(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】合成皮革の製造方法、合成皮革の製造装置
(51)【国際特許分類】
D06N 3/14 20060101AFI20250121BHJP
B05C 5/00 20060101ALI20250121BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20250121BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20250121BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20250121BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20250121BHJP
B32B 37/00 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
D06N3/14 102
B05C5/00 101
B05D1/26 Z
B05D7/24 302T
B32B5/28 Z
B32B27/40
B32B37/00
(21)【出願番号】P 2024550720
(86)(22)【出願日】2024-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2024018930
【審査請求日】2024-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2023093011
(32)【優先日】2023-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023102424
(32)【優先日】2023-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 浩之
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-046515(JP,A)
【文献】特開2018-127736(JP,A)
【文献】特開2023-065062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N1/00-7/06
B05D1/00-7/26
B41J2/00-2/525
B41M5/00-5/52
C09D11/00-13/00
B05C5/00-5/04
B32B1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質基材と、表皮層を含む合成皮革、及び/又は、人工皮革の製造方法であって、
前記繊維質基材が、不織布、編物、織物からなる群から選択され、
前記繊維質基材に前記表皮層をインクジェット方式により
ウレタン樹脂水分散体を塗布して形成することにより、合成皮革、及び/又は、人工皮革を得る工程を含む、製造方法。
【請求項2】
前記ウレタン樹脂水分散体を塗布した後、乾燥して、前記表皮層を形成する、請求項1に記載の合成皮革、及び/又は、人工皮革の製造方法。
【請求項3】
前記ウレタン樹脂水分散体が、ウレタン樹脂組成物と水を含み、
前記ウレタン樹脂組成物が、アニオン性基を有するもの、及び/又は、ノニオン性基を有するものである請求項
1又は2に記載の合成皮革、及び/又は、人工皮革の製造方法。
【請求項4】
前記ウレタン樹脂水分散体が、
顔料を含む、請求項
1又は2に記載の合成皮革、及び/又は、人工皮革の製造方法。
【請求項5】
前記顔料が、カーボンブラックあるいは酸化チタンである請求項4に記載の合成皮革、及び/又は、人工皮革の製造方法。
【請求項6】
前記表皮層の厚みが、0.5~100μmである請求項1又は2に記載の合成皮革、及び/又は、人工皮革の製造方法。
【請求項7】
前記合成皮革、及び/又は、人工皮革が更に、中間層を含み、
前記繊維質基材に前記中間層をインクジェット方式で形成することにより、中間層を備えた繊維質基材を得る工程を含む、請求項1又は2に記載の合成皮革、及び/又は、人工皮革の製造方法。
【請求項8】
前記表皮層の表面上に、さらに表面処理剤による表面処理層を形成する工程を含む、請求項1又は2に記載の合成皮革、及び/又は、人工皮革の製造方法。
【請求項9】
繊維質基材と、表皮層を含む合成皮革、及び/又は、人工皮革の製造装置であって、
前記繊維質基材が、不織布、編物、織物からなる群から選択され、
前記繊維質基材搬送手段、及び/又は、インクジェットヘッド移動手段と、インクジェットヘッドと、乾燥機とを備え、
前記繊維質基材に
前記表皮層をインクジェット方式により
ウレタン樹脂水分散体を塗布して形成することにより、合成皮革、及び/又は、人工皮革を得る製造装置。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ウレタン樹脂は、その機械的強度や風合いの良さから、合成皮革(人工皮革含む)、コーティング剤、接着剤、手袋、衣料等に広く利用されている。前記ウレタン樹脂組成物は、これまでN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を含有する溶剤系のウレタン樹脂組成物が主流である。一方、欧州でのDMF規制、中国や台湾でのVOC排出規制の強化、大手アパレルメーカーによるDMF規制等を背景に、ウレタン樹脂組成物を水中に分散させたウレタン樹脂水分散体(ポリウレタンディスパージョン)が、上記用途に利用され始めている。
【0002】
合成皮革は、基材上に合成樹脂を塗布することで、天然皮革のような質感を再現したものである。合成皮革は、基材及び表皮層と呼ばれる層を少なくとも有しており、さらに、中間層と呼ばれる微多孔層を基材と表皮層の間に構成し、高級な質感や風合いを得る場合もある。また、各層の接着性を高めるため、各層の間に接着層を有する場合もある。さらに、触感や艶感を出したり、色柄を付けたりするために、表皮層の上に、さらに表面処理層や加飾層を形成する場合もある。
【0003】
ウレタン樹脂水分散体を用いた具体的な合成皮革の製造方法としては、表面の平滑性を保ち、ごみやほこりから合成皮革表面を保護し、又は天然皮革を模するべく意匠性(凹凸模様やシボ模様等)を付与するために、離型紙を使用した手法が主流である(例えば、特許文献1を参照)。当該手法は、離型紙に表皮層用ウレタン樹脂組成物塗料を塗布し乾燥固化し、さらにその上に前記発泡処理を施した中間層用ウレタン樹脂組成物塗料を塗布し乾燥固化する。その後、中間層塗面側を基布等の基材に熱圧着し、冷却後離型紙を剥離する。
【0004】
上記合成皮革の製造方法では、離型紙を使い捨てすることとなり、コスト面と環境負荷の面で潜在的な課題があった。また、表皮層・中間層ともに塗料化が必要であり、製造後に使用しなかった塗料の大量廃棄や、使用製造装置や機器等の洗浄による廃液も問題となっていた。
【0005】
一方、近年ではカラフルさやデザインの変化が要求されることもあり、意匠性の更なる向上のため、合成皮革表面へ直接インクジェットで描画する方法や、転写フィルムを用いた転写印刷法により、加飾層を施す取り組みもなされてきた(例えば、特許文献2、特許文献3を参照)。しかしながらこの層形成法では、加飾はできるものの離型紙やの削減にはなんらの貢献もしていなかった。
【0006】
また、例えば車両用シートの製造においては、別途製造した合成皮革シートを裁断、縫製し、車両シート用のクッション材に被せている。しかしながら、縫製作業は手作業となり手間がかかる上、出来上がりのばらつきも大きく、裁断による切れ端の廃棄も多くなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-94268号公報
【文献】特開2008-57062号公報
【文献】特開2007-111867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、離型紙を使用しない、合成皮革の製造方法を提供することである。
【0009】
また、本発明が解決しようとする課題は、縫製工程を削減した車両用シート用の合成皮革の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、表皮層を含む合成皮革の製造方法であって、前記表皮層をインクジェット方式により形成する工程を含む、合成皮革の製造方法、及び、基材搬送手段又はインクジェットヘッド移動手段と、インクジェットヘッドと、乾燥機とを備え、インクジェット方式により表皮層を形成する、合成皮革の製造装置により、上記課題を解決するものである。
【0011】
インクジェット方式は、微小な液滴を基材に吐出して画像を形成する方法として知られている。また、低粘度のインクでないとインクジェット吐出はできない。そのため、インクジェットインクと比較して超高粘度である、合成皮革用塗料を吐出することはできず、インクジェット方式を合成皮革の製造に用いることはできないと考えるのが通常であった。
【0012】
しかしながら、本発明者は、合成皮革用塗料の性質を鋭意検討した結果、ウレタン樹脂水分散体であれば、比較的容易にインクジェット吐出可能な粘度に調整できることを見出した。従来の溶剤系ウレタン樹脂組成物であれば、ウレタン樹脂組成物が溶剤に溶解しているため、溶剤を増やして希釈したとしても、樹脂の絡み合いにより低粘度化が困難である。一方、当該ウレタン樹脂水分散体は、ウレタン樹脂組成物の粒子が水に分散されていて、当該樹脂粒子同士の相互作用は比較的小さいため、水系媒体で希釈することで、充分な低粘度化が可能である。
【0013】
すなわち、本発明者は、合成皮革用塗料の性質を検討することにより、本来は高粘度である合成皮革用塗料が、インクジェット吐出可能な粘度に調整可能であることを見出した。その結果、本発明者は、ウレタン樹脂水分散体を基布等の基材上にインクジェット吐出すれば、剥離紙を使用せずとも合成皮革を製造でき、さらに塗料の塗布と比較して廃棄塗料や洗浄廃液を削減できることを見出した。また、本発明者は、顔料を含むウレタン樹脂水分散体を基布等の基材上にインクジェット吐出すれば、加飾も層形成と同時に行うことができ、加飾層の追加形成に伴う不良も起こらないことに気が付いた。
【0014】
さらに、本発明者は、検討を行い、インクジェット吐出可能な粘度に調整した合成皮革用インクであっても、基布等の基材上にインクジェット方式により塗布して乾燥することで、合成皮革を得ることができることを見出した。
【0015】
さらに、本発明者は、ウレタンアクリレートを含む活性エネルギー線硬化型塗料を重合させることにより、合成皮革用塗料を塗布した場合と同様の合成皮革が得られることに気が付いた。また、このようなウレタンアクリレートを含む活性エネルギー線硬化型塗料も、インクジェット吐出可能な粘度に調整可能であることに気が付いた。
【0016】
すなわち、本発明者は、ウレタンアクリレートを含む活性エネルギー線硬化型塗料を基布等の基材上にインクジェット吐出し、それを重合乾燥させれば、剥離紙を使用せずとも合成皮革を製造でき、さらに塗料の塗布と比較して廃棄塗料や洗浄廃液を削減でき、溶剤塗料と比較してVOCも削減できることを見出した。また、本発明者は、顔料とウレタンアクリレートを含む活性エネルギー線硬化型塗料を基布等の基材上にインクジェット吐出し、それを重合乾燥させれば、加飾も層形成と同時に行うことができ、加飾層の追加形成に伴う不良も起こらないことに気が付いた。
【0017】
また、本発明者は、車両シート用のクッション材に直接合成皮革を形成することにより、従来行われてきた別途製造した合成皮革シートを裁断、縫製し、車両シート用のクッション材に被せる工程を削減でき、結果として大幅な工程削減と廃棄物削減による環境負荷低減が実現可能であることに気が付いた。
上記課題を解決する本発明の構成の一例としては、以下の通りである。
【0018】
項1.表皮層を含む合成皮革の製造方法であって、前記表皮層をインクジェット方式により形成する工程を含む、合成皮革の製造方法。
【0019】
項2.少なくともウレタン樹脂組成物と水を含むウレタン樹脂水分散体を、インクジェット方式で塗布した後乾燥して、前記表皮層を形成する工程を含む、項1に記載の合成皮革の製造方法。
【0020】
項3.前記ウレタン樹脂組成物が、アニオン性基を有するもの、及び/又は、ノニオン性基を有するものである項2に記載の合成皮革の製造方法。
【0021】
項4.前記ウレタン樹脂水分散体が、さらに顔料を含む、項2又は項3に記載の合成皮革の製造方法。
【0022】
項5.前記顔料がカーボンブラックあるいは酸化チタンである項4に記載の合成皮革の製造方法。
【0023】
項6.前記合成皮革がさらに繊維質基材を含み、前記繊維質基材の形態が、不織布、編物、織物からなる群から選択される1種である、項1~5のいずれか1項に記載の合成皮革の製造方法。
【0024】
項7.前記表皮層の表面上に、さらに表面処理剤による表面処理層を形成する工程を含む、項1~6のいずれか1項に記載の合成皮革の製造方法。
【0025】
項8.前記合成皮革がさらに中間層を含み、前記中間層がインクジェット方式で形成される工程を含む、項1~7のいずれか1項に記載の合成皮革の製造方法。
【0026】
項9.基材搬送手段又はインクジェットヘッド移動手段と、インクジェットヘッドと、乾燥機とを備え、インクジェット方式により表皮層を形成する、合成皮革の製造装置。
【発明の効果】
【0027】
本発明の製造方法及び製造装置により、離型紙を使用せずに、合成皮革を得ることができるため、廃棄物を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の合成皮革の製造方法の一態様を表す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の合成皮革の製造方法の一態様を表す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の合成皮革の製造方法により得られる合成皮革の一態様を表す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明の合成皮革の製造方法により得られる合成皮革の別の一態様を表す模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の合成皮革の製造方法の一態様を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(合成皮革の製造方法)
本実施形態に係る合成皮革の製造方法は、表皮層を含む合成皮革の製造方法であって、前記表皮層を、インクジェット方式により形成する工程を含む。
【0030】
以下、図面を参照して本発明の製造方法における好ましい態様について説明するが、本発明は以下の内容に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない限り、各構成は適宜変更可能である。また、図面は厳密な再現を行ったものではなく、模式図であり、サイズ等が厳密に表現されているものではない。
【0031】
図3は、本発明の合成皮革の製造方法により得られる合成皮革の一態様を表す模式図である。本発明の製造方法により得られる合成皮革150は、表皮層130を含む。また、合成皮革150は、繊維質基材100上に表皮層130を積層するものであることが好ましく、繊維質基材100と表皮層130の間に中間層120を含むものであることも好ましく、また、合成皮革150は、繊維質基材100と表皮層130の間あるいは繊維質基材100と中間層120の間にプライマー層110を含むものであることも好ましい。さらに、
図3に図示されないが、合成皮革150は、表皮層130上に表面処理層を有するものであることも好ましい。
【0032】
図1は、本発明の製造方法の一態様となる模式図である。まず、基材ロール70から、基材となる繊維質基材100が搬送される。このとき、例えば、繊維質基材100にプライマー層110や中間層120を積層した積層体を基材として搬送してもよい。表皮層形成工程として、繊維質基材100の搬送先に設置された表皮層用インクジェットヘッド31から、表皮層形成用液32が吐出され、必要に応じて表皮層用乾燥機33にて乾燥される。必要に応じて表皮層用膜厚計34にて任意の膜厚になっていることを確認し、必要に応じてガイドロール50を経て、合成皮革150が製品巻取りロール80にて巻き取られる。本発明のごとく各工程をインラインで実施する場合、従来の合成皮革製造方法と比較して、工程削減につながり、合成皮革製造における総合的なCO
2排出量削減が可能となる。さらに、合成皮革製造を全自動化でき、少量生産や適時適量生産も容易となる。
【0033】
(表皮層)
表皮層130は、上記繊維質基材100あるいは中間層120上に形成され、天然の皮革のような質感を再現する機能を有する。
本発明において、表皮層130は、インクジェット方式により形成される。
本発明における表皮層130は、合成皮革の質感を出すために、ウレタン骨格を有する成分を含むものにより構成されていることが好ましい。
【0034】
(表皮層をインクジェット方式により形成する工程)
本発明における表皮層130をインクジェット方式により形成する工程とは、
図1における表皮層形成工程であり、乾燥すると表皮層となる塗料である表皮層形成用液32の塗布方法がインクジェット方式である工程である。表皮層130を形成するのは、繊維質基材100上であってもよいし、中間層120上であってもよいし、その他の層(たとえば、接着層やプライマー層110等)上であってもよい。なお、繊維質基材100に中間層120やプライマー層110等を積層した積層体を総称して基材と称する場合がある。
また、表皮層をインクジェット方式により形成する工程は、1回のみ実施してもよいし、必要な膜厚を得るために2回以上実施してもよい。
当該乾燥すると表皮層130となる表皮層形成用液32としては、合成皮革の質感を出すために、ウレタン骨格を有する成分を含む塗料であることが好ましく、ウレタン樹脂水分散体又はウレタンアクリレートを含む活性エネルギー線硬化型塗料であることがより好ましく、ウレタン樹脂水分散体であることがさらに好ましい。
【0035】
(インクジェット方式)
インクジェット方式とは、インクとも称される液体を、インクジェットヘッドに通じ、当該インクジェットヘッドから当該液体を微細な液滴として基材に吐出することで、基材上に当該液体を塗布することが可能な方式である。
本発明におけるインクジェット方式としては特に限定されないが、例えば連続噴射型(荷電制御型、スプレー型等)、オンデマンド型(ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式等)等が挙げられる。
【0036】
上記表皮層をインクジェット方式により形成する工程とは、
図1における表皮層形成工程であり、例えば具体的には、搬送されてきた繊維質基材100上に位置するインクジェットヘッド31に、表皮層形成用液32を供給し、必要に応じて温度調整を行ったうえで、インクジェット方式により表皮層形成用液32を繊維質基材100上に吐出して塗布する工程である。表皮層130を形成するのは、繊維質基材100上であってもよいし、中間層120上であってもよいし、その他の層(たとえば、接着層やプライマー層110等)上であってもよい。また、当該工程の後、塗布された表皮層形成用液32を乾燥機33にて乾燥する表皮層乾燥工程があることも好ましい。
表皮層をインクジェット方式により形成することにより、離型紙を使い捨てることなく合成皮革を製造できるため、廃棄物削減が可能であり、また従来の製造方法と比較して、洗浄工程も含めた全工程における廃液も削減できる。また、複数の色の表皮層形成用液を使用することで、加飾も同時に行うことができる。
【0037】
搬送される繊維質基材は、別途従来の湿式法により形成された中間層をすでに有していてもよい。すなわち、表皮層形成工程は、繊維質基材100上に実施されてもよいし、繊維質基材上に中間層が形成された積層体を繊維質基材100として搬送し、その上に実施されてもよい。
【0038】
繊維質基材の搬送は、ロール状に巻かれた繊維質基材を製品巻取りロール80やガイドロール50を用いて巻き取ることによる、所謂ロールtoロール方式であってもよいし、一定の大きさにカットされた繊維質基材を1つずつ搬送する、所謂枚葉方式であってもよいが、製造効率の観点から、すべての工程をインライン化可能なロールtoロール方式であることが好ましい。また、ロールtoロール方式は、繊維質基材を連続的に搬送する方式であってもよいし、断続的に搬送するステップ送り方式であってもよい。
【0039】
インクジェットヘッドは、繊維質基材の幅にわたって複数個を並べたラインヘッド式に配置してもよいし、1又は複数個を載せたキャリッジを左右に駆動させながら吐出するシリアルヘッド式で使用してもよいが、製造効率の観点から、高速に塗布が可能なラインヘッド式であることが好ましい。また、多量の吐出を効率的に行うため、ラインヘッド式に配置したインクジェットヘッド群をさらに複数使用してもよい。
【0040】
表皮層形成用液の吐出量は、効率的に膜厚を確保するために、15~5000pLであることが好ましく、15~2500pLであることがより好ましい。吐出量は、使用するインクジェットヘッドの種類の選定により調整することができるが、インクジェットヘッドを駆動する際の駆動波形、インクの粘度・表面張力等の物性によっても微調整することができる。
【0041】
表皮層形成用液32は、インクジェットヘッドに供給する前に、脱気工程を経ていることが好ましい。具体的には、インクジェットヘッドに供給する前に、表皮層形成用液中の溶存酸素濃度が8.0ppm以下となっていることが好ましく、5.0ppm以下となっていることがより好ましい。脱気工程は、インクジェットヘッドに通ずる経路の前に設置した脱気モジュールを通じて行うことが好ましい。当該脱気工程により、インクジェット吐出の安定性が向上し、長時間安定して塗布を行うことができる。
【0042】
また、表皮層形成用液32は、インクジェットヘッドに供給する前に、粗大粒子等を除くフィルターを通じるフィルタリング工程を経ていることが好ましい。具体的には、50μm以下のフィルターを通ずることが好ましい。フィルタリング工程は、インクジェットヘッドに通ずる経路の前に設置したカプセルフィルター等を通じて行うことが好ましい。当該フィルタリング工程により、インクジェットヘッドのノズルが詰まりにくくなり、長時間安定して塗布を行うことができる。
【0043】
表皮層形成用液32のインクジェットヘッドへの供給は、ポンプによって行ってもよいし、水頭差によって行ってもよいし、負圧調整によって行ってもよい。
【0044】
表皮層形成用液32の温度調整は、インクジェットヘッドを加温して行ってもよいし、表皮層形成用液32を供給する供給経路を加温して行ってもよいし、表皮層形成用液32のタンクを加温して行ってもよいが、安定な温度調整のため、インクジェットヘッドを加温することが好ましい。また、インクジェットヘッドの加温は、インクジェットヘッドの外部に設置した温度調整器によるものでもよいし、インクジェットヘッドに内蔵された温度調整器によるものであってもよい。
また、温度調整は、表皮層形成用液32を安定に吐出可能な粘度にするために実施する。長期駆動による温度上昇の影響を小さくするため、調整温度は20~60℃であることが好ましく、25~50℃であることがより好ましい。
【0045】
表皮層形成用液32を基材上にむらなく塗布するために、インクジェットヘッドは基材の近くに位置していることが好ましく、具体的には、基材とインクジェットヘッドの吐出面との距離が、10mm以下であることが好ましい。また、基材がインクジェットヘッドの吐出面に接触してインクジェットヘッドを劣化させることを抑制するため、基材とインクジェットヘッドの吐出面との距離が、0.6mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましい。
より具体的には、0.6~10mmであることが好ましく、1.0~10mmであることが好ましく、1.0~5.0mmであることが好ましい。
【0046】
表皮層形成用液32の粘度は、特に限定されないが、インクジェット吐出可能な粘度であることが好ましく、吐出粘度(例えば、温度調整器により25℃に調整した場合、25℃における粘度)が、5~500mPa・sであることが好ましく、8~200mPa・sであることがより好ましく、8~100mPa・sであることがさらに好ましい。
【0047】
表皮層形成用液32の表面張力は、特に限定されないが、インクジェット吐出可能な表面張力であることが好ましく、25℃で15~50mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがより好ましい。
【0048】
表皮層の乾燥後の厚みは、合成皮革として適切な厚みであれば特に限定されないが、0.5~100μmであることが好ましく、5~70μmであることがより好ましく、20~50μmであることがさらに好ましい。
【0049】
上記表皮層乾燥工程は、特に限定されず、公知の乾燥機を使用して実施することができ、例えばヒートロールによる乾燥でもよいし、オーブンによる乾燥でもよいし、エアドライヤーによる乾燥でもよいし、近赤外線等の照射による乾燥でもよい。また、ウレタン骨格を有する成分を含む塗料が活性エネルギー線硬化型塗料である場合は、乾燥工程は紫外線照射による硬化乾燥でもよいし、電子線照射による硬化乾燥であってもよい。
【0050】
表皮層をインクジェット方式により形成する工程の最後には、表皮層の膜厚を制御するために、膜厚計34を設置することが好ましい。膜厚計は特に限定されず、公知のものを使用でき、例えば電磁膜厚計、渦流膜厚計、超音波膜厚計、反射分光式膜厚計や蛍光X線膜厚計等を使用することができる。インライン測定に有利な非接触型の膜厚計である、反射分光式膜厚計や蛍光X線膜厚計等を使用することが好ましい。
ただし、インライン測定しないのであれば、合成皮革150の電子顕微鏡による断面写真から膜厚を求めることも可能であり、膜厚が求められるものであればどんな方法でも適用でき、特に限定されるものではない。
【0051】
(ウレタン樹脂水分散体)
表皮層形成用液32は、ウレタン樹脂水分散体であることが好ましい。当該ウレタン樹脂水分散体は、少なくともウレタン樹脂組成物と水を含む。
ウレタン樹脂組成物は、ウレタン結合(-NHCOO-)を有する高分子化合物の総称であり、一般にポリオールとポリイソシアネートを反応(架橋・硬化反応)させることによって製造される。
【0052】
前記ウレタン樹脂組成物は、水に分散し得るものであり、例えば、アニオン性基、カチオン性基、ノニオン性基等の親水性基を有するウレタン樹脂組成物;乳化剤で強制的に水中に分散したウレタン樹脂組成物等を用いることができる。これらのウレタン樹脂組成物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。中でも、ウレタン樹脂組成物が、アニオン性基を有するもの、及び/又は、ノニオン性基を有するものであることが好ましい。
【0053】
前記アニオン性基を有するウレタン樹脂組成物を得る方法としては、例えば、カルボキシル基を有する化合物及びスルホニル基を有する化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を原料として用いる方法が挙げられる。
【0054】
前記カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-吉草酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0055】
前記スルホニル基を有する化合物としては、例えば、3,4-ジアミノブタンスルホン酸、3,6-ジアミノ-2-トルエンスルホン酸、2,6-ジアミノベンゼンスルホン酸、N-(2-アミノエチル)-2-アミノエチルスルホン酸等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0056】
前記カルボキシル基及びスルホニル基は、樹脂組成物中で、一部又は全部が塩基性化合物に中和されていてもよい。前記塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジン、モルホリン等の有機アミン;モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアルカノールアミン;ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム等を含む金属塩基化合物等を用いることができる。
【0057】
前記カチオン性基を有するウレタン樹脂組成物を得る方法としては、例えば、アミノ基を有する化合物の1種又は2種以上を原料として用いる方法が挙げられる。
【0058】
前記アミノ基を有する化合物としては、例えば、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン等の1級及び2級アミノ基を有する化合物;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン等のN-アルキルジアルカノールアミン、N-メチルジアミノエチルアミン、N-エチルジアミノエチルアミン等のN-アルキルジアミノアルキルアミン等の3級アミノ基を有する化合物等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0059】
前記ノニオン性基を有するウレタン樹脂組成物を得る方法としては、例えば、オキシエチレン構造を有する化合物の1種又は2種以上を原料として用いる方法が挙げられる。
【0060】
前記オキシエチレン構造を有する化合物としては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシテトラメチレングリコール等のオキシエチレン構造を有するポリエーテルポリオールを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0061】
前記強制的に水中に分散するウレタン樹脂組成物を得る際に用いることができる乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等のノニオン性乳化剤;オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルカンスルフォネートナトリウム塩、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム塩等のアニオン性乳化剤;アルキルアミン塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等のカチオン性乳化剤等を用いることができる。これらの乳化剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0062】
前記ウレタン樹脂組成物としては、具体的には、例えば、前記した親水性基を有するウレタン樹脂組成物を製造するために用いる原料、ポリイソシアネート(a1)、ポリオール(a2)、及び必要に応じて鎖伸長剤(a3)の反応物を用いることができる。これらの反応は公知のウレタン化反応を用いることができる。
【0063】
前記ポリイソシアネート(a1)としては、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、カルボジイミド化ジフェニルメタンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ポリイソシアネート等を用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0064】
前記ポリオール(a2)としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0065】
前記ポリオール(a2)の数平均分子量としては、得られる皮膜の機械的強度の点から、500~100,000の範囲であることが好ましく、800~50,000の範囲であることがより好ましく、800~2,500の範囲であることが更に好ましい。なお、前記ポリオール(a2)の数平均分子量は、ゲル・パーミエーション・カラムクロマトグラフィー(GPC)法により測定した値を示す。
【0066】
前記鎖伸長剤(a3)としては、例えば、数平均分子量が50~450の範囲のものであり、具体的には、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、ヒドラジン等のアミノ基を有する鎖伸長剤;エチレングリコール、ジエチレンリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、サッカロース、メチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、トリメチロールプロパン等の水酸基を有する鎖伸長剤等を用いることができる。これらの鎖伸長剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0067】
前記鎖伸長剤(a3)を用いる場合の使用量としては、皮膜の機械的強度をより一層向上できる点から、前記ポリイソシアネート(a1)、前記ポリオール(a2)及び前記鎖伸長剤(a3)の合計質量中0.5~30質量%の範囲であることが好ましい。
【0068】
前記ウレタン樹脂水分散体の製造方法としては、例えば、前記ポリイソシアネート(a1)と前記ポリオール(a2)と前記親水性基を有するウレタン樹脂組成物を製造するために用いる原料を反応させることによって、イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(a4)を製造し(以下、「プレポリマー工程」と略記する場合がある。)、次いで、ウレタンプレポリマー(a4)を水に分散させ(以下、「乳化工程」と略記する場合がある。)必要に応じて前記ウレタンプレポリマー(a4)と、前記鎖伸長剤(a3)とを反応させる(以下、「鎖伸長工程」と略記する場合がある。)ことによって製造する方法;及び、前記ポリイソシアネート(a1)、前記ポリオール(a2)、親水性基を有するウレタン樹脂組成物を製造するために用いる原料、必要に応じて前記鎖伸長剤(a3)を一括に仕込み反応させる方法等が挙げられる。これらの反応は、例えば50~100℃で3~10時間行うことが挙げられる。
【0069】
プレポリマー工程は、無溶媒下で行うこともできる。従来技術では、プレポリマー工程の際に、メチルエチルケトン、アセトン等の有機溶媒中で行うことが一般的であったが、乳化工程後に有機溶剤を留去する脱溶剤工程が必要であり、実生産現場では数日の生産日数を要していた。また、脱溶剤工程で完全に有機溶剤を留去することも困難であり、若干の有機溶剤を残存しているケースが多く、環境対応に完全に対応することは困難であった。一方、本発明に係るウレタン樹脂水分散体の製造方法では、プレポリマー工程を無溶媒下で行うことができ、それにより、有機溶剤を完全に含まないウレタン樹脂水分散体が得られ、かつ、その生産工程も省力化することが可能である。プレポリマー工程の反応は、例えば、50~120℃で1~10時間行うことができる。
【0070】
プレポリマー工程は、撹拌翼を備えた反応釜;ニーダー、コンテイニアスニーダー、テーパーロール、単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、万能混合機、プラストミル、ボデーダ型混練機等の混練機;TKホモミキサー、フィルミックス、エバラマイルダー、クレアミックス、ウルトラターラックス、キャビトロン、バイオミキサー等の回転式分散混合機;超音波式分散装置;インラインミキサー等の可動部がなく、流体自身の流れによって混合できる装置等を使用することにより行うことができる。
【0071】
乳化工程は、水が蒸発しない温度下で行うことが好ましく、例えば、10~90℃の範囲が挙げられる、乳化工程は、プレポリマー工程と同様の設備を使用して行うことができる。その中でも、オキシエチレン基の導入量が少なく、かつ、鎖伸長剤を反応させた、従来法と同等の平均粒子径を有するウレタン樹脂組成物の水分散体を安定的に得ることができ、かつウレタン樹脂組成物の含有率が高いウレタン樹脂水分散体が簡便に得られる点から、混練機を使用することが好ましい。
【0072】
鎖伸長工程は、ウレタンプレポリマー(a4)が有するイソシアネート基と、鎖伸長剤(a3)との反応により、ウレタンプレポリマー(a4)を高分子量化させ、ウレタン樹脂組成物を得る工程である。鎖伸長工程の際の温度としては、生産性の点から、50℃以下で行うことが好ましい。
【0073】
鎖伸長工程における、ウレタンプレポリマー(a4)が有するイソシアネート基と、鎖伸長剤(a3)が有する水酸基及びアミノ基の合計とのモル比[(水酸基及びアミノ基)/イソシアネート基]としては、より一層優れた造膜性、及び、機械的強度が得られる点から、0.8~1.1の範囲であることが好ましく、0.9~1の範囲がより好ましい。
【0074】
鎖伸長工程は、プレポリマー工程と同様の設備を使用して行うことができる。
【0075】
前記ウレタン樹脂組成物を製造する際には、前記ウレタン樹脂組成物に残存するイソシアネート基を失活させることが好ましい。前記イソシアネート基を失活させる場合には、メタノール等の水酸基を1個有するアルコールを用いることが好ましい。前記アルコールの使用量としては、ウレタン樹脂組成物100質量部に対し、0.001~10質量部の範囲であることが好ましい。
【0076】
また、前記ウレタン樹脂組成物を製造する際には、有機溶剤を用いてもよい。前記有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル化合物;アセトニトリル等のニトリル化合物;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミド化合物等を用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、前記有機溶剤は、蒸留法等によって最終的には除去されることが好ましい。
【0077】
(水)
本発明で用いる水としては、イオン交換水、蒸留水、限外濾過水、超純水等を用いることができる。これらの水は単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、ウレタン樹脂水分散体を長期保存する場合においてカビ又はバクテリアの発生を防止しやすい観点から、紫外線照射、過酸化水素添加等によって滅菌された水を用いることが好ましい。
【0078】
(顔料)
本発明のウレタン樹脂水分散体は、さらに顔料を含むことが好ましい。表皮層形成用液32が顔料を含むことで、表皮層そのものに色柄を付与することができるため、加飾層をさらに形成する必要がなくなり、結果として加飾層と表皮層間の接着性の確保と加飾層塗膜のシート追従性(折り曲げた際に塗膜に割れが起きないかどうか)といった課題も生じない。
当該顔料の形態に特に制限はなく、顔料のみを使用してもよいし、顔料に他の成分を合わせて使用することもできる。
ウレタン樹脂水分散体に顔料を添加する場合は、ウレタン樹脂水分散体に、顔料分散液とした顔料を添加して攪拌又は混合することが、製造の容易さやウレタン水分散体の安定性の観点から好ましい。
【0079】
上記顔料としては、無機顔料、又は有機顔料が挙げられる。具体的には、水や水溶性有機溶剤に分散可能であり、公知の無機顔料や有機顔料が使用できる。
本発明では、顔料として酸化チタン又はカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0080】
また、前記顔料としては、未酸性処理顔料、酸性処理顔料のいずれも使用することができ、ドライパウダー及びウェットケーキ状のどちらであっても使用することができる。
【0081】
無機顔料としては例えば、酸化鉄、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラック等がある。また、酸化物類、水酸化物類、硫化物類、フェロシアン化物類、クロム酸塩類、炭酸塩類、ケイ酸塩類、リン酸塩類、金属粉類等を使用してもよい。
また、有機顔料としては、染付レーキ類、アゾレーキ類、不溶性アゾ類、モノアゾ類、ジスアゾ類、縮合アゾ類、ベンゾイミダゾロン類、フタロシアニン類、アントラキノン類、ペリレン類、ペリノン顔料、キナクリドン類、ジオキサジン類、イソインドリン類、アゾメチン類、チオインジゴ顔料、キノフラロン顔料、ピロロピロール類等が挙げられる。また、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することもできる。
【0082】
白顔料としては、アルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、微粉ケイ酸、合成珪酸塩、等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等があげられる。また、前記無機白色顔料が各種表面処理方法で表面処理されていてもよい。中でも、酸化チタンであることが好ましい。
【0083】
黒顔料としては、カーボンブラックが好ましく、例えば三菱化学社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.960、No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MA7、MA8、MA100、等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等が、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等が、デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等が挙げられる。
【0084】
また、柄を付ける等、意匠性が求められる用途に使用される合成皮革を製造するために、上記顔料はカラー顔料であってもよい。
イエロー顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
マゼンタ顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、168、176、184、185、202、209、269、282等、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
シアン顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、16、22、60、63、66等が挙げられる。
【0085】
レッド顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド17、49:2、112、149、150、177、178、179、188、254、255及び264からなる群から選ばれる1種又は2種以上が好適に用いられる。
【0086】
オレンジ顔料の具体例としては、C.I.ピグメントオレンジ1、2、5、7、13、14、15、16、24、34、36、38、40、43、63、64、71、73、81等が挙げられる。
【0087】
グリーン顔料の具体例としては、C.I.ピグメントグリーン7、10、36、58、59等が挙げられる。
【0088】
バイオレット顔料の具体例としては、C.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50等が挙げられる。
【0089】
上記顔料がカーボンブラックである場合、カーボンブラックの揮発分は、1%以上であることがより好ましい。
カーボンブラックの揮発分が、上記範囲のように高いと、カーボンブラック表面の官能基(OHやCOOH)量が多く、そのため造膜する際にウレタン樹脂組成物との相溶性を維持しやすく、粒子の凝集化を起こしにくいと考えられるため好ましい。
尚、カーボンブラックの揮発分は、例えば、950℃で7分間加熱した際の揮発(減量)分をいい、該値は、製品カタログ等から知ることができる。
【0090】
顔料は、水性顔料組成物中に安定に存在させるために、媒体である水溶性溶媒及び/又は水に良好に分散させる手段を講じてあることが好ましい。
具体的には、顔料を、高分子分散剤や界面活性剤、顔料誘導体等の汎用の顔料分散剤と共に、後述の分散方法で水溶性溶媒及び/又は水中に分散させた水性顔料分散液とする方法や、顔料表面に分散性付与基(親水性官能基及び/又はその塩)を直接又はアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させ、汎用の顔料分散剤なしで水溶性溶媒及び/又は水中に分散及び/又は溶解する自己分散型顔料として加工され、水溶性溶媒及び/又は水中に分散させた顔料分散液として、水性顔料インク中に配合されることが好ましい。
インクジェット吐出性や、屈曲性確保の観点から、顔料分散液の粒子径は小さいことが好ましい。
【0091】
顔料分散剤は、特に限定はなく公知の高分子分散剤や界面活性剤、顔料誘導体を使用することができる。
前記顔料分散剤としては中でも、水性樹脂がよく、好ましい例としては、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等のアクリル樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等のスチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、及び該水性樹脂の塩が挙げられる。また市販品を使用することも勿論可能である。市販品としては、味の素ファインテクノ(株)製品)のアジスパーPBシリーズ、ビックケミー・ジャパン(株)のDisperbykシリーズ、BASF社製のEFKAシリーズ、日本ルーブリゾール株式会社製のSOLSPERSEシリーズ、エボニック社製のTEGOシリーズ等を使用できる。
高分子系分散剤としては、例えば、特開2022-75758号公報に記載の高分子顔料分散剤等を用いることができる。
より具体的には、例えば、高分子系分散剤として、以下に説明するものを好適に使用することができる。
(1)顔料親和性基を主鎖及び/又は複数の側鎖に有し、かつ、溶媒和部分を構成する複数の側鎖を有する櫛形構造高分子顔料分散剤
(2)主鎖中に顔料親和性基からなる複数の顔料親和部分を有する高分子顔料分散剤
(3)主鎖の片末端に顔料親和性基からなる顔料親和部分を有する直鎖状高分子顔料分散剤
上記の各顔料分散剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、顔料分散剤としては、カルボキシル基含有ポリマー変性物であることが好ましい。
【0092】
ここで、上記顔料親和性基とは、顔料の表面に対して強い吸着力を有する官能基をいい、例えば、オルガノゾルにおいては、第3級アミノ基、第4級アンモニウム基、塩基性窒素原子を有する複素環基、ヒドロキシル基、カルボキシル基;ヒドロゾルにおいては、フェニル基、ラウリル基、ステアリル基、ドデシル基、オレイル基等を挙げることができる。
【0093】
前記顔料分散剤がアニオン性基を有する場合、当該アニオン性基は中和されていることが好ましい。
当該アニオン性基を中和する塩基性化合物としては、公知慣用のものがいずれも使用出来、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等の無機塩基性物質や、アンモニア、トリエチルアミン、アルカノールアミンの様な有機塩基性化合物を用いることが出来る。
アニオン性基の中和率は、顔料分散剤の酸価に対して100%中和されていなくてもよい。具体的には、中和率が20%~200%になるように中和されることが好ましく、80%~150%がなお好ましい。
【0094】
(自己分散顔料)
また、上記顔料としては、前記顔料分散剤を使用することなく、水溶性溶媒や水に分散が可能な自己分散型顔料を使用してもよい。例えば、顔料に物理的処理又は化学的処理を施し、分散性付与基又は分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させることによって製造される。例えば、真空プラズマ処理、次亜ハロゲン酸及び/又は次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、又はオゾンによる酸化処理等や、水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p-アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法が挙げられる。
自己分散型顔料を含有する水性インクは、前記顔料分散剤を含む必要がないため、顔料分散剤に起因する発泡等がほとんどなく、吐出安定性に優れるインクを調製しやすい。また、顔料分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるので、顔料をより多く含有することが可能となり、印字濃度を十分に高めることが可能になる、あるいは、取り扱いが容易となる。
【0095】
自己分散型顔料として市販品を利用することも可能であり、そのような市販品として、マイクロジェットCW-1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB-O-JET200、CAB-O-JET300(以上商品名;キヤボット社製)が挙げられる。
【0096】
(顔料分散液の製造方法)
顔料分散剤により顔料分散液を製造する方法としては、特に限定なく公知の方法で製造することができる。例えば、前記顔料、顔料分散剤、水、必要に応じて各種添加剤を撹拌混合した後、各種分散機や練肉機、例えば、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等を使用して分散練肉し、更に、残りの材料を添加混合し、適切な粘度に調整する方法等が採用される。
また予め前記分散機を用いて作製した高濃度の分散液(ミルベース)に、水溶性溶媒及び/又は水と必要に応じて各種添加剤を加え、所望の粘度に混合攪拌して希釈することでも調製できる。
【0097】
自己分散顔料は、水性の顔料分散液として市販されている場合もあるし、自己分散顔料を水や水溶性溶媒に添加し、攪拌することで顔料分散液を得ることもできる。
【0098】
顔料分散液の粒子径は、インクジェット吐出性や分散安定性の観点から、顔料の累積粒度分布における95%粒子径(D95)が1000nm以下であることが好ましい。顔料の累積粒度分布における95%粒子径(D95)が上記の範囲であると、顔料の粒子径が大きくなりすぎるのを防ぎ、凝集物の発生を抑制することができ、分散安定性とインクジェット吐出性を好適に維持できる。
顔料分散液の粒子径は、顔料分散液0.2gに対して水50gを加えて希釈したものを、超音波ホモジナイザー(日本精機製作所製ULTRA HOMOGENIZER US-300E)にて2.5A、1分間、前処理したものを、動的光散乱装置であるマイクロトラック・ベル株式会社製Nanotrac WaveIIで粒度分布を測定することにより得ることができる。
【0099】
(その他の成分)
本発明のウレタン樹脂水分散体は、上記ウレタン樹脂組成物と水、上記顔料の他、必要に応じて、インクジェット吐出可能な物性に調整するために、水溶性溶剤、界面活性剤やその他の添加剤をさらに含有することができる。
【0100】
その他の添加剤としては、例えば、乳化剤、中和剤、増粘剤、ウレタン化触媒、充填剤、難燃剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、成膜助剤、消泡剤、発泡剤、防腐剤、pH調整剤、キレート化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0101】
(水溶性溶剤)
ウレタン樹脂水分散体には、水だけでなく、水溶性溶剤を含んでいてもよく、ウレタン樹脂水分散体の粘度や表面張力をインクジェット吐出できる範囲に調整することができる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ブタノール、2-メトキシエタノール、等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、及びこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、及びトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、及びこれらと同族のアルコール等のアルコール類;あるいは、スルホラン;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類;グリセリン及びその誘導体等、水溶性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤等を挙げることができる。これらの水溶性有機溶剤は1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0102】
またこのとき使用する水溶性有機溶剤は、後工程で脱溶剤等の必要がないことから、高沸点の水溶性有機溶剤が好ましい。このような高沸点の水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、及びこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、及びトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;スルホラン;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類;グリセリン及びその誘導体等、水溶性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤等を挙げることができる。これらの水溶性有機溶剤は1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0103】
また、インクジェット吐出性を向上するため、ウレタン樹脂水分散体がインクジェットヘッドのノズルで乾燥しにくいように、ウレタン樹脂水分散体に湿潤剤として水溶性有機溶剤を使用することが好ましく、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-ノナンジオール、1,2-オクタンジオール等のジオール化合物、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ε-カプロラクタム等の含窒素複素環化合物等を使用することがより好ましい。中でも、プロピレングリコール、エチレングリコール、グリセリンを含むことがさらに好ましく、安全性を有し、かつノズルにおける乾燥性、吐出性能に優れた効果がみられる。
当該湿潤剤のウレタン樹脂水分散体中の含有量は3~50質量%であることが好ましい。
【0104】
(界面活性剤)
ウレタン樹脂水分散体には、さらに表面張力の調整や吐出後の繊維質基材への濡れ性の制御のため、界面活性剤を添加してもよい。当該界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、又はノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0105】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩等を挙げることができる。
【0106】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、アルキルフェノールエトキシレート類、等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、アルキルフェノールエトキシレート類が好ましい。
【0107】
その他の界面活性剤として、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
【0108】
これらの界面活性剤は、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。また、界面活性剤の溶解安定性等を考慮すると、そのHLBは、7~20の範囲であることが好ましい。
【0109】
市販のフッ素系界面活性剤として、ノベックFC-4430、FC-4432(以上、住友スリーエム製)、ゾニールFSO-100、FSN-100、FS-300、FSO(以上、デュポン製)、エフトップEF-122A、EF-351,352801、802(ジェムコ製)、メガファックF-470、F-1405、F474、F-444(DIC製)、サーフロンS-111、S-112、S-113、S121、S131、S132、S-141、S-145(旭硝子製)、フタージェントシリーズ(ネオス製)、フルオラッド(Fluorad)FCシリーズ(ミネソタ・マイニング・アンド・マニファクチュアリング・カンパニー製)、モンフロール(Monflor)(インペリアル・ケミカル・インダストリー製)、リコベット(Licowet)VPFシリーズ(ファルベベルケ・ヘキスト製)が挙げられる。
【0110】
シリコン系界面活性剤として、KF-351A、KF-642、オルフィンPD-501、オルフィンPD-502、オルフィンPD-570(信越化学工業製)、BYK347、BYK348(ビックケミー・ジャパン製)等が挙げられる。
【0111】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤としては、BTシリーズ(日光ケミカルズ)、ノニポールシリーズ(三洋化成)、D-,P-シリーズ(竹本油脂)、EMALEXDAPEシリーズ(日本エマルジョン)、ペグノールシリーズ(東邦化学工業)が挙げられる。ポリエチレングリコールアルキルエステル系として、ペグノール(東邦化学工業)が挙げられる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、オルフィンE1010、STG、Y(以上、日信化学社製)、サーフィノール104、82、420、440、465、485、TG(AirProductsandChemicalsInc.製)が挙げられる。
【0112】
ウレタン樹脂水分散体の粘度は、特に限定されないが、インクジェット吐出可能な粘度であることが好ましく、吐出粘度(例えば、温度調整器により25℃に調整した場合、25℃における粘度)が、5~500mPa・sであることが好ましく、8~200mPa・sであることがより好ましく、8~100mPa・sであることがさらに好ましい。
【0113】
ウレタン樹脂水分散体の表面張力は、特に限定されないが、インクジェット吐出可能な表面張力であることが好ましく、25℃で15~50mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがより好ましい。
【0114】
(活性エネルギー線硬化型塗料)
表皮層形成用液32は、ウレタンアクリレートを含む活性エネルギー線硬化型塗料を使用することもできる。
ウレタンアクリレートは、分子内にウレタン結合を持つ(メタ)アクリレートである。例えば、ポリオール、ポリイソシアネート、及び、水酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル化合物を従来公知の方法で反応させて得られるものを用いることができる。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの一方又は両方をいい、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタクリロイル基の一方又は両方をいう。
【0115】
前記ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、カプロラクトンポリオール、ブタジエンポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0116】
前記ポリイソシアネートとしては、例えば、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート、メチレンジフェニルジシソシアネートのホルマリン縮合体、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性体等の芳香族系ポリイソシアネート等を用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0117】
前記水酸基を有する(メタ)アクリル化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0118】
前記イソシアネート基を有する(メタ)アクリル化合物としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート、1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0119】
ウレタンアクリレートを含む活性エネルギー線硬化型塗料には、上記ウレタンアクリレート以外のその他の重合性化合物を含むことが好ましい。
当該その他の重合性化合物としては、表皮層として良好な合成皮革の質感を再現できれば特に限定されないが、インクジェット吐出可能な粘度に調整するために、低粘度の重合性化合物を使用することが好ましい。また、表皮層の柔軟性を得るため、単官能モノマーと他官能モノマーを併用することがより好ましい。
【0120】
ウレタンアクリレートを含む活性エネルギー線硬化型塗料には、さらに顔料を含むことが好ましい。表皮層形成用液32が顔料を含むことで、表皮層そのものに色柄を付与することができるため、加飾層をさらに形成する必要がなくなる。顔料としては、特に限定されず、上記顔料のうち適切なものを使用することができる。また、顔料は顔料分散剤により分散していてもよい。顔料分散剤は上記した高分子分散剤や、界面活性剤を使用できる。
【0121】
ウレタンアクリレートを含む活性エネルギー線硬化型塗料には、その他の添加剤を添加してもよい。当該その他の添加剤としては、光重合開始剤、光増感剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、表面張力調整剤、褪色防止剤等を含んでいてもよい。
【0122】
ウレタンアクリレートを含む活性エネルギー線硬化型塗料の粘度は、特に限定されないが、インクジェット吐出可能な粘度であることが好ましく、吐出粘度(例えば、温度調整器により25℃に調整した場合、25℃における粘度)が、5~500mPa・sであることが好ましく、8~200mPa・sであることがより好ましく、8~100mPa・sであることがさらに好ましい。
【0123】
ウレタンアクリレートを含む活性エネルギー線硬化型塗料の表面張力は、特に限定されないが、インクジェット吐出可能な表面張力であることが好ましく、25℃で15~50mN/mであることが好ましく、20~40mN/mであることがより好ましい。
【0124】
(繊維質基材)
繊維質基材100は、基布とも呼称され、当該繊維質基材100上に表皮層130を形成することにより、合成皮革150を得ることができる。また、当該繊維質基材100上に必要に応じてプライマー層110や中間層120を形成して基材とし、その上に表皮層130を形成することもできる。
繊維質基材100の材質の例としては、例えばコットン(綿)、リネン(麻)、シルク(絹)等の天然繊維(植物繊維・動物繊維);ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン等の化学繊維が挙げられるが、これに限定されない。
繊維質基材100の形態の例としては、例えば編物、織物、不織布等が挙げられるが、これに限定されない。
【0125】
(接着層)
繊維質基材に、接着層を形成して基材としてもよい。接着層は、接着層の上下に位置する層(例えば、繊維質基材と表皮層、繊維質基材と中間層等)の層間密着性を向上するために形成する。
当該接着層としては、芳香族ポリイソシアネートを原料とするウレタン樹脂、及び、水を含有するウレタン樹脂組成物により形成されたものであることが好ましい。当該接着層において、分子間相互作用の高い芳香族ポリイソシアネートを原料とするウレタン樹脂を用いることで、優れた剥離強度および耐薬品性を得ることができる。
【0126】
また、当該接着層は、その他の添加剤を含んでいてもよく、その他の添加剤としては、例えば、ウレタン化触媒、中和剤、架橋剤、シランカップリング剤、増粘剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、発泡剤、顔料、染料、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、難燃剤、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0127】
また前記接着層の厚さとしては、合成皮革が使用される用途に応じて適宜決定されるが、例えば5~100μmの範囲が挙げられる。
【0128】
(表面処理層を形成する工程)
本発明の合成皮革の製造方法は、上記表皮層の表面上に、さらに表面処理剤による表面処理層を形成する工程を含んでいてもよい。当該表面処理層は、耐擦傷性や耐光性向上及び風合い向上等を目的に追加される。また、その他抗菌性、難燃性等を付与する目的で表面処理層を形成してもよい。
表面処理層を形成する工程としては、表皮層と同様にインクジェット方式で形成する工程であってもよいし、従来法と同様にグラビアロール塗工やコンマロール塗工等で形成する工程であってもよい。
【0129】
(表面処理剤)
表面処理剤は特に限定されず、公知のものを使用できる。例えば、溶剤系樹脂組成物であってもよく、ポリウレタン水分散体と紫外線吸収型ポリマーとを含有していてもよく、ウレタン樹脂組成物と架橋剤を含有していてもよく、マット感を付与するためフィラーを含んでいてもよく、抗菌剤や難燃剤等を含んでいてもよい。従来の表面処理剤に用いられる材料は、有機溶剤を含んだ溶剤系樹脂組成物が主流であったが、近年の環境規制の高まりを受け、有機溶剤を実質的に含まない水性表面処理剤であることが好ましい。
【0130】
図2は、本発明の製造方法の好ましい一態様となる構成の模式図である。まず、基材ロール70から、基材となる繊維質基材100が搬送されるのは、
図1と同様である。プライマー層形成工程として、繊維質基材100の搬送先に設置されたプライマー層用インクジェットヘッド11から、プライマー液12が吐出され、プライマー用乾燥機13にて乾燥される。その後、中間層形成工程として、中間層用インクジェットヘッド21から、中間層形成用液22が吐出され、中間層用乾燥機で乾燥される。このような中間層形成工程は、1回のみ実施してもよいし、必要な膜厚を得るために2回以上実施してもよい。
図2においては、2回実施した例を示す。その後、中間層用膜厚計24にて任意の膜厚になっていることを確認する。さらに、
図1と同様にして表皮層形成工程を実施し、必要に応じてガイドロール50を経て合成皮革150が製品巻取りロール80にて巻き取られる。
【0131】
(プライマー層)
プライマー層は、間に挟むことにより、層間の密着性を向上させるために追加される。プライマー層を形成するプライマー液は、当該目的を達することができれば特に限定されず、接着性の高い樹脂等を含む液により層間の密着性を向上させてもよいし、濡れ性を高める液によりプライマー層の上層に用いる液の浸透性を向上させることで、アンカー効果により層間の密着性を向上させてもよいし、上層に用いる液を速やかに凝集させることにより、定着性を向上させてもよい。
【0132】
プライマー液としては、特に限定されないが、例えば、カチオン性前処理剤である硝酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化ナトリウム等の金属塩溶液であってもよいし、アンモニウムイオンを含むカチオンポリマー溶液であってもよい。
【0133】
塗布されたプライマー液は、乾燥機13による乾燥工程を経て、次工程に進むことが好ましい。乾燥工程に用いられる乾燥機13としては特に限定されず、表皮層と同様の設備にて、適切に乾燥を実施することができる。
【0134】
(中間層)
中間層は、合成皮革150に、高級な質感と柔軟な風合いを付与するために追加される。中間層は、繊維質基材上にインラインで中間層形成用液22をインクジェット塗布することにより形成されることが好ましいが、インラインでロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター等により塗布されてもよく、オフラインで繊維質基材上に別途中間層を形成した積層体を繊維質基材100として使用してもよい。
【0135】
中間層は、発泡ウレタンで形成されていることが好ましい。当該発泡ウレタンは、上記ウレタン樹脂組成物と同様に製造できるウレタン樹脂を界面活性剤にて水に分散させた中間層用ウレタン樹脂水分散体を起泡させ起泡液を得、この起泡液を中間層形成用液22として繊維質基材100やプライマー層を有する基材に塗布し、必要に応じて乾燥させ、好ましい密度を得ることにより製造されてもよい。また、発泡剤を含むウレタン樹脂水分散体を中間層形成用液22として使用してもよいし、揮発性溶剤、液化ガス、中空球等を含むウレタン樹脂水分散体を中間層形成用液22として使用してもよく、公知公用の発泡方法を使用できる。
【0136】
上記中間層用ウレタン樹脂水分散体を起泡させ起泡液を得る方法としては、例えば、手による撹拌や、メカニカルミキサー等のミキサーを使用する方法が挙げられる。ミキサーを使用する場合には、例えば、500~3,000rpmにて10秒~3分間撹拌させる法が挙げられる。この際、発泡ウレタンの密度を好ましい範囲に調整しやすい点から、起泡させる前後にて、1.3~7倍の体積にすることが好ましく、1.3~2倍の体積にすることがより好ましく、1.3~1.7倍の体積にすることが更に好ましい。
【0137】
中間層形成用液22を繊維質基材100やプライマー層110を有する基材に塗布する方法としては、インクジェット式が好ましい。また、起泡液を中間層形成用液22として使用する場合は、例えば、ロールコーター、ナイフコーター、コンマコーター、アプリケーター等を使用する方法で実施してもよい。また、基材への塗布はインラインで実施してもよい。
【0138】
中間層形成用液22を塗布したのち、中間層乾燥工程があることが好ましい。当該乾燥工程としては、特に限定されず、表皮層と同様の設備にて、適切な条件にて乾燥を実施することができる。
【0139】
前記発泡ウレタンの密度としては、より一層好ましい風合い及び引張強度が得られる点から、200~1,000kg/m3であることが好ましく、300~900kg/m3の範囲がより好ましく、400~800kg/m3の範囲が更に好ましい。なお、前記発泡ウレタンの密度は、発泡ウレタンの質量を体積で割ることにより算出した値を示す。
【0140】
また、発泡ウレタンによる中間層は、従来公知の方法にて形成してもよい。具体的には、有機溶剤を含有するウレタン樹脂組成物を繊維質基材等に塗布した後、水に浸漬することによって、ウレタン樹脂組成物中の溶剤と水が置換し、ウレタン樹脂組成物中の固形物が析出して成膜する。次いで、残留溶剤を水でよく洗い流し、マングルロール等で絞った後、乾燥することによって、繊維質基材等上に発泡ウレタンからなる中間層が積層された積層体が得られる。当該積層体を基材として使用し、中間層上に表皮層をインクジェット方式により形成することで合成皮革を得てもよい。
上記の方法によって中間層を有する積層体を製造する場合は、成膜速度の調整、良好な平面平滑り性のために、本発明のウレタン樹脂組成物に湿式成膜助剤を適宜配合しても良い。湿式成膜助剤としては、例えば、ヒマシ油、グリセリン・トリパルミテート、シリコンオイル等が挙げられる。これらの湿式成膜助剤は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0141】
前記中間層120の厚みとしては、例えば、0.1~500μmの範囲であることが好ましい。インラインで中間層120を形成する場合は、中間層形成工程及び必要に応じて乾燥工程の後に、中間層用膜厚計24により膜厚を計測し、中間層形成用液22の塗布量調整を行うことが好ましい。
【0142】
本発明の合成皮革の製造方法により製造される合成皮革は、離型紙が不要となり、また製造工程におけるCO2排出量が従来の製造方法から大幅に削減されることから、環境負荷を低減することが可能である。また、従来の製造方法と異なり各工程をインラインで実施することができるため、自動化による製造効率化に繋がる。さらに、インクジェット方式により各層を形成することにより、洗浄も含めた全工程における廃液量が削減でき、加飾工程が不要となり、少量生産も容易になり、オンデマンドな需要対応が可能になる。
【0143】
図4は、本発明の合成皮革の製造方法により得られる合成皮革の別の一態様を表す模式図であるが、本発明はこれに限定されない。また、合成皮革を一部破断面とし、内部のクッション材を露出させている。
本発明の製造方法により得られる合成皮革201及び202は、表皮層221及び222を含む。また、合成皮革201及び202は、基材に相当するウレタン発泡体等からなるクッション材211及び212上に表皮層221及び222を積層するものであることが好ましい。また、クッション材211及び212と表皮層221及び222の間に、別の層を含むものであってもよい。また、
図4に図示されないが、合成皮革201及び202は、表皮層221及び222上にさらに表面処理層を有するものであってもよい。
なお、表皮層221及び222に代表される当該表皮層は、上述した表皮層130と同様に、天然の皮革のような質感を再現する機能を有するものである。本発明において、表皮層は、インクジェット方式により形成され、上述した表皮層130と同様のものであり、好ましい態様も同様である。
【0144】
ウレタン発泡体等からなるクッション材の製造方法は特に限定されず、公知公用の方法で製造でき、例えば、金型内にウレタンフォーム等の発泡原料を注入し、発泡させることで製造することができる。
また、基材となるクッション材は、骨格フレーム、連結用シャフト、エアバッグ、エアセル、空気供給チューブ、流体セル、流体供給チューブ、シートヒーター、ランバーサポート部、圧力センサー、位置調整機構等を含んでいてもよい。また、前処理層、中間層、シートカバーパッド層、ワディング層、プリーツパッド層等を積層したものであってもよい。さらに、クッション材は、例えば着座部用シートと背もたれ部シートが一体となったものであってもよいし、着座部用シートとランバーサポート部が分離したものであってもよく、その形状は特に限定されず、用途に応じて好適な形状にすればよい。
【0145】
合成皮革201は例えば車両の着座部用シートであってよく、合成皮革202は例えば車両の背もたれ部用シートであってよい。また、合成皮革203も合成皮革201及び202と同様に表皮層を備える合成皮革であってよく、例えばヘッドレストであってよい。
そして、これら合成皮革201、202、203を組み立てることにより、車両用シート200を製造できるものであってよい。
【0146】
図5は、本発明の製造方法の一態様となる模式図である。まず、ウレタン発泡体等からなるクッション材212が、インクジェットヘッド31の下へ配置される。クッション材212は立体物であり、クッション材212とインクジェットヘッド31の配置は、重力方向として下である必要はなく、インクジェットヘッド31のノズル面方向にクッション材212が位置していれば、横に並んでいても、上下が逆転していてもよい。また、クッション材212を搬送する方法は特に限定されず、ベルトコンベヤー等で固定されたインクジェットヘッド31の下へ送られてもよく、クッション材212を支持棒等で固定した場所に、インクジェットヘッド31を保持したアーム300(一部分のみ図示)等でインクジェットヘッド31を近づけてもよい。アーム300は、1次元方向に移動できるものであってよく、2次元方向に移動できるものであってもよく、3次元方向に移動できるものであってもよい。さらに、インクジェットヘッド31は、1つを移動してもよく、複数のインクジェットヘッド31をキャリッジやアーム300に固定してもよく、1つのインクジェットヘッド31を固定したアーム300を複数使用してもよい。
【0147】
その後、インクジェットヘッド31から、表皮層形成用液32が吐出され、必要に応じて乾燥機等で乾燥される。乾燥は、インクジェットヘッド31の乾燥が抑制できる限りは、インクジェット吐出と同時に実施してもよい。
必要に応じてインクジェットヘッド31の位置やクッション材212の位置を変更しながら表皮層形成用液32を吐出し、クッション材212上に均一な表皮層222を形成することで、車両の背もたれ部用シートとなる合成皮革202が製造される。インクジェットヘッド31の位置やクッション材212の位置の変更方法としては特に限定されず、例えばクッション材212を固定したステージや支持棒等が回転するものであってもよいし、インクジェットヘッド31を固定したキャリッジやアーム300が移動できるものであってもよい。
【0148】
なお、表皮層222とクッション材212の間や上にさらに別の層(例えば、プライマー層、中間層、シートカバーパッド層、ワディング層、プリーツパッド層、表面処理層等)を積層してもよく、その積層方法も特に限定されず、スプレー塗装であってもよいし、ディップコーティングであってもよいし、表皮層と同様のインクジェット塗布であってもよい。
【0149】
上記表皮層をインクジェット方式により形成する工程は、
図1における表皮層形成工程と同様の工程であり、好ましい態様も同様である。また、インクジェットヘッド31や表皮層形成用液32についても、上述したインクジェットヘッドや表皮層形成用液と同様のものを使用できる。その他の層の形成工程や乾燥工程等も、上述した方法と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0150】
表皮層をインクジェット方式により形成する工程の最後には、表皮層の膜厚を制御するために、膜厚計を設置することが好ましい。膜厚計は特に限定されず、公知のものを使用でき、例えば電磁膜厚計、渦流膜厚計、超音波膜厚計、反射分光式膜厚計や蛍光X線膜厚計等を使用することができる。インライン測定に有利な非接触型の膜厚計である、反射分光式膜厚計や蛍光X線膜厚計等を使用することが好ましい。
ただし、インライン測定しないのであれば、合成皮革の電子顕微鏡による断面写真から膜厚を求めることも可能であり、膜厚が求められるものであればどんな方法でも適用でき、特に限定されるものではない。
【0151】
本発明の製造方法で合成皮革を製造することにより、従来は合成皮革シートを製造し、それをさらに縫製してクッション材に被せる必要があったところ、合成皮革シート製造工程と縫製工程を削減でき、車両用シート等の製造における総合的なCO2排出量削減が可能となる。さらに、車両用シート等の製造を全自動化でき、少量生産や適時適量生産も容易となる。
【0152】
(合成皮革の製造装置)
本発明は、さらに、基材搬送手段と、インクジェットヘッドと、乾燥機とを備え、インクジェット方式により表皮層を形成する、合成皮革の製造装置を提供する。当該製造装置により、大幅な工程削減と洗浄工程を含めた廃液及び廃棄物(離型紙等)の削減が実現できる。
【0153】
ここで、当該製造装置における基材搬送手段は、
図1における基材ロール70及び製品巻取りロール80等により達成されればよく、その他の手段によるものであってもよい。また、インクジェットヘッドは、上記した
図1における表皮層用インクジェットヘッド31が相当する。さらに、乾燥機は、上記した
図1における表皮層用乾燥機33と同様の乾燥機を備えればよい。
【0154】
本発明の製造装置には、さらに、膜厚測定手段や、中間層発泡手段や、その他の装置等を備えていてもよい。
【0155】
また、本発明は、インクジェットヘッド移動手段と、インクジェットヘッドと、乾燥機とを備え、インクジェット方式により表皮層を形成する、合成皮革の製造装置を提供する。当該製造装置により、大幅な工程削減と洗浄工程を含めた廃液及び廃棄物(裁断切れ端等)の削減が実現できる。
【0156】
ここで、当該製造装置におけるインクジェットヘッド移動手段は、インクジェットヘッドを固定したキャリッジやアーム300等により達成されればよく、その他の手段によるものであってもよい。また、インクジェットヘッドは、上記した
図5における表皮層用インクジェットヘッド31が相当する。さらに、乾燥機は、上述した表皮層用乾燥機33と同様の乾燥機を備えればよい。
【実施例】
【0157】
以下、実施例を用いて、本発明の一態様をより詳細に説明する。
【0158】
(製造例1 ウレタン樹脂水分散体(A-1)の調製)
温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、窒素気流下、ポリカーボネートポリオール(1,6-ヘキサンジオールを原料とするもの、数平均分子量;2,000)1,000質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸67質量部、及びメチルエチルケトン710質量部を加え、均一に混合した後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート590質量部を加え、次いでオクチル酸第一錫0.1質量部を加え、70℃で約4時間反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
次いで、上記で得られたウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液にトリエチルアミン51質量部を加え、上記ウレタンプレポリマー中のカルボキシル基を中和した後、イオン交換水1555質量部を加え、次いで、イソホロンジアミン128質量部を加え反応させた。反応終了後、減圧下、40℃~60℃の温度下でメチルエチルケトンを除去し、水を加えて濃度調節を行うことによって、不揮発分35質量%のウレタン樹脂水分散体(A-1)を得た。
【0159】
(製造例2 ウレタン樹脂水分散体(A-2)の調製)
温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管、攪拌器を備えた窒素置換された容器中で、窒素気流下、ポリオキシテトラメチレングリコール(数平均分子量:1,000)500質量部、2,2-ジメチロールプロピオン酸28.2質量部、及びメチルエチルケトン436質量部を加え、均一に混合した後、イソホロンジイソシアネート133.8質量部を加え、80℃で約3時間反応させることによって、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。
次いで、上記で得られたウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液に25%アンモニア水溶液14.3質量部を加え、上記ウレタンプレポリマー中のカルボキシル基を中和した後、イオン交換水1504質量部を加え、次いで、ヒドラジン1.1質量部を加えて反応させた。反応終了後、減圧下、40℃~60℃の温度下でメチルエチルケトンを除去し、水を加えて濃度調節を行うことによって、不揮発分23質量%のウレタン樹脂水分散体(A-2)を得た。
【0160】
(製造例3 水性黒顔料分散体(B-1)の作製)
水(58重量部)に共栄社化学株式会社製フローレンGW-1500(12重量部)を入れ、ホモディスパーで5分攪拌し、三菱ケミカル株式会社製カーボンブラック#45(30重量部)を攪拌しながら加えてそのまま30分攪拌した。こうして得られた配合物100gと2mmφガラスビーズ100gを220ccガラス瓶に投入し、ペイントコンディショナー(東洋精機製 PAINT SHAKER)にて120分間、分散処理を行い水性黒顔料分散体(B-1)を得た。
【0161】
(製造例4 水性白顔料分散体(B-2)の作製)
水(29重量部)に共栄社化学株式会社製フローレンGW-1500(6重量部)を入れ、ホモディスパーで5分攪拌し、ケマーズ社製酸化チタンTi-Pure TS-6200(65重量部)を攪拌しながら加えてそのまま30分攪拌した。こうして得られた配合物100gと2mmφガラスビーズ100gを220ccガラス瓶に投入し、ペイントコンディショナー(東洋精機製 PAINT SHAKER)にて120分間、分散処理を行い水性白顔料分散体(B-2)を得た。
【0162】
(製造例5 水性接着層用塗料の作製)
ウレタン樹脂ハイドランWLA-515AR(DIC製)(100質量部)に、ホモディスパーで撹拌しながら粘度が6,000mPa・s程度になるように増粘剤Borchi Gel 0626(Borchers製)を加えた。その後架橋剤BAYHYDUR XP2655(Covestro製)(8質量部)を加えて10分間、撹拌することで水性接着層用塗料を作製した。
【0163】
(製造例6 表皮層形成用液・黒(C-1)の作製)
水38.98質量%にウレタン樹脂水分散体(A-1)30質量%、ウレタン樹脂水分散体(A-2)5質量%を入れ、ホモディスパーで攪拌しながらプロピレングリコール6質量%、エチレングリコール12質量%、防腐剤ACTICIDE B-20(ソージャパン製)0.05質量%、界面活性剤サーフィノール440(日信化学工業株式会社製)1.3質量%を順番に加えて5分攪拌し、その後、水性黒顔料分散体(B-1)を6.67質量%加えて混合した。最後に、孔径10μmのシリンジフィルターにてろ過をすることにより表皮層形成用液・黒(C-1)を得た。
【0164】
(製造例7 表皮層形成用液・白(C-2)の作製)
水28.15質量%にウレタン樹脂水分散体(A-1)45質量%を入れ、ホモディスパーで攪拌しながらエチレングリコール12質量%、防腐剤ACTICIDE B-20(ソージャパン製)0.05質量%、界面活性剤サーフィノール440(日信化学工業株式会社製)0.6質量%を順番に加えて5分攪拌し、最後に水性白顔料分散体(B-2)を14.2質量%加えて混合した。最後に、孔径10μmのシリンジフィルターにてろ過をすることにより表皮層形成用液・白(C-2)を得た。
【0165】
(製造例8 表皮層形成用黒塗料(C-3)の作製)
ウレタン樹脂水分散体(A-1)100gにホモディスパーで攪拌しながら水性黒顔料分散体(B-1)を20g入れた。続けてレベリング剤BYK-3455(ビックケミー・ジャパン株式会社製)0.1g、消泡剤BYK-093(ビックケミー・ジャパン株式会社製)0.1gを加え、粘度が3,000mPa・s程度になるように増粘剤アデカノールUH-420(株式会社ADEKA製)を加えた。その後10分攪拌することで表皮層形成用黒塗料(C-3)を作製した。
【0166】
(製造例9 表皮層形成用白塗料(C-4)の作製)
ウレタン樹脂水分散体(A-1)100gにホモディスパーで攪拌しながら水性白顔料分散体(B-2)を30g入れた。続けてレベリング剤BYK-3455(ビックケミー・ジャパン株式会社製)0.1g、消泡剤BYK-093(ビックケミー・ジャパン株式会社製)0.1gを加え、粘度が3,000mPa・s程度になるように増粘剤アデカノールUH-420(株式会社ADEKA製)を加えた。その後10分攪拌することで表皮層形成用白塗料(C-4)を作製した。
【0167】
(実施例1:合成皮革1の作製)
凝固剤(5質量%の硝酸カルシウム水溶液)に10秒間浸漬後、乾燥させることによって染み込み防止の下地処理を施した不織布上に水性接着層用塗料を、厚みが150μmとなるようにナイフコーターを使用して塗布し、熱風乾燥器(90~100℃×3分)を使用して乾燥させた。次に、京セラ社製インクジェットヘッドKJ4B-YHを備えた印刷装置に、表皮層形成用液・黒(C-1)を充填した。その後、インクジェットヘッドと接着層用塗料乾燥塗膜までのギャップを3mmに設定し、前記インクジェットヘッドのノズル面のワイピングをおこなった後、駆動周波数10kHzで、(1)100%ベタ画像を印刷し、次に(2)100℃で1分間乾燥、次に(3)150℃で3分間の加熱処理を行い、乾燥後の膜厚が約30μmになるまで(1)~(3)を繰り返すことによって合成皮革1を作製した。
【0168】
(実施例2:合成皮革2の作製)
実施例1において、表皮層形成用液・黒(C-1)を表皮層形成用液・白(C-2)へ変更した以外は同様の工程を経て、合成皮革2を作製した。
【0169】
(比較例1:合成皮革3の作製)
表皮層形成用黒塗料(C-3)を離型紙(リンテック株式会社製「EK-100D」)上に、厚みが150μmとなるようにナイフコーターを使用して塗布し、熱風乾燥器(70℃×2分→120℃×2分)を使用して乾燥させた。その乾燥塗膜上に水性接着層用塗料を、厚みが150μmとなるようにナイフコーターを使用して塗布し、熱風乾燥器(90~100℃×3分)を使用して乾燥させた。その後、100~130℃に設定した熱ロールプレスで不織布に乾燥塗膜の塗面を貼り合わせることで合成皮革3を作製した。乾燥後の表皮層の厚みは約30μmであった。
【0170】
(比較例2:合成皮革4の作製)
比較例1において、表皮層形成用黒塗料(C-3)を表皮層形成用白塗料(C-4)へ変更し、同様の工程を得て合成皮革4を作製した。
【0171】
[風合いの評価方法]
実施例及び比較例で得られた合成皮革を、手で触った際の触感により以下のように評価した。
「A」;ボリューム感、ソフト感ともに優れる。
「B」;ボリューム感、ソフト感が感じられる。
「C」;ボリューム感、ソフト感がやや劣る。
「D」;ボリューム感、ソフト感が全く感じられない。
【0172】
[剥離強度の測定方法]
実施例及び比較例で得られた合成皮革の上に、2.5cm幅のホットメルトテープ(サン化成株式会社製「BW-2」)を載置し、150℃で3分間加熱し、接着した。ホットメルトテープの幅に沿って試料を切断した。この試料の一部を剥離し、基材とホットメルトテープをチャックで挟み、オートグラフ(株式会社島津製作所製「AG-1」)で剥離強度を測定し、1cm幅に換算した。1kgf/cm以上であるものは剥離強度に優れると判断した。
「T」;剥離強度に優れる。
「F」;剥離強度が不足している。
【0173】
[インクジェット吐出信頼性評価]
京セラ社製インクジェットヘッドKJ4B-YHに、製造例6,7で得られたインクジェットインクをそれぞれ充填し、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧-5.0kPaに設定することで供給圧を調整した。ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧及び標準温度とし、液滴サイズを18pLに設定して、20kHzで格子状のノズルチェックパターンを印刷した。30分放置後、再びノズルチェックパターンを印刷し、印刷物の様子を確認し、インクジェット吐出信頼性を判断した。
「T」;チェックパターンが欠けることなく印刷できている。
「F」;チェックパターン上に欠けがある、又は、印刷できていない。
【0174】
表1に、実施例と比較例の評価結果をまとめる。
【0175】
【0176】
本発明の合成皮革の製造方法にて製造された合成皮革である実施例1及び2の合成皮革は、離型紙を使用せずに合成皮革を得ることができ、離型紙の廃棄をなくすことができた。また、合成皮革としての風合いや、剥離強度にも問題はなかった。
本発明の合成皮革の製造方法は、廃棄物量を削減することができ、環境対応に大きく貢献できるとわかった。
【符号の説明】
【0177】
11 プライマー用インクジェットヘッド
12 プライマー液
13 プライマー用乾燥機
21 中間層用インクジェットヘッド
22 中間層形成用液
23 中間層用乾燥機
24 中間層用膜厚計
31 表皮層用インクジェットヘッド
32 表皮層形成用液
33 表皮層用乾燥機
34 表皮層用膜厚計
50 ガイドロール又は搬送ロール
70 基材ロール
80 製品巻取りロール
100 繊維質基材
110 プライマー層
120 中間層
130 表皮層
150 合成皮革
200 車両用シート
201 車両の着座部用シートである合成皮革
202 車両の背もたれ部用シートである合成皮革
203 車両のヘッドレストである合成皮革
211 車両の着座部用シート用クッション材基材
212 車両の背もたれ部用シート用クッション材基材
221 車両の着座部用シート用クッション材に積層された表皮層
222 車両の背もたれ部用シート用クッション材に積層された表皮層
300 インクジェットヘッド移動用アーム(一部分のみ図示)
【要約】
本発明が解決しようとする課題は、離型紙を使用しない、合成皮革の製造方法を提供することである。
本発明は、表皮層を含む合成皮革の製造方法であって、前記表皮層をインクジェット方式により形成する工程を含む、合成皮革の製造方法、及び、基材搬送手段又はインクジェットヘッド移動手段と、インクジェットヘッドと、乾燥機とを備え、インクジェット方式により表皮層を形成する、合成皮革の製造装置により、上記課題を解決するものである。当該製造方法及び製造装置により、離型紙を使用せずに、合成皮革を得ることができるため、廃棄物を削減することができる。