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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-24
(45)【発行日】2025-02-03
(54)【発明の名称】エッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/302 20060101AFI20250127BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20250127BHJP
【FI】
H01L21/302 201A
H01L21/302 101C
H01L21/302 105A
H01L21/302 301S
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023548185
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2022046566
(87)【国際公開番号】W WO2024134702
(87)【国際公開日】2024-06-27
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】服部 孝司
(72)【発明者】
【氏名】山田 将貴
(72)【発明者】
【氏名】秋永 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】武居 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】大竹 浩人
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-207088(JP,A)
【文献】特開2022-094914(JP,A)
【文献】国際公開第2013/171988(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室内に配置されたウエハ上に予め形成された、窒化シリコン膜が酸化シリコン膜に上下に挟まれて積層された膜層の端部が溝または穴の側壁を構成する膜構造を、前記処理室内に処理用の気体を供給してプラズマを用いない状態でドライエッチングするエッチング方法であって、
第1の工程として、30℃以上55℃以下で、フッ化水素ガスを反応させて、前記窒化シリコン膜上に反応層を形成し、
前記第1の工程の後、第2の工程として、70℃以上110℃以下で、前記フッ化水素ガスを流さない状態で加熱を行い、前記第1の工程で形成した前記反応層を揮発させて除去を行い、
前記第1の工程及び前記第2の工程を複数回繰り返して行うことで、前記窒化シリコン膜を前記端部から横方向にエッチングし、
前記第1の工程及び前記第2の工程は、前記ウエハが載置されるステージを-50℃以上0℃以下の低温として、それにランプ加熱を行うことで、前記第1の工程として30℃以上55℃以下、前記第2の工程として、70℃以上110℃以下の温度を得る、ことを特徴とするエッチング方法。
【請求項2】
請求項1に記載のエッチング方法において、
前記第1の工程の圧力が50Pa以上1000Pa以下である、ことを特徴とするエッチング方法。
【請求項3】
請求項1に記載のエッチング方法において、
前記第1の工程と前記第2の工程との間に、不活性ガスを流しながら排気する工程を入れる、ことを特徴とするエッチング方法。
【請求項4】
請求項1に記載のエッチング方法において、
前記第1の工程で形成する前記反応層の厚さを5nm以下にする、ことを特徴とするエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エッチング方法に関し、特に、半導体素子である3Dメモリー等の窒化シリコン膜の除去の工程に用いる等方的なドライエッチングのプロセス技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスでは、低消費電力化や記憶容量増大に対する要求のため、更なる微細化、およびデバイス構造の3次元化が進んでいる。3次元構造のデバイスの製造では、構造が立体的で複雑であるため、従来のウエハ面に対して垂直方向にエッチングを行う「垂直性(異方性)エッチング」に加え、横方向にもエッチングが可能な「等方性エッチング」が多用されるようになる。従来、等方性のエッチングは薬液を用いたウエット処理により行ってきたが、微細化の進展により、薬液の表面張力によるパタン倒れや微細な隙間のエッチング残りの問題が顕在化している。さらには、大量の薬液処理が必要なことも問題である。そのため、等方性エッチングでは、従来の薬液を用いたウエット処理から薬液を用いないドライ処理に置き換える必要が生じている。
【0003】
半導体デバイス中では、窒化シリコン膜が多く使われることから、そのドライエッチングプロセスも、フッ化水素(HF)ガスを使い、なおかつプラズマを用いない公知例が知られている。例えば、特許文献1には、ウエハ温度60℃以上200℃以下で、フッ化水素ガスを供給して、熱酸化膜に損傷を与えることなく、窒化シリコン膜をエッチングする方法が記載されている。また、特許文献2には、チャンバー内の圧力を1333Pa以上にして、温度10~120℃でフッ化水素ガスを供給し、窒化シリコン膜を酸化シリコン膜に対して選択的にエッチングする方法が記載されている。
【0004】
HFガスに別の成分を加えた公知例として、特許文献3には、NOガスまたは/およびオゾンガスとHFガスを供給し、これにより窒化シリコン膜を選択的にエッチングする方法が記載されている。また、特許文献4には、含フッ素カルボン酸とHFガスを含む混合ガスを100℃未満かつプラズマレスで接触させ、これにより窒化シリコン膜をエッチングする方法が記載されている。
【0005】
HFガス以外のフッ素含有ガスでエッチングするものとして、特許文献5には、ClFガスにより、窒化シリコン膜を酸化シリコン膜に対して選択的にエッチングする方法が示されている。また、特許文献6には、FNO、FNO、FNO及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるフッ素含有エッチングガスにより、選択的に窒化シリコン膜をエッチングする方法が示されている。さらに、特許文献7には、臭素又はヨウ素とフッ素との化合物であるハロゲンフッ化物を含有するエッチングガスで、1Pa以上80kPa以下の圧力下でプラズマを用いずに窒化シリコン膜をエッチングすることが示されている。
【0006】
何らかのプラズマによるラジカルを使うものとして、特許文献8には、フッ素含有ガスとアルコールガスとOガスと不活性ガスとを外部のプラズマで励起した状態で供給し、これにより窒化シリコン膜をシリコンおよび/または酸化シリコン膜に対して選択的にエッチングする方法が記載されている。また、特許文献9には、HとFを含むガスを導入する工程と、処理空間に不活性ガスのラジカルを選択的に導入する工程とを含む窒化シリコン膜の選択的にエッチング方法が示されている。さらに、特許文献10には、-20℃以下で、プラズマにより生成した酸素を含む前駆体とフッ素を含む前駆体を用いて、窒化シリコン膜と酸化シリコン膜が積層した構造から窒化シリコン膜を選択的に横方向にエッチングすることが記載されている。
【0007】
また、特許文献6、特許文献10には、3Dメモリーである3D-NANDデバイスの窒化シリコン膜と酸化シリコン膜が多層で積層した構造に形成された、高アスペクト比の開口部の側壁から窒化シリコン膜を選択的に横方向にエッチングすることが記載されている。
【0008】
また、特許文献11には、窒化シリコン膜上にできるケイフッ化アンモニウム[(NH)SiF]、フッ化水素アンモニウム[NHHF]等をランプなどにより、加熱して除去することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-187105号公報
【文献】特開2018-207088号公報
【文献】特開2014-197603号公報
【文献】特開2019-091890号公報
【文献】特開2016-58544号公報
【文献】特表2021-509538号公報
【文献】国際公開第2021/079780号
【文献】特開2015-228433号公報
【文献】特開2019-012759号公報
【文献】米国特許第10319603号明細書
【文献】特開2005-161493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、三次元構造の半導体素子である3D-NANDフラッシュメモリの積層膜加工やFin型FETのゲート周りの加工においては、窒化シリコン膜を多結晶シリコン膜や酸化シリコン膜に対して高選択かつ等方的に、原子層レベルの制御性でエッチングする技術が求められる。中でも3D-NAND構造では、酸化シリコン膜(SiO2膜)と窒化シリコン膜(SiN)が交互に多数積層されていて、そこに深い穴形状や溝形状が形成された構造から、窒化シリコン膜を選択的に等方的に横方向に少量エッチングする工程が存在する。
【0011】
背景技術で示したように、従来のフッ酸水溶液やバッファードフッ酸水溶液によるウエットエッチングでは、微細な隙間のエッチング残りの問題や、エッチングの制御性が悪いという問題がある。また、ドライエッチングの場合、酸化シリコン膜に対して、高い選択比で窒化シリコン膜を高精度にエッチングすることが難しく、残したい酸化シリコン膜部分の形状が劣化する問題があった。
【0012】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、残したい酸化シリコン膜の形状の劣化を起こさないで、酸化シリコン膜に対して窒化シリコン膜を高選択、高精度にエッチングできるエッチング方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示のエッチング方法は、処理室内に配置されたウエハ上に予め形成された、窒化シリコン膜が酸化シリコン膜に上下に挟まれて積層された膜層の端部が溝または穴の側壁を構成する膜構造を、前記処理室内に処理用の気体を供給してプラズマを用いない状態でドライエッチングするエッチング方法であって、第1の工程として30℃以上55℃以下で、フッ化水素ガスを反応させて、窒化シリコン膜上に反応層を形成し、前記第1の工程の後、第2の工程として、70℃以上110℃以下で、フッ化水素ガスを流さない状態で加熱を行い、前記第1の工程で形成した前記反応層を揮発させて除去を行い、前記第1の工程及び前記第2の工程を複数回繰り返して行うことで、前記窒化シリコン膜を前記端部から横方向にエッチングする。
【発明の効果】
【0014】
上記エッチング方法によれば、エッチング時の酸化シリコン膜部分の形状の劣化を防ぎ、酸化シリコン膜に対して、高い選択比で窒化シリコン膜を高精度にエッチングする方法を提供することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】第1の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度-30℃、全圧300Pa、10サイクル)。
図1B】第1の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度-30℃、全圧600Pa、10サイクル)。
図1C】第1の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度-30℃、全圧900Pa、10サイクル)。
図2A】第2の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度-20℃、全圧900Pa、10サイクル)。
図2B】第2の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度0℃、全圧900Pa、10サイクル)。
図2C】第2の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度20℃、全圧900Pa、10サイクル)。
図2D】第2の実施の形態に係る第2の工程で照射したIRランプの照射時間に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度0℃、全圧900Pa、10サイクル)。
図2E】第2の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力を変えた時の、サイクル数に対する窒化シリコン膜上の反応層の厚さを示したグラフである。
図3A】第3の実施の形態に係る第1の工程のステージ温度を変えたときの、窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである。
図3B】第3の実施の形態に係る第1の工程のステージ温度を変えたときの、サイクル数に対する窒化シリコン膜上の反応層の厚さを示したグラフである。
図4】第1の実施の形態に係るエッチング装置の概略を示す断面図である。
図5】実施の形態に係る窒化シリコン膜のエッチング方法の流れ図である。
図6】実施の形態に係る窒化シリコン膜のエッチング方法の流れ図である。
図7】第1の実施例に係るエッチング処理の時間の経過に伴う動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
図8】第2の実施例に係るエッチング処理の時間の経過に伴う動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
図9】第3の実施例に係るエッチング処理の時間の経過に伴う動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
図10A】実施例に係る窒化シリコン膜と酸化シリコン膜の積層膜のエッチング処理の進行状況(エッチング前)を説明するための部分断面図である。
図10B】実施例に係る窒化シリコン膜と酸化シリコン膜の積層膜のエッチング処理の進行状況(エッチング後)を説明するための部分断面図である。
図11A】実施例に係る選択比が悪い場合の窒化シリコン膜と酸化シリコン膜の積層膜のエッチング処理の進行状況を説明するための部分断面図であり、酸化シリコン膜のエッチング後の端部の形状が矩形ではない丸になったものである。
図11B】実施例に係る窒化シリコン膜と酸化シリコン膜の積層膜のエッチング処理の進行状況を説明するための部分断面図であり、酸化シリコン膜の角が落ちて三角になったものである。
図12】実施例に係る窒化シリコン膜と酸化シリコン膜の積層膜のエッチング処理の進行状況を説明するための部分断面図であり、選択比が比較的高い場合であり、酸化シリコン膜の角が矩形を保ちつつ、酸化シリコン膜の部分の膜厚が薄くなったものである。
図13】第2の実施例に係るエッチング装置の概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示者は、プラズマCVD(chemical vapor deposition、化学気相成長)により形成された窒化シリコン膜、および酸化シリコン膜のそれぞれの単層膜について、プラズマを用いないフッ化水素ガス(HF)によるエッチングの検討を行った。
【0017】
以下、実施形態の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
[エッチング処理装置1の全体構成]
まず、図4を用いて実施例1に係るエッチング処理装置の全体構成を含めて概略を説明する。図4は、第1の実施の形態に係るエッチング装置の概略を示す断面図である。エッチング処理装置100は処理室1を有する。処理室1はベースチャンバー11により構成され、その中にはウエハ2を載置するためのウエハステージ3が設置されている。処理室1の上側の中心部にはシャワープレート23が設置されており、処理ガスはシャワープレート23を介して処理室1へ供給される。
【0019】
処理ガスはガス種毎に設置されたマスフローコントローラー50によって供給流量が調整される。また、マスフローコントローラー50の下流側には、ガス分配器51が設置されており、処理室1の中心付近に供給するガスと外周付近に供給するガスの流量や組成をそれぞれ独立に制御して供給できるようにし、処理ガスの分圧の空間分布を詳細に制御できるようにしている。なお、図4では、一例として、アルゴン(Ar)ガス、窒素(N)ガス、ヘリウム(He)ガス、フッ化水素(HF)ガスを図に記載してあるが、他の処理ガスも供給することもできる。
【0020】
処理室1の下部には処理室1を減圧するため、真空排気配管16によって、排気手段15に接続されている。排気手段15は、例えば、ターボ分子ポンプやメカニカルブースターポンプやドライポンプで構成されるものとする。また、処理室1の圧力を調整するため、調圧手段14が排気手段15の上流側に設置されている。
【0021】
ウエハステージ3の上部にはウエハ2を加熱するためのIRランプユニット(赤外線照明ユニット)が設置されている。IRランプユニットは主にIRランプ60、反射板61、IR光透過窓72からなる。IRランプ60にはサークル型(円形状)のランプを用いる。なお、IRランプ60から放射される光は可視光から赤外光領域の光を主とする光(ここではIR光と呼ぶ)を放出するものとする。本実施例では、3周分のランプ60-1、60-2、60-3が設置されているものとしたが、2周、4周などとしてもよい。IRランプ60の上方には、IR光を下方(ウエハ2の設置方向)に向けて反射するための反射板61が設置されている。IR透過窓72の材質としては、アルカリ金属イオンなどを含まず、赤外光領域の光を透過し、耐熱性のあるものが望ましく、具体的材料としては、石英が望ましい。
【0022】
IRランプ60にはIRランプ用電源73が接続されており、その途中には高周波電力のノイズがIRランプ用電源73に流入しないようにするための高周波カットフィルター74が設置されている。また、IRランプ60-1、60-2、60-3に供給する電力がお互いに独立に制御できるような機能をIRランプ用電源73は有しており、ウエハ2の加熱量の径方向分布を調節できるようになっている(配線は一部図示を省略した)。IRランプユニットの中央には処理ガス導入用のシャワープレート23を設置するための空間が形成されている。
【0023】
ウエハステージ3にはステージを冷却するための冷媒の流路39が内部に形成されており、チラー38によって冷媒が循環供給されるようになっている。このチラーとしては、本実施形態では、ウエハステージ3は、例えば、-50℃~50℃まで温度制御が可能なものを用いた。また、ウエハステージ3の方式として、ここでは、近接冷却の方式のものを用いた。
【0024】
ウエハステージ3の表面には、突起56が設けられており、ウエハ2は、突起56により、点で支持される形で搭載される。突起56の高さは、例えば、0.1mm~1.0mm程度が望ましく、支持される点数(つまり、突起56の個数)は、3点以上あることが望ましい。ここでは、具体的には、高さ0.25mmの突起56を6点用いた。ウエハステージ3の材質としては、腐食耐性のある金属や金属化合物で、熱伝導性の高いものを用いることができる。
【0025】
ウエハステージ3とウエハ2の間に突起56によるギャップがあるために、チャンバー11の全体に、He、Ar、Nのような不活性ガスを流すことにより、そのギャップに不活性ガスが流れ、熱伝導が起きて、ウエハ2が冷える。なお、ウエハ2の冷却方式に関しては、実施例2に示す静電吸着の方式も用いることができる。
【0026】
また、ウエハステージ3の内部にはステージ3の温度を測定するための熱電対70が設置されており、熱電対70は熱電対温度計71に接続されている。チラー38の設定温度に対して、熱電対70による熱電対温度計71によりステージ3の温度は、±1℃以内の差であった。
【0027】
上記で示した近接冷却のステージ3は、構造が単純であるために低コスト化できるという利点がある。ただし、チャンバー11がアイドリング状態である真空状態では、ウエハ2は断熱されてしまうために、不活性ガスを流して冷却が始まるまでに、一定の時間を要する。また、チラー38からの冷媒とウエハ2までの間隔が長めであるために、チラー38の設定温度に対して、実際のウエハ2の温度が高めになりやすいことがわかった。熱電対が付いたウエハにて、冷却時やプロセス時の温度を測定したところ、実際のウエハ2の温度は、チラー38の設定温度に対して、約5℃高くなることがわかった。
【0028】
なお、本実施形態のエッチング処理装置100で用いるステージ3を冷却するための機構としては、冷媒を循環させるもの以外に、熱電変換デバイスであるペルチェ素子等を用いることもできる。
【0029】
本実施形態で用いるエッチング処理装置100は、処理室1などフッ化水素ガスにさらされるウエハステージ3以外のチャンバー11の内部を加温することができる。例えば、温度としては、40℃から120℃程度を用いことができる。これにより、チャンバー11の内部にフッ化水素ガスなどが吸着することを防ぐことができ、チャンバー11の内部の腐食を極力軽減することが可能となる。
【0030】
本実施形態では、例えば、50Pa~1000Pa(50Pa以上1000Pa以下)のHFを、ステージ3のステージ温度40℃~-30℃で用いる。ステージ3のステージ温度によっては、HFが窒化シリコン膜上で凝集し、液化していることがあると考えられる。そのため、静電吸着方式を用いた場合には、ウエハ2の裏面にも固化やあるいは液化が起きた時に、ウエハ2の裏面冷却ガスのシールバンドがブレイクし、例えば、Heのような冷却ガスがリークして、静電チャックエラーとなる可能性がある。これに対して、図4に示す近接冷却のステージ3は、もともとウエハステージ3とウエハ2の間に突起56によるギャップがあるため、HFの固化やあるいは液化が起きた時にもウエハステージ3のエラーが出ず、安定して処理が可能であった。
【0031】
さらに、静電吸着方式では、ウエハ2とステージ3の間が狭いために、HFの液化が起きた時に、ウエハ2がステージ3に表面張力で貼り付きやすい。そのため、ウエハ2のデチャック時に、ウエハ2をプッシャーピンで持ち上げると、ウエハ2が割れる問題が生じる場合がある。これに対しても、ウエハ2とステージ3との間に、今回0.25mmのギャップを持つ近接冷却の方式にしたことにより、HFの液化でウエハ2がステージ3に貼り付く問題を軽減できた。
【0032】
本実施形態のように、低温を用いるプロセスの適用においては、冷却源である静電チャック電極の内部の大気雰囲気と接する構成部品に結露を生じ、給電部の様な電気回路においてはショートを起こす可能性がある。その点からも電極の内部の部品が簡素化された近接冷却のステージ3の構造はメリットがある。
【0033】
[エッチング方法:ドライエッチングのプロセスのフロー]
次に本実施形態で提案するプラズマを用いないフッ化水素ガスによるドライエッチングのプロセスについて、図4図5図7を用いてフローを説明する。図5は、実施の形態に係る窒化シリコン膜のエッチング方法の流れ図である。図7は、第1の実施例に係るエッチング処理の時間の経過に伴う動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
【0034】
まず、処理室1に設けられた搬送口(図示省略)を介してウエハ2を処理室1に搬送した後に、ウエハ2をウエハステージ3にある突起56の上に静置(載置)する。
【0035】
その後、ウエハ2にウエハ冷却用のArガスをマスフローコントローラー52、ガス分配器51、さらにはシャワープレート23を介して供給することにより、図5のステップS101のウエハ冷却を行う。Arガスが、ウエハ2への熱伝達の役割と、HFガスを希釈するための希釈ガスの役割との両方の役割をしているために、ここでは、図5のステップS101とステップS102が同時に行われる。なお、Arガスの流量は、ウエハ2の冷却の際と希釈ガスとして用いる際とにおいて、変えることができる(異なる流量とすることができる)。また、エッチング処理が終了するまで、希釈用のArガスを流し続けることも出来るし、流さないことも出来る。また、Arガスの代わりに、不活性ガスとしてNガスを用いることもできる。
【0036】
続いて、図5のステップS103として、処理用の気体としてHFガスを所定の量、所定の時間、処理室1に供給し、それと同時に、ウエハ2の加熱を行い、ウエハ2の上に反応層の形成を行った。加熱の方式として、ここでは、IR(赤外)ランプ60による加熱を用いた。ステージ3による冷却とIRランプ60による加熱の結果として得られるウエハ2のウエハ温度としては、例えば、30℃以上55℃以下が望ましく、35℃以上50℃以下がより望ましい。後述の条件を変えた実施例で述べるように、全圧あるいはHF分圧、加熱温度、ここではIRランプ60の出力、時間、繰り返し回数などによって、反応層の膜厚を制御することが可能である。また、前述のウエハ2のウエハ温度が、例えば、30℃よりも低い場合は、反応層が十分に形成できないためにエッチングが起きにくい。前述のウエハ2のウエハ温度が、例えば、逆に、55℃より高い場合は、反応層が過剰に形成できるため、過剰に形成された反応層を分解および揮発させるときに、望まない隣接する酸化シリコン膜をエッチングするために、エッチングの選択性が落ちる。
【0037】
本実施形態では、使用する圧力は、例えば、10Paから1000Pa程度が望ましい、さらに、50Paから1000Pa(50Pa以上1000Pa以下)がよい、特に、100Paから1000Paが望ましい。圧力が高い方が、窒化シリコン膜上の反応層が形成されやすくなるとともに、形成に必要な温度が低温化する。圧力を高くした場合でも、IRランプ60の出力を制御することで、酸化シリコン膜には影響を与えないで、窒化シリコン膜上に反応層を形成できる。
【0038】
所定の時間、反応層の形成を行った後、図5のステップS104として、HFガスの供給を停止し、排気手段15を用いて、気相中に残留したHFガスの排気と、反応層として窒化シリコン膜上にある反応生成物の排気とを行う。真空排気する場合は、例えば、5Pa以下にすることが望ましい。ステップS104において、排気中、及び排気後に希釈ガスであるArガスを供給することで、反応生成物をより効率的に排気することができる。Arを流しながら排気する場合は、例えば、40Pa以下とすることが望ましい。
【0039】
次に、HFガスは流さない状態で加熱を行い、反応層の除去を行う(図5のステップS105)。ここでの加熱温度は、例えば、70℃から110℃(70℃以上110℃以下)が望ましく、70℃から100℃(70℃以上100℃以下)がより望ましい。加熱の方式として、ここでは、IRランプ60を用いた。加熱方法はこれに限定されるものではなく、例えば、ウエハステージ3を加熱する方法や、加熱のみを行う装置にウエハ2を別途搬送し加熱処理を行う方法でもよい。また、IRランプ60の照射時には、処理室1内にArガスや窒素ガスを導入することができる。また、加熱処理は、必要に応じて、複数回行うこともできる。加熱のあとは、ステップS106のウエハ冷却を行う。このあと、ステップS102からステップS106までの工程を1サイクルとして、これをN回繰り返す(Nは、正の整数)。必要なエッチング量が得られるまでサイクルを繰り返した後、図4のエッチング方法が終了となる。
【0040】
図7には、図5に示したエッチング方法のフローによるタイムチャートを示した。HFガスを流しながらIRランプ60の加熱を行う工程(ステップS103)と、HFガスを流さない状態でIRランプ60の加熱を行う工程(ステップS105)が1サイクルの中に含まれており、それをN回繰り返すことで、窒化シリコン膜のエッチングが起きる。
【0041】
[エッチング結果1]
本実施形態のプラズマを用いないフッ化水素(HF)ガスによるエッチングの結果を示す。ステージ3の設定温度を-30℃にして、プラズマCVDにより形成された窒化シリコン膜(PE-SiN)、及び酸化シリコン膜(PE-SiO2)のそれぞれの単層膜のエッチングレートを測定した。
【0042】
ここでは、ベースウエハ2として、直径300mmの高抵抗基板(31Ωcm)に、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜のそれぞれ2cm角のクーポンサンプルをシリコーンの真空グリースで貼り付けたものを用いた。
【0043】
上記ウエハ2を図4に示したエッチング処理装置100の処理室1に入れた後、図5に示したエッチング方法のプロセスフローでエッチングを行った。まず、ウエハ冷却のため、Arを流量1.4L/min、900Paにて、60秒間流した。その後、設定した圧力にした後、HFを流量0.40L/min、希釈ガスとしてのArを流量0.20L/minを導入しながら、IRランプ60を所定の出力で、同時に照射した。ここでは、HF導入とIR照射の時間を60秒間とした。これによって、窒化シリコン膜上に反応層が形成される。
【0044】
その後、調圧手段14内の排気のバルブを100%開けた状態で、120秒間排気した。この排気の操作によって、フッ素ガス及び反応生成物の一部が排気される。次に、ステージ3の設定温度はそのままで、Arを流量0.50L/min流した状態で、調圧手段14内の排気のバルブを100%開けた状態で、IRランプ60を所定のランプ強度で30~50秒間加熱を行った。これにより反応層が除去される。その後、初めに戻って、Arを圧力900Paで、流量1.4L/min、60秒間で流した状態でウエハ2を冷却した。この一連のプロセス(ステップS102からステップS106までの工程)を、図5のフローに従って、ここでは10サイクル行った。
【0045】
IRランプ60の出力を変化させたときに、10サイクル後に得られた窒化シリコン膜(PE-SiN)のエッチング膜厚と、酸化シリコン膜(PE-SiO2)のエッチング膜厚と、酸化シリコン膜に対する窒化シリコン膜の選択比(Selectivity)を図1A図1B図1Cに示した。図1Aは、第1の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度-30℃、全圧300Pa、10サイクル)。図1Bは、第1の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度-30℃、全圧600Pa、10サイクル)。図1Cは、第1の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度-30℃、全圧900Pa、10サイクル)。ここで、図1A図1B図1Cは、HF/Arを導入し、IR照射を行う際の圧力をそれぞれ300Pa、600Pa、900Paに変えた実験結果を示している。また、第2の工程(S103)により形成された反応層を除去するためのIRランプ照射は、出力70%で、50s間を行った。
【0046】
図1Aに示すように、300Paを用いた場合は、IR出力60%以上を用いた場合、10サイクルで15nmくらいの窒化シリコン膜(PE-SiN)のエッチング量が得られた。しかし、IR出力65%以上では、酸化シリコン膜(PE-SiO2)もエッチングが起き始めており、選択比(Selectivity)が悪くなることがわかった。
【0047】
図1Bに示すように、圧力を600Paに上げた場合、窒化シリコン膜(PE-SiN)のエッチング量はIRランプ出力に比例して大きくなった。圧力を上げたことによって、窒化シリコン膜(PE-SiN)のエッチング量が全体に大きくなり、酸化シリコン膜(PE-SiO2)に対する選択比(Selectivity)が上がる。ただし、この場合もIR出力65%以上では、酸化シリコン膜(PE-SiO2)のエッチングが起き始めている。さらに図1Cに示すように、圧力を900Paに上げた場合もIR出力が大きいほど、窒化シリコン膜(PE-SiN)のエッチング量が大きくなる傾向があり、エッチング量がさらに増加することがわかった。
【0048】
熱電対が付いたウエハ2を用いて、HFガスをArに代替して、ランプ照射時のプロセス温度を実際に測定した。表1Aは、ステージ温度が-30℃の時のIRランプ出力(IR出力:50%、55%、60%、65%)と60秒後のウエハ2の温度を示している。ここでは、到達温度を示している。ベースウエハと同じく高抵抗基板を用いている。測定された温度は、30℃から57℃であった。また反応層を除去するプロセスに関しても温度測定を行ったところ、到達温度は、80℃であることがわかった。
【0049】
【表1A】
本実施形態が対象とする膜の構造を図10A図10Bを用いて説明する。図10Aは、実施例に係る窒化シリコン膜と酸化シリコン膜の積層膜のエッチング処理の進行状況(エッチング前)を説明するための部分断面図である。図10Bは、実施例に係る窒化シリコン膜と酸化シリコン膜の積層膜のエッチング処理の進行状況(エッチング後)を説明するための部分断面図である。本実施形態が対象とする膜の構造としては、図10Aに示すような基板101上に窒化シリコン膜103と酸化シリコン膜102とが交互に多数積層されていて、そこに開口部104として、深い穴形状や溝形状が形成された3D-NANDで必要とされる構造である。つまり、この構成は、窒化シリコン膜が酸化シリコン膜に上下に挟まれて積層された膜層の端部が溝または穴の側壁を構成する膜構造である。ここで用いられる窒化シリコン膜103の膜厚としては、数nmから100nm、酸化シリコン膜102の膜厚としては数nmから100nmである。またこれらの積層数は、数十から数百層が積層されたものである。これらの積層のトータルの厚さ105は、数μmから数十μmである。開口部104の幅は、数十nmから数百nmである。本実施形態のプロセスにより、図10Bに示すように、窒化シリコン膜103を窒化シリコン膜102に対して高選択に横方向にエッチングする。この横方向へのエッチングの寸法106は、数nmから数十nmである。
【0050】
図11A図11B図12は、酸化シリコン膜102のエッチング後の端部の形状の例を説明する図である。図11Aは、実施例に係る選択比が悪い場合の窒化シリコン膜と酸化シリコン膜の積層膜のエッチング処理の進行状況を説明するための部分断面図であり、酸化シリコン膜のエッチング後の端部の形状が矩形ではない丸になったものである。図11Bは、実施例に係る窒化シリコン膜と酸化シリコン膜の積層膜のエッチング処理の進行状況を説明するための部分断面図であり、酸化シリコン膜の角が落ちて三角になったものである。図12は、実施例に係る窒化シリコン膜と酸化シリコン膜の積層膜のエッチング処理の進行状況を説明するための部分断面図であり、選択比が比較的高い場合であり、酸化シリコン膜の角が矩形を保ちつつ、酸化シリコン膜の部分の膜厚が薄くなったものである。
【0051】
ここで、窒化シリコン膜103の横方向へのエッチングに際して、酸化シリコン膜102に対する選択比が10以上、より望ましくは、20以上が望ましい。この選択比が低い場合は、本来エッチングさるべきではない酸化シリコン膜102のエッチングが同時におきるために、酸化シリコン膜102のエッチング後の端部の形状が、図11Aの111に示すように、矩形ではない丸いものとなり、デバイス性能に悪影響を及ぼす。
【0052】
経験的には、選択比として10以上、より望ましくは20以上がある場合には、図10Bで示すような、矩形により近い形状が得られる。また、選択比が5未満である場合には、図11Aの111に示したような酸化シリコン膜102の端部の形状が丸みを帯びたものになり、望ましくない。
【0053】
ここで、窒化シリコン膜103(膜厚40nm)と酸化シリコン膜102(膜厚40nm)が交互に合計20層成膜されたサンプルに、200nmのスリット状のスペース(開口部104)が形成されたサンプルを用いて、微細パタンでのエッチング特性を評価した。実験条件としては、図1A図1B図1Cで示した条件にて、10サイクルのエッチングを行った。その結果を表1B、表1C、表1Dに示した。表1Bは、ステージ温度-30℃、300Paでのエッチング結果を示している。表1Cは、ステージ温度-30℃、600Paでのエッチング結果を示している。表1Dは、ステージ温度-30℃、900Paでのエッチング結果を示している。表1Eは、スリットサンプルの評価結果の記号とその基準を示している。
【0054】
結果として、図10Bに示したように、高い選択性で矩形に近い形状で窒化シリコン膜103のエッチングが進む場合、図11Aに示したように、選択性が悪く、残すべき酸化シリコン膜102の先端が丸くなる場合(111で示す)があった。選択性が比較的良い場合でも、図11Bのように酸化シリコン膜102の角が落ちて三角になる場合が見られ(113で示す)、さらには、図12のように酸化シリコン膜102の角が矩形を保っていても、酸化シリコン膜102の先端の部分の膜厚が薄くなる結果が見られた(112で示す)。図12の112は、エッチング後の酸化シリコン膜102の端部の一例を示す図で、酸化シリコン膜102の角が矩形を保ちつつ、酸化シリコン膜102の部分の膜厚が薄くなったものである。図11Bの113は、エッチング後の酸化シリコン膜102の端部の一例を示す図で、酸化シリコン膜102の角が落ちて三角になったものである。酸化シリコン膜の組成式は、SiOまたはSiO2で表すものとする。
【0055】
そこで、表1B、表1C、表1Dには、リセス量(窒化シリコン膜のエッチング量から酸化シリコン膜のエッチング量を引いたもの)、スリットパタンの結果からの選択比(窒化シリコン膜の初期寸法からのエッチング量を酸化シリコン膜のエッチング量で割ったもの)、残SiO2厚さ(図12に示したエッチング後の酸化シリコン膜102の先端の厚さ108を初期の酸化シリコン膜102の厚さ107で割ったもの)を示した。ここで良いエッチング条件としては、リセス量が比較的大きく、選択比が大きく、さらには残SiO2厚さが1に近い値である。
【0056】
なお、評価結果をわかりやすくするために、表1B、表1C、表1Dには、◎、〇、△、×といった記号を併記した。表1Eにその基準を示した。
【0057】
【表1B】
【0058】
【表1C】
【0059】
【表1D】
【0060】
【表1E】
表1B、表1C、表1Dに示したように、いずれの場合もIRランプ出力(IR出力)が高い場合に残SiO2厚さが小さくなって、条件としては適さないことがわかった。したがって、選択比が比較的高い場合でも、残SiO2厚さが低い場合があることがわかった。以上のことから、リセス量、選択比、残SiO2厚さを満たすのは、温度として、30℃以上55℃以下であることがわかった。
【0061】
また、温度が高いことと、圧力が高いことが窒化シリコン膜103のエッチング量を増大させることに寄与するが、温度を高くすると、残SiO2厚さが小さくなるので、圧力を高くして、温度を低めに用いた時に特性が良いことがわかった。
【実施例2】
【0062】
[エッチング処理装置2]
次に、図13を用いて本実施形態の実施例2に係るエッチング処理装置200の全体構成を含めて概略を説明する。図13は、第2の実施例に係るエッチング装置の概略を示す断面図である。エッチング処理装置200は処理室1を有する。処理室1はベースチャンバー11により構成され、その中にはウエハ2を載置するためのウエハステージ3が設置されている。処理室1の上方にはプラズマ源が設置されており、ICP放電方式を用いている。ICPプラズマ源はプラズマによるチャンバー11の内壁のクリーニングやプラズマによる反応性ガスの生成に用いることができる。ICPプラズマ源を構成する円筒型の石英チャンバー12が処理室1の上方に設置されており、石英チャンバー12の外側にはICPコイル20が設置されている。ICPコイル20にはプラズマ生成のための高周波電源21が整合機22を介して接続されている。高周波電源21から生成される高周波電力の周波数は13.56MHzなど、数十MHzの周波数帯を用いるものとする。石英チャンバー12の上部には天板25が設置されている。天板25の下部には、ガス分散板24とシャワープレート23とが設置されており、処理ガスはガス分散板24とシャワープレート23を介して石英チャンバー12内に導入される。
【0063】
処理ガスはガス種毎に設置されたマスフローコントローラー50によって供給流量が調整される。また、マスフローコントローラー50の下流側にはガス分配器51が設置されており、ガス分配器51は石英チャンバー12の中心付近に供給するガスと外周付近に供給するガスの流量や組成をそれぞれ独立に制御して供給できるようにし、処理ガスの分圧の空間分布を詳細に制御できるようにしている。なお、図13ではAr、N、HF、Oを処理ガスとして図に記載してあるが、必要に応じて、他のガスも供給することができる。
【0064】
処理室1の下部には、処理室を減圧するため、真空排気配管16によって、排気手段15が接続されている。排気手段15は、例えば、ターボ分子ポンプやメカニカルブースターポンプやドライポンプで構成されるものとする。また、処理室1の圧力を調整するため、調圧手段14が排気手段15の上流側に設置されている。
【0065】
ウエハステージ3の上部には、ウエハ2を加熱するためのIRランプユニットが設置されている。IRランプユニットは主にIRランプ60、反射板61、IR光透過窓72からなる。IRランプ60にはサークル型(円形状)のランプを用いる。なお、IRランプから放射される光は可視光から赤外光領域の光を主とする光(ここではIR光と呼ぶ)を放出するものとする。本実施例では、3周分のランプ60-1、60-2、60-3が設置されているものとしたが、2周、4周などとしてもよい。IRランプ60の上方にはIR光を下方(ウエハ設置方向)に向けて反射するための反射板61が設置されている。IR透過窓72の材質としては、アルカリ金属イオン等を含まず、赤外光領域の光を透過し、耐熱性のあるものが望ましく、具体的材料としては、石英が望ましい。
【0066】
IRランプ60にはIRランプ用電源73が接続されており、その途中には高周波電力のノイズがIRランプ用電源73に流入しないようにするための高周波カットフィルター74が設置されている。また、IRランプ60-1、60-2、60-3に供給する電力がお互いに独立に制御できるような機能がIRランプ用電源73には設置されており、ウエハ2の加熱量の径方向分布を調節できるようになっている(配線は一部図示を省略した)。
【0067】
IRランプユニットの中央には流路27が形成されている。この流路27には、プラズマ中で生成されたイオンや電子を遮蔽し、中性のガスや中性のラジカルのみを透過させてウエハ2に照射するための複数の穴の開いたスリット板26が設置されている。スリット板26の材質としては、アルカリ金属イオン等を含まず、耐熱性のあるものが望ましく、具体的材料としては、アルミナや石英を用いることができる。
【0068】
ウエハステージ3にはステージを冷却するための冷媒の流路39が内部に形成されており、チラー38によって冷媒が循環供給されるようになっている。チラー38としては、本実施形態では、ウエハステージ3が-50℃~50℃に温度制御できるものを用いた。また、ウエハ2を静電吸着によって固定するため、板状の電極板30がステージ3に埋め込まれており、電極板30のそれぞれにDC電源31が接続されている。また、ウエハ2を効率よく冷却するため、ウエハ2の裏面とウエハステージ3との間にHeガスを供給できるようになっている。また、ウエハ2を吸着したまま、加熱、冷却を行っても、ウエハ2の裏面に傷がつかないようにするため、ウエハステージ3の表面(ウエハ2の戴置面)はポリイミド等の樹脂でコーティングされているものとする。また、ウエハステージ3の内部には、ステージ3の温度を測定するための熱電対70が設置されており、熱電対70は熱電対温度計71に接続されている。
【0069】
チラー38の設定温度に対して、熱電対70による熱電対温度計71によりステージ3の温度は、±1℃以内の差であり、また熱電対70で別途、測定したウエハ2の温度は、±3℃以内の差(ステージ3の温度に対しては、±2℃以内)であった。
【0070】
なお、本実施形態のエッチング処理装置200で用いるステージ3を冷却するための機構としては、冷媒を循環させるもの以外に、熱電変換デバイスであるペルチェ素子等を用いることもできる。
【0071】
また、本実施形態で用いるエッチング処理装置200は、処理室1などフッ化水素ガスにさらされるウエハステージ3以外のチャンバー11の内部を加温することができる。例えば、温度としては、40℃から120℃程度を用いことができる。これにより、チャンバー11の内部にフッ化水素ガスが吸着することを防ぐことができ、チャンバー内部の腐食を極力軽減することが可能となる。
【0072】
[エッチング方法:ドライエッチングのプロセスのフロー2]
次に、本実施形態で提案するプラズマを用いないフッ化水素ガスによるエッチングプロセスについて、図5図8図13(装置図)を用いてフローを説明する。図5は、実施の形態に係る窒化シリコン膜のエッチング方法の流れ図である。図8は、第2の実施例に係るエッチング処理の時間の経過に伴う動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
【0073】
まず、処理室1に設けられた搬送口(図示省略)を介してウエハ2を処理室1に搬送した後に、静電吸着のためのDC電源31によりウエハ2をウエハステージ3に固定するとともに、ウエハ2の裏面にウエハ冷却用のHeガス55を供給することにより、図5のステップS101のウエハ冷却を行う。Heガス55と真空排気配管16との間にはバルブ54が設けられる。
【0074】
次に、図5のステップS102として、HFガスを希釈するためのArガスをマスフローコントローラー50、ガス分配器51、さらにはシャワープレート23を介して処理室1に供給する。エッチング処理が終了するまで、希釈用のArガスを流し続けることも出来るし、流さないことも出来る。また、Arガスの代わりに、不活性ガスとしてNガスを用いることもできる。
【0075】
続いて、図5のステップS103として、処理用の気体としてHFガスを所定の量、所定の時間、前記処理室1に供給し、それと同時に加熱を行い反応層の形成を行った。加熱の方式として、ここでは、IR(赤外)ランプ60による加熱を用いた。ステージ3による冷却とIRランプ60による加熱の結果として得られるウエハ2の温度としては、例えば、30℃以上55℃以下が望ましく、35℃以上50℃以下がより望ましい。後述の条件を変えた実施例で述べるように、全圧あるいはHF分圧、加熱温度、ここではIRランプ60のランプ出力、時間、繰り返し回数などによって、反応層の膜厚を制御することが可能である。
【0076】
本実施形態では、使用する圧力は、例えば、10Paから1000Pa程度が望ましい、さらに、50Paから1000Pa(50Pa以上1000Pa以下)がよい、特に100Paから1000Paが望ましい。圧力が高い方が、窒化シリコン膜103の上の反応層が形成されやすくなるとともに、形成に必要な温度が低温化する。圧力を高くした場合でも、IRランプ60の出力を制御することで、酸化シリコン膜102には影響を与えないで、窒化シリコン膜103の上に反応層を形成できる。
【0077】
所定の時間、反応層の形成を行った後、図5のステップS104として、HFガスの供給を停止し、気相中に残留したHFガス、及び反応層として窒化シリコン膜103上にある反応生成物を排気する。ステップS104において、排気中、及び排気後に希釈ガスであるArガスを供給することで、反応生成物をより効率的に排気することができる。
【0078】
次に、HFガスは流さない状態で加熱を行い、反応層の除去を行う(図5のステップS105)。ここでの加熱温度は、例えば、70℃から110℃(70℃以上110℃以下)が望ましく、70℃から100℃(70℃以上100℃以下)がより望ましい。加熱の方式として、ここではIRランプ60を用いた。加熱方法はこれに限定されるものではなく、例えばウエハステージ3を加熱する方法や、加熱のみを行う装置にウエハ2を別途搬送し加熱処理を行う方法でもよい。また、IRランプ60の照射時には、Arガスや窒素ガスを導入することができる。また、加熱処理は、必要に応じて、複数回行うこともできる。加熱のあとは、ステップS106のウエハ冷却を行う。このあと、ステップS102からステップS106までの工程を1サイクルとして、これをN回繰り返す(Nは、正の整数)。必要なエッチング量が得られるまでサイクルを繰り返した後、エッチング方法が終了となる。
【0079】
図8には、図5に示したフローによるタイムチャートを示した。HFガスを流しながらIRランプ加熱を行う工程(ステップS103)と、HFガスを流さない状態でIRランプ加熱を行う工程(ステップS105)が1サイクルの中にあり、それをN回繰り返すことで、窒化シリコン膜のエッチングが起きる。
【0080】
[エッチング結果2]
図13で示したエッチング処理装置200と、先に示した図5図8のプロセスフローを用いて、条件を変えてエッチングを行った。実施例1では、流量をHF/Ar=0.40/0.20(L/min)、ステージ温度を-30℃に固定して、全圧を300Pa、600Pa、900Paに変化させて実験を行った。本実施例2では、全圧を900Paに固定して、HFとArの流量はそのままで、ステージ3のステージ温度を-20℃、0℃、20℃に変化させて、実施例1と同様に、本実施形態のプラズマを用いないフッ化水素ガスによるエッチングを行った。またエッチング時には、例えば、±1200Vの電圧をかけて、ウエハ2をステージ3に静電吸着した。またステージ3の熱伝導を良くするために、Heをウエハ2の裏面から、例えば、圧力1.0kPaとなるように流した。
【0081】
Arを流量1.0L/minで、圧力を900Paにした後、HFを流量0.40L/min、希釈ガスとしてのArを流量0.20L/minを導入しながら、IRランプ60を所定の出力で、同時に照射した。ここでは、HF導入とIR照射の時間を60秒間とした。これによって、窒化シリコン膜103上に反応層が形成される。
【0082】
その後、調圧手段14内の排気のバルブを100%開けた状態で、120秒間排気した。この排気の操作によって、フッ素ガス及び反応生成物の一部が排気される。次に、ステージ3の設定温度はそのままで、Arを流量0.50L/min流した状態で、調圧手段14内の排気のバルブを100%開けた状態で、IRランプ60を所定のランプ強度で30~50秒間加熱を行った。これにより反応層が除去される。その後、初めに戻って、Arを圧力900Paで、流量1.4L/min、60秒間で流した状態で冷却した。この一連のプロセス(ステップS102からステップS106までの工程)を図5のフローに従って、ここでは10サイクル行った。
【0083】
IRランプ60の出力を変化させたときに、10サイクル後に得られた窒化シリコン膜(PE-SiN)のエッチング膜厚と、酸化シリコン膜(PE-SiO2)のエッチング膜厚と、酸化シリコン膜に対する窒化シリコン膜の選択比(Selectivity)を図2A図2B図2Cに示した。図2Aは、第2の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度-20℃、全圧900Pa、10サイクル)。図2Bは、第2の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度0℃、全圧900Pa、10サイクル)。図2Cは、第2の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度20℃、全圧900Pa、10サイクル)。ここで、図2A図2B図2Cは、ステージ3の温度をそれぞれ-20℃、0℃、20℃に変化に変えた実験結果を示している。また、反応層を除去するためのIRランプ60は、出力70%で、40s間照射を行った。
【0084】
熱電対が付いたウエハ2を用いて、HFガスをArに代替して、ランプ照射時のプロセス温度を実際に測定した。表2Aは、ステージ温度が異なる場合のIRランプ出力(IR出力)と60秒後の温度を示す。表2Bは、IRランプ出力70%、40秒後の温度を示す。表2Aに到達温度を示すように、温度は21℃から81℃であることがわかった。また反応層を除去するプロセスに関しても温度測定を行ったところ、表2Bに示す到達温度であることがわかった。
【0085】
【表2A】
【0086】
【表2B】
図2A図2B図2Cを見ると、自明のことではあるが、IRランプ60の出力(IR出力)が大きいほど、窒化シリコン膜(PE-SiN)のエッチング膜厚は大きくなっている。また、ステージ3の温度が高いほど、窒化シリコン膜(PE-SiN)のエッチング量のグラフは左へシフトしており、少ないIRランプ60の出力(IR出力)で同じエッチング量が得られることがわかる。ただし、ステージ3の温度が高い場合には、IRランプ60の出力が高いところでの酸化シリコン膜(PE-SiO2)のエッチング量が大きくなる傾向があり、選択比(Selectivity)が下がっていることがわかる。
【0087】
ここで、窒化シリコン膜103の横方向へのエッチングに際して、酸化シリコン膜102に対する選択比が10以上、より望ましくは、20以上が望ましい。この選択比が低い場合は、本来エッチングさるべきではない酸化シリコン膜102のエッチングが同時におきるために、酸化シリコン膜102のエッチング後の端部の形状が図11Aの111に示すように、矩形ではない丸いものとなり、デバイス性能に悪影響を及ぼす。
【0088】
経験的には、選択比として10以上、より望ましくは20以上がある場合には、図10Bで示すような、矩形により近い形状が得られる。また、選択比が5未満である場合には、図11Aの111に示したような酸化シリコン膜102の端部の形状が丸みを帯びたものになり、望ましくない。
【0089】
ここで、実施例1と同様に窒化シリコン膜103(膜厚40nm)と酸化シリコン膜102(膜厚40nm)が交互に合計20層成膜されたサンプルに、200nmのスリット状のスペースが形成されたサンプルを用いて、微細パタンでのエッチング特性を評価した。実験条件としては、図2A図2B図2Cで用いた条件にて、10サイクルのスリットサンプルのエッチングを行った。その結果を表2C、表2D、表2Eに示した。表2Cは、ステージ温度-20℃、900Paでのエッチング結果を示す。表2Dは、ステージ温度0℃、900Paでのエッチング結果を示す。表2Eは、ステージ温度20℃、900Paでのエッチング結果を示す。
【0090】
結果として、図10Bに示したように、高い選択性で矩形に近い形状でエッチングが進む場合、図11Aに示したように、選択性が悪く、残すべき酸化シリコン膜の先端が丸くなる場合があった。選択性が比較的良い場合でも、図11Bのように酸化シリコン膜の角が落ちて三角になる場合が見られ、さらには、図12のように酸化シリコン膜の角が矩形を保っていても、酸化シリコン膜の部分の膜厚が薄くなる結果が見られた。
【0091】
そこで、表2C、表2D、表2Eには、リセス量(窒化シリコン膜のエッチング量から酸化シリコン膜のエッチング量を引いたもの)、スリットパタンの結果からの選択比(窒化シリコン膜の初期寸法からのエッチング量を酸化シリコン膜のエッチング量で割ったもの)、残SiO2厚さ(図12に示したエッチング後の酸化シリコン膜の先端の厚さ108を初期の酸化シリコン膜の厚さ107で割ったもの)を示した。ここで良いエッチング条件としては、リセス量が比較的大きく、選択比が大きく、さらには残SiO2厚さが1に近い値である。
【0092】
なお、評価結果をわかりやすくするために、表2C、表2D、表2Eには、◎、〇、△、×といった記号を併記した。その基準は、先の表1Eに示したものである。
【0093】
【表2C】
【0094】
【表2D】
【0095】
【表2E】
表2C、表2D、表2Eに示したように、ステージ温度がより高い場合には、適正なIRランプ60の出力がより小さくなっている。また、いずれの場合もIRランプ60の出力が高い場合に残SiO2厚さが小さくなって、条件としては適さないことがわかった。したがって、選択比が比較的高い場合でも、残SiO2厚さが低い場合があることがわかった。また、当然のことながら、ステージ温度-20℃、IR出力45%のときのように、IR出力が低すぎても選択比が悪かった。以上のことから、リセス量、選択比、残SiO2厚さを満たすのは、温度として、30℃以上55℃以下であることがわかった。
【0096】
さらに、表2C、表2D、表2Eの残SiO2厚さを比較すると、残SiO2厚さは、表2Cに示したステージ温度がより低温(ステージ温度-20℃)の場合がより大きく、表2Eに示したステージ温度がより高温(ステージ温度20℃)の場合がより小さいことがわかった。したがって、ステージ3を低温にしておいて、IRランプ60の照射で必要な反応温度を得ることが望ましいことがわかった。
【0097】
ここでの実験での反応層を除去するための第2のIRランプ60の照射時の温度は、表2Bに示したように、70℃から95℃の範囲であったが、この温度範囲では、特に顕著な差は見られなかった。さらに、今回、比較的性能が良かったステージ温度、-20℃、IR出力55%の条件で、図5のフッ化水素ガス及び反応生成物の排気の工程(ステップS104)を、真空排気ではなく、Arを1.4L/min流した状態で、調圧手段14内の排気バルブを100%開けた状態で、120秒間排気を行った。その結果、真空排気をする場合に比べて、微細パタン上の残渣が軽減する効果があることがわかった。
【0098】
次に、先の図2Aで検討したプロセス条件(ステージ温度-20℃)を用いて、反応層を形成する第1の工程(ステップS103)のIRランプ60の出力を55%に固定し、反応層を除去するための第2の工程(ステップ105)のIRランプ60(出力70%)の照射時間(post IR(70%)時間)を20秒、30秒、40秒、50秒に変更して、図5のフローで、10サイクルのエッチングを行った。
【0099】
ステップ105の反応層除去のIRランプ照射(post IR)時間に対する、10サイクル後に得られた窒化シリコン膜(PE-SiN)のエッチング膜厚と、酸化シリコン膜(PE-SiO2)のエッチング膜厚と、酸化シリコン膜に対する窒化シリコン膜の選択比(Selectivity)を図2Dに示した。図2Dは、第2の実施の形態に係る第2の工程で照射したIRランプの照射時間に対する窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである(ステージ温度0℃、全圧900Pa、10サイクル)。実験結果としては、反応層除去のIR照射が20sであった場合には、反応層の除去が、上手くいかずに、光学式の膜厚測定機では膜厚が測定できなかった。図2Dからわかるように、ステップ105の反応層除去のIR照射が30sから50sでは、結果に顕著な差は見られなかった。
【0100】
ここで、先の検討と同様に窒化シリコン膜103(膜厚40nm)と酸化シリコン膜102(膜厚40nm)が交互に合計20層成膜されたサンプルに、200nmのスリット状のスペースが形成されたサンプルを用いて、微細パタンでのエッチング特性を評価した。実験条件としては、図2Dで用いた条件で、10サイクルのスリットサンプルのエッチングを行った。その結果を表2Fに示した。表2Fは、反応層除去のIRの照射時間(反応層除去IR)を変えたときのエッチング結果を示す。
【0101】
【表2F】
反応層除去のIR照射時間(反応層除去IR)が30s、40s、50sの場合は、いずれも結果は良好であった。これに対して、反応層除去IRが20sの場合は、先にも述べたように、反応層の除去ができず、エッチングが上手くいかなかった。この結果から、反応層を除去する温度は、低すぎる場合には、反応層の除去が起きずにエッチングが上手くいかないことがわかった。
【0102】
後述するように、反応生成物はケイフッ化アンモニウム[(NHSiF]が主であると考えられる。したがって、分解、揮発させるためには、ある程度の温度が必要である。ただし、高すぎても酸化シリコン膜102をエッチングするなどの副反応を起こす可能性があることから、必要最小限の温度が望ましい。以上のことから、反応層を除去する第2の温度としては、例えば、70℃以上110℃以下が望ましく、75℃以上100℃以下がより望ましい。
【0103】
[反応層の厚さと組成に関する検討]
次に、反応層の厚さに関する検討を行った。ここでは、条件としては、図2Cや表2Eで示したエッチング条件(ステージ温度20℃、900Pa、HF/Ar=0.40/0.20L/min、60秒)に相当する条件で、反応層の形成のIR照射条件(IRランプ60の出力)を30%から50%まで変化させて、反応層除去のIR照射(反応層除去のIRの照射時間(反応層除去IR))のみ行わないで、サイクル処理を行った。具体的には、図5のフローにて、フッ化水素ガス及び反応生成物の排気(ステップS104)を行ったあとに、加熱による反応層の除去(ステップS105)をせずに、つぎのウエハ冷却(ステップS106)に行き、その後は、また希釈ガス導入(S102)からスタートするサイクルを繰り返した(つまり、S102->S103->S104->S106のこの順序を1サイクルとして、複数サイクル繰り返した)。その反応層除去のIR照射のないサイクルをそれぞれ2回、5回、10回行った窒化シリコン膜のサンプルを用意して、その断面を走査電子顕微鏡で観察して、反応層の膜厚を測定した。結果を図2Eに示す。図2Eは、第2の実施の形態に係る第1の工程にて、HF供給と同時に照射したIRランプ出力を変えた時の、サイクル数に対する窒化シリコン膜上の反応層の厚さを示したグラフである。
【0104】
図2Eは、ステージ温度20℃での、サイクル数に対する反応層の厚さを調べたものである。反応層を形成するIRランプ60の出力を30%から50%(ここでは、IR出力が、30%、35%、40%、45%、50%とされている。)に変化させたデータをまとめて示してある。IR出力に対するステージ温度は、表2Aに纏めた。IR出力が30%から45%の場合は、サイクル数に対して、反応層の厚さが飽和する傾向があることがわかった。これに対して、IR出力50%の場合は、反応層の厚さがサイクル数に対して、大きく増加する傾向があることがわかった。温度で見た場合は、40℃から60℃未満の場合(IRランプ出力30%から45%)の場合には、反応層の厚さが飽和する傾向があり、温度70℃(IRランプ出力50%)の場合には、反応層がサイクル数に対して、増加し続ける傾向があることがわかった。
【0105】
表2Eで微細パタンのエッチング結果を示したように、このステージ温度20℃の条件では、IR出力35%、40%のときに結果が良かった。先の反応層の厚さを考慮すると、生成する反応層の厚さが厚すぎる場合(IR出力50%の場合)は、それを第2のIR照射で分解、揮発させて除去する際に量が多すぎて、隣接する酸化シリコン膜102の形状を細らせたり、劣化させたりすると考えられる。したがって、反応層の形成、除去の温度だけでなく、反応層の生成量を制御することも重要である。先の図2Eから考えると反応層の厚さは、例えば、10サイクルで50nm以下が望ましい。したがって、第1の工程であるステップS103では、例えば、1サイクルあたり5nm以下の反応層を形成することが望ましい。
【0106】
上記の反応層に関して、X線光電子分光法(XPS)により、組成分析を行った。その結果、表面の組成としては、窒素(N1s)が窒化シリコンの395eVではなく、402eVのピークを示した。この402eVのピークはアンモニウム塩と帰属されることがわかった。シリコン(Si2P)に関しても、窒化シリコンの99eVでは、103eVのシリケートに帰属されるピークが見られ、ヘキサフルオロシリケートSiF 2-であると思われる。元素比もケイフッ化アンモニウム[(NHSiF]の場合、Si=1、F=6、 N=2であるが、反応層の表面のXPSによる元素比は、Si=1、F=4.4、 N=1.6であり、それに近いことがわかった。以上のことから、反応層として生成する成分は、ケイフッ化アンモニウム[(NHSiF]が主であり、それが分解、揮発する際にできるHFやNHが、条件によっては、隣接する酸化シリコン膜をエッチングしてしまうと考えられる。
【実施例3】
【0107】
[エッチング方法:ドライエッチングのプロセスのフロー3]
次に、本実施形態の実施例3で提案するプラズマを用いないフッ化水素ガスによるエッチングプロセスについて、実施例1で示したエッチングプロセスのフロー1と一部異なるフローを、図4図6図9を用いて説明する。図6は、実施の形態に係る窒化シリコン膜のエッチング方法の流れ図である。図9は、第3の実施例に係るエッチング処理の時間の経過に伴う動作の流れを模式的に示すタイムチャートである。
【0108】
まず、処理室1に設けられた搬送口(図示省略)を介してウエハ2を処理室1に搬送した後に、ウエハ2をウエハステージ3にある突起56の上に静置する。この場合には、ステージ温度としては、30℃から55℃の所定の温度を設定する。
【0109】
その後、ウエハ2に熱伝導させるためのArガスをマスフローコントローラー52、ガス分配器51、さらにはシャワープレート23を介して供給することにより、図6のステップS101のステージによるウエハ加熱を行う。Arガスが、ウエハ2への熱伝導とHFガスを希釈するための希釈ガスの役割をしているために、ここでは図6のステップS101とステップS102は、同時に行われる。なお、Arガスの流量は、ウエハ2への熱伝導の際と希釈ガスとして用いる際には変えることができる。また、エッチング処理が終了するまで、希釈用のArガスを流し続けることも出来るし、流さないことも出来る。また、Arガスの代わりに、不活性ガスとしてNガスを用いることもできる。
【0110】
続いて、図6のステップS103として、HFガスを所定の量、所定の時間、処理室1に供給し反応層の形成を行った。ここでは、図5のフローで示したようなIR(赤外)ランプによる加熱は用いずに、ステージ3による熱伝達の温度のみ用いる。ステージ3の温度、つまりウエハ2の温度は、例えば、30℃以上55℃以下が望ましく、35℃以上50℃以下がより望ましい。ステージ3の温度、全圧あるいはHF分圧、時間、繰り返し回数などによって、反応層の膜厚を制御することが可能である。
【0111】
本実施形態では、使用する圧力は、例えば、10Paから1000Pa程度が望ましい、さらに、50Paから1000Pa(50Pa以上1000Pa以下)がよい、特に300Paから1000Paが望ましい。圧力が高い方が、窒化シリコン膜上の反応層が形成されやすくなるとともに、形成に必要な温度が低温化する。
【0112】
所定の時間、反応層の形成を行った後、図6のステップS104として、HFガスの供給を停止し、気相中に残留したHFガス、及び反応層として窒化シリコン膜上にある反応生成物を排気する。ステップS104において、排気中、及び排気後に希釈ガスであるArガスを供給することで、反応生成物をより効率的に排気することができる。
【0113】
次に、HFガスは流さない状態で加熱を行い、反応層の除去を行う(図6のステップS105)。ここでの加熱温度は、例えば、70℃から110℃(70℃以上110℃以下)が望ましく、70℃から100℃(70℃以上100℃以下)がより望ましい。加熱の方式として、ここでは、IRランプ60を用いた。加熱方法はこれに限定されるものではなく、例えばウエハステージ3を加熱する方法や、加熱のみを行う装置にウエハを別途搬送し加熱処理を行う方法でもよい。また、IRランプ60の照射時には、Arガスや窒素ガスを導入することができる。また、加熱処理は、必要に応じて、複数回行うこともできる。加熱のあとは、ステップS106のウエハ2の冷却(ウエハ冷却)を行う。このあと、ステップS102からステップS106までの工程を1サイクルとして、これをN回繰り返す(Nは、正の整数)。必要なエッチング量が得られるまでサイクルを繰り返した後、図6のフローは終了となる。
【0114】
図9には、図6に示したフローによるタイムチャートを示した。HFガス及びArを流す工程(反応層を形成する工程:S103)と、HFガスを流さない状態でIRランプ加熱を行う工程(反応層を分解、揮発させる工程:S105)が1サイクルの中にあり、それをN回繰り返すことで、窒化シリコン膜のエッチングが起きる。
【0115】
[エッチング結果3]
実施例1で用いたエッチング処理装置100と図6のエッチングプロセスフローを用いて、ステージ3の温度(ステージ温度)を20℃から40℃に設定し、HF/Arを流すステップS103では、IR加熱は行わないプロセスを検討した。まず、ウエハ2への熱伝導のため、Arを流量1.4L/min、900Paにて、60秒間流した。その後、圧力900Paで制御しつつ、HFを流量0.40L/min、希釈ガスとしてのArを流量0.20L/minを60秒間導入した。これによって、窒化シリコン膜103上に反応層が形成される。
【0116】
その後、調圧手段14内の排気のバルブを100%開けた状態で、120秒間排気した。この排気の操作によって、フッ素ガス及び反応生成物の一部が排気される。次に、ステージ3の設定温度はそのままで(20℃から40℃)、Arを流量0.50L/min流した状態で、調圧手段14内の排気のバルブを100%開けた状態で、IRランプ60を出力70%で30秒間加熱を行った。これにより反応層が除去される。その後、初めに戻って、Arを圧力900Paで、流量1.4L/min、60秒間で流した状態でウエハ2を冷却し、ステージ3の温度と同じ温度になるようにした。この一連のプロセスを図6のフローに従って、ここでは10サイクル行った。
【0117】
ステージ3の温度を変化させたときに、10サイクル後に得られた窒化シリコン膜(PE-SiN)のエッチング膜厚と、酸化シリコン膜(PE-SiO2)のエッチング膜厚と、酸化シリコン膜(PE-SiO2)に対する窒化シリコン膜(PE-SiN)の選択比(Selectivity)を図3Aに示した。図3Aは、第3の実施の形態に係る第1の工程のステージ温度を変えたときの、窒化シリコン膜と酸化シリコン膜のエッチング膜厚と選択比を示したグラフである。
【0118】
図3Aに示したようにステージ温度だけでも、窒化シリコン膜(PE-SiN)のエッチングが起きること、窒化シリコン膜(PE-SiN)のエッチング量はステージ温度に比例することがわかった。また、酸化シリコン膜(PE-SiO2)のエッチングはほとんど起きず、単層膜では、選択比も高い結果となった。
【0119】
ここで、実施例1及び2と同様に、窒化シリコン膜103(膜厚40nm)と酸化シリコン膜102(膜厚40nm)が交互に合計20層成膜されたサンプルに、200nmのスリット状のスペースが形成されたサンプルを用いて、微細パタンでのエッチング特性を評価した。実験条件としては、図3Aで用いた条件にて、10サイクルと20サイクルのスリットサンプルのエッチングを行った。その結果を表3に示した。表3は、図3Aの条件による微細パタンのエッチング結果を示す。
【0120】
【表3】
そこで、表3には、ステージ温度とサイクル回数、リセス量(窒化シリコン膜のエッチング量から酸化シリコン膜のエッチング量を引いたもの)、スリットパタンの結果からの選択比(窒化シリコン膜の初期寸法からのエッチング量を酸化シリコン膜のエッチング量で割ったもの)、残SiO2厚さ(図12に示したエッチング後の酸化シリコン膜102の先端の厚さ108を初期の酸化シリコン膜102の厚さ107で割ったもの)を示した。ここで良いエッチング条件としては、リセス量が比較的大きく、選択比が大きく、さらには残SiO2厚さが1に近い値である。
【0121】
なお、評価結果をわかりやすくするために、表3には、◎、〇、△、×といった記号を併記した。その基準は、前述の表1Eに示したものである。
【0122】
結果としては、いずれの場合もサイクル数を増やして、20サイクルのエッチングをした場合、選択比が下がることがわかった。特にサイクル数が多い場合は、図11Bの113の形状のように酸化シリコン膜102の角が落ちて、先端が三角になりやすい傾向が見られた。
【0123】
ステージ3の温度のみで、HFとの反応を行っても、窒化シリコン膜103のエッチングは可能であるが、先に実施例1,2で示した低温のステージ3での冷却とIRランプ60の組み合せによるエッチングの方が選択性やパタン形状が優れていることがわかった。つまり、第1の工程(ステップS103)及び第2の工程(ステップS105)は、ウエハ2が載置されるステージ3を-50℃以上0℃以下の低温として、それに、IRランプ60の加熱を行うことで、第1の工程として30℃以上55℃以下、第2の工程として、70℃以上110℃以下の温度を得るのが良いということである。
【0124】
[反応層の厚さに関する検討]
次に、実施例2と同様に、反応層の厚さに関する検討を行った。ここでは、条件としては、図3Aや表3で示したエッチング条件(ステージ温度20℃から40℃、900Pa、HF/Ar=0.40/0.20L/min、60秒)の条件で、反応層の形成のみ行って、反応層除去のIR照射のみ行わないで、サイクル処理を行った。具体的には、図6のフローにて、フッ化水素ガス及び反応生成物の排気(ステップS104)を行ったあとに、加熱による反応層の除去(ステップS105)をせずに、つぎのウエハ冷却(ステップS106)に行き、その後は、希釈ガス導入(ステップS102)からスタートするサイクルを繰り返した(つまり、S101->S102->S103->S104->S106のこの順序を1サイクルとして、複数サイクル繰り返した)。その反応層除去のIR照射のないサイクルをそれぞれ2回、5回、10回行った窒化シリコン膜のサンプルを用意して、その断面を走査電子顕微鏡で観察して、反応層の膜厚を測定した。結果を図3Bに示す。図3Bは、第3の実施の形態に係る第1の工程のステージ温度を変えたときの、サイクル数に対する窒化シリコン膜上の反応層の厚さを示したグラフである。
【0125】
図3Bは、ステージ温度30℃、35℃、40℃での、サイクル数に対する反応層の厚さを調べたものである。ステージ温度が30℃、35℃の時には、サイクル数に対して、反応層の厚さが飽和しやすいことがわかる。ステージ温度が40℃の時には、サイクル数に対して、反応層の厚さが少し増加する傾向があることがわかった。
【0126】
実施例2でも述べたように、生成する反応層の厚さが厚すぎる場合は、それを第2のIR照射で分解、揮発させて、除去する際に量が多すぎて、隣接する酸化シリコン膜102の形状を細らせたり、劣化させたりする。したがって、反応層の形成、除去の温度だけでなく、反応層の生成量を制御することも重要である。先の実施例2の図2Eを合わせて考えると、反応層の厚さは、例えば、10サイクルで50nm以下が望ましい。したがって、第1の工程であるステップS103では、1サイクルあたり5nm以下の反応層を形成することが望ましい。
【符号の説明】
【0127】
1:処理室、2:ウエハ、3:ウエハステージ、11:ベースチャンバー、12:石英チャンバー、13:放電領域、14:調圧手段、15:排気手段、16:真空排気配管、20:ICPコイル、21:高周波電源、22:整合機、23:シャワープレート、24:高ガス分散版、25:天板、26:スリット板、27:流路、30:静電吸着用電極、31:静電吸着用DC電源、38:チラー、39:冷媒の流路、50:マスフローコントローラー、51:ガス分配器、54:バルブ、55:Heガス、56:近接冷却用突起部、60,60-1、60-2、60-3:IRランプ、61:反射板、64:IRランプ用電源、70:熱電対、71:熱電対温度計、72:IR光透過窓、73:IRランプ用電源、74:高周波カットフィルター、101:基板、102:窒化シリコン膜、103:酸化シリコン膜、104:開口部、105:積層膜、106:窒化シリコン膜に対する酸化シリコン膜のエッチング量、111:選択比が低い場合のエッチング後の酸化シリコン膜の端部、112:エッチング後の酸化シリコン膜の端部の一例を示す図で、酸化シリコン膜の角が矩形を保ちつつ、酸化シリコン膜の部分の膜厚が薄くなったもの、113:エッチング後の酸化シリコン膜の端部の一例を示す図で、酸化シリコン膜の角が落ちて三角になったもの。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図13