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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】焼き菓子用油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20250124BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20250124BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20250124BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20250124BHJP
   A21D 13/00 20170101ALI20250124BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A23D7/00 506
A21D2/14
A21D2/16
A21D13/00
A23G3/34 102
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020112819
(22)【出願日】2020-06-30
(65)【公開番号】P2021094012
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2019225477
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】櫻澤 千誠
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 美穂
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/107021(WO,A1)
【文献】特開2009-207444(JP,A)
【文献】国際公開第2019/182152(WO,A1)
【文献】特開2015-154767(JP,A)
【文献】特開2019-017258(JP,A)
【文献】柳原 昌一,食用固型油脂,1981年,p.22
【文献】マテリアルライフ,2000年,Vol.12, No.1,pp.8-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
A23D 7/00
A21D 2/14
A21D 2/16
A21D 13/00
A23G 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レオメーター(プランジャー:直径30mm、高さ8mm)で測定速度1mm/秒の条
件にて測定した時の20℃での硬さが15N以上であり下記条件を満たす焼き菓子用油脂組成物であって、当該焼き菓子用油脂組成物の油脂中に、パーム系油脂が15~60質量%、ラウリン系油脂とパーム系油脂とのランダムエステル交換油脂が10~60質量%、液状油が10~50質量%配合される焼き菓子用油脂組成物。(ただし、下記可塑性油脂組成物A及び下記油脂1を除く)
焼き菓子用油脂組成物:含まれる油脂中に、X3を20~50質量%、C32~38のX3を10質量%以下、C40~46のX3を3~30質量%、C48~54のX3を3~25質量%、C40~54のX3を15~45質量%、X2Uを5~35質量%、XU2を5~30質量%、U3を10~40質量%含有し、かつ含まれる油脂中のX3含有量に対するC40~54のX3含有量の比が0.7以上、X3含有量に対するC40~46のX3含有量の比が0.3~0.65である焼き菓子用油脂組成物。
上記の条件において、X、U、X3、X2U、XU2、U3、C32~38のX3、C40~46のX3、C48~54のX3、C40~54のX3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数8~18の飽和脂肪酸
U:炭素数18の不飽和脂肪酸
X3:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2U:Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
C32~38のX3:構成する脂肪酸残基の総炭素数が32~38のX3
C40~46のX3:構成する脂肪酸残基の総炭素数が40~46のX3
C48~54のX3:構成する脂肪酸残基の総炭素数が48~54のX3
C40~54のX3:構成する脂肪酸残基の総炭素数が40~54のX3
可塑性油脂組成物A:パーム核オレイン10kgとパームステアリン10kgとを混合してランダムエステル交換反応を行い、エステル交換反応終了後、ヨウ素価が2以下になるまで水素添加を行った油脂(20.8質量部)、パーム油(37.5質量部)、大豆油(25質量部)、乳化剤(0.4質量部)、香料(0.1質量部)、酸化防止剤(0.00025質量部)、着色料(カロテン)(0.00001質量部)を溶解混合した油相と水(16.0質量部)、食塩(0.2質量部)を混合した水相を混合して予備乳化し、得られた予備乳化物を急冷可塑化して得られた可塑性油脂組成物。
油脂1:パーム系油脂、ラウリン系油脂とパーム系油脂とのランダムエステル交換油脂、液状油の混合油であって、固体脂含量が10℃で35.1%、20℃で26.9%、35℃で10.0%である油脂。
【請求項2】
前記焼き菓子用油脂組成物がタルト用油脂組成物である請求項1に記載の焼き菓子用油脂組成物。
【請求項3】
水分を8.5質量%を超え20質量%以下含有する請求項1又は請求項2に記載の焼き菓子用油脂組成物。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の焼き菓子用油脂組成物を使用して得られる焼き菓子用生地。
【請求項5】
前記焼き菓子用生地がタルト用生地である請求項4に記載の焼き菓子用生地。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の焼き菓子用生地を焼成した焼き菓子。
【請求項7】
前記焼き菓子がタルトである請求項6に記載の焼き菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き菓子用油脂組成物に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
クッキー、ビスケット等の焼き菓子は、食した時の食感が楽しまれるものである。そのため、焼き菓子の食感は、消費者が焼き菓子を購入する上での重要なポイントとなる。
【0003】
焼き菓子の中でもタルトは、皿状の形状をしており、食した時に口の中でもろく砕けることを特徴とする焼き菓子である。通常、皿状の形状をしたタルトには、果物等の食材がつめられる。食材がつめられたタルトは、タルト菓子やキッシュと呼ばれる。タルト菓子やキッシュは、近年、非常に人気のある商品の一つである。タルトの製造方法としては、例えば、特許文献1~2等が知られている。
【0004】
焼き菓子の食感は、サクサクした食感が一般的である。しかしながら、近年、消費者の嗜好性の変化により、焼き菓子に求められる食感が多様化している。新たな食感の焼き菓子として、ザクザクした食感を有する焼き菓子が求められている。タルトについても、ザクザクした食感を有するタルトが求められている。
【0005】
以上のような背景から、タルト等の焼き菓子の食感をザクザクさせる手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-165234号公報
【文献】特開2014-187964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ザクザクした食感を有する焼き菓子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、焼き菓子用油脂組成物の20℃での硬さを特定の範囲にすることにより、本課題が解決できることが見いだされた。これにより、本発明が完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明は、レオメーター(プランジャー:直径30mm、高さ8mm)で測定速度1mm/秒の条件にて測定した時の20℃での硬さが15N以上である焼き菓子用油脂組成物であって、当該焼き菓子用油脂組成物の油脂中に、パーム系油脂が15~60質量%、ラウリン系油脂とパーム系油脂とのランダムエステル交換油脂が10~60質量%、液状油が10~50質量%配合される焼き菓子用油脂組成物。(ただし、下記可塑性油脂組成物A及び下記油脂1を除く)
焼き菓子用油脂組成物:含まれる油脂中に、X3を20~50質量%、C32~38のX3を10質量%以下、C40~46のX3を3~30質量%、C48~54のX3を3~25質量%、C40~54のX3を15~45質量%、X2Uを5~35質量%、XU2を5~30質量%、U3を10~40質量%含有し、かつ含まれる油脂中のX3含有量に対するC40~54のX3含有量の比が0.7以上、X3含有量に対するC40~46のX3含有量の比が0.3~0.65である焼き菓子用油脂組成物である。
上記の条件において、X、U、X3、X2U、XU2、U3、C32~38のX3、C40~46のX3、C48~54のX3、C40~54のX3はそれぞれ以下のものを示す。
X:炭素数8~18の飽和脂肪酸
U:炭素数18の不飽和脂肪酸
X3:Xが3分子結合しているトリグリセリド
X2U:Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド
XU2:Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド
U3:Uが3分子結合しているトリグリセリド
C32~38のX3:構成する脂肪酸残基の総炭素数が32~38のX3
C40~46のX3:構成する脂肪酸残基の総炭素数が40~46のX3
C48~54のX3:構成する脂肪酸残基の総炭素数が48~54のX3
C40~54のX3:構成する脂肪酸残基の総炭素数が40~54のX3
可塑性油脂組成物A:パーム核オレイン10kgとパームステアリン10kgとを混合してランダムエステル交換反応を行い、エステル交換反応終了後、ヨウ素価が2以下になるまで水素添加を行った油脂(20.8質量部)、パーム油(37.5質量部)、大豆油(25質量部)、乳化剤(0.4質量部)、香料(0.1質量部)、酸化防止剤(0.00025質量部)、着色料(カロテン)(0.00001質量部)を溶解混合した油相と水(16.0質量部)、食塩(0.2質量部)を混合した水相を混合して予備乳化し、得られた予備乳化物を急冷可塑化して得られた可塑性油脂組成物。
油脂1:パーム系油脂、ラウリン系油脂とパーム系油脂とのランダムエステル交換油脂、液状油の混合油であって、固体脂含量が10℃で35.1%、20℃で26.9%、35℃で10.0%である油脂。
本発明の第2の発明は、前記焼き菓子用油脂組成物がタルト用油脂組成物である第1の発明に記載の焼き菓子用油脂組成物。
本発明の第3の発明は、水分を8.5質量%を超え20質量%以下含有する第1の発明又は第2の発明に記載の焼き菓子用油脂組成物である。
本発明の第4の発明は、第1の発明~第3の発明のいずれか1つの発明に記載の焼き菓子用油脂組成物を使用して得られる焼き菓子用生地である。
本発明の第5の発明は、前記焼き菓子用生地がタルト用生地である第4の発明に記載の焼き菓子用生地である。
本発明の第6の発明は、本発明の第4の発明又は第5の発明に記載の焼き菓子用生地を焼成した焼き菓子である。
本発明の第7の発明は、前記焼き菓子がタルトである第6の発明に記載の焼き菓子である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、ザクザクした食感を有する焼き菓子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、レオメーター(プランジャー:直径30mm、高さ8mm)で測定速度1mm/秒の条件にて測定した時の20℃での硬さが15N以上である。
【0012】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、20℃での硬さが15N(ニュートン)以上であり、好ましくは15~150Nであり、より好ましくは20~140Nであり、更に好ましくは21~130Nであり、最も好ましくは23~120Nである。本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物の20℃での硬さが前記範囲であると、ザクザクした食感を有する焼き菓子が得られる。
【0013】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物の硬さは、レオメーターで測定する。また、本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物の硬さの測定に使用するレオメーターは、直径30mm、高さ8mmのプランジャーを使用する。また、本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物の硬さの測定に使用するレオメーターのプランジャーは、形状が円柱状である。また、本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物の硬さを測定する時のレオメーターの測定速度は1mm/秒である。また、本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物のレオメーターでの硬さの測定には、焼き菓子用油脂組成物を直径40mm、高さ15mmの円柱状のステンレス容器に隙間なく充填し、上面を擦切りした試料を使用する。また、本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物のレオメーターでの硬さは、50%変形時(プランジャーが7.5mm貫入した時)の最大荷重とする。
【0014】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、従来、焼き菓子用油脂組成物の製造に使用される油脂等の原材料を使用して調製することができる。本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂のトリグリセリド含有量や脂肪酸含量を調整すること等で、20℃での硬さを前記範囲とすることができる。
【0015】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、好ましくはマーガリン、ファットスプレッド等の水相を有する乳化物又はショートニング(水相を有さない油脂組成物)であり、より好ましくは水相を有する乳化物である。前記油脂組成物が水相を有する乳化物の場合、好ましくは油中水型乳化物である。
また、本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、好ましくは可塑性油脂組成物である。なお、本発明で可塑性油脂組成物とは、可塑性を有する油脂組成物のことである。
また、本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、好ましくは練り込み用油脂組成物である。なお、本発明で練り込み用油脂組成物とは、焼き菓子用生地に練り込まれる油脂のことである。
【0016】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂がX3を好ましくは20~50質量%含有し、より好ましくは23~48質量%含有し、更に好ましくは25~45質量%含有する。なお、本発明でX3は、Xが3分子結合しているトリグリセリド(XXX)である。また、本発明でXは、炭素数8~18の飽和脂肪酸である。また、トリグリセリドとは、グリセロールに3分子の脂肪酸が結合したトリアシルグリセロールのことである。
また、焼き菓子用油脂組成物に含まれる油脂とは、含まれる油脂の全てを合わせた全油脂分のことである。従って、焼き菓子用油脂組成物に含まれる油脂には、配合される油脂の他に、バター等の油脂を含有する原料に含まれる油脂(乳脂)も含む。例えば、焼き菓子用油脂組成物が油脂a、油脂b、バターを含む場合、焼き菓子用油脂組成物に含まれる油脂とは、油脂aと油脂bとバターに含まれる乳脂の混合油のことである。
【0017】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂中のX3含有量に対するC40~54のX3含有量の比(C40~54のX3/X3)が好ましくは0.7以上であり、より好ましくは0.8以上であり、更に好ましくは0.85~0.95である。なお、本発明でC40~54のX3は、構成する脂肪酸残基の総炭素数が40~54のX3のことである。
【0018】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂中のX3含有量に対するC40~46のX3含有量の比(C40~46のX3/X3)が好ましくは0.3~0.65であり、より好ましくは0.35~0.6であり、更に好ましくは0.4~0.57である。なお、本発明でC40~46のX3は、構成する脂肪酸残基の総炭素数が40~46のX3のことである。
【0019】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂がC32~38のX3を好ましくは10質量%以下含有し、より好ましくは8質量%以下含有し、更に好ましくは1~7質量%含有する。なお、本発明でC32~38のX3は、構成する脂肪酸残基の総炭素数が32~38のX3のことである。
【0020】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂がC40~46のX3を好ましくは3~30質量%含有し、より好ましくは5~28質量%含有し、更に好ましくは7~25質量%含有する。
【0021】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂がC48~54のX3を好ましくは3~25質量%含有し、より好ましくは5~23質量%含有し、更に好ましくは7~20質量%含有する。なお、本発明でC48~54のX3は、構成する脂肪酸残基の総炭素数が48~54のX3のことである。
【0022】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂がC40~54のX3を好ましくは15~45質量%含有し、より好ましくは17~43質量%含有し、更に好ましくは20~40質量%含有する。
【0023】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂がX2Uを好ましくは5~35質量%含有し、より好ましくは7~33質量%含有し、更に好ましくは8~30質量%含有する。なお、本発明でX2Uは、Xが2分子、Uが1分子結合しているトリグリセリド(XUX+XXU+UXX)である。また、本発明でUは、炭素数18の不飽和脂肪酸である。
【0024】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂がXU2を好ましくは5~30質量%含有し、より好ましくは7~28質量%含有し、更に好ましくは10~25質量%含有する。なお、本発明でXU2は、Xが1分子、Uが2分子結合しているトリグリセリド(UXU+UUX+XUU)である。
【0025】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂がU3を好ましくは10~40質量%含有し、より好ましくは12~37質量%含有し、更に好ましくは15~33質量%含有する。なお、本発明において、U3はUが3分子結合しているトリグリセリド(UUU)である。
【0026】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂が構成脂肪酸として炭素数10以下の飽和脂肪酸を好ましくは7質量%以下含有し、より好ましくは5質量%以下含有し、更に好ましくは3質量%以下含有する。以下、炭素数10以下の飽和脂肪酸は、C10以下飽和と記載することがある。
【0027】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂が構成脂肪酸として炭素数12~14の飽和脂肪酸を好ましくは2~25質量%含有し、より好ましくは3~23質量%含有し、更に好ましくは5~20質量%含有する。以下、炭素数12~14の飽和脂肪酸は、C12~14飽和と記載することがある。
【0028】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂が構成脂肪酸として炭素数16~18の飽和脂肪酸を好ましくは30~50質量%含有し、より好ましくは32~48質量%含有し、更に好ましくは35~45質量%含有する。以下、炭素数16~18の飽和脂肪酸は、C16~18飽和と記載することがある。
【0029】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂が構成脂肪酸としてUを好ましくは30~60質量%含有し、より好ましくは33~58質量%含有し、更に好ましくは35~55質量%含有する。
【0030】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂が構成脂肪酸として炭素数20以上の脂肪酸を好ましくは7質量%以下含有し、より好ましくは5質量%以下含有し、更に好ましくは3質量%以下含有する。以下、炭素数20以上の脂肪酸は、C20以上脂肪酸と記載することがある。
【0031】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂が構成脂肪酸としてトランス脂肪酸を好ましくは5質量%以下含有し、より好ましくは3質量%以下含有し、更に好ましくは2質量%以下含有する。
【0032】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、上記条件を満たす限り、どのような食用油脂を使用してもよい。本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物の製造に使用される油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、胡麻油、ココアバター、シア脂、サル脂、パーム油、パーム核油、ヤシ油、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択された1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物の製造に使用される油脂は、上記食用油脂を1種又は2種以上組み合せて使用することができる。
【0033】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物の製造には、好ましくはパーム系油脂、ラウリン系油脂とパーム系油脂とのランダムエステル交換油脂(以下、ラウリン系油脂とパーム系油脂とのランダムエステル交換油脂は、ランダムエステル交換油脂Aとする。)、20℃で液状の油脂(以下、20℃で液状の油脂は、液状油とする。)、乳系油脂を使用し、より好ましくはパーム系油脂、ランダムエステル交換油脂A、液状油を使用する。
【0034】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、含まれる油脂中に、好ましくはパーム系油脂が15~60質量%、ランダムエステル交換油脂Aが10~60質量%、液状油が10~50質量%配合され、より好ましくはパーム系油脂が18~55質量%、ランダムエステル交換油脂Aが15~58質量%、液状油が13~45質量%配合され、さらに好ましくはパーム系油脂が20~50質量%、ランダムエステル交換油脂Aが20~55質量%、液状油が17~37質量%配合される。
【0035】
本発明でパーム系油脂は、パーム油及びパーム分別油等のパーム油の加工油脂のことである。また、本発明でパーム分別油のエステル交換油等のパーム分別油の加工油脂もパーム系油脂である。パーム系油脂の具体例は、パーム油、パームオレイン、パームオレインのエステル交換油脂、パームステアリン、パームスーパーオレイン、パーム中融点部(パームミッドフラクション(PMF))、ソフトパーム、ハードステアリン等である。本実施の形態においては、これらから選ばれる1種又は2種以上を混合して使用することができる。
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物の製造に使用されるパーム系油脂は、好ましくはパーム油、ヨウ素価50~60のパームオレイン、ヨウ素価55~70のパームスーパーオレイン、ヨウ素価50~60のパームオレインのエステル交換油脂である。
【0036】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物の製造に使用されるランダムエステル交換油脂Aは、ヨウ素価が50以下であり、好ましくは40以下であり、より好ましくは30以下である。
本発明でラウリン系油脂とは、油脂を構成する脂肪酸のうちラウリン酸が30質量%以上の油脂のことである。ラウリン系油脂の具体例は、ヤシ油、パーム核油及びこれらの分別油、エステル交換油脂、硬化油等である。本発明の実施の形態においては、これらから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0037】
前記ランダムエステル交換油脂Aの製造に使用されるラウリン系油脂は、好ましくはパーム核油の極度硬化油、パーム核オレインの極度硬化油である。また、前記ランダムエステル交換油脂Aの製造に使用されるパーム系油脂は、好ましくはヨウ素価25~40のパームステアリン、ヨウ素価40~50のパーム中融点部、パームステアリンの極度硬化油である。
【0038】
前記ランダムエステル交換油脂Aは、エステル交換反応を行う原料油脂のラウリン系油脂とパーム系油脂との混合比(ラウリン系油脂:パーム系油脂)が好ましくは質量比35:65~65:35であり、より好ましくは質量比40:60~60:40であり、さらに好ましくは質量比45:55~55:45である。
前記ランダムエステル交換油脂Aを製造する時のエステル交換の方法は、特に制限はなく、従来公知の方法により行うことができる。
前記ランダムエステル交換油脂Aを製造する時には、必要に応じて水素添加を行うこともできる。水素添加の方法は、特に制限はなく、従来公知の方法により行うことができる。
【0039】
液状油の具体例は、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油やこれらの油脂の加工油脂(エステル交換油、分別油、硬化油(水素添加油)等)等である。本実施の形態においては、これらから選ばれる1種又は2種以上を混合して使用することができる。
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物の製造に使用される液状油は、好ましくは大豆油、菜種油である。
【0040】
本発明で乳系油脂は、乳脂及び乳脂分別油等の乳脂の加工油脂のことである。乳系油脂の具体例は、乳脂、乳脂分別オレイン等である。本実施の形態においては、これらから選ばれる1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0041】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、油脂を好ましくは75~99質量%含有し、より好ましくは80~98質量%含有し、更に好ましくは90~97質量%含有する。
【0042】
油脂の各脂肪酸含有量は、AOCS Ce1f-96に準じて、ガスクロマトグラフィー法で測定することができる。
油脂のトリグリセリド含有量は、AOCS Ce5-86やJAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)に準じて、ガスクロマトグラフィー法で測定することができる。
油脂のヨウ素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定することができる。
【0043】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、水分を好ましくは20質量%以下含有し、より好ましくは8.5質量%を超え20質量以下含有し、さらに好ましくは9.5~18質量%含有する。
なお、焼き菓子用油脂組成物の水分とは、焼き菓子用油脂組成物に含まれる水分の全てを合わせた全水分のことである。従って、焼き菓子用油脂組成物の水分には、配合される水の他に、バター等の水分を含有する原料に含まれる水分も含む。例えば、焼き菓子用油脂組成物に、水が10質量%、水分16質量%のバターが10質量%添加される場合、焼き菓子用油脂組成物の水分は11.6質量%になる。
また、焼き菓子用油脂組成物の水分含有量は、常法(乾燥減量法等)で測定することができる。
【0044】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、水、油脂以外に、通常焼き菓子用油脂の製造に使用される原料を配合することができる。具体的には、バター、全脂粉乳、脱脂粉乳及び乳清蛋白等の乳製品、砂糖、乳糖及び液糖等の糖質、ステビア及びアスパルテーム等の甘味料、乳化剤、増粘安定剤、食塩及び塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸及びグルコン酸等の酸味料、β-カロテン、カラメル及び紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物(カテキン等)及びルチンなどの酸化防止剤、小麦蛋白及び大豆蛋白等の植物蛋白、卵、卵加工品、香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類及び魚介類等の食品素材若しくは食品添加物を本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物に配合することができる。
【0045】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、従来公知のマーガリン、ファットスプレッド又はショートニングの製造条件及び製造方法で製造することができる。具体的には、焼き菓子用油脂組成物は、配合する油溶成分を混合溶解することで製造できる。また、焼き菓子用油脂組成物に可塑性を付与する場合は、焼き菓子用油脂組成物は、配合する油溶成分を混合溶解した油相を、必要に応じて、調製した水相と混合乳化した後、冷却し、結晶化させる工程により製造できる。
【0046】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、2種以上の焼き菓子用油脂組成物を別々に調製した後、調製した2種以上の焼き菓子用油脂組成物を混合することで製造することもできる。
【0047】
本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物は、好ましくはタルト用油脂組成物である。
なお、本発明でタルトとは、穀粉、油脂組成物、糖質、卵類等を原料として調製した生地(焼成前生地)を型(タルト型)にしき込んで焼成した皿状の形状をした焼成食品のことである。
【0048】
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地は、本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物を使用して得られる。本発明の実施の形態の焼き菓子用生地は、好ましくは本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物が練り込まれている。
なお、本発明で焼き菓子用生地は、穀粉、油脂組成物、糖質、卵類、食塩等の原料を混ぜることで得られる焼き菓子を製造するための焼成前の生地のことである。また、本発明で穀粉とは、穀物を挽いて粉状にしたもののことである。穀粉の具体例は、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉等である。
【0049】
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地に配合される穀粉は、好ましくは小麦粉である。本発明の実施の形態の焼き菓子用生地に配合される穀粉は、小麦粉を好ましくは50~100質量%含有し、より好ましくは70~100質量%含有し、さらに好ましくは90~100質量%含有する。
【0050】
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地は、焼き菓子用生地に配合される穀粉100質量部に対して、本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物が、好ましくは45~85質量部配合され、より好ましくは50~80質量部配合され、さらに好ましくは55~75質量部配合され、最も好ましくは50~70質量部配合される。
【0051】
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地は、糖質が配合される。
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地は、焼き菓子用生地に配合される穀粉100質量部に対して、糖質が15~55質量部配合され、好ましくは20~50質量部配合され、より好ましくは23~48質量部配合され、さらに好ましくは25~45質量部配合される。なお、本発明で糖質は、炭水化物から食物繊維を除いたもののことである。糖質の具体例は、糖類、糖アルコール(マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトール、還元水飴等)、でんぷん、オリゴ糖、デキストリン等である。また、本発明で糖類は、単糖類、二糖類(ブドウ糖、果糖、ガラクトース、砂糖(上白糖、グラニュー糖、粉糖、ショ糖)、乳糖、麦芽糖等)のことである。
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地に配合される糖質は、好ましくは糖類であり、より好ましくは砂糖である。
【0052】
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地は、卵類が配合される。
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地は、焼き菓子用生地に配合される穀粉100質量部に対して、卵類が5~25質量部配合され、好ましくは7~23質量部配合され、さらにより好ましくは9~21質量部配合され、さらに好ましくは10~20質量部配合される。卵類の具体例は、全卵、卵黄、卵白等である。
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地に配合される卵類は、好ましくは全卵、卵黄、卵白であり、より好ましくは全卵であり、さらに好ましくは液全卵である。
【0053】
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地は、水分を好ましくは13.5質量%以下含有し、より好ましくは3.0~13.5質量%含有し、さらに好ましくは5.0~13.2質量%含有する。
なお、焼き菓子用生地の水分とは、焼き菓子用生地に含まれる水分の全てを合わせた全水分のことである。従って、焼き菓子用生地の水分には、配合される水の他に、マーガリン等の水分を含有する原料に含まれる水分も含む。例えば、焼き菓子用生地に、水が5質量%、水分5質量%のマーガリンが30質量%添加される場合、焼き菓子用生地の水分は6.5質量%になる。
また、焼き菓子用生地の水分は、常法(乾燥減量法等)で測定することができる。
【0054】
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地は、好ましくはタルト用生地、クッキー用生地であり、より好ましくはタルト生地である。タルト用生地は、一般的なタルト用生地として知られているクッキー生地、パイ生地のどちらでも良いが、好ましくはクッキー生地である。
なお、本発明でタルト用生地は、穀粉、油脂組成物、糖質、卵類、食塩等の原料を混ぜることで得られるタルトを製造するための焼成前の生地のことである。また、本発明でクッキー用生地は、穀粉、油脂組成物、糖質、卵類、食塩等の原料を混ぜることで得られるクッキーを製造するための焼成前の生地のことである。
【0055】
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地は、本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物、穀粉、糖質、卵類以外の原料として、通常、焼き菓子用生地に配合される原料を通常量配合することができる。焼き菓子用生地に配合される原料の具体例は、食塩、本発明の実施の形態の焼き菓子用油脂組成物以外の油脂(バター、マーガリン、ショートニング等)、アーモンドパウダー等の粉末ナッツ類、ココア等である。
【0056】
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地の製造方法は、特に制限されるものではなく、公知の焼き菓子用生地の製造条件及び製造方法を適用できる。
【0057】
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地がタルト用生地である場合は、例えば、かき混ぜた油脂に、糖質を加えてすり混ぜた後、卵類、穀粉の順に加えて混ぜることで製造することができる。調製したタルト用生地は、一定量に分割して型(タルト型等)に充填した後、型より一回り小さい押し型を押し当てることで、型にしき込まれる。型にしき込まれたタルト用生地は、必要に応じて、底面にフォーク等で穴を開けることもできる。
【0058】
本発明の実施の形態の焼き菓子は、本発明の実施の形態の焼き菓子用生地を焼成することで得られる。
【0059】
本発明の実施の形態の焼き菓子の具体例は、ビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、カットパン、ウェハース、サブレ、ラングドシャ、マカロン、タルト等である。本発明の実施の形態の焼き菓子は、好ましくはタルト、クッキーであり、より好ましくはタルトである。
【0060】
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地の焼成方法(本発明の実施の形態の焼き菓子の製造方法)は、特に制限されるものではなく、従来公知の焼き菓子用生地の焼成方法と同様の方法により焼成することができる。焼成方法の具体例は、オーブン加熱、直焼き、高周波加熱(電子レンジ加熱)等である。
本発明の実施の形態の焼き菓子用生地の焼成方法は、好ましくはオーブン加熱である。オーブン加熱は、加熱温度が好ましくは160~180℃であり、加熱時間が好ましくは20~40分間である。
【0061】
本発明の実施の形態の焼き菓子がタルトの場合、タルト用生地の焼成は、型にしき込まれたタルト用生地のみを焼成する方法と、型にしき込まれたタルト用生地に食材をつめてタルト用生地と食材を一緒に焼成する方法に分けられるが、タルト用生地の焼成は、どちらの方法で行ってもよい。タルト用生地の焼成が型にしき込まれたタルト用生地のみを焼成する場合、重石をのせて焼成することもできる。タルト用生地の焼成は、好ましくは型にしき込まれたタルト用生地のみを焼成し、より好ましくは重石をのせずに型にしき込まれたタルト用生地のみを焼成する。なお、以下、型にしき込まれたタルト用生地のみを焼成する方法は、空焼きとも言う。また、型にしき込まれたタルト用生地に食材をつめてタルト用生地と食材を一緒に焼成する方法の場合、焼成後にタルト食品が得られる。
【0062】
本発明の実施の形態の焼き菓子は、ザクザクした食感を有する。
【0063】
本発明の実施の形態の複合食品は、本発明の実施の形態の焼き菓子と食材を組み合わせることで得られる。
【0064】
本発明の実施の形態の複合食品は、好ましくはタルト食品である。なお、本発明でタルト食品は、タルトに食材をつめたもののことである。タルト食品の具体例は、タルト菓子、キッシュ等である。
【0065】
本発明の実施の形態の複合食品において、本発明の実施の形態の焼き菓子と食材を組み合わせる方法は、従来公知の方法で焼き菓子と食材を組み合わせることができる。本発明の実施の形態の複合食品は、具体的には、焼き菓子に食材をつめることで製造することができる。また、複合食品がタルト食品である場合は、前記したように、型にしき込まれたタルト用生地に食材をつめてタルト用生地と食材を一緒に焼成することでも製造することができる。
【0066】
本発明の実施の形態の複合食品の製造に使用される食材は、特に制限されることなく、通常タルト食品等の複合菓子の製造に使用される食材を使用することができる。本発明の実施の形態の複合食品の製造に使用される食材の具体例は、果物、ジャム、チーズ、カスタードクリーム、チョコレート、チーズケーキ、生クリーム、ホイップクリーム、バタークリーム、各種アパレイユ、クレーム・ダマンド、クレーム・フランジパーヌ、ガナッシュ、ムース、ナッツ類、野菜、卵、肉、ハム、ベーコン等が挙げられる。
【実施例
【0067】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
油脂の各脂肪酸含有量は、AOCS Ce1f-96に準じて、ガスクロマトグラフィー法で測定した。
油脂のトリグリセリド含有量は、AOCS Ce5-86及びJAOCS,vol70,11,1111-1114(1993)に準じて、ガスクロマトグラフ法で測定した。
油脂のヨウ素価は、「基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編)」の「2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に準じて測定した。
【0068】
〔焼き菓子用油脂組成物の製造に使用した油脂〕
油脂1 原料油脂:パーム系油脂33.0質量%(ヨウ素価60のパームスーパーオレイン33質量%)、ランダムエステル交換油脂A 35.0質量%(ヨウ素価1未満のランダムエステル交換油脂A2 35.0質量%)、液状油32.0質量%(大豆油32.0質量%)の混合油。
油脂2 原料油脂:パーム系油脂41.1質量%(パーム油23.7質量%、ヨウ素価56のパームオレインのランダムエステル交換油脂17.4質量%)、ランダムエステル交換油脂A 36.2質量%(ヨウ素価23のランダムエステル交換油脂A1 19.7質量%、ヨウ素価1未満のランダムエステル交換油脂A2 16.5質量%)、液状油22.7質量%(大豆油22.7質量%)の混合油。
油脂3 原料油脂:パーム系油脂45.0質量%(パーム油45.0質量%)、ランダムエステル交換油脂A 25.0質量%(ヨウ素価1未満のランダムエステル交換油脂A2 25.0質量%)、液状油30.0質量%(大豆油30.0質量%)の混合油。
油脂4 原料油脂:パーム系油脂55.0質量%(パーム油20.0質量%、ヨウ素価45のパーム中融点部26.2質量%、ヨウ素価32のパームステアリン8.8質量%)、ランダムエステル交換油脂A 10.0質量%(ヨウ素価1未満のランダムエステル交換油脂A2 10.0質量%)、液状油20.0質量%(大豆油20.0質量%)、ラウリン系油脂15.0質量%(ヤシ油の極度硬化油15.0質量%)の混合油。
油脂5 原料油脂:パーム系油脂35.0質量%(ヨウ素価56のパームオレインのランダムエステル交換油脂35.0質量%)、ランダムエステル交換油脂A 15.0質量%(ヨウ素価1未満のランダムエステル交換油脂A2 15.0質量%)、液状油50.0質量%(大豆油50.0質量%)の混合油。
油脂6 原料油脂:パーム系油脂60.0質量%(ヨウ素価56のパームオレインのランダムエステル交換油脂15.0質量%、ヨウ素価45のパーム中融点部45質量%)、ランダムエステル交換油脂A 10.0質量%(ヨウ素価1未満のランダムエステル交換油脂A2 10.0質量%)、液状油30.0質量%(大豆油30.0質量%)の混合油。
油脂7 原料油脂:パーム系油脂65.0質量%(ヨウ素価56のパームオレインのランダムエステル交換油脂25.0質量%、ヨウ素価60のパームスーパーオレイン40質量%)、ランダムエステル交換油脂A 10.0質量%(ヨウ素価1未満のランダムエステル交換油脂A2 10.0質量%)、液状油25.0質量%(菜種油25.0質量%)の混合油。
油脂8 原料油脂:パーム系油脂25.0質量%(パーム油10.0質量%、ヨウ素価56のパームオレインのランダムエステル交換油脂15.0質量%)、ランダムエステル交換油脂A 50.0質量%(ヨウ素価23のランダムエステル交換油脂A1 25.0質量%、ヨウ素価1未満のランダムエステル交換油脂A2 25.0質量%)、液状油25.0質量%(大豆油25.0質量%)の混合油。
ヨウ素価23のランダムエステル交換油脂A1:パーム核油の極度硬化油50質量部、ヨウ素価32のパームステアリン15質量部、ヨウ素価45のパーム中融点部35質量部の混合油のランダムエステル交換油脂。
ヨウ素価1未満のランダムエステル交換油脂A2:パーム核オレインの極度硬化油50質量部、パームステアリンの極度硬化油50質量部の混合油のランダムエステル交換油脂。
【0069】
〔実施例1の焼き菓子用油脂組成物の製造〕
油脂1(93.9質量部)、乳化剤(0.57質量部)、香料(0.007質量部)、着色料(0.00135質量部)、酸化防止剤(0.025質量部)を融解混合することで油相を調製した。次に、水(5.02質量部)、食塩(0.5質量部)を混合することで水相を調製し、調製した油相94.50335質量部と水相5.52質量部とを混合して予備乳化を行った。得られた予備乳化物を、オンレーターを用いて急冷可塑化することで、実施例1の焼き菓子用油脂組成物(油中水型乳化物(マーガリン)、油脂含有量93.9質量%、水分5.0質量%)を得た。
【0070】
〔実施例2の焼き菓子用油脂組成物の製造〕
油脂2(93.68質量部)、乳化剤(0.57質量部)、香料(0.45質量部)、着色料(0.00135質量部)を融解混合することで油相を調製した。次に、水(5質量部)、食塩(0.3質量部)を混合することで水相を調製し、調製した油相94.70135質量部と水相5.3質量部とを混合して予備乳化を行った。得られた予備乳化物を、オンレーターを用いて急冷可塑化することで、実施例2の焼き菓子用油脂組成物(油中水型乳化物(マーガリン)、油脂含有量93.7質量%、水分5.0質量%)を得た。
【0071】
〔実施例3の焼き菓子用油脂組成物の製造〕
油脂3(83.36質量部)、乳化剤(0.4質量部)、香料(0.04質量部)、着色料(0.001質量部)、酸化防止剤(0.025質量部)を融解混合することで油相を調製した。次に、水(16.0質量部)、食塩(0.2質量部)を混合することで水相を調製し、調製した油相83.826質量部と水相16.2質量部とを混合して予備乳化を行った。得られた予備乳化物を、オンレーターを用いて急冷可塑化することで、実施例3の焼き菓子用油脂組成物(油中水型乳化物(マーガリン)、油脂含有量83.4質量%、水分16.0質量%)を得た。
【0072】
〔比較例1の焼き菓子用油脂組成物の製造〕
油脂4(82.58質量部)、乳化剤(0.9質量部)、香料(0.02質量部)、着色料(0.001質量部)を融解混合することで油相を調製した。次に、水(16.0質量部)、食塩(0.2質量部)、脱脂粉乳(0.3質量部)を混合することで水相を調製し、調製した油相83.501質量部と水相16.5質量部とを混合して予備乳化を行った。得られた予備乳化物を、オンレーターを用いて急冷可塑化することで、比較例1の焼き菓子用油脂組成物(油中水型乳化物(マーガリン)、油脂含有量82.6質量%、水分16.0質量%)を得た。
【0073】
〔比較例2の焼き菓子用油脂組成物の製造〕
油脂5(83.36質量部)、乳化剤(0.4質量部)、香料(0.04質量部)、着色料(0.001質量部)、酸化防止剤(0.025質量部)を融解混合することで油相を調製した。次に、水(16.0質量部)、食塩(0.2質量部)を混合することで水相を調製し、調製した油相83.826質量部と水相16.2質量部とを混合して予備乳化を行った。得られた予備乳化物を、オンレーターを用いて急冷可塑化することで、比較例2の焼き菓子用油脂組成物(油中水型乳化物(マーガリン)、油脂含有量83.4質量%、水分16.0質量%)を得た。
【0074】
〔比較例3の焼き菓子用油脂組成物の製造〕
油脂6(81.79質量部)、乳化剤(0.7質量部)、香料(0.11質量部)、着色料(0.001質量部)を溶解混合することで油相を調製した。次に、水(16.0質量部)、食塩(0.2質量部)、脱脂粉乳(0.5質量部)、風味補強材(0.5質量部)、調味料(0.2質量部)を混合することで水相を調製し、調製した油相82.601質量部と水相17.4質量部とを混合して予備乳化を行った。得られた予備乳化物を、オンレーターを用いて急冷可塑化することで、比較例3の焼き菓子用油脂組成物(油中水型乳化物(マーガリン)、油脂含有量81.8質量%、水分16.0質量%)を得た。
【0075】
〔比較例4の焼き菓子用油脂組成物の製造〕
油脂7(93.2質量部)を融かすことで油相を調製した。次に、水(5質量部)、食塩(0.4質量部)、酵素処理卵黄(1質量部)、風味材(0.4質量部)を混合することで水相を調製し、調製した油相93.2質量部と水相6.8質量部とを混合して予備乳化を行った。得られた予備乳化物を、オンレーターを用いて急冷可塑化することで、比較例4の焼き菓子用油脂組成物(油中水型乳化物(マーガリン)、油脂含有量93.2質量%、水分5.0質量%)を得た。
【0076】
〔実施例4の焼き菓子用油脂組成物の製造〕
油脂8(88.8質量部)、乳化剤(0.57質量部)、香料(0.37質量部)、着色料(0.00135質量部)を融解混合することで油相を調製した。次に、水(10質量部)、食塩(0.2質量部)、香料(0.1質量部)を混合することで水相を調製し、調製した油相89.74135質量部と水相10.3質量部とを混合して予備乳化を行った。得られた予備乳化物を、オンレーターを用いて急冷可塑化することで、実施例4の焼き菓子用油脂組成物(油中水型乳化物(マーガリン)、油脂含量88.8質量%、水分10.0質量%)を得た。
【0077】
各焼き菓子用油脂組成物の20℃での硬さを下記測定方法で測定し、測定結果を表1、2に示した。各焼き菓子用油脂組成物に含まれる油脂のトリグリセリド含有量、脂肪酸含有量を表1、2に示した。なお、含有量の単位は質量%である(質量比の単位はない。)。
【0078】
<焼き菓子用油脂組成物の硬さの測定方法>
レオメーター(株式会社山電製、CREEP METER RE2-33005B)を使用して、下記1)~3)の手順に従ってタルト用生地の硬さを測定した。レオメーターでの測定には、直径30mm、高さ8mmの円柱状のプランジャー(樹脂製)を使用した。なお、レオメーターでの硬さは、50%変形時(プランジャーが7.5mm貫入した時)の最大荷重とした。
1)直径40mm、高さ15mmの円柱状のステンレス容器に、焼き菓子用油脂組成物
を隙間なく充填し、上面を擦切る。
2)焼き菓子用油脂組成物が充填されたステンレス容器を20℃に設定した恒温槽で一
晩調温する。
3)調温された焼き菓子用油脂組成物が充填されたステンレス容器を素早く取り出し、
レオメーターを使用して、測定速度1mm/秒の条件にて、ステンレス容器に充填さ
れた焼き菓子用油脂組成物の硬さを測定する。
【0079】
〔タルトの製造及び評価〕
製造した各焼き菓子用油脂組成物を使用して、表3の配合で、下記1)~6)の手順に従ってタルト用生地(クッキー生地)を製造した(なお、表3のタルト用生地に配合される穀粉は、小麦粉を100質量%含有する。また、実施例1、2、比較例5の焼き菓子用油脂組成物を使用して製造したタルト用生地の水分は11.6質量%、実施例3、比較例1~4の焼き菓子用油脂組成物を使用して製造したタルト用生地の水分は14.7質量%だった。)。製造したタルト用生地を使用して、下記7)の手順に従ってタルトを製造した。得られたタルトの食感を、以下の方法に従って評価した。結果を表1に示した。
【0080】
〔タルトの製造手順〕
1)油脂を混ぜる。
2)上白糖を加えすり混ぜる。
3)食塩を溶解した全卵を加え混ぜる。
4)薄力粉を加え混ぜる。
5)調製した生地を30gに分割してタルト型(上直径73mm、下直径62mm、
高さ24mm)に充填する。
6)生地が充填されたタルト型に、押し型(上直径67mm、下直径56mm、高さ
21mm)を押し当てることで、生地をタルト型にしき込む。
7)上火180℃、下火160℃のオーブンで24分間焼成する。
【0081】
<タルトの食感の評価>
焼成から約24時間後のタルトを、5名の専門パネルが食することで、タルトの食感を評価した。3名以上の専門パネルがザクザクした食感であると評価した時、ザクザクした食感を有すると判断した。なお、タルトの食感を評価した専門パネルは、食品の食感等の官能評価の訓練を定期的に受けており、食品の食感等の官能評価結果に個人差が少ない。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
実施例の焼き菓子用油脂組成物を使用して製造したタルトは、ザクザクした食感を有していた。
一方、比較例の焼き菓子用油脂組成物を使用して製造したタルトは、ザクザクした食感を有していなかった。