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特許7626492ハイドロゲル、ハイドロゲルの製造方法、及び、成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】ハイドロゲル、ハイドロゲルの製造方法、及び、成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 291/00 20060101AFI20250128BHJP
   C08J 3/075 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
C08F291/00
C08J3/075 CER
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023523414
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2022020269
(87)【国際公開番号】W WO2022249904
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2021087712
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【弁理士】
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】グン 剣萍
(72)【発明者】
【氏名】中島 祐
(72)【発明者】
【氏名】王 志健
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-062591(JP,A)
【文献】国際公開第2003/093337(WO,A1)
【文献】日本ゴム協会誌,2019年,92(9),p.352-356
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
C08J
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互侵入網目構造又はセミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルであって、
三次元網目構造を有する第1のポリマーと、前記第1のポリマーの前記三次元網目構造の間隙に侵入した第2のポリマーと、を含み、
前記第1のポリマーが、モノマー単位として、結合エネルギーが80~250kJ/molである結合を有する架橋性モノマーA1を含み、
前記第2のポリマーの架橋度が前記第1のポリマーの架橋度よりも小さく、
前記第2のポリマーの含有量が、前記第1のポリマー1質量部に対し、2~100質量部である、ハイドロゲル。
【請求項2】
前記架橋性モノマーA1が、下記式(1)で表される化合物を含む、請求項1に記載のハイドロゲル。
【化1】

[式(1)中、複数のRはエチレン性不飽和結合を有する1価の基を表し、Xはm価の有機連結基を表し、Xはn価の有機連結基を表し、Yは-N=N-、-O-O-又は-S-S-を表し、m及びnはそれぞれ2以上の整数を表し、複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよく、X及びXは互いに同一であっても異なっていてもよく、m及びnは互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項3】
前記第1のポリマーの架橋度が0.1mol%以上である、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項4】
前記第2のポリマーの架橋度が20mol%以下である、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項5】
2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するモノマーCが含浸されている、請求項1に記載のハイドロゲル。
【請求項6】
前記モノマーCの含浸量が、前記ハイドロゲルの固形分100質量部に対し、10~1000質量部である、請求項5に記載のハイドロゲル。
【請求項7】
相互侵入網目構造又はセミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルの製造方法であって、
結合エネルギーが80~250kJ/molである結合を有する架橋性モノマーA1を含む第1のモノマー組成物を反応させて、第1のポリマーを形成する工程aと、
架橋性モノマーA2を任意で含む第2のモノマー組成物を、前記第1のポリマーに含浸させた後に反応させて、第2のポリマーを形成する工程bと、を備え、
前記第1のモノマー組成物中のモノマー総量に対する前記架橋性モノマーA1の量のモル比をr1とし、前記第2のモノマー組成物中のモノマー総量に対する前記架橋性モノマーA2の量のモル比をr2としたとき、r2/r1は1よりも小さく、
前記第2のモノマー組成物の含浸量が、前記第1のポリマー1質量部に対し、2~100質量部である、ハイドロゲルの製造方法。
【請求項8】
前記工程bで得られたハイドロゲルに、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するモノマーCを含浸させる工程cを更に備える、請求項7に記載のハイドロゲルの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のハイドロゲルに、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するモノマーCを含浸させる含浸工程と、
前記含浸工程後又は前記含浸工程と同時に、前記ハイドロゲルを力学的負荷により所定形状に変形させる変形工程と、
前記変形工程後、前記ハイドロゲルを前記所定形状に変形させた状態で所定時間保持する保持工程と、を備える、成形体の製造方法。
【請求項10】
請求項5に記載のハイドロゲルを、力学的負荷により所定形状に変形させる変形工程と、
前記変形工程後、前記ハイドロゲルを前記所定形状に変形させた状態で所定時間保持する保持工程と、を備える、成形体の製造方法。
【請求項11】
前記変形工程では、ブロー成形又はプレス成形により、前記ハイドロゲルを変形させる、請求項9又は10に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル、ハイドロゲルの製造方法、及び、成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは、架橋により形成された三次元的な網目構造を有する高分子が、その内部に液体を吸収することにより膨潤してゲル化したものである。高分子ゲルの中でも、液体が水であるものをハイドロゲルという。ハイドロゲルは、柔軟性、保水性等に優れるという特性を有することから注目を集めている有用な素材である。そのため、医療・医薬、食品、土木、バイオエンジニアリング、スポーツ関連等の多岐にわたる分野において、ハイドロゲルの利用が期待されている。
【0003】
上記のような多分野におけるハイドロゲルの利用を可能にするための課題として、ハイドロゲルの強度の向上が挙げられる。これに対し、本発明者らは、三次元網目構造を有する第1のポリマー中で第2のポリマーを合成することにより形成される相互侵入網目構造又はセミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルが、高い機械的強度を示すことを見出した(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第03/093337号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
相互侵入網目構造又はセミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルは、第1のポリマー(架橋度がより高いポリマー)が力学的負荷によって破壊されやすい等の理由から、成形性に乏しい。現状、所定形状のハイドロゲルを得る場合には、モールド成形により第1のポリマーの合成と成形を同時に行って所定形状の第1のポリマーを得た後、該第1のポリマー中で第2のポリマーを合成する方法が一般的である。しかしながら、モールド成形では複雑な形状の成形体を得ることが難しい。また、目的の形状に応じて金型を用意する必要があること、及び、成形に時間を要することから、充分な生産効率が得られ難い。
【0006】
そこで、本発明は、優れた生産効率で、複雑な形状を有するハイドロゲルの成形体を簡便に製造することを可能とする、成形材料としてのハイドロゲル及びその製造方法、並びに、該ハイドロゲルを用いた成形体の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、相互侵入網目構造又はセミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルに力学的負荷が加えられた際に、第1のポリマー(架橋度がより高いポリマー)の架橋構造が破壊されてメカノラジカルが発生する現象に着目した。ハイドロゲルに2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するモノマーを含浸させた上で力学的負荷を加えると、該力学的負荷により発生したメカノラジカルにより該モノマーを反応させて架橋ネットワークを形成することができることから、この方法により形成される架橋ネットワークを強固なものとすることができれば、ハイドロゲルを変形状態で固定化することができると考えた。本発明者らはこのような着想に基づき鋭意検討を行い、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下の[1]~[11]を提供する。
【0009】
[1] 相互侵入網目構造又はセミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルであって、三次元網目構造を有する第1のポリマーと、前記第1のポリマーの前記三次元網目構造の間隙に侵入した第2のポリマーと、を含み、前記第1のポリマーが、モノマー単位として、結合エネルギーが80~250kJ/molである結合を有する架橋性モノマーA1を含み、前記第2のポリマーの架橋度が前記第1のポリマーの架橋度よりも小さく、前記第2のポリマーの含有量が、前記第1のポリマー1質量部に対し、2~100質量部である、ハイドロゲル。
【0010】
[2] 前記架橋性モノマーA1が、下記式(1)で表される化合物を含む、[1]に記載のハイドロゲル。
【化1】

[式(1)中、複数のRはエチレン性不飽和結合を有する1価の基を表し、X1はm価の有機連結基を表し、X2はn価の有機連結基を表し、Yは-N=N-、-O-O-又は-S-S-を表し、m及びnはそれぞれ2以上の整数を表し、複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよく、X1及びX2は互いに同一であっても異なっていてもよく、m及びnは互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【0011】
[3] 前記第1のポリマーの架橋度が0.1mol%以上である、[1]又は[2]に記載のハイドロゲル。
【0012】
[4] 前記第2のポリマーの架橋度が20mol%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のハイドロゲル。
【0013】
[5] 2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するモノマーCが含浸されている、[1]~[4]のいずれかに記載のハイドロゲル。
【0014】
[6] 前記モノマーCの含浸量が、前記ハイドロゲルの固形分100質量部に対し、10~1000質量部である、[5]に記載のハイドロゲル。
【0015】
[7] 相互侵入網目構造又はセミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルの製造方法であって、結合エネルギーが80~250kJ/molである結合を有する架橋性モノマーA1を含む第1のモノマー組成物を反応させて、第1のポリマーを形成する工程aと、架橋性モノマーA2を任意で含む第2のモノマー組成物を、前記第1のポリマーに含浸させた後に反応させて、第2のポリマーを形成する工程bと、を備え、前記第1のモノマー組成物中のモノマー総量に対する前記架橋性モノマーA1の量のモル比をr1とし、前記第2のモノマー組成物中のモノマー総量に対する前記架橋性モノマーA2の量のモル比をr2としたとき、r2/r1は1よりも小さく、前記第2のモノマー組成物の含浸量が、前記第1のポリマー1質量部に対し、2~100質量部である、ハイドロゲルの製造方法。
【0016】
[8] 前記工程bで得られたハイドロゲルに、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するモノマーCを含浸させる工程cを更に備える、[7]に記載のハイドロゲルの製造方法。
【0017】
[9] [1]~[4]のいずれかに記載のハイドロゲル、又は、[7]に記載の製造方法により得られるハイドロゲルに、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するモノマーCを含浸させる含浸工程と、前記含浸工程後又は前記含浸工程と同時に、前記ハイドロゲルを力学的負荷により所定形状に変形させる変形工程と、前記変形工程後、前記ハイドロゲルを前記所定形状に変形させた状態で所定時間保持する保持工程と、を備える、成形体の製造方法。
【0018】
[10] [5]又は[6]に記載のハイドロゲル、又は、[8]に記載の製造方法により得られるハイドロゲルを、力学的負荷により所定形状に変形させる変形工程と、前記変形工程後、前記ハイドロゲルを前記所定形状に変形させた状態で所定時間保持する保持工程と、を備える、成形体の製造方法。
【0019】
[11] 前記変形工程では、ブロー成形又はプレス成形により、前記ハイドロゲルを変形させる、[9]又は[10]に記載の成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れた生産効率で、複雑な形状を有するハイドロゲルの成形体を簡便に製造することを可能とする、成形材料としてのハイドロゲル及びその製造方法、並びに、該ハイドロゲルを用いた成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例の成形体の作製方法を説明するための模式断面図である。
図2図2は、実施例の成形体の作製に用いられる金型プレート及び該金型プレートを用いて得られた成形体を示す図である。
図3図3は、実施例の成形体及びその成形方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。また、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル、及び、それに対応するメタクリロイルの少なくとも一方を意味する。
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0024】
<ハイドロゲル>
一実施形態のハイドロゲルは、三次元網目構造を有する第1のポリマーと、該第1のポリマーの三次元網目構造の間隙に侵入した第2のポリマーと、を含むゲルである。このハイドロゲルは、相互侵入網目構造又はセミ相互侵入網目構造を有することから、ダブルネットワークゲルとも呼ばれる。
【0025】
ここで、「ハイドロゲルが相互侵入網目構造を有する」とは、ベースとなる三次元網目構造を構成するポリマーに、他の三次元網目構造を有するポリマーが絡みついており、結果として、ハイドロゲルが、ゲル内に複数の網目構造を有していることをいう。また、「ハイドロゲルがセミ相互侵入網目構造を有する」とは、ベースとなる三次元網目構造を構成するポリマーに、非三次元網目構造を有するポリマーが絡みついており、結果として、ハイドロゲルが、ゲル内に1つ以上の網目構造及び1つ以上の非網目構造を有していることをいう。
【0026】
上記第1のポリマーは、モノマー単位として、結合エネルギーが80~250kJ/molである結合(以下、「低エネルギー結合」という)を有する架橋性モノマーA1(以下、単に「モノマーA1」という)と、任意で、単官能重合性モノマーB1(以下、単に「モノマーB1」という)と、を含む。第1のポリマーは、モノマー単位として、モノマーB1を含んでいてよく、含んでいなくてもよい。なお、本明細書中、モノマー単位とは、モノマー由来の単位であり、モノマー中の重合性官能基が他の重合性官能基と反応して他のモノマーと結合することで形成されるポリマーの構成単位である。したがって、ポリマーがモノマー単位としてモノマーXを含むとは、ポリマーがモノマーX由来の構成単位(モノマー単位)を含むことを意味する。モノマー単位は、繰り返し単位という場合もある。
【0027】
上記第2のポリマーは、モノマー単位として、単官能重合性モノマーB2(以下、単に「モノマーB2」という)と、任意で、架橋性モノマーA2(以下、単に「モノマーA2」という)と、を含む。第2のポリマーは、モノマー単位として、モノマーA2を含んでいてよく、含んでいなくてもよい。
【0028】
第2のポリマーがモノマー単位としてモノマーA2を含む場合、第2のポリマーは三次元網目構造を有する。この場合、ハイドロゲルは相互侵入網目構造を有する。第2のポリマーがモノマー単位としてモノマーA2を含まない場合、第2のポリマーは、直鎖構造等の非三次元網目構造を有する。この場合、ハイドロゲルはセミ相互侵入網目構造を有する。
【0029】
上記第2のポリマーの架橋度は第1のポリマーの架橋度よりも小さい。ここで、架橋度とは、ポリマー中の全モノマー単位の量を基準とする架橋性モノマー由来のモノマー単位の割合(単位:mol%)を意味する。第1のポリマーがモノマー単位としてモノマーB1を含まない場合、第1のポリマーの架橋度は100mol%であり、第2のポリマーがモノマー単位としてモノマーA2を含まない場合、第2のポリマーの架橋度は0mol%である。
【0030】
上記第2のポリマーの含有量は、第1のポリマー1質量部に対し、2~100質量部である。すなわち、上記第1のポリマーの含有量に対する上記第2のポリマーの含有量の質量比は、2~100である。
【0031】
上記ハイドロゲルは、例えば、シート状である。
【0032】
上記のような特徴を有するハイドロゲルは、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するモノマーC(以下、単に「モノマーC」という)を含浸させた後に力学的負荷により変形させ、変形状態を保持して固定化する方法において、変形状態の保持時間が短い場合でも良好な形状固定化性を示す。ここで、形状固定化性とは、変形状態を固定化し、力学的負荷を解除した後にも変形状態の形状を保持する性能をいう。そのため、上記ハイドロゲルを上記成形方法における成形材料(マスターシート等)として用いることで、優れた生産効率でハイドロゲルの成形体を製造することが可能となる。また、上記成形方法では、ブロー成形、プレス成形といった複雑形状の成形が可能な成形方法を採用可能であるため、複雑な形状を有する成形体であっても簡便に製造することができる。
【0033】
上記効果が得られる理由は以下のように推察される。まず、上記ハイドロゲルに力学的負荷が加わると、第2のポリマーの架橋度が第1のポリマーの架橋度よりも小さいことに起因して、第1のポリマー(特に第1のポリマーの架橋部分)に負荷が集中する。この際、第1のポリマーの架橋部分を構成するモノマーA1が低エネルギー結合を有する(すなわち、第1のポリマーが架橋部分に低エネルギー結合を有する)ため、該結合において構造破壊が起こり、多量のメカノラジカルが発生する。そのため、予め、又は、力学的負荷が加わると同時に上記モノマーCがハイドロゲルに含浸されることで、該モノマーCがメカノラジカルにより反応し、新規な架橋構造が形成される。ここで、本発明者らの検討の結果から明らかとなったことであるが、モノマーA1に代えてN,N’-メチレンビスアクリルアミド等の一般的な架橋剤を用いた場合には、メカノラジカルの発生量が少なく、新規な架橋構造が形成されたとしても充分な形状固定化性は得られない。また、メカノラジカルの発生量を増加させるために一般的な架橋剤を多量に使用すると、ハイドロゲルの柔軟性(延伸性)が低下し、力学的負荷により変形し難くなるため、そもそも成形が困難となる。一方、本実施形態では、低エネルギー結合の導入によって、力学的負荷により発生するメカノラジカルの量が顕著に増加するため、緻密な架橋構造を形成でき、上記ハイドロゲルが良好な形状固定化性を示すと推察される。なお、本実施形態では、モノマーA1を多量に使用したとしても、力学的負荷により低エネルギー結合が切断されることでハイドロゲルの柔軟性(延伸性)が回復するため、モノマーA1を多量に使用することで形状固定化性を更に向上させることも可能である。
【0034】
以下では、まず、上記ハイドロゲルを構成する第1のポリマー及び第2のポリマーの詳細を説明する。
【0035】
(第1のポリマー)
第1のポリマーは、モノマー単位として、モノマーA1を含む。モノマーA1それ自体は、重合性官能基を2つ以上有する化合物(架橋性モノマー)であり、ポリマー中では三次元網目構造の交差部(架橋部分)を構成する。ポリマー中のモノマーA1(モノマーA1由来のモノマー単位)は、未反応の重合性官能基を有しなくてよい。重合性官能基の数は、例えば、2~8である。重合性官能基としては、例えば、ビニル基、アリル基、スチリル基、アルケニル基、アルケニレン基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基等のエチレン性不飽和結合を有する基が挙げられる。モノマーA1の分子量は、例えば、70~15000であり、100~3000又は50~1000であってもよい。
【0036】
モノマーA1は、低エネルギー結合(結合エネルギーが80~250kJ/molである結合)を少なくとも1つ有する。低エネルギー結合の数は、例えば1~10であり、1~2又は2~10であってもよい。上記結合エネルギーが80kJ/mol未満であると、結合が過度に切れやすくなりハイドロゲルの安定性が損なわれることがある。上記結合エネルギーが250kJ/molより大きいと、結合が切れにくくなり充分な形状固定化性が得られ難い。このような観点から、低エネルギー結合の結合エネルギーは、100kJ/mol以上であってもよく、150kJ/mol以下であってもよい。すなわち、低エネルギー結合の結合エネルギーは、80~150kJ/mol、100~150kJ/mol又は100~250kJ/molであってもよい。
【0037】
モノマーA1は、より優れた形状固定化性が得られやすい観点から、下記式(1)で表される化合物であってよい。
【化2】

【0038】
式(1)中、複数のRはエチレン性不飽和結合を有する1価の基を表し、Xはm価の有機連結基を表し、Xはn価の有機連結基を表し、Yは-N=N-、-O-O-又は-S-S-を表し、m及びnはそれぞれ2以上の整数を表す。複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよい。X及びXは互いに同一であっても異なっていてもよい。m及びnは互いに同一であっても異なっていてもよい。m及びnは、それぞれ、2~18であってよく、2~4であってもよい。
【0039】
又はXで表される有機連結基は、末端原子(R又はYと結合する原子)として炭素原子を有していれば特に限定されず、O、N、及びS等のヘテロ原子を有していてもよい。X又はXで表される有機連結基は、カルボニル基等のヘテロ原子含有官能基を有していてもよい。
【0040】
上記式(1)で表される化合物は、更に優れた形状固定化性が得られやすくなる観点から、下記式(1A)で表される化合物であってよい。
【化3】
【0041】
上記式(1A)で表される化合物は、105kJ/mol程度の結合エネルギーを有する結合(-C-N=)を2つ有している。モノマーA1が上記式(1A)で表される化合物を含む場合、モノマーB1が2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリル酸(AA)及びメタクリル酸、並びに、これらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むことで、ハイドロゲルの優れた延伸性と優れた強度を両立しながら一層優れた形状固定化性を得ることができる。
【0042】
モノマーA1は、1種の化合物であってよく、複数種の化合物を含んでいてもよい。
【0043】
第1のポリマーは、モノマー単位として、任意で、モノマーB1を含む。モノマーB1それ自体は、重合性官能基を1つ有する化合物(単官能重合性モノマー)である。重合性官能基としては、モノマーA1の重合性官能基と同じものが例示される。モノマーB1の分子量は、例えば、40~5000であり、60~1000又は70~300であってもよい。
【0044】
モノマーB1は、正又は負に帯電する化合物であってよい。具体的には、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホン基等の酸性基を有する化合物であってよく、アミノ基等の塩基性基を有する化合物であってもよい。モノマーB1が正又は負に帯電する化合物を含む場合、第2のポリマーにおけるモノマーB2が電気的に中性である化合物を含んでいてよい。この場合、ハイドロゲルの製造過程において、第2のポリマーが第1のポリマーの三次元網目構造の間隙により多く形成されるため、ハイドロゲルがより高い強度を有する傾向がある。このような効果が得られやすくなる観点では、モノマーB1が、モノマーB1の全量を基準として、電気的に正又は負に帯電する化合物を、5mol%以上、10mol%以上又は30mol%以上(例えば、5~100mol%、10~100mol%又は30~100mol%)含んでいてよい。同様の観点から、モノマーB2は、モノマーB2の全量を基準として、電気的に中性である化合物を、30mol%以上、75mol%以上又は95mol%以上(例えば、30~100mol%、75~100mol%又は95~100mol%)含んでいてよい。なお、モノマーB1は電気的に中性である化合物であってもよい。
【0045】
モノマーB1に含まれる化合物の具体例としては、アクリルアミド;N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、N-メチロールアクリルアミド、アクリロイルモルホリン等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン等のメタクリルアミド誘導体;アクリル酸;アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート等のアクリル酸誘導体;メタクリル酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート等のメタクリル酸誘導体;アクリロニトリル;2-ビニルピリジン;4-ビニルピリジン;N-ビニルピロリドン;スチレン;スチレンスルホン酸;酢酸ビニル;2,2,2-トリフルオロエチルメチルアクリレート、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルメタクリレート、3-(ペルフルオロブチル)-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、1H,1H,9H-ヘキサデカフルオロノニメタクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有不飽和化合物などが挙げられる。上記化合物のうち、酸性基又は塩基性基を有する化合物の塩を用いることもできる。これらの中でも、モノマーB1が、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリル酸(AA)及びメタクリル酸、並びに、これらの塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含む場合、ハイドロゲルがより高い強度を有する傾向がある。
【0046】
モノマーB1は、1種の化合物であってよく、複数種の化合物を含んでいてもよい。
【0047】
第1のポリマーは、モノマー単位として、低エネルギー結合を有しない架橋性モノマーを含んでいてもよい。
【0048】
第1のポリマーの架橋度は、ハイドロゲルの形状固定化性がより向上する観点から、0.1mol%以上、1mol%以上又は2mol%以上であってよい。第1のポリマーの架橋度は、100mol%であってもよい。第1のポリマーの架橋度は、ハイドロゲルの柔軟性(延伸性)を高め、力学的負荷による変形をより容易とする観点から、50mol%以下、20mol%以下又は10mol%以下であってよい。これらの観点から、第1のポリマーの架橋度は、0.1~100mol%、0.1~50mol%、1~20mol%又は2~10mol%であってよい。
【0049】
第1のポリマーの含有量は、ハイドロゲルの全質量を基準として、例えば、0.05~30質量%であり、0.1~5質量%又は0.5~2質量%であってもよい。
【0050】
(第2のポリマー)
第2のポリマーは、モノマー単位として、モノマーB2を含む。モノマーB2それ自体は、重合性官能基を1つ有する化合物(単官能重合性モノマー)である。重合性官能基としては、モノマーA1の重合性官能基と同じものが例示される。モノマーB2の分子量は、例えば、40~5000であり、60~1000又は70~300であってもよい。
【0051】
モノマーB2に含まれる化合物の具体例は、モノマーB1と同じであるため省略する。モノマーB2は、モノマーB1と同じであってもよいが、モノマーB1とモノマーB2が異なる場合、ハイドロゲルがより高い強度を有する傾向がある。
【0052】
モノマーB2は、スチレン、アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチル-アクリルアミド、ビニルピリジン、スチレン、メタクリル酸メチル、フッ素含有不飽和化合物(トリフルオロエチルアクリレート等)、ヒドロキシエチルアクリレート及び酢酸ビニルからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含んでいてよい。この場合、ハイドロゲルがより高い強度を有する傾向がある。
【0053】
モノマーB2は、1種の化合物であってよく、複数種の化合物を含んでいてもよい。
【0054】
ハイドロゲル中、第2のポリマーにモノマー単位として含まれるモノマーB2の量は、ハイドロゲルの機械的強度により優れる観点から、第1のポリマーにモノマー単位として含まれるモノマーの総量1モル部に対し、2~100モル部であってよく、3~50モル部又は3~30モル部であってもよい。
【0055】
第2のポリマーは、モノマー単位として、任意で、モノマーA2を含む。モノマーA2それ自体は、重合性官能基を2つ以上有する化合物(架橋性モノマー)である。重合性官能基の数は、例えば、2~6である。重合性官能基としては、モノマーA1の重合性官能基と同じものが例示される。モノマーA2の分子量は、例えば、70~15000であり、100~3000又は150~1000であってもよい。
【0056】
モノマーA2としては、モノマーB2の種類に応じて、本技術分野において架橋剤として使用される化合物を使用することができる。具体的には、例えば、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジメタクリレート、N,N’-ジアクリロイル-4,7,10-トリオキサ-1,13-トリデカンジアミン、N,N’,N’’-トリアクリロイルジエチレントリアミン、N,N’,N’’,N’’’-テトラアクリロイルトリエチレンテトラミン、N,N’-{[(2-アクリルアミド-2-[(3-アクリルアミドプロポキシ)メチル]プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ)]ビス(プロパン-1,3-ジイル)}ジアクリルアミド等が挙げられる。モノマーA2は、モノマーA1として例示した化合物であってもよい。
【0057】
第2のポリマーの架橋度は、架橋による効果が得られやすくなる観点から、0.0001mol%以上、0.01mol%以上又は0.05mol%以上であってよい。第2のポリマーの架橋度は、第2のポリマーにより高い延伸性を持たせる観点から、20mol%以下、5mol%以下又は1mol%以下であってよい。第2のポリマーの架橋度は、0mol%であってもよい。これらの観点から、第2のポリマーの架橋度は、0~20mol%、0.0001~20mol%、0.01~5mol%又は0.05~1mol%であってよい。
【0058】
上記のとおり、第2のポリマーの架橋度は第1のポリマーの架橋度よりも小さい。すなわち、第1のポリマーの架橋度に対する第2のポリマーの架橋度の比(第2のポリマーの架橋度/第1のポリマーの架橋度)は1より小さい。第1のポリマーの架橋度に対する第2のポリマーの架橋度の比は、第1網目(第1のポリマー由来の網目)の破断ひずみが第2網目(第2のポリマー由来の網目)の破断ひずみよりも充分に小さくなり、より強靭なハイドロゲルが得られる観点から、0.1以下又は0.02以下であってもよい。
【0059】
第2のポリマーの含有量は、第1のポリマー1質量部に対し、2~100質量部である。第2のポリマーの含有量が2質量部以上であることで、ハイドロゲルの機械的強度により優れる傾向がある。第2のポリマーの含有量が、100質量部以下であることで、ハイドロゲルの延伸性により優れる傾向がある。これらの観点から、第2のポリマーの含有量は、第1のポリマー1質量部に対し、3質量部以上であってもよく、50質量部以下又は30質量部以下であってもよい。以上の観点から、第2のポリマーの含有量は、第1のポリマー1質量部に対し、2~50質量部又は3~30質量部であってもよい。
【0060】
以上説明した第1のポリマー及び第2のポリマーを含むハイドロゲルは、水を含む。水の含有量は、ハイドロゲルの全質量を基準として、例えば、10~99.9質量%であり、50~99質量%又は70~90質量%であってもよい。
【0061】
上記ハイドロゲルは、力学的負荷により変形させた際にメカノラジカルを発生する。ラジカルの発生量は、加える負荷の大きさ、モノマーA1の種類、第1のポリマーにおけるモノマーA1由来のモノマー単位の量等により調整することができる。具体的には、例えば、ハイドロゲル内部におけるフェントン反応(ハイドロゲル内部に500μmol/Lの(NHFe(SO、500μmol/Lのキシレノールオレンジ及び20mmol/Lの硫酸を導入し、その変形に伴う呈色度合いからラジカル発生量を推定する手法)により測定されるラジカル発生量が、50μmol/L以上又は100μmol/L以上(例えば、50~1000μmol/L又は100~1000μmol/L)であってよい。ラジカル発生量が上記下限値以上であると、より優れた形状固定化性が得られる傾向がある。
【0062】
上述したように、上記ハイドロゲルは、成形時にモノマーCを含浸させて用いられるが、ハイドロゲルには、予めモノマーCが含浸されていてもよい。以下では、便宜上、モノマーCが含浸されたハイドロゲルを「モノマーC含浸ハイドロゲル」といい、モノマーCが含浸されていないハイドロゲル(上記実施形態のハイドロゲル)を「モノマーC非含浸ハイドロゲル」という。
【0063】
モノマーC含浸ハイドロゲルは、モノマーC非含浸ハイドロゲル(上記実施形態のハイドロゲル)と、該ハイドロゲル中に含浸されたモノマーCと、を備える。
【0064】
モノマーCは、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有するモノマーであり、例えば、ビニル基、アリル基、スチリル基、アルケニル基、アルケニレン基、(メタ)アクリロイル基、マレイミド基等のエチレン性不飽和結合を有する基を有する。エチレン性不飽和結合の数は、例えば、2~6である。モノマーCは、上述したモノマーA1又はモノマーA2として例示した化合物であってよい。モノマーCは、より高い形状固定化性が得られる観点では、低エネルギー結合を有さない化合物であってよい。
【0065】
モノマーCの含浸量は、より高い形状固定化性が得られる観点から、ハイドロゲル(モノマーC非含浸ハイドロゲル)の固形分100質量部に対し、10質量部以上、30質量部以上又は70質量部以上であってよい。モノマーCの含浸量は、柔軟性に優れる成形体が得られやすい観点から、ハイドロゲルの固形分100質量部に対し、1000質量部以下、800質量部以下又は500質量部以下であってよい。これらの観点から、モノマーCの含浸量は、ハイドロゲルの固形分100質量部に対し、10~1000質量部、30~800質量部又は70~500質量部であってよい。本明細書中、ハイドロゲルの固形分とは、ハイドロゲル中の水以外の成分の合計量を意味し、例えば第1のポリマーと第2のポリマーの合計量を意味する。
【0066】
モノマーC含浸ハイドロゲルには、エチレン性不飽和結合を1つ有するモノマー(以下、「モノマーD」という)が含浸されていてもよい。モノマーDとしては、モノマーB1及びモノマーB2として例示した単官能重合性モノマーが挙げられる。
【0067】
モノマーCとモノマーDの総含浸量(モノマーCの含浸量とモノマーDの含浸量の合計)は、より高い形状固定化性が得られる観点から、ハイドロゲル(モノマーC非含浸ハイドロゲル)の固形分100質量部に対し、20質量部以上、50質量部以上又は100質量部以上であってよい。モノマーCとモノマーDの総含浸量は、柔軟性に優れる成形体が得られやすい観点から、ハイドロゲルの固形分100質量部に対し、1000質量部以下、800質量部以下、500質量部以下又は300質量部以下であってよい。これらの観点から、モノマーCとモノマーDの総含浸量は、ハイドロゲルの固形分100質量部に対し、20~1000質量部、50~800質量部、100~500質量部又は100~300質量部であってよい。
【0068】
ハイドロゲル(モノマーC非含浸ハイドロゲル及びモノマーC含浸ハイドロゲル)は、必要に応じて、公知の着色剤、可塑剤、安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、難燃剤等の添加剤を含有してよい。これらの添加剤は、例えば、高分子量の添加剤であれば重合時の溶液に添加してよく、低分子量の添加剤であれば最終的に得られたハイドロゲルに自由拡散で含有させてよい。
【0069】
上述したように、上記ハイドロゲルは、成形材料として好適に用いられる。ただし、上記ハイドロゲルの用途は、成形材料に限定されるものではない。
【0070】
<ハイドロゲルの製造方法>
相互侵入網目構造又はセミ相互侵入網目構造を有するハイドロゲルの製造方法の一実施形態は、第1のモノマー組成物を反応させて、上記第1のポリマーを形成する工程aと、第2のモノマー組成物を、第1のポリマーに含浸させた後に反応させて、上記第2のポリマーを形成する工程bと、を備える。ここで、モノマー組成物とは、重合性官能基を有する化合物(モノマー)を含む組成物を意味する。第1のモノマー組成物は、上記モノマーA1を含み、任意で、モノマーB1を更に含むものである。第2のモノマー組成物は、上記モノマーB2を含み、任意で、モノマーA2を更に含むものである。
【0071】
上記方法において、第1のモノマー組成物中のモノマー総量(例えばモノマーA1とモノマーB1の合計量)に対するモノマーA1の量のモル比をr1とし、第2のモノマー組成物中のモノマー総量(モノマーA2とモノマーB2の合計量)に対するモノマーA2の量のモル比をr2としたとき、r2/r1は1よりも小さく、第2のモノマー組成物の含浸量は、第1のポリマー1質量部に対し、2~100質量部である。モル比r2/r1及び第2のモノマー組成物の含浸量を上記のように調整することにより、上記実施形態のモノマーC非含浸ハイドロゲルを得ることができる。なお、上記モル比r1がxである場合、第1のポリマーとして、100x[mol%]の架橋度を有するポリマーが得られやすく、上記モル比r2がyである場合、第2のポリマーとして、100y[mol%]の架橋度を有するポリマーが得られやすい。
【0072】
工程aでは、例えば、第1のモノマー組成物を重合開始剤(第1のモノマー組成物の重合開始剤)の存在下で反応(重合)させて第1のポリマーを形成する。重合開始剤は、モノマーの種類、重合性官能基及び架橋性官能基の種類等に応じて選択できる。重合開始剤は、光重合開始剤であってよく、熱重合開始剤であってもよい。光重合開始剤としては、例えば、α-ケトグルタル酸、ベンゾフェノン等が挙げられる。熱重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム等の水溶性熱触媒、過硫酸カリウム-チオ硫酸ナトリウム等のレドックス開始剤、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイルなどが挙げられる。重合開始剤として光重合開始剤を用いる場合の光の照射条件、及び、重合開始剤として熱重合開始剤を用いる場合の加熱条件は、重合開始剤の種類、目的とする第1のポリマーの物性等に応じて適宜調整してよい。
【0073】
反応(重合)は、例えば、水等の溶媒中で行う。工程aでは、第1のポリマーが溶媒中で生成されることで、第1のポリマーと第1のポリマー中に含浸した溶媒とを含む高分子ゲルが得られる。反応(重合)を行う際には、窒素等の不活性ガスを用いて溶媒中の酸素を除去してよい。
【0074】
工程bでは、例えば、第2のモノマー組成物及び重合開始剤(第2のモノマー組成物の重合開始剤)を含む溶液を予め調製し、この溶液を第1のポリマーに含浸させることで、第2のモノマー組成物を第1のポリマーに含浸させる。具体的には、例えば、上記第1のポリマーを含むゲルを上記溶液に浸漬した後、充分な時間(例えば1日以上)放置することで第2のモノマー組成物及び重合開始剤をゲル中に均一に拡散させる。次いで、上記溶液からゲルを取り出し、工程aと同様にして第2のモノマー組成物を反応(重合)させて第2のポリマー(第1のポリマーの三次元網目構造の間隙に侵入した第2のポリマー)を形成する。拡散途中で反応が進行することを避ける観点では、ゲルを浸漬させる際の溶液の温度は室温以下(4℃付近)であってよい。反応(重合)は無酸素環境下で行ってよい。
【0075】
上記溶液としては、窒素等の不活性ガスを用いて酸素が除去されたものを用いてよい。上記溶液に用いる溶媒は、例えば水である。第2のモノマー組成物をゲル中に均一に拡散しやすくする観点では、工程aの反応に用いる溶媒と工程bの反応に用いる溶媒は同じであってよい。溶媒として水以外の溶媒を用いる場合には、工程bの後に溶媒交換を行うことで、溶媒を水に置換してよい。
【0076】
工程bでは、第1のポリマー1質量部に対する第2のモノマー組成物の含浸量を調整することで、ハイドロゲル中の第1のポリマーと第2のポリマーの含有比率を調整することができる。第2のモノマー組成物の含浸量は、第1のポリマー1質量部に対し、2~100質量部であってよく、3~50質量部又は3~30質量部であってもよい。第2のモノマー組成物の含浸量は、溶液中の第2のモノマー組成物の濃度により調整することができる。
【0077】
以上の方法によれば、モノマーC非含浸ハイドロゲル(例えば上記実施形態のモノマーC非含浸ハイドロゲル)が得られるが、ハイドロゲルの製造方法は、上記に限定されない。例えば、予め製造された第1のポリマーを用いてもよい。すなわち、ハイドロゲルの製造方法は、工程aを備えなくてもよい。
【0078】
他の一実施形態のハイドロゲルの製造方法は、上記工程a及び上記工程bに加えて、工程bで得られたハイドロゲル(モノマーC非含浸ハイドロゲル)に、上記モノマーCを含浸させる工程cを更に備える。工程cでは、モノマーCに加えて、上記モノマーDをハイドロゲルに含浸させてもよい。
【0079】
工程cは、工程bと同様にして実施することができる。具体的には、例えば、モノマーC(及び任意でモノマーD)を含む溶液を予め調製し、この溶液にモノマーC非含浸ハイドロゲルを浸漬させることで、モノマーC(及び任意でモノマーD)をモノマーC非含浸ハイドロゲルに含浸させることができる。溶液中のモノマーC及びモノマーDの濃度及び溶液の使用量は、上述した実施形態におけるモノマーC及びモノマーDの含浸量が得られるように調整してよい。
【0080】
上記溶液としては、窒素等の不活性ガスを用いて酸素が除去されたものを用いてよい。上記溶液に用いる溶媒は、例えば水である。溶媒として水以外の溶媒を用いる場合には、工程cの後に溶媒交換を行うことで、溶媒を水に置換してよい。
【0081】
以上の方法によれば、モノマーC含浸ハイドロゲル(例えば上記実施形態のモノマーC含浸ハイドロゲル)が得られる。なお、ハイドロゲルの製造方法は、上記に限定されず、例えば、予め製造されたモノマーC非含浸ハイドロゲルを用いてもよい。すなわち、モノマーC含浸ハイドロゲルの製造方法は、上記工程a及び工程bを備えなくてもよい。
【0082】
<ハイドロゲルの成形体の製造方法>
第一実施形態の成形体の製造方法では、被成形体(成形材料)として上記実施形態のモノマーC非含浸ハイドロゲル又は上記実施形態の方法で得られたモノマーC非含浸ハイドロゲルを用いる。第一実施形態の成形体の製造方法は、ハイドロゲル(モノマーC非含浸ハイドロゲル)にモノマーCを含浸させる含浸工程と、含浸工程後又は含浸工程と同時に、ハイドロゲルを力学的負荷により所定形状に変形させる変形工程と、変形工程後、ハイドロゲルを所定形状に変形させた状態で所定時間保持する保持工程と、を備える。なお、後述するように、変形工程を含浸工程と同時に実施する場合には、例えば、モノマーCをハイドロゲルに含浸させながらハイドロゲルを変形させてよい。
【0083】
含浸工程では、モノマーCに加えてモノマーDをハイドロゲルに含浸させてもよい。含浸工程は、例えば、予め調製したモノマーC(及び任意でモノマーD)を含む溶液をハイドロゲルに適用することにより実施してよい。含浸工程は、変形工程の前に実施してよく、変形工程と同時に実施してもよい。変形工程の前に含浸工程を実施する場合、上述した工程cと同様にして含浸工程を実施してよい。変形工程と同時に含浸工程を実施する場合、例えば、ブロー成形に使用する液体としてモノマーC(及び任意でモノマーD)を含む溶液を用いることにより、変形工程及び含浸工程を実施してよい。溶液中のモノマーC及びモノマーDの濃度並びにこれらの溶液の使用量は、モノマーC及びモノマーDの含浸量が上述した範囲となるように調整してよい。
【0084】
変形工程における変形方法は、ハイドロゲルを力学的負荷により変形させることができる方法であれば特に限定されず、例えば、気体(例えば圧縮空気)又は液体の吹き込みにより生じる圧力によってハイドロゲルを変形させる方法(ブロー成形、圧空成形)、金型の押圧によりハイドロゲルを変形させる方法(プレス成形)、ハイドロゲルを圧縮して金型から押し出し必要な形状の断面を形成する方法(押出成形)、ハイドロゲルと金型との空間を真空状態にして密着させ目的の形状を得る方法(真空成形)、3次元形状の基材にハイドロゲルを貼り合わせ貼合する方法(3次元ラミネート成形)等が挙げられる。これらの中でも、ブロー成形又はプレス成形によれば、簡便に複雑な形状に変形させることができる。
【0085】
変形工程では、ラジカル発生量を増やし、形状固定化性を向上させる観点から、ハイドロゲルを2倍以上(例えば2~20倍)延伸させてよい。
【0086】
保持工程における保持時間は、変形量、変形後の形状等により異なるが、1分間以上であってよく、5分間以上であってもよい。保持時間の上限は特に限定されないが、保持時間は、24時間以下であってよい。
【0087】
第二実施形態の成形体の製造方法は、被成形体(成形材料)として上記実施形態のモノマーC含浸ハイドロゲルを用いる。第二実施形態の成形体の製造方法は、ハイドロゲル(モノマーC含浸ハイドロゲル)を力学的負荷により所定形状に変形工程と、変形工程後、ハイドロゲルを所定形状に変形させた状態で所定時間保持する保持工程と、を備える。第二実施形態の製造方法は、含浸工程を実施しないことを除き、第一実施形態と同じである。なお、第二実施形態の製造方法では、含浸工程を実施してもよい。例えば、ブロー成形に使用する液体としてモノマーC(及び任意でモノマーD)を含む溶液を用いることにより、変形工程と同時に含浸工程を実施してもよい。
【0088】
上記方法で製造されるハイドロゲルの成形体は、各種用途に使用できる。具体的な用途としては、例えば、各種衝撃吸収・制振材料、人工関節等の生体材料、各種電子部品、OA機器の伸縮部又は駆動部、各種中間膜、船底塗料、配管の汚れ付着防止剤等の工業材料;関節、軟骨、血管等の生体組織の代替材料;細胞培養シートなどが挙げられる。
【実施例
【0089】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
<実施例1>
(モノマー含浸ダブルネットワークゲルの合成)
内部をアルゴンに置換した100mlの丸底フラスコに2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:VA-086)1当量とジクロロメタン(1mmоlのVA-086に対して5mL)を加えて懸濁した。次いで、上記フラスコを液体窒素とアセトンの混合物に浸して冷却した状態で16当量のトリエチルアミンを加えた。さらに、6当量の塩化アクリロイルをジクロロメタンに溶解させた溶液(濃度:1mmоl/mL)を徐々に滴下し、冷却しながら5時間攪拌を続けた。その後、フラスコの温度を徐々に室温に戻し、過剰量の炭酸水素ナトリウムを加えて反応を停止させることにより、下記式(1A)で表される化合物(AAC)を合成した。
【化4】
【0091】
次いで、単官能重合性モノマーである2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)0.1molと、架橋性モノマーである上記式(1A)で表される化合物(AAC)10mmolと、重合開始剤である2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル)バレロニトリル1mmolと、を混合した後、得られた混合液に、総体積が100mLになるまでN,N-ジメチルホルムアミドを加え、第1のポリマー形成用の前駆体溶液(第1前駆体溶液)を調製した。次いで、アルゴンガスを用いて第1前駆体溶液中の脱酸素を行った後、シリコーンゴムで仕切られた2枚のガラス板の間に第1前駆体溶液を注入し、44℃で10時間保持することにより、三次元網目構造を有する第1のポリマーを含むゲル(第1網目ゲル)を合成した。合成後、第1網目ゲルを過剰量の純水に浸漬することにより、ゲル内部の溶媒を純水に置換した。
【0092】
単官能重合性モノマーであるアクリルアミド(AA)2molと、架橋性モノマーであるN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)0.4mmolと、重合開始剤である2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド2mmolと、を混合した後、得られた混合液に、総体積が1Lになるまで純水を加え、第2のポリマー形成用の前駆体水溶液(第2前駆体水溶液)を調製した。次いで、上記で得られた第1網目ゲルを第2前駆体水溶液に含浸させた。この際、AAとMBAAの第1のポリマーへの含浸量の合計が、第1のポリマー1質量部に対し、8質量部となるように第2前駆体水溶液の含浸量を調整した。次いで、2枚のガラス板でゲルを挟み、44℃で10時間保持することにより第1網目ゲルの内部で第2のポリマーを合成した。これにより、第1のポリマーと、第1のポリマーの三次元網目構造の間隙に侵入した第2のポリマーとを含むハイドロゲル(相互侵入網目構造を有するダブルネットワークゲル)を得た。ダブルネットワークゲルにおける第2のポリマーの含有量は、第1のポリマー1質量部に対し、8質量部であった。
【0093】
単官能重合性モノマーである2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)100mmolと、架橋性モノマーであるN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)10mmolと、を混合した後、得られた混合液に、総体積が100mLになるまで純水を加え、ハイドロゲル成形用の前駆体水溶液(第3前駆体水溶液)を調製した。次いで、上記で得られたダブルネットワークゲルを無酸素環境下で第3前駆体水溶液に浸漬させた。この際、AMPSとMBAAのダブルネットワークゲルへの含浸量が、ダブルネットワークゲルの固形分100質量部に対し、400質量部となり、MBAAのダブルネットワークゲルへの含浸量が、ダブルネットワークゲルの固形分100質量部に対し、30質量部となるように第3前駆体水溶液の含浸量を調整した。これにより、モノマー含浸ダブルネットワークゲル(モノマー含浸ハイドロゲル)を得た。
【0094】
(形状固定化性評価)
上記で得られたモノマー含浸ダブルネットワークゲルを無酸素環境下で変形させて一定時間保持することにより、形状固定化性の評価を行った。具体的には、モノマー含浸ダブルネットワークゲルを幅2mm×長さ12mm×厚さ2mmに切り出し、卓上型引張圧縮試験機(MCT-2150、エー・アンド・デー製)を用いて、公称ひずみ2、3又は4まで一軸引張により伸長し、所定時間保持した。所定時間は、公称ひずみ2の場合には7分間、10分間又は15分間とし、公称ひずみ3及び4の場合には10分間とした。保持を解除した後の長さを測定し、長さ保持率Rf(解除後の長さ/伸張時の長さ×100、単位:%)を求めた。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
(ハイドロゲルの成形体の作製[1])
図1に示すように、上記で得られたモノマー含浸ダブルネットワークゲル(図1中の3)を一対のプレート1及び2間に配置した。一方のプレートは、ブロー成形用の金型プレート1であり、開口6を有する。他方のプレートは、支持プレート2である。支持プレート2とモノマー含浸ダブルネットワークゲル3との間には、液体を供給するためのニードル4及び隙間5が設けられている。ニードル4から上記ハイドロゲル成形用の前駆体水溶液(第3前駆体水溶液)30mLを供給することで、モノマー含浸ダブルネットワークゲル3を金型プレート1の開口6の形状にあわせて変形させ、変形状態で15分間保持した。その後、供給した溶液を除去することで保持を解除し、図2の(a2)~(f2)の写真に示す成形体10a~10fを得た。なお、図2の(a2)~(f2)の成形には、金型プレート1として、図2の(a1)~(f1)の模式図に示すプレート1a~1fを用いた。
【0097】
(ハイドロゲルの成形体の作製[2])
上記で得られたモノマー含浸ダブルネットワークゲルを、幅5mm×長さ50mm×厚さ2mmに切り出し、無酸素環境下において公称ひずみ4まで延伸した。次いで、図3の(a1)~(c1)に示すように、延伸されたモノマー含浸ダブルネットワークゲル11a~11cを直ちに型(12a及び12b)に巻き付けるなどして任意の形状を取らせ、上記ハイドロゲル成形用の前駆体水溶液(第3前駆体水溶液)に浸漬させて変形状態で15分間保持した。その後、保持を解除して水溶液から取り出し、図3の(a2)~(c2)の写真に示す成形体20a~20cを得た。
【0098】
<比較例1>
(ダブルネットワークゲルの合成)
単官能重合性モノマーである2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)0.1molと、架橋性モノマーであるN,N’-メチレンビスアクリルアミド6mmolと、重合開始剤である2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル)バレロニトリル1mmolと、を混合した後、得られた混合液に、総体積が100mLになるまでN,N-ジメチルホルムアミドを加え、第1のポリマー形成用の前駆体溶液(第1前駆体溶液)を調製した。次いで、アルゴンガスを用いて第1前駆体溶液中の脱酸素を行った後、シリコーンゴムで仕切られた2枚のガラス板の間に第1前駆体溶液を注入し、44℃で10時間保持することにより、三次元網目構造を有する第1のポリマーを含むゲル(第1網目ゲル)を合成した。合成後、第1網目ゲルを過剰量の純水に浸漬することにより、ゲル内部の溶媒を純水に置換した。
【0099】
単官能重合性モノマーであるアクリルアミド(AA)2molと、架橋性モノマーであるN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)0.4mmolと、重合開始剤である2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド2mmolと、を混合した後、得られた混合液に、総体積が1Lになるまで純水を加え、第2のポリマー形成用の前駆体水溶液(第2前駆体水溶液)を調製した。次いで、上記で得られた第1網目ゲルを第2前駆体水溶液に含浸させた。この際、AAとMBAAの第1のポリマーへの含浸量の合計が、第1のポリマー1質量部に対し、8質量部となるように第2前駆体水溶液の含浸量を調整した。次いで、2枚のガラス板でゲルを挟み、44℃で10時間保持することにより第1網目ゲルの内部で第2のポリマーを合成した。これにより、第1のポリマーと、第1のポリマーの三次元網目構造の間隙に侵入した第2のポリマーとを含むハイドロゲル(相互侵入網目構造を有するダブルネットワークゲル)を得た。ダブルネットワークゲルにおける第2のポリマーの含有量は、第1のポリマー1質量部に対し、8質量部であった。
【0100】
単官能重合性モノマーである2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)100mmolと、架橋性モノマーであるN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)10mmolと、を混合した後、得られた混合液に、総体積が100mLになるまで純水を加え、ハイドロゲル成形用の前駆体水溶液(第3前駆体水溶液)を調製した。次いで、上記で得られたダブルネットワークゲルを無酸素環境下で第3前駆体水溶液に浸漬させた。この際、AMPSとMBAAのダブルネットワークゲルへの含浸量が、ダブルネットワークゲルの固形分100質量部に対し、400質量部となり、MBAAのダブルネットワークゲルへの含浸量が、ダブルネットワークゲルの固形分100質量部に対し、30質量部となるように第3前駆体水溶液の含浸量を調整した。これにより、モノマー含浸ハイドロゲルを得た。
【0101】
(形状固定化性評価)
上記で得られたモノマー含浸ダブルネットワークゲルについて、実施例1と同様にして、形状固定化性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0102】
【表2】
【0103】
<比較例2>
(ダブルネットワークゲルの合成)
実施例1と同様にして、ダブルネットワークゲル(モノマー非含浸ダブルネットワークゲル)を得た。
【0104】
(形状固定化性評価)
上記で得られたモノマー非含浸ダブルネットワークゲルについて、実施例1と同様にして、形状固定化性の評価を行った。結果を表3に示す。
【0105】
【表3】
【符号の説明】
【0106】
1…金型プレート、2…支持プレート、3…ハイドロゲル、4…ニードル、5…隙間、6…開口。

図1
図2
図3