(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池負極用バインダ、リチウムイオン二次電池負極合材層形成用スラリー、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20250128BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20250128BHJP
C08L 81/04 20060101ALI20250128BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
C08L81/04
C08L77/00
(21)【出願番号】P 2020172547
(22)【出願日】2020-10-13
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】東郷 英一
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-106185(JP,A)
【文献】特開2008-189900(JP,A)
【文献】特開2018-200780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C08L 81/04
C08L 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の負極において負極活物質と導電助剤と集電体とを結着させるバインダにおいて、ポリフェニレンサルファイドと
ポリアミドハードセグメント30~70質量%及びポリエーテルソフトセグメント30~70質量%で構成されるポリエーテルブロックアミドの複合樹脂を含み、該複合樹脂が、ポリフェニレンサルファイド55~75質量%及びポリエーテルブロックアミド25~45質量%を含む樹脂組成物からなり、かつ、電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造においてポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドが共連続構造を形成することを特徴とする、リチウムイオン二次電池負極用バインダ。
【請求項2】
負極活物質、導電助剤、請求項1に記載のバインダ、及び水を含むことを特徴とする、リチウムイオン二次電池負極合材層形成用スラリー。
【請求項3】
請求項
1に記載のバインダを含むことを特徴とする、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用負極を有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極用バインダ、リチウムイオン二次電池負極合材層形成用スラリー、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、近年、電気機器等の電源として幅広く用いられている。さらに、最近は電気自動車の電源としてもその用途を拡大しつつあり、高容量化、高出力化、サイクル寿命の向上といった特性向上とともに、高い安全性が要望されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極は、粉末状の負極活物質と導電助剤とバインダを主成分とする多孔質体が集電体上に積層・結着した構造を有しており、その性能は、負極活物質の特性のみならず、バインダの種類によっても大きく影響されることが知られている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の負極活物質には、多層構造を有する炭素材料が主に用いられている。また、近年の高容量活物質の開発によりケイ素またはスズ、およびそれらの合金や酸化物が検討されている。
【0005】
従来、負極のバインダとしてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)が主流であったが、高容量活物質を使用した電極においては、充放電時のリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う体積変化が非常に大きいため、従来のバインダでは体積変化が抑制できず、集電体と活物質層との界面で剥離が発生し易くなったり、高容量活物質そのものが微粉化し、集電体から脱落または剥離し易くなるため、電極構造が崩壊し、電池の充放電サイクル寿命が短いという欠点を有していた。
【0006】
このような問題に対し、一つの手法として、ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂をバインダとして利用することが提案されている(例えば、特許文献1~4参照。)。特定の機械的特性を有するポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂を負極用の結着材として用いることにより、負極活物質の膨張および収縮を吸収緩和して電池性能の低下を抑制できているようにみられるが、一方で、活物質がバインダによって完全に被覆されやすく、負極表面の安定界面(SEI)の形成が阻害されやすくなるという問題がある。
【0007】
また、これらのポリマーは集電体との結着性の点で満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2004/004031号公報
【文献】特開平11-158277号公報
【文献】特開2008-34352号公報
【文献】特開2000-200608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑み、サイクル特性に優れた高容量活物質を用いた負極を作製可能とするリチウムイオン二次電池負極用バインダ、並びに、それを用いたリチウムイオン二次電池負極合材層形成用スラリー、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、特定の組成でブレンドしたポリフェニレンサルファイド(以下、PPSという場合がある。)とポリエーテルブロックアミド(以下、PEBAという場合がある。)の複合樹脂を負極バインダに用いることで前記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の各態様は、以下に示す[1]~[4]である。
【0012】
[1]リチウムイオン二次電池の負極において負極活物質と導電助剤と集電体とを結着させるバインダにおいて、ポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドの複合樹脂を含み、該複合樹脂が、ポリフェニレンサルファイド55~75質量%及びポリエーテルブロックアミド25~45質量%を含む樹脂組成物からなり、かつ、電子顕微鏡で観察される樹脂相分離構造においてポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドが共連続構造を形成することを特徴とする、リチウムイオン二次電池負極用バインダ。
【0013】
[2]負極活物質、導電助剤、上記[1]に記載のバインダ、及び水を含むことを特徴とする、リチウムイオン二次電池負極合材層形成用スラリー。
【0014】
[3]上記[1]又は[2]に記載のバインダを含むことを特徴とする、リチウムイオン二次電池用負極。
【0015】
[4]上記[3]に記載のリチウムイオン二次電池用負極を有することを特徴とする、リチウムイオン二次電池。
【0016】
なお、本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダによって前記目的が達成される理由に関し、本発明者らは以下のように推察する。
【0017】
すなわち、本発明においては、特定の組成でブレンドしたポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドの複合樹脂を負極バインダに用いることで、負極活物質や導電助剤と集電体との間の接着性が向上する、ポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドの複合樹脂の高い機械強度により高容量活物質の体積変化が抑制できる、といった効果が発現し、優れた充放電特性とサイクル寿命の長寿命化が達成できる。
【0018】
更に、ポリフェニレンスルフィドとポリエーテルブロックアミドとの複合樹脂が共連続構造を示しているため、バインダにより活物質表面が被覆されてもリチウムイオン伝導チャンネルが確保され、優れた充放電特性が維持可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、サイクル特性に優れた高容量活物質を用いた負極を作製可能とするリチウムイオン二次電池負極用バインダ、並びに、それを用いたリチウムイオン二次電池負極合材層形成用スラリーを提供することが可能となり、さらに、それを用いることにより、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長されたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】参考例1で得られたPPS/PEBA複合樹脂(C-1)からPEBA成分を除去した構造
【
図2】参考例3で得られたPPS/PEBA複合樹脂(C-3)からPEBA成分を除去した構造
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
本発明の一態様であるリチウムイオン二次電池負極用バインダは、ポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドの複合樹脂を含むものである。
【0023】
ポリフェニレンサルファイドは、ベンゼン環と硫黄原子が交互に結合した単純な直鎖状構造を持ち、結晶性の熱可塑性樹脂であるため、機械強度が高い。また、溶融時の流動性が高いため、アンカー効果により、金属との接合に優れる。
【0024】
本発明で用いるポリフェニレンサルファイドは直鎖状構造、分岐構造、架橋構造のいずれでも良く、径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて、測定温度315℃、荷重10kgの条件下で測定した溶融粘度が500~5000ポイズであることが好ましい。
【0025】
ポリエーテルブロックアミドはポリアミドハードセグメントとポリエーテルソフトセグメントのブロック共重合体である広い範囲の可撓性を有する熱可塑性エラストマーであり、ポリエーテルソフトセグメントが存在しているため、リチウムイオン伝導性を有する。
【0026】
ポリエーテルソフトセグメントの構成成分としては、例えば、ポリエチレンオキシドグリコール、ポリプロピレンオキシドグリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ポリヘキサメチレンオキシドグリコール等のグリコール化合物並びにポリエーテルジアミン等のジアミン化合物等を挙げることができる。これらの構成成分は、2種以上のものが用いられてもよい。
【0027】
ポリアミドハードセグメントの例としては、ナイロンが挙げられ、具体的には、6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン、6/66共重合ナイロン、6/610共重合ナイロン、6/11共重合ナイロン、6/12共重合ナイロン、6/66/11共重合ナイロン、6/66/12共重合ナイロン、6/66/11/12共重合ナイロン、又は6/66/610/11/12共重合ナイロン等が例示される。なお、ここでの「/」は各ナイロンの共重合体であることを示すため用いた記号である。例えば、6/66共重合ナイロンは、6-ナイロンと66-ナイロンの共重合ナイロンを表す。
【0028】
本発明で用いるポリエーテルブロックアミドのハードセグメントとソフトセグメントは、質量比で70/30~30/70が好ましい。
【0029】
ポリエーテルソフトセグメントは電解液膨潤性が高いため70質量%よりも低くする必要があるがリチウムイオン伝導性を確保するために30質量%よりも高くする必要がある。
【0030】
ポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドの複合化方法については特に制限は無く、溶液ブレンド、溶融混練で得られる。また、複合化の際にカーボンナノチューブや無機フィラーを添加しても良い。
【0031】
ポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドは質量比55/45~75/25で複合化するのが好ましい。
【0032】
唯一この組成比において共連続構造が形成され、共連続構造において、ポリフェニレンサルファイドが網目状構造を形成しており、この構造がポリフェニレンサルファイドの機械特性、ポリエーテルブロックアミドのリチウムイオン伝導性の両立が可能となり本発明での課題が達成可能となる。ポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドがこの範囲を外れるとドメイン構造が海島構造となり、共連続構造を形成しなくなるため好ましくない。
【0033】
ポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドの複合樹脂の平均粒径についても特に制限はないが、平均粒径は1~10μmが好ましい。
【0034】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用バインダにおいては、ポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドの複合樹脂のみからなるものであってもよいが、他のバインダ成分を含む場合は、ポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドの複合樹脂の含有量が負極合材層形成用スラリー固形分の15質量%以上であることが好ましい。
【0035】
上記バインダの配合量は、負極活物質、バインダ、導電助剤の合計量に対して10~30質量%であることが好ましく、15~25質量%であることがより好ましい。
【0036】
本発明において、負極合材層形成用スラリーに配合可能な負極活物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、スズ及び/又はスズ合金、スズ酸化物、ケイ素及び/又はケイ素合金、ケイ素酸化物などが挙げられる。なお、負極活物質が合金である場合、その負極活物質には、リチウムと合金化する材料が含まれていてもよい。なお、ここで、リチウムと合金化する材料としては、例えば、ゲルマニウム、スズ、鉛、亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウム、ガリウム、インジウムおよびこれらの合金などが挙げられる。ただし、負極における電池容量を高めるためには、負極活物質はケイ素及び/又はケイ素合金、ケイ素酸化物であるのが好ましく特にケイ素であるのが好ましい。また、複数の負極活物質が混合していても良い。
負極活物質が粒子状である場合、その平均粒子径は、特に限定されるものではないが、5μm以上20μm以下であることが好ましい。負極活物質粒子の粒径が5μm未満であると、単位質量当たりの負極活物質粒子の表面積が増大して、非水電解液との接触面積が増大し、不可逆反応が増加して容量低下を招くため、好ましくない。一方、平均粒子径が20μmを超えると、負極活物質粒子と負極集電体との間の抵抗が低減される一方、充放電時における負極活物質粒子の体積変化による応力が作用して負極集電体から剥離しやすくなるため好ましくない。
【0037】
負極中に含まれる導電助剤についても特に制限はなく、電池特性に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば用いることができる。具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボン、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンウィスカー、カーボンナノチューブ、炭素繊維粉末等の炭素材料や、Cu、Fe、Ag、Ni、Pd、Au、Pt、In、W等の金属粉末や金属繊維や、酸化インジウムや酸化スズ等の導電性金属酸化物が挙げられる。これら導電助剤の配合量は、上記負極活物質に対して1~30質量%が好ましい。
【0038】
本発明の一態様であるリチウムイオン二次電池負極合材層形成用スラリーは、上記バインダ、負極活物質、導電助剤及び水を含むものである。該スラリーには、必要に応じてカルボキシメチルセルロース等の粘度調節剤や、酸、アルカリ等のpH調節剤を含んでいても良い。上記スラリーの固形分濃度は、特に限定されないが、スラリーの粘度、固形分の分散性、乾燥工程への負荷等を考慮して20~80質量%が好ましい。また、上記スラリー中の固形分の比率は、質量比で、負極活物質:導電助剤:バインダ=20~98:1~30:1~50が好ましい。上記スラリーの製造方法についても特に制限はなく、バインダ、負極活物質、導電助剤を一括で水に混合・分散させ、スラリーを作製する方法や、最初にバインダを水に分散させ、次いで負極活物質と導電助剤をバインダ水溶液に添加し、混合してスラリーを作製する方法や、最初に負極活物質と導電助剤を混合し、次いでバインダ分散液と混合する方法等が挙げられる。また、スラリー作製に用いるミキサーにも特に制約はなく、乳鉢、ロールミル、ボールミル、スクリューミル、振動ミル、ホモジナイザー、自転公転ミキサー等が用いられる。
【0039】
本発明の一態様であるリチウムイオン二次電池用負極は、上記バインダを含むものである。このようなリチウムイオン二次電池用負極は、上記スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥させて得られる負極合材層と、負極集電体とから構成されることが好ましい。負極活物質、バインダ、導電助剤を含む負極合材層の厚さは、10~200μmが好ましい。
【0040】
負極集電体は、その表面粗さRaが0.1μm以上のものであるのが好ましい。このように表面粗さRaが0.1μm以上の負極集電体上に負極合材層を形成すると、負極合材層においてバインダのアンカー効果が大きく得られ、この負極集電体と負極合材層との密着性が大きく向上するからである。
【0041】
負極集電体の材料としては、負極合材層と接する面が導電性を示す導電体であればよく、例えば、銅、ニッケル、鉄、チタン、コバルト等の金属やこれらの合金が挙げられ、特に、銅元素を含む金属箔が好ましく、銅箔又は銅合金箔がより好ましい。また、銅元素を含む金属箔としては、銅以外の金属元素から成る金属箔の表面に銅元素を含む層を形成したものであってもよい。
【0042】
また、本発明において、負極集電体の厚みは、特に限定されないが、通常、10μm~100μmの範囲である。
【0043】
リチウムイオン二次電池用負極の製造方法には特に制約はなく、上記スラリーを負極集電体上に塗布し、乾燥させて製造することができる。スラリーの塗布方法についても制約はなく、スリットコート、ダイコート、ロールコート、ディップコート、ブレードコート、ナイフコート、ワイヤーバーコート等の方法を用いることができる。乾燥方法、条件についても特に制約はなく、通常の温風循環型乾燥機や減圧乾燥機、赤外線乾燥機、マイクロ波加熱乾燥機を用いることができる。加熱温度にも制限はなく、50~150℃で加熱し乾燥することができる。
【0044】
更に、乾燥後に負極を200~300℃に加熱することでポリフェニレンサルファイドが溶融流動し、アンカー効果により、負極合材層と負極集電体との結着性を強固にすることができ、加圧しプレスすることで、多孔構造を均一にすることもできる。
【0045】
本発明の一態様であるリチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用負極を有することを特徴とする。上記リチウムイオン二次電池用負極を用いることで、優れた充放電特性とサイクル寿命の長寿命化が達成された高性能なリチウムイオン二次電池を提供することができる。リチウムイオン二次電池は、一般的に正極、負極、セパレータ、非水電解液等から構成されている。負極は、上記の負極活物質を上記の導電助剤とともにバインダにより負極集電体上に結着させたものであり、負極活物質、バインダ、導電助剤を含む負極合材層が集電体上に形成された構造を有している。正極も負極と類似の構造を有しており、下記の正極活物質と上記の導電助剤をバインダにより正極集電体上に結着させたものである。セパレータはポリオレフィン等の多孔フィルムが一般的に用いられ、電池が熱暴走した際にシャットダウン機能を担うため、正極と負極の中間に挟み込まれる。非水電解液はLiPF6等の電解質塩を環状カーボネート等の有機溶媒に溶解させたものである。電池内部は非水電解液で満たされており、リチウムイオンは、充電時には正極から負極に移動し、放電時には負極から正極に移動する。
【0046】
本発明のリチウムイオン二次電池で用いられる正極に特に制限はなく、公知の材料を用いて作製することができる。正極は、正極活物質、導電助剤、バインダを含む正極合材層と集電体とから構成されている。
【0047】
正極活物質としては、リチウムイオンを脱挿入可能な材料であればいずれも使用可能であり、例えば、CuO、Cu2O、MnO2、MoO3、V2O5、CrO3、Fe2O3、Ni2O3、CoO3等の遷移金属酸化物や、LiXCoO2、LiXNiO2、LiXMnO2、LiXMn2O4、LiNiXCo(1-X)O2、LiNiXMn(2-X)O4、LiMnaNibCocO2(a+b+c=1)、LiFePO4等のリチウム複合酸化物が挙げられる。これらの中で、Co、Ni、Mn等の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の遷移金属とリチウムの複合酸化物が好ましく、具体例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiNiXCo(1-X)O2、LiNiXMn(2-X)O4、LiMnaNibCocO2(a+b+c=1)が挙げられる。これらのリチウム複合酸化物には、少量のフッ素、ホウ素、Al、Cr、Zr、Mo、Fe等の元素をドープしても良いし、リチウム複合酸化物の粒子表面を炭素、MgO、Al2O3、SiO2等で表面処理しても良い。
【0048】
正極用導電助剤としては、前記負極において例示した導電助剤と同様の導電助剤を用いることができる。
【0049】
正極用バインダについても公知のバインダを用いればよく、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロメチルビニルエーテル‐テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等のフッ素系樹脂や、スチレン‐ブタジエン共重合体、エチレン‐プロピレン共重合体等の炭化水素系エラストマーや、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム等の多糖類や、ポリイミド等を用いることができる。
【0050】
正極集電体は、正極合材層と接する面が導電性を示す導電体であればよく、銅、金、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼もしくはそれらの合金等の金属や酸化インジウムや酸化スズ等の導電性金属酸化物や導電性カーボン等の導電性材料で形成された導電体が例示される。正極集電体の形状については特に制限はなく、フォイル状、フィルム状、シート状、ネット状、エキスパンドメタル、パンチングメタル、発泡体等の形状が採用可能である。正極集電体の厚みについても特に制限がなく、1~100μm程度であることが好ましい。
【0051】
非水電解液も特に制約はなく、公知の材料を用いることができる。非水電解液は電解質塩を有機溶媒に溶解させたものであり、電解質塩としては、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、(CF3SO2)2CLi、LiBF4、LiB(C6H8)4、LiPF4、LiClO4、LiAsF6、LiCl、LiBr等が例示される。電解質塩を溶解させる有機溶媒としては、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2‐ジメトキシエタン、1,2‐ジエトキシエタン、γ‐ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,4‐ジオキサン、アニソール、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が挙げられる。非水電解液中の電解質塩の濃度は、0.1~5mol/L、好ましくは0.5~3mol/Lの範囲で選択できる。
【0052】
セパレータに関しても特に制約はなく、公知のセパレータを用いることができる。セパレータの例としては、ポリエチレン製微多孔膜、ポリプロピレン製微多孔膜、ポリエチレン製微多孔膜とポリプロピレン製微多孔膜との積層膜や、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等からなる不織布が挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明を更に詳細に実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。ポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドの複合樹脂の製造において用いたポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルブロックアミド
の詳細を以下に示す。
<ポリフェニレンサルファイド(A)>
ポリ(p-フェニレンスルフィド)(A-1)(以下、単にPPS(A-1)と記す。)
:溶融粘度2,070ポイズ。
<ポリエーテルブロックアミド(B)>
ポリエーテル-ポリアミドブロック共重合体(B-1)(以下、単にPEBA(B-1)と記す。)
:アルケマ株式会社製PEBAX MV1074。(ポリエチレンオキサイドとポリアミド12の重量比が55/45であるブロックコポリマー)
<ポリフェニレンサルファイドとポリエーテルブロックアミドの複合樹脂の製造>
(参考例1)
(PPS/PEBA複合樹脂(C-1)の製造)
PPS(A-1)60質量%、PEBA(B-1)40質量%の割合で配合して、シリンダー温度265℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。樹脂成分吐出量2.7kg/hr、スクリュー回転数200rpm、設定樹脂温度270℃で溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリフェニレンサルファイド-ポリエーテルブロックアミド複合樹脂(C-1)を作製した。
(参考例2)
(PPS/PEBA複合樹脂(C-2)の製造)
PPS(A-1)70質量%、PEBA(B-1)30質量%の割合で配合して、シリンダー温度270℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。樹脂成分吐出量2.6kg/hr、スクリュー回転数200rpm、設定樹脂温度272℃で溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリフェニレンサルファイド-ポリエーテルブロックアミド複合樹脂(C-2)を作製した。
(参考例3)
(PPS/PEBA複合樹脂(C-3)の製造)
PPS(A-1)80質量%、PEBA(B-1)20質量%の割合で配合して、シリンダー温度280℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。樹脂成分吐出量2.0kg/hr、スクリュー回転数200rpm、設定樹脂温度285℃で溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリフェニレンサルファイド-ポリエーテルブロックアミド複合樹脂(C-3)を作製した。
(参考例4)
(PPS/PEBA複合樹脂(C-4)の製造)
PPS(A-1)90質量%、PEBA(B-1)10質量%の割合で配合して、シリンダー温度280℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。樹脂成分吐出量2.2kg/hr、スクリュー回転数200rpm、設定樹脂温度285℃で溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリフェニレンサルファイド-ポリエーテルブロックアミド複合樹脂(C-4)を作製した。
(参考例5)
(PPS/PEBA複合樹脂(C-5)の製造)
PPS(A-1)50質量%、PEBA(B-1)50質量%の割合で配合して、シリンダー温度265℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM-35-102B)のホッパーに投入した。樹脂成分吐出量2.8kg/hr、スクリュー回転数200rpm、設定樹脂温度270℃で溶融混練したところ、ダイより流出する溶融組成物はストランドを形成しなかったため、ペレット状のポリフェニレンサルファイド-ポリエーテルブロックアミド複合樹脂(C-5)の作製を断念した。
【0054】
【0055】
<相分離構造の観察>
PPS/PEBA複合樹脂(C-1~C-4)製造過程で得られたストランドを145℃のN-メチル-2-ピロリドン中で2時間加熱し、PEBA成分を除去した。 PPS骨格のみとなったストランド片を日立ハイテクノロジーズ株式会社製卓上顕微鏡Miniscope(登録商標) TM3030Plusで観察を行った。
【0056】
PPS(A-1)60質量%、PEBA(B-1)40質量%の割合で配合したPPS/PEBA複合樹脂(C-1)は網目状の骨格を形成しているのが観察され、共連続構造であることが確認できた。
【0057】
PPS(A-1)80質量%、PEBA(B-1)20質量%の割合で配合したPPS/PEBA複合樹脂(C-3)はPPSマトリクスに小さな孔が空いているのが観察され、海島構造であることが確認できた。
【0058】
<電解液膨潤性の評価>
加熱温度300℃、プレス圧10トンで、5cm四方、厚み50μmのPPS/PEBA複合樹脂(C-1~C-4)プレスシートを作製し、それらをΦ15mmで打抜き、エチレンカーボネート/プロピレンカーボネート=1/1容量比の電解液に3日間浸漬させた後の質量変化率を測定して膨潤性を評価した。
質量変化率(%)は電解液浸漬後の質量から電解液浸漬前の質量を差引き、電解液浸漬前の質量で割った値に100を乗じた値である。
【0059】
<リチウムイオン伝導度測定>
上記で作製したPPS/PEBA複合樹脂(C-1~C-4)プレスシートをΦ15mmで打抜き1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウムを含むエチレンカーボネート/プロピレンカーボネート=1/1容量比の電解液に含浸させ、東洋システム二極セルを用いて、グローブボックス内でセルを組み立てた。日置ケミカルインピーダンスメーター3532-80を用いて、振幅±10mV、測定周波数範囲1MHz~4Hzにてリチウムイオン伝導度測定を行った。
【0060】
【0061】
<コインセルの製造>
コインセルはSiOを19.4質量部以上用いて高容量の930mAh/cc以上となるように設計して作製した。
【0062】
(実施例1)
先ず、以下の材料から負極合材を調製し、負極を作製した。
負極活物質:グラファイト(Gr:日本黒鉛製CGB-10)42.2質量部、一酸化ケイ素(SiO:大阪チタニウム製)25.8質量部
導電助剤:アセチレンブラック(AB:デンカ製Li-400)1質量部
増粘剤:カルボキシメチルセルロース(CMC:ダイセルミライズ製#2200)1質量部
バインダ:PPS/PEBA複合樹脂(C-1)30質量部。
【0063】
Gr、SiO、AB、PPS/PEBA複合樹脂(C-1)を混合し、それをCMC水溶液と混合して負極合材層形成用スラリーを調製した。そして、上記スラリーをバーコーターを用いて銅箔上に塗布し、80℃で10分間乾燥させた。更に、300℃で10分間加熱処理を行った後、100℃で荷重10トンのプレス加工を行い、負極を作製した。
【0064】
得られた負極の結着性はスパチュラで引掻き、負極合材層の銅箔からの剥離量で評価した。
本電極は剥離せず、堅固な結着性であった。
【0065】
次に、得られた負極を用いて以下のようにしてコインセルを作製した。すなわち、対極にリチウム金属箔を用い、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1/1)混合溶媒に1mol/Lとなるようにヘキサフルオロリン酸リチウムを溶解させて電解液とした。なお、セパレータにはポリオレフィン製微多孔膜(WSCOPE製SD20B)を用いた。そして、上記負極と対極をセパレータの両側に配置し、積層し、電解液を注液して2032型コインセルを作製した。
【0066】
(実施例2)
Grを53.8質量部、SiOを24.2質量部、PPS/PEBA複合樹脂(C-1)を20質量部に変更したことを除いて、実施例1と同様の操作にてコインセルを作製した。
【0067】
(実施例3)
Grを30.2質量部、SiOを27.8質量部、PPS/PEBA複合樹脂(C-1)を40質量部に変更したことを除いて、実施例1と同様の操作にてコインセルを作製した。
【0068】
(実施例4)
Grを17.8質量部、SiOを30.2質量部、PPS/PEBA複合樹脂(C-1)を50質量部に変更したことを除いて、実施例1と同様の操作にてコインセルを作製した。
【0069】
(実施例5)
バインダに参考例2で得られたPPS/PEBA複合樹脂(C-2)を用いたことを除いて、実施例1と同様の操作にてコインセルを作製した。
【0070】
(比較例1)
バインダにスチレンブタジエンゴム(JSR製)を用い、Grを77.6質量部、SiOを19.4質量部、SBRを1質量部に変更したことを除いて、実施例1と同様の操作にてコインセルを作製した。
【0071】
(比較例2)
バインダに参考例3で得られたPPS/PEBA複合樹脂(C-3)を用いたことを除いて、実施例1と同様の操作にてコインセルを作製した。
【0072】
(比較例3)
バインダに参考例4で得られたPPS/PEBA複合樹脂(C-4)を用いたことを除いて、実施例1と同様の操作にてコインセルを作製した。
【0073】
<充放電特性評価>
実施例1~5及び比較例1~3で得られたコインセルを用いて、下記条件にて充放電特性を評価した。
充電:定電流定電圧(CCCVモード)
放電:定電流(CCモード)
電位範囲:0.05~2.0V
Cレート:0.05C
【0074】
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上説明したように、本発明によれば、サイクル特性に優れた高容量活物質を用いた負極を作製可能とするリチウムイオン二次電池負極用バインダ、並びに、それを用いたリチウムイオン二次電池負極合材層形成用スラリーを提供することが可能となり、さらに、それを用いることにより、充放電特性に優れており、サイクル寿命が延長されたリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することが可能となる。