(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】木目を有する木質成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B27N 3/00 20060101AFI20250124BHJP
【FI】
B27N3/00 B
(21)【出願番号】P 2023521252
(86)(22)【出願日】2022-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2022020129
(87)【国際公開番号】W WO2022239850
(87)【国際公開日】2022-11-17
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2021082499
(32)【優先日】2021-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】511027334
【氏名又は名称】チヨダ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】関 雅子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 充
(72)【発明者】
【氏名】三木 恒久
(72)【発明者】
【氏名】山田 満雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】塚本 勝信
【審査官】小林 直暉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-165030(JP,A)
【文献】特開平01-171801(JP,A)
【文献】特開2011-020430(JP,A)
【文献】特開2006-289847(JP,A)
【文献】国際公開第2019/203046(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27M1/00-3/38
B27N1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質材料及び硬化樹脂を含む木質成形体であって、
前記木質材料は木材チップ又は木板に由来するものであり、
前記硬化樹脂は熱硬化性樹脂に由来するものであり、
前記木質成形体の内部において、前記木質材料の木質細胞内腔に由来する空隙率が5~60%であり、且つ、表面から内部に向かって互いに異なる深さに位置する1の領域及び他の領域における各空隙率の差は15ポイント以下であることを特徴とする
、木目を有する木質成形体。
【請求項2】
前記木質成形体の内部において、前記木質材料の木質細胞内腔に由来する空隙率が5~50%であり、且つ、前記木質成形体の表面から見て0.01mm~1mmの間の深さの領域における空隙率と、前記木質成形体の表面から見て1mmを超える深さの領域における空隙率との差が11ポイント以下である請求項1に記載の木質成形体。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の木質成形体を製造する方法であって、
木材チップ又は木板を含む木質原料に
熱硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸材料を調製する樹脂含浸材料調製工程と、
前記樹脂含浸材料を金型の中に載置し、該樹脂含浸材料に荷重を
0.3~60秒間付与する荷重付与工程と、
前記金型内において圧縮状態にある前記樹脂含浸材料に含まれた前記
熱硬化性樹脂が固化する前に除荷する除荷工程と、
前記
熱硬化性樹脂を硬化させて、前記木質成形体を得る樹脂硬化工程と、
を、順次、備えることを特徴とする
、木目を有する木質成形体の製造方法。
【請求項4】
前記荷重付与工程において、前記木質成形体より小さいサイズとなるまで前記樹脂含浸材料に荷重が付与され、前記除荷工程において、前記金型内の材料が所望の前記木質成形体の形状となるまで除荷される請求項
3に記載の木質成形体の製造方法。
【請求項5】
前記荷重付与工程及び前記除荷工程を、加熱条件下で行う請求項
3又は
4に記載の木質成形体の製造方法。
【請求項6】
請求項1
又は2に記載の木質成形体を製造する方法であって、
木材チップ又は木板を含む木質原料に
熱硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸材料を調製する樹脂含浸材料調製工程と、
前記樹脂含浸材料を金型の中に載置し、該樹脂含浸材料に荷重を
0.3~90秒間付与する荷重付与工程と、
前記金型内において圧縮状態にある前記樹脂含浸材料に含まれた前記
熱硬化性樹脂が固化する前に除荷する除荷工程と、
前記除荷工程の終了時間からの除荷状態を1~90秒間とした後、前記
熱硬化性樹脂が固化する前に前記樹脂含浸材料に荷重を付与する荷重再付与工程と、
前記
熱硬化性樹脂を硬化させて、前記木質成形体を得る樹脂硬化工程と、
を、順次、備えることを特徴とする
、木目を有する木質成形体の製造方法。
【請求項7】
前記荷重付与工程において、前記木質成形体より小さいサイズとなるまで前記樹脂含浸材料に荷重が付与され、前記除荷工程において、前記金型内の材料が所望の前記木質成形体より大きい形状となるまで除荷される請求項
6に記載の木質成形体の製造方法。
【請求項8】
前記荷重付与工程、前記除荷工程及び前記荷重再付与工程を、加熱条件下で行う請求項
6又は
7に記載の木質成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質材料及び硬化樹脂を含み、木材に近い触感を有する木質成形体、並びに、木材に近い触感を有し、木質外観性に優れた木質成形体を効率よく製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、再生産が可能な木材の原木、廃材又はリサイクル材を、粉末、繊維、チップ等とした後、必要により樹脂とともに、金型のキャビティに収容し、加熱条件下、圧縮成形を行って木質成形体を製造する技術が知られている(例えば、特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-300711号公報
【文献】特開2010-155394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来法において、圧縮成形を行う場合、金型内の混合原料は、最大加圧ストローク又はそれに近い荷重により型締めされるため、木材原料の木質細胞内腔が潰されて高密度化し、プラスチックに近い触感の木質成形体が得られることが多かった。
本発明の目的は、木質材料及び硬化樹脂を含み、木材に近い触感を有する木質成形体を提供することである。また、本発明の他の目的は、木材に近い触感を有し、木質外観性に優れた木質成形体を効率よく製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、小片の木質原料に硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸材料を調製し、得られた樹脂含浸材料を金型の中に充填した後、いったん、樹脂含浸材料に荷重を付与し、次いで、金型内で圧縮状態にある樹脂含浸材料に含まれた硬化性樹脂が固化する前に除荷し、その後、硬化性樹脂を硬化させる成形方法を適用することにより、木質原料の木質細胞内腔に由来する空隙を完全に消失させずに特定の割合(空隙率)で残存するために木材に近い触感を有し、木質外観性に優れた木質成形体を得ることができた。
【0006】
本発明は、以下に示される。
(1)木質材料及び硬化樹脂を含む木質成形体であって、
上記木質成形体の内部において、上記木質材料の木質細胞内腔に由来する空隙率が5~60%であり、且つ、表面から内部に向かって互いに異なる深さに位置する1の領域及び他の領域における各空隙率の差は15ポイント以下であることを特徴とする木質成形体。
(2)上記木質成形体の内部において、上記木質材料の木質細胞内腔に由来する空隙率が5~50%であり、且つ、上記木質成形体の表面から見て0.01mm~1mmの間の深さの領域における空隙率と、上記木質成形体の表面から見て1mmを超える深い内部における空隙率との差が11ポイント以下である上記(1)に記載の木質成形体。
(3)上記硬化樹脂が熱硬化性樹脂に由来する上記(1)又は(2)に記載の木質成形体。
(4)上記(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の木質成形体を製造する方法であって、
木質原料に硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸材料を調製する樹脂含浸材料調製工程と、
上記樹脂含浸材料を金型の中に載置し、該樹脂含浸材料に荷重を付与する荷重付与工程と、
上記金型内において圧縮状態にある上記樹脂含浸材料に含まれた硬化性樹脂が固化する前に除荷する除荷工程と、
上記硬化性樹脂を硬化させて、上記木質成形体を得る樹脂硬化工程と、
を、順次、備えることを特徴とする木質成形体の製造方法。
以下、この製造方法を、「第1方法」という。
(5)上記荷重付与工程において、前記木質成形体より小さいサイズとなるまで上記樹脂含浸材料に荷重が付与され、上記除荷工程において、上記金型内の材料が所望の上記木質成形体の形状となるまで除荷される上記(4)に記載の木質成形体の製造方法。
(6)上記硬化性樹脂が熱硬化性樹脂であり、上記荷重付与工程及び上記除荷工程を、加熱条件下で行う上記(4)又は(5)に記載の木質成形体の製造方法。
(7)上記(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の木質成形体を製造する方法であって、
木質原料に硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸材料を調製する樹脂含浸材料調製工程と、
上記樹脂含浸材料を金型の中に載置し、該樹脂含浸材料に荷重を付与する荷重付与工程と、
上記金型内において圧縮状態にある上記樹脂含浸材料に含まれた硬化性樹脂が固化する前に除荷する除荷工程と、
上記硬化性樹脂が固化する前に上記樹脂含浸材料に荷重を付与する荷重再付与工程と、
上記硬化性樹脂を硬化させて、上記木質成形体を得る樹脂硬化工程と、
を、順次、備えることを特徴とする木質成形体の製造方法。
以下、この製造方法を、「第2方法」という。
(8)上記荷重付与工程において、上記木質成形体より小さいサイズとなるまで上記樹脂含浸材料に荷重が付与され、上記除荷工程において、上記金型内の材料が所望の上記木質成形体より大きい形状となるまで除荷される上記(7)に記載の木質成形体の製造方法。
(9)上記硬化性樹脂が熱硬化性樹脂であり、上記荷重付与工程、上記除荷工程及び上記荷重再付与工程を、加熱条件下で行う上記(7)又は(8)に記載の木質成形体の製造方法。
(10)上記木質原料が木材チップを含む上記(4)乃至(9)のいずれか一項に記載の木質成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の木質成形体は、木材に近い触感を有するため、日用品、家具・調度品、建材・建築部材、電化製品又は音響機器用筐体、車両用部材等に広く利用することができる。
本発明の木質成形体の製造方法(第1方法及び第2方法)によれば、木材に近い触感を有し、木質外観性に優れた木質成形体を効率よく製造することができる。また、第1方法によれば、木質原料との色差ΔEの小さい木質成形体を製造することができる。第2方法によれば、第1方法と比べて、より高い光沢度を有する木質成形体を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の木質成形体において、木質材料の木質細胞内腔に由来する空隙率を測定する場合の、表面から内部に向かって互いに異なる深さの測定領域を示す概略断面図である。
【
図2】木質細胞の長さ方向に対して垂直に切断した概略断面図であり、(X)は、通常の木質細胞の1例、(Y)は、本発明の木質成形体における木質細胞がせん断変形された木質細胞の1例、(Z)本発明の木質成形体において細胞壁が座屈変形された木質細胞の1例を示す図である。
【
図3】本発明の木質成形体製造方法の第1方法に係る荷重付与工程以降のプレススケジュール(パンチストロークの変化)の1例を示すグラフである。
【
図4】本発明の木質成形体製造方法の第2方法に係る荷重付与工程以降のプレススケジュール(パンチストロークの変化)の1例を示すグラフである。
【
図5】実施例1~13において木質成形体を製造する際に適用したプレススケジュール(パンチストロークの変化)を示すグラフである。
【
図6】実施例1で得られた木質成形体(C1)の表面画像である。
【
図7】実施例1で得られた木質成形体(C1)の表層部の断面画像である。
【
図9】実施例1で得られた木質成形体(C1)の内部の断面画像である。
【
図11】実施例1で得られた木質成形体(C1)の内部の断面拡大画像である。
【
図12】比較例1において木質成形体を製造する際に適用したプレススケジュール(パンチストロークの変化)を示すグラフである。
【
図13】比較例1で得られた木質成形体(C2)の表面画像である。
【
図14】比較例1で得られた木質成形体(C2)の表層部の断面画像である。
【
図15】比較例1で得られた木質成形体(C2)の内部の断面画像である。
【
図16】比較例1で得られた木質成形体(C2)の内部の断面拡大画像である。
【
図17】比較例2~7において木質成形体を製造する際に適用したプレススケジュール(パンチストロークの変化)を示すグラフである。
【
図18】比較例2で得られた木質成形体(C3)の表面画像である。
【
図19】実施例2で得られた木質成形体(D1)の表面画像である。
【
図20】実施例2で得られた木質成形体(D1)の表層部の断面画像である。
【
図21】実施例3で得られた木質成形体(D2)の表面画像である。
【
図22】実施例4で得られた木質成形体(D3)の表面画像である。
【
図23】比較例3で得られた木質成形体(D4)の表面画像である。
【
図24】比較例3で得られた木質成形体(D4)の表層部の断面画像である。
【
図25】実施例5で得られた木質成形体(E1)の表面画像である。
【
図26】実施例6で得られた木質成形体(E2)の表面画像である。
【
図27】実施例6で得られた木質成形体(E2)の表層部の断面画像である。
【
図28】実施例7で得られた木質成形体(E3)の表面画像である。
【
図29】比較例4で得られた木質成形体(E4)の表面画像である。
【
図30】実施例8で得られた木質成形体(F1)の表面画像である。
【
図31】実施例9で得られた木質成形体(F2)の表面画像である。
【
図32】実施例10で得られた木質成形体(F3)の表面画像である。
【
図33】比較例5で得られた木質成形体(F4)の表面画像である。
【
図34】実施例13及び14並びに比較例7で得られた木質成形体(H1)、(H2)及び(H3)の表面画像である。
【
図35】実施例15における複合体51の製造方法であって、プリプレグ41に由来する被着体部分42と木質成形体部分47とが接合された複合体51を製造する方法を説明する概略図である。
【
図36】実施例15で得られた複合体51における木質成形体部分47の上面側の画像(表面画像)である。
【
図37】実施例15で得られた複合体51の裏面画像(被着体部分42の表面画像)である。
【
図38】比較例8で得られた複合体51における木質成形体部分47の上面側の画像(表面画像)である。
【
図39】比較例8で得られた複合体51の裏面画像(被着体部分42の表面画像)である。
【
図40】実施例16において木質成形体(J1)を製造する際に適用したプレススケジュール(パンチストロークの変化)を示すグラフである。
【
図41】実施例16で得られた木質成形体(J1)の斜視画像である。
【
図42】実施例17において木質成形体(J2)を製造する際に適用したプレススケジュール(パンチストロークの変化)を示すグラフである。
【
図43】実施例17で得られた木質成形体(J2)の斜視画像である。
【
図44】比較例9において木質成形体(J3)を製造する際に適用したプレススケジュール(パンチストロークの変化)を示すグラフである。
【
図45】比較例9で得られた木質成形体(J3)の斜視画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の木質成形体は、木質材料及び硬化樹脂を含み、上記木質成形体の内部において、上記木質材料の木質細胞内腔に由来する空隙率、即ち、木質細胞内腔に由来する空隙(空隙部)の存在割合、が5~60%であり、且つ、表面から内部に向かって互いに異なる深さに位置する1の領域及び他の領域における各空隙率の差が15ポイント以下である。測定された、1の領域における空隙率及び他の領域における空隙率が、それぞれ、W1(%)及びW2(%)であったとすると、空隙率の差は、|W1-W2|(%)で表されるが、本発明では、この|W1-W2|の単位を、「ポイント」と表記する。
【0010】
上記木質材料は、木材(スギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹;ポプラ、ブナ、ナラ、カバ等の広葉樹)、竹、麻類(ジュート、ケナフ、亜麻、ヘンプ、ラミー、サイザル等)、草本類等の、木質細胞を有する植物体に由来するものであって、植物体そのもの若しくはその廃材あるいはこれらの化学処理物又は粉砕物のいずれでもよい。このような木質材料を含む本発明の木質成形体は、好ましくは、いずれも、形状及びサイズが限定されない、繊維、粉末、小片物等の少なくとも1種の集合体である。
【0011】
上記硬化樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート、ケイ素樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン等から選ばれた少なくとも1種の硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、室温硬化性樹脂、光硬化性樹脂等)が、単独で又は硬化剤の作用により、架橋構造を有するもの等とされた樹脂である。
【0012】
上記硬化樹脂は、通常、隣り合う木質材料どうしを接合しているが、本発明の木質成形体においては、硬化樹脂が、木質材料を構成する一部又は全ての木質細胞内腔の中、及び、細胞壁の中に、適度の空隙を形成しつつ含まれているため、全体として、硬化樹脂が偏在することなく、木質成形体のどの表面においても、木材に近い触感を有し、木質外観性に優れる。
【0013】
本発明の木質成形体に含まれる木質材料及び硬化樹脂の質量比は、特に限定されないが、本発明の効果が十分に得られることから、上記硬化樹脂の含有割合は、上記木質材料の含有量100質量部に対して、好ましくは5~120質量部、より好ましくは10~80質量部である。
【0014】
本発明の木質成形体は、上記の木質材料及び硬化樹脂以外に、他の材料を含むことができる。他の材料としては、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、充填剤、抗菌剤、防腐剤、帯電防止剤、硬化促進剤、染料、顔料等が挙げられる。
【0015】
本発明の木質成形体は、好ましくは、繊維、粉末、小片物等の少なくとも1種からなる木質材料と、硬化樹脂とを含み、変形した細胞壁を有する圧縮成形体である。本発明の木質成形体の製造原料である、植物体そのもの若しくはその廃材あるいはこれらの化学処理物又は粉砕物からなる木質材料の木質細胞内腔に由来する空隙率は、通常、20%以上であり、上限は95%であるが、硬化樹脂を含む本発明の木質成形体の内部における空隙率は、上記のように、硬化樹脂が、木質材料を構成する一部又は全ての木質細胞内腔の中に、適度の空隙を形成しつつ含まれているため、製造原料のそれより小さく5%以上であり、上限は60%である。この空隙率は、好ましくは5~50%、より好ましくは20~50%である。尚、上記の「木質成形体の内部」とは、木質成形体の表面から0.01mm以上深い内部を意味する。
【0016】
本発明において、上記空隙率は、木質成形体を、木質細胞の長さ方向に対して垂直に切断し、得られた断面を顕微鏡観察(観察面積:少なくとも0.5mm2)し、画像における輝度の違いから、木質細胞内腔に由来する空隙部とそれ以外の部分とを二値化して、空隙部の面積率を算出することにより得ることができる。詳細は、後述の〔実施例〕に記載される。
【0017】
本発明において、木質成形体の内部における空隙率の測定位置によって大きな差はみられない。即ち、木質成形体の表面から内部に向かって互いに異なる深さに位置する1の領域及び他の領域における各空隙率の差は15ポイント以下であり、好ましくは13ポイント以下、より好ましくは11ポイント以下である。尚、下限は、通常、1ポイントである。
図1は、空隙率を測定する場合の、表面から内部に向かって2つの異なる深さの測定領域を示す概略断面図であり、木質成形体10の表面から見た深さがd1の領域12と、木質成形体10の表面から見た深さがd2の領域14とを示している。また、領域12及び領域14の間隔(深さ方向で見た距離)は、好ましくは少なくとも0.3mmであり、領域12における空隙率と、領域14における空隙率との大小は、特に限定されない。
【0018】
本発明の特に好ましい態様においては、木質成形体の表面から見て0.01~1mmの間の深さd1の領域12における空隙率と、木質成形体の表面から見て1mmを超える深さd2の領域14における空隙率との差が11ポイント以下である。
【0019】
本発明の木質成形体において、上記空隙率の測定を行うための試料調製と同様に、木質細胞の長さ方向に対して垂直に切断し、得られた断面を顕微鏡観察した場合に、木質細胞が曲線状又は波線上に配列する部分を有することが好ましい(
図7~
図10参照)。また、木質成形体の製造原料である植物体等を構成する木質細胞20の細胞壁22は、
図2の(X)に示されるような角丸多角形や、円形、楕円形等(例えば、
図16参照)である一方、本発明の木質成形体では、
図2の(Y)及び(Z)に示されるように、木質細胞20がせん断変形した構造及び細胞壁22が座屈変形した構造を備える(例えば、
図12参照)。本発明の木質成形体では、上記のように、硬化樹脂が、細胞壁22の中、及び、木質細胞内腔24の中に、適度の空隙を形成しつつ含まれているが、
図2の(Y)及び(Z)では内在する硬化樹脂の部分を記載していない。
【0020】
本発明の木質成形体を製造する第1方法は、木質原料に硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸材料を調製する樹脂含浸材料調製工程と、得られた樹脂含浸材料を金型の中に載置し、該樹脂含浸材料に荷重を付与する荷重付与工程と、金型内において圧縮状態にある樹脂含浸材料に含まれた硬化性樹脂が固化する前に除荷する除荷工程と、硬化性樹脂を硬化させて、木質成形体を得る樹脂硬化工程とを、順次、備える。
また、本発明の木質成形体を製造する第2方法は、木質原料に硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸材料を調製する樹脂含浸材料調製工程と、得られた樹脂含浸材料を金型の中に載置し、該樹脂含浸材料に荷重を付与する荷重付与工程と、金型内において圧縮状態にある樹脂含浸材料に含まれた硬化性樹脂が固化する前に除荷する除荷工程と、硬化性樹脂が固化する前に樹脂含浸材料に荷重を付与する荷重再付与工程と、硬化性樹脂を硬化させて木質成形体を得る樹脂硬化工程とを、順次、備える。即ち、本発明の第1方法及び第2方法は、金型の中に載置した樹脂含浸材料を、特定の手段を備える圧縮成形に供するものである。
【0021】
第1方法及び第2方法に係る樹脂含浸材料調製工程では、木質原料に硬化性樹脂を含浸させて、樹脂含浸材料を調製する。
上記木質原料は、木材(スギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹;ポプラ、ブナ、ナラ、カバ等の広葉樹)、竹、麻類(ジュート、ケナフ、亜麻、ヘンプ、ラミー、サイザル等)、草本類等の、木質細胞を有する植物体そのもの若しくはその廃材あるいはこれらの化学処理物又は粉砕物のいずれでもよい。木質原料の形状及びサイズは、特に限定されず、繊維、粉末、小片物(木材チップ)等から選ばれた少なくとも1種とすることができる。
また、上記硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート、ケイ素樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン等が挙げられる。これらのうち、フェノール樹脂及びメラミン樹脂が好ましい。また、細胞壁への含浸が容易であることから、分子量約2000未満の低分子量樹脂が好ましい。更には、水溶性又はアルコール溶性の樹脂が好ましい。
【0022】
樹脂含浸材料調製工程において、硬化性樹脂の種類によっては、硬化剤を併用することも可能である。
硬化性樹脂がフェノール樹脂である場合、硬化剤として、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ジアミンジアミド等のアミン系硬化剤;脂環式酸無水物、芳香族酸無水物等の酸無水物硬化剤;イミダゾール化合物等を用いることができる。
また、硬化性樹脂がメラミン樹脂である場合、硬化剤として、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸等を用いることができる。
【0023】
また、必要に応じて、潤滑剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、充填剤、抗菌剤、防腐剤、帯電防止剤、硬化促進剤、染料、顔料、水、アルコール等の有機溶剤等を硬化性樹脂とともに用いることができる。
潤滑剤としては、酸化ポリアルキレンワックス、酸変性ポリアルキレンワックス等が挙げられる。本発明において、硬化性樹脂と潤滑剤とを併用すると、得られる樹脂含浸材料を成形に供する際に、変形抵抗を低下させて成形性改善を図ることができる。また、除荷工程において、成形体内の空隙形成が促進され、木質感を十分に付与することができる。
【0024】
樹脂含浸材料調製工程において、木質原料に硬化性樹脂を含浸させる方法は、特に限定されないが、木質原料を構成する木質細胞内腔の中及び細胞壁の中に硬化性樹脂を十分に満たし、この後の各工程において金型内の材料を軟化・変形させて効率よく所望の形状とするために、硬化性樹脂又はその溶液(通常、有機溶液)の中に木質原料を、硬化性樹脂が硬化しない条件(温度、湿度等)で浸漬し、その後、静置することが好ましい。静置時間は、特に限定されないが、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、更に好ましくは6時間以上である。木質原料がかさ高い形状を有する場合、減圧・加圧等により木質原料の内部に硬化性樹脂を注入する方法が好ましい。木質原料及び硬化性樹脂は、硬化性樹脂の使用量が、木質原料の使用量を100質量部とした場合に、好ましくは5~120質量部、より好ましくは10~80質量部となるように用いられる。
【0025】
樹脂含浸材料調製工程により得られた樹脂含浸材料は、木質原料及び硬化性樹脂の上記使用量に応じた構成を有し、第1方法の荷重付与工程に至るまで、及び、第2方法の荷重再付与工程に至るまで、硬化性樹脂が硬化しない条件で保存される。
【0026】
第1方法及び第2方法に係る荷重付与工程では、金型の中に載置した樹脂含浸材料に荷重を付与する。金型の中に載置する樹脂含浸材料の個数や充填率、並びに、付与する荷重及び付与時間は、特に限定されない。荷重(面圧)は、好ましくは1~500MPa、より好ましくは5~300MPaである。最終製品としての、所望の形状及びサイズを有し、木質外観性に優れる木質成形体を得るために、荷重付与工程では、荷重負荷により、所望の木質成形体に比べて小さいサイズの物体(以下、「前駆成形体」という)を形成することが好ましい。ここで、複数個の樹脂含浸材料を荷重付与工程に供した場合、得られる前駆成形体は、通常、塊状物である。この荷重付与工程では、金型の中に載置した少なくとも1つの上記樹脂含浸材料が、荷重負荷により、所望の木質成形体の形状よりも少なくとも1方向において、更に小さいサイズの前駆成形体を形成することができる。従って、荷重付与工程では、所望の前駆成形体とするために、樹脂含浸材料を固化させない条件において、荷重を付与する方向、角度等を変更する等により、複数回の荷重付与を行うことができる。また、同時に複数方向から荷重付与を行ってもよい。
【0027】
第1方法に係る除荷工程では、金型の中で圧縮状態にある前駆成形体に対し、これに含まれた硬化性樹脂が固化する前に除荷を行って、好ましくは最終製品と同じ形状及びサイズを有する未硬化木質成形体(以下、「未硬化木質成形体(M1)」という)を得る。この「除荷」とは、前駆成形体への荷重付与を完全に中止して型開するのではなく、荷重付与を小さくして、金型の内部形状を、所望の形状及びサイズを有する未硬化木質成形体(M1)の形状に導くことを意味する。荷重付与工程において、例えば、第1型及び第2型の2つの型を用いて圧縮を行ったとすると、除荷工程では、樹脂含浸材料を、第1型の内表面及び第2型の内表面に接触させたまま除荷を行うか、あるいは、樹脂含浸材料を、第1型の内表面及び第2型の内表面のいずれか一方のみに接触させたまま除荷を行うことができる。本発明者らは、荷重付与工程により樹脂含浸材料が圧密・流動状態となった際に、木質細胞内腔に由来する空隙の大部分が閉塞したものの、除荷工程における除荷を行うことにより、細胞壁が弾性回復され、未硬化状態の硬化性樹脂を含む空隙が若干復元した未硬化木質成形体(M1)が得られ、この空隙が、硬化させる樹脂硬化工程の後においても保持されるものと考えている。尚、ここでは、2つの型を用いる場合について説明したが、用いる型の数は、目的とする木質成形体の形状に応じて、更に多い場合もある。
【0028】
本発明において、製造しようとする木質成形体の形状が単純なものではない場合、上記の荷重付与工程及び除荷工程を繰り返し行ってもよい。
【0029】
第1方法に係る樹脂硬化工程では、未硬化木質成形体(M1)に含まれる硬化性樹脂を硬化させて、木質材料及び硬化樹脂を含み、その内部において、木質材料の木質細胞内腔に由来する空隙の存在割合(空隙率)が5~60%であり、木質外観性に優れる木質成形体を得ることができる。硬化性樹脂の種類によって、硬化性樹脂の硬化方法、例えば、熱、光、湿度等を用いた硬化方法及び硬化条件が選択される。
【0030】
第1方法の場合、得られる木質成形体は木質外観性に優れるものの、表面の光沢性が十分ではないことがある。そこで、樹脂硬化工程の前に荷重再付与工程を備える第2方法を利用すると、光沢性を改良することができる。尚、第2方法に係る除荷工程においても、第1方法に係る除荷工程と同様に、樹脂含浸材料を、例えば、第1型及び第2型の2つの型を用いる場合、第1型の内表面及び第2型の内表面に接触させたまま除荷を行うか、あるいは、樹脂含浸材料を、第1型の内表面及び第2型の内表面のいずれか一方のみに接触させたまま除荷を行うことができる。第2方法に係る除荷工程では、含まれた硬化性樹脂が固化する前に、第1型及び第2型の間の空間(樹脂含浸材料で満たされた部分)のサイズが、最終製品のサイズより大きくなるまで除荷を行って、最終製品より大きなサイズを有する未硬化木質成形体(以下、「未硬化木質成形体(M2)」という)を作製することが好ましい。
【0031】
第2方法に係る荷重再付与工程では、金型内の未硬化木質成形体(M2)に、硬化性樹脂が固化する前に、荷重を付与し、所望の形状及びサイズを有する木質成形体を得ることができる。付与する荷重及び付与時間は、特に限定されないが、荷重(面圧)は、好ましくは0.5~20MPa、より好ましくは1~10MPaである。
【0032】
第2方法に係る樹脂硬化工程では、未硬化木質成形体(M2)に含まれる硬化性樹脂を硬化させて、木質材料及び硬化樹脂を含み、その内部において、木質材料の木質細胞内腔に由来する空隙の存在割合(空隙率)が5~60%であり、木質外観性及び光沢性に優れる木質成形体を得ることができる。第1方法と同じように、硬化性樹脂の種類によって、硬化性樹脂の硬化方法及び硬化条件を選択することができる。
【0033】
次に、第1方法及び第2方法に係る荷重付与工程以降のプレススケジュールについて、説明する。
【0034】
図3は、第1方法に係る荷重付与工程以降のプレススケジュールの1例、即ち、木質成形体の形状を反映するキャビティを有する金型を備える1体の成形機を用い、金型のキャビティに樹脂含浸材料を載置して荷重を付与する荷重付与工程を一度行って上記樹脂含浸材料が形成する形状よりも少なくとも1方向において小さいサイズを有する、所望の木質成形体(最終製品)に対して小さいサイズの前駆成形体を得た後、除荷して、好ましくは最終製品と同じ形状及びサイズを有する未硬化木質成形体(M1)を得る除荷工程、及び、未硬化木質成形体(M1)に含まれる硬化性樹脂を硬化させる樹脂硬化工程に供し、所望のサイズ及び形状を有する木質成形体を製造するためのプレススケジュールである。
【0035】
図3のプレススケジュールは、金型内の樹脂含浸材料に荷重を付与し、所望の木質成形体より小さいサイズにまで、即ち、パンチストロークS
aとするまで、例えば、最大加圧力で圧縮させた状態(圧縮開始時間t
1)で一定時間(保持時間Δt
1)保持することにより、前駆成形体を形成させた(圧縮終了時間t
2)後、所望の形状及びサイズを有する金型内部構造の状態とするためのパンチストロークS
b(除荷終了時間t
3)とするまで、前駆成形体への荷重付与を小さくする除荷を行って(除荷時間Δt
2)、パンチストロークS
bの状態を一定時間保持することで、硬化性樹脂を完全に硬化させて、木質材料及び硬化樹脂を含む木質成形体を得るためのものである。
【0036】
第1方法では、硬化性樹脂の硬化開始時期が除荷終了時間t3又はそれ以降となるようにプレススケジュールを設定することが好ましい。また、硬化性樹脂及び硬化性樹脂が含浸された細胞壁の軟化開始時期は圧縮開始時間t1又はそれ以前となるように設定することが好ましい。少なくとも圧縮終了時間t2までには軟化させ変形させる必要がある。
【0037】
図3のプレススケジュールは、好適な第1方法を実施すべく、成形時間とパンチストロークとの関係を示すものであるが、木質成形体のサイズ及びその形状、硬化性樹脂の種類等により、プレススケジュールだけでなく、他の成形条件を、適宜、設定して、木質成形体を製造することができる。
【0038】
第1方法において、硬化性樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、硬化可能な温度となるような金型の加熱が必要であるが、この加熱開始時期は、圧縮開始前、圧縮開始時間t1から圧縮終了時間t2までの間(荷重付与工程を実行している間)、及び、除荷開始(圧縮終了時間t2)から除荷終了時間t3までの間(除荷工程を実行している間)、のいずれでもよい。尚、硬化可能な温度とする加熱を、除荷開始(圧縮終了時間t2)から除荷終了時間t3までの間に行う場合、圧縮開始前から圧縮終了時間t2までの間に金型は予熱されていてもよい。硬化性樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、荷重付与工程及び除荷工程を加熱条件下で行うことが好ましい。尚、上記のように、製造しようとする木質成形体の形状が単純なものではなく、多方向からの圧縮を必要とする等の目的で、荷重付与工程及び除荷工程を繰り返し行う場合には、例えば、最後のサイクルにおける荷重付与工程及び除荷工程でのみ加熱条件下とすることができる。
【0039】
図3のプレススケジュールにおいて、圧縮状態における保持時間Δt
1及び除荷時間Δt
2は、木質成形体のサイズ及びその形状、硬化性樹脂の種類、木質原料に対する硬化性樹脂の含浸割合、金型への加熱の有無、金型の構造及びその形状等により、適宜、選択される。
【0040】
硬化性樹脂が熱硬化性樹脂であり、硬化可能な温度となるような金型への加熱開始時期を圧縮開始前とした場合、木質細胞内腔に由来する空隙率が5~60%であり、木材に近い触感を有する木質成形体が効率よく得られることから、保持時間Δt1は、好ましくは0.3~60秒間、より好ましくは0.4~20秒間、更に好ましくは0.5~5秒間、特に好ましくは0.5~3秒間であり、除荷時間Δt2は、好ましくは0.2~30秒間、より好ましくは0.3~10秒間、更に好ましくは0.4~5秒間、特に好ましくは0.5~3秒間である。
また、除荷終了時間t3からの保持時間は、特に限定されないが、形状保持性、硬化性樹脂の反応速度、硬化反応に伴う化合物の発生、木質材料の熱分解等の観点から、好ましくは120~1800秒間である。
【0041】
図4は、第2方法に係る荷重付与工程以降のプレススケジュールの1例、即ち、木質成形体の形状を反映するキャビティを有する金型を備える1体の成形機を用い、金型のキャビティに樹脂含浸材料を載置して荷重を付与する荷重付与工程を一度行って上記樹脂含浸材料が形成する形状よりも少なくとも1方向において小さいサイズを有する、所望の木質成形体に対して小さいサイズの前駆成形体を得た後、最終製品より大きなサイズとなるまで除荷して、未硬化木質成形体(M2)を得る除荷工程、及び、この未硬化木質成形体(M2)に含まれる硬化性樹脂を硬化させる樹脂硬化工程に供し、所望のサイズ及び形状を有する木質成形体を製造するためのプレススケジュールである。
【0042】
図4のプレススケジュールは、金型内の樹脂含浸材料に荷重を付与し、所望の木質成形体より小さいサイズにまで、即ち、パンチストロークS
aとするまで、例えば、最大加圧力で圧縮させた状態(圧縮開始時間t
1)で一定時間(保持時間Δt
1)保持することにより、前駆成形体を形成させた(圧縮終了時間t
2)後、所望の形状及びサイズを有する金型内部構造の状態とするためのパンチストロークS
b(除荷終了時間t
3)とするまで、前駆成形体への荷重付与を小さくし、且つ、最終製品より大きなサイズとする除荷を行って(除荷時間Δt
2)、パンチストロークS
bの状態を一定時間保持し(保持終了時間t
4)、その後、所望のサイズに合わせた荷重を付与し(圧縮終了時間t
5)、その後、保持することで、硬化性樹脂を完全に硬化させて、木質材料及び硬化樹脂を含む木質成形体を得るためのものである。
【0043】
第2方法では、硬化性樹脂の硬化開始時期が保持終了時間t4又はそれ以降となるようにプレススケジュールを設定することが好ましい。また、硬化性樹脂及び硬化性樹脂が含浸された細胞壁の軟化開始時期は圧縮開始時間t1又はそれ以前となるように設定することが好ましい。少なくとも圧縮終了時間t2までには軟化させ変形させる必要がある。
【0044】
図4のプレススケジュールは、好適な第2方法を実施すべく、成形時間とパンチストロークとの関係を示すものであるが、第1方法用の
図3のプレススケジュールと同様に、木質成形体のサイズ及びその形状、硬化性樹脂の種類等により、プレススケジュールだけでなく、他の成形条件を、適宜、設定して、木質成形体を製造することができる。
【0045】
第2方法において、硬化性樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、第1方法に係る荷重付与工程及び除荷工程をそのまま適用することができる。尚、硬化可能な温度となるような金型への加熱開始時期を最初の圧縮開始前とした場合、圧縮状態における保持時間(第1圧縮保持時間)Δt1は、好ましくは0.3~90秒間、より好ましくは0.4~60秒間、更に好ましくは0.5~40秒間、特に好ましくは0.5~30秒間であり、除荷時間Δt2は、好ましくは0.2~90秒間、より好ましくは0.3~60秒間、更に好ましくは0.4~30秒間、特に好ましくは0.5~15秒間である。
そして、第2方法においては、木質細胞内腔に由来する空隙率が5~60%であり、木質外観性及び光沢性に優れる木質成形体が効率よく得られることから、除荷終了時間t3からの除荷状態の保持時間Δt3は、好ましくは1~90秒間、より好ましくは3~60秒間、更に好ましくは10~60秒間であり、除荷の後、再度、荷重を再付与する圧縮状態における保持時間(第2圧縮保持時間)Δt4は、特に限定されないが、形状保持性、硬化性樹脂の反応速度、硬化反応に伴う化合物の発生、木質材料の熱分解等の観点から、好ましくは120~1800秒間である。
【0046】
本発明の木質成形体製造方法により得られる木質成形体は、少なくとも一面以上又は全表面において、木質外観性に優れる。また、光沢性に優れる場合がある。更に、得られる木質成形体の密度は、好ましくは0.5~1.3g/cm3、より好ましくは0.6~1.1g/cm3である。木質原料の密度は木質原料の種類、生育状況や切り出し場所、1個体内でも切り出し部位によりばらつきが大きく、0.2~1.2g/cm3(スギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹の密度は、通常、0.4~0.6g/cm3)であるので、本発明の木質成形体の密度は、同じ以上最大3倍程度となるものの、木材に近い触感を十分に有する。
【0047】
本発明の木質成形体製造方法を利用して、木材に近い触感を有する木質成形体からなる部分(以下、「木質成形体部分」という)と、この木質成形体部分に接合された被着体部分とからなる複合体(3次元成形体)を製造することができる(
図35参照)。
【0048】
図35は、被着体としての、木質成形体からなるプリプレグ41と、樹脂含浸材料45とを用いて、プリプレグ41に由来する被着体部分42と、樹脂含浸材料45に由来する木質成形体部分47が接合された複合体51を製造する説明図である。樹脂含浸材料45は、木材に近い触感を有する木質成形体部分47を与える原料であり、形成される複合体51の木質成形体部分47の表面は、
図36に示される形状を有する。一方、被着体部分42となるプリプレグ41は、得られる複合体51においても形状の変化は皆無又は僅かであり、複合体51においては、プリプレグ41の底面側表面である、被着体部分42の表面が
図37に示される形状を有する。
【0049】
図35を用いた以下の説明においては、木質材料及び硬化樹脂を含むプリプレグ41と、木質原料に熱硬化性樹脂を含浸させて得られた樹脂含浸材料45とを用いることとし、上記熱硬化性樹脂の硬化温度において、プリプレグ41のサイズ及び形状が変化しないものとする。
図35(I)は、最後に複合体51が形成されて被着体部分42となるプリプレグ41を金型31の中の下型33の上に載置した場面である。
図35(II)は、プリプレグ41の上に、樹脂含浸材料45を積載した場面である。この図では、1つの樹脂含浸材料45を用いているが、小さいサイズの樹脂含浸材料45を複数用いてもよい。
図35(III)は、金型31を加熱状態として、上型35により、例えば、最大加圧ストロークで樹脂含浸材料45を圧縮して、所望のサイズより薄い厚さの前駆体部分46がプリプレグ41の上面に密着した状態とした場面である。この密着状態において、金型31は加熱されているが、前駆体部分46に含まれる熱硬化性樹脂は完全に硬化していない。
図35(IV)は、好ましくは、
図35(III)の前駆体部分46を上型35の内表面に接触させながら、上型35による除荷、即ち、上型35を、前駆体部分46の厚さが木質成形体部分47の厚さとなるところまで移動させ、その後、上型35を固定し、熱硬化性樹脂を完全に硬化させ、木質成形体部分47がプリプレグ41(被着体部分41)の上面に接合された複合体51が得られた場面である。
【0050】
本発明の木質成形体又は複合体における木質成形体部分は、木材に近い触感を有するため、このような性質を生かした日用品、家具・調度品、建材・建築部材、電化製品又は音響機器用筐体、車両用部材(内装材等)等として好適である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。尚、以下の記載において、「%」及び「部」は、特記しない限り、質量基準である。
【0052】
1.木質成形体の製造及び評価(1)
以下の実施例1、比較例1及び2では、厚さ4mm(R:半径方向)のヒノキ単板(密度ρa:0.47g/cm3)に、固形分濃度30%の熱硬化性フェノール樹脂水溶液を含浸させ、35℃で乾燥させた後、直径約52mmの円板状に切り抜いて得られた樹脂含浸材料(以下、「樹脂含浸材料(X1)」という)を用いた。この樹脂含浸材料(X1)における上記フェノール樹脂(固形分)の含有率は46%であり、含浸したフェノール樹脂による重量増加率は85%であり、密度は約0.64g/cm3である。
また、木質成形体を製造するために、内径53mmの円柱状キャビティを有する金型を用いた。
【0053】
実施例1
図5に示すプレススケジュールに基づいて、円板状木質成形体(以下、「木質成形体(C1)」という)を製造した。
まず、樹脂含浸材料(X1)4個(合計厚さ:約16mm、直径:約52mm、合計質量:約25グラム)を積み重ねた状態として、金型の中に載置した。そして、金型の内表面の温度が155℃となるように金型を加熱し、鏡面仕上げの平板パンチを用いて、上方から、荷重10トン(パンチ面圧:47MPa)でプレスし、この状態で5秒間保持した。このとき、パンチストローク(Sa)は約9mmであった。その後、樹脂含浸材料(X1)に接触したパンチの表面への樹脂含浸材料(X1)の接触状態を維持させながら、約2mmの除荷を行い、パンチの位置を保持した。尚、除荷開始から120秒経過するまでは、金型温度を上記と同じ155℃に保持し、120秒経過してから合計約415秒経過するまでは、金型の加熱を停止し、金型内の水路に冷却水を循環させて成形物を冷却した。その後、脱型して、ヒノキからなる木質材料とフェノール硬化樹脂とを含む、所望の直径53mm及び厚さ約9.5mmの円板状の木質成形体(C1)を得た。得られた木質成形体(C1)の木質感を評価するため、表面を触手し、その触感を評価したところ、良好であった。
図6は、この木質成形体(C1)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
【0054】
木質成形体(C1)を、長手方向に伸びる木質細胞に対して垂直(成形体の厚さ方向)に切断し、露出した断面(木口断面)を研磨した後、キーエンス社製デジタルマイクロスコープ「VHX-970F」(型式名)を用いて、表面から内部に向かって互いに異なる深さの領域2箇所の画像を得た。
図7は、木質成形体(C1)の表面から約0.5mmの深さの内部における木口断面画像であり、
図9は、木質成形体(C1)の表面から約3mmの深さの内部における木口断面画像である。
図7及び
図9によれば、木質細胞が規則的配列せずに曲線状に配列する部分を有することが分かる。また、
図11は、木質成形体(C1)の表面から約3mmの深さの内部における木口断面画像(拡大画像)であり、この
図11によれば、木質細胞がせん断変形又は細胞壁の座屈により変形していることが分かる。尚、
図7及び
図9において、無色(白色)部分は、フェノール硬化樹脂であるが、木質細胞内腔に由来する空隙部を判別するために、これらの顕微鏡画像に対して、輝度の違いにより、フェノール硬化樹脂を含む木質細胞と、木質細胞内腔に由来する空隙部とを二値化した画像を得た。
図8は、
図7の二値化画像であり、
図10は、
図9の二値化画像である。
図8及び
図10において、無色(白色)部分が木質細胞内腔に由来する空隙部であるため、各画像の全面積あたりの空隙部の合計面積の割合(空隙率)を算出した。空隙率を算出する実験は、木質成形体(C1)の5つの画像サンプルに対して行い、その結果(平均値)を表1に示した。
【0055】
また、木質成形体(C1)の密度を、その質量及び体積から算出し、表1に示した。
更に、
図6に示す木質成形体(C1)の1面側表面に対して、コニカミノルタ社製分光光度計「CM-3610d」(型式名)を用いて、SCE(正反射光除去)方式により、原料であるヒノキ単板との色差ΔEを算出し、表1に示した。
【0056】
比較例1
図12に示すプレススケジュールに基づいて、円板状木質成形体(以下、「木質成形体(C2)」という)を製造した。
実施例1と同様に、まず、4枚の樹脂含浸材料(X1)を積み重ねた状態として、金型の中に載置した。そして、金型の内表面の温度が155℃となるように金型を加熱し、鏡面仕上げの平板パンチを用いて、上方から、金型のキャビティの底面から材料と接触するパンチまでの距離が約9.5mmとなるまで荷重をかけて、その位置でパンチを120秒間保持した。120秒経過してから合計約420秒経過するまでは、金型の加熱を停止し、金型内の水路に冷却水を循環させて成形物を冷却した。その後、脱型して、ヒノキからなる木質材料とフェノール硬化樹脂とを含む、所望の直径53mm及び厚さ約9.5mmの円板状の木質成形体(C2)を得た。得られた木質成形体(C2)の表面を触手し、その触感を評価したところ、木質感が十分に感じられず、その触感は不良であった。
図13は、この木質成形体(C2)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
【0057】
木質成形体(C2)を、実施例1の木質成形体(C1)と同様に、長手方向に伸びる木質細胞に対して垂直方向(成形体の厚さ方向)に切断し、露出した断面(木口断面)を研磨した後、上記デジタルマイクロスコープを用いて、表面から内部に向かって互いに異なる深さの領域2箇所の画像を得た。
図14は、木質成形体(C2)の表面から約0.5mmの深さの内部における木口断面画像であり、
図15は、木質成形体(C2)の表面から約3mmの深さの内部における木口断面画像である。
図15によれば、木質細胞が規則的配列していることが分かる。また、
図16は、木質成形体(C2)の表面から約3mmの深さの内部における木口断面画像(拡大画像)であり、この
図16によれば、木質細胞の変形が見られないことが分かる。
【0058】
また、実施例1の木質成形体(C1)と同様にして、
図14の二値化画像(図示せず)、及び、
図17の二値化画像(図示せず)を作成し、各画像の全面積あたりの木質細胞内腔に由来する空隙部の合計面積の割合(空隙率)を算出した。空隙率を算出する実験は、上記と同様に、5つの画像サンプルに対して行った。更に、実施例1の木質成形体(C1)と同様にして、木質成形体(C2)の密度及び色差ΔEを測定した。
これらの結果を表1に示した。
【0059】
比較例2
図17に示すプレススケジュールに基づいて、円板状木質成形体(以下、「木質成形体(C3)」という)を製造した。
実施例1と同様に、まず、4枚の樹脂含浸材料(X1)を積み重ねた状態として、金型の中に載置した。そして、金型の内表面の温度が150℃となるように金型を加熱し、鏡面仕上げの平板パンチを用いて、上方から、荷重10トン(パンチ面圧:47MPa)でプレスし、この状態で420秒間保持した。このとき、パンチストローク(Sa)は約9mmであった。その後、金型の加熱を停止し、金型内の水路に冷却水を循環させて成形物を冷却した。そして、脱型して、ヒノキからなる木質材料とフェノール硬化樹脂とを含む、直径53mm及び厚さ約7.3mmの円板状の木質成形体(C3)を得た。得られた木質成形体(C3)の表面を触手し、その触感を評価したところ、木質感が十分に感じられず、その触感は不良であった。また、実施例1で行った約2mmの除荷をしないと所望の厚さ(約9.5mm)よりも成形体が小さくなった。
図18は、この木質成形体(C3)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
【0060】
木質成形体(C3)を、実施例1の木質成形体(C1)と同様に、長手方向に伸びる木質細胞に対して垂直方向(成形体の厚さ方向)に切断し、露出した断面(木口断面)を研磨した後、上記デジタルマイクロスコープを用いて、表面から内部に向かって互いに異なる深さの領域2箇所の画像、即ち、木質成形体(C3)の表面から約0.5mmの深さの内部における木口断面画像、及び、木質成形体(C3)の表面から約3mmの深さの内部における木口断面画像を得た(図示せず)。そして、前者の画像のみについて、二値化画像を作成し、全面積あたりの木質細胞内腔に由来する空隙部の合計面積の割合(空隙率)を算出した。空隙率を算出する実験は、上記と同様に、5つの画像サンプルに対して行った。更に、実施例1の木質成形体(C1)と同様にして、木質成形体(C3)の密度及び色差ΔEを測定した。
これらの結果を表1に示した。
【0061】
【0062】
実施例1により得られた木質成形体(C1)において、表面から互いに異なる深さの内部(2箇所)における空隙率は、両者とも約45%であった。比較例1及び2の深さの浅い領域での空隙率は1~15%であり、比較例1の深さの深い領域の空隙率は約45%であった。実施例1の深さの浅い領域での空隙率は、比較例1及び2と比較して大きかった。また、2箇所における空隙率の差は、比較例1で約31ポイントであったが、実施例1は2.2ポイントと小さかった。また、木質成形体(C1)を手で触ったところ、木材に近い触感であった。
得られた木質成形体(C1)は、比較例1及び2により得られた木質成形体(C2)及び(C3)に比べて色差ΔEは小さく、また、木材らしい木目が確認された。
【0063】
2.木質成形体の製造及び評価(2)
以下の実施例2~4及び比較例3では、厚さ4mm(R:半径方向)のヒノキ単板(密度ρa:0.47g/cm3)に、固形分濃度30%の熱硬化性フェノール樹脂水溶液を含浸させ、35℃で乾燥させた後、10mm(L:繊維方向)×10mm(T:接線方向)に切断加工して得られた樹脂含浸材料(以下、「樹脂含浸材料(X2)」という)を用いた。この樹脂含浸材料(X2)における上記フェノール樹脂(固形分)の含有率は46%であり、密度は約0.64g/cm3である。
また、木質成形体を製造するために、実施例1と同じ内径53mmの円柱状キャビティを有する金型を用いた。
【0064】
実施例2
図5に示すプレススケジュールに基づいて、円板状木質成形体(以下、「木質成形体(D1)」という)を製造した。
まず、樹脂含浸材料(X2)十数個(合計質量:10グラム)を、高充填率の状態として、金型の中に載置した(金型内の樹脂含浸材料の厚さ:約10mm)。そして、金型の内表面の温度が150℃となるように金型を加熱し、鏡面仕上げの平板パンチを用いて、上方から、荷重60トン(パンチ面圧:272MPa)でプレスし、この状態で5秒間保持した。このとき、パンチストローク(Sa)は約6mmであった。その後、樹脂含浸材料(X2)に接触したパンチの表面への樹脂含浸材料(X2)の接触状態を維持させながら、約2.1mmの除荷を行い、パンチの位置を保持した。尚、除荷開始から120秒経過するまでは、金型温度を上記と同じ150℃に保持し、120秒経過してから合計約415秒経過するまでは、金型の加熱を停止し、金型内の水路に冷却水を循環させて成形物を冷却した。その後、脱型して、ヒノキからなる木質材料とフェノール硬化樹脂とを含む、所望の直径53mm及び厚さ4.44mmの円板状の木質成形体(D1)を得た。
図19は、この木質成形体(D1)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
【0065】
得られた木質成形体(D1)を切断加工し、長手方向に伸びる木質細胞に対して垂直に切断されて露出した断面(木口断面)を研磨した後、上記デジタルマイクロスコープを用いて、表面から内部に向かって互いに異なる深さの領域2箇所の画像を得た。木質成形体(D1)の表面から約0.5mmの深さの内部における木口断面画像を
図20に示す。得られた木質成形体(C1)の木質感を評価するため、表面を触手し、その触感を評価したところ、その触感は良好であった。
図20によれば、変形した木質細胞が含まれること、更に、隣接する木質細胞の位置関係が変化した形跡が見られ、細胞間すべりによる塑性流動が生じたことが分かる。
【0066】
また、実施例1の木質成形体(C1)と同様に、
図20の二値化画像(図示せず)と、図示していない、木質成形体(D1)の表面から約0.5mmの深さの内部における木質細胞の断面画像の二値化画像とを作成し、各画像の全面積あたりの木質細胞内腔に由来する空隙部の合計面積の割合(空隙率)を算出した。空隙率を算出する実験は、上記と同様に、5つの画像サンプルに対して行った。更に、実施例1の木質成形体(C1)と同様にして、木質成形体(D1)の密度及び色差ΔEを測定した。
これらの結果及び触感を表2に示した。
【0067】
実施例3
金型内の樹脂含浸材料(X2)に荷重をかけた後、接触したパンチの表面への樹脂含浸材料(X2)の接触状態を維持させながら、約1.0mmの除荷を行った以外は、実施例2と同様の操作を行い、所望の直径53mm及び厚さ3.38mmの円板状の木質成形体(D2)を得た。実施例2の除荷2.1mmと本実施例の除荷1mmの違いにより、木質成形体の厚さが約1.1mm異なるものができた。得られた木質成形体(D2)の木質感を評価するため、表面を触手し、その触感を評価したところ、その触感は良好であった。
図21は、この木質成形体(D2)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
得られた木質成形体(D2)について、実施例2と同様の操作を行って、木質成形体(D2)の表面から約0.5mmの深さの内部における空隙率、木質成形体(D2)の表面から約1.5mmの深さの内部における空隙率、密度並びに色差ΔEを測定した。
これらの結果を表2に示した。
【0068】
実施例4
金型内の樹脂含浸材料(X2)に荷重をかけた後、接触したパンチの表面への樹脂含浸材料(X2)の接触状態を維持させながら、約0.3mmの除荷を行った以外は、実施例2と同様の操作を行い、所望の直径53mm及び厚さ2.65mmの円板状の木質成形体(D3)を得た。得られた木質成形体(D3)の木質感を評価するため、表面を触手し、その触感を評価したところ、その触感は良好であった。
図22は、この木質成形体(D3)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
得られた木質成形体(D3)について、実施例2と同様の操作を行って、木質成形体(D3)の表面から約0.5mmの深さの内部における空隙率、木質成形体(D3)の表面から約1.5mmの深さの内部における空隙率、密度並びに色差ΔEを測定した。
これらの結果を表2に示した。
【0069】
比較例3
図17に示すプレススケジュールに基づいて、円板状木質成形体(以下、「木質成形体(D4)」という)を製造した。
実施例2と同様に、まず、樹脂含浸材料(X2)十数個(合計質量:10グラム)を、高充填率の状態として、金型の中に載置した。そして、金型の内表面の温度が155℃となるように金型を加熱し、鏡面仕上げの平板パンチを用いて、上方から、金型のキャビティの底面から材料と接触するパンチまでの距離が約2.3mmとなるまで荷重10トン(パンチ面圧:47MPa)をかけて、その位置でパンチを420秒間保持した。その後、金型の加熱を停止し、金型内の水路に冷却水を循環させて成形物を冷却した。そして、脱型して、ヒノキからなる木質材料とフェノール硬化樹脂とを含む、直径53mm及び厚さ2.33mmの円板状の木質成形体(D4)を得た。得られた木質成形体(D4)の表面を触手、その触感を評価ししたところ、木質感が十分に感じられず、その触感は不良であった。
図23は、この木質成形体(D4)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
【0070】
得られた木質成形体(D4)を切断加工し、長手方向に伸びる木質細胞に対して垂直方向に切断されて露出した断面(木口断面)を研磨した後、上記デジタルマイクロスコープを用いて、表面から内部に向かって互いに異なる深さの領域2箇所の画像を得た。木質成形体(D1)の表面から約0.5mmの深さの内部における画像を
図24に示す。
図24によれば、ほぼすべての細胞が変形し細胞内腔に由来する空隙がほとんど見られないことが分かる。
【0071】
また、実施例1の木質成形体(C1)と同様に、
図24の二値化画像(図示せず)を作成し、画像の全面積あたりの木質細胞内腔に由来する空隙部の合計面積の割合(空隙率)を算出した。また、実施例1の木質成形体(C1)と同様にして、木質成形体(D4)の密度及び色差ΔEを測定した。
これらの結果及び触感を表2に示した。
【0072】
【0073】
実施例2~4により得られた木質成形体において、表面から互いに異なる深さの内部(2箇所)における空隙率は、比較例3と比較して大きく、また、2箇所における空隙率の差は、15ポイント以下であった。また、木質成形体(D1)~(D3)を手で触ったところ、木材に近い触感であった。
実施例2~4により得られた木質成形体(D1)~(D3)の密度は、原材料である樹脂含浸材料(X2)の密度より大きいが、比較例3により得られた木質成形体(D4)の密度より小さかった。
得られた木質成形体(D1)~(D3)は、比較例3により得られた木質成形体(D4)に比べて色差ΔEは小さく、また、比較例3に比べ木材らしい木目が確認された。
【0074】
以上の実施例1~4により、木質成形体の内部における、表面から浅い領域の空隙率と、それより深い領域の空隙率との差を15ポイント以下とすることができることが分かった。
【0075】
3.木質成形体の製造及び評価(3)
以下の実施例5~7及び比較例4では、厚さ4mm(R:半径方向)のヒノキ単板(密度ρa:0.47g/cm3)に、固形分濃度30%の熱硬化性メラミン樹脂水溶液を含浸させ、35℃で乾燥させた後、10mm(L:繊維方向)×10mm(T:接線方向)に切断加工して得られた樹脂含浸材料(以下、「樹脂含浸材料(X3)」という)を用いた。この樹脂含浸材料(X3)における上記メラミン樹脂(固形分)の含有率は38~41%であり、含水率は0%であり、密度は約0.64g/cm3である。
また、木質成形体を製造するために、実施例1と同じ内径53mmの円柱状キャビティを有する金型を用いた。
【0076】
実施例5
図5に示すプレススケジュールに基づいて、円板状木質成形体(以下、「木質成形体(E1)」という)を製造した。
まず、樹脂含浸材料(X3)十数個(合計質量:10グラム)を、高充填率の状態として、金型の中に載置した(金型内の樹脂含浸材料の厚さ:約10mm)。そして、金型の内表面の温度が170℃となるように金型を加熱し、鏡面仕上げの平板パンチを用いて、上方から、荷重60トン(パンチ面圧:272MPa)でプレスし、この状態で5秒間保持した。このとき、パンチストローク(Sa)は約3.5mmであった。その後、樹脂含浸材料(X3)に接触したパンチの表面への樹脂含浸材料(X3)の接触状態を維持させながら、約0.4mmの除荷を行い、パンチの位置を保持した。尚、除荷を行った後も金型温度を上記と同じ170℃に保持し、420秒間が経過してから脱型して、ヒノキからなる木質材料とメラミン硬化樹脂とを含む、所望の直径53mm及び厚さ3.88mmの円板状の木質成形体(E1)を得た。
図25は、この木質成形体(E1)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
【0077】
得られた木質成形体(E1)を切断加工し、長手方向に伸びる木質細胞に対して垂直方向に切断されて露出した断面(木口断面)を研磨した後、上記デジタルマイクロスコープを用いて、木質成形体(E1)の表面から約0.5mmの深さの内部における画像を得た。そして、実施例1の木質成形体(C1)と同様に、この画像を二値化し、得られた画像から、木質細胞内腔に由来する空隙部の合計面積の割合(空隙率)を算出した。
これらの結果及び触感を表3に示した。
【0078】
実施例6
除荷量を約0.1mmに変更した以外は、実施例5と同様の操作を行って、ヒノキからなる木質材料とメラミン硬化樹脂とを含む、所望の直径53mm及び厚さ3.56mmの円板状の木質成形体(E2)を得た。
図26は、この木質成形体(E2)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
【0079】
得られた木質成形体(E2)を切断加工し、長手方向に伸びる木質細胞に対して垂直方向に切断されて露出した断面(木口断面)を研磨した後、上記デジタルマイクロスコープを用いて、木質成形体(C2)の表面から約0.5mmの深さの内部における木口断面画像を得た(
図27参照)。そして、実施例1の木質成形体(C1)と同様に、
図27の二値化画像(図示せず)を作成し、画像の全面積あたりの木質細胞内腔に由来する空隙部の合計面積の割合(空隙率)を算出した。これらの結果及び触感を表3に示した。
【0080】
実施例7
除荷量を約0.2mmに変更した以外は、実施例5と同様の操作を行って、ヒノキからなる木質材料とメラミン硬化樹脂とを含む、所望の直径53mm及び厚さ3.60mmの円板状の木質成形体(E3)を得た。
図28は、この木質成形体(E3)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
その後、実施例5と同様にして、空隙率の測定を行い、これらの結果及び触感を表3に示した。
【0081】
比較例4
図17に示すプレススケジュールに基づいて、円板状木質成形体(以下、「木質成形体(E4)」という)を製造した。
実施例5と同様に、樹脂含浸材料(X3)十数個(合計質量:10グラム)を、高充填率の状態として、金型の中に載置した。そして、金型の内表面の温度が170℃となるように金型を加熱し、鏡面仕上げの平板パンチを用いて、上方から、金型のキャビティの底面から材料と接触するパンチまでの距離が約3.5mmとなるまで荷重60トンの条件でプレスし、その位置でパンチを420秒間保持した。その後、脱型して、ヒノキからなる木質材料とメラミン硬化樹脂とを含む、直径53mm及び厚さ3.45mmの円板状の木質成形体(E4)を得た。
図29は、この木質成形体(E4)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
その後、実施例5と同様にして、空隙率の測定を行い、これらの結果及び触感を表3に示した。
【0082】
次に、以下の実施例8~10及び比較例5では、厚さ4mm(R:半径方向)のヒノキ単板(密度ρa:0.47g/cm3)に、固形分濃度30%の熱硬化性メラミン樹脂水溶液を含浸させ、35℃で乾燥させた後、10mm(L:繊維方向)×10mm(T:接線方向)に切断加工し、更に、水を噴霧して含水率を5%とした樹脂含浸材料(以下、「樹脂含浸材料(X4)」という)を用いた。この樹脂含浸材料(X4)における上記メラミン樹脂の含有率は38~41%である。
また、木質成形体を製造するために、実施例1と同じ内径53mmの円柱状キャビティを有する金型を用いた。
【0083】
実施例8
樹脂含浸材料(X3)に代えて、ほぼ同形状の樹脂含浸材料(X4)を用い、除荷量を約1.3mmに変更した以外は、実施例5と同様の操作を行い、ヒノキからなる木質材料とメラミン硬化樹脂とを含む、所望の直径53mm及び厚さ4.54mmの円板状の木質成形体(F1)を得た。
図30は、この木質成形体(F1)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
【0084】
次いで、実施例5の木質成形体(E1)と同様に、木質成形体(F1)の表面から約0.5mmの深さの内部における画像を撮影し、空隙率の測定を行い、これらの結果及び触感を表3に示した。
【0085】
実施例9
樹脂含浸材料(X3)に代えて、ほぼ同形状の樹脂含浸材料(X4)を用い、除荷量を約0.6mmに変更した以外は、実施例6と同様の操作を行い、ヒノキからなる木質材料とメラミン硬化樹脂とを含む、直径53mm及び厚さ3.83mmの円板状の木質成形体(F2)を得た。
図31は、この木質成形体(F2)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
【0086】
次いで、実施例5の木質成形体(E1)と同様に、木質成形体(F2)の表面から約0.5mmの深さの内部における画像を撮影し、空隙率の測定を行い、これらの結果及び触感を表3に示した。
【0087】
実施例10
樹脂含浸材料(X3)に代えて、ほぼ同形状の樹脂含浸材料(X4)を用い、除荷量を約0.4mmに変更した以外は、実施例7と同様の操作を行い、ヒノキからなる木質材料とメラミン硬化樹脂とを含む、所望の直径53mm及び厚さ3.63mmの円板状の木質成形体(F3)を得た。
図32は、この木質成形体(F3)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
【0088】
次いで、実施例5の木質成形体(E1)と同様に、木質成形体(F3)の表面から約0.5mmの深さの内部における画像を撮影し、空隙率の測定を行い、これらの結果及び触感を表3に示した。
【0089】
比較例5
樹脂含浸材料(X3)に代えて、ほぼ同形状の樹脂含浸材料(X4)を用いた以外は、比較例4と同様の操作を行い、ヒノキからなる木質材料とメラミン硬化樹脂とを含む、直径53mm及び厚さ3.23mmの円板状の木質成形体(F4)を得た。
図33は、この木質成形体(F4)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた画像である。
【0090】
次いで、比較例4の木質成形体(E4)と同様に、木質成形体(F4)の表面から約0.5mmの深さの内部における画像を撮影し、空隙率の測定を行い、これらの結果及び触感を表3に示した。
【0091】
【0092】
4.木質成形体の製造及び評価(4)
以下の実施例11及び12並びに比較例6では、厚さ4mm(R:半径方向)のヒノキ単板(密度ρa:0.47g/cm3)に、固形分濃度10%の熱硬化性メラミン樹脂水溶液を含浸させ、35℃で乾燥させた後、直径約52mmの円板状に切り抜いて得られた樹脂含浸材料(以下、「樹脂含浸材料(X5)」という)を用いた。この樹脂含浸材料(X5)における上記メラミン樹脂(固形分)の含有率は17~23%であり、密度は約0.48g/cm3である。
また、木質成形体を製造するために、実施例1と同じ内径53mmの円柱状キャビティを有する金型を用いた。
【0093】
実施例11
図5に示すプレススケジュールに基づいて、円板状木質成形体(以下、「木質成形体(G1)」という)を製造した。
まず、樹脂含浸材料(X5)3個(合計厚さ:約12mm、直径:約52mm、合計質量:約10グラム)を積み重ねた状態として、金型の中に載置した。そして、金型の内表面の温度が170℃となるように金型を加熱し、鏡面仕上げの平板パンチを用いて、上方から、荷重10トン(パンチ面圧:45MPa)で1秒間プレスした。このとき、パンチストローク(Sa)は約8.7mmであった。その後、樹脂含浸材料(X5)に接触したパンチの表面への樹脂含浸材料(X5)の接触状態を維持させながら、約0.5mmの除荷を行い、パンチの位置を420秒間保持した。次いで、金型に冷却水を供給することなく脱型して、ヒノキからなる木質材料とメラミン硬化樹脂とを含む、所望の直径53mm及び厚さ約3.8mmの円板状の木質成形体(G1)を得た。得られた木質成形体(G1)の木質感を評価するため、表面を触手し、その触感を評価したところ、その触感は良好であった。
【0094】
得られた木質成形体(G1)の円形表面に対して、東京精密社製触針式粗さ測定器「SURFCOM 1800G-13」(型式名)を用い、測定長を4mmとして、温度20℃における算術平均粗さRa及び最大高さRzを測定した。
また、木質成形体(G1)を、温度20℃及び相対湿度60%の環境下、7日間に渡って状態調節した後、京都電子工業社製迅速熱伝導率計「QTM-500」(型式名)を用い、温度20℃における熱伝導率を測定し、島津製作所社製小型卓上試験機「EZ-TEST EZ-S」(型式名)を用い、ブリネル硬さを測定した。
これらの結果を、木質成形体(G1)の密度及び色差ΔEとともに表4に併記した。尚、上記ヒノキ単板の熱伝導率は0.132W/(m・K)であり、ブリネル硬さは10.8である。
【0095】
実施例12
実施例11において、金型内でプレスした樹脂含浸材料(X5)に対する除荷量を約0.3mmに変更した以外は、実施例11と同様の操作を行い、厚さ約3.6mmの円板状の木質成形体(G2)を得た。その後、各種評価を行った。それらの結果を表4に示す。
【0096】
比較例6
図17に示すプレススケジュールに基づいて、円板状木質成形体(以下、「木質成形体(G3)」という)を製造した。
まず、樹脂含浸材料(X5)3個(合計質量:約10グラム)を積み重ねた状態として、金型の中に載置した。そして、金型の内表面の温度が170℃となるように金型を加熱し、上方から、荷重10トン(パンチ面圧:45MPa)の条件で420秒間プレスした。次いで、金型に冷却水を供給することなく脱型して、ヒノキからなる木質材料とメラミン硬化樹脂とを含む、直径53mm及び厚さ約3.3mmの円板状の木質成形体(G3)を得た。その後、各種評価を行った。それらの結果を表4に示す。
【0097】
【0098】
実施例11及び12により得られた円板状木質成形体(G1)及び(G2)の密度は、原材料である樹脂含浸材料(X5)の密度より大きいが、比較例6により得られた円板状木質成形体(G3)の密度より小さかった。
得られた円板状木質成形体(G1)及び(G2)は、比較例6により得られた円板状木質成形体(G3)に比べて色差ΔEは小さく、比較例6に比べ木材らしい木目が確認され、触感も良好であった。
また、得られた円板状木質成形体(G1)及び(G2)のブリネル硬さは、比較例6に比べ、ヒノキ単板のブリネル硬さ(10.8)に近かった。このブリネル硬さは、木質感に影響を与える物性値の一つと考えられる。
【0099】
5.木質成形体の製造及び評価(5)
以下の実施例13及び14並びに比較例7では、厚さ4mm(R:半径方向)のヒノキ単板(密度ρa:0.47g/cm3)に、固形分濃度30%の熱硬化性メラミン樹脂水溶液を含浸させ、35℃で乾燥させた後、直径約52mmの円板状に切り抜いて得られた樹脂含浸材料(以下、「樹脂含浸材料(X6)」という)を用いた。この樹脂含浸材料(X6)における上記メラミン樹脂(固形分)の含有率は38~41%であり、密度は約0.64g/cm3である。
【0100】
実施例13
樹脂含浸材料(X5)に代えて、合計質量が約15グラムの樹脂含浸材料(X6)を用い、パンチストローク(Sa)を約7.4mm、除荷量を約1.5mmとした以外は、実施例11と同様の操作を行い、直径53mm及び厚さ約6.0mmの円板状の木質成形体(H1)を得た(
図34参照)。その後、密度、色差、表面粗さ、熱伝導率及びブリネル硬さの測定を行い、それらの結果を表5に示した。
【0101】
また、得られた木質成形体の詳細な触感評価を、以下の方法により行った。具体的には、6名の成人が官能評価者(T1)~(T6)となり、目隠しをした状態及び目隠しをしない状態で木質成形体の手触りにより、(I)木材っぽさ(木質感)、(II)あたたかさ及び(III)やわらかさの3項目について、下記の基準で判定し、その結果を表6に示した。
(I)木質感
1:とても良好である
2:良好である
3:不良である
4:プラスチック製品に近い
(II)あたたかさ
1:とてもあたたかい
2:あたたかい
3:冷たい
4:とても冷たい
(III)やわらかさ
1:とてもやわらかい
2:やわらかい
3:硬い
4:とても硬い
【0102】
実施例14
樹脂含浸材料(X5)に代えて、合計質量が約15グラムの樹脂含浸材料(X6)を用い、パンチストローク(Sa)を約7.4mm、除荷量を約1.0mmとした以外は、実施例11と同様の操作を行い、直径53mm及び厚さ約5.5mmの円板状の木質成形体(H2)を得た(
図34参照)。その後、各種評価を行った。それらの結果を表5及び表6に示す。
【0103】
比較例7
樹脂含浸材料(X5)に代えて、合計質量が約15グラムの樹脂含浸材料(X6)を用いた以外は、比較例6と同様の操作を行い、直径53mm及び厚さ約4.5mmの円板状の木質成形体(H3)を得た(
図34参照)。その後、各種評価を行った。それらの結果を表5及び表6に示す。
【0104】
【0105】
【0106】
表6から、実施例13及び14で得られた木質成形体は、比較例7で得られた木質成形体に比べて、木質感に優れ、あたたかさ及びやわらかさを有することが分かる。
【0107】
ここで、小畑らが発表した論文「木材の熱物性と接触温冷感」(木材学会誌、Vol.46(2)、p.137-143)には、熱浸透率(熱伝導率、比熱、密度の積の平方根)は材料の温冷感を評価する指標とすることができ、熱浸透率が小さい材料ほどあたたかみのある材料といえると記載されている。表5において、実施例13及び14で得られた木質成形体(H1)及び(H2)の熱伝導率は、比較例7で得られた木質成形体(H3)のそれより低いが、表6において、木質成形体(H3)よりも木質成形体(H1)及び(H2)の方が、あたたかみがあると判定されており、木材に近いあたたかみが熱伝導率と相関関係にあることが明らかとなった。
【0108】
6.複合体の製造
以下の実施例15及び比較例8では、厚さ4mm(R:半径方向)のヒノキ単板(密度ρ
a:0.47g/cm
3)に、固形分濃度30%の熱硬化性フェノール樹脂水溶液を含浸させ、35℃で乾燥させた後、直径約52mmの円板状に切り抜いて得られた、メラミン樹脂(固形分)の含有率が38~41%である樹脂含浸材料(以下、「樹脂含浸材料(X7)」という)と、被着体として、下記のプリプレグ41とを用い、
図35に示す方法で、複合体51(3次元成形体)を製造した。
【0109】
プリプレグ41は、以下のようにして作製した。原料として、円板状の樹脂含浸材料(X7)とする前(切り抜き加工前)の樹脂含浸板30gを、10mm(L:繊維方向)×10mm(T:接線方向)に切断加工して得られた材料を用いた。この材料を積み重ねた状態(金型内の樹脂含浸材料の厚さ:約35mm)として、実施例1と同じ内径53mmの円柱状キャビティを有する金型31の中の底部に配設した下型33の上に載置した。その後、金型31の内表面の温度が100℃となるように金型31を加熱し、鏡面仕上げの平板パンチを用いて、上方から、荷重50トン(パンチ面圧:225MPa)の条件で30秒間プレスした。次いで、金型31の加熱を停止し、加圧状態を保持したまま、金型内の水路に冷却水を循環させて成形物を300秒間冷却することにより、所望の円板状の概形を有する成形体(直径:53mm、厚さ:約13mm)を作製した。
【0110】
実施例15
プリプレグ41を、金型31の底部に配設した下型33の上に載置した状態(
図35(I)参照)で、プリプレグ41の表面に樹脂含浸材料(X7)を積載した(
図35(II)参照)。金型内のプリプレグ41と樹脂含浸材料(X7)を積載した合計厚さは約17mmであった。次いで、金型31の内表面の温度が150℃となるように、金型31を加熱し、上型35により荷重10トン(パンチ面圧:45MPa)を付与し、上型35及び下型33との間で前駆体部分46(厚さ:約1mm)を形成させた(
図35(III)参照)。10秒間の圧縮後、上型35の内表面に前駆体部分46を接触させたまま、除荷、即ち、約1.0秒間かけて上型35を上方に移動させ、樹脂含浸材料(X7)に由来する材料部分の厚さが約2.3mmとなるところで上型35を固定した。そして、約110秒間上記温度(150℃)で保持することにより、熱硬化性メラミン樹脂を硬化させた。次いで、金型31の加熱を停止し、金型内の水路に冷却水を循環させて、成形物の冷却を300秒間行った。その後、脱型して、プリプレグ41に由来する被着体部分42と、樹脂含浸材料(X7)に由来する木質成形体部分47とが接合された所望の厚さ15.3mmの複合体51を得た(
図35(IV)参照)。
【0111】
図36及び
図37は、得られた複合体51における木質成形体部分47の上面、及び、被着体部分42の下面を、それぞれ、カメラにより撮影して得られた画像であり、いずれも木質外観性に優れていた。また、複合体51の木質成形体部分47を手で触ったところ、プラスチックというより木材の触感であった。
【0112】
比較例8
実施例15における、図(II)の状態とした後、金型31の内表面の温度が150℃となるように、金型31を加熱し、上型35により荷重10トン(パンチ面圧:45MPa)を120秒間以上付与し続けて、熱硬化性フェノール樹脂を硬化させ、その後、実施例15と同様に冷却後に、脱型して、プリプレグ41に由来する被着体部分と、樹脂含浸材料(X7)に由来する木質成形体部分とが接合された複合体を得た。
【0113】
図38及び
図39は、得られた複合体における木質成形体部分の上面、及び、被着体部分の下面を、それぞれ、カメラにより撮影して得られた画像であり、いずれも木質外観性に優れていたが、木質素材由来の木目は失われていた。また、複合体の木質成形体部分を手で触ったところ、プラスチックに近い触感であった。
【0114】
7.木質成形体の製造及び評価(6)
以下の実施例16及び17並びに比較例9では、厚さ10mm以下(R:半径方向)の漂白処理済の木片(ヒノキ又はスギ)に、固形分濃度20%の熱硬化性メラミン樹脂水溶液に、潤滑剤として酸化ポリアルキレンワックスを濃度3%となるように添加して得られた混合液を含浸させ、35℃で乾燥して得られた樹脂-潤滑剤含浸材料(以下、「樹脂含浸材料(X8)」という)を用いた。この樹脂含浸材料(X8)におけるメラミン樹脂及び潤滑剤の合計含有率(固形分)は34%であり、木片に対する重量増加率は52%である。その後、158mm×135mmのトレイ状キャビティを有する金型を用い、樹脂含浸材料(X8)を加工してプリプレグ(以下、「プリプレグ(P)」という)を作製し、このプリプレグ(P)を用いてトレイ型木質成形体を製造した。
【0115】
プリプレグ(P)は、以下のようにして作製した。まず、約110gの樹脂含浸材料(X8)を、トレイ状キャビティを有する金型内に載置した。その後、金型の内表面の温度が110℃となるように金型を加熱し、鏡面仕上げのパンチを用いて、上方から、荷重200トン(パンチ面圧:94MPa)の条件で60秒間プレスした。次いで、金型の加熱を停止し、加圧状態を保持したまま、金型内の水路に冷却水を循環させて成形物を240秒間冷却することにより、所望のトレイ状の概形を有するプリプレグ(P)を得た。
【0116】
実施例16
上記金型及びプリプレグ(P)を用い、
図40に示すプレススケジュールに基づいて、トレイ型木質成形体(以下、「トレイ型木質成形体(J1)」という)を製造した。
金型の内表面の温度が165℃となるように金型を加熱し、鏡面仕上げのパンチを用いて、上方から、荷重200トン(パンチ面圧:94MPa)でプレスし、この状態で30秒間保持した。次いで、約1.5mmの除荷を行い、パンチの位置を保持した。尚、除荷開始から300秒経過するまでは、金型温度を上記と同じ165℃に保持し、その後、金型の加熱を停止し、更に300秒経過するまで、金型内の水路に冷却水を循環させて成形物を冷却した。その後、脱型して、針葉樹からなる木質材料とメラミン硬化樹脂と潤滑剤とを含む、所望の158mm×135mm及び高さ約17mm(底面部の肉厚:2.8mm)のトレイ状木質成形体(J1)を得た。得られた木質成形体(J1)は、ヒノキ木片の色合いを有しており、表面を触手し、その触感を評価したところ、その触感は良好であった。
図41は、この木質成形体(J1)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた斜視画像である。
【0117】
また、得られたトレイ型木質成形体(J1)の表面の光沢度を、堀場製作所社製ハンディ光沢計「グロスチェッカ IG-331」(商品名)により測定したところ、トレイの長手方向では30、短手方向では30であった(表7参照)。
【0118】
実施例17
上記金型及びプリプレグ(P)を用い、
図42に示すプレススケジュールに基づいて、トレイ型木質成形体(以下、「トレイ型木質成形体(J2)」という)を製造した。
金型の内表面の温度が165℃となるように金型を加熱し、鏡面仕上げのパンチを用いて、上方から、荷重200トン(パンチ面圧:94MPa)でプレスし、この状態で30秒間保持した。次いで、約1.5mmの除荷を行い、パンチの位置を30秒間保持した。その後、上方から、荷重10トン(パンチ面圧:4.7MPa)でプレスし(荷重再付与工程)、この荷重を維持したまま600秒間保持した。尚、荷重再付与工程のプレス開始から300秒経過するまでは、金型温度を上記と同じ165℃に保持し、その後、金型の加熱を停止し、更に300秒経過するまで、金型内の水路に冷却水を循環させて成形物を冷却した。次いで、脱型して、針葉樹からなる木質材料とメラミン硬化樹脂と潤滑剤とを含む、所望の158mm×135mm及び高さ約16mm(底面部の肉厚:2.7mm)のトレイ状木質成形体(J2)を得た。得られた木質成形体(J2)は、ヒノキ木片の色合いを有しており、表面を触手し、その触感を評価したところ、その触感は良好であった。
図43は、この木質成形体(J2)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた斜視画像である。
【0119】
トレイ状木質成形体(J2)の表面の光沢度を、実施例16と同様にして測定したところ、トレイの長手方向では45、短手方向では55であり(表7参照)、トレイ状木質成形体(J2)の表面の光沢度は、トレイ状木質成形体(J1)のそれよりも高かった。また、木質成形体(J1)及び木質成形体(J2)の各表面の凹凸度合いを目視評価したところ、木質成形体(J2)の方が木質成形体(J1)よりも平滑であり、本発明に係る第2方法では、金型又はパンチの鏡面形状が十分に転写されたことが分かる。
【0120】
比較例9
上記金型及びプリプレグ(P)を用い、
図44に示すプレススケジュールに基づいて、トレイ型木質成形体(以下、「トレイ型木質成形体(J3)」という)を製造した。
金型の内表面の温度が165℃となるように金型を加熱し、鏡面仕上げのパンチを用いて、上方から、荷重200トン(パンチ面圧:94MPa)でプレスし、この状態で600秒間保持した。尚、プレス開始から300秒経過するまでは、金型温度を上記と同じ165℃に保持し、その後、金型の加熱を停止し、更に300秒経過するまで、金型内の水路に冷却水を循環させて成形物を冷却した。次いで、脱型して、針葉樹からなる木質材料とメラミン硬化樹脂と潤滑剤とを含む、所望の158mm×135mm及び高さ約16mm(底面部の肉厚:2.5mm)のトレイ状木質成形体(J3)を得た。得られた木質成形体(J3)の表面を触手し、その触感を評価したところ、木質感が十分に感じられず、その触感は不良であった。
図45は、この木質成形体(J3)の1面側表面をカメラにより撮影して得られた斜視画像である。
【0121】
トレイ状木質成形体(J3)の表面の光沢度を、実施例16と同様にして測定したところ、トレイの長手方向では74、短手方向では64であった(表7参照)。
【0122】
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明は、日用品、家具・調度品、建材・建築部材、電化製品又は音響機器用筐体、車両用部材(内装材等)等への利用に好適である。
【符号の説明】
【0124】
10:木質成形体
12:含まれる木質材料における木質細胞内腔の空隙率測定領域
14:空隙率測定領域12より深い位置における木質細胞内腔の空隙率測定領域
20:木質細胞
22:細胞壁
24:木質細胞内腔
31:金型
33:下型
35:上型
41:被着体(プリプレグ)
42:被着体部分
45:樹脂含浸材料
46:前駆体部分
47:木質成形体部分
51:複合体