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特許7626067ガラス基体、カバーガラス、組立体、組立体の製造方法、車載表示装置、および、車載表示装置の製造方法
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  • 特許-ガラス基体、カバーガラス、組立体、組立体の製造方法、車載表示装置、および、車載表示装置の製造方法 図1
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  • 特許-ガラス基体、カバーガラス、組立体、組立体の製造方法、車載表示装置、および、車載表示装置の製造方法 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】ガラス基体、カバーガラス、組立体、組立体の製造方法、車載表示装置、および、車載表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 15/00 20060101AFI20250128BHJP
   B60K 35/00 20240101ALI20250128BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20250128BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C03C15/00 Z
B60K35/00
C03C21/00 101
G09F9/00 302
G09F9/00 313
G09F9/00 362
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021530585
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024908
(87)【国際公開番号】W WO2021006043
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019128183
(32)【優先日】2019-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 出
(72)【発明者】
【氏名】藤原 祐輔
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-001940(JP,A)
【文献】特開2001-142194(JP,A)
【文献】特開2011-084130(JP,A)
【文献】特開2015-099171(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116981(WO,A1)
【文献】特開2019-026519(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0188869(US,A1)
【文献】特開2017-048090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00
B60K 35/00 - 35/90
C03C 21/00
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面、および、前記第1主面に対向する第2主面を有する薄板部と、
前記薄板部の板厚tよりも大きい板厚tを有し、かつ、第1主面、および、前記第1主面に対向する第2主面を有する厚板部と、
前記薄板部の第1主面と前記厚板部の第1主面とを接続する第1接続面、および、前記薄板部の第2主面と前記厚板部の第2主面とを接続する第2接続面を有する接続部と、を備え、
前記第1接続面の曲率半径が、400μm以上であって、
車載表示装置のカバーガラスとして用いられ
前記車載表示装置が凹凸構造を有し、前記凹凸構造の形状に沿って弾性変形した状態で、前記凹凸構造に組み付けられる、ガラス基体。
【請求項2】
第1主面、および、前記第1主面に対向する第2主面を有する薄板部と、
前記薄板部の板厚tよりも大きい板厚tを有し、かつ、第1主面、および、前記第1主面に対向する第2主面を有する厚板部と、
前記薄板部の第1主面と前記厚板部の第1主面とを接続する第1接続面、および、前記薄板部の第2主面と前記厚板部の第2主面とを接続する第2接続面を有する接続部と、を備え、
前記接続部における最も薄い箇所の板厚である板厚tが、前記薄板部の前記板厚tよりも小さく、車載表示装置のカバーガラスとして用いられ
前記車載表示装置が凹凸構造を有し、前記凹凸構造の形状に沿って弾性変形した状態で、前記凹凸構造に組み付けられる、ガラス基体。
【請求項3】
前記接続部の前記板厚tが0.5mm以下である、請求項に記載のガラス基体。
【請求項4】
前記ガラス基体は、弾性変形していない状態において、前記薄板部の第2主面と、前記接続部の第2接続面と、前記厚板部の第2主面とが、同一平面をなす、請求項1~3のいずれか1項に記載のガラス基体。
【請求項5】
前記薄板部の前記板厚tが0.05mm以上0.8mm以下であり、
前記厚板部の前記板厚tが0.5mm以上2.5mm以下である、請求項1~のいずれか1項に記載のガラス基体。
【請求項6】
前記接続部がオーバーハング部を有する、請求項1~のいずれか1項に記載のガラス基体。
【請求項7】
化学強化ガラスである、請求項1~のいずれか1項に記載のガラス基体。
【請求項8】
前記薄板部と前記厚板部との破砕片の個数密度差が、1個/(5cm×5cm)以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のガラス基体。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載のガラス基体からなり、表示パネルをカバーするカバーガラス。
【請求項10】
凹凸構造と、前記凹凸構造に組み付けた請求項1~のいずれか1項に記載のガラス基体と、を備え、
前記ガラス基体の前記薄板部が、前記凹凸構造の形状に沿って弾性変形した状態で、前記凹凸構造に組み付けられている、組立体。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載のガラス基体を、凹凸構造に組み付ける、組立体の製造方法であって、
前記ガラス基体の前記薄板部を、前記凹凸構造の形状に沿って弾性変形させて、前記凹凸構造に組み付ける、組立体の製造方法。
【請求項12】
運転席の正面に配置されるインストルメントクラスタ、運転席と助手席との間の正面に配置されるセンターインフォメーションディスプレイ、および、請求項1~のいずれか1項に記載のガラス基体を有する車載表示装置であって、
前記インストルメントクラスタは、凹凸構造を有し、
前記ガラス基体の前記薄板部が、前記凹凸構造の形状に沿って弾性変形した状態で、前記凹凸構造に組み付けられ、
前記ガラス基体の前記厚板部が、前記センターインフォメーションディスプレイに組み付けられている、車載表示装置。
【請求項13】
請求項1~のいずれか1項に記載のガラス基体を、運転席の正面に配置されるインストルメントクラスタ、および、運転席と助手席との間の正面に配置されるセンターインフォメーションディスプレイに組み付ける、車載表示装置の製造方法であって、
前記インストルメントクラスタは、凹凸構造を有し、
前記ガラス基体の前記薄板部を、前記凹凸構造の形状に沿って弾性変形させて、前記凹凸構造に組み付け、
前記ガラス基体の前記厚板部を、前記センターインフォメーションディスプレイに組み付ける、車載表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基体、カバーガラス、組立体、組立体の製造方法、車載表示装置、および、車載表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板厚が異なるガラス板部どうしが接続した構成を有するガラス基体が、例えばカバーガラスとして用いられている(特許文献1のFig.5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/213267号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
板厚が異なるガラス板部どうしが接続した構成を有するガラス基体は、すなわち、薄板部と、この薄板部よりも板厚が大きい厚板部と、薄板部と厚板部とを接続する接続部と、を有する。
このようなガラス基体の薄板部を弾性変形させて、凹凸構造に組み付けて使用する需要が見込まれる。
本発明者らが検討したところ、ガラス基体の接続部の形状によっては、接続部を曲げにくい場合があることが明らかとなった。この場合、ガラス基体を凹凸構造に組み付けて得られる組立体に不具合が生じる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、薄板部と厚板部とを接続する接続部を曲げやすいガラス基体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[11]に関する。
[1]第1主面、および、上記第1主面に対向する第2主面を有する薄板部と、上記薄板部の板厚tよりも大きい板厚tを有し、かつ、第1主面、および、上記第1主面に対向する第2主面を有する厚板部と、上記薄板部の第1主面と上記厚板部の第1主面とを接続する第1接続面、および、上記薄板部の第2主面と上記厚板部の第2主面とを接続する第2接続面を有する接続部と、を備え、上記第1接続面の曲率半径が、400μm以上である、ガラス基体。
[2]第1主面、および、上記第1主面に対向する第2主面を有する薄板部と、上記薄板部の板厚tよりも大きい板厚tを有し、かつ、第1主面、および、上記第1主面に対向する第2主面を有する厚板部と、上記薄板部の第1主面と上記厚板部の第1主面とを接続する第1接続面、および、上記薄板部の第2主面と上記厚板部の第2主面とを接続する第2接続面を有する接続部と、を備え、上記接続部における最も薄い箇所の板厚である板厚tが、上記薄板部の上記板厚tよりも小さい、ガラス基体。
[3]上記接続部の上記板厚tが0.5mm以下である、上記[2]に記載のガラス基体。
[4]上記薄板部の上記板厚tが0.05mm以上0.8mm以下であり、上記厚板部の上記板厚tが0.5mm以上2.5mm以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載のガラス基体。
[5]上記接続部がオーバーハング部を有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載のガラス基体。
[6]化学強化ガラスである、上記[1]~[5]のいずれかに記載のガラス基体。
[7]上記[1]~[6]のいずれかに記載のガラス基体からなり、表示パネルをカバーするカバーガラス。
[8]凹凸構造と、上記凹凸構造に組み付けた上記[1]~[6]のいずれかに記載のガラス基体と、を備え、上記ガラス基体の上記薄板部が、上記凹凸構造の形状に沿って弾性変形した状態で、上記凹凸構造に組み付けられている、組立体。
[9]上記[1]~[6]のいずれかに記載のガラス基体を、凹凸構造に組み付ける、組立体の製造方法であって、上記ガラス基体の上記薄板部を、上記凹凸構造の形状に沿って弾性変形させて、上記凹凸構造に組み付ける、組立体の製造方法。
[10]運転席の正面に配置されるインストルメントクラスタ、運転席と助手席との間の正面に配置されるセンターインフォメーションディスプレイ、および、上記[1]~[6]のいずれかに記載のガラス基体を有する車載表示装置であって、上記インストルメントクラスタは、凹凸構造を有し、上記ガラス基体の上記薄板部が、上記凹凸構造の形状に沿って弾性変形した状態で、上記凹凸構造に組み付けられ、上記ガラス基体の上記厚板部が、上記センターインフォメーションディスプレイに組み付けられている、車載表示装置。
[11]上記[1]~[6]のいずれかに記載のガラス基体を、運転席の正面に配置されるインストルメントクラスタ、および、運転席と助手席との間の正面に配置されるセンターインフォメーションディスプレイに組み付ける、車載表示装置の製造方法であって、上記インストルメントクラスタは、凹凸構造を有し、上記ガラス基体の上記薄板部を、上記凹凸構造の形状に沿って弾性変形させて、上記凹凸構造に組み付け、上記ガラス基体の上記厚板部を、上記センターインフォメーションディスプレイに組み付ける、車載表示装置の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、薄板部と厚板部とを接続する接続部を曲げやすいガラス基体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は第1態様のガラス基体を示す断面図である。
図2図2は第1態様のガラス基体を凹凸構造に組み付けた組立体を示す模式図である。
図3図3は第1態様のガラス基体の変形例を示す断面図である。
図4図4はガラス板を示す断面図である。
図5図5はマスク材で被覆されたガラス板を示す断面図である。
図6図6はエッチング後のガラス板を示す断面図である。
図7図7は第2態様のガラス基体を示す断面図である。
図8図8は研磨後のガラス板を示す断面図である。
図9図9はマスク材で被覆されたガラス板を示す断面図である。
図10図10はエッチング後のガラス板を示す断面図である。
図11図11は第1接続面の曲率半径およびオーバーハング面の曲率半径の求め方を説明するための断面図である。
図12図12は接続部の曲げやすさの評価方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。本発明の範囲を逸脱しない範囲で、以下の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0010】
「~」を用いて表される範囲は、その範囲の両端を含む。例えば、「A~B」と表される範囲は、AおよびBを含む。
【0011】
ガラスの板厚(平均板厚)は、マイクロメーターを用いて測定することにより求める。
【0012】
ガラスの曲面の曲率半径の求め方は後述する(図11に基づいて説明する)。
【0013】
ガラスの圧縮応力層の圧縮応力値(CS)および圧縮応力層の深さ(DOL)は、折原製作所社製の表面応力計(FSM-6000)を用いて測定することにより求める。
ガラスの内部引張応力(CT)は、CS、DOLおよび板厚tから、下記式に基づいて求める。
CT=CS[MPa]×DOL[mm]/(t[mm]-2×DOL[mm])
【0014】
ガラスの限界曲げ半径は、ガラスを湾曲させた際にクラックが発生しない最小の曲げ半径であり、曲げ半径は、次の曲げ試験により求める。曲げ試験および曲げ試験に用いる曲げ試験装置は、国際公開第2016/194785号に記載された試験および装置に準拠する。
(曲げ試験)
第1の支持盤および第2の支持盤は、第1の支持盤の支持面と第2の支持盤の支持面とが互いに対向するように平行に配置される。第1の支持盤と第2の支持盤とに、それぞれ、ガラスの端部を支持させる。第1の支持盤の支持面と第2の支持盤の支持面との間隔を、下記式(1)で求められる間隔D[mm]に維持した状態にする。この状態で、第1の支持盤に対する第2の支持盤の位置を、第1の支持盤の支持面および第2の支持盤の支持面に平行、かつ、ガラスの湾曲方向を変えない方向に100mm往復移動させる。第1の支持盤と第2の支持盤との間で湾曲させるガラスにクラックが形成されるか否かを調べる。曲げ半径Rは、下記式(2)により求められる。
D=(A×E×t/σ)+t (1)
R=D/2 (2)
R/t=1/2(A×E/σ+1) (3)
D:第1の支持盤の支持面と第2の支持盤の支持面との間隔[mm]
A=1.198
E:ガラスのヤング率[MPa]
t:ガラスの板厚[mm]
σ:曲げ応力[MPa]
【0015】
ガラス板の面強度は、以下に説明するボールオンリング(BOR)試験により求める。(ボールオンリング試験)
まず、ガラス板を、ステンレス製のリング上に水平に配置する。リングは、直径が30mmであり、ガラス板との接触部分の曲率半径が2.5mmである。
次に、リング上に配置したガラス板に、直径10mmの鋼からなる球体を、リングの中心位置で接触させる。
この状態で、球体を下降させてガラス板に押し付けることにより(球体の下降速度:1.0mm/min)、ガラス板に静荷重を加え、ガラス板を破壊する。
ガラス板が破壊されたときの荷重を測定し、20回の測定の平均値をガラス板の面強度とする。ただし、ガラス板の破壊起点が球体の押し付け位置から2mm以上離れている場合は、平均値を算出するための測定値から除外する。
【0016】
[第1態様]
図1図6に基づいて、第1態様を説明する。
まず、図1図3に基づいて、第1態様のガラス基体を説明する。
【0017】
〈ガラス基体〉
図1は、第1態様のガラス基体1を示す断面図である。
ガラス基体1は、薄板部2、厚板部3および接続部4を有する。
薄板部2は、第1主面2aと、第1主面2aに対向する第2主面2bとを有する。
厚板部3は、第1主面3aと、第1主面3aに対向する第2主面3bとを有する。
厚板部3の板厚tは、薄板部2の板厚tよりも大きい。
接続部4は、第1接続面4aおよび第2接続面4bを有する。第1接続面4aは、薄板部2の第1主面2aと、厚板部3の第1主面3aとを接続する。第2接続面4bは、薄板部2の第2主面2bと、厚板部3の第2主面3bとを接続する。ここで、弾性変形していない状態の第1態様のガラス基体1において、薄板部2の第2主面2bと、接続部4の第2接続面4bと、厚板部3の第2主面3bとは、同一平面をなす。
【0018】
図2は、第1態様のガラス基体1を凹凸構造21に組み付けた組立体31を示す模式図である。
凹凸構造21は、例えば、表示パネル22、表示パネル23、表示パネル24、および、表示パネル25を有し、これらが、凹凸形状を有するパネル保持部26に保持されている。
より詳細には、3枚の表示パネル22、表示パネル23および表示パネル24が凹状に配置され、1枚の表示パネル25が凸状位置に配置されている。
各表示パネルは、例えば、液晶パネルである。この場合、各液晶パネルの裏面側に、バックライトユニットが配置される。各表示パネルは、例えば、有機ELパネル、PDP、電子インク型パネル等であってもよい。タッチパネル等を有していてもよい。
【0019】
このような凹凸構造21にガラス基体1を組み付ける。
より詳細には、例えば、ガラス基体1の厚板部3の第1主面3aを、図示しないOCA(Optical Clear Adhesive)を介して表示パネル25に貼合する。 更に、ガラス基体1の薄板部2を凹状に弾性変形させつつ、弾性変形させた薄板部2の第1主面2aを、図示しないOCAを介して、表示パネル22、表示パネル23および表示パネル24に貼合する。すなわち、ガラス基体1の薄板部2が、弾性変形した状態で、凹凸構造21の形状に沿って、凹凸構造21に組み付けられている。こうして、組立体31が得られる。
【0020】
組立体31において、ガラス基体1は、各表示パネルをカバーするカバーガラスとして機能する。すなわち、カバーガラスは、ガラス基体1からなり、各表示パネルをカバーする。カバーガラスとして用いられる場合、ガラス基体1は、化学強化処理が施されたガラス(化学強化ガラス)であることが好ましい。
【0021】
組立体31は、例えば、表示装置であり、その具体例としては、車両に搭載されて使用される車載表示装置が挙げられる。
より具体的には、運転席の正面に配置されるインストルメントクラスタ(クラスタ)、および、運転席と助手席との間の正面に配置されるセンターインフォメーションディスプレイ(CID)を有する車載表示装置が挙げられる。
例えば、車載表示装置である組立体31においては、表示パネル22、表示パネル23および表示パネル24が凹状に配置された部分がクラスタである。すなわち、クラスタが凹凸構造21を有する。一方、表示パネル25が配置された部分がCIDである。この場合、薄板部2がクラスタのカバーガラスとして用いられ、厚板部3がCIDのカバーガラスとして用いられる。
なお、CIDのカバーガラスとして用いられる厚板部3は、運転者が操作するハンドルが無いため、車両の衝突事故が発生したときに、乗員の頭部が直接ぶつかりやすい。このため、厚板部3は、車両の衝突事故が発生したときに乗員の頭部がぶつかって割れないほどの耐衝撃性を有することが好ましい。
【0022】
ところで、図2に示すようにガラス基体1の薄板部2を弾性変形させる場合には、ガラス基体1の接続部4を曲げることを要する。
このとき、接続部4を曲げにくい(接続部4の曲げが不十分である)と、例えば、薄板部2の第1主面2aと表示パネル24との貼合が剥がれやすくなったりして、組立体31として不都合が生じる場合がある。
【0023】
しかし、ガラス基体1においては、図1に示す第1接続面4aの曲率半径rが400μm以上である。これにより、接続部4を曲げやすい。
また、第1接続面4aに、OCAなどのフィルムなどを密着させた場合、第1接続面4aとフィルムとの間に気泡が入っても、この気泡が抜けやすいという効果も期待できる。 これらの効果により優れるという理由から、第1接続面4aの曲率半径rは、550μm以上が好ましく、700μm以上がより好ましい。
【0024】
一方、第1接続面4aの曲率半径rは、上限は特に限定されないが、1300μm以下が好ましく、1100μm以下がより好ましく、900μm以下が更に好ましい。
【0025】
《薄板部》
薄板部2は、第1主面2aおよび第2主面2bを有する。
薄板部2の板厚tは、0.05mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。一方、薄板部2の板厚tは、0.8mm以下が好ましく、0.6mm以下がより好ましい。
薄板部2の圧縮応力層の圧縮応力値(CS)は、500MPa以上が好ましく、650MPa以上がより好ましく、750MPa以上が更に好ましい。
薄板部2の圧縮応力層の深さ(DOL)は、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、25μm以上が更に好ましい。
薄板部2の内部引張応力(CT)は、160MPa以下が好ましく、140MPa以下がより好ましい。一方、薄板部2の内部引張応力(CT)は、20MPa以上が好ましく、30MPa以上がより好ましい。
薄板部2の限界曲げ半径は、60mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましく、40mm以下が更に好ましい。
【0026】
《厚板部》
厚板部3は、第1主面3aおよび第2主面3bを有する。
厚板部3の板厚tは、0.5mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましい。一方、厚板部3の板厚tは、2.5mm以下が好ましく、2.0mm以下がより好ましい。厚板部3の板厚tがこの範囲内であれば、厚板部3は耐衝撃性に優れる。
厚板部3の圧縮応力層の圧縮応力値(CS)は、厚板部3が耐衝撃性に優れるという理由から、500MPa以上が好ましく、650MPa以上がより好ましく、750MPa以上が更に好ましい。
厚板部3の圧縮応力層の深さ(DOL)は、厚板部3が耐衝撃性に優れるという理由から、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、25μm以上が更に好ましい。
厚板部3の内部引張応力(CT)は、厚板部3が耐衝撃性に優れるという理由から、50MPa以下が好ましく、30MPa以下がより好ましい。一方、厚板部3の内部引張応力(CT)は、1MPa以上が好ましく、5MPa以上がより好ましい。
【0027】
厚板部3の面強度は、厚板部3が耐衝撃性に優れるという理由から、150kgf以上が好ましく、200kgf以上がより好ましく、250kgf以上が更に好ましい。
【0028】
薄板部2および厚板部3の25mm以上の面積を有する破砕片(以下、単に「破砕片」ともいう)の個数密度(単位:個/(5cm×5cm))は、互いに異なっていることが好ましく、明確な差があることがより好ましい。ここで個数密度とはガラスが割れた際、単位面積(5cm×5cm)における25mm以上の面積を有する破砕片(以下、単に「破砕片」ともいう)の個数を意味する。
具体的には、薄板部2と厚板部3との破砕片の個数密度差は、0.1個/(5cm×5cm)以上が好ましく、1個/(5cm×5cm)以上がより好ましく、5個/(5cm×5cm)以上が更に好ましく、7個/(5cm×5cm)以上が特に好ましい。
破砕片の個数密度差がこの範囲であれば、薄板部2と厚板部3とで破砕が不連続となり、仮に薄板部2が破砕したときでも、厚板部3にまで破砕が波及することを低減できる。
【0029】
破砕片の個数は、厚板部3よりも薄板部2の方が多くてもよい。この場合、薄板部2に衝撃が加わり薄板部2が破砕した場合に、薄板部2から厚板部3への割れの進展が低減されるという技術的意義がある。
つまり、破砕片の個数が厚板部3よりも薄板部2の方が多い場合、接続部4において、薄板部2から厚板部3へのクラックの進展が抑制されるため好ましい。具体的には、接続部4の長さ30cm当たり、1本以上のクラックの進展が抑制されることが好ましく、3本以上のクラックの進展が抑制されることがより好ましい。
【0030】
破砕片の個数密度は、以下のようにして求める。
まず、薄板部2および厚板部3それぞれに対して、ヘッドインパクト試験を行なう。
より詳細には、日本国特開2019-64874号公報の段落[0081]~[0088]の記載内容と同様にして、薄板部2または厚板部3をカバーガラスとして用いた試験体を作製し、剛体模型を衝突させる。
ただし、剛体模型の衝突位置は、カバーガラスの主面の中心位置とし、かつ、この主面に対して垂直の方向から剛体模型を衝突させる。
剛体模型の衝突によりカバーガラスが割れない場合、剛体模型の高さを5cm上げて、再び剛体模型をカバーガラスに衝突させる。これをカバーガラスが割れるまで繰り返す。 カバーガラスが割れた場合、剛体模型の衝突位置から10cm以上離れている領域における破砕片の個数と面積とを計測し、破砕片の個数密度を求める。
【0031】
破砕片の大きさや個数密度の調整は、後述する化学強化処理の条件を調整することにより達成できる。例えば、ガラス板を溶融塩に浸漬させた後に冷却する際に、薄板部2となる部分だけ、または、厚板部3となる部分だけ、冷却を促進する。このような手法などにより、破砕片の大きさや個数密度を精密に制御できる。
【0032】
薄板部2のCTと厚板部3のCTとの比(薄板部/厚板部)は、厚板部3の割れ強度を維持するという理由から、1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、3.0以上がより好ましい。
一方、薄板部2のCTと厚板部3のCTとの比(薄板部/厚板部)は、薄板部2の割れ強度を維持するという理由から、20以下が好ましく、10以下がより好ましく、7以下が更に好ましい。
【0033】
《接続部》
接続部4は、第1接続面4aおよび第2接続面4bを有する。
第1接続面4aの曲率半径rは、上述したとおりである。すなわち、第1接続面4aの曲率半径rは、400μm以上であり、550μm以上が好ましく、700μm以上がより好ましい。一方、第1接続面4aの曲率半径rは、1300μm以下が好ましく、1100μm以下がより好ましく、900μm以下が更に好ましい。
第2接続面4bは、第1接続面4aを板厚方向に平行な方向に射影したときの射影面とする。
【0034】
接続部4の板厚tを調整することにより、薄板部2から厚板部3にわたるクラックの進展を増減できる。接続部4の板厚tを薄くするほど、接続部4をまたぐクラックの進展を抑制でき、具体的には、接続部4の板厚tは、0.5mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましく、0.2mm以下が更に好ましい。
接続部4の板厚tは、ガラス基体1の輸送や取り付け時に容易に割れないという観点から、0.05mm以上が好ましく、0.07mm以上がより好ましく、0.1mm以上が更に好ましい。
接続部4の板厚tは、接続部4における最も薄い箇所の板厚とする。
【0035】
図3は、第1態様のガラス基体1の変形例を示す断面図である。
図3に示すように、ガラス基体1は、オーバーハング部5を有していてもよい。
オーバーハング部5は、接続部4の一部であり、厚板部3から薄板部2に向けて突出した部位である。オーバーハング部5は、接続部4の第1接続面4aの一部であるオーバーハング面5aと、厚板部3の第1主面3aと同一平面を形成する面5bとを有する。
図3に示すオーバーハング面5aの曲率半径rは、ガラス基体1を第1主面2aおよび第1主面3a側から視認した場合に、薄板部2と厚板部3との境界部分がシャープに見えて外観上好ましいという理由から、150μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましい。一方、ガラス基体1を輸送したり加工したりするときに、接続部4を保護して割れづらくできるという理由から、オーバーハング面5aの曲率半径rは、1100μm以下が好ましく、900μm以下がより好ましい。
【0036】
図11は、第1接続面4aの曲率半径rおよびオーバーハング面5aの曲率半径rの求め方を説明するための断面図である。図11は、実質的に、図3の拡大図である。
以下、図11に基づいて、曲率半径rおよび曲率半径rの求め方を説明する。
【0037】
接続部4の第1接続面4aの曲率半径rは、次のように求める。
まず、厚板部3の第1主面3aから接続部4の第2接続面4bに向かう方向に傾斜し、かつ、厚板部3の第1主面3aと角度θ(=45°)で交わる直線Lを考える。
直線Lを厚板部3から接続部4の方向に移動させ、直線Lが第1接続面4aと最初に1点で接するとき、その接点を点Sとする。
次に、点Sから直線Lに沿って長さW(=10μm)離れ、かつ、第1接続面4a上の点を点Sとする。同様に、点Sから直線Lに沿って点Sとは反対側に長さW(=10μm)離れ、かつ、第1接続面4a上の点を点Sとする。
点S、点Sおよび点Sを通る真円の半径を、接続部4の第1接続面4aの曲率半径rとする。
【0038】
オーバーハング部5のオーバーハング面5aの曲率半径rは、次のように求める。
まず、上述した直線Lと直交する直線Lを考える。
直線Lを厚板部3からオーバーハング部5の方向に移動させ、直線Lがオーバーハング面5aと最初に1点で接するとき、その接点を点Sとする。
次に、点Sから直線Lに沿って厚板部3側に長さW(=10μm)離れ、かつ、オーバーハング面5a上の点を点Sとする。点Sから直線Lに沿って点Sとは反対側に長さW(=10μm)離れ、かつ、点Sとは線対称となる位置の点を点Sとする。点Sは、オーバーハング面5a上の点であってもなくてもよい。
点S、点Sおよび点Sを通る真円の半径を、オーバーハング部5のオーバーハング面5aの曲率半径rとする。
【0039】
〈ガラス基体の製造方法〉
図4図6に基づいて、第1態様のガラス基体1を製造する方法を説明する。
【0040】
《ガラス板の準備》
図4は、ガラス板41を示す断面図である。
まず、図4に示すように、ガラス板41を準備する。
ガラス板41のガラス種としては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス(SiO-Al-NaO系ガラス)等が挙げられる。ガラス板41のガラス組成としては、例えば、日本国特開2019-006650号公報の段落[0019]に記載されたガラス組成が挙げられる。後述する化学強化処理を施す場合は、例えば、アルミノシリケートガラスをベースとする化学強化用ガラス(例えば「ドラゴントレイル(登録商標)」)が好適に用いられる。
ガラス板41の板厚tは、上述したガラス基体1の厚板部3の板厚tと同じである。後述するように、ガラス板41の一部がスリミングされずに維持されて、厚板部3になるからである。
ガラス板41は、第1主面41aおよび第2主面41bを有する。第1主面41aおよび第2主面41bの大きさは、適宜設定される。
【0041】
《スリミング》
準備したガラス板41を、スリミングする。スリミングは、以下に説明するマスキングおよびエッチングを含む。
【0042】
(マスキング)
図5は、マスク材45で被覆されたガラス板41を示す断面図である。
図5に示すように、ガラス板41の第1主面41aの一部をマスク材45で被覆する。より詳細には、ガラス板41の第1主面41aにおける、上述した厚板部3の第1主面3aとなる面を、マスク材45で被覆する。
更に、図5に示すように、ガラス板41の第2主面41bの全面をマスク材45で被覆する。
【0043】
マスク材45の材料は、後述するエッチング液に対する耐性を有する材料であれば特に限定されず、従来公知の材料を適宜選択して使用できる。
マスク材45としては、例えば、フィルム状のマスク材が挙げられ、その具体例としては、アクリル系の粘着剤が塗布された、耐酸性のPET(ポリエチレンテレフタレート)材が好適に挙げられる。
マスク材45は、硬化性樹脂を、バーコーター等を用いてガラス板41に塗布し、硬化させて形成してもよい。硬化性樹脂としては、例えば、UV硬化型樹脂および熱硬化型樹脂が挙げられる。UV硬化型樹脂としては、例えば、アクリレート系ラジカル重合樹脂およびエポキシ系カチオン重合樹脂が挙げられる。熱硬化型樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂およびアルキド樹脂が挙げられる。硬化速度が速いという観点からは、UV硬化樹脂が好ましい。
【0044】
マスク材45として、ガラス板41の第1主面41aの上に、レジストパターンを形成してもよい。この場合、まず、公知のレジスト塗料を、ガラス板41の第1主面41aの上にコーティングして、レジスト膜を得る。得られたレジスト膜を、所望の形状を有するパターンのフォトマスクを介して、露光する。露光後のレジスト膜を現像して、レジストパターンを形成する。
【0045】
(エッチング)
図6は、エッチング後のガラス板41を示す断面図である。
マスク材45で被覆されたガラス板41を、エッチング液を用いてエッチングする。これにより、図6に示すように、ガラス板41におけるマスク材45で被覆されていない部分の一部が、エッチング液により溶解する。
マスク材45で被覆されていない第1主面41aから、第2主面41bに向けて、溶解は徐々に進行する。こうして、薄板部2となる部分が形成される。
エッチング液を用いたエッチングであるため、滑らかなエッチング面(曲面)が形成される。こうして、特定の曲率半径rを持つ第1接続面4aを有する接続部4となる部分が形成される。このとき、エッチングによる溶解が過剰に進行すると、オーバーハング部5(図3参照)となる部分が形成される。
溶解しないで維持される部分が、厚板部3となる。
【0046】
エッチング液としては、酸を含有する水溶液が挙げられる。酸としては、例えば、フッ化水素(HF)、硫酸、硝酸、塩酸、ヘキサフルオロケイ酸などが挙げられ、フッ化水素が好ましい。
エッチング液におけるフッ化水素などの酸の含有量は、2~10質量%が好ましい。
上記含有量が2質量%以上である場合、エッチングによる加工時間が比較的短くなり、生産性良く加工しやすい。一方、上記含有量が10質量%以下である場合、エッチング速度のバラツキが抑制され、均一な加工を施しやすい。これらの効果により優れるという理由から、上記含有量は、4~8質量%がより好ましい。
【0047】
エッチング液の温度は、エッチング速度のバラツキが抑制され、均一な加工を施しやすいという理由から、10~40℃が好ましく、20~30℃がより好ましい。
【0048】
エッチングの方法は、特に限定されないが、マスク材45で被覆されたガラス板41を、エッチング液に浸漬させる方法が好ましい。
エッチング液への浸漬時間(エッチング時間)は、ガラス板41の板厚tに応じて適宜変更される。例えば、ガラス板41の板厚tが0.5mm以上2.5mm以下である場合、エッチング時間は、7分以上が好ましく、10分以上がより好ましく、15分以上が更に好ましく、一方、100分以下が好ましく、60分以下がより好ましい。
【0049】
なお、ここでは、エッチング液を用いたいわゆる湿式エッチングを説明したが、上述した形状が得られる限りにおいては、例えば、フッ素ガスを用いた乾式エッチングも採用できる。
【0050】
エッチング後、マスク材45は、公知の方法によって、適宜除去される。
【0051】
《化学強化処理》
スリミング後のガラス板41に、化学強化処理を施してもよい。
化学強化処理を施す場合、ガラス板41として、化学強化用ガラスを用いる。
化学強化処理では、従来公知の方法を採用でき、典型的には、ガラス板41を、溶融塩に浸漬させる。これにより、ガラス板41の表層において、アルカリイオン(Liイオンおよび/またはNaイオン)を、溶融塩中のイオン半径の大きい他のアルカリイオン(Naイオンおよび/またはKイオン)とイオン交換(置換)する。このイオン交換によって、ガラス板41の表層に、高密度化によって圧縮応力が発生した層(圧縮応力層)を形成する。こうして、ガラス板41を強化できる。
【0052】
溶融塩の温度や浸漬時間などの処理条件は、圧縮応力層の圧縮応力値(CS)および圧縮応力層の厚さ(DOL)などが所望の値となるように設定すればよい。
例えば、溶融塩の温度は、ガラスの歪点(通常500~600℃)であれば特に限定されず、350℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましく、430℃以上が更に好ましい。
溶融塩への浸漬時間は、1~480分が好ましく、5~240分がより好ましく、10~120分が更に好ましい。
【0053】
ガラス板41に含まれるアルカリイオンがNaイオンである場合、溶融塩(無機塩組成物)は、硝酸カリウム(KNO)を含有することが好ましい。
溶融塩は、更に、KCO、NaCO、KHCO、NaHCO、KPO、NaPO、KSO、NaSO、KOHおよびNaOHからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩(融剤)を含有してもよい。
溶融塩における融剤の含有量は、0.1mol%以上が好ましく、0.5mol%以上がより好ましく、1mol%以上が更に好ましく、2mol%以上が特に好ましい。一方、融剤としてKCOを用いる場合、24mol%以下が好ましく、12mol%以下がより好ましく、8mol%以下が更に好ましい。
溶融塩は、更に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の化学種を含んでもよく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどのアルカリ塩化塩;ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムなどのアルカリホウ酸塩;等が挙げられる。
【0054】
溶融塩への浸漬後、ガラス板41を溶融塩から引き上げて、冷却する。
化学強化処理を施した後、ガラス板41を、工水、イオン交換水などを用いて洗浄してもよい。
【0055】
《薬液処理》
化学強化処理を施したガラス板41に、更に、薬液処理を施してもよい。薬液処理は、以下に説明する酸処理およびアルカリ処理を含む。
酸処理とアルカリ処理との間、および、アルカリ処理後において、工水、イオン交換水などを用いて、ガラス板41を洗浄してもよい。
【0056】
(酸処理)
酸処理は、化学強化処理を施したガラス板41を、酸性溶液中に浸漬させる処理である。これにより、化学強化処理を施したガラス板41の表面のNaおよび/またはKが、Hに置換される。すなわち、化学強化処理を施したガラス板41における圧縮応力層の表層が変質し、低密度化された低密度層となる。
酸性溶液(例えばpHが7未満の水溶液)に含まれる酸は、弱酸であっても強酸であってもよい。酸の具体例としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、炭酸、クエン酸などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。 酸性溶液に含まれる酸の濃度は、0.1~20質量%が好ましい。
酸性溶液の温度は、100℃以下が好ましい。
酸処理を施す時間は、生産性の観点から、10秒~5時間が好ましく、1分~2時間がより好ましい。
【0057】
(アルカリ処理)
アルカリ処理は、酸処理を施したガラス板41を、塩基性溶液中に浸漬させる処理である。これにより、酸処理で形成された低密度層の一部または全部が除去される。こうして、ガラス板41の表面に存在するクラックや潜傷を、低密度層と共に除去できる。
塩基性溶液(例えばpHが7超の水溶液)に含まれる塩基は、弱塩基であっても強塩基であってもよい。塩基の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
塩基性溶液に含まれる塩基の濃度は、除去性の観点から、0.1~20質量%が好ましい。
塩基性溶液の温度は、0~100℃が好ましく、10~80℃がより好ましく、20~60℃が更に好ましい。
アルカリ処理を施す時間は、生産性の観点から、10秒~5時間が好ましく、1分~2時間がより好ましい。
【0058】
化学強化処理および薬液処理を施さない場合、スリミング後にマスク材45を除去したガラス板41が、上述したガラス基体1となる。
化学強化処理後に、薬液処理を施さない場合、化学強化処理を施したガラス板41が、上述したガラス基体1となる。
化学強化処理後に、薬液処理を施す場合、薬液処理を施したガラス板41が、上述したガラス基体1となる。
【0059】
[第2態様]
次に、図7図10に基づいて、第2態様を説明する。
図7図10において、第1態様と同一の部分は同一の符号で示し、説明も省略する。 まず、図7に基づいて、第2態様のガラス基体を説明する。
【0060】
〈ガラス基体〉
図7は、第2態様のガラス基体11を示す断面図である。
接続部4における最も薄い箇所の板厚を、接続部4の板厚tとする。
ガラス基体11においては、接続部4の板厚tが、薄板部2の板厚tよりも小さい。これにより、接続部4を曲げやすい。
この効果により優れるという理由、および、上述したように接続部4をまたぐクラックの進展を抑制できるという理由から、接続部4の板厚tは、0.5mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましく、0.2mm以下が更に好ましい。
一方、接続部4の板厚tは、下限は特に限定されないが、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。
なお、弾性変形していない状態の第2態様のガラス基体11において、薄板部2の第2主面2bと、接続部4の第2接続面4bと、厚板部3の第2主面3bとは、同一平面をなす。
【0061】
〈ガラス基体の製造方法〉
図8図10に基づいて、第2態様のガラス基体11を製造する方法を説明する。
スリミング以外(ガラス板の準備、化学強化処理および薬液処理)は、第1態様と同じであるため説明を省略し、スリミングのみを説明する。
【0062】
《スリミング》
準備したガラス板41を、スリミングする。スリミングは、以下に説明する研磨、マスキングおよびエッチングを含む。
【0063】
(研磨)
図8は、研磨後のガラス板41を示す断面図である。
図8に示すように、ガラス板41の一部を、板厚tを減らすように、第1主面41aから第2主面41bに向けて研磨する。厚板部3となる部分は研磨せずに残す。研磨により、ガラス板41には、第1主面41aよりも低い位置に、研磨面41cが形成される。また、第1主面41aおよび研磨面41cと直交する研磨端面41dが形成される。
研磨の方法は、特に限定されず、従来公知の研磨パッドなどが適宜用いられる。
【0064】
(マスキング)
図9は、マスク材45で被覆されたガラス板41を示す断面図である。
図9に示すように、ガラス板41の第1主面41a、第2主面41bおよび研磨面41cを、マスク材45で被覆する。
より詳細には、図9に示すように、研磨面41cは、上述した薄板部2の第1主面2aとなる面のみを、マスク材45で被覆する。
第1主面41aは、研磨端面41dの端部の面を露出させて、マスク材45で被覆してよい。
第2主面41bは、全面をマスク材45で被覆する。
【0065】
(エッチング)
図10は、エッチング後のガラス板41を示す断面図である。
マスク材45で被覆されたガラス板41を、エッチング液を用いてエッチングする。これにより、図10に示すように、ガラス板41におけるマスク材45で被覆されていない部分の一部が、エッチング液により溶解する。
マスク材45で被覆されていない、研磨面41cの一部、研磨端面41d、および、第1主面41aの一部から、ガラス板41の内部に向けて、溶解が徐々に進行する。こうして、接続部4となる部分が形成される。エッチング液を用いたエッチングであるため、接続部4となる部分において、滑らかなエッチング面(曲面)が形成される。
溶解しないで維持される部分が、薄板部2および厚板部3となる。
第1態様と同様に、上述した形状が得られる限りにおいては、例えば、フッ素ガスを用いた乾式エッチングも採用できる。
エッチング後、マスク材45は、公知の方法によって、適宜除去される。
【0066】
化学強化処理および薬液処理を施さない場合、スリミング後にマスク材45を除去したガラス板41が、上述したガラス基体11となる。
化学強化処理後に、薬液処理を施さない場合、化学強化処理を施したガラス板41が、上述したガラス基体11となる。
化学強化処理後に、薬液処理を施す場合、薬液処理を施したガラス板41が、上述したガラス基体11となる。
【実施例
【0067】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0068】
例1~例7は実施例であり、例8~例9は比較例である。
【0069】
〈例1〉
以下に説明するようにして、第1態様のガラス基体1(図1図6参照)を製造した。
【0070】
《ガラス板の準備》
ガラス板41として、1200mm×300mmの化学強化用ガラス(AGC社製「ドラゴントレイル」)を準備した。ガラス板41の板厚tは、下記表1に示す厚板部3の板厚t(1.3mm)と同じである。
【0071】
《スリミング》
第1態様のスリミングを行なった。すなわち、準備したガラス板41を、マスク材45で被覆し、エッチング液を用いてエッチングした。
マスク材45としては、アクリル系の粘着剤が塗布されたPET材のフィルム(耐酸性)を用いた。
エッチング液としては、6質量%のフッ化水素(HF)の水溶液を用いた。エッチング液の温度は、25℃とした。エッチング時間は、20分間とした。
エッチング後、マスク材45を除去した。
【0072】
《化学強化処理》
マスク材45を除去したガラス板41に化学強化処理を施した。化学強化処理は、ガラス板41を、435℃のKNO溶融塩中に、60分間浸漬することにより行なった。
化学強化処理後、ガラス板41を水洗した。
以上のようにして、第1態様のガラス基体1を得た。
【0073】
〈例2〉
スリミングでは、エッチング時間を15分間とした。化学強化処理では、ガラス板41を、410℃のKNO溶融塩中に、30分間浸漬した。
それ以外は、例1と同様にして、第1態様のガラス基体1を得た。
【0074】
〈例3〉
スリミングでは、エッチング時間を25分間とした。
それ以外は、例1と同様にして、第1態様のガラス基体1を得た。
【0075】
〈例4〉
ガラス板41の板厚t(下記表1に示す厚板部3の板厚t)を2.0mmとした。
スリミングでは、エッチング時間を35分間とした。
それ以外は、例1と同様にして、第1態様のガラス基体1を得た。
【0076】
〈例5〉
以下に説明するようにして、第2態様のガラス基体11(図7図10参照)を製造した。
【0077】
《ガラス板の準備》
ガラス板41として、1200mm×300mmの化学強化用ガラス(AGC社製「ドラゴントレイル」)を準備した。ガラス板41の板厚tは、下記表1に示す厚板部3の板厚t(1.3mm)と同じである。
【0078】
《スリミング》
第2態様のスリミングを行なった。すなわち、準備したガラス板41を、まず研磨パッドを用いて研磨した後、マスク材45で被覆し、次いで、エッチングした。この場合、下記表1の「スリミング」の「エッチング時間」の欄には「有り」と記載した。
マスク材45としては、アクリル系の粘着剤が塗布されたPET材のフィルム(耐酸性)を用いた。
エッチング液としては、6質量%のフッ化水素(HF)の水溶液を用いた。エッチング液の温度は、25℃とした。エッチング時間は、接続部4の板厚tが0.2mmになるまでの時間とした。
エッチング後、マスク材45を除去した。
【0079】
《化学強化処理》
マスク材45を除去したガラス板41に化学強化処理を施した。化学強化処理は、ガラス板41を、435℃のKNO溶融塩中に、60分間浸漬することにより行なった。
化学強化処理後、ガラス板41を水洗した。
以上のようにして、第2態様のガラス基体11を得た。
【0080】
〈例6〉
化学強化処理では、ガラス板41を、410℃のKNO溶融塩中に、30分間浸漬した。
それ以外は、例1と同様にして、第1態様のガラス基体1を得た。
【0081】
〈例7〉
化学強化処理では、KNOを含有し、更に、6mol%のKCOを含有し、Na濃度が2000質量ppmである溶融塩を用いた。この場合、下記表1の「化学強化処理」の「溶融塩の組成」の欄には「KNOほか」と記載した。
更に、化学強化処理を施したガラス板41に対して、薬液処理を施した。具体的には、ガラス板41を、6質量%の硝酸を含有する酸性溶液(40℃)に2分間浸漬させる酸処理を行なった。次いで、酸処理を施したガラス板41を、4質量%の水酸化ナトリウムを含有する塩基性溶液(40℃)に2分間浸漬させるアルカリ処理を行なった。
それ以外は、例1と同様にして、第1態様のガラス基体1を得た。
【0082】
〈例8〉
スリミングでは、エッチング時間を5分間とした。
それ以外は、例1と同様にして、第1態様のガラス基体1を得た。
なお、例8は、上述したように、比較例であるが、便宜的に「第1態様のガラス基体1」と呼ぶ。
【0083】
〈例9〉
スリミングでは、研磨後にエッチングを行なわなかった。この場合、下記表1の「スリミング」の「エッチング時間」の欄には「無し」と記載した。
それ以外は、例5と同様にして、第2態様のガラス基体11を得た。
なお、例9は、上述したように、比較例であるが、便宜的に「第2態様のガラス基体11」と呼ぶ。
【0084】
得られた例1~例9のガラス基体1およびガラス基体11について、各物性(特性)を求めた。
具体的には、薄板部2における、板厚t、圧縮応力層の圧縮応力値(CS)および深さ(DOL)、内部引張応力(CT)、ならびに、限界曲げ半径を求めた。
また、厚板部3における、板厚t、圧縮応力層の圧縮応力値(CS)および深さ(DOL)、内部引張応力(CT)、面強度、ならびに、破砕片の個数を求めた。
また、薄板部2のCTと厚板部3のCTとの比(薄板部/厚板部)を求めた。
また、接続部4における第1接続面4aの曲率半径rを求めた。例5においては、接続部4の板厚tを求めた。
また、オーバーハング部5のオーバーハング面5aの曲率半径rを求めた。
結果を下記表1に示す。
【0085】
〈評価〉
例1~例9のガラス基体1およびガラス基体11を用いて、次のようにして、接続部4の曲げやすさを評価した。
図12は、接続部4の曲げやすさの評価方法を説明するための断面図である。なお、図12は、ガラス基体1について図示したものであるが、ガラス基体11も同様である。
まず、接続部4から薄板部2に向けて距離D(=50mm)の位置を、位置Pとした。より詳細には、接続部4の第2接続面4bの中間位置から、接続部4の第2接続面4bおよび薄板部2の第2主面2bに沿って、距離D(=50mm)の位置を、位置Pとした。
次いで、厚板部3を保持し、接続部4を支点として、薄板部2を第1主面2a側に曲げた。このとき、位置Pがガラス基体1(ガラス基体11)の板厚方向(距離D方向と直交する方向)に変位した距離Dを計測した。
下記表1には、距離Dが1.3mm未満の場合は「C」を、距離Dが1.3mm以上2.5mm未満の場合は「B」を、距離Dが2.5mm以上の場合は「A」を記載した。距離Dが1.3mmの場合は、曲げの曲率半径は1000mmに対応する。距離Dが2.5mmの場合は、曲げの曲率半径は500mmに対応する。
距離Dが長いほど、接続部4を曲げやすいと評価できる。
【0086】
【表1】
【0087】
〈評価結果のまとめ〉
上記表1に示すように、例1~例4および例6~例7のガラス基体1は、例8のガラス基体1と比較して、接続部4を曲げやすかった。
また、例5のガラス基体11は、例9のガラス基体11と比較して、接続部4を曲げやすかった。
【0088】
例1のガラス基体1および例5のガラス基体11のそれぞれについて、薄板部2の中心付近を落球により破壊して、薄板部2から厚板部3へのクラックの進展を確認した。
具体的には、第1接続面4aと第1主面3aとの境界線から接続部4および薄板部2側に5mmの位置に存在するクラック本数と、第1接続面4aと第1主面3aとの境界線から厚板部3側に5mmの位置に存在するクラック本数とを対比した。
その結果、例1においては、接続部4の長さ30cm当たり、厚板部3側のクラック本数は、薄板部2側のクラック本数よりも、3本少なかった。
例5においては、接続部4の長さ30cm当たり、厚板部3側のクラック本数は、薄板部2側のクラック本数よりも、8本少なかった。
例1および例5においては、破砕片の個数密度に明確な差があるため、薄板部2から厚板部3へのクラックの進展が抑制されたと推定される。
更に、例5においては、接続部4が薄板部2よりも薄いため、クラック進展がより抑制されたと推定される。
【0089】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2019年7月10日出願の日本特許出願2019-128183に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0090】
1:ガラス基体
2:薄板部
2a:第1主面
2b:第2主面
3:厚板部
3a:第1主面
3b:第2主面
4:接続部
4a:第1接続面
4b:第2接続面
5:オーバーハング部
5a:オーバーハング面
5b:面
11:ガラス基体
21:凹凸構造
31:組立体
22:表示パネル
23:表示パネル
24:表示パネル
25:表示パネル
26:パネル保持部
41:ガラス板
41a:第1主面
41b:第2主面
41c:研磨面
41d:研磨端面
45:マスク材
:第1接続面の曲率半径
:オーバーハング面の曲率半径
:ガラス板の板厚
:薄板部の板厚
:厚板部の板厚
:接続部の板厚
、L:直線
、W:長さ
θ:角度
、S、S、S、S、S:点
:位置
、D:距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12