(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-28
(45)【発行日】2025-02-05
(54)【発明の名称】側鎖にアルコキシシリル基とメルカプト基を有するポリマー型シランカップリング剤を含むコーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 183/00 20060101AFI20250129BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20250129BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20250129BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20250129BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20250129BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20250129BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20250129BHJP
C08G 77/28 20060101ALI20250129BHJP
【FI】
C09D183/00
C09D7/61
C09D7/62
C09D7/63
C09D7/65
C01G25/00
G02C7/00
C08G77/28
(21)【出願番号】P 2021016805
(22)【出願日】2021-02-04
【審査請求日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2020039388
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 真人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 勇樹
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/115377(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170385(WO,A1)
【文献】特開2019-005727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/00
C09D 7/61
C09D 7/62
C09D 7/63
C09D 7/65
C01G 25/00
G02C 7/00
C08G 77/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(S)成分及び(T)成分を含むコーティング組成物であって、
(S)成分はシラン化合物、その加水分解物、又はそれらの混合物であり、当該シラン化合物は(S1)成分としてポリマー型シランカップリング剤を含み、当該ポリマー型シランカップリング剤は、有機化合物の主鎖にアルコキシシリル基とメルカプト基とを側鎖として有し、且つ(メルカプト基)と(アルコキシシリル基)のモル比である、(メルカプト基)/(アルコキシシリル基)が、2乃至6であり、メルカプト基当量を150g/モル乃至300g/モルの割合で含有し、
(T)成分は
2nm乃至60nmの平均粒子径を有する金属酸化物のコロイド粒子(T1)を核として、その表面を1nm乃至4nmの平均一次粒子径を有する酸性酸化物のコロイド粒子からなる被覆物(T2)で被覆された、2nm乃至100nmの平均粒子径を有する
変性金属酸化物コロイド粒子で形成されたコロイド粒子(T3)の有機溶媒分散ゾルであり、
(S)成分:(T)成分を質量比で100:10乃至500の割合で含有することを特徴とする、コーティング組成物。
【請求項2】
(S1)成分のポリマー型シランカップリング剤の側鎖のアルコキシシリル基がトリメトキシシリル基であり、(メルカプト基)と(アルコキシシリル基)のモル比である、(メルカプト基)/(アルコキシシリル基)が3乃至5で、メルカプト基当量が200g/モル乃至250g/モルの割合である請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
(S)成分のシラン化合物が更に(S2)成分として、(S2-1):
【化1】
(式(1)中、R1はアルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルコキシアリール基、アルケニル基、又はエポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基、ウレイド基、もしくはシアノ基を有する有機基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R2はアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン原子を示し、aは0乃至3の整数を示す。)で表されるシラン化合物、及び(S2-2):
【化2】
(式(2)中、R3はアルキル基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R4はアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン原子を示し、Yはアルキレン基、アリーレン基、NH基、又は酸素原子を示し、bは0乃至3の整数を示し、cは0又は1の整数である。)で表されるシラン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を含む請求項1又は請求項2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
(S2)成分が(S2-1-1)成分として式(1)中、aが0であるシラン化合物、式(1)中、aが1でありR
1がメチル基であるシランカップリング剤、又はそれらの混合物と、(S2-1-2)として式(1)中、aが1でありエポキシ基を含有するシランカップリング剤、式(1)中、aが1であり(メタ)アクリロイル基を含有するシランカップリング剤、又はそれらの混合物とを含んでいて、(S2-1-1):(S2-1-2)の質量比が1:1乃至1:25の割合である請求項3に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
(S1):(S2)を質量比で5:95乃至30:70の割合で含有する請求項3に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
上記コロイド粒子(T1)が、Ti、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Ta、W、Pb、Bi及びCeからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物である請求項
1乃至請求項5のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
被覆物(T2)が、Si、Zr、Sn、Mo、Sb及びWからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物である請求項
1乃至請求項6のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
上記コロイド粒子(T1)が酸化スズ-酸化ジルコニウムからなる金属の酸化物、又は酸化チタン-酸化スズ-酸化ジルコニウムからなる金属の酸化物であり、被覆物(T2)が酸化スズ-二酸化ケイ素からなる金属の酸化物である請求項
1乃至請求項7のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
(T2)成分の表面が(メタ)アクリロイルオキシトリアルコキシシラン、ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、又はグリシドキシプロピルトリアルコキシシランで被覆されている請求項
1乃至請求項
8のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
(T)成分が更にアミンを含む請求項
1乃至請求項
9のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
更に硬化剤として金属キレート又は過塩素酸塩を含む請求項1乃至請求項
10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
更に界面活性剤を含有する請求項1乃至請求項
11のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
光学基材の表面に請求項1乃至請求項
12のいずれか1項に記載のコーティング組成物により形成された硬化膜を有する光学部材。
【請求項14】
請求項
13に記載の光学部材の表面に更に反射防止膜を有する光学部材。
【請求項15】
(S)成分としてシラン化合物、その加水分解物、又はそれらの混合物を準備する(a)工程、及び
当該(a)工程で得られた(S)成分と
下記(T)成
分とを混合する(b)工程を含む、コーティング組成物の製造方法
であって、
当該シラン化合物は(S1)成分としてポリマー型シランカップリング剤を含み、当該ポリマー型シランカップリング剤は、有機化合物の主鎖にアルコキシシリル基とメルカプト基とを側鎖として有し、且つ(メルカプト基)と(アルコキシシリル基)のモル比である、(メルカプト基)/(アルコキシシリル基)が、2乃至6であり、メルカプト基当量を150g/モル乃至300g/モルの割合で含有し、
当該(T)成分は2nm乃至60nmの平均粒子径を有する金属酸化物のコロイド粒子(T1)を核として、その表面を1nm乃至4nmの平均一次粒子径を有する酸性酸化物のコロイド粒子からなる被覆物(T2)で被覆された、2nm乃至100nmの平均粒子径を有する変性金属酸化物コロイド粒子で形成されたコロイド粒子(T3)の有機溶媒分散ゾルである、前記コーティング組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コーティングによって得られる被膜が硬度、透明性、耐擦傷性、密着性及び耐候性に優れ、メガネレンズなどの光学部材として有用な硬化膜を形成できるコーティング組成物及び光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形体は、軽量、易加工性、耐衝撃性等の長所を生かして多量に使用されている反面、硬度が不十分で傷が付きやすい、溶媒に侵されやすい、帯電して埃を吸着する、耐熱性が不十分等であるといった短所を有する。そのため、プラスチック成形体を眼鏡レンズ、窓材等として使用するには、無機ガラス成形体に比べて、上述のような実用上の欠点があった。そこでプラスチック成形体に保護コート(保護被膜)を施すことが提案されている。保護コートに使用されるコーティング組成物は、実に多数の種類が提案されている。
【0003】
無機系に近い硬い被膜を与えるものとして、有機ケイ素化合物又はその加水分解物を主成分(樹脂成分又は塗膜形成成分)とするコーティング組成物が眼鏡レンズ用として使用されている(特許文献1)。
【0004】
上記コーティング組成物も未だ耐擦傷性が不満足であるため、更にこれにコロイド状に分散した二酸化珪素ゾルを添加したものが提案され、これも眼鏡レンズ用として実用化されている(特許文献2)。
【0005】
コロイダルシリカにメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、及びイソプロピルアミノ基を有しシリル残基が結合したポリマーグラフトコロイダルシリカ分散体が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭52-11261号公報
【文献】特開昭53-111336号公報
【文献】特開2008-100894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は得られた硬化膜の基材との密着性、耐候性試験後の外観、耐候性試験後の密着性、耐擦傷性、透明性に優れたコーティング組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は第1観点として、下記(S)成分及び(T)成分を含むコーティング組成物であって、
(S)成分はシラン化合物、その加水分解物、又はそれらの混合物であり、当該シラン化合物は(S1)成分としてポリマー型シランカップリング剤を含み、当該ポリマー型シランカップリング剤は、有機化合物の主鎖にアルコキシシリル基とメルカプト基とを側鎖として有し、且つ(メルカプト基)と(アルコキシシリル基)のモル比である、(メルカプト基)/(アルコキシシリル基)が、2乃至6であり、メルカプト基当量を150g/モル乃至300g/モルの割合で含有し、
(T)成分は2nm乃至100nmの平均粒子径を有するコロイド状金属酸化物粒子(T3)であり、
(S)成分:(T)成分を質量比で100:10乃至500の割合で含有することを特徴とする、コーティング組成物に関する。
第2観点として、(S1)成分のポリマー型シランカップリング剤の側鎖のアルコキシシリル基がトリメトキシシリル基であり、(メルカプト基)と(アルコキシシリル基)のモル比である、(メルカプト基)/(アルコキシシリル基)が3乃至5で、メルカプト基当量が200g/モル乃至250g/モルの割合である第1観点に記載のコーティング組成物に関する。
第3観点として、(S)成分のシラン化合物が更に(S2)成分として、(S2-1):
【化1】
(式(1)中、R
1はアルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルコキシアリール基、アルケニル基、又はエポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基、ウレイド基、もしくはシアノ基を有する有機基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R
2はアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン原子を示し、aは0乃至3の整数を示す。)で表されるシラン化合物、及び(S2-2):
【化2】
(式(2)中、R
3はアルキル基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R
4はアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン原子を示し、Yはアルキレン基、アリーレン基、NH基、又は酸素原子を示し、bは0乃至3の整数を示し、cは0又は1の整数である。)で表されるシラン化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を含む第1観点又は第2観点に記載のコーティング組成物に関する。
第4観点として、(S2)成分が(S2-1-1)成分として式(1)中、aが0であるシラン化合物、式(1)中、aが1でありR
1がメチル基であるシランカップリング剤、又はそれらの混合物と、(S2-1-2)として式(1)中、aが1でありエポキシ基を含有するシランカップリング剤、式(1)中、aが1であり(メタ)アクリロイル基を含有するシランカップリング剤、又はそれらの混合物とを含んでいて、(S2-1-1):(S2-1-2)の質量比が1:1乃至1:25の割合である第3観点に記載のコーティング組成物に関する。
第5観点として、(S1):(S2)を質量比で5:95乃至30:70の割合で含有する第3観点に記載のコーティング組成物に関する。
第6観点として、(T)成分が、2nm乃至60nmの平均粒子径を有する金属酸化物のコロイド粒子(T1)を核として、その表面を1nm乃至4nmの平均一次粒子径を有する酸性酸化物のコロイド粒子からなる被覆物(T2)で被覆された、2nm乃至100nmの平均粒子径を有する変性金属酸化物コロイド粒子で形成されたコロイド粒子(T3)の有機溶媒分散ゾルである第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載のコーティング組成物に関する。
第7観点として、上記コロイド粒子(T1)が、Ti、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Ta、W、Pb、Bi及びCeからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物である第6観点に記載のコーティング組成物に関する。
第8観点として、被覆物(T2)が、Si、Zr、Sn、Mo、Sb及びWからなる群
から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物である第6観点に記載のコーティング組成物に関する。
第9観点として、上記コロイド粒子(T1)が酸化スズ-酸化ジルコニウムからなる金属の酸化物、又は酸化チタン-酸化スズ-酸化ジルコニウムからなる金属の酸化物であり、被覆物(T2)が酸化スズ-二酸化ケイ素からなる金属の酸化物である第6観点に記載のコーティング組成物に関する。
第10観点として、(T2)成分の表面が(メタ)アクリロイルオキシトリアルコキシシラン、ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、又はグリシドキシプロピルトリアルコキシシランで被覆されている第6観点乃至第9観点のいずれか一つに記載のコーティング組成物に関する。
第11観点として、(T)成分が更にアミンを含む第6観点乃至第10観点のいずれか一つに記載のコーティング組成物に関する。
第12観点として、更に硬化剤として金属キレート又は過塩素酸塩を含む第1観点乃至第11観点のいずれか一つに記載のコーティング組成物に関する。
第13観点として、更に界面活性剤を含有する第1観点乃至第12観点のいずれか一つに記載のコーティング組成物に関する。
第14観点として、光学基材の表面に第1観点乃至第13観点のいずれか一つに記載のコーティング組成物により形成された硬化膜を有する光学部材に関する。
第15観点として、第14観点に記載の光学部材の表面に更に反射防止膜を有する光学部材に関する。
第16観点として、(S)成分としてシラン化合物、その加水分解物、又はそれらの混合物を準備する(a)工程、及び
当該(a)工程で得られた(S)成分と(T)成分として2nm乃至100nmの平均粒子径を有するコロイド状金属酸化物粒子(T3)とを混合する(b)工程を含む、コーティング組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、(S)成分としてシラン化合物、その加水分解物、又はそれらの混合物と、(T)成分として2nm乃至100nmの平均一次粒子径を有するコロイド状金属酸化物粒子とを含むコーティング組成物である。
【0010】
本発明は、(S)成分としてポリマー型シランカップリング剤を含有している。ポリマー型シランカップリング剤は主鎖が有機構造を有する有機化合物を有し、側鎖がアルコキシ基と有機官能基(メルカプト基)を複数個有するものである。上記アルコキシ基はコーティング組成物に含まれるバインダー成分(例えば他のシランカップリング剤)や、コロイド状金属酸化物粒子の表面ヒドロキシル基(例えばシラノール基)と結合することが可能である。また、上記メルカプト基は他のバインダー成分中の炭素と炭素の二重結合や、エポキシ基と効率的に反応することが出来る。
【0011】
ポリマー型シランカップリング剤は一分子中に反応点が多く存在し、密着性の向上に期待ができる。また大きな分子であるため加熱硬化時の揮発性も少なく、そして造膜性が高い。コート膜を形成するコーティング組成物中にポリマー型シランカップリング剤を含有することで、ポリマー型シランカップリング剤が起点となって、コロイド状金属酸化物や、他のバインダー成分(そのバインダーが結合するガラスやプラスチック基材)との結合性を向上させるため高い密着性、特に耐候密着性の向上が期待できる。
【0012】
また、近年プラスチックレンズは薄型とするために高屈折率化が進んでいて、その高屈折率化に硫黄原子が関与しているが、ポリマー型シランカップリング剤は多くのメルカプト基を有していて、メルカプト基やそのメルカプト基が反応した生成物は高屈折率レンズ素材との相性が高く、この点でも密着性の向上に寄与している。また、硫黄を含有するこ
とからコート膜自体の屈折率も高く、高屈折率基材に塗布しても屈折率差から生じる縞模様(干渉縞)の発生を軽減することができる。
【0013】
本発明のコーティング組成物は光学部材に適用可能であるが、メガネレンズ、カメラレンズ、自動車用窓ガラス、コンピューター用ディスプレイ、テレビ用ディスプレイ、携帯端末用ディスプレイ等に適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は下記(S)成分及び(T)成分を含むコーティング組成物であって、
(S)成分はシラン化合物、その加水分解物、又はそれらの混合物であり、該シラン化合物は(S1)成分として有機化合物の主鎖にアルコキシシリル基とメルカプト基とを側鎖として有し、且つ(メルカプト基)/(アルコキシシリル基)=2~6のモル比、メルカプト基当量150~300g/モルの割合で含有するポリマー型シランカップリング剤を含み、
(T)成分は2~100nmの平均粒子径を有するコロイド状金属酸化物粒子(T3)であり、
(S)成分:(T)成分=100:10~500の質量比で含有する上記コーティング組成物である。
【0015】
本発明のコーティング組成物における固形分濃度は、0.1質量%乃至60質量%、又は1質量%乃至50質量%、10質量%乃至45質量%である。ここで固形分とはコーティング組成物の全成分から溶剤成分を除いたものである。
【0016】
上記(S1)成分のポリマー型シランカップリング剤は、有機化合物の主鎖にアルコキシシリル基とメルカプト基とを側鎖に有する構造を持つ。アルコキシシリル基は3つのアルコキシ基がケイ素原子に結合し、ケイ素原子が有機化合物に結合している。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等の炭素原子数1乃至10のアルコキシ基が挙げられるが、特にメトキシ基が好ましい。メトキシ基は加水分解を経てヒドロキシ基に変換されシラノール基を生成する。上記有機化合物は飽和や不飽和で、鎖状や環状で、脂肪族や芳香族の中から選ばれる特性を有する炭化水素であり、エステル基、エーテル基、アミノ基等の連結基を含んでいても良い。エステル基、エーテル基、アミノ基等は分子中に1個又は複数個有していて、繰り返し単位を有することもできる。これらの有機化合物に複数個のアルコキシシリル基とメルカプト基が連結している。
(メルカプト基)/(アルコキシシリル基)のモル比は2乃至6、又は3乃至5であり、典型的には3又は5である。メルカプト基当量は150g/モル乃至300g/モル、又は200g/モル乃至250g/モル、典型的には240g/モル、210g/モルである。メルカプト基当量はメルカプト基1モル当たりのシランカップリング剤の質量である。粘度は500mm2/s乃至10000mm2/s、又は1000mm2/s乃至8000mm2/s、典型的には1500mm2/s、5000mm2/sである。これらのポリマー型シランカップリング剤は信越化学工業株式会社製の商品名X-12-1154、商品名X-12-1156を用いることが出来る。
【0017】
信越化学工業株式会社製の商品名X-12-1154は、(メルカプト基)/(メトキシシリル基)=3のモル比、粘度1500mm2/s、メルカプト基当量240g/モルの割合で含有するポリマー型シランカップリング剤である。
信越化学工業株式会社製の商品名X-12-1156は、(メルカプト基)/(メトキシシリル基)=5のモル比、粘度5000mm2/s、メルカプト基当量210g/モルの割合で含有するポリマー型シランカップリング剤である。
上記製品は例えばエタノール溶液中に溶解した約15質量%濃度の製品で入手することが
可能であり、それらをエタノールで希釈して用いることも、そのままの濃度で使用することもできる。
【0018】
本発明では(S)成分として、(S1)成分と共に(S2)成分を用いることができる。
(S2)成分として、(S2-1)及び(S2-2)からなる群より選ばれた少なくとも1種のシラン化合物を含むことができる。
【0019】
(S2-1)は式(1)で示され、R1はアルキル基、アリール基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルコキシアリール基、アルケニル基、又はエポキシ基、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基、アミノ基、ウレイド基、もしくはシアノ基を有する有機基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R2はアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン原子を示し、aは0乃至3の整数を示す。
【0020】
(S2-2)は式(2)で示され、R3はアルキル基で且つSi-C結合によりケイ素原子と結合しているものであり、R4はアルコキシ基、アシルオキシ基、又はハロゲン原子を示し、Yはアルキレン基、アリーレン基、NH基、又は酸素原子を示し、bは0乃至3の整数を示し、cは0又は1の整数である。
【0021】
上記アルキル基は炭素原子数1乃至10のアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、シクロブチル基、1-メチル-シクロプロピル基、2-メチル-シクロプロピル基、n-ペンチル基、1-メチル-n-ブチル基、2-メチル-n-ブチル基、3-メチル-n-ブチル基、1,1-ジメチル-n-プロピル基、1,2-ジメチル-n-プロピル基、2,2-ジメチル-n-プロピル基、1-エチル-n-プロピル基、シクロペンチル基、1-メチル-シクロブチル基、2-メチル-シクロブチル基、3-メチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロプロピル基、2,3-ジメチル-シクロプロピル基、1-エチル-シクロプロピル基、2-エチル-シクロプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチル-n-ペンチル基、2-メチル-n-ペンチル基、3-メチル-n-ペンチル基、4-メチル-n-ペンチル基、1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2-ジメチル-n-ブチル基、1,3-ジメチル-n-ブチル基、2,2-ジメチル-n-ブチル基、2,3-ジメチル-n-ブチル基、3,3-ジメチル-n-ブチル基、1-エチル-n-ブチル基、2-エチル-n-ブチル基、1,1,2-トリメチル-n-プロピル基、1,2,2-トリメチル-n-プロピル基、1-エチル-1-メチル-n-プロピル基、1-エチル-2-メチル-n-プロピル基、シクロヘキシル基、1-メチル-シクロペンチル基、2-メチル-シクロペンチル基、3-メチル-シクロペンチル基、1-エチル-シクロブチル基、2-エチル-シクロブチル基、3-エチル-シクロブチル基、1,2-ジメチル-シクロブチル基、1,3-ジメチル-シクロブチル基、2,2-ジメチル-シクロブチル基、2,3-ジメチル-シクロブチル基、2,4-ジメチル-シクロブチル基、3,3-ジメチル-シクロブチル基、1-n-プロピル-シクロプロピル基、2-n-プロピル-シクロプロピル基、1-i-プロピル-シクロプロピル基、2-i-プロピル-シクロプロピル基、1,2,2-トリメチル-シクロプロピル基、1,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、2,2,3-トリメチル-シクロプロピル基、1-エチル-2-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-1-メチル-シクロプロピル基、2-エチル-2-メチル-シクロプロピル基及び2-エチル-3-メチル-シクロプロピル基等が挙げられる。
【0022】
また、アルキレン基は上述のアルキル基から誘導されるアルキレン基を上げることができる。
【0023】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられ、アリーレン基は上記アリール基から誘導される基であり、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基等が挙げられる。
【0024】
上記アルコキシ基は炭素原子数1乃至10のアルコキシ基が挙げられ、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチロキシ基、1-メチル-n-ブトキシ基、2-メチル-n-ブトキシ基、3-メチル-n-ブトキシ基、1,1-ジメチル-n-プロポキシ基、1,2-ジメチル-n-プロポキシ基、2,2-ジメチル-n-プロポキシ基、1-エチル-n-プロポキシ基、n-ヘキシロキシ基等が挙げられる。
【0025】
上記アシルオキシ基としては、炭素原子数2乃至10のアシルオキシ基が挙げられ、例えば、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n-プロピルカルボニルオキシ基、i-プロピルカルボニルオキシ基、n-ブチルカルボニルオキシ基、i-ブチルカルボニルオキシ基、s-ブチルカルボニルオキシ基、t-ブチルカルボニルオキシ基、n-ペンチルカルボニルオキシ基、1-メチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、2-メチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、3-メチル-n-ブチルカルボニルオキシ基、1,1-ジメチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、1,2-ジメチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、2,2-ジメチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、1-エチル-n-プロピルカルボニルオキシ基、n-ヘキシルカルボニルオキシ基、1-メチル-n-ペンチルカルボニルオキシ基、2-メチル-n-ペンチルカルボニルオキシ基等が挙げられる。
【0026】
上記ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0027】
上記(S2)成分としては、例えば、下記式(3-1)乃至(3-10)で表される化合物が挙げられる。
【化3】
【化4】
【0028】
上記R12は式(1)及び式(2)で示されるR2及びR4に記載された加水分解性基を示す。
【0029】
本発明では(S2)成分が(S2-1-1)成分として式(1)中、aが0であるシラン化合物、式(1)中、aが1でありR1がメチル基であるシランカップリング剤、又はそれらの混合物と、(S2-1-2)として式(1)中、aが1でありエポキシ基を含有するシランカップリング剤、式(1)中、aが1であり(メタ)アクリロイル基を含有するシランカップリング剤、又はそれらの混合物とを含んでいて、(S2-1-1):(S2-1-2)の質量比が1:1乃至1:25の割合とすることができる。
【0030】
上記(S2-1-1)成分として、式(1)中、aが0であるシラン化合物は、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。式(1)中、aが1でありR1がメチル基であるシランカップリング剤は、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0031】
上記(S2-1-2)成分として、式(1)中、aが1でありエポキシ基を含有するシランカップリング剤は、例えばグリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。式(1)中、aが1であり(メタ)アクリロイル基を含有するシランカップリング剤は、例えばメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0032】
加水分解は加水分解触媒を用いることが出来るが、加水分解触媒を用いずに行うこともできる。加水分解触媒を用いる場合は、加水分解性基の1モル当たり0.001モル乃至10モル、好ましくは0.001モル乃至1モルの加水分解触媒を用いることができる。
加水分解を行う際の反応温度は、通常20℃乃至120℃である。
加水分解は完全に加水分解を行うことも、部分加水分解することでも良い。即ち、コーティング組成物中では、モノマーや加水分解物として存在するが、一部は加水分解縮合物を形成していてもよい。そして、塗膜中では加水分解物は加水分解縮合物を形成し、これらシラン化合物はバインダーとして機能し、加水分解縮合物がネットワークを形成して硬化膜となる。
加水分解し縮合させる際に触媒を用いることができる。
【0033】
加水分解触媒としては、金属キレート化合物、有機酸、無機酸、有機塩基、無機塩基を
挙げることができる。
【0034】
加水分解触媒としての金属キレート化合物は後述のキレート化合物が挙げられる。
【0035】
加水分解触媒としての有機酸は、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、アジピン酸、セバシン酸、没食子酸、酪酸、メリット酸、アラキドン酸、シキミ酸、2-エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、p-アミノ安息香酸、p-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、トリフルオロメタンスルホン酸等を挙げることができる。
【0036】
加水分解触媒としての無機酸は、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸等を挙げることができる。
【0037】
加水分解触媒としての有機塩基は、例えば、ピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピコリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラエチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムハイドロキシド等を挙げることができる。無機塩基としては、例えばアンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。
【0038】
上記加水分解に用いられる有機溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、モノアルコール系溶媒、多価アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、含窒素系溶媒、含硫黄系溶媒等を挙げることができる。これらの溶剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
中でも、アルコール系溶剤が好ましく、この観点からメタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール等を用いることができる。これら(S)成分中の有機溶媒は本発明のコーティング組成物中の有機溶媒として用いることができる。
【0039】
本発明では上記(S1):(S2)を質量比で5:95乃至30:70の割合で含有することができる。
【0040】
本発明において(T)成分は2nm乃至100nmの平均一次粒子径を有するコロイド状金属酸化物粒子(T3)である。
(T)成分はコロイド状金属酸化物粒子(T3)を含有するゾルの形態で用いることができる。そして、コロイド状金属酸化物粒子(T3)を含有するゾルは、水性ゾルを有機溶媒で置換することによる有機溶媒ゾルを用いることができる。
上記ゾルは金属の酸化物として0.1質量%乃至40質量%、1質量%乃至30質量%、又は1質量%乃至20質量%濃度で用いることができる。
【0041】
このような有機溶媒としては、例えば、アルコール系有機溶媒、エーテル系有機溶媒、ケトン系有機溶媒、エステル系有機溶媒、脂肪族炭化水素系有機溶媒、芳香族炭化水素系有機溶媒及びアミド化合物系有機溶媒等が挙げられる。
【0042】
前記アルコール系有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、
プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の一価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等の多価アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等の多価アルコールのモノエーテル類等が挙げられる。
【0043】
前記エーテル系有機溶媒としては、上記の多価アルコールのモノエーテル類の他に、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールの水酸基の全てをアルキルエーテル化した多価アルコールエーテル類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、アニソール等が挙げられる。
【0044】
前記ケトン系有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン等が挙げられる。
【0045】
前記エステル系有機溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0046】
前記脂肪族炭化水素系有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等が挙げられる。
【0047】
前記芳香族炭化水素系有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
【0048】
前記アミド化合物系有機溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0049】
以上の溶媒の中でも、アルコール系有機溶媒として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エーテル系有機溶媒として、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ケトン系有機溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アミド化合物系有機溶媒として、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等が、水と混合しやすく好ましい。
なお、上記有機溶媒は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
これら(T)成分中の有機溶媒は本発明のコーティング組成物中の有機溶媒として用いることができる。
本発明のコーティング組成物では(S)成分と(T)成分を含有する時に、(T)成分がコロイド状金属酸化物粒子(T3)の有機溶媒分散ゾルとした場合に、この有機溶媒がコーティング組成物の溶媒として用いることが出来る。
【0051】
(T)成分が、2nm乃至60nmの平均粒子径を有する金属酸化物のコロイド粒子(T1)を核として、その表面を1nm乃至4nmの平均一次粒子径を有する酸性酸化物のコロイド粒子からなる被覆物(T2)で被覆された、2nm乃至100nmの平均粒子径を有する変性金属酸化物コロイド粒子で形成されたコロイド粒子(T3)の有機溶媒分散ゾルである。
【0052】
上記平均粒子径は動的光散乱法測定装置による動的光散乱による平均粒子径(nm)を用いることができる。
上記平均一次粒子径は透過型電子顕微鏡観察による平均一次粒子径(nm)を用いることができる。
【0053】
上記コロイド粒子(T1)が、Ti、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Sb、Ta、W、Pb、Bi及びCeからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を用いることができる。例えば、TiO2、Fe2O3、CuO、ZnO、Y2O3、ZrO2、Nb2O5、NbO2、Nb2O3、MoO2、MoO3、In2O3、SnO2、Sb2O3、Sb2O5、Ta2O5、W2O3、WO2、WO3、PbO、Pb2O4、PbO2、Bi2O3、CeO2、Ce2O3等を単独で用いることが挙げられる。またこれらの金属の酸化物は、2種又は3種又はそれ以上を組み合わせ用いることができる。例えばZrO2-SnO2の組み合わせ、TiO2-SnO2-ZrO2の組み合わせが挙げられる。
【0054】
被覆物(T2)が、Si、Zr、Sn、Mo、Sb及びWからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物を用いることができる。例えば、SiO2、ZrO2、SnO2、MoO2、MoO3、Sb2O3、Sb2O5等を単独で用いることが挙げられる。またこれらの金属の酸化物は、2種又は3種又はそれ以上を組み合わせ用いることができる。例えばSnO2-SiO2、SnO2-SiO2-Sb2O5等が挙げられる。
【0055】
上記コロイド粒子(T1)が酸化スズ-酸化ジルコニウムからなる金属の酸化物、又は酸化チタン-酸化スズ-酸化ジルコニウムからなる金属の酸化物であり、被覆物(T2)としては、例えば、酸化スズ-二酸化ケイ素からなる金属の酸化物が好ましい。
【0056】
(T)成分の2nm乃至100nmの平均粒子径を有するコロイド状金属酸化物粒子(T3)は、金属の酸化物粒子の表面をシランカップリング剤等の表面被覆剤で被覆しないで用いることも、被覆して用いることもできる。
【0057】
(T1)単独で用いる場合や、(T1)を核として(T2)で被覆してコアシェル型構造で用いる場合についてそれぞれシランカップリング剤で被覆することができる。
【0058】
コアシェル型構造で用いる場合は、最外層である(T2)成分の表面が(メタ)アクリロイルオキシトリアルコキシシラン、ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、又はグリシドキシプロピルトリアルコキシシランで被覆することができる。上記アルコキシ基はメトキシ基、エトキシ基が用いられる。
【0059】
例えば(T1)が酸化スズ-酸化ジルコニウムからなる金属の酸化物、(T2)が酸化スズ-二酸化ケイ素からなる金属の酸化物であり、(メタ)アクリロイルオキシトリアルコキシシランで被覆した場合に、粒子表面に(メタ)アクリロイルオキシトリアルコキシシランが0.2個/nm乃至1.5個/nmの割合で、典型的には1.0個/nmの割合で表面処理することができる。
【0060】
また、(T1)が酸化チタン-酸化スズ-酸化ジルコニウムからなる金属の酸化物、(
T2)が酸化スズ-二酸化ケイ素からなる金属の酸化物であり、ウレイドプロピルトリアルコキシシランで被覆した場合に、粒子表面にウレイドプロピルトリアルコキシシランが0.2個/nm乃至1.5個/nmの割合で、典型的には0.5個/nmの割合で表面処理することができる。
【0061】
(T)成分の2nm乃至100nmの平均粒子径を有するコロイド状金属酸化物粒子(T3)は有機溶剤に分散したゾルとして用いる場合に、アミンを含有することができる。アミンを含有することによってゾルの安定性が向上する。
【0062】
アミンとしては、例えば、エチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、n-プロピルアミン等のアルキルアミン、ベンジルアミン等のアラルキルアミン、ピペリジン等の脂環式アミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンが挙げられる。これらは2種以上を混合して含有することができる。これらを全金属の酸化物の合計量に対し約30質量%以下、例えば0.1質量%乃至30質量%に含有させることができる。
【0063】
本発明のコーティング組成物は、硬化剤として金属キレート、過塩素酸塩、又はそれらの混合物を含有することができる。これらの添加割合は固形分中で0.01質量%乃至20質量%の割合で用いることができる。例えば金属キレート化合物の場合は2質量%乃至20質量%、過塩素酸塩の場合は0.01質量%乃至2質量%の割合で含有することが出来る。
【0064】
金属キレート化合物としては、例えば、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ-n-プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ-i-プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ-n-ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン等のチタンキレート化合物、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ-n-プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ-i-プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ-n-ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム等のジルコニウムキレート化合物、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウム等のアルミニウムキレート化合物が挙げられる。
過塩素酸塩としては、過塩素酸アルミニウム9水和物が挙げられる。
【0065】
本発明のコーティング組成物は、界面活性剤として、カチオン系、アニオン系、ノニオン系の界面活性剤を含有してもよい。ノニオン系の界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤や、アクリル系界面活性剤や、フッ素系界面活性剤が挙げられる。
【0066】
フッ素系界面活性剤としては、例えばペルフルオロアルキルスルホン酸やペルフルオロアルキルカルボン酸などのパーフルオロアルキル基を有する界面活性剤が挙げられる。
【0067】
シリコーン系界面活性剤としてはエチレングリコール、プロピレングリコール等のオリゴマー等の各種の置換基で側鎖や主鎖の末端が変性されたポリジメチルシロキサン等や、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0068】
アクリル系界面活性剤としては、アクリル系モノマーを共重合体したものが好ましく、共重合可能なものとして、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ナフチル、2-ヒドロキシ-4-メタクリルロイルオキシエトキシ-ベンゾフェ
ノン、3-(2H-1,2,3-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェネチル-(メタ)アクリレートなどの芳香族含有(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸アルキレンオキシドエステル類、トリエチレングリコールモノエチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノエチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールモノブチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、メトキシトリオキシプロピレンテトラオキシエチレン(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールのエチレンオキシド6モル付加物のモノ(メタ)アクリレートなどのモノオール又はジオールのアルキレンオキシド2乃至10モル付加物の(メタ)アクリル酸アルキルである(メタ)アクリル酸アルキルエーテルエステル類、アミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートなどの(メタ)アクリル酸アミノアルキルエステル類、(メタ)アクリルアミド、α-フェニル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-t-オクチル(メタ)アクリルアミド、N-n-オクチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N‘-メチレンビス((メタ)アクリルアミド)、N-ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N-(n-ブトキシメチル)(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリンなどの(メタ)アクリル酸アミド化合物類が挙げられる。
【0069】
本発明のコーティング組成物は、(S)成分に由来する有機溶媒、(T)成分に由来する有機溶媒に加えて、上述の(S)成分や(T)成分に使われた有機溶媒を更に含有しても良い。
【0070】
本発明のコーティング組成物は、基材上に塗布し、硬化膜を形成させることができる。光学用途に適した透明性の基材を用いることにより、硬化膜を有する光学基材を得ることができる。
【0071】
コーティング組成物の硬化は、加熱乾燥又は活性エネルギー線照射によって行うことができる。加熱乾燥の硬化条件としては70℃乃至200℃が好ましく、80℃乃至150℃がより好ましい。0.5時間乃至5時間、又は1時間乃至3時間の加熱硬化時間を経て硬化膜が得られる。そして加熱乾燥は、熱風中で行うことが好ましい。また、活性エネルギー線としては、赤外線、紫外線、電子線等が挙げられ、特に遠赤外線は熱による損傷を低く抑えることができる。
【0072】
本発明のコーティング組成物を基材に塗布する方法としては、ディッピング法、スピン法、スプレー法等の通常行われる方法が適用できる。特にディッピング法、スピン法が特に好ましい。
【0073】
また本発明のコーティング組成物を基材に塗布する前に、酸、アルカリ、各種有機溶剤又は洗剤による化学的処理、プラズマ、紫外線等による物理的処理により基材と硬化膜との密着性を向上させることができる。更に各種樹脂を用いたプライマー処理を行うことにより基材と硬化膜との密着性をより向上させることができる。
【0074】
また本発明のコーティング組成物により形成される硬化膜は、高屈折率膜として反射防止膜に使用でき、更に、防曇、フォトクロミック、防汚等の機能を有する成分を加えることにより、多機能膜として使用することもできる。
【0075】
本発明のコーティング組成物により形成される硬化膜を有する光学部材は、眼鏡レンズ
のほか、カメラ用レンズ、自動車の窓ガラス、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどに付設する光学フィルターなどに使用することができる。
【0076】
本発明の光学部材は、光学基材の表面に本発明のコーティング組成物により形成される硬化膜を有しているが、その硬化膜上に無機酸化物の蒸着膜からなる反射防止膜を形成させることができる。
【実施例】
【0077】
〔粘度〕
オストワルド粘度計にて求めた(25℃)。
〔水分〕
カールフィッシャー滴定法にて求めた。
〔動的光散乱による平均粒子径(動的光散乱法粒子径):単位はnm〕
ゾルを分散溶媒で希釈し、溶媒のパラメーターを用いて、動的光散乱法測定装置:Malvern Instruments Ltd製ゼータ-サイザーで測定した。
〔透過型電子顕微鏡による平均一次粒子径:単位はnm〕
ゾルを銅メッシュ上に滴下し乾燥させ、透過型電子顕微鏡(日本電子社製 JEM-1020)を用いて加速電圧100kVにて観察し、100個の粒子を測定し平均化した値を一次粒子径として求めた。
(1)密着性試験
ウレタン系プラスチックレンズ基板上に形成した硬化膜に1mm間隔で100目クロスカットを施し、このクロスカットした部分に粘着テープ(セロハンテープ、ニチバン(株)製品)を強く貼り付けた後、粘着テープを急速に剥がし、粘着テープを剥がした後の硬化膜の剥離の有無を調べた。評価基準は下記の通りである。
A:全く剥離が無いか、又は100目中5目未満の剥離が確認できる。
B:100目中5目乃至30目の剥離が確認できる
C:100目中31目乃至60目の剥離が確認できる
D:100目中61目乃至90目の剥離が確認できる
E:100目中91目以上の剥離が確認できる
(2)耐候性試験後の外観変化
ウレタン系プラスチックレンズ基板上に形成した硬化膜に対して、キセノンウェザーメーター(照射強度40mW/m2)を用いて、100時間露光を行った。露光後の硬化膜のクラックの有無を目視にて調べた。
(3)耐候性試験後の密着性試験
ウレタン系プラスチックレンズ基板上に形成した硬化膜に対して、キセノンウェザーメーター(照射強度40mW/m2)を用いて、100時間露光を行った。露光後の硬化膜にクロスカットを施し、(1)密着性試験と同様の試験を行ない、粘着テープを剥がした後の硬化膜の剥離の有無を調べた。評価基準は(1)密着性試験を用いた。
(4)耐擦傷性試験
スチールウール#0000で、ウレタン系プラスチックレンズ基板上に形成した硬化膜表面を擦り、明室内、蛍光灯下で、硬化膜の傷の有無を目視で調べた。なお耐擦傷性試験の条件は1回/10秒、荷重1kg以上とした。判断基準は下記の通りである。
A:全く傷が確認できない
B:若干の傷が確認できる
C:目立った傷が確認できる
(5)透明性試験
暗室内、蛍光灯下で、ウレタン系プラスチック基板上に形成した硬化膜の曇りの有無を目視で調べた。判断基準は下記の通りである。
A:曇りの発生がほとんど無いもの
B:曇りが発生するが透明硬化膜として問題がない程度のもの
C:白化が顕著に表れるもの
(6)屈折率
反射率測定機(オリンパス(株)製 USPM-RU)を用いて、ガラス基板上に形成した硬化膜の反射率を測定した。測定した反射率から、光学シミュレーションを用いて、硬化膜の屈折率を算出した。
【0078】
(参考例1)
核となる酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T1-1)の調製
炭酸水素テトラメチルアンモニウム(水酸化テトラメチルアンモニウム換算で42.4質量%含有)水溶液293.7gを、純水111.5gで希釈し、この水溶液を攪拌しながら、オキシ炭酸ジルコニウム粉末(ZrO2換算で40.1質量%含有)168.4gを徐々に添加した。添加終了後、85℃に加温し、メタスズ酸9.6g(SnO2として86.0質量%含)を徐々に添加し、105℃にて5時間加温熟成を行い、更に145℃にて5時間の水熱処理を行った。次いでこのゾルを限外ろ過装置にて純水を添加しながら、ゾルを洗浄、濃縮した。得られたゾルはアルカリ性の酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T1-1)の水分散ゾルであり、pH9.4、全金属酸化物濃度(ZrO2、及びSnO2の合計)5.0質量%、動的光散乱法による平均粒子径(動的光散乱法粒子径)15nmであった。
【0079】
(参考例2)
被覆物となる二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T2-1)の調製
JIS3号珪酸ナトリウム(SiO2換算で29.8質量%含有)77.2gを純水668.8gに溶解し、次いでスズ酸ナトリウムNaSnO3・H2O(SnO2換算で55.1質量%含有)20.9gを溶解した。得られた水溶液を水素型陽イオン交換樹脂(アンバーライト(登録商標)IR-120B)を充填したカラムに通液した。次いで得られた水分散ゾルにジイソプロピルアミンを7.2g添加した。得られたゾルはアルカリ性の二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T2-1)の水分散ゾルであり、pH8.0、全金属酸化物濃度(SnO2、及びSiO2)1.7質量%、透過型電子顕微鏡による観察で平均一次粒子径は1nm乃至4nmであった。
【0080】
(参考例3)
核となる酸化第二スズコロイド粒子(T1-2)の調製
シュウ酸二水和物64.0g(シュウ酸換算で45.7g)を純水723.3gに溶解し、攪拌しながら70℃まで加温した後、35%過酸化水素水290.3gと金属スズ粉末(SnO2換算で99.7%含有)128.1gを添加した。過酸化水素水と金属スズの添加は交互に10回分割で行った。始めに35%過酸化水素水29.0gを、次いで金属スズ12.8gを添加した。反応が終了するのを待って(10分乃至15分)この操作を繰り返した。添加に要した時間は2時間で添加終了後、液温を90℃に保ちながら2時間加熱し反応を終了させた。次いで、35%過酸化水素水394.5gを添加し、90℃で5時間保持した。次いで、イソプロピルアミン5.1gを添加し、50℃で3時間保持した後、陰イオン交換樹脂(アンバーライト(登録商標)IRA-410)500ミリリットルを詰めたカラムに通液した。得られたゾルはアルカリ性の酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T1-2)の水分散ゾルであり、pH11.0、SnO2濃度4.0質量%、動的光散乱法による平均粒子径(動的光散乱法粒子径)20nmであった。
【0081】
(参考例4)
核となる酸化チタン-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T1-3)の調製
25質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液319.5gを純水947.1gに溶解し、次いでメタスズ酸14.8g(SnO2換算で12.5g含有)、チタンテトライソプロポキシド236.6g(TiO2換算で66.6g含有)、及びシュウ酸二水和
物82.0g(シュウ酸換算で58.5g)を撹拌下で添加した。該混合溶液を80℃で2時間保持し、更に580Torrまで減圧して2時間保持し、混合溶液を調製した。ガラスライニングされたオートクレーブ容器に、上記混合溶液を投入し、140℃で5時間水熱処理を行い、室温に冷却後、取り出した。得られたゾルは酸性の酸化チタン-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T1-3)の水分散ゾルであり、pH3.9、全金属酸化物濃度(TiO2、及びSnO2)5.0質量%、動的光散乱法による平均粒子径(動的光散乱法粒子径)16nmであった。得られたゾルを110℃で乾燥させた粉末のX線回折分析を行い、ルチル型結晶であることが確認された。
【0082】
(製造例1)
二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-1)の調製
参考例1で得られたアルカリ性の酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T1-1)の水分散ゾル1411.7gに、参考例2で調製したアルカリ性の二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T2-1)の水分散ゾル830.4gを攪拌下で添加した。次いで95℃に加熱して2時間保持した後、水素型陽イオン交換樹脂(アンバーライト(登録商標)IR-120B)を充填したカラムに通液した後、通液後の水分散ゾルを限外濾過膜法で濃縮した。
次いで、得られた水分散ゾルの分散媒をロータリーエバポレーターを用いてメタノールに置換して、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-1)のメタノール分散ゾルを得た。このメタノール分散ゾルは、pH5.0、全金属酸化物(ZrO2、SnO2、及びSiO2)濃度38.5質量%、粘度3.3mPa・s、動的光散乱法(DLS)による平均粒子径(動的光散乱法粒子径)20nmであった。
【0083】
(製造例2)
表面にアクリロキシ基を有する有機ケイ素化合物が結合してなる、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-2)の調製
製造例1で得られた、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-1)のメタノール分散ゾル155.8gに、メタノール44.2gを添加した。次いで、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製 商品名KBM5103)3.8gを撹拌下で添加し、70℃で還流加熱を5時間行うことにより、表面にアクリロキシ基を有する有機ケイ素化合物が結合してなる、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-2)のメタノール分散ゾルを得た。このメタノール分散ゾルは全金属酸化物(ZrO2、SnO2、及びSiO2)濃度30.5質量%、粘度2.4mPa・s、動的光散乱法(DLS)による平均粒子径(動的光散乱法粒子径)は25nmであった。
【0084】
(製造例3)
表面にウレイド基を有する有機ケイ素化合物が結合してなる、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-3)の調製
製造例1で得られた、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-1)のメタノール分散ゾル155.8gに、メタノール44.2gを添加した。ウレイドプロピルトリエトキシシランのメタノール溶液(濃度50質量%、信越化学工業(株)製:KBE585)7.3gを撹拌下で添加し、70℃で還流加熱を5時間行い、エバポレータを用いた減圧濃縮工程を経て、表面にウレイド基を有する有機ケイ素化合物が結合してなる、二酸化珪素-酸化第二スズ
複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-3)のメタノール分散ゾルを得た。このメタノール分散ゾルは全金属酸化物(ZrO2、SnO2、及びSiO2)濃度30.5質量%、粘度2.3mPa・s、動的光散乱法(DLS)による平均粒子径(動的光散乱法粒子径)は24nmであった。
【0085】
(製造例4)
表面にグリシジル基を有する有機ケイ素化合物が結合してなる、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-4)の調製
製造例1で得られた、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-1)のメタノール分散ゾル155.8gに、メタノール44.2gを添加した。3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランのメタノール溶液(濃度50質量%、信越化学工業(株)製:KBM403)3.9gを撹拌下で添加し、70℃で還流加熱を5時間行うことにより、表面にグリシジル基を有する有機ケイ素化合物が結合してなる、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-4)のメタノール分散ゾルを得た。このメタノール分散ゾルは全金属酸化物(ZrO2、SnO2、及びSiO2)濃度30.5質量%、粘度2.3mPa・s、動的光散乱法(DLS)による平均粒子径(動的光散乱法粒子径)は22nmであった。
【0086】
(製造例5)
二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化第二スズコロイド粒子(T3-5)の調製
参考例3で得られた酸化第二スズコロイド粒子(T1-2)の水分散ゾル1458.8gに、参考例2で調製したアルカリ性の二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T2-1)の水分散ゾル514.9gを攪拌下で添加した。次いで95℃に加熱して2時間保持した後、水素型陽イオン交換樹脂(アンバーライト(登録商標)IR-120B)を充填したカラムに通液した。次いで通液後の水分散ゾルを限外濾過膜法で濃縮した。
次いで、得られた水分散ゾルの分散媒をロータリーエバポレーターを用いてメタノールに置換して、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化第二スズコロイド粒子(T3-5)のメタノール分散ゾルを得た。このメタノール分散ゾルは、全金属酸化物(SnO2、及びSiO2)濃度30.5質量%、粘度1.3mPa・s、動的光散乱法(DLS)による平均粒子径(動的光散乱法粒子径)18nmであった。
【0087】
(製造例6)
二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化チタン-酸化第二スズ-酸化ジルコニウム複合酸化物コロイド粒子(T3-6)の調製
オキシ塩化ジルコニウム(ZrO2換算で21.2質量%含有)82.7gを純水501.1gで希釈して、オキシ塩化ジルコニウム水溶液583.8g(ZrO2換算で3.0質量%含有)を調製し、参考例4で調製した酸化チタン-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T1-3)の水分散ゾル1516.2gを撹拌下で添加した。次いで95℃に加熱することにより加水分解を行って、表面に酸化ジルコニウムの薄膜層が形成された酸化チタン-酸化第二スズ-酸化ジルコニウム複合酸化物コロイド粒子の水分散ゾルを得た。得られた水分散ゾル2041.2gを参考例2で調製したアルカリ性の二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T2-1)の水分散ゾル1763.3gに撹拌下で添加し、陰イオン交換樹脂(アンバーライト(登録商標)IRA-410、オルガノ(株)製)500ミリリットルを詰めたカラムに通液した。次いで通液後の水分散ゾルを95℃で3時間加熱した後、限外濾過膜法で濃縮した。
次いで、得られた水分散ゾルの分散媒をロータリーエバポレーターを用いてメタノール
に置換して、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化チタン-酸化第二スズ-酸化ジルコニウム複合酸化物コロイド粒子(T3-6)のメタノール分散ゾルを得た。このメタノール分散ゾルは、pH5.2、全金属酸化物(TiO2、ZrO2、SnO2、及びSiO2)濃度30.5質量%、粘度1.8mPa・s、動的光散乱法(DLS)による平均粒子径(動的光散乱法粒子径)20nmであった。
【0088】
実施例1
(コーティング組成物の作製)
マグネチックスターラーを備えたガラス製の容器に、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBM403)62.4質量部、テトラエトキシシラン(東京化成工業(株)製)8.1質量部、商品名X-12-1154(信越化学工業(株)製)3.8質量部、メタノール26.2質量部を加え、室温(20℃)で撹拌しながら0.01規定の塩酸18.6質量部を3時間で滴下した。滴下終了後、室温(20℃)で0.5時間撹拌を行い、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、商品名X-12-1154の部分加水分解物を得た。
次いでメタノール25.4質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル45.7質量部、製造例1で得た二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-1)のメタノール分散ゾル(全金属酸化物に換算して38.5質量%を含有する)96.8質量部、更に硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネート6.1質量部を、前述した3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、商品名X-12-1154の部分加水分解物119.0質量部に加え、十分に撹拌してハードコート用コーティング液(コーティング組成物)を作製した。(S2-1-1):(S2-1-2)の質量比は1:7.7の割合であり、(S1):(S2)の質量比は5.1:94.9の割合である。
(硬化膜の形成及び評価)
ウレタン系のプラスチックレンズ(屈折率nD=1.60)基板とガラス基板を用意し、これらにディップコート法でハードコート用コーティング液(コーティング組成物)を塗布(膜厚3μm)し、80℃で10分間溶媒を揮発させた後120℃で2時間加熱処理して、塗膜を硬化させ、硬化膜を有する光学部材を形成した。
上記(1)乃至(6)に示す試験を実施した。評価結果を表1に示す。
【0089】
実施例2
実施例1において、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの添加量を59.0質量部に、商品名X-12-1154の添加量を7.5質量部にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にコーティング組成物の作製及び硬化膜の形成・評価を実施した。(S2-1-1):(S2-1-2)の質量比は1:7.28の割合であり、(S1):(S2)の質量比は10.1:89.9の割合である。
【0090】
実施例3
実施例1において、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの添加量を52.0質量部に、商品名X-12-1154の添加量を15.0質量部にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にコーティング組成物の作製及び硬化膜の形成・評価を実施した。(S2-1-1):(S2-1-2)の質量比は1:6.42の割合であり、(S1):(S2)の質量比は20.0:80.0の割合である。
【0091】
実施例4
実施例2において、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、商品名X-12-1154の部分加水分解物を得るまでは、実施例2と同様に実施した。次いで、プロピレングリコールモノメチルエーテル45.7質量部、製造例2で得た表面にアクリロキシ基を有する有機ケイ素化合物が結合してなる、二酸化珪素-酸化第
二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-2)のメタノール分散ゾル(全金属酸化物に換算して30.5質量%を含有する)122.2質量部、更に硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネート6.1質量部を、前述した3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、商品名X-12-1154の部分加水分解物119.0質量部に加え、十分に撹拌してハードコート用コーティング液(コーティング組成物)を作製した。硬化膜の形成及び評価は実施例1と同様に実施した。(S2-1-1):(S2-1-2)の質量比は1:7.28の割合であり、(S1):(S2)の質量比は10.1:89.9の割合である。
【0092】
実施例5
実施例4において、製造例2で得たコロイド粒子(T3-2)の代わりに、製造例3で得た表面にウレイド基を有する有機ケイ素化合物が結合してなる、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-3)のメタノール分散ゾル(全金属酸化物に換算して30.5質量%を含有する)を用いた以外は、実施例4と同様にコーティング組成物の作製及び硬化膜の形成・評価を実施した。(S2-1-1):(S2-1-2)の質量比は1:7.28の割合であり、(S1):(S2)の質量比は10.1:89.9の割合である。
【0093】
実施例6
実施例4において、製造例2で得たコロイド粒子(T3-2)の代わりに、製造例4で得た表面にグリシジル基を有する有機ケイ素化合物が結合してなる、二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化ジルコニウム-酸化第二スズ複合酸化物コロイド粒子(T3-4)のメタノール分散ゾル(全金属酸化物に換算して30.5質量%を含有する)を用いた以外は、実施例4と同様にコーティング組成物の作製及び硬化膜の形成・評価を実施した。(S2-1-1):(S2-1-2)の質量比は1:7.28の割合であり、(S1):(S2)の質量比は10.1:89.9の割合である。
【0094】
実施例7
実施例4において、製造例2で得たコロイド粒子(T3-2)の代わりに、製造例5で得た二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化第二スズコロイド粒子(T3-5)のメタノール分散ゾル(全金属酸化物に換算して30.5質量%を含有する)を用いた以外は、実施例4と同様にコーティング組成物の作製及び硬化膜の形成・評価を実施した。(S2-1-1):(S2-1-2)の質量比は1:7.28の割合であり、(S1):(S2)の質量比は10.1:89.9の割合である。
【0095】
実施例8
(コーティング組成物の作製)
マグネチックスターラーを備えたガラス製の容器に、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製:KBM403)49.1質量部、テトラエトキシシラン(東京化成工業(株)製)6.7質量部、商品名X-12-1154(信越化学工業(株)製)6.3質量部、メタノール17.9質量部を加え、室温(20℃)で撹拌しながら0.01規定の塩酸14.7質量部を3時間で滴下した。滴下終了後、室温(20℃)で0.5時間撹拌を行い、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、商品名X-12-1154の部分加水分解物を得た。
次いでプロピレングリコールモノメチルエーテル45.7質量部、製造例6で得た二酸化珪素-酸化第二スズ複合酸化物で変性された酸化チタン-酸化第二スズ-酸化ジルコニウム複合酸化物コロイド粒子(T3-6)のメタノール分散ゾル(全金属酸化物に換算して30.5質量%を含有する)147.9質量部、更に硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネート4.8質量部を、前述した3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、商品名X-12-1154の部分加水分解物94.6質量部に
加え、十分に撹拌してハードコート用コーティング液(コーティング組成物)を作製した。(S2-1-1):(S2-1-2)の質量比は1:7.33の割合であり、(S1):(S2)の質量比は10.1:89.9の割合である。
(硬化膜の形成及び評価)
ウレタン系のプラスチックレンズ(屈折率nD=1.67)を用いた以外は、実施例1と同様に硬化膜の形成・評価を実施した。
【0096】
比較例1
実施例1において、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの添加量を65.9質量部に変更し、商品名X-12-1154を添加しない以外は、実施例1と同様にコーティング組成物の作製及び硬化膜の形成・評価を実施した。
【0097】
比較例2
実施例2において、商品名X-12-1154の代わりに、商品名KR-518(信越化学工業(株)製)を用いた以外は、実施例2と同様にコーティング組成物の作製及び硬化膜の形成・評価を実施した。
なお、商品名KR-518はポリシロキサンの主鎖にアルコキシ基(メトキシ基とエトキシ基の組み合わせ)とメルカプト基とを側鎖として有し、且つアルコキシ基量が50質量%、粘度20mm2/s、メルカプト基当量800g/モルの割合で含有するポリマー型シランカップリング剤であった。
【0098】
比較例3
実施例2において、商品名X-12-1154の代わりに、商品名KR-519(信越化学工業(株)製)を用いた以外は、実施例2と同様にコーティング組成物の作製及び硬化膜の形成・評価を実施した。
なお、商品名KR-519はポリシロキサンの主鎖にアルコキシ基(メトキシ基)と有機官能基(メルカプト基とメチル基)とを有し、かつアルコキシ基量が30質量%、粘度5mm2/s、反応性官能基(メルカプト基)当量450g/モルの割合で含有するポリマー型シランカップリング剤であった。
【0099】
【表1】
なお、比較例3の屈折率測定は反射率が著しく低下したため屈折率の測定ができなかった。
【0100】
実施例1乃至実施例8のいずれも、ハードコート用コーティング液調製後に、該液はゲル化や相分離などを生じず、安定性に優れるコーティング組成物であることが確認された。また表1に示すように、実施例1乃至実施例8のいずれも、該ハードコート用コーティング液(コーティング組成物)の硬化物である硬化膜を有する光学部材において、硬化膜の基材との密着性、耐候性試験後の外観、耐候性試験後の密着性、耐擦傷性、透明性に優れるものであった。
【0101】
一方、比較例1は、実施例と比べて密着性と、耐候性試験後の密着性にも欠けるものとなり、比較例2は、実施例と比べて耐候性試験後の外観変化に劣るものとなり、比較例3は、実施例と比べて透明性に劣るものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のコーティング組成物は、得られた硬化膜の基材との密着性、耐候性試験後の外観、耐候性試験後の密着性、耐擦傷性、透明性に優れるものであり、メガネレンズ、カメラレンズ、自動車用窓ガラス、コンピューター用ディスプレイ、テレビ用ディスプレイ、携帯端末用ディスプレイ等に適用可能である。