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特許7626205自動車窓用合わせガラスの製造方法、自動車窓用合わせガラス、及び自動車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】自動車窓用合わせガラスの製造方法、自動車窓用合わせガラス、及び自動車
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20250128BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20250128BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20250128BHJP
   C03B 23/023 20060101ALI20250128BHJP
   B60J 1/00 20060101ALN20250128BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
C03C19/00 Z
C03C23/00 A
C03B23/023
B60J1/00 H
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023515453
(86)(22)【出願日】2022-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2022017963
(87)【国際公開番号】W WO2022224914
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2024-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2021071142
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021071143
(32)【優先日】2021-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】森田 欣靖
(72)【発明者】
【氏名】永井 久仁子
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-827(JP,B1)
【文献】特公昭47-16827(JP,B1)
【文献】特開2013-159531(JP,A)
【文献】特開平9-309745(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174324(WO,A1)
【文献】特開2004-59419(JP,A)
【文献】特開2019-182692(JP,A)
【文献】特表平10-506367(JP,A)
【文献】国際公開第2021/153654(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/12
C03C 19/00
C03C 23/00
C03B 23/023
B60J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚のガラス板を加熱して曲げ成形する工程(A)と、前記曲げ成形された2枚のガラス板を中間膜を介して貼り合わせる工程(B)とを含む自動車窓用合わせガラスの製造方法であって、
前記工程(A)の前に、平板状の前記2枚のガラス板の少なくとも一方のガラス板を搬送手段によって搬送し、前記少なくとも一方のガラス板の搬送手段対向面、又は前記搬送手段対向面と反対側の非対向面を加傷し、
前記工程(B)において、前記加傷された面が、前記自動車窓用合わせガラスが自動車に取り付けられた時に車内側となるように配置される、自動車窓用合わせガラスの製造方法。
【請求項2】
前記加傷を、
前記加傷された面の強度分布の上位20%の平均の、当該面の前記加傷前の強度分布の上位20%の平均に対する差が50MPa以上となるよう、且つ
前記加傷された面の強度分布の下位10%の平均の、当該面の前記加傷前の強度分布の下位10%の平均に対する差が50MPa以下となるように行い、
前記強度が、当該強度が測定される面の反対側から荷重をかけてISO1288-5(2016)に記載された方法により測定された破壊応力である、請求項1に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
【請求項3】
前記加傷による面の強度分布の上位20%の平均値の低下率が10%以上であり、且つ前記加傷による面の強度分布の下位10%の平均値の低下率が20%以下である、請求項1又は2に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
【請求項4】
前記平板状の2枚のガラス板の前記搬送手段対向面をそれぞれ加傷する、請求項1又は2に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
【請求項5】
前記加傷を前記搬送手段によって行い、
前記搬送手段が複数の搬送ローラから構成されており、前記搬送ローラの少なくとも1つが粗表面を有する、請求項4に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
【請求項6】
前記加傷を前記搬送手段によって行い、
前記搬送手段が複数の搬送ローラから構成されており、少なくとも1つの搬送ローラの角速度、直径、及び高さの1以上が、前記少なくとも1つの搬送ローラに隣接する搬送ローラと異なる、請求項4に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
【請求項7】
前記平板状の2枚のガラス板の前記非対向面をそれぞれ加傷する、請求項1に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
【請求項8】
前記非対向面に加傷具を接触させ、前記非対向面に対して相対的に動かすことによって、前記加傷を行う、請求項7に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
【請求項9】
前記加傷を、研磨剤の存在下で行う、請求項8に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
【請求項10】
前記加傷具と前記非対向面との間に水又は水溶液が介在する、請求項9に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
【請求項11】
車外側ガラス板と車内側ガラス板とが中間膜を介して接合されてなる自動車窓用合わせガラスであって、
前記車外側ガラス板が、車外側の第1面と、車内側の第2面とを有し、
前記車内側ガラス板が、車外側の第3面と、車内側の第4面とを有し、
以下の(条件1)から(条件3)までの1以上を満たす、自動車窓用合わせガラス。
(条件1)ISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力を強度として、
前記第1面の強度分布の上位20%の平均値と、前記第4面の強度分布の上位20%の平均値にとの差が50MPa以上であり、且つ
前記第1面の強度分布の下位10%の平均値と、前記第4面の強度分布の下位10%の平均値との差が50MPa以下である
(条件2)ISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力を強度として、
前記第1面の強度分布の上位20%の平均値と、前記第2面の強度分布の上位20%の平均値との差が50MPa以上であり、且つ
前記第1面の強度分布の下位10%の平均値と、前記第2面の強度分布の下位10%の平均値との差が50MPa以下である
(条件3)ISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力を強度として、
前記第3面の強度分布の上位20%の平均値と、前記第4面の強度分布の上位20%の平均値との差が50MPa以上であり、且つ
前記第3面の強度分布の下位10%の平均値と、前記第4面の強度分布の下位10%の平均値との差が50MPa以下である
【請求項12】
車外側ガラス板と車内側ガラス板とが中間膜を介して接合されてなる自動車窓用合わせガラスであって、
透過領域の、車外側から荷重をかけてISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力分布の上位20%の平均値が、500MPa以下である、請求項11に記載の自動車窓用合わせガラス。
【請求項13】
フロントガラスである、請求項11又は12に記載の自動車窓用合わせガラス。
【請求項14】
請求項11又は12に記載の自動車窓用合わせガラスを搭載した自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車窓用合わせガラスの製造方法、自動車窓用合わせガラス、及び自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車には、乗員保護の観点のみならず、歩行者との衝突時における歩行者の身体保護という観点からも安全性能が要求されている。このような要求に対し、例えば特許文献1では、歩行者が自動車に前突した場合にカウルルーバー及びウインドシールドガラスの周りに対して前方から下方への衝撃が加わった時に、繋がれたカウルルーバーとウインドシールドとが切り離されることで、歩行者の身体保護性能を確保した構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-213928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近の事故調査によれば、自転車、二輪自動車等の乗員(サイクリスト)が自動車に前突した場合にサイクリストの身体が自動車に衝突する位置は歩行者よりも高く、すなわち主としてウインドシールド(フロントガラス)となりやすいことが報告されている。さらに、歩行者であっても、フロントノーズが短い近年の自動車の構造に起因して、歩行者の身体がウインドシールドに衝突することが増えている。したがって、ウインドシールド等の窓ガラス自体にも、歩行者及びサイクリスト(以下、歩行者等ともいう)に対する身体保護性能の向上が求められている。ここで、ウインドシールド等の自動車窓用合わせガラスの身体保護性能を向上させるためには、衝突時にガラス板が適切に割れることによって、ガラス板自体が衝撃を吸収し、さらにガラス板間に介在する中間膜にも衝撃吸収、貫通阻止の機能を発揮させることによって、歩行者等の身体へ衝撃・損傷を低減することが重要である。
【0005】
しかしながら、ガラス板には元来、面内で強度分布があることが知られており、ガラス板の強度は、安全率、破損確率等によって確率論的に規定されるのが通常である。よって、窓ガラス全体として強度が適切であったとしても、窓ガラスの面内に強度が過剰に高い領域(以下、高強度域ともいう)が局在することがあり、そのような高強度域に歩行者等が衝突した場合には、窓ガラスが割れにくいため、窓ガラスが衝撃を吸収することができず、また中間膜が機能を発揮することもできないので、人体に損傷を与える可能性が大きくなり得る。
【0006】
上記のような高強度域における強度を低下させるために、ガラスの組成や製法を変更することによって、自動車窓用ガラスの強度を全体的に低下させることも考えられる。しかしながら、その場合には、面内の強度が比較的低い領域でも強度が低下してしまうため、自動車窓用ガラスとして必要な堅牢性を確保できなくなる可能性がある。よって、強度が過剰に大きい領域を低減又は排除して面内での強度分布をできるだけ均一にすることで、上述のような歩行者等身体保護の観点から衝突時の安全性能の高い自動車窓用ガラスが求められている。
【0007】
本発明の一態様は、自動車窓用ガラスとして必要な堅牢性を有するとともに、衝突時の歩行者等に対する身体保護性能の高い自動車窓用合わせガラスを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、2枚のガラス板を加熱して曲げ成形する工程(A)と、前記曲げ成形された2枚のガラス板を中間膜を介して貼り合わせる工程(B)とを含む自動車窓用合わせガラスの製造方法であって、前記工程(A)の前に、平板状の前記2枚のガラス板の少なくとも一方のガラス板を搬送手段によって搬送しつつ、前記少なくとも一方のガラス板の搬送手段対向面を前記搬送手段によって加傷し、前記工程(B)において、前記ガラス板の前記搬送手段対向面が、前記自動車窓用合わせガラスが自動車に取り付けられた時に車内側となるように配置される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、自動車窓用ガラスとして必要な堅牢性を有するとともに、衝突時の歩行者等に対する身体保護性能の高い自動車窓用合わせガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態による合わせガラスを備えた自動車の正面図である。
図2図1に示された合わせガラスの断面図である。
図3】本発明の実施形態aによる合わせガラスの製造方法の一例のフロー図を示す。
図4】実施形態aで用いられる搬送手段の一例の模式図である。
図5】搬送ローラの一例を説明する図である。
図6】搬送ローラの一例を説明する図である。
図7】搬送手段の加傷機能の一例について説明する図である。
図8】搬送手段の加傷機能の別の例について説明する図である。
図9】本発明の実施形態bによる合わせガラスの製造方法の一例のフロー図を示す。
図10】実施形態bで用いられる加傷処理の一例を示す模式図である。
図11】例a1-1及び例a1-2の強度の頻度分布を示す図である。
図12】例a2-1及び例a2-2の強度の頻度分布を示す図である。
図13】実験aの結果を示すグラフである。
図14】例b1-1及び例b1-2の強度の頻度分布を示す図である。
図15】例b2-1及び例b2-2の強度の頻度分布を示す図である。
図16】実験bの結果を示すグラフである。
図17】実験cの結果を示すグラフである。
図18】実験cの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<合わせガラスの基本構造>
まず、自動車窓用合わせガラスの基本的な構造について説明する。図1に、本発明の一実施形態によって製造される自動車窓用合わせガラス1が、自動車100の窓ガラスとして用いられている例を示す。図1の例では、自動車窓用合わせガラス1は、自動車100の車体正面の開口(窓)に装着されたガラス、すなわちフロントガラスであるが、本形態による自動車窓用合わせガラス1は、フロントガラス以外の窓ガラス、例えば、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラスとして用いることもできる。
【0012】
図2に、図1に示す自動車窓用合わせガラス1の部分断面図を示す。図2に示すように、自動車窓用合わせガラス1は、車外側ガラス板10と車内側ガラス板20とが中間膜30を介して接合されたものであってよい。図2に示すように、車外側ガラス板10は、車外側の面である第1面11と、車内側の面である第2面12とを有し、車内側ガラス板20は、車外側の面である第3面21と、車内側の面である第4面22とを有する。
【0013】
合わせガラス1における車外側ガラス板10及び車内側ガラス板20(以下、合わせて単にガラス板ともいう)を構成する材料は、無機ガラスが好ましい。無機ガラスとしては、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス等が挙げられる。無機ガラスからなるガラス板の成形法は特に限定されないが、ガラス板は、例えばフロート法等により成形されたものであると好ましい。また、ガラス板は、未強化ガラス(生ガラス)であってよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したガラスであり、風冷強化処理、化学強化処理等の強化処理が施されていないものである。未強化ガラスを用いることによって、ガラスが衝撃を受けて割れた場合であっても全面が細かく粉砕せず、事故発生時にも乗員の視界を確保できる。
【0014】
車外側ガラス板10及び車内側ガラス板20の厚みは同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。車外側ガラス板10の厚みは1.1mm以上3.5mm以下であってよい。また、車内側ガラス板20の厚みは、0.5mm以上2.3mm以下であってよい。さらに、自動車窓用合わせガラス1全体の厚みは、2.3mm以上8.0mm以下とすることができる。なお、車外側ガラス板10及び車内側ガラス板20の構成(ガラス板を構成する材料、ガラス板の製法等)も同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0015】
車外側ガラス板10と車内側ガラス板20との間に配置され、車外側ガラス板10と車内側ガラス板20とを接合させる中間膜30の材料は特に限定されないが、熱可塑性樹脂であると好ましい。中間膜30の材料としては、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、アイオノマー樹脂等の、従来から等用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。また、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。上記の熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0016】
中間膜30は、可塑剤を含有していない樹脂、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂等であってもよい。上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(PVB)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適な材料として挙げられる。なお、上記の樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0017】
自動車窓用合わせガラス1の周縁には、自動車窓用合わせガラス1を車体に接着して保持するシーラント等を保護するための遮蔽層が設けられていてよい。遮蔽層は、例えば、黒色顔料を含有する溶融性ガラスフリットを含む、黒色、灰色、茶褐色等の低明度色のセラミックカラーペーストを塗布し、焼成することによって形成できる。遮蔽層は、自動車窓用合わせガラス1の第2面12、第3面21、及び第4面22(図2)の1以上、好ましくは第2面12及び第4面22の少なくとも一方の周縁に形成されていてよい。遮蔽層は、ガラス板の周縁端から10mm以上300mm以下までにわたって設けられていてよい。
【0018】
図2に示すように、自動車窓用合わせガラス1は、全体として又は部分的に車外側に凸となるように湾曲していてよい。この場合、車外側ガラス板10及び車内側ガラス板20が、後述の曲げ成形工程によってそれぞれ、一方向又は二方向に所望の所定の曲率に加工され、湾曲され得る。
【0019】
<自動車窓用合わせガラスの製造方法>
・実施形態a
本発明の一実施形態である実施形態aによる自動車窓用合わせガラスの製造方法について説明する。図3に、実施形態aによる自動車窓用合わせガラスの製造方法の一例のフロー図を示す。図3に示すように、実施形態aによる製造方法は、平板状のガラス板を曲げ成形する工程(A)と、曲げ成形された2枚のガラス板を貼り合わせる工程(B)とを含む。そして、本製造方法は、曲げ成形工程(A)の前工程として、曲げ成形工程(A)に供される平板状ガラス板を準備する工程(p)を含む。
【0020】
図3に示すように、上記の平板状ガラス板準備工程(p)は、フロート法、ロールアウト法等によって長尺の帯状ガラス板を製造し(p1)、その帯状ガラス板を徐冷し(p2)、帯状ガラス板から素板を切り出し(p3)、素板を所望の外形に切断し(p4)、面取りし(p5)、洗浄し(p6)、遮蔽層を印刷すること(p7)を含んでいてよい。これらの工程p1~p7は一例であって、個々の工程p1~p7の順序は部分的に変わっていてもよい。また、これらの工程の一部は変更又は省略されていてもよいし、工程p1~p7以外の追加的な工程が、工程p1~p7の任意のタイミングに含まれていてもよい。例えば、洗浄工程(p6)とは別の1以上の追加洗浄工程が、徐冷工程(p2)の終了後、面取り(p5)までの任意のタイミングで追加されていてもよい。
【0021】
従来、自動車窓用合わせガラスには、安全性に関連する様々な特性及び機能が要求されてきたが、その要求はますます大きくなっている。特に近年、乗員保護の観点のみならず、歩行者等(歩行者、サイクリスト等)が衝突した場合の歩行者等の身体保護という観点が重要視されている。自動車窓用合わせガラスも、自動車の窓ガラスとしての適切な堅牢性を有することを前提とした上で、頭部損傷基準(Head Injury Criterion(HIC))のような具体的な基準を満たすことも求められている。例えば、自動車窓用合わせガラスの所定領域で、1,000未満、好ましくは650未満といったHIC値が求められる場合がある。ここで、衝突時の歩行者等の身体保護性能を向上させるためには、自動車窓用合わせガラスにおいて強度が過剰に高い領域(高強度域)が低減又は排除されていて、面方向にわたっての強度の分布が抑えられている(強度分布が狭くなっている)、すなわち面内の強度ができるだけ均一化若しくは平準化されいていることが重要である。
【0022】
これに対し、本形態による自動車窓用合わせガラスの製造方法は、曲げ成形工程(A)の前に、平面状のガラス板の表面を加傷することを含む。本明細書において、「加傷」とは、ガラス板の表面に微細なクラック(マイクロクラックともいう、視認できないマイクロメートルオーダー以下の微細なクラック)を形成する処理である。本形態では、ガラス板の表面を加傷することによって、ガラス板、及び当該ガラス板を用いて得られる合わせガラスの強度を、面方向にわたって均一化若しくは平準化することができる。もともと製造後のガラス板の表面には、微細なクラックが存在していて、この微細なクラックの偏在が自動車窓用ガラスの強度のバラツキの要因と言われているが、本形態による製造方法によれば、加傷によってガラス板の表面に新たに微細なクラックを導入することで、強度が過剰に高い領域(高強度域)の強度を低下させることができると考えられる。また、一方で、本形態における加傷によって、強度が比較的低い領域(低強度域)の強度をさらに低下させることがないか、又はほとんど低下させない処理である。したがって、本形態における加傷処理を行うことで、ガラス板若しくは得られる合わせガラスの面内の強度を均一化させることができるとともに、自動車窓用ガラスとして必要とされる強度も維持される。その結果、自動車窓用ガラスとしての必要な堅牢性を有しつつも、歩行者等が衝突した場合にも歩行者等の身体安全の確保ができる性能を備えた自動車窓用合わせガラスを提供することができる。
【0023】
また、本形態では、上記の加傷処理は、合わせガラスとなる2枚の平板状の板ガラスの少なくとも一方の、自動車に取り付けた際に車内側となる面に行われる。例えば、歩行者等が車外側から自動車のフロントガラスに衝突した場合、その衝突の衝撃は、最外面である車外側ガラス板10の第1面11から最内面である車内側ガラス板20の第4面22(図2)へと順次伝わっていく。この時、車外側ガラス板10においては、第1面11には面積を収縮させる圧縮力に対する圧縮応力が発生し、反対に第2面12には面積を拡張させる引張力に対する引張応力が発生するので、車外側ガラス板10は車内側の第2面12の方から割れが始まりやすい。そのため、衝突時に第2面12が適切に割れやすくなっていること、すなわち第2面12において局所的に強度が過剰に高くなっている高強度域がない又は少ないことが好ましい。同様に、車内側ガラス板20に着目すると、第3面21には面積を収縮させる圧縮力に対する圧縮応力が発生し、第4面22には面積を拡張させる引張力に対する引張応力が発生するので、車内側ガラス板20は車内側の第4面22の方から割れが始まりやすい。そのため、衝突時に第4面22が適切に割れやすくなっていること、すなわち、第4面22において局所的に強度が過剰に高くなっている高強度域がない又は少ないことが好ましい。したがって、本形態では、衝突時の歩行者等の身体保護の観点から、車外側ガラス板10の車内側の第2面12、及び車内側ガラス板20の車内側の第4面22の少なくとも一方を加傷処理する。さらに、第2面12及び第4面22のどちらか一方であれば、衝突時の衝撃の影響がより大きい第2面12を加傷処理することがより好ましく、第2面12及び第4面22の両方を加傷処理することがさらに好ましい。
【0024】
本形態における加傷処理が施されるガラス板は、曲げられる前の平板状の状態である。すなわち、ガラス板の湾曲面ではなく、ガラス板の平面に対して加傷処理を行う。加傷処理は、面内の強度をより均一化するためにはガラス板の面の全体にわたって行うことが好ましいが、ガラス体の湾曲面に対して満遍なく加傷処理を行うとした場合には、湾曲面のカーブに応じて、加傷手段を対向させる方向や加傷手段自体を変更したりする必要が生じ、工程が煩雑になりやすい。さらに、本形態では、加傷処理は、後に行う貼合せ工程(B)で合わせガラスが得られた時に車内側となる面、上述のように第2面12及び第4面22の少なくとも一方に施されるが、車内側の面は凹面である(図2)。そして、凹面を処理しようとした場合、湾曲面のカーブに応じて加傷を行うことがさらに難しく、加傷手段の構成に制限が生じやすい。よって、凹面の加傷では、加傷処理されない領域ができて高強度域が残ってしまったり、逆に強く傷がついて過度に強度が低下して必要な堅牢性が得られなかったりする可能性がある。これに対し、ガラス板の平面に対する加傷は、面の湾曲を考慮する必要がないため比較的容易であり、加傷手段を構成するための手間及びコストを抑えることができる。
【0025】
実施形態aにおいては、上述の加傷処理を、平板状ガラス板の準備工程(p)における搬送手段によって行うことができる。
【0026】
搬送手段は、平板状ガラス板の準備工程(p)において、帯状ガラス板又はガラス板を所定方向に移動させ、1つの処理装置から次の処理装置まで運ぶ手段である。搬送手段は、準備工程(p)を通して連続した手段であってもよいし、不連続になっていてもよい。本形態における搬送手段は、帯状ガラス板又はガラス板を下から支持して搬送する搬送手段が好ましい。搬送手段の具体例としては、ローラコンベア、ベルトコンベア等が挙げられる。このうち、搬送速度の制御が容易であること等から、平板状ガラス板準備工程(p)の製造ラインの少なくとも一部において、ローラコンベアが使用されていると好ましい。ローラコンベアによって、ガラス板を0.01m/s以上2m/s以下の速度で搬送することができる。
【0027】
図4に、搬送手段の一例としてのローラコンベア50を模式的に示す。図4に示すように、ローラコンベア50は、それぞれ搬送方向Dtに直交する方向に延在しており、搬送方向Dtに並列されている複数の搬送ローラ51、51、…を備えている。平板状のガラス板G、G、…は、このような搬送ローラ51、51、…の上に載置され、搬送ローラ51、51、…によって支持される。そして、複数の搬送ローラ51、51、…の少なくとも一部が回転駆動されており、搬送ローラ51、51、…の周表面と、ガラス板G、G、…のローラコンベア(搬送手段)50に対向する搬送手段対向面との接触により生じる摩擦力によって、平板状のガラス板G、G、…が搬送方向Dtに運ばれていく。本形態では、このような搬送ローラ51、51、…の少なくとも一部が、従来の搬送機能に加え、上述の加傷処理のための加傷機能を有している。なお、図4の例では、切出し工程(p3)で切り出された素板からフロントガラス用の形状に切断された後(外形切断工程p4の後)おけるガラス板G、G、…を搬送する搬送手段が示されている。
【0028】
ガラス板の搬送手段としてのローラコンベアでは、搬送ローラの半径は、搬送されるガラス板の大きさ、厚み等にもよるが、10mm以上20cm以下程度であってよい。搬送ローラは少なくともその表面の素材が、ゴム状体(ゴム等の、ガラスに対して摩擦抵抗の大きく、弾性を有する材料)から構成されているものが好ましい。例えば、金属、樹脂等から形成された軸体に、搬送ローラの軸線方向Da(図4のローラコンベアでは搬送方向Dtに直交する方向)に連続するシート状のゴム状体が巻かれていたり、帯状若しくは紐状のゴム状体が螺旋状に、軸線方向Daに不連続に巻かれていたり、リング状のゴム状体が軸線方向Daに離間して又は離間せずにローラ軸部に装着されたりしていてよい。このように、ゴム状体が軸体の周面に配置され、ガラス板と接する構成とすることで、滑り止め、ガラス板の窓ガラスとしての強度を損ねるような傷を防止するなどの役割を担っている。また、搬送ローラ全体がゴム状体から構成されていてもよい。
【0029】
図5及び図6に、軸体の周面にゴム状体が配置された搬送ローラ51の例を示す。図5及び図6に示すように、ゴム状体を含む搬送ローラの場合には、搬送ローラ51の直径D及び半径rはそれぞれ、ゴム状体を含めた構成における直径及び半径を指す。
【0030】
図5に示す例では、軸体515の周りに、断面略円形の紐状のゴム状体511が螺旋状に巻き付けられている。この場合、ゴム状体511は、軸線方向Da(搬送方向Dtと直交する方向)で見て、500mm以下の間隔dを置いて離間して巻き付けられていると好ましい。ゴム状体511の軸線方向Daでの長さ(幅)wは、2mm以上50mm以下であってよい。なお、上記幅wは、平板状ガラス板の搬送中、ゴム状体が連続してガラス板に接触する軸線方向Daの長さ(幅)であってよい。
【0031】
また、図6に示す例では、軸体515の周りにリング状若しくは筒状のゴム状体511、511、…が複数、所定間隔で離間して装着されている。この場合、複数のゴム状体511同士の軸線方向Daでの間隔dは500mm以下であってよい。なお、図6に示す搬送ローラ51の場合には、このような加傷機能を備えた搬送ローラが複数あることが好ましい。さらに、複数の搬送ローラ同士で、ゴム状体511、511、…の位置が軸線方向Daでずれていると、平板状ガラス板を軸線方向Daにわたって、より満遍なく加傷できるので好ましい。
【0032】
また、隣接する搬送ローラ同士は接していても離間していてもよく搬送ローラ同士が離間している場合には、搬送ローラ間の間隔は50cm以下であってよい。なお、通常の搬送手段として用いられる搬送ローラの角速度は、搬送ローラの径や搬送されるガラス板の状態にもよるが、0.2rad/s以上40rad/s以下である。
【0033】
本製造方法における加傷は、平板状ガラス板を準備する工程(p)において行うが、より具体的には、上述の徐冷工程(p2)の後であり、且つ曲げ成形工程(A)の前までの任意のタイミングで行うことができる。すなわち、加傷は、搬送手段によって平板状ガラス板の搬送手段対向面に対して行うのであれば、徐冷工程(p2)の後、ガラス板の切出し工程(p3)、所望外形への切断工程(p4)、面取り工程(p5)、洗浄工程(p6)、及び遮蔽層印刷工程(p7)の1以上(図3)において、又はこれらの1以上の工程の前若しくは後で行うことができる。但し、遮蔽層印刷工程(p7)において遮蔽層の焼き付け時、及びその後の冷却時は除くことが好ましい。また、加傷は、1つの工程と後続の工程との間にガラス板で搬送されている際に行うことができる。特に、ガラス板の切出し工程(p3)から洗浄工程前(p6)との間で行うと、研磨で生じた目に見えないガラス粉などが付着していても洗浄により取り除けるので好ましい。また、加傷処理は、徐冷工程(p2)の終了後且つ曲げ成形工程(A)の開始前までであれば、2以上のタイミングで行ってもよい。
【0034】
搬送手段としてローラコンベア50(図4)を用いる場合、ローラコンベアの加傷機能は、例えば、複数の搬送ローラ51、51、…のうちの少なくとも1つの搬送ローラの回転速度、直径、及び高さの1以上を、当該少なくとも1つの搬送ローラに隣接する搬送ローラと異ならせることによって得ることができる。
【0035】
例えば、図7に、加傷機能を備えたローラコンベア50の一例の断面を模式的に示す。図7に示すように、1つの搬送ローラ51aの角速度若しくは回転速度(駆動速度)ω’を、当該1つ搬送ローラに隣接する搬送ローラ51の角速度ωに対して0.3%以上5%以下だけ、好ましくは0.5%以上2%以下だけ大きくなるよう又は小さくなるように調整しておくことができる。すなわち、(|ω’-ω|/ω)×100の値を上記範囲の割合とすることができる。この場合、1つの搬送ローラの角速度を、当該1つの搬送ローラの下流側に隣接する搬送ローラの角速度に対して上記範囲の割合だけ大きくすると好ましい。或いは、1つの搬送ローラの角速度を、当該1つの搬送ローラの上流側に隣接する搬送ローラの角速度に対して上記範囲の割合だけ小さくすると好ましい。
【0036】
また、角速度を異ならせる搬送ローラ51aは、連続して配置された又は不連続の複数の搬送ローラであってもよい。よって、1つ又は複数の搬送ローラの角速度を、当該1つ又は複数の搬送ローラの上流側に隣接する搬送ローラ及び/又は下流側に隣接する搬送ローラの速度に対して、上記範囲の割合だけ大きく又は小さくするよう調整できる。
【0037】
また、図8に、加傷機能を備えたローラコンベアの別の例の断面を模式的に示す。図8に示すように、例えば1つの搬送ローラ51bの半径r'を、当該1つの搬送ローラ51bに隣接する搬送ローラ51の径rよりも、5μm以上2mm以下だけ、好ましくは10μm以上1mm以下だけ大きくなるよう調整しておくことができる。すなわち、r'-rが上記範囲の値となるよう調整できる。ここで、搬送ローラの半径r、r'は、ゴム状体が軸体の周囲に配置された形態の場合には、上述のように、ゴム状体を含めた半径である(図5及び図6)。
【0038】
図8に示す例の場合、1つの搬送ローラの半径を、当該1つの搬送ローラの下流側の搬送ローラ及び上流側の搬送ローラの両方の半径より所定の値で大きくなるようにしておくことが好ましい。なお、半径を異ならせる搬送ローラ51bは、連続して配置された又は不連続の複数の搬送ローラであってもよい。図8に示すように、半径の異なる搬送ローラ51bは、Δrの分だけ隣接する搬送ローラよりもガラス板側に突出することになるので、ガラス板が搬送ローラ51bを通過する際には、ガラス板の自重を、隣接する他の搬送ローラ51、51、…よりも搬送ローラ51bで多く受けることになり、搬送ローラ51bが回転する際に搬送手段対向面をより強い力で擦ることになり、加傷することができる。
【0039】
同様の効果が、搬送ローラの半径を変えずに、1つ又は複数の搬送ローラの高さ(位置)を、当該1つ又は複数の搬送ローラの高さよりも、5μm以上2mm以下だけ、好ましくは10μm以上1mm以下だけ大きくなるよう調整しておくことでも得られる。
【0040】
搬送ローラの表面の粗面化は、例えば粗面を有する被覆シートで被覆することによって得ることが可能である研磨剤や研磨紙等によって搬送ローラの表面を全て又は部分的に擦ることによって得ることができる。加傷機能を備えたローラコンベア(搬送手段)は、複数の搬送ローラの少なくとも1つの表面を粗面化する、別の言い方をすると、少なくとも1つの表面に凹凸を形成することによっても得ることができる。粗面化の度合は、加傷しようとするガラス板の種類、帯状ガラス板又はガラス板の大きさや形状等にもよるが、搬送ローラは、JIS B 0601-2013に規定される算術平均粗さRaが0.02μm以上100μm以下となる粗面を有するよう構成できる。
【0041】
搬送ローラの表面の粗面化は、例えば搬送ローラの表面を、研磨剤や研磨紙等によって搬送ローラの表面を全て又は部分的に擦ることによって得ることができる。或いは、搬送ローラの表面に微細な粉体を付着させて固定化したりすることによっても可能である。または、通常使っている表面のゴム状体物質を加傷目的の粉体を練りこんだゴム状体に変更することもできる。さらに、搬送ローラの表面の全て又は一部を、粗面を有する被覆シートで被覆することによっても可能である。被覆シートは、樹脂、ゴム、繊維含有材料(織物、編み物、不織布、紙等)等からなるシートであって表面が粗されているもの、又はこのようなシートの表面に微細な粉体を付着させて固定化したものであってよい。
【0042】
上記の粗面を有するシートは、搬送ローラの、加傷しようとする帯状ガラス板又はガラス板の幅の全体に対応する範囲にわたって設けることが好ましい。その場合、搬送ローラの表面全体に、すなわち、搬送ローラの軸方向にわたって全体又はほぼ全体に設けることができる。また、粗面を有するシートは、搬送ローラの周方向全体にわたって設けられていなくともよく、例えば帯状又は紐状のシートを、搬送ローラの表面に螺旋状に巻き付けることによって設けることもできる。
【0043】
搬送ローラが、軸体の周面にゴム状体が設けられた形態の場合には(図5及び図6等)、搬送ローラにつけられているゴム等の滑りにくい材料(ゴム状体)を介してガラスに接触する場合には、接触するゴム状体の表面を、粗面を有する被覆シートで被覆することによって得ることが可能である。或いは、ゴム状体の表面に微細な粉体を付着させて固定化したりすることによっても可能である。さらに、搬送ローラ上のゴム状体の中に粒子等の研磨剤等を練りこんだものを用いることも可能である。被覆シートは、樹脂、ゴム、繊維含有材料(織物、編み物、不織布、紙等)等からなるシートであって表面が粗されているもの、又はこのようなシートの表面に微細な粉体を付着させて固定化したものであってよい。
【0044】
上記の微細な粉体を付着させて固定化したシートには、シリカ、砂、セラミックス等の硬質の研磨粒子が固定されてなるシート、例えばサンドペーパーも含まれる。サンドペーパーを用いる場合には、その番手は、好ましくは♯600以上♯15000以下、より好ましくは♯600以上♯12000以下、さらに好ましくは♯600以上♯8000以下であってよい。また、サンドペーパーの上記番手の範囲では、目が粗いもの(番手が小さいもの)を使用するほど、加傷効果は向上する。但し、サンドペーパーを用いる場合、特に♯2000以下のサンドペーパーを用いる場合には、サンドペーパーをガラス板に対して相対的に動かさずに、使用することが好ましい。
【0045】
上述の搬送手段による加傷は、ガラス板の面内の強度がより均一化されるように行われる処理である。よって、加傷処理は、平板状のガラス板の面内の強度の分布又はバラツキを抑える処理であるといえる。別の言い方をすると、ガラス板の面内の複数の領域においてそれぞれ測定された強度値(破壊応力又は曲げ強度)の分布を求めた場合に、その分布が狭まるように調整する処理といえる。加えて、本形態による製造方法において行う加傷では、窓ガラスとしての十分な堅牢性を満たすような強度も維持できる。よって、例えば、ガラス板の面を複数の領域に区切り、各領域の強度を測定して強度の頻度分布を求めた場合、加傷処理によって、強度が高い分布領域は強度が低い方向にシフトし、且つ強度が低い分布領域の位置はあまり変化がないという結果が得られる。或いは、加傷処理によって、強度の最高値は低い方にシフトし、強度の最低値はあまり変化しないとう結果が得られる。
【0046】
なお、本形態における加傷処理の効果は、ガラス板若しくは合わせガラスを長期間保管した場合には、多少低下し得るが、保管の温度及び/又は湿度の条件に関わらず、衝突時の人に対する身体保護性能を確保するのに十分な程度維持できる。また、加傷処理の効果は、曲げ成形のための加熱炉の温度と同等の温度まで加熱しても、同様に、十分に維持できる。
【0047】
加傷処理は、加傷された面の強度分布の上位20%の平均の、当該面の加傷前の強度分布の上位20%の平均に対する差が50MPa以上となるよう、且つ加傷された面の強度分布の下位10%の平均の、当該面の加傷前の強度分布の下位10%の平均に対する差が50MPa以下となるように行うことができる。また、加傷による面の強度分布の上位20%の平均値の低下率が10%以上であり、且つ加傷による面の強度分布の下位10%の平均値の低下率が20%以下である、ように行うことができる。
【0048】
さらに、加傷の前後での搬送手段対向面の強度の分布をそれぞれ求めた場合、加傷による搬送手段対向面の強度分布の上位20%の平均値の低下率RU20が10%以上、好ましくは20%以上となり、且つ加傷による搬送手段対向面の強度分布の下位10%の平均値の低下率RL10が20%以下、好ましくは10%以下であるように加傷することができる。ここで、
低下率RU20(%)={(SbU20-SaU20)/SbU20}×100
SbU20:加傷前の搬送手段対向面の強度分布の上位20%の平均値
SaU20:加傷後の搬送手段対向面の強度分布の上位20%の平均値
低下率RL10(%)={(SbL10-SaL10)/SbL10}×10
SbL10:加傷前の搬送手段対向面の強度分布の下位10%の平均値
SaL10:加傷後の搬送手段対向面の強度分布の下位10%の平均値
である。
【0049】
上記の強度の測定方法は、加傷の前後での測定条件が同じであれば、特に限定されないが、後述のISO1288-5(2016)に記載されたR30を用いた方法により測定、計算することができる。
【0050】
このように、本形態における加傷処理は、強度分布の上位20%以上の平均値が大きく下がるよう、すなわち強度が過度に高い領域が減るよう、且つ強度分布の下位10%以下の平均値、すなわち強度が低い領域の強度が過度に低くなっていたりそのような領域が過度に増えていたりしないように行うことができる。
【0051】
さらに、加傷の前後での搬送手段対向面の強度の分布をそれぞれ求めた場合、加傷前の搬送手段対向面の強度分布の上位20%の平均(SbU20)と、加傷後の搬送手段対向面の強度分布の上位20%の平均(SaU20)との差(SbU20‐SaU20)が50MPa以上、好ましくは70MPa以上であり、且つ加傷前の搬送手段対向面の強度分布の下位10%の平均(SbL10)の、加傷後の搬送手段対向面の強度分布の下位10%の平均(SaL10)との差(SbL10‐SaL10)が50MPa以下、好ましくは30MPa以下となるように、加傷することができる。この場合の強度も、ISO1288-5(2016)に記載されたR30を用いた方法により測定される破壊応力とすることができる。
【0052】
また、加傷されたガラス板の搬送手段対向面と、当該搬送手段対向面と反対側の加傷されていない非対向面(図4のF2)とでそれぞれ、強度の分布を求めた場合、非対向面の強度分布の上位20%の平均(SnU20)と、搬送手段対向面の強度分布の上位20%の平均(SfU20)との差(SnU20‐SfU20)が50MPa以上、好ましくは70MPa以上であり、且つ非対向面の強度分布の下位10%の平均(SnL10)と、搬送手段対向面の強度分布の下位10%の平均(SfL10)との差(SnL10‐SfL10)が50MPa以下、好ましくは30MPa以下となるように、加傷することができる。この場合、上記強度は、ISO1288-5(2016)に記載されたR30を用いた方法により測定される破壊応力とすることができる。
【0053】
ISO1288-5(2016)に記載された方法では、所定径を有する支持リング上に試験対象となるガラス板を載せ、その上から支持リングより小さい所定径を有する荷重リングにより荷重を徐々に増大させ、破壊時の荷重を測定する。荷重は、強度を求めたい面とは反対側から荷重をかける。そして、得られた測定値から、ISO1288-5(2016)に記載の所定式に基づき、破壊応力値を求める。ここで、面内の強度分布を求めるには、ガラス板を所定の大きさに切り出して分割し、分割された領域毎に破壊応力を測定することができる。その際、分割後(切出し後)のガラスの大きさは特に限定されないが、60mm~300mm×60mm~300mmであってよい。また、強度分布を求めるための分割サンプルの枚数は、好ましくは30以上、より好ましくは50枚以上であってよい。なお、測定対象が平板ではなく、湾曲したガラス板又は合わせガラスの場合には、切り出された湾曲した領域の破壊応力を測定することになる。その場合の測定・計算では、上記ISOに記載の所定式を用いず、応力測定により近似式を導いた上で、その近似式に測定値を代入することにより破壊応力値を求めることができる。
【0054】
上述の搬送手段による加傷は、ガラス板の搬送手段対向面と搬送手段との間に、水又は水溶液を介在させて行うこともできる。水又は水溶液は、加傷の前に搬送手段の表面に塗布、散布、又は噴霧することができる。但し、洗浄工程(図3の工程6、又は工程6以外の洗浄)において加傷を行う場合には、洗浄液(洗剤液及び濯ぎ液を含む)がガラス板と搬送手段との間に介在しているので、水又は水溶液を追加する必要はない。
【0055】
図3に示すように、本形態では、上記のような搬送手段による加傷を含む準備工程(p)の後に曲げ成形工程(A)を行う。この曲げ成形工程(A)は、平板状のガラス板を軟化点近傍にまで若しくは軟化点以上に加熱することによって湾曲させる工程である。この曲げ成形は、ガラス板をリング型上に載置して加熱炉内でガラス板の自重によってガラス板を曲げる重力曲げ成形であってもよいし、リング型(下型)とプレス型(上型)とによってガラス板を挟んで押圧することによって行うプレス曲げ成形であってもよいし、それらの組合せであってもよい。
【0056】
曲げ成形工程(A)では、ガラス板を単独で曲げ成形してもよいし、後続の貼合せ工程(B)で貼り合わせられる2枚のガラス板が重ねられ、その重ねられた状態で曲げ成形してもよい。いずれの場合でも、ガラス板は多くの場合、下側(鉛直方向下側)に凸となるように湾曲せしめられる。ここで、平板状ガラス板の準備工程(p)では、上述のように、2枚のガラス板の少なくとも一方の搬送手段対向面(下向きの面)に加傷がされている。一方、フロントガラス等に用いられる湾曲した合わせガラスにおいては、凹面となる車内側の面(第2面12及び/又は第4面22)が加傷されていることが好ましい。よって、水平に置かれた状態で成形される場合には、本形態による方法では、準備工程(p)において、搬送手段による加傷処理が行われた後、加傷されたガラス板を裏返すことが好ましい。これにより、加傷された面が鉛直方向上側を向き、向きのままで曲げ成形工程(A)に送られて曲げ成形されれば、凹面に加傷処理がされたガラス板が得られる。
【0057】
曲げ成形時のガラスの加熱温度は、約550℃以上700℃以下であってよい。曲げ成形工程(A)は、平板状のガラス板を、一方向にのみ、例えば自動車の開口に取り付けた場合に自動車の左右方向又は上下方向にのみ曲げ加工する単曲曲げ成形であってよいし、左右方向及び上下方向に曲げ加工した複曲曲げ成形であってもよい。曲げ成形工程(A)によって得られるガラス板の曲率半径は、200mm以上30,000mm以下であってよい。また、自動車窓用合わせガラス1における車外側ガラス板10及び車内側ガラス板20の曲率半径は同じであってもよいし、異なっていてもよい。なお、本形態の上述の加傷処理の効果は、上記の曲げ成形時の加熱を経た後でも維持できる。
【0058】
上記貼合せ工程(B)は、曲げ成形工程(A)で曲げ成形された2枚のガラス板を、中間膜を介して接合させ、合わせガラスを得る工程である。貼合せ工程(B)では、ガラス板の、準備工程(p)で加傷された際に搬送手段対向面となっていた面が、自動車に取り付けられる際に車内側の面となるようにして積層させ、2枚のガラス板を接合する。貼合せ工程(B)は、2枚のガラス板の間に上述の樹脂製の中間膜を挟んで積層体とし、ゴム袋の中に入れて減圧加熱して脱気処理を行う予備圧着工程後に、オートクレーブ中で加熱加圧して本圧着する工程とを有していてよい。なお、予備圧着工程としては、ラバーチャンネル法又はニップローラ法であってもよい。
【0059】
・実施形態b
次に、本発明の別の実施形態である実施形態bによる自動車窓用合わせガラスの製造方法について説明する。図9に、本形態による自動車窓用合わせガラスの製造方法の一例のフロー図を示す。図9に示すように、本形態の製造方法は、平板状のガラス板を曲げ成形する工程(A)と、曲げ成形された2枚のガラス板を貼り合わせる工程(B)とを含む。そして、本製造方法は、曲げ成形工程(A)の前工程として、曲げ成形工程(A)に供される平板状ガラス板を準備する工程(p)を含む。
【0060】
図9に示すように、上記の平板状ガラス板準備工程(p)は、フロート法、ロールアウト法等によって長尺の帯状ガラス板を製造し(p1)、その帯状ガラス板を徐冷し(p2)、帯状ガラス板から素板を切り出し(p3)、素板を所望の外形に切断し(p4)、面取りし(p5)、洗浄し(p6)、遮蔽層を印刷すること(p7)を含んでいてよい。これらの工程p1~p7は一例であって、個々の工程p1~p7の順序は部分的に変わっていてもよい。また、これらの工程の一部は変更又は省略されていてもよいし、工程p1~p7以外の追加的な工程が、工程p1~p7の任意のタイミングに含まれていてもよい。例えば、洗浄工程(p6)とは別の1以上の追加洗浄工程が、徐冷工程(p2)の終了後、面取り(p5)までの任意のタイミングで追加されていてもよい。
【0061】
従来、自動車窓用合わせガラスには、安全性に関連する様々な特性及び機能が要求されてきたが、その要求はますます大きくなっている。特に近年、乗員保護の観点のみならず、歩行者等(歩行者、サイクリスト等)が衝突した場合の歩行者等の身体保護という観点が重要視されている。自動車窓用合わせガラスも、自動車の窓ガラスとしての適切な堅牢性を有することを前提とした上で、頭部損傷基準(Head Injury Criterion(HIC))のような具体的な基準を満たすことも求められている。例えば、自動車窓用合わせガラスの所定領域で、1,000未満、好ましくは650未満といったHIC値が求められる場合がある。ここで、衝突時の歩行者等の身体保護性能を向上させるためには、自動車窓用合わせガラスにおいて強度が過剰に高い領域(高強度域)が低減又は排除されていて、面方向にわたっての強度の分布が抑えられている(強度分布が狭くなっている)、すなわち面内の強度ができるだけ均一化若しくは平準化されていることが重要である。
【0062】
これに対し、本形態による自動車窓用合わせガラスの製造方法は、曲げ成形工程(A)の前に、平面状のガラス板の表面を加傷することを含む。本明細書において、「加傷」とは、ガラス板の表面に微細なクラック(マイクロクラックともいう、視認できないマイクロメートルオーダー以下の微細なクラック)を形成する処理である。本形態では、ガラス板の表面を加傷することによって、ガラス板、及び当該ガラス板を用いて得られる合わせガラスの強度を、面方向にわたって均一化若しくは平準化することができる。もともと製造後のガラス板の表面には、微細なクラックが存在していて、この微細なクラックの偏在が自動車窓用ガラスの強度のバラツキの要因と言われているが、本形態による製造方法によれば、加傷によってガラス板の表面に新たに微細なクラックを導入することで、強度が過剰に高い領域(高強度域)の強度を低下させることができると考えられる。また、一方で、本形態における加傷によって、強度が比較的低い領域(低強度域)の強度をさらに低下させることがないか、又はほとんど低下させない処理である。したがって、本形態における加傷処理を行うことで、ガラス板若しくは得られる合わせガラスの面内の強度を均一化させることができるとともに、自動車窓用ガラスとして必要とされる強度も維持される。その結果、自動車窓用ガラスとしての必要な堅牢性を有しつつも、歩行者等が衝突した場合にも歩行者等の身体安全の確保ができる性能を備えた自動車窓用合わせガラスを提供することができる。
【0063】
また、本形態では、上記の加傷処理は、合わせガラスとなる2枚の平板状の板ガラスの少なくとも一方の、自動車に取り付けた際に車内側となる面に行われる。例えば、歩行者等が車外側から自動車のフロントガラスに衝突した場合、その衝突の衝撃は、最外面である車外側ガラス板10の第1面11から最内面である車内側ガラス板20の第4面22(図2)へと順次伝わっていく。この時、車外側ガラス板10においては、第1面11には面積を収縮させる圧縮力に対する圧縮応力が発生し、反対に第2面12には面積を拡張させる引張力に対する引張応力が発生するので、車外側ガラス板10は車内側の第2面12の方から割れが始まりやすい。そのため、衝突時に第2面12が適切に割れやすくなっていること、すなわち第2面12において局所的に強度が過剰に高くなっている高強度域がない又は少ないことが好ましい。同様に、車内側ガラス板20に着目すると、第3面21には面積を収縮させる圧縮力に対する圧縮応力が発生し、第4面22には面積を拡張させる引張力に対する引張応力が発生するので、車内側ガラス板20は車内側の第4面22の方から割れが始まりやすい。そのため、衝突時に第4面22が適切に割れやすくなっていること、すなわち、第4面22において局所的に強度が過剰に高くなっている高強度域がない又は少ないことが好ましい。したたがって、本形態では、衝突時の歩行者等の身体保護の観点から、車外側ガラス板10の車内側の第2面12、及び車内側ガラス板20の車内側の第4面22の少なくとも一方を加傷処理する。さらに、第2面12及び第4面22のどちらか一方であれば、衝突時の衝撃の影響がより大きい第2面12を加傷処理することがより好ましく、第2面12及び第4面22の両方を加傷処理することがさらに好ましい。
【0064】
本形態における加傷処理が施されるガラス板は、曲げられる前の平板状の状態である。すなわち、ガラス板の湾曲面ではなく、ガラス板の平面に対して加傷処理を行う。加傷処理は、面内の強度をより均一化するためにはガラス板の面の全体にわたって行うことが好ましいが、ガラス体の湾曲面に対して満遍なく加傷処理を行うとした場合には、湾曲面のカーブに応じて、加傷手段を対向させる方向や加傷手段自体を変更したりする必要が生じ、工程が煩雑になりやすい。さらに、本形態では、加傷処理は、後に行う貼合せ工程(B)で合わせガラスが得られた時に車内側となる面、上述のように第2面12及び第4面22の少なくとも一方に施されるが、車内側の面は凹面である(図2)。そして、凹面を処理しようとした場合、湾曲面のカーブに応じて加傷を行うことがさらに難しく、加傷手段の構成に制限が生じやすい。よって、凹面の加傷では、加傷処理されない領域ができて高強度域が残ってしまったり、逆に強く傷がついて過度に強度が低下して必要な堅牢性が得られなかったりする可能性がある。これに対し、ガラス板の平面に対する加傷は、面の湾曲を考慮する必要がないため比較的容易であり、加傷手段を構成するための手間及びコストを抑えることができる。
【0065】
本製造方法における加傷は、平板状ガラス板を準備する工程(p)において行うが、上述の徐冷工程(p2)の後であり且つ曲げ成形工程(A)の前までの任意のタイミングで行うことができる。より具体的には、加傷は、徐冷工程(p2)の後、ガラス板の切出し工程(p3)、所望の外形への切断工程(p4)、面取り工程(p5)、洗浄工程(p6)、及び遮蔽層印刷工程(p7)の1以上(図9)において、又はこれらの1以上の工程の前若しくは後で行うことができる。但し、遮蔽層印刷工程(p7)の後の遮蔽層の冷却時は除くことが好ましい。加傷は、好ましくは、素板を所望の外形に切断する工程(p4)の後のガラス板に対して行うことができる。これにより、加傷した領域が切り落とされることなく、すなわち所望外形のガラス板の全面にわたって無駄なく加傷ができる。また、加傷処理は、徐冷工程(p2)の終了後且つ曲げ成形工程(A)の開始前までであれば、2以上のタイミングで行ってもよい。
【0066】
合わせガラスを量産する場合、上述したような複数の工程を行うための処理装置がひと続きに並んで設置されたライン生産方式が好適に用いられる。その場合、帯状ガラス板又はガラス板は、処理装置同士の間で且つ/又は1以上の処理装置内で、搬送手段によって搬送される。搬送手段としては、簡単な構造によってより安全で且つ損傷少なく搬送が可能であることから、帯状ガラス板又はガラス板を下から支持して搬送する搬送手段が好ましい。搬送手段の具体例としては、ロールコンベア、ベルトコンベア(平ベルトコンベア、丸ベルトコンベアを含む)が挙げられる。ここで、本形態における加傷は、上記搬送手段とは反対側で行う。すなわち、平板状のガラス板の搬送手段に対向する面(搬送手段対向面という)とは反対側の面(非対向面という)を加傷する。搬送手段が、ガラス板を下から支持して搬送する搬送手段である場合には、ガラス板の上面が非対向面となる。このように、非対向面が上側を向く、すなわち加傷される面が上側を向いていると、加傷処理の状況及び加傷処理後のガラス板の状態を確認しやすいという点で、好ましい。
【0067】
本形態における加傷は、例えば、平板状ガラス板の上記非対向面に加傷具を接触させ、当該非対向面に対して相対的に動かすことによって行うことができる。加傷具の形態は特に限定されず、ブラシ、刷毛、ローラ、フィルム若しくはシート、ブレード、円盤等であってよい。よって、加傷具は、ガラス板の面との接触箇所が平面になっているものであってもよいし、ガラス板の面との接触箇所が不連続になっているもの(ブラシのように複数の毛の先端が非対向面に接触するもの)であってもよい。加傷具の材質は、セラミックス、金属、合成樹脂(プラスチック)、天然素材等であってよい。また、発泡樹脂成形体等の発泡体であってもよい。なお、ガラス板の面と平面で接触する加傷具の場合には、押出成形等によって成形された樹脂製のシートの形態であってもよいし、繊維を立体的に又は平面的に集合させて成形した繊維構造体であってよく、フェルト、布(織物、編物を含む)、不織布、紙等であってよい。なお、加傷具が樹脂からなっている、又は加傷具の材質に樹脂が含まれている場合、樹脂の具体例としては、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン、シリコーン樹脂、EVA、オレフィン系エラストマーが挙げられる。道具は、上記材料が単独で又は2種以上組み合わせて構成されたものであってよい。
【0068】
上記道具の表面の、少なくともガラス板と接触させる部分は、滑らかであってもよいし、JIS B 0601-2013に規定される算術平均粗さ(表面粗さ)Raが0.02μm以上100μm以下であるような微細な凹凸が形成されていてもよい。このような道具の表面の微差な凹凸は、素材に元来備わっているもの(繊維構造体における繊維の配置によって形成される凹凸等)であってもよい。また、道具の表面の少なくともガラス板と接触させる部分に、粗面化処理を行ったり、微細な粉体を付着させて固定化したり、或いは樹脂等の材料の成形時に粉体を練り込むことで形成することもできる。また、束ねたファイバーを撚ったり、織ったりしている繊維や布の場合は、束ねたファイバー等が作る凹凸が形成されるが、これらがあっても構わない。
【0069】
なお、加傷書処理のための道具(加傷具)は、上述のような微細な粉体をシートに付着させて固定化したものであってもよい。このようなシートには、シリカ、砂、セラミックス等の硬質の研磨粒子が固定されてなるシート、例えばサンドペーパーも含まれる。サンドペーパーを用いる場合には、その番手は、好ましくは♯600以上♯15000以下、より好ましくは♯600以上♯12000以下、さらに好ましくは♯600以上♯8000以下であってよい。また、サンドペーパーの上記番手の範囲では、目が粗いもの(番手が小さいもの)を使用するほど、加傷効果は向上する。但し、サンドペーパーを用いる場合、特に♯2000以下のサンドペーパーを用いる場合には、サンドペーパーをガラス板に対して相対的に動かさずに、使用することが好ましい。
【0070】
上述のような微細な粉体を付着させて固定化したシートを使用する場合、加傷処理を施したい面(実施形態bの場合には非対向面)に、シートの粉体が付着した面を対向させて載置し、その上から荷重をかけることができる。荷重をかける手段は特に限定されないが、ガラス板の面全体にわたってより均一な荷重を掛けることができるという観点では、ローラを用いると好ましい。例えば、ガラス板のシート(加傷具)を載置した面の側でシートの上からローラを転がすことができるし、一対のローラの間にガラス板を通すようにしてガラス板の両側から圧力をかけることもできる。或いは、シート(加傷具)を粗面(微差な粉体が固定化された面)が露出するよう巻き付けたにローラを準備し、そのようなローラを、加傷を施したい面に接触させて転がすことができる。さらには、微細な粉体を付着させたシートを巻き付けたローラと、当該ローラに対向するローラとの間にガラス板を通すようにして、加傷を行うこともできる。
【0071】
また、加傷には、研磨剤を用いてもよい。なお、本明細書において、研磨剤とは、流動性のある研磨作用のある粉体であって、散布可能、又は溶媒中に分散可能なものを指す。研磨剤を用いることで、表面に微差な凹凸が形成されていない加傷具であっても、容易に加傷を行うことができる。研磨剤を用いる場合には、平板状ガラス板の非対向面に研磨剤を散布した後、上記加傷具で拭いたり掃いたりすることによって、非対向面を擦過することができる。その際、押付け力を加えながら又は押付け力を加えずに、加傷具をガラス板の面に沿ってガラス板に対して相対的に動かすことができる。なお、研磨剤は、乾燥状態の粉体、粉体が液体で湿らされた状態、又は粉体を液体に分散させたスラリー状若しくは液状であってよい。この場合、液体はガラス板の表面を変性させないものであれば特に限定されず、水、水溶液、及び有機溶剤の1以上であってよく、当該液体は揮発性であってもよいし非揮発性であってもよい。なお、スラリー状又は液状の研磨剤の場合、予め水系の液体に粉体を混合して液状研磨剤を調整しておいてもよいし、加傷処理の際に、ガラス板の表面に粉体を散布した後に液体を散布し、或いは液体を散布した後に粉体を散布した上で、加傷具を接触させて加傷を行ってもよい。
【0072】
このように、本形態では、研磨剤として、水、水溶液等の液体を含有するものを使用することもできるし、また粉体状の研磨剤に、水、水溶液等の液体を追加して加傷を行ってもよい。すなわち、加傷の際には、加傷具とガラス板の非対向面との間に、水又は水溶液等の液体が介在させることができる。このように、液体、特に水が介在していることで、加傷具の擦過により生じ得る温度上昇を防止したり、研磨剤に含まれる粉体又はガラス板から出る微細な屑の飛散を防止したり、化学的な研磨を容易にすることができる。よって、洗浄工程(図9における工程p6又は工程p6以外のタイミングで行う任意の洗浄)において、又は洗浄工程の後に加傷を行う場合には、洗浄工程で利用された水を利用することができ、好ましい。
【0073】
加傷のための研磨剤に使用される粉体は、無機材料若しくは有機材料、又はその両方を含んでよいが、粉体が無機粉体であると好ましい。無機粉体の例としては、酸化セリウム、ガラスビーズ、酸化チタン、ダイアモンド、炭酸カルシウム、無水ケイ酸、リン酸水素ナトリウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化アルミニウム等が挙げられる。これらのうち、硬度が高いこと、またガラスとの化学反応による研磨助成作用から酸化セリウムが好ましい。これらの粉体は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。使用される粉体の、JIS Z 8825:2013に記載の方法(湿式)によって測定されたメジアン径(D50)は、好ましくは0.1μm以上100μm以下、より好ましくは0.2μm以上30μm以下、さらに好ましくは0.2μm以上15μm以下であってよい。粉体の粒径(メジアン径)が0.1μm以上であることで、研磨効果を高めて面内の強度分布の均一化を促進でき、また100μm以下であることで、目に見えるキズが生じることを回避でき、ガラス板又は得られる合わせガラスの必要な堅牢性が損なわれることを防止できる。
【0074】
研磨剤を用いた場合、加傷具を用いてガラス板の非対向面を研磨した後には、研磨剤を除去することができる。例えば、水、有機溶剤等の液体を散布して又は流しかけて洗浄することができる。その際、上記加傷具と同様な道具を用いることもできる。なお、加傷を、洗浄工程(図9における工程p6又は工程p6以外のタイミングで行う任意の洗浄)の前の段階で行う場合には、洗浄工程によって研磨剤を除去できることから、研磨剤の除去作業を省略することができる。
【0075】
なお、加傷具をガラス板に対して相対的に動かす際、加傷具は、ガラス板の非対向面上の任意の方向に動かすことができる。その動きは、一方向での片道の運動であってもよいし、所定方向での往復運動であってもよいし、回転運動であってもよいし、これらの組合せであってもよい。また、加傷具を動かす際には、加傷具をガラス板の面に所定の押付け力をかけて又は押付け力をかけず若しくは実質的にかけずに行うことができる。なお、加傷具は、電動モータ等の駆動部、及び制御部等に接続されていてよく、これにより擦過速度、押付け力等をすることができる。
【0076】
加傷具がガラス板の面を擦る速度は、1mm/秒以上6m/秒以下であってよい。さらに、研磨剤を用いる場合であって、加傷具のガラス板の非対向面に接触する面が滑らかである場合には、加傷具がガラス板の面を擦る速度は、好ましくは10mm/秒以上3m/秒以下、より好ましくは20mm/秒以上2m/秒以下であってよい。一方、研磨剤を用いず、加傷具のガラス板の非対向面に接触する面に凹凸が形成されている場合には、加傷具がガラス板の面を擦る速度は、好ましくは1mm/秒以上1m/秒以下、より好ましくは2mm/秒以上50cm/秒以下であってよい。
【0077】
さらに、加傷を行うための加傷手段は、上記のようなガラス板の面と接触させる加傷具ではなく、非接触式の手段であってもよい。例えば、加傷は、電磁気エネルギー、熱エネルギー、光エネルギー等を付与する手段を用いて行うこともでき、例えば、プラズマ処理、コロナ処理、レーザー照射等を利用することが考えられる。
【0078】
図10に、実施形態bにおける加傷手段の具体例を示す。図10には、例として、帯状ガラス板から平板状ガラス板(素板)が切り出された(工程p3)後のタイミングで加傷が行われている状態を示す。図10に示す例では、切り出された平板状ガラス板G、G、…が平ベルトコンベア(搬送手段)50によって下から支持されて、搬送方向Dtに搬送されている。そして、搬送方向Dtの途中に加傷手段60が設置されており、この加傷手段60によって、平板状ガラス板G、G、…の搬送手段50に対向する面とは反対側の対向面F2に加傷が施される。図10の例では、加傷手段60は、回転可能な円盤状の研磨パッド61を備えた研磨機(グラインダ)であってよい。加傷手段60が研磨機である場合、研磨パッド61が、自転、公転、及びその両方を含む回転運動ができるようなっていてよいし、往復運動できるように構成されていてもよい。
【0079】
具体例を挙げて上述した平板状ガラス板の非対向面の加傷処理によって、ガラス板の面内の強度を均一化させることができる。よって、加傷処理は、平板状のガラス板の面内の強度の分布又はバラツキを抑える処理であるといえる。別の言い方をすると、ガラス板の面内の複数の領域においてそれぞれ測定された強度値(破壊応力又は曲げ強度)の分布を求めた場合に、その分布が狭まるように調整する処理といえる。加えて、本形態による製造方法において行う加傷では、窓ガラスとしての十分な堅牢性を満たすような強度も維持できる。よって、例えば、ガラス板の面を複数の領域に区切り、各領域の強度を測定して、強度の頻度分布を求めた場合、加傷処理によって強度が高い分布領域は、強度が低い方向にシフトし、且つ強度が低い分布領域の位置はあまり変化がないという結果が得られる。或いは、加傷処理によって、強度の最高値は低い方にシフトし、強度の最低値はあまり変化しないとう結果が得られる。
【0080】
なお、本形態における加傷処理の効果は、ガラス板若しくは合わせガラスを長期間保管した場合には、多少低下し得るが、保管の温度及び/又は湿度の条件に関わらず、衝突時の人に対する身体保護性能を確保するのに十分な程度維持できる。また、加傷処理の効果は、曲げ成形のための加熱炉の温度と同等の温度まで加熱しても、同様に、十分に維持できる。
【0081】
加傷処理は、加傷された面の強度分布の上位20%の平均の、当該面の加傷前の強度分布の上位20%の平均に対する差が50MPa以上となるよう、且つ加傷された面の強度分布の下位10%の平均の、当該面の加傷前の強度分布の下位10%の平均に対する差が50MPa以下となるように行うことができる。また、加傷による面の強度分布の上位20%の平均値の低下率が10%以上であり、且つ加傷による面の強度分布の下位10%の平均値の低下率が20%以下である、ように行うことができる。
【0082】
さらに、加傷の前後でのガラス板の処理面若しくは加傷面(非対向面)の強度の分布をそれぞれ求めた場合、加傷による非対向面の強度分布の上位20%の平均値の低下率RU20が10%以上、好ましくは20%以上となり、且つ加傷による非対向面の強度分布の下位10%の平均値の低下率RL10が20%以下、好ましくは10%以下であるように加傷することができる。ここで、
低下率RU20(%)={(SbU20-SaU20)/SbU20}×100
SbU20:加傷前の非対向面の強度分布の上位20%の平均値
SaU20:加傷後の非対向面の強度分布の上位20%の平均値
低下率RL10(%)={(SbL10-SaL10)/SbL10}×10
SbL10:加傷前の非対向面の強度分布の下位10%の平均値
SaL10:加傷後の非対向面の強度分布の下位10%の平均値
である。上記の強度の測定方法は、加傷の前後での測定条件が同じであれば、特に限定されないが、後述のISO1288-5(2016)に記載されたR30を用いた方法により測定、計算することができる。
【0083】
このように、本形態における加傷処理は、強度分布の上位20%以上の平均値が大きく下がるよう、すなわち強度が過度に高い領域が減るよう、且つ強度分布の下位10%以下の平均値、すなわち強度が低い領域の強度が過度に低くなっていたりそのような領域が過度に増えていたりしないように行うことができる。
【0084】
さらに、加傷の前後での処理面若しくは加傷面(非対向面)の強度の分布をそれぞれ求めた場合、加傷前の処理面若しくは加傷面の強度分布の上位20%の平均(SbU20)と、加傷後の処理面若しくは加傷面の強度分布の上位20%の平均(SaU20)との差(SbU20‐SaU20)が50MPa以上、好ましくは70MPa以上であり、且つ加傷前の処理面若しくは加傷面の強度分布の下位10%の平均(SbL10)の、加傷後の処理面若しくは加傷面の強度分布の下位10%の平均(SaL10)との差(SbL10‐SaL10)が50MPa以下、好ましくは30MPa以下となるように、加傷することができる。この場合の強度も、ISO1288-5(2016)に記載されたR30を用いた方法により測定される破壊応力とすることができる。
【0085】
また、加傷されたガラス板の処理面若しくは加傷面、すなわち本形態では搬送手段対向面と反対側の面である非対向面と、非処理面若しくは非加傷面である搬送手段対向面とでそれぞれ、強度の分布を求めた場合、搬送手段対向面(非処理面)の強度分布の上位20%の平均(SfU20)と、非対向面(処理面)の強度分布の上位20%の平均(SnU20)との差(SfU20-SnU20)が50MPa以上、好ましくは70MPa以上であり、且つ搬送手段対向面(非処理面)の強度分布の下位10%の平均(SfL10)と、非対向面(処理面)の強度分布の下位10%の平均(SnL10)との差(SfL10-SnL10)が50MPa以下、好ましくは30MPa以下となるように、加傷することができる。この場合、上記強度は、ISO1288-5(2016)に記載されたR30を用いた方法により測定される破壊応力とすることができる。
【0086】
ISO1288-5(2016)に記載された方法では、所定径を有する支持リング上に試験対象となるガラス板を載せ、その上から支持リングより小さい所定径を有する荷重リングにより荷重を徐々に増大させ、破壊時の荷重を測定する。荷重は、強度を求めたい面とは反対側から荷重をかける。そして、得られた測定値から、ISO1288-5(2016)に記載の所定式に基づき、破壊応力値を求める。ここで、面内の強度分布を求めるには、ガラス板を所定の大きさに切り出して分割し、分割された領域毎に破壊応力を測定することができる。その際、分割後(切出し後)のガラスの大きさは特に限定されないが、60mm~300mm×60mm~300mmであってよい。また、強度分布を求めるための分割サンプルの枚数は、好ましくは30以上、より好ましくは50枚以上であってよい。なお、測定対象が平板ではなく、湾曲したガラス板又は合わせガラスの場合には、切り出された湾曲した領域の破壊応力を測定することになる。その場合の測定・計算では、上記ISOに記載の所定式を用いず、応力測定により近似式を導いた上で、その近似式に測定値を代入することにより破壊応力値を求めることができる。
【0087】
図9に示すように、本形態では、加傷処理を含む準備工程(p)を経て得られた平板状ガラス板に対して、曲げ成形工程(A)を行う。この曲げ成形工程(A)は、平板状のガラス板を軟化点近傍にまで若しくは軟化点以上に加熱することによって湾曲させる工程である。曲げ成形は、ガラス板をリング型上に載置して加熱炉内でガラス板の自重によってガラス板を曲げる重力曲げ成形であってもよいし、リング型(下型)とプレス型(上型)とによってガラス板を挟んで押圧することによって行うプレス曲げ成形であってもよいし、それらの組合せであってもよい。
【0088】
曲げ成形工程(A)では、ガラス板を単独で曲げ成形してもよいし、後続の貼合せ工程(B)で貼り合わせられる2枚のガラス板が重ねられ、その重ねられた状態で曲げ成形してもよい。いずれの場合でも、ガラス板は多くの場合、下側(鉛直方向下側)に凸となるように湾曲せしめられる。ここで、本形態における平板状ガラス板の準備工程(p)では、上述のように、2枚のガラス板の少なくとも一方の搬送手段対向面とは反対側の非対向面(上向きの面)が加傷されている。一方、フロントガラス等に用いられる湾曲した合わせガラスにおいては、凹面となる車内側の面(第2面12及び/又は第4面22)が加傷されていることが好ましい。そうすると、本形態による方法では、準備工程(p)において加傷処理が行われた後には、上側の面が加傷されているガラス板が搬送されてくるので、ガラス板を裏返すことなく、曲げ成形工程(A)に移行させることができる。上側の面が加傷されているガラス板を通常の方法で下側に凸となるように曲げ成形することで、凹面に加傷処理がされたガラス板が得られる。
【0089】
曲げ成形時のガラスの加熱温度は、約550℃以上700℃以下であってよい。曲げ成形工程(A)は、平板状のガラス板を、一方向にのみ、例えば自動車の開口に取り付けた場合に自動車の左右方向又は上下方向にのみ曲げ加工する単曲曲げ成形であってよいし、左右方向及び上下方向に曲げ加工した複曲曲げ成形であってもよい。曲げ成形工程(A)によって得られるガラス板の曲率半径は、200mm以上30,000mm以下であってよい。また、自動車窓用合わせガラス1における車外側ガラス板10及び車内側ガラス板20の曲率半径は同じであってもよいし、異なっていてもよい。なお、本形態における上述の加傷処理の効果は、上記の曲げ成形時の加熱を経た後でも維持できる。
【0090】
また、貼合せ工程(B)は、曲げ成形工程(A)で曲げ成形された2枚のガラス板を、中間膜を介して接合させ、合わせガラスを得る工程である。貼合せ工程(B)では、ガラス板の、準備工程(p)で加傷された面(搬送手段対向面とは反対側の非対向面)が、自動車に取り付けられる際に車内側の面となるようにして積層させ、2枚のガラス板を接合する。貼合せ工程(B)は、2枚のガラス板の間に上述の樹脂製の中間膜を挟んで積層体とし、ゴム袋の中に入れて減圧加熱して脱気処理を行う予備圧着工程後に、オートクレーブ中で加熱加圧して本圧着する工程とを有していてよい。なお、予備圧着工程としては、ラバーチャンネル法又はニップローラ法であってもよい。
【0091】
<自動車窓用合わせガラス>
本発明の別の一実施形態は、車外側ガラス板10と車内側ガラス板20とが中間膜30を介して接合されてなる自動車窓用合わせガラスであって、車外側ガラス板10の車外側の面を第1面11、車内側の面を第2面12とし、車内側ガラス板20の車外側の面を第3面21、車内側の面を第4面22とした場合(図2)、以下の条件1~3の1以上を満たすものであってよい。
【0092】
条件1:第1面11の強度分布の上位20%の平均値(S1U20)と、第4面22の強度分布の上位20%の平均値(S4U20)との差(S1U20-S4U20)が50MPa以上、好ましくは70MPa以上であり、且つ第1面11の強度分布の下位10%の平均値(S1L10)と、第4面22の強度分布の下位10%の平均値(S4L10)との差(S1L10-S4L10)が50MPa以下、好ましくは30MPa以下である
条件2:第1面11の強度分布の上位20%の平均値(S1U20)と、第2面12の強度分布の上位20%の平均値(S2U20)との差(S1U20-S2U20)が50MPa以上、好ましくは70MPa以上であり、且つ第1面11の強度分布の下位10%の平均値(S1L10)と、第2面12の強度分布の下位10%の平均値(S2L10)との差(S1L10-S2L10)が50MPa以下、好ましくは30MPa以下である
条件3:第3面21の強度分布の上位20%の平均値(S3U20)と、第4面22の強度分布の上位20%の平均値(S4U20)との差(S3U20-S4U20)が50MPa以上、好ましくは70MPa以上であり、且つ第3面21の強度分布の下位10%の平均値(S3L10)と、第4面22の強度分布の下位10%の平均値(S4L10)との差(S3L10-S4L10)が50MPa以下、好ましくは30MPa以下である
【0093】
上記の条件1~条件3の強度は、強度の分布を求めたい面とは反対側の面から荷重をかけてISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力であってよい。なお、車外側ガラス板10の車内側の第2面12、及び車内側ガラス板20の第4面22の強度を測定する場合には、合わせガラスの状態から車外側ガラス板10と車内側ガラス板20とを分離させ、中間膜30を取り除いた上で、測定することができる。上記の条件1~条件3で行われる測定のうち、条件1における値を求める場合には、合わせガラスの構成を壊す必要なく、強度の測定を行うことができる。
【0094】
上記条件1~条件3の1以上を満たすことによって、第2面12及び第4面22の少なくとも一方の面内において、強度が過度に高い領域及び強度が過度に低い領域がいずれも低減又は排除された合わせガラス、すなわち面内の強度が均一化されており、且つ窓ガラスとして十分な強度も備えた合わせガラスが得られる。よって、本形態により、車外側から衝撃を受けた場合に適切に割れてその衝撃を吸収できるため、歩行者等が車外から衝突した場合にも歩行者等の身体保護性能を確保でき、且つ自動車用窓ガラスとしての十分な堅牢性も備えた自動車窓用合わせガラスを提供できる。
【0095】
なお、上記の条件1~条件3のうち、少なくとも条件2を満たしていることが好ましい。条件2を満たしている場合、合わせガラスが車外から衝撃を受けた場合に、最も影響を受けやすい第2面12の面内の強度が均一化されていて、強度が過剰に高い領域を低減又は排除されている。そのため、合わせガラスが適切に割れて衝撃を吸収する作用を高めることができるので、歩行者等の衝突時の歩行者等の身体保護性能を一層向上させることができる。
【0096】
また、本形態による自動車窓用合わせガラスは、車外側ガラス板10と車内側ガラス板20とが中間膜30を介して接合されてなる自動車窓用合わせガラス1(図2)であって、透過領域の、車外側から荷重をかけてISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力分布の上位20%の平均値が、500MPa以下、好ましくは450MPa以下である合わせガラスであってよい。なお、本明細書において透過領域とは、自動車窓用合わせガラスにおいて、自動車窓用合わせガラスに形成された遮蔽層を除いた部分を指す。
【0097】
本形態による自動車窓用合わせガラスは、車外側ガラス板10の車内側の第2面12、及び車内側ガラス板20の車外側の第4面22の少なくとも一方に、上述の自動車窓用合わせガラスの製造方法によって説明した加傷が施されているものであってよい。すなわち、本形態による自動車窓用合わせガラスは、2枚のガラス板を加熱して曲げ成形する工程(A)と、曲げ成形された2枚のガラス板を中間膜を介して貼り合わせる工程(B)とを含む製造方法によって製造される合わせガラスであって、上記工程(A)の前に、2枚の平板状のガラス板の少なくとも一方のガラス板を搬送手段によって搬送し、当該少なくとも一方のガラス板の搬送手段対向面、又は当該搬送手段対向面と反対側の非対向面を加傷し、上記2枚のガラス板を曲げ成形し(A)、曲げ成形された当該2枚のガラス板を中間膜を介して貼り合わせ(B)、その際に、加傷された面が、合わせガラスが自動車の開口に取り付けられた時に車内側となるように配置されることによって得られたものであってよい。
【実施例
【0098】
本形態による手法を用いてガラス板の面に加傷処理を施し、強度、堅牢性等を評価した。
【0099】
=実験a:搬送での加傷=
[実験a1.平板状ガラス板の強度試験]
(例a1-1)
通常行われている量産工程と同様にして、フロート法により成形された帯状ガラス板を個々のガラス板に切り出し、フロントガラス形状に切断し、面取り、洗浄することで、曲げ成形前の厚み2mmの平板状の未処理ガラス板(未加傷ガラス板)を得た。この一連の工程においては、搬送手段としてローラコンベアを使用した。当該ローラコンベアを構成する複数の搬送ローラは、それぞれ半径50mm(ゴムリングを含めた半径)を有し、搬送方向に20mmのピッチで配置されているものであった。また、各搬送ローラは、図6に示すような、軸体に、軸線方向の長さ30mmのゴムリングが50mmの間隔を置いて離間して装着されていた。
【0100】
(例a1-2)
例a1-1における一連の工程のうち、帯状ガラス板から個々のガラス板を切り出す工程において、すなわち、フロートバスから送られてきた帯状ガラス板が徐冷された後から、ガラス板が実際に切り出され、後続の加工工程(フロントガラス形状への切断工程)へと送られるまでの間の搬送ローラによって、切り出し前及び切り出し後において平板状ガラス板の搬送手段対向面を加傷した。搬送ローラの加傷機能は、20本の搬送ローラについているゴムリングの表面のほぼ全体に、粗面フィルム(3M株式会社製「トライザクト(商標)フィルム 568XA」、厚み75μm)の粗面が露出するように捲きつけることによって付与した。加傷後、例a1-1と同様にして、フロントガラス形状へと切断し、面取りし、洗浄することで、曲げ成形前の厚み2mmの平板状の加傷ガラス板を得た。
【0101】
例a1-1(比較例)及び例a1-2(実施例)のガラス板をそれぞれ以下のように評価した。
【0102】
<強度(破壊応力)の測定>
各例において、1枚のガラス板から66mm×66mm、厚み2mmの小板サンプルを50枚切り出し、各小板サンプルの強度を、破壊応力(MPa)として測定した。破壊応力は、ISO1288-5(2016)に準拠し、R30により測定した。より具体的には、直径60mmの支持リング及び直径12mmの荷重リングを用い、毎分0.3mmの荷重速度で荷重リングによって荷重をかけ、破壊荷重を測定した。荷重は、例a1-1及び例a1-2のいずれの場合でも、搬送手段対向面と反対側の非対向面の側に荷重リングを配置し、非対向面の側からかけた。さらに、ISO1288-5(2016)に記載の式を用いて、破壊応力を求めた。
【0103】
<強度均一性の評価>
上記の50枚の小板サンプルの強度のデータを用いて、50MPaごとの頻度を求めた。図11に、例a1-1及び例a1-2のそれぞれの頻度分布を示す。
【0104】
さらに小板サンプルの強度のデータに基づき、未処理の例a1-1について、強度分布の上位20%(10個)の強度データを抽出し、その平均値(S1-1U20)を求めた。同様に、加傷した例a1-2についても、強度分布の上位20%(10個)の強度データを抽出し、その平均値(S1-2U20)を求めた。そして、加傷による強度差、すなわち例a1-1の強度分布の上位20%平均値(S1-1U20)から例a1-2の強度分布の上位20%平均値(S1-2U20)を引いた値(S1-1U20-S1-2U20)を求めた。さらに、加傷による強度の低下率も、{(S1-1U20-S1-2U20)/(S1-1U20)}×100(%)より求めた。結果を表1、及び図13に示す。
【0105】
<堅牢性の評価>
同様に、上記の50枚の小板サンプルの強度のデータに基づき、未処理の例a1-1について、強度分布の下位10%(5個)の強度データを抽出し、その平均値(S1-1L10)を求めた。加傷した例a1-2についても、強度分布の下位10%(5個)の強度データを抽出し、その平均値(S1-2L10)を求めた。そして、加傷による強度差、すなわち例a1-1の強度分布の下位10%平均値(S1-1L10)から例a1-2の強度分布の下位10%平均値(S1-2L10)を引いた値(S1-1L10-S1-2L10)を求めた。さらに、加傷による強度の低下率も、{(S1-1L10-S1-2L10)/(S1-1L10)}×100(%)より求めた。結果を表1、及び図13に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1、並びに図11及び図13より、搬送手段対向面が加傷されたガラス板(例a1-2)においては面内強度のばらつきが抑えられている、すなわち強度の均一性が高められていることが分かった。また、全体としての強度の平均の低下度合い、並びに強度分布のうちの強度が低い領域の強度の低下度合が小さく、ガラス板の堅牢性も維持されていることも分かった。
【0108】
[実験a2.合わせガラスの強度試験]
(例a2-1)
例a1-1において得られた、厚み2mmの平板状の未処理ガラス板(未加傷ガラス板)を、通常行われている量産工程と同様にしてそれぞれ曲げ成形し、さらに上記未処理ガラス板2枚を、中間膜(PVB樹脂)を介して積層し、圧着して、加傷処理なしの合わせガラス(フロントガラス)を得た。得られたフロントガラスは、厚み2mmのガラス板、厚さ0.76mmのPVBからなる中間膜、及び厚み2mmのガラス板が積層された、湾曲した合わせガラスであった。
【0109】
(例a2-2)
例a2-1における合わせガラス(フロントガラス)を作製する一連の工程において、未処理ガラス板(未加傷ガラス板)に代えて、例a1-2で製造された加傷ガラス板2枚を用いて、加傷処理された合わせガラスを得た。例a1-2で製造された加傷ガラス板2枚を積層させる際には、各ガラス板の加傷された面(搬送手段対向面)がいずれも車内側になるようにして配置した。
【0110】
例a2-1(比較例)及び例a2-2(実施例)の合わせガラスをそれぞれ以下のように評価した。
【0111】
<強度(破壊応力)の測定>
各例において、1枚の合わせガラスから100mm×100mm小板サンプルを50枚切り出し、各小板サンプルの強度を、破壊応力(MPa)として測定した。破壊応力は、ISO1288-5(2016)に準拠し、R30により測定した。より具体的には、直径60mmの支持リング及び直径12mmの荷重リングを用い、毎分1mmの荷重速度で荷重リングによって荷重をかけ、破壊荷重を測定した。荷重は、例2-1及び例2-2のいずれの場合でも、車外側ガラス板の車外面(図2における車外側ガラス板10の車外側の面である第1面11)の側からかけた。破壊応力は、小板サンプル2枚に対して、歪ゲージ(共和電業 KFGS-5-120-D17-11)を用いて荷重と応力との関係を求めることによって算定した。
【0112】
<強度均一性の評価>
上記の50枚の小板サンプルの強度のデータを用いて、50MPaごとの頻度を求めた。図12に、例a2-1及びa例2-2のそれぞれの頻度分布を示す。
【0113】
さらに小板サンプルの強度のデータに基づき、未処理合わせガラスである例2-1について、強度分布の上位20%(10個)の強度データを抽出し、その平均値(S2-1U20)を求めた。同様に、加傷ガラス板を用いて得られた合わせガラスである例2-2についても、強度分布の上位20%(10個)の強度データを抽出し、その平均値(S2-2U20)を求めた。そして、加傷による強度差、すなわち例2-1の強度分布の上位20%平均値(S2-1U20)から例2-2の強度分布の上位20%平均値(S2-2U20)を引いた値(S2-1U20-S2-2U20)を求めた。さらに、加傷による強度の低下率も、{(S2-1U20-S2-2U20)/(S2-1U20)}×100(%)より求めた。結果を表2、及び図12に示す。
【0114】
<堅牢性の評価>
同様に、上記の50枚の小板サンプルの強度のデータに基づき、未処理合わせガラスである例a2-1について、強度分布の下位10%(5個)の強度データを抽出し、その平均値(S2-1L10)を求めた。加傷ガラス板を用いて得られた合わせガラスである例2-2についても、強度分布の下位10%(5個)の強度データを抽出し、その平均値(S2-2L10)を求めた。そして、加傷による強度差、すなわち例a2-1の強度分布の下位10%平均値(S2-1L10)から例a2-2の強度分布の下位10%平均値(S2-2L10)を引いた値(S2-1L10-S2-2L10)を求めた。さらに、加傷による強度の低下率も、{(S2-1L10-S2-2L10)/(S2-1L10)}×100(%)より求めた。結果を表2、及び図12に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
表2、並びに図12及び図13より、搬送手段対向面が加傷されたガラス板を用いて得られる合わせガラスにおいては面内強度のばらつきが抑えられている、すなわち強度の均一性が高められていることが分かった。また、全体としての強度の平均の低下度合い、並びに強度分布のうちの強度が低い領域の強度の低下度合が小さく、合わせガラスの、自動車窓ガラスとしての堅牢性も維持されていることも分かった。
【0117】
=実験b:洗浄での加傷=
[実験b1.平板状ガラス板の強度試験]
(例b1-1)
通常行われている量産工程と同様にして、フロート法により成形された帯状ガラス板を個々のガラス板に切り出し、フロントガラス形状に切断し、面取り、洗浄することで、曲げ成形前の厚み2mmの平板状の未処理ガラス板(未加傷ガラス板)を得た。
【0118】
(例b1-2)
例b1-1において得られた平板状の未加傷ガラス板を十分乾燥させた後、当該未加傷ガラス板の上側の面(搬送手段対向面とは反対側の面)に、酸化セリウム入り水系液体研磨剤(株式会社プロスタッフ製「キイロビン」)を1平方メートル当たり100gの割合で均質に塗布して、樹脂製シート(3M社製「トライザクトフィルム268XA-A5」)を装着した、電動グラインダ(3M社製「ダブルアクションサンダー28457」)を軽く当てて1枚当たり15分を掛けて均質に磨き上げた後、水で洗浄することによって加傷処理した。これにより、曲げ成形前の厚み2mmの平板状の加傷ガラス板を得た。
【0119】
例b1-1(比較例)及び例b1-2(実施例)のガラス板をそれぞれ以下のように評価した。
【0120】
<強度(破壊応力)の測定>
各例において、1枚のガラス板から66mm×66mm、厚み2mmの小板サンプルを50枚切り出し、各小板サンプルの強度を、破壊応力(MPa)として測定した。破壊応力は、ISO1288-5(2016)に準拠し、R30により測定した。より具体的には、直径60mmの支持リング及び直径12mmの荷重リングを用い、毎分0.3mmの荷重速度で荷重リングによって荷重をかけ、破壊荷重を測定した。荷重は、例b1-1及び例b1-2のいずれの場合でも、ガラス板の搬送時の搬送手段対向面の側に荷重リングを配置し、当該搬送手段対向面の側からかけた。さらに、ISO1288-5(2016)に記載の式を用いて、破壊応力を求めた。
【0121】
<強度均一性の評価>
上記の50枚の小板サンプルの強度のデータを用いて、50MPaごとの頻度を求めた。図14に、例b1-1及び例b1-2のそれぞれの頻度分布を示す。
【0122】
さらに小板サンプルの強度のデータに基づき、未処理の例b1-1について、強度分布の上位20%(10個)の強度データを抽出し、その平均値(S1-1U20)を求めた。同様に、加傷した例b1-2についても、強度分布の上位20%(10個)の強度データを抽出し、その平均値(S1-2U20)を求めた。そして、加傷による強度差、すなわち例b1-1の強度分布の上位20%平均値(S1-1U20)から例b1-2の強度分布の上位20%平均値(S1-2U20)を引いた値(S1-1U20-S1-2U20)を求めた。さらに、加傷による強度の低下率も、{(S1-1U20-S1-2U20)/(S1-1U20)}×100(%)より求めた。結果を表3、及び図16に示す。
【0123】
<堅牢性の評価>
同様に、上記の50枚の小板サンプルの強度のデータに基づき、未処理の例b1-1について、強度分布の下位10%(5個)の強度データを抽出し、その平均値(S1-1L10)を求めた。加傷した例b1-2についても、強度分布の下位10%(5個)の強度データを抽出し、その平均値(S1-2L10)を求めた。そして、加傷による強度差、すなわち例b1-1の強度分布の下位10%平均値(S1-1L10)から例b1-2の強度分布の下位10%平均値(S1-2L10)を引いた値(S1-1L10-S1-2L10)を求めた。さらに、加傷による強度の低下率も、{(S1-1L10-S1-2L10)/(S1-1L10)}×100(%)より求めた。結果を表3、及び図16に示す。
【0124】
【表3】
【0125】
表3、並びに図14及び図16より、搬送手段対向面が加傷されたガラス板(例b1-2)においては面内強度のばらつきが抑えられている、すなわち強度の均一性が高められていることが分かった。また、全体としての強度の平均の低下度合い、並びに強度分布のうちの強度が低い領域の強度の低下度合が小さく、ガラス板の堅牢性も維持されていることも分かった。
【0126】
[実験b2.合わせガラスの強度試験]
(例b2-1)
例b1-1において得られた、厚み2mmの平板状の未処理ガラス板(未加傷ガラス板)を、通常行われている量産工程と同様にしてそれぞれ曲げ成形し、さらに上記未処理ガラス板2枚を、中間膜(PVB樹脂)を介して積層し、圧着して、加傷処理なしの合わせガラス(フロントガラス)を得た。得られたフロントガラスは、厚み2mmのガラス板、厚さ0.76mmのPVBからなる中間膜、及び厚み2mmのガラス板が積層された、湾曲した合わせガラスであった。
【0127】
(例b2-2)
例b2-1における合わせガラス(フロントガラス)を作製する一連の工程において、未処理ガラス板(未加傷ガラス板)に代えて、例b1-2で製造された加傷ガラス板2枚を用いて、加傷処理された合わせガラスを得た。例b1-2で製造された加傷ガラス板2枚を積層させる際には、各ガラス板の加傷された面(搬送手段対向面とは反対側の面)がいずれも車内側になるようにして配置した。
【0128】
例b2-1(比較例)及び例b2-2(実施例)の合わせガラスをそれぞれ以下のように評価した。
【0129】
<強度(破壊応力)の測定>
各例において、1枚の合わせガラスから100mm×100mm小板サンプルを50枚切り出し、各小板サンプルの強度を、破壊応力(MPa)として測定した。破壊応力は、ISO1288-5(2016)に準拠し、R30により測定した。より具体的には、直径60mmの支持リング及び直径12mmの荷重リングを用い、毎分1mmの荷重速度で荷重リングによって荷重をかけ、破壊荷重を測定した。荷重は、例b2-1及び例b2-2のいずれの場合でも、車外側ガラス板の車外面(図2における車外側ガラス板10の車外側の面である第1面11)の側からかけた。破壊応力は、小板サンプル2枚に対して、歪ゲージ(共和電業 KFGS-5-120-D17-11)を用いて荷重と応力との関係を求めることによって算定した。
【0130】
<強度均一性の評価>
上記の50枚の小板サンプルの強度のデータを用いて、50MPaごとの頻度を求めた。図15に、例b2-1及び例b2-2のそれぞれの頻度分布を示す。
【0131】
さらに小板サンプルの強度のデータに基づき、未処理合わせガラスである例b2-1について、強度分布の上位20%(10個)の強度データを抽出し、その平均値(S2-1U20)を求めた。同様に、加傷ガラス板を用いて得られた合わせガラスである例b2-2についても、強度分布の上位20%(10個)の強度データを抽出し、その平均値(S2-2U20)を求めた。そして、加傷による強度差、すなわち例b2-1の強度分布の上位20%平均値(S2-1U20)から例b2-2の強度分布の上位20%平均値(S2-2U20)を引いた値(S2-1U20-S2-2U20)を求めた。さらに、加傷による強度の低下率も、{(S2-1U20-S2-2U20)/(S2-1U20)}×100(%)より求めた。結果を表4、及び図16に示す。
【0132】
<堅牢性の評価>
同様に、上記の50枚の小板サンプルの強度のデータに基づき、未処理合わせガラスである例b2-1について、強度分布の下位10%(5個)の強度データを抽出し、その平均値(S2-1L10)を求めた。加傷ガラス板を用いて得られた合わせガラスである例b2-2についても、強度分布の下位10%(5個)の強度データを抽出し、その平均値(S2-2L10)を求めた。そして、加傷による強度差、すなわち例b2-1の強度分布の下位10%平均値(S2-1L10)から例b2-2の強度分布の下位10%平均値(S2-2L10)を引いた値(S2-1L10-S2-2L10)を求めた。さらに、加傷による強度の低下率も、{(S2-1L10-S2-2L10)/(S2-1L10)}×100(%)より求めた。結果を表4、及び図16に示す。
【0133】
【表4】
【0134】
表4、並びに図15及び図16より、搬送時の搬送手段に対向する面と反対側の面(非対向面)が加傷されたガラス板を用いて得られる合わせガラスにおいては面内強度のばらつきが抑えられている、すなわち強度の均一性が高められていることが分かった。また、全体としての強度の平均の低下度合い、並びに強度分布のうちの強度が低い領域の強度の低下度合が小さく、合わせガラスの、自動車窓ガラスとしての堅牢性も維持されていることも分かった。
【0135】
=実験c:サンドペーパーを用いた加傷=
(例c1)
通常行われている量産工程と同様にして、フロート法により成形された帯状ガラス板を個々のガラス板に切り出し、フロントガラス形状に切断し、面取り、洗浄することで、曲げ成形前の厚み2mmの平板状の未処理ガラス板(未加傷ガラス板)を得た。
【0136】
(例c2)
例c1において得られた平板状の未加傷ガラス板を十分乾燥させた後、平坦な台上に載置し、当該未加傷ガラス板の上側の面に、♯600のサンドペーパーの粗面を下向きに置いた。さらに、サンドペーパーの上からローラを荷重2kgで、サンドペーパー範囲全体にわたって一方向に一度転がした。この際、サンドペーパーがガラス板の面に対して相対移動しないように行った。これにより、曲げ成形前の厚み2mmの平板状の加傷ガラス板を得た。
【0137】
(例c3)
用いたサンドペーパーの番手を♯2000に変更したこと以外は例c2と同様にして、加傷を行った。
【0138】
(例c4)
用いたサンドペーパーの番手を♯8000に変更したこと以外は例c2と同様にして、加傷を行った。
【0139】
(例c5)
例c2で得られた加傷ガラス板を、常温条件下(25℃、60%RH)で約90日間保管した。
【0140】
(例c6)
例c2で得られた加傷ガラス板を、湿潤条件下(50℃、95%RH)で1,000時間(約41日間)保管した。
【0141】
(例c7)
例c6で得られた加傷ガラス板を、加熱炉内の最高到達温度630℃で10分間加熱した。
【0142】
例c1(比較例)、並びに例c2~例c7(実施例)のガラス板をそれぞれ以下のように評価した。
【0143】
<強度(破壊応力)の測定>
各例において、1枚のガラス板から66mm×66mm、厚み2mmの小板サンプルを50枚切り出し、各小板サンプルの強度を、破壊応力(MPa)として測定した。破壊応力は、ISO1288-5(2016)に準拠し、R30により測定した。より具体的には、直径60mmの支持リング及び直径12mmの荷重リングを用い、毎分0.3mmの荷重速度で荷重リングによって荷重をかけ、破壊荷重を測定した。荷重は、例b1-1及び例b1-2のいずれの場合でも、ガラス板の搬送時の搬送手段対向面の側に荷重リングを配置し、当該搬送手段対向面の側からかけた。さらに、ISO1288-5(2016)に記載の式を用いて、破壊応力を求めた。
【0144】
<強度均一性及び堅牢性の評価>
上記の50枚の小板サンプルの強度のデータを用いて、各例の破壊応力の平均値、最高値、最低値を求めた。例c1~例c4の結果を図17に、例c2及びc5~c7の結果を図18に示す。
【0145】
図17より、サンドペーパーを用いた加傷が施されたガラス板(例c2~例c4)においては、未加傷のガラス板(例c1)と比較して、最高値と最低値との差が小さくなっていた。よって、加傷によって、面内強度のばらつきが抑えられた、すなわち、強度の均一性が高められたことが分かった。また、サンドペーパーを用いた加傷が施されたガラス板(例c2~例c4)においては、未加傷のガラス板(例c1)と比較して、最低値はそれほど低下していなかった。よって、加傷を行っても、ガラス板の堅牢性が維持されていることも分かった。さらに、上記で用いられたサンドペーパーの番手の範囲では、番手が小さくなるほど最高値を低下できるとから、サンドペーパーの番手を変更することで強度均一性を容易に調整できることが分かった。
【0146】
図18より、所定時間以上保管した場合、或いは加熱をした場合(例c5~例c7)でも、破壊応力は、未加傷ガラス板(例c1)の破壊応力の平均値と比べて、十分に低い値を取っており、加傷の効果が十分に維持されることが分かった。さらに、常温保管後のガラス板(例c5)の結果と保管前のガラス板(例c2)の結果との比較、及び湿潤保管後のガラス板(例c6)の結果と保管前のガラス板(例c2)の結果との比較から、加傷されたガラス板を長期間保管した場合には、加傷の効果が十分に維持されることが分かった。また、加熱前のガラス板(例c6)の結果と加熱後のガラス板(例c7)の結果との比較から、曲げ炉の加熱条件に相当するような条件で加熱されても顕著な変化はなく、加傷の効果がある程度維持されていることが分かった。
【0147】
以下に、具体的な形態について付記する。
[付記a1]
2枚のガラス板を加熱して曲げ成形する工程(A)と、前記曲げ成形された2枚のガラス板を中間膜を介して貼り合わせる工程(B)とを含む自動車窓用合わせガラスの製造方法であって、
前記工程(A)の前に、平板状の前記2枚のガラス板の少なくとも一方のガラス板を搬送手段によって搬送しつつ、前記少なくとも一方のガラス板の搬送手段対向面を前記搬送手段によって加傷し、
前記工程(B)において、前記ガラス板の前記搬送手段対向面が、前記自動車窓用合わせガラスが自動車に取り付けられた時に車内側となるように配置される、自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記a2]
前記平板状の2枚のガラス板の前記搬送手段対向面をそれぞれ加傷する、付記a1に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記a3]
前記加傷を、
前記加傷前の搬送手段対向面の強度分布の上位20%の平均と、前記加傷後の搬送手段対向面の強度分布の上位20%の平均との差が50MPa以上であり、且つ
前記加傷前の搬送手段対向面の強度分布の下位10%の平均と、前記加傷後の搬送手段対向面の強度分布の下位10%の平均との差が50MPa以下となるように行い、
前記強度が、前記搬送手段対向面の反対側から荷重をかけてISO1288-5(2016)に記載された方法により測定された破壊応力である、付記a1又は付記a2に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記a4]
前記加傷による前記搬送手段対向面の強度分布の上位20%の平均値の低下率が10%以上であり、且つ前記加傷による前記搬送手段対向面の強度分布の下位10%の平均値の低下率が20%以下である、付記a1から付記a3のいずれかに記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記a5]
前記搬送手段が複数の搬送ローラから構成されており、前記搬送ローラの少なくとも1つが粗表面を有する、付記a1から付記a4のいずれかに記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記a6]
前記搬送手段が複数の搬送ローラから構成されており、少なくとも1つの搬送ローラの角速度、直径、及び高さの1以上が、前記少なくとも1つの搬送ローラに隣接する搬送ローラと異なる、付記a1から付記a5のいずれかに記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記a7]
車外側ガラス板と車内側ガラス板とが中間膜を介して接合されてなる自動車窓用合わせガラスであって、
前記車外側ガラス板が、車外側の第1面と、車内側の第2面とを有し、
前記車内側ガラス板が、車外側の第3面と、車内側の第4面とを有し、
以下の(条件1)から(条件3)までの1以上を満たす、自動車窓用合わせガラス。
(条件1)ISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力を強度として、
前記第1面の強度分布の上位20%の平均値と、前記第4面の強度分布の上位20%の平均値にとの差が50MPa以上であり、且つ
前記第1面の強度分布の下位10%の平均値と、前記第4面の強度分布の下位10%の平均値との差が50MPa以下である
(条件2)ISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力を強度として、
前記第1面の強度分布の上位20%の平均値と、前記第2面の強度分布の上位20%の平均値との差が50MPa以上であり、且つ
前記第1面の強度分布の下位10%の平均値と、前記第2面の強度分布の下位10%の平均値との差が50MPa以下である
(条件3)ISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力を強度として、
前記第3面の強度分布の上位20%の平均値と、前記第4面の強度分布の上位20%の平均値との差が50MPa以上であり、且つ
前記第3面の強度分布の下位10%の平均値と、前記第4面の強度分布の下位10%の平均値との差が50MPa以下である。
[付記a8]
車外側ガラス板と車内側ガラス板とが中間膜を介して接合されてなる自動車窓用合わせガラスであって、
透過領域の、車外側から荷重をかけてISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力分布の上位20%の平均値が、500MPa以下である、付記A7に記載の自動車窓用合わせガラス。
[付記a9]
フロントガラスである、付記a7又は付記a8に記載の自動車窓用合わせガラス。
[付記a10]
付記a7から付記a9のいずれかに記載の自動車窓用合わせガラスを搭載した自動車。
[付記b1]
2枚のガラス板を加熱して曲げ成形する工程(A)と、前記曲げ成形された2枚のガラス板を中間膜を介して貼り合わせる工程(B)とを含む自動車窓用合わせガラスの製造方法であって、
前記工程(A)の前に、平板状の前記2枚のガラス板の少なくとも一方のガラス板を搬送手段によって搬送し、前記少なくとも一方のガラス板の搬送手段対向面と反対側の非対向面を加傷し、
前記工程(B)において、前記ガラス板の前記非対向面が、前記自動車窓用合わせガラスが自動車に取り付けられた時に車内側となるように配置される、自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記b2]
前記平板状の2枚のガラス板の前記非対向面をそれぞれ加傷する、付記b1に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記b3]
前記加傷を、
前記搬送手段対向面の強度分布の上位20%の平均と、前記非対向面の強度分布の上位20%の平均との差が50MPa以上であり、且つ
前記搬送手段対向面の強度分布の下位10%の平均と、前記非対向面の強度分布の下位10%の平均との差が50MPa以下となるように行い、
前記強度が、前記非対向面から荷重をかけてISO1288-5(2016)に記載された方法により測定された破壊応力である、付記b1又は付記b2に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記b4]
前記加傷による前記非対向面の強度分布の上位20%の平均値の低下率が10%以上であり、且つ前記加傷による前記非対向面の強度分布の下位10%の平均値の低下率が20%以下である、付記b1から付記b3のいずれかに記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記b5]
前記非対向面に加傷具を接触させ、前記非対向面に対して相対的に動かすことによって、前記加傷を行う、付記b1から付記b4のいずれかに記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記b6]
前記加傷を、研磨剤の存在下で行う、付記b55に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記b7]
前記加傷具と前記非対向面との間に水又は水溶液が介在する、付記b5又は付記b6に記載の自動車窓用合わせガラスの製造方法。
[付記b8]
車外側ガラス板と車内側ガラス板とが中間膜を介して接合されてなる自動車窓用合わせガラスであって、
前記車外側ガラス板が、車外側の第1面と、車内側の第2面とを有し、
前記車内側ガラス板が、車外側の第3面と、車内側の第4面とを有し、
以下の(条件1)から(条件3)までの1以上を満たす、自動車窓用合わせガラス。
(条件1)ISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力を強度として、
前記第1面の強度分布の上位20%の平均値と、前記第4面の強度分布の上位20%の平均値との差が50MPa以上であり、且つ
前記第1面の強度分布の下位10%の平均値と、前記第4面の強度分布の下位10%の平均値との差が50MPa以下である
(条件2)ISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力を強度として、
前記第1面の強度分布の上位20%の平均値と、前記第2面の強度分布の上位20%の平均値との差が50MPa以上であり、且つ
前記第1面の強度分布の下位10%の平均値と、前記第2面の強度分布の下位10%の平均値との差が50MPa以下である
(条件3)ISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力を強度として、
前記第3面の強度分布の上位20%の平均値と、前記第4面の強度分布の上位20%の平均値との差が50MPa以上であり、且つ
前記第3面の強度分布の下位10%の平均値と、前記第4面の強度分布の下位10%の平均値との差が50MPa以下である。
[付記b9]
車外側ガラス板と車内側ガラス板とが中間膜を介して接合されてなる自動車窓用合わせガラスであって、
透過領域の、車外側から荷重をかけてISO1288-5(2016)に準じた方法により測定された破壊応力分布の上位20%の平均値が、500MPa以下である、付記b8に記載の自動車窓用合わせガラス。
[付記b10]
フロントガラスである、付記b8又は付記b9に記載の自動車窓用合わせガラス。
[付記b11]
付記b8から付記b10のいずれかに記載の自動車窓用合わせガラスを搭載した自動車。
【0148】
本出願は、2021年4月20日に出願された日本国特許出願2021-071142号及び日本国特許出願2021-071143号に基づく優先権を主張するものであり、それらの全内容を参照によりここに援用する。
【符号の説明】
【0149】
1 合わせガラス
10 車外側ガラス板
11 第1面
12 第2面
20 車内側ガラス板
21 第3面
22 第4面
30 中間膜
50 搬送手段
51、51a、51b 搬送ローラ
100 自動車
F2 非対向面
Da 搬送ローラの軸線方向
Dt 搬送方向
G 平板状ガラス板
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