IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

特許7624661無線通信方法、無線通信システム、基地局装置、および中継装置
<>
  • 特許-無線通信方法、無線通信システム、基地局装置、および中継装置 図1
  • 特許-無線通信方法、無線通信システム、基地局装置、および中継装置 図2
  • 特許-無線通信方法、無線通信システム、基地局装置、および中継装置 図3
  • 特許-無線通信方法、無線通信システム、基地局装置、および中継装置 図4
  • 特許-無線通信方法、無線通信システム、基地局装置、および中継装置 図5
  • 特許-無線通信方法、無線通信システム、基地局装置、および中継装置 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】無線通信方法、無線通信システム、基地局装置、および中継装置
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/26 20090101AFI20250124BHJP
   H04W 16/28 20090101ALI20250124BHJP
   H04W 64/00 20090101ALI20250124BHJP
【FI】
H04W16/26
H04W16/28
H04W64/00 120
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021209641
(22)【出願日】2021-12-23
(65)【公開番号】P2023094263
(43)【公開日】2023-07-05
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 匡史
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】川本 雄一
(72)【発明者】
【氏名】橋田 紘明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寧
【審査官】青木 健
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113543176(CN,A)
【文献】特開2011-029851(JP,A)
【文献】特開2021-125779(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113784353(CN,A)
【文献】橋田紘明,外4名,“マルチビーム通信システムにおけるユーザモビリティを考慮したIntelligent Reflecting Surfaceの割り当てに関する検討”,電子情報通信学会技術研究報告,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2021年12月16日,vol. 121,no. 234,p. 136-141
【文献】“世界初、6G時代の超カバレッジの実現に向けたユーザー追従型メタサーフェス制御の実証に成功~人や機材が遮蔽物になる屋内に、より快適なミリ波高速通信環境を提供~”,日本,[online],2021年11月12日,p. 1-4,[2024.08.19検索],インターネット<URL:https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/topics/2021/topics_211112_00.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B7/24- 7/26
H04W4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の移動端末の各々の移動情報を取得する取得ステップと、
基地局装置および前記複数の移動端末の各々の間の無線通信を担う無線信号を反射によって中継可能な複数の中継装置の少なくともいずれかを、前記複数の移動端末のいずれかに割り当てる割当ステップと、
前記複数の中継装置のうち前記割当ステップで前記複数の移動端末のいずれかに割り当てられた中継装置が、前記取得ステップで取得された当該移動端末の移動情報に基づいて、無線信号の反射を当該移動端末の移動に追従するように制御する反射制御ステップと、
を備え
前記割当ステップは、
前記取得ステップで取得された移動情報に基づいて、前記複数の中継装置の割当の更新間隔を動的に設定すること
を含む、
無線通信方法。
【請求項2】
前記取得ステップで取得された移動情報に基づいて、前記複数の移動端末の各々の移動経路を追跡する追跡ステップ
を備え、
前記反射制御ステップは、
前記追跡ステップで追跡される移動経路に追従するように無線信号の反射を制御すること
を含む、
請求項1に記載の無線通信方法。
【請求項3】
前記取得ステップで取得された移動情報に基づいて、前記複数の移動端末の各々の移動経路を予測する予測ステップ
を備え、
前記反射制御ステップは、
前記予測ステップで予測される移動経路に追従するように無線信号の反射を制御すること
を含む、
請求項1に記載の無線通信方法。
【請求項4】
前記割当ステップは、
前記取得ステップで取得された移動情報に基づいて、前記複数の移動端末の各々の移動先を推定する確率分布を算出すること、
算出した前記確率分布に基づいて前記複数の中継装置の割当パターンごとに見通し確率およびスループットの少なくともいずれかを含む通信性能を算出すること、および
算出した前記通信性能に基づいて前記複数の中継装置の割当パターンのいずれかを選択すること
を含む、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の無線通信方法。
【請求項5】
基地局装置と、
前記基地局装置および複数の移動端末の各々の間の無線通信を担う無線信号を反射によって中継可能な複数の中継装置と、
を備え、
前記基地局装置は、前記複数の中継装置の少なくともいずれかを、前記複数の移動端末のいずれかに割り当て、
前記複数の中継装置のうち前記複数の移動端末のいずれかに割り当てられた中継装置は、無線信号の反射を当該移動端末の移動に追従するように制御し、
前記基地局装置は、前記複数の移動端末の少なくともいずれかから取得した移動情報に基づいて、前記複数の中継装置の割当の更新間隔を動的に設定する、
無線通信システム。
【請求項6】
複数の移動端末の各々との間の無線通信を担う無線信号を送受信する通信部と、
前記複数の移動端末のうち割り当てられた移動端末および前記通信部の間において当該移動端末の移動に追従するように当該無線信号の反射を制御することで当該無線信号を中継可能な複数の中継装置の少なくともいずれかを、前記複数の移動端末のいずれかに割り当てる割当部と、
を備え
前記割当部は、前記複数の移動端末の少なくともいずれかから取得した移動情報に基づいて、前記複数の中継装置の割当の更新間隔を動的に設定する、
基地局装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線通信方法、無線通信システム、基地局装置、および中継装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1は、無線通信システムの例を開示する。無線通信システムにおいて、基地局装置および複数の端末の各々の間で無線信号による無線通信が行われる。無線通信システムにおいて、基地局装置および端末の間の無線信号を反射することによって中継する中継装置が複数設けられる。各々の中継装置は、多数の反射素子によってそれぞれ到来波の位相をシフトさせることなどによって、無線信号の反射の方向などを制御する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Qin Tao, Shuowen Zhang, Caijun Zhong and Rui Zhang, "Intelligent Reflecting Surface Aided Multicasting With Random Passive Beamforming," IEEE Wireless Communications Letters, Volume 10, Issue 1, January 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1の無線通信システムにおいて、端末が基地局装置と無線通信を行うための訓練データは、中継装置が反射の制御状態を変えるたびに送信される。一方、中継装置による反射の制御状態が変わらなければ、端末の移動先が無線信号による無線通信の範囲外となることがある。このため、非特許文献1の無線通信システムにおいて基地局装置が移動する端末と無線通信を行う場合に、中継装置が反射の制御状態を頻繁に変えると、訓練データによるオーバヘッドが大きくなることで無線通信システムの通信効率が低下しうる。
【0005】
本開示は、このような課題の解決に係るものである。本開示は、通信効率の低下を抑えられる無線通信方法、無線通信システム、基地局装置、および中継装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る無線通信方法は、複数の移動端末の各々の移動情報を取得する取得ステップと、基地局装置および前記複数の移動端末の各々の間の無線通信を担う無線信号を反射によって中継可能な複数の中継装置の少なくともいずれかを、前記複数の移動端末のいずれかに割り当てる割当ステップと、前記複数の中継装置のうち前記割当ステップで前記複数の移動端末のいずれかに割り当てられた中継装置が、前記取得ステップで取得された当該移動端末の移動情報に基づいて、無線信号の反射を当該移動端末の移動に追従するように制御する反射制御ステップと、を備える。
【0007】
本開示に係る無線通信システムは、基地局装置と、前記基地局装置および複数の移動端末の各々の間の無線通信を担う無線信号を反射によって中継可能な複数の中継装置と、を備え、前記基地局装置は、前記複数の中継装置の少なくともいずれかを、前記複数の移動端末のいずれかに割り当て、前記複数の中継装置のうち前記複数の移動端末のいずれかに割り当てられた中継装置は、無線信号の反射を当該移動端末の移動に追従するように制御する。
【0008】
本開示に係る基地局装置は、複数の移動端末の各々との間の無線通信を担う無線信号を送受信する通信部と、前記複数の移動端末のうち割り当てられた移動端末および前記通信部の間において当該移動端末の移動に追従するように当該無線信号の反射を制御することで当該無線信号を中継可能な複数の中継装置の少なくともいずれかを、前記複数の移動端末のいずれかに割り当てる割当部と、を備える。
【0009】
本開示に係る中継装置は、複数の移動端末のうち基地局装置によって割り当てられた移動端末および前記基地局装置の間の無線通信を担う無線信号を反射によって中継する反射体と、前記複数の移動端末のうち割り当てられた移動端末から取得された当該移動端末の移動情報に基づいて、当該移動端末の移動に追従するように、前記基地局装置および当該移動端末の間において無線信号の前記反射体による反射を制御する反射制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係る無線通信方法、無線通信システム、基地局装置、または中継装置によれば、通信効率の低下が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る無線通信システムの構成図である。
図2】実施の形態1に係る無線通信システムの機能ブロック図である。
図3】実施の形態1に係る無線通信システムにおける無線信号のビームの制御の例を示す図である。
図4】実施の形態1に係る無線通信システムにおける割当の例を示す図である。
図5】実施の形態1に係る無線通信システムにおいて移動端末の移動を予測するモデルを説明する図である。
図6】実施の形態1に係る無線通信システムの動作の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の実施の形態について添付の図面を参照しながら説明する。各図において、同一または相当する部分には同一の符号を付して、重複する説明は適宜に簡略化または省略する。なお、本開示は以下の実施の形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、各実施の形態の自由な組み合わせ、各実施の形態の任意の構成要素の変形、または各実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【0013】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る無線通信システム1の構成図である。
【0014】
無線通信システム1による無線信号は、例えば、ミリ波またはテラヘルツ波などを含む高周波数帯の信号などを含む。ここで、高周波数帯の信号は直進性が高いため、無線通信システム1において、遮蔽物によって無線信号が遮蔽されることへの対処が重要となる。この例の無線通信システム1による無線通信が行われる通信範囲において、複数の遮蔽物がある。この例において、複数の遮蔽物は、遮蔽物2a、遮蔽物2b、および遮蔽物2cを含む。ここで、これらの遮蔽物を区別しない場合に、単に遮蔽物2と表記する。遮蔽物2は、無線通信システム1による無線信号を遮蔽する物などである。遮蔽物2は、例えば建物などの固定された物、または車両などの移動する物のいずれであってもよい。
【0015】
無線通信システム1は、基地局装置3を備える。基地局装置3は、無線信号を送受信する機能を搭載する。基地局装置3は、例えばアレイアンテナなどによって所望の方向に無線信号を集中させたビームを生成させる機能を搭載する。無線通信システム1は、基地局装置3および複数の移動端末などの間の無線通信を担う。
【0016】
この例において、複数の移動端末は、移動端末4a、移動端末4b、および移動端末4cを含む。ここで、これらの移動端末を区別しない場合に、単に移動端末4と表記する。移動端末4は、無線通信機能を搭載した移動する端末装置である。移動端末4は、例えばスマートフォン、タブレットコンピュータ、またはラップトップコンピュータなどの可搬な情報端末などである。このとき、移動端末4は、例えば当該移動端末4を所持する利用者によって持ち運ばれることで利用者とともに移動する。あるいは、移動端末4は、自動運転車またはドローンなどの移動機能を搭載した装置における通信モジュールなどであってもよい。このとき、移動端末4は、自律的にまたは操作者の遠隔操作などに従い、移動機能によって自ら移動する。
【0017】
無線通信システム1は、複数の中継装置を備える。この例において、複数の中継装置は、中継装置5a、中継装置5b、中継装置5c、中継装置5d、および中継装置5eを含む。ここで、これらの中継装置を区別しない場合に、単に中継装置5と表記する。中継装置5は、基地局装置3および移動端末4の間で伝播する無線信号を中継しうるように、無線通信システム1による無線通信が行われる通信範囲に配置される。中継装置5は、例えば基地局装置3から移動端末4に送信される無線信号を反射することによって中継する。中継装置5は、例えば複数の反射素子によってそれぞれ到来波の位相をシフトさせることなどによって、到来波の反射方向などの反射特性を動的に制御する機能を搭載する。中継装置5において、例えばIRS(Intelligent Reflecting Surface)などのデバイスによって、このような反射特性の動的制御の機能が実装される。無線通信システム1において、中継装置5の一部または全部は、いずれかの移動端末4に割り当てられる。中継装置5は、割り当てられた移動端末4および基地局装置3の間で伝播する無線信号を反射によって中継する。無線通信システム1において、中継装置5の一部または全部は、いずれの移動端末4にも割り当てられない空きの状態を取ってもよい。無線通信システム1において、複数の中継装置5が単一の移動端末4に割り当てられてもよい。
【0018】
この例の無線通信システム1において、基地局装置3は、マルチビーム伝送を行う。この場合に、同時に複数の中継装置5を経由した伝搬経路を形成することができるため、空間多重もしくは空間ダイバーシチの効果が得られるようになる。あるいは、無線通信システム1において、基地局装置3は、シングルビーム伝送を行ってもよい。このとき、複数の中継装置5が割り当てられた移動端末4に対して、基地局装置3は、当該移動端末4に割り当てられた複数の中継装置5を介した複数の経路の候補から、1つの経路をビームにより選択する。また、基地局装置3は、中継装置5を経由せずに移動端末4と直接通信を行ってもよい。基地局装置3は、マルチビーム伝送によりマルチユーザ伝送を行ってもよい。
【0019】
この例において、移動端末4は、例えば基地局装置3から送信される参照信号などに基づいてCSI(Channel State Information)を推定する機能を搭載する。ここで、基地局から移動端末4まで無線信号が伝播した無線チャネルのCSIは、当該無線チャネルについての例えば位相回転量および減衰量などの情報を表す。基地局装置3は、移動端末4が推定したCSIを取得する機能を搭載する。移動端末4によるCSIの推定、およびCSIの推定に基づく無線信号のビームの制御は、例えば次のように行われる。
【0020】
基地局装置3は、無線信号の出力方向を走査するように順次変化させてビームを生成し、ビームごとに参照信号を送信する。中継装置5は、基地局装置3が送信するビームごとに、反射方向を走査するように反射特性を制御する。移動端末4は、基地局装置3からの出力方向および中継装置5における反射方向の組み合わせによるビームごとに受信電力を観測し、CSIを推定する。移動端末4は、観測した受信電力などに基づいて、通信に使用するビームを選択する。移動端末4は、選択したビームの情報、および推定したCSIなどを、基地局装置3および中継装置5などにフィードバックする。無線通信システム1は、移動端末4からフィードバックされた情報に基づいて、選択されたチャネルを通じた移動端末4との無線通信を行う。この例において、移動端末4は、基地局装置3との間で直接通信する無線チャネルのCSI、および基地局装置3との間で中継装置5を介して通信する無線チャネルのCSIをそれぞれ推定する。
【0021】
このように無線信号のビームの制御が行われる場合に、移動端末4は、中継装置5の数および各々の中継装置5が走査する反射方向の数の積の無線チャネルのうちから、通信に使用するビームを選択する。このため、このようなCSIに基づく無線信号のビームの制御が頻繁に行われると、制御オーバヘッドが大きくなることで無線通信システム1の通信効率が低下する。
【0022】
また、基地局装置3は、各々の移動端末4の移動情報を取得する機能を搭載する。移動端末4の移動情報は、当該移動端末4の移動を表す情報である。移動端末4の移動情報は、例えば、当該移動端末4の移動方向、移動速度、および位置などを含む。
【0023】
また、基地局装置3は、各々の中継装置5の情報を取得する機能を搭載する。中継装置5の情報は、例えば、当該中継装置5の位置の情報、および当該中継装置5の反射制御の状態の情報などを含む。
【0024】
図2は、実施の形態1に係る無線通信システム1の機能ブロック図である。
【0025】
基地局装置3は、第1通信部6と、第1取得部7と、第2取得部8と、第3取得部9と、推定部10と、割当部11と、を備える。
【0026】
第1通信部6は、移動端末4および中継装置5との通信を行う機能を搭載する部分である。第1通信部6は、例えば、アレイアンテナなどを含む。第1通信部6は、例えば、無線信号の送受信を行う機能を搭載する。
【0027】
第1取得部7は、CSIを取得する機能を搭載する部分である。第1取得部7は、例えば、移動端末4などが推定したCSIを、第1通信部6を通じて当該移動端末4から取得する。
【0028】
第2取得部8は、各々の中継装置5の情報を取得する部分である。第2取得部8は、例えば、基地局装置3などにおいて予め記憶された情報を読み込むことで、各々の中継装置5の位置を取得する。あるいは、第2取得部8は、自己位置推定の機能を搭載する中継装置5から、第1通信部6などを通じて当該中継装置5の位置を取得してもよい。中継装置5に搭載される自己位置推定の機能は、例えば衛星測位システムなどによって実装されるものであってもよいし、無線通信システム1の無線信号を用いた測位技術などによって実装されるものであってもよい。
【0029】
第3取得部9は、各々の移動端末4の移動情報を取得する部分である。第3取得部9は、自己位置推定の機能を搭載する移動端末4から、第1通信部6などを通じて当該移動端末4の位置を取得する。このとき、移動端末4に搭載される自己位置推定の機能は、例えば衛星測位システムなどによって実装されるものであってもよいし、無線通信システム1の無線信号を用いた測位技術などによって実装されるものであってもよい。また、第3取得部9は、自己の運動状態の推定の機能を搭載する移動端末4から、第1通信部6などを通じて当該移動端末4の運動状態の情報を取得する。移動端末4の運動状態の情報は、例えば、当該移動端末4の移動方向および移動速度を含む。このとき、移動端末4に搭載される自己の運動状態の推定の機能は、例えば当該移動端末4に搭載されるセンサなどによって実装されるものであってもよい。
【0030】
推定部10は、現在時刻より後の時刻における移動端末4の移動先を推定する確率分布を算出する機能を搭載する部分である。推定部10は、第3取得部9が取得した各々の移動端末4の移動情報などに基づいて確率分布を算出する。
【0031】
割当部11は、複数の中継装置5の一部または全部をいずれかの移動端末4に割り当てる機能を搭載する部分である。割当部11は、中継装置5および移動端末4の対応を表す割当パターンを複数生成する。ここで、生成される割当パターンのいずれかにおいて、いずれの移動端末4にも割り当てられない空きの中継装置5があってもよい。割当部11は、生成した割当パターンについて、推定部10が算出した確率分布に基づいて通信性能を算出する。通信性能は、基地局装置3および移動端末4の間で利用できる無線チャネルがある確率を表す見通し確率、およびスループットの少なくともいずれかを含む。割当部11は、生成した割当パターンのうちから算出した通信性能に基づいて割当パターンを選択することで、中継装置5の割当を行う。
【0032】
各々の中継装置5は、第2通信部12と、反射体13と、追跡部14と、反射制御部15と、を備える。
【0033】
第2通信部12は、基地局装置3および中継装置5との通信を行う機能を搭載する部分である。第2通信部12は、例えば、アンテナなどを含む。第2通信部12は、例えば、無線信号の送受信を行う機能を搭載する。
【0034】
反射体13は、無線信号を反射する部分である。反射体13は、例えばIRSなどのデバイスを含む。
【0035】
追跡部14は、移動端末4の移動経路を追跡する機能を搭載する部分である。追跡部14は、移動端末4について取得された移動情報に基づいて、当該移動端末4の移動経路を追跡する。追跡部14は、例えば、自己の移動情報を取得する機能を搭載する移動端末4から、第2通信部12などを通じて当該移動端末4の位置を取得する。あるいは、追跡部14は、例えば、基地局装置3の第2取得部8が移動端末4から取得した移動情報を、第2通信部12などを通じて基地局装置3から取得してもよい。
【0036】
反射制御部15は、反射体13の反射特性を制御する機能を搭載する部分である。反射制御部15は、基地局装置3から送信される無線信号が、中継装置5が割り当てられた移動体の方向に反射するように反射体13の反射特性を動的に制御する。このとき、反射制御部15は、反射体13による無線信号の反射が移動体の移動に追従するように反射特性の制御を行う。この例において、反射制御部15は、追跡部14が追跡する移動体の移動経路に反射体13による無線信号の反射が追従するように反射特性の制御を行う。
【0037】
図3は、実施の形態1に係る無線通信システム1における無線信号のビームの制御の例を示す図である。
【0038】
基地局装置3の割当部11は、設定された割当周期で中継装置5の割当を繰り返し行う。割当周期の長さは、中継装置5の割当の更新間隔に相当する。この例において、割当部11が割当を行うときに、第1取得部7は、移動端末4が推定するCSIを取得する。割当部11は、第1取得部7が取得するCSIを用いて中継装置5の割当を行う。この例において、CSIの推定の処理は、設定された割当周期で行われる。割当部11は、例えば、第1通信部6を通じて各々の中継装置5および各々の移動端末4などに割当の結果を通知する。
【0039】
割当部11によって移動端末4に割り当てられた中継装置5の反射制御部15は、無線信号の反射方向が当該移動端末4の位置に追従するように反射体13の反射特性を制御する。その後、無線通信システム1において、基地局装置3および移動端末4の間で、中継装置5による中継などを通じて無線信号によるデータ通信が行われる。
【0040】
割当部11によって移動端末4に割り当てられた中継装置5の追跡部14は、当該移動端末4の移動経路を追跡する。追跡部14は、割当部11による複数の中継装置5の割当が更新されるまで、当該移動端末4の移動経路の追跡を継続する。追跡部14は、例えば、設定された頻度で当該移動端末4の移動情報を取得する。追跡部14は、取得した移動情報に基づいて、当該移動端末4の移動経路を更新する。反射制御部15は、更新された移動経路に基づいて、無線信号の反射方向が当該移動端末4の位置に追従するように反射体13の反射特性を動的に制御する。その後、無線通信システム1において、基地局装置3および移動端末4の間で、中継装置5による中継などを通じて無線信号によるデータ通信が行われる。
【0041】
このように、無線通信システム1において、移動端末4に割り当てられた中継装置5は移動端末4の移動を追従するように反射体13の反射特性を動的に制御する。これにより、移動端末4が通信範囲外になる可能性を抑えながら、大きなオーバヘッドを伴うCSIの推定などの処理の周期を長くすることができるようになる。CSIの推定などのオーバヘッドが削減されるので、無線通信システム1の通信効率の低下が抑えられるようになる。
【0042】
一方、中継装置5が特定の移動端末4の移動を追従している間、当該中継装置5は他の移動端末4への無線信号を中継しないので、他の移動端末4は当該中継装置5を認識できない。このため、他の移動端末4は、当該中継装置5を経由する無線チャネルのCSIを推定できない。したがって、割当部11による割当が行われてから次の割当が行われるまでの割当周期の間、中継装置5は、追従の対象とする移動端末4を切り替えることができない。このため、割当部11は、割当周期の間に移動端末4が移動してもいずれかの無線チャネルを当該移動端末4が利用できるように、各々の移動端末4の移動先を推定する確率分布を用いて割当を行う。
【0043】
なお、中継装置5が特定の移動端末4の移動を追従している間に、当該中継装置5を経由する無線チャネルが遮蔽物2によって遮蔽されるときに、移動端末4は、空きの状態にある中継装置5を使用して基地局装置3との無線通信を継続してもよい。すなわち、空きの状態にある中継装置5は、バックアップとして機能する。
【0044】
図4は、実施の形態1に係る無線通信システム1における割当の例を示す図である。
【0045】
この例において、中継装置5bおよび中継装置5cが、移動端末4aに割り当てられている。また、中継装置5dが、移動端末4cに割り当てられている。中継装置5aおよび中継装置5eは、いずれの移動端末4にも割り当てられていない空きの状態である。
【0046】
このとき、移動端末4aは、中継装置5bを経由する無線チャネル、および中継装置5cを経由する無線チャネルを通じて基地局装置3との間の無線通信を行う。移動端末4cは、中継装置5を経由しない直接通信による無線チャネル、および中継装置5dを経由する無線チャネルを通じて基地局装置3との間の無線通信を行う。
【0047】
一方、移動端末4bが図4の位置に移動すると、中継装置5を経由しない直接通信による無線チャネルが遮蔽物2bによって遮蔽され、中継装置5eを経由する無線チャネルが遮蔽物2cによって遮蔽される。このとき、移動端末4bおよび基地局装置3の間の無線通信は、使用できる無線チャネルがなくなるため切断してしまう。このとき、仮に中継装置5cが移動端末4bに割り当てられているか、または中継装置5cが空き状態にあるかすれば、中継装置5cを経由する無線チャネルは遮蔽物2に遮蔽されないため、通信切断は回避される。割当部11は、このような通信切断が生じうる状況を回避するように、移動端末4の移動先を推定する確率分布を用いて割当を行う。
【0048】
図5は、実施の形態1に係る無線通信システム1において移動端末4の移動を予測するモデルを説明する図である。
【0049】
この例の無線通信システム1において、K個の移動端末4およびN個の中継装置5が割当の対象として認識されている。ここで、K個の移動端末4およびN個の中継装置5のそれぞれに順に付した番号を用いて説明する。
【0050】
推定部10は、移動端末4の移動をモデル化することで、移動端末4の移動先を推定する確率分布を算出する。推定部10は、時刻t=0から時刻t=Tまでの移動先を推定する。ここで、時刻t=0は、割当部11による割当が行われた直後の時刻である。また、時刻t=Tは、割当部11による次の割当が行われる直前の時刻である。この例において、割当周期から割当部11による割当処理のオーバヘッドに対応する時間を差し引くと、時刻t=0から時刻t=Tまでの時間に相当する。推定部10は、時刻t=0から時刻t=Tまでの時間を複数に分割した時刻の各々における移動端末4の位置の確率分布を算出する。ここで、m番目の時刻点tは、t=mΔtであり、M番目の時刻点tは、t=MΔt=Tである。また、m番目の時刻点におけるk番目の移動端末4の位置は、位置ベクトルrk,m=[xk,m,yk,mによって表される。この例において、位置ベクトルの原点は、基地局装置3の位置またはいずれかの中継装置5の位置に取られる。また、m番目の時刻点におけるk番目の移動端末4の速度は、速度ベクトルvk,mによって表される。
【0051】
この例において、推定部10は、各々の移動端末4の移動をOrnstein-Uhlenbeck過程によってモデル化する。推定部10は、時刻tにおけるk番目の移動端末4の速度vk,mを、直前の時刻tm-1における速度vk,m-1を引き継いだドリフト成分にランダム成分を加えたものとして、次の式(1)のように表す。
【0052】
【数1】
【0053】
ここで、係数αは、ドリフト成分として直前の時刻から引き継がれる速度成分の割合を表すパラメータである。また、パラメータσは、ランダム成分の大きさを表す。また、ベクトルwk,m-1は、平均が0で単位行列を共分散行列とする等方な2次元ガウス分布に従う。
【0054】
このようなモデルにより、推定部10は、確率分布として、時刻tmにおけるk番目の移動端末4の位置ベクトルの確率密度関数fk,m(r)を、次の式(2)のように算出する。
【0055】
【数2】
【0056】
ここで、k番目の移動端末4の位置ベクトルの確率密度関数fk,m(r)は、x方向およびy方向の移動が互いに独立であるとして、各々の方向についての確率密度関数φk,m(z)の積によって表される。ここで、変数zは、移動端末4のx座標またはy座標のいずれかを表す。また、rk,0(z)およびvk,0(z)は、時刻tにおけるk番目の移動端末4の位置および速度のx成分またはy成分を表す。このように、推定部10は、時刻t=0から時刻t=Tまでの間の各時刻点における各々の移動端末4の移動先の確率分布を算出する。
【0057】
割当部11は、推定部10が算出した確率分布を用いて、例えば次のように見通し確率を算出する。割当部11は、時刻tにおいてn番目の中継装置5およびk番目の移動端末4の間で無線信号が遮蔽物2に遮蔽されない確率の期待値E[Pn,k,LoS(t)]を、次の式(3)のように算出する。
【0058】
【数3】
【0059】
ここで、位置ベクトルrは、n番目の中継装置5の位置を原点とする位置ベクトルである。すなわち、確率fk,m(r)dxdyは、時刻tにおいてk番目の移動端末4がn番目の位置を原点とした位置rの周りの面積要素dxdyの内にいる確率を表す。また、パラメータψは、遮蔽物2の密度に対応する。パラメータψは、例えば遮蔽物2の分布を2次元のポアソン点過程によってモデル化したときの平均密度などである。パラメータψは、面積の逆数の次元を持つ。また、期待値E[l]は、遮蔽物2の長さの期待値である。期待値E[l]は、例えばパラメータとして予め与えられる。また、割当部11は、時刻tにおいて基地局装置3およびk番目の移動端末4の間で無線信号が遮蔽物2に遮蔽されない確率の期待値E[PB,k,LoS(t)]を、式(3)と同様に算出する。
【0060】
割当部11は、生成した割当パターンについて、無線通信システム1の通信性能として見通し確率を算出する。割当部11は、k番目の移動端末4について、見通し外確率PB,kを次の式(4)のように算出する。
【0061】
【数4】
【0062】
ここで、集合N(t)は、時刻tにおいていずれの移動端末4にも割り当てられていない空き状態にある中継装置5の集合を表す。式(4)において、積(*1)は、時刻tにおいてn番目の中継装置5およびk番目の移動端末4の間で無線信号が遮蔽物2に遮蔽される確率を、空き状態にある中継装置5について乗算したものである。すなわち、積(*1)は、時刻tにおいて、空き状態にありk番目の移動端末4が使用できる中継装置5が無くなる確率を表す。また、積(*2)は、積(*1)についての余事象の確率を、時刻t=0から時刻t=Tまでの時間について乗算したものである。すなわち、積(*2)は、時刻t=0から時刻t=Tまでの時間において、空き状態にありk番目の移動端末4が使用できる中継装置5が少なくとも1つある確率を表す。また、積(*3)は、時刻tにおいて基地局装置3およびk番目の移動端末4の間で無線信号が遮蔽物2に遮蔽されない確率を、時刻t=0から時刻t=Tまでの時間について乗算したものである。すなわち、積(*3)は、時刻t=0から時刻t=Tまでの時間において、中継装置5を経由しない直接通信による無線チャネルを通じて、k番目の移動端末4が基地局装置3と通信できる確率を表す。したがって、見通し外確率PB,kは、時刻t=0から時刻t=Tまでの少なくともいずれかの時刻において、k番目の移動端末4が使用できる全ての無線チャネルが遮蔽物2によって遮蔽される確率に相当する。割当部11は、見通し外確率PB,kについての余事象の確率(1-PB,k)を、k番目の移動端末4についての見通し確率とする。この例において、割当部11は、K個の移動端末4にわたる見通し確率の平均値を、無線通信システム1の通信性能として算出する。一般に、割当パターンにおいて空き状態にある中継装置5が多くなるほど、バックアップとして使用できる中継装置5が多くなるので、通信性能としての見通し確率は高くなる傾向にある。
【0063】
また、割当部11は、生成した割当パターンについて、無線通信システム1の通信性能としてスループットを算出する。割当部11は、k番目の移動端末4について、スループットの期待値E[γ]を次の式(5)のように算出する。
【0064】
【数5】
【0065】
ここで、集合N(t)は、時刻tにおいてk番目の移動端末4に割り当てられている中継装置5の集合を表す。受信電力SB,kは、中継装置5を経由しない直接通信による無線チャネルについての、k番目の移動端末4における受信電力を表す。受信電力Sn,kは、n番目の中継装置5を経由する無線チャネルについての、k番目の移動端末4における受信電力を表す。受信電力の情報は、例えば、移動端末4から第1取得部7がCSIを取得するときに、例えば第1通信部6を通じて各々の移動端末4から取得される。すなわち、分子の第1項(*4)は、中継装置5を経由しない直接通信による無線チャネルを通じた信号の強度を表す。また、分子の第2項(*5)は、中継装置5を経由する無線チャネルを通じた信号の強度を表す。また、T、E[I]、およびσth は、それぞれスロット長、干渉電力の期待値、および熱雑音を表す。この例において、割当部11は、K個の移動端末4にわたるスループットの平均値を、無線通信システム1の通信性能として算出する。一般に、割当パターンにおいて空き状態にある中継装置5が少ないほど、各々の移動端末4が使用できる中継装置5の数は平均的に多くなるので、マルチビーム伝送などによって大容量の通信が可能になる。すなわち、通信性能としてのスループットは高くなる傾向にある。
【0066】
このように、通信性能としての見通し確率およびスループットは、中継装置5の割当に関してトレードオフの関係にある。このため、割当部11は、次の式(6)のように多目的最適化によって、生成した複数の割当パターンVのうちから採用する割当パターンを選択する。
【0067】
【数6】
【0068】
ここで、F(V)は、見通し確率に対応する目的関数である。また、F(V)は、スループットに対応する目的関数である。割当部11は、これらの目的関数について弱パレート最適な割当パターンのうちから、採用する割当パターンを選択する。割当部11は、例えば最も早く探索された弱パレート最適な割当パターンを選択してもよいし、探索された弱パレート最適な複数の割当パターンについて追加の条件を課すことでいずれか1つの割当パターンを選択してもよい。
【0069】
続いて、図6を用いて、無線通信システム1の動作の例を説明する。
図6は、実施の形態1に係る無線通信システム1の動作の例を示すフローチャートである。
【0070】
ステップS01において、第1取得部7は、無線通信システム1において考慮される全ての無線チャネルについてCSIを取得する。ここで、CSIは、例えば基地局装置3から送信される参照信号に基づいて、各々の移動端末4において推定される。その後、無線通信システム1の処理は、ステップS02に進む。
【0071】
ステップS02において、第2取得部8は、無線通信システム1において考慮される全ての中継装置5について、位置などの情報を取得する。その後、無線通信システム1の処理は、ステップS03に進む。
【0072】
ステップS03において、第3取得部9は、無線通信システム1において考慮される全ての移動端末4について、移動情報を取得する。その後、無線通信システム1の処理は、ステップS04に進む。
【0073】
ステップS04において、推定部10は、各々の移動端末4について、移動先を推定する確率分布を、例えば式(2)などに基づいて算出する。その後、無線通信システム1の処理は、ステップS05に進む。
【0074】
ステップS05において、割当部11は、中継装置5および移動端末4の対応を表す割当パターンを複数生成する。ここで、割当部11は、中継装置5および移動端末4の可能な対応を含む割当パターンを全て生成してもよいし、例えば移動端末4における受信電力が予め設定された閾値より小さい無線チャネルを使用しないように絞り込んで割当パターンを生成してもよい。その後、無線通信システム1の処理は、ステップS06に進む。
【0075】
ステップS06において、割当部11は、生成した割当パターンのいずれかについて、無線通信システム1の通信性能を例えば式(3)から式(5)などに基づいて算出する。その後、無線通信システム1の処理は、ステップS07に進む。
【0076】
ステップS07において、割当部11は、生成した割当パターンの全てについて、通信性能を算出したかを判定する。判定結果がNoの場合に、無線通信システム1の処理は、ステップS06に進む。判定結果がYesの場合に、無線通信システム1の処理は、ステップS08に進む。
【0077】
ステップS08において、割当部11は、例えば式(6)のような多目的最適化によって、生成した割当パターンのいずれかを、採用する割当パターンとして選択する。その後、無線通信システム1の処理は、ステップS09に進む。
【0078】
ステップS09において、中継装置5は、割当部11が選択した割当パターンに従って、割り当てられた移動端末4および基地局装置3の間において無線信号を中継する。このとき、中継装置5の反射制御部15は、当該移動端末4の移動に追従するように反射体13の反射特性を制御する。その後、無線通信システム1の処理は、ステップS10に進む。
【0079】
ステップS10において、割当部11は、直前の割当を行ってから割当周期が経過したかを判定する。判定結果がNoの場合に、無線通信システム1の処理は、ステップS09に進む。判定結果がNoの場合に、無線通信システム1の処理は、ステップS01に進む。
【0080】
以上に説明したように、実施の形態1に係る無線通信方法は、取得ステップと、割当ステップと、反射制御ステップと、を備える。取得ステップは、各々の移動端末4の移動情報を取得するステップである。割当ステップは、少なくともいずれかの中継装置5を、いずれかの移動端末4に割り当てるステップである。各々の中継装置5は、基地局装置3および各々の移動端末4の間の無線通信を担う無線信号を反射によって中継可能な装置である。反射制御ステップは、割当ステップでいずれかの移動端末4に割り当てられた中継装置5が、取得ステップで取得された当該移動端末4の移動情報に基づいて、無線信号の反射を当該移動端末4の移動に追従するように制御するステップである。
また、実施の形態1に係る無線通信システム1は、基地局装置3と、複数の中継装置5と、を備える。基地局装置3は、少なくともいずれかの中継装置5を、いずれかの移動端末4に割り当てる。いずれかの移動端末4に割り当てられた中継装置5は、無線信号の反射を当該移動端末4の移動に追従するように制御する。
また、実施の形態1に係る基地局装置3は、通信部と、割当部11と、を備える。通信部は、各々の移動端末4との間の無線通信を担う無線信号を送受信する。割当部11は、少なくともいずれかの中継装置5を、いずれかの移動端末4に割り当てる。
また、実施の形態1に係る中継装置5は、反射体13と、反射制御部15と、を備える。反射体13は、基地局装置3によって割り当てられた移動端末4および基地局装置3の間の無線通信を担う無線信号を反射によって中継する。反射制御部15は、割り当てられた移動端末4から取得された当該移動端末4の移動情報に基づいて、当該移動端末4の移動に追従するように、基地局装置3および当該移動端末4の間において無線信号の反射体13による反射を制御する。
【0081】
このような構成により、いずれかの移動端末4に割り当てられた中継装置5は、当該移動端末4の移動を追従するように反射特性を動的に制御する。中継装置5がいずれかの移動端末4に固定的に割り当てられるので、CSIの推定に必要な情報を通信される情報フレームから削減することが可能になる。これにより、移動端末4が通信範囲外になる可能性を抑えながらCSIの推定などのオーバヘッドが削減されるので、無線通信システム1の通信効率の低下が抑えられるようになる。
【0082】
また、実施の形態1に係る無線通信方法は、追跡ステップを備える。追跡ステップは、取得ステップで取得された移動情報に基づいて、各々の移動端末4の移動経路を追跡するステップである。反射制御ステップは、追跡ステップで追跡される移動経路に追従するように無線信号の反射を制御することを含む。
【0083】
このような構成により、取得される移動情報に基づいて、中継装置5が中継する無線信号がより確実に移動端末4に追従するように反射特性が制御されるようになる。これにより、移動端末4が通信範囲外になる可能性がより抑えられる。
【0084】
また、割当ステップは、取得ステップで取得された移動情報に基づいて、各々の移動端末4の移動先を推定する確率分布を算出することを含む。割当ステップは、算出した確率分布に基づいて、複数の中継装置5の割当パターンごとに見通し確率およびスループットの少なくともいずれかを含む通信性能を算出することを含む。割当ステップは、算出した通信性能に基づいて、いずれかの割当パターンを選択することを含む。
【0085】
このような構成により、移動端末4の移動を考慮して、割当が行われる時点より先の状況を考慮した割当が行われるようになる。これにより、移動端末4の移動によって無線通信システム1の通信性能が低下する可能性が抑えられる。また、移動端末4の移動などの変化を考慮することで割当における解空間が広がり、見通し確率およびスループットのトレードオフ関係におけるパレートフロンティアが改善される。なお、割当ステップは、見通し確率およびスループットのいずれか一方を通信性能として評価し、評価した当該通信性能に基づいて割当てパターンの選択を行ってもよい。また、通信性能の評価において、式(3)から式(5)の他の評価式が用いられてもよい。例えば、式(3)から式(5)の近似式、または他の評価方法による式が用いられてもよい。
【0086】
なお、実施の形態1に係る無線通信方法は、予測ステップを備えてもよい。予測ステップは、例えば、追跡ステップに代えて、または追跡ステップと並行して実行される。予測ステップは、例えば、基地局装置3によって実行される。このとき、基地局装置3は、予測ステップを実行する図示されない予測部を備えてもよい。予測ステップは、取得ステップで取得された移動情報に基づいて、各々の移動端末4の移動経路を予測するステップである。このとき、反射制御ステップは、予測ステップで予測される移動経路に追従するように無線信号の反射を制御することを含む。
【0087】
基地局装置3は、例えば、移動端末4の位置および速度に基づいて、移動端末4が同じ速度を維持すると仮定して移動端末4の移動経路を予測してもよい。あるいは、基地局装置3は、例えば、移動端末4の移動をOrnstein-Uhlenbeck過程によってモデル化することで移動経路を予測してもよい。このとき、基地局装置3は、例えば式(2)のような確率分布に従ってサンプリングすることで、移動端末4の移動経路を予測してもよい。
【0088】
このように、予測される移動経路に従って中継装置5の反射特性を動的に制御することで、移動端末4の移動情報を取得する頻度を抑えることができる。これにより、移動情報の取得に必要な情報を通信される情報フレームから削減することが可能になるので、無線通信システム1におけるオーバヘッドがより削減される。
【0089】
また、割当ステップは、取得ステップで取得された移動情報に基づいて、複数の中継装置5の割当の更新間隔を動的に設定することを含んでもよい。例えば、基地局装置3の割当部11は、割当を行うときに、各々の移動端末4の移動情報に基づいて、次の割当までの期間として割当周期の長さを設定してもよい。割当部11は、例えば、移動端末4の移動速度がより速いほど、割当周期の長さをより短くなるように設定する。あるいは、割当部11は、例えば、移動端末4の移動速度が予め設定された閾値より速いときに、割当周期の長さを通常の長さより短くなるように設定してもよい。また、あるいは、割当部11は、例えば、移動端末4の移動速度が予め設定された閾値より遅いときに、割当周期の長さを通常の長さより長くなるように設定してもよい。ここで、移動端末4の移動速度は、複数の移動端末4の平均速度または最大速度などであってもよいし、複数の移動端末4のうちのいずれかの速度であってもよい。
【0090】
このような構成により、移動端末4の移動の状況に応じて割当の更新間隔が動的に設定されるので、移動端末4が通信範囲外になる可能性の抑制および通信効率の低下の抑制がバランスをとりながら両立されるようになる。
【0091】
また、基地局装置3の一部の機能は、各々の中継装置5に搭載されていてもよい。あるいは、各々の中継装置5の一部の機能は、基地局装置3に搭載されていてもよい。例えば、追跡部14は、基地局装置3に搭載されていてもよい。このとき、移動端末4を追従するための移動端末4の位置または方向などの情報は、基地局装置3から各々の中継装置5に通知される。各々の中継装置5の反射制御部15は、基地局装置3からの通知に従って、反射体13の反射特性を制御する。
【0092】
また、無線通信システム1において、高周波数帯の信号の他の無線信号が併用されていてもよい。無線通信システム1において、通信されるデータの種類、または容量などに応じて、使用される信号の種類が使い分けられてもよい。また、無線通信システム1は、移動しない基地局装置3および中継装置5などの間の通信に、有線による通信を併用してもよい。
【0093】
続いて、基地局装置3および各々の中継装置5などを含む無線通信システム1の装置のハードウェア構成の例を説明する。無線通信システム1の装置は、ハードウェアとして、例えばプロセッサおよびメモリを備えた処理回路を有する。プロセッサは、例えばCPU、演算装置、マイクロプロセッサ、またはマイクロコンピュータなどである。メモリは、例えばRAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROMおよびEEPROMなどの不揮発性または揮発性の半導体メモリ、または、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、もしくはDVDなどの記憶媒体が該当する。メモリは、例えばソフトウェアまたはファームウェアとしてのプログラムなどを記憶する。そして、無線通信システム1の装置は、メモリに記憶されたプログラムなどをプロセッサが実行することによって予め設定された処理を実施し、ハードウェアとソフトウェアとが協働した結果として各機能を実現する。無線通信システム1の装置の各機能は、それぞれ処理回路で実現されてもよい。あるいは、無線通信システム1の装置の各機能の一部または全部は、まとめて処理回路で実現されてもよい。また、処理回路は、例えば単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、もしくはFPGA、またはこれらの組み合わせで実現されてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 無線通信システム、 2、2a、2b、2c 遮蔽物、 3 基地局装置、 4、4a、4b、4c 移動端末、 5、5a、5b、5c、5d、5e 中継装置、 6 第1通信部、 7 第1取得部、 8 第2取得部、 9 第3取得部、 10 推定部、 11 割当部、 12 第2通信部、 13 反射体、 14 追跡部、 15 反射制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6