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  • 特許-水銀除去方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】水銀除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/64 20060101AFI20250127BHJP
   B01D 53/83 20060101ALI20250127BHJP
   B03C 3/02 20060101ALI20250127BHJP
   C04B 7/60 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
B01D53/64 100
B01D53/83 ZAB
B03C3/02 B
C04B7/60
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021012973
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022116674
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110004510
【氏名又は名称】弁理士法人維新国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179729
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 一美
(72)【発明者】
【氏名】中村 明則
(72)【発明者】
【氏名】平山 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】澤野 勝丈
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-008674(JP,A)
【文献】特開2011-125814(JP,A)
【文献】特開2018-095913(JP,A)
【文献】特開2017-137211(JP,A)
【文献】特開2015-196127(JP,A)
【文献】特開2019-177366(JP,A)
【文献】特開2020-001015(JP,A)
【文献】特開2014-091666(JP,A)
【文献】特開2010-247017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34-53/73,53/74-53/85,53/92,53/96
B03C 3/00-11/00
C22B 1/00-61/00
C04B 2/00-32/02,40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント製造工程において発生する排ガス中に含まれる水銀を除去する水銀除去方法であって、
セメント焼成設備を構成するプレヒーターから電気集塵機に前記排ガスを送るためのガス経路に前記水銀の吸着材を投入する工程と、
前記吸着材を前記電気集塵機から回収する工程と、
前記電気集塵機の集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流を測定する工程と、を備え、
前記吸着材を投入する工程において、前記吸着材が投入される際の前記排ガスの温度が350℃以上であるとともに、
前記電圧及び/又は前記電流の測定値が予め定められた数値範囲を超えて変動した場合に、前記ガス経路への前記吸着材の投入を停止することを特徴とする水銀除去方法。
【請求項2】
前記吸着材が活性炭であることを特徴とする請求項1に記載の水銀除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント焼成設備において発生する排ガス内の水銀を効率的に除去する水銀除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等を建築する際に用いられる材料の一つであるセメントは、今や我々の生活になくてはならない材料として確固たる地位を築き上げている。セメントの歴史は古く、その製造工程については、原料工程、焼成工程及び仕上げ工程という3つの工程に大別されることが知られている。
最初の工程である原料工程では、石灰石、粘土、ケイ石及び鉄原料といった複数の原料が所定の比率で調合された後、原料ミルによって粉砕される。そして、この原料ミルにおいて粉砕された混合原料は、サイクロンに気流搬送され、搬送に使用された気体から分離される。この分離された混合原料はブレンディングサイロに送られて均質にブレンドされた後、原料ストレージサイロに貯蔵されることになる。
【0003】
続いて行われる焼成工程では、原料工程において粉砕・調合された調合原料がロータリーキルンによって焼成されるが、焼成時の焼成効率を高めるため、調合原料はロータリーキルンに投入される前に複数のサイクロンを有するプレヒーターに送られて予備加熱が行われる。そして、予備加熱が行われた調合原料は、ロータリーキルン内を移動しながら高温で焼成される。このようにしてロータリーキルン内で焼成された調合原料は塊状物となり、ロータリーキルンの出口側においてエアーで急冷される。この急冷された塊状物がセメントの中間製品となるクリンカーである。
【0004】
そして、最後の工程である仕上げ工程では、クリンカーに石膏が加えられた状態で予備粉砕機に送られて予備粉砕された後、さらに鋼鉄のボールの入った仕上げミルに入れられて平均粒径が10~20μm程度となるように微粉砕される。得られた微粉はそのままポルトランドセメントとして用いられるか、混合機でフライアッシュやスラグ粉と混ぜられて混合セメントとして用いられることになる。
【0005】
なお、上述したセメントの製造工程を構成する3つの工程のうち焼成工程において、クーラーでクリンカーを冷却する際に用いられたエアーは、ロータリーキルンやプレヒーターの内部を通過し燃焼で消費されるなどしながら電気集塵機へと流れ、電気集塵機を通過する過程で内在するダストが捕集された後、大気中へ放出される。なお本発明においては、大気排出前であって予熱などに利用されるガスであっても、ロータリーキルンあるいはプレヒーターから出た後のガスを「排ガス」と称することとする。
ここで、セメント用の原料には石灰石等を起源とする水銀が僅かながら含まれていることが知られている。この水銀は、その沸点以上の温度まで昇温されるプレヒーター内やロータリーキルン内において気化し、上記排ガスとともに電気集塵機側へと流れることになる。
【0006】
プレヒーターあるいはロータリーキルン内で気化した上記水銀は、そのまま排ガスとともに大気中に放出されるわけではなく、電気集塵機に向かう過程で排ガス内に存在するダストに吸着するなどしてダストに固定化される。このようにして、水銀はダストとともに電気集塵機により捕集されることになるのである。こうしたメカニズムにより、従来からセメント原料中の水銀が規制値を超える濃度で大気中に放出されることはなかった。
【0007】
しかしながら、近年の地球環境保護の気運の高まり等から、今後水銀の排出管理が厳格化される可能性も出てきており、セメントメーカーは早急に対策を講じる必要があった。また、使用するセメント原料の品質、配合変更(例えば、水銀を含む煤塵等のリサイクル資源の高充填化)によっては、極微量といえども水銀含有量の高い調合原料を用いてセメントの生産を行う可能性もあり、仮にそのような調合原料を使用してしまった場合には、ダストに吸着されなかった余剰の水銀が誤って大気中に放出される可能性が存在することも懸念された。このため、排ガス中に存在する水銀の量が何らかの要因で増加しても、水銀を効率良く除去することができる技術の確立が急がれていた。
このような状況下において、最近では水銀除去技術に関する先願として、例えば以下に示す4つの発明が開示されている。
【0008】
特許文献1には「セメントキルン排ガスの処理システム及びその運転方法」という名称で、キルンから出る排ガス中の水銀及び有機汚染物質の処理技術に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明である処理システムは、同文献中の図1に記載される符号をそのまま用いて説明すると、セメント焼成設備のプレヒーター3から排出される排ガスG2にガス吸着材Aを添加するガス吸着材添加装置7と、プレヒーター3の排ガスG2に含まれるダストDを集塵する電気集塵装置8と、集塵したダストDに含まれる水銀を回収する水銀回収装置9とを備えていることを特徴とするものである。
上記構成の特許文献1に開示される発明によれば、セメント焼成設備から排出される水銀と有機汚染物質の濃度を計測しながら、それらの濃度に応じて回収したダストDを水銀吸着用として再び排ガスG2内に投入したり、ガス吸着材Aを新たに添加したりして、水銀及び有機汚染物質を包括的かつ効率的に低減するとしている。
【0009】
特許文献2には「セメントキルン排ガスからの水銀除去方法及び除去システム」という名称で、キルンから出る排ガス中の水銀を除去する技術に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示される発明である水銀除去システムは、同文献中の図1に記載される符号をそのまま用いて説明すると、排ガスG1を集塵処理する集塵装置8と、集塵装置8からの集塵ダストDの未燃カーボン含有率を測定する測定装置9と、この測定装置9の測定値に基づいてキルン2を含むセメント焼成設備に添加する水銀吸着剤Aの量を調整する添加量調整装置12とを備えていることを特徴とするものである。
上記構成の特許文献2に開示される発明によれば、測定した集塵ダストDの未燃カーボン含有率に基づいてキルン2を含むセメント焼成設備に添加する水銀吸着剤Aの量を調整できることで、セメント焼成設備内の水銀吸着剤Aの量を適切に維持し、キルン2から出る排ガスG1から低コストかつ効率よく水銀を除去することができる。
【0010】
特許文献3には「排ガス処理システムおよび排ガス処理方法」という名称で、水銀の濃度に対して、活性炭の最適な供給量を正確に決定することができる排ガス処理システムに関する発明が開示されている。
特許文献3に開示される発明である水銀除去システムは、同文献中の図1に記載される符号をそのまま用いて説明すると、排ガスに含まれる有害物質を除去する集じん装置2と、排ガスの流れ方向において、集じん装置2の上流側に配置され、かつ集じん装置2に導入される排ガスに含まれる水銀の濃度を測定する水銀計3と、集じん装置2に導入される排ガスに活性炭を供給する活性炭供給装置4と、活性炭供給装置4から供給される活性炭の供給量を制御する制御装置5と、を備えていることを特徴とするものである。
【0011】
上記構成の特許文献3に開示される発明によれば、制御装置5が水銀計3で測定された水銀の濃度の平均値を移動平均によって算出して活性炭の供給量を決定するため、水銀の濃度に合わせて必要な量の活性炭のみを排ガス内に供給できる。この結果、水銀の吸着に寄与しない活性炭を供給することがなくなり、排ガス処理費用の低減にも繋げることができる。
【0012】
特許文献4には「排ガス処理装置及び排ガス処理方法」という名称で、クリンカー製造設備から排出される排ガス中の水銀量を、安定的かつ低水準に抑制することができる技術に関する発明が開示されている。
特許文献4に開示される発明について、同文献中の図3に記載される符号をそのまま用いて説明すると、セメント原料M1を粉砕する粉砕機12と、粉砕機12で粉砕されたセメント原料M4を焼成してセメントクリンカーM5を製造しつつ、焼成により内部で発生した燃焼ガスG1を粉砕機12に供給するセメントキルン10と、粉砕機12から排出される粉砕機排ガスG2に含まれる粉粒体を集塵する集塵機16と、粉砕機12に導入されるセメント原料M1の量を計測する原料計測器14と、集塵機16から排出される集塵機排ガスG3に含まれる水銀を吸着する吸着材Adにより集塵機排ガスG3bを処理する供給機26と、原料計測器14の計測結果に基づいて集塵機排ガスG3bの吸着材Adに対する接触量を制御するコントローラ28とを備えることを特徴とするものである。
【0013】
上記構成の特許文献4に開示される発明によれば、原料計測器14の計測結果に基づいて、コントローラ28が集塵機排ガスG3bの吸着材Adに対する接触量を適切に制御することで、当該接触量が常に高い状態に維持されていなくても、集塵機排ガスG3b中の水銀濃度を低減することができる。この結果、吸着材Adの使用量が適切に制御されるため、水銀除去のランニングコストを抑制しつつ、水銀排出量を安定的かつ低水準に抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2013-112579号公報
【文献】特開2018-135248号公報
【文献】特開2020-146643号公報
【文献】特開2019-51485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述の特許文献1に開示される発明であれば、排ガスG2中の水銀濃度に応じて排ガスG2に回収したダストDを投入することができ、排ガスG2内の水銀を効率的に除去可能である。しかしながら、排ガスG2内に水銀が過剰に含まれている場合にはダストDが排ガスG2内に過剰に投入されてしまう恐れがあり、過剰に投入された場合には電気集塵装置8の集塵能力を超えてしまい、当該装置を停止させてメンテナンスを行う必要が生じる可能性があるという課題があった。そして、電気集塵装置8を停止させてしまった場合には、セメント焼成設備自体の稼働を停止して生産計画自体を見直す必要性も生じるという課題もあった。
また、特許文献1に開示された発明では、水銀濃度に基づいて複数あるダストDの循環ルートの中から一つを選択するように制御するため、水銀濃度を測定する測定装置並びに循環ルート別の配管が必須となる。したがって、従来から使用している設備への適用は、費用並びに工期の面から容易ではないという課題もあった。
【0016】
一方、特許文献2に開示される発明であれば、未燃カーボン含有率が高い集塵ダストDを水銀吸着材として使用できるため、高価な水銀吸着材Aのみを使用する場合に比べてセメント製造原価を低下させることが可能であり経済的である。しかしながら、特許文献2に開示される発明は、そもそも上述する通り集塵ダストDを水銀吸着材Aと置換させてセメント製造原価の低減を目的としており、電気集塵機8内に集塵ダストDや水銀吸着材Aが堆積して電気集塵機8の集塵能力を低下させないように水銀吸着材Aの供給量を調整することは想定していないという課題があった。
【0017】
さらに、特許文献3に開示される発明であれば、排ガス中の水銀の濃度に対して、濃度の変動があっても最適な量の活性炭を正確に供給することができ、排ガス処理費用を不必要に上昇させることがない。しかしながら、集じん装置2内に排ガス中に含まれるダスト及び活性炭が過度に堆積して集じん装置2の集塵能力を低下させないように、活性炭の供給量を調整するといった点については全く考慮されていないという課題があった。
【0018】
加えて、特許文献4に開示される発明であれば、投入したセメント原料M1に合わせて吸着材Adの供給量が制御されるため、水銀除去のランニングコストは抑制されると考えられる。しかしながら、集塵機16内にダスト及び活性炭が過度に堆積して、集塵機16の集塵能力が低下した場合の対策については全く考慮されていないという課題があった。
【0019】
本発明は、かかる従来の事情に対処してなされたものであり、その目的は電気集塵機内に追加投入した吸着材が過度に堆積してしまい集塵能力を低下させることなく、排ガスから簡単かつ効率的に水銀を除去できる水銀除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するための第1の発明である水銀除去方法は、セメント製造工程において発生する排ガス中に含まれる水銀を除去するものであって、セメント焼成設備を構成するプレヒーターから電気集塵機に排ガスを送るためのガス経路に水銀の吸着材を投入する工程と、吸着材を電気集塵機から回収する工程と、電気集塵機の集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流を測定する工程と、を備え、電圧及び/又は電流の測定値が予め定められた数値範囲を超えて変動した場合に、ガス経路への吸着材の投入を停止することを特徴とするものである。
【0021】
上記構成の第1の発明において、吸着材を投入する工程では、ガス経路内の排ガス内に吸着材が投入されることで、吸着材の表面に排ガス中に存在する水銀を接触させて吸着させる作用を有する。
そして、水銀を吸着した吸着材を電気集塵機により回収する工程では、吸着材を電気集塵機内の高電圧がかけられた集塵極(プラス極となる)と放電極(マイナス極となる)の間を通過させることで、コロナ放電により発生したマイナスイオンとなったガス分子と吸着材が接触し、マイナス電荷を帯びた吸着材は集塵極へ引き寄せられて捕集されるという作用を有する。
【0022】
このような作用を有する電気集塵機の構造について、図3を用いながら詳細に説明する。
図3は電気集塵機によって吸着材が捕集される様子を模式的に示した図である。なお、図3の説明では、他の図の説明では使用しない符号(集塵極4a、放電極4b、吸着材11)を用いながら説明する。また、図3では、図が煩雑になるのを避けるため、1つの吸着材についてのみ符号を付し、その他のものについては符号を省略した。加えて、吸着材を添加していない状態でも、クリンカーの製造に伴うダストが常に電気集塵機に流入しているが、これも記載を省略した。当該ダストの挙動は、事実上、吸着材と同じである。
図3に示すように、電気集塵機4では、平行に配置された一対の集塵極4a、4aの中間にピアノ線等からなる放電極4bが設置されている。そして、電気集塵機4は、集塵極4a、4aがプラスに帯電し、放電極4bがマイナスに帯電するように、集塵極4a、4aと放電極4bの間に、例えば40~60kVの直流電圧が印加される構造となっている。
【0023】
このように集塵極4a、4aと放電極4bの間に直流電圧が印加された状態の電気集塵機4の内部に、幅の広い矢印で示すように吸着材11を含むガスを流すと、集塵極4a、4aと放電極4bの間にコロナ放電が発生して、無数のガス分子がマイナスにイオン化することになる。このイオン化したガス分子は電位の低い放電極4bから電位の高い集塵極4a、4aへと移動するが、このガス分子は吸着材11とも衝突して結合し、吸着材11をマイナスに帯電させる。その結果、マイナスに帯電した吸着材11は高電位の集塵極4aに引き寄せられ、集塵極4aに接触した吸着材11はマイナスの電荷を失って、集塵極4aの表面に付着して捕集されながら、時間とともに集塵極4aを覆うように堆積することになる。
なお、堆積した吸着材11(及び他のダスト)は、バイブレータ等で集塵極4aに振動を与えることにより集塵極4aの表面から剥離して落下する。このバイブレータ等による振動付与は、通常は、タイマー等による制御で周期的に行われている。
【0024】
次に、本願発明の水銀除去方法における電気集塵機の集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流を測定する工程では、集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流を測定することで、集塵極に捕集された排ガス中の吸着材及びダストの堆積の程度や帯電状態を把握することができるという作用を有する。
ここで、集塵極と放電極の間の電圧並びに電流は両極間の状態に依存し、吸着材及びダストが電気集塵機内に堆積していくことで、集塵極と放電極の間の空間は次第に狭くなる。そして、この空間が狭くなるにつれて、集塵極と放電極の間の放電空間のインピーダンスが変化する結果、電圧が低下したり電流が増加したりするようになる。すなわち、電圧・電流は堆積の程度と関係しているのである。
さらに、このような電圧・電流の変動は吸着材及びダストの帯電にも影響を及ぼし、何らかの原因で堆積がある程度進んだ場合には帯電が困難となり、電気集塵機は吸着材等を捕集できなくなると考えられる。そこで本願発明は、電圧、電流を電気集塵機における吸着材及びダストの堆積の程度、帯電状態を判断するための指標としている。
【0025】
加えて、電気集塵機において排ガス中の吸着材及びダストの堆積が進行することで、電圧及び/又は電流の測定値が予め定められた数値範囲を超えて変動した場合には、ガス経路への吸着材の投入を停止し、更なる堆積による電気集塵機内の通気路の閉塞、並びに帯電不良による集塵性能の低下を抑制するという作用を有する。
なお、「予め定められた数値範囲」とは、電気集塵機の仕様並びに使用者の設備の運用方法により様々であるため、特に具体的な数値を指定するものではないが、少なくとも電気集塵機が上述する堆積の進行により稼働を停止させなければならない時の電圧の変動幅、また当該停止させなければならない時の電流の変動幅未満とする必要がある。
【0026】
第2の発明である水銀除去方法は、上述の第1の発明において、吸着材を投入する工程において、吸着材が投入される際の排ガスの温度が350℃以上であることを特徴とするものである。
上記構成の第2の発明は、上述の第1の発明と同じ作用を有する。さらに、上記構成の第2の発明において、吸着材を投入する工程では、吸着材の投入される排ガスの温度が350℃以上、特に水銀が気化する温度以上とすることで、排ガス中の水銀が気体状態をとっているため吸着材との接触頻度を一層高めるという作用を有する。なお、水銀の沸点は常圧下で約360℃だが、ここでの排ガス温度を350℃以上としたのは、実際の設備において排ガス温度を測定した場合にプラスマイナス10℃前後の測定誤差を予め想定しているためである。
【0027】
第3の発明である水銀除去方法は、上述の第1又は第2の発明において、吸着材が活性炭であることを特徴とするものである。
上記構成の第3の発明は、上述する第1又は第2の発明と同じ作用を有する。さらに、上記構成の第3の発明において、排ガス中に気体となって存在する水銀が活性炭と接触して吸着されるという作用を有する。
ここで、活性炭は、従来から不純物を吸着して除去する用途において吸着材として使用され、本願発明の課題にあるように排ガスから水銀を除去する際にも用いられる。このように吸着材として利用される活性炭は、原材料、粒径等の違いによって様々なグレードが存在する。
【0028】
一般的に、活性炭は直径10乃至200Åの微細孔を有する材料である。そして、この微細孔は、活性炭の内部に網目状に構成され、その微細孔の内壁により表面積は500乃至2500m/gと非常に大きいものとなる。活性炭はこのように表面積が大きな微細孔の内部に種々の物質を吸着することができるため、吸着材として広く活用されている。そして、活性炭は、泥炭、木、リグノセルロース系材料、バイオマス、廃棄物、タイヤ、オリーブの種、桃の種、トウモロコシ種皮、もみ殻、石油コークス、亜炭、褐炭、無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、ヤシ殻、ペカン殻、及びクルミ殻等といった様々な原料の焼成物を、微粉砕機、破砕機、ジェット粉砕機、ロール粉砕機、ボール粉砕機、ハンマー粉砕機、及び分級機等を使用して粉砕することで製造されている。
【0029】
以上のように様々な原料を用いて製造される活性炭は、微細孔の存在により表面積が非常に大きいため、たとえ吸着材と排ガス中の水銀との接触頻度が非常に低い環境下であっても、その表面に水銀を接触させる頻度を高くすることが可能となる。その結果、排ガス中に存在する気体の水銀が活性炭に効率的に吸着して除去され、大気中に放出しても問題ない程度に排ガスを清浄化することができる。
他方、活性炭は炭素を主成分とし導電性を有するため、電気集塵機に堆積した際、その堆積量による電圧ないしは電流に与える影響は、他の吸着材よりも大きい。換言すれば、活性炭を用いた場合には他の吸着材と投入量が同じであっても、大きな電圧や電流の変動が生じる頻度が高くなり得る。したがって、適切なタイミングで活性炭の投入を停止して電気集塵機のトラブルを防ぐために、電圧及び/又は電流を測定しておくことは、他の吸着材に比べて意義が大きいものとなる。
【発明の効果】
【0030】
上述する第1の発明であれば、排ガス中の水銀は投入された吸着材に吸着するため、吸着材とともに電気集塵機により捕集可能となる。さらに、電気集塵機の集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流が測定されることで、電気集塵機内の吸着材及びダストの堆積状態を判断できる。この結果、集塵極に堆積した吸着材及びダストが許容量を超えたと判断される電圧・電流に達した際には、吸着材の投入を直ちに停止して堆積の更なる進行を止めることができる。これにより、帯電不良による集塵性能の低下を抑制できるため、電気集塵機を停止させて修理等を行う頻度が低下し、セメント焼成設備が稼働し続け易くなる。
【0031】
そして、上述する第2の発明であれば、第1の発明と同じ効果を有する。さらに、第2の発明の場合、排ガス中の水銀は気化した状態(高い運動状態)であるため、水銀と吸着材との接触頻度が高まることで、水銀が吸着材に吸着され易くなる。この結果、吸着材の水銀吸着量が増加し、少ない吸着材量でも高い水銀除去効果を発揮することができる。
【0032】
また、上述する第3の発明であれば、第1又は第2の発明と同じ効果を有する。さらに、第3の発明の場合、吸着材として多孔質であり比表面積の大きな活性炭を用いることで、単位質量当たりの吸着材に吸着する水銀の量が他の吸着材に比べて増加し易くなり、本願発明である水銀除去方法を活用した設備の水銀除去能力を一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施形態に係る水銀除去方法を適用したセメント焼成設備の一例を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る水銀除去方法を示すフローチャートである。
図3】電気集塵機の構造を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態に係る水銀除去方法について、図1及び図2を参照しながら詳細に説明する。
【0035】
はじめに、図1を参照しながら、本発明の実施形態に係る水銀除去方法を適用したセメント焼成設備について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る水銀除去方法を適用したセメント焼成設備の一例を示す概略図である。なお、図中の破線矢印は排ガスGの通過するガス経路5を示しており、矢印の方向は排ガスGが流れていく方向を示している。一方、実線の矢印は、詳細は後述するが、吸着材及びダストの流れを示している(吸着材投入装置6からの矢印は吸着材の流れのみを示している)。
なお、本発明の実施形態に係る水銀除去方法を適用したセメント焼成設備1は、図1に記載された構成に限定されるものではなく、本発明の作用と効果が発揮される範囲内であれば、使用者によって変更してもよい。
【0036】
本発明の実施形態に係る水銀除去方法が適用されたセメント焼成設備1は、焼成するために投入されたセメント原料(図示せず)を予熱するプレヒーター2と、このプレヒーター2において予熱されたセメント原料を焼成するロータリーキルン3と、このロータリーキルン3等で生じた燃焼ガスを含むガスを排ガスGとしてプレヒーター2を経て電気集塵機4に送るためのガス経路5とを備える。そして、電気集塵機4により集塵処理された排ガスGは、ガス経路5を通って煙突8から大気中に放出される。
【0037】
さらに、セメント焼成設備1は、プレヒーター2から電気集塵機4の間において、水銀を吸着させるための吸着材を排ガスG中に毎時一定量を投入する吸着材投入装置6が設置されている。ここで、吸着材については多種の商品が上市されており特に指定はせず、使用者が任意に選択したものを用いることができる。このような吸着材として、例えば砂、石粒子、セラミック、ガラスビーンズ、水晶、活性炭等が挙げられる。
なお、図1では記載を省略しているが、プレヒーター2から出た排ガスGは高い温度を有しているため、電気集塵機4へ送られるまでの間に、調合原料ないしは個別原料の予熱に供することが一般的である。すなわち、ガス経路5の途中には、図示されていない原料乾燥機などが存在する場合が多い。このため、排ガスGの温度が350℃以上を維持している場合が多い点で、吸着材投入装置6はこれらの原料乾燥機よりも上流に設置することが好ましい。
【0038】
そして、この吸着材投入装置6は、電気集塵機4に設置された集塵極(図示せず)と放電極(図示せず)の間の電圧及び/又は電流を計測する測定装置7と接続されている。なお、電気集塵機4自体が集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流を測定し、かつデータ出力可能な仕様である場合には、吸着材投入装置6と電気集塵機4を直接接続してもよい。この場合、測定装置7を設置する必要がなくなるため、設備投資に要する費用を低減することが可能となる。
【0039】
加えて、詳細は後述するが、吸着材投入装置6は計測された集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流の値が所定の範囲を超えて変動した場合には停止するように制御されるようになっている。
さらに、本願発明である水銀除去方法と併せ、図1に示すように水銀回収装置9が電気集塵機4に併設されていてもよい。このような水銀回収装置9としては、電気集塵機4により捕集された吸着材及びダストから水銀を回収する公知の装置を用いることが可能であり、例えば酸欠還元雰囲気下で吸着材及びダストを加熱して水銀を回収する方法を採用した還元加熱型の装置が挙げられる。
【0040】
次に、図1において示されたセメント焼成設備1における水銀除去方法について、その詳細を説明する。
本実施形態に係る水銀除去方法は、例えば図1に示すセメント焼成設備1に対して適用されるものである。そして、ここでの水銀除去方法は「吸着材を投入する工程」と、この「吸着材を投入する工程」の後に、吸着材の投入を継続するか否かを判定するために行われる「電気集塵機4の集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流を測定する工程」により構成されている。
【0041】
「吸着材を投入する工程」は、プレヒーター2から出る排ガスGに吸着材投入装置6が毎時一定量の吸着材を投入する工程であり、「電気集塵機4の集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流を測定する工程」は、電気集塵機4におけるダスト等の堆積及び帯電不良の有無をモニターするために当該電圧及び/又は電流を測定する工程である。本実施形態に係る水銀除去方法では、上述するようにこれら2つの工程を行いながら、排ガスGに投入された吸着材等を電気集塵機4により捕集し水銀を回収する。
なお、吸着材の投入量については、投入する吸着材の種類(吸着能)、使用する吸着材投入装置6の仕様、電気集塵機4の集塵能力、排ガスGの量にも関係するため、特に指定はしておらず使用者は適宜投入量を設定することができる。
【0042】
本実施形態に係る水銀除去方法では、上述するように電気集塵機4内での堆積及び帯電不良がモニターで確認されながら、投入された吸着材に吸着した排ガスG内の水銀は、吸着材とともに電気集塵機4により帯電不良を起こすことなく安定して捕集・回収される。そして、水銀が回収されて所定の排ガス基準を満たした排ガスGが大気中に放出されることになる。
【0043】
次に、上述した「吸着材を投入する工程」と「電気集塵機4の集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流を測定する工程」とが連携しながら行われる、本実施形態に係る水銀除去方法について、図2を用いながらより具体的に説明する。
図2は本発明の実施形態に係る水銀除去方法を示すフローチャートである。水銀除去方法10では、図2に示すステップに沿って進みながら、吸着材が排ガスG内に投入されることとなる。
【0044】
水銀除去方法10を開始すると、まず初めに吸着材投入装置6内に設置されたカウンター(図示せず)のカウント値Nが1になり(ステップS1)、そして吸着材投入装置6が上述した所定量の吸着材の投入を開始する(ステップS2)。次いで、測定装置7により電気集塵機4の集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流の値の読み取りが行われる(ステップS3)。なお、この測定装置7は、水銀除去方法10の開始とともに稼働させてもよく、電気集塵機4の状況をモニターするために常時稼働させておくものであってもよい。
【0045】
ステップS3に続いて、測定装置7により電気集塵機4の集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流の値が「予め定められた数値範囲」を超えているか否かが判定される(ステップS4)。このとき、上記電圧及び/又は電流の値が当該数値範囲内にない場合には、吸着材投入装置6からの吸着材の投入を停止する(ステップS5)。一方、当該数値範囲を超えていない場合には、ステップS1に移行してカウンターのカウント値Nを1にセットし直し、再びステップS2へ移行して吸着材の投入を継続する。なお、ステップS4での判定は、所定の周期で電圧及び/又は電流をモニターで確認しながら行われるものとする。
【0046】
ここで、「予め定められた数値範囲」とは、上述したように特に指定するものではなく、使用する装置の状態及び仕様に合わせて任意に決定することができる。
その決定方法については、例えば吸着材を排ガスG内に徐々に増やしながら投入し、電気集塵機4内で堆積が生じ始める際の電圧、電流の値の変動幅を基準にして決定してもよい。電圧の場合であれば、例えば定常時の電圧が60kVであり、過度な堆積が生じ、電気集塵機4のトラブルと認定される際の電圧の変動幅がプラスマイナス9kVであれば、上記範囲は51kVを超え、69kV未満とすることが可能である。なお、吸着材の投入を停止しても、吸着材が投入箇所から電気集塵機4まで到達するまでにタイムラグが存在することを考慮すると、上記ケースであれば余裕をもって55kV~65kVのようにすることが好ましい。大まかな目安としては、定常運転時に比べての変動幅が15%未満、より好ましくは10%以内とすることができる。他の目安としては、トラブルと認定される変動幅のさらに2/3程度(15%変動でトラブルとするなら、その2/3の10%)、より好ましくは1/2程度の変動を、余裕を持たせた際の目安とできる。
また、電圧、電流の値が上昇する場合と、下降する場合ではトラブルの原因が異なる場合が多い。そのため上記値が上昇した場合の変動幅と、下降した場合の変動幅は同一である必要はない。例えば、上記値が上昇する場合は15%まで、下降する場合は10%までのように異なる値としてもよい。なお、一般的には、ダストの過度の堆積が起きた場合には、電圧であれば下降するから、電圧の上昇が起きている場合には、ダストの過度の堆積以外の要因の場合も少なくない。
【0047】
そして、上記ステップS4の判定により吸着材の投入が停止された場合(ステップS5)には、カウンターのカウント値Nが1だけインクリメントされる(ステップS6)。次に、このステップS6により1だけインクリメントされたカウント値Nが、予め設定された許容可能な変動の回数(以下、変動許容回数Xという)より小さいか否かが判定される(ステップS7)。なお、この変動許容回数Xは使用者が所有する設備の仕様(例えば、電圧及び/又は電流の計測周期)に合わせて任意に決定できる値であり、上述する電圧及び/又は電流の値が予め定められた数値範囲内に戻るまでの許容可能な待ち時間の限界値とも言える。
【0048】
ステップS7において、カウント値Nが変動許容回数X以下の場合には、再度ステップS3に戻り電流及び/又は電圧が計測され、次いで電流及び/又は電圧が予め定められた数値範囲内になったかを判定するステップS4に移行する。このとき、電流及び/又は電圧が予め定められた数値範囲内に戻れば、集塵極に対する吸着材及びダストの堆積状態が改善されたと判断し、ステップS1に移行してカウンターのカウント値Nを1に再設定した後、その後のステップが行われる。一方、ステップS4において電流及び/又は電圧が予め定められた数値範囲内に戻らずカウント値Nが次第に増加し、最終的に変動許容回数Xを超えてしまった場合には、電気集塵機4において集塵極に対する吸着材及びダストの堆積状態が許容範囲を超えたか、あるいは何らかの故障が生じたと判断され、電気集塵機4の清掃や修理等の必要な処理が行われることになる(ステップS8)。
【0049】
このような水銀除去方法10であれば、以下の作用を有すると考えられる。
すなわち、集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流を測定することで、電気集塵機4の集塵極に捕集された排ガスG中の吸着材及びダストの堆積の程度や帯電状態を把握することができる。また、吸着材の投入により、ガス経路5内の排ガスG内に吸着材が拡散されることで、吸着材の表面に排ガスG中の水銀が接触して吸着されるという作用を有する。そして、水銀を吸着した吸着材を電気集塵機4内においてマイナスイオンであるガス分子と接触させることで、上記吸着材にマイナスの電荷を帯びさせて集塵極(プラス極)に引き寄せ捕集するという作用を有する。
【0050】
さらに、電気集塵機4において、吸着材及びダストが堆積し電圧及び/又は電流の測定値が予め定められた数値範囲を超えて変動した場合には、ガス経路5への吸着材の投入を電圧及び/又は電流の測定値が予め定められた数値範囲内に戻るまで停止する。これにより、更なる吸着材及びダストの堆積による電気集塵機4内の閉塞、並びに帯電不良による集塵能力の低下を抑制することが可能となる。
【0051】
以上の作用により、水銀除去方法10では、排ガスG中の水銀は投入された吸着材に吸着し、電気集塵機4により吸着材とともに捕集されて回収される。
さらに、電気集塵機4の集塵極と放電極の間の電圧及び/又は電流を測定することで、電気集塵機4内の吸着材及びダストの堆積状態を判断できる。このため、電気集塵機4内に堆積が発生したと判断される電圧・電流の値の変動を示した場合(予め定められた数値範囲を超えた場合に限る)には、吸着材の投入を停止して堆積の更なる進行、帯電不良による集塵能力の低下を抑制することが可能となる。
この結果、吸着材及びダストの堆積の過度の進行を未然に防ぐことが可能なため、所定の周期で行われるバイブレータ等による振動付与により、堆積した吸着材及びダストが剥離落下すれば集塵能力が回復し、よって、電気集塵機4を完全に停止させることなくセメント焼成設備1を稼働させ続けることが可能となる。その結果、セメント製造施設全体を停止することがなくなり、これに伴う損失も生じることがない。
【0052】
一方、図1に示すように、本発明の実施形態に係る水銀除去方法10を適用したセメント焼成設備1において、吸着材投入装置6はプレヒーター2と電気集塵機4とを繋ぐガス経路5から排ガスG中に吸着材を投入する。プレヒーター2から排出される排ガスGの温度は、一般的に水銀の沸点を超える約400℃以上であるが、電気集塵機4へと流れるにつれて排ガスGは自然冷却により次第に冷え、電気集塵機4では排ガスGの温度は約100℃まで低下することが知られている。このような排ガスGに対し、上述した「吸着材を投入する工程」において、吸着材投入装置6はなるべくガスの温度が高い位置に設けることが好ましく、具体的には350℃以上の温度の排ガスGに対して吸着材を投入するようにしてもよい。
【0053】
このようにガス経路5上の吸着材投入装置6の投入位置を設定することで、上述した水銀除去方法10の作用に加え、吸着材の投入される排ガスGの温度が350℃以上(特に水銀の沸点以上)となり、排ガスG中の水銀は気体として存在するため、その表面積の大きさ及び運動性の高さから吸着材との接触頻度が一層高められるという作用を有する。
なお、一般的に水銀の沸点は常圧下で約360℃だが、ここでの排ガス温度を350℃以上としたのは、上述したように実際のガス経路上において排ガス温度を測定した場合にプラスマイナス10℃前後の測定誤差を予め想定しているためである。
【0054】
以上の作用により、上述した水銀除去方法10と同じ効果に加えて、吸着材の投入される排ガスG中の水銀が気化した状態にあるため、水銀と吸着材との接触頻度が高まり、水銀が一層吸着材に吸着され易くなる。この結果から、吸着材の水銀吸着量が増加し、少ない吸着材量であっても高い水銀除去効果を発揮することができるようになる。
【0055】
一方、水銀除去方法10において使用する吸着材は活性炭であってもよい。ここで使用する活性炭は、粒状、粉状の何れかを含むものであり、さらには未改質の活性炭及び臭素、又は硫黄を含浸させた活性炭のように化学的に処理した活性炭も対象となる。
以上のように様々な種類がある活性炭は、多孔質であるため表面積が大きく、単位質量当たりの水銀の吸着量が大きいという特徴を有する。そして、粒径が小さくなるほど同じ重量でも表面積は大きくなるため水銀の吸着量も増大するが、微粉になるほど単価も上昇するため、安価に水銀を除去したい場合には注意が必要である。なお、水銀除去のコストを下げるために、例えば活性炭とセメントキルンの燃料として用いられる微粉炭を所定の比率でブレンドしたものを用いることも可能である。
【0056】
上述する活性炭を用いることで、水銀除去方法10(吸着材が投入される排ガスGの温度が350℃以上とした場合も含む)と同じ作用に加えて、排ガスG中に気体となって存在する水銀は、表面積の大きな活性炭に接触して吸着するという作用を有する。
以上の作用により、活性炭であれば、吸着材の単位質量当たりの水銀吸着量が増加し水銀除去能力を一層高め、吸着材が少量でも多量の水銀を効率的に吸着することができる。この結果、排ガスG内への吸着材の投入量も抑えることができるため、電気集塵機4において吸着材及びダストの堆積する頻度を低下させることができる。すなわち、吸着材の投入停止の頻度を下げることに繋がるため、吸着材を排ガス内に連続的に投入する期間を長くすることが可能となり、排ガスG中に存在する水銀を外部に放出してしまうことなく回収できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明は電気集塵機の集塵能力を低下させることなく排ガス内の水銀を除去する水銀除去方法であり、排ガス内の水銀処理に関する技術分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1…セメント焼成設備 2…プレヒーター 3…ロータリーキルン 4…電気集塵機 4a…集塵極 4b…放電極 5…ガス経路 6…吸着材投入装置 7…測定装置 8…煙突 9…水銀回収装置 10…水銀除去方法 11…吸着材 G…排ガス N…カウント値 X…変動許容回数
図1
図2
図3