(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】結晶化ガラス、高周波用基板および結晶化ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 10/04 20060101AFI20250121BHJP
C03B 27/012 20060101ALI20250121BHJP
C03B 32/02 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
C03C10/04
C03B27/012
C03B32/02
(21)【出願番号】P 2022511578
(86)(22)【出願日】2021-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2021002924
(87)【国際公開番号】W WO2021199631
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2020060908
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶原 貴人
(72)【発明者】
【氏名】土屋 博之
(72)【発明者】
【氏名】小川 朝敬
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 公章
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03467534(US,A)
【文献】特開2004-345950(JP,A)
【文献】特表2013-516378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00,
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Liを含有し、結晶相はBa-Si-Oのみからなる結晶相
及びLi系結晶相を有
し、前記Li系結晶相の結晶化度は重量%表示で20%以下である、結晶化ガラス。
【請求項2】
前記
Ba-Si-Oのみからなる結晶相は、BaSi
2O
5及びBa
2Si
4O
10の少なくとも一方を含む、請求項1に記載の結晶化ガラス。
【請求項3】
前記BaSi
2O
5の結晶化度とBa
2Si
4O
10の結晶化度の合計値が重量%表示で15%以上50%以下である、請求項2に記載の結晶化ガラス。
【請求項4】
下記式で表される格子定数の差分の二乗総和が0.050以下である、請求項2
又は3に記載の結晶化ガラス。
(格子定数の差分の二乗総和)=(A
BS2-A’
BS2)
2+(B
BS2-B’
BS2)
2+(C
BS2-C’
BS2)
2+(A
B2S4-A’
B2S4)
2+(B
B2S4-B’
B2S4)
2+(C
B2S4-C’
B2S4)
2
ここで、前記結晶相中で測定されるBaSi
2O
5の格子定数をA
BS2、B
BS2、C
BS2とし、Ba
2Si
4O
10の格子定数をA
B2S4、B
B2S4、C
B2S4とし、ICSD Collection Code:15486に記載の、理想的な結晶状態におけるBaSi
2O
5の格子定数をA’
BS2、B’
BS2、C’
BS2とし、ICSD Collection Code:9339に記載の、理想的な結晶状態におけるBa
2Si
4O
10の格子定数をA’
B2S4、B’
B2S4、C’
B2S4とする。
【請求項5】
前記BaSi
2O
5の結晶化度と前記BaSi
2O
5の{400}面、{020}面、および{002}面の各面における歪みの積との合計値と、前記Ba
2Si
4O
10の結晶化度と前記Ba
2Si
4O
10の{400}面、{020}面、および{002}面の各面における歪みの積との合計値の和が、0.030以下である、請求項2から
4のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項6】
下記試験方法により求められる、格子定数の差分の二乗総和と10GHzにおける誘電正接とが線形関係となる組成αを有する、請求項1から
5のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
試験方法:
(i)組成αを有する複数の非晶質ガラスを準備し、結晶化条件を変えた複数サンプルを作製する。
(ii)前記各サンプルの、10GHzにおける誘電正接を測定する。
(iii)各サンプルにおいて、結晶相中のBaSi
2O
5の格子定数A
BS2、B
BS2、C
BS2と、前記結晶相中のBa
2Si
4O
10の格子定数A
B2S4、B
B2S4、C
B2S4を測定する。
(iv)下記式により、前記各サンプルにおいて格子定数の差分の二乗総和を求める。:
ICSD Collection Code:15486に記載の、理想的な結晶状態におけるBaSi
2O
5の格子定数をA’
BS2、B’
BS2、C’
BS2とし、ICSD Collection Code:9339に記載の、理想的な結晶状態におけるBa
2Si
4O
10の格子定数をA’
B2S4、B’
B2S4、C’
B2S4とすると、
(格子定数の差分の二乗総和)=(A
BS2-A’
BS2)
2+(B
BS2-B’
BS2)
2+(C
BS2-C’
BS2)
2+(A
B2S4-A’
B2S4)
2+(B
B2S4-B’
B2S4)
2+(C
B2S4-C’
B2S4)
2
(v)前記複数サンプルの前記格子定数の差分の二乗総和と、前記複数サンプルの10GHzにおける誘電正接との相関関係を求める。
【請求項7】
前記線形関係は、前記格子定数の差分の二乗総和をX、前記10GHzにおける誘電正接をYとしたとき、任意の傾きa、切片bを用い、下記式で表される、請求項
6に記載の結晶化ガラス。
Y=ax+b かつ
a>0 かつ
b<0.0030
【請求項8】
酸化物基準のモル%表示で、
SiO
2:68~78%
Al
2O
3:0~5%
BaO:24~35%
Li
2O:0~6%
Na
2O:0~3%
K
2O:0~3%
ZrO
2:0~4%
TiO
2:0~4%
を含有し、
(Li
2O+Na
2O+K
2O):0~6%を満たす、
請求項1から
7のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項9】
Li
2Oの含有量が0超~5%である、請求項
6から
8のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項10】
ZrO
2およびTiO
2の合計含有量が0超~5%である、請求項
6から
9のいずれか1項に記載の結晶化ガラス。
【請求項11】
請求項1から
10のいずれか1項に記載の結晶化ガラスを用いた高周波用基板。
【請求項12】
10GHzにおける誘電正接が0.0030以下である、請求項
11に記載の高周波用基板。
【請求項13】
10GHzにおける比誘電率が6.0以上、8.0以下である、請求項
11または
12に記載の高周波用基板。
【請求項14】
板厚が0.05mm以上、1mm以下である、請求項
11から
13のいずれか1項に記載の高周波用基板。
【請求項15】
相互に対向する2つの主面を備え、前記主面の面積は75cm
2以上である、請求項
11から
14のいずれか1項に記載の高周波用基板。
【請求項16】
相互に対向する2つの主面を備え、前記主面の少なくとも一方に開口部を有する孔を備えた、請求項
11から
15のいずれか1項に記載の高周波用基板。
【請求項17】
BaO
、SiO
2
及びLi
2
Oを含有する原料を溶融成形して非晶質ガラスを得て、
前記非晶質ガラスを600℃以上1000℃未満の処理温度で保持することで結晶化させる、
結晶相はBa-Si-Oのみからなる結晶相
及びLi系結晶相を有
し、且つ前記Li系結晶相の結晶化度は重量%表示で20%以下である、結晶化ガラスの製造方法。
【請求項18】
前記非晶質ガラスを、前記処理温度で0.5時間以上保持する、請求項
17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記処理温度は、前記非晶質ガラスの示差走査熱量計(DSC)により測定されるガラス転移点Tg以上である、請求項
17または
18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記非晶質ガラスの結晶化は、前記非晶質ガラスを第一の処理温度で保持し、続けて、前記非晶質ガラスを前記第一の処理温度より高温の第二の処理温度で保持する、二段階の加熱処理を含む、請求項
17から
19のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項21】
前記第一の処理温度は、前記非晶質ガラスの示差走査熱量計(DSC)により測定されるガラス転移点Tg以上、結晶化開始温度Tx以下である、請求項
20に記載の製造方法。
【請求項22】
前記第二の処理温度は、前記非晶質ガラスの示差走査熱量計(DSC)により測定される結晶化開始温度Tx以上である、請求項
20または
21に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化ガラス、結晶化ガラスを用いた高周波用基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量伝送技術としてマイクロ波帯やミリ波帯域を利用する無線伝送が注目されている。しかし、使用する周波数の拡大に伴い信号周波数が高くなるにつれて、高周波デバイスの誘電損失が大きくなる問題がある。そこで、誘電損失が小さな誘電体基板が求められている。この誘電体基板の材料は、例えば、石英、セラミックス、ガラスなどから選ばれる。ここで、ガラスであっても、ガラスの一部を結晶化させた結晶化ガラスは、石英やセラミックスに比べ成形容易で安価に製造でき、誘電損失をより小さくできるという利点がある。低損失な結晶化ガラスとしては、例えば非特許文献1に示すような、インディアライト/コーディアライト結晶化ガラスが挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】H.Ohsato,J S.Kim,A Y.Kim,C I.Cheon,K W.Chae,Millimeter Wave Dielectric Properties of Cordierite/Indialite Glass Ceramics,Jpn.J.Appl.Phys.,50(2011)09NF01 1 5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に示す結晶化ガラスは、1200℃を超える高温で結晶化処理を行う必要があった。
以上の背景を踏まえ、本発明では低温焼成可能な結晶化ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、Ba-Si-Oのみからなる結晶相を有する結晶化ガラスを提供する。
【0006】
また、本発明では、上記結晶化ガラスを用いた高周波用基板を提供する。
【0007】
また本発明では、
BaO及びSiO2を含有する原料を溶融成形して非晶質ガラスを得て、前記非晶質ガラスを600℃以上1000℃未満の処理温度で保持することで結晶化させる、Ba-Si-Oのみからなる結晶相を有する結晶化ガラスの製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、低温焼成可能な結晶化ガラス、及びそれを用いた高周波用基板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実験例におけるBaSi
2O
5およびBa
2Si
4O
10の結晶化度合計と誘電正接tanδの関係を示した図である。
【
図2】
図2は、実験例における組成HにおけるLi
2Si
2O
5の結晶化度と、誘電正接tanδの関係を示した図である。
【
図3】
図3は、実験例におけるBaSi
2O
5およびBa
2Si
4O
10の格子定数の差分の二乗総和と誘電正接tanδの関係を示した図である。
【
図4】
図4は、指標2のBaSi
2O
5およびBa
2Si
4O
10の{400}面、{020}面、{002}面での歪みの合計値と結晶化度の合計値の積と、結晶化ガラスの誘電正接tanδの関係を示した図である。
【
図5】
図5は、XLi
2O-(30-X)BaO-70SiO
2組成においてX=0.2、0.5、1.0、2.0、3.0、5.0と変化させた際の結晶化開始温度を示したDSCの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<結晶化ガラス>
まず、本発明における結晶化ガラスについて説明する。
本発明の結晶化ガラスは、Ba-Si-Oのみからなる結晶相を有することを特徴とする。本発明の結晶化ガラスは、BaO、SiO2を含有する非晶質ガラスを溶融成形し、徐冷後の非晶質ガラスブロックを用いて、1000℃未満の低温で加熱処理しBa-Si-Oのみからなる結晶を析出させることにより製造できる。
【0011】
ここで、「結晶化ガラス」とは、ガラス中に結晶が析出したものである。本願では、「結晶化ガラス」とは、粉末X線回折法(PXRD:Powder X-ray Diffraction)によって結晶を示す回折ピークが認められるガラスをいう。粉末X線回折測定は、後述のようにCuKα線を用いて2θが10°~80°の範囲を測定し、回折ピークが現れた場合には、例えば、3強線法によって析出結晶を同定することができる。
【0012】
本明細書において、ガラス組成は、特に断らない限り酸化物基準のモル%表示で表し、モル%を単に「%」と表記する。また、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不純物レベル以下である、つまり意図的に加えたものではないことをいう。具体的には、たとえば0.01%未満である。
【0013】
Ba-Si-Oのみからなる結晶相とは、例えばBaSi2O5、Ba2Si4O10、BaSiO3、Ba2Si3O8、Ba5Si8O21、Ba3Si5O13、及びBa3Si5O21などの結晶により構成され、好ましくはBaSi2O5及びBa2Si4O10の少なくとも一方を含有する。
【0014】
BaSi2O5は、上記結晶種の中でも高周波域での誘電正接が特に小さく、BaSi2O5を含有することで高周波での誘電正接の低い結晶化ガラスを実現できる。なお、高周波とは、1GHz以上の帯域を指し、本願では特に10GHz、または28GHzにおける誘電正接について言及する。Ba2Si4O10は、結晶成長速度が速く、10GHzおける誘電正接が低いため、Ba2Si4O10を含有することで短時間の熱処理で誘電正接が低く、誘電損失の小さい結晶化ガラスを達成することができる。なお、誘電正接や比誘電率などの誘電特性はスリップポスト誘電体共振法(SPDR法)により測定される。
【0015】
より好ましくは、Ba-Si-Oのみからなる結晶相はBaSi2O5またはBa2Si4O10を主相若しくは第二相として含有することで、高周波での誘電正接を特に小さくできる。
【0016】
その他、結晶化ガラスの誘電正接が悪化しない範囲で、Ba-Si-Oのみからなる結晶相以外の結晶相を含んでいてもよい。Ba-Si-Oのみからなる結晶相以外の結晶相とは、例えばK2Ba7Si16O40、ZrO2、TiO2、SnO2、ZrTiO4、Li2(Si2O5)、Li2(SiO3)、LiAl(SiO3)2、SiO2、Ba(Al2Si2O8)などである。
【0017】
ここで、これらの結晶種はPXRDにより同定される。BaSi2O5は、CuKα線を用いてブラッグ角(2θ)が例えば17.5°±0.2°、22.4°±0.2°、26.7°±0.2°に回折ピークを示す結晶であり、Ba2Si4O10は、CuKα線を用いてブラッグ角(2θ)が例えば18.9°±0.2°、22.3°±0.2°、25.2°±0.2°に回折ピークを示す結晶である。
【0018】
さらに、より正確な結晶構造を知るためには、リートベルト解析がなされることが好ましい。リートベルト解析によると、結晶相および非晶質相の定量解析や結晶相の構造解析が可能である。リートベルト法については、日本結晶学会「結晶解析ハンドブック」編集委員会編、「結晶解析ハンドブック」(協立出版 1999年刊、p492~499)に記載されている。
【0019】
(結晶化度)
上記解析の結果、本発明における結晶化ガラスの高周波誘電特性は、結晶相の含有割合を示す結晶化度と関係することが分かった。結晶化度は、特定の結晶の、結晶化ガラス全体に対する割合で定義される。すなわち、BaSi2O5の結晶化度であれば、BaSi2O5の結晶の結晶化ガラス全体に対する割合を意味する。BaSi2O5の結晶化度とBa2Si4O10の結晶化度の合計は15wt%以上であることが好ましい。より好ましくは、17wt%以上、更に好ましくは18wt%以上、より更に好ましくは19wt%以上、こと更に好ましくは20wt%以上である。BaSi2O5の結晶化度と、Ba2Si4O10の結晶化度の合計が上記範囲であると、結晶を十分に析出でき、誘電正接を小さくでき、誘電損失を抑制できるため好ましい。
【0020】
一方、BaSi2O5の結晶化度とBa2Si4O10の結晶化度の合計は、結晶化ガラスの総重量に対し好ましくは50wt%以下であることが好ましい。これにより、析出結晶の粒界に起因する誘電正接の増加を抑制し、10GHzにおける誘電正接tanδを0.0030以下にしやすくなる。
【0021】
BaSi2O5の結晶化度とBa2Si4O10の結晶化度の合計は、より好ましくは45wt%以下、更に好ましくは40wt%以下、より更に好ましくは35wt%以下であり、こと更に好ましくは31wt%以下である。BaSi2O5の結晶化度とBa2Si4O10の結晶化度の合計が上記範囲であると、誘電正接増加の要因の一つである結晶粒界の割合を減らすことができるため10GHzにおける誘電正接tanδを0.0010以下にしやすくなる。
具体的に、BaSi2O5の結晶化度と、Ba2Si4O10の結晶化度の合計の好ましい範囲としては、15wt%以上50wt%以下である。
【0022】
更に、結晶相は、Li系結晶を含んでいてもよい。結晶化ガラスが母組成にLiを含有すると、結晶生成温度を低下させ、また結晶生成速度を増加できる利点がある。一方、母組成のLi含有量が増加すると、結晶化ガラスの結晶相にLi系結晶が析出することがあり、Li系結晶は、結晶化ガラスの誘電正接を増加させ得るため、少ない方が好ましい。Li系結晶の結晶化度が、結晶化ガラスの総重量に対し、好ましくは20wt%以下であると、10GHzにおける誘電正接tanδを0.0030以下にしやすくなる。Li系結晶の結晶化度が、より好ましくは15wt%以下であると、誘電正接tanδを0.0020以下にしやすくなる。Li系結晶の結晶化度が、更に好ましくは10wt%以下であると、誘電正接tanδを0.0010以下にしやすくなる。Li系結晶の結晶化度は、より更に好ましくは、5wt%以下であり、Li系結晶は含有しないことが最も好ましい。
【0023】
より詳細には、本発明における結晶化ガラスの高周波誘電特性は、結晶化度と結晶の歪みと関係することが分かった。歪みが少ない結晶を多く析出させることで、高周波における誘電損失を抑制できる。
従って、上記特性を反映した指標として、以下の2つの指標を用いることができる。以下の2つの指標のうち、少なくとも1つを満たすことにより、10GHzにおける誘電正接tanδを0.0030以下にでき、高周波における誘電損失を抑制することができ好ましい。
【0024】
(指標1)下記式で表される格子定数の差分の二乗総和が0.050以下である。
(格子定数の差分の二乗総和)=(ABS2-A’BS2)2+(BBS2-B’BS2)2+(CBS2-C’BS2)2+(AB2S4-A’B2S4)2+(BB2S4-B’B2S4)2+(CB2S4-C’B2S4)2
【0025】
ここで、結晶相中で測定されるBaSi2O5のa、b、c軸の格子定数をそれぞれABS2、BBS2、CBS2とし、Ba2Si4O10のa、b、c軸の格子定数をAB2S4、BB2S4、CB2S4とし、ICSD Collection Code:15486に記載の、理想的な結晶状態におけるBaSi2O5の格子定数をA’BS2、B’BS2、C’BS2とし、ICSD Collection Code:9339に記載の、理想的な結晶状態におけるBa2Si4O10の格子定数をA’B2S4、B’B2S4、C’B2S4とする。なお本明細書においては、格子定数の大きさがCBS2>ABS2>BBS2、C’BS2>A’BS2>B’BS2、AB2S4>CB2S4>BB2S4、A’B2S4>C’B2S4>B’B2S4を満たすようにそれぞれの結晶軸を定義する。
【0026】
(指標2)BaSi2O5の結晶化度とBaSi2O5の{002}面、{020}面、および{400}面の各面における歪みの積の合計値と、Ba2Si4O10の結晶化度とBa2Si4O10の{002}面、{020}面、および{400}面の各面における歪みの積の合計値との和が、0.030以下である。ここで、{002}面、{020}面、{400}面とは、結晶格子面を表すミラー指数表記である。
【0027】
(指標1)について
指標1では、上記したように、下記式で表される格子定数の差分の二乗総和が0.050以下であることが好ましい。
(格子定数の差分の二乗総和)=(ABS2-A’BS2)2+(BBS2-B’BS2)2+(CBS2-C’BS2)2+(AB2S4-A’B2S4)2+(BB2S4-B’B2S4)2+(CB2S4-C’B2S4)2
ここで、前述のリートベルト解析の結果、結晶相中のBaSi2O5の格子定数をABS2、BBS2、CBS2とし、Ba2Si4O10の格子定数をAB2S4、BB2S4、CB2S4と表す。
一方、理想的な結晶状態におけるBaSi2O5の格子定数をA’BS2、B’BS2、C’BS2とし、Ba2Si4O10の格子定数A’B2S4、B’B2S4、C’B2S4とする。A’BS2、B’BS2、C’BS2の値はICSD Collection Code:15486に記載の値を、A’B2S4、B’B2S4、C’B2S4の値は、ICSD Collection Code:9339に記載の値を用いることとする。
【0028】
以下、上記値を単に「格子定数の差分の二乗総和」と称することがある。
【0029】
すなわち、格子定数の差分の二乗総和とは、本発明の結晶化ガラスが有する結晶の格子定数の、理想的な結晶が有する格子定数とのずれを表しており、結晶の歪み具合を表すパラメータである。
【0030】
格子定数の差分の二乗総和が0.050以下であることにより、結晶化ガラスが歪みの少ない結晶を多く含有するため、10GHzにおける誘電正接tanδを0.0030以下に抑制しやすくなる。より好ましくは、格子定数の差分の二乗総和は0.045以下であり、更に好ましくは0.040以下であり、より更に好ましくは0.035以下であり、特に好ましくは0.030以下であり、最も好ましくは0.025以下であると、10GHzにおける誘電正接をより小さく抑制しやすい。
【0031】
指標1では、BaSi2O5の結晶化度と、Ba2Si4O10の結晶化度の合計値が重量%表示で15%以上50%以下であり、かつ、格子定数の差分の二乗総和が0.050以下であることがより好ましく、BaSi2O5の結晶化度と、Ba2Si4O10の結晶化度の合計値が15wt%以上50wt%以下であり、Li系結晶の結晶化度が20wt%以下であることに加え、格子定数の差分の二乗総和が0.050以下であることがさらに好ましい。
そして、特に、BaSi2O5の結晶化度と、Ba2Si4O10の結晶化度の合計値が15wt%以上31wt%以下であり、Li系結晶の結晶化度が20wt%以下であり、かつ格子定数の差分の二乗総和が0.025以下であると、誘電正接tanδを0.0010以下に抑制しやすく、好ましい。
【0032】
(指標2)について、
指標2では、上記したように、BaSi2O5の結晶化度とBaSi2O5の{400}面、{020}面および{002}面の各面における歪みの積との合計値と、Ba2Si4O10の結晶化度とBa2Si4O10の{400}面、{020}面および{002}面の各面における歪みの積との合計値の和(以下、「結晶化度×歪みの合計」と称することがある)とが、0.030以下であることが好ましい。
【0033】
BaSi2O5の結晶化度とBa2Si4O10の結晶化度および{400}面、{020}面および{002}面における歪みは、前記PXRDおよびリートベルト解析によって求められる。ここでBaSi2O5の{400}、{020}面、および{002}面における歪みは、それぞれPXRDで47.1~47.4°、38.4~38.8°、12.9~13.1°付近に現れるピークをリートベルト解析することにより求められる値を用いる。Ba2Si4O10の{400}、{020}面、および{002}面における歪みは、それぞれPXRDで15.3~15.4°、38.3~38.5°、13.0~13.2°付近に現れるピークをリートベルト解析することにより求められる値を用いる。
【0034】
指標2における、結晶化度×歪みの合計の値は、0.030以下であると、結晶中の歪みの総量を小さくでき、10GHzにおける誘電正接tanδが0.0030以下になりやすい。結晶化度×歪みの合計の値は、好ましくは0.025以下であり、より好ましくは0.020以下である。更に好ましくは、0.019以下であると、10GHzにおける誘電正接tanδが0.0010以下になりやすい。一方、結晶化度×歪みの合計の値は、好ましくは0.001以上である。
【0035】
指標2では、BaSi2O5の結晶化度と、Ba2Si4O10の結晶化度の合計値が15wt%以上50wt%以下であり、Li系結晶の結晶化度が20wt%以下であることに加え、結晶化度×歪みの合計が0.030以下であることがより好ましい。
【0036】
以上の指標1または2のいずれかの条件を満たすことにより、結晶化ガラスの誘電特性を大きく向上できる。また、結晶化ガラスは両指標を同時に満足してもよい。
【0037】
(結晶子径)
また、本発明の結晶化ガラスの誘電特性は、結晶子径とも関係がある。結晶子径が大きいと、ガラスと結晶の界面や結晶粒界の割合を小さくできるため、誘電正接を抑制できる。本発明の結晶化ガラスの誘電特性は、特に、Ba2Si4O10結晶相の平均結晶子径とよい相関を示す。Ba2Si4O10の平均結晶子径は、好ましくは20nm以上であり、より好ましくは32nm以上であると、10GHzにおける誘電正接tanδが0.0010以下になりやすい。より好ましくは40nm以上、更に好ましくは45nm以上、特に好ましくは50nm以上である。平均結晶子径は、好ましくは100nm以下であると、結晶粒が偏在し特性にばらつきが生じる現象や、局所的に強度が低下する現象を抑制できる。
【0038】
(結晶化ガラスの母組成)
また、本発明の結晶化ガラスの母組成は、後述する製造方法における結晶化前の非晶質ガラスの組成と同一になる。ここで、本願における結晶化ガラスの母組成とは、結晶化ガラスの結晶部と非晶質部の組成を合計した組成を指す。また、結晶化ガラスの母組成は、結晶化ガラスを融点以上の温度で熱処理を行い、ガラス化したものを分析することで求められる。分析の手法としては例えば蛍光X線分析法やレーザーアブレーションICP質量分析法などが挙げられる。
【0039】
(析出結晶の配向性)
成形や熱処理の過程で、電場や磁場、温度場を与える方法や応力を負荷する方法により、析出結晶に配向性を持たせることができる場合がある。また特定の結晶種については、均一な場で熱処理することによっても、非晶質ガラスの表面に対して配向性を持つ結晶が析出する場合がある。ただし、配向性を持たせる手段としては、これらの手段に限定されない。
【0040】
析出結晶に配向性を持たせることで、誘電特性や光学特性に代表とされるガラス物性の異方性を結晶化ガラスに持たせることが出来る。ここで言うガラス物性の異方性とは、たとえば、結晶化ガラス板の誘電率を測定した場合に、結晶化ガラス板の最も面積の大きい主表面に垂直な方向の誘電率と、主表面に平行な方向の誘電率が異なる特性を指す。ただし、異方性を持つ物性としては、上記の物性に限定されない。
【0041】
ここで言う結晶の配向性とは、結晶化ガラス中で析出した結晶の向きが、ランダムな状態に比して特定の方向にそろっている性質のことを指す。結晶の配向性については、後述の方法で結晶化ガラスのX線回折スペクトルを取得した場合に、結晶化ガラスを研磨加工する前のブロック、研磨加工した後の板、研磨加工されたガラスを粉砕した粉末から得られるX線回折スペクトルが異なることから確認することが出来る。
【0042】
(高周波用基板)
以上のような結晶化ガラスは、高周波での誘電正接を小さくできるため、高周波用基板に用いることができる。本発明の結晶化ガラスを用いた高周波用基板は、好ましくは10GHzの誘電正接が0.0030以下であり、より好ましくは0.0020以下、更に好ましくは0.0010以下であり、より更に好ましくは0.0008以下であり、特に好ましくは0.0005以下である。10GHzの誘電正接が上記を満たせば例えば28GHzや79GHzなどの10GHzよりも高周波数の帯域でも好適に使用できる。28GHzにおける誘電正接は好ましくは0.0080以下であり、より好ましくは0.0060以下、更に好ましくは0.0040以下、より更に好ましくは0.0020以下、特に好ましくは0.0010以下である。79GHzにおける誘電正接は好ましくは0.0100以下であり、より好ましくは0.0080以下、更に好ましくは0.0060以下、より更に好ましくは0.0040以下、特に好ましくは0.0030以下、最も好ましくは0.0020以下である。
【0043】
また、製造方法で後述するように、本発明の結晶化ガラスは成形性に優れ、結晶化処理温度を1000℃未満とすることができるため、安価に製造できる。
【0044】
更に、本発明の結晶化ガラスを用いた高周波用基板では、高周波用基板を用いた高周波部品の小型化の観点から10GHzの比誘電率が6.0以上であることが好ましい。10GHzの比誘電率は、より好ましくは6.3以上、さらに好ましくは6.5以上である。一方、広い周波数帯域で安定して使用できるために比誘電率は8.0以下が好ましく、より好ましくは7.8以下、更に好ましくは7.5以下である。なお、誘電正接や比誘電率などの誘電特性はスリップポスト誘電体共振法(SPDR法)により測定される。
【0045】
更に、本発明の結晶化ガラスは、レーザの照射による孔空け時にクラックの発生を抑制するために50~350℃において測定される平均熱膨張係数が15ppm/K以下であることが好ましい。平均熱膨張係数は、より好ましくは14.5ppm/K以下、更に好ましくは14ppm/K以下である。一方、平均熱膨張係数は好ましくは10ppm/K以上、より好ましくは11ppm/K以上、さらに好ましくは12ppm/K以上である。平均熱膨張係数が上記範囲であると、本発明の結晶化ガラスを高周波用基板として用いる際に銀や銅配線との熱膨張率のミスマッチが抑制され配線の密着性を上げることができる。
【0046】
更に、本発明の結晶化ガラスは、高周波用基板として用いる際に生じる熱を高い効率で放熱するために、室温における熱伝導率λが2.0W/m・K以上であると好ましい。熱伝導率λは、より好ましくは2.3W/m・K以上、更に好ましくは2.5W/m・K以上、より更に好ましくは2.8W/m・K以上、特に好ましくは3.0W/m・K以上である。熱伝導率はJIS. R. 1611.:2010に記載の方法を用いて測定することができる。
【0047】
高周波用基板は、一般的に相互に対向する2つの主面を備え、本発明の高周波用基板として用いる場合の主面の面積は75cm2以上が好ましく、より好ましくは100cm2以上、さらに好ましくは150cm2以上、よりさらに好ましくは300cm2以上、特に好ましくは700cm2以上である。高周波用基板の形状は上記の面積であれば用途に合わせて自由に設計できる。
【0048】
本発明の高周波用基板の板厚は、好ましくは1mm以下、より好ましくは0.8mm以下、更に好ましくは0.7mm以下である。板厚が上記範囲であると、基板を積層して回路を形成する際に、全体を薄くできるため好ましい。一方、板厚が好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.2mm以上であると、強度を確保できる。
【0049】
更に、本発明の高周波用基板は、主面の少なくとも一方に開口部を有する孔を有していてもよい。孔はもう一方の主面に連通する貫通孔であってもよく、未貫通のボイドであってもよい。これらの孔に導体が充填され、または孔壁に導体膜が形成されることによって、回路として使用されうる。
【0050】
上記孔の直径は、例えば200μm以下であり、好ましくは100μm以下である。一方、孔の直径は好ましくは1μm以上である。
【0051】
<結晶化ガラスの製造方法>
次に、本発明のBa-Si-Oのみからなる結晶相を有する結晶化ガラスの製造方法について説明する。以下では、板状ガラスの製造方法について説明するが、ガラスの形状は目的に応じて適宜調整できる。本発明の製造方法は、
BaO及びSiO2を含有する原料を溶融成形して非晶質ガラスを得て(以下、「非晶質ガラス成形工程」という。)、
前記非晶質ガラスを600℃以上1000℃未満の処理温度で保持することで結晶化させる(以下、「結晶化工程」という。)、
ことを含む。以下で、各工程の詳細を説明する。
【0052】
(非晶質ガラス成形工程)
本工程では、BaO及びSiO2を含有する原料を溶融成形して非晶質ガラスとする。溶融成形の方法は特に限られないが、例えば、以下で示すガラス組成となるようにガラス原料を調合したガラス原料を白金るつぼに入れ、1300℃~1700℃の電気炉に投入して溶融し、脱泡し、均質化する。得られた溶融ガラスを室温の金属型(例えばSUS定盤)に流し込み、ガラス転移点の温度において3時間程度保持した後、室温まで冷却してガラスブロックを得る。
【0053】
このように、非晶質ガラスは溶融状態から所望の形状に成形できるため、セラミックスなどのように粉体やスラリーで成形し、焼成するプロセスや、合成石英などのようにインゴットを製造後、所望の形状に切り出すプロセスに比べ、成形のしやすい点や大面積化しやすい点で優位性があり、また、後述する結晶化工程における加熱処理を鑑みても、安価で製造できる。
【0054】
以下で、非晶質ガラスの組成について説明する。組成は、BaO及びSiO2を含有する限り特に限られないが、例えば酸化物基準のモル%表示で以下の組成が挙げられる。ここで0%とは、その組成を含有しない場合を含む。
【0055】
(組成1)
SiO2:68~78%
Al2O3:0~5%
BaO:24~35%
Li2O:0~6%
Na2O:0~3%
K2O:0~3%
ZrO2:0~4%
TiO2:0~4%
を含有し、
(Li2O+Na2O+K2O):0~6%を満たす。
【0056】
以下で、各成分について詳細を説明する。
【0057】
SiO2はガラスのネットワーク構造を形成する成分であり、必須の成分である。また、析出結晶であるBaSi2O5と、Ba2Si4O10の構成成分でもある。本非晶質ガラスのSiO2の含有量は、好ましくは68%以上であると、非晶質ガラスの化学的耐久性を上げることができるとともに目的の結晶を析出させることができる。SiO2の含有量は、より好ましくは68.5%以上であり、更に好ましくは69%以上であり、より更に好ましくは69.5%以上である。一方、非晶質ガラスのSiO2の含有量が78%以下であると、非晶質ガラスの溶解時の粘性が低下し溶融しやすくなるとともに目的とする結晶を析出させることができる。SiO2の含有量は、好ましくは75%以下、より好ましくは74%以下、さらに好ましくは73%以下、よりさらに好ましくは72%以下である。
【0058】
BaOは、析出結晶の構成成分であり、必須の成分である。非晶質ガラスのBaOの含有量は、好ましくは24%以上であると、非晶質ガラスの溶解時の粘性が低下し溶融しやすくなるとともに目的とする結晶を析出させることができる。BaOの含有量は、より好ましくは25%以上、更に好ましくは26%以上、最も好ましくは27%以上である。一方、BaOの含有量は、好ましくは35%以下であると、非晶質ガラスの化学耐久性を向上させるとともに目的とする結晶を析出させることができる。BaOの含有量は、より好ましくは33%以下、更に好ましくは32%以下、より更に好ましくは31%以下、特に好ましくは30%以下である。
【0059】
Li2Oは、任意の成分であり含有してもよく、Ba-Si-Oのみからなる結晶が生成する温度を低下させるとともに結晶成長速度も増加させる。Li2Oの含有量は、好ましくは0%超であり、より好ましくは0.01%以上であり、更に好ましくは0.05%以上であり、より更に好ましくは0.1%以上、特に好ましくは0.2%以上、ことさら特に好ましくは0.5%以上、最も好ましくは1%以上である。一方、Li2Oの含有量は、好ましくは6%以下であると結晶化ガラスの誘電正接の増加や結晶化挙動に影響する非晶質ガラスの分相化、Liを含有する結晶の析出を抑えることができる。Li2Oの含有量は、より好ましくは5%以下、更に好ましくは4%以下である。
【0060】
Al2O3は、任意の成分であり含有してもよく、非晶質ガラスの流し出し時の結晶化の抑制や非晶質ガラスの化学耐久性の向上に寄与する。Al2O3を含有する場合、Al2O3の含有量は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.05%以上、更に好ましくは0.1%以上である。一方、Al2O3は好ましくは5%を超えない範囲で含有することで、結晶化ガラスの誘電正接の増加を抑えることができる。Al2O3の含有量は、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下、より更に好ましくは1%以下、特に好ましくは0.9%以下、殊更に好ましくは0.8%以下、殊更特に好ましくは0.7%以下、最も好ましくは0.5%以下である。
【0061】
Na2Oは任意の成分であり、Li2Oと同様にBa-Si-Oのみからなる結晶が生成する温度を低下させるとともに結晶成長速度の増加に寄与する。Na2Oを含有する場合、Na2Oの含有量は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.05%以上、更に好ましくは0.1%以上である。一方、Na2Oは好ましくは3%を超えない範囲で含有することで、結晶化ガラスの非晶質部分の誘電正接の増加を抑えることができる。Na2Oの含有量は、より好ましくは2%以下、更に好ましくは0.9%以下、より更に好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.7%以下、最も好ましくは0.5%以下である。
【0062】
K2Oは任意の成分であり、Li2Oと同様にBa-Si-Oのみからなる結晶が生成する温度を低下させるとともに結晶成長速度の増加に寄与する。さらにK2Oを含有することで誘電正接の低いK2Ba7Si16O40が析出し、誘電正接を低下させることができる。K2Oを含有する場合、K2Oの含有量は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.5%以上、特に好ましくは1%以上である。一方、K2Oは好ましくは3%を超えない範囲で含有することで、結晶化ガラスの非晶質部分の誘電正接の増加を抑えることができる。K2Oの含有量は、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下である。
【0063】
Li2O、Na2O及びK2Oは任意の成分であり、これらの合計の含有量(Li2O+Na2O+K2O)は好ましくは0~6%であるが、含有することで結晶化開始温度を低下させるため、(Li2O+Na2O+K2O)は、より好ましくは0%超である。(Li2O+Na2O+K2O)は、更に好ましくは0.2%以上であり、より更に好ましくは0.5%以上、特に好ましくは1%以上である。一方、Li2O、Na2O、K2Oの合計量が6%以下であると結晶化ガラスの非晶質部分の誘電正接の増加を抑えることができる。(Li2O+Na2O+K2O)は、より好ましくは5.5%以下、更に好ましくは5%以下、特に好ましくは4%以下、最も好ましくは3%以下である。
【0064】
ZrO2は任意の成分であり結晶化処理に際して、結晶核を構成する成分であり、含有してもよい。ZrO2の含有量は、好ましくは0%超であり、より好ましくは0.01%以上、更に好ましくは0.1%以上、より更に好ましくは0.5%以上である。一方、ZrO2は好ましくは4%を超えない範囲で含有することで、誘電正接の増加を抑えることができる。ZrO2の含有量は、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0065】
TiO2は任意の成分であり、結晶化処理に際して、結晶核を構成する成分であり、含有してもよい。TiO2の含有量は、好ましくは0%超であり、より好ましくは0.01%以上、更に好ましくは0.1%以上、より更に好ましくは0.5%以上である。一方、TiO2は好ましくは4%を超えない範囲で含有することで、誘電正接の増加を抑えることができる。TiO2の含有量は、より好ましくは3%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0066】
また、ZrO2およびTiO2の合計含有量は、好ましくは0%超であり、より好ましくは0.5%以上であり、更に好ましくは1%以上である。一方、ZrO2およびTiO2の合計含有量は、好ましくは5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、更に好ましくは2%以下である。
【0067】
P2O5は、必須ではないが、ガラスの分相を促して結晶化を促進する効果があり、含有してもよい。P2O5を含有する場合の含有量は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.2%以上である。一方、P2O5の含有量が多すぎると、結晶化処理時に表面結晶化が生じ、結晶化ガラスの加工時に割れるおそれがある。P2O5の含有量は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.6%以下、特に好ましくは0.5%以下である。
【0068】
その他の成分についても、性能を妨げない範囲で含有できる。その他の成分としては、例えばB2O3、MgO、CaO、SrO、ZnO、SnO2,CeO、Fe2O3、Rb2O、Y2O3、SO3、Cl、F、Ag2O、WO3、MnO2、CoO、Sb2O3、Au2O3、及びCr2O3などが挙げられ、金属イオンであってもよいし、酸化物であってもよい。これらの含有量は好ましくは5%以下であり、更に好ましくは3%以下、より更に好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下、こと更に好ましくは0.5%以下である。
【0069】
(組成2)
また、本発明の結晶化ガラスの組成は、下記の試験方法により特定される組成αを有してもよい。組成αを有する結晶化ガラスは、下記試験方法により求められる格子定数の差分の二乗総和と10GHzにおける誘電正接とが線形関係になることが好ましい。
【0070】
試験方法:
(i)組成αを有する複数の非晶質ガラスを準備し、結晶化条件を変えた複数サンプルを作製する。
(ii)前記各サンプルの、10GHzにおける誘電正接を測定する。
(iii)各サンプルにおいて、結晶相中のBaSi2O5の格子定数ABS2、BBS2、CBS2と、前記結晶相中のBa2Si4O10の格子定数AB2S4、BB2S4、CB2S4についてリートベルト解析を用いて測定する。
(iv)下記式により、前記各サンプルにおいて格子定数の差分の二乗総和を求める。
ICSD Collection Code:15486に記載の、理想的な結晶状態におけるBaSi2O5の格子定数をA’BS2、B’BS2、C’BS2とし、ICSD Collection Code:9339に記載の、理想的な結晶状態におけるBa2Si4O10の格子定数をA’B2S4、B’B2S4、C’B2S4とすると、
(格子定数の差分の二乗総和)=(ABS2-A’BS2)2+(BBS2-B’BS2)2+(CBS2-C’BS2)2+(AB2S4-A’B2S4)2+(BB2S4-B’B2S4)2+(CB2S4-C’B2S4)2
(v)前記複数サンプルの前記格子定数の差分の二乗総和と、前記複数サンプルの10GHzにおける誘電正接との相関関係を求める。
【0071】
なお、ここで、各サンプルの格子定数の差分の二乗総和と10GHzにおける誘電正接のプロットが線形関係にあるとは、最小二乗法で線形近似した際、相関係数R2値が0.85以上である状態を指す。
【0072】
格子定数の差分の二乗総和は結晶相の歪み度合を表す値であるから、格子定数の差分の二乗総和と10GHzにおける誘電正接が線形関係にある時、10GHzにおける誘電正接は、BaSi2O5とBa2Si4O10の結晶相の歪み度合いの増加に従って、線形に増加する。この時、結晶化ガラスの結晶相にはBaSi2O5とBa2Si4O10のみが支配的に存在すると考えられる。従って、格子定数の差分の二乗総和と10GHzにおける誘電正接が線形関係になるような組成αを選択することで、結晶化工程によりBaSi2O5とBa2Si4O10を支配的に析出させられる。
【0073】
すなわち、組成αを有する場合、格子定数の差分の二乗総和をX、10GHzにおける誘電正接をYとしたとき、任意の傾きa、切片bを用いて下記関係が成り立つことが好ましい。
Y=aX+b かつ
a>0 かつ
b<0.0030
【0074】
切片bは、b<0.0030であることが好ましい。切片bは結晶相の歪度合いが0の時に取り得る10GHzにおける誘電正接の値であり、少なくともb<0.0030となる組成αを選択することにより、結晶化工程の最適化により結晶相の歪みを抑制することで、10GHzにおける誘電正接tanδを0.0030以下にしやすくなる。より好ましくはb≦0.0025、更に好ましくはb≦0.0020、より更に好ましくはb≦0.0015、特に好ましくはb≦0.0010、最も好ましくはb≦0.0008である。
【0075】
一般的に、a>0である。好ましくはa<0.060であり、より好ましくはa<0.050であり、更に好ましくはa<0.040であると、歪みの増加に伴い誘電正接が増加しにくい組成であり、製造条件を調整しやすい。
【0076】
本発明の結晶化ガラスの製造に用いられる非晶質ガラスは、以上のような組成1又は組成2を有することが好ましい。
【0077】
(結晶化工程)
次に非晶質ガラス成形工程で得られた非晶質ガラスを600℃以上1000℃未満の処理温度で保持することで加熱処理し、Ba-Si-Oのみからなる結晶を析出させることにより、結晶化ガラスにできる。処理温度は、600℃以上であると結晶化が進行する。処理温度は、より好ましくは630℃以上、更に好ましくは660℃以上、より更に好ましくは690℃以上、特に好ましくは710℃以上である。処理温度が上記範囲であると、結晶化が十分に進み、また結晶化速度が速くなり、析出結晶の歪みを抑制し、結晶子径を大きくできるため好ましい。
【0078】
一方、処理温度は、好ましくは980℃以下、より好ましくは950℃以下、更に好ましくは900℃以下、より更に好ましくは870℃以下、特に好ましくは850℃以下である。処理温度が上記範囲であると、Ba-Si-Oのみからなる結晶を主相とすることができ、局所的に結晶が析出することを避けられる。また加熱処理にかかるエネルギーやコストをコーディライトおよびインディアライトを主相とする結晶化ガラスよりも抑えることができる。
【0079】
処理温度は、より詳細には硝材によって調整されることが好ましい。非晶質ガラスを下記手順で示差走査熱量計(DSC)により測定した際に算出される、ガラス転移点Tg以上の温度であると、結晶核および結晶成長の速度が速いため好ましい。本願におけるDSCによる結晶化温度の測定は、以下の要領で実施される。
【0080】
(DSCによる結晶化温度)
粉砕した非晶質ガラス粉末に対して示差走査熱量計(DSC)による測定を行い、得られた発熱ピーク温度にて熱処理したサンプルのPXRD測定を行い、結晶化を確認した温度を結晶化温度と決定する。DSC測定時は非晶質ガラス粉末の粒子径は106~180μm、昇温速度は10℃/minにて室温から1200℃まで測定を行う。
【0081】
上記処理温度における保持時間は、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、特に好ましくは6時間以上である。保持時間が上記範囲であると、結晶化が十分に進む。一方、加熱時間は長時間の熱処理は加熱処理にかかるコストを増加させるため、好ましくは48時間以下であり、より好ましくは40時間以下、特に好ましくは30時間以下である。
【0082】
非晶質ガラスを上記処理温度で保持する間、処理温度は上記の範囲内である限り、一定でもよく、上記の範囲内で昇温・降温してもよい。例えば、室温から第一の処理温度まで昇温して一定時間保持した後、室温まで徐冷してもよく、室温から第一の処理温度まで昇温して一定時間保持した後、続けて、第一の処理温度より高温である第二の処理温度に一定時間保持後、室温まで徐冷する二段階の加熱処理を選択してもよい。二段階の加熱処理であると、結晶子径を均一に制御できるため好ましい。
【0083】
二段階の加熱処理による場合、第一の処理温度は、そのガラス組成において結晶核生成速度が大きくなる温度域が好ましく、第二の処理温度は、そのガラス組成において結晶成長速度が大きくなる温度域が好ましい。結晶核生成速度が大きくなる温度とは、前記DSCによるガラス転移点Tg以上、結晶化開始温度Tx以下の間の温度が相当し、結晶成長速度が大きくなる温度とは、前記DSCによる結晶化開始温度Tx以上の温度を指す。
【0084】
本結晶化ガラスはLi
2O、Na
2O、K
2Oからなるアルカリ金属を含有することによって結晶化開始温度:Txを減少させ、より低温での結晶化処理を行うことができる。例えば
図5にはXLi
2O-(30-X)BaO-70SiO
2組成においてX=0.2、0.5、1.0、2.0、3.0、5.0と変化させた際のDSC測定結果を示した。
図5中の矢印が示すピークが、結晶化のピーク温度を示している。
図5の結果よりLi
2Oが大きくなるほど結晶化開始温度:Txが減少していることが分かる。なお、
図5におけるDSCの測定では、結晶化ガラスの粒子径は106~180μmであり、昇温速度は10℃/minに設定した。
【0085】
昇温速度は、特に限られないが、好ましくは10℃/min以下であると、昇温時に生じる非晶質相および結晶相の膨張率のミスマッチによる割れを抑えることができる。一方、昇温速度は一般的に5℃/min以上である。
【0086】
降温速度は、特に限られないが、好ましくは10℃/min以下であり、より好ましくは5℃/min以下、更に好ましくは1℃/min以下であると、降温時に結晶化ガラスの反りおよび非晶質相および結晶相の膨張率のミスマッチによる割れを抑えることができる。一方、降温速度は一般的に0.5℃/min以上である。
【0087】
以上の工程により、非晶質ガラス内にBa-Si-Oのみからなる結晶が析出し、上述の結晶化ガラスを製造できる。
【0088】
(高周波用基板の製造方法)
上記結晶化ガラスからなる高周波用基板を製造してもよい。この場合、結晶化ガラスは相互に対向する主面を有する板状に成形されることが好ましい。
【0089】
更に、高周波用基板に孔を形成する工程を有してもよい。孔を形成する手段としては、好ましくはレーザが用いられる。
【0090】
レーザの種類は特に限られないが、例えばCO2レーザ、He-Neレーザ、Arイオンレーザ、エキシマXeFレーザ、Er:YAGレーザ、Nd:YAGレーザ、Nd:YAGレーザの第2高周波、第3高周波、ルビーレーザ、ファイバーレーザなどが挙げられる。レーザ波長は例えば190nm~10.6μmである。
【0091】
レーザ加工は、孔周辺へのクラック発生を抑制するため、なるべく熱影響を抑えた手法が好ましく、例えば短波長をもつレーザを用いることができる。波長は例えば1064nm以下、より好ましくは780nm以下、更に好ましくは532nm以下である。また、CO2レーザなどの長波長側のレーザを用いる場合は、レーザを短パルス発振するなどすることで、熱影響を抑制できる。
【実施例】
【0092】
次に、以下の実験例により本発明をさらに説明する。下記実験例では、下記表1及び表2の組成を有するガラスを使用した。なお、実験例1~47はいずれも実施例である。
【0093】
【0094】
【0095】
次に、各実験例の詳細について説明する。実験例の実験条件および結果について、下記表3~6、及び
図1~3にまとめた。
【0096】
(実験例1)
表1のFで示したガラス組成となるようにガラス原料を調合し、500gのガラスが得られるように秤量した。ついで、混合したガラス原料を白金るつぼに入れ、1600℃の電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡し、均質化した。得られた溶融ガラスを室温の金属型(例えばSUS定盤)に流し込み、金属型を炉内に設置してガラス転移点の温度において3時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却して非晶質ガラスブロックを得た。
【0097】
次に、得られた非晶質ガラスブロックを長さ30.0mm、幅30.0mm、厚さ2.0mmの直方体に加工し、30.0mm×30.0mmの面を鏡面に研磨した。加工後の非晶質ガラスを炉内に設置し、720℃まで5℃/minの速度で昇温し、720℃で6時間加熱した後、5℃/minの速度で室温まで冷却し、結晶化ガラスを得た。得られた結晶化ガラスの物性を、下記方法で評価した。
【0098】
(非晶質ガラスおよび結晶化ガラスの誘電特性測定)
得られた非晶質ガラスおよび結晶化ガラスを長さ30.0mm、幅30.0mm、厚さ0.5mmの直方体に加工し、30.0mm×30.0mmの面を鏡面に研磨した。ネットワークアナライザを用いて、スリップポスト誘電体共振法(SPDR法)により、10GHzにおける比誘電率εrおよび誘電正接tanδを測定した。
【0099】
(結晶化ガラスの結晶化度・結晶子径・歪み測定)
得られた結晶化ガラスを下記手順でPXRD測定を行い、結晶種の同定を行った。その後、リートベルト解析を行い、得られた結果より結晶化度、{400}、{020}および{002}面での平均結晶子径、並びに、{400}、{020}および{002}面での歪みを算出した。
【0100】
(PXRD測定サンプル作製条件)
SPDR法に供した結晶化ガラスをメノウ乳鉢およびメノウ乳棒を用いて粉砕し、PXRD測定用粉末を得た。
【0101】
(PXRD測定条件)
得られたPXRD測定用粉末について、以下の条件で粉末X線回折を行い、析出結晶を同定した。
結晶種の同定にはICSD無機結晶構造データベースおよびICDD粉末回折データベースに収録されている回折ピークパターンを用いた。
測定装置:リガク社製 SmartLab
測定方法:集中法
管電圧:45kV
管電流:200mA
使用X線:CuKα線
測定範囲:2θ=10°~80°
スピード:10°/分
ステップ:0.02°
【0102】
(リートベルト解析測定サンプル作製条件)
PXRD測定に用いた結晶化ガラス粉末(PXRD測定用粉末)を500μmのメッシュに通した後、標準物質としてZnOを10wt%添加し、リートベルト解析測定用粉末を得た。
【0103】
(リートベルト解析条件)
得られたリートベルト解析測定用粉末について、以下の条件で粉末X線回折を行い、得られた結果を用いてリートベルト解析を行った。
測定装置:リガク社製 SmartLab
測定方法:集中法
管電圧:45kV
管電流:200mA
使用X線:CuKα線
測定範囲:2θ=10°~90°
スピード:5°/分
ステップ:0.01°
【0104】
上記の条件で取得した粉末X線回折プロファイルをリートベルト解析プログラム:Rietan FPを用いて解析を行った。各サンプルの解析は、解析の収束の良否を表すRwpが10以下となるように収束させた。リートベルト法については、日本結晶学会「結晶解析ハンドブック」編集委員会編、「結晶解析ハンドブック」(協立出版 1999年刊、p492~499)に記載されている。
【0105】
(結晶化度の算出)
リートベルト解析より得られた結晶相および残ガラス相の重量比率に対して、添加した10wt%のZnOを差し引き、残りの相で合計100wt%になるように計算を行った。
【0106】
(結晶子径の算出)
リートベルト解析より得られたBaSi2O5およびBa2Si4O10の{400}、{020}、{002}面のピークに関する2θ、半値全幅(FWHM):β、測定に用いたCu-Kα線の波長λCu-Kα:1.540593Åを用いてScherrerの式より結晶子サイズを算出した。その際のScherrer定数:Kは0.9を使用した。
結晶子径 = K×λCu-Kα/(β×cosθ)
【0107】
(歪みの算出)
リートベルト解析より得られる歪み度:Dd/dを用いた。
【0108】
(実験例2~22)
実験例2~22では、実験例1と同様の組成・方法で非晶質ガラスを形成し、加熱処理方法を変更して結晶化させた。実験例1からの加熱処理方法の変更点および実験結果は下記表3~6に記載した。
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
(実験例23~47)
実験例23~47では、硝材および加熱処理の方法を変更して実験を行った。実験例1からの変更点および結果を表7~10にまとめた。
【0114】
実験例23~36では、ガラスのLi2O添加量を0~5mol%の範囲で変更し、また加熱処理の条件を変更し実験を行った。
【0115】
実験例37~46では、添加する組成を変えて実験した。実験例37~39では、Na2O添加量を0~2mol%の範囲で変更し、実験例40~43ではk2O、ZrO2、TiO2の添加量を変更し、また加熱処理の条件を変更し実験を行った。実験例44~46では、Al2O3とLi2Oの添加量、加熱処理の条件を変更し実験を行っている。
以上の実験の条件と結果を下記表7~10にまとめた。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
図1には、BaSi
2O
5およびBa
2Si
4O
10の結晶化度の合計と誘電正接tanδの関係をプロットした。なお、BaSi
2O
5およびBa
2Si
4O
10の結晶化度の影響を見るため、Li系結晶が発生した組成Hのサンプル(実験例32~36)は除外している。
図1より、実験例のBaSi
2O
5およびBa
2Si
4O
10の結晶化度の合計は15~50wt%であり、誘電正接tanδは0.030以下であった。更に、結晶化度が31%以下のサンプルでは、誘電正接tanδが0.010以下であった。
【0121】
また、Li
2Oを5mol%含有する組成Hを用いた実験例32~36の一部では、Li系結晶Li
2Si
2O
5が析出した。
図2には、組成HにおけるLi
2Si
2O
5の結晶化度と、誘電正接tanδの関係をプロットした。
図2に示したように、Li
2Si
2O
5結晶が増加すると、誘電正接tanδが上昇する傾向にあることが分かる。例えば、Li
2Si
2O
5結晶が析出したサンプルは、同レベルのBaSi
2O
5およびBa
2Si
4O
10の結晶化度合計値を有し、Li系結晶が析出していない他のサンプルに比べ、誘電正接tanδが高い値を示した。従って、Li
2Oを添加する場合は、Li系結晶が析出しないよう結晶化工程を実施することが好ましい。
【0122】
図3には、上述の指標1の格子定数の差分の二乗総和(Sum of Squared difference of lattice constant)と誘電正接tanδの関係をプロットした。なお、上述のLi系結晶の影響を除外するため、組成Hのサンプル(実験例32~36)の結果はプロットしていない。また、
図3中の直線は、組成Fのサンプルについての近似直線を示している。
図3から、格子定数の差分の二乗総和が減少すると、結晶の歪みを抑制し、誘電正接tanδを小さくできることが分かる。特に、子定数の差分の二乗総和が0.025以下であると、誘電正接tanδが0.0010以下であった。また、組成Fでは、格子定数の差分の二乗総和と、誘電正接tanδが線形関係にあることが分かる。従って、組成Fを用いたサンプルでは、BaSi
2O
5とBa
2Si
4O
10の結晶相のみを選択的に析出させられたと考えられる。
【0123】
図4には、指標2の、BaSi
2O
5の結晶化度とBaSi
2O
5の{002}面、{020}面、および{400}面の各面における歪みの積の合計値と、Ba
2Si
4O
10の結晶化度とBa
2Si
4O
10の{002}面、{020}面、および{400}面の各面における歪みの積の合計値との和(結晶化度×歪みの合計)と、結晶化ガラスの誘電正接tanδの関係をプロットした。このように、結晶化ガラス中の歪の総量を示す、結晶化度×歪みの合計の値を小さくすることで、誘電正接tanδを有意に小さくできることが分かる。特に、結晶化度×歪みの合計が0.019以下であると、誘電正接tanδは0.010以下であった。
【0124】
なお、
図3、4において、Na
2Oを2wt%含有する組成Kと、Ti
2Oを2wt%含有する組成Nを用いた実験例39、実験例41では、測定された歪みの量に対して誘電正接tanδが高くなった。これは、Na
2OやTi
2Oはガラスの誘電正接増加に寄与するという理由で、誘電正接tanδが上昇するためと考えられる。
【0125】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2020年3月30日出願の日本特許出願(特願2020-060908)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。