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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20250120BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
H01J37/317 D
H01J37/20 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023544873
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2021032137
(87)【国際公開番号】W WO2023032080
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】富松 聡
(72)【発明者】
【氏名】麻畑 達也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将人
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-177063(JP,A)
【文献】特開2016-157671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/317
H01J 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から試料片を自動的に作製する荷電粒子ビーム装置であって、
荷電粒子ビームを照射する荷電粒子ビーム照射光学系と、
前記試料を載置して移動する試料ステージと、
前記試料から分離及び摘出する前記試料片を保持して搬送する試料片移設手段と、
前記試料片が移設される試料片ホルダを保持するホルダ固定台と、
前記荷電粒子ビームの照射によってデポジション膜を形成するガスを供給するガス供給部と、
前記試料片を保持していない状態の前記試料片移設手段に前記荷電粒子ビームを照射して得られる画像において前記試料片移設手段の先端が所定位置に対する所定許容誤差範囲に含まれる場合の前記試料片移設手段の実空間での位置を示す座標データを記憶し、適宜の期間での前記座標データの変化量が所定閾値以上である場合に前記試料片移設手段の先端に付着している前記デポジション膜の少なくとも一部を前記荷電粒子ビームの照射によって除去する加工を実行するように前記試料片移設手段と前記荷電粒子ビーム照射光学系とを制御するコンピュータと、
を備え、
前記コンピュータは、
前記試料片を保持する前記試料片移設手段から前記試料片を分離する際に、前記荷電粒子ビームを照射して得られる画像において前記座標データの変化量に応じた加工領域を設定し、前記加工領域に前記荷電粒子ビームを照射することによって前記試料片移設手段の先端に付着している前記デポジション膜の少なくとも一部を除去する、
ことを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
前記コンピュータは、
少なくとも前記試料片移設手段の先端から前記試料片移設手段の中心軸に平行な軸方向の外方に向かう方向での前記座標データの変化量を前記所定閾値未満にするように前記加工を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
前記コンピュータは、
前記座標データの変化量が前記所定閾値未満の場合に先端部加工フラグをオフに設定する一方で、前記座標データの変化量が前記所定閾値以上の場合に前記先端部加工フラグをオンに設定し、
前記コンピュータは、
前記試料片移設手段から前記試料片を分離する際に、
前記試料片が移設される前記試料片ホルダの柱状部の側面から前記試料片までの距離と前記試料片の大きさとの和をLとし、前記試料片移設手段から前記試料片までの距離をL1としたとき、
前記先端部加工フラグがオフの場合に、前記柱状部の側面からL+L1以下だけ離れた位置を、前記試料片移設手段と前記試料片とを接続するデポジション膜を切断するための切断加工位置に設定し、
前記先端部加工フラグがオンの場合に、前記柱状部の側面からL+L1を超える第1距離だけ離れた位置に前記加工領域の前記試料片移設手段側の端部が配置されるように、前記加工領域を設定し、
前記第1距離は、前記座標データの変化量が前記所定閾値未満になる距離である、
ことを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料に電子又はイオンの荷電粒子ビームを照射することによって作製した試料片を試料から摘出して、試料片を試料片ホルダに移設するサンプリングを自動的に行う装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-50854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術に係る装置では、複数の試料片のサンプリングを繰り返し実行する場合の適宜のタイミング等にて、試料片の移設に用いるニードルの先端形状を所定形状に加工するトリミングを実行する。トリミングは、例えば試料片とニードルの先端部とを接続するデポジション膜等の付着物を除去するクリーニング及びニードルの整形等のために、ニードルのテンプレートによる輪郭情報に基づいて設定する加工枠に応じてデポジション膜に荷電粒子ビームを照射する。
しかしながら、ニードルの先端形状を有限の大きさの形状とする輪郭線をテンプレートに設定する場合、ニードルの先端から外方に向かって成長するデポジション膜等の付着物を適切に除去することができないおそれがある。例えばニードルの先端から軸方向外方に向かって成長する付着物が残る場合、ニードルと試料片とを接続する際にニードルを試料片に適正に接近させることができず、ニードル本体が不適正な他の部位に接触するという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、試料片の移設に用いるニードルの先端形状を適正な所定形状に維持することが可能な荷電粒子ビーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明に係る荷電粒子ビーム装置は、試料から試料片を自動的に作製する荷電粒子ビーム装置であって、荷電粒子ビームを照射する荷電粒子ビーム照射光学系と、前記試料を載置して移動する試料ステージと、前記試料から分離及び摘出する前記試料片を保持して搬送する試料片移設手段と、前記試料片が移設される試料片ホルダを保持するホルダ固定台と、前記荷電粒子ビームの照射によってデポジション膜を形成するガスを供給するガス供給部と、前記試料片を保持していない状態の前記試料片移設手段に前記荷電粒子ビームを照射して得られる画像において前記試料片移設手段の先端が所定位置に対する所定許容誤差範囲に含まれる場合の前記試料片移設手段の実空間での位置を示す座標データを記憶し、適宜の期間での前記座標データの変化量が所定閾値以上である場合に前記試料片移設手段の先端に付着している前記デポジション膜の少なくとも一部を前記荷電粒子ビームの照射によって除去する加工を実行するように前記試料片移設手段と前記荷電粒子ビーム照射光学系とを制御するコンピュータと、を備える。
【0007】
上記構成では、前記試料片を保持する前記試料片移設手段から前記試料片を分離する際に、前記荷電粒子ビームを照射して得られる画像において前記座標データの変化量に応じた加工領域を設定し、前記加工領域に前記荷電粒子ビームを照射することによって前記試料片移設手段の先端に付着している前記デポジション膜の少なくとも一部を除去してもよい。
【0008】
上記構成では、前記コンピュータは、少なくとも前記試料片移設手段の先端から前記試料片移設手段の中心軸に平行な軸方向の外方に向かう方向での前記座標データの変化量を前記所定閾値未満にするように前記加工を実行してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試料片移設手段の見かけ上の先端が所定位置に一致する際に記憶する試料片移設手段の座標データの変化量が所定閾値以上である場合に、試料片移設手段の先端のデポジション膜に荷電粒子ビームを照射するコンピュータを備えることによって、試料片移設手段の先端形状を適正な所定形状に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の構成図。
図2】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の試料に形成された試料片を示す平面図。
図3】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の試料片ホルダを示す平面図。
図4】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の試料片ホルダを示す側面図。
図5】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の動作を示すフローチャートのうち、特に、初期設定工程のフローチャート。
図6】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置において、繰返し使ったニードルの真の先端を説明するための模式図であり、特に(A)は実際のニードル先端を説明する模式図、(B)は吸収電流信号で得られた第1画像を説明する模式図。
図7】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置のニードル先端における電子ビーム照射による二次電子画像の模式図であり、特に(A)は背景より明るい領域を抽出した第2画像を示す模式図、(B)は背景より暗い領域を抽出した第3画像を示す模式図。
図8図7の第2画像と第3画像を合成した第4画像を説明する模式図。
図9】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の動作を示すフローチャートのうち、特に、試料片ピックアップ工程のフローチャート。
図10】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置において、ニードルを試料片に接続させる際におけるニードルの停止位置を説明するための模式図。
図11】本発明の実施形態に係るニードル先端部に付着するカーボンデポジション膜の大小に応じたニードルと試料片との位置関係の例を模式的に説明するための図。
図12】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の集束イオンビームにより得られる画像における柱状部の試料片の取り付け位置を示す図。
図13】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の電子ビームにより得られる画像における柱状部の試料片の取り付け位置を示す図。
図14】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の動作を示すフローチャートのうち、特に、試料片マウント工程のフローチャート。
図15】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の集束イオンビームにより得られる画像における試料台の試料片の取り付け位置周辺で移動停止したニードルを示す図。
図16】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の電子ビームにより得られる画像における試料台の試料片の取り付け位置周辺で移動停止したニードルを示す図。
図17】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の集束イオンビームにより得られる画像におけるニードルに接続された試料片を試料台に接続するための加工枠を示す図。
図18】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の集束イオンビームにより得られる画像におけるニードルと試料片とを接続するデポジション膜を切断するための切断加工位置を示す図。
図19】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の集束イオンビームにより得られる画像におけるニードルに接続された試料片を試料台に接続するための加工枠を示す図。
図20】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の集束イオンビームによる所定の先端部加工の実行前後でニードルの先端部を示す図。
図21】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の集束イオンビームにより得られる画像データにおけるニードルを退避させた状態を示す図。
図22】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の電子ビームにより得られる画像におけるニードルを退避させた状態を示す図。
図23】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の動作を示すフローチャートのうち、特に、ニードルミリング工程のフローチャート。
図24】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の集束イオンビームにより得られる画像データにおけるニードルの先端形状を示す図。
図25図24に示す画像にミリングすべき加工枠を重ね表示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る自動で試料片を作製可能な荷電粒子ビーム装置について添付図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10の構成図である。本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10は、図1に示すように、内部を真空状態に維持可能な試料室11と、試料室11の内部において試料Sおよび試料片ホルダPを固定可能なステージ12と、ステージ12を駆動するステージ駆動機構13と、を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、試料室11の内部における所定の照射領域(つまり走査範囲)内の照射対象に集束イオンビーム(FIB)を照射する集束イオンビーム照射光学系14を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、試料室11の内部における所定の照射領域内の照射対象に電子ビーム(EB)を照射する電子ビーム照射光学系15を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、集束イオンビームまたは電子ビームの照射によって照射対象から発生する二次荷電粒子(二次電子、二次イオン)Rを検出する検出器16を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、照射対象の表面にガスGを供給するガス供給部17を備えている。ガス供給部17は具体的にはノズル17aなどである。荷電粒子ビーム装置10は、ステージ12に固定された試料Sから微小な試料片Qを取り出し、試料片Qを保持して試料片ホルダPに移設するニードル18と、ニードル18を駆動して試料片Qを搬送するニードル駆動機構19と、ニードル18に流入する荷電粒子ビームの流入電流(吸収電流とも言う)を検出し、流入電流信号はコンピュータに送り画像化する吸収電流検出器20と、を備えている。
このニードル18とニードル駆動機構19を合わせて試料片移設手段と呼ぶこともある。荷電粒子ビーム装置10は、検出器16によって検出された二次荷電粒子Rに基づく画像データなどを表示する表示装置21と、コンピュータ22と、入力デバイス23と、を備えている。
なお、集束イオンビーム照射光学系14および電子ビーム照射光学系15の照射対象は、ステージ12に固定された試料S、試料片Q、および照射領域内に存在するニードル18や試料片ホルダPなどである。
【0013】
この実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10は、照射対象の表面に集束イオンビームを走査しながら照射することによって、被照射部の画像化やスパッタリングによる各種の加工(掘削、トリミング加工など)と、デポジション膜の形成などが実行可能である。荷電粒子ビーム装置10は、試料Sから透過電子顕微鏡による透過観察用の試料片Q(例えば、薄片試料、針状試料など)や電子ビーム利用の分析試料片を形成する加工を実行可能である。荷電粒子ビーム装置10は、試料片ホルダPに移設された試料片Qを、透過電子顕微鏡による透過観察に適した所望の厚さの薄膜とする加工が実行可能である。荷電粒子ビーム装置10は、試料片Qおよびニードル18などの照射対象の表面に集束イオンビームまたは電子ビームを走査しながら照射することによって、照射対象の表面の観察を実行可能である。
吸収電流検出器20は、プリアンプを備え、ニードルの流入電流を増幅し、コンピュータ22に送る。吸収電流検出器20により検出されるニードル流入電流と荷電粒子ビームの走査と同期した信号により、表示装置21にニードル形状の吸収電流画像を表示でき、ニードル形状や先端位置特定が行える。
【0014】
図2は、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10において、集束イオンビームを試料S表面(斜線部)に照射して形成された、試料Sから摘出される前の試料片Qを示す平面図である。符号Fは集束イオンビームによる加工枠、つまり、集束イオンビームの走査範囲を示し、その内側(白色部)が集束イオンビーム照射によってスパッタ加工されて掘削された加工領域Hを示している。符号Refは、試料片Qを形成する(掘削しないで残す)位置を示すレファレンスマーク(基準点)であり、例えば、後述するデポジション膜に集束イオンビームによって微細穴を設けた形状などである。試料片Qの概略の位置に知るにはデポジション膜を利用し、精密な位置合わせには微細穴を利用する。試料Sにおいて試料片Qは、試料Sに接続される支持部Qaを残して側部側および底部側の周辺部が削り込まれて除去されるようにエッチング加工されており、支持部Qaによって試料Sに片持ち支持されている。
【0015】
試料室11は、排気装置(図示略)によって内部を所望の真空状態になるまで排気可能であるとともに、所望の真空状態を維持可能に構成されている。
ステージ12は、試料Sを保持する。ステージ12は、試料片ホルダPを保持するホルダ固定台12aを備えている。このホルダ固定台12aは複数の試料片ホルダPを搭載できる構造であってもよい。
図3は試料片ホルダPの平面図であり、図4は側面図である。試料片ホルダPは、切欠き部31を有する略半円形板状の基部32と、切欠き部31に固定される試料台33とを備えている。基部32は、例えば金属によって円形板状から形成されている。試料台33は、例えばシリコンウェハから半導体製造プロセスによって形成され、導電性の接着剤によって切欠き部31に貼着されている。試料台33は櫛歯形状であり、離間配置されて突出する複数で、試料片Qが移設される柱状部(以下、ピラーとも言う)34を備えている。
なお、基部32の形状は、後続する透過電子顕微鏡に導入するステージ12に搭載できる形状であるとともに、試料台33に搭載した試料片Qの全てがステージ12の可動範囲内に位置するような形状であればよい。
【0016】
ステージ駆動機構13は、ステージ12に接続された状態で試料室11の内部に収容されており、コンピュータ22から出力される制御信号に応じてステージ12を所定軸に対して変位させる。ステージ駆動機構13は、少なくとも水平面に平行かつ互いに直交するX軸およびY軸と、X軸およびY軸に直交する鉛直方向のZ軸とに沿って平行にステージ12を移動させる移動機構13aを備えている。ステージ駆動機構13は、ステージ12をX軸またはY軸周りに傾斜させる傾斜機構13bと、ステージ12をZ軸周りに回転させる回転機構13cと、を備えている。
【0017】
集束イオンビーム照射光学系14は、試料室11の内部においてビーム出射部(図示略)を、照射領域内のステージ12の鉛直方向上方の位置でステージ12に臨ませるとともに、光軸を鉛直方向に平行にして、試料室11に固定されている。これによって、ステージ12に載置された試料S、試料片Q、および照射領域内に存在するニードル18などの照射対象に鉛直方向上方から下方に向かい集束イオンビームを照射可能である。また、荷電粒子ビーム装置10は、上記のような集束イオンビーム照射光学系14の代わりに他のイオンビーム照射光学系を備えてもよい。イオンビーム照射光学系は、上記のような集束ビームを形成する光学系に限定されない。イオンビーム照射光学系は、例えば、光学系内に定型の開口を有するステンシルマスクを設置して、ステンシルマスクの開口形状の成形ビームを形成するプロジェクション型のイオンビーム照射光学系であってもよい。集束イオンビーム照射光学系14は、イオンを発生させるイオン源14aと、イオン源14aから引き出されたイオンを集束および偏向させるイオン光学系14bと、を備えている。イオン源14aおよびイオン光学系14bは、コンピュータ22から出力される制御信号に応じて制御され、集束イオンビームの照射位置および照射条件などがコンピュータ22によって制御される。イオン源14aは、例えば、液体ガリウムなどを用いた液体金属イオン源やプラズマ型イオン源、ガス電界電離型イオン源などである。イオン光学系14bは、例えば、コンデンサレンズなどの第1静電レンズと、静電偏向器と、対物レンズなどの第2静電レンズと、などを備えている。
【0018】
電子ビーム照射光学系15は、試料室11の内部においてビーム出射部(図示略)を、照射領域内のステージ12の鉛直方向に対して所定角度(例えば60°)傾斜した傾斜方向でステージ12に臨ませるとともに、光軸を傾斜方向に平行にして、試料室11に固定されている。これによって、ステージ12に固定された試料S、試料片Q、および照射領域内に存在するニードル18などの照射対象に傾斜方向の上方から下方に向かい電子ビームを照射可能である。
電子ビーム照射光学系15は、電子を発生させる電子源15aと、電子源15aから射出された電子を集束および偏向させる電子光学系15bと、を備えている。電子源15aおよび電子光学系15bは、コンピュータ22から出力される制御信号に応じて制御され、電子ビームの照射位置および照射条件などがコンピュータ22によって制御される。電子光学系15bは、例えば、電磁レンズや偏向器などを備えている。
【0019】
なお、電子ビーム照射光学系15と集束イオンビーム照射光学系14の配置を入れ替えて、電子ビーム照射光学系15を鉛直方向に、集束イオンビーム照射光学系14を鉛直方向に所定角度傾斜した傾斜方向に配置してもよい。
【0020】
検出器16は、試料Sおよびニードル18などの照射対象に集束イオンビームや電子ビームが照射された時に照射対象から放射される二次荷電粒子(二次電子および二次イオン)Rの強度(つまり、二次荷電粒子の量)を検出し、二次荷電粒子Rの検出量の情報を出力する。検出器16は、試料室11の内部において二次荷電粒子Rの量を検出可能な位置、例えば照射領域内の試料Sなどの照射対象に対して斜め上方の位置などに配置され、試料室11に固定されている。
【0021】
ガス供給部17は試料室11に固定されており、試料室11の内部においてガス噴射部(ノズルとも言う)を有し、ステージ12に臨ませて配置されている。ガス供給部17は、集束イオンビームによる試料Sのエッチングを試料Sの材質に応じて選択的に促進するためのエッチング用ガスと、試料Sの表面に金属または絶縁体などの堆積物によるデポジション膜を形成するためのデポジション用ガスなどを試料Sに供給可能である。また、供給ガスによっては、電子ビームを照射することでも、エッチングやデポジションを行なうことができる。
【0022】
ニードル駆動機構19は、ニードル18が接続された状態で試料室11の内部に収容されており、コンピュータ22から出力される制御信号に応じてニードル18を変位させる。ニードル駆動機構19は、ステージ12と一体に設けられており、例えばステージ12が傾斜機構13bによって傾斜軸(つまり、X軸またはY軸)周りに回転すると、ステージ12と一体に移動する。ニードル駆動機構19は、3次元座標軸の各々に沿って平行にニードル18を移動させる移動機構(図示略)と、ニードル18の中心軸周りにニードル18を回転させる回転機構(図示略)と、を備えている。なお、この3次元座標軸は、試料ステージの直交3軸座標系とは独立しており、ステージ12の表面に平行な2次元座標軸とする直交3軸座標系で、ステージ12の表面が傾斜状態、回転状態にある場合、この座標系は傾斜し、回転する。
【0023】
コンピュータ22は、少なくともステージ駆動機構13と、集束イオンビーム照射光学系14と、電子ビーム照射光学系15と、ガス供給部17と、ニードル駆動機構19を制御する。
コンピュータ22は、試料室11の外部に配置され、表示装置21と、操作者の入力操作に応じた信号を出力するマウスやキーボードなどの入力デバイス23とが接続されている。
コンピュータ22は、入力デバイス23から出力される信号または予め設定された自動運転制御処理によって生成される信号などによって、荷電粒子ビーム装置10の動作を統合的に制御する。
【0024】
コンピュータ22は、荷電粒子ビームの照射位置を走査しながら検出器16によって検出される二次荷電粒子Rの検出量を、照射位置に対応付けた輝度信号に変換して、二次荷電粒子Rの検出量の2次元位置分布によって照射対象の形状を示す画像データを生成する。吸収電流画像モードでは、コンピュータ22は、荷電粒子ビームの照射位置を走査しながらニードル18に流れる吸収電流を検出することによって、吸収電流の2次元位置分布(吸収電流画像)によってニードル18の形状を示す吸収電流画像データを生成する。コンピュータ22は、生成した各画像データとともに、各画像データの拡大、縮小、移動、および回転などの操作を実行するための画面を、表示装置21に表示させる。コンピュータ22は、自動的なシーケンス制御におけるモード選択および加工設定などの各種の設定を行なうための画面を、表示装置21に表示させる。
【0025】
本発明の実施形態による荷電粒子ビーム装置10は上記構成を備えており、次に、この荷電粒子ビーム装置10の動作について説明する。
【0026】
以下、コンピュータ22が実行する自動サンプリングの動作、つまり荷電粒子ビーム(集束イオンビーム)による試料Sの加工によって形成された試料片Qを自動的に試料片ホルダPに移設させる動作について、初期設定工程、試料片ピックアップ工程、試料片マウント工程に大別して、順次説明する。
【0027】
<初期設定工程>
図5は、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10による自動サンプリングの動作のうち初期設定工程の流れを示すフローチャートである。先ず、コンピュータ22は、自動シーケンスの開始時に操作者の入力に応じて後述する姿勢制御モードの有無等のモード選択、テンプレートマッチング用の観察条件、および加工条件設定(加工位置、寸法、個数等の設定)、ニードル先端形状の確認などを行なう(ステップS010)。
【0028】
次に、コンピュータ22は、柱状部34のテンプレートを作成する(ステップS020からステップS027)。このテンプレート作成において、先ず、コンピュータ22は、操作者によってステージ12のホルダ固定台12aに設置される試料片ホルダPの位置登録処理を行なう(ステップS020)。コンピュータ22は、各柱状部34のステージ座標取得とテンプレート作成を行ない、これらをセットで記憶し、後にテンプレートマッチング(テンプレートと画像の重ね合わせ)で柱状部34の形状を判定する際に用いる。
【0029】
コンピュータ22は、荷電粒子ビーム(集束イオンビームおよび電子ビームの各々)の照射により生成する各画像データから、事前に試料台33の設計形状(CAD情報)から作成したテンプレートを用いて試料台33を構成する複数の柱状部34の位置を抽出する。そして、コンピュータ22は、抽出した各柱状部34の位置座標と画像を、試料片Qの取り付け位置として登録処理(記憶)する(ステップS023)。この時、各柱状部34の画像が、予め準備しておいた柱状部の設計図、CAD図、または柱状部34の標準品の画像と比較して、不良であればその柱状部の座標位置と画像と共に不良品であることもコンピュータ22は記憶する。
次に、現在登録処理の実行中の試料片ホルダPに登録すべき柱状部34が無いか否かを判定する(ステップS025)。この判定結果が「NO」の場合、つまり登録すべき柱状部34の残数mが1以上の場合には、処理を上述したステップS023に戻し、柱状部34の残数mが無くなるまでステップS023とS025を繰り返す。一方、この判定結果が「YES」の場合、つまり登録すべき柱状部34の残数mがゼロの場合には、処理をステップS027に進める。
【0030】
ホルダ固定台12aに複数個の試料片ホルダPが設置されている場合、各試料片ホルダPの位置座標、該当試料片ホルダPの画像データを各試料片ホルダPに対するコード番号などと共に記録し、さらに、各試料片ホルダPの各柱状部34の位置座標と対応するコード番号と画像データを記憶(登録処理)する。コンピュータ22は、この位置登録処理を、自動サンプリングを実施する試料片Qの数の分だけ、順次、実施してもよい。
そして、コンピュータ22は、登録すべき試料片ホルダPが無いか否かを判定する(ステップS027)。この判定結果が「NO」の場合、つまり登録すべき試料片ホルダPの残数nが1以上の場合には、処理を上述したステップS020に戻し、試料片ホルダPの残数nが無くなるまでステップS020からS027を繰り返す。一方、この判定結果が「YES」の場合、つまり登録すべき試料片ホルダPの残数nがゼロの場合には、処理をステップS030に進める。
なお、この位置登録処理(ステップS020、S023)において、万一、試料片ホルダP自体、もしくは、柱状部34が変形や破損していて、試料片Qが取り付けられる状態に無い場合は、上記の位置座標、画像データ、コード番号と共に、対応させて『使用不可』(試料片Qが取り付けられないことを示す表記)などとも登録しておく。これによって、コンピュータ22は、後述する試料片Qの移設の際に、『使用不可』の試料片ホルダP、もしくは柱状部34はスキップされ、次の正常な試料片ホルダP、もしくは柱状部34を観察視野内に移動させることができる。
【0031】
次に、コンピュータ22は、ニードル18のテンプレートを作成する(ステップS030からS050)。テンプレートは、後述するニードル18を試料片Qに正確に接近させる際の画像マッチングに用いる。
このテンプレート作成工程において、先ず、コンピュータ22は、ステージ駆動機構13によってステージ12を一旦移動させる。続いて、コンピュータ22は、ニードル駆動機構19によってニードル18を初期設定位置に移動させる(ステップS030)。初期設定位置は、集束イオンビームと電子ビームがほぼ同一点に照射でき、両ビームの焦点が合う点(コインシデンスポイント)であって、直前に行ったステージ移動によって、ニードル18の背景には試料Sなどニードル18と誤認するような複雑な構造が無い、予め定めた位置である。このコインシデンスポイントは、集束イオンビーム照射と電子ビーム照射によって同じ対象物を異なった角度から観察することができる位置である。
【0032】
コンピュータ22は、ニードル駆動機構19によってニードル18を初期設定位置に移動させる際に、SIM画像及びSEM画像の各画像データにおいてニードル18の先端(つまり、見かけ上の先端)が所定位置(例えば、コインシデンスポイントなどの初期設定位置)である場合、例えばニードル18の先端が所定位置に対する所定許容誤差範囲に含まれる場合等でのニードル駆動機構19の座標データを取得する(ステップS032)。SIM画像は集束イオンビームの照射により生成する画像であり、SEM画像は電子ビームの照射により生成する画像である。座標データは、ニードル駆動機構19がニードル18の実空間での位置に対応付けて把握している3次元座標のデータである。例えば、コンピュータ22は、SIM画像及びSEM画像の各々の画像内にあるニードル18の先端を適宜の画像処理によって認識し、各画像内でニードル18の先端とコインシデンスポイントとが一致する事象の発生を把握する。コンピュータ22は、各画像内でニードル18の先端とコインシデンスポイントとが一致した場合に取得した座標データを記憶する。
【0033】
次に、コンピュータ22は、ステップS032にて取得した座標データの履歴から座標データの変化を判定する(ステップS034)。例えば、コンピュータ22は、座標データの前回値と今回値との差分の累積値、つまり適宜の期間に亘る座標データの総変化量が、所定閾値以上であるか否かを判定する。適宜の期間は、例えば、後述する先端部加工フラグのオンに応じた所定の先端部加工が実行されるたびごとにリセットされる期間であって、直近の所定の先端部加工が実行されてから現時点までの期間である。所定閾値は、例えば、少なくともニードル18の先端からニードル18の中心軸に平行な軸方向の外方に向かう方向での座標データの変化量に対する閾値である。所定閾値は、例えば、0.5μm程度である。
コンピュータ22は、座標データの総変化量が所定閾値未満の場合(ステップS034;OK)には、処理をステップS034からステップS036に進める。そして、コンピュータ22は、先端部加工フラグをオフ(OFF)に設定する(ステップS036)。
一方、コンピュータ22は、座標データの総変化量が所定閾値よりも大きい場合(ステップS034;NG)には、処理をステップS034からステップS038に進める。そして、コンピュータ22は、先端部加工フラグをオン(ON)に設定する(ステップS038)。
先端部加工フラグは、ニードル18の先端部に付着するデポジション膜などの付着物を集束イオンビームの照射によって除去することによって、座標データの総変化量を所定閾値未満とするための所定の先端部加工の実行要否を指示するフラグである。
【0034】
次に、コンピュータ22は、電子ビーム照射による吸収画像モードによって、ニードル18の位置を認識する(ステップS040)。
コンピュータ22は、電子ビームを走査しながらニードル18に照射することによってニードル18に流入する吸収電流を検出し、吸収電流画像データを生成する。この時、吸収電流画像には、ニードル18と誤認する背景が無いため、背景画像に影響されずにニードル18を認識できる。コンピュータ22は、電子ビームの照射によって吸収電流画像データを取得する。
【0035】
ここで、コンピュータ22は、ニードル18の形状を判定する(ステップS042)。
万一、ニードル18の先端形状が変形や破損等により、試料片Qを取り付けられる状態に無い場合(ステップS042;NG)には、ステップS043から、図36のステップS298のNO側に飛び、ステップS050以降の全ステップは実行せずに自動サンプリングの動作を終了させる。ステップS042において、ニードル形状が不良と判断した場合、表示装置21に『ニードル不良』等と表示して(ステップS043)、装置の操作者に警告する。不良品と判断したニードル18は新たなニードル18に交換するか、軽微な不良であればニードル先端を集束イオンビーム照射によって成形してもよい。
ステップS042において、ニードル18が予め定めた正常な形状であれば次のステップS044に進む。
【0036】
ここで、ニードル先端の状態を説明しておく。
図6(A)は、ニードル18(タングステンニードル)の先端にカーボンデポジション膜DMの残渣が付着している状態を説明するためにニードル先端部を拡大した模式図である。ニードル18は、その先端が集束イオンビーム照射によって切除されて変形しないようにしてサンプリング操作を複数回繰返して用いるため、ニードル18先端には試料片Qを保持していたカーボンデポジション膜DMの残渣が付着する。繰返してサンプリングすることで、このカーボンデポジション膜DMの残渣は徐々に大きくなり、タングステンニードルの先端位置より少し突き出した形状になる。従って、ニードル18の真の先端座標は、もともとのニードル18を構成するタングステンの先端Wではなく、カーボンデポジション膜DMの残渣の先端Cとなる。上述したように、吸収電流画像ではニードル先端のカーボンデポジション膜DMを認識できないので、真のニードル先端を知ることはできないが、テンプレートとのパターンマッチングの観点からテンプレート画像には吸収電流像が適している。
【0037】
図6(B)は、カーボンデポジション膜DMが付着したニードル先端部の吸収電流像の模式図である。背景に複雑なパターンがあっても背景形状に影響されずに、ニードル18は明確に認識できる。背景に照射される電子ビーム信号は画像に反映されないため、背景はノイズレベルの一様なグレートーンで示される。一方、カーボンデポジション膜DMは背景のグレートーンより若干暗く見え、吸収電流像ではカーボンデポジション膜DMの先端が明確に確認できないことが分かった。このため、以下のようにして、カーボンデポジション膜DMの先端座標(残渣の先端)Cからニードル18の真の先端座標を求める。なお、ここで、図6(B)の画像を第1画像と呼ぶことにする。
ニードル18の吸収電流像(第1画像)を取得する工程がステップS044である。
次に、図6(B)の第1画像を画像処理して、背景より明るい領域を抽出する(ステップS045)。
【0038】
図7(A)は、図6(B)の第1画像を画像処理して、背景より明るい領域を抽出した模式図である。背景より明るい領域(ニードル18の一部)を強調した画像が得られ、この画像をここでは第2画像と言う。この第2画像をコンピュータに記憶する。
次に、図6(B)の第1画像において、背景の明度より暗い領域を抽出する(ステップS046)。
【0039】
図7(B)は、図6(B)の第1画像を画像処理して、背景より暗い領域を抽出した模式図である。ニードル先端のカーボンデポジション膜DMのみが抽出されて表示される。背景より暗い領域を顕在化させた画像を第3画像と言い、第3画像をコンピュータ22に記憶する。
次に、コンピュータ22に記憶した第2画像と第3画像を合成する(ステップS047)。
【0040】
図8は合成後の表示画像の模式図である。但し、画像上、見やすくするために、第2画像でのニードル18の領域、第3画像におけるカーボンデポジション膜DMの部分の輪郭のみを線表示して、背景やニードル18、カーボンデポジション膜DMの外周以外は透明表示にしてもよいし、背景のみを透明にして、ニードル18とカーボンデポジション膜DMを同じ色や同じトーンで表示してもよい。ここで、合成した画像を第4画像と呼び、この第4画像をコンピュータに記憶する。第4画像は、第1画像を基に、コントラストを調整し、輪郭を強調する処理を施しているため、第1画像と第4画像におけるニードル形状は全く同じで、輪郭が明確になっており、第1画像に比べてカーボンデポジション膜DMの先端が明確になる。
次に、第4画像から、カーボンデポジション膜DMの先端、つまり、カーボンデポジション膜DMが堆積したニードル18の真の先端座標を求める(ステップS048)。
コンピュータ22から第4画像を取り出し表示し、ニードル18の真の先端座標を求める。ニードル18の軸方向で最も突き出た箇所(残渣の先端)Cが真のニードル先端であり、画像認識により自動的に判断させ、先端座標をコンピュータ22に記憶する。
次に、テンプレートマッチングの精度を更に高めるために、ステップS044時と同じ観察視野でのニードル先端の吸収電流画像をレファレンス画像として、テンプレート画像はレファレンス画像データのうち、ステップS048で得たニードル先端座標を基準として、ニードル先端を含む一部のみを抽出したものとし、このテンプレート画像をステップS048で得たニードル先端の基準座標(ニードル先端座標)とを対応付けてコンピュータ22に登録する(ステップS050)。
【0041】
次に、コンピュータ22は、ニードル18を試料片Qに接近させる処理として、以下の処理を行なう。
なお、上記の柱状部34のテンプレートを作成する工程(S020からS027)と、ニードル18のテンプレートを作成する工程(S030からS050)が逆であってもよい。但し、ニードル18のテンプレートを作成する工程(S030からS050)が先行する場合、後述のステップS298から戻るフロー(C)も連動する。
【0042】
<試料片ピックアップ工程>
図9は、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10による自動サンプリングの動作のうち、試料片Qを試料Sからピックアップする工程の流れを示すフローチャートである。ここで、ピックアップとは、集束イオンビームによる加工やニードルによって、試料片Qを試料Sから分離、摘出することを言う。
まず、コンピュータ22は、対象とする試料片Qを荷電粒子ビームの視野に入れるためにステージ駆動機構13によってステージ12を移動させる。目的とするレファレンスマークRefの位置座標を用いてステージ駆動機構13を動作させてもよい。コンピュータ22は、認識したレファレンスマークRefを用いて、既知であるレファレンスマークRefと試料片Qとの相対位置関係から試料片Qの位置を認識して、試料片Qの位置を観察視野に入るようにステージ移動する(ステップS060)。
次に、コンピュータ22は、ステージ駆動機構13によってステージ12を駆動し、試料片Qの姿勢が所定姿勢(例えば、ニードル18による取出しに適した姿勢など)になるように、姿勢制御モードに対応した角度分だけステージ12をZ軸周りに回転させる(ステップS070)。
次に、コンピュータ22は、荷電粒子ビームの画像データを用いてレファレンスマークRefを認識し、既知であるレファレンスマークRefと試料片Qとの相対位置関係から試料片Qの位置を認識して、試料片Qの位置合わせを行なう(ステップS080)。次に、コンピュータ22は、ニードル18を試料片Qに接近させる処理として、以下の処理を行う。
【0043】
コンピュータ22は、ニードル駆動機構19によってニードル18を移動させるニードル移動(粗調整)を実行する(ステップS090)。コンピュータ22は、試料Sに対する集束イオンビームおよび電子ビームによる各画像データを用いて、レファレンスマークRef(上述した図2参照)を認識する。コンピュータ22は、認識したレファレンスマークRefを用いてニードル18の移動目標位置APを設定する。移動目標位置APは、例えば、試料片Qの支持部Qaの反対側の側部に近接した位置とする。コンピュータ22は、移動目標位置APを、試料片Qの形成時の加工枠Fに対して所定の位置関係を対応付けている。コンピュータ22は、集束イオンビームの照射によって試料Sに試料片Qを形成する際の加工枠FとレファレンスマークRefとの相対的な位置関係の情報を記憶している。コンピュータ22は、認識したレファレンスマークRefを用いて、レファレンスマークRefと加工枠Fと移動目標位置AP(図2参照)との相対的な位置関係を用いて、ニードル18の先端位置を移動目標位置APに向かい3次元空間内で移動させる。
【0044】
なお、上述の処理では、コンピュータ22は、加工枠Fを用いること無しに、レファレンスマークRefと移動目標位置APとの相対的な位置関係を用いて、ニードル18の先端位置を移動目標位置APに向かい3次元空間内で移動させてもよい。
【0045】
次に、コンピュータ22は、ニードル駆動機構19によってニードル18を移動させるニードル移動(微調整)を実行する(ステップS100)。コンピュータ22は、ステップS050で作成したテンプレートを用いたパターンマッチングを繰り返して、また、SEM画像内のニードル18の先端位置としてはステップS047で得たニードル先端座標を用いて、移動目標位置APを含む照射領域に荷電粒子ビームを照射した状態でニードル18を移動目標位置APから接続加工位置に3次元空間内で移動させる。
【0046】
次に、コンピュータ22は、ニードル18の移動を停止させる処理を行なう(ステップS110)。
図10は、ニードル18を試料片Qに接続させる際の位置関係を説明するための図で、試料片Qの端部を拡大した図である。図10において、ニードル18を接続すべき試料片Qの端部(断面)をSIM画像中心35に配置し、SIM画像中心35から所定距離L1を隔て、例えば、試料片Qの幅の中央の位置を接続加工位置36とする。接続加工位置は、試料片Qの端面の延長上(図10の符号36a)の位置であってもよい。コンピュータ22は、所定距離L1の上限を1μmとする。この接続加工位置36の3次元座標をコンピュータ22に記憶しておく。
コンピュータ22は、同じSIM画像またはSEM画像内にあるニードル18先端と接続加工位置36の三次元座標を基に、ニードル駆動機構19を動作させ、ニードル18を所定の接続加工位置36に移動する。コンピュータ22は、ニードル先端が接続加工位置36と一致した時に、ニードル駆動機構19を停止させる。
【0047】
図11は、ニードル先端部に付着するカーボンデポジション膜DMの大小に応じたニードル18と試料片Qとの位置関係の例を模式的に説明するための図である。図11に示すように、カーボンデポジション膜DMの大小にかかわらずに、カーボンデポジション膜DMの先端Cと試料片Qとの間の距離は所定距離L1に設定される。ニードル18の先端部に付着するカーボンデポジション膜DMが増大することに伴い、ニードル18の先端C(つまりニードル18の先端部に付着するカーボンデポジション膜DMの残渣の先端C)はニードル18の本体の外方に向かって離れ、ニードル18本体の先端は試料片Qから離れる。
【0048】
次に、コンピュータ22は、ニードル18を試料片Qに接続する処理を行なう(ステップS120)。コンピュータ22は、所定のデポジション時間に亘って、試料片Qおよびニードル18の先端表面にガス供給部17によってデポジション用ガスであるカーボン系ガスを供給しつつ、接続加工位置36に設定した加工枠を含む照射領域に集束イオンビームを照射する。これによりコンピュータ22は、試料片Qおよびニードル18をデポジション膜により接続する。
このステップS120では、コンピュータ22は、ニードル18を試料片Qに直接接触させずに間隔を開けた位置でデポジション膜により接続する。ニードル18は試料片Qから所定距離L1の間隔を有した位置を接続加工位置として接近し、停止する。ニードル18と試料片Q、デポジション膜形成領域(例えば、加工枠)は、ニードル18と試料片Qを跨ぐように設定する。デポジション膜は所定距離L1の間隔にも形成され、ニードル18と試料片Qはデポジション膜で接続される。
【0049】
なお、コンピュータ22は、ニードル18の吸収電流の変化を検出することによって、デポジション膜による接続状態を判定してもよい。コンピュータ22は、ニードル18の吸収電流が予め定めた電流値に達した時に試料片Qおよびニードル18がデポジション膜により接続されたと判定し、所定のデポジション時間の経過有無にかかわらずに、デポジション膜の形成を停止してもよい。
【0050】
次に、コンピュータ22は、試料片Qと試料Sとの間の支持部Qaを切断する処理を行なう(ステップS130)。コンピュータ22は、試料Sに形成されているレファレンスマークRefを用いて、予め設定されている支持部Qaの切断加工位置を指定する。
コンピュータ22は、所定の切断加工時間に亘って、切断加工位置に集束イオンビームを照射することによって、試料片Qを試料Sから分離する。
コンピュータ22は、試料Sとニードル18との導通を検知することによって、試料片Qが試料Sから切り離されたか否かを判定する(ステップS133)。
コンピュータ22は、試料Sとニードル18との導通を検知しない場合には、試料片Qが試料Sから切り離された(OK)と判定し、これ以降の処理(つまり、ステップS140以降の処理)の実行を継続する。一方、コンピュータ22は、切断加工の終了後、つまり切断加工位置での試料片Qと試料Sとの間の支持部Qaの切断が完了した後に、試料Sとニードル18との導通を検知した場合には、試料片Qが試料Sから切り離されていない(NG)と判定する。コンピュータ22は、試料片Qが試料Sから切り離されていない(NG)と判定した場合には、この試料片Qと試料Sとの分離が完了していないことを表示装置21への表示または警告音などにより報知する(ステップS136)。そして、これ以降の処理の実行を停止する。この場合、コンピュータ22は、試料片Qとニードル18を繋ぐデポジション膜(後述するデポジション膜DM2)を集束イオンビーム照射によって切断し、試料片Qとニードル18を分離して、ニードル18を初期位置(ステップS030)に戻るようにしてもよい。また、後述するニードルトリミングを実行して、ニードル18を初期位置(ステップS030)に戻るようにしてもよい。初期位置に戻ったニードル18は、次の試料片Qのサンプリングを実施する。
【0051】
次に、コンピュータ22は、ニードル退避の処理を行なう(ステップS140)。コンピュータ22は、ニードル駆動機構19によってニードル18を所定距離(例えば、5μmなど)だけ鉛直方向上方(つまりZ方向の正方向)に上昇させる。
次に、コンピュータ22は、ステージ退避の処理を行なう(ステップS150)。コンピュータ22は、ステージ駆動機構13によってステージ12を、所定距離を移動させる。
【0052】
コンピュータ22は、相互に接続されたニードル18および試料片Qの背景に構造物がない状態になるように、ステージ駆動機構13を動作させる。コンピュータ22は、ステージ12を所定距離だけ移動させる。試料片Qの背景を判断(ステップS160)し、背景が問題にならなければ、次のステップS170に進み、背景に問題があればステージ12を所定量だけ再移動させて(ステップS165)、背景の判断(ステップS160)に戻り、背景に問題が無くなるまで繰り返す。
【0053】
コンピュータ22は、ニードル18および試料片Qのテンプレート作成を実行する(ステップS170)。コンピュータ22は、試料片Qが固定されたニードル18を必要に応じて回転させた姿勢状態(つまり、試料台33の柱状部34に試料片Qを接続する姿勢)のニードル18および試料片Qのテンプレートを作成する。これによりコンピュータ22は、ニードル18の回転に応じて、集束イオンビームおよび電子ビームの各々により得られる画像データから3次元的にニードル18および試料片Qのエッジ(輪郭)を認識する。
【0054】
このテンプレート作成(ステップS170)において、先ず、コンピュータ22は、試料片Qおよび試料片Qが接続されたニードル18の先端形状に対するテンプレートマッチング用のテンプレート(レファレンス画像データ)を取得する。コンピュータ22は、集束イオンビーム照射と、電子ビーム照射によって、2つの異なる方向から取得した各画像データをテンプレート(レファレンス画像データ)として記憶する。
【0055】
次に、コンピュータ22は、ニードル退避の処理を行なう(ステップS180)。コンピュータ22は、ニードル駆動機構19によってニードル18を所定距離だけ移動させる。
【0056】
次に、コンピュータ22は、上述のステップS020において登録した特定の試料片ホルダPが、荷電粒子ビームによる観察視野領域内に入るようにステージ駆動機構13によってステージ12を移動させる(ステップS190)。図12および図13はこの様子を示しており、特に図12は、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10の集束イオンビームにより得られる画像の模式図であって、柱状部34の試料片Qの取り付け位置Uを示す図であり、図13は、電子ビームにより得られる画像の模式図であって、柱状部34の試料片Qの取り付け位置Uを示す図である。
ここで、所望の試料片ホルダPの柱状部34が観察視野領域内に入るか否かを判定し(ステップS195)、所望の柱状部34が観察視野領域内に入れば、次のステップS200に進む。もし、所望の柱状部34が観察視野領域内に入らなければ、つまり、指定座標に対してステージ駆動が正しく動作しない場合は、直前に指定したステージ座標を初期化して、ステージ12が有する原点位置に戻る(ステップS197)。そして、再度、事前登録した所望の柱状部34の座標を指定して、ステージ12を駆動させ(ステップS190)て、柱状部34が観察視野領域内に入るまで繰り返す。
【0057】
次に、コンピュータ22は、ステージ駆動機構13によってステージ12を移動させて試料片ホルダPの水平位置を調整するとともに、試料片ホルダPの姿勢が所定姿勢になるように、姿勢制御モードに対応した角度分だけステージ12を回転と傾斜させる(ステップS200)。
ここで、試料片ホルダPのうち柱状部34の形状の良否を判定する(ステップS205)。ステップS023で柱状部34の画像を登録したものの、その後の工程で、予期せぬ接触等によって指定した柱状部34が変形、破損、欠落などしていないかを、柱状部34の形状の良否を判定する。このステップS205で、該当柱状部34の形状に問題無く良好と判断できれば次のステップS210に進み、不良と判断すれば、次の柱状部34を観察視野領域内に入るようにステージ移動させるステップS190に戻る。
なお、コンピュータ22は、指定した柱状部34を観察視野領域内に入れるためにステージ12の移動をステージ駆動機構13に指示した際に、実際には指定された柱状部34が観察視野領域内に入らない場合には、ステージ12の位置座標を初期化して、ステージ12を初期位置に移動させる。そしてコンピュータ22は、ガス供給部17のノズル17aを、集束イオンビーム照射位置近くに移動させる。
【0058】
<試料片マウント工程>
ここで言う「試料片マウント工程」とは、摘出した試料片Qを試料片ホルダPに移設する工程のことである。
図14は、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10による自動サンプリングの動作のうち、試料片Qを所定の試料片ホルダPのうちの所定の柱状部34にマウント(移設)する工程の流れを示すフローチャートである。
コンピュータ22は、集束イオンビームおよび電子ビーム照射により得られる各画像データを用いて、上述したステップS020において記憶した試料片Qの移設位置を認識する(ステップS210)。コンピュータ22は、櫛歯形状の試料台33の複数の柱状部34のうち、観察視野領域内に現れた柱状部34が予め指定した柱状部34であることを確認するために、テンプレートマッチングを実施する。コンピュータ22は、予め柱状部34のテンプレートを作成する工程(ステップS020)において作成した柱状部34毎のテンプレートを用いて、集束イオンビームおよび電子ビームの各々の照射により得られる各画像データとテンプレートマッチングを実施する。
【0059】
また、コンピュータ22は、ステージ12を移動した後に実施する柱状部34毎のテンプレートマッチングにおいて、柱状部34に欠落など問題が認められるか否かを判定する(ステップS215)。柱状部34の形状に問題が認められた場合(NG)には、試料片Qを移設する柱状部34を、問題が認められた柱状部34の隣の柱状部34に変更し、その柱状部34についてもテンプレートマッチングを行ない移設する柱状部34を決定する。柱状部34の形状に問題が無ければ次のステップS220に移る。
【0060】
コンピュータ22は、電子ビームの照射により認識した取り付け位置と集束イオンビームの照射により認識した取り付け位置とが一致するように、ステージ駆動機構13によってステージ12を駆動する。コンピュータ22は、試料片Qの取り付け位置Uが視野領域の視野中心(加工位置)に一致するように、ステージ駆動機構13によってステージ12を駆動する。
【0061】
次に、コンピュータ22は、ニードル18に接続された試料片Qを試料片ホルダPに接触させる処理として、以下のステップS220~ステップS250の処理を行なう。
先ず、コンピュータ22は、ニードル18の位置を認識する(ステップS220)。コンピュータ22は、ニードル18に荷電粒子ビームを照射することによってニードル18に流入する吸収電流を検出し、吸収電流画像データを生成する。コンピュータ22は、集束イオンビーム照射と、電子ビーム照射によって、2つの異なる方向からの各吸収電流画像データを用いて3次元空間でのニードル18の先端位置を検出する。なお、コンピュータ22は、検出したニードル18の先端位置を用いて、ステージ駆動機構13によってステージ12を駆動して、ニードル18の先端位置を予め設定されている視野領域の中心位置(視野中心)に設定してもよい。
【0062】
次に、コンピュータ22は、試料片マウント工程を実行する。先ず、コンピュータ22は、ニードル駆動機構19によってニードル18を移動させるニードル移動を実行する(ステップS230)。コンピュータ22は、集束イオンビームおよび電子ビームの各々の照射により得られる各画像データにおいて、ニードル18および試料片Qのテンプレートと、柱状部34のテンプレートとを用いたテンプレートマッチングに基づき、試料片Qと柱状部34との距離を計測する。コンピュータ22は、計測した距離に応じてニードル18を試料片Qの取付け位置に向かうように3次元空間内で移動させる。
【0063】
次に、コンピュータ22は、柱状部34と試料片Qとの間に予め定めた空隙L2を空けてニードル18を停止させる(ステップS240)。コンピュータ22は、この空隙L2を1μm以下とする。
なお、コンピュータ22は、この空隙L2を設ける際に、柱状部34およびニードル18の吸収電流画像を検知することによって両者の空隙を設けてもよい。
コンピュータ22は、柱状部34とニードル18との間の導通、または柱状部34およびニードル18の吸収電流画像を検知することによって、柱状部34に試料片Qを移設した後において、試料片Qとニードル18との切り離しの有無を検知する。
なお、コンピュータ22は、柱状部34とニードル18との間の導通を検知することができない場合には、柱状部34およびニードル18の吸収電流画像を検知するように処理を切り替える。
また、コンピュータ22は、柱状部34とニードル18との間の導通を検知することができない場合には、この試料片Qの移設を停止し、この試料片Qをニードル18から切り離し、後述するニードルトリミング工程を実行してもよい。
【0064】
次に、コンピュータ22は、ニードル18に接続された試料片Qを柱状部34に接続する処理を行なう(ステップS250)。図15図16は、それぞれ図12図13での観察倍率を高めた画像の模式図である。コンピュータ22は、図15のように試料片Qの一辺と柱状部34の一辺が一直線になるように、かつ、図16のように試料片Qの上端面と柱状部34の上端面が同一面になるように接近させ、空隙L2が所定の値になった時にニードル駆動機構19を停止させる。コンピュータ22は、空隙L2を有して試料片Qの取り付け位置に停止した状況で、図15の集束イオンビームによる画像において、柱状部34の端部を含むようにデポジション用の加工枠R2を設定する。コンピュータ22は、試料片Qおよび柱状部34の表面にガス供給部17によってガスを供給しつつ、所定時間に亘って、加工枠R2を含む照射領域に集束イオンビームを照射する。この操作によっては集束イオンビーム照射部にデポジション膜が形成され、空隙L2が埋まり試料片Qは柱状部34に接続される。コンピュータ22は、柱状部34に試料片Qをデポジションにより固定する工程において、柱状部34とニードル18と間の導通を検知した場合にデポジションを終了する。
【0065】
コンピュータ22は、試料片Qと柱状部34との接続が完了したことの判定を行なう(ステップS255)。例えばニードル18とステージ12の間の電気抵抗値は予め定めた抵抗値以下になったことを確認して電気的に接続されたと判断する。また、事前の検討から、両者間の抵抗値が予め定めた抵抗値に達した時にはデポジション膜は力学的に十分な強度を有し、試料片Qは柱状部34に十分に接続されたと判定できる。
なお、検知するのは上述の電気抵抗に限らず、電流や電圧など柱状部と試料片Qの間の電気特性が計測できればよい。また、コンピュータ22は、予め定めた時間内に予め定めた電気特性(電気抵抗値、電流値、電位など)を満足しなければ、デポジション膜の形成時間を延長する。 コンピュータ22は、試料片Qと柱状部34との接続が確認された時点で、ガス供給と集束イオンビーム照射を停止させる。図17は、この様子を示しており、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10の集束イオンビームによる画像データで、ニードル18に接続された試料片Qを柱状部34に接続するデポジション膜DM1を示す図である。
【0066】
なお、ステップS255においては、コンピュータ22は、ニードル18の吸収電流の変化を検出することによって、デポジション膜DM1による接続状態を判定してもよい。
コンピュータ22は、ニードル18の吸収電流の変化に応じて試料片Qおよび柱状部34がデポジション膜DM1により接続されたと判定した場合に、所定時間の経過有無にかかわらずに、デポジション膜DM1の形成を停止してもよい。接続完了が確認できれば次のステップS260に移り、もし、接続完了しなければ、予め定めた時間で集束イオンビーム照射とガス供給を停止して、集束イオンビームによって試料片Qとニードル18を繋ぐデポジション膜DM2を切断し、ニードル先端の試料片Qは破棄する。ニードルを退避させる動作に移る(ステップS270)。
【0067】
次に、コンピュータ22は、ニードル18と試料片Qとを接続するデポジション膜DM2を切断して、試料片Qとニードル18を分離する処理を行なう(ステップS260)。コンピュータ22は、上述した図5に示すステップS032の判定結果に応じた先端部加工フラグのオン及びオフに応じて試料片Qとニードル18を分離する。
上記図17は、先端部加工フラグのオフ(OFF)での様子を示しており、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10の集束イオンビームにより得られる画像データにおけるニードル18と試料片Qとを接続するデポジション膜DM2を切断するための切断加工位置T2を示す図である。コンピュータ22は、柱状部34の側面から所定距離(つまり、柱状部34の側面から試料片Qまでの空隙L2と、試料片Qの大きさL3との和)Lと、ニードル18と試料片Qの空隙の所定距離L1(図17参照)の半分との和(L+L1/2)だけ離れた位置を切断加工位置T2に設定する。また、切断加工位置T2を、所定距離Lと、ニードル18と試料片Qの空隙の所定距離L1との和(L+L1)だけ離れた位置としてもよい。
【0068】
コンピュータ22は、所定時間に亘って、切断加工位置T2に集束イオンビームを照射することによって、デポジション膜DM2のみを切断して、ニードル18を切断することなくニードル18を試料片Qから分離する。図18は、この様子を示しており、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10における集束イオンビームの画像データによるニードル18が試料片Qから切り離された状態を示す図である。ニードル先端にはデポジション膜DM2の残渣が付いている。
【0069】
コンピュータ22は、試料片ホルダPとニードル18との導通を検出することによって、ニードル18が試料片Qから切り離されたか否かを判定する(ステップS265)。コンピュータ22は、切断加工の終了後、つまり切断加工位置T2でのニードル18と試料片Qとの間のデポジション膜DM2を切断するために、集束イオンビーム照射を所定時間行なった後であっても、試料片ホルダPとニードル18との導通を検出した場合には、ニードル18が試料台33から切り離されていないと判定する。コンピュータ22は、ニードル18が試料片ホルダPから切り離されていないと判定した場合には、このニードル18と試料片Qとの分離が完了していないことを表示装置21に表示するか、または警報音により操作者に報知する。そして、これ以降の処理の実行を停止する。一方、コンピュータ22は、試料片ホルダPとニードル18との導通を検出しない場合には、ニードル18が試料片Qから切り離されたと判定し、これ以降の処理の実行を継続する。
【0070】
図19は、先端部加工フラグのオン(ON)での様子を示しており、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10の集束イオンビームにより得られる画像データにおけるニードル18と試料片Qとを接続するデポジション膜DM2を切断するための切断加工領域T3を示す図である。コンピュータ22は、上記図5のステップS034にて取得された座標データの総変化量に応じて、例えばニードル18の本体の先端部に蓄積されたデポジション膜DM2等の付着物の少なくとも一部を除去して座標データの総変化量が所定閾値未満になるように、切断加工領域T3を設定する。例えば、柱状部34の側面から第1距離だけ離れた位置に、切断加工領域T3のニードル18側の端部が配置されるように、切断加工領域T3を設定する。第1距離は、所定距離L+L1(図11および図17参照)に、座標データの総変化量を加えた距離である。
図20は、荷電粒子ビーム装置10の集束イオンビームによる所定の先端部加工の前後でのニードル18の先端部を示す図である。図19に示す切断加工領域T3に集束イオンビームが照射されることによって切断加工領域T3でのニードル18の先端部の付着物が除去され、図20に示すように、ニードル18の新たな先端Cが形成される。例えば図20に示すニードル18では、所定の先端部加工の実行前での先端Cから軸方向AXの所定の長さLaに対応する領域が集束イオンビームによって除去されて新たな先端Cが形成される。所定の長さLaは、先端部加工の前後でのニードル18の先端Cが所定位置である場合のニードル駆動機構19の座標データでの軸方向AXの座標の差分に相当する。
コンピュータ22は、ニードル18の先端部に対する所定の先端部加工の実行後には、先端部加工フラグをオン(ON)からオフ(OFF)に切り替える。
【0071】
次に、コンピュータ22は、ニードル退避の処理を行なう(ステップS270)。コンピュータ22は、ニードル駆動機構19によってニードル18を試料片Qから所定距離だけ遠ざける。図21および図22は、この様子を示しており、それぞれ、ニードル18を試料片Qから上方に退避させた状態を、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10の集束イオンビームによる画像の模式図(図21)であり、電子ビームによる画像の模式図(図22)である。
【0072】
次に、コンピュータ22は、ステージ退避の処理を行なう(ステップS280)。このステップS280は、後続するニードル先鋭化に先立ち、ニードル先鋭化加工時に、集束イオンビームがニードル18を照射した際に発生するスパッタ粒子が試料Sに付着したり、ニードル18周辺を通り過ぎた集束イオンビームが試料Sを照射したりして、貴重な試料Sを無駄に損傷させないようにステージ12をニードル先鋭化位置から退避させる動作である。また、ニードル画像とテンプレートのマッチングを確実に行なうためでもある。
【0073】
<ニードルトリミング工程>
図23は、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10による自動試料片作製動作のうちニードル18をトリミングする工程の流れを示すフローチャートである。
ニードルトリミングは、試料片Qから分離したニードル18をサンプリング前のニードル形状に整形することで、先のステップS260でニードル先端に付着しているデポジション膜DM2やそれ以外の付着物の除去、変形したニードル18の整形や先鋭化も含む。
まず、ニードル形状を判定する(ステップS285)。もし、後続する先鋭化加工で再生できないほど大きな変形や破損と判断されると、ニードル18を初期設定位置に戻して(ステップS300)、装置の操作者によってニードル18を新たなニードル18に交換する。
【0074】
コンピュータ22は、集束イオンビームおよび電子ビームの各々の照射によって生成する各画像データを用いて、ニードル駆動機構19と集束イオンビーム照射光学系14を動作させてニードル18の先鋭化を実施する(ステップS290)。
ニードル18の先鋭化(ステップS290)に先立ち、コンピュータ22は、ステップS050で取得したニードルの画像データ(レファレンス画像)や、レファレンス画像から抽出したニードル18の輪郭線をテンプレートとする。
【0075】
コンピュータ22は、作成したテンプレートを基に、ニードル18の先端形状が予め設定した理想的な所定の形状になる加工枠40を定めて、この加工枠40に応じてトリミング加工を行なう。図24は、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10の集束イオンビームによる画像データの模式図であり、ニードル18の先端形状と先端に付着しているデポジション膜DM2を示している。図25は、図24にテンプレートであるステップS080で得たニードル18の画像データを基に、そのニードル18の輪郭から求めたテンプレートに加工枠40を重ねて表示した状態を示している。加工枠40は、例えばニードル18の先端から基端側の部位などを直線的に近似することによって理想的な先端Cとする。
ステップS290では、コンピュータ22は、ニードル駆動機構19の回転機構によってニードル18を中心軸周りに予め定めた角度だけ回転させて、複数の異なる特定の回転位置でトリミング加工を行なう。コンピュータ22は、ニードル駆動機構19の回転機構(図示略)によってニードル18を中心軸周りに回転させたときの少なくとも3点以上の異なる角度でのニードル18の位置を用いて、ニードル18の偏芯軌跡を楕円近似する。コンピュータ22は、ニードル18の偏芯軌跡を用いて、所定角度ごとにニードル18の位置ずれを補正できる。
上述のトリミング加工においても偏心補正を行なうため、回転角度ごとにニードル18の位置ずれを補正され、常に視野内の同じ位置でトリミング加工ができる。
【0076】
次に、コンピュータ22は、加工された先端部が、前記デポジション膜DM2が除去され、テンプレートの先端位置Cと一致して所定の形状になっていることを判断する(ステップS292)。先端部のデポジション膜DM2が除去され、テンプレートの先端位置Cと一致すればトリミング加工は終了と判断し(OK)、次のステップSS298に移る。もし、加工したニードル先端形状が不良であれば(NG)、加工枠40をニードル18の根元方向に予め定めた寸法、例えば、ニードル直径の整数倍、だけ平行移動させ(ステップS293)、再度、ステップS290及びステップS292を実行する。この作業を、加工した先端部が先端位置Cに到達するまで繰り返し、所定の形状になった時にトリミング加工を終了させ、次のステップS298に移る。
【0077】
次に、引き続いて同じ試料Sの異なる場所からサンプリングを継続するか否かの判断を下す(ステップS298)。サンプリングすべき個数の設定は、ステップS010で事前に登録しているため、コンピュータ22はこのデータを確認して次のステップを判断する。継続してサンプリングする場合は、ステップS030に戻り、上述のように後続するステップを続けサンプリング作業を実行し、サンプリングを継続しない場合は、次のステップS300に進む。
【0078】
次に、コンピュータ22は、ニードル駆動機構19によってニードル18を初期設定位置に移動する(ステップS300)。
【0079】
なお、ステップS050のニードルのテンプレート作成は、ステップS298の直後に行ってもよい。これにより、次のサンプリングに備えてのステップで、次のサンプリングの際にステップS050で行う必要がなくなり、工程が簡略化できる。
【0080】
以上により、一連の自動サンプリング動作が終了する。
なお、上述したスタートからエンドまでのフローは一例にすぎず、全体の流れに支障が出なければ、ステップの入れ替えやスキップを行なってもよい。
コンピュータ22は、上述したスタートからエンドまでを連続動作させることで、無人でサンプリング動作を実行させることができる。
【0081】
上述したように、本発明の実施形態の荷電粒子ビーム装置10によれば、ニードル18の見かけ上の先端が所定位置に一致する際に取得するニードル駆動機構19の座標データの総変化量が所定閾値以上である場合に所定の先端部加工を実行するコンピュータ22を備えることによって、ニードル18の先端形状を適正な所定形状に維持することができる。これにより、集束イオンビームによる試料Sの加工によって形成された試料片Qを摘出して試料片ホルダPに移設させるサンプリング動作を自動で連続して実行することができる。
さらに、コンピュータ22は、所定の先端部加工として、試料片Qとニードル18とを分離する際に座標データの総変化量に応じた切断加工領域T3を設定し、切断加工領域T3に集束イオンビームを照射するので、例えばニードル18の先端部を加工するためだけの特別な工程を設ける場合等に比べて、効率の良いサンプリング動作を実行することができる。
さらに、コンピュータ22は、所定の先端部加工によって、少なくともニードル18の先端から軸方向外方での座標データの総変化量を所定閾値未満にするので、ニードル18と試料片Qとを接続する際等において、ニードル18を3次元空間内で適切に(つまり、他の部材又は機器等に接触することなしに)駆動することができる。
【0082】
(変形例)
以下、上述した実施形態の変形例について説明する。
上述した実施形態において、コンピュータ22は、ニードル18を初期設定位置に移動させる際(ステップS030)に、ニードル18の先端が所定位置に一致する場合のニードル駆動機構19の座標データを取得する(ステップS032)としたが、これに限定されない。コンピュータ22は、他のタイミング、例えばニードル駆動機構19によってニードル18を移動させる際にニードル18の先端が所定位置に一致する適宜のタイミングでニードル駆動機構19の座標データを取得してもよい。
【0083】
上述した実施形態において、コンピュータ22は、先端部加工フラグがオン(ON)である場合に座標データの総変化量に応じて設定する切断加工領域T3によってニードル18と試料片Qとを接続するデポジション膜DM2を切断するとしたが、これに限定されない。コンピュータ22は、先端部加工フラグがオン(ON)又はオフ(OFF)に限らず、座標データの総変化量に応じて切断加工領域T3の位置を設定することもできる。また、コンピュータ22は、他のタイミング、例えばニードルトリミング工程のニードル先鋭化(ステップS290)等の適宜のタイミングで座標データの総変化量が所定閾値未満になるように所定の先端部加工を実行してもよい。
例えば、コンピュータ22は、ニードル18と試料片Qとを分離するタイミング以外の他のタイミングとして、ニードル18の先端部の加工のみを単独で行うタイミングを設けてもよい。この場合、コンピュータ22は、例えば、座標データの総変化量と同じ量だけニードル18の先端部をトリミング加工してもよい。
【0084】
上述した実施形態において、ニードル駆動機構19はステージ12と一体に設けられるとしたが、これに限定されない。ニードル駆動機構19は、ステージ12と独立に設けられてもよい。ニードル駆動機構19は、例えば試料室11などに固定されることによって、ステージ12の傾斜駆動などから独立して設けられてもよい。
【0085】
上述した実施形態において、集束イオンビーム照射光学系14は光軸を鉛直方向とし、電子ビーム照射光学系15は光軸を鉛直に対して傾斜した方向としたが、これに限定されない。例えば、集束イオンビーム照射光学系14は光軸を鉛直に対して傾斜した方向とし、電子ビーム照射光学系15は光軸を鉛直方向としてもよい。
【0086】
上述した実施形態において、荷電粒子ビーム照射光学系として集束イオンビーム照射光学系14と電子ビーム照射光学系15の2種のビームが照射できる構成としたが、これに限定されない。例えば、電子ビーム照射光学系15が無く、鉛直方向に設置した集束イオンビーム照射光学系14のみの構成としてもよい。
【0087】
上述した実施形態では、上述のいくつかのステップにおいて、試料片ホルダP、ニードル18、試料片Q等に対して電子ビームと集束イオンビームを異なる方向から照射して、電子ビームによる画像と集束イオンビームによる画像を取得し、試料片ホルダP、ニードル18、試料片Q等の位置や位置関係を把握していたが、集束イオンビーム照射光学系14のみを搭載し、集束イオンビームの画像のみで試料片Qを異なる2方向から観察することによって行なってもよい。
【0088】
上述した実施形態において、コンピュータ22は、自動サンプリングの動作として、ステップS010からステップS300の一連の処理を自動的に実行するとしたが、これに限定されない。コンピュータ22は、ステップS010からステップS300のうちの少なくとも何れか1つの処理を、操作者の手動操作によって実行するように切り替えてもよい。
上述した実施形態において、SIM画像及びSEM画像の各々の画像内にあるニードル18の先端を認識する際に、テンプレートによるマッチングを用いてもよいし、テンプレートを用いずにAI(Artificial Intelligence)による認識を用いてもよい。
【0089】
なお、上記の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
10…荷電粒子ビーム装置、11…試料室、12…ステージ(試料ステージ)、12a…ホルダ固定台、13…ステージ駆動機構、14…集束イオンビーム照射光学系(荷電粒子ビーム照射光学系)、15…電子ビーム照射光学系(荷電粒子ビーム照射光学系)、16…検出器、17…ガス供給部、18…ニードル(試料片移設手段)、19…ニードル駆動機構(試料片移設手段)、20…吸収電流検出器、21…表示装置、22…コンピュータ、23…入力デバイス、33…試料台、34…柱状部、AX…軸方向、P…試料片ホルダ、Q…試料片、R…二次荷電粒子、S…試料、T3…加工領域。
図1
図2
図3
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図11
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