(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】イントラ予測装置、画像符号化装置、画像復号装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 19/117 20140101AFI20250121BHJP
H04N 19/159 20140101ALI20250121BHJP
H04N 19/167 20140101ALI20250121BHJP
H04N 19/182 20140101ALI20250121BHJP
H04N 19/593 20140101ALI20250121BHJP
【FI】
H04N19/117
H04N19/159
H04N19/167
H04N19/182
H04N19/593
(21)【出願番号】P 2023143931
(22)【出願日】2023-09-05
(62)【分割の表示】P 2020537444の分割
【原出願日】2019-08-09
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2018152989
(32)【優先日】2018-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001106
【氏名又は名称】弁理士法人キュリーズ
(72)【発明者】
【氏名】岩村 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】市ヶ谷 敦郎
(72)【発明者】
【氏名】根本 慎平
【審査官】岩井 健二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/054200(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/116925(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0105685(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 19/00 - 19/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成分及び第2成分を含んで構成される原画像を分割して得られたブロック単位でイントラ予測を行うイントラ予測装置であって、
前記イントラ予測の対象とする対象ブロックの周辺にある前記第1成分及び前記第2成分のそれぞれの復号画素を用いて算出される算出モデルであって、複数の算出モデルのモードの中から選択されたモードの算出モデルを、前記対象ブロックの前記第1成分の復号画素に適用することにより、前記対象ブロックの前記第2成分の画素を予測する予測部と、
前記選択された算出モデルのモー
ドに基づいて、前記予測部により得られた前記第2成分の予測画素を補正する補正部と、を備えることを特徴とするイントラ予測装置。
【請求項2】
第1成分及び第2成分を含んで構成される原画像を分割して得られたブロック単位でイントラ予測を行うイントラ予測装置であって、
前記イントラ予測の対象とする対象ブロックの周辺にある前記第1成分及び前記第2成分のそれぞれの復号画素を用いて算出される算出モデルであって、複数の算出モデルのモードの中から選択されたモードの算出モデルを、前記対象ブロックの前記第1成分の復号画素に適用することにより、前記対象ブロックの前記第2成分の画素を予測する予測部と、
前記選択された算出モデルの算出に用いた復号画素の位置に基づいて、前記予測部により得られた前記第2成分の予測画素を補正する補正部と、を備えることを特徴とするイントラ予測装置。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のイントラ予測装置を備えることを特徴とする画像符号化装置。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載のイントラ予測装置を備えることを特徴とする画像復号装置。
【請求項5】
コンピュータを請求項1
又は2に記載のイントラ予測装置として機能させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イントラ予測装置、画像符号化装置、画像復号装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
画像符号化技術において、フレーム内の空間的な相関を利用したイントラ予測が広く用いられている。イントラ予測では、予測対象のブロック(以下、「対象ブロック」という)の周辺にある復号画素値を用いて、対象ブロックの画素値を予測する。
【0003】
例えば、特許文献1には、画像のブロックごとに色差信号のイントラ予測モードを定めるイントラ予測器において、色差信号のイントラ予測モードの符号化効率を向上することができるイントラ予測器を用いた画像符号化装置が開示されている(特許文献1参照)。かかるイントラ予測のモードとして、輝度成分(Luma)の復号画素値を用いて色差成分(Chroma)の画素値を予測する成分間イントラ予測(CCIP:Cross-Component Intra Prediction)が知られている。具体的には、成分間イントラ予測は、対象ブロックの上側及び左側に隣接する輝度成分及び色差成分のそれぞれの復号画素を用いて、当該対象ブロックの輝度成分及び色差成分の線形モデルを算出し、算出した線形モデルを用いて当該ブロック内の色差成分の画素値を予測するイントラ予測モードである。なお、成分間イントラ予測は、CCLM(Cross-Component Linear Model)予測と称されることもある。
【0004】
かかる成分間イントラ予測では、対象ブロックの上側及び左側の輝度成分及び色差成分の復号画素の信号分布の関係が当該対象ブロックの輝度成分及び色差成分の信号分布の関係と近似できることを利用することにより、色差成分の信号を精度よく予測できる。しかし、上側及び左側の復号画素を常に用いるため、上側と左側とで、輝度成分及び色差成分の信号分布の関係が異なる場合には、正しい線形モデルが算出できず、結果として色差成分の予測精度が低下してしまう。
【0005】
非特許文献1には、かかる問題点に鑑みて、色差成分の新たなイントラ予測モードとしてCCIP_Aモード及びCCIP_Lモードが記載されている。CCIP_Aモードは、上側及び左側の輝度成分及び色差成分の復号画素を用いるかわりに、上側のみの輝度成分及び色差成分の復号画素を用いて線形モデルを算出するイントラ予測モードである。CCIP_Lモードは、左側のみの輝度成分及び色差成分の復号画素を用いて線形モデルを算出するイントラ予測モードである。なお、非特許文献2にも同様なイントラ予測モードが記載されているが、CCIP_AがLM-topと称され、CCIP_LがLM-leftと称されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】JVET-J0025、"Description of SDR,HDR and 360° video coding technology proposal by Qualcomm and Technicolormedium complexity version"、2018年5月22日検索、インターネット<URL:http://phenix.it-sudparis.eu/jvet/doc_end_user/documents/10_San%20Diego/wg11/JVET-J0025-v4.zip>
【文献】JVET-J0018、"Description of SDR video coding technology proposal by MediaTek"、[2018年5月22日検索]、インターネット<URL:http://phenix.it-sudparis.eu/jvet/doc_end_user/documents/10_San%20Diego/wg11/JVET-J0018-v2.zip>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、CCIP_Aモード又はCCIP_Lモードを適用したブロックの残差信号(予測残差)は、そのエネルギー分布傾向に偏りがでる可能性が高い。
【0009】
例えば、CCIP_Aモードを適用する場合には、上側の輝度成分及び色差成分の復号画素を線形モデルの算出に用いるため、当該ブロックの上端部領域の予測精度は高くなる可能性が高い。一方、線形モデル算出に用いた復号画素から遠い下端部領域の予測精度は低くなる可能性が高い。
【0010】
同様に、CCIP_Lモードを適用する場合には、左側の輝度成分及び色差成分の復号画素を線形モデル算出に用いるため、当該ブロックの色差成分の左端部領域の予測精度は高くなる可能性が高いが、線形モデルの算出に用いた復号画素から遠い右端部領域の予測精度は低くなる可能性が高い。
【0011】
かかる予測精度が低い領域は予測残差のエネルギーが大きくなるため、符号化効率の低下を引き起こすという問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、成分間イントラ予測を用いる場合において符号化効率を改善したイントラ予測装置、画像符号化装置、画像復号装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の特徴に係るイントラ予測装置は、フレーム単位の原画像を分割して得られたブロック単位でイントラ予測を行うイントラ予測装置であって、前記イントラ予測の対象とする対象ブロックの周辺にある第1成分及び第2成分のそれぞれの復号画素を用いて線形モデルを算出する線形モデル算出部と、前記線形モデル算出部により算出された前記線形モデルを前記対象ブロックの第1成分の復号画素に適用することにより、前記対象ブロックの第2成分の画素を予測する予測部と、前記線形モデル算出部が前記線形モデルの算出に用いた復号画素の位置に基づいて、前記予測部により得られた第2成分の予測画素を補正する補正部と、を備えることを要旨とする。
【0014】
かかるイントラ予測装置によれば、線形モデル算出部が線形モデルの算出に用いた復号画素の位置に基づいて、予測部により得られた第2成分の予測画素を補正することにより、第2成分の予測画素の精度(すなわち、予測精度)を向上させる補正が可能になるため、符号化効率を改善できる。
【0015】
第2の特徴に係る画像符号化装置は、第1の特徴に記載のイントラ予測装置を備えることを要旨とする。
【0016】
第3の特徴に係る画像復号装置は、第1の特徴に記載のイントラ予測装置を備えることを要旨とする。
【0017】
第4の特徴に係るプログラムは、コンピュータを第1の特徴に記載のイントラ予測装置として機能させることを要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、成分間イントラ予測を用いる場合において符号化効率を改善したイントラ予測装置、画像符号化装置、画像復号装置、及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る画像符号化装置の構成を示す図である。
【
図5】実施形態に係る画像復号装置の構成を示す図である。
【
図6】実施形態に係るイントラ予測部の構成を示す図である。
【
図7】実施形態に係るCCIP_Aモードを適用する場合における補正方法の一例を示す図である。
【
図8】実施形態に係るCCIP_Lモードを適用する場合における補正方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照して、一実施形態に係る画像符号化装置及び画像復号装置について説明する。本実施形態に係る画像符号化装置及び画像復号装置は、MPEGに代表される動画像の符号化及び復号を行う。なお、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。
【0021】
<1.画像符号化装置の構成>
図1は、本実施形態に係る画像符号化装置1の構成を示す図である。
【0022】
図1に示すように、画像符号化装置1は、ブロック分割部100と、減算部110と、変換・量子化部120と、エントロピー符号化部130と、逆量子化・逆変換部140と、合成部150と、ループフィルタ160と、メモリ170と、予測部180とを備える。
【0023】
ブロック分割部100は、動画像を構成するフレーム(或いはピクチャ)単位の入力画像をブロック状の小領域に分割し、分割により得たブロックを減算部110に出力する。入力画像内の各画素は、輝度成分(Y)及び色差成分(Cb、Cr)からなる。ブロックのサイズは、例えば32×32画素、16×16画素、8×8画素、又は4×4画素等である。ブロックの形状は正方形に限らず、長方形であってもよい。ブロックは、画像符号化装置1が符号化を行う単位及び画像復号装置2が復号を行う単位である。
【0024】
本実施形態において、ブロック分割部100は、入力画像をCU(Coding Unit)と呼ばれるブロックに分割する。1つのCUは、輝度成分のブロックと色差成分のブロックとからなる。画像符号化装置1は、1つのCUを構成する輝度成分のブロック及び色差成分のブロックを別々に符号化することが可能である。同様に、画像復号装置2は、1つのCUを構成する輝度成分のブロック及び色差成分のブロックを別々に符号化することが可能である。
【0025】
減算部110は、ブロック分割部100から入力されたブロックと当該ブロックを予測部180が予測して得た予測画像(予測ブロック)との間の画素単位での差分を示す予測残差を算出する。具体的には、減算部110は、ブロックの各画素値から予測画像の各画素値を減算することにより予測残差を算出し、算出した予測残差を変換・量子化部120に出力する。
【0026】
変換・量子化部120は、ブロック単位で直交変換処理及び量子化処理を行う。変換・量子化部120は、変換部121と、量子化部122とを備える。
【0027】
変換部121は、減算部110から入力された予測残差に対して直交変換を行って変換係数を算出し、算出した変換係数を量子化部122に出力する。直交変換とは、例えば、離散コサイン変換(DCT)や離散サイン変換(DST)、カルーネンレーブ変換(KLT)等をいう。
【0028】
量子化部122は、変換部121から入力された変換係数を量子化パラメータ(Qp)及び量子化行列を用いて量子化し、量子化変換係数を生成する。量子化パラメータ(Qp)は、ブロック内の各変換係数に対して共通して適用されるパラメータであって、量子化の粗さを定めるパラメータである。量子化行列は、各変換係数を量子化する際の量子化値を要素として有する行列である。量子化部122は、生成した量子化変換係数情報及び量子化制御情報をエントロピー符号化部130及び逆量子化・逆変換部140に出力する。
【0029】
エントロピー符号化部130は、量子化部122から入力された量子化変換係数に対してエントロピー符号化を行い、データ圧縮を行って符号化データ(ビットストリーム)を生成し、符号化データを画像符号化装置1の外部に出力する。エントロピー符号化には、ハフマン符号やCABAC(Context-based Adaptive Binary Arithmetic Coding;コンテキスト適応型2値算術符号)等を用いることができる。なお、エントロピー符号化部130には、ループフィルタ160からフィルタ処理に関する制御情報が入力され、予測部180から予測に関する制御情報が入力される。エントロピー符号化部130は、これらの制御情報のエントロピー符号化も行う。
【0030】
逆量子化・逆変換部140は、ブロック単位で逆量子化処理及び逆直交変換処理を行う。逆量子化・逆変換部140は、逆量子化部141と、逆変換部142とを備える。
【0031】
逆量子化部141は、量子化部122が行う量子化処理に対応する逆量子化処理を行う。具体的には、逆量子化部141は、量子化部122から入力された量子化変換係数を、量子化パラメータ(Qp)及び量子化行列を用いて逆量子化することにより、変換係数を復元し、復元した変換係数を逆変換部142に出力する。
【0032】
逆変換部142は、変換部121が行う直交変換処理に対応する逆直交変換処理を行う。例えば、変換部121が離散コサイン変換を行った場合には、逆変換部142は逆離散コサイン変換を行う。逆変換部142は、逆量子化部141から入力された変換係数に対して逆直交変換を行って予測残差を復元し、復元した予測残差である復元予測残差を合成部150に出力する。
【0033】
合成部150は、逆変換部142から入力された復元予測残差を、予測部180から入力された予測画像と画素単位で合成する。合成部150は、復元予測残差の各画素値と予測画像の各画素値を加算してブロックを再構成(復号)し、復号したブロック単位の復号画像をループフィルタ160に出力する。かかる復号画像は、再構成画像と称されることがある。
【0034】
ループフィルタ160は、合成部150から入力された復号画像に対して、後処理としてのフィルタ処理であるループフィルタ処理を行い、当該フィルタ処理後の復号画像をメモリ170に出力する。また、ループフィルタ160は、ループフィルタ処理に関する制御情報をエントロピー符号化部130に出力する。
【0035】
メモリ170は、ループフィルタ160から入力された復号画像を記憶する。メモリ170は、復号画像をフレーム単位で記憶する。メモリ170は、記憶している復号画像を予測部180に出力する。
【0036】
予測部180は、ブロック単位で予測を行う。予測部180は、イントラ予測部181と、インター予測部182と、切替部183とを備える。
【0037】
イントラ予測部181は、フレーム単位の原画像を分割して得られたブロック単位でイントラ予測を行うイントラ予測装置に相当する。イントラ予測部181は、メモリ170に記憶された復号画像のうち、予測対象のブロックの周辺にある復号画素値を参照してイントラ予測画像を生成し、生成したイントラ予測画像を切替部183に出力する。ブロックの周辺にある復号画素値とは、当該ブロックに対するイントラ予測の際に参照され得る復号画素の値をいい、当該ブロックに隣接する復号画素の値に限定されない。また、イントラ予測部181は、複数のイントラ予測モードの中から、対象ブロックに適用する最適なイントラ予測モードを選択し、選択したイントラ予測モードを用いてイントラ予測を行う。イントラ予測部181は、選択したイントラ予測モードに関する制御情報をエントロピー符号化部130に出力する。なお、イントラ予測モードには、Planar予測、DC予測、及び方向性予測がある。
【0038】
本実施形態において、イントラ予測部181は、予測対象のCU(対象ブロック)の色差成分に適用するイントラ予測モードとして、成分間イントラ予測(CCIP)を選択可能である。CCIPでは、CUの輝度成分の復号画素値を用いて当該CUの色差成分の画素値を予測する。なお、イントラ予測部181は、CUの輝度成分のイントラ予測を先に行っており、メモリ170には、当該CUの輝度成分の復号画素値が記憶されている。
【0039】
本実施形態において、CCIPは、通常のCCIP、CCIP_A、及びCCIP_Lの3つのモードを含む。
図2は通常のCCIPモードを示す図であり、
図3はCCIP_Aモードを示す図であり、
図4はCCIP_Lモードを示す図である。
【0040】
図2に示すように、通常のCCIPモードの場合、イントラ予測部181は、CUの上側及び左側にある輝度成分及び色差成分のそれぞれの復号画素値を用いて、当該CUの輝度成分及び色差成分の線形モデルを算出し、算出した線形モデルを用いて当該CUの色差成分の画素値を予測する。通常のCCIPモードは、CUの上側及び左側の輝度成分及び色差成分の復号画素の信号分布の関係が当該CUの輝度成分及び色差成分の信号分布の関係と近似できることを利用することにより、色差成分の信号を精度よく予測できる。
【0041】
イントラ予測部181は、上述した、非特許文献の他、例えば、JVET-G1001-V1等に記載されているように、次の式(1)によりCUの色差成分(Cb)の予測画素値predc(i,j)を算出する。ここで、式(1)が線形モデルに相当する。
【0042】
【0043】
但し、recL(i,j)は、当該CUのダウンサンプルされた輝度成分の復号画素値(downsampled reconstructed luma samples)を表す。
【0044】
また、α及びβは次の式(2)及び(3)により算出する。
【0045】
【0046】
但し、L(n)は、ダウンサンプルされた上側及び左側の輝度成分の復号画素値(top and left neighbouring reconstructed luma samples)を表す。C(n)は、上側及び左側の色差成分の復号画素値(top and left neighbouring reconstructed chroma samples)を表す。
【0047】
このように、通常のCCIPは、CUの上側及び左側の復号画素値を常に用いるため、上側と左側とで、輝度成分及び色差成分の信号分布の関係が異なる場合には、正しい線形モデルが算出できず、結果として色差成分の予測精度が低下してしまう。
【0048】
CCIP_Aモード及びCCIP_Lモードは、CUの上側と左側とで輝度成分及び色差成分の信号分布の関係が異なる場合において好適なモードである。
【0049】
図3に示すように、CCIP_Aモードの場合、イントラ予測部181は、CUの上側及び左側の輝度成分及び色差成分の復号画素値を用いるかわりに、CUの上側のみの輝度成分及び色差成分の復号画素値を用いて線形モデルを算出する。CCIP_Aモードを適用する場合には、CUの上側の輝度成分及び色差成分の復号画素値を線形モデルの算出に用いるため、当該CUの色差成分の上端部領域の予測精度は高くなる可能性が高い。一方、線形モデル算出に用いた復号画素値から遠い色差成分の下端部領域の予測精度は低くなる可能性が高い。
【0050】
図4に示すように、CCIP_Lモードの場合、イントラ予測部181は、CUの上側及び左側の輝度成分及び色差成分の復号画素値を用いるかわりに、CUの左側のみの輝度成分及び色差成分の復号画素値を用いて線形モデルを算出する。CCIP_Lモードを適用する場合には、CUの左側の輝度成分及び色差成分の復号画素値を線形モデル算出に用いるため、当該CUの色差成分の左端部領域の予測精度は高くなる可能性が高いが、線形モデルの算出に用いた復号画素値から遠い色差成分の右端部領域の予測精度は低くなる可能性が高い。
【0051】
インター予測部182は、メモリ170に記憶された復号画像を参照画像として用いて、ブロックマッチングなどの手法により動きベクトルを算出し、予測対象のブロックを予測してインター予測画像を生成し、生成したインター予測画像を切替部183に出力する。インター予測部182は、複数の参照画像を用いるインター予測(典型的には、双予測)や、1つの参照画像を用いるインター予測(片方向予測)の中から最適なインター予測方法を選択し、選択したインター予測方法を用いてインター予測を行う。
【0052】
切替部183は、イントラ予測部181から入力されるイントラ予測画像とインター予測部182から入力されるインター予測画像とを切り替えて、いずれかの予測画像を減算部110及び合成部150に出力する。
【0053】
<2.画像復号装置の構成>
図5は、本実施形態に係る画像復号装置2の構成を示す図である。
【0054】
図5に示すように、画像復号装置2は、エントロピー符号復号部200と、逆量子化・逆変換部210と、合成部220と、ループフィルタ230と、メモリ240と、予測部250とを備える。
【0055】
エントロピー符号復号部200は、画像符号化装置1により生成された符号化データを復号し、量子化変換係数を逆量子化・逆変換部210に出力する。また、エントロピー符号復号部200は、予測(イントラ予測及びインター予測)に関する制御情報を取得し、取得した制御情報を予測部250に出力する。さらに、エントロピー符号復号部200は、ループフィルタ処理に関する制御情報を取得し、取得した制御情報をループフィルタ230に出力する。
【0056】
逆量子化・逆変換部210は、ブロック単位で逆量子化処理及び逆直交変換処理を行う。逆量子化・逆変換部210は、逆量子化部211と、逆変換部212とを備える。
【0057】
逆量子化部211は、画像符号化装置1の量子化部122が行う量子化処理に対応する逆量子化処理を行う。逆量子化部211は、エントロピー符号復号部200から入力された量子化変換係数を、量子化パラメータ(Qp)及び量子化行列を用いて逆量子化することにより、変換係数を復元し、復元した変換係数を逆変換部212に出力する。
【0058】
逆変換部212は、画像符号化装置1の変換部121が行う直交変換処理に対応する逆直交変換処理を行う。逆変換部212は、逆量子化部211から入力された変換係数に対して逆直交変換を行って予測残差を復元し、復元した予測残差(復元予測残差)を合成部220に出力する。
【0059】
合成部220は、逆変換部212から入力された予測残差と、予測部250から入力された予測画像とを画素単位で合成することにより、元のブロックを再構成(復号)し、ブロック単位の復号画像をループフィルタ230に出力する。
【0060】
ループフィルタ230は、エントロピー符号復号部200から入力された制御情報に基づいて、合成部220から入力された復号画像に対して、画像符号化装置1のループフィルタ160が行うループフィルタ処理と同様なループフィルタ処理を行い、当該フィルタ処理後の復号画像をメモリ240に出力する。
【0061】
メモリ240は、ループフィルタ230から入力された復号画像を記憶する。メモリ240は、復号画像をフレーム単位で記憶する。メモリ240は、フレーム単位の復号画像を画像復号装置2の外部に出力する。
【0062】
予測部250は、ブロック単位で予測を行う。予測部250は、イントラ予測部251と、インター予測部252と、切替部253とを備える。
【0063】
イントラ予測部251は、メモリ240に記憶された復号画像を参照し、エントロピー符号復号部200から入力された制御情報に従ってイントラ予測を行うことによりイントラ予測画像を生成し、生成したイントラ予測画像を切替部253に出力する。
【0064】
インター予測部252は、メモリ240に記憶された復号画像を参照画像として用いて予測対象のブロックを予測するインター予測を行う。インター予測部252は、エントロピー符号復号部200から入力された制御情報(動きベクトル情報等)に従ってインター予測を行うことによりインター予測画像を生成し、生成したインター予測画像を切替部253に出力する。
【0065】
切替部253は、イントラ予測部251から入力されるイントラ予測画像とインター予測部252から入力されるインター予測画像とを切り替えて、いずれかの予測画像を合成部220に出力する。
【0066】
<3.イントラ予測部の構成>
図6は、本実施形態に係る画像符号化装置1のイントラ予測部181の構成を示す図である。画像復号装置2のイントラ予測部251は、画像符号化装置1のイントラ予測部181と同様に構成される。
【0067】
図6に示すように、本実施形態に係るイントラ予測部181は、対象ブロック(CU)の輝度成分の復号画素値を用いて当該CUの色差成分の画素値を予測する成分間イントラ予測部1811と、成分間イントラ予測部1811により得られた色差成分の予測画素値を補正する色差成分補正部1812とを備える。
【0068】
成分間イントラ予測部1811は、線形モデル算出部1811aと、色差成分予測部1811bとを備える。
【0069】
線形モデル算出部1811aは、対象ブロック(CU)の周辺にある輝度成分の復号画素値及び色差成分の復号画素値(参照画素値)を用いて、当該CUの輝度成分及び色差成分の線形モデルを算出し、算出した線形モデルを色差成分予測部1811bに出力する。また、線形モデル算出部1811aは、当該CUの周辺にある色差成分の復号画素値のうち、線形モデルの算出に用いなかった復号画素値を色差成分補正部1812に出力する。
【0070】
具体的には、線形モデル算出部1811aは、通常のCCIPモードを適用する場合には、当該CUの上側の輝度成分及び色差成分の復号画素値と、当該CUの左側の輝度成分及び色差成分の復号画素値とを線形モデルの算出に用いる(
図2参照)。
【0071】
線形モデル算出部1811aは、CCIP_Aモードを適用する場合には、当該CUの左側の輝度成分及び色差成分の復号画素値を線形モデルの算出に用いずに、当該CUの上側の輝度成分及び色差成分の復号画素値を線形モデルの算出に用いる(
図3参照)。かかる場合、線形モデル算出部1811aは、当該CUの周辺にある色差成分の復号画素値のうち、当該CUの上側以外の位置にある色差成分の復号画素値を色差成分補正部1812に出力する。なお、当該CUにおいて、線形モデルの算出に用いた上側の復号画素値から遠い下端部領域の予測精度が低くなる可能性が高いため、当該下端部領域の色差成分を補正可能とするために、当該CUの下側の色差成分の復号画素値を色差成分補正部1812に優先的に出力することが好ましい。
【0072】
線形モデル算出部1811aは、CCIP_Lモードを適用する場合には、当該CUの上側の輝度成分及び色差成分の復号画素値を線形モデルの算出に用いずに、当該CUの左側の輝度成分及び色差成分の復号画素値を線形モデルの算出に用いる(
図4参照)。かかる場合、線形モデル算出部1811aは、当該CUの周辺にある復号画素値のうち、対象ブロックの左側以外の位置にある復号画素値を色差成分補正部1812に出力する。なお、当該CUにおいて、線形モデルの算出に用いた左側の復号画素値から遠い右端部領域の予測精度が低くなる可能性が高いため、当該右端部領域の色差成分を補正可能とするために、当該CUの右側の色差成分の復号画素値を色差成分補正部1812に優先的に出力することが好ましい。
【0073】
色差成分予測部1811bは、式(1)により、線形モデル算出部1811aから入力された線形モデルを当該CUの輝度成分の復号画素値に適用することにより、当該CUの色差成分の画素値を予測し、当該CUの色差成分の予測画素値を色差成分補正部1812に出力する。
【0074】
色差成分補正部1812は、線形モデル算出部1811aから入力された復号画素値(すなわち、線形モデルの算出に用いなかった復号画素値)を用いて、色差成分予測部1811bから入力された当該CUの色差成分の予測画素値を例えばフィルタ処理により補正する。
【0075】
具体的には、色差成分補正部1812は、CCIP_Aモードを適用する場合には、当該CUの周辺にある復号画素値のうち、当該CUの上側以外の位置にある復号画素値を用いて、当該CUの上端部領域以外の端部領域にある色差成分の予測画素値を補正する。例えば、色差成分補正部1812は、当該CUの下側にある色差成分の復号画素値を用いて、当該CUの下端部領域にある色差成分の予測画素値を補正する。
【0076】
図7は、CCIP_Aモードを適用する場合における補正方法の一例を示す図である。
【0077】
図7に示すように、色差成分補正部1812は、CUの下側にある色差成分の復号画素値を利用可能である場合には、当該下側の色差成分の復号画素値を用いて、当該CUの下端部領域の色差成分の予測画素値をフィルタ処理することにより補正する。具体的には、下記の式(4)により、当該CUの下端部領域の色差成分の予測画素値q
0、q
1、q
2及び当該CUの下側にある色差成分の復号画素値(参照画素値)p
0、p
1、p
2を用いて補正し、補正後の予測画素値q'0、q'1、q'2を出力する。
【0078】
【0079】
ここで、clip(x,max,min)は、xがmaxを超える場合はmaxで、xがminを下回る場合はminでクリップする処理を示す。また、式(4)におけるtcは、クリッピングに用いる処理の調整オフセットであり、量子化パラメータ(Qp)を用いる関数により可変な値を算出及び設定可能である。
【0080】
このように、CCIP_Aモードを適用する場合には、線形モデル算出に用いた上側の復号画素値から遠い下端部領域の予測精度は低くなる可能性が高いが、当該CUの下端部領域の色差成分の予測画素値を補正して精度を向上させることにより、当該下端部領域に対応する予測残差のエネルギーを抑制し、符号化効率を改善できる。
【0081】
一方、色差成分補正部1812は、CCIP_Lモードを適用する場合には、当該CUの周辺にある復号画素値のうち、当該CUの左側以外の位置にある復号画素値を用いて、当該CUの左端部領域以外の端部領域にある色差成分の予測画素値を補正する。例えば、色差成分補正部1812は、当該CUの右側にある色差成分の復号画素値を用いて、当該CUの右端部領域にある色差成分の予測画素値を補正する。
【0082】
図8は、CCIP_Lモードを適用する場合における補正方法の一例を示す図である。
【0083】
図8に示すように、色差成分補正部1812は、CUの右側にある色差成分の復号画素値を利用可能である場合には、当該右側の色差成分の復号画素値を用いて、当該CUの右端部領域の色差成分の予測画素値をフィルタ処理することにより補正する。具体的には、式(4)により、当該CUの右端部領域の色差成分の予測画素値q
0、q
1、q
2及び当該CUの右側にある色差成分の復号画素値(参照画素値)p
0、p
1、p
2を用いて補正し、補正後の予測画素値q'0、q'1、q'2を出力する。
【0084】
このように、CCIP_Lモードを適用する場合には、線形モデル算出に用いた左側の復号画素値から遠い右端部領域の予測精度は低くなる可能性が高いが、当該CUの右端部領域の色差成分の予測画素値を補正して精度を向上させることにより、当該右端部領域に対応する予測残差のエネルギーを抑制し、符号化効率を改善できる。
【0085】
<4.実施形態のまとめ>
以上説明したように、イントラ予測部181は、対象ブロック(CU)の周辺にある復号画素値のうち、線形モデル算出部1811aが線形モデルの算出に用いなかった復号画素値を用いて、色差成分予測部1811bにより得られた色差成分の予測画素値を補正する色差成分補正部1812を備える。これにより、当該CUの色差成分の予測画素値の精度(すなわち、予測精度)を向上させる補正が可能になるため、符号化効率を改善できる。
【0086】
実施形態において、線形モデル算出部1811aが対象ブロック(CU)の上側にある復号画素値を用いて線形モデルを算出する場合、色差成分補正部1812は、当該CUの周辺にある復号画素値のうち、当該CUの上側以外の位置にある復号画素値を用いて、当該CUの上端部領域以外の端部領域にある色差成分の予測画素値を補正する。これにより、CCIP_Aモードを適用する場合において符号化効率を改善できる。
【0087】
実施形態において、線形モデル算出部1811aが対象ブロック(CU)の左側にある復号画素値を用いて線形モデルを算出する場合、色差成分補正部1812は、当該CUの周辺にある復号画素値のうち、当該CUの左側以外の位置にある復号画素値を用いて、当該CUの左端部領域以外の端部領域にある色差成分の予測画素値を補正する。これにより、CCIP_Lモードを適用する場合において符号化効率を改善できる。
【0088】
<5.その他の実施形態>
上述した実施形態において、色差成分補正部1812が、CCIP_Aモード及びCCIP_Lモードにおいて色差成分の予測画素値を補正する一例について主として説明した。しかしながら、色差成分補正部1812は、通常のCCIPモードにおいても、色差成分の予測画素値を補正してもよい。
【0089】
また、上述した実施形態において、色差成分補正部1812が、線形モデルの算出に用いなかった色差成分の復号画素値を用いて色差成分の予測画素値を補正する一例について説明した。しかしながら、色差成分補正部1812は、線形モデルの算出に用いなかった輝度成分の復号画素値を用いて色差成分の予測画素値を補正してもよい。
【0090】
上述した実施形態において、映像信号を構成する成分が輝度・色差成分(YCbCr)である一例について説明したが、映像信号を構成する成分は三原色成分(RGB)であってもよい。
【0091】
画像符号化装置1が行う各処理をコンピュータに実行させるプログラム及び画像復号装置2が行う各処理をコンピュータに実行させるプログラムが提供されてもよい。プログラムは、コンピュータ読取り可能媒体に記録されていてもよい。コンピュータ読取り可能媒体を用いれば、コンピュータにプログラムをインストールすることが可能である。ここで、プログラムが記録されたコンピュータ読取り可能媒体は、非一過性の記録媒体であってもよい。非一過性の記録媒体は、特に限定されるものではないが、例えば、CD-ROMやDVD-ROM等の記録媒体であってもよい。また、画像符号化装置1が行う各処理を実行する回路を集積化し、画像符号化装置1を半導体集積回路(チップセット、SoC)として構成してもよい。同様に、画像復号装置2が行う各処理を実行する回路を集積化し、画像復号装置2を半導体集積回路として構成してもよい。
【0092】
以上、図面を参照して実施形態について詳しく説明したが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0093】
本願は、日本国特許第2018-152989号(2018年8月15日出願)の優先権を主張し、その内容の全てが本願明細書に組み込まれている。