(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】病理検査向けコントロールスライドガラス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20250124BHJP
G01N 1/30 20060101ALI20250124BHJP
【FI】
G01N33/48 P
G01N1/30
(21)【出願番号】P 2023527580
(86)(22)【出願日】2022-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2022020043
(87)【国際公開番号】W WO2022259810
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2021095160
(32)【優先日】2021-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 泰
(72)【発明者】
【氏名】丸山 優史
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 広貴
(72)【発明者】
【氏名】桜井 智也
(72)【発明者】
【氏名】松原 茂樹
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-237365(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103116018(CN,A)
【文献】特表2006-519376(JP,A)
【文献】国際公開第2009/085576(WO,A2)
【文献】特表2020-523614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0123850(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0116601(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0274006(US,A1)
【文献】RIERA Jose et al.,Use of Cultured Cells as a Control for Quantitative Immunocytochemical Analysis of Estrogen Receptor,American Journal of Clinical Pathology,1999年03月01日,Vol.111, No.3,pp.329-335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48,33/50,33/53,
G01N 1/28,1/30,
G02B 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
病理検査向けのコントロールスライドガラスであって、
前記病理検査における対照物質と、色素トラップ材料とを含むコントロールスポットをスライドガラス上に備えており、
前記対照物質が、多官能性リンカー分子によってスライドガラス上へ固定されており、
前記多官能性リンカー分子が、グルタルアルデヒド、シランカップリング剤、及び多官能性エチレングリコール系ポリマーから選択される少なくとも1種のリンカー分子を含むことを特徴とするコントロールスライドガラス。
【請求項2】
請求項1に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記対照物質が、タンパク質、ペプチド、アミノ酸のオリゴマー、及び核酸から選択される少なくとも1種の物質を含むことを特徴とするコントロールスライドガラス。
【請求項3】
請求項1に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記色素トラップ材料が、アミノ酸の重合体、糖の重合体、及び合成高分子から選択される少なくとも1種の材料を含むことを特徴とするコントロールスライドガラス。
【請求項4】
請求項3に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記アミノ酸の重合体が、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、ポリグルタミン酸、及びポリリジンから選択される少なくとも1種の重合体を含み、
前記糖の重合体が、アガロース、アルギン酸、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、メチルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースから選択される少なくとも1種の重合体を含み、
前記合成高分子が、アクリル酸系ポリマー、メタクリル酸系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー、メタクリルアミド系ポリマー、及びエチレングリコール系ポリマーから選択される少なくとも1種の重合体を含むことを特徴とするコントロールスライドガラス。
【請求項5】
請求項1に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記コントロールスポットの面積が1mm
2以上1000mm
2以下であることを特徴とするコントロールスライドガラス。
【請求項6】
請求項1に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記コントロールスポットの厚みが、0.1μm以上1000μm以下であることを特徴とするコントロールスライドガラス。
【請求項7】
請求項1に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記コントロールスポットの厚みが、0.1μm以上200μm以下であることを特徴とするコントロールスライドガラス。
【請求項8】
請求項1に記載されたコントロールスライドガラスであって、
複数のコントロールスポットを有することを特徴とするコントロールスライドガラス。
【請求項9】
請求項
8に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記コントロールスポット1つあたりの面積が1mm
2以上200mm
2以下であることを特徴とするコントロールスライドガラス。
【請求項10】
請求項1に記載されたコントロールスライドガラスであって、
対照物質が、蛍光標識された対照物質を含むことを特徴とするコントロールスライドガラス。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記コントロールスポットが、多孔質状、膨潤ゲル状、又はキセロゲル状であることを特徴とするコントロールスライドガラス。
【請求項12】
請求項1に記載されたコントロールスライドガラスを製造する方法であって、
対照物質と、色素トラップ材料とを含む混合物を調製する工程、及び
前記混合物を含むコントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項
12に記載された方法であって、
前記混合物が、細管状に固化された混合物であり、
該混合物を薄膜状に切断し、薄膜状の混合物をスライドガラスへ貼り付けることにより、コントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載されたコントロールスライドガラスを製造する方法であって、
対照物質をスライドガラス上に固定する工程、及び
固定された対照物質上に、色素トラップ材料を塗布することにより、コントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病理検査向けコントロールスライドガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病理検査とは、患者から採取した細胞・組織をスライドガラスに貼付けた検体標本を作製し、観察、例えば顕微鏡レベルでの観察を行うことで病変の有無や種類を診断する手法である。病理検査では、無色の細胞・組織から病変を見抜くために、細胞・組織の構成要素に対する染色手法が不可欠である。
【0003】
病理検査に用いられる染色手法の1つとしては、例えば免疫染色がある。免疫染色では、抗体試薬により、細胞・組織に発現する特定の抗原を検出する。検査対象となる抗原の局在を可視化できることから病理検査において極めて重要な染色手法である。
【0004】
免疫染色は、一般に確定診断に使用されることが多いため、適切な染色結果が得られているかを判断する必要がある。染色結果の信頼性を得るために、医療現場においては、検体の染色と共に、あらかじめ染色されることが分かっているコントロールを対照染色することが強く推奨されている。
【0005】
検体と対照物質を同時に染色可能なスライドガラスとして、対照物質を導入したスライドガラスが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/143717号
【文献】国際公開第2018/181483号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2で提案されている対照物質を導入したスライドガラスは、いずれも対照物質が最表面に固定化されているため、免疫染色時に対照物質から発生した色素が検体に流出することや、対照物質の安定性が低い恐れがあった。
【0008】
そこで本開示では、病理検査における精度管理を目的として、対照物質の染色により発生した色素が流出することを抑制可能な形態で、対照物質を備えるコントロールスライドガラスを提供することを目的の一つとする。
【0009】
また、本開示では、前記目的を達成することが可能なコントロールスライドガラスを製造する方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態の態様例は、以下の通りである。
【0011】
病理検査向けのコントロールスライドガラスであって、
前記病理検査における対照物質と、色素トラップ材料とを含むコントロールスポットをスライドガラス上に備えることを特徴とするコントロールスライドガラス。
【0012】
前記コントロールスライドガラスを製造する方法であって、
対照物質と、色素トラップ材料とを含む混合物を調製する工程、及び
前記混合物を含むコントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することを特徴とする方法。
【0013】
前記コントロールスライドガラスを製造する方法であって、
対照物質をスライドガラス上に固定する工程、及び
固定された対照物質上に、色素トラップ材料を塗布することにより、コントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することを特徴とする方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2021-095160号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0014】
本開示により、一枚のスライドガラス上で検体と対照物質とを同時に染色可能なコントロールスライドガラスを提供すること、及びコントロールスライドガラスの製造方法を提供することができる。本開示のコントロールスライドガラスは、対照物質の染色により発生した色素が流出することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本実施形態のコントロールスライドガラスの一態様を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は本実施形態のコントロールスライドガラスの一態様を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は実施例3で試験したコントロールスライドガラスの染色結果である。
【
図4】
図4は実施例4で試験したコントロールスライドガラスの染色結果である。
【
図5】
図5は比較例1で試験したスライドガラスの染色結果である。
【
図6】
図6は比較例2で試験したスライドガラスの染色結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態の一態様は、病理検査向けのコントロールスライドガラスであって、前記病理検査における対照物質と、色素トラップ材料とを含むコントロールスポットをスライドガラス上に備えることを特徴とするコントロールスライドガラスである。
【0017】
前記態様により、一枚のスライドガラス上で検体と対照物質とを同時に染色可能なコントロールスライドガラスを提供することができる。なお、コントロールスライドガラスとは、コントロールスポットと、検体標本を載せ染色するための部分とを有するスライドガラスを意味する。前記態様のコントロールスライドガラスは、対照物質の染色により発生した色素が流出することを抑制できる。
【0018】
本実施形態の一態様は、前記コントロールスライドガラスを製造する方法であって、対照物質と、色素トラップ材料とを含む混合物を調製する工程、及び前記混合物を含むコントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することを特徴とする方法である。
【0019】
また、本実施形態の一態様は、前記コントロールスライドガラスを製造する方法であって、対照物質をスライドガラス上に固定する工程、及び固定された対照物質上に、色素トラップ材料を塗布することにより、コントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することを特徴とする方法である。
【0020】
これらの態様により、前記コントロールスライドガラスを製造することができる。
【0021】
以下、本実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、適宜図面を用いて、本実施形態について説明する。以下の説明は本実施形態の内容の具体例を示すものであり、本実施形態がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0022】
[コントロールスライドガラス]
本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、病理検査向けのコントロールスライドガラスであって、前記病理検査における対照物質と、色素トラップ材料とを含むコントロールスポットをスライドガラス上に備えることを特徴とする。本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、コントロールスポットに色素トラップ材料を含むため、染色時におけるコントロールスポットからの色素流出を抑制することができる。コントロールスライドガラスは通常は、病理検査の中でも免疫染色等の染色を伴う検査に用いられる。本実施形態に係るコントロールスライドガラスを提供することで、病理検査における染色手法の診断精度が向上する。また対照物質を、染色色素流出を抑制する形態で備えるため、染色色素の外部流出に起因する偽陽性の発生を防ぐことができる。
【0023】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、検体標本を載せて使用する。検体標本を載せた状態で、検体標本と、コントロールスポットとを同時に染色することで、検体と対照物質とを同条件の下で染色することができる。例えば、免疫染色における酵素抗体法では、抗体を用いて特定の抗原を検出するが、この染色手法では、一般的に、一次抗体と酵素標識抗体との抗原抗体反応、それに続く、発色色素の酵素反応等、多段階の正常な反応の進行が必要である。多段階の正常な反応とは、例えば、特定の抗原に一次抗体が特異的に結合し、一次抗体に酵素標識抗体が特異的に結合し、発色色素の酵素反応が進行するような反応である。
【0024】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスを用いることにより、前述する多段階の正常な反応の進行を確認することができる。コントロールスライドガラスは例えば、病理検査向けの自動染色装置で使用することによって、自動染色装置が正常に起動していることを確認することができる。
【0025】
一般に、病理染色向けコントロールスライドガラスは、以下の3つの特性を有することが理想となるが、これらをすべて満たすようなコントロールスライドガラスはこれまでに実現されていなかった。
(1)検体と対照物質とが同時に染色されること。免疫染色は、複数の染色試薬を順次添加、混合、加温等することで実施するが、各染色試薬に異常がないこと、また各工程が適切に実施されたこと等を、同条件の下で確認するコントロール検査が必要である。
(2)染色時に色素が外部に流出しないこと。検体と対照物質を同時に染色する設計では、対照物質の染色時に、コントロールスポットから外部へ色素が流出した場合には、流出した色素により本来染色されないはずであった検体が染色する(偽陽性が生じる)恐れがある。
(3)対照物質の保存安定性が高いこと。コントロールスライドガラスは、使用時まで保存されていることが望ましいが、スライドガラス上に導入された対照物質は、外気に触れた状態では乾燥・酸化し、本来の染色結果が得られない恐れがある。
【0026】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、上記(1)~(3)の特性を有するため、病理検査向けのコントロールスライドガラスとして、極めて有用である。
【0027】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、コントロールスポットをスライドガラス上に備えるため、検体の検査と同時に、コントロール検査を同条件の下で行うことができる。また、本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、コントロールスポットには、対照物質と共に、色素トラップ材料が含まれるため、対照物質の染色時に、コントロールスポットから外部へ色素が流出することを抑制することができる。さらに、コントロールスポットにおいて、対照物質が、色素トラップ材料と共に存在するため、対照物質が最表面に固定化されている場合と比べて外気との接触が減り、乾燥、酸化を抑制することが可能であると考えられる。
【0028】
本実施形態に係るスライドガラスの構成例としては、
図1で示す一態様、
図2で示す一態様が挙げられる。
【0029】
図1に示す一態様(第一の態様とも記す)では、スライドガラス1上に、対照物質2及び色素トラップ材料3を含むコントロールスポットが存在する。第一の態様においては、対照物質2は、色素トラップ材料3に包埋されており、好ましくは物理的に色素トラップ材料3に固定化されている。
【0030】
図2に示す一態様(第二の態様とも記す)においても、スライドガラス1上に、対照物質2及び色素トラップ材料3を含むコントロールスポットが存在する。第二の態様においては、対照物質2は、多官能性リンカー分子4によりスライドガラス1に固定化されている。また、通常は、対照物質2は、色素トラップ材料3に包埋されている。
【0031】
第一の態様のコントロールスライドガラスは、対照物質が、色素トラップ材料に包埋・固定化されることが好ましい。第一の態様のコントロールスライドガラスは例えば、溶液またはゾル状態の色素トラップ材料へ対照物質を混合した後、色素トラップ材料を固化する方法で製造することが可能である。対照物質は、色素トラップ材料に固定化されることで、コントロールスポットとしてスライドガラス上へ導入することができる。色素トラップ材料を固化する方法としては例えば、化学的架橋剤を使用した化学架橋形成による方法、重合開始剤を使用した重合体形成による方法、イオン性添加物を使用した物理的ネットワーク形成による方法がある。
【0032】
第二の態様のコントロールスライドガラスは、対照物質が、スライドガラスに固定化され、色素トラップ材料に包埋されることが好ましい。第二の態様のコントロールスライドガラスは例えば、対照物質をスライドガラスへ固定化した後、溶液またはゾル状態の色素トラップ材料で被覆し、色素トラップ材料を固化する方法で製造することが可能である。この場合、対照物質は、スライドガラスに固定化されることで、スライドガラス上へ導入されることとなる。スライドガラスへの対照物質の固定化方法は、多官能性リンカー分子による固定化方法を適用することができる。また色素トラップ材料を固化する方法としては、第一の様式と同様に、例えば、化学的架橋剤を使用した化学架橋形成による方法、重合開始剤を使用した重合体形成による方法、イオン性添加物を使用した物理的ネットワーク形成による方法がある。
【0033】
対照物質とは例えば、検体にその発現が疑われる物質であり、病理検査において検出を目的とする物質である。また、対照物質の別の例としては、病理検査において検出を目的とする物質と同様の挙動を示す物質である。病理検査において同様の挙動を示す物質の例としては、検出を目的とする物質の一部若しくは一部を有する物質、又は検出を目的とする物質の修飾体が挙げられる。
【0034】
対照物質が、タンパク質、ペプチド、アミノ酸のオリゴマー、及び核酸から選択される少なくとも一種の物質を含むことが好ましい態様の一つである。これらの物質は病理検査において、検体にその発現が疑われる物質(検出を目的とする物質)であることが多いため、病理検査の種類に応じて、これらの物質を対照物質とすることが望まれる。
【0035】
例えば、免疫染色では、特定疾患のマーカータンパク質を対照物質として使用することができる。
【0036】
コントロールスライドガラスは、病理検査の際に実施される染色の中でも免疫染色の精度管理に使用されることが好ましい。この場合、対照物質は、タンパク質、ペプチドまたはアミノ酸のオリゴマーを含むことが好ましい。具体的には、特に特定疾患のマーカータンパク質や、特定疾患のマーカータンパク質と部分的な同一配列を有するペプチドが好ましい。特定疾患のマーカータンパク質としては、例えば、Ki-67、p53、CK、D2-40、CD20、CD3、ER、PGR、HER2、CD34、CD79、CD10、αSMA、S100、CD68、CK7、BCL2、CD56、p63、CD5、CK20、Synaptophysin、Vimentin、Chromogranin A、TTF-1、Desmin、CK-HMW、CD31、EMA、CD117、Cyclin D1、CD30、Myeloperoxidase、CD4、CEA、が挙げられる。
【0037】
なお、本開示において、タンパク質、ペプチド及びアミノ酸のオリゴマーは、厳密に区別されるものではないが、例えば、50個以上のアミノ酸がペプチド結合したものをタンパク質、11~49個のアミノ酸がペプチド結合したものをペプチド、2~10個のアミノ酸がペプチド結合したものをアミノ酸のオリゴマーと呼称することがある。
【0038】
コントロールスライドガラスは、免疫染色以外の染色検査の精度管理に適用してもよい。免疫染色以外の染色検査としては、例えば、細胞・組織における特定の核酸(DNAやRNA)を検出するIn situ ハイブリダイゼーション(ISH)が挙げられる。この場合は、対照物質として核酸(例えば、DNA又はRNA、若しくはこれらの断片)を用いることができる。
【0039】
色素トラップ材料としては、対照物質の染色時に、コントロールスポットから外部へ色素が流出することを抑制することができればよく、特に制限はない。色素トラップ材料としては、染色試薬の浸透性があること、染色試薬に対する非特異吸着性が低いことが望まれ、さらに透明性が高いことが望ましい。
【0040】
特定疾患のマーカータンパク質は、抗体認識部位を有することで染色されるため、上述のように対照物質として使用することができるが、外気に触れた状態で長期間放置すると乾燥・酸化されることで、抗体認識部位が変性し、正常な染色結果が得られない可能性がある。本開示に係るコントロールスライドガラスは、特定疾患マーカータンパク質等の対照物質が色素トラップ材料で包埋されることで、乾燥・酸化が抑制され、長期間の保存安定性を有する。
【0041】
例えば、免疫染色では、一般的に発色色素としてジアミノベンジジン(DAB)を使用する。DABは、酵素標識抗体により生じるペルオキシダーゼにより重合が進行し、ポリマーDAB(pDAB)となり、不溶性沈殿物として沈着することで、対照物質または対照物質の周囲を染色する。この時、色素トラップ材料がない場合には、対照物質によって生成するpDABが、同一スライドガラス上に存在する検体に到達することで、正常な染色結果が得られない可能性がある。一方で、本実施形態に係る精度管理用スライドガラスでは、色素トラップ材料があるため、色素トラップ材料へ染色試薬やDABが浸透した後に色素トラップ材料内部でpDABが生成することで、pDABの外部への流出を抑制し、正常な染色結果を得ることができる。また、本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、コントロールスポットをスライドガラス上に有し、コントロールスポットが色素トラップ材料を含むため、対照物質の乾燥を防止し、長期の保存性を期待することもできる。
【0042】
色素トラップ材料が、アミノ酸の重合体、糖の重合体、及び合成高分子から選択される少なくとも1種の材料を含むことが好ましい態様の一つである。材料は1種単独で用いても、2種以上を用いてもよい。色素トラップ材料がこれらの材料から構成されると、色素トラップ材料をスライドガラス上に固定化しやすいため好ましい。色素トラップ材料の分子量としては特に制限はないが、通常は10kDa~1000kDaである。
【0043】
アミノ酸の重合体としては、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、ポリグルタミン酸、及びポリリジンから選択される少なくとも1種の重合体を含むことが好ましい。色素トラップ材料がこれらのアミノ酸の重合体を含むと、該重合体が有する官能基を利用することにより、固化することが容易であるため好ましい。
【0044】
糖の重合体としては、アガロース、アルギン酸、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、メチルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースから選択される少なくとも1種の重合体を含むことが好ましい。色素トラップ材料がこれらの糖の重合体を含むと、該重合体が有する官能基を利用することにより、固化することが容易であるため好ましい。
【0045】
合成高分子としては、アクリル酸系ポリマー、メタクリル酸系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー、メタクリルアミド系ポリマー、及びエチレングリコール系ポリマーから選択される少なくとも1種の重合体を含むことが好ましい。色素トラップ材料がこれらの合成高分子を含むと、重合開始剤を使用した重合体形成による固化が容易であるため好ましい。
【0046】
色素トラップ材料としては、ゼラチン及びコラーゲンは、温度に依存した固液相変化を示すため、対照物質を混合した後に所定の温度で静置するだけで成型が可能であるため、特に好ましい。
【0047】
色素トラップ材料をスライドガラス上に固定化する目的で、色素トラップ材料を固化することが好ましい態様の一つである。すなわち、本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、色素トラップ材料が固化されていることが好ましい態様の一つである。固化する方法としては例えば、化学的架橋剤を使用した化学架橋形成による方法、重合開始剤を使用した重合体形成による方法、イオン性添加物を使用した物理的ネットワーク形成による方法がある。
【0048】
化学的架橋剤としては、DMT―MM(4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド)、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、パラホルムアルデヒド、スベルイミノ酸ジメチル、ゲニピン、(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリス-(ジメチルアミノ)ホスホニウム、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ピロリジノ)ホスホニウムヘキサフルオロフォスフェイト、多官能性エチレングリコール系ポリマー、及びカルボジイミド化合物から選択される少なくとも1種の化学的架橋剤が挙げられる。
【0049】
多官能性エチレングリコール系ポリマーとしては、分子量としては特に制限されることはなく、例えば、ポリ(エチレングリコール)ジアミン、ポリ(エチレングリコール)ジ(3-アミノプロピル)、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジ(ヒドロキシスクシンイミド)を用いることができる。
【0050】
カルボジイミド化合物としては、例えば、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミドメト-p-トルエンスルホナートを用いることができる。
【0051】
重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤や、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩を用いることができる。
【0052】
イオン性添加物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸三水素カルシウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、乳酸カルシウム等のカルシウム塩を用いることができる。
【0053】
前記第二の態様では、対照物質が、多官能性リンカー分子によって、スライドガラス上へ固定されている。多官能性リンカー分子としては、グルタルアルデヒド、シランカップリング剤、及び多官能性エチレングリコール系ポリマーから選択される少なくとも1種のリンカー分子を含むことが好ましい。これらのリンカー分子は、容易にスライドガラス上に対照物質を固定することができるため好ましい。多官能性リンカー分子としては、二官能性リンカー分子でも、3以上の官能基を有するリンカー分子であってもよい。
【0054】
シランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランを用いることができる。
【0055】
多官能性エチレングリコール系ポリマーとしては、二官能性エチレングリコール系ポリマーが好ましい態様の一つである。多官能性エチレングリコール系ポリマーとしては、分子量としては特に制限されることはなく、例えば、ポリ(エチレングリコール)ジアミン、ポリ(エチレングリコール)ジ(3-アミノプロピル)、ポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジ(ヒドロキシスクシンイミド)を用いることができる。
【0056】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、コントロールスポットに対照物質と、色素トラップ材料とを含み、上述の成分及びその反応物等を含んでいてもよい。また、コントロールスポットを形成する過程で使用した溶媒、例えば、水、アルコール等を含んでいてもよい。
【0057】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、コントロールスポットの面積が1mm2以上1000mm2以下であることが好ましい態様の一つである。コントロールスポットの面積は、4mm2以上200mm2以下であることがより好ましい。コントロールスポットの面積が前記範囲内にあると、病理検査を行う際の観察が容易であり、且つ生産性に優れるため好ましい。
【0058】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、一つのコントロールスポットを有するコントロールスライドガラスであってもよく、複数のコントロールスポットを有するコントロールスライドガラスであってもよい。コントロールスポットの数は、病理検査の種類、目的に応じて適宜設定することができる。
【0059】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、複数のコントロールスポットを有するマイクロアレイ型コントロールスライドガラスであってもよい。異なる種類の対照物質を有する複数のコントロールスポットをスライドガラスに設置したマイクロアレイ型コントロールスライドガラスであれば、特定の対照物質ごとにコントロールスライドガラスを製造する必要がなくなる上、免疫染色においては、複数種類の抗体から構成されるカクテル抗体を染色試薬として用いる際のコントロールとしても使用することができ、1アッセイで複数の症例の検査が正常に完了したかを調べることもできる。
【0060】
マイクロアレイ型コントロールスライドガラスでは、検査が目的としない対照物質を有するコントロールスポットを陰性コントロールスポットとして設定することができる。陰性コントロールスポットを設けることにより、あらゆる検体が染色されてしまうような染色操作の誤りが生じた際に、操作の誤りが生じたことを的確に知ることができる。コントロールスライドガラスが複数のコントロールスポットを有する場合には、複数のコントロールスポットを構成する色素トラップ材料及び対照物質は、各コントロールスポットで、異なるものを採用してもよい。
【0061】
複数のコントロールスポットを有するコントロールスライドガラス、例えばマイクロアレイ型コントロールスライドガラスは、コントロールスポット1つあたりの面積が1mm2以上200mm2以下であることが好ましく、4mm2以上50mm2以下であることがより好ましい。コントロールスポットの面積が前記範囲内にあると、病理検査を行う際の観察が容易であり、且つ生産性に優れるため好ましい。
【0062】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、コントロールスポットの厚みが、0.1μm以上1000μm以下であることが好ましい態様の一つである。特に前述の第一の態様では、染色試薬が色素トラップ材料の一部まで浸透すればよいため、免疫染色の際に実際に使われる組織切片が5μm程度であること、色素をトラップする目的、生産性の観点から、0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0063】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、コントロールスポットの厚みが、0.1μm以上200μm以下であることが好ましい態様の一つである。特に対照物質が、多官能性リンカー分子によってスライドガラス上へ固定されている態様、例えば、前述の第二の態様では、対照物質が固定されている底部まで染色試薬が浸透する必要があるので、0.1μm以上200μm以下であることが好ましく、1μm以上20μm以下であることがより好ましい。
【0064】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスのコントロールスポットの形態や形状は特に限定されないが、コントロールスポットが、多孔質状、膨潤ゲル状、又はキセロゲル状であることが病理検査を的確に実施することが容易であるため好ましい。コントロールスポットが多孔質状の場合は、染色を行った際に高い洗浄効果により高感度な染色を期待することができるため特に好ましい。コントロールスポットを多孔質状にする方法としては、例えば実施例に記載の方法(エタノールによる脱水工程を有する方法)が挙げられる。膨潤ゲル状のコントロールスポットは、例えば、溶媒存在下で色素トラップ材料としてアクリル酸系ポリマーを使用することにより得ることができる。また、キセロゲル状のコントロールスポットは、例えば、膨潤ゲル状のコントロールスポットを凍結乾燥することにより得ることができる。
【0065】
本実施形態に係るスライドガラスのコントロールスポットにおける対照物質と色素トラップ材料との比率は特に限定されない。染色時の染色強度と生産コストとを考慮すると、色素トラップ材料と、対照物質との質量比は1:0.00001~1:0.1であることが好ましく、1:0.0001~1:0.01であることがより好ましい。
【0066】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスのコントロールスポットにおける単位面積当たりの対照物質の量としては、染色を十分に実施するため、0.01~1000ng/mm2であることが好ましく、0.1~100ng/mm2であることがより好ましい。
【0067】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、蛍光試薬を使用することで、コントロールスポットに含まれる対照物質の量を定量することができる。例えば、免疫染色では、対照物質として特定疾患のマーカータンパク質を使用することができる。この場合、特定疾患のマーカータンパク質と特異的結合性を示す蛍光標識IgGを使用し、蛍光強度を定量することで、コントロールスポット内部に導入されているマーカータンパク質を定量化することができる。この方法は、コントロールスライドガラスの品証方法として使用することができる。この際、免疫染色に影響しない蛍光標識IgGを選択することで、コントロールスライドガラスの全数検査を実施することが可能である。対照物質の種類に応じて蛍光試薬の種類は適宜変更することが可能である。このような蛍光試薬と結合した対照物質を、蛍光標識された対照物質とも記す。すなわち、本実施形態に係るコントロールスライドガラスは、対照物質として、蛍光標識された対照物質を含むことができる。
【0068】
[コントロールスライドガラスを製造する方法]
本実施形態に係るコントロールスライドガラスを製造する方法は、前述のコントロールスライドガラスを製造する方法であり、大きく分けて二つの態様がある。
【0069】
一つ目の態様は、前記コントロールスライドガラスを製造する方法であって、対照物質と、色素トラップ材料とを含む混合物を調製する工程、及び前記混合物を含むコントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することを特徴とする方法である。該態様では、前述の第一の態様のコントロールスライドガラスを製造することができる。
【0070】
一つ目の態様においては、前記混合物が、細管状に固化された混合物であり、該混合物を薄膜状に切断し、薄膜状の混合物をスライドガラスへ貼り付けることにより、コントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することが好ましい態様の一つである。
【0071】
二つ目の態様は、前記コントロールスライドガラスを製造する方法であって、対照物質をスライドガラス上に固定する工程、及び固定された対照物質上に、色素トラップ材料を塗布することにより、コントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することを特徴とする方法である。該態様では、対照物質をスライドガラス上に固定する際に多官能性リンカー分子を用いることにより、前述の第二の態様のコントロールスライドガラスを製造することができる。
【0072】
一つ目の態様の具体例としては、ゼラチンと対照物質との混合液をテフロン(登録商標)製の鋳型に添加し、スライドガラスを被せ、冷蔵下で混合液を固化し、スライドガラス上へ色素トラップ材料を転写することで、色素トラップ材料と対照物質から形成されるコントロールスポットをスライドガラス上へ形成する方法がある。
【0073】
一つ目の態様としては、例えばコントロールスライドガラスを大量に製造する方法として、パイプ様の細管鋳型へ色素トラップ材料と対照物質とを封入・混合した後、色素トラップ材料を細管状に固化し、細管状に固化された混合物を得て、該混合物を薄膜状に切断し、スライドガラスへ貼付ける方法を採用してもよい。
【0074】
二つ目の態様の具体例としては、スライドガラス上に対照物質をグルタルアルデヒドで固定化した後に、コラーゲンを塗布することで色素トラップ材料と対照物質から形成されるコントロールスポットをスライドガラス上へ形成する方法がある。
【0075】
マイクロアレイ型コントロールスライドガラスを製造する際にも、上記で示した大量に製造する方法を採用することができる。例えば、複数の色素トラップ材料に異種の対照物質をそれぞれ封入・混合した後、色素トラップ材料を細管状に固化し、複数の細管状に固化された混合物を得て、複数の混合物を束ねて薄膜状に切断し、スライドガラスへ貼付けることで、マイクロアレイ型コントロールスライドガラスを大量製造することが可能である。
【0076】
また、本実施形態に係るコントロールスライドガラスを製造する際には、色素トラップ材料や、対照物質と色素トラップ材料との混合物の粘度調整等の目的で、水、アルコール等の溶媒を用いてもよい。使用した溶媒は、全部又は一部がコントロールスポットに残存していてもよく、乾燥等により、除去されていてもよい。
【0077】
本実施形態に係るコントロールスライドガラスを製造する方法としては、上記の例に限定されず、目的に応じた製造方法を採用することができる。
【実施例】
【0078】
以下、本実施形態を実施例により具体的に説明する。ただし、本実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
[実施例1]
実施例1では、第一の態様のコントロールスライドガラスを作製した。
【0080】
対照物質としてリコンビナントCD20、色素トラップ材料としてゼラチン及びBSAを用いた。リコンビナントCD20、ゼラチン、BSA、及び水を混合し、37℃に保つことで、5wt%ゼラチン、2.5wt%BSA、100μg/mLリコンビナントCD20の混合水溶液(残部:水)を調製した。
【0081】
20μLの混合水溶液をとってテフロン鋳型に添加した後、スライドガラスを被せて冷蔵庫で1時間静置した。鋳型からスライドガラスを剥がして、スライドガラス上への対照物質を含む色素トラップ材料の転写を確認した後、2wt%DMT-MM/エタノール溶液に25℃で5時間浸漬することで色素トラップ材料を固化した。次に4%エタノールアミン/エタノールに25℃で12時間浸漬することで未反応のDMT-MM残基をブロッキングした。スライドガラスを洗浄することで、対照物質と色素トラップ材料とを含むコントロールスポットを有するコントロールスライドガラスを作製した。
【0082】
この方法で作製したコントロールスポットは多孔質状であり、コントロールスポットの面積は240mm2、厚みは20μm、コントロールスポット単位面積当たりに含有される抗原の量は8ng/mm2、単位面積当たりの色素トラップ材料の量は4μg/mm2であった。
【0083】
[実施例2]
実施例2では、第二の態様のコントロールスライドガラスを作製した。
【0084】
対照物質としてリコンビナントCD20、色素トラップ材料としてゼラチン及びBSA、二官能性リンカー分子としてグルタルアルデヒドを用いた。リコンビナントCD20とグルタルアルデヒド水溶液を混合し、100μg/mLリコンビナントCD20、1wt%グルタルアルデヒドの混合水溶液(残部:水)を調製し、37℃で1時間静置した。混合水溶液をアミノコート処理されたスライドガラス上に添加し、1日静置し、リコンビナントCD20が固定化されたスライドガラスを得た。
【0085】
次に、5wt%ゼラチン、2.5wt%BSAの混合水溶液(残部:水)を調製し、20μLとってテフロン鋳型に添加した後、リコンビナントCD20が固定化されたスライドガラスを被せて冷蔵庫で1時間静置した。鋳型からスライドガラス上を剥がして、スライドガラス上への色素トラップ材料の転写を確認した後、2wt%DMT-MM/エタノール溶液に25℃で5時間浸漬することで色素トラップ材料を固化した。次に4%エタノールアミン/エタノールに25℃で12時間浸漬することで未反応のDMT-MM残基をブロッキングした。スライドガラスを洗浄することで、対照物質と色素トラップ材料とを含むコントロールスポットを有するコントロールスライドガラスを作製した。
【0086】
この方法で作製したコントロールスポットは多孔質状であり、コントロールスポットの面積は240mm2、厚みは20μm、コントロールスポット単位面積当たりに含有される抗原の量は4ng/mm2、単位面積当たりの色素トラップ材料の量は4μg/mm2であった。
【0087】
[実施例3]
実施例3では、実施例1で作製したコントロールスライドガラスを用いて免疫染色を行った。
【0088】
実施例1で作製したコントロールスライドガラスに50μg/mL抗CD20マウスモノクローナル抗体を100μL添加し、37℃で16分間反応した。スライドガラスを洗浄した後、50μg/mLペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGヤギポリクローナル抗体を100μL添加し、37℃で8分間反応した。スライドガラスを洗浄した後、3,3―ジアミノベンジジン溶液と過酸化水素溶液を100μLずつ添加し37℃で8分間反応した。スライドガラスを洗浄した後、硫酸銅水溶液を100μL添加し、37℃で4分間反応した。スライドガラスを洗浄し、染色状態を確認した。対照物質が染色されたことを確認することができた。また、色素の流出は確認されなかった。染色後のコントロールスライドガラスを
図3に示す。
【0089】
[実施例4]
実施例4では、実施例2で作製したコントロールスライドガラスを用いて免疫染色を行った。
【0090】
実施例2で作製したコントロールスライドガラスに50μg/mL抗CD20マウスモノクローナル抗体を100μL添加し、37℃で16分間反応した。スライドガラスを洗浄した後、50μg/mLペルオキシダーゼ標識抗マウスIgGヤギポリクローナル抗体を100μL添加し、37℃で8分間反応した。スライドガラスを洗浄した後、3,3―ジアミノベンジジン溶液と過酸化水素溶液を100μLずつ添加し37℃で8分間反応した。スライドガラスを洗浄した後、硫酸銅水溶液を100μL添加し、37℃で4分間反応した。スライドガラスを洗浄し、染色状態を確認した。対照物質が染色されたことを確認することができた。また、色素の流出は確認されなかった。染色後のコントロールスライドガラスを
図4に示す。
【0091】
[実施例5]
実施例5では、第一の態様のコントロールスライドガラスを大量に作製した。
【0092】
対照物質としてリコンビナントp53、色素トラップ材料としてゼラチン及びBSAを用いた。リコンビナントp53、ゼラチン、BSA、及び水を混合し、37℃に保つことで、5wt%ゼラチン、2.5wt%BSA、100μg/mLリコンビナントp53の混合水溶液(残部:水)を10mL調製した。
【0093】
混合水溶液をパイプ様のテフロン鋳型(長さ30mm、外径20mm、内径10mm)へ流し込み、冷蔵庫で24時間静置した。鋳型から外した後、2wt%DMT-MM/エタノール溶液に25℃で24時間浸漬することで色素トラップ材料を固化した。次に4%エタノールアミン/エタノールに25℃で24時間浸漬することで未反応のDMT-MM残基をブロッキングした。作製した色素トラップ材料と対照物質の混合物をミクロトームで厚さ10μmに切削し、スライドガラス上へ載せることでコントロールスライドガラスを一度に25枚作製した。
【0094】
この方法で作製したコントロールスポットは多孔質状であり、コントロールスポットの面積は300mm2、厚みは10μm、コントロールスポット単位面積当たりに含有される抗原の量は6ng/mm2、単位面積当たりの色素トラップ材料の量は3μg/mm2であった。
【0095】
[比較例1]
比較例1では、対照物質であるリコンビナントCD20を用いないこと以外は実施例1と同様に行い、スライドガラスを作製し、実施例3と同様の方法で免疫染色を行った。染色は確認されなかった。染色後のスライドガラスを
図5に示す。
【0096】
[比較例2]
比較例2では、対照物質であるリコンビナントCD20を用いないこと以外は実施例2と同様に行い、スライドガラスを作製し、実施例4と同様の方法で免疫染色を行った。染色は確認されなかった。染色後のスライドガラスを
図6に示す。
【0097】
[比較例3]
比較例3では、色素トラップ材料を用いず、二官能性リンカー分子を用いて、対照物質をスライドガラス上に固定し、得られたスライドガラスを用いて免疫染色を行った。
【0098】
比較例3では、対照物質としてリコンビナントCD20、二官能性リンカーとしてグルタルアルデヒドを用いた。リコンビナントCD20とグルタルアルデヒド水溶液を混合し、100μg/mLリコンビナントCD20、1wt%グルタルアルデヒドの混合水溶液(残部:水)を調製し、37℃で1時間静置した。混合水溶液をアミノコート処理されたスライドガラス上に添加し、1日静置し、リコンビナントCD20が固定化されたスライドガラスを得た。
【0099】
リコンビナントCD20が固定化されたスライドガラスを用いた以外は、実施例4と同様の方法で免疫染色を行った。対照物質の染色は確認されたものの、発色した色素の内、20%が対照物質或いはその周辺に沈着し、80%は外部へ流出した。なお、沈着した量及び、流出した量は、流出した液を全て回収し、沈着した部分及び流出した液の吸光度を測定することにより、色素の濃度を見積もることにより算出した。
【0100】
実施例及び比較例より、実施例のコントロールスライドガラスは、色素が流出することなく、容易に染色することが可能であり、病理検査における精度管理において有用であることが示唆された。
【0101】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0102】
この記載した開示に続く特許請求の範囲は、本明細書においてこの記載した開示に明示的に組み込まれ、各請求項は個別の実施形態として独立している。本開示は独立請求項をその従属請求項によって置き換えたもの全てを含む。さらに、独立請求項及びそれに続く従属請求項から誘導される追加的な実施形態も、この記載した明細書に明示的に組み込まれる。
【0103】
当業者であれば本開示を最大限に利用するために上記の説明を用いることができる。本明細書に開示した特許請求の範囲及び実施形態は、単に説明的及び例示的なものであり、いかなる意味でも本開示の範囲を限定しないと解釈すべきである。本開示の助けを借りて、本開示の基本原理から逸脱することなく上記の実施形態の詳細に変更を加えることができる。換言すれば、上記の明細書に具体的に開示した実施形態の種々の改変及び改善は、本開示の範囲内である。
【0104】
本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。したがって、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」等)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。以下、本発明に関し、更に、付記を開示する。
【0105】
(付記)
(付記1)
病理検査向けのコントロールスライドガラスであって、
前記病理検査における対照物質と、色素トラップ材料とを含むコントロールスポットをスライドガラス上に備えることを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記2)
付記1に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記対照物質が、タンパク質、ペプチド、アミノ酸のオリゴマー、及び核酸から選択される少なくとも1種の物質を含むことを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記3)
付記1又は2に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記色素トラップ材料が、アミノ酸の重合体、糖の重合体、及び合成高分子から選択される少なくとも1種の材料を含むことを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記4)
付記3に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記アミノ酸の重合体が、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、ポリグルタミン酸、及びポリリジンから選択される少なくとも1種の重合体を含み、
前記糖の重合体が、アガロース、アルギン酸、ヒアルロン酸、カラギーナン、ペクチン、メチルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースから選択される少なくとも1種の重合体を含み、
前記合成高分子が、アクリル酸系ポリマー、メタクリル酸系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー、メタクリルアミド系ポリマー、及びエチレングリコール系ポリマーから選択される少なくとも1種の重合体を含むことを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記5)
付記1~4のいずれかに記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記コントロールスポットの面積が1mm2以上1000mm2以下であることを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記6)
付記1~5のいずれかに記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記コントロールスポットの厚みが、0.1μm以上1000μm以下であることを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記7)
付記1~6のいずれかに記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記対照物質が、多官能性リンカー分子によってスライドガラス上へ固定されていることを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記8)
付記7に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記多官能性リンカー分子が、グルタルアルデヒド、シランカップリング剤、及び多官能性エチレングリコール系ポリマーから選択される少なくとも1種のリンカー分子を含むことを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記9)
付記7又は8に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記コントロールスポットの厚みが、0.1μm以上200μm以下であることを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記10)
付記1~9のいずれかに記載されたコントロールスライドガラスであって、
複数のコントロールスポットを有することを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記11)
付記10に記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記コントロールスポット1つあたりの面積が1mm2以上200mm2以下であることを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記12)
付記1~11のいずれかに記載されたコントロールスライドガラスであって、
対照物質が、蛍光標識された対照物質を含むことを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記13)
付記1~12のいずれかに記載されたコントロールスライドガラスであって、
前記コントロールスポットが、多孔質状、膨潤ゲル状、又はキセロゲル状であることを特徴とするコントロールスライドガラス。
(付記14)
付記1~6及び付記10~13のいずれかに記載されたコントロールスライドガラスを製造する方法であって、
対照物質と、色素トラップ材料とを含む混合物を調製する工程、及び
前記混合物を含むコントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することを特徴とする方法。
(付記15)
付記14に記載された方法であって、
前記混合物が、細管状に固化された混合物であり、
該混合物を薄膜状に切断し、薄膜状の混合物をスライドガラスへ貼り付けることにより、コントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することを特徴とする方法。
(付記16)
付記1~13のいずれかに記載されたコントロールスライドガラスを製造する方法であって、
対照物質をスライドガラス上に固定する工程、及び
固定された対照物質上に、色素トラップ材料を塗布することにより、コントロールスポットをスライドガラス上に形成する工程を有することを特徴とする方法。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【符号の説明】
【0106】
1:スライドガラス
2:対照物質
3:色素トラップ材料
4:多官能性リンカー分子