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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】改質窒化ホウ素粉末
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/19 20060101AFI20250124BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20250124BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
A61K8/19
A61Q1/00
A61Q1/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021542812
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031459
(87)【国際公開番号】W WO2021039586
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019155860
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】油谷 真人
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-094878(JP,A)
【文献】特開2018-108970(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦帯電試験により測定される電圧密度が+10V/g以上+59V/g以下であり、白色度(L値)が90.0以上であり、Lab表色系におけるb値が4以上14.1以下であることを特徴とする改質窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
アバランシェエネルギーが40mJ/kg以下である請求項1に記載の改質窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
一次粒子の平均長径が2~20μm、平均厚みが0.2~2.0μm及び平均アスペクト比が5~20の範囲にある請求項1に記載の改質窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
化粧料用配合剤として使用される請求項1に記載の改質窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
負摩擦帯電性窒化ホウ素粉末を、希ガスの流通下、1700~2200℃の温度で、摩擦帯電試験により測定される電圧密度が+10V/g以上+59V/g以下、白色度(L値)が90.0以上、Lab表色系におけるb値が4以上14.1以下となるまで、該粉末を加熱処理することを特徴とする窒化ホウ素粉末の改質方法。
【請求項6】
前記負摩擦帯電性窒化ホウ素粉末を、不活性ガスの流通下で流動させながら加熱処理する請求項に記載の改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料としての用途に適した特性に改質された改質窒化ホウ素粉末に関するものであり、さらには、その改質方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素粉末は、六方晶形の層状結晶構造を有する白色の体質顔料であり、光沢付与、感触改良、増量等を目的として、メイクアップ化粧品等の化粧料の粉末基材として広く用いられている。
【0003】
ところで、化粧料では、被覆力、透明感、展延性、潤滑性、人肌に対する付着性などが要求され、窒化ホウ素粉末は、特に展延性や付着性を付与する性質を有することも知られており、このような特性をより向上させるために、一次粒子の粒径(長径)、厚み、アスペクト比等の粒子形状が着目されている。例えば、特許文献1では、平均長径が5~8μm、平均厚みが0.25~0.5μm、平均アスペクト比(長径/厚み)が15~20の一次粒子からなる窒化ホウ素粉末が、展延性や付着性付与効果に優れると報告されている。
しかしながら、窒化ホウ素粉末の一次粒子の形状調整だけでは、その展延性や付着性を向上させるには限界がある。
【0004】
また、特許文献2には、黒鉛化指数(GI)が2.0以下で、比表面積が15m/g以下の六方晶窒化ホウ素粉末を、六方晶窒化ホウ素1モルに対し0.02~0.5化学当量の酸水溶液で洗浄・乾燥した後、炭素と接触させないように、洗浄・乾燥された粉末を、密閉容器中に保持し、窒素雰囲気下、1800~1950℃で1~5時間熱処理することによって、窒化ホウ素粉末を改質することが開示されている。この方法では、例えば白色度が95.0以上に向上するのであるが、化粧料の用途で要求される展延性や付着性は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6109466号公報
【文献】特開2004-35273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、展延性や付着性など、化粧料に配合されたときに要求される特性を大きく向上させ得る改質窒化ホウ素粉末を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の改質窒化ホウ素粉末を得るための改質方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来の窒化ホウ素粉末は、ダマ(目視できる程度の大きな凝集物)を多く含み、手や化粧スポンジに取った際に不均一になり易く、これが化粧料に使用した場合の展延性や付着性が不十分となる原因と考えた。このような考えのもとに、多くの実験を重ねた結果、ダマを多く含む窒化ホウ素粉末は、ボロンシリケートガラス製の窓を備えたアルマイト処理アルミニウム製の回転ドラムを用いて摩擦帯電試験を行うと、負帯電性を示し、この粉末を特定の条件で熱処理することによって、この摩擦帯電性を正帯電性に改質し、ダマを低減させ得るという新規な知見を見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明によれば、摩擦帯電試験により測定される電圧密度が+10V/g以上+59V/g以下であり、白色度(L値)が90.0以上であり、Lab表色系におけるb値が4以上14.1以下であることを特徴とする改質窒化ホウ素粉末が提供される。
【0009】
本発明の改質窒化ホウ素粉末においては、
(1)アバランシェエネルギーが40mJ/kg以下であること、
)一次粒子の平均長径が2~20μm、平均厚みが0.2~2.0μm及び平均アスペクト比が5~20の範囲にあること、
)化粧料用配合剤として使用されること、
が好適である。
【0010】
本発明によれば、さらに、負摩擦帯電性窒化ホウ素粉末(以下、単に負帯電性窒化ホウ素粉末と呼ぶことがある)を、希ガスの流通下、1700~2200℃の温度で、摩擦帯電試験により測定される電圧密度が+10V/g以上+59V/g以下、白色度(L値)が90.0以上、Lab表色系におけるb値が44以上14.1以下となるまで、該粉末を加熱処理することを特徴とする窒化ホウ素粉末の改質方法が提供される。
【0011】
本発明の改質方法においては、
(1)前記負帯電性窒化ホウ素粉末を、不活性ガスの流通下で流動させながら加熱処理すること、
が好ましい。
【0012】
なお、本発明において、摩擦帯電試験は、ボロンシリケートガラス製の窓を備えたアルマイト処理アルミニウム製の回転ドラム(ドラム容量:332cc)を用いて行われるものであり、後述する実施例に記載されているように、回転ドラム内に試料の粉末を入れ、該ドラムを10rpmの速度で300秒間回転させて試料の粉末を摩擦帯電させることにより行われる(詳細な条件は、実施例参照)。従って、本発明において、窒化ホウ素粉末の帯電性とは、上記のような回転ドラム式の粉体流動性測定装置を用いて測定される摩擦帯電性を意味する。
また、前述したアバランシェエネルギーも、上記の粉体流動性測定装置を用いての粉体流動試験を行うことにより測定される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の改質窒化ホウ素粉末は、上述した摩擦帯電試験を行うと、正に帯電する特性を有している。従来の窒化ホウ素粉末は、このような摩擦帯電試験を行うと、負に帯電する。即ち、本発明の改質窒化ホウ素粉末は、正帯電性であることに由来して、ダマが非常に少なく、フワフワ感(即ち、軽量感)を有する粉末となっている。
従って、本発明の改質窒化ホウ素粉末を、化粧料、例えば、パウダーファンデーションに使用した場合、展延性や付着性が大きく向上し、肌へ塗布する際に、一度の塗擦動作で肌表面に対してムラなく均一に付着させることができることとなる。
【0014】
本発明において、上記のような正極性に摩擦帯電する改質窒化ホウ素粉末を得るためには、従来公知の窒化ホウ素粉末(即ち、負極性に摩擦帯電する窒化ホウ素粉末)を、1300~2200℃の温度で、不活性ガス流通下で熱処理することが必要である。
即ち、窒化ホウ素粉末の製造方法としては、種々の方法が知られているが、何れの方法で製造された粉末も、該粉末を構成する粒子の表面には、極めて微量ではあるがOH基、CN基などの官能基やBなどの不純物が存在している。このような官能基や不純物が表面に存在する粒子からなる窒化ホウ素粉末を、所定の材質からなる回転ドラムを用いて摩擦帯電すると、負に帯電する。しかるに、本発明では、上記の熱処理により、これらの官能基や不純物が除去され、この結果、熱処理された窒化ホウ素粉末(改質窒化ホウ素粉末)は、正帯電性を示すことになるのである。
【0015】
例えば、前述した特許文献2でも窒化ホウ素粉末を熱処理しているが、この熱処理は、密閉容器内、窒素雰囲気中で行われる。即ち、本発明では、不活性ガスを流しながらの所謂動的条件で熱処理が行われるため、粒子表面に存在する負帯電性の基となる物質(以下、単に負帯電性物質と呼ぶことがある)が除去されるが、特許文献2のように、窒素ガス雰囲気中で熱処理するだけで窒素ガスを流さない静的条件下での熱処理では、粒子表面の負帯電性物質が除去されず、従って、正帯電性の窒化ホウ素粉末は得られない。実際、後述する実施例に示されているように、不活性ガス(窒素ガス或いはArガス)を流しながらの動的条件下で熱処理を行っている実施例1~11では+11V/g以上の電圧密度が得られているが、窒素ガスを流さずに、単に窒素雰囲気中での静的条件で熱処理を行っているに過ぎない比較例3では、-6V/gの電圧密度であり、正帯電性の窒化ホウ素粉末は得られていない。
【0016】
また、還元窒化法で窒化ホウ素を製造する場合、例えば窒化炉内に窒素ガスを流しながら1300~1550℃程度の温度にホウ素源化合物を加熱して還元窒化を行い、非晶の窒化ホウ素を生成させ、次いで1700~2200℃程度で熱処理が行われ、この熱処理により結晶化が促進され、結晶化した窒化ホウ素粉末を得ている。この場合、還元窒化と、その後の熱処理(結晶化)は同じ窒化炉で行われるので、この場合にも、本発明と同様に熱処理が行われることとなる。しかし、この場合に得られる窒化ホウ素粉末は、正摩擦帯電性であり、ダマが抑制された窒化ホウ素粉末は得られない。おそらく、この段階では窒化ホウ素の粉末中にアルカリ物質やB等の不純物が多く含まれ、窒素ガス(不活性ガス)を流通させての熱処理では、上記の不純物を除去することができないためと思われる。
ちなみに、本発明において、摩擦帯電性を負から正にするための熱処理(改質処理)は、窒化ホウ素が結晶化された後、少なくとも酸洗浄及び水洗が行われた後に行われる。これにより、負帯電のもととなる上記の不純物がほとんど(全てではない)取り除かれることとなり、上記の不活性ガス流通下での熱処理により、微量に残存する上記不純物が除去され、ダマが抑制された正摩擦帯電性の窒化ホウ素粉末が得られることとなる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<改質窒化ホウ素粉末>
本発明の改質窒化ホウ素粉末は、六方晶形の窒化ホウ素粒子からなるものであるが、回転ドラム式の粉体流動性測定装置を用いての摩擦帯電試験を行ったとき(詳細な条件は実施例参照)、その電圧密度(帯電量)が+1V/g以上、好ましくは+10V/g以上、より好ましくは+30V/g以上となる。この電圧密度が高いほど粒子の凝集が軽減し、ダマが殆ど無いフワフワした窒化ホウ素粉末となり、化粧料に配合したとき、展延性や付着性が良好になる。上記の電圧密度が1V/g未満(或いは-帯電のとき)では、粒子が凝集してダマになり易く、この結果、化粧料の展延性や付着性を向上させることができない。なお、電圧密度の上限値は特に制限されないが、過度に正帯電しやすくなると、取り扱いが困難となるため、この電圧密度は、好ましくは+200V/g以下、より好ましくは+100V/g以下であることが望ましい。
即ち、後述する改質に際しての熱処理は、帯電密度が上記範囲となるまで行われることとなる。
【0018】
本発明の改質窒化ホウ素粉末は、上記のような正摩擦帯電性を有していることにより、優れた流動性を有する。この流動性は、粉体流動性を示すアバランシェエネルギー(なだれ前後の位置エネルギーの変化)により表すことができる。即ち、アバランシェエネルギーは、上記の電圧密度と同様、回転ドラム式の粉体流動性測定装置を用いて測定され(詳細な条件は実施例参照)、この値が低いほど、流動性に優れ、良好な展延性や付着性を得ることができる。例えば、本発明の改質窒化ホウ素粉末では、このアバランシェエネルギーが、40mJ/kg以下、好ましくは35mJ/kg以下、より好ましくは30mJ/kg以下の範囲にある。また、このアバランシェエネルギーの好ましい範囲に下限は無いが、通常10mJ/kg以上である。
【0019】
本発明の改質窒化ホウ素粉末は、帯電密度や、帯電密度に基づく流動性以外の特性は特に制限されないが、従来から化粧品用途において要求される特性を有していることが望ましい。
【0020】
例えば、この改質窒化ホウ素粉末の一次粒子は、平均長径が2~20μm、特に3~10μm、平均厚みが0.2~2.0μm、特に0.3~1.0μm、平均アスペクト比(平均長径/平均厚み)が5~20、特に6~18の範囲にあるのがよい。また、レーザー回折・散乱法により測定されるメディアン径(D1:体積基準の中位径D50)は、4~30μmが好ましい。さらに、粉末をエタノール中に超音波分散させた状態において、レーザー回折・散乱法により測定されるメディアン径(D2)は、4~14μmが好ましい。
【0021】
また、本発明の改質窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量は、20ppm以下であることが好ましい。この溶出ホウ素量は、医薬部外品原料規格2006に定められた方法で測定されるものである。上記医薬部外品原料規格2006では、安全性、衛生性の観点から溶出ホウ素量は20ppm以下に規定されている。
【0022】
さらに、本発明の改質窒化ホウ素粉末は、Lab表色系で表して、白色度(L値)が90.0以上、赤色度(a値)が-3.0~0、黄色度(b値)が0~15.0の範囲にあるものが一般的である。
【0023】
上述した本発明の改質窒化ホウ素粉末は、ダマが殆ど無いため、嵩密度が小さいことも特徴の一つである。嵩密度は平均長径や平均厚みによっても大きく変わる。例えば、平均長径4μm、平均厚み0.6μm程度のものであれば、軽装嵩密度0.11g/cm以下、タップ嵩密度0.33g/cm以下であり、平均長径9μm、平均厚み1μm程度のものであれば、軽装嵩密度0.2g/cm以下、タップ嵩密度0.6g/cm以下である。
【0024】
また、帯電密度や摩擦アバランシェエネルギーの測定に使用される回転ドラム式の粉体流動性測定装置を用いての流動化試験により、本発明の改質窒化ホウ素粉末が、ダマが少なくフワフワ感がある粉末であることを示すことができる。即ち、試料粉100ccを入れた標準回転ドラムを高速回転させて行われる流動化試験において(詳細な条件は実施例参照)、ドラム内の粉体層の低い部分の高さを測定すると、本発明の改質窒化ホウ素粉末は、この粉体層の高さが、ドラムの回転数が20rpmで2.2cm以上、50rpmで2.8cm以上となる。この値が大きいほど、ダマが少なくフワフワ感がある粉末であることを示す。
【0025】
なお、粉末が凝集物をほとんど含まず、フワフワ感を有するものであることを示すパラメータとして、動的流動性試験における基本流動性エネルギーが知られている。この基本流動性エネルギーは、後述する実施例に示されているように、パウダーレオメーター(例えばマルバーン社製FT-4)を用い、試料粉で満たした160mLスプリット容器に回転翼を挿入したとき、回転翼にかかるトルクによって示される。この基本流動性エネルギー(回転翼にかかるトルク)が低い程、ダマが少なくフワフワ感がある粉末であることを示す。本発明の窒化ホウ素粉末は、この上記基本流動性エネルギーが、100mJ以下であり、この値からも、ダマ(凝集物)が少なく、フワフワ感を有する粉末であることが理解される。
【0026】
<窒化ホウ素粉末の製造>
本発明において、改質処理に供する窒化ホウ素粉末は、それ自体公知の種々の方法により製造することができ、例えば、メラミン法や還元窒化法が代表的な製造法として知られている。既に説明した通り、これら何れの方法で製造した場合にも、得られる粉末は、粉末を構成する粒子の表面にOHやCNなどの官能基やBなどの不純物が存在しており、これらは、酸洗浄などにより完全に除去されず、結果として得られる粉末を、所定の条件で摩擦帯電させると、負極性に帯電することとなる。
【0027】
例えば、メラミン法は、ホウ酸とメラミンを1000℃程度の温度で反応させて低結晶性窒化ホウ素粉末を得た後、この粉末を、1700~2200℃程度の温度で加熱して窒化ホウ素粉末を高結晶化させ、さらに、反応生成物中に存在する窒化ホウ素以外の副生成物を洗浄除去する方法である。
また、還元窒化法は、含酸素ホウ素化合物、カーボン源および含酸素アルカリ土類金属化合物を、窒素雰囲気下にての加熱により還元窒化させて非晶質の窒化ホウ素を得た後、さらに高温での加熱により結晶化を行って六方晶窒化ホウ素粉末を得た後、反応生成物中に存在する窒化ホウ素以外の副生成物を酸洗浄により除去する方法である。
【0028】
本発明では、何れの方法により窒化ホウ素粉末を製造してもよいが、メラミン法では、加熱工程が長時間である上に、解砕、粉砕、分級等の中間または後処理工程を必要とする場合が多く、製造コストが高くなる。これに対して、還元窒化法では、加熱工程が短時間であり、中間・後処理工程も少ないため製造コストを低減することができる。また、還元窒化法により得られる窒化ホウ素粉末は、本来一次粒子の強固な凝集が少なく、且つ、粒径が揃っているため、解砕、粉砕、分級等の負担が少なく、特に化粧料の用途に適した一次粒子形状を得る上で有利であり、さらには、後で詳述する加熱処理による改質効果が顕著に表れるというメリットもある。従って、本発明では、還元窒化法が好適に採用される。
【0029】
<還元窒化法による窒化ホウ素粉末の製造>
以下、還元窒化法による窒化ホウ素粉末の製造方法について説明する。
この方法では、上記で述べたように、原料として、含酸素ホウ素化合物、カーボン源および含酸素アルカリ土類金属化合物を使用し、これら原料を混合し、原料混合物を窒素雰囲気下で反応させ(還元窒化)、次いで副生物や不純物を除去する。
【0030】
含酸素ホウ素化合物;
ホウ素源として使用される含酸素ホウ素化合物は、特に制限されるものではないが、例えば、ホウ酸、無水ホウ酸、メタホウ酸、過ホウ酸、次ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム等が使用できる。一般的には入手が容易なホウ酸が好適に用いられる。
【0031】
カーボン源;
カーボン源としては、特に制限されるものではないが、例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー等の非晶質炭素の他、ダイヤモンド、グラファイト、ナノカーボン等の結晶性炭素、モノマーやポリマーを熱分解して得られる熱分解炭素等が使用できる。一般的には安価なカーボンブラックが用いられる。
【0032】
このカーボン源は、含酸素ホウ素化合物の還元剤として機能するものである。カーボン源の添加量を増やすと窒化ホウ素粉末の収率が高まるが、過度に添加するとカーボンが不純物として残ってしまう。逆に、カーボン源の添加量を減らすと窒化ホウ素粉末の収率が低下してしまう。カーボン源の添加量は特に制限されるものではないが、含酸素ホウ素化合物とカーボン源との割合は、B/C(元素比)が0.5~1.0となるように設定されることが好ましい。
【0033】
含酸素アルカリ土類金属化合物;
含酸素アルカリ土類金属化合物は、結晶化触媒として機能するものである。このような含酸素アルカリ土類金属化合物は、特に制限されるものではないが、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、シュウ酸マグネシウム、シュウ酸カルシウム等が使用でき、これら2種類以上を混合して使用することも可能である。
【0034】
含酸素アルカリ土類金属化合物の添加量を増やすと得られる窒化ホウ素粒子の粒径が大きくなり、添加量を減らすと得られる窒化ホウ素粒子の粒径が小さくなる。従って、この添加量によって、目的とする窒化ホウ素粒子の粒径を調整することができる。前述した一次粒子形状の窒化ホウ素粉末を得るという観点からは、通常、酸化物換算での含酸素アルカリ土類金属化合物(MO;Mはアルカリ土類金属)と含酸素ホウ素化合物(B)とのモル比(MO/B)が0.01~1.00となる範囲で添加するのがよい。
【0035】
原料混合;
上記原料(含酸素ホウ素化合物、カーボン源および含酸素アルカリ土類金属化合物)の混合方法は特に制限されず、振動ミル、ビーズミル、ボールミル、ヘンシェルミキサー、ドラムミキサー、振動撹拌機、V字混合機等の一般的な混合機を用いて行われる。
【0036】
還元窒化;
前記原料混合物を用いての還元窒化は、該原料混合物を窒化炉内に供給し、窒素雰囲気下で加熱することにより行われ、これにより、含ホウ素化合物が還元窒化され、窒化ホウ素が得られる。
この反応は、1200℃以上で進行し、下記式で表される。
+3C+N→2BN+3CO
【0037】
この還元窒化により、非晶質の窒化ホウ素が得られ、さらに高温での加熱、例えば1700℃以上の加熱により結晶化させて六方晶窒化ホウ素粉末が得られる。
【0038】
従って、上記の還元窒化反応は、1200℃以上、特に1300℃以上の温度に加熱され、窒化ホウ素生成後も加熱が続けられ、1700℃以上の高温での加熱により結晶化が行われることとなるが、このような加熱に際しては、反応生成物中のカーボン量を制御することが重要である。具体的には、窒素雰囲気下で、1550℃の温度に至るまでにカーボン濃度が5質量%以下となるように反応を進行させることが好ましい。カーボンが5質量%よりも多く残存していると、CaB等の黒色不純物が生成してしまうからである。反応混合物中のカーボン濃度は、蛍光X線分析装置を用いて管理することができ、工業的には、カーボン濃度が1質量%程度にまで減少していれば十分である。
【0039】
尚、1550℃の温度に至るまでに反応物中のカーボン濃度が5質量%以下前記範囲を満足しているかどうかの確認する方法は、特に制限されない。例えば、1550℃の温度における反応物中のカーボン濃度を測定することにより直接的に管理することができるが、予め実験を行い、前記温度プロファイルを含む窒化炉の運転条件において反応物中のカーボン濃度が5質量%以下となる時間を特定し、この運転条件にしたがっての処理時間により管理することが工業的に好適である。上記処理時間は、運転条件により異なり一概には決定できないが、一般に、1200℃以上の温度において、2~10時間、特に、3~8時間の範囲である場合が多い。
【0040】
結晶化;
上記の還元窒化後においても加熱が続行され、1700℃以上、特に1700~2200℃での熱処理により、非晶質の窒化ホウ素は結晶化され、六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。
【0041】
この熱処理の温度と保持時間は、目的とする窒化ホウ素粒子の粒径に応じて適宜調整することが可能であり、より低温度、より短時間で熱処理すると、より小粒径の窒化ホウ素粒子が得られやすく、より高温度、より長時間で熱処理すると、より大粒径の窒化ホウ素粒子が得られやすい。熱処理時間は、通常、0.5~6時間、好ましくは1~4時間である。
【0042】
尚、窒化炉内での窒素雰囲気は、公知の手段によって形成することが出来る。窒化炉内に導入されるガスとしては、上記窒化処理条件でホウ素に窒素を与えることが可能なガスであれば特に制限されず、窒素ガス、アンモニアガスを使用することも可能であり、窒素ガス、アンモニアガスに、水素、アルゴン、ヘリウム等の非酸化性ガスを混合したガスも使用可能である。
【0043】
また、窒化炉としては、反応雰囲気制御の可能な公知のものを使用することができ、例えば、高周波誘導加熱やヒーター加熱により加熱処理を行う雰囲気制御型高温炉が挙げられる。さらに、バッチ炉の他、プッシャー式トンネル炉、縦型反応炉等の連続炉も使用可能である。
【0044】
酸洗浄;
上記のようにして得られる六方晶窒化ホウ素粉末は、ホウ酸カルシウム等の化合物を不純物として含んでいるため、酸を用いて洗浄することで、高純度かつ高結晶性の六方晶窒化ホウ素粉末が得られる。ホウ酸カルシウム等の化合物が多量に残存していると、後述の加熱による改質処理の効果が得られ難く、ダマが少ない窒化ホウ素粉末が得られ難い。
【0045】
酸洗浄の方法は特に制限されず、公知の方法が採用される。例えば、窒化処理後に得られた不純物含有窒化ホウ素の粉末もしくは塊状物を手で解して容器に投入し、該不純物含有窒化ホウ素粉末の5~10倍量の希塩酸(10~20質量%HCl)を加え、4時間以上接触せしめる方法などが挙げられる。酸洗浄に用いる酸としては、塩酸以外にも、硝酸、硫酸、酢酸等を用いることもできる。
【0046】
上記酸洗浄の後は、常法に従い純水を用いての洗浄が行われ、残存する酸が除去される。水洗の方法としては、上記酸洗浄時の酸をろ過した後、使用した酸と同量の純水に酸洗浄された窒化ホウ素粉末を分散させ、再度ろ過する。さらに、ろ液が中性になるまで純水による洗浄とろ過を繰り返す。
酸洗浄および水洗浄後は乾燥が行われる。この乾燥は、50~250℃の大気乾燥により行うことができるし、減圧下での乾燥により行うこともできる。乾燥時間は、含水率が0%に限りなく近づくまで乾燥することが好ましく、一般には、前記温度で1~48時間行うことが推奨される。
【0047】
上記のように、酸洗浄および水洗が行われ、不純物が取り除かれた窒化ホウ素粉末は、必要に応じて公知の方法により、粉砕、解砕、分級等の処理を行った後、次の改質処理が行われる。
【0048】
<窒化ホウ素粉末の改質処理>
上記のようにして得られる窒化ホウ素粉末は、反応条件等の調整により、一次粒子形状(例えば平均長径、平均厚み及びアスペクト比)を化粧料に適したものとすることはできるが、ダマが多く、重質感のある粉末である。本発明においては、以下の改質処理によって、ダマが著しく低減させ、フワフワ感(軽量感)のある粉末に改質するわけである。
【0049】
本発明において、この改質処理は、窒化ホウ素粉末を1300~2200℃の温度で熱処理することにより行われるのであるが、重要なことは、この熱処理を不活性ガスの流通下で行うということである。
【0050】
即ち、所定温度に加熱されている不活性ガスの流通下に窒化ホウ素粉末を配置し、流動する不活性ガスを窒化ホウ素粉末に接触させることにより、熱処理(即ち、改質処理)が行われるわけである。このような処理によって、ダマが少なく、フワフワ感のある窒化ホウ素粉末が得られる。
このように不活性ガスの流通下での熱処理により、粉末を構成する粒子表面に微量存在する官能基や不純物が熱分解し且つ熱分解物が取り除かれ、摩擦帯電性が変化し、所定条件下での摩擦帯電試験による電圧密度が+1V/g以上となり、またアバランシェエネルギーは40mJ/kg以下となり、ダマが抑制され、フワフワ感のある改質窒化ホウ素粉末が得られるのである。
【0051】
上記の改質処理(加熱処理)において、不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスが代表的であるが、窒素も使用できるし、経済性の観点から、窒素が好ましい。また、これらの混合ガスを使用することもできる。
【0052】
また、不活性ガスの流通条件は、窒化ホウ素粉末の表面付近に存在するガスを拡散し、その一部を排気し得るように行うものであれば、態様は特に制限されない。例えば、窒化ホウ素粉末の層上に不活性ガスを供給し、排出することにより流通させる態様、不活性ガスにより窒化ホウ素粉末を流動させながら一部の不活性ガスを置換(供給、排出)することにより流通する態様(いわゆる流動床による態様)等が採用される。中でも、窒化ホウ素粉末を流動させることが、効率よく、改質を行うことができるうえで好ましい。
【0053】
さらに、不活性ガスの流通量は、前記加熱処理の態様や処理温度、装置内部の構造等により異なり、一概には決定できないが、処理する窒化ホウ素粉末の体積1Lあたり、0.02~5L(25℃における体積)/分(min)が適当である。また、流動床を使用して窒化ホウ素粉末を流動せしめて処理する態様においては、不活性ガスの流通量を少なくしても十分な処理が可能であり、具体的には、処理する窒化ホウ素粉末の体積1Lあたり、0.02~0.5L(25℃における体積)/分(min)、特に、0.05~0.3L(25℃における体積)/分(min)で処理が可能である。
【0054】
前記加熱処理の温度は、先に述べたように、1300~2200℃であるが、この温度が低すぎるとダマを十分低減する効果が得られず、また処理に時間がかかってしまい、この温度が高すぎると、熱エネルギーや装置コストが高くなり、経済的に不利になる。従って、この加熱温度は、1400~2000℃が好ましく、1500~1950℃がより好ましい。さらに、加熱保持時間は、不活性ガスの処理条件や加熱温度によっても異なるが、粉末の電圧密度(摩擦帯電量)が+1V/g以上、好ましくは+10V/g以上、より好ましくは+30V/g以上となるように設定されればよく、通常、0.2~20時間、特に0.5~10時間程度である。
【0055】
尚、上述した改質処理は、先に述べた還元窒化と同様、反応雰囲気制御の可能な公知の装置、例えば、高周波誘導加熱やヒーター加熱により加熱処理を行う雰囲気制御型高温炉を用いて行うことができ、バッチ炉の他、プッシャー式トンネル炉、縦型反応炉等の連続炉も使用可能である。
【0056】
尚、上述した本発明の改質処理では、粉末の着色度を調整することができる。即ち、窒化ホウ素中に窒素空孔を多く生成させると窒化ホウ素の白色度が低下し、黄色度が増加して人肌の色に近い化粧料に適した改質窒化ホウ素粉末が得られる。例えば、不活性ガスとして希ガスを使用したときには、加熱温度を1700~2200℃の範囲に設定することにより、Lab表色系における黄色度(b値)が4以上と高く、人肌に近い色の改質窒化ホウ素粉末が得られる。
一方、白色度が高い改質窒化ホウ素粉末を得るためには、窒素ガスを使用し、加熱温度を1300℃以上、2200℃未満、特に1300~2000℃、さらに好ましくは1500~2000℃の範囲に設定すればよく、最適には、1600℃以下とすることが好適である。これにより、Lab表色系において、白色度(L値)は、99.0以上、赤色度(a値)は-0.5~0、黄色度(b値)は0~2.0の範囲にある白色度の高い改質窒化ホウ素粉末が得られる。
このようにして得られる改質窒化ホウ素粉末は、化粧料に適しており、化粧料に配合することにより、展延性や肌に対する付着性を大きく向上させることができる。
【実施例
【0057】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
以下の実施例および比較例において、各種試験ないし測定は、以下の方法によって行った。
【0059】
(1)平均長径、平均厚み、アスペクト比
エポキシ樹脂(ヘンケル社製、EA E-30CL)100質量部中に窒化ホウ素粉末10質量部を分散し、得られた樹脂組成物を減圧脱泡した後、10mm角、厚さ1mmの型枠に流し込み、温度70℃にて硬化させた。
【0060】
次いで、硬化した樹脂組成物を型枠から抜き出し、両面が並行になるように両面を研磨した後、さらに、樹脂組成物の厚み方向に垂直な面のうち一方の面について、その中央を断面ミリング加工し、その加工面を倍率2500倍の条件でSEMにより画像を撮影した。
得られた画像の中から窒化ホウ素粒子100個を無作為に選び、粒子の長辺(=長径)と短辺(=厚み)を拡大倍率を考慮して測定し、各平均値をそれぞれ平均長径(μm)、平均厚み(μm)とし、さらに、これらの値からアスペクト比(平均長径/平均厚み)を算出した。
【0061】
(2)メディアン径(D1:μm)
窒化ホウ素粉末0.3gを50ccのエタノールに入れた後の窒化ホウ素懸濁液についてレーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製LA-950V2)を用いて、粒度分布を測定し、求められた体積基準の平均粒径(D50)をメディアン径(D1)とした。
【0062】
(3)メディアン径(D2:μm)
窒化ホウ素粉末0.3gを50ccのエタノールと共に、容積100cc、直径4cmのスクリュー管瓶に投入し、0.2cmの直径を有するプローブを水中に1cm挿入した状態で、室温下、上記プローブより100Wの出力で20分間超音波を作用せしめた後の窒化ホウ素懸濁液について、メディアン系(D1)と同様、粒度分布を測定し、求められた体積基準の平均粒径(D50)をメディアン径(D2)とした。
【0063】
(4)Lab表色系による白色度、赤色度、黄色度
日本電色工業社製ZE6000を用いて、白色度(L値)、赤色度(a値)、黄色度(b値)を測定した。
なお、測定は、直径30mm、高さ13mmの石英ガラス製セルに窒化ホウ素粉末を充填して行った。
【0064】
(5)軽装嵩密度、タップ嵩密度
セイシン企業製タップデンサーKYT-5000を用いて、軽装嵩密度(g/cm)およびタップ嵩密度(g/cm)を測定した。
試料セルは100ml、タップ速度120回/分、タップ高さ5cm、タップ回数500回の条件で測定した。
【0065】
(6)溶出ホウ素量
医薬部外品原料規格2006に準じた方法で溶出ホウ素を抽出し、ICP発光分光分析装置でホウ素量(ppm)を測定した。
【0066】
即ち、窒化ホウ素粉末2.5gをテフロン(登録商標)製ビーカーにとり、エタノール10mLを加えてよくかき混ぜ、更に水40mLを加えてよくかき混ぜた後、テフロン(登録商標)製時計皿をのせ、50℃で1時間加温した。
冷却後、ろ過し、残留物を少量の水で洗い、洗液をろ液と混合した。この液を更にメンブランフィルター(0.22μm)でろ過した。ろ液全量をテフロン(登録商標)製ビーカーにとり、硫酸1mLを加え、ホットプレート上で10分間煮沸した。
冷却後、この液をポリエチレン製メスフラスコに入れ、テフロン(登録商標)製ビーカーを少量の水で洗い、ポリエチレン製メスフラスコに合わせた後、水を加えて正確に50mLとし、これを試料溶液とし、該試料溶液のホウ素量をICP発光分光分析装置で測定した。
【0067】
(7)電圧密度(V/g)
回転ドラム式の粉体流動性測定装置としてMercury Scientific社製のREVOLUTIONを用いて摩擦帯電試験を行い、電圧密度(V/g)を測定した。
具体的には、標準回転ドラムに、窒化ホウ素粉末100ccを入れ、イオナイザーで除電した後、回転ドラムの回転数10rpm、300秒間回転中の帯電量(V)を測定した。
回転ドラムの回転開始直後は帯電量(V)が著しく変動して不安定なため、200~300秒の安定時の帯電量(V)の平均を算出し、回転ドラムに入れた窒化ホウ素粉末の重量(g)で除した値を電圧密度(V/g)とした。
なお、上記の標準回転ドラムは、内面がアルマイト処理アルミニウムにより形成された円筒形状を有しており、該円筒の両面のそれぞれに、ボロン-シリケートガラス製の窓が取り付けられており、ドラム容量が332ccとなっている。
【0068】
(8)アバランシェエネルギー
帯電密度の測定でも使用された粉体流動性測定装置を用いて流動性試験を行い、アバランシェエネルギー(mJ/kg)を測定した。
具体的には、上記の標準回転ドラムに窒化ホウ素粉末100ccを入れ、イオナイザーで除電した後、回転数0.3rpmで回転ドラムを回転させたときに発生したなだれのアバランシェエネルギー(なだれ前後の位置エネルギーの変化)(mJ/kg)を測定し、なだれ150回分の平均値をアバランシェエネルギー(mJ/kg)とした。
【0069】
(9)流動化性試験による粉体層の高さ
上記の粉体流動性測定装置を用いて流動化性試験を行い、粉体層の高さ(cm)を測定した。
具体的には、上記の標準回転ドラムに窒化ホウ素粉末100ccを入れ、イオナイザーで除電した後、所定の回転数(20、50rpm)で回転ドラムを回転させたときの粉体層の高さ(粉体層の低いところの高さ)(cm)を測定した。
この粉体層の高さ(cm)は、粉体の流動化のし易さを示す指標であり、流動化しやすい粉体ほど大きくなる傾向がある。
【0070】
尚、実施例の結果をまとめた表中、「※」は、前記電圧密度が高く、粉体が帯電してドラム壁面に付着し、正しく測定できなかったことを示す。
【0071】
(10)動的流動性試験による基本流動性エネルギー
マルバーン社製のパウダーレオメーターFT-4を用いて動的流動性試験を行い、基本流動性エネルギー(mJ)を測定した。
具体的には、高さ89mmの160mLスプリット容器の上に高さ51mmの円筒を載せた容器に、高さ89mmを超える量の窒化ホウ素粉末を入れ、コンディショニング(回転翼の先端スピード60mm/sec、進入角度5°)を4回行った後、スプリット容器の上に載せた円筒をスライドさせて窒化ホウ素粉末をすり切った。
次いで、回転翼の先端スピード100mm/sec、進入角度-5°で容器の底面からの高さ100mmから10mmまで移動しながら回転翼にかかるトルク(mJ)を測定し、該トルクの値を基本流動性エネルギー(mJ)とした。基本流動性エネルギー(mJ)は、粉体の流動性を示す指標であり、流動性が良い粉体ほど小さくなる傾向がある。
【0072】
<実施例1>
ボールミルを用いて下記処方の混合物を調製した。
酸化ホウ素70g
カーボンブラック30g
炭酸カルシウム10g
この混合物を、黒鉛性タンマン炉内に配置し、窒素ガス雰囲気下、15℃/分で1500℃まで昇温し、1500℃で6時間保持して還元窒化処理を行い、続いて15℃/分で1800℃まで昇温し、1800℃で2時間保持して結晶化処理を行い、粗六方晶窒化ホウ素粉末を得た。
【0073】
次いで、得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末をポリエチレン製の容器へ投入し、粗六方晶窒化ホウ素の10倍量の塩酸水溶液(10質量%HCl)を加え、回転数300rpmで15時間撹拌した。
上記の酸洗浄の後、酸を濾過し、投入した粗六方晶窒化ホウ素の300倍量の25℃における比抵抗が1MΩ・cmの純水を用いて再度洗浄の後、吸引による濾過により濾過後の粉末中含水率が50mass%以下になるまで脱水を行った。
【0074】
純水洗浄の後、得られた粉末を1kPaAの圧力のもと、200℃で15時間、減圧乾燥させ、白色の窒化ホウ素粉末を得た。この窒化ホウ素粉末はダマが多いものであった。
【0075】
得られた窒化ホウ素粉末を窒化ホウ素で表面コーティングされたカーボン製容器(内径400mm、内高50mm)に密度0.20g/cm、高さ45mmで充填し、これを10段重ねて内容積1,000Lの黒鉛製タンマン炉に配し、炉内への窒素ガス流量を40L(25℃における体積)/分として、15℃/分で1500℃まで昇温し、1500℃で4時間保持することにより改質処理を行った。冷却後、得られた改質窒化ホウ素粉末はダマが少ないものであった。
なお、前記カーボン製容器は、粉体層の上部を窒素が流通するように、各段との間に窒素の流路を設けたものである。
【0076】
得られた改質窒化ホウ素粉末について、前記(1)~(10)の測定を行った。窒化ホウ素粉末の製造条件及び改質処理条件を表1に示し、測定結果を表3に示す。
なお、表1において、還元窒化の項で示されている最高温度は、還元窒化反応後の結晶化プロセスを含めた還元窒化プロセス全体での最高温度である。これは、後述する表2及び表5でも同様である。また、表1及び表2において、流動化の項において、「×」は、改質処理する粉末を流動させず、静置した状態で不活性ガスを流したことを示す。また、表2において、「〇」は、流動床で改質処理を行ったことを意味する。
【0077】
また、改質窒化ホウ素粉末のダマ発生状態について、目視検査を行い、下記の判定基準で評価し、表3に併せて示した。(表6の判定基準も同じ)
◎:ダマが殆どなくフワフワしている。
〇:若干ダマが観察されるがフワフワしている。
×:多くのダマが観察され、重質感がある。
【0078】
<実施例2~7、11、比較例1~6>
実施例1の炭酸カルシウムの割合、還元窒化後の結晶化における最高温度および最高温度保持時間、改質処理(加熱処理)における粉体の充填密度、不活性ガスの種類、不活性ガスの流量、処理温度、温度保持時間を変更して、改質窒化ホウ素粉末を作製した。
実施例での窒化ホウ素粉末の製造条件及び改質処理条件を表1又は2に示し、測定結果を表3または4に示した。また、比較例での窒化ホウ素粉末の製造条件及び改質処理条件を表5に示し、測定結果を表6に示した。
【0079】
<実施例8>
実施例1と同様にして、粗六方晶窒化ホウ素粉末を得た。
次いで、得られた粗六方晶窒化ホウ素粉末をポリエチレン製の容器へ投入し、粗六方晶窒化ホウ素の10倍量の塩酸水溶液(10重量%HCl)を加え、回転数300rpmで15時間撹拌した。該酸洗浄の後、酸を濾過し、投入した粗六方晶窒化ホウ素の300倍量の25℃における比抵抗が1MΩ・cmの純水を用いて再度洗浄の後、吸引による濾過により濾過後の粉末中含水率が50wt%以下になるまで脱水を行った。
【0080】
純水洗浄の後、得られた粉末を1kPaAの圧力のもと、200℃で15時間、減圧乾燥させ、白色の窒化ホウ素粉末を得た。当該窒化ホウ素粉末はダマが多いものであった。
【0081】
該窒化ホウ素粉末について、流動化させるために必要なガス流速を把握するため、Mercury Scientific社製の粉体流動性測定装置REVOLUTIONを用いて通気試験を行った。通気試験の方法は、前記(10)の動的流動性試験と同様であるが、160mLスプリット容器の底部からエアーを供給しながら行う点で異なり、エアー流速を徐々に上昇させながら、回転翼にかかるトルク(mJ)を測定する。トルクの変化が小さくなったところが流動化開始流速(mm/sec)であり、当該窒化ホウ素粉末の流動化開始流速は3.0mm/secであった。
【0082】
次いで、上記の窒化ホウ素粉末600g(約5L)を窒化ホウ素で表面コーティングされたカーボン製容器(内径150mm、内高600mm)に充填した。当該容器の底にはガス供給口が設けられており、多孔板を介して容器内部へガスが供給され、容器上部へガスが抜ける構造になっている。
【0083】
窒化ホウ素粉末が充填された容器を黒鉛製タンマン炉に配し、容器内への窒素ガス流量を0.6L(25℃における体積)/分として、15℃/分で1300℃まで昇温し、1300℃で4時間保持して改質処理を行った(1300℃における窒素流速は3.0mm/secである)。冷却後、得られた改質窒化ホウ素粉末はダマができずフワフワしたものであった。
窒化ホウ素粉末の製造条件及び改質処理条件を表2に示し、測定結果を表4に示した。
【0084】
<実施例9、10>
実施例8の改質における不活性ガスの種類、不活性ガスの流量、処理温度を表2に示すように変更して、改質窒化ホウ素粉末を得た。改質窒化ホウ素粉末についての測定結果は表4に示した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
[化粧品試験]
前記実施例及び比較例により得られた改質窒化ホウ素粉末を用いて、以下の配合割合(ただし、実施例6、7、10、比較例5の改質窒化ホウ素粉末については、パウダーファンデーションの色味が他の白色窒化ホウ素を用いた場合と同等になるよう、赤酸化鉄、黄酸化鉄、黒酸化鉄の割合を適当に調整した。)でパウダーファンデーションを作製した。
【0092】
六方晶窒化ホウ素粉末 20.0質量%
マイカ 15.0質量%
合成金雲母 12.0質量%
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル 8.0質量%
(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)
クロスポリマー 8.0質量%
(ジフェニルジメチコン/ビニルジフェニルジメチコン/
シルセスキオキサン)クロスポリマー 8.0質量%
ナイロン12 3.0質量%
シリカ 3.0質量%
タルク 3.0質量%
アクリレーツクロスポリマー 3.0質量%
パーフルオロオクチルトリエトキシシラン 3.0質量%
酸化亜鉛 3.0質量%
ポリメチルメタクリレートポリマー 3.0質量%
シリコーン処理ベンガラ(赤酸化鉄) 1.0質量%
シリコーン処理黄酸化鉄 0.6質量%
シリコーン処理黒酸化鉄 0.4質量%
シリコーン処理酸化チタン 6.0質量%
【0093】
得られたパウダーファンデーションを化粧スポンジに取り、肌に塗布したところ、表3及び表4に示す目視検査において、◎のものは1度の塗布で均一な仕上がりとなったが、表6において○のもの、×のものについては、1度の塗布では塗りムラができてしまい、2~3度塗らないと均一な仕上がりにならなかった。
また、実施例6、7、10、比較例5の人肌の色に近い改質窒化ホウ素粉末を用いたパウダーファンデーションは、他の白色度の高い改質窒化ホウ素粉末を用いた場合よりも、より自然な仕上がりが得られた。