(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】筋力強化剤及び食品組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20250128BHJP
A61K 35/745 20150101ALI20250128BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K35/745
A23L2/00 F
A23L2/52
(21)【出願番号】P 2021149471
(22)【出願日】2021-09-14
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊木 明美
(72)【発明者】
【氏名】砂田 洋介
【審査官】楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第7454471(JP,B2)
【文献】国際公開第2020/203792(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/087280(WO,A1)
【文献】特表2018-538369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株の菌体を有効成分として含有する、筋力強化剤。
【請求項2】
一食当たりの単位摂取形態からなり、該単位中に、ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株が有効成分として含有されている、筋力強化剤。
【請求項3】
ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株の菌体が死菌である、請求項1~2のいずれか一項の筋力強化剤。
【請求項4】
ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株の菌体を有効成分として含有する、筋力強化用の食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
運動が健康維持に重要であることは広く認識されている。例えば、身体活動量が多い者や運動をよく行っている者は、総死亡、虚血性心疾患、高血圧、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、結腸がんなどの罹患率や死亡率が低いというデータがある。また、高齢者においては、運動することで筋力の低下に基づくサルコペニアを予防することができ、その結果、寝たきりや死亡を減少させられることが報告されている。このように、運動は健康に欠かせないものである。
【0002】
しかし、近年、家事や仕事の機械化、交通手段の発達などにより運動量が明らかに低下している。特に、運動不足になりがちな成人においては、加齢による影響と相俟って、筋力の顕著な低下が見受けられる。筋力の低下は、日常生活における思わぬ怪我の原因にもなり得る。また、高齢者においては、身体の活動を支える骨格筋の筋量が減ると体が思うように動かせず、転倒による骨折、入院、寝たきり等のリスクを増加させる。そのため、健康的で文化的な生活が送るためには筋肉量や筋力の低下を防ぐ必要がある。
【0003】
筋肉量や筋力の低下を防ぐためには、習慣的な運動を行うことが望ましい。しかし、老化により筋肉の萎縮が生じてしまった者、高齢者に限らず臥床や運動器官(骨、関節)や循環器に負担をかけられない者、毎日忙しい者等は、本人が持続的な運動を望んだとしても実施できず、筋力の低下を防ぐことが難しい。
【0004】
また、筋力の低下を防ぐために、濃縮発酵乳を積極的に摂取する方法もある(特許文献1参照)。しかし、高齢者に限らず食の細い者や、食事のタイミングや回数が不規則となりがちな者等は、本人が望んだとしてもたんぱく質の積極的な摂取を行うことができず、筋力の低下を防ぐことが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は運動以外の方法で、しかも手軽に筋力の低下を防ぐ方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、種々の食品等を分離源として、乳酸菌について検討を行った結果、ヒト由来のビフィドバクテリウム・ブレーベに筋力を強化する作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の特徴を包含する。
(1) ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株の菌体を有効成分として含有する、筋力強化剤。
(2)一食当たりの単位摂取形態からなり、該単位中に、ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株が有効成分として含有されている、筋力強化剤。
(3) ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株の菌体が死菌である、請求項1~2のいずれか一項の筋力強化剤。
(4) ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株の菌体を有効成分として含有する、筋力強化用の食品組成物。
(5) 請求項1乃至3のいずれか一項に記載の筋力強化剤を含有する飲食品。
【0009】
ここで、特許請求の範囲記載の「筋力」とは、筋が収縮するときに生じる力のことである。また、「筋力強化」とは、筋肥大に基づく筋力の強化のみならず、筋線維を収縮させる神経系の向上により、より多くの筋線維が収縮することに基づく筋力の強化を含む概念である。
【0010】
また、特許請求の範囲記載の「単位摂取形態」とは、1回当たりに決められた量を摂取しやすいように、所定量が個包、錠剤、カプセル、顆粒などの形態になっていることを意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、運動以外の方法で、筋肉量や筋力を維持または強化することができる筋力強化剤及び食品組成物を提供することができる。これにより、健康寿命を延長でき、ひいては医療費削減効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、摂取開始前、摂取6週後、摂取12週後の握力(実測値)を比較した図である。
【
図2】
図2は、摂取開始前、摂取6週後、摂取12週後の開眼片足立ち秒数(実測値)を比較した図である。
【
図3】
図3は、摂取開始前、摂取6週後、摂取12週後の6分間歩行距離(実測値)を比較した図である。
【
図4】
図4は、摂取開始前、摂取6週後、摂取12週後の自覚症状アンケートによる『階段をのぼるのが辛いと感じますか?』のスコア変化率を表した図である。
【
図5】
図5は、摂取開始前、摂取6週後、摂取12週後の自覚症状アンケートによる『重いものを持つのが辛いと感じますか?』のスコア変化率を表した図である。
【
図6】
図6は、摂取開始前、摂取6週後、摂取12週後の自覚症状アンケートによる『固いフタを開けるのが辛いと感じますか?』のスコア変化率を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「筋力強化」とは、「筋力増強」、「筋出力の強化」、「筋出力の増強」等と言い換えることができる。したがって、本実施形態の筋力強化剤は、「筋力増強剤」、「筋出力の強化剤」、「筋出力の増強剤」等と言い換えることもできる。
【0014】
本実施形態の筋力強化剤は、ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株(NITE BP-03231) の菌体を有効成分として含有する組成物が、筋肉量や筋力の低下を防ぐ用途に有効であることを見出したことに基づくものである。
【0015】
(ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株)
ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株は、下記の条件で寄託されている。
(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
(2)連絡先:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室
(3)受託番号:NITE BP-03231
(4)識別のための表示:N106
(5)寄託日:2020年6月18日
【0016】
本実施形態で用いられるビフィドバクテリウム・ブレーベN106株菌体の調製方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、前培養および本培養はGAM培地 (日水製薬株式会社)を所定の方法で調製し、ビフィドバクテリウム・ブレーベ N106株を接種後37℃、24時間培養する。本培養液中の菌体を遠心分離や膜濃縮により集菌し、菌体を水で洗浄後加熱殺菌処理する。なお、集菌処理前に殺菌処理しても良い。殺菌、菌体洗浄後凍結乾燥処理により乾燥殺菌体粉末を得ることができる。菌体の粉末化の方法は凍結乾燥に限らず、スプレードライやドラム乾燥などで行っても良い。また、殺菌処理を施さなければ生菌体粉末を得ることもできる。
【0017】
本実施形態におけるビフィドバクテリウム・ブレーベ N106株の菌体は、生菌を用いても良く、死菌を用いても良い。また、生菌を用いる場合は、死菌が混在していても良い。また、ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株の菌体は、一日当たり20 mg以上摂取することが好ましい。摂取については、一日当たりの量を一度に摂取しても、数回に分けて摂取してもよく、摂取のタイミングも問わない。例えば、単位摂取形態として一錠当たりビフィドバクテリウム・ブレーベ N106株の死菌5 mgを含んだ錠剤がある場合、一度に4錠摂取してもよいし、4錠を何回かに分けて摂取してもよい。また、一錠当たりビフィドバクテリウム・ブレーベ N106株の死菌20 mgを含んでいる場合には、一日に1錠摂取すればよい。なお、ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株の菌体の一日当たり摂取量に上限はないが、あえて上限を設けるのであれば、10 g摂取すれば十分であると考える。それ以上摂取しても、効き目に差がないと考えられるためである。また、ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株の菌体は継続して12週間以上摂取することが好ましい。
【0018】
ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株菌体の摂取方法としては、特に制限されないが、経口摂取であることが好ましい。具体的には、ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株菌体を食品組成物として含有する飲食品、医薬組成物として含有する医薬品等として摂取することが好ましい。
【0019】
飲食品として摂取する場合、例えばビフィドバクテリウム・ブレーベN106株菌体を食品組成物として発酵乳及び乳酸菌飲料、バター等の乳製品、マヨネーズ等の卵加工品、バターケーキ等の菓子パン類等の材料としても利用することができる。また、即席麺やクッキー等の加工食品にも好適に利用することができる。さらに、水やジュースなどに溶解させて、飲料として摂取してもよい。なお、ビフィドバクテリウム・ブレーベN106株菌体単体をそのまま飲食品として摂取してもよい。また、一般の飲料や食品以外にも特定保健用食品、機能性表示食品、栄養補助食品、サプリメント等に含有させてもよい。
【0020】
医薬品として摂取する場合、添加剤やその他の薬学的に許容される担体とともに用いることができる。医薬品の形状としては、例えば、錠剤、カプセル、顆粒等が挙げられる。なお、製剤化は公知の方法を用いることができる。
【0021】
医薬品に用いる添加剤としては、ステアリン酸カルシウム等の潤滑剤、ショ糖、乳糖等の甘味剤ほか、香味剤、安定剤、緩衝剤、溶解補助剤、酸化防止剤、防腐剤等が挙げられる。
【実施例】
【0022】
次に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
年齢が45歳以上、65歳以下の健常日本人男女を被験者として、非盲検単群試験を実施した。非盲検試験とは、被験者がどの治療群に割付けられたか、医師、被験者、スタッフにわかっている試験法である。また、単群試験とは、プラセボ対照群を置かずに、摂取群のみで実施する試験法である。
【0024】
[試験食品の打錠の製造]
ビフィドバクテリウム・ブレーベ N106株の菌体粉末および賦形剤を配合した実施例の打錠を製造した。賦形剤は、還元麦芽糖水飴、セルロース、ステアリン酸カルシウム、微粒二酸化ケイ素を含有していた。
【0025】
試験食品の打錠には、一粒当たり20 mgのビフィドバクテリウム・ブレーベ N106株の死菌体粉末を配合した。
【0026】
[試験の実施]
年齢が45歳以上、65歳以下の健常日本人男女を募集し、試験内容の説明した上で自由意志に基づいた同意が得られた者37名を選定した。その試験参加志願者37名について、本試験の適格性を判断するために、スクリーニング(SCR)を実施した。スクリーニングでは、試験参加志願者に対して、医師による問診、身体測定、バイタルサイン (血圧、脈拍)、血液検査、運動能力検査を実施した。スクリーニングの結果から、病者ではなく本試験に適格と判断された被験者10名を選定した。
【0027】
試験スケジュールを表1に示した。続いて、本試験として試験食品を12週間摂取させた。
【0028】
【0029】
試験食品は、1日当たり打錠1錠を水又はぬるま湯で摂取させた。摂取時間は、飲み忘れを防ぐ目的で朝食後としたが、朝食後に摂取を忘れた場合はその日のうちに摂取することとし、翌日には持ち越さないこととした。試験期間中の被験者には下記の制限事項を守るよう指導した。
【0030】
<試験期間中の遵守事項>
1. 試験期間中、日常生活を大きく逸脱するような、過度な運動、節食や過食・多量の飲酒を制限し、通常どおりの生活習慣を維持する。
2. 試験期間中、試験参加前の食事、飲酒、運動、睡眠、仕事等の生活習慣や環境を極力変えない。
3. 試験期間中、運動習慣がある者は通常よりも激しい運動をせず、運動量や質を変えない。また、運動習慣がない者は新たに運動を始めない。
4. 試験期間中、筋肉に影響を及ぼす可能性がある医薬品、サプリメント、健康食品等を摂取しない。やむを得ず、新たな摂取が必要となった場合は、可能な限り事前に相談窓口に連絡する。また、摂取した場合には、その内容を生活調査票に記録する。
5. 試験期間中、以前から習慣のあった制限のない医薬品やサプリメント、健康食品等の服用又は摂取状況は生活調査票に記録し、習慣を変えない。また、習慣がない者は新たに摂取を始めない。やむを得ず、新たな摂取が必要となった場合は、可能な限り事前に相談窓口に連絡する。
6. 試験期間中、乳酸菌を多く含む食品はこれまでどおり摂取して構わないが、その摂取量や摂取頻度を大幅に変化させない。万が一変化があった場合には、生活調査票に記録する。
7. 試験期間中は、他の臨床試験(研究)に参加しない。
8. 試験期間中は、全血献血又は成分献血を行わない。
9. 試験期間中、予防接種や健康診断・人間ドッグ等を受ける場合は、事前に相談窓口に報告し、生活調査票に記録する。
10. 試験内容や試験参加で得られる情報を他人に一切漏らさない。
11. 試験期間中は、海外旅行及び海外出張は禁止する。
12. 試験期間中は、喫煙習慣のある者は喫煙習慣を変えない。
【0031】
<検査前の遵守事項>
1. 検査3日前から激しい運動は控える。
2. 検査前日は禁酒する。
3. 検査前日の睡眠は、極力同じ時間と質を保つ。
4. 検査開始6時間前から検査終了まで絶食状態を維持する。また、絶食前の最後の飲食は脂肪分の多い料理や、大量の甘い飲料等を避ける。
5. 検査開始前に必ず排尿を実施し、体組成測定が終了するまで水分の摂取を禁止する。
【0032】
<検査当日の遵守事項>
1. 検査当日は、運動しやすい靴及び服装で来院する。
2. 検査当日は全ての検査が終了するまで禁煙する。
3. 検査当日に、何らかの理由で来院できない場合は、速やかに試験相談窓口に連絡をする。
【0033】
[試験の評価]
試験食品摂取による効果は、以下の評価項目により評価した。
【0034】
[体組成]
排尿後、InBody270(株式会社インボディ・ジャパン)を使用し、体組成項目(体重、体水分量、タンパク質量、体脂肪量、筋肉量、骨格筋量、BMI、体脂肪率、上肢筋肉量、体幹筋肉量、下肢筋肉量、基礎代謝量)を測定した。
【0035】
[下肢筋力]
ロコモスキャン(登録商標)・II(アルケア株式会社)を使用し、下肢筋力を測定した。
【0036】
[握力]
グリップ-D(デジタル握力計)T.K.K.5401(竹井機器工業株式会社)を使用し、新体力テスト実施要項(スポーツ庁)に記載されている方法に従って握力を測定した。
【0037】
[開眼片足立ちテスト]
新体力テスト実施要項(スポーツ庁)に記載されている方法に沿って開眼片足立ちテストを行った。
【0038】
[6分間歩行テスト]
新体力テスト実施要項(スポーツ庁)に記載されている方法に沿って6分間歩行テストを行った。
【0039】
[6m歩行テスト]
サルコペニア診療ガイドライン2017年版(日本サルコペニア・フレイル学会)に記載されている方法に沿って6m歩行テストを行った。
【0040】
[2ステップテスト]
ロコモ度テスト(日本整形外科学会)に含まれる2ステップテストを行った。2ステップ値は以下の式より算出した。
2ステップ値=2歩幅 (cm) ÷ 身長 (cm)
【0041】
[10回椅子立ち上がりテスト]
健康づくりのための運動指針2006(厚生労働省)に記載されている方法に沿って、10回椅子立ち上がりテストを行った。
【0042】
[チャルダー疲労質問票]
チャルダー疲労質問票を行った。
【0043】
[VASアンケート]
関連自覚症状のVASアンケートを行った。
【0044】
[自覚症状アンケ―ト]
筋肉に関する自覚症状および腰痛に関する自覚症状についてのアンケートを行った。
【0045】
[生活調査]
被験者に日々の生活状況を記録させた。生活調査票項目については、表2に従って記録させた。
【0046】
【0047】
統計解析は下記集団を対象に行った。
[試験実施計画書適合集団(Per Protocol Set: PPS)]
以下の解析除外基準に抵触する症例を除外した集団を試験実施計画書適合集団(PPS)とした。
(1)試験食品の摂取率が80%を下回った症例
(2)試験期間中、コンプライアンス違反が明らかになった症例
(3)試験期間中の臨床検査結果から信頼性を損なう行為が顕著に見られる症例
(4)除外基準に該当していたことが、摂取開始後に明らかになった症例
(5)試験実施計画書からの逸脱が顕著に認められた症例
(6)その他、臨床検査値や生活日誌などの内容から、除外することが適当と考えられる明らかな理由があった症例
【0048】
はじめに、本試験に組入れた10名について、摂取開始前における項目検査を行った(表1参照)。検査終了後、試験食品の摂取を開始した。摂取期間は摂取前検査当日から摂取12週検査前日までとした。なお、各検査とも検査開始6時間前から検査終了までは絶食状態を維持させ、摂取6週検査においては絶食状態を保つため、試験食品を摂取せずに来院させ、検査・測定終了後の当日中に摂取させた。
【0049】
[結果]
続いて、各検査項目の統計解析結果について説明する。まず、1名が試験期間中における試験食品の摂取率が61%であったため統計解析から除外した。そのため、統計解析はPPSの9名について行った。体組成測定および運動能力検査の結果について、試験食摂取前をベースラインとして摂取6週後および摂取12週後の値をDunnett法で統計解析した。P<0.01の場合は**を、P<0.05の場合は*を付した。また、P<0.1の場合は、†を付した。
【0050】
運動能力検査について、有意差(P<0.05)または有意傾向(P<0.1)が認められた検査項目の結果を表3及び
図1~3に示す。
【0051】
【0052】
表3及び
図1に示すように、摂取12週後において握力が有意に増加した。また、
図2に示すように、摂取12週後において開眼片足立ちの時間に延長傾向が見られた。さらに、
図3に示すように、摂取12週後において6分間歩行の距離が有意に増加した。
【0053】
次に、自覚症状について、試験食摂取前をベースラインとして摂取6週後および摂取12週後の値を統計解析した。VASアンケートのスコアをDunnett法で、チャルダー疲労質問票および自覚症状アンケートの結果をWilcoxon signed-rank testで解析した。また、変化量及び変化率についても算出し解析を実施した。
変化量:各visit - 摂取開始前値
変化率:変化量÷摂取開始前値×100
P<0.05の場合は*を、P<0.1の場合は†を付した。
【0054】
自覚症状について、有意差または有意傾向が認められた検査項目の結果を表4及び
図4~6に示す。
【0055】
【0056】
表4及び
図4に示すように、「階段をのぼるのが辛いと感じますか?」の問いに対するスコア変化率で、摂取6週後および摂取12週後に有意な改善が見られた。また、
図5に示すように、「重いものを持つのが辛いと感じますか?※5 kg程度のもの。5 kg入りの米袋、2 Lのペットボトル2~3本、パソコンや書類が詰まった通勤カバンなど。」の問いに対するスコア変化率で、摂取6週後および摂取12週後に有意な改善が見られた。さらに、
図6に示すように、「固いフタを開けるのが辛いと感じますか?」の問いに対するスコア変化率で、摂取6週後および摂取12週後に有意な改善が見られた。なお、本アンケートは独自に作成したものであり、回答は「感じない:0、あまり感じない:1、少し感じる:2、感じる:3、よく感じる:4」の5段階から選択させスコア変換した。
【0057】
上述したように、本実施例では年齢が45歳以上,65歳以下の健常な日本人男女を対象にビフィズス菌N106株菌末20 mgを12週間摂取させ、筋肉に与える影響を検討する試験を実施した。その結果、握力および6分間歩行といった運動検査項目で有意な改善が確認できた。
【0058】
ところで、Richard WBの『Grip Strength: An Indispensable Biomarker For Older Adults(Clin Interv Aging. 2019; 14: 1681-1691.)』によれば、握力と全身の運動能力とは相関があることが示唆されている。加えて,測定が容易であることからサルコペニア診断にも利用されており、さらに、文部科学省が実施する新体力テストにも指定されている。以上のことから,握力は運動能力における重要な健康指標であると言える。本発明にかかるN106株の摂取による握力の改善は,全身の筋肉状態の改善を反映している可能性が示唆された。
【0059】
次に、6分間歩行は歩行力の検査方法として一般に実施されている。歩行力は加齢とともに低下することが知られている。歩行は単なる移動動作ではなく,身体活動の一部でもある。1日あたりの平均歩数が減少すると、肥満・生活習慣病・虚弱の要因となる。上記実施例では、本発明にかかるN106株の摂取による歩行力の改善は、上記疾患の予防に繋がる可能性が示唆された。
【0060】
なお、データは示していないが、本実施例において主要評価項目の体組成に有意な筋量増加は見られなかったものの,同時に減少も見られなかった。このことから,本試験食品の摂取は運動不足・加齢による筋量減少を抑制する可能性も考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、運動以外の方法で、筋肉量や筋力を維持または強化することができる筋力強化剤及び食品組成物を提供することができる。これにより、健康寿命を延長でき、ひいては医療費削減効果が期待できる。