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特許7622432生体材料の保存、前処理、分析のための容器及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】生体材料の保存、前処理、分析のための容器及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20250121BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
G01N33/48 E
G01N33/68
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020556149
(86)(22)【出願日】2019-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2019044605
(87)【国際公開番号】W WO2020100957
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2018213960
(32)【優先日】2018-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】大塚 敬一朗
(72)【発明者】
【氏名】濱田 聡志
(72)【発明者】
【氏名】庄子 武明
(72)【発明者】
【氏名】永榮 慧
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 宏之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康平
(72)【発明者】
【氏名】的場 一隆
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-031121(JP,A)
【文献】国際公開第2017/217336(WO,A1)
【文献】特開2018-169349(JP,A)
【文献】国際公開第2014/196650(WO,A1)
【文献】特開2008-191067(JP,A)
【文献】特開2007-063459(JP,A)
【文献】特開2006-158961(JP,A)
【文献】国際公開第00/039582(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48,33/68,
G01N 1/28,
A01N 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質分解酵素により断片化されたタンパク質及び/又はペプチドの測定用容器であって、
下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化1】

(式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)
を含むコーティングを、容器の表面の少なくとも一部に備える、容器。
【請求項2】
上記共重合体が、さらに下記式(c):
【化2】

[式中、
は、炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至15のアラルキル基又は炭素原子数7乃至15のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表す]
で表される基を含む繰り返し単位を含む、請求項1に記載の容器。
【請求項3】
上記断片化されたタンパク質及び/又はペプチドが、質量分析に供する生体試料に含まれるものである、請求項1又は2に記載の容器。
【請求項4】
タンパク質分解酵素によるタンパク質及び/又はペプチドの断片化処理用容器であって、下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化3】

(式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)
を含むコーティングを、容器の表面の少なくとも一部に備える、容器。
【請求項5】
上記共重合体が、さらに下記式(c):
【化4】

[式中、
は、炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至15のアラルキル基又は炭素原子数7乃至15のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表す]
で表される基を含む繰り返し単位を含む、請求項4に記載の容器。
【請求項6】
タンパク質分解酵素により断片化されたタンパク質及び/又はペプチドの分析方法であって、
分析対象であるタンパク質及び/又はペプチドを含む試料を準備すること、
下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化5】

(式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)
を含むコーティングを、表面の少なくとも一部に備える容器で、前記試料中のタンパク質及び/又はペプチドのタンパク質分解酵素による断片化処理を実施すること、及び
前記試料中の断片化処理されたタンパク質及び/又はペプチドを測定機器に供すること
を含む、方法。
【請求項7】
溶液中の、タンパク質分解酵素により断片化されたタンパク質及び/又はペプチドの絶対量を測定する方法であって、
下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化6】

(式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)
を含むコーティングを、容器の表面の少なくとも一部に備える容器に、上記断片化されたタンパク質及び/又はペプチドを含む溶液を収容する工程、次いで上記断片化されたタンパク質及び/又はペプチドの絶対量を測定する工程を含む、方法。
【請求項8】
上記タンパク質及び/又はペプチドが、抗体又はアミロイドである、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料に含まれるバイオマーカーの試料損失を低減するための、生体試料の保存用容器に関し、特に、生体試料に含まれる微量のバイオマーカーの付着を抑制し、試料損失を低減するコーティングを備える、生体試料の保存用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
血液や尿などの生体試料に含まれる、ペプチド、タンパク質、内在性代謝物又は遺伝子などの生体物質で、疾患の変化や治療に対する反応に相関し、指標となるものをバイオマーカーという。バイオマーカーには、その目的に応じて、診断マーカー、予後マーカー、予測マーカー、モニタリングマーカー、安全性マーカーなどが知られている。近年、特にがんの診断、治療において、腫瘍マーカーの量を測定することで、がんの存在や進行度、治療の効果の指標の一つとする取り組みがなされている。
【0003】
生体試料に含まれるバイオマーカーは、一般的には微量であるが、その量は疾患の存在や進行度、治療に対する反応に相関し増減する。したがって、バイオマーカーを適切に評価するためには、液体クロマトグラフィー/質量分析計(LC-MS)のような微量成分の高感度分析を可能とする機器を用いて、正確にかつ精度高く測定する必要がある。そのような測定のためには、生体試料を測定する機器や方法の要件と共に、測定する試料の品質に関する要件もまた重要となる。例えば、被験者から採取された生体試料は測定に付されるまでの間、通常、ガラス又はプラスチック製のチューブなどの保存用容器で保管されるが、バイオマーカーであるタンパク質や内在性代謝物が容器の内部表面に吸着し、試料損失を起こし、バイオマーカーの適切な評価に影響を及ぼすという問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、従来、プラズマ処理又はコロナ放電処理により、あるいは光架橋性超親水性ポリマーによる表面処理により、その内部表面を親水性に改質して、バイオマーカーを含むタンパク質や内在性代謝物の吸着を抑制し、試料損失を低減した生体試料の保存用容器が提案されている。
【0005】
本発明者らは、様々な生体物質の付着抑制能を有するコーティング材料として期待されているリン酸エステル基を有するポリマーに注目し、検討を重ねた。その結果、特定のアニオン性基とカチオン性基を含む共重合体を含むコーティング剤が、基体の種類を選ばず強固に固着することができ、また固着後は水系溶媒への耐性に優れたコーティング膜となり、且つ優れた生体物質(例えば、血小板やフィブリノゲン等)の付着抑制能を示すことを報告した(例えば、特許文献1、2参照)。また、同コーティング剤でコーティングされていることを特徴とする細胞培養容器が、細胞の付着抑制能に優れると共に、溶媒や放射線への耐性にも優れることを報告した(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2014/196650号
【文献】国際公開第2016/093293号
【文献】国際公開第2014/196652号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生体試料の保存用容器に付されるコーティングには、細胞の付着抑制能や、水系溶媒や放射線への耐性だけでなく、生体試料に含まれる微量のバイオマーカーであるタンパク質や内在性代謝物などの付着抑制能を有することが、試料損失を低減させ、正確にかつ精度高い分析を可能とする点から望ましい。しかしながら、これらを併せ持つコーティングを備える生体試料の保存用容器は報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定のアニオン構造と、特定のカチオン構造と、場合により特定の疎水性構造とを含む共重合体を含むコーティングを、容器の表面の少なくとも一部に備える生体試料の保存用容器が、優れた細胞の付着抑制能や、水系溶媒や放射線への耐性だけでなく、生体試料に含まれる微量のバイオマーカーに対しても優れた付着抑制能を有し、試料損失を低減でき、ひいてはバイオマーカーを適切に評価できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は以下のとおりである。
【0009】
[1] 生体試料に含まれるバイオマーカーの試料損失を低減するための、生体試料の保存用容器であって、
下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化1】

(式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)
を含むコーティングを、容器の表面の少なくとも一部に備える、生体試料の保存用容器。
【0010】
[2] 上記共重合体が、さらに下記式(c):
【化2】

[式中、
は、炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至15のアラルキル基又は炭素原子数7乃至15のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表す]
で表される基を含む繰り返し単位を含む、[1]に記載の容器。
【0011】
[3] 上記バイオマーカーが、抗体又はアミロイドである、[1]又は[2]に記載の容器。
【0012】
[4] ペプチドの保存用容器であって、
下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化3】

(式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)
を含むコーティングを、容器の表面の少なくとも一部に備える、ペプチドの保存用容器。
【0013】
[5] ペプチドが、質量分析に供する生体試料に含まれるものである、[4]に記載のペプチドの保存用容器。
【0014】
[6] タンパク質及び/又はペプチドの断片化処理用容器であって、下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化4】

(式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)
を含むコーティングを、容器の表面の少なくとも一部に備える、タンパク質及び/又はペプチドの断片化処理用容器。
【0015】
[7] 断片化されたタンパク質及び/又はペプチドの分析方法であって、
分析対象であるタンパク質及び/又はペプチドを含む試料を準備すること、
下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化5】

(式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)
を含むコーティングを、表面の少なくとも一部に備える容器で、前記試料中のタンパク質及び/又はペプチドの断片化処理を実施すること、及び
前記試料中の断片化処理されたタンパク質及び/又はペプチドを測定機器に供すること
を含む、方法。
【0016】
[8] 溶液中のバイオマーカーの絶対量を測定する方法であって、
下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【化6】

(式中、
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す)
を含むコーティングを、容器の表面の少なくとも一部に備える、生体試料の保存用容器に、生体試料に含まれるバイオマーカーを含む溶液を収容及び/又は保存する工程、次いでバイオマーカーの絶対量を測定する工程を含む、方法。
【0017】
[9] 上記バイオマーカーが、抗体又はアミロイドである、[7]に記載の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の生体試料の保存用容器は、生体試料に含まれる微量のバイオマーカーであるタンパク質や内在性代謝物などに対して優れた付着抑制能を有し、試料損失を低減できるコーティング、特には、式(a)で表されるアニオン性基と、式(b)で表されるカチオン性基と、場合により式(c)で表される疎水性基とを含む共重合体を含むコーティングを、容器の表面の少なくとも一部に備える、好ましくは容器の表面の全体にわたってコーティングすることにより、生体試料に含まれる微量のバイオマーカーの容器への付着を抑制することができる。また、コーティング中の該カチオン性基及びアニオン性基がイオン結合(イオンコンプレックス)を形成することで、ガラス、繊維、無機粒子又は樹脂(合成樹脂及び天然樹脂)等、容器の基材の種類を選ばず固着することができ、さらに固着後は水系溶媒(水、リン酸緩衝液(PBS)、アルコール等)への耐性に優れたコーティングとなる。すなわち、本発明により、その保存中に、生体試料に含まれる微量のバイオマーカーの保存用容器表面への付着が抑制され、試料損失を低減させ、正確にかつ精度高い分析が可能となる、優れた生体試料の保存用容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】試験例1において、生体試料の凍結保存用の容器、HPLC測定のための前処理用の容器及びHPLC測定用バイアルとして、実施例1でコーティングされたPP製チューブ及びバイアルを用いた試験例、未コーティングのPP製チューブ及びバイアルを用いた比較例1、並びに市販のコーティングチューブ及びバイアル(プロテオセーブ(登録商標))を用いた比較例2のHPLC測定の結果、試料中の特定の8種のペプチドのマスクロマトグラムの面積の総和を比較した結果を示したグラフである。
図2】試験例1において、生体試料の凍結保存用の容器、HPLC測定のための前処理用の容器及びHPLC測定用バイアルとして、実施例1でコーティングされたPP製チューブ及びバイアルを用いた試験例、生体試料の凍結保存用の容器以外は未コーティングのPP製チューブ及びバイアルを用いた比較例3、並びに生体試料の凍結保存用の容器以外は市販のコーティングチューブ及びバイアル(プロテオセーブ(登録商標))を用いた比較例4のHPLC測定の結果、試料中の特定の8種のペプチドのマスクロマトグラムの面積の総和を比較した結果を示したグラフである。
図3】試験例2において、各種濃度の生体試料の凍結保存用の容器として、実施例1でコーティングされたPP製チューブを用いた試験例、未コーティングのPP製チューブ用いた比較例5、及び市販のコーティングチューブ(プロテオセーブ(登録商標))を用いた比較例6のHPLC測定の結果、試料中の特定の3種のペプチドのマスクロマトグラムの面積の総和を比較した結果を示したグラフである。
図4】試験例3の希釈操作(10倍希釈3回)において、希釈容器として実施例2で得られたPP製バイアルを用いた試験例3と、未コーティングのPP製バイアルを用いた比較例7のHPLC-質量分析(SIM測定)の結果、試料中のAβ42の面積値を比較したグラフである。
図5】試験例3の希釈操作(10倍希釈5回)において、希釈容器として実施例2で得られたPP製バイアルを用いた試験例3と、未コーティングのPP製バイアルを用いた比較例7のHPLC-質量分析(SIM測定)の結果、試料中のAβ42の面積値を比較したグラフである。
図6】試験例3の希釈操作(10倍希釈5回)後のサンプルの、さらに4℃での保管において、希釈容器として実施例2で得られたPP製バイアルを用いた試験例3と、未コーティングのPP製バイアルを用いた比較例7の、6時間後と15時間後のHPLC-質量分析(SIM測定)の結果、試料中のAβ42の面積値を比較したグラフである。
図7】試験例4において、希釈容器及びHPLC測定バイアルとして実施例2で得られたPP製チューブ及びPP製バイアルを用いた試験例4;希釈容器として実施例2で得られたPP製チューブ、HPLC測定バイアルとして未コーティングのPP製バイアルを用いた比較例8;希釈容器として未コーティングのPP製チューブ、HPLC測定バイアルとして実施例2で得られたPP製バイアルを用いた比較例9;並びに希釈容器及びHPLC測定バイアルとして未コーティングのPP製チューブ及びPP製バイアル用いた比較例10のHPLC-質量分析(SIM測定)の結果、試料中のAβ42の面積値を比較したグラフである。
図8】希釈容器及びHPLC測定バイアルとして実施例2で得られたPP製チューブ及びPP製バイアルを用いた試験例5のHPLC-質量分析(SIM測定)の結果、得られた試料中のAβ40の面積値を、HPLC測定バイアルとして(株)島津ジーエルシー製の低吸着PP製バイアルを用いた比較例11;未コーティングのPP製バイアルを用いた比較例12;並びにウォーターズ社製のPP製バイアル用いた比較例13のHPLC-質量分析(SIM測定)の結果、得られた試料中のAβ40の面積値と比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
≪用語の説明≫
本発明において用いられる用語は、他に特に断りのない限り、以下の定義を有する。
【0021】
本発明において、「ハロゲン原子」は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。
【0022】
本発明において、「アルキル基」は、直鎖若しくは分岐の、飽和脂肪族炭化水素の1価の基を意味する。「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基又は1-エチルプロピル基が挙げられる。「炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基の例に加え、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基又はオクタデシル基、あるいはそれらの異性体が挙げられる。同様に「炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキル基」としては、「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」の例に加え、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、あるいはそれらの異性体が挙げられる。
【0023】
本発明において、「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」は、上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を意味するか、あるいは1以上の上記ハロゲン原子で置換された上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を意味する。「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」の例は、上記のとおりである。一方「1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」は、上記炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基の1以上の任意の水素原子が、ハロゲン原子で置き換えられているものを意味し、例としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロブチル基、又はペルフルオロペンチル基等が挙げられる。
【0024】
本発明において、「エステル結合」は、-C(=O)-O-若しくは-O-C(=O)-を意味し、「アミド結合」は、-NHC(=O)-若しくは-C(=O)NH-を意味し、「エーテル結合」は、-O-を意味する。
【0025】
本発明において、「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」は、炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基、あるいは1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を意味する。ここで、「アルキレン基」は、上記アルキル基に対応する2価の有機基を意味する。「炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、1-メチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、ジメチルエチレン基、エチルエチレン基、ペンタメチレン基、1-メチル-テトラメチレン基、2-メチル-テトラメチレン基、1,1-ジメチル-トリメチレン基、1,2-ジメチル-トリメチレン基、2,2-ジメチル-トリメチレン基、1-エチル-トリメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基及びデカメチレン基等が挙げられ、これらの中で、エチレン基、プロピレン基、オクタメチレン基及びデカメチレン基が好ましく、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等の炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基がより好ましく、特にエチレン基又はプロピレン基が好ましい。「1以上のハロゲン原子で置換された炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基」は、上記アルキレン基の1以上の任意の水素原子が、ハロゲン原子で置き換えられているものを意味し、特に、エチレン基又はプロピレン基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置き換えられているものが好ましい。
【0026】
本発明において、「炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基」は、炭素原子数3乃至10の、単環式若しくは多環式の、飽和若しくは部分不飽和の、脂肪族炭化水素の1価の基を意味する。この中でも、炭素原子数3乃至10の、単環式若しくは二環式の、飽和脂肪族炭化水素の1価の基が好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基又はシクロヘキシル基等の炭素原子数3乃至10のシクロアルキル基、あるいはビシクロ[3.2.1]オクチル基、ボルニル基、イソボルニル基等の炭素原子数4乃至10のビシクロアルキル基が挙げられる。
【0027】
本発明において、「炭素原子数6乃至10のアリール基」は、炭素原子数6乃至10の、単環式若しくは多環式の、芳香族炭化水素の1価の基を意味し、例えば、フェニル基、ナフチル基又はアントリル基等が挙げられる。「炭素原子数6乃至10のアリール基」は、1以上の上記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」で置換されていてもよい。
【0028】
本発明において、「炭素原子数7乃至15のアラルキル基」は、基-R-R’(ここで、Rは、上記「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基」を表し、R’は、上記「炭素原子数6乃至10のアリール基」を表す)を意味し、例えば、ベンジル基、フェネチル基、又はα-メチルベンジル基等が挙げられる。「炭素原子数7乃至15のアラルキル基」のアリール部分は、1以上の上記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」で置換されていてもよい。
【0029】
本発明において、「炭素原子数7乃至15のアリールオキシアルキル基」は、基-R-O-R’(ここで、Rは、上記「炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基」を表し、R’は、上記「炭素原子数6乃至10のアリール基」を表す)を意味し、例えば、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基、又はフェノキシプロピル基等が挙げられる。「炭素原子数7乃至15のアリールオキシアルキル基」のアリール部分は、1以上の上記「ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基」で置換されていてもよい。
【0030】
本発明において、「ハロゲン化物イオン」とは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオンを意味する。
本発明において、「無機酸イオン」とは、炭酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオン又はホウ酸イオンを意味する。
上記Anとして好ましいのは、ハロゲン化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンであり、特に好ましいのはハロゲン化物イオンである。
【0031】
本発明において、(メタ)アクリレート化合物とは、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の両方を意味する。例えば(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸を意味する。
また、本発明において、「アニオン」又は「アニオン性基」とは、陰イオン又は陰イオン性基を意味し、水中で解離して陰イオン又は陰イオン性基になり得るものも含む。同様に、本発明において、「カチオン」又は「カチオン性基」とは、陽イオン又は陽イオン性基を意味し、水中で解離して陽イオン又は陽イオン性基になり得るものも含む。
【0032】
≪本発明の説明≫
本発明の生体試料の保存用容器は、生体試料に含まれる微量のバイオマーカーの付着を抑制し、試料損失を低減するコーティングを備える。
【0033】
<生体試料>
本発明における生体試料は、ヒト、動物又は植物から採取される、尿、血液(全血、血清、血漿など)、組織(正常組織、腫瘍組織、病態組織など)、脳脊髄液、滑膜液などが挙げられ、バイオマーカーとなり得るペプチド、タンパク質、内在性代謝物又は遺伝子などの生体物質を含むものであれば、特に限定はない。
【0034】
<バイオマーカー>
本発明におけるバイオマーカーは、正常な又は病的な状態の生体試料に含まれる、ペプチド、タンパク質、内在性代謝物又は遺伝子などの生体物質であって、疾患の変化や治療に対する反応に相関し、指標となるものを意味する。例えば、腫瘍マーカーのような抗原、アミロイドやプリオンのような病原性ペプチド又はタンパク質、あるいは抗体等が挙げられる。
ペプチドバイオマーカー、タンパク質バイオマーカーとしては、Aβ16、Aβ28、Aβ38、Aβ40、Aβ42、Aβ43、APP、α‐Synuclein、a2-Macroglobulin、Acrp-30、Ang-1、Ang-2、Apo A-1、Apo B-100、AR、BAFF、BCA-1 (CXCL13)、b-NGF、BDNF、BD-2、BMP-9、Cathepsin-D、CA 19-9、CA-125、Cathepsin S、CD-14、CD40L、CEA、c-MET、Clusterin、CNTF、COX-2、C-peptide、CRP、Eotaxin / CXCL11、E-Cadherin、EGF、EGFR、ENA-78、Endoglin、Eotaxin、Eotaxin 3、ER (Epiregulin)、ErbB2 (Her2)、E-Selectin、FasL、FGF basic、Fibrinogen、Fibronectin、G-CSF、GDNF、GFAP、GM-CSF、gp130 (IL-6ST)、GROa、GROg、HB-EGF、HE4 / WFDC2、HGF、HGH、HIV p24、I-309、ICAM-1、IFNα、IFNγ、IGFBP-1、IGFBP-2、IGFBP-3、IgE、IL-1a、IL-1b、IL-1ra、IL-2、IL-2Ra、IL-2Rg、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-6R、IL-7、IL-8、IL-10、IL-12p40、IL-12p70、IL-13、IL-15、IL-17A、IL-17E、IL-18、IL-22 (Total)、IL-23、IL-28A、IL-33、IL-36β、Insulin、IP-10、ITAC、KGF、Leptin、LIF、L-Selectin、Lymphotactin、MCP-1、MCP-2、MCP-3、MCP-4、M-CSF、MDC、MIF、MIG、MIP-1a、MIP-1b、MIP-3a、MIP-3b、MIP-4 (PARC)、MMP-1、MMP-2、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MMP-10、MMP-13、MPO、NAP-2、pNF-heavy、NF-light(登録商標)、NGAL、NSE、NT3、NT-proBNP、OPG、OPN、PAI-1 Active、PAI-1 Total、PAPP-A、PD-1、PD-L1、PDGF-AA、PDGF-AB、PDGF-BB、PEDF、PlGF、PLGF、Prolactin、PSA、P-Selectin、RAGE、RANK L、RANTES、RBP4、Resistin、SAA、SCF、SDF-1、TARC、Tau、P-Tau 231、TDP-43、TFF-3、TGFα、TGFβ、Tie-2、TIM-1、TIMP-1、TIMP-2、TNFα、TNFβ、TNF-RI、TNF-RII、TRAIL、Troponin-I、TSLP、TSP-1、TSP-2、TWEAK、UCH-L1、VCAM-1、VEGF-A、VEGF-C、VEGF-D、VEGF-R1、VEGF-R2、VEGF-R3が具体例として挙げられる。
【0035】
本発明において、「生体試料に含まれるバイオマーカーの試料損失を低減する」とは、後述する実施例(例えば、試験例1)に記載された方法にて行うHPLC測定にて、本発明に係るコーティングを備える保存用容器で保存した生体試料に含まれる所定の成分のマスクロマトグラムの面積の総和と、比較例1に示したような、未コーティングの保存用容器で保存した生体試料に含まれる所定の成分のマスクロマトグラムの面積の総和とを比較した場合の試料損失の割合(%)((コーティング容器の面積の総和)/(未コーティング容器の面積の総和)×100)が50%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下であることを意味する。
【0036】
<コーティング>
本発明の生体試料の保存用容器が、その容器の表面の少なくとも少なくとも一部に備えるコーティングに含まれるポリマーは、下記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、下記式(b)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体:
【0037】
【化7】
【0038】
[式中、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表す]である。
【0039】
また共重合体は、さらに下記式(c):
【化8】

[式中、Rは、炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至15のアラルキル基又は炭素原子数7乃至15のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表す]
で表される基を含む繰り返し単位を含んでもよい。
【0040】
本発明の生体試料の保存用容器に係わる共重合体は、上記式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、上記式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、場合により上記式(c)で表される基を含む繰り返し単位を含む共重合体であれば特に制限は無い。なお、本発明において、上記式(c)で表される基を含む繰り返し単位は、上記式(a)で表される基を含む繰り返し単位及び上記式(b)で表される基を含む繰り返し単位とは異なる。該共重合体は、上記式(a)で表される基を含むモノマーと、上記式(b)で表される基を含むモノマーと、場合により上記式(c)で表される基を含むモノマーとをラジカル重合して得られたものが望ましいが、重縮合、重付加反応させたものも使用できる。共重合体の例としては、オレフィンが反応したビニル重合ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン等が挙げられるが、これらの中でも特にオレフィンが反応したビニル重合ポリマー又は(メタ)アクリレート化合物を重合させた(メタ)アクリルポリマーが望ましい。
【0041】
共重合体中における式(a)で表される基を含む繰り返し単位の割合は、3モル%乃至80モル%である。なお、共重合体は、2種以上の式(a)で表される基を含む繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0042】
共重合体中における式(b)で表される基を含む繰り返し単位の割合は、3モル%乃至80モル%である。なお、共重合体は、2種以上の式(b)で表される基を含む繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0043】
共重合体中における式(c)で表される基を含む繰り返し単位の割合は、全共重合体に対して上記式(a)及び(b)を差し引いた残部であってもよいが、例えば0モル%乃至90モル%である。なお、共重合体は、2種以上の式(c)で表される基を含む繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0044】
本発明の生体試料の保存用容器に係わる共重合体の好ましい一実施態様は、下記式(a1)及び(b1)の繰り返し単位を含む共重合体である。
【0045】
【化9】
【0046】
式中、T及びTは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Q及びQは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し、Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し、mは、0乃至6の整数を表す。
【0047】
共重合体は、さらに下記式(c1)の繰り返し単位を含んでもよい。
【0048】
【化10】
【0049】
式中、Tは、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、Qは、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し、Rは、炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至15のアラルキル基又は炭素原子数7乃至15のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表す。
【0050】
式(a1)において、mは0乃至6の整数を表すが、好ましくは1乃至6の整数を表し、より好ましくは1乃至5の整数を表し、特に好ましくは1である。
【0051】
共重合体中に含まれる式(a1)で表される繰り返し単位の割合は、3モル%乃至80モル%である。なお、共重合体は、2種以上の式(a1)で表される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0052】
共重合体に含まれる式(b1)で表される繰り返し単位の割合は、3モル%乃至80モル%である。なお、共重合体は、2種以上の式(b1)で表される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0053】
共重合体に含まれる式(c1)で表される繰り返し単位の割合は、全共重合体に対して上記式(a1)及び式(b1)を差し引いた残部であってもよいが、例えば0モル%乃至90モル%である。なお、共重合体は、2種以上の式(c1)で表される繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0054】
本発明の生体試料の保存用容器に係わる共重合体の好ましい別の実施態様は、下記式(A)及び(B):
【0055】
【化11】
【0056】
[式中、
及びTは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
及びQは、それぞれ独立して、単結合、エステル結合又はアミド結合を表し;
及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し;
a1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
Anは、ハロゲン化物イオン、無機酸イオン、水酸化物イオン及びイソチオシアネートイオンからなる群から選ばれる陰イオンを表し;
mは、0乃至6の整数を表す]
で表される化合物を含むモノマー混合物を、溶媒中にて反応(重合)させることにより得られる共重合体である。
【0057】
共重合体は、さらに下記式(C):
【0058】
【化12】
【0059】
[式中、
は、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し;
は、単結合、エーテル結合又はエステル結合を表し;
は、炭素原子数1乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素原子数3乃至10の脂環式炭化水素基、炭素原子数6乃至10のアリール基、炭素原子数7乃至15のアラルキル基又は炭素原子数7乃至15のアリールオキシアルキル基(ここで、前記アリール部分は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基で置換されていてもよい)を表す]
で表わされる化合物を含むモノマー混合物より得られる共重合体であってよい。
【0060】
、T及びTとしては、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。Q、Q及びQとしては、単結合又はエステル結合が好ましく、エステル結合がより好ましい。R及びRとしては、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基又はプロピレン基がより好ましい。Rとしては、炭素原子数4乃至18の直鎖若しくは分岐アルキル基又は炭素原子数3乃至10のシクロアルキル基が好ましく、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基若しくはそれらの異性体、又はシクロヘキシル基がより好ましい。Ua1、Ua2、Ub1、Ub2及びUb3としては、水素原子、メチル基、エチル基又はt-ブチル基が好ましく、式(a)のUa1及びUa2としては、水素原子がより好ましく、式(b)のUb1、Ub2及びUb3としては、水素原子、メチル基、エチル基又はt-ブチル基がより好ましい。
【0061】
上記式(A)の具体例としては、ビニルホスホン酸、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシメチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられるが、この中でもビニルホスホン酸、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(=リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル)又はアシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレートが好ましく用いられ、最も好ましいのはアシッドホスホオキシエチルメタクリレート(=リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル)である。
【0062】
ビニルホスホン酸、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(=リン酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル)、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート及びアシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートの構造式は、それぞれ下記式(A-1)乃至式(A-4)で表される。
【0063】
【化13】
【0064】
これらの化合物は、合成時において、後述する一般式(D)又は(E)で表されるような、2つの官能基を有する(メタ)アクリレート化合物を含む場合がある。
【0065】
上記式(B)の具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、2-(t-ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、メタクリロイルコリンクロリド等が挙げられるが、この中でもジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メタクリロイルコリンクロリド又は2-(t-ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレートが好ましく用いられ、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが最も好ましく用いられる。
【0066】
ジメチルアミノエチルアクリレート(=アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル)、ジエチルアミノエチルメタクリレート(=メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル)、ジメチルアミノエチルメタクリレート(=メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル)、メタクリロイルコリンクロリド及び2-(t-ブチルアミノ)エチルメタクリレート(=メタクリル酸2-(t-ブチルアミノ)エチル)の構造式は、それぞれ下記式(B-1)乃至式(B-5)で表される。
【0067】
【化14】
【0068】
上記式(C)の具体例としては、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の直鎖若しくは分岐アルキルエステル類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の環状アルキルエステル類;ベンジル(メタ)アクリレート、フェネチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のアラルキルエステル類;スチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン系モノマー;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系モノマーが挙げられる。この中でもブチル(メタ)アクリレート又はシクロヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0069】
ブチルメタクリレート(=メタクリル酸ブチル)及びシクロヘキシルメタクリレート(=メタクリル酸シクロヘキシル)の構造式は、それぞれ下記式(C-1)及び式(C-2)で表される。
【0070】
【化15】
【0071】
本発明に係わる共重合体の別の実施態様では、上記式(A)、(B)及び場合により(C)で表される化合物に加えて、さらに任意の第4成分が共重合していてもよい。例えば、第4成分として2以上の官能基を有する(メタ)アクリレート化合物が共重合しており、ポリマーの一部が部分的に3次元架橋していてもよい。そのような第4成分として、例えば、下記式(D)又は(E):
【0072】
【化16】
【0073】
[式中、T、T及びUは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基を表し、R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基を表し;nは、1乃至6の整数を表す]で表される2官能性モノマーが挙げられる。すなわち本発明に係わる共重合体は、好ましくは、このような2官能性モノマーから誘導される架橋構造を含むものである。
【0074】
式(D)及び(E)において、T及びTは、好ましくは、それぞれ独立して、水素原子、メチル基又はエチル基であり、より好ましくは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基である。
【0075】
式(E)において、Uは、好ましくは、水素原子、メチル基又はエチル基であり、より好ましくは、水素原子である。
【0076】
式(D)において、Rは、好ましくは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至3の直鎖若しくは分岐アルキレン基であり、より好ましくは、それぞれ独立して、エチレン基若しくはプロピレン基であるか、あるいは1つの塩素原子で置換されたエチレン基若しくはプロピレン基であり、特に好ましくは、エチレン基若しくはプロピレン基である。また式(D)において、nは、好ましくは、1乃至5の整数を表し、特に好ましくは1である。
【0077】
式(E)において、Rは、好ましくは、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素原子数1乃至3の直鎖若しくは分岐アルキレン基であり、より好ましくは、それぞれ独立して、エチレン基若しくはプロピレン基であるか、あるいは1つの塩素原子で置換されたエチレン基若しくはプロピレン基であり、特に好ましくは、エチレン基若しくはプロピレン基である。また式(E)において、nは、好ましくは、1乃至5の整数を表し、特に好ましくは1である。
【0078】
式(D)で表される2官能性モノマーは、好ましくは、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
式(E)で表される2官能性モノマーは、好ましくは、リン酸ビス(メタクリロイルオキシメチル)、リン酸ビス[(2-メタクリロイルオキシ)エチル]、リン酸ビス[3-(メタクリロイルオキシ)プロピル]、あるいは上記式(A-3)又は(A-4)由来の2官能性モノマーが挙げられる。
式(D)と式(E)の中では、式(E)で表される2官能性モノマーがより好ましく用いられる。
【0079】
また、3官能(メタ)アクリレート化合物としては、トリアクリル酸ホスフィニリジントリス(オキシ-2,1-エタンジイル)が挙げられる。
【0080】
これら第4成分の中でも、特に、エチレングリコールジメタクリレート、上記式(A-3)及び(A-4)由来の2官能性モノマーのうち、エチレングリコール及びプロピレングリコールの繰り返し単位を有するジメタクリレート、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]、並びに上記式(A-3)及び(A-4)由来の2官能性モノマーのうち、リン酸エステル基を介してエチレングリコール及びプロピレングリコールの繰り返し単位を有するジメタクリレートが好ましく、その構造式は、それぞれ、下記式(D-1)乃至(D-3)及び式(E-1)乃至(E-3)で表される。
【0081】
【化17】
【0082】
これらの中でも、式(E-1)乃至(E-3)が特に好ましい。
【0083】
共重合体には、これらの第4成分の1種又は2種以上が含まれていてもよい。
上記共重合体中における第4成分、例えば、上記式(D)又は(E)で表される2官能性モノマーから誘導される架橋構造の割合は、0モル%乃至50モル%であり、好ましくは5モル%乃至45モル%であり、最も好ましくは10モル%乃至40モル%である。
【0084】
式(A)で表される化合物の、上記共重合体を形成するモノマー全体に対する割合は、3モル%乃至80モル%である。また、式(A)で表される化合物は、2種以上であってもよい。
式(B)で表される化合物の、上記共重合体を形成するモノマー全体に対する割合は、3モル%乃至80モル%である。また、式(B)で表される化合物は、2種以上であってもよい。
【0085】
式(C)で表される化合物の、上記共重合体を形成するモノマー全体に対する割合は、上記式(A)及び(B)の割合を差し引いた残部であってもよいが、例えば0モル%乃至90モル%である。また、式(C)で表される化合物は、2種以上であってもよい。
【0086】
本発明に係る共重合体は、さらに任意の第5成分として、エチレン性不飽和モノマー、又は多糖類若しくはその誘導体が共重合していてもよい。エチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリル酸及びそのエステル;酢酸ビニル;ビニルピロリドン;エチレン;ビニルアルコール;並びにそれらの親水性の官能性誘導体からなる群より選択される1種又は2種以上のエチレン性不飽和モノマーを挙げることができる。多糖類又はその誘導体の例としては、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロース)等のセルロース系高分子、デンプン、デキストラン、カードランを挙げることができる。
【0087】
親水性の官能性誘導体の親水性官能性基の例としては、リン酸、ホスホン酸及びそれらのエステル構造;ベタイン構造;アミド構造;アルキレングリコール残基;アミノ基;並びにスルフィニル基等が挙げられる。
【0088】
ここで、リン酸及びそのエステル構造は、下記式:
【化18】

[ここで、R11、R12及びR13は、互いに独立して、水素原子又は有機基(例えば、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基等)である]
で表される基を意味し、ホスホン酸及びそのエステル構造は、下記式:
【化19】

[ここで、R14及びR15は、互いに独立して、水素原子又は有機基(例えば、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、ビニルホスホン酸等を挙げることができる。
【0089】
ベタイン構造は、第4級アンモニウム型の陽イオン構造と、酸性の陰イオン構造との両性中心を持つ化合物の一価又は二価の基を意味し、例えば、ホスホリルコリン基:
【化20】

を挙げることができる。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)等を挙げることができる。
【0090】
アミド構造は、下記式:
【化21】

[ここで、R16、R17及びR18は、互いに独立して、水素原子又は有機基(例えば、メチル基、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、(メタ)アクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。さらに、そのような構造を有するモノマー又はポリマーは、例えば、特開2010-169604号公報等に開示されている。
【0091】
アルキレングリコール残基は、アルキレングリコール(HO-Alk-OH;ここでAlkは、炭素原子数1乃至10の直鎖若しくは分岐アルキレン基である)の片側端末又は両端末の水酸基が他の化合物と縮合反応した後に残るアルキレンオキシ基(-Alk-O-)を意味し、アルキレンオキシ単位が繰り返されるポリ(アルキレンオキシ)基も包含する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。さらに、そのような構造を有するモノマー又はポリマーは、例えば、特開2008-533489号公報等に開示されている。
【0092】
アミノ基は、式:-NH、-NHR19又は-NR2021[ここで、R19、R20及びR21は、互いに独立して、有機基(例えば、炭素原子数1乃至5の直鎖若しくは分岐アルキル基等)である]で表される基を意味する。本明細書におけるアミノ基には、4級化又は塩化されたアミノ基を包含する。そのような構造を有するエチレン性不飽和モノマーの例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-(t-ブチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、メタクリロイルコリンクロリド等を挙げることができる。
【0093】
スルフィニル基は、下記式:
【化22】

[ここで、R22は、有機基(例えば、炭素原子数1乃至10の有機基、好ましくは、1個以上のヒドロキシ基を有する炭素原子数1乃至10のアルキル基等)である]
で表される基を意味する。そのような構造を有するポリマーとして、特開2014-48278号公報等に開示された共重合体を挙げることができる。
【0094】
<共重合体の製造方法>
本発明に係わる共重合体は、一般的なアクリルポリマー又はメタクリルポリマー等の合成方法であるラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合等の方法により合成することができる。その形態は溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等、種々の方法が可能である。
【0095】
重合反応における溶媒としては、水、リン酸緩衝液又はエタノール等のアルコール又はこれらを組み合わせた混合溶媒でもよいが、水又はエタノールを含むことが望ましい。さらには水又はエタノールを10質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを50質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを80質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。さらには水又はエタノールを90質量%以上100質量%以下含むことが好ましい。好ましくは水とエタノールの合計が100質量%である。
【0096】
反応濃度としては、例えば上記式(A)又は式(B)で表される化合物の反応溶媒中の濃度を、0.01質量%乃至4質量%とすることが好ましい。濃度が4質量%超であると、例えば式(A)で表されるリン酸基の有する強い会合性により共重合体が反応溶媒中でゲル化してしまう場合がある。濃度0.01質量%未満では、得られたワニスの濃度が低すぎるため、十分な膜厚のコーティング膜を得るためのコーティング剤の作成が困難である。濃度が、0.01質量%乃至3質量%、例えば3質量%、2質量%又は1質量%であることがより好ましい。
【0097】
また本発明に係わる共重合体の合成においては、例えば下記式(1)に記載の塩とした後、場合により式(C)で表される化合物と共に重合して共重合体を作製してもよい。
【0098】
【化23】
【0099】
リン酸基含有モノマーは会合し易いモノマーのため、反応系中に滴下されたとき、速やかに分散できるように反応溶媒中に少量ずつ滴下してもよい。
【0100】
さらに、反応溶媒はモノマー及びポリマーの溶解性を上げるために加温(例えば40℃乃至100℃)してもよい。
【0101】
重合反応を効率的に進めるためには、重合開始剤を使用することが望ましい。重合開始剤の例としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製;VA-065、10時間半減期温度;51℃)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](和光純薬工業(株)製;VA-086、10時間半減期温度;86℃)、過酸化ベンゾイル(BPO)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n-水和物(和光純薬工業(株)製;VA-057、10時間半減期温度;57℃)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタノイックアシド)(和光純薬工業(株)製;V-501)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド(和光純薬工業(株)製;VA-044、10時間半減期温度;44℃)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジスルファートジヒドレート(和光純薬工業(株)製;VA-046B、10時間半減期温度;46℃)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](和光純薬工業(株)製;VA-061、10時間半減期温度;61℃)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド(和光純薬工業(株)製;V-50、10時間半減期温度;56℃)、ペルオキソ二硫酸又はt-ブチルヒドロペルオキシド等が用いられる。
水への溶解性、イオンバランス及びモノマーとの相互作用を考慮した場合、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n-水和物、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタノイックアシッド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジスルファートジヒドレート、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロリド及びペルオキソ二硫酸から選ばれることが好ましい。
有機溶媒への溶解性、イオンバランス及びモノマーとの相互作用を考慮した場合、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)又は2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)を用いることが望ましい。
【0102】
重合開始剤の添加量としては、重合に用いられるモノマーの合計重量に対し、0.05質量%乃至10質量%である。
【0103】
反応条件は反応容器をオイルバス等で50℃乃至200℃に加熱し、1時間乃至48時間、より好ましくは80℃乃至150℃、5時間乃至30時間攪拌を行うことで、重合反応が進み本発明の共重合体が得られる。反応雰囲気は窒素雰囲気が好ましい。
【0104】
反応手順としては、全反応物質を室温の反応溶媒に全て入れてから、上記温度に加熱して重合させてもよいし、あらかじめ加温した溶媒中に、反応物質の混合物全部又は一部を少々ずつ滴下してもよい。
【0105】
後者の反応手順によれば、本発明の共重合体は、上記式(A)、(B)及び場合により(C)で表される化合物、溶媒及び重合開始剤を含む混合物を、重合開始剤の10時間半減期温度より高い温度に保持した溶媒に滴下し、反応(重合)させる工程を含む製造方法により調製することができる。
【0106】
本発明に係わる共重合体の分子量は数千から数百万程度であれば良く、好ましくは5,000乃至5,000,000である。さらに好ましくは、10,000乃至2,000,000、最も好ましくは5,000乃至1,000,000である。また、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでも良く、該共重合体を製造するための共重合反応それ自体には特別の制限はなく、ラジカル重合やイオン重合や光重合、乳化重合を利用した重合等の公知の溶液中で合成される方法を使用できる。これらは目的の用途によって、本発明の共重合体のうちいずれかを単独使用することもできるし、複数の共重合体を混合し、且つその比率は変えて使用することもできる。
【0107】
本発明に係わる生体試料の保存用容器にコーティングを形成するために用いられるコーティング剤は、所望の共重合体を、場合により所望の溶媒にて所定の濃度に希釈することにより調製してもよい。
【0108】
そのような溶媒としては、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アルコールが挙げられる。アルコールとしては、炭素数2乃至6のアルコール、例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール(=ネオペンチルアルコール)、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール(=t-アミルアルコール)、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-3-ペンタノール、シクロペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンタノール及びシクロヘキサノールが挙げられ、単独で又はそれらの組み合わせの混合溶媒を用いてもよいが、共重合体の溶解の観点から、水、PBS、エタノール、プロパノール、及びそれらの混合溶媒から選ばれるのが好ましく、水、エタノール、及びそれらの混合溶媒から選ばれるのがより好ましい。
【0109】
さらにコーティング剤は、共重合体含有ワニスから調製してもよい。共重合体含有ワニスは、例えば、上記式(A)、(B)及び場合により(C)で表される化合物を、溶媒中で、化合物の合計濃度0.01質量%乃至20質量%にて反応(重合)させる工程を含む製造方法により調製することができる。
【0110】
コーティング剤中の固形分の濃度としては、均一にコーティング膜を形成させるために、0.01乃至50質量%が望ましい。また、コーティング剤中の共重合体の濃度としては、好ましくは0.01乃至4質量%、より好ましくは0.01乃至3質量%、特に好ましくは0.01乃至2質量%、さらに好ましくは0.01乃至1質量%である。共重合体の濃度が0.01質量%未満であると、コーティング剤中の共重合体の濃度が低すぎて十分な膜厚のコーティング膜が形成できず、4質量%超であると、コーティング剤の保存安定性が悪くなり、溶解物の析出やゲル化が起こる可能性がある。
【0111】
さらにコーティング剤は、上記共重合体と溶媒の他に、必要に応じて得られるコーティング膜の性能を損ねない範囲で他の物質を添加することもできる。他の物質としては、防腐剤、界面活性剤、基材との密着性を高めるプライマー、防カビ剤及び糖類等が挙げられる。
【0112】
コーティング剤中の共重合体のイオンバランスを調節するために、さらにコーティング剤中のpHを予め調整する工程を含んでいてもよい。pH調整は、例えば上記共重合体と溶媒を含む組成物にpH調整剤を添加し、該組成物のpHを2以上、好ましくは2乃至9、より好ましくは2.5乃至8.5、さらに好ましくは3乃至8とすることにより実施してもよい。使用しうるpH調整剤の種類及びその量は、上記共重合体の濃度や、そのアニオンとカチオンの存在比等に応じて適宜選択される。
pH調整剤の例としては、アンモニア、ジエタノールアミン、ピリジン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の有機アミン;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物;塩化カリウム、塩化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物;硫酸、リン酸、塩酸、炭酸等の無機酸又はそのアルカリ金属塩;コリン等の4級アンモニウムカチオン、あるいはこれらの混合物(例えば、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液)を挙げることができる。これらの中でも、アンモニア、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、コリン、N-メチル-D-グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが好ましく、特にアンモニア、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム及びコリンが好ましい。
【0113】
本発明の生体試料の保存用容器は、上記コーティング剤より形成されたコーティングを、保存用容器の表面の少なくとも一部に有する。具体的には、バイオマーカーを含む生体試料と接触し得る、容器の内部及び/又は外部の表面の少なくとも一部に有する。
【0114】
<容器>
本発明の生体試料の保存用容器を構成する、共重合体がコーティングされる容器は、当技術分野で使用され得る任意の形態の容器類であればよく、例えば、生体試料の保存に一般的に用いられるペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ等のディッシュ/シャーレ類、細胞培養フラスコ、スピナーフラスコ等のフラスコ類、プラスチックバッグ、テフロン(登録商標)バッグ、培養バッグ等のバッグ類、スクリューバイアル等のバイアル類、培養チューブ、遠心チューブ、マイクロチューブ等のチューブ類、トレイ、ローラーボトル等が挙げられる。好ましくは、バイアル類及びチューブ類が挙げられる。
【0115】
また、容器の材質は、例えば、ガラス、金属、金属含有化合物若しくは半金属含有化合物、活性炭又は樹脂を挙げることができる。金属は、典型金属:(アルカリ金属:Li、Na、K、Rb、Cs;アルカリ土類金属:Ca、Sr、Ba、Ra)、マグネシウム族元素:Be、Mg、Zn、Cd、Hg;アルミニウム族元素:Al、Ga、In;希土類元素:Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu;スズ族元素:Ti、Zr、Sn、Hf、Pb、Th;鉄族元素:Fe、Co、Ni;土酸元素:V、Nb、Ta、クロム族元素:Cr、Mo、W、U;マンガン族元素:Mn、Re;貴金属:Cu、Ag、Au;白金族元素:Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等が挙げられる。金属含有化合物若しくは半金属含有化合物は、例えば基本成分が金属酸化物で、高温での熱処理によって焼き固めた焼結体であるセラミックス、シリコンのような半導体、金属酸化物若しくは半金属酸化物(シリコン酸化物、アルミナ等)、金属炭化物若しくは半金属炭化物、金属窒化物若しくは半金属窒化物(シリコン窒化物等)、金属ホウ化物若しくは半金属ホウ化物等の無機化合物の成形体等の無機固体材料、アルミニウム、ニッケルチタン、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)が挙げられる。
【0116】
樹脂としては、天然樹脂若しくはその誘導体、又は合成樹脂いずれでもよく、天然樹脂若しくはその誘導体としては、セルロース、三酢酸セルロース(CTA)、ニトロセルロース(NC)、デキストラン硫酸を固定化したセルロース等、合成樹脂としてはポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)、ポリスチレン(PS)、ポリスルホン(PSF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン(PU)、エチレンビニルアルコール(EVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)又はテフロン(登録商標)が好ましく用いられる。本発明の生体試料の保存用容器の製造では、共重合体を、該容器の表面の少なくとも一部に存在するようにコーティングする際に、高温での処理を要しないため、耐熱性が低い樹脂等も適用可能である。
【0117】
容器の材質は1種類であっても2種類以上の組み合わせであってもよい。これらの材質の中において、ガラス、シリコン、シリコン酸化物、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、テフロン(登録商標)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)若しくはステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)単独、又はこれらから選ばれる組み合わせであることが好ましく、ガラス、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ステンレス(SUS304、SUS316、SUS316L等)であることが特に好ましい。
【0118】
<生体試料の保存用容器の製法方法>
本発明は、上述したようなコーティング剤を、容器の表面の少なくとも一部と接触させる工程を含む、容器の部表面の少なくとも一部にコーティングを備える生体試料の保存用容器の製造方法に関する。コーティング剤と容器の表面との接触には特に制限は無いが、容器をコーティング剤に浸漬する、コーティング剤を容器に添加し、所定の時間静置する、又はコーティング剤を容器の表面に塗布する等の方法が用いられるが、コーティング剤を容器に添加し、所定の時間静置する方法が好ましい。添加は、例えば、容器の全容積の0.5乃至1倍量のコーティング剤を、シリンジ等を用いて添加することによって行うことができる。静置は、容器の材質やコーティング剤の種類に応じて、時間や温度を適宜選択して実施されるが、例えば、5分から24時間、好ましくは30分から3時間、10乃至35℃、好ましくは20乃至30℃、最も好ましくは25℃で実施される。これにより、容器の表面の少なくとも一部に、好ましくは全体にわたって、コーティングを有する生体試料の保存用容器を製造することができる。
【0119】
また、かかる方法により得られる容器の表面のコーティングは、コーティング剤を上記容器の表面の少なくとも一部と接触させる工程後、好ましくはコーティング剤を添加し、所定の時間静置する工程後、過剰のコーティング剤が残存する場合には容器から除去し、乾燥工程を経ずにそのまま、あるいは水又は保存に付される試料の媒質(例えば、水、緩衝液、培地等)を用いての洗浄後に、生体試料の保存用容器として使用することができる。
すなわち、上記容器の表面の少なくとも一部と接触させる工程後、好ましくはコーティング剤を添加し、所定の時間静置する工程後、48時間以内、好ましくは24時間以内、さらに好ましくは12時間以内、さらに好ましくは6時間以内、さらに好ましくは3時間以内、さらに好ましくは1時間以内に、過剰のコーティング剤が残存する場合には容器から除去し、乾燥工程を経ずにそのまま、あるいは水又は保存に付される試料の媒質(例えば、水、緩衝液、培地等、特に好ましくは培地(例えば、DMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地))を用いての洗浄後に、生体試料の保存用容器として使用することができる。
【0120】
容器は、乾燥工程に付してもよい。乾燥工程は、大気下又は真空下にて、好ましくは、温度-200℃乃至200℃未満の範囲内で行なう。乾燥工程により、上記コーティング剤中の溶媒を取り除くと共に、本発明に係わる共重合体の式(a)及び式(b)同士がイオン結合を形成して基体へ完全に固着する。
コーティングは、例えば室温(10℃乃至35℃、好ましくは20℃乃至30℃、例えば25℃)での乾燥でも形成することができるが、より迅速にコーティングを形成させるために、例えば40℃乃至50℃にて乾燥させてもよい。またフリーズドライ法による極低温乃至低温(-200℃乃至-30℃前後)での乾燥工程を用いてもよい。フリーズドライは真空凍結乾燥と呼ばれ、通常乾燥させたいものを冷媒で冷却し、真空状態にて溶媒を昇華により除く方法である。フリーズドライで用いられる一般的な冷媒は、ドライアイスとメタノールの混合媒体(-78℃)、液体窒素(-196℃)等が挙げられる。
【0121】
乾燥温度が-200℃未満であると、一般的ではない冷媒を使用しなければならず汎用性に欠けることと、溶媒昇華のために乾燥に長時間を要し効率が悪い。乾燥温度が200℃以上であると、コーティング表面のイオン結合反応が進みすぎて該表面が親水性を失い、バイオマーカーの付着抑制能が発揮されない。より好ましい乾燥温度は10℃乃至180℃、より好ましい乾燥温度は25℃乃至150℃である。
本願のコーティングは、以上の簡便な工程を経て製造される。
【0122】
また、コーティングに残存する不純物、未反応モノマー等を無くすため、さらにはコーティング中の共重合体のイオンバランスを調節するために、水及び電解質を含む水溶液から選ばれる少なくとも1種の溶媒で洗浄する工程を実施してもよい。洗浄は、流水洗浄又は超音波洗浄等が望ましい。上記水及び電解質を含む水溶液は例えば40℃乃至95℃の範囲で加温されたものでもよい。電解質を含む水溶液は、PBS、生理食塩水(塩化ナトリウムのみを含むもの)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、HEPES緩衝生理食塩水及びベロナール緩衝生理食塩水が好ましく、PBSが特に好ましい。固着後は水、PBS及びアルコール等で洗浄してもコーティング膜は溶出せずに基体に強固に固着したままである。形成されたコーティングは細胞又はタンパク質が付着してもその後水洗等にて容易に除去することができ、本発明のコーティングが形成された容器の表面は、バイオマーカーの付着抑制能を有する。
【0123】
本発明の容器の表面に付与されるコーティングの膜厚は、容器の形状や、試料の種類等に応じて適宜調整でき、また容器の表面全体にわたってほぼ均一であっても、部分的に不均一であってもよいが、特に限定はなく、好ましくは10乃至1000Åであり、さらに好ましくは10乃至500Åであり、最も好ましくは10乃至300Åである。
【0124】
<その他の実施態様>
本発明はまた、ペプチドの保存用容器であって、該容器の表面に、式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、場合により式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体を含むコーティングを、容器の表面の少なくとも一部に備える、ペプチドの保存用容器に関する。かかる保存用容器における、共重合体、コーティング及び容器等の意味は、上述のとおりである。またペプチドは、質量分析に供する生体試料に含まれるものであることが好ましい。
【0125】
本発明はまた、タンパク質及び/又はペプチドの断片化処理用容器であって、該容器の表面に、式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、場合により式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体を含むコーティングを、容器の表面の少なくとも一部に備える、タンパク質及び/又はペプチドの断片化処理用容器に関する。かかる処理容器における、共重合体、コーティング及び容器等の意味は、上述のとおりである。断片化処理とは、タンパク質やペプチドを、トリプシンなどのタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)などで処理し、より分子量の小さい断片(=ペプチド)に分解すること意味する。タンパク質及び/又はペプチド試料をプロテアーゼで断片化処理し、生じた多くのペプチドを含む試料は、質量分析に供することができる。
【0126】
本発明はまた、断片化されたタンパク質及び/又はペプチドの分析方法であって、分析対象であるタンパク質及び/又はペプチドを含む試料を準備すること、式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、場合により式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体を含むコーティングを、表面の少なくとも一部に備える容器で、前記試料中のタンパク質及び/又はペプチドの断片化処理を実施すること、及び前記試料中の断片化処理されたタンパク質及び/又はペプチドを測定機器に供することを含む方法に関する。かかる方法における、共重合体、コーティング及び容器等の意味は、上述のとおりである。本発明の断片化されたタンパク質及び/又はペプチドの分析方法において、特定のコーティングを備える容器で分析対象であるタンパク質及び/又はペプチドの断片化処理を実施することにより、断片化されたペプチドの処理容器表面への付着が抑制され、試料損失を低減させ、正確にかつ精度高い分析が可能となることから、シークエンスの一致率が向上する。
【0127】
本発明はまた、溶液中のバイオマーカーの絶対量を測定する方法であって、分析対象であるバイオマーカーを含む試料を準備する工程、式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、場合により式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体を含むコーティングを、表面の少なくとも一部に備える生体試料の保存用容器に、生体試料に含まれるバイオマーカーを含む溶液を収容及び/又は保存する工程、次いでバイオマーカーの絶対量を測定する工程を含む方法、である。かかる方法における、共重合体、コーティング及び容器等の意味は、上述のとおりである。
上記試料を測定前に希釈等の前処理に付す場合は、前処理用容器も、上記共重合体を含むコーティングを、表面の少なくとも一部に備えることが好ましい。希釈処理を複数回実施する場合は、その全ての前処理用容器が、上記共重合体を含むコーティングを表面の少なくとも一部に備えることが好ましい。
上記の方法により、上記バイオマーカーを含む試料中のバイオマーカーの欠損量を低く抑えることができ、試料中のバイオマーカーの絶対量を正確に測定することが可能になる。上記試料中にバイオマーカーが複数存在する場合は、各々の絶対量を測定することにより、各々の含有割合を正確に測定することが可能となる。
【0128】
本発明はまた、生体試料に含まれるバイオマーカーの損失を低減する方法であって、分析対象であるバイオマーカーを含む生体試料を準備すること、式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、場合により式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体を含むコーティングを、表面の少なくとも一部に備える生体試料の保存用容器に、生体試料を含む溶液を収容及び/又は保存することを含む方法、である。かかる方法における、生体試料、共重合体、コーティング及び容器等の意味は、上述のとおりである。
【0129】
本発明はまた、生体試料に含まれるバイオマーカーの損失を低減するための、生体試料を含む溶液の収容及び/又は保存用容器における、式(a)で表される基を含む繰り返し単位と、式(b)で表される基を含む繰り返し単位と、場合により式(c)で表される基を含む繰り返し単位とを含む共重合体を含むコーティングの使用、に関する。かかる使用において、容器の表面の少なくとも一部に、好ましくは生体試料と接触し得る、容器の内部及び/又は外部の表面の少なくとも一部又は全部に、共重合体を含むコーティングを有する。
【実施例
【0130】
以下、合成例、実施例、試験例等に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらに限定されない。
【0131】
<合成例1>
アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート(製品名;ホスマーM、ユニケミカル(株)製、乾固法100℃・1時間における不揮発分:91.8%、アシッドホスホオキシエチルメタクリレート(44.2質量%)、リン酸ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル](28.6質量%)、その他の物質(27.2質量%)の混合物)260gをエタノール390gに投入し、35℃以下に冷却しながらコリン(48-50%水溶液:東京化成工業(株)製)310gを加えて均一になるまで撹拌した。この混合液にメタクロイルコリンクロリド80%水溶液(東京化成工業(株)製)220g、メタクリル酸ブチル(東京化成工業(株)製)300g加え、追加でエタノール260gを加え撹拌した。さらに、2,2’-アゾビス(N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)n-水和物(製品名:VA-057、和光純薬工業(株)製)22gを純水230gに溶解させた水溶液を35℃以下に保ちながら上記の溶液に加え、十分に攪拌して均一となった上記全てのものが入った混合液を、滴下ポンプを介した3つ口フラスコに導入した。一方で、別途純水650gとエタノール980gを冷却管付きの3つ口フラスコに加えて窒素フローし、撹拌しながらリフラックス温度まで昇温した。この状態を維持しつつ、上記混合液をテフロンチューブで介した滴下ポンプにて、1.5時間かけて混合液を純水とエタノールの沸騰液内に滴下した。滴下後、2時間上記環境を維持した状態で加熱撹拌する。2時間後に冷却することで固形分約24.20質量%の共重合体含有ワニス3610gを得た。得られた液体のGFCにおける重量平均分子量は約23,225であった。
【0132】
<調製例1>
上記合成実施例1で得られた共重合体含有ワニス568gに、1mol/L塩酸(1N)(関東化学(株)製)157gと純水1697g、エタノール4456gを加えて十分に撹拌し、コーティング剤を調製した。pHは2.6であった。
【0133】
<実施例1>
調製例1で得られたコーティング剤をポリプロピレン(PP)製ジャケットチューブ(FCR&Bio社製、#JRDS-0M)に1.0mLずつ、PP製マイクロチューブに1.5mLずつ、PP製スクリューバイアル(ワイエムシィ社製、#XRAV1103-P)に300μLずつ入れ、25℃で0.5時間静置した。コーティング剤を除去後、25℃で3時間乾燥させた。その後、純水で十分に洗浄することで、コーティング膜が形成されたPP製チューブ及びバイアルを得た。
【0134】
<試験例1>
免疫グロブリンG(IgG、シグマアルドリッチ、#I4506)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させ、濃度2μg/mLの溶液を調製し、実施例1で得られたコーティング膜を形成したPP製ジャケットチューブに1mL分注した。比較例として、同濃度のIgG溶液を未コーティングのPP製ジャケットチューブ、またはプロテオセーブ(商標登録)SS 1.5mLスリムチューブ(住友ベークライト(株)製、#MS-4202X)に分注した(それぞれ比較例1、比較例2とする)。分注後のサンプルを5日間凍結(-80℃)にて保管した。
保管後のサンプルを室温にて30分静置後、ボルテックス撹拌し、前処理用チューブ(実施例1で得られたコーティング膜を形成したPP製マイクロチューブ)に200μL移した。また比較例1、比較例2については、それぞれ未コーティングのPP製マイクロチューブ、またはプロテオセーブ(商標登録)SS 1.5mLマイクロチューブ(住友ベークライト(株)製,#MS-4215M)に移した。さらに、比較例3及び比較例4として該コーティングを施したチューブに保管したサンプルを、それぞれ未コーティングのPP製マイクロチューブ、またはプロテオセーブ(商標登録)SS 1.5mLマイクロチューブ(住友ベークライト(株)製,#MS-4215M)に移した。
【0135】
【表1】
【0136】
上記サンプルにつき、それぞれ800μLの冷アセトン(富士フイルム和光純薬(株)製)を加え、タンパク質を-20℃で1時間以上静置した。その後4℃、16000×gで10分間遠心してタンパク質を沈降させて上澄みを除去した後、トリス塩酸緩衝液(pH 8.3)100μLを加えて再溶解した。0.5mol/Lジチオトレイトール(DTT、Thermo Fisher Scientific社製)2.1μL及び0.5mol/Lヨードアセトアミド(富士フイルム和光純薬(株)製)11.5μLを加え、よく撹拌した後、暗所で20分間静置した。その後、冷アセトン(富士フイルム和光純薬(株)製)460μLを加え、良く撹拌した後-20℃で1時間静置した。良く撹拌した後に、4℃、16000×gで5分間遠心分離を行い、上澄みを除去した。続いて、90%冷アセトンを50μL添加し、良く撹拌した後に再度4℃、16000×gで5分間遠心分離し、上澄みを除去した。更に、50mmol/L炭酸水素アンモニウム溶液(pH 8.0)(富士フイルム和光純薬(株)製)を100μL加え、タンパク質ペレットを再溶解した。50mmol/L酢酸溶液に溶解させた0.1mg/mLトリプシン(Sigma社製)2μLを加え、37℃で一晩振とうを行った。その後、20%トリフルオロ酢酸(富士フイルム和光純薬(株)製)10μLを加えてサンプルを調製し、HPLCバイアル(実施例1で得られたコーティング膜を形成したPP製スクリューバイアル)に移行した。比較例については、それぞれ未コーティングのPP製スクリューバイアル、または超低吸着0.3mLバイアルProteoSave(エーエムアール製,#PSVial)に移行した。
上記のように、HPLCバイアルに移したサンプルを下記の条件に従い、HPLC-質量分析にて測定を行った。
【0137】
HPLC条件
HPLC装置:Nexera X2((株)島津製作所)
質量分析装置:Orbitrap Fusion(Thermo Fisher Scientific社)
カラム: PLRP-S(300Å、5μm、150×2.1mm、アジレント・テクノロジー社製)
溶離液:0.1%ギ酸水溶液/0.1%ギ酸アセトニトリル
グラジエント:90/10→50/50(0-10分)、50/50→5/95(10-12分)、5/95(12-17分)
流速:0.25mL/mL
カラム温度:55℃
注入量:5μL
【0138】
HPLC測定の後、8つのペプチド(VVSVLTVLHQDWLNGK、TPEVTCVVVDVSHEDPEVK、FNWYVDGVEVHNAK、GPSVFPLAPSSK、DTLMISR、VVSVLTVVHQDWLNGK、GPSVFPLAPCSR、STSESTAALGCLVK)のそれぞれのマスクロマトグラムを抽出し、面積を算出し、その総和を比較例1及び比較例2と比較した結果を図1に示す。その結果、3つの工程で全て該コーティングを実施したほうが、比較例と比べて優位に面積値が大きいことが明らかとなった。また、比較例3及び比較例4と比較した結果を図2に示す。その結果、前処理容器やHPLCバイアルのみの工程だけでも該コーティングを実施したほうが、比較例と比べて優位に面積値が大きいことが明らかとなった。
【0139】
<試験例2>
ウシ血清由来アルブミン(BSA、シグマアルドリッチ、#A9647)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解させ、濃度0.4μg/mL、2μg/mL、10μg/mLの溶液を調製し、実施例1で得られたコーティング膜を形成したPP製ジャケットチューブに1mL分注した。比較例として、同濃度のIgG溶液を未コーティングのPP製ジャケットチューブ、またはプロテオセーブ(商標登録)SS 1.5mLスリムチューブ(住友ベークライト(株)製,#MS-4202X)に分注した。分注後のサンプルを12日間凍結(-80℃)にて保管した(それぞれ比較例5、比較例6とする)。
保管後のサンプルを室温にて30分静置後、ボルテックス撹拌し、PP製マイクロチューブに200μL移した。以降の操作について、比較例についても同様の操作を行った。
上記サンプルにつき、それぞれ800μLの冷アセトン(富士フイルム和光純薬(株)製)を加え、タンパク質を-20℃で1時間以上静置する。その後4℃、16000×gで10分間遠心してタンパク質を沈降させ、上澄みを除去した後トリス塩酸緩衝液(pH 8.3)100μLを加えて再溶解した。0.5mol/Lジチオトレイトール(DTT、Thermo Fisher Scientific社製)2.1μL及び0.5mol/Lヨードアセトアミド(富士フイルム和光純薬(株)製)11.5μLを加え、よく撹拌した後、暗所で20分間静置した。その後、冷アセトン(富士フイルム和光純薬(株)製)460μLを加え、良く撹拌した後-20℃で1時間静置した。良く撹拌した後に、4℃、16000×gで5分間遠心分離を行い、上澄みを除去した。続いて、90%冷アセトンを50μL添加し、良く撹拌した後に再度4℃、16000×gで5分間遠心分離し、上澄みを除去した。更に、50mmol/L炭酸水素アンモニウム溶液(pH 8.0)(富士フイルム和光純薬(株)製)を100μL加え、タンパク質ペレットを再溶解した。50mmol/L酢酸溶液に溶解させた0.1mg/mLトリプシン(Sigma社製)2μLを加え、37℃で一晩振とうを行ったその後、20%トリフルオロ酢酸(富士フイルム和光純薬(株)製)10μLを加えて、遠心濃縮機(EZ-2 Elite、Genavac社製)で溶媒を除去した。これに0.1%ギ酸水溶液:アセトニトリル混液(50:50)100μLを加えてサンプルを調製し、HPLCバイアル(PP製スクリューバイアル)に移行した。
上記のように、HPLCバイアルに移したサンプルを下記条件に従い、HPLC-質量分析にて測定を行った。
【0140】
HPLC条件
HPLC装置:Nexera X2((株)島津製作所)
質量分析装置:Orbitrap Fusion(Thermo Fisher Scientific社)
カラム: PLRP-S(300Å、5μm、150×2.1mm、アジレント・テクノロジー社製)
溶離液:0.1%ギ酸水溶液/0.1%ギ酸アセトニトリル
グラジエント:90/10→50/50(0-10分)、50/50→5/95(10-12分)、5/95(12-17分)
流速:0.25mL/mL
カラム温度:55℃
注入量:10μL
【0141】
HPLC測定の後、3つのペプチド(LGEYGFQNALIVR、LVNELTEFAK、KVPQVSTPTLVEVSR)のそれぞれのマスクロマトグラムを抽出し、面積を算出し、それぞれのペプチドにつき、比較例5及び比較例6と比較した結果を図3に示す。その結果、保存の工程で該コーティングを実施したほうが、比較例と比べて優位に面積値が大きいことが明らかとなった。
また、それぞれの測定において、BSAのアミノ酸配列のうち、同定できたペプチドの割合を算出した結果を表2に示す。該コーティングを実施したほうが比較例と比べて、優位に同定できた割合が高く、定性分析の面でも優位であることが明らかとなった。
【0142】
【表2】
【0143】
<実施例2>
調製例1で得られたコーティング剤をポリプロピレン(PP)製バイアル((株)島津ジーエルシー製、#GLCTV-PP)に300μLずつ入れ、25℃で0.5時間静置した。バイアルよりコーティング剤を除去後、25℃で3時間乾燥させた。その後、バイアルを純水で十分に洗浄することで、コーティング膜が形成されたPP製バイアルを得た。
調製例1で得られたコーティング剤をPP製1.5mLチューブ(Thermo Fisher Scientific製またはザルスタット(株)製)に1.5mLずつ入れ、25℃、30分静置した。コーティング剤を除去後25℃、3時間乾燥させた。その後、純水で十分に洗浄を行って、コーティング膜が形成されたPP製1.5mLチューブを得た。
【0144】
<試験例3>
アミロイドβタンパク質フラグメント 1-42(Aβ42、(株)ペプチド研究所、#4349-v)を0.3%アンモニア水とアセトニトリルの1:1(体積比)の混合溶液に溶解させ、濃度1000ppmの溶液を調製した。実施例2で得られたコーティング膜を形成したPP製バイアルを用いて、0.3%アンモニア水とアセトニトリルの1:1(体積比)の混合溶液にて10倍希釈を3回または5回行った。
比較例として、同様の10倍希釈を3回または5回行うAβ42希釈溶液を未コーティングのPP製バイアルを用いて作製した(比較例7とする)。
上記のように、PP製HPLCバイアル内のサンプルを下記の条件に従い、HPLC-質量分析にて測定を行った。
【0145】
HPLC条件
HPLC装置:LC-20AD((株)島津製作所)
質量分析装置:LTQ-Orbitrap(Thermo Fisher Scientific社)
カラム:ACQUITY UPLC CSH C18 (2.1x150 mm、1.7μm、日本ウォーターズ(株)製)
溶離液:0.3%アンモニア水溶液/アセトニトリル
グラジエント:90/10(0-1分)、90/10→45/55(1-6.5分)、45/55(6.5-6.7分)、45/55→10/90(6.7-7分)、10/90(7-9分)
流速:0.20mL/min
カラム温度:55℃
注入量:5μL
イオン化法:ESI
観測モード:Posi
tSIM(m/z):1129.32
Scan width(m/z):2
【0146】
SIM測定(選択イオン測定、Selective Ion Monitoring)にてm/z=1129.32の4価イオンの面積を算出し、比較例7と比較した結果を表3(10倍希釈3回の結果)と表4(10倍希釈5回の結果)に示す(N=2)。また図4(10倍希釈3回の結果)と図5(10倍希釈5回の結果)に図示する。その結果、両濃度のサンプルにおいて、該コーティングを実施したほうが、比較例と比べて優位に面積値が大きいことが明らかとなった。
【0147】
【表3】
【0148】
【表4】
【0149】
また、10倍希釈5回の濃度のサンプルを上記と同様の手順で作製し、4℃で保管し、6時間後と15時間後にSIM測定にてm/z=1129.32の4価イオンの面積を算出し、比較例7と比較した結果を表5および図6に示す(N=2)。その結果、6時間、15時間ともに該コーティングを実施したほうが、比較例と比べて優位に面積値が大きいことが明らかとなった。さらに、6時間から15時間にかけての変化量((6時間の平均面積値-15時間の平均面積値)×100/6時間の平均面積値)は、試験例3が18.7%、比較例7が34.3%であり、変化量においても該コーティングを実施したほうが比較例に比べて優位に低いことがわかった。
【0150】
【表5】
【0151】
<試験例4>
アミロイドβタンパク質フラグメント 1-42(Aβ42、(株)ペプチド研究所、#4349-v)を0.3%アンモニア水とアセトニトリルの9:1(体積比)の混合溶液に溶解させ、濃度1000ppmの溶液を調製した。実施例2で得られたコーティング膜が形成されたPP製1.5mLチューブを用いて、0.3%アンモニア水とアセトニトリルの9:1(体積比)の混合溶液にて10倍希釈を4回行った。得られた溶液を実施例2で得られたコーティング膜が形成されたPP製バイアルに移し、下記の条件に従い、HPLC-質量分析にて測定を行った。
比較例として、以下の3つを行った。比較例8は同様の10倍希釈を4回行うAβ42希釈溶液をコーティング膜が形成されたPP製1.5mLチューブを用いて作製し、得られた溶液を未コーティングのPP製バイアルに移し、下記の条件に従い、HPLC-質量分析にて測定を行った。比較例9は同様の10倍希釈を4回行うAβ42希釈溶液を未コーティングのPP製1.5mLチューブを用いて作製し、得られた溶液を実施例2で得られたコーティング膜が形成されたPP製バイアルに移し、下記の条件に従い、HPLC-質量分析にて測定を行った。比較例10は同様の10倍希釈を4回行うAβ42希釈溶液を未コーティングのPP製1.5mLチューブを用いて作製し、得られた溶液を未コーティングのPP製バイアルに移し、下記の条件に従い、HPLC-質量分析にて測定を行った。
【0152】
【表6】
【0153】
HPLC条件
HPLC装置:LC-20AD((株)島津製作所)
質量分析装置:LTQ-Orbitrap(Thermo Fisher Scientific社)
カラム:ACQUITY UPLC CSH C18 (2.1x150mm、1.7μm、日本ウォーターズ製)
溶離液:0.3%アンモニア水溶液/アセトニトリル=80/20(0-13分)
流速:0.20mL/min
カラム温度:55℃
注入量:5μL
イオン化法:ESI
観測モード:Posi
tSIM(m/z):1129.32
Scan width(m/z):2
【0154】
SIM測定(選択イオン測定、Selective Ion Monitoring)にてm/z=1129.32の4価イオンの面積を算出し、試験例4と比較例8、9、10を比較した結果を表7、図7に示す。その結果、該コーティングを希釈容器およびHPLCバイアルの両方に実施したほうが、優位に面積値が大きいことが明らかとなった。
【0155】
【表7】
【0156】
<試験例5>
アミロイドβタンパク質フラグメント 1-40(Aβ40、(株)ペプチド研究所、#4307-v)を0.3%アンモニア水とアセトニトリルの9:1(体積比)の混合溶液に溶解させ、濃度1000ppmの溶液を調製した。実施例2で得られたコーティング膜が形成されたPP製1.5mLチューブを用いて、0.3%アンモニア水とアセトニトリルの9:1(体積比)の混合溶液にて10倍希釈を4回行った。得られた溶液を実施例2で得られたコーティング膜が形成されたPP製バイアルに移し、下記の条件に従い、HPLC-質量分析にて測定を行った。測定はバイアルに移した後速やかに行った測定(0h)および4℃に保たれたオートサンプラー中で4時間経過したときに行った測定(4h)の2回行った。
比較例として、以下の3つを行った。比較例11は、分析バイアルを低吸着PP製バイアルTORAST-H Bio Vial((株)島津ジーエルシー製、#GLCTV-H-BIO)を用いて、他の条件は試験例5と同じにして測定を行った。比較例12は、分析バイアルを未コーティングのPP製バイアルを用いて、他の条件は試験例5と同じにして測定を行った。比較例13は分析バイアルを低吸着PP製バイアルQuanRecovery with MaxPeak HPS 300μL vials(ウォーターズ社製、#186009186)を用いて、他の条件は試験例5と同じにして測定を行った。
【0157】
HPLC条件
HPLC装置:LC-20AD((株)島津製作所)
質量分析装置:LTQ-Orbitrap(Thermo Fisher Scientific社)
カラム:ACQUITY UPLC CSH C18 (2.1x150 mm、1.7μm、日本ウォーターズ製)
溶離液:0.3%アンモニア水溶液/アセトニトリル=80/20(0-13分)
流速:0.20mL/min
カラム温度:55℃
注入量:5μL
イオン化法:ESI
観測モード:Posi
tSIM(m/z):1083.29
Scan width(m/z):2
【0158】
SIM測定(選択イオン測定、Selective Ion Monitoring)にてm/z=1083.29の4価イオンの面積を算出し、試験例5と比較例11、12、13を比較した結果を表8、図8に示す。その結果、該コーティングをHPLCバイアルに実施したほうが、優位に面積値が大きいことが明らかとなった。また比較例11、12、13では4時間後の測定で面積値が大きく低下する一方、試験例5では面積値を同等のレベルに保持していた。
【0159】
【表8】
【0160】
したがって、Aβ42およびAβ40のような吸着しやすいことが判明しているペプチドの極微量な分析を行う場合、該コーティングは吸着を抑制することで、試料損失を低減させ、正確にかつ精度高い分析を可能とすることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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