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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-27
(45)【発行日】2025-02-04
(54)【発明の名称】Al接続材
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20250128BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20250128BHJP
   C22F 1/043 20060101ALN20250128BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20250128BHJP
【FI】
C22C21/02
H01L21/60 301F
C22F1/043
C22F1/00 625
C22F1/00 650A
C22F1/00 661Z
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 686A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694Z
C22F1/00 630G
C22F1/00 630M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024536441
(86)(22)【出願日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2023042373
(87)【国際公開番号】W WO2024122383
(87)【国際公開日】2024-06-13
【審査請求日】2024-06-18
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2023/024324
(32)【優先日】2023-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022194009
(32)【優先日】2022-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595179228
【氏名又は名称】日鉄マイクロメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】小田 大造
(72)【発明者】
【氏名】江藤 基稀
(72)【発明者】
【氏名】須藤 裕弥
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-533827(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110656263(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105331856(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/02
H01L 21/60
C22F 1/043
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Siを3.0質量%以上12.0質量%以下含有し、かつ、Sr、Eu、Naのいずれか一種以上を総計で5質量ppm以上800質量ppm以下含有し、残部がAl及び不可避不純物からなるAl接続材であって、
該Al接続材のL断面(中心軸を含む中心軸方向の断面)におけるSi相の短辺長さeと長辺長さfの比率(e/f)のArea平均で求めた平均値が0.25以上0.65以下である、Al接続材。
【請求項2】
Siを3.0質量%以上12.0質量%以下含有し、かつ、Sr、Eu、Naのいずれか一種以上を総計で5質量ppm以上800質量ppm以下含有し、
さらにFe、Mg、Mn、Ga、Geのいずれか一種以上を総計で700質量ppm以下含有し、
残部がAl及び不可避不純物からなるAl接続材であって、
該Al接続材のL断面(中心軸を含む中心軸方向の断面)におけるSi相の短辺長さeと長辺長さfの比率(e/f)のArea平均で求めた平均値が0.25以上0.65以下である、Al接続材。
【請求項3】
Siを3.0質量%以上12.0質量%以下含有し、かつ、Sr、Eu、Naのいずれか一種以上を総計で5質量ppm以上800質量ppm以下含有する半導体装置用のAl接続材であって、
該Al接続材のL断面(中心軸を含む中心軸方向の断面)におけるSi相の短辺長さeと長辺長さfの比率(e/f)のArea平均で求めた平均値が0.25以上0.65以下である、半導体装置用のAl接続材。
【請求項4】
L断面におけるAl相の短辺長さcと長辺長さdの比率(c/d)のArea平均で求めた平均値が0.25以上0.7以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のAl接続材。
【請求項5】
L断面におけるAl相のArea平均で求めた平均径が5μm以上40μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のAl接続材。
【請求項6】
Fe、Mg、Mn、Ga、Geの総計濃度が5質量ppm以上である、請求項2に記載のAl接続材。
【請求項7】
さらにFe、Mg、Mn、Ga、Geのいずれか一種以上を総計で5質量ppm以上700質量ppm以下含有する、請求項に記載のAl接続材。
【請求項8】
Al接続材中のAl、Si、Sr、Eu、Na、Fe、Mg、Mn、Ga及びGe以外の元素(以下、「その他の元素」という。)の総計濃度が0.5質量%以下である、請求項3又は7に記載のAl接続材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al接続材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置では、半導体チップ上に形成された電極と、リードフレームや基板上の電極との間をボンディングワイヤ(線材)やボンディングリボン(条材)によって接続している。パワー半導体装置においては主にアルミニウム(Al)を材質とするボンディングワイヤやボンディングリボンが用いられている。Alボンディングワイヤの線径は主に100μm~600μmの範囲であり、Alボンディングリボンでは主に幅が100μm~3000μmの範囲、厚さが50μm~600μmの範囲である。ここで、AlボンディングワイヤやAlボンディングリボンを総称して、Al接続材ともいう。
【0003】
パワー半導体装置においては、半導体チップの材料としてシリコン(Si)が、また、半導体チップ上に形成された電極の材料としてAl-Si合金やAl-Cu合金が用いられることが多い。またAl接続材を用いたパワー半導体装置は、エアコンや太陽光発電システムなどの大電力機器、車載用の半導体装置として用いられることが多い。
【0004】
Al接続材の接合方法について、半導体チップ上の電極との1st接合と、リードフレームや基板上の電極との2nd接合とがあり、いずれもウェッジ接合が用いられている。ウェッジ接合とは、金属製の治具(ツール)を介してAl接続材に超音波振動と荷重を印加し、Al接続材と電極材料の表面酸化膜を破壊して新生面を露出させ、固相拡散接合を行う方法である。この接続方法は、接続材を溶融しないで固相状態で接続することが特徴であり、接続材を溶融する溶接技術とは異なる接合技術である。
【0005】
次世代パワー半導体装置においては、汎用パワー半導体装置に比べて長時間にわたって安定的に動作することが要求される。パワー半導体装置は電流のオン、オフを繰り返して動作する。Al接続材を通してSi製の半導体チップに電流が供給されると1st接合部の温度は上昇する。一方、電流の供給が停止されると1st接合部の温度は低下する。このようにしてパワー半導体の動作時には1st接合部が昇温、降温を繰り返す。そうすると1st接合部にはAl接続材と半導体チップとの熱膨張差に起因する熱応力が繰り返し負荷される。高純度のAlのみからなる接続材を用いた場合、熱応力によりAl接続材が比較的短時間で破壊し、次世代パワー半導体装置に求められる性能を満足することは困難であった。したがって、次世代パワー半導体では、1st接合部の昇温、降温にともなう接合部寿命(以下、「温度サイクル信頼性」ともいう。)の向上が要求される。
【0006】
温度サイクル信頼性の要求に対して、機械的強度向上に主眼をおいたAl接続材が提案されている。Al接続材の機械的特性を向上させる方法として、Alに特定の元素を添加する手法が提案されている。
【0007】
特許文献1には、少なくともマグネシウム(Mg)及びシリコン(Si)を含有し、且つMg及びSiの含有量の合計が0.03質量%以上0.3質量%以下であるAl合金からなるボンディングワイヤが開示されている。本特許文献には、MgやSiの固溶強化による高強度化の効果や析出したマグネシウムシリサイド(MgSi)によるき裂進展抑制効果により、70℃から120℃の温度範囲での冷温度サイクル試験における1st接合部の接合強度の低下が遅れることが開示されている。
【0008】
特許文献2には、鉄(Fe)を0.01~0.2質量%、シリコン(Si)を1~20質量ppm含有し、残部が純度99.997質量%以上のAlである合金からなり、Feの固溶量が0.01~0.06%であり、Feの析出量がFe固溶量の7倍以下であり、かつ、平均結晶粒子径が6~12μmの微細組織であることを特徴とするボンディングワイヤが開示されている。本特許文献には、FeとAlの金属間化合物粒子をAl中に均一に分散させてマトリックスの機械的強度を向上させ、さらに再結晶粒を微細化することによって、-50℃から200℃の温度範囲での熱衝撃試験における1st接合部の接合強度の低下が抑制できることが開示されている。
【0009】
特許文献3には、シリコン(Si)を0.1~5質量%含み、残部がAl及び不純物からなるAl-Si合金を溶融して、これを噴出急冷して細線に成形してなるボンディングワイヤが開示されている。本特許文献には、溶融したAl-Si合金を急冷してSiを微細かつ均一に分散させることで、機械的強度が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2014-131010号公報
【文献】特開2014-129578号公報
【文献】特開昭59-57440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のとおり、次世代パワー半導体装置では、汎用パワー半導体装置に比べて、より長時間の使用に耐え得ることが求められる。パワー半導体装置の動作時に1st接合部の温度は昇温、降温を繰り返す。その結果、Al接続材は半導体チップよりも線膨張係数が大きいため、1st接合部において両者の線膨張係数差に起因する熱応力が発生し、最終的にAl接続材が疲労破壊する場合があった。斯かる1st接合部の昇温、降温にともなう接合部の寿命(温度サイクル信頼性)を加速評価する試験の一つに温度サイクル試験がある。次世代パワー半導体に使用するAl接続材は、温度サイクル試験において、優れた温度サイクル信頼性を呈することが求められる。しかしながら、特許文献1~3に開示されるようなSi等の添加により高強度化したAl接続材を用いた場合、次世代パワー半導体装置での使用を想定した温度サイクル試験において、Al接続材よりも強度が低いAl合金電極内において比較的速い速度でき裂が進展してしまい、良好な温度サイクル信頼性を安定的に得ることが困難となる課題があることを確認した。
【0012】
従来の温度サイクル試験(以下、「TCT」ともいう。)は、市販の試験装置を用いて、簡便に試験が可能である。しかし、TCTにおける温度の変化速度は比較的遅いため、パワー半導体装置の動作時における速い温度変化速度とのずれが懸念される。そこで最近では、実使用の条件に近づけるため、温度変化速度を速めた高速温度サイクル試験(以下、「高速TCT」ともいう。)が検討されている。温度の変化速度は、従来のTCTが例えば10℃/分程度であるのに対して、高速TCTでは例えば200℃/分程度で高速に温度変化する。Al接続材の接合部の信頼性評価について、従来のTCTで評価した際に信頼性は低下しないAl接続材であっても、高速TCTで評価すると接合強度の低下、接合寿命の縮小が生じる場合がある。よって、実使用の条件に近い、より過酷な試験である高速TCTにおいても良好な接合部の信頼性を呈し、優れた温度サイクル信頼性をもたらすAl接続材が求められている。以下、高速TCTにおける温度サイクル信頼性を「高速温度サイクル信頼性」という場合がある。
【0013】
また、接合を行う際にAl接続材が電極から剥離する等の接合不良が発生すると、製品の不具合や製造歩留低下に繋がるため、各接合部において良好な接合強度を得ることが求められる。この点、1st接合部では良好な接合強度を得るために超音波振動や荷重を強く印加すると半導体チップが損傷してしまうことがある。特にSi等の添加により高強度化したAl接続材を用いる場合、その硬さに起因して1st接合時に半導体チップを損傷し易く、斯かる損傷を低減させるべく超音波振動や荷重を調整すると、その変形抵抗の高さや変形方向の不安定さなどに起因して接合面積を安定的に確保できなくなるなどして十分な1st接合部の接合強度(以下、単に「1st接合強度」ともいう。)が得られない場合があった。これら1st接合部の初期接合時の問題は、ひいては温度サイクル信頼性の低下や不安定さの要因となることから、Si等の添加により高強度化したAl接続材の実用の障害となる。
【0014】
本発明は、優れた温度サイクル信頼性と良好な1st接合強度を満足するAl接続材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題につき鋭意検討した結果、Siを3.0質量%以上12.0質量%以下含有し、かつ、Sr、Eu、Naのいずれか一種以上を総計で5質量ppm以上800質量ppm以下含有するAl接続材において、該Al接続材のL断面(中心軸を含む中心軸方向の断面)におけるSi相の短辺長さeと長辺長さfの比率(e/f)の平均値が特定範囲にあるAl接続材が上記課題を解決できることを見出し、斯かる知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
<1>
Siを3.0質量%以上12.0質量%以下含有し、かつ、Sr、Eu、Naのいずれか一種以上を総計で5質量ppm以上800質量ppm以下含有するAl接続材であって、
該Al接続材のL断面(中心軸を含む中心軸方向の断面)におけるSi相の短辺長さeと長辺長さfの比率(e/f)の平均値が0.25以上0.65以下である、Al接続材。
<2>
L断面におけるAl相の短辺長さcと長辺長さdの比率(c/d)の平均値が0.25以上0.7以下である、<1>に記載のAl接続材。
<3>
L断面におけるAl相の平均径が5μm以上40μm以下である、<1>又は<2>に記載のAl接続材。
<4>
さらにFe、Mg、Mn、Ga、Geのいずれか一種以上を総計で5質量ppm以上700質量ppm以下含有する、<1>~<3>のいずれかに記載のAl接続材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れた温度サイクル信頼性と良好な1st接合強度を満足するAl接続材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、Al接続材について、Si相、Al相の形状(形状比率(e/f)、形状比率(c/d))、平均径を測定する際の測定対象面(検査面)を説明するための概略図である。測定対象面は、Al接続材の中心軸を含む中心軸方向の断面(L断面)である。
図2図2は、L断面におけるSi相の短辺長さ(e)と長辺長さ(f)を説明するための概略図である。
図3図3は、L断面におけるAl相の短辺長さ(c)と長辺長さ(d)を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。説明にあたり図面を参照する場合もあるが、各図面は、発明が理解できる程度に、構成要素の形状、大きさおよび配置が概略的に示されているに過ぎない。本発明は、下記実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施され得る。
【0020】
[Al接続材]
本発明のAl接続材は、Siを3.0質量%以上12.0質量%以下含有し、かつ、Sr、Eu、Naのいずれか一種以上(以下、「第1元素群」ともいう。)を総計で5質量ppm以上800質量ppm以下含有するAl接続材であって、
該Al接続材のL断面(中心軸を含む中心軸方向の断面)におけるSi相の短辺長さeと長辺長さfの比率(e/f)の平均値が0.25以上0.65以下であることを特徴とする。
【0021】
先述のとおり、温度サイクル試験(TCT)において、高純度のAlのみからなる接続材を使用した場合には、該接続材の内部を比較的速い速度でき裂が進展して、良好な温度サイクル信頼性を得ることは困難であった。一方、Si等の添加により高強度化したAl接続材を使用する場合は、相対的に強度が低いAl合金電極内をき裂が進展するため、次世代パワー半導体装置に要求される温度サイクル信頼性を得ることは困難であることを確認した。すなわち実使用の条件に近い、温度変化速度を速めた高速温度サイクル試験(高速TCT)においては、従来のTCTで評価した際に信頼性は低下しないAl接続材であっても、接合強度の低下、接合寿命の縮小が生じる場合があることを確認した。さらには、Si等の添加により高強度化したAl接続材を用いる場合、1st接合時に半導体チップを損傷し易く、斯かる損傷を低減させるべく超音波振動や荷重を調整すると、十分な1st接合強度が得られない場合があった。
【0022】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、Siを3.0質量%以上12.0質量%以下含有し、かつ、第1元素群のいずれか一種以上を総計で5質量ppm以上800質量ppm以下含有するAl接続材であって、そのL断面におけるSi相の短辺長さeと長辺長さfの比率(e/f)の平均値が0.25以上0.65以下であるAl接続材によれば、温度サイクル信頼性を向上させ得ると共に、1st接合強度も向上させ得ることを見出した。斯かる本発明のAl接続材は、次世代パワー半導体装置で要求される温度サイクル信頼性を実現すると共に良好な1st接合強度を実現することに著しく寄与するものである。
【0023】
本発明のAl接続材は、Siを3.0質量%以上12.0質量%以下含有しており、Al中にSiが固溶したAl相と、Siが晶出又は析出して形成されたSi相から構成される。ここで、Al相は、Siのほか、他の添加元素が固溶していてもよい。また、Si相はSi晶出物とSi析出物の総称であり、Si晶出物とは凝固中に溶解液から形成され、サイズが1~20μm程度で粗大であるのに対して、Si析出物とは固体状態から形成され、サイズは0.1~数μm程度で小さい。
【0024】
また本発明において、Al接続材のL断面、すなわちAl接続材の中心軸を含む中心軸方向の断面とは、後記「(Si相、Al相の形状の測定方法)」欄にて図1を参照しつつ説明するとおりである。
【0025】
本発明のAl接続材が、優れた温度サイクル信頼性と良好な1st接合強度をもたらすことができる理由に関しては、以下のとおり推察される。
【0026】
温度サイクル信頼性に関して、高濃度にSiを含有するAl接続材に関しては、凝固時に晶出したSi相はAlより線膨張係数が小さく、Al接続材と半導体チップの線膨張係数差の縮小に寄与し、ひいては発生する熱応力を低減させ得るため、通常のTCTにおける接合信頼性は改善できる。しかし温度の変化速度が速い高速TCTでは激しい熱疲労が生じ、Siの添加だけでは、厳しい信頼性の要求を満足することは難しい場合がある。詳細には、高濃度にSiを含有するAl接続材において、Si相は板状・柱状で粗大化し、その分布は局在化する傾向があるが、Si相が多い領域と不足している領域が同時に存在すると、高速TCTでの歪みの集中が生じ易く、接合寿命の低下を招来する。これに対し、第1元素群を所定量添加することにより、Al接続材内のSi相を細粒化して、Al接続材全体にほぼ均一に分布させる効果が得られるものと考えられる。Si相の均一分布により、高速TCTでの歪みの集中を緩和して寿命が向上するものと推察される。
【0027】
また1st接合強度に関して、先述のとおり、第1元素群を所定量添加することにより、Al接続材内のSi相を細粒化して、Al接続材全体にほぼ均一に分布させる効果が得られるものと考えられる。Si相の均一分布により、超音波振動および荷重を印加した際に、超音波振動とは垂直方向のAl接続材の変形を安定化させることができる。さらに、Si相の形状(比率(e/f))を制御することにより、Si相とAl相との界面の中心軸方向の密着性を向上して、超音波振動及び荷重を印加した際の界面滑りを制御して接合強度を高める効果が得られるものと考えられる。
【0028】
第1元素群によるSi相の均一分布とSi相の形状の制御を同時に行うことにより、Al接続材の中心軸と垂直方向および平行方向の塑性変形を促進して接合強度を高めること、また、接合部の熱疲労の分散化による高速TCTにおける接合信頼性を改善することを同時に達成することが可能となるものと推察される。
【0029】
-Si濃度-
Si濃度は3.0質量%以上12.0質量%以下の範囲であることで、接合部の熱歪みを低減して、温度サイクル特性を向上することに役立つ。3.0質量%未満であれば改善効果が小さく、12.0質量%超であれば、硬質化による初期接合強度の低下、半導体チップの損傷などが問題となる。実使用の条件に近い、温度変化速度を速めた高速TCTにおいても良好な温度サイクル信頼性を得る観点から、本発明のAl接続材におけるSiの濃度は3.0質量%以上であり、好ましくは3.5質量%以上、より好ましくは3.6質量%以上、3.8質量%以上、4.0質量%以上、4.2質量%以上、4.4質量%以上、4.5質量%以上、4.6質量%以上、4.8質量%以上又は5.0質量%以上である。他方、Al接続材の硬度が過大となると、一般的に用いる超音波振動、荷重の接合条件では1st接合時に半導体チップの損傷が発生し易くなる。一般的な接合条件にて1st接合する場合に良好な接合強度を得る観点から、本発明のAl接続材におけるSi濃度は12.0質量%以下であり、好ましくは11.5質量%以下又は11.0質量%以下、より好ましくは10.8質量%以下、10.6質量%以下、10.5質量%以下、10.4質量%以下、10.2質量%以下又は10.0質量%以下である。
【0030】
本発明のAl接続材に含まれる元素の濃度分析には、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置やICP質量分析装置を利用することができる。Al接続材の表面に酸素や炭素等の大気中からの汚染物由来の元素が吸着している場合には、分析を行う前に吸着した物質に応じて酸やアルカリにより洗浄を行うことが有効である。
【0031】
-第1元素群の濃度-
高速TCTにおいても良好な温度サイクル信頼性を得ると共に良好な1st接合強度を得る観点から、本発明のAl接続材における第1元素群の総計濃度は、5質量ppm以上であり、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは20質量ppm以上、30質量ppm以上、40質量ppm以上又は50質量ppm以上、さらに好ましくは60質量ppm以上、80質量ppm以上又は100質量ppm以上であり、その上限は、800質量ppm以下であり、好ましくは750質量ppm以下又は700質量ppm以下、より好ましくは650質量ppm以下又は600質量ppm以下、さらに好ましくは580質量ppm以下、560質量ppm以下又は550質量ppm以下である。第1元素群の総計濃度が上記の好適範囲にあると、半導体チップの損傷を抑制しつつ良好な1st接合強度を達成し易い観点からも有益である。
【0032】
-L断面におけるSi相の形状-
Siおよび第1元素群を所定濃度含有するAl接続材において、そのL断面におけるSi相の短辺長さeと長辺長さfの比率(e/f)の平均値が0.25以上0.65以下の範囲であることにより、高速TCTにおいても良好な温度サイクル信頼性が得られると共に良好な1st接合強度が得られることを見出した。
【0033】
この比率(e/f)の数値は扁平度を示す指標である。図2を参照してさらに説明する。図2は、Al接続材のL断面におけるSi相を模試的に示した図であり、Al接続材の中心軸方向が図2の水平方向(左右方向)に、また、中心軸に垂直な方向が図2の垂直方向(上下方向)にそれぞれ対応するように示している。L断面におけるSi相について、上記の「短辺長さe」は、図2において符号eで示した寸法に該当する。またL断面におけるSi相について、上記の「長辺長さf」は、図2において符号fで示した寸法に該当する。以下、L断面におけるSi相の短辺長さeと長辺長さfの比率(e/f)を、単に「Si相の形状比率(e/f)」ともいう。Si相の形状比率(e/f)の数値は、装置に付属の解析ソフトでは、Grain Shape Aspect Ratioで求めることができる。
【0034】
なお、高速TCTにおいても良好な温度サイクル信頼性を得ると共に良好な1st接合強度を得るにあたっては、L断面におけるSi相の形状比率(e/f)の平均値が上記好適範囲にあればよく、全てのSi相について形状比率(e/f)が0.25以上0.65以下の範囲にある必要はない。例えば、形状比率(e/f)が0.25未満であるSi相を含んでいてもよいし、形状比率(e/f)が0.65超であるSi相を含んでいてもよい。
【0035】
高速TCTにおいてもいっそう良好な温度サイクル信頼性を得ると共にいっそう良好な1st接合協を得る観点から、本発明のAl接続材のL断面におけるSi相の形状比率(e/f)の平均値は、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.32以上、0.34以上又は0.35以上であり、その上限は、より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.58以下、0.56以下又は0.55以下である。
【0036】
Al接続材のL断面におけるSi相の形状比率(e/f)の平均値の測定には、SEM-EDSによって得られたAl濃度及びSi濃度の情報とEBSDによって得られた結晶方位の情報を組み合わせる手法を用いることができる。詳細には、Al接続材のL断面を検査面とした測定領域において、EDSを用いたAlとSiの濃度測定と、EBSDを用いた結晶方位解析を同時に行う。続いて、装置に付属している解析ソフトを利用して、EDSの測定結果からAl相とSi相を分離・抽出する。具体的には、FE-SEM装置に付属の解析ソフトOIM Data CollectionまたはOIM Anaysis(両者ともTSLソリューション製)の機能であるChi Scan(カイスキャン)機能を利用することが好適である。そしてSi相と特定された領域について、装置に付属している解析ソフトを利用することにより結晶方位を解析することができる。測定点間の方位差が15°以上であれば結晶粒界と判断して比率(e/f)を算出する。各Si相の形状比率(e/f)の平均値をSi相の形状比率(e/f)の平均値と定義する。Si相の形状比率(e/f)を求める過程では、結晶方位が測定できない部位、あるいは測定できても方位解析の信頼度が低い部位は除外して計算した。したがって一実施形態において、本発明のAl接続材のL断面におけるSi相の形状比率(e/f)の平均値は、以下の(1)乃至(3)の手順により算出される。
(1)Al接続材のL断面を検査面とし、EDSを用いたAlとSiの濃度測定と、EBSDを用いた結晶方位測定を同時に行う。
(2)Chi Scan機能を利用して、AlとSiを分離・抽出する。具体的にはSiのEDSの測定結果から、Siの閾値に相当するToleranceを設定することで、AlとSiを分離して識別できる。マテリアルファイルからAlとSiの結晶情報を用いて、結晶方位を解析することができる。
(3)Si相と特定された領域について、結晶方位を解析し、測定点間の方位差が15°以上であれば結晶粒界と判断して各結晶粒の形状比率(e/f)を求め、各結晶粒の形状比率(e/f)を平均計算してSi相の形状比率(e/f)の平均値を算出する。ここで、Si相の形状比率(e/f)の平均値は、解析ソフトのGrain Shape Aspect Ratioの数値(以下、「粒形アスペクト比」という。)を用いる。この数値は各結晶粒の粒形アスペクト比を平均計算して平均値を求めたものである。なお、粒形アスペクト比の計算法について、結晶粒1個の短辺長さ(e)(Grain Shape Minor Axis)と長辺長さ(f)(Grain Shape Major Axis)の比率(e/f)を求めている。また、平均計算に関しては、装置付属ソフトで選択できるArea平均を採用する。Area平均で求めた平均値を採用することにより、高速TCTにおいても良好な温度サイクル信頼性を得ると共に良好な1st接合強度を得るのに好適な、Si相の形状比率(e/f)の平均値に係る条件の成否を精度良く測定・判定することができる。Area平均の計算では、各粒子面積が全粒子の面積に占める割合を各粒子面積値に乗算した値の平均から算出されるもので、ソフトが自動で演算する。
【0037】
上記(2)の手順において、Tolerance(%)の設定は20~40%の範囲で選定することができ、Al接続材のL断面の標準的な解析では、約30%で比較することが好ましい。このToleranceを調整する手順について補足説明する。EDS分析のSi元素濃度を2次元で表示するEDSマップから識別されるSi相の形状、大きさと比較して、Chi Scan機能で抽出・識別されるSi相の形状、大きさが同等であるようにToleranceの数値を選定または確認することが好ましい。
【0038】
本発明において、Si相の形状比率(e/f)の平均値は、3箇所以上を測定して得られた各値の平均値とした。測定領域の選択にあたっては、測定データの客観性を確保する観点から、測定対象のAl接続材から、測定用の試料を、該Al接続材の中心軸方向に対し50cm以上の間隔で取得し、測定に供することが好ましい。また本発明において、EBSD法による結晶方位の測定領域は、Al接続材の中心軸方向の長さが300μm以上800μm未満であり、Al接続材の中心軸と垂直な方向にはAl接続材の全体が入ることが望ましいが、サイズが大きく全体を測定することが難しい場合には600μm未満の範囲で調整してよい。
【0039】
-L断面におけるAl相の形状-
本発明のAl接続材は、そのL断面におけるAl相の短辺長さcと長辺長さdの比率(c/d)の平均値が0.25以上0.7以下の範囲であることが好ましい。
【0040】
高濃度のSiを含有するAl接続材に関しては、Al接続材の伸線加工時に断線が発生して製造歩留まりが低下する場合がある。断線の原因として、伸線加工時の引き抜き力が上昇してAl相の破断が起きること、加工硬化が不均一となり局所的なAl相の変形が進行してくびれが発生して破断することなどが考えられる。
【0041】
本発明者らは、Siを3.0質量%以上12.0質量%以下含有し、かつ、第1元素群のいずれか一種以上を総計で5質量ppm以上800質量ppm以下含有するAl接続材であって、そのL断面におけるSi相の形状比率(e/f)の平均値が0.25以上0.65以下であるAl接続材について検討を進める過程で、L断面におけるAl相の形状が加工時の断線の発生頻度に影響を及ぼすことを見出した。詳細には、L断面におけるAl相の短辺長さcと長辺長さdの比率(c/d)の平均値が0.25以上0.7以下の範囲であることにより、加工時の断線の発生頻度が低減することを見出した。
【0042】
この比率(c/d)の数値は扁平度を示す指標である。図3を参照してさらに説明する。図3は、Al接続材のL断面におけるAl相を模試的に示した図であり、Al接続材の中心軸方向が図3の水平方向(左右方向)に、また、中心軸に垂直な方向が図3の垂直方向(上下方向)にそれぞれ対応するように示している。L断面におけるAl相について、上記の「短辺長さc」は、図3において符号cで示した寸法に該当する。またL断面におけるAl相について、上記の「長辺長さd」は、図3において符号dで示した寸法に該当する。以下、L断面におけるAl相の短辺長さcと長辺長さdの比率(c/d)を、単に「Al相の形状比率(c/d)」ともいう。Al相の形状比率(c/d)の数値は、装置に付属の解析ソフトでは、Grain Shape Aspect Ratioで求めることができる。
【0043】
本発明のAl接続材において、Al相の形状比率(c/d)の平均値を制御することにより加工時の断線の発生頻度を低減させ得る理由に関しては、以下のとおり推察される。L断面におけるAl相の形状比率(c/d)の平均値を上記範囲に制御すると、加工時に加えられるAl接続材内の圧力と張力に対して結晶粒の変形を均一化する作用が働くものと考えられる。Si相は硬質で塑性変形にほとんど寄与しないため、Al相の形状が断線不良の改善に有効であるものと考えられる。
【0044】
なお、加工時の断線の発生頻度を低減するにあたっては、L断面におけるAl相の形状比率(c/d)の平均値が上記好適範囲にあればよく、全てのAl相について形状比率(c/d)が0.25以上0.7以下の範囲にある必要はない。例えば、形状比率(c/d)が0.25未満であるAl相を含んでいてもよいし、形状比率(c/d)が0.7超であるAl相を含んでいてもよい。
【0045】
加工時の断線の発生頻度をいっそう低減させ得る観点から、本発明のAl接続材のL断面におけるAl相の形状比率(c/d)の平均値は、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.32以上、0.34以上又は0.35以上であり、その上限は、より好ましくは0.65以下、さらに好ましくは0.64以下、0.62以下又は0.6以下である。
【0046】
Al接続材のL断面におけるAl相の形状比率(c/d)の平均値の測定には、Si相の形状比率(e/f)の平均値の測定と同様、SEM-EDSによって得られたAl濃度及びSi濃度の情報とEBSDによって得られた結晶方位の情報を組み合わせる手法を用いることができる。したがって一実施形態において、本発明のAl接続材のL断面におけるAl相の形状比率(c/d)の平均値は、以下の(1)乃至(3)の手順により算出される。
(1)Al接続材のL断面を検査面とし、EDSを用いたAlとSiの濃度測定と、EBSDを用いた結晶方位測定を同時に行う。
(2)Chi Scan機能を利用して、AlとSiを分離・抽出する。具体的にはSiのEDSの測定結果から、Siの閾値に相当するToleranceを設定することで、AlとSiを分離して識別できる。マテリアルファイルからAlとSiの結晶情報を用いて、結晶方位を解析することができる。
(3)Al相と特定された領域について、結晶方位を解析し、測定点間の方位差が15°以上であれば結晶粒界と判断して各結晶粒の形状比率(c/d)を求め、各結晶粒の形状比率(c/d)を平均計算してAl相の形状比率(c/d)の平均値を算出する。ここで、Al相の形状比率(c/d)の平均値は、Si相の形状比率(e/f)の平均値を算出する場合と同様、解析ソフトのGrain Shape Aspect Ratioの数値(粒形アスペクト比)を用いる。また、平均計算に関しても、Si相の形状比率(e/f)の平均値を算出する場合と同様、装置付属ソフトで選択できるArea平均で求めた平均値を採用する。Area平均で求めた平均値を採用することにより、高速TCTにおいても良好な温度サイクル信頼性を得ると共に良好な1st接合強度を得るのに好適な、Al相の形状比率(c/d)の平均値に係る条件の成否を精度良く測定・判定することができる。
【0047】
L断面におけるAl相の形状比率(c/d)の平均値を測定するに際して、上記(2)の手順におけるToleranceの設定範囲、測定用の試料の取得方法やEBSD法による結晶方位の測定領域は、Si相の形状比率(e/f)の平均値の測定に関し先述したとおりである。
【0048】
-L断面におけるAl相の平均径-
本発明のAl接続材は、そのL断面におけるAl相の平均径が5μm以上40μm以下であることが好ましい。
【0049】
2nd接合の対象はCu製基板などAlより硬質の材料が使用される場合が多く、また、2nd接合時の超音波振動や荷重の条件は1st接合時より高く設定することなどが影響して、Si等の添加により高強度化したAl接続材の2nd接合時の変形は不安定となり易い。この点、L断面におけるAl相の平均径が5μm以上40μm以下の範囲であることにより、2nd接合における接合強度のばらつきが低減できることを本発明者らは見出した。この理由は、Siおよび第1元素群を所定濃度含有し、かつSi相の形状比率(e/f)の平均値を所定の範囲に制御することにより超音波振動によるAl接続材の変形を促進する効果と、Al相の平均径を5μm以上40μm以下とすることによりAl接続材の中心軸に対し平行および垂直の双方向におけるAl接続材の変形を均一化する効果とが相乗的に作用するためと考えられる。
【0050】
2nd接合における接合強度のばらつきをさらに低減して、より良好な接合強度の安定性を実現する観点から、本発明のAl接続材のL断面におけるAl相の平均径は、より好ましくは10μm以上、より好ましくは12μm以上、14μm以上又は15μm以上である。また、L断面におけるAl相の平均径の上限は、より好ましくは35μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは28μm以下、26μm以下又は25μm以下である。
【0051】
Al接続材のL断面におけるAl相の平均径を測定する方法について説明する。L断面におけるAl相の平均径の測定には、上述したSi相の形状比率(e/f)の平均値やAl相の形状比率(c/d)の平均値の測定と同様に、SEM-EDSによって得られたAl濃度及びSi濃度の情報と、EBSDによって得られた結晶方位の情報を組み合わせる手法を用いることができる。詳細な手順はAl相の形状比率(c/d)の平均値の測定に関連して先述したものと同様としてよく、すなわち、Al相と特定された領域について、装置に付属している解析ソフトを利用することにより結晶方位を解析することができる。測定点間の方位差が15°以上であれば結晶粒界と判断して円相当直径を算出する。各Al相の円相当直径の平均値をAl相の平均径と定義する。Al相の平均径を求める過程では、結晶方位が測定できない部位、あるいは測定できても方位解析の信頼度が低い部位は除外して計算した。したがって一実施形態において、本発明のAl接続材のL断面におけるAl相の平均径は、以下の(1)乃至(3)の手順により算出される。
(1)Al接続材のL断面を検査面とし、EDSを用いたAlとSiの濃度測定と、EBSDを用いた結晶方位測定を同時に行う。
(2)Chi Scan機能を利用して、AlとSiを分離・抽出する。具体的にはSiのEDSの測定結果から、Siの閾値に相当するToleranceを設定することで、AlとSiを分離して識別できる。マテリアルファイルからAlとSiの結晶情報を用いて、結晶方位を解析することができる。
(3)Al相と特定された領域について、結晶方位を解析し、測定点間の方位差が15°以上であれば結晶粒界と判断して各結晶粒の円相当直径を求める。そして各結晶粒の円相当直径を平均計算してAl相の平均径を算出する。ここで、平均計算に関しては、装置付属ソフトで選択できるArea平均で求めた平均値を採用する。Area平均で求めた平均値を採用することにより、2nd接合における接合強度のばらつきを低減して、良好な接合強度の安定性を得るのに好適な、Al相の平均径に係る条件の成否を精度良く測定・判定することができる。
【0052】
本発明において、L断面におけるAl相の平均径を算出する際には径(円相当直径)が0.5μm以上のAl相のみを対象とした。これにより、2nd接合における接合強度の安定性を向上させるために好適なL断面におけるAl相の平均径に係る要件の成否を精度良く判定することができる。
【0053】
L断面におけるAl相の平均径を測定するにあたって上記(2)の手順におけるToleranceの設定範囲、測定用の試料の取得方法やEBSD法による結晶方位の測定領域は、Si相の形状比率(e/f)の平均値の測定に関し先述したとおりである。
【0054】
なお、Si相の形状比率(e/f)やAl相の形状比率(c/d)、Al相の平均径を測定する手法には、上記のほか、L断面の観察画像からの二値化処理を含む幾つかの方法があるが、本発明においては、多くの測定機能が備わり1回の測定で、上記のSi相の形状比率(e/f)、Al相の形状比率(c/d)、Al相の平均径といった複数の特性を求められること、自動解析が可能であること、普及した装置・解析技術であり測定が容易であることなどの理由から、上記のとおり、SEM-EDSによって得られたAl濃度及びSi濃度の情報と、EBSDによって得られた結晶方位の情報を組み合わせる手法を用いる。
【0055】
-Fe、Mg、Mn、Ga、Geの添加-
本発明のAl接続材は、さらにFe、Mg、Mn、Ga、Geのいずれか一種以上(以下、「第2元素群」ともいう。)を総計で5質量ppm以上700質量ppm以下含有してもよい。
【0056】
さらにFe、Mg、Mn、Ga、Geのいずれか一種以上を総計で5質量ppm以上700質量ppm以下含有することにより、Al接続材表面の傷、削れの発生を抑えて、平滑な表面を形成することができる。Siを3.0質量%以上12.0質量%以下の高濃度に含有するAl合金は、表面の硬質化や、表面に存在するSi相およびAl酸化物の脱落などが生じることで、伸線加工において表面に傷、削れが発生し、表面凹凸が大きいAl接続材に帰着する場合がある。第2元素群の添加により、Al接続材表面のAl酸化物の安定化、Al接続材とダイスとの摩擦の低減などが促進されることで、伸線加工中の傷、削れを低減することができるものと推察される。第1元素群と組み合わせて第2元素群を添加することにより、Al接続材表面の傷、削れの発生を抑えて、平滑な表面を形成する効果が高められるものと考えられる。
【0057】
表面の傷、削れの発生を抑えて、平滑な表面を有するAl接続材を形成する観点から、本発明のAl接続材における第2元素群の総計濃度は、より好ましくは10質量ppm以上、さらに好ましくは20質量ppm以上、30質量ppm以上、40質量ppm以上又は50質量ppm以上であり、その上限は、半導体チップの損傷を抑制しつつ良好な1st接合強度を達成し易い観点から、より好ましくは650質量ppm以下、さらに好ましくは640質量ppm以下、620質量ppm以下又は600質量ppm以下である。
【0058】
本発明のAl接続材を製造する際のアルミニウム原料としては、純度が4N(Al:99.99質量%以上)のAlを用いることが好適であり、さらに不純物量の少ない5N(Al:99.999質量%以上)以上のAlを用いることがより好適である。
【0059】
本発明の効果を阻害しない範囲において、本発明のAl接続材は、Al、Si、第1元素群及び第2元素群以外の元素(以下、「その他の元素」ともいう。)をさらに含有してもよい。Al接続材中のその他の元素の総計濃度は、本発明の効果を阻害しない範囲において特に限定されない。該その他の元素の総計濃度は、例えば、0.5質量%以下、0.4質量%以下、0.3質量%以下、0.2質量%以下、0.15質量%以下、0.1質量%以下、0.08質量%以下、0.06質量%以下、0.05質量%以下、0.04質量%以下、0.03質量%以下、0.025質量%以下、0.02質量%以下、0.018質量%以下、0.016質量%以下、0.015質量%以下、0.014質量%以下、0.012質量%以下又は0.01質量%以下であってもよい。その他の元素の総計濃度の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
【0060】
一実施形態において、本発明のAl接続材の残部はAl及び不可避不純物からなる。したがって好適な一実施形態において、本発明のAl接続材は、Al、Si及び不可避不純物からなる。他の好適な一実施形態において、本発明のAl接続材は、Alと、Siと、第1元素群のいずれか一種以上と、不可避不純物とからなる。さらに他の好適な一実施形態において、本発明のAl接続材は、Alと、Siと、第2元素群のいずれか一種以上と、不可避不純物とからなる。さらに他の好適な一実施形態において、本発明のAl接続材は、Alと、Siと、第1元素群のいずれか一種以上と、第2元素群のいずれか一種以上と、不可避不純物とからなる。
【0061】
好適な一実施形態において、本発明のAl接続材は、該Al接続材の外周に、Al以外の金属を主成分とする被覆を有していない。ここで、「Al以外の金属を主成分とする被覆」とは、Al以外の金属の含有量が50質量%以上である被覆をいう。
【0062】
本発明のAl接続材は、Alボンディングワイヤであってもよく、Alボンディングリボンであってもよい。本発明のAl接続材がAlボンディングワイヤである場合、その線径は特に限定されず、例えば、100~600μmの範囲であってよい。本発明のAl接続材がAlボンディングリボンである場合、その矩形若しくは略矩形の断面の寸法(W×T)は、特に限定されず、例えば、Wは100~3000μmであってよく、Tは50~600μmであってよい。
【0063】
本発明のAl接続材は、優れた温度サイクル信頼性と良好な1st接合強度を満足することができる。したがって本発明のAl接続材は、半導体装置用のAl接続材、特にパワー半導体装置用のAl接続材として好適に使用することができる。
【0064】
-Al接続材の製造方法-
本発明のAl接続材の製造方法の一例を説明する。以下、線径200~400μmのAlボンディングワイヤの製造に即して一例を説明する。
【0065】
原材料となるAlおよび合金元素は純度が高い方が好ましい。Alは純度が99.99質量%以上で残部が不可避不純物から構成されるものが好ましい。合金元素として使用するSi、第1元素群及び第2元素群は、純度が99.9質量%以上で残部が不可避不純物から構成されるものが好ましい。ボンディングワイヤに用いるAl合金は、円柱形状のインゴットが得られるように加工した黒鉛やアルミナ製のるつぼに、Al原料と合金元素の原料を装填し、電気炉や高周波加熱炉を用いて溶解することにより製造できる。円柱状のインゴットの直径はその後の加工工程における加工性を考慮してΦ6mm以上8mm未満とすることが好ましい。溶解時の炉内の雰囲気は、ワイヤを構成するAlやその他の元素が過剰に酸化されることを防ぐため、不活性雰囲気あるいは還元雰囲気とすることが好ましい。溶解時の溶湯の最高到達温度は、溶湯の流動性を確保しつつ、凝固時のSi相の形状、サイズを制御しやすくすることなどを考慮して、800℃以上1000℃未満の範囲とすることが好ましい。溶解後の冷却方法は水冷、炉冷、空冷などを用いることができる。
【0066】
溶解によって得られた円柱状のインゴットに対し、高温で加熱する溶体化処理を行った後、ダイスを用いた伸線加工を繰り返し行うことで、目的とする線径のワイヤを製造することができる。伸線加工後のワイヤは電気炉を用いて最終熱処理を行うことでAl合金ボンディングワイヤとして使用することができる。
【0067】
L断面におけるSi相およびAl相の形状(形状比率(e/f)、形状比率(c/d))、Alの粒径を制御するには、溶体化処理、最終熱処理などの熱処理条件、および、伸線加工条件などを制御することが有効である。伸線加工時には、ワイヤとダイスの接触界面における潤滑性を確保するため、潤滑液を用いることが有効である。
【0068】
L断面におけるSi相の形状(形状比率(e/f))を調整するには、溶体化処理と伸線加工時のワイヤ減面率を制御することが有効である。
【0069】
インゴットの溶体化処理の温度範囲は400℃以上550℃未満、時間は1時間以上6時間未満とすることが望ましい。この溶体化処理により、凝固過程で晶出したSi相の分断および球状化が進むため、その後の伸線加工によるSi相の形状を制御できる。例えば高温で溶体化すると、Si相の形状比率(e/f)は大きくなる傾向にある。
【0070】
伸線加工条件については、伸線加工時に使用するダイス1個あたりのワイヤ減面率を20%以上35%未満の範囲とすることが有効である。ここで、ダイス1個あたりのワイヤ減面率をP1とすると、P1は以下の式で表される。
【0071】
P1={(R -R )/R }×100
式中、Rは加工前のワイヤの直径(mm)、Rは加工後のワイヤの直径(mm)を表す。
【0072】
通常の伸線加工条件に比し、ワイヤ減面率を上記の高い範囲(高減面率)で調整することにより、ダイス加工時にワイヤ全体を大きく変形させて、ワイヤ内部まで加工歪みが増加して、Si相はワイヤ中心軸方向に配列すると同時に、Si相の形状を調整することができる。先述の溶体化処理の条件の制御と伸線加工時のワイヤ減面率の制御を組み合わせることで、Si相の形状比率(e/f)を調整することが容易となる。
【0073】
L断面におけるAl相の形状(形状比率(c/d))を調整するには、伸線加工時のワイヤ送り速度と最終熱処理を制御することが有効である。
【0074】
伸線加工時のワイヤ送り速度について説明する。溶解によって得られたインゴット(線径D)から最終線径(線径D)までの約半分の線径(中間線径:D+0.5(D-D))までの伸線加工工程を「伸線加工1」として、その中間線径から最終線径までの伸線加工工程を「伸線加工2」とする。伸線加工1におけるワイヤ送り速度を5m/分以上15m/分未満、伸線加工2におけるワイヤ送り速度を20m/分以上50m/分未満とすることが有効である。ワイヤ送り速度を上記の範囲に設定することによって、伸線加工時に加工歪みと動的再結晶を合わせて制御することができ、ワイヤのL断面におけるAl相の形状比率(c/d)を目的とする範囲に制御することが容易となる。必要に応じて、上記のワイヤ減面率を20%以上35%未満の範囲の調整とワイヤ送り速度の調整を組み合わせることで、Al相の形状比率(c/d)を高精度に制御することが可能となる。
【0075】
最終熱処理の条件については、温度範囲が250℃以上350℃未満、時間は2時間以上24時間未満とすることが有効である。先述の伸線加工によるワイヤ内の加工歪みを駆動力として、Al相の再結晶の進行を促進して結晶粒の形状を調整することができる。例えば、最終熱処理を低温で長時間行うとAl相の結晶粒は粒状化して、形状比率(c/d)は大きくなる傾向にある。
【0076】
L断面におけるAl相の平均径を5μm以上40μm以下の範囲に制御するためには、最終線径での熱処理の温度・時間を調整して、Al相の再結晶による結晶粒の成長を制御することが有効である。最終熱処理の温度範囲が250℃以上340℃未満、時間は5時間以上24時間未満の範囲で制御することが有効である。比較的低温で均質化処理を行うことで、Al相内に含まれるSiの固溶量を調整することにより、最終熱処理でAl相の再結晶温度を調整することが容易となり、Al相のサイズを目的とする範囲に制御することができる。
【0077】
また必要に応じて中間熱処理を実施すると、上記の最終熱処理の条件の調整が容易となる。中間熱処理とは、インゴットから最終線径まで加工する工程の途中で行う熱処理である。中間熱処理の温度範囲は250℃以上400℃未満、時間は30分間以上3時間未満とすることが有効である。中間熱処理は、最終線径の2.5~4.0倍の線径で実施することが有効である。中間熱処理を行うことで、Al相の加工歪みの軽減、再結晶の進行を達成でき、Al相を一次調整することで、その後の最終熱処理で、Al相の粒径の調整が容易となる。例えば中間熱処理温度を高くすると、Al相の径は減少する傾向にある。
【0078】
[半導体装置]
本発明のAl接続材を用いて、半導体チップ上の電極と、リードフレームや基板上の外部電極とを接続することによって、半導体装置を製造することができる。先述のとおり、半導体チップ上の電極との1st接合と、リードフレームや基板上の電極との2nd接合のいずれもウェッジ接合が用いられる。
【0079】
一実施形態において、本発明の半導体装置は、回路基板、半導体チップ、及び回路基板と半導体チップとを導通させるためのAl接続材を含み、該Al接続材が本発明のAl接続材であることを特徴とする。
【0080】
本発明の半導体装置において、回路基板及び半導体チップは特に限定されず、半導体装置を構成するために使用し得る公知の回路基板及び半導体チップを用いてよい。あるいはまた、回路基板に代えてリードフレームを用いてもよい。例えば、特開2020-150116号公報に記載される半導体装置のように、リードフレームと、該リードフレームに実装された半導体チップとを含む半導体装置の構成としてよい。
【0081】
半導体装置としては、電気製品(例えば、コンピューター、携帯電話、デジタルカメラ、テレビ、エアコン、太陽光発電システム等)及び乗物(例えば、自動二輪車、自動車、電車、船舶及び航空機等)等に供される各種半導体装置が挙げられ、中でも電力用半導体装置(パワー半導体装置)が好適である。
【実施例
【0082】
以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0083】
(サンプル)
サンプルの作製方法について説明する。原材料となるAlは純度が4N(99.99質量%以上)で、残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。合金元素として用いるSi、第1元素群(Sr、Eu、Na)、第2元素群(Fe、Mg、Mn、Ga、Ge)は、純度が99.99質量%以上で残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。Al接続材に用いるAl合金は、アルミナるつぼにAl原料と合金元素の原料を装填し、高周波加熱炉を用いて溶解することにより製造した。溶解時の炉内の雰囲気はAr雰囲気とし、溶解時の溶湯の最高到達温度は800℃以上1050℃未満とした。溶解後の冷却方法は大気中で冷却する空冷または水中で冷却する水冷とした。
【0084】
溶解によりΦ6mmの円柱状のインゴットを得、該インゴットに対し、溶体化処理および均質化処理を行った後、ダイスを用いた伸線加工と中間熱処理を行いΦ300μmのAl接続材(Alボンディングワイヤ)を作製した。溶体化処理の温度範囲は400℃以上550℃未満、時間は1時間以上6時間未満とした。溶体化処理の終了後に冷却途中に連続して、均質化処理を実施した。均質化処理の温度範囲は300℃以上350℃未満、時間は2時間以上6時間未満とした。均質化処理後の冷却方法は大気中で冷却する空冷とした。
【0085】
伸線加工時には市販の潤滑液を用い、伸線加工時のダイス1個あたりのワイヤ減面率は20%以上35%未満とした。最終熱処理の温度範囲は250℃以上350℃未満、最終熱処理の時間は2時間以上24時間未満とした。
【0086】
一部の実施例では、伸線加工1におけるワイヤ送り速度を10m/分以上15m/分未満、伸線加工2におけるワイヤ送り速度を20m/分以上40m/分未満とした。一部の実施例では、中間熱処理の温度範囲は250℃以上350℃未満、時間は30分間以上3時間未満とした。中間熱処理の回数は1回とし、最終線径の2.5~4.0倍の線径で実施した。
【0087】
(元素含有量の測定方法)
Al接続材に含まれる元素の濃度分析は、分析装置として、ICP-OES((株)日立ハイテクサイエンス製「PS3520UVDDII」)又はICP-MS(アジレント・テクノロジーズ(株)製「Agilent 7700x ICP-MS」)を用いて測定した。
【0088】
(Si相、Al相の形状の測定方法)
Al接続材のL断面(中心軸を含む中心軸方向の断面)を検査面とし、Si相、Al相の形状(比率(e/f)、比率(c/d))を測定した。本発明において、Al接続材の中心軸、該中心軸を含む中心軸方向の断面(L断面)は、図1に示すとおりである。図1にはAl接続材が円形の断面形状を有するAlボンディングワイヤである場合を示すが、Al接続材が幅W、厚さTの矩形若しくは略矩形の断面形状を有するAlボンディングリボンである場合、中心軸は幅Wの中心であって厚さTの中心を通る軸をいい、また、L断面は、中心軸を含む中心軸方向の断面であって厚さTの方向における断面をいう。Al接続材のL断面を露出させるために断面加工する際は、Al接続材の中心軸からずれることがある。このときL断面の中心軸に垂直な方向の長さが、Al接続材の線径(リボンの場合は厚さT)の90%以上であれば、中心軸を含む断面と見なすことができる。
【0089】
また、測定にはFE-SEM(日立ハイテク社製SU-70)、解析ソフトにはTSLソリューションズ社製のAPEX(データ収集用)、OIM Data Collection(カイスキャン用)、OIM Anaysis(データ解析用)を使用した。Al接続材の中心軸方向に対して50cm以上の間隔で3箇所の測定領域を無作為に選択し、3箇所の領域について測定した。測定領域は、Al接続材の中心軸方向に300μm以上800μm未満、該中心軸と垂直な方向にはAl接続材全体が入るように決定した。また、EDSおよびEBSD測定の主な条件について、加速電圧は15kV、測定倍率は350倍、スキャン速度は30~120点/秒、測定間隔は0.1~0.3μmの範囲とした。ここで、スキャン速度が速い場合は、測定時間を短くできるが、EDSの測定精度が低下することが懸念される。上記範囲で適正なスキャン速度は選定することが望ましい。
【0090】
-Si相の形状-
Al接続材のL断面におけるSi相の形状(形状比率(e/f))の測定は、SEM-EDSによって得られたAl濃度及びSi濃度の情報とEBSDによって得られた結晶方位の情報を組み合わせる手法を用いた。詳細には、以下の(1)乃至(3)の手順にしたがって測定を実施した。
(1)Al接続材のL断面を検査面とした測定領域において、EDSを用いたAlとSiの濃度測定と、EBSDを用いた結晶方位解析を同時に行った。
(2)EBSD解析ソフトの機能であるChi Scan機能を利用して、AlとSiを分離・抽出した。具体的にはSiのEDSの測定結果から、Siの閾値に相当するToleranceを設定することで、AlとSiを分離して識別した。マテリアルファイルからAlとSiの結晶情報を用いて、結晶方位の解析に供した。ここで、Toleranceの条件は主に30%に設定し、必要に応じて調整した。
(3)Si相と特定された領域について、結晶方位を解析し、測定点間の方位差が15°以上であれば結晶粒界と判断して各結晶粒の形状比率(e/f)を求めた。そして、各結晶粒の形状比率(e/f)を平均計算してSi相の形状比率(e/f)の平均値を算出した。ここで、Si相の形状比率(e/f)の平均値は、解析ソフトのGrain Shape Aspect Ratioの数値(「粒形アスペクト比」)を用いた。ここで粒形アスペクト比の計算法について、結晶粒1個の短辺長さ(e)(Grain Shape Minor Axis)と長辺長さ(f)(Grain Shape Major Axis)の比率(e/f)を、ソフトが自動で算出している。ここで、平均計算に関し、Area平均で求めた平均値を採用した。
【0091】
Si相の形状比率(e/f)の平均値は、3箇所の測定領域について上記(1)乃至(3)の手順により得た各値の平均値とした。
【0092】
-Al相の形状-
Al接続材のL断面におけるAl相の形状(形状比率(c/d))の測定は、Si相の形状比率(e/f)の測定と同様、SEM-EDSによって得られたAl濃度及びSi濃度の情報とEBSDによって得られた結晶方位の情報を組み合わせる手法を用いた。詳細には、上記(1)及び(2)の手順を実施した後、以下の(3)の手順にしたがって測定を実施した。
(3)Al相と特定された領域について、結晶方位を解析し、測定点間の方位差が15°以上であれば結晶粒界と判断して各結晶粒の形状比率(c/d)を求めた。そして、各結晶粒の形状比率(c/d)を平均計算してAl相の形状比率(c/d)の平均値を算出した。ここで、Al相の形状比率(c/d)の平均値は、Si相の形状比率(e/f)の平均値の測定と同様、解析ソフトのGrain Shape Aspect Ratioの数値(「粒形アスペクト比」)を用い、平均計算に関し、Area平均で求めた平均値を採用した。
【0093】
Al相の形状比率(c/d)の平均値は、3箇所の測定領域について上記(1)乃至(3)の手順により得た各値の平均値とした。
【0094】
(Al相の平均径の測定方法)
Al接続材のL断面におけるAl相の平均径の測定は、Si相、Al相の形状の測定と同様、SEM-EDSによって得られたAl濃度及びSi濃度の情報とEBSDによって得られた結晶方位の情報を組み合わせる手法を用いた。
【0095】
詳細には、上記(1)及び(2)の手順を実施した後、以下の(3)の手順にしたがって測定を実施した。
(3)Al相と特定された領域について、結晶方位を解析し、測定点間の方位差が15°以上であれば結晶粒界と判断して各結晶粒の円相当直径を求めた。そして各結晶粒の円相当直径を平均計算してAl相の平均径を算出した。ここで、平均計算では、Area平均で求めた平均値を用いた。また、L断面におけるAl相の平均径を算出する際には径(円相当直径)が0.5μm以上のAl相のみを対象とした。
【0096】
Al相の平均径は、3箇所の測定領域について上記(1)乃至(3)の手順により得た各値の平均値とした。
【0097】
(Al接続材の評価方法)
Al接続材の評価方法について説明する。評価に用いたAl接続材(Alボンディングワイヤ)の線径はΦ300μmとした。半導体チップはSi製のものを用い、半導体チップ上の電極には、組成がAl-0.5%Cuの合金を厚さ4μmで成膜したものを用いた。基板にはAl合金にNiを15μm成膜したものを用いた。Al接続材の接合には市販のワイヤボンダー(超音波工業社製)を用い、1st接合及び2nd接合のいずれもウェッジ接合とした。
【0098】
(高速温度サイクル信頼性の評価方法)
高速温度サイクル試験(高速TCT)の評価には市販の高速冷熱衝撃試験装置を用いた。高速TCTでは、熱風を試料に吹き付けて急速加熱を行う。高速TCTを行うサンプルは基板に半導体チップを搭載した構造とし、半導体チップ上の電極と基板上の電極間をAl接続材で接続した。高速冷熱衝撃試験装置の試料室内に設置したサンプルに対して加熱と冷却を1サイクルとして熱的負荷を繰り返し与えた。冷却時の最低温度は-50℃、加熱時の最高温度は175℃とした。昇温時間を含む加熱時間は20秒、降温時間を含む冷却時間は40秒とした。試験開始後は10000サイクル後にサンプルを取り出し、1st接合部のせん断強度試験を行った。高速温度サイクル信頼性の評価に用いる1st接合部のせん断強度の値には、無作為に抽出した10箇所の1st接合部のせん断強度の平均値を用いた。試験前の平均せん断強度に対して、高速TCTを実施した後の平均せん断強度の比率(百分率)を強度維持率とした。この強度維持率が高いほど接合部の信頼性が優れている。強度維持率が85%以上であれば優れていると判断し「3」、75%以上85%未満であれば優れていると判断し「2」、70%以上75%未満であれば改善が必要であると判断し「1」、60%未満であれば実用上問題が生じるとして「0」で表示した、「3」、「2」が合格であり、「1」、「0」が不合格と判断した。評価結果は表中の「高速温度サイクル信頼性(10000回)」の欄に記載した。次世代パワー半導体装置における温度サイクル信頼性の要求は10000サイクルに相当する。
【0099】
(1st接合強度の評価方法)
1st接合強度の評価方法について説明する。1st接合強度はせん断強度試験により評価した。一般的な接合条件で10箇所の1st接合を行い、1st接合部のせん断強度を測定した。せん断強度の測定には、市販の微小せん断強度試験機(Nordson製4000-PLUS)を用いた。せん断速度は200μm/秒、せん断ツールの高さは電極表面から10μmとした。せん断強度の測定は、Al配線材を接合した基板を治具で固定して行った。10箇所の1st接合部のせん断強度の平均値が1600gf以上であれば優れていると判断し「3」と評価し、1400gf以上1600gf未満であれば実用上問題ないと判断し「2」と評価し、1000gf以上1400gf未満であれば改善が必要であると判断し「1」と評価し、1000gf未満であれば実用上問題があると判断し「0」と評価した。評価結果は表中の「1st接合強度」の欄に記載した。
【0100】
(加工中の断線の評価方法)
加工中の断線の評価方法について説明する。線径6mmφから線径0.3mmφまで伸線加工を実施して、断線した回数を確認した。伸線の加工条件である送り速度、減面率などは前述した条件から選定しており、ワイヤ毎に適正な製造条件を調整・変更している。伸線したAl接続材の長さは100~200mの範囲であり、100mあたりに換算して断線回数を算出した。断線回数が0回であれば良好であると判断し「3」、1回であれば製造条件の改良で対応可能であると判断し「2」、2~4回であれば生産性の低下を問題視して「1」、5回以上であれば実用は難しいと判断し「0」と評価した。評価結果は表中の「加工中の断線」の欄に記載した。
【0101】
(2nd接合部の接合強度安定性の評価方法)
無作為に選択した30か所の2nd接合部に対してせん断強度試験を行い、接合強度を取得して母標準偏差(σ)を算出した。σが70gf以上の場合は実用上問題があると判断し「0」、σが50gf以上70gf未満であれば良好と判断し「1」、σが30gf以上50gf未満であれば優れていると判断し「2」、σが30gf未満であれば特に優れていると判断し「3」と評価した。「0」が不合格であり、「1」、「2」、「3」が合格である。評価結果は表中の「2nd接合部の接合強度安定性」の欄に記載した。
【0102】
(表面の傷、削れの評価方法)
Al接続材の表面性状に関して傷、削れに注目して評価した。Al接続材の線径は0.3mmφとした。Al接続材の中心軸方向に対して1m以上の間隔で3箇所の測定領域を無作為に選択し、3箇所それぞれで約2cmの長さを3本採取して、合計9本の試料について観察した。SEMの50~500倍の範囲の倍率で表面を観察した。50μm以上の長さの傷、30μm以上の長さの削れを不良と判断した。傷、削れの箇所をカウントして、0箇所であれば良好であり合格と判断し「3」、2箇所以下であれば実用上は問題ないと判断し「2」、3~7箇所であれば表面性状が良くないと判断し「1」、8箇所以上であれば実用は難しいと判断し「0」と評価した。評価結果は表中の「表面性状」の欄に記載した。
【0103】
実施例及び比較例の評価結果を表1~表3に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
実施例No.1~47のAl接続材はいずれも、Siを3.0質量%以上12.0質量%以下含有し、かつ、第1元素群(Sr、Eu、Na)の一種以上を総計で5質量ppm以上800質量ppm以下含有しており、そのL断面におけるSi相の形状比率(e/f)が0.25以上0.65以下の範囲にあり、高速TCTにおいても良好な温度サイクル信頼性を呈すると共に良好な1st接合強度を呈することを確認した。
加えて、L断面におけるAl相の形状比率(c/d)が0.25以上0.7以下である実施例No.1~22、24~39、41~47のAl接続材は、加工中の断線の発生頻度を低減させ得ることを確認した。
L断面におけるAl相の平均径が5μm以上40μm以下である実施例No.1~8、10~43、45~47のAl接続材は、2nd接合部の接合強度安定性においてより良好な結果に帰着し易いことを確認した。
さらに第2元素群(Fe、Mg、Mn、Ga、Ge)の一種以上を総計で5質量ppm以上700質量ppm以下含有する実施例No.28~41、43~47のAl接続材は、表面の傷、削れの発生を抑えて、平滑な表面を有することを確認した。
他方、比較例No.1~10のAl接続材は、Si濃度、第1元素群の濃度、Si相の形状比率(e/f)のいずれかが本発明範囲外であり、温度サイクル信頼性および1st接合強度のいずれかが十分に得られないことを確認した。
図1
図2
図3