(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】希土類錯体、希土類錯体溶液、発光性成形体、発光性物品を製造する方法、発光性シート、及び農業用ビニールハウス
(51)【国際特許分類】
C07F 9/53 20060101AFI20250120BHJP
C09K 11/06 20060101ALI20250120BHJP
C07C 49/92 20060101ALI20250120BHJP
C07F 5/00 20060101ALN20250120BHJP
【FI】
C07F9/53 CSP
C09K11/06 603
C07C49/92
C07F5/00 D
(21)【出願番号】P 2021516219
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2020017569
(87)【国際公開番号】W WO2020218451
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2019085626
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】北川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】島 かおり
(72)【発明者】
【氏名】和田 智志
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖哉
(72)【発明者】
【氏名】伏見 公志
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-016875(JP,A)
【文献】特開2020-122041(JP,A)
【文献】特開2008-297250(JP,A)
【文献】特開2006-213666(JP,A)
【文献】特開2016-128392(JP,A)
【文献】特許第2527555(JP,B1)
【文献】特開2002-265753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/14- 9/16
B32B 27/18- 27/26
C07C 43/205
C07C 49/92
C07F 5/00
C07F 9/53
C09K 11/06/18 11/07
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類イオンと、
該希土類イオンに配位し、下記式(I):
【化1】
で表され、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6がそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を示す、ホスフィンオキシド配位子と、
前記ホスフィンオキシド配位子とは別に、前記希土類イオンに配位し光増感作用を有する配位子と、
を有し、
前記光増感作用を有する配位子が、下記式(21)、(22)又は(23)で表される化合物であり、
【化2】
【化3】
【化4】
式(21)中、R
21、R
22、R
23、R
24、R
25、R
26、R
27及びR
28は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~3のアルキル基、若しくは炭素数6~12のアリール基、又は、互いに連結してこれらが結合しているピリジン環とともに縮合環を形成している基を示し、
式(22)中、R
31、R
32及びR
33は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロゲン化アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を示し、
式(23)中、R
34、R
35、R
36、R
37及びR
38は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基又は炭素数1~5のハロゲン化アルキル基を示す、
希土類錯体。
【請求項2】
請求項1に記載の希土類錯体と、該希土類錯体が溶解した溶媒と、を含有する、希土類錯体溶液。
【請求項3】
発光性の希土類錯体と、
該希土類錯体の結晶性を低下させる芳香族化合物と、
前記希土類錯体及び前記芳香族化合物が溶解した溶媒と、
を含有する、希土類錯体溶液であって、
前記希土類錯体が、
希土類イオンと、
該希土類イオンに配位し、下記式(I):
【化5】
で表され、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6がそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を示す、ホスフィンオキシド配位子と、
を有する、希土類錯体溶液。
【請求項4】
前記芳香族化合物が、下記式(10)、(11)、(12)又は(13):
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
で表され、Xが、水素原子、ハロゲノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、水酸基、ニトロ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、シアノ基、トリアルコキシシリル基、トリアルキルシリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、アルデヒド基又はメルカプト基を示し、同一分子中の複数のXは同一でも異なってもよく、同一分子中の複数のXのうち1個以上が、酸素原子又は窒素原子を含む基である、化合物である、請求項3に記載の希土類錯体溶液。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか一項に記載の希土類錯体溶液の膜を基材上に形成することと、前記膜から前記溶媒を除去し、それにより前記希土類錯体を含む膜状の発光性成形体を形成することと、を含む、発光性物品を製造する方法。
【請求項6】
請求項1に記載の希土類錯体を含む、発光性成形体。
【請求項7】
希土類錯体と、
該希土類錯体の結晶性を低下させる芳香族化合物と、
を含む、発光性成形体であって、
前記希土類錯体が、
希土類イオンと、
該希土類イオンに配位し、下記式(I):
【化10】
で表され、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6がそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を示す、ホスフィンオキシド配位子と、
を有する、発光性成形体。
【請求項8】
前記芳香族化合物が、下記式(10)、(11)、(12)又は(13):
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
で表され、Xが、水素原子、ハロゲノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、水酸基、ニトロ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、シアノ基、トリアルコキシシリル基、トリアルキルシリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、アルデヒド基又はメルカプト基を示し、同一分子中の複数のXは同一でも異なってもよく、同一分子中の複数のXのうち1個以上が、酸素原子又は窒素原子を含む基である、化合物である、請求項7に記載の発光性成形体。
【請求項9】
透明基材フィルムと、該透明基材フィルム上に設けられた膜状の発光性成形体と、を備え、前記発光性成形体が請求項6~8のいずれか一項に記載の発光性成形体である、発光性シート。
【請求項10】
植物に赤色光を供給するために用いられる、請求項9に記載の発光性シート。
【請求項11】
請求項9に記載の発光性シートを備える、農業用ビニールハウス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類錯体、希土類錯体溶液、発光性成形体、発光性物品を製造する方法、発光性シート、及び農業用ビニールハウスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、光照射によって高い輝度で発光する希土類錯体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高い輝度で発光する従来の希土類錯体は、溶解性が低い、又は、結晶化を生じ易いといった問題のために、希土類錯体を含む透明な発光性成形体を形成することが困難であった。
【0005】
本発明は、高い輝度で発光するだけでなく、結晶化が抑制された透明な発光性成形体を容易に形成できる希土類錯体を提供する。本発明は更に、希土類錯体の結晶化を抑制し、それにより希土類錯体を含む透明な発光性成形体を容易に形成できる方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、希土類イオンと、該希土類イオンに配位し、下記式(I):
【化1】
で表され、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6がそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を示す、ホスフィンオキシド配位子と、を有する希土類錯体に関する。
【0007】
本発明の別の一側面は、上記希土類錯体と、上記希土類錯体が溶解した溶媒と、を含有する、希土類錯体溶液に関する。
【0008】
本発明の更に別の一側面は、希土類錯体と、該希土類錯体の結晶性を低下させる芳香族化合物と、前記希土類錯体及び前記芳香族化合物が溶解した溶媒と、を含有する、希土類錯体溶液に関する。
【0009】
本発明の更に別の一側面は、上記希土類錯体溶液の膜を基材上に形成することと、前記膜から前記溶媒を除去し、それにより前記希土類錯体を含む膜状の発光性成形体を形成することと、を含む、発光性物品を製造する方法に関する。
【0010】
本発明の更に別の一側面は、式(I)で表されるホスフィンオキシド配位子を有する希土類錯体を含む、発光性成形体に関する。
【0011】
本発明の更に別の一側面は、希土類錯体と、該希土類錯体の結晶性を低下させる芳香族化合物と、を含む、発光性成形体に関する。
【0012】
本発明の更に別の一側面は、透明基材フィルムと、該透明基材フィルム上に設けられた膜状の発光性成形体と、を備える、発光性シートに関する。前記発光性成形体が上記発光性成形体である。
【0013】
本発明の更に別の一側面は、上記発光性シートを備える、農業用ビニールハウスに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い輝度で発光するだけでなく、結晶化が抑制され、透明な発光性成形体を容易に形成できる希土類錯体が提供される。本発明によれば、希土類錯体の結晶化を抑制し、それにより希土類錯体を含む透明な発光性成形体を容易に形成できる方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】発光性シートの一実施形態を示す断面図である。
【
図2】農業用ビニールハウスの一実施形態を示す斜視図である。
【
図3】Eu(hfa)
3(tdmpo)
2を含む希土類錯体溶液の発光スペクトルである。
【
図4】Eu(hfa)
3(tdmpo)
2を含む希土類錯体溶液の発光減衰曲線である。
【
図5】Eu(hfa)
3(tdmpo)
2を含む希土類錯体溶液の発光スペクトルである。
【
図6】Eu(hfa)
3(tdmpo)
2を含む希土類錯体溶液の発光減衰曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
一実施形態に係る希土類錯体は、希土類イオンと、該希土類イオンに配位し、下記式(I):
【化2】
で表されるホスフィンオキシド配位子を有する。
【0018】
希土類イオンは、通常、三価の希土類イオンである。希土類イオンは、発光色等に応じて、適宜選択することができる。希土類イオンは、例えば、Eu(III)イオン、Tb(III)イオン、Gd(III)イオン、Sm(III)イオン、Yb(III)イオン、Nd(III)イオン、Er(III)イオン、Y(III)イオン、Dy(III)イオン、Ce(III)イオン、及びPr(III)イオンからなる群より選ばれる少なくとも一種であることができる。高い発光強度を得る観点から、希土類イオンは、Eu(III)イオン、Tb(III)イオン又はGd(III)イオンであってもよい。
【0019】
式(I)中のR1、R2、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアルキル基を示す。R1~R6としてのアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状又はこれらの組み合わせであってもよく、その炭素数は1~20、1~15、1~10、1~5又は1~3であってもよい。アルキル基に結合する置換基は、例えばハロゲノ基であることができる。R1~R6が、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、又はプロピル基であってもよい。
【0020】
一実施形態に係る希土類錯体は、式(I)のホスフィンオキシド配位子とは別に、その他の配位子を更に有していてもよい。例えば、希土類錯体が、1個の希土類イオンと、2個の式(1)のホスフィンオキシド配位子と、3個のその他の配位子とを有していてもよい。
【0021】
その他の配位子は、光増感作用を有する配位子であることができる。光増感作用を有する配位子は、希土類イオンに対する光増感作用を有する化合物から、任意に選択できる。光増感作用を有する配位子は、単座配位子又は二座配位子であってもよい。
【0022】
光増感作用を有する配位子は、配位原子(例えば、窒素原子)を含む複素芳香族基を有する複素芳香族化合物であってもよい。光増感作用を有する配位子として用いられ得る複素芳香族化合物の例としては、下記式(21)で表される化合物が挙げられる。
【化3】
【0023】
式(21)中、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27及びR28は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~3のアルキル基、若しくは炭素数6~12のアリール基、又は、互いに連結してこれらが結合しているピリジン環とともに縮合環を形成している基を示す。アルキル基の炭素数は1~3、又は1であってもよい。アリール基の炭素数は6~12、又は6~10であってもよい。
【0024】
式(21)で表される化合物は、下記式(21a)で表されるフェナントロリン化合物であってもよい。
【化4】
【0025】
式(21a)中、R21、R22、R23、R25、R26及びR27は、式(1)と同様に定義される。R29及びR30は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数6~12のアリール基を示す。アルキル基の炭素数は1~3、又は1であってもよい。アリール基の炭素数は6~12、又は6~10であってもよい。R21、R22、R23、R25、R26、R27、R29及びR30が水素原子であってもよい。
【0026】
光増感作用を有する配位子の他の例としては、下記式(22)又は(23)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
【0027】
式(22)中、R
31、R
32及びR
33は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~15のアルキル基、炭素数1~5のハロゲン化アルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を示す。アルキル基及びハロゲン化アルキル基の炭素数は1~5、又は1~3であってもよい。アルキル基は、ターシャリーブチル基であってもよい。ハロゲン化アルキル基のハロゲンは、例えば、フッ素であってもよい。アリール基又はヘテロアリール基の例としては、ナフチル基、及びチエニル基が挙げられる。特に、R
31及びR
33がトリフルオロメチル基等のハロゲン化アルキル基であってもよい。このとき、R
32が水素原子(重水素原子を含む)であってもよい。
【化6】
【0028】
式(23)中、R34、R35、R36、R37及びR38は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基又は炭素数1~5のハロゲン化アルキル基を示す。アルキル基及びハロゲン化アルキル基の炭素数は1~5、又は1~3であってもよい。ハロゲン化アルキル基のハロゲンは、例えばフッ素であってもよい。特に、R34、R35、R36、R37及びR38が水素原子であってもよい。
【0029】
希土類錯体は、水、又はメタノール等のアルコールのような配位性の溶媒を有していてもよい。
【0030】
一実施形態に係る希土類錯体溶液は、以上説明した希土類錯体と、希土類錯体が溶解した溶媒とを含有する。この希土類錯体溶液は、例えば、希土類錯体を含む発光性成形体を形成するための成形用材料として用いることができる。
【0031】
溶媒は、希土類錯体を溶解するものから任意に選択できる。溶媒は、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、又はこれらから選ばれる2種以上の組み合わせであってもよい。
【0032】
希土類錯体溶液における希土類錯体の濃度は、例えば、希土類錯体溶液の質量を基準として、0.1~60質量%、0.1~50質量%、又は0.1~40質量%であってもよい。
【0033】
上記実施形態に係る希土類錯体溶液は、例えば、式(I)のホスフィンオキシド配位子を有しない希土類錯体と、式(1)のホスフィンオキシド配位子とを溶媒中で混合することにより、容易に得ることができる。式(I)のホスフィンオキシド配位子を有しない希土類錯体に対する式(1)のホスフィンオキシド配位子の当量比(モル比)が、1.8以上、1.9以上、又は2.0以上であってもよく、10以下、8.0以下、6.0以下、又は4.0以下であってもよい。これら範囲内であれば、混合後、速やかな配位子交換により、式(1)のホスフィンオキシド配位子が生成することが多い。
【0034】
式(1)のホスフィンオキシド配位子を有しない希土類錯体は、例えば、光増感作用を有する配位子と、その他の配位子とを有する錯体であってもよい。その他の配位子は、水のような配位性の溶媒であってもよい。
【0035】
希土類錯体溶液は、任意の発光性の希土類錯体と、希土類錯体の結晶性を低下させる芳香族化合物とを含有していてもよい。本発明者らの知見によれば、結晶性の希土類錯体に芳香族化合物を混合することにより、希土類錯体の結晶が低下し、それにより結晶化が抑制された透明な発光性成形体、及びこれを有する種々の発光性物品を容易に形成することができる。この溶液の溶媒も、希土類錯体を溶解するものから任意に選択できる。溶媒は、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、又はこれらから選ばれる2種以上の組み合わせであってもよい。
【0036】
芳香族化合物は、例えばベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、及びトリフェニレン環から選ばれる芳香環とこれに結合した置換基とを有する化合物であることができる。置換基は、配位原子(例えば、酸素原子又は窒素原子)を含む基であってもよい。より具体的には、芳香族化合物は、下記式(10)、(11)、(12)又は(13):
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
で表される化合物であってもよい。これら式中のXは、水素原子、ハロゲノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、水酸基、ニトロ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、シアノ基、トリアルコキシシリル基、トリアルキルシリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、アルデヒド基又はメルカプト基を示す。同一分子中の複数のXは同一でも異なってもよい。同一分子中の複数のXのうち1個以上が、酸素原子又は窒素原子を含む基である。ここでの置換基は、例えばハロゲノ基であってもよい。
【0037】
酸素原子又は窒素原子を含む基は、例えば、置換基を有していてもよいアルコキシ基、水酸基、ニトロ基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキルスルホニル基、置換基を有していてもよいアリールスルホニル基、シアノ基、トリアルコキシシリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、置換基を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよいアリールカルボニルオキシ基、置換基を有していてもよいアルキルオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、又はアルデヒド基であることができる。Xが、水素原子、置換基を有していてもよいアルコキシ基、水酸基、又はアルデヒド基であってもよい。
【0038】
芳香族化合物は、下記式(10a)又は(10b):
【化11】
で表される化合物であってもよい。式(10a)及び(10b)中のXは、式(10)中のXと同義である(ただし、水素原子は除く。)。式(10a)及び(10b)中のXが置換基を有していてもよいアルコキシ基、水酸基、又はアルデヒド基であってもよい。
【0039】
芳香族化合物と組み合わせられる希土類錯体は、発光性のものであればよく、式(I)のホスフィンオキシド配位子を有していても、有していなくてもよい。希土類錯体が、例えば、希土類イオンと、任意のホスフィンオキシド配位子と、光増感作用を有する配位子とを有する錯体であってもよい。この場合のホスフィンオキシド配位子は、例えば、下記式(14)で表されるホスフィンオキシド配位子を有する錯体であってもよい。
【化12】
【0040】
式(14)中、Ar1、Ar2及びAr3はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を示す。Ar1、Ar2及びAr3としてのアリール基の例としては、フェニル基、及びナフチル基が挙げられる。Ar1、Ar2又はAr3としてのアリール基が有する置換基は、例えばハロゲノ基であることができる。Ar1、Ar2及びAr3が置換又は無置換のフェニル基であってもよい。
【0041】
芳香族化合物を含有する希土類錯体溶液における希土類錯体の濃度は、例えば、希土類錯体溶液の質量を基準として、0.01~60質量%、0.01~50質量%、又は0.01~40質量%であってもよい。希土類錯体に対する芳香族化合物の当量比(モル比)が、0.01~100であってもよい。
【0042】
希土類錯体を含む発光性成形体の形状は、膜状、板状、その他任意の形状であることができる。例えば、上述の希土類錯体溶液を用いることにより、基材の表面を覆う膜状の発光性成形体(又は発光性膜)を容易に形成することができる。この場合の基材は、例えば、基材フィルムであってもよいし、任意の三次元形状を有する成形体であってもよい。
【0043】
発光性成形体における希土類錯体の含有量は、発光性成形体の質量を基準として、例えば40~100質量%、50~100質量%、60~100質量%、70~100質量%、80~100質量%又は90~100質量%であってもよい。
【0044】
図1は、膜状の発光性成形体である発光性膜を有する発光性シートの一実施形態を示す断面図である。
図1に示す発光性シート5は、発光性物品の一例であり、透明基材フィルム1と、透明基材フィルム1上に設けられた発光性膜3とを有する。
【0045】
発光性膜3は、発光性の希土類錯体を含有する。希土類錯体が光照射によって各種波長の発光を生じる性質を利用して、発光性シート5を任意の波長に変換された光を供給するための部材として用いることができる。例えば、赤色発光を生じる希土類錯体を含有する発光性膜を有する発光性シートを、植物に赤色光を供給するために用いることができる。赤色光は、植物の生育を促進することができる。そのため、発光性シート5を、農業用ビニールハウス用のシート材として用いることができる。
図2は農業用ビニールハウスの一実施形態を示す斜視図である。
図2に示す農業用ビニールハウス10は、パイプフレームを有する骨格7と、骨格7を覆う発光性シート5とを備える。
【0046】
透明基材フィルム1は、例えばポリ塩化ビニールフィルムのような樹脂フィルムであることができる。透明基材フィルム1の厚さは、特に限定されず、例えば0.01~5mm程度であってもよい。発光性膜3の厚さは、特に限定されず、例えば0.01~2mm程度であることができる。
【0047】
発光性シート5は、例えば、上述の希土類錯体溶液の膜を透明基材フィルム上に形成することと、膜から溶媒を除去し、それにより希土類錯体を含む膜状の発光性成形体(発光性膜3)を形成することとを含む方法によって製造することできる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
1.合成例
1-1.トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィンオキシド(tdmpo)の合成
【化13】
【0050】
トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン(8.84g,0.02mol)をジクロロメタン(30mL)に溶解させた。得られた溶液をアイスバスで冷却しながら、そこに過酸化水素水(5mL)をゆっくり添加した。3時間の攪拌の後、生成物をジクロロメタン、及び飽和食塩水を用いて抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで脱水させた。有機層からジクロロメタンを留去し、残渣を粗生成物として得た。これをアセトン及びヘキサンの混合溶媒からの再結晶により精製した。得られた結晶をろ過し、アセトンで洗浄することでtdmpoの白色固体3.95gを得た(収率41%)。
1H NMR:δ/ppm = 7.23 (t, 3H, J = 8 Hz,Ar), 6.48 (dd, 6H, J = 8 and 4.8 Hz, Ar), 3.51 (s, 18H, CH3)
ESI-MS (m/z): [M+H]+ calculated for C24H28O7P,459.15; found, 459.16
Elemental analysis: Calculated for C24H27O7P:C, 62.88%, H, 5.94%. Found: C, 62.55%, H, 5.88%
【0051】
1-2.Eu(hfa)
3(tdmpo)
2の合成
【化14】
Eu(hfa)
3(H
2O)
2(16mg,0.02mmol)とtdmpo(14mg,0.03mmol)をメタノール(10mL)に溶解させた。溶液からメタノールを留去して、Eu(hfa)
3(tdmpo)
2の白色固体を得た。これより、Eu(hfa)
3(H
2O)
2とtdmpoを溶液中で混合するだけで、速やかな配位子交換によりEu(hfa)
3(tdmpo)
2が溶液中に生成することが確認された。
Mass: [M-hfa]
+: C
58H
56O
18P
2F
12Eu,calcd: 1483.20, found: 1483.11
【0052】
2.発光特性
2-1.ポリ塩化ビニールフィルムへの塗布
Eu(hfa)3(H2O)2及びtdmpoを、室温でジクロロメタンに溶解させた。tdmpoの量をEu(hfa)3(H2O)2に対して2当量とした。得られた溶液をポリ塩化ビニールフィルムに塗布し、塗膜を乾燥させた。乾燥後、透明な膜が形成された。形成された膜は、Eu(hfa)3(tdmpo)2を含み、これが実質的に結晶化していないと考えられる。膜が形成されたポリ塩化ビニールフィルムに紫外線を照射したところ、赤色発光が観測された。
【0053】
2-2.Eu(hfa)
3(H
2O)
2/tdmpoの溶液
室温のジクロロメタン25mLに、Eu(hfa)
3(H
2O)
2(20mg,1mmol)と、これに対して2当量(23mg,2mmol)、3当量(34mg,3mmol)、又は6当量(69mg,6mmol)のtdmpoとを加えた。得られた溶液の発光特性を評価した。
図3は3つの溶液の発光スペクトル(励起波長:365nm)を重ねて示す。これらは、溶液中に生成したEu(hfa)
3(tdmpo)
2の発光特性を示していると考えられる。3つの溶液はいずれも実質的に同じスペクトルを示した。
図4はEu(hfa)
3(H
2O)
2:tdmpo=1:2(当量比)の溶液の発光減衰曲線(励起波長:356nm)を示す。発光寿命は0.7msであり、そこから算出される発光量子収率は50%と高い値であった。
【0054】
2-3.Eu(hfa)
3(TPPO)
2/tdmpoの溶液
【化15】
【0055】
室温のジクロロメタン25mLに、Eu(hfa)
3(TPPO)
2(34.3mg,1mmol)と、これに対して2当量(23mg,2mmol)、又は7当量(80mg,7mmol)のtdmpoとを加えた。得られた溶液と、tmpdoが加えられていないEu(hfa)
3(TPPO)
2の溶液の発光特性を評価した。
図5は3つの溶液の発光スペクトル(励起波長:365nm)を重ねて示す。Eu(hfa)
3(TPPO)
2:tdmpo=1:2又は1:7(当量比)の溶液は、溶液中に生成したEu(hfa)
3(tdmpo)
2の発光特性を示していると考えられる。2つの溶液はいずれも実質的に同じスペクトルを示した。
図6はEu(hfa)
3(TPPO)
2:tdmpo=1:2の溶液の発光減衰曲線(励起波長:356nm)を示す。
【0056】
Eu(hfa)3(TPPO)2:tdmpo=1:2又は1:7(当量比)の溶液をガラス基板に塗布し、塗膜を乾燥することにより、透明な膜が形成された。この膜に紫外線を照射したところ、赤色発光が観測された。一方、Eu(hfa)3(TPPO)2の溶液をガラス基板に塗布し、塗膜を乾燥したところ、結晶の生成による膜の白化が認められた。
【0057】
以上の結果は、溶液中でTPPOとtdmpoの配位子置換が生じたことを示唆する。
【0058】
3.Eu(hfa)3(TPPO)2を含む膜形成
3-1.Eu(hfa)3(TPPO)2/1,3,5-トリメトキシベンゼン
室温のジクロロメタン25mLに、Eu(hfa)3(TPPO)2(34.3mg,1mmol)と、1,3,5-トリメトキシベンゼン(8.4mg,2mmol)とを加えた。得られた溶液の発光特性を評価したところ、希土類励起で60%の高い発光量子収率で赤色発光を示した。得られた溶液をガラス基板に塗布し、塗膜を乾燥することにより、結晶化による白化が抑制された膜が形成された。膜に紫外線を照射したところ、赤色発光が観測された。希土類励起の発光量子収率は80%であった。
【0059】
3-2.Eu(hfa)3(TPPO)2/2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒド
室温のエタノール5mLに、Eu(hfa)3(TPPO)2(6.8mg,1mmol)と、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンズアルデヒド(1.5mg,2mmol)とを加えた。得られた溶液の発光特性を評価したところ、希土類励起で60%の高い発光量子収率で赤色発光を示した。得られた溶液をガラス基板に塗布し、塗膜を乾燥することにより、結晶化による白化が抑制された膜が形成された。膜に紫外線を照射したところ、赤色発光が観測された。希土類励起の発光量子収率は77%であった。
【符号の説明】
【0060】
1…透明基材フィルム、3…発光性膜、5…発光性シート、7…骨格、10…農業用ビニールハウス。