(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-23
(45)【発行日】2025-01-31
(54)【発明の名称】Ag-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料及びプローブピン
(51)【国際特許分類】
C22C 5/04 20060101AFI20250124BHJP
C22C 30/06 20060101ALI20250124BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20250124BHJP
C22F 1/14 20060101ALN20250124BHJP
【FI】
C22C5/04
C22C30/06
C22F1/00 602
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 630C
C22F1/00 630D
C22F1/00 630K
C22F1/00 661Z
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/14
(21)【出願番号】P 2024072821
(22)【出願日】2024-04-26
【審査請求日】2024-04-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小田倉 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】嶋 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】寒江 威元
(72)【発明者】
【氏名】布施 健志
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/159315(WO,A1)
【文献】特開2023-116833(JP,A)
【文献】特表2001-518980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/04
C22C 30/00 - 30/06
C22F 1/00
C22F 1/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag、Pd、Cuと、必須の添加元素であるZn及びSn並びにBと、不可避不純物とからなるAg-Pd-Cu系合金よりなるプローブピン用材料であって、
Zn濃度が0.5質量%以上2.5質量%以下であり、Sn濃度が0.5質量%以上2.5質量%以下であり、B濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下であり、
Ag濃度をX、Pd濃度をY、Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度をZとしたときのX-Y-Z擬3元系状態図における下記A1点、A2点、A3点、A4点の4点間を直線で囲んだ多角形(A1-A2-A3-A4)で示される第1領域の範囲内にX、Y、Zが位置し、
ビッカース硬度が580Hv以上であるプローブピン用材料。
・第1領域
A1点(X:24質量%、Y:40質量%、Z:36質量%)
A2点(X:34質量%、Y:40質量%、Z:26質量%)
A3点(X:17質量%、Y:57質量%、Z:26質量%)
A4点(X:7質量%、Y:57質量%、Z:36質量%)
【請求項2】
Ag濃度をX、Pd濃度をY、Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度をZとしたときのX-Y-Z擬3元系状態図における下記B1点、B2点、B3点、B4点の4点間を直線で囲んだ多角形(B1-B2-B3-B4)で示される第2領域の範囲内にX、Y、Zが位置する請求項1記載のプローブピン用材料。
・第2領域
B1点(X:22質量%、Y:43質量%、Z:35質量%)
B2点(X:30質量%、Y:42質量%、Z:28質量%)
B3点(X:18質量%、Y:54質量%、Z:28質量%)
B4点(X:11質量%、Y:54質量%、Z:35質量%)
【請求項3】
Ag濃度をX、Pd濃度をY、Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度をZとしたときのX-Y-Z擬3元系状態図における下記C1点、C2点、C3点、C4点の4点間を直線で囲んだ多角形(C1-C2-C3-C4)で示される第3領域の範囲内にX、Y、Zが位置する請求項1記載のプローブピン用材料。
・第3領域
C1点(X:20質量%、Y:46質量%、Z:34質量%)
C2点(X:25質量%、Y:46質量%、Z:29質量%)
C3点(X:20質量%、Y:51質量%、Z:29質量%)
C4点(X:15質量%、Y:51質量%、Z:34質量%)
【請求項4】
材料組織において、Pd、Cu、Zn、Snの全てを含む金属間化合物を有する請求項1記載のプローブピン用材料。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかに記載のプローブピン用材料を含むプローブピン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器や半導体デバイス等の検査に使用されるプローブピンに好適な合金材料に関する。詳しくは、所定の添加元素を含むAg-Pd-Cu系合金からなり、最適化された時効硬化によって従来以上の高硬度化を図ることができるプローブピン用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器の基板や半導体デバイスの半導体ウェハに搭載された素子等の導通検査・動作特性検査に、プローブカードを備えるプローブ検査装置が使用されている。プローブカードには、多数のプローブピンが支持されており、プローブピンを素子等の電極に接触させて電極との間で電気信号を送受することで検査が行われている。
【0003】
プローブピンは、電極との接触・離隔を無数に繰り返しながら通電されるという過酷な環境の下で使用されている。そのため、プローブピン用材料には、導電材料としての低電気抵抗性に加えて、硬度やばね性等の機械的性質や耐食性・化学的安定性等が要求される。これらの諸特性の中で特に重要なのが硬度である、硬度はプローブピンの耐摩耗性に影響する主要な特性だからである。
【0004】
プローブピン用材料としては、これまでもいくつかの合金が提案されている。例えば、本願出願人は、Pt、Au等の貴金属を主成分とする貴金属基合金を提案している。これらの貴金属合金は、耐摩耗性において特に優れており、塑性加工や析出効果によって高硬度なプローブピン用材料として知られている(特許文献1、2)。
【0005】
また、プローブピン用材料として適用例が多い合金として、Ag-Pd-Cu系合金が知られている。この合金の基本となるAg-Pd-Cu合金は、比較的低抵抗な合金であり、更に、時効析出により形成される金属間化合物であるPdCu相(bcc構造)による硬度上昇を発現することができる。そして、Ag-Pd-Cu合金は、各種の添加元素をすることで、耐酸化性や加工性等の特性向上ができる(以下、Ag-Pd-Cu合金に添加元素を添加した合金をAg-Pd-Cu系合金と称する)。これらの利点により、Ag-Pd-Cu系合金は、プローブピン用材料として多くの適用例が報告されている。
【0006】
Ag-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料に関しては、例えば、添加元素としてInを添加したAg-Pd-Cu系合金(特許文献3)、添加元素としてBを添加したAg-Pd-Cu系合金(特許文献4)、添加元素としてIn及び/又はZnを添加したAg-Pd-Cu系合金(特許文献5)等が挙げられる。これらのAg-Pd-Cu系合金では、添加元素の特定や構成金属(Pd、Cu)の構成比の好適化による比抵抗、硬度、加工性の向上を図っている。また、Ag-Pd-Cu系合金に関しては、本願出願人からの報告例もある(特許文献6)。この先行技術で本願出願人は、第1添加元素であるBと第2添加元素であるSn、Bi、Znの少なくともいずれかの元素を添加したAg-Pd-Cu系合金を開示している。この本願出願人によるAg-Pd-Cu系合金では、抵抗値や硬度等の要求特性を考慮しつつ、プローブピンを加工する際の折り曲げ耐性の改善が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4176133号明細書
【文献】特許第4216823号明細書
【文献】国際公開WO2019/194322号公報
【文献】国際公開WO2019/130511号公報
【文献】特許第4878401号明細書
【文献】特許第7072126号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、これまでのプローブピン用材料は、硬度や低抵抗等の基本的な要求特性を考慮しながら、加工性向上等の付加価値やそれらのバランス改善が図られている。もっとも、上述のとおり、プローブピン用材料に対して最先に要求されるのは、耐摩耗性確保のための硬度である。そこで硬度に重点をおいてみると、上記した従来技術に記載されたAg-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料は、時効硬化後であっても最大で550Hv程度とするのが限界である。この点について本願出願人は、Ag-Pd-Cu系合金の硬度にはまだ上昇の余地があると考える。
【0009】
そこで、本発明は、Ag-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料について、従来以上の硬度を有するものを提供する。具体的には、Ag-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料であって、時効熱処理を施すことにより、ビッカース硬度で580Hv以上の硬度を発揮できるものを提供する。また、この課題達成において、本発明は、Ag-Pd-Cu系合金を、プローブピンとして必要とされる形状・寸法に加工する際の加工性についても配慮したものとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述したように、Ag-Pd-Cu系合金は、時効熱処理による析出硬化により硬度上昇する時効硬化型の合金である。かかる時効硬化型合金がプローブピン用材料として好適である理由としては、製造(鋳造)からプローブピンに加工するまでの過程で、合金を硬化させるタイミングの調整が可能な点にある。プローブピンは、線径の細いワイヤ状の素材から製造され、プローブピン先端部においても微細加工がなされることがある。こうした高加工率での加工や微細且つ正確性が要求される加工のためには、被加工材はある程度軟質であることが好ましい。時効硬化型合金であれば、時効前の軟質な状態で加工して、その後に時効熱処理することでニアシェイプな状態を維持しながら高硬度を得ることができる。
【0011】
従って、加工性を考慮しながら、本発明の課題である高硬度化を図るためには、時効熱処理前後の硬度差を如何に拡大するかに掛かっている。即ち、時効熱処理による析出硬化における硬度の上昇幅を大きくすることが必要である。そして、析出硬化の効果を最大限に発揮させるためには、析出物である金属間化合物の生成・分散を促進させる必要がある。
【0012】
本発明者等は、以上のような観点に基づき、Ag-Pd-Cu系合金における金属間化合物の析出を促進すべく、添加元素の好適化を図ることとした。そして、その結果、必須の添加元素としてZn及びSnの双方を同時添加することが好ましいことを見出した。そして、Zn及びSnを含むAg-Pd-Cu系合金について、その構成元素の範囲及びそれらの組成範囲についての最適化を図り、本発明に想到した。
【0013】
即ち、上記課題を解決する本発明は、Ag、Pd、Cuと、必須の添加元素であるZn及びSn並びにBを含むAg-Pd-Cu系合金よりなるプローブピン用材料であって、Zn濃度が0.5質量%以上2.5質量%以下であり、Sn濃度が0.5質量%以上2.5質量%以下であり、B濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下であり、Ag濃度をX、Pd濃度をY、Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度をZとしたときのX-Y-Z擬3元系状態図における下記A1点、A2点、A3点、A4点の4点間を直線で囲んだ多角形(A1-A2-A3-A4)で示される第1領域の範囲内にX、Y、Zが位置するプローブピン用材料である。
・第1領域
A1点(X:24質量%、Y:40質量%、Z:36質量%)
A2点(X:34質量%、Y:40質量%、Z:26質量%)
A3点(X:17質量%、Y:57質量%、Z:26質量%)
A4点(X:7質量%、Y:57質量%、Z:36質量%)
【0014】
以下、本発明に係るプローブピン用材料の構成及び諸特性について詳細に説明する。尚、本願明細書においては、Ag、Pd、Cuの3元素のみで構成される合金を「Ag-Pd-Cu合金」と称する。また、Ag、Pd、Cuと、それら以外の元素を1種以上含む合金を「Ag-Pd-Cu系合金」と称する。
【0015】
I.本発明に係るプローブピン用材料の構成
上記のとおり、本発明に係るプローブピン用材料は、Ag-Pd-Cu系合金からなる。このAg-Pd-Cu系合金は、Ag-Pd-Cu合金(3元系合金)に、必須の添加元素であるZn及びSnとBを添加した6元系以上の合金である。以下、本発明に係るプローブピン用材料を構成するAg-Pd-Cu系合金の構成元素とそれらの組成範囲について説明する。
【0016】
I-1.本発明に係るプローブピン用材料の構成元素
(1)Ag、Pd、Cu
本発明に係るプローブピン用材料が、Ag-Pd-Cu系合金を適用するのは、その基本構成であるAg-Pd-Cu合金が、上記した時効硬化による硬度上昇が期待できることに加えて、貴金属基合金等と比較して低抵抗の導電性材料だからである。従って、Ag、Pd、Cuは、プローブピン用材料としての強度・硬度と電気導電性等を確保するための基本となる必須の構成元素である。
【0017】
(2)Zn、Sn
本発明では、Ag-Pd-Cu系合金における時効硬化の効果を高めるため、Zn及びSnの双方を必須の添加元素とする。Zn及びSnは、それぞれPdとの金属間化合物(PdZn、PdSn)を生成する。上記したように、Ag-Pd-Cu系合金は、PdCu相(bcc)による析出硬化を発現するが、Zn及びSnによる金属間化合物(PdZn、PdSn)の生成により更なる高硬度化が発揮される。即ち、Zn及びSnの双方添加により、時効熱処理による析出硬化が効率化される。これにより、本発明では、時効熱処理による硬度上昇幅は従来のAg-Pd-Cu系合金よりも大きくなり、従来技術以上の硬度を示すことができる。
【0018】
上記したように、本発明のAg-Pd-Cu系合金ではZn及びSnの双方を同時に添加することが必要であり、いずれか一方のみの添加では硬度上昇の効果は薄い。尚、Ag-Pd-Cu合金にZnとSnを添加する点においては、上述の本願出願人による先行技術(特許文献6)も同様であるが、当該先行技術においては、ZnとSnの同時添加を必須としていない。また、当該先行技術においては、基本となるAg-Pd-Cu合金の組成範囲が異なっている。これは、当該先行技術においては、時効熱処理後の状態において、硬度よりも折り曲げ耐性の向上を重視していることに起因している。
【0019】
(3)B
本発明においては、Zn及びSnに加えてBも必須の添加元素とされる。Bは、時効熱処理の有無に依らず合金の基礎的な強度及び硬度を確保する上で添加される。また、Bは、合金の粒界近傍に存在することで合金に延性を付与して加工性の確保に寄与する。
【0020】
(4)他の添加元素と不可避不純物
本発明に係るプローブピン用材料は、実質的に、Ag、Pd、CuとZn、Sn、Bとで構成されるAg-Pd-Cu系合金からなる。但し、本発明に係るプローブピン用材料は、上述した各構成元素の効果を阻害しない範囲で他の元素を含み得る。こうした他の元素としては、Tiが挙げられる。また、本発明に係るプローブピン用材料は、不可避的不純物を含有し得る。不可避不純物は、原料及び製造装置・加工装置より混入する元素であり、そのような元素として、上記した他の添加元素となる元素の他、Au、Co、Cr、Fe、Ir、Mg、Ni、Pt、Rh、Ru、Si、Zr、Al、Ca等が含まれる可能性がある。
【0021】
I-2.本発明に係るプローブピン用材料の合金組成
本発明のAg-Pd-Cu系合金においては、必須添加元素であるZn、Sn、Bについての時効熱処理による硬度上昇の最適化を図ることができる濃度が設定され、それらの範囲を考慮してAg、Pd、Cuの濃度が定められる。以下に各添加元素の濃度範囲と本発明のAg-Pd-Cu系合金の組成について説明する。
【0022】
(1)Zn濃度及びSn濃度
本発明のAg-Pd-Cu系合金におけるZn及びSnの濃度は、Zn濃度は0.5質量%以上2.5質量%以下であり、Sn濃度は0.5質量%以上2.5質量%以下である。いずれも0.5質量%未満では、析出硬化の発現に有効な量の金属間化合物を生成し難くなる。また、いずれも2.5質量%を超えても時効熱処理後の硬度に大きな差はない。また、過剰にZn及びSnを添加した場合、時効熱処理前の段階(鋳造段階)で金属間化合物が生成し、加工性が低下するおそれがある。これらの添加元素の好ましい濃度は、Zn濃度は0.7質量%以上1.5質量%以下であり、Sn濃度は1.0質量%以上2.0質量%以下とする。
【0023】
(2)B濃度
また、B濃度は、0.05質量%以上0.5質量%以下とする。0.05質量%未満では前記の効果を発揮せず、0.5質量%を超えると加工性が低下する傾向がある。B濃度は、0.1質量%以上0.3質量%以下とするのがより好ましい。尚、Bは、時効硬化の促進作用はなく、上記した補助的な効果を有することから、Bの添加量はZn及びSnよりは低くなる。
【0024】
(3)Ag濃度(X)、Pd濃度(Y)、Cu濃度
そして、本発明のAg-Pd-Cu系合金のAg濃度、Pd濃度、Cu濃度は、Zn、Sn、Bを上記範囲内としつつ、硬度及び電気導電性等の確保において最適な範囲内に設定される。具体的には、本発明のAg-Pd-Cu系合金では、Ag濃度をX、Pd濃度をY、Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度をZとしたときのX-Y-Z擬3元系状態図における下記A1点、A2点、A3点、A4点の4点間を直線で囲んだ多角形(A1-A2-A3-A4)で示される第1領域の範囲内にX、Y、Zが位置するようにする。尚、「各点間を直線で囲んだ多角形の範囲内にある」とは、各元素濃度が当該多角形の線状(辺上)及び頂点上にある場合が含まれる。尚、本発明のAg-Pd-Cu系合金は、第1領域内(A1-A2-A3-A4)にあるAg、Pd、Cuの濃度とZn、Sn、Bの各添加元素濃度との合計が100質量%となる。
図1に、上記で定義したX-Y-Z擬3元系状態図と第1領域(A1-A2-A3-A4)を示す。
【0025】
・第1領域
A1点(X:24質量%、Y:40質量%、Z:36質量%)
A2点(X:34質量%、Y:40質量%、Z:26質量%)
A3点(X:17質量%、Y:57質量%、Z:26質量%)
A4点(X:7質量%、Y:57質量%、Z:36質量%)
【0026】
X(Ag濃度)、Y(Pd濃度)、及びCu濃度を含むZ(Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度)を上記領域内に設定するのは、時効硬化後のAg-Pd-Cu系合金の硬度を本発明の課題(580Hv以上)に適合させると共に、PdCu相及びPdZnとPdSnの各金属間化合物を十分に析出させるためである。X、Y、Zが上記領域外にある場合、PdCu相及びPdZnとPdSnの金属間化合物の析出が不十分となるため、目的とする硬度は得難くなる。
【0027】
そして、X(Ag濃度)、Y(Pd濃度)、Z(Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度)が上記の第1領域の範囲内にある本発明のAg-Pd-Cu系合金は、各構成元素の濃度を調整することで、時効熱処理後の硬度上昇幅をより大きくすることができる。即ち、上記と同じX-Y-Z擬3元系状態図における下記B1点、B2点、B3点、B4点の4点間を直線で囲んだ多角形(B1-B2-B3-B4)で示される第2領域の範囲内にX(Ag濃度)、Y(Pd濃度)、Z(Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度)を設定することが好ましい。
図2に、このX-Y-Z擬3元系状態図と第2領域(B1-B2-B3-B4)を示す。
【0028】
・第2領域
B1点(X:22質量%、Y:43質量%、Z:35質量%)
B2点(X:30質量%、Y:42質量%、Z:28質量%)
B3点(X:18質量%、Y:54質量%、Z:28質量%)
B4点(X:11質量%、Y:54質量%、Z:35質量%)
【0029】
更に、特に好ましくは、X-Y-Z擬3元系状態図における下記C1点、C2点、C3点、C4点の4点間を直線で囲んだ多角形(C1-C2-C3-C4)で示される第3領域の範囲内にX(Ag濃度)、Y(Pd濃度)、Z(Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度)を設定する。
図3に、このX-Y-Z擬3元系状態図と第3領域(C1-C2-C3-C4)を示す。
【0030】
・第3領域
C1点(X:20質量%、Y:46質量%、Z:34質量%)
C2点(X:25質量%、Y:46質量%、Z:29質量%)
C3点(X:20質量%、Y:51質量%、Z:29質量%)
C4点(X:15質量%、Y:51質量%、Z:34質量%)
【0031】
(4)他の添加元素及び不可避不純物の濃度
本発明のAg-Pd-Cu系合金において、上記した他の添加元素であるTiを含むことを考慮したとき、その濃度は0.1質量%以上1.3質量%以下とするのが好ましい。また、不可避不純物の濃度は、合計で0.02質量%以下が好ましく、より好ましくは0.005質量%以下とする。尚、本発明に係るプローブピン用材料に、上記した他の添加元素や不可避不純物が検出される場合、必須構成元素(Ag、Pd、Cu、Zn、Sn、B)の濃度の合計値と他の添加元素の濃度及び不可避不純物の濃度との合計が100質量%となるが、X(Ag濃度)、Y(Pd濃度)、Z(Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度)は、上記した第1領域~第3領域の範囲内にある。
【0032】
本発明に係るAg-Pd-Cu系合金の各構成元素の濃度(Ag濃度、Pd濃度、Cu濃度、Zn濃度、Sn濃度、B濃度)の測定方法は、特に限定する必要はない。測定方法としては、誘導結合発光分光分析(ICP発光分光分析)や蛍光X線分析(XRF分析)等が適用できる。更に、エネルギー分散型X線分析(EDX、EDS)、電子プローブマイクロ分析(EPMA)や、エネルギー分散波長分散型X線分析(WDX、WDS)等の分析法といった分析方法も適用できる。これらの分析方法により、Ag濃度、Pd濃度、Cu濃度、Zn濃度、Sn濃度、B濃度をそれぞれ測定でき、X、Y、Zが算出できる。他の添加元素及び不可避不純物の濃度の測定についても同様である。
【0033】
II.本発明に係るプローブピン用材料の硬度と形態
本発明に係るプローブピン用材料を構成するAg-Pd-Cu系合金は、時効熱処理を行うことで、上記で説明したZn及びSnによる金属間化合物の析出促進の作用により、従来のAg-Pd-Cu系合金よりも高い硬度を示す。具体的には、上記第1領域の範囲内の組成のAg-Pd-Cu系合金は、時効熱処理後の硬度はビッカース硬度で580Hv以上となる。また、上記第2領域の範囲内の組成のAg-Pd-Cu系合金は、時効熱処理後の硬度は600Hv以上となる。更に、上記第1領域の範囲内の組成のAg-Pd-Cu系合金は、時効熱処理後の硬度は620Hv以上となる。尚、時効熱処理後の硬度の上限としては、700Hv程度であるものが好ましい。時効熱処理後であっても簡易な曲げ加工等を行うことがあり、その加工性を考慮すると過度に硬いプローブピン用材料が使用し難くなるからである。
【0034】
本発明に係るプローブピン用材料における硬度は、上記した金属間化合物からなる析出物の粒子分散効果に起因する。ここで、本発明のAg-Pd-Cu系合金で析出する金属間化合物は、その詳細な組成(各金属原子の存在割合)は明確ではない。但し、本発明のAg-Pd-Cu系合金で析出する金属間化合物は、Zn及びSnを含むPdCu相、即ち、Zn、Sn、Pd、Cuからなる金属間化合物であると推定されるAg-Pd-Cu系合金中のCuは、PdとPdCu相を形成し、Zn及びSnは、それぞれがPdと結合して金属間化合物(PdZn、PdSn)を形成することからである。従って、本発明に係るプローブピン用材料は、材料組織中にPd、Cu、Zn、Snの全てを含む金属間化合物を有する。
【0035】
Ag-Pd-Cu系合金の材料組織における金属間化合物の存在の確認については、Ag-Pd-Cu系合金をSEM等で材料組織観察を行ったときに、色相の異なる分散相が観察されることが多いことから、当該分散相を金属間化合物相と推定することができる。そして、詳細な同定方法として、EDX、EDS、EPMA等の面分析が可能な分析手段により、元素マッピングを作成し、Zn、Sn、Pd、Cuの全ての元素が同一部位に存在していれば、当該部位でPd、Cu、Zn、Snの全てを含む金属間化合物が存在することとなる。特に、Zn、Snに関しては、合金全体の濃度よりも高濃度のZn、Snが観察される領域があれば、そこが金属間化合物相と同定することができる。
【0036】
また、上述のとおり、時効硬化型合金からなるプローブピン用材料は、熔解鋳造後の冷間加工を経てプローブピンの形状またそれに近い形状となるよう線材又は棒材に加工される。そして、その後に時効熱処理を受けて硬化する。本発明はこのような加工・熱処理工程に好適に対応できる。本発明のAg-Pd-Cu系合金は、時効熱処理を受ける前は、加工性において適度な硬度を有するからである。具体的には、本発明に係るAg-Pd-Cu系合金からなるプローブピン材料は、時効処理前の状態でのビッカース硬度が360Hv以上450Hv以下であるものが好ましく、より好ましくは、360Hv以上410Hv以下である。
【0037】
そして、前記の工程で加工された時効処理前のプローブピン用材料は、真っ直ぐな線材又は棒材の形態を有する。冷間伸線加工等の加工工程において、加工性に劣る材料は、最悪の場合には断線するが、そうならなくとも曲がり等の変形が生じ易い。加工性良好な本発明は、加工過程で断線はもとより、曲がり変形も最小となる。具体的には、本発明に係るプローブピン用材料は、線材又は棒材の状態にあるとき、伸直度が2mm/1000mm以下とすることができる。伸直度とは、所定長さLの線材又は棒材をサンプルとし、当該サンプルの両端部を水平面に載置してサンプルと水平面との間の距離lを測定したときのlの最大値lmaxとサンプルの長さLとの比(lmax/L)である。本発明においては、所定長さLを1000mmとしたときの最大距離lmaxが2mm以下(2mm/1000mm以下)であるものが好ましい。
【0038】
本発明のAg-Pd-Cu系合金は、当然にプローブピン用途に供されるが、プローブピンの形態としては線材、棒材に加工された状態で使用されることが多い。これらの形態における寸法は特に制限されることはないが、線径については、直径50μm以上1000μm以下の線材として利用されることが多い。上記した580Hv以上の硬度は、この線材としたときに発現されていることが好ましい。
【0039】
III.本発明に係るプローブピン用材料の製造方法
本発明に係るプローブピン用材料は、上記した組成のAg-Pd-Cu系合金の合金インゴットを熔解鋳造法により製造し、合金インゴットをプローブピンに適した寸法・形状に冷間加工した後に時効熱処理をすることで製造可能である。熔解鋳造法では、真空熔解(減圧熔解)、大気熔解(雰囲気熔解)後に鋳造して合金インゴットを製造する他、連続鋳造法、アーク溶解も適用できる。また、鋳造後の合金を熱間加工してから冷間加工を行っても良い。
【0040】
冷間加工工程は、Ag-Pd-Cu系合金インゴットを所望の形状・寸法に成形すると共に、合金に加工歪を導入してプローブピンとして必要な強度・硬度を得るための工程である。冷間加工の形式としては、圧延加工(溝圧延含む)、伸線加工、引き抜き・押出加工等を適宜に選択でき、これらを複数回繰返し又は組み合わせることができる。加工温度としては、100℃以下で行うことが好ましい。
【0041】
時効熱処理は、冷間加工後のAg-Pd-Cu系合金について熱処理をすることでPdCu規則相を析出させて所望の硬度を得るための工程となる。時効熱処理の温度は、300℃以上580℃以下とすることが好ましい。処理時間としては、10分以上4時間以下とすることが好ましい。
【0042】
また、上記時効熱処理は溶体化熱処理と組み合わせて行うことが好ましい。溶体化熱処理は、Ag-Pd-Cu系合金を高温で熱処理して均質な過飽和固溶体の状態にする処理であり、その後の時効熱処理によるPdCu規則相の析出を好適にするための処理である。本発明のAg-Pd-Cu系合金における溶体化熱処理の加熱温度は、650℃以上950℃以下とすることが好ましい。加熱後の冷却は水冷等の急冷とすることが好ましい。
【0043】
溶体化処理は、複数回行うことができる。上記した冷間加工工程では、伸線加工等を複数回行うことができるが、この複数の冷間加工工程の途中で溶体化処理を行い、最後の冷間加工後に時効熱処理を行うことで最適な特性のAg-Pd-Cu系合金を得ることができる。このように冷間加工と溶体化処理との組み合わせを複数回行う場合、例えば、1回の冷間加工における加工率(断面積減少率)を12%以上99.99%以下に制御しながら溶体化熱処理を行うことが好ましい。
【0044】
そして、上記の時効熱処理を経たAg-Pd-Cu系合金は、少なくとも580Hv以上の好適な硬度を有する。その後は、詳細な製品形状を得るための最終加工(切削加工、折り曲げ加工など)を行うことでプローブピンとすることができる。プローブピンの形状、寸法には制限はなく、垂直型のプローブピンやカンチレバー型プローブピンやポゴピンと称される形状のプローブピンにも適用できる。
【発明の効果】
【0045】
以上説明したように、本発明に係るプローブピン用材料は、Ag-Pd-Cu系合金を基本としつつ、析出効果による硬度上昇効果が大きい添加元素(Zn、Sn)を含むことで従来以上の硬度のプローブピンとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本発明のAg-Pd-Cu系合金のX-Y-Z擬3元系状態図(X:Ag濃度、Y:Pd濃度、Z:Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度)と第1領域の範囲(A1-A2-A3-A4)を示す図。
【
図2】本発明のAg-Pd-Cu系合金のX-Y-Z擬3元系状態図(X:Ag濃度、Y:Pd濃度、Z:Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度)と第2領域の範囲(B1-B2-B3-B4)を示す図。
【
図3】本発明のAg-Pd-Cu系合金のX-Y-Z擬3元系状態図(X:Ag濃度、Y:Pd濃度、Z:Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度)と第3領域の範囲(C1-C2-C3-C4)を示す図。
【
図4】第1実施形態で製造したAg-Pd-Cu系合金の組成をX-Y-Z擬3元系状態図で示した図。
【
図5】第1実施形態で製造したAg-Pd-Cu系合金線材の伸直度の測定方法を説明する図。
【
図6】第2実施形態で製造したAg-Pd-Cu系合金の組成をX-Y-Z擬3元系状態図で示した図。
【
図7】第2実施形態で製造したNo.37のAg-Pd-Cu系合金のSEM像。
【
図8】第2実施形態で製造したNo.37のAg-Pd-Cu系合金のEDS分析結果(元素マッピング)を示す図。
【
図9】第2実施形態で製造したNo.37のAg-Pd-Cu系合金のEDS分析結果(ポイント分析)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0047】
第1実施形態:以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態では、各種の組成のAg-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料を製造し、その硬度を測定した。
【0048】
本実施形態では、Ag、Pd、Cu、Zn、Snの原料地金(純度99.9%以上)と純度99.5%のB粉末と混合し、熔解鋳造してAg-Pd-Cu系合金のインゴット(直径6mm)を製造した。製造した各種組成の合金インゴットについて、ICPで各構成元素の濃度分析を確認した。本実施形態の実施例で製造したAg-Pd-Cu系合金について、X-Y-Z擬3元系状態図における組成を
図4に示す。尚、
図4は、部分的に拡大されたX-Y-Z擬3元系状態図である(X:0質量%~50質量%、Y:30質量%~80質量%、Z:20質量%~70質量%)。
【0049】
次に、各種組成のAg-Pd-Cu系合金のインゴットを850℃で30分間熱処理した後、冷間溝圧延により4mm角の棒材に加工した。この棒材を850℃で30分間加熱した後に水冷して溶体化処理を行った。その後、棒材を冷間伸線加工して直径0.7mmの線材として時効熱処理を行った。時効熱処理は、処理温度を320~420℃の温度に設定し60分間加熱した。
【0050】
本実施形態では、各実施例のAg-Pd-Cu系合金に対する比較例として、Zn、Sn、Bの添加のないAg-Pd-Cu3元系合金と、ZnとSnいずれかのみを添加したAg-Pd-Cu系合金の線材も製造した。更に、Snに替えてIn、Zr、Bi、Crを添加元素としたAg-Pd-Cu系合金の線材も製造した。これら比較例の線材の製造工程は、上記実施例と同様とした。
【0051】
[硬度測定]
以上で製造した各種組成のAg-Pd-Cu系合金の線材について、硬度を行った。硬度測定は、マイクロビッカース硬度計(HM-200、株式会社ミツトヨ製)を用い、荷重100gf、押し込み時間10秒間とした。測定は、線材断面の中心と中心で交差する縦横の線上で計13箇所の部位を測定し、その平均値を硬度値とした。また、硬度測定は、冷間伸線加工後の線材(直径0.7mm)について時効熱処理前後で行い、各硬度値から時効熱処理による硬度上昇幅を算出した。
【0052】
[加工性評価]
また、本実施形態では、Ag-Pd-Cu系合金の加工性の評価も行っている。加工性の評価は、上記した線材への加工工程において、溝圧延時における割れの有無及び冷間伸線時の断線の有無で評価した。具体的には、割れ・断線が全く生じることなく線材(直径0.7mm)まで加工できた場合を合格(○)とし、冷間伸線中に断線が1~2回発生したがサンプルになる程度の線材を加工できた場合を不良(△)とし、断線が頻発して線材が全く製造できなかった場合を不可(×)と評価した。
【0053】
[伸直度評価]
更に、冷間伸線加工後(時効熱処理前)の線材(直径0.7mm)について、伸直度を評価した。伸直度の測定方法を
図5のようにした。サンプルとなる線材の長さLが1000mmとなるように製造した線材をカットし、サンプルの両端部が水平台に接するように載置した。そして、水平台とサンプルとの間の距離lを測定し、その最大値l
maxを得た。本実施形態では、伸直度の評価基準としてl
max≦2mm/1000mmとし、この評価基準を満たした場合を合格(〇)、満たさなかった場合を不可(×)とした。
【0054】
本実施形態で製造したAg-Pd-Cu3元合金及びAg-Pd-Cu系合金のプローブピン用材料についての硬度、加工性、伸直度に関する評価結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
表1から、本実施形態で製造した実施例1~実施例8のAg-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料は、時効硬化後のビッカース硬度が580Hv以上の高硬度を示すことが確認できる。これらの実施例のプローブピン用材料は、時効硬化による硬度上昇幅が200Hv以上であった。また、時効熱処理前における加工性も良好であり、伸直度が良好な線材を製造できることが確認された。
【0057】
但し、Zn、Snのいずれかの濃度が2.5質量%を超えると、線材への加工性が低下するため、これらの上限は2.5質量%とすべきである(比較例1、2)。また、比較例3~比較例7のように、Zn、Snのいずれか一方のみを適切量添加した場合、570Hv程度の硬度を示すので、ある程度の高硬度化は期待できる。しかし、これらの比較例の時効硬化による硬度上昇幅は200Hv未満であり、金属間化合物析出による効果を最大限に発揮させるという意味では不十分であるといえる。更に、Bは加工性に影響を与える添加元素であることが確認された。Bの添加がない場合に加工性が悪くなり、Bの過剰添加でも加工性が悪くなることから、Bの添加も必須とすべきである。
【0058】
また、添加元素のないAg-Pd-Cu3元系合金のプローブピン用材料は、全体的に硬度は低く500Hv前後にとどまっていた(比較例9~比較例12)。これらの比較例では、時効硬化による硬度上昇幅は実施例と同じく大きいが、時効前の硬度が低いために最終的な硬度が大きく不足する。
【0059】
更に、Znと共に添加する添加元素としてIn、Zr、Bi、Crを適用したAg-Pd-Cu系合金については、高硬度化を期待できるものもあるが、各実施例には及ばず硬度上昇幅も小さい(比較例13、比較例16)。そして、溝圧延時の割れや冷間伸線時の断線のため加工できない合金もあった(比較例14、比較例15)。よって、ZnとSnとの組み合わせが好適であるといえる。
【0060】
第2実施形態:本実施形態では、上述した第1~第3領域の組成領域内における本発明のAg-Pd-Cu系合金の硬度上昇の効果を詳細に確認した。本実施形態では、Zn濃度を1.0質量%前後、Sn濃度を1.4質量%前後、B濃度0.15質量%とし、Ag、Pd、Cuの各濃度を調整してAg-Pd-Cu系合金の線材からなるプローブピン用材料を製造した。
【0061】
本実施形態のAg-Pd-Cu系合金線材の製造工程及び製造条件は、第1実施形態と同様とした。そして、第1実施形態と同様に線材断面の硬度測定を行った。加工性及び伸直度も第1実施形態と同様に評価した。それらの評価結果を表2に示す。また、本実施形態で製造したAg-Pd-Cu系合金の組成を示すX-Y-Z擬3元系状態図を
図6に示した。尚、
図6は、
図4と同様に部分的に拡大したX-Y-Z擬3元系状態図である。また、
図6には、表2で示した第1領域のサンプルの組成を「△」、第2領域のサンプルの組成を「〇」、第3領域のサンプルの組成を「●」で示している。
【0062】
【0063】
表2から、第2実施形態で製造したAg-Pd-Cu系合金の線材からなるプローブピン用材料においても、全てが時効熱処理により580Hv以上であることが確認された。そして、第2領域内の組成の合金では600Hv以上の硬度を示した。更に、第3領域内の組成の合金では620Hv以上の極めて良好な硬度を示した。第2、3領域内の組成のAg-Pd-Cu系合金では、時効硬化による硬度上昇幅は200Hvを顕著に超えている。時効硬化前の硬度においては、第1領域と大きな差はないことを考慮すると、第2、3領域では時効硬化による効果が更に好適に発揮されたといえる。こうした高硬度のプローブピン用材料でも、時効熱処理前の硬度はさほど大きくないので時効熱処理前の加工は容易である。これは、加工性の評価からも理解できる。
【0064】
本実施形態で製造したAg-Pd-Cu系合金については、材料組織の観察を行っている。組織観察は、走査型電子顕微鏡(SEM:JSM-IT700HR、日本電子株式会社製)を用いた。また、SEM観察と同時に観察領域における元素分析をEDS(ULTIM MAX40、オックスフォードインスツルメンツ製)で分析した(加速電圧15kV)。組織分析は、線材の断面に対し、時効処理前後で行った。
【0065】
図7は、観察結果の一例としてNo.37のAg-Pd-Cu系合金のSEM像である。
図7において、マトリックス相と金属間化合物相とが濃淡によって認識可能であり、濃いグレーの相が金属間化合物である。
図7から、時効熱処理により金属間化合物相が増加し分散していることが分かる。尚、このNo.37では、時効熱処理前でも僅かであるが金属間化合物が生成している。
【0066】
No.37実施例37の材料組織に関し、EDSによる元素マッピング分析の結果を
図8に示す。また、マトリックス相と金属間化合物相について行ったポイント分析を行った結果を
図9に示す。
図8の元素マッピングにおいて、Pd、Cu、Zn、Snの4元素が重複して観察される箇所が金属間化合物の存在を示す。また、この点は
図9のポイント分析から明確に確認可能であり、マトリックス相ではZn、Snのスペクトルピークは観られないが、金属間化合物ではPd、Cu、Zn、Snの4元素のスペクトルピークが観られる。このことから、本発明のAg-Pd-Cu系合金は、Pd、Cu、Zn、Snで構成される金属間化合物を含むことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明に係るプローブピン用材料は、これまで以上に効率的な時効硬化作用を発揮することで高硬度化が図れている。本発明に係るプローブピン用材料は、かかる高硬度化によって耐摩耗性に優れると共に、加工性にも配慮がなされている。本発明は、各種電子機器、半導体デバイス、パワーデバイス等における検査用のプローブカードのプローブピンに適用される。特に、折り曲げ耐性に優れる本発明は、カンチレバー型のプローブピンやポゴピンと称される形状のプローブピンにも有用に適用できる。
【要約】 (修正有)
【課題】効率化された析出硬化による高硬度なAg-Pd-Cu系合金からなるプローブピン用材料を提供する。
【解決手段】Ag、Pd、Cuと、Zn及びSn並びにBを含むAg-Pd-Cu系合金よりなるプローブピン用材料である。これらの添加元素は、Zn濃度が0.5質量%以上2.5質量%以下であり、Sn濃度が0.5質量%以上2.5質量%以下であり、B濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下である。そして、Ag濃度をX、Pd濃度をY、Cu濃度+Zn濃度+Sn濃度+B濃度をZとしたときのX-Y-Z擬3元系状態図の下記A1点~A4点を直線で囲んだ範囲内にX、Y、Zが位置する。
A1点(X:24質量%、Y:40質量%、Z:36質量%)A2点(X:34質量%、Y:40質量%、Z:26質量%)A3点(X:17質量%、Y:57質量%、Z:26質量%)A4点(X:7質量%、Y:57質量%、Z:36質量%)
【選択図】
図1