(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】低温荷電粒子試料を取り扱うためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/00 20060101AFI20250121BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20250121BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20250121BHJP
【FI】
G01N1/00 101B
G01N1/28 F
G01N1/28 J
C12M1/34 D
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021187305
(22)【出願日】2021-11-17
【審査請求日】2023-10-24
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ドレジャル ヴォイチェフ
(72)【発明者】
【氏名】ペルズーン ヨハネス アントニウス ヘンドリクス ウィルヘルムス ゲラルドゥス
(72)【発明者】
【氏名】ミッチェルス ジョン
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/119956(WO,A1)
【文献】特表2017-527961(JP,A)
【文献】特表2018-504752(JP,A)
【文献】Tacke, S. et al.,A Versatile High-Vacuum Cryo-transfer System for Cryo-microscopy andAnalytics,Biophysical Journal,NL,ELSEVIER,2016年02月23日,110(4),758-765
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00
G01N 1/28
C12M 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温荷電粒子(CCP)試料取扱いシステムであって、
複数のCCP試料を保管するための貯蔵装置と、
前記貯蔵装置から離れた場所にある荷電粒子装置(CPA)と、
前記貯蔵装置に解放可能に接続可能である移送デバイスであって、前記移送デバイスが、さらに前記CPAに解放可能に接続可能であり、前記移送デバイスが、前記貯蔵装置に接続されたときに前記複数のCCP試料からCCP試料を取得するように構成されており、かつ前記CPAに接続されたときに、前記CCP試料を前記移送デバイスから前記CPAに移送するように構成されている移送デバイスと、を備え
、
前記貯蔵装置が、前記複数のCCP試料を保管するための少なくとも1つのカセットを備え、
前記移送デバイスが、前記カセットから試料を取得するように構成され、
前記移送デバイスが、気体冷媒を充填されるハウジングを有する、
CCP試料取扱いシステム。
【請求項2】
前記移送デバイスは、前記貯蔵装置に接続されたときに、前記貯蔵装置から前記CCP試料を取得し、かつ前記CPAに接続されたときに前記CCP試料を前記CPAに送達するように構成されている移送機構を備える、請求項1に記載のCCP試料取扱いシステム。
【請求項3】
前記移送機構がグリッパを含む、請求項2に記載のCCP試料取扱いシステム。
【請求項4】
前記移送デバイスが、前記貯蔵装置から前記CPAに人間のオペレータによって移送されるように構成されている、請求項1~3いずれか一項に記載のCCP試料取扱いシステム。
【請求項5】
前記貯蔵装置および前記CPAが各々、第1のドッキング部材を備え、前記移送デバイスが、前記第1のドッキング部材と嵌合するように構成されたさらなるドッキング部材を備える、請求項1~4いずれか一項に記載のCCP試料取扱いシステム。
【請求項6】
前記第1のドッキング部材の各々が第1の弁を備え、前記さらなるドッキング部材がさらなる弁を備え、前記弁が取り外された状態では閉じられるように構成されており、前記弁がドッキングされた状態では開放可能であるように構成されている、請求項5に記載のCCP試料取扱いシステム。
【請求項7】
前記貯蔵装置が、極低温貯蔵室を備える、請求項1~6いずれか一項に記載のCCP試料取扱いシステム。
【請求項8】
前記貯蔵装置が、オペレータ入力デバイスと制御ユニットとを備え、前記オペレータ入力デバイスは、人間のオペレータによって移送されるCCP試料を選択するように構成されており、前記制御ユニットは、前記貯蔵装置と、前記選択されたCCP試料を前記貯蔵装置から前記移送デバイスに移送するための前記移送デバイスとを制御するように構成されている、請求項1~
7いずれか一項に記載のCCP試料取扱いシステム。
【請求項9】
請求項1~
8いずれか一項に記載のCCP試料取扱いシステムで使用するための低温荷電粒子(CCP)試料を移送するための移送デバイスであって、前記移送デバイスが、複数のCCP試料を保管するための貯蔵装置に解放可能に接続可能であり、前記移送デバイスがさらに、荷電粒子装置に解放可能に接続可能であり、前記移送デバイスが、前記貯蔵装置に接続されたときに前記複数のCCP試料からCCP試料を取得するように構成されており、前記CPAに接続されたときに前記CCP試料を前記移送デバイスから前記CPAに移送するように構成され
、
前記貯蔵装置が、前記複数のCCP試料を保管するための少なくとも1つのカセットを備え、
前記移送デバイスが、前記カセットから試料を取得するように構成され、
前記移送デバイスが、気体冷媒を充填されるハウジングを有する、
移送デバイス。
【請求項10】
請求項1~
8いずれか一項に記載の低温荷電粒子(CCP)試料取扱いシステムで試料を移送する方法であって、
前記CCP試料取扱いシステムを提供するステップと、
少なくとも1つのCCP試料を前記貯蔵装置に保管するステップと、
前記移送デバイスを前記貯蔵装置に接続するステップと、
前記移送デバイスのハウジングに気体冷媒を充填するステップと、
前記CCP試料を前記貯蔵装置から前記移送デバイスに移送するステップと、
前記移送デバイスを前記貯蔵装置から取り外すステップと、
前記移送デバイスを前記荷電粒子装置(CPA)に移動させるステップであって、前記CPAが、前記貯蔵装置から離れて位置している、移動させるステップと、
前記移送デバイスを前記CPAに接続するステップと、
前記CCP試料を前記移送デバイスから前記CPAに移送するステップと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
概要
本発明は、貯蔵装置、移送デバイス、および荷電粒子顕微鏡(CPM)などの荷電粒子装置(CPA)を含む、低温荷電粒子(CCP)試料を取り扱うためのシステムおよび方法に関する。
【0002】
生物学は、物理的構造、化学的プロセス、分子相互作用、生理学的メカニズム、発現、および進化を含む、生命および生体を研究する自然科学である。
【0003】
細胞生物学は、細胞の構造および機能、すなわち生命の基本単位を研究する生物学の分野である。細胞生物学は、生理学的な特性、代謝プロセス、信号移送経路、ライフサイクル、化学組成、および細胞とそれらの環境との相互作用を主題としている。細胞生物学では、巨大分子間の分子認識が、細胞の中で最も洗練されたプロセスの全てを支配する。最も一般的な巨大分子には、生体高分子(核酸、タンパク質、炭水化物、および脂質)、ならびに大型非高分子(脂質および大環状分子など)が含まれる。
【0004】
多くの研究者が、巨大分子複合体の構造的な力学および相互作用を明らかにするために、巨大分子複合体をそれらの自然環境の中で高解像度で研究することに関心を持っている。この目的のために、荷電粒子顕微鏡を使用することができる。
【0005】
荷電粒子顕微鏡法は、特に電子顕微鏡法(EM)の形態において、微視的な物体を画像化するための、周知の、かつ益々重要となる技術である。歴史的に、電子顕微鏡の基本的な種類は、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、および走査透過電子顕微鏡(STEM)などの数多くの周知の装置類に進化し、ならびにまた、例えば、「機械加工する」集束イオンビーム(FIB)を追加的に使用して、イオンビームミリングまたはイオンビーム誘起蒸着(IBID)を可能にする、いわゆる「デュアルビーム」ツール(例えば、FIB-SEM)などの様々な補助デバイスに進化してきている。当業者ならば、異種の荷電粒子顕微鏡法に精通しているであろう。
【0006】
SEMでは、走査型電子ビームが試料に照射されると、二次電子、後方散乱電子、X線およびカソードルミネッセンス(赤外、可視および/または紫外の光子)の形式で、「補助」放射線の放射が試料から発生する。この放出放射線の1つ以上の成分が検出され、試料分析のために使用され得る。
【0007】
TEMでは、電子ビームを試料に透過させて、ビームが試料を透過したときの試料と電子との相互作用から画像を形成する。この画像を拡大して、蛍光スクリーン、写真フィルムの層、または電荷結合デバイス(CCD)に取り付けられたシンチレータなどのセンサなどの撮像デバイスに焦点を合わせる。シンチレータは、顕微鏡内の一次電子を光子に変換し、CCDがそれを検出できるようにする。
【0008】
EMは、生体試料研究に多くの方法を提供し、従来のTEMは、生体試料の全体的な形態研究に使用され、電子結晶学あるいは単一粒子分析は、タンパク質および高分子複合体の研究に専念され、(低温)電子断層撮影あるいは硝子体切片(CEMOVIS)のCryo-EMは、細胞小器官および分子構造を目指している。Cryo-EMおよびCEMOVISにおいて、試料は、ガラス化技術を使用した急速凍結により保存され、cryo-TEMで観察される。CEMOVISは、試料の凍結切片(cryo-sectioning)が追加され、これは、cryo-FIB技術を使用して実行することができる。
【0009】
分析装置における研究のために生体試料を調製することは、多くの場合、時間がかかり、多くの人手を要する。Cryo-EM検体の調製は、例えば、生体物質(通常は精製タンパク質複合体)の水性試料を採取し、それを支持組織(グリッド)に適用し、それを可能な限り薄い(生体分子のサイズに応じて100~800Å)の層に縮小し、そして、水が結晶化するのを防ぐのに十分な速さでこの層を凍結する。生体試料を調製するこのプロセスの多くの側面には問題がある。
【0010】
Cryo-EM試料を調製したら、後で荷電粒子顕微鏡で使用するために、適切な条件で保管し、取り扱う必要がある。この目的のために、複数のCryo-EM試料を個々のグリッドボックスに保管することができる。これらのグリッドボックスは、円錐形のファルコンチューブに入れて、長期の液体窒素貯蔵デュワーに保管することができる。
【0011】
必要に応じて、ファルコンチューブをデュワーから取り出し、所望の試料に対応する正しいグリッドボックスをファルコンチューブから取り出す。
【0012】
所望の試料を低温電子顕微鏡に入れるために、さまざまな方法を適用することができる。
【0013】
第1の実施形態では、低温移送ホルダを使用することができる。これは、試料を液体窒素温度で透過型電子顕微鏡(TEM)に霜なしで移送するために設計された液体窒素ホルダである。試料はグリッドボックスから取り出され、手動で低温移送ホルダ内に配置される。ついで、低温移送ホルダをTEMに接続することができる。低温移送ホルダは、取得中に試料をTEM内の所定の位置に保持する。顕微鏡への低温ホルダ挿入の失敗率が比較的高いため、TEM内の低温移送ホルダの配置は煩雑であることが証明されている。低温移送ホルダを接続してから20分間、相当な量の試料ドリフトが発生する。さらに、低温移送ホルダは12時間ごとに液体窒素を手動で補充する必要があり、4~5回の挿入後に必要とされる顕微鏡の低温サイクルは4時間と長いため、低温移送ホルダは、TEM内の試料のスループットを制限する。
【0014】
第2の実施形態では、試料は、極低温試料操作ロボットを使用してTEMに装填される。そのような試料操作ロボットは、例えば、Thermo ScientificTMによって販売されている製品AutoLoaderとして知られている。AutoLoaderは、TEMの一部として設置されるモジュールである。試料はAutoLoader Cartridge内に手動で配置される。これらのAutoLoader Cartridgeは、デュワーなどの極低温貯蔵庫に保管される。必要に応じて、Cartridgeはデュワーから取り出され、AutoLoader Module内に配置される。ついで、操作ロボットによってカートリッジから所望の試料が取り出され、操作ロボットが試料をTEM内の試料ホルダに移送する。ついで、TEMを使用して試料を画像化することができる。この既知のシステムは、特に試料移送品質とスクリーニングスループットの点で優れた結果を提供するが、例えば、カートリッジへの試料の装填、複雑さ、設置およびメンテナンスの容易さ、および関連するコストの改善など、他のレベルでは改善の余地がある。
【0015】
したがって、上記から、極低温試料の保管、極低温試料の移送、および荷電粒子顕微鏡または同様の装置での極低温試料の研究のための改善されたユーザ体験を提供する改善された試料貯蔵および取扱いシステムが望まれることになる。
【0016】
この目的のために、本開示は、低温荷電粒子(CCP)試料処理および貯蔵システムを提供する。取扱いおよび保管システムは、例えば、低温電子顕微鏡試料を取扱いおよび保管するように構成され得る。
【0017】
本明細書で定義されるシステムは、複数のCCP試料を保管するための貯蔵装置を含む。貯蔵装置は、極低温条件下で、グリッド上に提供されるCryo-EM試料などのCCP試料を保管するように構成されている。
【0018】
本システムは、貯蔵装置から離れた場所に荷電粒子装置(CPA)をさらに備える。CPAと貯蔵装置との間の距離は、貯蔵装置とCPAとの間で試料を直接移送することが不可能であるような距離である。したがって、システムは、貯蔵装置とCPAとの間で移動可能であるように構成された移送デバイスをさらに備える。
【0019】
移送デバイスは、貯蔵装置に解放可能に接続可能である。これは、移送デバイスを貯蔵装置に接続および切断可能であることを意味する。移送デバイスはさらに、CPAに解放可能に接続可能であり、したがって、移送デバイスは、CPAに接続および切断され得る。移送デバイスの切断状態では、移送デバイスは、貯蔵装置とCPAとの間で移動可能である。移送デバイスの接続状態では、移送デバイスとそれが接続されている装置との間で試料移送が可能である。したがって、移送デバイスは、貯蔵装置に接続されたときに、複数のCCP試料からCCP試料を取得するように構成され得る。さらに、移送デバイスは、CPAに接続されたときに、CCP試料を移送デバイスからCPAに移送するように構成され得る。
【0020】
これにより、単一の移送デバイスを貯蔵装置に接続して試料を取得し、試料とともに移送デバイスをTEMなどのCPAに輸送して、試料をCPAに装填することが可能になる。移送デバイスからCPAへの移送は、CPAの一部である試料ホルダ(すなわち、試料ステージ)への移送を含み得る。
【0021】
したがって、試料の貯蔵および取扱いシステム、特に本明細書で定義される移送デバイスは、極低温条件下で保管される試料を、研究のために、TEMなどの荷電粒子装置に迅速かつ容易に収集することを可能にする。試料の収集(すなわち、貯蔵装置からの取得)、および試料のドロップオフ(すなわち、CPAへの移送)は、半自動で、すなわち、人間のオペレータが実際に試料を取り扱うことなく実施することができる。貯蔵装置からCPAへの移送は、手動で、すなわち、貯蔵装置からCPAへの移送デバイスを運ぶ人間のオペレータによって実施することができる。
【0022】
貯蔵および取扱いシステムは、返送するように構成され得ることに留意されたい。言い換えれば、移送デバイスは、CPAで試料を取得するように、かつ試料を移送デバイスから貯蔵装置に移送するように構成されている。これにより、本明細書で定義されているように、貯蔵および取扱いシステムの多様性が高まる。
【0023】
以上のことから、本明細書に記載の本発明は、Cryo-EM試料などを容易かつ安全に保管し、(Cryo-)TEMなどの荷電粒子装置に移送し、貯蔵装置に戻すことができる、改良された荷電粒子貯蔵および取扱いシステムを提供することになる。したがって、改善された貯蔵および取扱いシステムが得られ、それにより、本明細書で定義される目的が達成される。
【0024】
有利な実施形態を以下に説明する。
【0025】
一実施形態では、システムは、少なくとも1つのさらなるCPAを備える。移送デバイスは、さらなるCPAに解放可能に接続可能であるように構成され、したがって、移送デバイスは、さらなるCPAにも接続および切断され得る。移送デバイスの切断状態では、移送デバイスは、貯蔵装置と、CPAおよび少なくとも1つのさらなるCPAとの間で移動可能である。移送デバイスの接続状態では、移送デバイスと、さらなるCPAなどの、移送デバイスが接続されている装置との間の、試料移送が可能である。したがって、移送デバイスは、さらなるCPAに接続されたときに、CCP試料を移送デバイスからさらなるCPAに移送するように構成され得る。したがって、単一の移送デバイスは、複数のCPAが存在するシステムで使用することができる。貯蔵および取扱いシステムへのこの中心的なアプローチにより、例えば、CPAの各々にAutoLoaderモジュールが装備されている場合のように、複数のCPAの各々が特定の専用移送機構を必要としないことが保証される。このように、システムは建設的に単純であり、したがって比較的安価であり得る。
【0026】
一実施形態では、移送デバイスは、貯蔵装置に接続されたときに、貯蔵装置からCCP試料を取得し、CPAに接続されたときにCCP試料をCPAに送達するように構成された移送機構を備える。移送機構は、システムの装置と移送デバイスとの間の安全で信頼性の高い移送を保証する。貯蔵装置から移送デバイスに試料を移送するために、手作業または手作業による試料取扱いは必要ない。加えて、試料を移送デバイスからCPAに移送するために、手作業や手作業による試料取扱いは必要ない。
【0027】
移送機構は、例えば、グリッパを備え得る。グリッパは、CCP試料、特にcryoーEM試料を把持するように構成され得る。
【0028】
システムで使用されるCCP試料は、EMグリッドを備え得る。これらのグリッド自体は、当業者には既知であり、上部に炭素箔を伴う微細メッシュを備える小さな(数ミリメートル)銅円板を備え得る。グリッドは、他の材料で構成されていてもよい。研究対象の生物学的試料を含む液体マトリックス層を試料グリッドの片側に塗布し、ついで、当業者にそれ自体が知られている極低温冷却プロセスを使用してガラス固化する。ついで、ガラス固化された試料を貯蔵装置に貯蔵することができる。人間のオペレータは、手動で試料を貯蔵装置に装填することができる。一実施形態では、それは、システムで使用される必要がある唯一の直接的な人間の試料操作である。
【0029】
試料を貯蔵装置に手動で装填することは、個々の試料を試料カセットに手動で装填するステップを含み得る。貯蔵装置は、複数のCCP試料の少なくとも一部を保管するための少なくとも1つのカセットを備え得る。人間のオペレータは、所望の試料をそのようなカセットに入れ、ついでカセットを貯蔵装置の中に配置することができる。当然のことながら、その場合、移送デバイスは、カセットから試料を取得するように構成されている。
【0030】
一実施形態では、移送デバイスは、人間のオペレータによって貯蔵装置からCPAに移送されるように構成されている。このように、システムは、装置を互いにごく近くに位置付ける必要なしに、貯蔵装置および(少なくとも1つの)CPAを適切な場所に位置付けることを可能にするので、比較的柔軟性がある。
【0031】
貯蔵装置は、第1の作業ステーションの一部であり得る。第1の作業ステーションは、人間のオペレータが座ったり立ったりできる人間のオペレータデスクを備える。人間のオペレータは、複数の試料を貯蔵装置に手動で貯蔵または取り出すことができる。人間のオペレータは、追加的に、または代替的に、移送デバイスを貯蔵装置に接続することができる。移送デバイスは、その目的のために、第1の作業ステーションの一部にドッキングさせることができる。
【0032】
一実施形態では、貯蔵装置およびCPAは各々、第1のドッキング部材を備え、移送デバイスは、第1のドッキング部材と嵌合するように構成されたさらなる(第2の)ドッキング部材を備える。このようにして、移送デバイスと貯蔵デバイスとの接続を確立し、移送デバイスを貯蔵デバイスから切断し、移送デバイスをCPAに移動し、その後、移送デバイスをCPAに接続して、試料を移送デバイスからCPAへ移送するのは比較的容易である。
【0033】
一実施形態では、第1のドッキング部材の各々は第1の弁を備え、さらなるドッキング部材はさらなる弁を備え、弁は取り外された状態では閉じられるように構成されており、弁はドッキングされた状態では開放可能であるように構成されている。このようにして、極低温条件および/または他の条件(例えば、圧力など)を、貯蔵装置、移送デバイス、およびCPA内で維持することができる。移送デバイスは、ドッキング部材によって貯蔵装置に接続することができ、弁は、移送デバイスの移送空間が貯蔵装置の貯蔵空間に流体的に接続されるように開くことができる。ついで、貯蔵装置と移送デバイスとの流体接続により、試料移送を行うことができる。
【0034】
一実施形態では、貯蔵装置は、極低温貯蔵室を備える。貯蔵室は、移送デバイス、特にその移送空間に流体的に接続することができる。貯蔵室は、移送デバイスの接続状態で、移送空間に直接接続することができる。中間室も設けられる場合がある。その場合、試料移送は、貯蔵室から中間室へと行われ得、ついで、移送は、中間室から移送デバイスへと行われ得る。貯蔵装置はまた、移送機構を備え得る。貯蔵装置移送機構は、移送デバイスの移送機構と協調するように構成され得、その結果、貯蔵装置と移送デバイスとの間の効果的な試料移送が行われ得る。
【0035】
貯蔵装置は、オペレータ入力装置および制御ユニットを備え得る。実施形態では、入力デバイスは、第1の作業ステーションの一部であり得る。オペレータ入力デバイスは、人間のオペレータによって、移送されるCCP試料を選択するように構成され得る。制御ユニットは、特に自動化された様式で、貯蔵装置、および選択されたCCP試料を貯蔵装置から移送デバイスに移送するための移送デバイスを制御するように構成されている。これにより、試料の正しいラベル付けとその後の取扱いが可能になるため、システムの信頼性が向上する。
【0036】
一態様によれば、本明細書で定義されるようなCCP試料取扱いシステムで使用するための複数の低温荷電粒子(CCP)試料を貯蔵するための貯蔵装置が提供される。貯蔵装置は、移送デバイスに解放可能に接続可能であるように、また、複数のCCP試料のうちの試料を、貯蔵装置からその接続状態にある移送デバイスに移送することを可能にするように構成されている。
【0037】
一態様によれば、本明細書で定義されるようなCCP試料取扱いシステムで使用するための低温荷電粒子(CCP)試料を移送するための移送デバイスが提供される。移送デバイスは、複数のCCP試料を保管するための貯蔵装置に解放可能に接続可能であり、また、荷電粒子装置に解放可能に接続可能であり、移送デバイスは、貯蔵装置に接続されたときに、複数のCCP試料からCCP試料を取得するように構成されており、CPAに接続されたときに、CCP試料を移送デバイスからCPAに移送するように構成されている。
【0038】
一態様によれば、本明細書で定義されるような荷電粒子(CCP)試料取扱いシステムで使用するための荷電粒子顕微鏡(CPM)、例えば(Cyo-)TEMなどの荷電粒子装置(CPA)が提供される。CPAは、システムの移送デバイスに解放可能に接続可能であるように、また、試料を移送デバイスからその接続状態にあるCPAに移送することを可能にするように構成されている。
【0039】
一態様によれば、試料を移送するための方法が提供される。本方法は、本明細書で定義されるようなCCP試料取扱いシステムを提供するステップを含む。本実施形態では、本方法は、
-少なくとも1つのCCP試料を前記貯蔵装置に保管するステップと、
-前記移送デバイスを前記貯蔵装置に接続するステップと、
-前記CCP試料を前記貯蔵装置から前記移送デバイスに移送するステップと、
-前記移送デバイスを前記貯蔵装置から取り外すステップと、
-前記移送デバイスを前記荷電粒子装置(CPA)に移動させるステップであって、前記CPAが、前記貯蔵装置から離れて位置している、移動させるステップと、
-移送デバイスをCPAに接続するステップと、
-前記CCP試料を前記移送デバイスから前記CPAに移送するステップと、を含む、方法。
【0040】
本明細書で定義される本方法の利点は、上記で解明されている。有利な実施形態について以下に説明する。
【0041】
試料を移送するステップは、機械的に行うことができる。移送を確立させるために、機械的移送機構を使用することができる。
【0042】
試料を移送するステップは、自動的に実行されてもよい。自動的とは、人間のオペレータによる試料の取扱いおよび/または操作が不要であることを意味する。しかしながら、人間のオペレータは、例えば、ボタン、ダイヤル、ノブなどを使用することによって、または対応するコマンドをグラフィカルユーザインターフェース(GUI)などのユーザインターフェースに入力することによって、試料移送を開始することが考えられる。
【0043】
接続および/または取り外しのステップは、移送デバイスを貯蔵装置またはCPAに物理的に接続する人間のオペレータによって行うことができる。接続および/または取り外しのいくつかの部分は、一実施形態では、弁の開閉などのドッキング機構の使用を必要とし得る。
【0044】
移送デバイスを移動させるステップは、移送デバイスを貯蔵装置および/またはCPAとの間で物理的に移動させる人間のオペレータによって行うことができる。
【0045】
本明細書で定義される方法およびシステムは、安全かつ効果的な試料移送を可能にし、人間のオペレータが関連する装置間で試料を移送するために使用され、より特化した移送機構が移送デバイスから装置への安全かつ信頼できる移送を可能にする。したがって、本明細書で定義されるような目的が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
ここで、本発明は、例示的な実施形態および添付の概略図を基にして詳細に明らかにされるだろう。
【
図1】本発明の第1の実施形態による、荷電粒子顕微鏡の縦断面図を示す。
【
図2】本発明の第2の実施形態による、荷電粒子顕微鏡の縦断面図を示す。
【
図3】従来技術の試料の取扱いおよび貯蔵方法を示している。
【
図4】本明細書で定義される試料の取扱いおよび貯蔵方法および装置の実施形態を示す。
【
図5】本明細書で定義される、試料の取扱いおよび貯蔵方法および装置で使用するための移送デバイスの実施形態を示す。
【
図6】本明細書で定義される試料の取扱いおよび貯蔵方法および装置で使用するための移送デバイスおよび荷電粒子装置の実施形態を示す。
【
図7a】
図7aは、本明細書で定義される低温荷電粒子(CCP)試料取扱いシステムにおいて試料を移送するための方法の様々な段階を示す。
【
図7b】
図7bは、本明細書で定義される低温荷電粒子(CCP)試料取扱いシステムにおいて試料を移送するための方法の様々な段階を示す。
【
図7c】
図7cは、本明細書で定義される低温荷電粒子(CCP)試料取扱いシステムにおいて試料を移送するための方法の様々な段階を示す。
【
図7d】
図7dは、本明細書で定義される低温荷電粒子(CCP)試料取扱いシステムにおいて試料を移送するための方法の様々な段階を示す。
【
図7e】
図7eは、本明細書で定義される低温荷電粒子(CCP)試料取扱いシステムにおいて試料を移送するための方法の様々な段階を示す。
【
図7f】
図7fは、本明細書で定義される低温荷電粒子(CCP)試料取扱いシステムにおいて試料を移送するための方法の様々な段階を示す。
【0047】
図1(縮尺どおりではない)は、荷電粒子顕微鏡Mの実施形態のごく概略的な描写である。より具体的には、この場合、TEM/STEMである、透過型顕微鏡Mの実施形態を示す(ただし、本発明の文脈では、例えば、SEM(
図2参照)またはイオンベース顕微鏡も同様に有効であり得る)。
図1では、真空筐体2内で、電子源4が、電子光学軸B’に沿って伝播し、電子光学照明器6を渡り、試料S(例えば、(局所的に)薄化/平面化され得る)の選択部分に電子を方向付ける/集束させる働きをする、電子ビームBを生み出す。偏向器8もまた図示されており、これは、(とりわけ)ビームBの走査運動をもたらすために使用することができる。
【0048】
試料Sは、ホルダHが(取り外し可能に)装着されたクレードルを移動させる位置付けデバイス/ステージAによって、複数の自由度で位置付けされ得る試料ホルダHに保持され、例えば、試料ホルダHは、(数ある中でも)XY平面で移動され得るフィンガを備え得る(描写のデカルト座標系を参照、通常、Zに平行な運動およびX/Yを中心とする傾斜も可能である)。このような移動により、試料Sの様々な部分が、軸B’に沿って移動する(Z方向に)電子ビームBによって照明/撮像/検査されることが可能になる(かつ/または電子ビーム走査の代替として、走査運動が行われることが可能になる)。所望される場合、任意選択的な冷却デバイス(描写せず)が、試料ホルダHとの密接な熱接触状態にされ、それによって試料ホルダH(およびその上の試料S)を例えば極低温に維持することができる。
【0049】
電子ビームBは、(例えば)2次電子、後方散乱電子、X線、および光放射(カソードルミネッセンス)を含む様々なタイプの「誘導」放射線を試料Sから放出させるように、試料Sと相互作用する。所望される場合、例えば、シンチレータ/光電子増倍管またはEDXもしくはEDS(エネルギー分散型X線分光)モジュールを組み合わせたものであり得る分析デバイス22の助けを借りて、これらの放射線のタイプのうちの1つ以上を検出することができ、このような場合には、SEMと基本的に同じ原理を使用して画像を構築することができる。しかしながら、代替的にまたは補足的に、試料Sを横断(通過)し、試料Sから出射/放出され、軸線B’に沿って(実質的には、とはいえ、概して、ある程度偏向/散乱しながら)伝搬し続ける電子を調査することができる。このような透過電子束は、通常、様々な静電/磁気レンズ、逸らせ板、コレクタ(スティグメータなど)などを備える撮像システム(投射レンズ)24に入る。標準的な(非散乱)TEMモードでは、この撮像システム24は、所望される場合、それを軸B’の道の外に出させるように、引っ込められ/引き出され得る(矢印26’で概略的に示されるように)電子束を蛍光スクリーン26に集めることができる。スクリーン26上に撮像システム24によって、試料Sの(一部の)画像(またはディフラクトグラム)が形成されるようになり、これは、筐体2の壁の好適な部分に位置するビューイングポート28を通して見ることができる。スクリーン26の引き込み機構は、例えば本質的に機械的および/また電気的な機構であり、ここには図示されていない。
【0050】
スクリーン26上の画像を視認することの代替として、代わりに、撮像システム24から出ていく電子束の集束深度が概して極めて深い(例えば、1メートル程度)という事実を利用することができる。その結果、様々な他のタイプの分析装置(以下のような)をスクリーン26の下流で使用することができる。
-TEMカメラ30。カメラ30の位置で、電子束は、静止画像(または、ディフラクトグラム)を形成することができ、静止画像は、コントローラ/プロセッサ20により処理することができ、例えば、フラットパネル表示のような表示デバイス14に表示することができる。必要ではない場合、カメラ30は、後退/回収(矢印30’で概略的に示すように)されて、カメラを軸線B’から外れるようにすることができる。
-STEMカメラ32。カメラ32からの出力は、試料S上のビームBの(X、Y)走査位置の関数として記録することができ、X、Yの関数としてのカメラ32からの出力の「マップ」である画像を構築することができる。カメラ32は、電子顕微鏡画素アレイ検出器(EMPAD)とすることもできるが、カメラ30に特徴的に存在する画素行列とは異なり、例えば、直径が20mmの単一の画素を含むことができる。さらに、カメラ32は、概して、カメラ30(例えば、102画像/秒)よりもはるかに高い取得レート(例えば、106ポイント/秒)を有する。繰り返しになるが、必要ではない場合、カメラ32は、軸B’の邪魔にならないように(このような引っ込めは、例えば、ドーナツ形アニュラーダークフィールドカメラ32の場合は必要ではないと考えられ、このようなカメラでは、カメラが使用されていない場合、中央穴によって、束通路が可能になり得る)、引っ込められ/引き出され得る(矢32’で概略的に示される通りに)。
-カメラ30または32を使用して撮像を行うことの代替として、例えば、EELSモジュールとすることができる分光装置34を呼び出すこともできる。
【0051】
部品30、32、および34の順序/位置は厳密ではなく、多くの可能な変形が考えられることに留意されたい。例えば、分光装置34は、画像化システム24と一体化することもできる。
【0052】
図示の実施形態では、顕微鏡Mは、通常参照番号40で示される、引き込み式X線コンピュータ断層撮影(CT:Computed Tomography)モジュールをさらに備える。コンピュータ断層撮影(断層撮像とも称される)では、電子源および(直径方向に対向する)検出器を使用して、様々な視点からの試料の洞察力のある観察を得るように、様々な視線に沿って試料を調べる。
【0053】
コントローラ(コンピュータプロセッサ)20は、図示される様々な構成要素に、制御線(バス)20’を介して接続されることに留意されたい。このコントローラ20は、アクションを同期させる、設定値を提供する、信号を処理する、計算を実行する、およびメッセージ/情報を表示デバイス(図示せず)に表示するなどの様々な機能を提供することができる。言うまでもなく、(概略的に図示される)コントローラ20は、筐体2の(部分的に)内側でも外側でもよく、所望に応じて、単体構造または複合構造を有することができる。コントローラは、この実施形態に示されるように、本明細書で定義される方法を実行するために構成されたデータ処理装置Pを備える。
【0054】
当業者は、筐体2の内部が厳密な真空状態に保持される必要はないことを理解するであろう。例えば、いわゆる「環境TEM/STEM」では、所与のガスの背景雰囲気が、筐体2内に意図的に導入/維持される。当業者であれば、実際に、可能であれば、採用された電子ビームが透過するが、電子源4、試料ホルダH、スクリーン26、カメラ30、カメラ32、分光装置34などの構造体を収容するように外に広がっている、小型チューブ(例えば、1cm程度の寸法の)の形態を採って、軸B’を基本的に抱え込むように、筐体2の体積を制限するのに好都合であり得ることも理解するであろう。
【0055】
ここで
図2を参照して、荷電粒子装置の別の実施形態が示されている。
図2(縮尺どおりではない)は、荷電粒子顕微鏡Mのごく概略的な描写であり、より具体的には、この場合、SEMである、非透過型顕微鏡Mの実施形態を示す(ただし、本発明の文脈では、例えば、イオンベース顕微鏡も同様に有効であり得る)。図では、
図1の項目に対応する部品は、同一の参照符号を使用して示され、ここでは別個に考察されない。(とりわけ)以下の部品が
図1に加えられる。
-2a:真空ポート、これは、真空室2の内部へ/から項目(構成要素、試料)を導入/除去するように開くことができ、またはそれに加えて、例えば、補助デバイス/モジュールが装着され得る。顕微鏡Mは、所望される場合、複数のこのようなポート2aを備えることができる。
-10a、10b:照明器6における概略的に描写されたレンズ/光学素子。
-12:所望される場合、試料ホルダHまたは少なくとも試料Sが、接地に対してある電位にバイアス(浮遊)されることを可能にする電圧源。
-14:FPDまたはCRTなどのディスプレイ。
-22a、22b:(セグメント化電子検出器22a、中央開口22b(ビームBの通過を可能にする)の周りに配設された複数の独立した検出セグメント(例えば、四分円)を備える。このような検出器は、例えば、試料Sから出てくる出力(二次または後方散乱の)電子の束(の角度依存性)を調査するために使用され得る。
【0056】
ここでも、コントローラ20が存在する。コントローラは、ディスプレイ14に接続され、ディスプレイ14は、本明細書で定義される方法を実行するように配置されたデータ処理装置Pに接続可能であり得る。示される実施形態では、データ処理装置Pは、コントローラの一部を形成せず、顕微鏡Pの一部さえも形成しない別個の構造である。データ処理装置Pは、ローカルまたはクラウドベースであり得、原則として、場所に限定されない。
【0057】
図1および
図2に示す荷電粒子装置、および特に電子顕微鏡(EM)は、生体試料研究に数多くの方法を提供し、従来のTEMは、生体試料の全体的な形態研究に使用され、電子結晶学あるいは単一粒子分析は、タンパク質および高分子複合体の研究に専念され、(低温)電子断層撮影あるいは硝子体切片(CEMOVIS)のCryo-EMは、細胞小器官および分子構造を目指している。
【0058】
冒頭で示したように、これらの生物学的試料は、ガラス固化技術を使用した急速冷凍によって保存することができ、その後、cryo-TEMなどのcryo-EM技術を使用して研究することができる。cryo-FIB技術を使用した試料の低温切開は、試料研究の一部であり得る。
【0059】
これらの研究で使用される試料は、最初に調製してから保管する必要がある。この目的のために、生物学的材料(通常は精製されたタンパク質複合体)の水性試料を採取し、支持構造(グリッド)に適用し、寸法を非常に薄い層に縮小し、ついで、水の結晶化を防止するのに十分な速さでこの層を凍結する。ついで、試料が調製され、さらなる取扱いのために保管される。
【0060】
冒頭に示したように、試料を保管および取り扱うための方法の1つは、いわゆるAutoLoaderに関連する。ここで、
図3を参照して、この先行技術の実施形態について論じる。
図3は、AutoLoader ALおよび関連するNanoCab Nカートリッジを使用して、cryo-TEMなどの荷電粒子顕微鏡Mに輸送するための試料Sを収集するワークフローを示す。AutoLoader ALは顕微鏡Mの一部である。NanoCabには複数の試料Sが装填され、ついで、AutoLoader ALに移送されて、試料がTEMに装填される。
【0061】
図3の一番上の行の左から右にかけて、NanoCab Nの調製が示されている。複数の試料S(すなわち、グリッド上に提供される生物学的標本)がグリッドボックスGに提供される。試料Sを伴うグリッドボックスGは、装填ステーション101に入れられる。装填ステーション101には、液体窒素103が充填され、試料SおよびグリッドボックスGを所望の低温に保つ。カセットCも液体窒素103内に設けられている。試料Sは、グリッドボックスGからカセットCに手動で移送される。カセットが一杯になると、NanocabデバイスNは、装填ステーション101に接続され、カセットは、Nanocab N内に提供される。ここでNanocab Nデバイスは、所望の試料Sを伴うカセットCを含んでおり、試料Sを所望の低温に保つために、Nanocab Nデバイスには、液体窒素が充填されている。そして、カセットCがNanocabデバイスNに導入されたとき、またはその後に、液体窒素が装填ステーションから除去されるので、装填ステーション101は、室温に戻ることができる。
【0062】
図3の下部は、複数の試料Sを伴うカセットCを備えるNanocab NがAutoloader ALモジュールに接続されていることを示している。Autoloader ALモジュールは、顕微鏡に接続されているか、またはその一部である。
【0063】
Autoloader ALモジュールは、カセットアーム113と、試料アーム111とを備える。Autoloader ALハウジングの内部は、所望の低温に保たれており、低温試料を保存するように構成されている。Autoloader ALモジュールは、2つのバルブ要素115、117を備える。第1のバルブ要素115は、接続されたNanocab Nへの接続を提供することができる。第2のバルブ要素117は、顕微鏡Mへの接続を提供することができる。
【0064】
Nanocab Nから顕微鏡Mに試料を装填する手順は次のとおりである。Nanocab Nは、
図3の下部に示すように、AutoloaderALに接続されている。弁115が開かれ、カセットアーム113が下向きに到達して、試料Sを伴うカセットCを把持し、その後、上向きの動きが開始されて、試料アーム111の前で所望の試料Sを移動させる。弁115は、再び閉じることができる。
【0065】
ついで、試料アーム111は、試料Sを収集することができ、その後、カセットアーム113は、残りの試料を伴うカセットCをさらに上方に移動させ、試料アーム111の邪魔にならないようにする。
【0066】
ついで、バルブ117を開くことができ、試料アーム111は、試料を顕微鏡Mの試料ホルダHに向かって移動させる。試料Sが顕微鏡Mに移送されると、試料アーム111は戻ることができ、バルブ117は、再び閉じることができる。ついで、試料の観察または操作を行うことができる。
【0067】
示されているように、この既知のAutoloader ALシステムは、特に試料移送品質とスクリーニングスループットの点で優れた結果を提供する。しかしながら、特に試料の装填、複雑さ、設置およびメンテナンスの容易さ、および関連するコストに関して、このシステムを改善したいという要望がある。
【0068】
この目的のために、本発明は、cryo-EM試料などの低温荷電粒子試料を取扱い、保管するためのシステムを提供する。一般に、本システムは、貯蔵装置と、荷電粒子装置と、低温試料を貯蔵装置から荷電粒子装置に移送するように構成された移送デバイスと、を含む。
【0069】
図4は、貯蔵装置Lの実施形態を示す。
図4の一番上の行は、試料Sが貯蔵装置Lにどのように装填されるかを示す。この目的のために、試料はグリッドボックスG内に提供される。グリッドボックスは、貯蔵装置Lのハウジング201内に配置され、ハウジング201には、液体窒素203が部分的に充填されている。液体窒素203内には、カセットCも提供されている。ついで、試料は、グリッドボックスGからカセットCに手動で移送される(ステップ1)。試料Sが移送されると、カセットCは、貯蔵装置Lのハウジング内に留まる(ステップ2)。例えば、カセットアーム211(
図4の下部を参照)を使用するなどして、貯蔵装置の別個の保管場所(図示せず)に、カセットCを移動させてもよい。
【0070】
図4に示すように、試料Sを伴うカセットCは、貯蔵装置Lのハウジング201内に保管される。この意味で、液体窒素203を伴うハウジング201は、貯蔵装置内に試料を安全に保管するための極低温貯蔵室を提供する。
【0071】
必要な試料が必要な場合は、次の手順に従うことができる。はじめに、本明細書で定義される移送デバイスTが提供され、移送デバイスTは、貯蔵装置Sに接続される。
【0072】
移送デバイスTは、気体窒素303を充填されたハウジング303を備えており、移送される試料Sは、適切な温度で一時的に保管することができる。移送デバイスTは、グリッパ331を伴う移送アーム311を備える。グリッパ331は、試料Sを収集するために使用され得る。そして、試料Sを伴うグリッパは、移送デバイスTのハウジング303内に移動され得る。
【0073】
図4に示す実施形態では、貯蔵装置Lは、弁部材215を備える。移送デバイスTはまた、弁部材315を備える。貯蔵装置は、移送デバイスT(概略的に示されている)の第2のドッキング部材321と嵌合するように構成された第1のドッキング部材221を備える。貯蔵装置は、スロット221を備え得、移送デバイスのハウジング部分321は、移送デバイスTおよび貯蔵装置の接続状態を提供するために、スロット221内にスライドし得る。このようにして、並進ドッキングが提供される。移送デバイスTを貯蔵装置Lに接続する他のドッキング機構または様式も考えられる。移送デバイスTのドッキング部材321が雄コネクタ321として機能し、貯蔵装置Lのドッキング部材221が雌コネクタ221として機能する場合に有利である。
【0074】
移送デバイスTが貯蔵装置Lに接続(またはドッキング)されると、試料Sの移送を行うことができる。移送デバイスTの弁315が開かれ、貯蔵装置215の弁も開かれる。カセットアーム211は、移送デバイスTの移送アーム311に沿って所望の試料Sを位置付ける。移送アーム311は、貯蔵装置Lのハウジング201内を移動し、グリッパ331を使用して、カセットCから試料Sを取り出す。したがって、移送デバイスTは、カセットCから試料Sを取得するように構成されている。ついで、試料Sを伴うグリッパ331は、移送デバイスTのハウジング303の内側に移動される。そして、すべての弁215、315が閉じられる。ついで、移送デバイスTは、貯蔵装置Lから切り離して、荷電粒子装置に移動させることができる。
【0075】
図4には、カセットアーム211を使用して所望の試料Sを位置決めするステップが示されており、人間のオペレータによる取扱いを必要とせずに、機械的に、特に自動的に行われる。人間のオペレータは、ユーザインターフェースを通じて所望の試料を選択することができるが、移動、位置決め、収集、および移送は自動的に行われる。これにより、発生し得るエラーの可能性が制限される。
【0076】
図5は、切断された状態の移送デバイスTを示しており、試料Sは、移送アーム311のグリッパ331に安全に着座している。試料は、ハウジング303の内部に収容され、ハウジングには、試料を所望の低温に保つために気体窒素が充填されている。ハウジング303内の気体冷窒素の熱容量は、移送デバイスが試料を所望の温度範囲で数分間、例えば15分間維持するようなものである。ハウジング331内の試料Sの能動冷却を提供するために、移送デバイスT上または内部に追加の冷却手段を提供してもよい。移送デバイスTは、人間のオペレータによって輸送可能である。移送デバイスTの寸法は、平均的な人間のオペレータが、例えば貯蔵装置Lから荷電粒子顕微鏡Mまでなど、第1の場所から第2の場所に移送デバイスを運ぶことができるように選択される。デバイスは、センチメートル、デシメートル、さらにはメートルのオーダーの長さを有する。実際の実施形態では、デバイスTは、40cm~80cmの間の長さを有するが、他の寸法も考えられる。デバイスTの重量は、1~数キログラムのオーダーであり得る。
【0077】
図6は、顕微鏡Mに接続された移送デバイスTを示している。顕微鏡Mは、移送デバイスTの第2のドッキング部材321と嵌合し得る第1のドッキング部材421を備えている。前述のように、移送デバイスTのドッキング部材321は、移送デバイスTの外部ハウジング部分によって形成され得る。顕微鏡Mは、移送デバイスT、または少なくともその第2のドッキング部材321を受容し得るスロット421を備え得る。
【0078】
顕微鏡Mは、弁部材415を有する。移送デバイスTが顕微鏡M、または一般には荷電粒子装置CPAに接続されると、弁315、415を開くことができ、移送アーム311は、試料Sを顕微鏡MのホルダHに移送するために顕微鏡内を移動することができる。これにより、貯蔵場所から電子顕微鏡Mなどの荷電粒子装置への試料の移送が完了する。
【0079】
移送デバイスTは、顕微鏡Mから取り外すことができ、顕微鏡が第1の試料Sを検査している間に、第2の試料S2の移送が起こり得る。
【0080】
図7a~
図7fは、本明細書で定義される試料取扱いおよび貯蔵システム500を概略的に示す。
【0081】
図7aは、システム500が、複数の試料S、S2を保管するための貯蔵装置Lを備えていることを示している。貯蔵装置Lは、例えば、画面を有する従来のパーソナルコンピュータの形態のユーザ入力デバイス114を備え得る。
【0082】
本システムは、SEM、TEM、STEMおよび/またはFIBなどの荷電粒子装置(CPA)Mをさらに備える。CPA Mは、貯蔵装置Lから離れた場所に位置付けられる。これは、一実施形態では、CPA Mが、貯蔵装置Lから少なくとも50cmの距離に位置付けられることを意味する。例えば、CPAは、貯蔵装置から1~数メートルの距離に位置付けられ得る。事実上、貯蔵装置Lと荷電粒子装置Mとの間の距離は非常に大きいので、貯蔵装置Lから装置Mへの直接移送は不可能であり、中間の移送ステップが必要である。そのようなシステムの利点は、貯蔵装置Lおよび荷電粒子装置が、異なる環境条件を伴う異なる部屋においてさえ、任意の所望の場所に位置付けられ得るので、システムが比較的柔軟であることである。
【0083】
荷電粒子装置CPAと貯蔵装置Lとの間の安全で信頼できる試料移送が可能であることを確実にするために、システム500は、移送デバイスTを備える。移送デバイスTは、人間のオペレータ600によって取り扱うことができる。人間のオペレータ600は、貯蔵装置との間、および荷電粒子装置CPA Mとの間で移送デバイスTを運ぶことができる。
【0084】
ここで
図7bに目を向けると、移送デバイスTは、貯蔵装置Lに解放可能に接続可能であることが示されている。
図4に関して前述したように、移送デバイスは、貯蔵装置Lに接続されたときに複数のCCP試料S、S2からCCP試料Sを取得するように構成されている。この目的のために、例えば、貯蔵装置内に存在するスロットに移送デバイスTを挿入することによって、移送デバイスTが貯蔵装置Lに接続される。ついで、
図4で説明した試料移送を実行することができる。
図7bおよび
図7cに示されるように、試料は、貯蔵装置Lに対する移送デバイスTのドッキング位置で、貯蔵装置Lから移送デバイスTに移動される。一実施形態では、貯蔵装置Lから移送デバイスTの試料移送は、人間のオペレータによる試料の取扱いを必要とせずに、自動的に行われる。
【0085】
試料が移送デバイスT内に入ると、人間のオペレータは、移送デバイスTを貯蔵装置Lから回収することができる。ついで、所望の試料Sを伴う移送デバイスTを、顕微鏡などのさらなる場所に移動させることができる。人間のオペレータ600は、移送デバイスTが人間のオペレータ600によって運ばれるさらなる場所に歩いて行くことができる。
【0086】
ここで
図7eに目を向けると、試料Sを伴う移送デバイスTが顕微鏡M(または一般には荷電粒子装置)に接続されていることが示されている。ついで、移送デバイスTの移送機構は、試料Sを移送デバイスTから顕微鏡Mの試料ホルダHに移送する。
【0087】
ついで、
図1および
図2に関して説明したように、試料を顕微鏡Mによって観察および/または検査することができる。
【0088】
図4~7に示すように、移送デバイスTは、貯蔵装置Lに接続されたときに貯蔵装置LからCCP試料Sを取得し、かつCPAに接続されているときにCCP試料をCPAに送達するように構成された移送機構311、331を備える。このようにして、単一のメカニズムを使用して、2つの外部装置間で試料を移送することができる。装置は、移送機構と協調するように配置されるべきであるが、そのような機構を有する必要はない。さらに、装置は、試料移送を最適化し、移送デバイスの移送機構311、331と連携するために、機械的アーム211、弁215、415などを含む追加の手段を備え得る。
【0089】
一実施形態では、移送機構は可動アーム311を備える。可動アームは、並進運動するように構成することができる。可動アーム311の外端には、グリッパ331を設けてもよく、グリッパ331は、試料、特に、試料グリッド上に設けられた試料を含む試料を把持および解放するように構成されている。試料グリッドは、他のグリッド要素にも接続することができ、これらのグリッド要素は、試料の取扱いを容易にするのに役立つ。グリッド要素は、例えば、試料グリッドを装着することができるCクリップリング(すなわち、AutotGrid、Thermo Fisher ScientificTM)と、Cクリップリング内に試料グリッドを固定するためのCクリップと、を備え得る。当然ながら、他のグリッドも考えられる。
【0090】
図7a~7fに示すように、貯蔵装置Lは、コンピュータの形態のオペレータ入力デバイス114と、オペレータ入力デバイス114に接続され、貯蔵装置Lの少なくともいくつかの機能、または、例えば、移送デバイスTの貯蔵装置Lへの接続状態にあるシステム500の少なくともいくつかの機能を実行するように構成された制御ユニット220と、を備える。オペレータ入力装置は、一実施形態では、人間のオペレータ600によって、貯蔵装置から帯電粒子顕微鏡Mに移送されるCCP試料S、S2を選択するように構成されている。制御ユニット220は、貯蔵装置L、およびその接続状態で、選択されたCCP試料Sを貯蔵装置Lから移送デバイスTへ移送するための移送デバイスTを制御するように構成されている。
【0091】
オペレータ入力デバイス114を含む貯蔵装置Lは、第1のワークステーションを形成することができ、これにより、人間のオペレータは、調製された試料を貯蔵装置Lに迅速かつ確実に移送することができる。貯蔵装置Lのハウジング201の上部は、ワークステーションのデスク機能と一致し得る。ハウジング201の上部、および/またはワークステーションのデスク機能は、人間のオペレータによって開閉可能な蓋を備え得、それにより、試料Sを含むグリッドボックスG(
図4、ステップ1を参照)を貯蔵装置Lに挿入することができ、試料グリッドSを容器Cに移送することができる。蓋は、ハウジング201内の液体窒素レベル203を補充するために使用することもできる。オペレータ入力デバイスおよび/またはコントローラは、ハウジング201に接続され得、その結果、ハウジング201に関連する情報が、人間のオペレータに提供され得る。例えば、貯蔵装置は、貯蔵装置の状態を監視するための、温度センサ、液面センサなどのようないくつかのセンサ要素を備え得る。オペレータ入力デバイス114は、これらの条件のうちの1つ以上に関してユーザにフィードバックを提供することができる。
【0092】
さらに、オペレータ入力デバイス114は、特徴のラベル付けおよび追跡のために使用されることが考えられる。一実施形態では、オペレータ入力デバイス114は、荷電粒子装置に無線で接続することができ、その結果、試料Sに関する情報を荷電粒子装置に移送することができる。情報は、試料入力情報、例えば、試料SをカセットCに装填するときに、人間のオペレータがオペレータ入力デバイス114に入力する情報を含み得る。
【0093】
上記で、本システムを、例示的な実施形態を使用してより詳細に説明してきた。所望の保護は、添付の特許請求の範囲によって付与される。