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特許7623123樹脂材、電線用外装体および外装体付きワイヤハーネス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】樹脂材、電線用外装体および外装体付きワイヤハーネス
(51)【国際特許分類】
   H02G 3/04 20060101AFI20250121BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20250121BHJP
   H01B 7/295 20060101ALI20250121BHJP
   F16L 57/00 20060101ALI20250121BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20250121BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20250121BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20250121BHJP
   C08J 9/04 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
H02G3/04 087
H02G3/04 012
H01B7/00 301
H01B7/295
F16L57/00 A
C08L23/04
C08L23/10
C08K3/04
C08J9/04 103
C08J9/04 CES
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020172279
(22)【出願日】2020-10-13
(65)【公開番号】P2022063901
(43)【公開日】2022-04-25
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】押野 貴志
(72)【発明者】
【氏名】須山 博史
(72)【発明者】
【氏名】児島 直之
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-037451(JP,A)
【文献】特開2010-121056(JP,A)
【文献】国際公開第2011/093211(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/04
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C08J 9/00- 9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線によって構成されるワイヤハーネスと、前記ワイヤハーネスの外周に装着される電線用外装体とを備え、
前記電線用外装体が、樹脂材により構成され、
前記樹脂材は、
ポリプロピレン樹脂およびポリエチレン樹脂のうち一方または両方を含有し、かつ密度が200kg/m以上1000kg/m以下である樹脂からなる基材と、
前記基材の少なくとも表面に分散状態で存在する粒子状の着色材と
で構成され、
前記着色材が、カーボン材料であり、
前記樹脂材の表面で測定された、CIE-L色空間における明度(L値)が40以上90以下の範囲である、外装体付きワイヤハーネス。
【請求項2】
前記樹脂材に含まれる前記カーボン材料は、平均粒径が10nm以上80nm以下の範囲であるカーボンナノ粒子からなる、請求項1に記載の外装体付きワイヤハーネス。
【請求項3】
前記基材を構成する樹脂が、発泡樹脂である、請求項1または2に記載の外装体付きワイヤハーネス。
【請求項4】
前記発泡樹脂は、発泡倍率が1.5倍以上4倍以下の範囲である、請求項3に記載の外装体付きワイヤハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材と、それを用いた電線用外装体および外装体付きワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に配索されるワイヤハーネスの外周に、外力からワイヤハーネスを保護するために電線用外装体が用いられる。このような電線用外装体は、ワイヤハーネスの重量や振動などによって変形したり、内部の保護対象物が露呈したりすることは好ましくなく、適度な強度を有することが望まれる。
【0003】
このようなワイヤハーネスを保護する電線用外装体として、例えば特許文献1には、熱可塑性樹脂発泡シートが折り曲げられて形成された、電線の外周に装着される電線用外装体が記載されている。この電線用外装体は、電線の延び方向に沿って延在し、電線を収容する収容部を形成する複数の壁部を備えており、これら複数の壁部が、外側蓋壁部と、該外側蓋壁部と重なり合って接合された内側蓋壁部と、該内側蓋壁部の両端に隣接する側壁部と、を有するとともに、内側蓋壁部を両端の側壁部で支持するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-13107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、車両の燃費を向上させるなどの観点から、ワイヤハーネスなどの電装系について軽量化が求められており、ワイヤハーネスを構成する電線を保護する電線用外装体についても軽量化が求められている。ここで、電線用外装体を軽量化させるには、特許文献1に記載されるように、樹脂発泡シートを用いて電線用外装体を形成することが考えられる。
【0006】
しかしながら、電線を保護する外装体が、特許文献1に記載のように樹脂で構成されていると、車両等で火災が生じた際に、外装体に火が燃え広がりやすく、延焼速度が速くなる傾向がある。
【0007】
ここで、電線用外装体が延焼しやすいと、電線用外装体からワイヤハーネスへの延焼によって、ワイヤハーネスに繋がれた安全装置の適切な動作が阻害されるため、延焼速度を少しでも遅らせることが可能な樹脂材を、電線用外装体に用いることが望ましい。
【0008】
火災が生じた場合の延焼遅延対策としては、例えば、電線用外装体を、難燃剤を配合した樹脂で構成するのが有用である。
【0009】
しかしながら、難燃剤は比較的高価であるため、難燃剤を配合した樹脂材を外装体に用いることは、外装体で保護した電線の配線コストの上昇を招くという問題がある。特に、外装体として用いる樹脂が、発泡させた樹脂である場合、発泡していない樹脂と比べて、表面積が大きくなるため、延焼速度がさらに速くなるおそれがある。
【0010】
本発明は、延焼を遅延させることが可能な樹脂材と、それを用いた電線用外装体および外装体付きワイヤハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、樹脂からなる基材の少なくとも表面に、カーボン材料からなる粒子状の着色材を分散状態で存在させるとともに、基材の表面で測定される、CIE-L色空間における明度(L値)を40以上90以下の範囲に調整する樹脂材によることで、樹脂材が引火して燃焼する場合であっても、カーボン材料が還元剤となって火勢を弱めるとともに、高温の樹脂が溶融滴下(ドリップ)することで、樹脂材の延焼が遅延することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)密度が200kg/m以上1000kg/m以下である樹脂からなる基材と、前記基材の少なくとも表面に分散状態で存在する粒子状の着色材とで構成され、前記着色材が、カーボン材料であり、前記基材の表面で測定された、CIE-L色空間における明度(L値)が40以上90以下の範囲である、樹脂材。
(2)前記カーボン材料は、平均粒径が10nm以上80nm以下の範囲であるカーボンナノ粒子からなる、上記(1)に記載の樹脂材。
(3)前記樹脂が、発泡樹脂である、上記(1)または(2)に記載の樹脂材。
(4)前記発泡樹脂は、発泡倍率が1.5倍以上4倍以下の範囲である、上記(3)に記載の樹脂材。
(5)前記樹脂が、ポリプロピレン樹脂およびポリエチレン樹脂のうち一方または両方を含有する、上記(1)から(4)までのいずれか1項に記載の樹脂材。
(6)電線の外周に装着される電線用外装体であって、
上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の樹脂材により構成される、電線用外装体。
(7)ワイヤハーネスと、上記(6)に記載の電線用外装体とを備え、
前記電線用外装体が、前記ワイヤハーネスの外周に装着されている、外装体付きワイヤハーネス。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、延焼を遅延させることが可能な樹脂材と、それを用いた電線用外装体および外装体付きワイヤハーネスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、樹脂としてポリプロピレン樹脂を用いた場合の、カーボン材料の濃度[質量%]と、明度(L値)の関係を示すグラフであり、カーボン材料の濃度を横軸に、明度を縦軸にしたものである。
図2図2は、本発明に従う電線用外装体の構造を示した概略斜視図である。
図3図3は、本発明例1、2、比較例1、2の樹脂材について、CIE-L色空間における明度(L値)と、延焼速度[mm/min]の関係を示すグラフであり、明度を横軸に、延焼速度を縦軸にしたものである。
図4図4は、本発明例1、2、比較例1、2の樹脂材について、CIE-L色空間における明度(L値)と、溶融した樹脂の樹脂材からの溶融滴下量[g]の関係を示すグラフであり、明度を横軸に、溶融滴下量を縦軸にしたものである。
図5図5は、本発明例2と比較例1の樹脂材について、延焼速度を測定しているときの樹脂材の状態を示す写真であり、図5(a)は本発明例2の樹脂材が延焼しているときの樹脂材の状態を示すものであり、図5(b)は比較例1の樹脂材が延焼しているときの樹脂材の状態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
1.樹脂材
本発明の樹脂材は、密度が200kg/m以上1000kg/m以下である樹脂からなる基材と、基材の少なくとも表面に分散状態で存在する粒子状の着色材とで構成され、着色材が、カーボン材料であり、基材の表面で測定された、CIE-L色空間における明度(L値)が40以上90以下の範囲である。これにより、樹脂材が引火して燃焼する場合に、難燃剤を配合しなくても、カーボン材料が還元剤となって火勢を弱めるとともに、樹脂が樹脂材から溶融滴下することで、樹脂材の延焼が遅延する。より具体的には、カーボン材料が還元剤となり、空気中の酸素を消費することで、樹脂材を燃焼する際の火勢が弱められる。それとともに、材が燃焼する際の熱によって、樹脂が加熱されて燃焼状態になる場合があるものの、樹脂の樹脂材からの溶融滴下が促進されることで、熱エネルギーが分散されて樹脂材の温度が低下するため、樹脂材の延焼が遅延するものと考えられる。ここで、難燃性の材料に不燃性を持たせる観点では、樹脂の樹脂材からの溶融滴下は望ましくない現象であるが、樹脂材の延焼を遅延させる観点では、樹脂の樹脂材からの溶融滴下は、樹脂材の温度を下げられるため、望ましい現象であると考えられる。したがって、難燃剤を配合しなくても、延焼を遅延させることが可能な樹脂材と、それを用いた電線用外装体および外装体付きワイヤハーネスを提供することができる。
【0017】
ここで、本発明における「分散状態」とは、分散質であるカーボン材料などの粒子が、分散媒である樹脂に分布した状態をいう。特に、分散質としては、カーボン材料の粒子に限られず、他の粒子を含んでいてもよい。また、樹脂における分散質の分布は、均質な分布に限られず、不均質な分布であってもよい。また、本発明における「粒子状」には、粒子が単独で存在する状態のほか、複数の粒子が凝集した状態のものも含まれる。
【0018】
(基材)
樹脂材の基材は、密度が200kg/m以上1000kg/m以下である樹脂によって構成される。これにより、樹脂材の軽量化が図られるため、樹脂材を電線用外装体に用いたときに、電線用外装体や外装体付きワイヤハーネスを、より軽量にすることができる。このような観点から、樹脂の密度は、1000kg/m以下であることが好ましく、700kg/m以下であることがより好ましく、500kg/m以下であることがさらに好ましい。また、樹脂の密度は、樹脂材の機械的強度を確保する観点から、200kg/m以上であってもよい。
【0019】
ここで、基材を構成する樹脂は、発泡樹脂であることが好ましい。これにより、樹脂材の基材の軽量化を図るとともに、ワイヤハーネスを重量や振動などによる変形から保護することができる。ここで、本発明の樹脂材は、表面積が大きく加熱されやすい発泡樹脂を基材としても、カーボン材料が還元剤として作用し、かつ、発泡樹脂が樹脂材から溶融滴下することで、熱エネルギーが分散されるため、樹脂材の延焼を遅延させることができる。
【0020】
特に、基材を構成する樹脂が発泡樹脂である場合、発泡樹脂の発泡倍率は、1.5倍以上4倍以下の範囲であることが好ましく、2倍以上3倍以下の範囲であることがより好ましい。発泡樹脂の発泡倍率をこの範囲内にすることで、電線用外装体において求められる機械的強度を維持しながら、機械的な衝撃に対する緩衝作用が高められるため、樹脂材を電線用外装体に用いたときに、ワイヤハーネスを重量や振動などによる変形から保護することができる。ここで、「発泡倍率」は、発泡樹脂の体積の、発泡樹脂と同じ材料からなり、かつ同じ質量を有する未発泡の樹脂組成物の体積に対する倍率で表すことができる。
【0021】
樹脂は、可燃性であり、かつ加熱により溶融するものであれば特に限定されない。また、樹脂は、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれから構成されてもよい。より具体的に、樹脂は、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、アセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ふっ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などのうち1種以上を用いることができる。その中でも、樹脂が、ポリプロピレン樹脂およびポリエチレン樹脂のうち一方または両方を含有することが好ましい。
【0022】
樹脂には、用途に応じて通常の樹脂に添加される各種添加剤を添加してもよい。添加剤は、例えば充填剤、酸化防止剤、安定剤、金属不活性化剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、核剤、相溶化剤、透明化剤、帯電防止剤、滑剤などのうち1種以上を特に限定されずに用いることができる。ここで、本発明の樹脂材では、材料コストの高い難燃剤を含有させなくても、樹脂材の延焼を遅延させることができる。
【0023】
(着色材)
樹脂材の基材には、少なくとも表面に、粒子状の着色材であるカーボン材料が分散状態で存在する。本発明では、着色材として基材の少なくとも表面にあるカーボン材料が、延焼遅延材としても作用する。これにより、樹脂材が引火して燃焼するときに、基材の少なくとも表面に分散しているカーボン材料が還元剤として作用して、空気中の酸素を取り込むため、樹脂材を燃焼する際の火勢を弱めて、延焼を遅延させることができる。
【0024】
ここで、着色材であるカーボン材料を含んだ基材は、表面で測定されたCIE-L色空間における明度(L値)が、40以上90以下の範囲である。ここで、明度(L値)を40以上とし、好ましくは50以上とすることで、基材に分散しているカーボン材料を還元剤として作用させることができ、その結果、樹脂材の延焼を遅延させることができる。他方で、明度(L値)を90以下とし、好ましくは80以下とすることで、カーボン材料の過剰な含有による樹脂材の炭化を起こり難くし、それにより、炭化部分の燃焼による熱エネルギーの集中を起こり難くすることができる。
【0025】
また、着色材であるカーボン材料は、平均粒径が10nm以上80nm以下の範囲であるカーボンナノ粒子からなることが好ましい。これにより、樹脂の中でカーボン材料が安定して分散される状態が形成されるため、樹脂材の燃焼によって樹脂が溶融しても、カーボン材料を還元剤として作用させることができる。
【0026】
本発明の樹脂材は、カーボン材料以外の着色材を含んでいてもよい。すなわち、樹脂材は、カーボン材料によって着色される白色や灰色、黒色などの無彩色のほか、カーボン材料以外の着色材によって着色される彩色を呈していてもよい。
【0027】
なお、カーボン材料を含まない樹脂の表面で測定された、CIE-L色空間における明度(L値)は、80より大きいことが好ましく、90より大きいことがより好ましい。これにより、基材の少なくとも表面に分散している、カーボン材料による延焼遅延効果を、高めやすくすることができる。
【0028】
一例として、樹脂としてポリプロピレンを用いる場合、カーボン材料を含まない樹脂の表面で測定されるCIE-L色空間における明度(L値)は92.4と測定される。このとき、カーボン材料の濃度[質量%]と、CIE-L色空間における明度(L値)の関係は、図1に示すとおりである。そのため、特に樹脂として、カーボン材料を含まないときの表面で測定された明度(L値)が低い材料を用いた場合を考慮して、明度(L値)の代わりに、樹脂材に含まれるカーボン材料の濃度を規定してもよい。このとき、樹脂材に含まれるカーボン材料の濃度は、樹脂材の全質量に対して、0.2質量%以上5.0質量%以下の範囲としてもよい。
【0029】
(樹脂材の特性など)
本発明の樹脂材は、引火したときの延焼速度が小さいことが好ましい。より具体的に、本発明の樹脂材は、引火したときの延焼速度が、80mm/min以下であることが好ましく、70mm/min以下であることがより好ましい。本発明の樹脂材では、カーボン材料が還元剤となって火勢が弱めるとともに、高温の樹脂が溶融して流れ落ちるため、樹脂材の延焼や、樹脂材から周囲への延焼を遅延させることができる。その結果、外部に火災を報知し、消火栓やスプリンクラーなどの安全装置を作動させ、または火焔の近傍にいる人を避難させるための、時間的な猶予を得易くすることができる。ここで、樹脂材の延焼速度は、長さ125mm、幅13mm、厚さ1.5mmの矩形の樹脂材のうち、長さ方向の両端からそれぞれ25mmの位置に、幅方向に沿って標線を設けた試験片について、水平にした状態で、長さ方向の一方の端から炎を当てたときに、一方の標線から他方の標線まで延焼するのに要する時間を測定し、測定される時間と標線間の長さ(75mm)から求めることができる。
【0030】
本発明の樹脂材は、厚さの下限が、0.5mmであることが好ましく、1.0mmであることがより好ましい。ここで、樹脂材の厚さを0.5mm以上にすることで、延焼速度をより遅くすることができる。他方で、樹脂材の厚さの上限は、特に限定されないが、例えば5.0mmであることが好ましく、3.0mmであることがより好ましい。ここで、樹脂材の厚さを5.0mm以下にすることで、樹脂材をより軽量にすることができる。
【0031】
2.電線用外装体
本発明の樹脂材は、電線の外周に装着される電線用外装体であって、上述の樹脂材により構成されるものである。
【0032】
以下、図を用いて具体的に説明する。図2は、本発明に従う電線用外装体の構造を示した概略斜視図である。本発明の電線用外装体10は、電線2の延在方向Xに沿って存在する壁部3を備えており、この壁部3に囲まれて形成され、かつ電線2を収容する収容部11を有している。電線用外装体10が、上述の樹脂材によって構成されることにより、火災などにおける火焔が樹脂材に引火した場合であっても、樹脂材の延焼が遅延することで電線2への引火も遅延するため、電線2を用いた通信により外部に火災を報知し、または消火栓やスプリンクラーなどの安全装置を作動させることができる。また、火災時に近傍にいる人に対して、避難するための時間的な猶予を多く与えることができる。なお、図2においては、電線2を1本の円柱形状で示しているが、電線2は、例えばワイヤハーネスのように、2本以上の電線を束ねた電線束や、必要に応じて分岐させたものであってもよい。
【0033】
電線用外装体10の形状は、特に限定されるものではなく、例えば図2に示すように、1枚の樹脂材を複数の折曲部3a~3dで折り曲げることで、壁部3を形成してもよい。このとき、電線用外装体10の壁部3は、電線2の全周を囲むように構成することが好ましい。これにより、電線用外装体10が引火した場合であっても、電線用外装体10を超えた延焼が遅延するため、安全装置を作動させたりするための時間的な猶予を得易くすることができる。
【0034】
3.外装体付きワイヤハーネス
本発明の外装体付きワイヤハーネス1は、電線2によって構成されるワイヤハーネス20と、上述の電線用外装体10とを備えるものであり、電線用外装体10が、ワイヤハーネス20の外周に装着されるものである。これにより、ワイヤハーネス20を構成する電線束や、電線束からさらに分岐させて延在する複数の分割電線束からなる電線集合体の少なくとも一部が、樹脂材によって保護されるため、電線用外装体10が引火した場合であっても、ワイヤハーネス20に延焼してワイヤハーネス20の動作が停止するまでの、時間的な猶予を得易くすることができる。
【実施例
【0035】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
[本発明例1、2、比較例1、2]
(樹脂材の作製)
ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名:EA9、密度:900kg/m)からなる基材に、カーボン材料(着色剤)であるカーボンナノ粒子(旭カーボン株式会社製、商品名:旭#70、平均粒径:28nm)と、添加剤である酸化防止剤(ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、BASF社製、商品名:イルガノックス1010)を配合した。ここで、酸化防止剤の添加量は、基材100質量部に対して0.5質量部とした。
【0037】
得られた配合物について、溶融混練するとともに、発泡後の体積が発泡前の2.0倍となるように発泡させて、均質な樹脂組成物を得た。
【0038】
得られた樹脂組成物について押出成形を行い、厚さ1.5mmのフィルム状の樹脂材を得た。
【0039】
このとき、樹脂に含ませるカーボンナノ粒子の量を変化させることで、4種類の樹脂材を得た(本発明例1、2、比較例1、2)。得られる樹脂材について、基材の表面で、CIE-L色空間における明度(L値)を測定したところ、それぞれ24.7(比較例1)、43.5(本発明例1)、79.9(本発明例2)、92.4(比較例2)であった。なお、比較例1は、樹脂にカーボンナノ粒子を過剰に含んだ例であり、本発明の範囲外である。また、比較例2は、樹脂にカーボンナノ粒子を含まない例であり、本発明の範囲外である。
【0040】
得られるフィルム状の樹脂材の密度[kg/m]は、表1に示すとおりであった。また、得られるフィルム状の樹脂材の発泡倍率は、表1に示すとおり、いずれも1.9倍であった。
【0041】
また、得られる樹脂材を、長さ125mm、幅13mm、厚さ1.5mmの矩形に切り出した後、長さ方向の両端からそれぞれ25mmの位置に、幅方向に沿って標線を設けて試験片を作製し、この試験片を水平にした状態で、長さ方向の一方の端から炎を当てたときに、一方の標線から他方の標線まで延焼するのに要する時間を測定し、測定される時間と標線間の長さ(75mm)から、樹脂材の延焼速度[mm/min]を求めた。また、一方の標線から他方の標線まで延焼する間に、溶融した樹脂が樹脂材から滴下する回数[回]を目視によりカウントするとともに、延焼中に溶融滴下した樹脂の量[g]を秤量した。結果を表1に示す。
【0042】
さらに、本発明例1、2、比較例1、2の樹脂材について、CIE-L色空間における明度(L値)と、延焼速度[mm/min]の関係を示すグラフを図3に示す。図3のグラフは、明度を横軸に、延焼速度を縦軸にしたものである。
【0043】
また、本発明例1、2、比較例1、2の樹脂材について、CIE-L色空間における明度(L値)と、樹脂の樹脂材からの溶融滴下量[g]の関係を示すグラフを図4に示す。図4のグラフは、明度を横軸に、溶融滴下量を縦軸にしたものである。
【0044】
【表1】
【0045】
表1の評価結果から、樹脂材の表面で測定されたCIE-L色空間における明度(L値)が本発明の適正範囲内である本発明例1、2の樹脂材は、延焼速度が70mm/min以下であることが確認された。また、本発明例1、2の樹脂材は、延焼するときに樹脂が溶融滴下しており、かつ、図5(a)に示すように、燃焼後に炭化物の残留が見られなかった。
【0046】
これに対し、比較例1では、明度(L値)が本発明の適正範囲よりも小さいときに、延焼速度が70mm/minを超えており、合格レベルを満たさなかった。ここで、図4のグラフから、比較例1において、樹脂材からの樹脂の溶融滴下量が、本発明例1、2よりも減少していることがわかった。また、比較例1の樹脂材は、図5(b)に示すように、燃焼後に樹脂材の炭化物が残留していた。これらのことから、比較例1では、明度(L値)が小さくカーボン材料を多く含んでいたことで、樹脂材の炭化物にエネルギーが集中して燃焼が進み、樹脂の溶融滴下も殆ど起こらなかったため、延焼速度が上がったと考えられる。
【0047】
また、比較例2では、カーボン材料を含まず、明度(L値)が本発明の適正範囲よりも大きいときに、延焼速度が70mm/minを超えており、合格レベルを満たさなかった。これらのことから、比較例2では、明度(L値)が大きく、カーボン材料を含まなかったことで、カーボン材料による延焼速度の低下が起こることなく、延焼速度が上がったと考えられる。
【0048】
上記結果より、本発明例1、2の樹脂材は、難燃剤を配合しなくても、延焼を有効に遅延させることができることが確認された。
【0049】
加えて、本発明例1、2の樹脂材は、密度が200kg/m以上1000kg/m以下の範囲にあるため、軽量であることも確認された。
【符号の説明】
【0050】
1 外装体付きワイヤハーネス
10 電線用外装体
11 収容部
2 電線
20 ワイヤハーネス
3 壁部
3a~3d 折曲部
X 電線の延在方向
図1
図2
図3
図4
図5