺管壁にそれぞれ前記繊維導入口と前記繊維導出口とが設けられている〔1〕に記載のマイクロ波加熱ユニット。
【0017】
〔4〕 前記導波管を貫通するとともに、前記繊維導入口と前記繊維導出口とを接続する保温管(107、207、307)を更に有して成り、前記保温管の内部を前記被加熱連続繊維が走行するように構成されている〔1〕に記載のマイクロ波加熱ユニット。
【0018】
〔5〕 前記保温管の材質がセラミックである〔1〕に記載のマイクロ波加熱ユニット。
【0019】
上記〔4〕及び〔5〕のマイクロ波加熱ユニットは、被加熱連続繊維の走行部の外周がセラミック製の保温管で覆われている。
【0020】
〔6〕 〔1〕乃至〔5〕に記載のマイクロ波加熱ユニットを用いて被加熱連続繊維を走行させながら加熱する中間炭素繊維乃至炭素繊維の製造方法であって、炭素含有率が66質量%未満の被加熱連続繊維を加熱して中間炭素繊維乃至炭素繊維を得る工程を含むことを特徴とする中間炭素繊維乃至炭素繊維の製造方法。
【0021】
〔7〕 〔6〕に記載の炭素繊維の製造方法であって、さらに〔1〕乃至〔5〕に記載のマイクロ波加熱ユニットを用いて導波管内の極大磁界部分に被加熱連続繊維を走行させながら加熱する炭素繊維の製造方法。
【0022】
上記〔6〕及び〔7〕に記載の炭素繊維製造方法は、炭素繊維製造工程の少なくとも一部に〔1〕乃至〔5〕に記載のマイクロ波加熱ユニットを用いる炭素繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明のマイクロ波加熱ユニットは、被加熱連続繊維が炉体の軸心に対して斜めに走行する。そのため、炉体内の極大電界部分で加熱されて性状(誘電率)が変化した被加熱連続繊維を速やかに極大電界部分から退避できる。その結果、炉内で半導体乃至導電体となった繊維による電界反射が生じ難くなり、工程安定性を高くすることができる。
また、炉体として方形導波管を用い、繊維導入口及び繊維導出口を方形導波管のH面に装荷する場合は、炉体の幅を小さくすることができ、装置をコンパクトにできる。
さらに、保温管を用いる場合には、被加熱連続繊維を高温で保持することができるため、炭素化の効率を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明のマイクロ波加熱ユニットの一構成例を示す説明図である。なお、炉体の構造は省略して描かれている。
図2図2は、本発明のマイクロ波加熱ユニットの炉体の一構成例を示す説明図である。
図3図3は、本発明のマイクロ波加熱ユニットの炉体(H面装荷炉)の一構成例を示す説明図である。
図4図4は、本発明のマイクロ波加熱ユニットの炉体(E面装荷炉)の一構成例を示す説明図である。
図5図5は、図2の炉体内の電磁界分布を示す説明図である。
図6図6は、図3の炉体内の電磁界分布を示す説明図である。
図7図7は、図4の炉体内の電磁界分布を示す説明図である。
図8図8は、マイクロ波加熱ユニットの炉体(H面装荷炉)内の電磁界分布を示す説明図である。
図9図9は、マイクロ波加熱ユニットの炉体(E面装荷炉)内の電磁界分布を示す説明図である。
図10図10は、図3の炉体内の電磁界分布を示す説明図である。
図11図11は、図4の炉体内の電磁界分布を示す説明図である。
図12図12は、マイクロ波加熱ユニットの炉体(H面装荷炉)内の電磁界分布を示す説明図である。
図13図13は、マイクロ波加熱ユニットの炉体(E面装荷炉)内の電磁界分布を示す説明図である。
図14図14は、金属スリーブ及び保温管を設けない場合のマイクロ波加熱ユニットの炉体である。
図15図15は、金属スリーブを設けない場合のマイクロ波加熱ユニットの炉体である。
図16図16は、保温管を設けない場合のマイクロ波加熱ユニットの炉体である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明のマイクロ波加熱ユニット及びこれを用いる炭素繊維の製造方法について詳細に説明する。
なお、本発明において、炉体のH面とは方形導波管の短辺管壁を意味し、E面とは方形導波管の長辺管壁を意味する。
本発明において、誘電体、半導体及び導電体とは、明確な数値によって区別されるものではなく、被加熱連続繊維が加熱される前の状態が誘電体であり、完全に加熱された状態が導電体であり、その中間の状態が半導体であることを意味する。即ち、被加熱連続繊維が炭素繊維前駆体である場合、炭素繊維前駆体(炭素含有率が66~72質量%)が誘電体であり、炭素繊維乃至黒鉛化繊維が導電体(炭素含有率が90質量%以上)であり、その中間にある状態が半導体であることを意味する。
【0026】
(1) マイクロ波加熱ユニット
図1は、本発明のマイクロ波加熱ユニットの一構成例を示す説明図である。図1中、11はマイクロ波発振器であり、マイクロ波発振器11には、接続導波管12の一端が接続されており、接続導波管12の他端は炉体100に接続されている。この接続導波管12には、マイクロ波発振器11側から順にサーキュレータ13及び整合器15が介装されている。サーキュレータ13には、接続導波管14の一端が接続されており、接続導波管14の他端にはダミーロード19が接続されている。このとき、マイクロ波の炉体100への流入量と炉体100からの流出量を調整するための機構であるアイリス16と定在波を形成するための短絡板17とを導波管の各端部にそれぞれ設けることもできる。
【0027】
(2) 炉体
本発明のマイクロ波加熱ユニットの炉体100は、円筒導波管又は方形導波管から構成されている。導波管内にマイクロ波が導入されることにより、導波管内には、TE(Transverse Electric)モードの電磁界分布が形成される。TEモードとは、導波管内に伝送されるマイクロ波の方向に直交する電界成分を有する伝送モ-ドをいう。炉体100内に定在波を生じさせることにより、炉体100内には電界成分が極大になる場所と磁界成分が極大となる場所とが異なる位置で存在する。そのため、被加熱連続繊維を炉体内に走行させることによって、主として電界成分による加熱(以下、「電界加熱」ともいう)、及び主として磁界成分による加熱(以下、「磁界加熱」ともいう)をそれぞれ行うことができる。
【0028】
(2-1) 円筒導波管を用いる炉体
図2は、本発明のマイクロ波加熱ユニットの炉体の一構成例を示す説明図である。
図2中、1000はマイクロ波加熱ユニットであり、101は少なくとも一端が閉塞した円筒導波管から構成される炉体である。炉体101の外周には、繊維導入口103と繊維導出口105とがそれぞれ形成されている。炉体101には、炉体101の内部を管軸に対して斜めに貫通するとともに、繊維導入口103と繊維導出口105とを接続する保温管107が設けられていてもよい。保温管107は、その内部に被加熱連続繊維150が搬送されるように構成されている。炉体101の閉塞した内端部には短絡板109が配設されている。繊維導入口103及び繊維導出口105には、炉体101からの電磁波漏えいを防ぐために、それぞれ金属スリーブ111及び113を設けることができる。
なお、図14は、金属スリーブ及び保温管を設けない場合のマイクロ波加熱ユニットの炉体1000aである。図15は、金属スリーブを設けない場合のマイクロ波加熱ユニットの炉体1000bである。図16は、保温管を設けない場合のマイクロ波加熱ユニットの炉体1000cである。図2と同じ構成には同じ参照符号を付してその説明を省略する。
【0029】
次に、このマイクロ波加熱ユニット1000の動作について説明する。図2中、150は被加熱連続繊維であり、不図示の繊維搬送手段によって、保温管107の内部を通って繊維導入口103から炉体101内部に連続的に搬入される。マイクロ波発振器11が発振するマイクロ波は、接続導波管12内を通って、さらにアイリス16を通って炉体101内に導入される。炉体101内に到達したマイクロ波は、炉体101の閉塞した内端部(終端部)に配設された短絡板109で反射して整合器15を経由してサーキュレータ13に到達する。反射されたマイクロ波(以下、「反射波」ともいう)は、サーキュレータ13で方向が変えられ、接続導波管14を通ってダミーロード19で吸収される。このとき、整合器15を用いて整合器15と短絡板109との間で整合がとられ、炉体101内に定在波が生じる。この定在波によって、炉体101内には電界成分が極大になる場所(極大電界部分)と、磁界成分が極大になる場所(極大磁界部分)とが、それぞれ異なる位置に形成される。この定在波によって被加熱連続繊維150は加熱される。なお、本発明のマイクロ波加熱ユニット1000は、被加熱連続繊維150の走行方向は管軸に対して斜め方向であり、垂直でも平行でもない。そのため、被加熱連続繊維150は、極大電界部分又は極大磁界部分のみを走行することはない。また、このとき、炉体101内は常圧であり、且つ不図示の不活性ガス供給手段によって不活性雰囲気となっている。加熱された被加熱連続繊維150は、不図示の繊維搬送手段により、繊維導出口105を通って炉体101外に搬出される。被加熱連続繊維を繊維導入口103から炉体101内に連続的に搬入し、炉体101内で被加熱連続繊維にマイクロ波を照射して加熱し、繊維導出口105から連続的に搬出することにより、連続的に被加熱連続繊維150を加熱することができる。
【0030】
炉体101の管軸と保温管107の管軸とのなす角θ°は、0<θ<90であり、10<θ<60であることが好ましく、15<θ<55であることがより好ましい。また、被加熱連続繊維150は、炉体の終端部以外の部分から炉体外に搬出されるように構成されている。即ち、繊維導出口105は炉体101の管軸に沿う外周面に形成されている。炉体101の管軸と保温管107の管軸とを斜交させることにより、被加熱連続繊維の走行方向を管軸に対して傾斜させ、被加熱連続繊維が極大電界部分又は極大磁界部分を走行しつつも、該極大電界部分又は該極大磁界部分のみを走行することを防ぐことができる。その結果、後述するように、工程安定性を向上させることができる。なお、炉体101の管軸と被加熱連続繊維150とのなす角θ°は、0<θ<90であり、10<θ<60であることが好ましく、15<θ<55であることがより好ましい。
【0031】
(2-2) 方形導波管を用いる炉体
(a) H面装荷炉
図3は、本発明のマイクロ波加熱ユニットの炉体の一構成例を示す説明図である。図3中、1001はマイクロ波加熱ユニットであり、201は少なくとも一端が閉塞した方形導波管から構成される炉体である。炉体201の短辺管壁である2つのH面201a、201bには、繊維導入口203と繊維導出口205とがそれぞれ形成されている。炉体201には、炉体201の内部を斜めに貫通するとともに、繊維導入口203と繊維導出口205とを接続する保温管207が設けられていてもよい。保温管207は、その内部に被加熱連続繊維250が搬送されるように構成されている。炉体201の閉塞した内端部には短絡板209が配設されている。繊維導入口203及び繊維導出口205には炉体201からの電磁波漏えいを防ぐために、それぞれ金属スリーブ211及び213を設けることもできる。なお、円筒導波管を用いる場合と同様に、方形導波管を用いる場合であっても、保温管及び/又は金属スリーブは省略可能である。
【0032】
次に、このマイクロ波加熱ユニット1001の動作について説明する。図3中、250は被加熱連続繊維であり、不図示の繊維搬送手段によって、保温管207の内部を通って繊維導入口203から炉体201内部に連続的に搬入される。マイクロ波発振器11が発振するマイクロ波は、接続導波管12内を通って、さらにアイリス16を通って炉体201内に導入される。炉体201内に到達したマイクロ波は、炉体201の閉塞した内端部(終端部)に配設された短絡板209で反射して整合器15を経由してサーキュレータ13に到達する。反射波は、サーキュレータ13で方向が変えられ、接続導波管14を通ってダミーロード19で吸収される。このとき、整合器15を用いて整合器15と短絡板209との間で整合がとられ、炉体201内に定在波が生じる。この定在波によって、炉体201内には電界成分が極大になる場所(極大電界部分)と、磁界成分が極大になる場所(極大磁界部分)とが、それぞれ異なる位置に形成される。この定在波によって被加熱連続繊維250は加熱される。なお、本発明のマイクロ波加熱ユニット1001は、被加熱連続繊維250の走行方向は管軸に対して斜め方向であり、垂直でも平行でもない。そのため、被加熱連続繊維250は、極大電界部分又は極大磁界部分のみを走行することはない。また、このとき、炉体201内は常圧であり、且つ不図示の不活性ガス供給手段によって不活性雰囲気となっている。加熱された被加熱連続繊維250は、不図示の繊維搬送手段により、繊維導出口205を通って炉体201外に搬出される。被加熱連続繊維を繊維導入口203から炉体201内に連続的に搬入し、炉体201内で被加熱連続繊維にマイクロ波を照射して加熱し、繊維導出口205から連続的に搬出することにより、連続的に被加熱連続繊維250を加熱することができる。
【0033】
炉体201の管軸と保温管207の管軸とのなす角θ°は、0<θ<90であり、10<θ<60であることが好ましく、15<θ<55であることがより好ましい。また、被加熱連続繊維250は、炉体の終端部以外の部分から炉体外に搬出されるように構成されている。即ち、繊維導出口205は炉体201のH面201bに形成されている。炉体201の管軸と保温管207の管軸とを斜交させることにより、被加熱連続繊維の走行方向を管軸に対して傾斜させ、被加熱連続繊維が極大電界部分又は極大磁界部分を走行しつつも、該極大電界部分又は該極大磁界部分のみを走行することを防ぐことができる。その結果、後述するように、工程安定性を向上させることができる。なお、炉体201の管軸と被加熱連続繊維250とのなす角θ°は、0<θ<90であり、10<θ<60であることが好ましく、15<θ<55であることがより好ましい。
【0034】
本発明においては、機幅及びトウピッチを小さくできるH面装荷炉であることが好ましい。
【0035】
(b) E面装荷炉
図4は、本発明のマイクロ波加熱ユニットの炉体の他の構成例を示す説明図である。図4中、1002はマイクロ波加熱ユニットであり、301は少なくとも一端が閉塞した方形導波管から構成される炉体である。炉体301の長辺管壁である2つのE面301a、301bには、繊維導入口303と繊維導出口305とがそれぞれ形成されている。炉体301には、炉体301の内部を斜めに貫通するとともに、繊維導入口303と繊維導出口305とを接続する保温管307が設けられている。保温管307は、その内部に被加熱連続繊維350が搬送されるように構成されている。炉体301の閉塞した内端部には短絡板309が配設されている。繊維導入口303及び繊維導出口305には炉体301からの電磁波漏えいを防ぐために、それぞれ金属スリーブ311及び313を設けることもできる。
【0036】
このマイクロ波加熱ユニット1002の動作については、前述のマイクロ波加熱ユニット1001と同様であるため省略する。
【0037】
(3) 電界加熱
以下、電界加熱により、誘電体である炭素繊維前駆体を加熱する炉体の構成について説明する。
【0038】
図5は、図2のマイクロ波加熱ユニットの炉体101内における電磁界分布の一例を示す説明図である。この炉体101は、被加熱連続繊維150(炭素繊維前駆体)の走行部分に極大電界部分を含んで構成されている。図5には、炉体101内における電界分布を実線で、磁界分布を破線で模式的に記載してある。この炉体101は、炉体101内を走行する被加熱連続繊維150(炭素繊維前駆体)に直交する電界成分が形成され、これにより被加熱連続繊維150(炭素繊維前駆体)は加熱される。この時、被加熱連続繊維150(炭素繊維前駆体)の走行方向は、炉体101の管軸に対して斜交しているため、炉体101内における極大電界部分のみを通るのではなく、弱電界部分も通る。即ち、繊維導入口103から炉体101内に搬入された被加熱連続繊維150(炭素繊維前駆体)は、炉体101内における弱電界部分、極大電界部分、弱電界部分を順次通って、繊維導出口105から炉体101外に搬出されるように構成されている。極大電界部分で加熱されることにより、炭素繊維前駆体が半導体乃至導電体に変化した後に、極大電界部分から被加熱繊維が速やかに退避される。そのため、炉体内におけるマイクロ波の照射状態を安定させることができる。なお、この時、繊維導入口を炉体101の上側に設けることにより、炉体から生じる熱が炉体上側に排熱されて、被加熱連続繊維150(炭素繊維前駆体)を予熱できるので好ましい。
【0039】
図6は、図3のマイクロ波加熱ユニットの炉体201内における電磁界分布を示す説明図である。炉体201はH面装荷炉である。このH面装荷炉は、被加熱連続繊維250(炭素繊維前駆体)の走行部分に極大電界部分を含んで構成されている。図6には、炉体201内における電界分布を実線で、磁界分布を破線で模式的に記載してある。この炉体は、炉体201内を走行する被加熱連続繊維250(炭素繊維前駆体)に直交する電界成分が形成され、これにより被加熱連続繊維250(炭素繊維前駆体)は加熱される。この時、被加熱連続繊維250(炭素繊維前駆体)の走行方向は、炉体201の管軸に対して斜交しているため、炉体201内における極大電界部分のみを通るのではなく、弱電界部分も通る。即ち、繊維導入口203から炉体201内に搬入された被加熱連続繊維250(炭素繊維前駆体)は、炉体201内における弱電界部分、極大電界部分、弱電界部分を順次通って、繊維導出口205から炉体201外に搬出されるように構成されている。極大電界部分で加熱されることにより、炭素繊維前駆体が半導体乃至導電体に変化した後に、極大電界部分から被加熱繊維が速やかに退避される。そのため、炉体内におけるマイクロ波の照射状態を安定させることができる。なお、この時、繊維導入口を炉体201の上側に設けることにより、炉体から生じる熱が炉体上側に排熱されて、被加熱連続繊維250(炭素繊維前駆体)を予熱できるので好ましい。
【0040】
図7は、図4のマイクロ波加熱ユニットの炉体301内における電磁界分布を示す説明図である。炉体301はE面装荷炉である。このE面装荷炉は、被加熱連続繊維350(炭素繊維前駆体)の走行部分に極大電界部分を含んで構成されている。図7には、炉体301内における電界分布を実線で、磁界分布を破線で模式的に記載してある。この炉体は、炉体301内を走行する被加熱連続繊維350(炭素繊維前駆体)の長手方向に一部の電界成分が形成され、これにより被加熱連続繊維350(炭素繊維前駆体)は効率的に加熱される。この時、被加熱連続繊維350(炭素繊維前駆体)の走行方向は、炉体301の管軸に対して斜交しているため、炉体301内における極大電界部分のみを通るのではなく、弱電界部分も通る。即ち、繊維導入口303から炉体301内に搬入された被加熱連続繊維350(炭素繊維前駆体)は、炉体301内における弱電界部分、極大電界部分、弱電界部分を順次通って、繊維導出口305から炉体301外に搬出されるように構成されている。被加熱連続繊維350(炭素繊維前駆体)の長手方向の電界成分を含む極大電界部分で加熱されることにより、炭素繊維前駆体が半導体乃至導電体に変化した後に、極大電界部分から被加熱繊維が速やかに退避される。そのため、炉体内におけるマイクロ波の照射状態を安定させることができる。
【0041】
図8は、マイクロ波加熱ユニット1003の炉体401内における電磁界分布を示す説明図である。この炉体401はH面装荷炉である。このH面装荷炉においては、被加熱連続繊維450(炭素繊維前駆体)は極大電界部分を走行するように構成されている。図8には、炉体401内における電界分布を破線で、磁界分布を実線で模式的に記載してある。この炉体は、炉体401の長辺管壁に垂直な電界成分が形成され、これにより被加熱連続繊維450(炭素繊維前駆体)は加熱される。即ち、繊維導入口から炉体401内に搬入された被加熱連続繊維450(炭素繊維前駆体)は、炉体401内における極大電界部分を通って、繊維導出口から炉体401外に搬出されるように構成されている。
【0042】
図9は、マイクロ波加熱ユニット1004の炉体501内における電磁界分布を示す説明図である。この炉体501はE面装荷炉である。このE面装荷炉においては、被加熱連続繊維550(炭素繊維前駆体)は極大電界部分を走行するように構成されている。図9には、炉体501内における電界分布を破線で、磁界分布を実線で模式的に記載してある。この炉体は、炉体501の長辺管壁に平行であり、且つ走行する被加熱連続繊維550(炭素繊維前駆体)に平行な電界成分が形成され、これにより被加熱連続繊維550(炭素繊維前駆体)は加熱される。即ち、繊維導入口から炉体501内に搬入された被加熱連続繊維550(炭素繊維前駆体)は、炉体501内における極大電界部分を通って、繊維導出口から炉体501外に搬出されるように構成されている。
【0043】
(4) 磁界加熱
以下、磁界加熱により、半導体乃至導電体である被加熱連続繊維を加熱する炉体の構成について説明する。
【0044】
図10は、図3のマイクロ波加熱ユニットの炉体201内における電磁界分布を示す説明図である。この炉体201はH面装荷炉である。このH面装荷炉は、被加熱連続繊維251の走行部分に極大磁界発生部分を含んで構成されている。図10には、炉体201内における電界分布を破線で、磁界分布を実線で模式的に記載してある。この炉体は、炉体201の長辺管壁に平行な磁界成分が形成され、これにより被加熱連続繊維251は加熱される。この時、被加熱連続繊維251の走行方向は、炉体201の管軸に対して斜交しているため、炉体201内における極大磁界部分のみを通るのではなく、弱磁界部分も通る。即ち、繊維導入口203から炉体201内に搬入された被加熱連続繊維251は、炉体201内における弱磁界部分、極大磁界部分、弱磁界部分を順次通って、繊維導出口205から炉体201外に搬出されるように構成されている。極大磁界部分で加熱され、極大電界部分を避けることにより、炉体内におけるマイクロ波の照射状態を安定させることができる。弱磁界部分、極大磁界部分、弱磁界部分を順次通ることから、被加熱連続繊維の温度が低下しやすい。そのため、後述の保温管を用いることが好ましい。
【0045】
図11は、図4のマイクロ波加熱ユニットの炉体301内における電磁界分布を示す説明図である。この炉体301はE面装荷炉である。このE面装荷炉は、被加熱連続繊維351の走行部分に極大磁界部分を含んで構成されている。図11には、炉体301内における電界分布を破線で、磁界分布を実線で模式的に記載してある。この炉体は、炉体301の長辺管壁に平行な磁界成分が形成され、これにより被加熱連続繊維351は加熱される。この時、被加熱連続繊維351の走行方向は、炉体301の管軸に対して斜交しているため、炉体301内における極大磁界部分のみを通るのではなく、弱磁界部分も通る。即ち、繊維導入口303から炉体301内に搬入された被加熱連続繊維351は、炉体301内における弱磁界部分、極大磁界部分、弱磁界部分を順次通って、繊維導出口305から炉体301外に搬出されるように構成されている。極大磁界部分で加熱され、且つ極大電界部分を避けることにより、炉体内におけるマイクロ波の照射状態を安定させることができる。弱磁界部分、極大磁界部分、弱磁界部分を順次通ることから、被加熱連続繊維の温度が低下しやすい。そのため、後述の保温管を用いることが好ましい。
【0046】
図12は、マイクロ波加熱ユニット1003の炉体401内における電磁界分布を示す説明図である。この炉体401はH面装荷炉である。このH面装荷炉においては、被加熱連続繊維は極大磁界部分を走行するように構成されている。図12には、炉体401内における電界分布を破線で、磁界分布を実線で模式的に記載してある。この炉体は、炉体401の長辺管壁に平行な磁界成分が形成され、これにより被加熱連続繊維451は加熱される。即ち、繊維導入口から炉体401内に搬入された被加熱連続繊維451は、炉体401内における極大電界部分を避けるとともに、極大磁界部分を通って、繊維導出口から炉体401外に搬出されるように構成されている。
【0047】
図13は、マイクロ波加熱ユニット1004の炉体501内における電磁界分布を示す説明図である。この炉体501はE面装荷炉である。このE面装荷炉においては、被加熱連続繊維は極大磁界部分を走行するように構成されている。図13には、炉体501内における電界分布を破線で、磁界分布を実線で模式的に記載してある。この炉体は、炉体501の長辺管壁に平行であり、且つ走行する被加熱連続繊維に直交する磁界成分が形成され、これにより被加熱連続繊維551は加熱される。即ち、繊維導入口から炉体501内に搬入された炭素繊維前駆体551は、炉体501内における極大電界部分を避けるとともに、極大磁界部分を通って、繊維導出口から炉体501外に搬出されるように構成されている。
【0048】
(5) 保温管
本発明のマイクロ波加熱ユニットは保温管を有していることが好ましい。保温管は、炉体を貫通するとともに、繊維導入口と繊維導出口とを接続するように炉体内に挿入され、その内部に被加熱連続繊維が走行可能に構成されている。保温管は、被加熱連続繊維の加熱に起因して生じる輻射熱を保温管が遮断して放熱を抑制することにより、保温管内が高温に保持される。保温管内は常圧であり、且つ不図示の不活性ガス供給手段によって不活性雰囲気となっている。
【0049】
保温管107、207、307は円筒状であることが好ましい。保温管107、207、307の内径は、特に限定されないが、一般的には8~55mmである。保温管107、207、307の外径は、特に限定されないが、一般的には10~60mmである。保温管107、207、307の長さは、特に限定されないが、一般的には100~2500mmである。また、保温管107、207、307の材質は、マイクロ波を透過する材料であることが必要であり、マイクロ波の透過率は常温(25℃)で90~100%であることが好ましく、95~100%であることがより好ましい。このような材料としては、石英やアルミナ等のセラミックが例示される。これらの材料のマイクロ波の透過率は石英が100%、アルミナが99.9%である。セラミックのマイクロ波の透過率は組成によって異なり、シリカ41%-アルミナ55%の場合は99.9%であるが、マイクロ波の透過率が前記範囲内であれば組成がこの組み合わせに限定されるものではない。セラミックとしては、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、カルシア等の金属酸化物や、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン等の金属窒化物、その他の化合物を含有するものでも良い。特に、アルミナ又はシリカアルミナは、高温時において、マイクロ波を一部吸収して発熱するサセプターとして機能するので好ましい。保温管107、207、307の両端には、マイクロ波の漏洩を防ぐためにマイクロ波を吸収する材料が配されていても良い。
【0050】
炉体として用いる導波管の形状は、導波管内にTEモードの電磁界分布を形成することができれば特に限定されない。一般的には、導波管の長さは、500~1500mmが好ましい。また、方形導波管の管軸に直交する断面の開口部は、長辺が105~115mmであることが好ましく、短辺は50~60mmであることが好ましい。導波管の材質は特に限定されないが、一般にステンレス、鉄、銅、アルミニウム等の金属製である。
【0051】
マイクロ波の周波数は、特に限定されないが、一般的に915MHzや2.45GHzや5.8GHzが用いられる。マイクロ波発振器の出力は、特に限定されないが、300~2400Wが適当であり、500~2000Wがより適当である。
【0052】
炭素化炉内における被炭素化繊維の搬送速度は0.05~10m/min.が好ましく、0.1~5.0m/min.がより好ましく、0.2~2.0m/min.が特に好ましい。
【0053】
このようにして得られる炭素繊維は、炭素含有率が90質量%以上であることが好ましく、91質量%以上であることがより好ましい。
【0054】
(6) 炭素繊維の製造方法
本発明のマイクロ波加熱ユニットを用いて炭素繊維を製造する場合、本発明のマイクロ波加熱ユニットを複数直列に接続して加熱を行うこともできる。また、本発明以外のマイクロ波加熱ユニットを含んで構成されても良いし、マイクロ波加熱ユニット以外の加熱装置を含んで構成されても良い。
【実施例
【0055】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
以下の実施例において、炭素繊維前駆体繊維とは、炭素含有率60質量%のPAN系耐炎化繊維をいい、中間炭素繊維とは、特に記載がない場合は炭素含有率66質量%のPAN系中間炭素繊維をいう。また、「工程通過性」の評価は、単糸が切れずに連続して炭素化(連続運転)が可能である場合を◎とし、一部の単糸が切れるが連続運転が可能である場合を○とし、単糸が切れることで切れた単糸がロールなどの搬送装置に絡みついて連続運転に支障をきたしやすい場合を△とし、繊維束全体の切断が起こり、炉体から取り出せない場合を×とした。「繊維品質」の評価は、炭素化中に繊維が全く切断しなかった場合を◎とし、炭素化中に繊維に極僅かな毛羽が発生している場合を○とし、多量の毛羽が発生している場合を△とし、繊維が完全に切断された場合を×とした。
【0057】
(実施例1)
図1に記載のマイクロ波加熱ユニット(マイクロ波発振器周波数:2.45GHz)を構成した。炉体としては、管軸と直交する断面の開口部が110×55mm、長さが500mmの方形導波管を用いて、図3の構成とした。繊維の導入口及び導出口は、炉体のH面(短軸管壁)に設けた。炉体の軸心と繊維走行方向との角度θは37°とした。この時、炉体内に収容される繊維の長さ(即ち、繊維の導入口中央と導出口中央とを繋ぐ線分の長さである。以下、同じ)は183mmであった。保温管としては、内径15mm、外径17mm、長さ300mmの円筒形状のシリカアルミナ管(マイクロ波の透過率=99.9%)を用いた。窒素ガス雰囲気下の炉体内にマイクロ波を導入してTEモードの電磁界分布を形成させた。マイクロ波発振器の出力は300Wとした。この炉体内の極大電界部分と誘電体である炭素繊維前駆体とが炉体の軸心で交わるように炭素繊維前駆体を0.3m/min.で走行させながら炭素化して炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の炭素含有率は93質量%であり、繊維の切断は見られず、工程通過性は極めて良好であった。評価結果を表1に示した。
【0058】
(実施例2)
炉体の軸心と繊維走行方向との角度を54°に変更した他は実施例1と同様に加熱して中間炭素繊維を得た。この時、炉体内に収容される繊維の長さは136mmであった。工程中、一部の単糸に切断が見られたが、工程通過性は良好であった。評価結果を表1に示した。
【0059】
(実施例3)
炉体の軸心と繊維走行方向との角度を17°とし、保温管の長さを500mmに変更した他は実施例1と同様に加熱して中間炭素繊維を得た。この時、炉体内に収容される繊維の長さは376mmであった。炉の温度は上昇したが、工程中、繊維の炭素化反応に十分な温度には至らず、中間炭素繊維及び炭素繊維を得ることができなかった。評価結果を表1に示した。
【0060】
(比較例1)
図1に記載のマイクロ波加熱ユニット(マイクロ波発振器周波数:2.45GHz)を構成した。炉体としては、管軸と直交する断面の開口部が110×55mm、長さが500mmの方形導波管を用いた。繊維の導入口は炉体のマイクロ波導入面に、繊維導出口は炉体の終端部に設けた。炉体の軸心と繊維走行方向との角度は0°とした。この時、炉体内に収容される繊維の長さは500mmであった。保温管としては、内径15mm、外径17mm、長さ600mmの円筒形状のシリカアルミナ管(マイクロ波の透過率=99.9%)を用いた。窒素ガス雰囲気下の炉体内にマイクロ波を導入してTEモードの電磁界分布を形成させた。マイクロ波発振器の出力は300Wとした。この炉体内を通るように、炭素繊維前駆体を0.3m/min.で走行させながら炭素化した。この時、炉体内では極大電界部分と極大磁界部分が交互に存在しているため、繊維が曝される電磁界は極大電界部分と極大磁界部分の遷移が繰り返されることになる。工程中、繊維が切断し、工程通過性は極めて不良で中間炭素繊維及び炭素繊維を得ることができなかった。評価結果を表1に示した。
【0061】
(比較例2)
図1に記載のマイクロ波加熱ユニット(マイクロ波発振器周波数:2.45GHz)を構成した。炉体としては、管軸と直交する断面の開口部が110×55mm、長さが500mmの方形導波管を用い図8の構成とした。繊維の導入口及び導出口は、炉体のH面(短軸管壁)に設けた。炉体の軸心と繊維走行方向との角度は90°とした。この時、炉体内に収容される繊維の長さは110mmであった。保温管としては、内径15mm、外径17mm、長さ300mmの円筒形状のシリカアルミナ管(マイクロ波の透過率=99.9%)を用いた。窒素ガス雰囲気下の炉体内にマイクロ波を導入してTEモードの電磁界分布を形成させた。マイクロ波発振器の出力は300Wとした。この炉体内の極大電界部分のみを通るように、炭素繊維前駆体を0.3m/min.で走行させながら炭素化した。工程中、繊維が切断し、工程通過性は極めて不良で中間炭素繊維及び炭素繊維を得ることができなかった。評価結果を表1に示した。
【0062】
(実施例4)
炉体内の極大磁界部分と炭素繊維前駆体とが炉体の軸心で交わるように変更した他は実施例1と同様に加熱して炭素繊維を得た。この時、炉体内に収容される繊維の長さは183mmであった。得られた炭素繊維の炭素含有率は93質量%であり、繊維の切断は見られず、工程通過性は極めて良好であった。評価結果を表1に示した。
【0063】
(実施例5)
炉体の軸心と繊維走行方向との角度を54°に変更した他は実施例4と同様に加熱して中間炭素繊維を得た。この時、炉体内に収容される繊維の長さは136mmであった。得られた中間炭素繊維の炭素含有率は70質量%であり、工程中、一部の単糸に切断が見られたが、工程通過性は良好であった。評価結果を表1に示した。
【0064】
(実施例6)
炉体の軸心と繊維走行方向との角度を17°とし、保温管の長さを500mmに変更した他は実施例4と同様に加熱して中間炭素繊維を得た。この時、炉体内に収容される繊維の長さは376mmであった。炉の温度は上昇したが、工程中、繊維の炭素化反応に十分な温度上昇には至らず、中間炭素繊維及び炭素繊維を得ることができなかった。評価結果を表1に示した。
【0065】
(比較例3)
炉体内の極大磁界部分と炭素繊維前駆体とが炉体の軸心で交わるよう(即ち、図12の構成)に変更した他は比較例2と同様に加熱した。この時、炉体内に収容される繊維の長さは110mmであった。工程中、繊維の温度上昇は見られず、中間炭素繊維及び炭素繊維を得ることができなかった。評価結果を表1に示した。
【0066】
(実施例7)
繊維導入口及び繊維導出口を炉体のE面装荷(即ち、図4の構成)とし、炭素繊維前駆体と炉体の軸心が交わる位置を極大電界部分から極大磁界部分へと変更した他は実施例1と同様に加熱して中間炭素繊維を得た。この時、炉体内に収容される繊維の長さは91mmであった。得られた中間炭素繊維の炭素含有率は74質量%であり、繊維の切断は見られず、工程通過性は極めて良好であった。評価結果を表1に示した。
【0067】
(実施例8)
炉体の軸心と繊維走行方向との角度を54°に変更した他は実施例7と同様に加熱して中間炭素繊維を得た。この時、炉体内に収容される繊維の長さは68mmであった。得られた中間炭素繊維の炭素含有率は72量%であり、一部の単糸に切断が見られ、加熱後の繊維は搬送ロールへ巻き付き易かった。評価結果を表1に示した。
【0068】
(実施例9)
炉体の軸心と繊維走行方向との角度を17°に変更した他は実施例7と同様に加熱して中間炭素繊維を得た。この時、炉体内に収容される繊維の長さは188mmであった。繊維の切断は見られず、工程通過性は極めて良好であった。評価結果を表1に示した。
【0069】
(比較例4)
図13に記載の構成とし、繊維の導入口及び導出口を、炉体のE面(長軸管壁)に設けた他は、比較例3と同様に加熱した。この時、炉体内に収容される繊維の長さは55mmであった。工程中、繊維の温度上昇は見られず、中間炭素繊維及び炭素繊維を得ることができなかった。評価結果を表1に示した。
【0070】
(実施例10)
炉体内の極大電界部分と炭素繊維前駆体が炉体の軸心で交わるように変更した他は実施例7と同様に加熱して中間炭素繊維を得た。この時、炉体内に収容される繊維の長さは91mmであった。得られた中間炭素繊維の炭素含有率は72%であり、繊維の切断は見られず、工程通過性は極めて良好であった。評価結果を表1に示した。
【0071】
(実施例11)
炉体の軸心と繊維走行方向との角度を54°に変更した他は実施例10と同様に加熱して中間炭素繊維を得た。この時、炉体内に収容される繊維の長さは68mmであった。工程中、一部の単糸に切断が見られ、加熱後の繊維において搬送ロールに巻き付き易かった。評価結果を表1に示した。
【0072】
(実施例12)
炉体の軸心と繊維走行方向との角度を17°に変更した他は実施例10と同様に加熱して中間炭素繊維を得た。この時、炉体内に収容される繊維の長さは188mmであった。繊維の切断は見られず、工程通過性は極めて良好であった。評価結果を表1に示した。
【0073】
(比較例5)
炉体内の極大電界部分と炭素繊維前駆体が炉体の軸心で交わるよう(即ち、図9の構成)に変更した他は比較例4と同様に加熱した。この時、炉体内に収容される繊維の長さは55mmであった。工程中、繊維に毛羽が多量に発生し、工程通過性は極めて不良で中間炭素繊維及び炭素繊維を得ることができなかった。評価結果を表1に示した。
【0074】
【表1】
【0075】
(実施例13)
加熱する繊維を炭素繊維前駆体から半導体乃至導電体である中間炭素繊維に変更した他は実施例4と同様に炭素化して炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の炭素含有率は95質量%であり、繊維の切断は見られず、工程通過性は極めて良好であった。評価結果を表2に示した。
【0076】
(実施例14)
炉体の軸心と繊維走行方向との角度を54°に変更した他は実施例13と同様に加熱して炭素繊維を得た。炉体内に収容される繊維の長さは136mmであった。一部の単糸に切断が見られ、加熱後の繊維において搬送ロールに巻き付き易かった。評価結果を表2に示した。
【0077】
(実施例15)
炉体の軸心と繊維走行方向との角度を17°に変更した他は実施例13と同様に加熱して炭素繊維を得た。炉体内に収容される繊維の長さは376mmであった。工程中、一部の単糸に切断が見られたが、工程通過性は良好であった。評価結果を表2に示した。
【0078】
(比較例6)
加熱する繊維を炭素繊維前駆体から半導体乃至導電体である中間炭素繊維に変更した他は比較例1と同様に炭素化した。工程中、繊維が切断し、工程通過性は極めて不良で炭素繊維を得ることができなかった。評価結果を表2に示した。
【0079】
(比較例7)
加熱する繊維を炭素繊維前駆体から半導体乃至導電体である中間炭素繊維に変更した他は比較例3と同様に炭素化した。工程中、単糸に切断が見られ、多量の毛羽が発生していた。評価結果を表2に示した。
【0080】
(実施例16)
加熱する繊維を炭素繊維前駆体から半導体乃至導電体である中間炭素繊維に変更した他は実施例7と同様に炭素化して炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の炭素含有率は90量%であり、繊維の切断は見られず、工程通過性は極めて良好であった。評価結果を表2に示した。
【0081】
(実施例17)
加熱する繊維を炭素繊維前駆体から半導体乃至導電体である中間炭素繊維に変更した他は実施例8と同様に加熱して炭素繊維を得た。工程中、一部の単糸に切断が見られ、加熱後の繊維において搬送ロールに巻き付き易かった。評価結果を表2に示した。
【0082】
(実施例18)
加熱する繊維を炭素繊維前駆体から半導体乃至導電体である中間炭素繊維に変更した他は実施例9と同様に加熱して炭素繊維を得た。工程中、一部の単糸に切断が見られたが、工程通過性は良好であった。評価結果を表2に示した。
【0083】
(比較例8)
加熱する繊維を炭素繊維前駆体から半導体乃至導電体である中間炭素繊維に変更した他は比較例4と同様に炭素化した。工程中、繊維に毛羽が多量に発生し、搬送用ロールへの巻き付きが起こり易かった。得られた炭素繊維の炭素含有率は90%であった。評価結果を表2に示した。
【0084】
【表2】
【符号の説明】
【0085】
11・・・マイクロ波発振器
12、14・・・接続導波管
13・・・サーキュレータ
15・・・整合器
16・・・アイリス
17、109、209、309・・・短絡板
19・・・ダミーロード
100、101、201、301、401、501・・・炉体
201a、201b・・・炉体のH面
301a、301b・・・炉体のE面
103、203、303・・・繊維導入口
105、205、305・・・繊維導出口
107、207、307・・・保温管
111、113、211、213、311、313・・・金属スリーブ
150、250、350、450、550、251、351、451、551・・・被加熱連続繊維
1000、1000a、1000b、1000c、1001、1002、1003、1004・・・マイクロ波加熱ユニット

図1
図2
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