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特許7625570メチレンジスルホネート化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】メチレンジスルホネート化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 327/00 20060101AFI20250127BHJP
【FI】
C07D327/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022500390
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2021004488
(87)【国際公開番号】W WO2021161943
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2020023222
(32)【優先日】2020-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦辺 成矢
(72)【発明者】
【氏名】森山 弘健
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108840852(CN,A)
【文献】国際公開第2015/064712(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 327/00
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチレンジスルホネート化合物の製造方法であって、
少なくとも1種のアルカンスルホン酸化合物と、三酸化硫黄とを、スルホン化合物の存在下で反応することによりアルカンジスルホン酸化合物を含む反応物Aを得る工程Aと、
前記工程Aで得られた反応物Aと、ホルムアルデヒド化合物とを、三酸化硫黄の存在下で反応することでメチレンジスルホネート化合物を得る工程Bと、
を含み、
前記アルカンスルホン酸化合物は、下記一般式(1)
【化1】
(式(1)中、R及びRは、同一又は異なって、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基又は水素原子を示し、nは1~4の整数を示し、nが2~4の整数であるとき、n個のRはそれぞれ同一又は異なってよく、n個のRはそれぞれ同一又は異なってよい。)
で表される化合物であり
記スルホン化合物は、下記一般式(3)
【化2】
(式(3)中、R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を示し、RとRとは、これらが結合する硫黄原子と共にヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
で表される化合物であり、
前記アルカンジスルホン酸化合物は、下記一般式(4)
【化3】
(式(4)中、R、R及びnはそれぞれ、前記式(1)におけるR、R及びnと同じである。)
で表される化合物であり、
前記メチレンジスルホネート化合物は、下記一般式(5)
【化4】
(式(5)中、R、R及びnはそれぞれ、前記式(1)におけるR、R及びnと同じである。)
で表される化合物である、メチレンジスルホネート化合物の製造方法。
【請求項2】
前記工程Aで得られた反応物Aから前記アルカンジスルホン酸化合物を単離することなく、前記反応物Aを前記工程Bで使用する、請求項1に記載のメチレンジスルホネート化合物の製造方法。
【請求項3】
前記工程Aの反応及び前記工程Bの反応を、溶媒の存在下で行う、請求項1又は2に記載のメチレンジスルホネート化合物の製造方法。
【請求項4】
前記溶媒は、前記式(3)で表される化合物を含む、請求項3に記載のメチレンジスルホネート化合物の製造方法。
【請求項5】
前記式(3)で表される化合物はスルホランである、請求項4に記載のメチレンジスルホネート化合物の製造方法。
【請求項6】
前記ホルムアルデヒド化合物が、パラホルムアルデヒド、無水ホルムアルデヒド、トリオキサン及びメチラールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載のメチレンジスルホネート化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチレンジスルホネート化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メチレンジスルホネート化合物は、動物の白血病治療薬等の医薬品のみならず、二次電池用電解液の安定剤等の機能性材料の原料としても有用であることが知られており、利用価値の高い化合物であるといえる。斯かるメチレンジスルホネート化合物は種々の方法で製造することが知られている。
【0003】
メチレンジスルホネート化合物を製造する一例として、安価な原料であるメタンスルホン酸を用いる方法が知られている。例えば、特許文献1には、メタンスルホン酸に三酸化硫黄を反応させてメタンジスルホン酸とし(第一工程)、更に得られたメタンジスルホン酸とパラホルムアルデヒドを脱水剤の存在下反応させることにより(第二工程)、メチレンジスルホネート化合物を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国特許出願公開第108840852号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される方法では、第一工程及び第二工程で使用する反応原料が異なっていること、加えて、中間体を単離しなければならない場合も考えられることから、工程が複雑になりやすいという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、より少ない原料で容易かつ安価にメチレンジスルホネート化合物を製造することが可能であり、工業的にも有利なメチレンジスルホネート化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のアルカンスルホン酸化合物と、三酸化硫黄とを、特定のスルホキシド化合物及び/又はスルホン化合物の存在下で反応した生成物を利用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
メチレンジスルホネート化合物の製造方法であって、
少なくとも1種のアルカンスルホン酸化合物と、三酸化硫黄とを、
スルホキシド化合物及びスルホン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の存在下で反応することによりアルカンジスルホン酸化合物を含む反応物Aを得る工程Aと、
前記工程Aで得られた反応物Aと、ホルムアルデヒド化合物とを、三酸化硫黄の存在下で反応することでメチレンジスルホネート化合物を得る工程Bと、
を含み、
前記アルカンスルホン酸化合物は、下記一般式(1)
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)中、R及びRは、同一又は異なって、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基又は水素原子を示し、nは1~4の整数を示し、nが2~4の整数であるとき、n個のRはそれぞれ同一又は異なってよく、n個のRはそれぞれ同一又は異なってよい。)
で表される化合物であり、
前記スルホキシド化合物は、下記一般式(2)
【0011】
【化2】
【0012】
(式(2)中、R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を示し、RとRとは、これらが結合する硫黄原子と共にヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
で表される化合物であり、
前記スルホン化合物は、下記一般式(3)
【0013】
【化3】
【0014】
(式(3)中、R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を示し、RとRとは、これらが結合する硫黄原子と共にヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
で表される化合物であり、
前記アルカンジスルホン酸化合物は、下記一般式(4)
【0015】
【化4】
【0016】
(式(4)中、R、R及びnはそれぞれ、前記式(1)におけるR、R及びnと同じである。)
で表される化合物であり、
前記メチレンジスルホネート化合物は、下記一般式(5)
【0017】
【化5】
【0018】
(式(5)中、R、R及びnはそれぞれ、前記式(1)におけるR、R及びnと同じである。)
で表される化合物である、メチレンジスルホネート化合物の製造方法。
項2
前記工程Aで得られた反応物Aから前記アルカンジスルホン酸化合物を単離することなく、前記反応物Aを前記工程Bで使用する、項1に記載のメチレンジスルホネート化合物の製造方法。
項3
前記工程Aの反応及び前記工程Bの反応を、溶媒の存在下で行う、項1又は2に記載のメチレンジスルホネート化合物の製造方法。
項4
前記溶媒は、前記式(3)で表される化合物を含む、項3に記載のメチレンジスルホネート化合物の製造方法。
項5
前記式(3)で表される化合物はスルホランである、項4に記載のメチレンジスルホネート化合物の製造方法。
項6
前記ホルムアルデヒド化合物が、パラホルムアルデヒド、無水ホルムアルデヒド、トリオキサン及びメチラールからなる群より選択される少なくとも1種である、項1~5に記載のメチレンジスルホネート化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る製造方法よれば、より少ない原料で容易かつ安価にメチレンジスルホネート化合物を製造することが可能である。従って、本発明に係る製造方法は、工業的にも有利である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【0021】
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。また、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0022】
本発明のメチレンジスルホネート化合物の製造方法は、下記の工程A及び工程Bを少なくとも含む。
工程A:少なくとも1種のアルカンスルホン酸化合物と、三酸化硫黄とを、スルホキシド化合物及びスルホン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の存在下で反応することによりアルカンジスルホン酸化合物を含む反応物Aを得る工程
工程B:前記工程Aで得られた反応物Aと、ホルムアルデヒド化合物とを、三酸化硫黄の存在下で反応することでメチレンジスルホネート化合物を得る工程。
【0023】
1.工程A
工程Aは、少なくとも1種のアルカンスルホン酸化合物と、三酸化硫黄との反応を、スルホキシド化合物及びスルホン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の存在下で行う。斯かる反応により、アルカンジスルホン酸化合物を含む反応物Aが生成する。具体的に工程Aは、アルカンジスルホン酸化合物を生成させるための工程である。
【0024】
(アルカンスルホン酸化合物)
工程Aにおいて使用するアルカンスルホン酸化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0025】
【化6】
【0026】
ここで、式(1)中、R及びRは、同一又は異なって、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基又は水素原子を示し、nは1~4の整数を示す。式(1)において、nが2~4の整数であるとき、n個のRはそれぞれ同一又は異なってよい。また、nが2~4の整数であるとき、n個のRはそれぞれ同一又は異なってよい。
【0027】
式(1)のR及びRにおいて、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基の種類は特に限定されない。このハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、クロロエチル基、クロロプロピル基、ブロモメチル基等が挙げられる。
【0028】
式(1)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基が好ましく、中でも水素原子がより好ましい。Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基が好ましく、中でも水素原子がより好ましい。式(1)において、R及びRは、同一であることが好ましい。
【0029】
式(1)において、nが2~4の整数、つまり、nが2、3、又は4であるとき、式(1)で表される化合物中のn個のRは、同一又は異なってよく、また、同様にn個のRは、同一または異なってよい。式(1)において、nが2~4の整数であるとき、式(1)で表される化合物中のn個のRはすべて同一であることが好ましく、nが2~4の整数であるとき、式(1)で表される化合物中のn個のRはすべて同一であることが好ましい。
【0030】
式(1)において、nは1であることが特に好ましく、この場合、目的物であるアルカンジスルホン酸化合物の収率が特に高くなりやすい。
【0031】
アルカンスルホン酸化合物は、式(1)で表される化合物である限りは特に制限されず、好ましくは、メタンスルホン酸(式(1)において、R=R=H、n=1)、エタンスルホン酸(式(1)において、R=CH、R=H、n=1)、1-プロパンスルホン酸(式(1)において、R=CHCH、R=H、n=1)、2-プロパンスルホン酸(式(1)において、R=R=CH、n=1)、1-ブタンスルホン酸(式(1)において、R=R=H、n=4)等が挙げられる。
【0032】
工程Aで使用する前記アルカンスルホン酸化合物は、市販品から入手することができ、あるいは、公知の方法又は公知の方法から容易に想到する方法によって得ることもできる。例えば、Tetrahedron Letters(2009),50(46),6231-6232を参考に、メチルトリオキソレニウム(VII)/過酸化水素を触媒として対応するジスルフィド化合物を酸化する方法によって前記アルカンスルホン酸化合物を合成することができる。あるいは、国際公開第2004/058693号を参考に、対応するチオール化合物を、過酸化水素を用いて酸化する方法によって前記アルカンスルホン酸化合物を合成することもできる。
【0033】
工程Aで使用する前記アルカンスルホン酸化合物は、1種単独とすることができ、あるいは、2種以上を組み合わせることもできる。
【0034】
(スルホキシド化合物及びスルホン化合物)
工程Aでは、スルホキシド化合物及びスルホン化合物のいずれか一方又は両方を使用することができる。
【0035】
スルホキシド化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である。
【0036】
【化7】
【0037】
ここで、式(2)中、R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を示す。式(2)において、RとRとは、これらが結合する硫黄原子と共にヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合して環状構造を形成してもよい。
【0038】
また、スルホン化合物は、下記一般式(3)で表される化合物である。
【0039】
【化8】
【0040】
ここで、式(3)中、R及びRは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基を示し、RとRとは、これらが結合する硫黄原子と共にヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合して環状構造を形成してもよい。つまり、式(3)におけるR及びRは、式(2)におけるR及びRと同義である。
【0041】
式(2)及び式(3)のR及びRにおいて、炭素数1~12のアルキル基が置換基を有する場合、その置換基の種類は特に制限されない。具体的な置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基等が挙げられる。
【0042】
式(2)及び式(3)のR及びRにおいて、炭素数1~12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、2-シクロヘキシルエチル基等が挙げられる。これらのアルキル基にあっても、前述の置換基を有していてもよい。目的物であるアルカンジスルホン酸化合物の収率が高くなりやすいという点で、炭素数は1~6であることが好ましい。従って、炭素数1~12のアルキル基としては上記例示列挙したうち、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基であることが好ましい。
【0043】
式(2)及び式(3)において、RとRとが、これらが結合する硫黄原子と共にヘテロ原子を介し又は介することなく互いに結合して環状構造を形成してもよい。つまり、式(2)及び(3)で表される化合物中の硫黄原子を環員として含む環状構造を形成してもよい。この場合、例えば、RとRが有する炭素原子どうしが化学結合を形成して環状構造が形成され得る。例えば、RとRが有する末端の炭素原子どうしの共有結合により硫黄原子と共に環状構造を形成することができる。環状構造は、例えば、硫黄原子を含む飽和環である。環状構造が前記硫黄原子の他にヘテロ原子を有する場合は、ヘテロ原子の種類は特に限定されない。
【0044】
工程Aにおいて、式(2)で表される化合物と、式(3)で表される化合物の両方を使用する場合、式(2)におけるRと式(3)におけるRとは互いに同一であっても異なっていてもよい。同様に、工程Aにおいて、式(2)で表される化合物と、式(3)で表される化合物の両方を使用する場合、式(2)におけるRと式(3)におけるRとは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
式(2)で表されるスルホキシド化合物の具体例としては、例えば、ジメチルスルホキシド、エチルメチルスルホキシド、メチルn-プロピルスルホキシド、ジプロピルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、ジ-n-オクチルスルホキシド、ジドデシルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシドなどが挙げられ、中でも式(2)で表されるスルホキシド化合物は、ジメチルスルホキシドが好ましい。
【0046】
式(3)で表されるスルホン化合物の具体例としては、例えばトリメチレンスルホン、ヘキサメチレンスルホン、トリメチレンジスルホン、テトラメチレンジスルホン、ヘキサメチレンジスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、メチルn-プロピルスルホン、エチルn-プロピルスルホン、ジ-n-プロピルスルホン、メチルイソプロピルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、ジイソプロピルスルホン、n-ブチルメチルスルホン、n-ブチルエチルスルホン、t-ブチルメチルスルホン、t-ブチルエチルスルホン等が挙げられる。中でも式(3)で表されるスルホン化合物は、スルホラン、3-メチルスルホラン、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホンが好ましく、スルホラン、3-メチルスルホランがより好ましく、スルホランがさらに好ましい。
【0047】
工程Aにおいて、式(2)で表される化合物と、式(3)で表される化合物の両方を使用する場合、スルホキシド化合物及びスルホン化合物としては、ジメチルスルホキシド、スルホラン、3-メチルスルホラン、エチルメチルスルホン及びエチルイソプロピルスルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、少なくともスルホラン、3-メチルスルホラン、エチルメチルスルホン及びエチルイソプロピルスルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、少なくともスルホランを含むことが特に好ましい。
【0048】
工程Aにおいてスルホキシド化合物及びスルホン化合物はいずれも1種単独で使用することができ、また、いずれも2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0049】
工程Aで使用するスルホキシド化合物及びスルホン化合物はいずれも市販品から入手することができ、あるいは、公知の製造方法等を採用することによって得ることもできる。
【0050】
(工程Aにおける反応)
工程Aでは、少なくとも1種のアルカンスルホン酸化合物と、三酸化硫黄(SO)とを、スルホキシド化合物及びスルホン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の存在下で反応を行う。
【0051】
工程Aの反応で使用するスルホキシド化合物及びスルホン化合物の総使用量は、目的物であるアルカンジスルホン酸化合物の収率が高くなりやすいという点で、三酸化硫黄1モルに対して0.1モル以上であることが好ましく、0.2モル以上であることがより好ましく、0.3モル以上であることがさらに好ましい。また、工程Aの反応で使用するスルホキシド化合物及びスルホン化合物の総使用量は、より経済的であるという点で、三酸化硫黄1モルに対して10モル以下であることが好ましく、8モル以下であることがより好ましく、6モル以下であることがさらに好ましい。
【0052】
工程Aの反応で使用するスルホキシド化合物及びスルホン化合物は、その種類によっては三酸化硫黄と錯体を形成することもある。例えば、スルホン化合物がスルホランである場合は、三酸化硫黄と錯体を形成しやすい。
【0053】
工程Aの反応で使用する三酸化硫黄の使用量は、目的物であるアルカンジスルホン酸化合物の収率が高くなりやすいという点で、アルカンスルホン酸化合物1モルに対して0.1モル以上であることが好ましく、0.2モル以上であることがより好ましく、0.3モル以上であることがさらに好ましい。また、工程Aの反応で使用する三酸化硫黄の使用量は、より経済的であるという点で、アルカンスルホン酸化合物1モルに対して10モル以下であることが好ましく、8モル以下であることがより好ましく、6モル以下であることがさらに好ましい。ここでいう「アルカンスルホン酸化合物1モル」は、アルカンスルホン酸化合物を2種以上使用する場合は、それらの総量が1モルであることを意味する。
【0054】
工程Aの反応では、例えば、反応容器に前記アルカンスルホン酸化合物と、三酸化硫黄と、前記スルホキシド化合物及び前記スルホン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む原料を収容し、この原料を攪拌しながらその反応容器内で反応を行うことができる。あるいは、工程Aの反応では、例えば、反応容器に前記アルカンスルホン酸化合物と、前記スルホキシド化合物及び前記スルホン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む原料を収容し、この原料を攪拌しながらさらに三酸化硫黄を添加することで反応を行うことができる。この場合、三酸化硫黄は複数回に分けて添加することもできる。
【0055】
工程Aの反応では、必要に応じて溶媒を使用することもできる。溶媒を使用する場合、その使用量は特に限定されず、例えば、前記アルカンスルホン酸化合物の総量100質量部に対して1500質量部以下とすることができ、1000質量部以下であることが好ましい。
【0056】
溶媒を使用する場合、使用できる溶媒は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択することができる。斯かる溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒、スルホキシド系溶媒、スルホン系溶媒、硫酸等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、デカン等が挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えばジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、例えばジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチル-tert-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。アミド系溶媒としては、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。ニトリル系溶媒としては、例えばアセトニトリル等が挙げられる。スルホキシド系溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド等が挙げられる。スルホン系溶媒としては、例えばエチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン等が挙げられる。
【0057】
なお、工程Aの反応において、前記式(2)で表される化合物あるいは前記式(3)で表される化合物を三酸化硫黄(SO)に対して過剰量使用する場合、実質的にこれらの化合物は溶媒としての役割を果たすことができる。具体的に、前記式(2)で表されるスルホキシド化合物を過剰量使用する場合は、反応で消費されない当該スルホキシド化合物が工程Aの反応溶媒としての役割を果たす。この場合、反応溶媒は、例えば、前述のスルホキシド系溶媒である。また、前記式(3)で表されるスルホキシド化合物を過剰量使用する場合は、反応で消費されない当該スルホン化合物が工程Aの反応溶媒としての役割を果たす。この場合、反応溶媒は、例えば、前述のスルホン系溶媒である。
【0058】
工程Aの反応で溶媒を使用する場合、溶媒は、式(2)で表される化合物(スルホキシド化合物)及び式(3)で表される化合物(スルホン化合物)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、式(3)で表される化合物(スルホン化合物)を含むことがさらに好ましい。つまり、工程Aの反応では、式(2)で表される化合物(スルホキシド化合物)及び/又は前記式(3)で表される化合物(スルホン化合物)を過剰量使用し、反応で消費されない式(2)で表される化合物(スルホキシド化合物)及び/又は前記式(3)で表される化合物(スルホン化合物)を溶媒として使用することが好ましい。この場合において、アルカンジスルホン酸化合物の収率がより高くなりやすいという点で、溶媒はスルホランであることが特に好ましい。
【0059】
なお、溶媒が前記式(2)で表される化合物(スルホキシド化合物)及び/又は式(3)で表される化合物(スルホン化合物)を含む場合、その含有量は、溶媒全質量に対して50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。溶媒は、前記式(2)で表される化合物(スルホキシド化合物)及び/又は式(3)で表される化合物(スルホン化合物)のみで構成されていてもよい。
【0060】
工程Aの反応で使用する反応容器の種類は特に限定されず、例えば、公知の反応容器を広く採用することができる。
【0061】
工程Aで行う反応条件も特に限定されない。例えば、工程Aで行う反応温度は特に限定されず、仕込みの原料種、仕込み量等の条件に応じ、適宜設定することができる。例えば、反応温度は0~200℃とすることができ、目的物の収率が高くなりやすいという点で、50~180℃であることが好ましく、80~170℃であることがより好ましく、100~160℃であることがさらに好ましい。反応時間は反応温度に応じて適宜設定することができ、例えば、1~48時間程度とすることができる。
【0062】
工程Aの反応おいて、反応温度を調節する方法も特に限定されず、例えば、原料が収容した反応容器を加熱することで、適宜の反応温度に設定することができる。
【0063】
工程Aの反応は、加圧下、減圧下及び大気圧下のいずれの条件下で行うこともできる。また、工程Aの反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。反応は、不活性ガスを吹き込みながら行うこともできる。
【0064】
工程Aの反応によって、目的物であるアルカンジスルホン酸化合物を含む生成物Aが得られる。このアルカンジスルホン酸化合物は、下記の一般式(4)で表される化合物である。
【0065】
【化9】
【0066】
ここで、式(4)中、R、R及びnはそれぞれ、前記式(1)におけるR、R及びnと同じである。
【0067】
式(4)で表されるアルカンジスルホン酸化合物の具体例としては、例えば、メタンジスルホン酸(R=R=H、n=1)、1,1-エタンジスルホン酸(R=CH、R=H、n=1)、1,2-エタンジスルホン酸(R=R=H、n=2)、1,1-プロパンジスルホン酸(R=CHCH、R=H、n=1)、1,2-プロパンジスルホン酸(R=CH及びH、R=H、n=2)、1,3-プロパンジスルホン酸(R=R=H、n=3)、2,2-プロパンジスルホン酸(R=R=CH、n=1)、1,4-ブタンジスルホン酸(R=R=H、n=4)等を挙げることができる。中でも、式(4)で表されるアルカンジスルホン酸化合物は、メタンジスルホン酸であることが好ましく、この場合、後の工程Bにおいてメチレンジスルホネートの生成収率が向上しやすい。
【0068】
工程Aで生成する生成物Aは、アルカンジスルホン酸化合物の他、未反応原料及び反応における副生生物が存在し得る。また、工程Aの反応で溶媒を使用した場合、生成物Aは、溶媒中にアルカンジスルホン酸化合物が溶解又は析出した状態で得られる。前述のように、前記式(2)で表される化合物あるいは前記式(3)で表される化合物を三酸化硫黄(SO)に対して過剰量使用することで溶媒として使用した場合は、生成物Aにはこれらの化合物も溶媒として含まれ得る。
【0069】
工程Aの反応で得られた生成物Aは、精製処理等をしてアルカンジスルホン酸化合物を単離してから次の工程Bでの反応に使用することができる。あるいは、工程Aの反応で得られた生成物Aから前記アルカンジスルホン酸化合物を単離することなく、前記反応物Aを次の前記工程Bの反応で使用することもできる。全体の製造工程が簡便で複雑になりにくく、製造効率が向上しやすいという観点から、工程Aの反応で得られた生成物Aから前記アルカンジスルホン酸化合物を単離することなく、前記反応物Aを前記工程Bで使用することが好ましい。つまり、工程Aで得られたアルカンジスルホン酸化合物を含む生成物Aは、メチレンジスルホネート化合物を製造するための原料として使用することができる。
【0070】
なお、工程Aで得られた生成物Aからアルカンジスルホン酸化合物を単離する場合、例えば、従来公知の精製操作及び単離操作を採用することができ、その方法は特に限定されるものではない。例えば、工程Aの反応後に得られる生成物Aから溶媒等を用いて抽出して洗浄し、その後に晶析する方法等によって、工程Aで得られた生成物Aからアルカンジスルホン酸化合物を単離することができる。
【0071】
通常、三酸化硫黄を使用するアルカンジスルホン酸化合物の製造では、三酸化硫黄とアルカンスルホン酸化合物との反応が起こりにくいので、アルカンジスルホン酸化合物の収率は低い。これに対し、工程Aのように、スルホキシド化合物及びスルホン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の存在下で反応を行う場合、これらの化合物は、三酸化硫黄を効果的にアルカンスルホン酸化合物と反応させる作用をもたらすため、三酸化硫黄とアルカンスルホン酸化合物との反応が起こりやすくなり、生成するアルカンジスルホン酸化合物の収率が向上する。
【0072】
2.工程B
工程Bは、前記工程Aで得られた反応物Aと、ホルムアルデヒド化合物とを、三酸化硫黄の存在下で反応する。斯かる反応により、目的化合物であるメチレンジスルホネートが生成する。具体的に、工程Bは、生成物A中のアルカンジスルホン酸化合物からメチレンジスルホネート化合物を生成させるための工程である。
【0073】
(ホルムアルデヒド化合物)
工程Bにおいて使用するホルムアルデヒド化合物は、例えば、パラホルムアルデヒド、無水ホルムアルデヒド、トリオキサン、ホルムアルデヒドのアセタール化物(例えばメチラール)等を挙げることができる。無水ホルムアルデヒドは、例えば、パラホルムアルデヒドを加熱処理して得ることができる。また、トリオキサンは、例えば、パラホルムアルデヒドを酸処理して得ることができる。これらの中でも、工程Bで使用するホルムアルデヒド化合物は、パラホルムアルデヒド、無水ホルムアルデヒド、トリオキサン及びメチラールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、パラホルムアルデヒド、無水ホルムアルデヒド及びトリオキサンからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましく、パラホルムアルデヒドであることが特に好ましい。工程Bでは、ホルムアルデヒド化合物を1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
(工程Bにおける反応)
工程Bの反応で使用するホルムアルデヒド化合物の使用量は、目的物であるメチレンジスルホネート化合物の収率が高くなりやすいという点で、前記アルカンジスルホン酸化合物1モルに対して0.6モル以上であることが好ましく、0.7モル以上であることがより好ましく、0.8モル以上であることがさらに好ましい。また、工程Bの反応で使用するホルムアルデヒド化合物の使用量は、より経済的であるという点で、前記アルカンジスルホン酸化合物1モルに対して10モル以下であることが好ましく、7モル以下であることがより好ましく、5モル以下であることがさらに好ましい。
【0075】
工程Bの反応で使用する三酸化硫黄の使用量は、目的物であるメチレンジスルホネート化合物の収率が高くなりやすいという点で、前記アルカンジスルホン酸化合物1モルに対して0.1モル以上であることが好ましく、0.2モル以上であることがより好ましく、0.3モル以上であることがさらに好ましい。また、工程Bの反応で使用する三酸化硫黄の使用量は、より経済的であるという点で、前記アルカンジスルホン酸化合物1モルに対して10モル以下であることが好ましく、8モル以下であることがより好ましく、6モル以下であることがさらに好ましい。
【0076】
工程Bの反応では、反応を促進する目的で、さらに脱水剤を用いてもよい。脱水剤としては、例えば、五酸化リン、五塩化リン、オキシ塩化リン、塩化チオニル、塩化アセチル、無水酢酸、塩化アルミニウム等が挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から五酸化リンが好適に用いられる。なお、脱水剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
工程Bの反応において、脱水剤の使用量は、例えば、前記アルカンジスルホン酸化合物1モルに対して0~10モルとすることができ、0~5.0モルであることが好ましく、0~3.0モルであることがより好ましい。当該範囲の下限は、特に制限はされないが、例えば0.1、0.5、又は1モル程度とすることができる。
【0078】
工程Bの反応では、必要に応じて溶媒を使用することもできる。溶媒を使用する場合、その使用量は特に限定されず、例えば、前記アルカンジスルホン酸化合物の総量100質量部に対して1500質量部以下とすることができ、1000質量部以下であることが好ましい。また、工程Bで溶媒を使用する場合、例えば、前記アルカンジスルホン酸化合物の総量100質量部に対して10質量部以上とすることができる。
【0079】
工程Bの反応で溶媒を使用する場合、溶媒の種類は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択することができる。斯かる溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒、スルホキシド系溶媒、スルホン系溶媒、硫酸等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、例えばトルエン、キシレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、デカン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、例えばジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチル-tert-ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。エステル系溶媒としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。アミド系溶媒としては、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。ニトリル系溶媒としては、例えばアセトニトリル等が挙げられる。スルホキシド系溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド等が挙げられる。スルホン系溶媒としては、例えばエチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン等が挙げられる。
【0080】
中でも工程Bの反応で使用する溶媒は、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、ニトリル系溶媒、スルホキシド系溶媒、スルホン系溶媒、および硫酸が好ましく、スルホキシド系溶媒、スルホン系溶媒および硫酸がより好ましく、スルホキシド系溶媒およびスルホン系溶媒がさらに好ましい。
【0081】
なお、工程Bで溶媒を使用する場合、斯かる溶媒中には、前述のように、前記工程Aで過剰量使用することで溶媒として機能させた前記式(2)で表される化合物及び/又は前記式(3)で表される化合物が含まれていてもよい。従って、工程Bでは何ら新たな溶媒を追加で使用せずに、前記工程Aで過剰量使用した前記式(2)で表される化合物及び/又は前記式(3)で表される化合物を引き続き工程Bで使用する反応溶媒とすることができる。
【0082】
工程Bの反応で溶媒を使用する場合、溶媒は、前記式(3)で表される化合物(スルホン化合物)を含むことが好ましく、中でも、アルカンジスルホン酸化合物の収率がより高くなりやすいという点で、溶媒はスルホランであることが特に好ましい。溶媒が式(3)で表される化合物(スルホン化合物)を含む場合、その含有量は、溶媒全質量に対して50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。溶媒は、式(3)で表される化合物のみで構成されていてもよい。
【0083】
本発明の製造方法では、前記工程Aの反応及び前記工程Bの反応を、溶媒の存在下で行うことが好ましく、この場合、収率良く目的物であるメチレンジスルホネート化合物を得ることができる。中でも、前記工程Aの反応及び前記工程Bの反応では溶媒として前記式(3)で表される化合物を含む溶媒を使用することが好ましく、前記工程Aの反応及び前記工程Bの反応では溶媒としてスルホランを使用することが特に好ましい。この場合、メチレンジスルホネート化合物の収率が向上すると共に工程Aの反応後の精製処理も不要となり、製造工程がより簡便なものとなる。
【0084】
工程Bの反応で使用する反応容器の種類は特に限定されず、例えば、公知の反応容器を広く採用することができる。
【0085】
工程Bの反応方法は特に限定されない。例えば、反応容器に工程Aで得た前記アルカンジスルホン酸化合物を含む生成物Aと、三酸化硫黄と、必要に応じて使用される前記脱水剤と、必要に応じて使用される前記溶媒とを含む原料を攪拌した状態で、ホルムアルデヒド化合物(例えば、パラホルムアルデヒド)を添加して反応を行うことができる。あるいは、反応容器に工程Aで得た前記アルカンジスルホン酸化合物と、ホルムアルデヒド化合物と、必要に応じて使用される前記脱水剤と、必要に応じて使用される前記溶媒とを含む原料を十分攪拌した状態で、三酸化硫黄を添加して反応を行うことができる。さらに別の方法として、反応容器中にホルムアルデヒド化合物と、三酸化硫黄と、必要に応じて使用される前記脱水剤と、必要に応じて使用される前記溶媒とを含む原料を十分攪拌した状態で、工程Aで得た前記アルカンジスルホン酸化合物を含む生成物Aを添加して反応を行うことができる。
【0086】
工程Bで行う反応条件も特に限定されない。例えば、工程Bで行う反応温度は特に限定されず、仕込みの原料種、仕込み量等の条件に応じ、適宜設定することができる。例えば、反応温度は0~200℃とすることができ、目的物の収率が高くなりやすいという点で、10~170℃であることが好ましく、20~160℃であることがより好ましく、40~160℃であることがさらに好ましい。また、反応温度はいわゆる多段式にすることができ、ある温度で所定時間反応をした後、さらに温度を上げて反応を行うこともできる。反応温度を多段式にする場合も、反応温度は0~200℃の範囲で調節することができる。
【0087】
反応時間は反応温度に応じて適宜設定することができ、例えば、0.1~20時間程度とすることができる。
【0088】
工程Bの反応おいて、反応温度を調節する方法も特に限定されず、例えば、工程Bで使用する原料が収容した反応容器を加熱することで、適宜の反応温度に設定することができる。
【0089】
工程Bの反応は、加圧下、減圧下及び大気圧下のいずれの条件下で行うこともできる。また、工程Bの反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。反応は、不活性ガスを吹き込みながら行うこともできる。
【0090】
工程Bの反応によって、目的物であるメチレンジスルホネート化合物を含む生成物Bが得られる。このメチレンジスルホネート化合物は、下記の一般式(5)で表される化合物である。
【0091】
【化10】
【0092】
式(5)中、R、R及びnはそれぞれ、前記式(1)におけるR、R及びnと同じである。つまり、式(5)で表されるメチレンジスルホネート化合物は、工程Aで使用するアルカンスルホン酸化合物の種類によって決まり得る。
【0093】
式(5)で表されるメチレンジスルホネート化合物の具体例としては、例えば、メチレンメタンジスルホネート(R=R=H、n=1)、メチレン1,1-エタンジスルホネート(R=CH、R=H、n=1)、メチレン1,2-エタンジスルホネート(R=R=H、n=2)、メチレン1,1-プロパンジスルホネート(R=CHCH、R=H、n=1)、メチレン1,2-プロパンジスルホネート(R=CH及びH、R=H、n=2)、メチレン1,3-プロパンジスルホネート(R=R=H、n=3)、メチレン2,2-プロパンジスルホネート(R=CH、R=CH、n=1)及びメチレン1,4-ブタンジスルホネート(R=R=H、n=4)等を挙げることができる。
【0094】
なお、工程Bで得られた生成物Bは、精製処理等をしてメチレンジスルホネート化合物を単離することができる。この場合、例えば、従来公知の精製、単離操作を採用することができ、その方法は特に限定されるものではない。例えば、工程Bの反応後に得られる生成物Bから有機溶剤等を用いて抽出した後、水洗等を経て晶析させる方法により、メチレンジスルホネート化合物を得ることができる。あるいは、生成物Bに水等を添加して三酸化硫黄を分解してから、前記同様、有機溶剤による抽出、水洗等を経て晶析させることでメチレンジスルホネート化合物を得ることができる。さらには、生成物Bに水等の貧溶媒を添加して粗生成物を析出させ、これを濾別し、再結晶することで、メチレンジスルホネート化合物を得ることができる。
【0095】
精製処理における有機溶剤としては、例えば、塩化メチレン、アセトニトリル等を挙げることができる。
【0096】
本開示は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例
【0097】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0098】
(実施例1)
攪拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、原料として、メタンスルホン酸9.6g(0.10モル)、スルホラン10g(0.085モル)及び三酸化硫黄16g(0.20モル)を仕込んだ。フラスコ内の原料を攪拌しつつ、150℃まで昇温し、この温度で反応を6時間続けることで反応物Aを得た(工程A)。得られた反応物Aを適量採取してイオンクロマトグラフィー分析を行い、この分析で得られたピークの面積値に基づき、仕込みのメタンスルホン酸を基準として生成物である式(4)で表されるメタンジスルホン酸(R及びRが水素原子であり、nが1である化合物)の生成収率を算出した。その結果、得られたメタンジスルホン酸の生成収率は74mol%であった。
【0099】
続いて、反応物Aに三酸化硫黄12g(0.15モル)を加えて、攪拌下、室温(25℃)で91%パラホルムアルデヒド3.6g(ホルムアルデヒドとして0.11モル)を添加した。添加終了後、55℃まで昇温し、この温度で3時間攪拌を続けて反応を行い、反応物Bを得た(工程B)。この反応で得られた反応物B中のメチレンメタンジスルホネートの生成収率は、工程Aで得られたメタンジスルホン酸を基準として81mol%であった。なお、当該生成収率は、反応で得られた反応物Bを含む反応液をサンプリングしてHPLC分析して得たピーク面積値から求めた(以下の例でも同様とした)。
【0100】
次に反応物Bを25℃まで冷却した後、塩化メチレン及び水を添加して分液し、有機層を取り出して水洗した。得られた有機層を濃縮し、これにより析出した結晶を濾別し、得られた結晶を40℃、10mmHgで6時間乾燥することにより、メチレンメタンジスルホネートを固形分として5.7g得た。工程Aで使用したメタンスルホン酸に対するメチレンメタンジスルホネートの収率は30mol%であった。尚、この結晶がメチレンメタンジスルホネートであることは、下記に示すH-NMR分析結果から判断できた。
H-NMR(400MHz、CD3CN)δ(ppm):5.33(s,2H),6.00(s,2H)。
【0101】
(実施例2)
攪拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、原料として、メタンスルホン酸14.4g(0.15モル)、スルホラン15g(0.13モル)を仕込んだ。フラスコ内の原料を攪拌しつつ、150℃まで昇温し、この温度で三酸化硫黄を12g(0.15モル)滴下し、その後、攪拌を5時間続けることで反応を行った。次いで、三酸化硫黄12g(0.15モル)をさらに追加し、1時間攪拌を続けることで反応物Aを得た(工程A)。得られた反応物Aを適量採取してイオンクロマトグラフィー分析を行い、この分析で得られたピークの面積値に基づき、仕込みのメタンスルホン酸を基準として生成物である式(4)で表されるメタンジスルホン酸(R及びRが水素原子であり、nが1である化合物)の生成収率を算出した。その結果、得られたメタンジスルホン酸の生成収率は70mol%であった。
【0102】
続いて、反応物Aに三酸化硫黄57g(0.72モル)を加え、攪拌下、室温(25℃)で91%パラホルムアルデヒド20g(ホルムアルデヒドとして0.60モル)を添加した。添加終了後、60℃まで昇温し、この温度で1時間攪拌を続けて反応を行い、その後100℃まで昇温して2時間撹拌したこれにより反応物Bを得た(工程B)。この反応で得られた反応物B中のメチレンメタンジスルホネートの生成収率は、工程Aで生成したメタンジスルホン酸を基準として83mol%であった。
【0103】
(実施例3)
攪拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、原料として、メタンスルホン酸14.4g(0.15モル)、スルホラン15g(0.13モル)を仕込んだ。フラスコ内の原料を攪拌しつつ、150℃まで昇温し、この温度で三酸化硫黄を17g(0.22モル)滴下し、その後、攪拌を10時間続けることで反応を行った。これにより、反応物Aを得た(工程A)。得られた反応物Aを適量採取してイオンクロマトグラフィー分析を行い、この分析で得られたピークの面積値に基づき、仕込みのメタンスルホン酸を基準として生成物である式(4)で表されるメタンジスルホン酸(R及びRが水素原子であり、nが1である化合物)の生成収率を算出した。その結果、得られたメタンジスルホン酸の生成収率は79mol%であった。
【0104】
続いて、反応物Aに三酸化硫黄24g(0.30モル)を加え、攪拌下、室温(25℃)で91%パラホルムアルデヒド5g(ホルムアルデヒドとして0.15モル)を添加した。添加終了後、60℃まで昇温し、この温度で1.5時間攪拌を続けて反応を行い、その後100℃まで昇温して1時間撹拌したこれにより反応物Bを得た(工程B)。この反応で得られた反応物B中のメチレンメタンジスルホネートの生成収率は、工程Aで生成したメタンジスルホン酸を基準として82mol%であった。
【0105】
(実施例4)
攪拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、原料として、メタンスルホン酸9.6g(0.10モル)、スルホラン10g(0.085モル)、及び三酸化硫黄16g(0.20モル)を仕込んだ。フラスコ内の原料を攪拌しつつ、150℃まで昇温し、攪拌を10時間続けることで反応を行った。これにより、反応物Aを得た(工程A)。得られた反応物Aを適量採取してイオンクロマトグラフィー分析を行い、この分析で得られたピークの面積値に基づき、仕込みのメタンスルホン酸を基準として生成物である式(4)で表されるメタンジスルホン酸(R及びRが水素原子であり、nが1である化合物)の生成収率を算出した。その結果、得られたメタンジスルホン酸の生成収率は78mol%であった。
【0106】
続いて、反応物Aに三酸化硫黄12g(0.15モル)を仕込み、攪拌下、室温(25℃)で91%パラホルムアルデヒド4g(ホルムアルデヒドとして0.12モル)を添加した。添加終了後、55℃まで昇温し、この温度で4時間攪拌を続けて反応を行い、反応物Bを得た(工程B)。この反応で得られた反応物B中のメチレンメタンジスルホネートの生成収率は、工程Aで生成したメタンジスルホン酸を基準として78mol%であった。
【0107】
(実施例5)
攪拌機、冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、原料として、メタンスルホン酸4.8g(0.05モル)、スルホラン10g(0.085モル)、及び三酸化硫黄24g(0.30モル)を仕込んだ。フラスコ内の原料を攪拌しつつ、145℃まで昇温し、攪拌を11時間続けることで反応を行った。これにより、反応物Aを得た(工程A)。得られた反応物Aを適量採取してイオンクロマトグラフィー分析を行い、この分析で得られたピークの面積値に基づき、仕込みのメタンスルホン酸を基準として生成物である式(4)で表されるメタンジスルホン酸(R及びRが水素原子であり、nが1である化合物)の生成収率を算出した。その結果、得られたメタンジスルホン酸の生成収率は58mol%であった。
続いて、反応物Aに三酸化硫黄14g(0.17モル)を仕込み、攪拌下、室温(25℃)で91%パラホルムアルデヒド6g(ホルムアルデヒドとして0.18モル)を添加した。添加終了後、55℃まで昇温し、この温度で1時間攪拌を続けて反応を行い、その後100℃まで昇温して2時間撹拌したこれにより反応物Bを得た(工程B)。この反応で得られた反応物B中のメチレンメタンジスルホネートの生成収率は、工程Aで生成したメタンジスルホン酸を基準として84mol%であった。
【0108】
以上の結果から、各実施例で行われた製造方法によれば、工程A及び工程Bを含むことで、容易かつ安価にメチレンジスルホネート化合物を製造することが可能であり、しかも、より少ない原料でメチレンジスルホネート化合物を製造することが可能であることがわかった。従って、本発明に係る製造方法は、工業的にも有利である。