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特許7626145シリコン単結晶の酸素濃度推定方法、シリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の酸素濃度推定方法、シリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20250128BHJP
   C30B 30/04 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C30B29/06 502H
C30B30/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022568261
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2021044675
(87)【国際公開番号】W WO2022124259
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2020203240
(32)【優先日】2020-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】下崎 一平
(72)【発明者】
【氏名】高梨 啓一
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-151499(JP,A)
【文献】特開2019-151500(JP,A)
【文献】特開平7-257990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/22
C30B 30/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ルツボ内のシリコン融液に横磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げる際、前記シリコン融液の融液面の高さを計測し、前記融液面の高さの微小変動から前記シリコン単結晶の酸素濃度を推定することを特徴とするシリコン単結晶の酸素濃度推定方法。
【請求項2】
前記融液面の高さを50秒以下のサンプリング周期で周期的に計測する、請求項1に記載のシリコン単結晶の酸素濃度推定方法。
【請求項3】
前記融液面の高さの計測値の分解能が0.1mm以下である、請求項1又は2に記載のシリコン単結晶の酸素濃度推定方法。
【請求項4】
過去のシリコン単結晶の引き上げ実績データから融液面の高さの微小変動と酸素濃度の二極化の方向との相関関係を特定し、前記相関関係に基づいて前記シリコン単結晶の酸素濃度を推定する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の酸素濃度推定方法。
【請求項5】
過去のシリコン単結晶の引き上げ実績データから酸素濃度の二極化が見られる結晶部分を特定し、当該結晶部分を育成している期間を前記融液面の高さを計測するサンプリング期間として設定する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の酸素濃度推定方法。
【請求項6】
前記シリコン単結晶のボディー部の上端から下方に一定の範囲内で計測した前記融液面の高さの微小変動から前記シリコン単結晶の酸素濃度を推定する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の酸素濃度推定方法。
【請求項7】
前記シリコン融液の上方に配置された熱遮蔽体と前記融液面との間のギャップを計測することにより、前記融液面の高さの微小変動を把握する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の酸素濃度推定方法。
【請求項8】
石英ルツボ内のシリコン融液に横磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法であって、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の酸素濃度推定方法により前記シリコン単結晶の酸素濃度を推定し、
前記シリコン単結晶の酸素濃度の推定値が目標値に近づくように結晶育成条件を調整することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項9】
前記結晶育成条件は、前記石英ルツボの回転速度、結晶引き上げ炉内に供給する不活性ガスの流量、及び前記結晶引き上げ炉内の圧力の少なくとも一つである、請求項8に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項10】
結晶引き上げ炉と、
前記結晶引き上げ炉内でシリコン融液を支持する石英ルツボと、
前記石英ルツボを回転及び昇降駆動するルツボ回転機構と、
前記シリコン融液に横磁場を印加する磁場発生装置と、
前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる結晶引き上げ機構と、
前記シリコン融液の融液面の高さを周期的に計測する融液面計測手段と、
結晶育成条件を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記融液面の高さの微小変動から前記シリコン単結晶の酸素濃度を推定し、
前記シリコン単結晶の酸素濃度の推定値が目標値に近づくように前記結晶育成条件を調整することを特徴とするシリコン単結晶製造装置。
【請求項11】
前記結晶育成条件は、前記石英ルツボの回転速度、前記結晶引き上げ炉内に供給する不活性ガスの流量、及び前記結晶引き上げ炉内の圧力の少なくとも一つである、請求項10に記載のシリコン単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)によって製造されるシリコン単結晶の酸素濃度推定方法に関する。また、本発明は、そのような酸素濃度推定方法を用いたシリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶製造装置に関し、特に、融液に磁場を印加しながら単結晶を引き上げるMCZ法(Magnetic field applied Czochralski method)に関する。
【背景技術】
【0002】
CZ法によるシリコン単結晶の製造方法としてMCZ法が知られている。MCZ法は、石英ルツボ内のシリコン融液に磁場を印加しながら単結晶を引き上げることにより融液対流を抑制する方法である。融液対流を抑制することにより、石英ルツボと融液の反応を抑えることができ、シリコン融液中に溶け込む酸素の量を抑制してシリコン単結晶の酸素濃度を低く抑えることができる。
【0003】
磁場の印加方法としては幾つかの方法が知られているが、水平磁場を印加するHMCZ法(Horizontal MCZ method)の実用化が進んでいる。HMCZ法では石英ルツボの側壁と直交する磁場を印加するので、ルツボの側壁近傍の融液対流が効果的に抑制されて、ルツボからの酸素の溶け出し量が減少する。一方、融液表面での対流抑制効果が小さく、融液表面からの酸素(シリコン酸化物)の蒸発が抑制されないため、融液中の酸素濃度を低減できる。したがって、低酸素濃度の単結晶を育成することができる。
【0004】
HMCZ法に関し、例えば特許文献1には、シリコン単結晶のネック工程及び肩部形成工程の少なくともいずれかにおいて、ホットゾーン形状の非面対称構造となる位置におけるシリコン融液の表面温度を計測し、この表面温度からシリコン単結晶中の酸素濃度を推定する方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、熱遮蔽体の下端とシリコン融液の表面との間を流れる不活性ガスが、結晶引き上げ軸及び水平磁場の印加方向を含む平面に対して非対称であり、且つ結晶引き上げ軸に対して非回転対称となる流動分布を形成し、非面対称かつ非回転対称な不活性ガスの流動分布を、石英ルツボ内のシリコン原料がすべて溶融するまで、無磁場で維持することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-151499号公報
【文献】特開2019-151503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、水平磁場を印加したチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の引き上げにおいては、同一の引き上げ装置を用いて同一の引き上げ条件下でシリコン単結晶を引き上げても、引き上げられたシリコン単結晶の品質が同じにならず、特にシリコン単結晶中の酸素濃度が二極化することが知られるようになった。
【0008】
特許文献1及び2に記載された技術は、このような課題を解決するものであるが、他の方法によっても解決できることが望まれている。
【0009】
したがって、本発明の目的は、シリコン単結晶の酸素濃度の二極化を防止して同じ品質のシリコン単結晶を製造することが可能なシリコン単結晶の酸素濃度推定方法、シリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明によるシリコン単結晶の酸素濃度推定方法は、石英ルツボ内のシリコン融液に横磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げる際、前記シリコン融液の融液面の高さを計測し、前記融液面の高さの微小変動から前記シリコン単結晶の酸素濃度を推定することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、シリコン単結晶の酸素濃度が相対的に高い値又は相対的に低い値のどちらになるのか、すなわち、シリコン単結晶の酸素濃度の二極化の方向を推定することができる。したがって、この酸素濃度の推定結果に基づいて結晶育成条件を制御することにより結晶成長方向におけるシリコン単結晶の酸素濃度の変動を抑制することができる。
【0012】
本発明によるシリコン単結晶の酸素濃度推定方法は、前記融液面の高さを50秒以下のサンプリング周期で周期的に計測することが好ましく、サンプリング周期が10秒以下であることがさらに好ましい。これにより、シリコン融液の対流モードの違いによる融液面の微小変動を捉えることができ、融液面の微小変動から酸素濃度の二極化の方向を推定することができる。サンプリング周期を小さくするほど融液面の微小変動を明確に捉えることができるが、データ量が膨大になるため1秒以上とすることが好ましい。
【0013】
本発明において、前記融液面の高さの計測値の分解能は0.1mm以下であることが好ましい。これにより、シリコン融液の対流モードの違いによる融液面の微小変動を正確に捉えることができ、融液面の微小変動から酸素濃度の二極化の方向を推定することができる。シリコン融液の対流モードの違いによる融液面の微小な変動は、50秒以下の短い周期で上下に変動し、その変動量は小さく標準偏差の値で1mm以下である。また、融液面上の計測範囲を定めて融液面の高さ位置を計測することにより、融液面の微小な変動を把握することができる。言い換えると、微小変動とは、50秒以下のサンプリング周期で融液面の高さを計測した場合、融液面の高さの標準偏差が1mm以下の上下変動をいう。
【0014】
本発明によるシリコン単結晶の酸素濃度推定方法は、過去のシリコン単結晶の引き上げ実績データから融液面の高さの微小変動と酸素濃度の二極化の方向との相関関係を特定し、前記相関関係に基づいて前記シリコン単結晶の酸素濃度を推定することが好ましい。これにより、シリコン単結晶の酸素濃度の二極化の方向の推定精度を高めることができる。
【0015】
本発明によるシリコン単結晶の酸素濃度推定方法は、過去のシリコン単結晶の引き上げ実績データから酸素濃度の二極化が見られる結晶部分を特定し、当該結晶部分を育成している期間を前記融液面の高さを計測するサンプリング期間として設定することが好ましい。これにより、シリコン単結晶の酸素濃度の二極化の方向の推定精度を高めることができる。
【0016】
本発明によるシリコン単結晶の酸素濃度推定方法は、前記シリコン単結晶のボディー部の上端から下方に一定の範囲内で計測した前記融液面の高さの微小変動から前記シリコン単結晶の酸素濃度を推定することが好ましい。これにより、酸素濃度の二極化の方向を早期に推測してシリコン単結晶の酸素濃度の変動を抑制し、結晶軸方向に酸素濃度分布が均一な単結晶とすることができる。
【0017】
前記融液面の微小な変動を把握するにあたっては、前記シリコン融液の上方に配置された熱遮蔽体の下端を基準として、前記融液面の高さ位置を計測することが好ましい。すなわち、前記シリコン融液の上方に配置された熱遮蔽体と前記融液面との間のギャップ(以下、GAPと表記することがある)を計測することにより、前記融液面の高さの微小変動を把握することが好ましい。計測されたギャップの値の変動から融液面の微小な変動を正確に計測することができる。したがって、シリコン単結晶の酸素濃度の推定精度を高めることができる。
【0018】
また、本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、石英ルツボ内のシリコン融液に横磁場を印加しながらシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造工程を含み、前記シリコン単結晶の製造工程は、上述した本発明によるシリコン単結晶の酸素濃度推定方法により前記シリコン単結晶の酸素濃度を推定し、前記シリコン単結晶の酸素濃度の推定値が目標値に近づくように結晶育成条件を調整することを特徴とする。
【0019】
さらにまた、本発明によるシリコン単結晶製造装置は、結晶引き上げ炉と、前記結晶引き上げ炉内でシリコン融液を支持する石英ルツボと、前記石英ルツボを回転及び昇降駆動するルツボ回転機構と、前記シリコン融液に横磁場を印加する磁場発生装置と、前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる結晶引き上げ機構と、前記シリコン融液の融液面の高さを周期的に計測する融液面計測手段と、結晶育成条件を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記融液面の高さの微小変動の挙動から前記シリコン単結晶の酸素濃度を推定し、前記シリコン単結晶の酸素濃度の推定値が目標値に近づくように前記結晶育成条件を調整することを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、シリコン単結晶の酸素濃度が相対的に高い値又は相対的に低い値のどちらになるのかを融液面の微小な変動から推定することができる。したがって、この酸素濃度の推定結果に基づいて結晶育成条件を制御することにより結晶成長方向におけるシリコン単結晶の酸素濃度の変動を抑制することができる。
【0021】
前記結晶育成条件は、前記石英ルツボの回転速度、結晶引き上げ炉内に供給する不活性ガスの流量、及び前記結晶引き上げ炉内の圧力の少なくとも一つであることが好ましい。これにより、シリコン単結晶の酸素濃度の変動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、シリコン単結晶の酸素濃度の二極化を防止して同じ品質のシリコン単結晶を製造することが可能なシリコン単結晶の酸素濃度推定方法、シリコン単結晶の製造方法及びシリコン単結晶製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶製造装置の構成を示す略側面断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の製造工程を示すフローチャートである。
図3図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略断面図である。
図4図4は、同一のシリコン単結晶製造装置を用いて同一条件下で育成された複数本のシリコン単結晶の酸素濃度分布を示すグラフである。
図5図5(a)及び(b)は、水平磁場が印加されたルツボ内のシリコン融液の対流を説明するための図であって、図5(a)は右回り(時計回り)のロール流、図5(b)は左回り(反時計回り)のロール流をそれぞれ示している。
図6図6は、シリコン単結晶の酸素濃度とギャップ変動(GAP変動)との関係を示すグラフである。
図7図7(a)及び(b)は、ギャップ変動(GAP変動)と酸素濃度との関係を示すグラフであって、(a)はシリコン単結晶の酸素濃度が高くなる場合、(b)はシリコン単結晶の酸素濃度が低くなる場合をそれぞれ示している。
図8図8は、シリコン単結晶の酸素濃度推定方法を説明するフローチャートである。
図9図9は、実施例1によるシリコン単結晶中の酸素濃度分布をギャップ変動と共に示すグラフである。
図10図10は、実施例2によるシリコン単結晶中の酸素濃度分布をギャップ変動と共に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶製造装置の構成を示す略側面断面図である。
【0026】
図1に示すように、シリコン単結晶製造装置1は、結晶引き上げ炉を構成するチャンバー10と、チャンバー10内においてシリコン融液2を保持する石英ルツボ11と、石英ルツボ11を保持する黒鉛ルツボ12と、黒鉛ルツボ12を支持する回転シャフト13と、回転シャフト13を回転及び昇降駆動するシャフト駆動機構14と、黒鉛ルツボ12の周囲に配置されたヒーター15と、ヒーター15の外側であってチャンバー10の内面に沿って配置された断熱材16と、石英ルツボ11の上方に配置された熱遮蔽体17と、石英ルツボ11の上方であって回転シャフト13と同軸配置された引き上げワイヤー18と、チャンバー10の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構19とを備えている。
【0027】
チャンバー10は、メインチャンバー10aと、メインチャンバー10aの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバー10bとで構成されており、石英ルツボ11、黒鉛ルツボ12、ヒーター15及び熱遮蔽体17はメインチャンバー10a内に設けられている。プルチャンバー10bにはチャンバー10内にArガス等の不活性ガス(パージガス)やドーパントガスを導入するためのガス導入口10cが設けられており、メインチャンバー10aの下部にはチャンバー10内の雰囲気ガスを排出するためのガス排出口10dが設けられている。
【0028】
石英ルツボ11は、円筒状の側壁部と湾曲した底部とを有する石英ガラス製の容器である。黒鉛ルツボ12は、加熱によって軟化した石英ルツボ11の形状を維持するため、石英ルツボ11の外表面に密着して石英ルツボ11を包むように保持する。石英ルツボ11及び黒鉛ルツボ12はチャンバー10内においてシリコン融液を支持する二重構造のルツボを構成している。
【0029】
黒鉛ルツボ12は回転シャフト13の上端部に固定されており、回転シャフト13の下端部はチャンバー10の底部を貫通してチャンバー10の外側に設けられたシャフト駆動機構14に接続されている。回転シャフト13及びシャフト駆動機構14は石英ルツボ11及び黒鉛ルツボ12の回転及び昇降駆動するルツボ回転機構を構成している。
【0030】
ヒーター15は、石英ルツボ11内に充填されたシリコン原料を融解してシリコン融液2を生成すると共に、シリコン融液2の溶融状態を維持するために用いられる。ヒーター15はカーボン製の抵抗加熱式ヒーターであり、黒鉛ルツボ12内の石英ルツボ11を取り囲むように設けられている。さらにヒーター15の外側には断熱材16がヒーター15を取り囲むように設けられており、これによりチャンバー10内の保温性が高められている。
【0031】
熱遮蔽体17は、シリコン融液2の温度変動を抑制して結晶成長界面近傍に適切なホットゾーンを形成すると共に、ヒーター15及び石英ルツボ11からの輻射熱によるシリコン単結晶3の加熱を防止するために設けられている。熱遮蔽体17は、シリコン単結晶3の引き上げ経路を除いたシリコン融液2の上方の領域を覆う黒鉛製の部材であり、例えば下端から上端に向かって開口サイズが大きくなる逆円錐台形状を有している。
【0032】
熱遮蔽体17の下端の開口17aの直径はシリコン単結晶3の直径よりも大きく、これによりシリコン単結晶3の引き上げ経路が確保されている。熱遮蔽体17の開口17aの直径は石英ルツボ11の口径よりも小さく、熱遮蔽体17の下端部は石英ルツボ11の内側に位置するので、石英ルツボ11のリム上端を熱遮蔽体17の下端よりも上方まで上昇させても熱遮蔽体17が石英ルツボ11と干渉することはない。
【0033】
シリコン単結晶3の成長と共に石英ルツボ11内の融液量は減少するが、熱遮蔽体17の下端と融液面2sの間のギャップGAが一定になるように石英ルツボ11を上昇させることにより、シリコン融液2の温度変動を抑制すると共に、融液面2sの近傍を流れるガスの流速を一定にしてシリコン融液2からのドーパントの蒸発量を制御することができる。したがって、シリコン単結晶3の引き上げ軸方向の結晶欠陥分布、酸素濃度分布、抵抗率分布等の安定性を向上させることができる。
【0034】
石英ルツボ11の上方には、シリコン単結晶3の引き上げ軸である引き上げワイヤー18と、引き上げワイヤー18を巻き取るワイヤー巻き取り機構19が設けられている。ワイヤー巻き取り機構19は引き上げワイヤー18と共にシリコン単結晶3を回転させる機能を有している。ワイヤー巻き取り機構19はプルチャンバー10bの上方に配置されており、引き上げワイヤー18はワイヤー巻き取り機構19からプルチャンバー10b内を通って下方に延びており、引き上げワイヤー18の先端部はメインチャンバー10aの内部空間まで達している。図1は育成途中のシリコン単結晶3が引き上げワイヤー18に吊設された状態を示している。シリコン単結晶3の引き上げ時には石英ルツボ11とシリコン単結晶3とをそれぞれ回転させながら引き上げワイヤー18を徐々に引き上げることによりシリコン単結晶3を成長させる。このように、引き上げワイヤー18及びワイヤー巻き取り機構19は、シリコン融液2からシリコン単結晶3を引き上げる結晶引き上げ機構を構成している。
【0035】
メインチャンバー10aの上部には内部を観察するための覗き窓10eが設けられており、覗き窓10eからシリコン単結晶3の育成状況を観察可能である。覗き窓10eの外側にはカメラ20が設置されている。単結晶引き上げ工程中、カメラ20は覗き窓10eから熱遮蔽体17の開口17aを通して見えるシリコン単結晶3とシリコン融液2との境界部を斜め上方から撮影する。カメラ20による撮影画像は画像処理部21で処理され、処理結果は制御部22において結晶育成条件の制御に用いられる。
【0036】
シリコン単結晶製造装置1は、石英ルツボ11内のシリコン融液2に横磁場(水平磁場)を印加する磁場発生装置30を備えている。磁場発生装置30は、メインチャンバー10aを挟んで対向配置された一対の電磁石コイル31A,31Bとを備えている。電磁石コイル31A,31Bは制御部22からの指示に従って動作し、磁場強度が制御される。磁場発生装置30が発生させる水平磁場の中心位置(磁場中心位置)は、対向配置された電磁石コイル31A,31Bの中心どうしを結んだ水平方向の線(磁場中心線)の高さ方向の位置のことをいう。水平磁場方式によればシリコン融液2の対流を効果的に抑制することができる。
【0037】
シリコン単結晶3の引き上げ工程では、種結晶を降下させてシリコン融液2に浸漬した後、種結晶及び石英ルツボ11をそれぞれ回転させながら、種結晶をゆっくり上昇させることにより、種結晶の下方に略円柱状のシリコン単結晶3を成長させる。その際、シリコン単結晶3の直径は、その引き上げ速度やヒーター15のパワーを制御することにより制御される。また、シリコン融液2に水平磁場を印加することで磁力線に直交する方向の融液対流が抑えられる。
【0038】
図2は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の製造工程を示すフローチャートである。また、図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略断面図である。
【0039】
図2に示すように、本実施の形態によるシリコン単結晶の製造では、石英ルツボ11内のシリコン原料をヒーター15で加熱して融解することによりシリコン融液2を生成する原料融解工程S11と、引き上げワイヤー18の先端部に取り付けられた種結晶を降下させてシリコン融液2に着液させる着液工程S12と、シリコン融液2との接触状態を維持しながら種結晶を徐々に引き上げて単結晶を育成する結晶引き上げ工程S13とを有する。
【0040】
結晶引き上げ工程S13は、無転位化のために結晶直径が細く絞られたネック部3aを形成するネッキング工程S14と、結晶直径が徐々に大きくなったショルダー部3bを形成するショルダー部育成工程S15と、結晶直径が規定の直径(例えば320mm)に維持されたボディー部3cを形成するボディー部育成工程S16と、結晶直径が徐々に小さくなったテイル部3dを形成するテイル部育成工程S17を有し、テイル部育成工程S17の終了時にはシリコン単結晶3がシリコン融液2から切り離される。こうして、図3に示すように、ネック部3a、ショルダー部3b、ボディー部3c及びテイル部3dを有するシリコン単結晶インゴット3Iが完成する。
【0041】
結晶引き上げ工程S13と平行して磁場印加工程S18が実施される。磁場印加工程S18は、着液工程S12の開始時からボディー部育成工程S16が終了するまでの期間において、石英ルツボ11内のシリコン融液2に横磁場(水平磁場)を印加する。これにより、シリコン融液2の対流を抑制して石英ルツボ11からシリコン融液2への酸素の溶け込みを抑制することができる。また、融液面2sの波立ちを抑制して結晶引き上げ工程の安定化を図ることができる。
【0042】
結晶引き上げ工程S13では、カメラ20の撮影画像から融液面2sの高さ位置及びシリコン単結晶3の直径が求められ、特に融液面2sの高さ位置は熱遮蔽体17の下端と融液面2sとの間のギャップGAとして求められる。結晶直径及びギャップは結晶成長段階に合わせて予め定められたプロファイルに従ってフィードバック制御される。カメラ20及び画像処理部21は、シリコン融液2の融液面2sの高さを周期的に計測する融液面計測手段を構成している。
【0043】
ボディー部育成工程S16では、非常に短いサンプリング周期でギャップを精密に計測し、微小なギャップ変動からシリコン単結晶の酸素濃度を推定する。そして酸素濃度の推定結果に基づいて結晶育成条件を調整する。具体的には、酸素濃度の推定値が目標値よりも高くなる場合には酸素濃度が低くなるように、また酸素濃度の推定値が目標値よりも低くなる場合には酸素濃度が高くなるように結晶育成条件を調整する。結晶育成条件は、石英ルツボの回転速度、Arガス流量、炉内圧の少なくとも一つである。
【0044】
次に、シリコン単結晶中の酸素濃度の推定方法について詳細に説明する。
【0045】
図4は、同一のシリコン単結晶製造装置を用いて同一条件下で育成された複数本のシリコン単結晶の酸素濃度分布を示すグラフであって、横軸は結晶長(相対値)、縦軸は酸素濃度(×1017atoms/cm)をそれぞれ示している。なお、結晶長(相対値)は、ボディー部の開始位置を0%とし、ボディー部の終了位置を100%としたときの、シリコン単結晶の成長方向における相対的な位置を示すものである。
【0046】
図4に示すように、シリコン単結晶の結晶成長方向における酸素濃度分布は、ボディー部の前半(ここではボディー部の上端(0%)から40%までの範囲)において酸素濃度が高い場合と低い場合に分かれる。このようにシリコン単結晶3中の酸素濃度が二極化する根本的な原因は明らかではないが、石英ルツボ11内の融液対流MCが影響していると考えられている。すなわち、図5(a)及び(b)に示すように、石英ルツボ11内の融液対流MCが水平磁場HZの進行方向から見て右回り(時計回り)のロール流(図5(a)参照)になるのか、それとも左回り(反時計回り)のロール流(図5(b)参照)になるのかで、酸素濃度が高い場合と低い場合に分かれると推測されている。融液対流MCが右回り/左回りのときにシリコン単結晶3中の酸素濃度が高/低のどちらになるかは明らかではない。
【0047】
大きな問題は、同一のシリコン単結晶製造装置1を使用して同一の育成条件下でシリコン単結晶3を育成したにもかかわらず、融液対流MCが右回りになるのか左回りになるのかが一意に定まらず、対流モードの違いによって酸素濃度が二極化することである。これにより、シリコン単結晶3中の酸素濃度をその全長に亘って規格内に収めることができなくなり、シリコン単結晶3の製造歩留まりが悪化する。
【0048】
図6は、シリコン単結晶の酸素濃度と微小なギャップ変動の計測値との関係を示すグラフであり、横軸は微小なギャップ変動(GAP変動)、縦軸は二極化する領域におけるシリコン単結晶の酸素濃度を示している。特に、横軸はボディー部の結晶長が0~100mmの範囲内におけるギャップ計測値の標準偏差σ(mm)、縦軸はボディー部の結晶長が200~600mmの範囲内における酸素濃度の平均値(×1017atoms/cm)をそれぞれ示している。
【0049】
図6に示すように、シリコン単結晶中の酸素濃度は二極化しており、酸素濃度が低いときには微小なギャップ変動σが大きく、酸素濃度が高いときには微小なギャップ変動σが小さい。すなわち、微小なギャップ変動とシリコン単結晶の酸素濃度との間には強い相関がある。
【0050】
図7(a)及び(b)は、微小なギャップ変動と酸素濃度との関係を示すグラフであって、横軸は結晶長(相対値)、左縦軸はギャップ変動σ(mm)、右縦軸は酸素濃度(×10 17 atoms/cm)をそれぞれ示している。また、図7(a)はシリコン単結晶の酸素濃度が高くなる場合、図7(b)はシリコン単結晶の酸素濃度が低くなる場合をそれぞれ示している。
【0051】
図7(a)に示すように、ギャップ変動が小さい場合には、ボディー部の結晶長が60%以下の範囲において酸素濃度が高くなる傾向が見られる。一方、ギャップ変動は小さくかつ安定していることが分かる。
【0052】
一方、図7(b)に示すように、ギャップ変動が大きい場合には、ボディー部の結晶長が40%以下の範囲において酸素濃度が低くなる傾向が見られる。一方、ギャップ変動についてはボディー部の結晶長が40%以下の範囲においてギャップ変動σが大きくなっていることが分かる。
【0053】
以上のように、ギャップ変動と酸素濃度との間には一定の相関がある。そこで、本実施形態においては、ボディー部育成工程中にギャップ変動を計測し、このギャップ変動に基づいてシリコン単結晶の酸素濃度の二極化の方向を推定し、この推定結果に基づいて結晶育成条件を調整することにより酸素濃度の二極化を抑制して結晶品質の安定化を図るものである。
【0054】
ギャップ変動が大きくなる現象は、必ずしもシリコン単結晶中の酸素濃度が低くなるときに発生するわけではなく、シリコン単結晶中の酸素濃度が高くなるときに発生することもあり、ギャップ変動の挙動と酸素濃度の二極化との関係はシリコン単結晶製造装置ごとに異なる。また、酸素濃度の二極化現象は、必ずしもボディー部育成工程の開始直後から発生するわけではなく、ボディー部の成長がある程度進んだ後に発生することもあり、シリコン単結晶製造装置ごとに異なる。したがって、ギャップ変動の挙動と酸素濃度の二極化の方向(ギャップ変動が高いとき酸素濃度が高いモード/低いモード、のどちらになるか)との関係及び酸素濃度推定用のギャップ計測値のサンプリング期間(酸素濃度推定期間)は、過去の複数本のシリコン単結晶の引き上げ実績データに基づいてシリコン単結晶製造装置ごとに設定する必要がある。
【0055】
図8は、シリコン単結晶の酸素濃度推定方法を説明するフローチャートである。
【0056】
図8に示すように、酸素濃度の推定では、予め設定された酸素濃度推定期間において、熱遮蔽体を基準とした融液面の高さであるギャップを所定のサンプリング周期で計測する(ステップS21)。
【0057】
酸素濃度推定期間は、ボディー部育成工程中に設定された酸素濃度推定用のギャップ計測値のサンプリング期間であり、過去の引き上げ実績から求められる。例えば、あるシリコン単結晶製造装置では、ボディー部の育成開始直後から酸素濃度が二極化する傾向があるので、ボディー部の結晶長が0~100mmの結晶部分の育成期間をギャップ計測値のサンプリング期間に設定する。また別のシリコン単結晶製造装置では、ボディー部の成長がある程度進んだところで酸素濃度が二極化する傾向があるので、ボディー部の結晶長が300~400mmの結晶部分の育成期間をギャップ計測値のサンプリング期間に設定する。
【0058】
ギャップ計測値のサンプリング周期は50秒以下の非常に短い周期に設定される。サンプリング周期は10秒以下であることが好ましい。通常、シリコン融液の消費による融液面の低下に合わせてルツボを上昇させて液面位置を一定に維持する液面位置制御でもギャップを計測する必要があるが、これほどまで短いサンプリング周期で計測する必要はなく、短くても1~数分である。しかし、ギャップ計測値を酸素濃度の推定に用いる場合には、ギャップのサンプリング周期を非常に短くする必要があり、これにより融液対流の変化に伴う融液面の高さの局所的な微小変動を捉えることができる。
【0059】
ギャップ計測値の分解能は1mm以下であり、0.1mm以下であることが好ましい。このように、ギャップ計測値の分解能を1mm以下にすることにより、融液対流の変化に伴う融液面な高さの局所的な微小変動を正確に捉えることができる。
【0060】
次に、酸素濃度推定期間(サンプリング期間)中に計測したギャップの変動の大きさを示す指標である標準偏差σを算出する(ステップS22)。ギャップ変動は標準偏差に限定されず、例えば瞬時値と移動平均値との偏差として求めてもよく、この場合の移動平均の歩数は10以上であることが好ましい。
【0061】
次に、ギャップ変動σを閾値σthと比較し(ステップS23)、ギャップ変動σが閾値σth以上となる場合(σ≧σth)には酸素濃度が相対的に低くなるものと推定し(ステップS24Y,S25)、ギャップ変動σが閾値σth未満となる場合(σ<σth)には酸素濃度が相対的に高くなるものと推定する(ステップS24N,S26)。
【0062】
上記のように、ギャップ変動の挙動と酸素濃度の二極化の方向との関係はシリコン単結晶製造装置1ごとに異なり、例えばある装置ではギャップ変動σが閾値σth以上のときに酸素濃度が相対的に低くなるが、別の装置ではギャップ変動σが閾値σth以上のときに酸素濃度が相対的に高くなることがある。同じシリコン単結晶製造装置であれば、その傾向はほとんど変わらない。そのため、シリコン単結晶製造装置ごとにギャップ変動と酸素濃度の二極化の方向との相関関係を予め特定し、この相関関係に基づいて酸素濃度の二極化の方向を推定する必要がある。
【0063】
次に、酸素濃度の推定結果に基づいて結晶育成条件を調整する(ステップS27)。結晶育成条件としては、石英ルツボの回転速度、チャンバー10(結晶引き上げ炉)内に供給する不活性ガスの流量、チャンバー10内の圧力などを挙げることができる。例えば、石英ルツボの回転速度を増加させることにより酸素濃度を増加させることができ、逆に回転速度を低下させることにより酸素濃度を低下させることができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態によるシリコン単結晶の製造方法は、シリコン単結晶のボディー部育成開始時にギャップを所定のサンプリング周期で計測し、ギャップの変動の大きさからシリコン単結晶の酸素濃度の二極化の方向を推定するので、推定結果に基づいて結晶育成条件を制御してシリコン単結晶の結晶成長方向における酸素濃度のばらつきを小さくすることができる。
【0065】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0066】
例えば、上記実施形態においては、熱遮蔽体と融液面との間のギャップをカメラで計測し、ギャップ変動の挙動からシリコン単結晶中の酸素濃度を推定しているが、本発明はこのような方法に限定されず、融液面をモニタリングして融液面の局所における微小な高さ変動を計測できる様々な方法を採用することができ、融液面の局所の高さ変動の挙動から酸素濃度を推定することができる。
【実施例
【0067】
(実施例1)
直径約310mmのシリコン単結晶の引き上げをHMCZ法により行った。結晶引き上げ工程では、シリコン単結晶のボディー部の開始位置から100mmの位置までの結晶長手方向の範囲を、シリコン単結晶の酸素濃度の二極化の方向を評価する酸素モード評価領域とし、酸素モード評価領域内のギャップ変動をモニタリングし、ギャップ変動の指標である標準偏差σを求めた。なお、熱遮蔽体と融液面との間のギャップは、熱遮蔽体の下端全周にわたって計測することができるが、ギャップ変動の標準偏差σの算出には、熱遮蔽体の下端全周でなく、熱遮蔽体の下端の一部の局所的なギャップの計測値を用いた。
【0068】
ギャップ変動の閾値σth=0.15とし、ギャップ変動が閾値よりも小さい(σ<0.15)の場合に高酸素モード、閾値以上(σ≧0.15)の場合に低酸素モードになるものと過去のシリコン単結晶の引き上げ実績データ(POR)から推定して、それぞれのモードに対して酸素濃度が目標値(12×1017atoms/cm)になるように結晶育成条件(Ar流量・炉内圧)を調整した。
【0069】
結晶育成開始時にはどちらの酸素モードになるか分からないため、高酸素モードになることを前提とした酸素濃度調整パラメータ(Ar流量・炉内圧)を設定した。ボディー部の結晶長L=100mmとなった時点ではσ<0.15であったため、「高酸素モード」になると判断し、酸素濃度調整パラメータ(Ar流量・炉内圧)の設定を結晶成長開始時のまま維持し、ボディー部育成工程を継続した。
【0070】
こうして引き上げられた実施例1によるシリコン単結晶インゴットの酸素濃度の結晶成長方向の分布を評価した。その結果を図9に示す。
【0071】
図9は、実施例1によるシリコン単結晶中の酸素濃度分布をギャップ変動と共に示すグラフであって、横軸は結晶長(相対値)、左縦軸はギャップ変動σ(mm)、右縦軸は酸素濃度(atoms/cm)をそれぞれ示している。図9において、8点の四角のプロットは、酸素モードの推定結果に基づいて結晶育成条件を調整した実施例1によるシリコン単結晶の酸素濃度分布を示している。一方、多数のひし形のプロットは、酸素濃度の推定及び結晶育成条件の調整を行わなかった比較例(従来)によるシリコン単結晶の酸素濃度分布(二極化分布)を示している。さらに、その下の非常に急峻な折れ線グラフは、実施例1によるシリコン単結晶の育成工程中に計測されたギャップ変動の変化を示している。
【0072】
図9から明らかなように、実施例1によるシリコン単結晶の酸素濃度分布は、比較例よりも目標値(ここでは12×1017atoms/cm)に近くなった。
【0073】
(実施例2)
実施例1と同一の結晶引き上げ装置及び結晶引き上げ条件下でシリコン単結晶の引き上げを行った。結晶育成開始時にはどちらの酸素モードになるか分からないため、高酸素モードになることを前提とした酸素濃度調整パラメータ(Ar流量・炉内圧)を設定した。ボディー部の結晶長L=100mmとなった時点ではσ≧0.15であったため、「低酸素モード」になると判断し、酸素濃度調整パラメータ(Ar流量・炉内圧)の設定を低酸素濃度用の調整パラメータに変更し、ボディー部育成工程を継続した。
【0074】
図10は、実施例2によるシリコン単結晶中の酸素濃度分布をギャップ変動と共に示すグラフであって、横軸は結晶長(相対値)、左縦軸はギャップ変動σ(mm)、右縦軸は酸素濃度(atoms/cm)をそれぞれ示している。図10において、9点の四角のプロットは、酸素モードの推定結果に基づいて結晶育成条件を調整した実施例2によるシリコン単結晶の酸素濃度分布を示している。一方、多数のひし形のプロットは、酸素濃度の推定及び結晶育成条件の調整を行わなかった比較例(従来)によるシリコン単結晶の酸素濃度分布(二極化分布)を示している。さらに、その下の非常に急峻な折れ線グラフは、実施例2によるシリコン単結晶の育成工程中に計測されたギャップ変動の変化を示している。
【0075】
図10から明らかなように、実施例2によるシリコン単結晶の酸素濃度分布は、比較例よりも目標値(ここでは12×1017atoms/cm)に近くなった。
【0076】
以上のように、ボディー部の開始位置から結晶長100mmまでの範囲内で計測したギャップ変動の挙動から酸素濃度の高低を事前に予測し、結晶育成条件のチューニング行った場合には、シリコン単結晶中の酸素濃度を目標値に近づけることができた。このようにギャップ変動のモニタリングによりその後の酸素濃度の挙動を推定することにより、シリコン単結晶中の酸素濃度を精度よく制御することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 シリコン単結晶製造装置
2 シリコン融液
2s 融液面
3 シリコン単結晶
3I シリコン単結晶インゴット
3a ネック部
3b ショルダー部
3c ボディー部
3d テイル部
10 チャンバー
10a メインチャンバー
10b プルチャンバー
10c ガス導入口
10d ガス排出口
10e 覗き窓
11 石英ルツボ
12 黒鉛ルツボ
13 回転シャフト
14 シャフト駆動機構
15 ヒーター
16 断熱材
17 熱遮蔽体
17a 熱遮蔽体の開口
18 ワイヤー
19 ワイヤー巻き取り機構
20 カメラ
21 画像処理部
22 制御部
30 磁場発生装置
31A,31B 電磁石コイル
GA ギャップ
HZ 水平磁場
MC 融液対流
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10