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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】デバイスチップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20250124BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20250124BHJP
【FI】
H01L21/78 Q
H01L21/78 B
B23K26/53
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020161305
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054232
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】重松 孝一
(72)【発明者】
【氏名】田中 圭
【審査官】小山 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-173475(JP,A)
【文献】特開平06-005790(JP,A)
【文献】特開2010-129970(JP,A)
【文献】特開2010-029927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されているとともに、該ストリートの表面に膜が被覆されているウェーハを該ストリートに沿って個々のデバイスに分割し、衝撃に強い半導体デバイスチップを製造するデバイスチップの製造方法であって、
該ストリートに対応した領域の該膜を除去する膜除去ステップと、
該膜除去ステップを実施した後、該ウェーハに対して透過性を有する波長のレーザービームの集光点を該ウェーハの内部に位置づけ、該ウェーハの裏面側から該膜が除去された領域と対応する領域に沿ってレーザービームを照射して該ウェーハの内部に改質層を形成する改質層形成ステップと、
該改質層形成ステップを実施した後、該ウェーハに外力を付与して該ウェーハを個々のデバイスチップへと分割する分割ステップと、
を備え、
該膜除去ステップでは、
該分割ステップで個々に分割された際のデバイスチップの外縁部に、該基板が露出した領域と該膜で被覆されている領域との段差が形成されるように、該ストリートの幅方向の端部から該膜を除去する領域までの距離を所定上限値以下に設定し、
該膜に対して吸収性を有する波長のレーザービームの集光点を該膜上に位置付け、該ストリートの幅方向の両端部には円形状のスポットを形成するナロービームを該ストリートに沿って照射し、該ナロービームを照射した円形状のスポットの間の領域には楕円形状または長方形状のスポットを形成するワイドビームを該ストリートに沿って照射し、アブレーション加工を施すことで該膜を除去することを特徴とする、
デバイスチップの製造方法。
【請求項2】
該距離の上限値は、該改質層を形成する位置の誤差による分割不良を抑制することが可能な最小限の幅である膜が除去された領域の縁と該デバイスとの距離以下であり、
該距離の下限値は、該膜に対して吸収性を有する波長のレーザービームの熱影響領域の幅と、該改質層の形成位置の誤差と、の和より少なくとも大きいことを特徴とする、
請求項1に記載のデバイスチップの製造方法。
【請求項3】
該膜除去ステップの前に、該ウェーハの裏面側にテープを貼着し、該テープの外周部を環状のフレームによって支持するウェーハ支持ステップを更に有し、
該改質層形成ステップは、該ウェーハ支持ステップが実施されたウェーハの該テープ側から、該ウェーハおよび該テープに対して透過性を有する波長のレーザービームを該ウェーハ内部に集光点を位置付けて該ストリートに沿って照射することで、該テープ越しに該ウェーハの内部に改質層を形成することを特徴とする、
請求項1または2に記載のデバイスチップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイスチップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスチップは、表面に設定されたストリート(分割予定ライン)と、ストリートによって区画されるデバイスと、を有するウェーハを、ストリートに沿って分割してデバイス毎に個片化することによって製造される。半導体ウェーハ等の板状の被加工物を分割する方法としては、被加工物に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を、分割すべき領域の内部に集光点を合わせてストリートに沿って照射することで分割起点(改質層)を形成する方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3408805号公報
【文献】特開2014-146810号公報
【文献】特開平7-149393号公報
【文献】特開2019-156405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、IC(Integrated Circuit)、またはLSI(Large Scale Integration)等の半導体チップの処理能力を向上するために、シリコン(Si)等の基板の表面に、SiOF、BSG(SiOB)等の無機物系の膜やポリイミド系、パリレン系等のポリマー膜である有機物系の膜からなる低誘電率絶縁体被膜(Low-k膜)とデバイスを形成する機能膜とが積層された半導体ウェーハや、ストリート上にTEG(Test Element Group)と称する金属等で形成された導電体膜が積層された金属パターンを部分的に配設し、ウェーハを分割する前に金属パターンを通してデバイスの機能をテストするように構成した半導体ウェーハが実用化されている。
【0005】
このような基板の表面にLow-k膜が積層されたウェーハやTEGが配設されたウェーハは、基板の内部に分割起点となる改質層を形成した後に外力を付与する方法を用いても、Low-k膜やTEGを確実に破断することができず、機能層が剥離して個々のデバイスチップの品質を低下させてしまう問題があった。
【0006】
この問題に対し、基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線によって改質層を形成する前に、基板に積層された機能層に対して吸収性を有する波長のレーザー光線を照射する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
このように製造されたデバイスチップは、特許文献3、4に記載されたポケット形状のキャリアテープに収容されて出荷、搬送されるが、輸送の際に振動等が加わることにより、ポケット内部で半導体デバイスチップが動いてポケット側壁と衝突し、機能層が剥離してしまうという新たな問題が発生した。
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、衝撃が加わった際に機能層が剥離することを抑制することができるデバイスチップの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のデバイスチップの製造方法は、基板の表面に格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されているとともに、該ストリートの表面に膜が被覆されているウェーハを該ストリートに沿って個々のデバイスに分割し、衝撃に強い半導体デバイスチップを製造するデバイスチップの製造方法であって、該ストリートに対応した領域の該膜を除去する膜除去ステップと、該膜除去ステップを実施した後、該ウェーハに対して透過性を有する波長のレーザービームの集光点を該ウェーハの内部に位置づけ、該ウェーハの裏面側から該膜が除去された領域と対応する領域に沿ってレーザービームを照射して該ウェーハの内部に改質層を形成する改質層形成ステップと、該改質層形成ステップを実施した後、該ウェーハに外力を付与して該ウェーハを個々のデバイスチップへと分割する分割ステップと、を備え、該膜除去ステップでは、該分割ステップで個々に分割された際のデバイスチップの外縁部に、該基板が露出した領域と該膜で被覆されている領域との段差が形成されるように、該ストリートの幅方向の端部から該膜を除去する領域までの距離を所定上限値以下に設定し、該膜に対して吸収性を有する波長のレーザービームの集光点を該膜上に位置付け、該ストリートの幅方向の両端部には円形状のスポットを形成するナロービームを該ストリートに沿って照射し、該ナロービームを照射した円形状のスポットの間の領域には楕円形状または長方形状のスポットを形成するワイドビームを該ストリートに沿って照射し、アブレーション加工を施すことで該膜を除去することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のデバイスチップの製造方法において、該距離の上限値は、該改質層を形成する位置の誤差による分割不良を抑制することが可能な最小限の幅である膜が除去された領域の縁と該デバイスとの距離以下であることが好ましく、該距離の下限値は、該膜に対して吸収性を有する波長のレーザービームの熱影響領域の幅と、該改質層の形成位置の誤差と、の和より少なくとも大きいことが好ましい。
【0011】
また、本発明のデバイスチップの製造方法は、該膜除去ステップの前に、該ウェーハの裏面側にテープを貼着し、該テープの外周部を環状のフレームによって支持するウェーハ支持ステップを更に有し、該改質層形成ステップは、該ウェーハ支持ステップが実施されたウェーハの該テープ側から、該ウェーハおよび該テープに対して透過性を有する波長のレーザービームを該ウェーハの内部に集光点を位置付けて該ストリートに沿って照射することで、該テープ越しに該ウェーハ内部に改質層を形成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本願発明は、衝撃が加わった際に機能層が剥離することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係るデバイスチップの製造方法の加工対象のウェーハの一例を示す斜視図である。
図2図2は、図1に示すウェーハの要部の断面図である。
図3図3は、実施形態に係るデバイスチップの製造方法の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、図3に示す膜除去ステップの一例を示す斜視図である。
図5図5は、図3に示す膜除去ステップの後の一状態を示すウェーハの要部の断面図である。
図6図6は、図3に示す膜除去ステップにおけるレーザービームによる加工ラインを模式的に示す説明図である。
図7図7は、図3に示す改質層形成ステップの一状態を一部断面で示す側面図である。
図8図8は、図3に示す改質層形成ステップの後の一状態を示すウェーハの要部の断面図である。
図9図9は、図3に示す分割ステップの一状態を一部断面で示す側面図である。
図10図10は、図3に示す分割ステップの図9の後の一状態を一部断面で示す側面図である。
図11図11は、実施形態に係るデバイスチップの製造方法によって製造されたデバイスチップの一例を示す斜視図である。
図12図12は、変形例に係るデバイスチップの製造方法の流れを示すフローチャートである。
図13図13は、図12に示すウェーハ支持ステップの一例を示す斜視図である。
図14図14は、図12に示す改質層形成ステップの一状態を一部断面で示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。更に、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0015】
〔実施形態〕
本発明の実施形態に係るデバイスチップの製造方法について、図面に基づいて説明する。まず、実施形態の加工対象であるウェーハ10の構成について説明する。図1は、実施形態に係るデバイスチップの製造方法の加工対象のウェーハ10の一例を示す斜視図である。図2は、図1に示すウェーハ10の要部の断面図である。
【0016】
図1に示すように、ウェーハ10は、シリコン、サファイア(Al)、ガリウムヒ素(GaAs)または炭化ケイ素(SiC)等を基板11とする円板状の半導体ウェーハ、光デバイスウェーハ等のウェーハである。ウェーハ10は、基板11の表面12に格子状に設定された複数のストリート13(分割予定ライン)と、ストリート13によって区画された領域に形成されたデバイス14と、を有している。
【0017】
デバイス14は、例えば、IC、またはLSI等の集積回路、CCD(Charge Coupled Device)、またはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のイメージセンサである。デバイス14が形成された表面12と反対側に位置するウェーハ10の面を裏面15とする。
【0018】
また、ウェーハ10は、基板11の表面12に膜16が被覆されている。膜16は、SiOF、BSG(SiOB)等の無機物系の膜やポリイミド系、パリレン系等のポリマー膜である有機物系の膜からなる低誘電率絶縁体被膜(以下、Low-k膜と呼ぶ)と、導電性の金属により構成された導電体膜とが積層される機能層である。Low-k膜は、導電体膜と積層されて、デバイス14を形成する。導電体膜は、デバイス14の回路を構成する。このために、デバイス14は、互いに積層されたLow-k膜と、Low-k膜間に積層された導電体膜とにより構成される。
【0019】
ウェーハ10は、ストリート13に沿って個々のデバイス14に分割されて、デバイスチップ20(図11参照)に製造される。なお、デバイスチップ20は、実施形態において、正方形状であるが、長方形状であってもよい。
【0020】
次に、実施形態に係るデバイスチップの製造方法を説明する。図3は、実施形態に係るデバイスチップの製造方法の流れを示すフローチャートである。実施形態のデバイスチップの製造方法は、図3に示すように、膜除去ステップ101と、改質層形成ステップ102と、分割ステップ103と、を含む。
【0021】
(膜除去ステップ101)
図4は、図3に示す膜除去ステップ101の一例を示す斜視図である。図5は、図3に示す膜除去ステップ101の後の一状態を示すウェーハ10の要部の断面図である。図6は、図3に示す膜除去ステップ101におけるレーザービーム30による加工ラインを模式的に示す説明図である。膜除去ステップ101は、ウェーハ10の膜16側を露出させてストリート13に対応した領域の膜16を除去するステップである。
【0022】
図4に示すように、実施形態の膜除去ステップ101では、レーザービーム30によるアブレーション加工を施すことによって膜16を除去する。レーザービーム30は、膜16に対して吸収性を有する波長のレーザービームである。レーザービーム30によるレーザー加工を実施するレーザー加工装置35は、チャックテーブル36と、レーザービーム照射ユニット37と、撮像ユニット38と、チャックテーブル36とレーザービーム照射ユニット37とを相対的に移動させる移動ユニットと、を備える。
【0023】
膜除去ステップ101では、まず、ウェーハ10の裏面15側をチャックテーブル36に吸引保持する。次に、移動ユニットによってチャックテーブル36を加工位置まで移動させる。次に、撮像ユニット38でウェーハ10を撮像することによって、ストリート13を検出する。ストリート13が検出されたら、ウェーハ10のストリート13と、レーザービーム照射ユニット37の照射部との位置合わせを行うアライメントを遂行する。
【0024】
膜除去ステップ101では、レーザービーム照射ユニット37に対してチャックテーブル36を相対的に移動させながら、ウェーハ10の膜16が被覆されている側からパルス状のレーザービーム30を、ウェーハ10の膜16上に集光点31を位置付けて照射する。レーザービーム30は、膜16に対して吸収性を有する波長のレーザービームである。膜除去ステップ101では、ウェーハ10の膜16上に集光点31を位置付けたレーザービーム30を、ストリート13に沿って照射することによって、ストリート13に対応した領域の膜16を除去する。
【0025】
この際、図5に示すように、膜除去ステップ101では、ストリート13の幅方向の端部から膜16を除去する領域(膜除去領域17)までの距離18を、所定上限値以下に設定する。なお、実施形態において、ストリート13の幅寸法は、80μmであり、所定上限値は、例えば、30μmである。このように設定することにより、ストリート13において、膜16を除去して基板11が露出した膜除去領域17と、膜16で被覆されている領域との間には、段差が形成される。
【0026】
なお、距離18の所定上限値は、膜除去領域17の幅(各ストリート13の段差間の距離)が所定条件を満足する範囲で設定される。膜除去領域17が幅広く除去されている場合、後述の改質層形成ステップ102において、改質層19を形成する位置がストリート13の幅方向に少しずれていても、改質層19を破断起点としてウェーハ10を分割する際に、分割不良を抑制することができる。すなわち、所定条件とは、基板11等のレーザービーム30の屈折率、レーザービーム30を照射するレーザービーム照射ユニット37の光学系等の制限による改質層19形成位置の誤差を考慮しても、誤差による分割不良を抑制することができることを含む。距離18は、基板11内部の所望の位置にレーザービーム30を集光させて改質層19を形成する位置の誤差による分割不良を抑制することが可能な最小限の幅の膜除去領域17の縁とデバイス14との距離以下とすることが好ましい。
【0027】
また、膜除去ステップ101では、距離18を、所定下限値以上に設定する。所定下限値は、所定上限値よりも小さい値であって、ストリート13の幅方向において、レーザービーム30の熱影響領域の幅と、後述の改質層形成ステップ102で形成する改質層19の形成位置の誤差と、の和より少なくとも大きい。熱影響領域とは、レーザービーム30を膜16に照射してアブレーション加工をした際に形成される溝の縁において、膜16がレーザービーム30の熱の影響を受けて変質してしまう領域である。熱影響領域の幅と改質層19の形成位置の誤差とを考慮して距離18を設定することにより、膜16を除去するレーザービーム30の熱影響および改質層19を形成するレーザービーム30の熱影響を、デバイス14が受けることを抑制できる。実施形態においては、距離18を例えば、10μm以上に設定することが好ましい。また、熱影響領域の幅と改質層19の形成位置の誤差とを考慮しつつ距離18を可能な限り小さく設定することによって、最大の除去幅で膜16を除去することができ、レーザービーム30の熱影響を受けることなく、膜除去領域17を極力デバイス14に近づけることができる。
【0028】
なお、膜除去ステップ101においては、図6に示すように、円形状のスポット32を形成するナロービームと、楕円形状または長方形状のスポット33を形成するワイドビームとを用いる。より詳しくは、レーザービーム30を照射する領域において、ストリート13の幅方向の両端部には、ナロービームを1パスで照射する。また、ナロービームを照射した円形状のスポット32の間の領域には、ワイドビームを2パスで照射する。
【0029】
膜除去ステップ101におけるレーザー加工条件は、ウェーハ10の厚みが200μmである場合、例えば、以下のように設定される。
波長 :355nm
出力 :2W
周波数 :200kHz
送り速度 :500mm/s
ワイドビーム幅 :25μm
【0030】
(改質層形成ステップ102)
図7は、図3に示す改質層形成ステップ102の一状態を一部断面で示す側面図である。図8は、図3に示す改質層形成ステップ102の後の一状態を示すウェーハ10の要部の断面図である。改質層形成ステップ102は、膜除去ステップ101を実施した後に実施される。改質層形成ステップ102は、ウェーハ10の膜16が除去された領域と対応する領域に沿ってウェーハ10の内部に改質層19を形成するステップである。
【0031】
改質層19とは、密度、屈折率、機械的強度またはその他の物理的特性が周囲のそれとは異なる状態になった領域のことを意味する。改質層19は、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域、およびこれらの領域が混在した領域等である。改質層19は、ウェーハ10の他の部分よりも機械的な強度等が低い。
【0032】
図7に示すように、実施形態の改質層形成ステップ102では、レーザービーム30によるステルスダイシング加工を施すことによって改質層19を形成する。レーザービーム30は、ウェーハ10に対して透過性を有する波長のレーザービームである。
【0033】
改質層形成ステップ102では、まず、ウェーハ10の膜16が被覆されている側をチャックテーブル36に吸引保持する。次に、移動ユニットによってチャックテーブル36を加工位置まで移動させる。次に、撮像ユニット38でウェーハ10を撮像することによって、ストリート13を検出する。ストリート13が検出されたら、ウェーハ10のストリート13と、レーザービーム照射ユニット37の照射部との位置合わせを行うアライメントを遂行する。
【0034】
改質層形成ステップ102では、レーザービーム照射ユニット37に対してチャックテーブル36を相対的に移動させながら、ウェーハ10の裏面15側からパルス状のレーザービーム30を、ウェーハ10の内部に集光点31を位置付けて照射する。レーザービーム30は、ウェーハ10に対して透過性を有する波長のレーザービームである。改質層形成ステップ102では、ウェーハ10の内部に集光点31を位置付けたレーザービーム30を、膜16が除去された領域と対応する領域に沿って照射することによって、図8に示すように、基板11の内部にストリート13に沿った改質層19が形成される。
【0035】
なお、改質層形成ステップ102におけるレーザー加工条件は、例えば、以下のように設定される。
波長 :1064nm
出力 :0.5W
周波数 :100kHz
送り速度 :200mm/s
【0036】
(分割ステップ103)
図9は、図3に示す分割ステップ103の一状態を一部断面で示す側面図である。図10は、図3に示す分割ステップ103の図9の後の一状態を一部断面で示す側面図である。分割ステップ103は、改質層形成ステップ102を実施した後に実施される。分割ステップ103は、ウェーハ10に外力を付与してウェーハ10を個々のデバイスチップ20へと分割するステップである。
【0037】
図9に示すように、実施形態の分割ステップ103では、ウェーハ10の裏面15側に貼着したエキスパンドシート40を面方向かつ放射方向に拡張することによって、改質層19を破断起点にして個々のデバイスチップ20に個片化する。分割ステップ103では、予め、ウェーハ10の裏面15にエキスパンドシート40を貼着する。
【0038】
エキスパンドシート40は、例えば、エキスパンド性を有する合成樹脂で構成された基材層と、基材層に積層されかつエキスパンド性および粘着性を有する合成樹脂で構成された糊層と、を含む。エキスパンドシート40は、外周が環状のフレーム41の裏面側に貼着される。フレーム41は、ウェーハ10の外径よりも大きな開口を有し、金属や樹脂等の材質で構成される。ウェーハ10は、フレーム41の開口の所定の位置に位置決めされ、ウェーハ10の裏面15がエキスパンドシート40の表面に貼着されることによって、エキスパンドシート40およびフレーム41に固定される。
【0039】
図9および図10に示すように、実施形態の分割ステップ103では、拡張装置50によって、エキスパンドシート40に面方向かつ放射方向の外力を与える。拡張装置50は、チャックテーブル51と、クランプ部52と、昇降ユニット53と、突き上げ部材54と、コロ部材55と、を備える。突き上げ部材54は、チャックテーブル51の外周かつ同軸に設けられる円筒形状である。コロ部材55は、チャックテーブル51の保持面と同一平面上または僅かに上方、かつ突き上げ部材54の上端に、回転自在に設けられる。
【0040】
図9に示すように、分割ステップ103では、まず、エキスパンドシート40を介してウェーハ10の裏面15側をチャックテーブル51の保持面に載置し、フレーム41の外周部をクランプ部52で固定する。この際、コロ部材55は、フレーム41の内縁とウェーハ10の外縁との間のエキスパンドシート40に当接する。
【0041】
図10に示すように、分割ステップ103では、次に、昇降ユニット53によって、チャックテーブル51および突き上げ部材54を一体的に上昇させる。この際、エキスパンドシート40は、外周部がフレーム41を介してクランプ部52で固定されているため、フレーム41の内縁とウェーハ10の外縁との間の部分が面方向に拡張される。更に、突き上げ部材54の上端に設けられたコロ部材55がエキスパンドシート40との摩擦を緩和する。
【0042】
分割ステップ103では、エキスパンドシート40の拡張の結果、エキスパンドシート40に放射状に引張力が作用する。エキスパンドシート40に放射状の引張力が作用すると、図10に示すように、エキスパンドシート40が貼着されたウェーハ10が、ストリート13に沿った改質層19を破断起点にして、個々のデバイス14毎に分割されて、デバイスチップ20毎に個片化される。ウェーハ10がデバイスチップ20に分割された後は、例えば、ピックアップ工程において、周知のピッカーでエキスパンドシート40からデバイスチップ20がピックアップされる。
【0043】
図11は、実施形態に係るデバイスチップの製造方法によって製造されたデバイスチップ20の一例を示す斜視図である。膜除去ステップ101において、ストリート13(図5等参照)の膜16を除去した膜除去領域17は、ストリート13の幅方向の端部からの距離18が所定上限値以下となるように膜16を除去された。
【0044】
これにより、分割ステップ103で個々に分割されたデバイスチップ20は、外縁部21に、基板11が露出した膜除去領域17と膜16で被覆されている領域との段差が形成される。すなわち、膜16で被覆されている領域の端部と、デバイスチップ20の外縁部21との間の距離に余裕があるため、膜16が剥離することを抑制する効果を奏する。
【0045】
次に、変形例に係るデバイスチップの製造方法を説明する。図12は、変形例に係るデバイスチップの製造方法の流れを示すフローチャートである。変形例のデバイスチップの製造方法は、図12に示すように、ウェーハ支持ステップ201と、膜除去ステップ202と、改質層形成ステップ203と、分割ステップ204と、を含む。
【0046】
(ウェーハ支持ステップ201)
図13は、図12に示すウェーハ支持ステップ201の一例を示す斜視図である。ウェーハ支持ステップ201は、膜除去ステップ202の前に実施される。ウェーハ支持ステップ201は、ウェーハ10の裏面15側にテープ60を貼着し、テープ60の外周部を環状のフレーム61によって支持するステップである。
【0047】
テープ60は、後述の膜除去ステップ202において、ウェーハ10をフレーム61に固定するための粘着テープである。テープ60は、例えば、合成樹脂で構成された基材層と、基材層に積層されかつ粘着性を有する合成樹脂で構成された糊層と、を含む。なお、テープ60として、エキスパンド性を有するエキスパンドシートを用いてもよい。この場合、後述の分割ステップ204において、エキスパンドシート40としてテープ60を用いてもよい。
【0048】
ウェーハ支持ステップ201では、図13に示すように、まず、テープ60を、環状のフレーム61の裏面側に貼着する。フレーム61は、ウェーハ10の外径より大きな開口を有し、金属や樹脂等の材質で構成される。ウェーハ支持ステップ201では、次に、ウェーハ10をフレーム61の開口の所定の位置に位置決めし、裏面15側をテープ60に貼着させる。これにより、ウェーハ10をテープ60およびフレーム61に固定させる。
【0049】
(膜除去ステップ202)
変形例の膜除去ステップ202の基本的な手順は、実施形態の膜除去ステップ101と同様である。変形例の膜除去ステップ202では、ウェーハ10をレーザー加工装置35のチャックテーブル36で保持する際に、テープ60を介して裏面15側をチャックテーブル36の保持面に吸引保持させ、クランプ部39(図14参照)によってフレーム61の外周部を固定する点で、実施形態の膜除去ステップ101と異なる。
【0050】
(改質層形成ステップ203)
図14は、図12に示す改質層形成ステップ203の一状態を一部断面で示す側面図である。改質層形成ステップ203は、テープ60越しにウェーハ10の内部に改質層19を形成するステップである。
【0051】
図14に示すように、変形例の改質層形成ステップ203では、実施形態の改質層形成ステップ102と同様に、レーザービーム30によるステルスダイシング加工を施すことによって改質層19を形成する。レーザービーム30は、ウェーハ10およびテープ60に対して透過性を有する波長のレーザービームである。
【0052】
改質層形成ステップ203では、まず、ウェーハ10の膜16が被覆されている側をチャックテーブル36に吸引保持し、フレーム61の外周部をクランプ部39で固定する。次に、移動ユニットによってチャックテーブル36を加工位置まで移動させる。次に、撮像ユニット38でウェーハ10を撮像することによって、ストリート13を検出する。ストリート13が検出されたら、ウェーハ10のストリート13と、レーザービーム照射ユニット37の照射部との位置合わせを行うアライメントを遂行する。
【0053】
改質層形成ステップ203では、レーザービーム照射ユニット37に対してチャックテーブル36を相対的に移動させながら、ウェーハ10のテープ60側からパルス状のレーザービーム30を、ウェーハ10の内部に集光点31を位置付けて照射する。レーザービーム30は、ウェーハ10およびテープ60に対して透過性を有する波長のレーザービームである。改質層形成ステップ203では、ウェーハ10の内部に集光点31を位置付けたレーザービーム30を、膜16が除去された領域と対応する領域に沿って照射することによって、基板11の内部にストリート13に沿った改質層19が形成される。
【0054】
(分割ステップ204)
変形例の分割ステップ204は、実施形態の分割ステップ103と同様の手順であるため、説明を省略する。なお、ウェーハ支持ステップ201で貼着したテープ60が、エキスパンド性を有するものである場合、エキスパンドシート40としてそのまま利用してもよい。
【0055】
以上説明したように、実施形態および変形例のデバイスチップの製造方法では、デバイスチップ20の膜16(機能層)を除去した膜除去領域17のストリート13の幅方向の幅を従来よりも大きくしている。すなわち、膜16で被覆されている領域の端部と、デバイスチップ20の外縁部21との間の距離を従来よりも小さくすることで、デバイスチップ20の外縁部21に、基板11が露出した膜除去領域17と膜16で被覆されている領域との段差を形成している。これにより、たとえ製造されたデバイスチップ20の搬送中にキャリアテープ内で振動したとしても、機能層が側壁に衝突することを回避できる。衝撃が加わった際でも膜16が剥離することを抑制することができ、品質不良の低減に貢献できる。
【0056】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。すなわち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、実施形態および変形例の膜除去ステップ101、202では、レーザービーム30でアブレーション加工を施すことによって膜16を除去したが、ブレードによるダイシング加工で除去してもよい。
【符号の説明】
【0057】
10 ウェーハ
11 基板
12 表面
13 ストリート
14 デバイス
15 裏面
16 膜
17 膜除去領域
18 距離
19 改質層
20 デバイスチップ
21 外縁部
30 レーザービーム
31 集光点
40 エキスパンドシート
60 テープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図11
図12
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図14