(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-22
(45)【発行日】2025-01-30
(54)【発明の名称】物体検出装置、物体検出方法および物体検出システム
(51)【国際特許分類】
G01V 3/12 20060101AFI20250123BHJP
G01S 13/46 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
G01V3/12 A
G01S13/46
(21)【出願番号】P 2021178997
(22)【出願日】2021-11-01
【審査請求日】2024-02-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】大槻 信也
(72)【発明者】
【氏名】牟田 修
(72)【発明者】
【氏名】高田 圭輔
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-034878(JP,A)
【文献】特開2020-065259(JP,A)
【文献】特開2011-066640(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0351775(US,A1)
【文献】国際公開第2012/114769(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104267439(CN,A)
【文献】石田 繁巳,無線LAN通信を使って「見る」 無線通信を用いた車両・自転車・歩行者検出技術,2020年,https://www.jst.go.jp/kisoken/act-i/presentation2020/poster/4_6.pdf,[2024年8月16日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00- 5/14
7/00- 7/42
13/00-13/95
19/00-19/55
G01V 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線基地局と無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出装置であって、
前記無線端末局が通信波のサブキャリア毎に推定した伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せて送信するフィードバック信号を受信する処理と、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出する処理と、
物体検出の検知率の要求を満たすものとして選定された削減条件を適用して、前記伝搬チャネル情報に関わる情報を削減する削減処理と、
前記削減処理が施された後の情報に対応する削減インパルス応答に基づいて前記物体検出を行う処理と、を実行するように構成され
、
前記削減条件は、物体検出の検知率が合格閾値をクリアする条件であり、
前記検知率は、前記削減インパルス応答を入力とする機械学習の結果を適用して実施される物体検出による平均検知率である物体検出装置。
【請求項2】
前記削減条件は、インパルス応答に適用する窓関数の条件であり、
前記削減処理は、
前記伝搬チャネル情報に関わる周波数領域の情報に逆フーリエ変換を施して前記インパルス応答を生成する処理と、
前記インパルス応答に前記窓関数を適用して前記削減インパルス応答を生成する処理と、を含む請求項
1に記載の物体検出装置。
【請求項3】
前記削減条件は、前記伝搬チャネル情報に関わる周波数領域の情報を一定の周波数間隔で抜き出す抽出処理の条件であり、
前記削減処理は、
前記伝搬チャネル情報に関わる周波数領域の情報に前記抽出処理を施す処理と、
前記抽出処理が施された後の周波数領域の情報に逆フーリエ変換を施して前記削減インパルス応答を生成する処理と、を含む請求項
1に記載の物体検出装置。
【請求項4】
前記削減条件を選定するために、
使用可能な削減条件の夫々について、前記物体検出の検知率を計算する処理と、
前記検知率が合格条件を満たす削減条件を合格条件として抽出する処理と、
前記合格条件の中から、最大の情報削減率を達成する最適条件を選択する処理と、
当該最適条件を前記削減条件として選定する選定処理と、
を更に実行するように構成された請求項1乃至
3の何れか1項に記載の物体検出装置。
【請求項5】
前記削減条件を選定するために、
前記最適条件を適用して生成した前記削減インパルス応答に基づく物体検出の処理時間が、時間条件を満たすか否かを判別する処理と、
前記処理時間が前記時間条件を満たさないと判別された場合に、前記合格条件の判定条件を緩和する処理と、を更に実行し、
前記選定処理は、前記時間条件を満たすと判別された前記最適条件を、前記削減条件として選定する処理を含むように構成された請求項
4に記載の物体検出装置。
【請求項6】
無線基地局と無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出方法であって、
前記無線基地局が、通信に用いる周波数帯に含まれる複数のサブキャリアの夫々に乗せて、無線端末局に向けて無線信号を送信するステップと、
前記無線端末局が、前記サブキャリア毎に伝搬チャネル情報を推定するステップと、
前記無線端末局が、前記伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せたフィードバック信号を送出するステップと、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出するステップと、
物体検出の検知率の要求を満たすものとして選定された削減条件を適用して、抽出された前記伝搬チャネル情報に関わる情報を削減する削減
ステップと、
前記削減
ステップの処理が施された後の情報に対応する削減インパルス応答に基づいて前記物体検出を行うステップと、を含
み、
前記削減条件は、物体検出の検知率が合格閾値をクリアする条件であり、
前記検知率は、前記削減インパルス応答を入力とする機械学習の結果を適用して実施される物体検出による平均検知率である物体検出装置。
【請求項7】
通信に用いる周波数帯に含まれる複数のサブキャリアの夫々に乗せて無線信号を送信する無線基地局と、
前記無線信号を受信して、前記サブキャリア毎に伝搬チャネル情報を推定すると共に、当該伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せたフィードバック信号を送出する無線端末局と、
前記無線基地局と前記無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出装置と、を備え、
前記物体検出装置は、
前記フィードバック信号を受信する処理と、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出する処理と、
物体検出の検知率の要求を満たすものとして選定された削減条件を適用して、前記伝搬チャネル情報に関わる情報を削減する削減処理と、
前記削減処理が施された後の情報に対応する削減インパルス応答に基づいて前記物体検出を行う処理と、を実行するように構成され
、
前記削減条件は、物体検出の検知率が合格閾値をクリアする条件であり、
前記検知率は、前記削減インパルス応答を入力とする機械学習の結果を適用して実施される物体検出による平均検知率である物体検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、物体検出装置、物体検出方法および物体検出システムに係り、特に、無線端末局が測定する伝搬チャネル情報に基づいて、特別なデバイスを保持しない物体を検出するうえで好適な物体検出装置、物体検出方法および物体検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の分野では、増加し続ける無線トラヒックを安定的に収容するために、電波の指向性を制御するビームフォーミングの技術など、様々な技術を用いて通信速度の改善が進められている。
【0003】
一方で、無線信号の信号強度情報(例えばRSS(Received Signal Strength))を利用して、通信エリア内における無線端末局の検出や位置情報を提供するサービスが考えられている。そのようなサービスでは、例えば、複数の無線基地局から送信されるビーコン信号のRSSを無線端末局が測定し、測定された複数のRSSから無線端末局の位置が計算される。この方法は、GPS(Global Positioning System)の利用が困難な屋内環境における測位システムとして広く利用されている。
【0004】
また、下記の非特許文献1に開示されているように、デバイスフリー型の検出方法も知られている。デバイスフリー型の検出方法では、アンテナなどの特別なデバイスを保持しない物体、例えば人などの対象物を検出することができる。
【0005】
デバイスフリー型の検出方法は、検出エリア内に固定された無線基地局と無線端末局とが存在する環境で用いられる。無線端末局は、無線基地局から送信されてくる無線信号に基づいて伝搬チャネル情報(CSI)を測定する。CSIには、無線基地局と無線端末局との間の検出エリアにおける物体の有無、或いは物体の状態が反映される。そして、物体検出は、CSIに表れる変動特性に基づいて実施される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“WiFi Sensing with Channel State Information: A Survey”, YONGSEN MA, GANG ZHOU, and SHUANGQUAN WANG, Computer Science Department, College of William & Mary, USA, ACM Computing Surveys, Vol. 52, No. 3, Article 46. Publication date: June 2019.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、デバイスフリー型の検出方法は、伝搬環境に生ずる小さな変動に基づいて実施される。このため、アンテナ等のデバイスを保持する物体を検出する場合に比して、検出精度の確保が難しい。このような課題に対処する手法としては、無線端末局が取得する大量のCSIを基礎として大量の計算を実施することが考えられる。しかしながら、このような解決の手法では、極めて高い計算負荷が生ずるという新たな課題が生じる。また、計算機負荷が高いことにより、リアルタイムに物体を検出したいという要求に対する悪影響も生じ得る。
【0008】
本開示は、上記の課題に着目してなされたものであり、過剰な計算負荷を伴うことなく、検出エリア内のデバイスフリーの物体を高い精度で検出することのできる物体検出装置を提供することを第一の目的とする。
また、本開示は、過剰な計算負荷を伴うことなく、検出エリア内のデバイスフリーの物体を高い精度で検出するための物体検出方法を提供することを第二の目的とする。
更に、本開示は、過剰な計算負荷を伴うことなく、検出エリア内のデバイスフリーの物体を高い精度で検出することのできる物体検出システムを提供することを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様は、上記の目的を達成するため、無線基地局と無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出装置であって、
前記無線端末局が通信波のサブキャリア毎に推定した伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せて送信するフィードバック信号を受信する処理と、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出する処理と、
物体検出の検知率の要求を満たすものとして選定された削減条件を適用して、前記伝搬チャネル情報に関わる情報を削減する削減処理と、
前記削減処理が施された後の情報に対応する削減インパルス応答に基づいて前記物体検出を行う処理と、
を実行するように構成されていることが望ましい。
【0010】
また、本開示の第2の態様は、無線基地局と無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出方法であって、
前記無線基地局が、通信に用いる周波数帯に含まれる複数のサブキャリアの夫々に乗せて、無線端末局に向けて無線信号を送信するステップと、
前記無線端末局が、前記サブキャリア毎に伝搬チャネル情報を推定するステップと、
前記無線端末局が、前記伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せたフィードバック信号を送出するステップと、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出するステップと、
物体検出の検知率の要求を満たすものとして選定された削減条件を適用して、抽出された前記伝搬チャネル情報に関わる情報を削減する削減処理と、
前記削減処理が施された後の情報に対応する削減インパルス応答に基づいて前記物体検出を行うステップと、
を含むことが望ましい。
【0011】
また、本開示の第3の態様は、物体検出システムであって、
通信に用いる周波数帯に含まれる複数のサブキャリアの夫々に乗せて無線信号を送信する無線基地局と、
前記無線信号を受信して、前記サブキャリア毎に伝搬チャネル情報を推定すると共に、当該伝搬チャネル情報に関わる情報を乗せたフィードバック信号を送出する無線端末局と、
前記無線基地局と前記無線端末局との間の検出エリアにおける物体検出を行う物体検出装置と、を備え、
前記物体検出装置は、
前記フィードバック信号を受信する処理と、
前記フィードバック信号から前記伝搬チャネル情報に関わる情報を抽出する処理と、
物体検出の検知率の要求を満たすものとして選定された削減条件を適用して、前記伝搬チャネル情報に関わる情報を削減する削減処理と、
前記削減処理が施された後の情報に対応する削減インパルス応答に基づいて前記物体検出を行う処理と、を実行するように構成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、過剰な計算負荷を伴うことなく、検出エリア内のデバイスフリーの物体を高い精度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の実施の形態1の物体検出システムの構成を説明するための図である。
【
図2】本開示の実施の形態1が対象とする検出エリアの一例を説明するための図である。
【
図3】本開示の実施の形態1において無線端末局が取得する伝搬チャネル情報の概要を説明するための図である。
【
図4】CSIに表れる周波数特性の一例を示す図である。
【
図5】CSIに表れる周波数特性にフーリエ変換を施すことで得られるインパルス応答の一例を示す図である。
【
図6】
図5に示すインパルス応答に窓関数を適用した状態を示す図である。
【
図7】物体の平均検知率と窓関数との関係の一例を示す図である。
【
図8】本開示の実施の形態1において実施される物体検出処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図9】本開示の実施の形態2において実施される物体検出処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【
図10】本開示の実施の形態3において実施されるフーリエ変換の特徴を説明するための図である。
【
図11】本開示が対象とする周波数帯の第一の変形例を説明するための図である。
【
図12】本開示が対象とする周波数帯の第二の変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は本開示の実施の形態1の物体検出システムの構成を示すブロック図である。本実施形態のシステムは、無線基地局10を備えている。無線基地局10は、M個のアンテナ12-1~12-Mを備えている。以下、アンテナ12-1~12-Mを区別する必要がない場合は、符号の添え字を省略して、それらを「アンテナ12」と称す。
【0015】
無線基地局10は、予め割り当てられた周波数帯に属する無線信号をアンテナ12の夫々から送信する。より具体的には、この周波数帯には複数のサブキャリアが含まれており、アンテナ12からは、それらのサブキャリア毎に無線信号が送信される。
【0016】
本実施形態のシステムは、無線端末局20を備えている。無線端末局20は、N個のアンテナ22-1~22-Nを備えている。アンテナ22-1~22-Nの夫々は、アンテナ12-1~12-Mの夫々から複数のサブキャリアに乗せて送信されてくる無線信号を受信する。以下、アンテナ22-1~22-Nについても、それらを区別する必要がない場合は、符号の添え字を省略して「アンテナ22」と称す。
【0017】
図2は、無線基地局10のアンテナ12と無線端末局20のアンテナ22とが置かれる環境を説明するための図である。ここには、無線基地局10のアンテナ12が四本、無線端末局20のアンテナ22が一本の場合を例示している。
【0018】
本実施形態において、アンテナ12およびアンテナ22は、何れも固定配置されている。アンテナ12とアンテナ22との間には、検出エリアが設定される。
図2は、検出エリアが(1)~(8)の八つに分割された例を示している。本実施形態では、例えば人のように無線信号を発するデバイスを保持しない対象物が、検出エリア内に存在しているか、更には、検出エリア内のどの領域に、どのような密度で存在しているか、等を検知するシステムを開示する。
【0019】
再び
図1を参照する。無線端末局20のアンテナ22-1~22-Nには、夫々無線部24-1~24-Nが接続されている。以下、無線部24-1~24-Nについても、それらを区別する必要がない場合は、符号の添え字を省略して「無線部24」と称す。
【0020】
無線部24は、アンテナ22が受信した無線信号を、伝搬チャネル情報(CSI)の推定が可能な形式に変換する。無線部24によって変換された信号は、CSI推定部26に提供される。ここで、CSIとは、伝搬路におけるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)のサブキャリア毎の振幅情報、位相情報、およびアンテナ間の相対値の情報である。
【0021】
無線端末局20のアンテナ22-1には、無線基地局10のアンテナ12-1~12-Mから発せられたM種類の無線信号が到達する。他のアンテナ22-2~22-Nについても同様である。無線部24-1~24-Nが、それぞれM種類の無線信号を受信するため、CSI推定部26には、M×N種類の信号が提供される。そして、それらM×N種類の信号の夫々には、サブキャリア毎の周波数要素が含まれている。
【0022】
図3は、CSI推定部26が推定するCSIの概要を説明するための図である。
図3には、M×NのCSI行列がサブキャリア毎に定義される様子が示されている。CSI推定部26では、
図3に示すように、周波数方向に並ぶM×N行列の形式でCSIが推定される。
【0023】
図1に示すように、CSI推定部26が推定したCSIは、変換部28に提供される。変換部28は、無線通信に関する標準化技術に従って、M×NのCSI行列を特異値分解により右特異行列に変換する。変換された右特異行列は圧縮部30に提供される。
【0024】
圧縮部30は、標準化技術で定められた既知の手法で、右特異行列の情報を圧縮する。圧縮された情報は、無線部32において無線信号に変換され、フィードバック信号としてアンテナ22-1~22-Nから送信される。
【0025】
本実施形態のシステムは、無線基地局10および無線端末局20に加えて、物体検出装置40を備えている。無線端末局20から発せられたCSIのフィードバック信号は、無線基地局10に受信されると共に、物体検出装置40のアンテナ42にも受信される。アンテナ42により受信された信号は、抽出部44に提供される。
【0026】
抽出部44は、アンテナ42から提供されてくる信号からCSIの圧縮情報を抽出する。抽出された圧縮情報は、抽出部44から解凍部46に提供される。解凍部46は、標準化で定められている解凍方式により、抽出した情報から右特異行列を復元する。これにより、サブキャリア毎の右特異行列、つまり周波数方向に並んだ右特異行列が復元される。
【0027】
図4は、右特異行列の特定要素を抜き出して周波数方向に並べた結果を示す。サブキャリア毎に生成される右特異行列の各要素は、
図4に示すように、周波数特性として表すことができる。
【0028】
解凍部46で復元された右特異行列の情報は、
図1に示すように、情報削減部48に提供される。情報削減部48は、先ず、周波数方向に並べた右特異行列に対して逆フーリエ変換を施す。これにより、周波数領域の情報が時間領域の情報に変換される。その結果、時系列で表されたインパルス応答の情報が生成される。
【0029】
図5は、上記の処理により生成されたインパルス応答の一例を示す。このようにして生成されるインパルス応答には、エイリアスと称される周期的なノイズなど、物体検出の観点からすれば実質的に意味を持たない情報が含まれている。
【0030】
図1に示す情報削減部48は、インパルス応答を生成すると、そのインパルス応答に適当な窓関数を適用する。
【0031】
図6は、窓関数を適用することで、意味を持たない情報が削減された後のインパルス応答の一例を示す。本実施形態では、このようにして、物体検出の処理に付すべき情報量の軽減を図る。
【0032】
図1に示すように、情報削減部48によって処理された情報は、判定部50に提供される。判定部50は、このようにして提供されるインパルス応答に基づいて既知の手法により物体検出の処理を行う。より具体的には、判定部50は、上記のインパルス応答に機械学習を適用して、既知の手法により物体検出を行う。
【0033】
図7は、窓関数を変えて実施した物体検出のシミュレーション結果を示す。図中、最も左側のバーは、全ての情報(64点)を使用して行った物体検出の結果である。「T/4」のバーは、情報量を1/4(16点)に絞る窓関数を用いた場合の結果である。同様に「T/8」、「T/16」のバーは、夫々の情報量を1/8(8点)、1/16(4点)に絞る窓関数を用いた場合の結果である。この例では、「窓」を狭めるほど平均検知率が改善する結果が得られている。
【0034】
本実施形態では、
図7に示すような結果に基づいて、高い平均検知率を実現する窓関数が予め選定される。このため、情報削減部48では、物体検出の点で意味の無い、或いは重要でない情報だけが削除され、判定部50には、重要な意味を持つ少量の情報だけが提供される。これにより、本実施形態のシステムでは、過大な計算負荷を伴うことなく、高精度な物体検出が実現される。
【0035】
[物体検出装置における処理の流れ]
図8は、本実施形態において物体検出装置40が実行する処理の流れを説明するためのフローチャートである。本実施形態において、物体検出装置40は、演算処理ユニットと、プログラムを格納するメモリとを備えていてもよい。そして、
図8に示す処理は、演算処理ユニットが、メモリに格納されているプログラムを実行することにより実現されてもよい。
【0036】
図8に示すルーチンでは、先ず、無線端末局20から発せられたCSIのフィードバック信号が受信される(ステップ100)。
【0037】
次に、受信した信号からCSIの圧縮情報が抽出される(ステップ102)。これにより、
図1に示す抽出部44の機能が実現される。
【0038】
次に、既定の解凍処理により、圧縮情報から右特異行列が復元される(ステップ104)。これにより、
図1に示す解凍部46の機能が実現される。
【0039】
物体検出装置40は、次に、復元された右特異行列から情報を削減する(ステップ106)。具体的には、先ず、周波数方向に並べた右特異行列に対して逆フーリエ変換を施す。次いで、その結果生成されたインパルス応答に、予め設定しておいた適当な窓関数を適用して情報の削減を図る。本ステップ106の処理が実行されることにより、
図1に示す情報削減部48の機能が実現される。
【0040】
最後に、情報が削減された後のインパルス応答に基づいて物体検出の処理が実行される(ステップ108)。本ステップ108の処理により
図1に示す判定部50の機能が実現される。
【0041】
以上説明した通り、本実施形態のシステムによれば、物体検出の観点で意味の無い、或いは重要でない情報を削除して、物体検出の計算を実施することができる。このため、このシステムによれば、過度な計算負荷を伴うことなく、高精度な物体検出を実現することができる。
【0042】
実施の形態2.
次に、
図1と共に
図9を参照して本開示の実施の形態2について説明する。本実施形態の物体検出システムは、実施の形態1の場合と同様に、
図1に示す構成による実現することができる。より具体的には、本実施形態の物体検出システムは、物体検出装置40に、上記
図8に示すルーチンに代えて、後述する
図9に示すルーチンを実行させることにより実現することができる。
【0043】
上述した実施の形態1では、情報の削減に用いる窓関数を予め設定しておくことを前提として、物体検出装置40に
図8に示すルーチンを実行させている。本実施形態で実行される
図9に示すルーチンは、適切な窓関数を選定する処理を含んでいる。本実施形態の物体検出システムは、
図9に示すルーチンを用いることにより、適切な窓関数を選定する機能を物体検出装置40に与えた点に特徴を有している。
【0044】
図9は、本実施形態において物体検出装置40が実行するルーチンのフローチャートを示す。
図9において、
図8に示すステップと同様のステップについては、共通する符号を付して、その説明を省略または簡略する。
【0045】
図9に示すルーチン中、ステップ106では、実施の形態1の場合と同様に、適当な窓関数を用いて右特異行列を基礎とするインパルス応答の情報が削減される。次いで、ステップ108では、削減した情報に基づいて物体検知が実施される。
【0046】
図9に示すルーチンでは、上記の処理に続いて、窓関数の探索が終了したか否かが判別される(ステップ110)。物体検出装置40においては、情報削減のための窓関数の候補が予め定められている。ここでは、候補の全てについてステップ106および108の処理が実施されたか否かが判別される。そして、候補の全てについてそれらの処理が実施されていないと判断された場合は、探索終了の判別が否定される。
【0047】
上記ステップ110で、探索終了の判別が否定された場合は、窓関数が、未使用のものに変更される(ステップ112)。以後、変更された窓関数を用いてステップ106および108の処理が再び実施される。
【0048】
一方、上記ステップ110で、探索終了の判別が肯定された場合は、次に、物体検出の検知率に関する閾値が設定される(ステップ114)。より具体的には、最大検知率に対して許容できる検知率の劣化量が閾値として設定される。
【0049】
次に、ステップ108で得た物体検知の結果に基づいて、上記の閾値をクリアする窓関数が抽出される(ステップ116)。具体的には、窓関数の夫々について平均検知率が算出される。次いで、その平均検知率が上記の閾値をクリアしている窓関数が、合格データとして抽出される。
【0050】
合格データの抽出が終わると、抽出された窓関数の中で、最も大きな削減率を実現する窓関数が選択される(ステップ118)。これにより、所望の検知率が実現でき、かつ、大きな削減率を達成する窓関数が選び出される。
【0051】
次に、選択された窓関数が、処理時間の条件をクリアしているか否かが判別される(ステップ120)。より具体的には、その窓関数を用いて削減した情報に基づいて実施する物体検知の処理が、規定の処理時間に収まるか否かが判別される。規定の処理時間は、例えば、物体検出に関するリアルタイム性の要求に従って予め決定されている。
【0052】
本実施形態では、物体検知の精度に対して、リアルタイム性の要求を優先することとしている。このため、上記ステップ120で時間条件のクリアが認められない場合は、ステップ114に戻って、検知率閾値の見直しが行われる。
【0053】
一方、上記ステップ120で時間条件のクリアが認められた場合は、その時点で選定されている窓関数が、情報削減のための窓関数として最終決定される(ステップ122)。
【0054】
以上説明した通り、
図9に示すルーチンによれば、所望の検知率と、所望のリアルタイム性の双方を実現する窓関数を適切に選択することができる。このため、本実施形態の物探検出システムによれば、過度な計算負荷を伴わずに高い精度で物体を検出する機能を実現することができる。
【0055】
ところで、上述した実施の形態2では、窓関数を選択するにあたって、時間条件のクリアを一つの要件としているが、本開示はこれに限定されるものではない。時間条件が重要でない環境下では、その条件を外して、検知率のみを要件として窓関数を選択することとしてもよい。
【0056】
実施の形態3.
次に、
図1および
図8と共に
図10を参照して、本開示の実施の形態3について説明する。本実施形態の物体検出システムは、実施の形態1および2の場合と同様に、
図1に示す構成により実現することができる。
【0057】
上述した実施の形態1および2では、周波数領域の情報を時間領域の情報に変換した後に、窓関数を用いて情報の削減を図っている。しかしながら、情報を削減する手法はこれに限定されるものではない。具体的には、右特異行列の情報削減は、逆フーリエ変換を実施して時間領域のインパルス応答に変換する前に、周波数特性の段階で実施してもよい。
【0058】
図10は、本実施形態において物体検出装置40が情報削減を実施するタイミングを説明するための図である。
図10において、左上の領域には、右特異行列の特定要素が周波数方向に並んでいる様子を示している。ここでは、破線を構成するドットの夫々と、4Δfの間隔で示された〇の夫々が特定要素のデータを表している。
【0059】
図10の左下の領域は、左上の領域に示されたデータから、〇に相当するデータを抜き出した結果を示す。ここでは、具体的には、4Δfの間隔でデータを抜き出すことにより、データ数が1/4に削減されている。
【0060】
図10の右側の領域は、1/4に削減された周波数領域の情報に逆フーリエ変換を施した結果である。この結果は、
図5に示すインパルス応答に窓関数を適用することで取得した
図6に示す結果と同等である。このように、周波数領域の情報から一定間隔でデータを抽出する手法によれば、時間領域の情報に窓関数を適用する場合と同様の情報削減を実現することができる。
【0061】
本実施形態において、物体検出装置40は、実施の形態1の場合と同様に、
図8に示すフローチャートに沿って物体検出の処理を行う。但し、本実施形態では、ステップ106において、以下の手順で情報削減を行う。
1.復元した右特異行列に基づく周波数特性(
図4または
図10左上領域参照)を生成する。
2.上記の周波数特性から一定間隔で情報を抽出して削減周波数特性を生成する。
3.抽出した削減周波数特性に逆フーリエ変換を施して、情報が削減されたインパルス応答を取得する。
【0062】
以後、ステップ108では、実施の形態1の場合と同様に、情報が削減された後のインパルス応答に基づいて物体検出の処理が実行される。このため、本実施形態のシステムによっても、実施の形態1の場合と同様に、過大な計算負荷を伴うことなく、高精度な物体検出を実現することができる。
【0063】
[実施の形態3の変形例]
ところで、上述した実施の形態3では、物体検出装置40が、実施の形態1の場合と同様に、
図8に示すフローチャートに沿って物体検出の処理を進めることとしている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではない。即ち、周波数領域の段階で情報を削減する手法は、
図9に示すフローチャートに沿った処理に組み合わせることとしてもよい。
【0064】
[実施の形態1~3に共通の変形例]
また、上述した実施の形態1~3では、複数のサブキャリアを有する周波数帯を一つだけ用いることが前提とされている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではなく、物体検出システムが取り扱う周波数帯は複数であってもよい。
【0065】
図11は、実施の形態1~3で用いられる周波数帯52に隣接して複数の周波数帯が並んでいる様子を示している。本開示の物体検出装置は、
図11に示すような複数の周波数帯を用いて、情報削減を施したうえで物体検出を行うことも可能である。この場合、より詳細なインパルス応答を取得することができるため、検知率の精度が向上することが期待される。
【0066】
図12は、実施の形態1~3で用いられる周波数帯52の右側に、間隔を空けて複数の周波数帯が並んでいる様子を示している。本開示の物体検出システムは、
図12に示すように、所謂歯抜けの状態で並んだ複数の周波数帯を取り扱うことも可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 無線基地局
20 無線端末局
40 物体検出装置
48 情報削減部