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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】磁心および磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20250128BHJP
   H01F 1/33 20060101ALI20250128BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20250128BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20250128BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20250128BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20250128BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20250128BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F1/33
H01F41/02 D
C22C38/00 303S
B22F3/00 B
B22F1/16
B22F1/00 Y
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021502187
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007040
(87)【国際公開番号】W WO2020175367
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2019031361
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】三原 敏男
(72)【発明者】
【氏名】西村 和則
(72)【発明者】
【氏名】小湯原 徳和
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/031209(WO,A1)
【文献】特開2018-198319(JP,A)
【文献】特開2016-139705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/24
H01F 1/33
H01F 41/02
C22C 38/00
B22F 3/00
B22F 1/16
B22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部にシリカ質皮膜で被覆された被覆面を有し、
前記被覆面における山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)が37000mm-1以下であり、
Feと、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有する軟磁性合金の磁性粒子どうしが前記磁性粒子由来の酸化物を介して結合した構造を有し、
前記磁性粒子間に、前記表面に開口し、かつ前記シリカ質皮膜で埋められた空孔を備える、磁心。
【請求項2】
請求項1に記載の磁心であって、前記シリカ質皮膜がシロキサン結合(-Si-O-Si-結合)を含む、磁心。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁心であって、前記酸化物は前記Mを含み、前記酸化物に含まれるMがAl又はCrの少なくとも一方である、磁心。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の磁心であって、前記シリカ質皮膜が表面の全面を被覆している、磁心。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の磁心であって、前記シリカ質皮膜の膜厚は10μm以下である、磁心。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の磁心であって、前記被覆面に形成された電極を有する、磁心。
【請求項7】
磁心の少なくとも一部をシリカ質皮膜で被覆し、山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)が37000mm-1以下である被覆面を形成する工程と、
前記被覆面に電極を形成する工程と、を備え、
前記磁心が、Feと、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有する軟磁性合金の磁性粒子どうしが前記磁性粒子由来の酸化物を介して結合した構造を有し、
前記磁性粒子間に、前記磁心の表面に開口し、かつ前記シリカ質皮膜で埋められた空孔を備える磁心の製造方法。
【請求項8】
前記シリカ質皮膜がシロキサン結合(-Si-O-Si-結合)を含む、請求項7に記載の磁心の製造方法。
【請求項9】
前記酸化物は前記Mを含み、前記酸化物に含まれるMがAl又はCrの少なくとも一方である、請求項7または8に記載の磁心の製造方法。
【請求項10】
前記シリカ質皮膜が磁心の表面の全面を被覆している、請求項7~9のいずれかに記載の磁心の製造方法。
【請求項11】
前記シリカ質皮膜の膜厚は10μm以下である、請求項7~10のいずれかに記載の磁心の製造方法。
【請求項12】
前記シリカ質皮膜は、磁心の表面にシリカ質皮膜形成用処理液を塗布し硬化させる工程を1回以上行って形成する、請求項7~11のいずれかに記載の磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁心および磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、家電機器、産業機器、車両など多種多様な用途において、インダクタ、トランス、チョーク等のコイル部品が用いられ、コイル部品は、磁心に敷設されたコイルで構成されていて、かかる磁心には、磁気特性、形状自由度、価格に優れるフェライトが広く用いられている。
【0003】
また、近年、電子機器等の電源装置の小型化が進み、更に多様な環境下でも使用可能であることが求められるようになった。その結果、小型・低背であって、130℃を超える高温の環境下で、かつ大電流に対しても使用可能なコイル部品の要求が強くなっている。この様なコイル部品には、フェライトと比較してキュリー温度が高くて飽和磁束密度も大きい金属系の軟磁性材料を使用した磁心の採用が進んでいる。金属系の軟磁性材料としては、例えばFe-Si系、Fe-Ni系、Fe-Si-Al系、Fe-Cr-Al系合金などの磁性粒子が用いられている。
【0004】
一般に焼結により製造されるフェライト磁心や、金属系の軟磁性材料を用いた圧粉磁心は微細な隙間や空孔を備えた多孔質となり易いことが知られている。特許文献1ではフェライト磁心の微細な隙間に接着剤が染み込むのを防ぐように、磁心の表面にガラス層を設けることが記載されている。また特許文献2には、金属系の軟磁性材料を用いた圧粉磁心の空孔部分に浸透防止材料を充填して、接着剤等の浸透を防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-014730号公報
【文献】特開2013-045926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2では、多孔質の磁心に対して封孔処理を行うことで接着剤の浸透を抑制する。しかしながら、磁心の形状は複雑で、成形時の密度差等から空孔の存在量の偏りが生じ易く、またガラス層等の浸透防止用材料による皮膜の形成状態や充填状態もまた異なり易い。そのため、浸透抑止の効果が十分に得られない場合があった。そもそも封孔処理後の磁心が十分な浸透抑止性能を有するかの判断は容易ではなく、実際に接着剤等を塗布して浸透状態を確認するしかなかった。
【0007】
そこで本発明では、浸透抑止性能の優れた磁心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態によれば、表面の少なくとも一部にシリカ質皮膜で被覆された被覆面を有し、前記被覆面における山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)が37000mm-1以下の磁心を提供できる。これによれば、浸透抑止性能の優れた磁心を提供することができる。
【0009】
本発明の一形態においては、前記磁心が、Fe-M(MはFeよりも酸化し易い金属)系合金の磁性粒子どうしが前記磁性粒子由来の酸化物を介して結合した構造を有するのが好ましい。
【0010】
本発明の一形態においては、前記シリカ質皮膜がシロキサン結合(-Si-O-Si-結合)を含むのが好ましい。
【0011】
本発明の一形態おいては、前記酸化物は前記Mを含み、前記酸化物に含まれるMがAl又はCrの少なくとも一方であるのが好ましい。
【0012】
本発明の一形態おいては、前記被覆面に形成された電極を有するのが好ましい。
【0013】
本発明の別の形態によれば、磁心の少なくとも一部をシリカ質皮膜で被覆し、山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)が37000mm-1以下である被覆面を形成する工程と、前記被覆面に電極を形成する工程と、を備える磁心の製造方法を提供することができる。これによれば、浸透抑止性能の優れた被覆面の上に電極を形成することができ、磁心の信頼性や歩留まりの向上が期待できる。
【0014】
本発明の別の形態おいては、前記磁心が、Fe-M(MはFeよりも酸化し易い金属)系合金の磁性粒子どうしが前記磁性粒子由来の酸化物を介して結合した構造を有することが好ましい。
【0015】
本発明の別の形態おいては、前記シリカ質皮膜がシロキサン結合(-Si-O-Si-結合)を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の別の形態おいては、前記酸化物は前記Mを含み、前記酸化物に含まれるMがAl又はCrの少なくとも一方であることが好ましい。
【0017】
本発明の別の形態おいては、前記シリカ質皮膜は、磁心の表面にシリカ質皮膜形成用処理液を塗布し硬化させる工程を1回以上行って形成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、浸透抑止性能が優れた磁心を提供することができ、磁心の信頼性や歩留まりの向上に寄与することができる。また、本発明よれば、浸透抑止性能の優れた被覆面の上に電極を形成することができ、磁心の信頼性や歩留まりの向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】シリカ質皮膜で被覆された被覆面の山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)と浸透抑止性能との関係を説明するためのグラフである。
図2】シリカ質皮膜が被覆されていない磁心の表面を拡大したSEM画像である。
図3】シリカ質皮膜で被覆された磁心の被覆面を拡大したSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
本実施形態の磁心は、Ni系フェライト等のセラミック系の軟磁性材料や、前述の金属系の軟磁性材料の磁性粒子が用いられた多孔質なものであり、その表面の少なくとも一部をシリカ質皮膜で被覆したものである。その被覆面における山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)を37000mm-1以下とすることで、被覆面の表面がなだらかな形状となり、それに相応して被覆面の上に塗布される接着剤等の浸透が抑制された浸透抑止性能が向上した磁心とすることができる。被覆面の表面の性状を立体的に評価する山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)は国際標準化機構のISO25178に規定され、後述するレーザー顕微鏡等の計測機器によって容易に計測可能である。
【0022】
ISO25178には立体的な面粗さのパラメータとして、他にも算術平均高さSa、最大高さSz、アスペクト比Str、展開面積比Sdrなどがあるが、その内、表面の少なくとも一部がシリカ質皮膜で被覆された被覆面を有する磁心において、被覆面を山頂点の算術平均曲Spcで規定される特有の表面プロファイルとすることにより、浸透抑止性能に優れた磁心を提供できるとの知見を得た。
【0023】
本実施形態の磁心は、空孔率が5~25%である多孔質のものを用いることができる。金属系の軟磁性材料としては、例えばFeと、Feよりも酸化しやすい元素Mを含有する軟磁性合金の磁性粒子とするのが好ましい。磁心の軟磁性材料の第1の態様として、Fe、M(Al及びCr)の和を100質量%として、Alを3質量%以上且つ16.0質量%以下、Crを3質量%以上且つ7.0質量%以下で含み、残部がFe及び不可避不純物である軟磁性合金であるのが好ましい。
【0024】
また、磁心の軟磁性材料の第2の態様としては、Fe、M(AlまたはCr)、Siの和を100質量%として、Mを1.5質量%以上且つ8質量%以下、Siを1質量%超え且つ7質量%以下で含み、残部がFe及び不可避不純物である軟磁性合金であるのが好ましい。
【0025】
なお上記した第1の態様や第2の態様において、CやMn、P、S、O、Ni、Nなどを不可避不純物として含みうる。これらの不可避不純物の含有量は、それぞれ、C≦0.05質量%、Mn≦1質量%、P≦0.02質量%、S≦0.02質量%、O≦0.5質量%、Ni≦0.5質量%、N≦0.1質量%であることが好ましい。前記第1の態様では、Siについても、不可避的不純物として0.5質量%以下で含まれる場合がある。
【0026】
軟磁性合金の磁性粒子の形態も特に限定するものではないが、例えば、流動性等の観点からは、所定組成に調整された溶湯から、比較的球状の粒子が得られやすいアトマイズ法による磁性粒子を用いることが好ましい。ガスアトマイズ、水アトマイズ等のアトマイズ法は、展性や延性が高く、粉砕しにくい合金の磁性粒子作製に好適である。
【0027】
また磁性粒子の平均粒径(ここでは、累積粒度分布におけるメジアン径D50を用いる)は、これを限定するものではないが、例えば、1μm以上、100μm以下の平均粒径を有するものを用いることができる。なお磁性粒子を成形金型に充填した際に、粒子径の大きな粒子どうしが隣り合うと、その粒間に大きな隙間が形成されて充填率が上がらず、加圧成形により得られる成形体の密度が上がらない傾向にある。このため、磁性粒子を分級し、粒子径の大きな粒子を除くことが好ましい。分級の方法としては、ふるい分け分級などの乾式分級を用いることができ、少なくとも32μmアンダーの(すなわち、目開き32μmの篩を通過した)磁性粒子を得ることが好ましい。平均粒径を小さくすることで、磁心の強度、磁心損失、高周波特性が改善されるので、平均粒径(メジアン径D50)は、さらに好ましくは15μm以下である。一方、平均粒径が小さい場合は透磁率が低くなるため、平均粒径(メジアン径D50)は、より好ましくは5μm以上である。
【0028】
磁性粒子はバインダと混合し、造粒によって顆粒とすることが好ましい。それにより磁心に成形する際に、金型内での流動性や充填性を向上できるし、加圧成形の際に磁性粒子同士を結着させ、成形後のハンドリングに耐える強度を成形体に付与することも出来る。バインダの種類は特に限定されないが、例えば、ポリエチレンやポリビニルアルコール、アクリル樹脂などの有機バインダを使用できる。熱処理後も残存する無機系バインダの併用も可能である。
【0029】
バインダの添加量は、磁性粒子間にバインダが十分に行きわたり、成形体の強度を十分に確保できる程度であればよいが、バインダの添加量が多過ぎると、成形体の密度や強度が低下する傾向にある。かかる観点から、バインダの添加量は、磁性粒子100重量部に対して、0.2~10重量部にすることが好ましく、0.5~3.0重量部にすることがより好ましい。
【0030】
磁性粒子とバインダとの混合方法は、特に限定されるものではなく、従来から知られている混合方法や混合機を用いることができる。また、造粒方法としては、例えば転動造粒や噴霧乾燥造粒などの湿式造粒方法を採用できる。中でもスプレードライヤーを用いた噴霧乾燥造粒が好ましく、これによれば顆粒の形状が球形に近付き、また加熱空気に曝される時間が短く、大量の顆粒を得ることができる。
【0031】
得られる顆粒は、嵩密度:1.5~2.5×10kg/m、平均粒径(D50):60~150μmであることが好ましい。このような顆粒によれば、成形時の流動性に優れるとともに、磁性粒子間の隙間が小さくなって金型内への充填性が増し、その結果、成形体が高密度になって透磁率の高い磁心が得られる。所望の大きさの顆粒径を得るために、振動篩などによる分級が使用できる。
【0032】
また、加圧成形時の顆粒と成形金型との摩擦を低減させるために、ステアリン酸やステアリン酸塩などの潤滑剤を添加することが好ましい。潤滑剤の添加量は、磁性粒子100重量部に対して0.1~2.0重量部とすることが好ましい。潤滑剤は、金型に塗布することも可能である。
【0033】
磁性粒子の顆粒は加圧成形に供される。加圧成形では、油圧プレスやサーボプレスといったプレス機械と成形金型を用いて、トロイダル形状や直方体形状などの所定形状に混合粉を成形する。この加圧成形は、室温成形でもよいし、バインダの材質によっては、バインダが消失しない程度であって、バインダが軟化するガラス転移温度付近まで顆粒を加熱して行う温間成形でもよい。加圧成形により得られた成形体における磁性粒子は、互いに点接触あるいは面接触し、部分的に空隙を介して隣接する。成形体の密度は5.6×10kg/m以上が好ましい。
【0034】
成形体に対する熱処理として650℃以上900℃以下の温度で焼鈍が実施される。焼鈍は、大気中、または酸素と不活性ガスとの混合気体中、あるいは水蒸気を含む雰囲気中など、酸素を含む雰囲気中で行われ、中でも大気中での熱処理が簡便で好ましい。酸化物は、熱処理時の磁性粒子と酸素との反応により得られ、磁性粒子の自然酸化を超える酸化反応によって生成される。かかる酸化物が生成されることにより、優れた絶縁性や耐食性を有して、多数の磁性粒子間の粒界として堅固に結合された高強度の磁心が得られる。また、加圧成形で導入された応力歪を緩和して良好な磁気特性が得られる。
【0035】
軟磁性合金を構成するM元素のAlやCrは、Feや他の非鉄金属と比較してO(酸素)との親和力が大きい。そのため、熱処理時には、大気中のOやバインダに含まれるOが磁性粒子の表面近傍のAlやCrと優先的に結合し、化学的に安定なAl酸化物やCr酸化物、あるいは他の非鉄金属との複合酸化物として磁性粒子の表面に生成される。M元素を含む酸化物が磁性粒子の表面に生成されることにより、耐食性に優れるとともに、磁性粒子の絶縁性が高められ、渦電流損失を低減して磁心の比抵抗を向上できる。なお、CrよりもAlのほうがOとの親和力が大きいため、M元素としてAlとCrを含む場合、形成される酸化物の程度はAl酸化物が優位となり、Cr酸化物は抑えられる傾向がある。そして磁心の表面は磁性粒子の酸化物で覆われたものとなる。
【0036】
熱処理を経て得られた磁心において、占積率(相対密度)は75~95%の範囲内であることが好ましい。このような磁心の空孔率は5%~25%となる。なお占積率(相対密度)は、磁心の密度をその寸法および質量から算出し、得られた磁心の密度を、磁性粒子の真密度で除して算出する。磁性粒子の真密度は、同組成で溶解して作製したインゴットの密度を用いればよい。
【0037】
次いで、得られた磁心の表面にシリカ質皮膜を形成する。シリカ質皮膜は3つのOとSiがシロキサン結合(-Si-O-Si-)した主鎖を有する分子構造を有する。シリカ質皮膜は(-Si-O-Si-)で示される結合を有していれば良く、また(-Si-O-)で示される結合が繰り返して連続に結合していても良い。このようなシリカ質皮膜を磁心の表面に形成する方法としては、アルコキシシランオリゴマーのゾルを加水分解により縮合反応させてゲル化するゾル-ゲル法を用いた低温法が好ましい。シリカ質皮膜は、アルコキシシランオリゴマー溶液とコロイダルシリカを含むシリカ質皮膜形成用処理液の液中に磁心を浸漬し、またはシリカ質皮膜形成用処理液を磁心に噴霧した後、硬化処理を行うことにより形成するのが好ましい。シリカ質皮膜形成用処理液の溶媒は、アルコール系溶媒、グリコールエーテル系溶媒など、親水性の有機溶媒が好ましい。シリカ質皮膜自体が耐熱性に優れ、高強度であり、また磁心の表面の全体を覆うことで耐食性を向上することが出来る。
【0038】
前述の通り、磁性粒子の酸化物によって磁心の表面は酸化物の皮膜で覆われた状態であり、この皮膜には磁性粒子由来の金属元素とOが結びついた状態と、金属元素と水酸基(OH)とが結びついた状態とが存在している。磁心表面の水酸基や酸化物とシリカ質皮膜中の水酸基とが共有結合やイオン結合等の化学結合することで、磁性粒子とシリカ質皮膜との接着力を高めることができ、もって磁心とシリカ質皮膜とが密着させることができる。
【0039】
また、磁心の表面の磁性粒子間の隙間を通じてシリカ質皮膜形成用処理液が及んだ磁心内部の空孔にもシリカ質皮膜が形成される。シリカ質皮膜によって磁心内部の空孔が埋まるとともに、磁心表面(被覆面)ではシリカ質皮膜の形成によってなだらかな形状となる。つまり、被覆面の状態を山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)で定量化することで磁心の封孔状態を容易に確認することが可能となる。被覆面における山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)が37000mm-1以下であれば、浸透抑止性能が優れた磁心とすることができる。なお、磁心をシリカ質皮膜形成用処理液に浸漬させた状態で脱泡処理し、真空状態を解除する真空含侵法などの処理を行うことで、一層磁心にシリカ質皮膜形成用処理液を含浸させることが出来る。
【0040】
磁心へのシリカ質皮膜形成用処理液の塗布方法は、例えば、ディップスピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法などの公知の方法に従って行えば良く、特に限定されない。なお、シリカ質皮膜形成用処理液の粘度によっては100~200℃の温度に調整して塗布しても良い。硬化処理は、例えば、室温で硬化させても良いが、40~200℃程度の温度下におくことで硬化を促進しても良い。磁心の表面に形成するシリカ質皮膜の膜厚は、0.5~10μm程度の膜厚とすることが好ましい。シリカ質皮膜の膜厚は、磁心表面へのシリカ質皮膜形成用処理液の塗布と硬化を繰り返すことで調整可能である。膜厚が厚くなるに従って、皮膜内の残留応力で皮膜の表面側にひびが生じ易くなる。硬化速度を緩やかにすることによってひび発生を抑制することは出来るが、生産性を考慮すれば膜厚は5μm以下であるのが好ましく、より好ましくは3μm以下である。
【0041】
磁心の被覆層の上に、電極を形成して、電極を備える磁心を構成することができる。シリカ質皮膜で被覆され、山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)が37000mm-1以下とされた被覆層は、浸透抑止性能が優れ、安定して電極を形成することができる。電極材料としては、Ag、Cu、Al等(その合金も含む)の導電性材料を用いることができる。また、電極の形成方法としては、例えばSPCC、銅合金、Ni合金、ステンレス等の金属端子を接着固定する方法や、スパッタリング法、イオンプレーティング法、あるいは導体ペーストを用いた印刷法、転写法、ディップ法などの方法で膜状に電極を形成しても良い。
【実施例
【0042】
磁性粒子として、Alを5質量%、Crを4質量%、残部をFeとするFeAlCrアトマイズ粉末(平均粒径D50≒10μm)を準備した。バインダとしてPVA(株式会社クラレ製ポバールPVA-205)水溶液、溶媒としてイオン交換水を使用し、それらを撹拌装置に投入し、攪拌混合してスラリーとした。アトマイズ粉末100重量部に対して、PVA固形分は0.75重量部、スラリー濃度が80wt%となるよう、バインダとイオン交換水の配合比を調整した。スラリーをスプレードライヤー装置で噴霧乾燥した。スプレードライヤー装置内部でスラリーを噴霧し、240℃の熱風でスラリーを瞬時に乾燥させて、装置下部から粒状になった顆粒を回収した。得られた顆粒の粗大粒を除去するため、100メッシュのふるいを通し、ふるい通し後の顆粒の平均粒径は60μm~80μmの範囲内とした。上記の各造粒方法によって得られた顆粒に、顆粒100重量部に対して0.4重量部の割合でステアリン酸亜鉛を添加し、混合機にて混合して成形用の顆粒を得た。
【0043】
上記で得られた顆粒を金型に充填し、油圧プレス機を用いて5.8g/cm、6.3g/cmの成形密度が得られるように室温にて成形した。成形体の形状は円柱状で、外径φ7.2mm、厚さ2mmとした。
【0044】
得られた成形体を750℃×1時間、大気中で熱処理を施して試料A、試料Bの磁心とした。そして磁心の寸法および重量から密度を算出した。
【0045】
次に、円柱状の磁心をステンレス製のメッシュ籠に収めてシリカ質皮膜形成用処理液に1分間浸漬した。液温は23℃であった。シリカ質皮膜形成用処理液には、奥野製薬工業株式会社製Protector Sシリーズの封孔剤を使用した。浸漬中は籠を揺動させて磁心表面に付着した気泡を取り除いた。その後、磁心を遠心脱水機に投入し、8.4m/sの周速で付着した余剰の封孔剤を取り除き、70℃の熱風で乾燥し硬化させた。浸漬から乾燥のコート処理工程を1~3回繰り返す。70℃の熱風乾燥においても縮合反応が進みシリカ質皮膜が形成されるが、未反応の部分が残るため、コート処理した後、120℃×20分の条件で再度硬化処理を実施して、磁心の表面の全面をシリカ質皮膜で覆った。
【0046】
得られた磁心について表面粗さを測定した。表面粗さ測定は、株式会社キーエンス製レーザー顕微鏡VK-X120を用いた。倍率は100倍で、評価領域は145μm×109μmの領域とし、断面曲線のレベリング(傾斜調整)、平滑化処理を行い、視野の異なる5つの評価領域における平均の山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)を得た。またシリカ質皮膜が未形成の磁心についても同様にして山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)を得た。図2はコート処理を行っていない試料Aの表面を1000倍で観察したSEM画像であり、図3はコート処理を2回行った試料Aの表面を1000倍で観察したSEM画像である。
【0047】
磁心の封孔性を確認するのに、インク吸収テストを採用した。テストインクはarcotest製表面エネルギー値評価ペン(レンジ38mN/m)を用いた。磁心の表面にテストインクを塗布し、その経過を動画で撮影した。塗布時から2秒経過後の静止画にてテストインクとそれ以外の領域をコンピュータで二値化処理し、観察面にてインクが吸収された割合から封孔性を判断した。インク吸収が3割以内の場合は良判定し、3割超の場合は否判定とした。
【0048】
磁心のシリカ質皮膜の被覆面について山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)の測定結果と、インク吸収テストの結果を纏めて表1及び図1に示す。なお表中、インク吸収テストで良判定を○、否判定を×として示している。
【0049】
【表1】
【0050】
図1に示すように、シリカ質皮膜で被覆された磁心の表面において山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)が37000mm-1以下であると、インク吸収テストで良判定が得られるが、37000mm-1超だと否判定となって、容易に磁心の浸透抑止性能を評価することが出来ることがわかる。したがって、シリカ質皮膜で被覆された被覆面の山頂点の算術平均曲(Spc:ISO25178)が37000mm-1以下である磁心を用いることにより、浸透抑止性能の優れた磁心とすることができる。

図1
図2
図3