(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】水域環境の観測装置および観測方法
(51)【国際特許分類】
B63C 11/49 20060101AFI20250127BHJP
B63H 21/22 20060101ALI20250127BHJP
B63H 7/02 20060101ALI20250127BHJP
A01G 33/00 20060101ALI20250127BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
B63C11/49
B63H21/22 B
B63H7/02
A01G33/00
A01G7/00 603
(21)【出願番号】P 2024129884
(22)【出願日】2024-08-06
【審査請求日】2024-08-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】393003505
【氏名又は名称】復建調査設計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515102770
【氏名又は名称】ルーチェサーチ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】三戸 勇吾
(72)【発明者】
【氏名】陸田 秀実
(72)【発明者】
【氏名】平坂 直行
(72)【発明者】
【氏名】桑江 朝比呂
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0229826(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0061865(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2024/0239461(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第117368927(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112193377(CN,A)
【文献】特開2021-133916(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0101579(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/49
B63H 21/22
B63H 7/02
A01G 33/00
A01G 7/00
G01S 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水域環境の計測手段を具備した自航式の無人走航体と、該無人走航体を無線通信により遠隔操作しつつ、計測手段で計測したデータを受信する制御装置とを具備した水域環境の観測装置であって、
前記無人走航体は海上に浮遊する船体部を有し、
前記船体部は
角部を有する枠状の船体枠と、
前記船体枠の外周部に間隔を隔てて設けた複数の浮体と、
前記船体枠の外周部の上部に浮体と干渉しない位置に間隔を隔てて立設し、横向きの回転軸を中心に回転する回転翼を具備した複数組のロータユニットを有し、
前記複数組のロータユニットを前記船体部の上部に向かい合わせで立設し、
前記複数組のロータユニットのうちの一部またはすべての回転翼を回転させて発生する横向きの推力により前記無人走航体を自航させることを特徴とする、
水域環境の観測装置。
【請求項2】
前記無人走航体は海上に浮遊する船体部と船体部に搭載した計測部とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の水域環境の観測装置。
【請求項3】
前記船体枠の角部に複数の浮体を分散して設けたことを特徴とする、請求項
1に記載の水域環境の観測装置。
【請求項4】
前記船体枠の外周部に間隔を隔ててマストを設け、各マストの頂部にロータユニットを横向きに設けたことを特徴とする、請求項
1に記載の水域環境の観測装置。
【請求項5】
前記計測部は、防水構造の函体と、函体に内蔵した無人走航体の航行を制御する航行制御手段と、函体に内蔵した海中を観測可能な計測手段と、バッテリーとを具備することを特徴とする、請求項
2に記載の水域環境の観測装置。
【請求項6】
請求項1に記載の観測装置を使用して行う水域環境の観測方法であって、
前記複数組のロータユニットのうちの一部またはすべての回転翼を回転させて発生する横向きの推力により前記無人走航体を自航させながら海中の水域環境を観測し、
無人走航体で計測したデータを制御装置で受信して水域環境を観測することを特徴とする、
水域環境の観測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海草藻場や海藻藻場等のブルーカーボン生態系を含む水域環境を観測するための水域環境の観測装置および観測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブルーカーボンとは、沿岸域に生息する海草・海藻類が二酸化炭素(CO2)を吸収するメカニズムを利用した二酸化炭素の固定化技術のひとつである。
一般的にブルーカーボン生態系とは、二酸化炭素の担体となる海草藻場(アマモ、スガモ等)、海藻藻場(コンブ、ワカメ)、湿地・干潟、マングローブ林を指す(非特許文献1)が、本発明では、海草藻場や海藻藻場等の藻場に限定して使用する。
【0003】
ブルーカーボン生態系は、二酸化炭素吸収効果や生物の生育効果など、多くの便益を有する場であり、ブルーカーボン生態系の再生や創出は、今後の温暖化対策や水産業の振興にとって重要な課題となっている。
近年では、ブルーカーボン生態系の炭素吸収能力を認証し、クレジットとして販売するブルーカーボンクレジット制度も設立されている。
【0004】
近年、藻場等のブルーカーボン生態系の減少が問題となっている。
この課題に取り組むには、実際のブルーカーボン生態系の生育状況を観測する必要がある(非特許文献2)。
【0005】
従来、ブルーカーボン生態系の観測手法としては、例えば、潜水士による目視観測方法、ソナーを搭載した船舶による音波探査方法、自航式の水中カメラと船舶とを組み合わせた水中撮影方法、空中ドローンによる空撮方法等が知られている。
【0006】
潜水士による目視観測方法は、海草や海藻の専門知識を有する複数名の潜水士が対象水域に潜水して直接観測する方法である。
音波探査方法は、船底から海底に向けて音波を照射し、その反射波に基づいて藻場を観測する方法である(特許文献1,2)。
水中撮影方法は、対象水域を船舶で随行しながら自航式の水中カメラにより海中を撮影し、これらの画像に基づいてブルーカーボン生態系の分布等を観測する方法である(特許文献3,4)。
空撮方法は、上空から対象水域を空中ドローンに搭載したカメラで撮影し、撮影した画像の濃淡等を基にブルーカーボン生態系の分布を観測する方法である(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-49376号公報
【文献】特開平8-271629号公報
【文献】特開平10-20382号公報
【文献】特開2002-58370号公報
【文献】特開2004-151278号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001737796.pdf
【文献】https://www.mlit.go.jp/report/press/port06_hh_000290.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のブルーカーボン生態系の観測技術には次のような問題点を内包する。
<1>潜水士による目視観測方法は、潜水者が海草や海藻等の専門知識を有する者に限られるうえに、潜水者の労力の負担が大きく、極めて非効率的である。
<2>自航式の水中カメラを用いる観測方法は、随行する船舶や水中カメラがスクリュー要素を具備することから、スクリュー要素に海藻や海藻が絡まって船舶や水中カメラの航行が阻害され易いうえに、スクリュー要素の回転に伴い発生する空気泡が原因でカメラによる撮影画質が悪い等の問題点を有する。
<3>さらに船舶や水中カメラが重量物であるため、航行中に大きな慣性がはたらく。
そのため、船舶や水中カメラを直ちに停止できない。
発進や停止に多くの時間がかかるため、効率よく観測することができない。
<4>船舶と水中カメラの間をケーブルで接続した形態にあっては、水中カメラが観測できる範囲がケーブルの長さの制約を受ける。
そのため、観測範囲が広くなるほど観測に多くの時間を要して、観測効率が低くなる。
<5>空中ドローンによる空撮方法は、映像の濃淡が不鮮明となるため、空撮のみでブルーカーボン生態系の分布を正確に観測することが難しいといった問題点を有するうえに、空撮可能な条件が透光性のよい海域に限定されるという問題点を内包する。
<6>以上のように、従来の観測方法は、労力および費用の負担が大きく、ブルーカーボンクレジット申請者等の大きな負担となっている。
<7>このような背景から、ブルーカーボン生態系の再生・創出の推進ために、従来よりも安価で効率的なブルーカーボン生態系の観測を可能とする技術の提案が望まれている
【0010】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、本発明の目的とするところは、海藻等の影響を受けずに無人走航体を自由に航行できて、従来よりも安価で効率的な水域環境の観測を可能とする、水域環境の観測装置および観測方法を提供することにある。
さらに本発明の目的は、ロータユニットを大型化したり、ロータユニットの設置数を増やしたりせずに、暴風雨等の悪環境下でも無人走航体を航行して観測できる、ブルーカーボン生態系の観測装置および観測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水域環境の計測手段を具備した自航式の無人走航体と、該無人走航体を無線通信により遠隔操作しつつ、計測手段で計測したデータを受信する制御装置とを具備した水域環境の観測装置であって、前記無人走航体は海上に浮遊する船体部を有し、前記船体部は横向きの回転軸を中心に回転する回転翼を具備した複数組のロータユニットを有し、前記複数組のロータユニットを前記船体部の上部に向かい合わせで立設し、前記複数組のロータユニットのうちの一部またはすべての回転翼を回転させて発生する横向きの推力により前記無人走航体を自航させるものである。
本発明の他の形態において、前記無人走航体は海上に浮遊する船体部と船体部に搭載した計測部とを含む。
本発明の他の形態において、前記船体部は角部を有する枠状の船体枠と、船体枠の外周部に間隔を隔てて設けた複数の浮体と、船体枠の外周部の上部に浮体と干渉しない位置に間隔を隔てて立設した複数組のロータユニットとを少なくとも具備する。
本発明の他の形態において、前記船体枠の角部に複数の浮体を分散して設ける。
本発明の他の形態において、前記船体枠の外周部に間隔を隔ててマストを設け、各マストの頂部にロータユニットを横向きに設ける。
本発明の他の形態において、前記計測部は、防水構造の函体と、函体に内蔵した無人走航体の航行を制御する航行制御手段と、函体に内蔵した海中を観測可能な計測手段と、バッテリーとを具備する。
本発明は前記した何れかの観測装置を使用して行う水域環境の観測方法であって、前記複数組のロータユニットのうちの一部またはすべての回転翼を回転させて発生する横向きの推力により前記無人走航体を自航させながら海中の水域環境を観測し、無人走航体で計測したデータを制御装置で受信して水域環境を観測する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は少なくともつぎの一つの効果を奏する。
<1>無人走航体は、海中で回転するスクリュー要素を持たず、船体部の上部に配備した複数組のロータユニットの推力を利用して自航するものである。
そのため、無人走航体の自航が海藻や海藻等によって阻害される心配がなく、海藻等の影響を受けずに無人走航体を自由に航行させることができる。
<2>無人走航体を停止するときは、すべてのロータユニットの稼動を停止するだけで直ちに停止できる。
仮に無人走航体に慣性がはたらいていても、進行方向に面した一対のロータユニットの回転翼を一瞬だけ逆転させるだけの簡単な操作で以て無人走航体を強制的に停止させることができる。
<3>上記した要因により、潜水夫に頼らずに、無人走航体の計測手段(計測部)部を通じて、従来よりも安価で効率的な水域環境(例えばブルーカーボン生態系)を観測することができる。
そのため、水環境の効率的な把握やブルーカーボン生態系の再生・創出の推進に大きく貢献することができる。
<4>無人走航体の自航手段として、ロータユニットの回転翼の回転軸を縦向きにして回転翼を水平回転させる方法が考えられる。
ロータユニットの回転翼を水平回転させると、回転翼による上下方向へ向けた推力が走航体の水平航行に寄与しないので水平航行する際に大きな推力ロスとなる。
これに対し、本発明では、複数組のロータユニットの回転軸の向きを横向きにすることで、水平に向けた推力ロスを小さくした。
したがって、本発明では、ロータユニットを大型化したり、ロータユニットの設置数を増やしたりせずに、暴風雨等の悪環境下でも無人走航体の航行力を確保することができる。
<5>無人走航体の船体部の骨格を枠状にして、波浪の影響を受け難くするとともに、船体部の角部に複数の浮体を分散して設けて無人走航体の安定性が格段に高くなった。 そのため、無人走航体を小型で軽量に製作しても海上で安定した姿勢で航行することができる。
<6>無人走航体は空気泡の発生要因であるスクリュー要素を持たない。
そのため、海中を鮮明な画質で撮影することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1~4を参照しながら本発明について詳しく説明する。
[実施例1]
【0015】
<1>水域環境観測装置の概要
図1に水域環境の観測に用いる観測装置10の一例を示す。
観測装置10は、自航式の無人走航体20と、無人走航体20を無線(コードレス)で遠隔操作する制御装置50とを具備する。
【0016】
以降の説明に際し、「前後」とは無人走航体20の前進方向または後退方向を意味し、「左右」とは無人走航体20の進行方向に対する左右方向を意味するものとして説明する。
【0017】
<2>無人走航体
無人走航体20は、水面を自由に航行しながら海中の水域環境の情報(例えばブルーカーボン生態系の情報)を計測可能な装置である。
【0018】
本例で例示した無人走航体20は、海上に浮遊する自航式の船体部30と、船体部30に搭載した計測部40とを含む。
【0019】
運搬性や取扱性を考慮すると、実用上の無人走航体20は、例えば一辺が60~120cm程度で、高さが30~100cm程度の寸法を有し、総重量が10~20kg程度であることが望ましい。
【0020】
<2.1>船体部
船体部30は、船体枠31と、船体枠31の外周部に間隔を隔てて設けた複数の浮体32と、船体枠31の外周部に浮体32と干渉しない位置に間隔を隔てて立設した複数組のロータユニット35(35a~35d)とを少なくとも具備している。
【0021】
<2.1.1>船体枠
船体枠31は、防水性を有する複数の枠材を繋ぎ合わせて多角形に形成した枠体であり、外周部31aと横断部31bとを有する。
船体部30の骨格を枠状にしたのは、波浪の影響を受け難くするためである。
【0022】
船体枠31の平面形状は、本例で示した四角形に限定されず、三角形以上の多角形であるか、或いは円形または楕円形であってもよい。
船体枠31を構成する枠材としては、軽量で強度を有するFRP素材の中空パイプが適用可能である。
【0023】
船体枠31の外周部31aには、間隔を隔てて複数のマスト33を一体に立設し、各マスト33の頂部にロータユニット35を設ける。
【0024】
<2.1.2>マスト
船体枠31の外周部31aには、間隔を隔てて複数のマスト33を一体に立設し、各マスト33の頂部にロータユニット35を設ける。
本例では4本のマスト23を立設した形態を示すが、マスト23の設置数はロータユニット35の設置数と同数であればよい。
【0025】
<2.1.3>ロータユニット
ロータユニット35は無人走航体20の航行源であり、海中の海藻等の影響を受けないように、すべてのロータユニット35を船体枠31の上方に配備する。
ロータユニット35の設置数は適宜選択が可能であるが、ロータユニット35は3組位以上(3~6組)であればよい。
【0026】
ロータユニット35は横向きの回転軸を有するモータ36と、モータ36の回転軸に設けた回転翼(ロータ)37とからなる。
各ロータユニット35の回転翼37は、すべて横向きに設ける。換言すれば、各ロータユニット35の回転翼37の回転面が同一の縦向面になるように設ける。
【0027】
船体枠31上に配備するにあたっては、複数組のロータユニット35の送風方向が互いに交差するように配備する。
本例では一対のロータユニット35を相対向(正対)させて、前後方向と左右方向に向けて配置した形態について説明するが、ロータユニット35を正対させずに単に向かい合わせの形態で設けてもよい。
【0028】
複数組のロータユニット35は、単数または複数のモータ36の稼働と停止の制御が可能である。
単数または複数組のロータユニット35のモータ36のオンオフと回転速度等を手動または自動で制御することにより、無人走航体20による全方向へ向けた水平航行が可能である。
複数組のロータユニット35の制御方法については後述する。
【0029】
<2.1.4>ロータユニットを横向きに配備した理由
無人走航体20の他の航行手段として、公知のドローンのように回転軸を縦向きに配置して回転翼を水平回転させるロータユニットの配置形態が考えられる。
複数組のロータユニットの回転翼を水平回転させると、水平方向へ向けた推力と、上下方向へ向けた推力が生じるが、回転翼による上下方向へ向けた推力は、走航体の水平航行に寄与しないので水平航行する際の推力ロスとなる。
そのため、暴風雨等の悪環境下で航行する場合に、回転軸を縦向きに配置した回転翼を高速回転させても、水平航行に向けた推力が不足して航行不能に陥る可能性がある。
航行に必要な推力不足を補うためには、ロータユニットを大型化したり、ロータユニットの設置数を増やしたりする必要があるが、これらの対応策は走行体のコスト高の問題と重量増加の問題を引き起こす。
【0030】
本発明はこのような事態に対処するために、複数組のロータユニット35の回転軸の向きを横向きにすることで、水平に向けた推力ロスを小さくした。
したがって、本発明では、ロータユニット35を大型化したり、ロータユニット35の設置数を増やしたりせずに、暴風雨等の悪環境下でも無人走航体20の航行力を確保することができる。
【0031】
<2.1.5>浮体
船体枠31の外周部31aには複数の浮体32を設ける。
浮体32は無人走航体20が海面に浮くように浮力が発生する構造体であり、例えば水より軽い軽量樹脂素材等で形成するか、中空構造体として形成する。
浮体32の形状に制約は特にないが、柱状、球体状、半球体状が好適である。
浮体32の設置数や浮体32の大きさは、無人走航体20の総重量等を考慮して適宜選択が可能である。
【0032】
浮体32は、外周部31aの直線部の途上に設けてもよいが、船体枠31の角部に複数の浮体32を分散してバランスよく設ける。
船体枠31の角部に複数の浮体32を分散して設けるのは、「サイドフロート効果」により無人走航体20の安定性を高めるためである。
【0033】
<2.2>計測部
船体枠31の中央には計測部40を設ける。
図4を参照して説明すると、計測部40は、防水構造の函体41と、函体41に内蔵した無人走航体20の航行を制御する航行制御手段42(例えばGPSシステム42a、走航体制御システム42b、無線通信システム42c等)と、函体41に内蔵した海中を観測可能な計測手段43(例えば撮影用カメラ43a、ソナーシステム43b等)と、バッテリー44とを具備する。
函体41は撮影用カメラ43a等で海中を撮影できるように、その底面が透明素材で形成してある。
【0034】
<2.2.1>航行制御手段
PSシステム42aと無線通信システム42cは周知である。
走航体制御システム42bは、複数組のロータユニット35(35a~35d)の稼動と停止および回転翼37の回転数等を個別に制御可能である。
無人走航体20の航行制御手段52を構成するシステムは、例示したGPSシステム42a、走航体制御システム42b、無線通信システム42cに限定されず、必要に応じて適宜公知のシステムを適用する。
【0035】
<2.2.2>計測手段
撮影用カメラ43aは水中撮影用カメラだけでなく、水上撮影用カメラを並設してもよい。撮影用カメラは、公知のシンバルを介して取り付ける。
撮影用カメラ43aは静止画像だけでなく動画の撮影も可能である。
ソナーシステム43bは、海中に生育する海草や海藻の分布状況を観測するだけでなく、水深の測定も可能公知である。
ソナーシステム43bは、必要に応じて配備する。
【0036】
海中を観測可能な計測手段43は、例示した撮影用カメラ43a、ソナーシステム43bに限定されず、必要に応じて適宜公知の計測機器や各種センサ(水質センサ、流速センサ等)を搭載することも可能である。
【0037】
<2.2.3>バッテリー
バッテリー44は公知の充電式バッテリー(リチウムイオン電池等)の他に太陽電池、燃料電池、またはこれらの複数の組み合わせも可能である。
既述したロータユニット35、航行制御手段42、計測手段43はバッテリー44と電気的に接続している。
【0038】
無人走航体20の浮力は、浮体32を選択することで調整可能であるため、バッテリー44の重量が多少増しても、無人走航体20による海面浮上と自由航行に対する影響は少ない。
【0039】
<3>制御装置
図1に示した制御装置50は、無人走航体20の航行を遠隔操すると共に、無人走航体20で計測した画像やデータを受信して記憶する装置である。
制御装置50の一部にモニタを付設してリアルタイムで海中映像を目視できるように構成してもよい。
制御装置50は無人走航体20の単体を専用に制御する携帯型のコントローラでもよいし、一基の制御装置50で以て複数の無人走航体20を一斉に制御する基地局タイプでもよい。
【0040】
[ブルーカーボン生態系の観測方法]
観測装置10を使用したブルーカーボン生態系の観測方法について説明する。
【0041】
<1>観測装置の運搬移動
観測装置10を構成する無人走航体20は、ワンボックスカー等の非大型車両に搭載可能な大きさで、作業員一人で持ち運びが可能な重量を有する。
制御装置50も小型で軽量である。
そのため、無人走航体20及び制御装置50の運搬移動が極めて容易である。
【0042】
<2>無人走航体の航行移動
計測部40の底面を下向きにした状態で無人走航体20を海面に着水させる。
無人走航体20は、複数の浮体32の浮力により海面上に浮遊する。
制御装置50の指令により、またはプログラムにしたがって、無人走航体20を自動的にブルーカーボン生態系(海草藻場、海藻藻場等)の観測対象水域まで航行させる。
【0043】
無人走航体20は、海中で回転するスクリュー要素を持たず、船体枠31の上方に配備した複数組のロータユニット35の推力を利用して自航するものである。
そのため、無人走航体20の自航が海藻や海藻等によって阻害される心配がなく、海藻等の影響を受けずに無人走航体20の自由航行が可能である。
【0044】
無人走航体20は自力で航行が可能であるため、船舶の随行が不要であり、さらに陸地側で無人走航体20を遠隔操作できるので、無人走航体20に延長ケーブルを設ける必要がない。
【0045】
<2.1>直進航行
図3を参照して無人走航体20の操舵方法について説明する。
複数組のロータユニット35a~35dのうちの任意のモータ36と共に回転翼37を回転させて、水平方向へ向けた推力を発生させることで、無人走航体20の直進が可能である。
【0046】
無人走航体20を直進する場合、進行方向に面した一対のロータユニット35a、35cの回転翼37の何れか一方を稼働させるか、または進行方向に面した一対のロータユニット35a、35cの回転翼37を同時に稼働させる。
【0047】
進行方向に面した一対のロータユニット35a、35cの回転翼37を同時に稼働させた場合は、進行方向に面した一対のロータユニット35a、35cの回転翼37の何れか一方を稼働させた場合と比べて航行速度が倍増する。
【0048】
無人走航体20を直進する他の形態としては、全てのロータユニット35a~35dの回転翼37を同時に稼働させて航行することも可能である。
【0049】
<2.2>進行方向の変更操作
無人走航体20の進行方向を変えるときは、無人走航体20の進行と直交する方向に面した一対のロータユニット35b、35dの回転翼37の何れか一方または両方の回転を制御することで、無人走航体20の進行方向を左右に変更することができる。
【0050】
各ロータユニット35b、35dの回転翼37の回転数を調整したり、回転方向を逆の組み合わせにしたりすること等で、無人走航体20の進行方向を所望の角度に調整することができる。
【0051】
<2.3>停止操作
無人走航体20を停止するときは、すべてのロータユニット35a~35dの稼動を停止するか、または進行方向に面した一対のロータユニット35a、35cの回転翼37を一瞬だけ逆転させて制動する。
【0052】
無人走航体20は数kg程度の軽量であるために大きな慣性がはたらかないことと、無人走航体20が航行する際に水の抵抗がはたらくことの要因により、すべてのロータユニット35a~35dの稼動を停止するだけで無人走航体20を直ちに停止できる。
【0053】
仮に無人走航体20に慣性がはたいたとしても、進行方向に面した一対のロータユニット35a、35cの回転翼37を一瞬だけ逆転させて制動力を与えることで、直ちに無人走航体20の強制停止が可能である。
【0054】
<3>計測手段による海中観測
無人走航体20が観測対象水域に到着したら、制御装置50を操作して計測手段43(撮影用カメラ43a、ソナーシステム43b等)を起動して、海草や海藻等の分布や生育状況等を観測する。
無人走航体20は、空気泡の発生要因であるスクリュー要素を持たないため、海中を鮮明な画質で撮影することができる。
【0055】
計測手段43による観測は、無人走航体20を停止状態で行うことも可能であるし、無人走航体20を航行しながら行うことも可能である。
【0056】
<3.1>観測データの発信
計測手段43で撮影した海中の画像等の計測データを、GPSによる無人走航体20の位置情報とともに、制御装置50へ送信する。
【0057】
<3.2>観測データの受信
無人走航体20から発信された画像等の計測データは、制御装置50で受信する。
観測者は、リアルタイムで制御装置50に映し出される画像を見て観測したり、制御装置50に記憶された計測データを見て観測したりする。
【0058】
このように、潜水夫に頼らずに、無人走航体20の計測部40を通じて、従来よりも安価で効率的なブルーカーボン生態系の観測を可能とする。
そのため、ブルーカーボン生態系の再生・創出の推進に大きく貢献することができる。
【0059】
[実施例2]
前記した実施例1では、水質環境として、ブルーカーボン生態系の観測に適用した形態について説明したが、本発明は水質調査やナローマルチビーム測量に代表される地形測量等にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0060】
10・・・・観測装置
20・・・・無人走航体
30・・・・船体部
31・・・・船体枠
31a・・・船体枠の外周部
31b・・・船体枠の横断部
32・・・・浮体
33・・・・マスト
35,35a~35d・・・ロータユニット
36・・・・モータ
37・・・・回転翼
40・・・・計測部
41・・・・函体
42・・・・航行制御手段
42a・・・GPS制御システム
42b・・・航行制御システム
42c・・・通信システム
43・・・・計測手段
43a・・・撮影用カメラ
43b・・・ソナーシステム
44・・・・バッテリー
50・・・・制御装置
【要約】
【課題】海藻等の影響を受けずに無人走航体を自由に航行できて、従来よりも安価で効率的なブルーカーボン生態系の観測を可能とする、水域環境の観測装置および観測方法を提供すること。
【解決手段】自航式の無人走航体20と、無人走航体20を遠隔から制御する制御装置50とを具備し、無人走航体20は船体部30と計測部40とを具備し、船体部20は角部を有する枠状の船体枠31と、船体枠31の外周部に間隔を隔てて設けた複数の浮体32と、船体枠31の外周部の上部に浮体32と干渉しない位置に向かい合わせで立設した複数組のロータユニット35とを具備し、複数組のロータユニット35のうちの一部またはすべての回転翼37を回転させて自航させる。
【選択図】
図1